エコプロダクツ 2005 JFS 「持続可能な社会ってなあに」~キーワードはつながる・みつける・育つ~ 『着る: 林 多田 着物でつむぐもの・伝えるもの』 佳恵(装丁家・クリエイティブディレクター) 林さんには、着物でつむぐもの・伝えるものというタイトルを作らせていただきま したけれども、きものにかける思いですとか、装丁家、デザイナーとしてもご活躍ですし、 環境のご講演も多数されているので、限られた時間ではありますがよろしくお願いします。 林 こんにちは。すばらしいお話の後で少し緊張しております。初めてこの場所に来まし た。こういうハイカラなところは来ないものですから、今日はとても私自身息苦しいです。 こういう会場でエコロジーも含めた話をするのはちょっと辛いなと思っておりますが…。 今日、私が着てきましたきものは、この会場にもっともふさわしくないものを着てきまし た。私は何より土の見えるところで仕事をしたい。事務所も見下ろすと公園が見えます。 仕事をしながら公園が見えるところに住まいを構えておりますけれど、今日歩いてくる途 中「うー、土はどこにあるのだ」と。所々植え込みがありましたけれど。私のきものは、 これは田んぼの泥です。田んぼの泥を2回、3回染み込ませた泥染めの絞りのきものなん ですね。これは 15 年くらい前にある呉服屋さんで見つけました。 私はいわゆるアーティストとは違います。私はグラフィックデザイナーで、紙の上のデザ インをするのが私の仕事で本の装丁が主なのですが、ポスターやカレンダーなどのデザイ ンもします。カタカナ商売できものを着ていると、たいへんクエスチョンマークがついた り、エクスクラメーションマークがついたり、打ち合わせに行くとみんなにびっくりされ てしまうんですが、きものを着始めて 23 年。先程「毎日」とおっしゃいましたが、10 年 間は毎日朝起きて…はオーバーですね、仕事を始める時に着替えまして、お風呂に入るま ではずっときもので生活をしていました。雨の日も雪の日も「きものは今日からもう私の ユニフォーム」と、ある日突然頭の中にひらめいたものですから着たんですけれども。デ ザイナーという職業をしていますが、実は私は日本文学専攻なんですね。油絵を描いてい たり、絵は大好きでした。さっき「子どもの頃は絵を描かれましたか?」と聞かれると、 私も思わず「はい」と手を挙げましたが、最近はあまり描いていませんね。デザイナーと して仕事で、絵を描く方のものを、絵描きさんの絵を素材に使わせていただいてレイアウ トをしています。 なぜ、きものにある日突然切り替えたかといいますと、私にとっては「流行は追いません」 という象徴のスタイルです。日本文学出身なので、カタカナ商売でデザイナーという肩書 Copyright(C) 2002-2006 Japan for Sustainability All Rights Reserved. エコプロダクツ 2005 JFS 「持続可能な社会ってなあに」~キーワードはつながる・みつける・育つ~ きで仕事をしましても、どこか恥ずかしいというか、なにか私はデザイナーらしくないと 思って、首から下、毎日挿げ替えていました。それが…なんだか落ち着かないと思って。 仕事の相手の方はほとんど男性が多いものですから、男性のスーツ姿を、若いとき 20 代の 頃は「ワンパターンだな」と思っていたのですが、「とてもいいな」と思い始めました。形 が変わらないものを私も着たい。 首から下…、さきほど鶴見和子さんのお話がありましたが、「あなた、首は挿げ替えられな いものね」って言われました(笑) 。首から下はいろいろなことができるけれど、首から上 は替えられない。この(首)下を私は安定させたかったんです。それを女性の衣服の中で 探しましたら、それはきものしかなかったのですね。いくらデザイナーとはいえ、私はき ものにフリルをつけたりどうこうしようということは全く考えない。自分のスタイルを固 定しようと思ったんです。それできものという、定形。突拍子もない閃きだったかもしれ ないんですけれど、毎日きものを着て、 「あー、やっとわかった」ということがありました。 きものは私のエコロジー3点セットの一つなんですけれど(笑)、今、こうやって広げてい るこれがそのもう一つのアイテムの風呂敷です。 いくつか本を書いてきました。 『子どもにできる地球に優しい 24 時間』、これはもうだいぶ 前ですけれど改訂版もまだ動いているようです。『エコロジーシンプル宣言―食卓からの 50 の提案』は小林カツ代さんと一緒に食まわりの環境問題。食材を集めて料理をして片付 けるまでの、具体的な提案。その一番最初にですね、ちょうど米が自由化という時だった ものですから、一番最初に米のページを作ったんですね。これが出ているために書評がA 新聞には載りませんでした。そこは米の自由化に賛成の新聞社だったんですね。担当の記 者に聞きました。いちばん最初の第一番目の提案に、「私は自分の育った風土の中で育まれ た米が食べたい」ということを書いたんですけれど、「それがまずい」と言われて本の紹介 は出ませんでした。こういう環境問題の本を書くきっかけになったのは、きものを着て1 ヶ月くらい経ってから。帯をしめますからとても暖かいんですね、あーなんだか…お腹が。 子どもが、男の子が2人いるんですけれど、「お母さんは最近目がニコニコマークに、やわ らかくなった」と。時々目がつり上がっていたんでしょうね、私の目が。おかしいな、な んでかな、そう言われてみると何となく私も気持ちが落ち着いてきてる。それは帯でこう やってお腹を巻いているから、お腹が暖かいから私の気持ちが落ち着いてきて、人にもや さしくなっているんだっていうことに気がついたんですね。これはきものというのはこの 国の風土の中で自然環境の中でこの形になって育まれた衣服です。これを着ていると、や っぱりこの国の環境の中ではとってもいいと。ただコンクリートジャングルでの夏はちょ Copyright(C) 2002-2006 Japan for Sustainability All Rights Reserved. エコプロダクツ 2005 JFS 「持続可能な社会ってなあに」~キーワードはつながる・みつける・育つ~ っと暑いですけれど。風土に合った衣服というのは長い歴史を積み重ねて、その土地の民 族衣装になったものはとても環境に体に優しいんだ、ということに気がつきました。そこ からスタートして環境問題の本を2冊出しました。 きものを着て、いろいろな提案をするときに、 「日本の和の文化を広める方ですか?」と言 われるんですけれども、私はですね、ところがどっこい、それはあまり好きではないんで す。きものは大好きですけれど、きものと一緒に女性がきものを着るときに張り付いてく るあるイメージがあると思うんですけれど、それを私はあまり好きではありません。きも のを着ているからとても女らしいと勘違いして下さるのか会議が上手くいくこともありま したが(笑) 。ストレートにものを言っても、きものを着ているとなぜか通っちゃうという (笑)、そういう功名もあるのかと思いましたけれど、基本的に私は女らしさを売り込むた めにきものを着るというのは、あまり良しとしません。私が提案しているのはだいたいこ ういう地味なスタイルなんですけれど、一応デザイナーですから、今日この帯もまたきも のにあわせて泥に関係しています。これも泥染めのものです。 そしてこれはですね、どこの国のものか。不思議な模様がこう、MOMOって描いてあり ます。これは日本のものではありません。形はきものという形なんですけれど、私はこの 中で海外、他の国の方とお友達になれるのです。これはアフリカのものです。それを帯に 仕立ててもらって。私は時々、勘違いされるんですよね、きものを着ているとお金持って るのではないかと。私の場合は全然違う。きものっていうのは、なにしろこれ15年着て いますのでね。だいたい毎日人に会うといっても、同じ人に会うということはないですね。 だからこのきものを1週間着ていても、会う人が違えばわからない(笑)。だけど相手の方 は、ある専門学校の理事長がですね、「林さんは素晴らしい。僕の前に衿を正して出てきた 人は初めてだ」、確かにきものっていうのはこう衿をきちんとします。そういうふうに受け 取ってもらえるんだと思ってひとつ勉強しましたけれど、帯を、他の国の、アジアの布の 帯もしめます。欧米の生地でも作ります。主にカーテンの生地なんですけれど、アメリカ もイギリスも、いろいろな国の布をつかって帯を仕立てます。そうすると「あ、私の国の 布で…」と声を掛けられるときがあります。あるときキオスクのお姉さんに、キオスクで ガムを買ったんですね、そうしたら「お客様、同じものをベッドカバーで持っています」 って(笑)。それはいわゆるインドの泥染めで、ベッドカバーとして売られている布を帯に 仕立てたんですけれど、ちょっと変わった帯をしていると、声を掛けてくださる。「面白い ですね」って声を掛けてくださる。布代も手頃なのが何よりです。 Copyright(C) 2002-2006 Japan for Sustainability All Rights Reserved. エコプロダクツ 2005 JFS 「持続可能な社会ってなあに」~キーワードはつながる・みつける・育つ~ きものそのものも、とても始末がいい。最近「ロハス」とかいって、ロハス的な生活とか、 よく雑誌でもそういうふうな『ソトコト』とかありますけれど、素晴らしいことだと思っ ているんですが、私あまり、もう一つピンとこないんですね。アルファベット弱いもので すから。きものを着てわかったのは、とても始末がいい。畳むときはペタンコになります。 それからこれは何十年も着た後、何年か着た後、洗い張りをしてまた仕立て直すこともで きますし、子どもの代にもこれを伝えることができる。長い間、1000 年持つかどうかは わかりませんけれど、かなりな間使い回し、繰り回しができるんですね。 「伝統を身に纏っていて、日本文化を広めたい」 、それはたしかに日本文化なんだけれども、 私はいわゆる「きものは伝統の高級品」というイメージがあるのをどれだけ切りくずそう かというのが、私のテーマ、もっともっと着やすくしたい。今リサイクルのきものとかい っぱい出ていますから、若いお嬢さん方がきものを着てくれています。とっても素敵なこ とだと思っています。私はきものを通じてコミュニケーションがしたい。「面白いね、それ 何つかっているの?」って、たとえば風呂敷で帯を作ることもあります。そんなことをこ の 20 数年やってきました。 多田 林さんありがとうございました。みなさんもっとお話を聞きたいと思われていると 思うんですが、時間の関係で本当に短くて申し訳ありません。今日は貴重な御本を何冊も 持ってきていただいたので、ご好意で今から回覧させていただきます。本当に帯がアフリ カとは私も気がつきませんで、さっきずっと一緒にいたのに、そうなんですね。和服のす ごい吸収力というんでしょうか、そういうものまで吸収してしまう力を、改めて今感じま した。 Copyright(C) 2002-2006 Japan for Sustainability All Rights Reserved.
© Copyright 2024 Paperzz