作品紹介 最後に取り上げる作品は、言わずと知れたカナダの女流作家ルーシー・ 学習の進め方 Part 1 読解演習 ・原文は「Lesson」ごとに見開き2ページ単位で掲載されています。右下の 「MEMO」は、単語の下調べなどご自分のメモ欄としてお使いください。 ・ 「確認問題」は裏表紙の扉を右ページの上にかぶせ、解答を隠してからご 自分で解いてください。 ・ 「語彙・文法・語法」では原則として原文をセンテンス単位で再掲し、そ の下に語句の詳しい解説を載せています。 Part 2 翻訳演習 ・「TRY」は翻訳上とくに注意すべき段落を取り上げています。裏表紙の 扉を右ページの上にかぶせ、訳例を隠してからご自分で訳してください。 ・ 「CHECK!」には翻訳の重要ポイントが押さえられたかどうかを確認する チェック欄(□)を設けてあります。 ・ 「ポイント解説」の文中では○△×のレベル表示とともに訳例が示されて います。 モード・モンゴメリ(1874∼1942)の最初の長編小説、 Anne of Green Gables です。1908年に発表されたこの作品は「アン・ブック ス」と呼ばれる一連のシリーズの第1作目で、働き手となる男の子を養子 に取るつもりだった老兄妹マシューとマリラに、ふとした手違いから引き 取られることになった孤児アンが、プリンスエドワード島の美しい自然と 人々の愛に囲まれて、さまざまな事件を巻き起こしながら成長していく姿 が描かれています。幼少期を孤児として過ごしてきたにもかかわらず、そ れを少しも感じさせない、好奇心旺盛で想像力豊かなアンの前向きな明る さと、そのはつらつとした奮闘ぶりが人々の共感を呼び起こしてベストセ ラーとなり、20カ国語以上に翻訳されて世界中の読者に愛されてきまし た。映画や舞台にもたびたび取り上げられ、アニメにもなっています。 アンを温かく見守る周囲の人々の人物像もさることながら、この作品の もう一つの大きな魅力は、プリンスエドワード島で生まれ育ったモンゴメ ○:文脈に沿った適切な訳 リが紡ぐ、島の風景の美しさです。“Lake of Shining Waters”、“White △:意味は通じるが、推敲が必要な訳 Way of Delight”、“Lovers Lane”、“Haunted Wood” など、アンが自分 ×:不適切な訳 で考え出した場所の名称を見ただけでも、のどかで優美な島の情景が目に ■添削課題 浮かんでくるようです。この作品に魅せられて、ひと目プリンスエドワー ・読解を含め、すべてご自分の力で取り組んでいただく翻訳課題です。原 ド島の風景を見たいと訪れる観光客が、現在もあとを絶たないと言いま 文を何度もよく読んでから、所定の箇所を訳してください。 す。そんな魅力あふれる土地に育まれ、夢見る力に支えられて健やかな成 長を遂げるアンの物語は、不朽の名作としてこれからも人々を魅了してい くことでしょう。 5 6 学習ポイント しばしば児童文学として位置づけられている小説なので文章自体は平易 ですが、大人が読んでも十分に惹きつけられる内容であることを念頭に置 いて訳す必要があります。特にプリンスエドワード島の美しい風景が描か れている部分は、機械的に字面を追うのではなく、アンを見習って実際に 目に見えるかのように想像を膨らませ、映像を思い描いてから日本語に再 現するようにしましょう。 本レッスンで取り上げるのは、男の子を引き取るつもりで駅まで迎えに 行ったマシューが、手違いで連れてこられたアンと出会い、戸惑いながら も次第にアンの魅力に引き込まれていく第2章の冒頭部分です。アンが初 めて登場する重要な章であり、女性恐怖症で人付き合いの苦手なマシュー が短い時間に好意を抱くようになることからも、アンの人物像が生き生き と伝わってきます。何より特徴的なのは、利発で感受性が強く、小さな事 柄にも幸福を見いだすアンが、息つく暇もなくおしゃべりをするその語り 口です。無口なマシューとの対比がおもしろく、今後、この二人が強い愛 情と絆で結ばれていくことを予感させる名シーンと言えます。妹のマリラ と二人きりで小さな農園を営む初老のマシューと、孤児ではあっても、亡 くなった両親はともに教師で、幼い頃から読書の好きなアン。そうした点 を踏まえ、TEXTBOOK 1 同様、人物設定をしっかりと作り上げてから訳 すことが大切です。 7 Lesson 1 Lesson 1 Lesson 1 Part 1 読解演習 それでは、第2章の冒頭部分を読んでいきましょう。 Matthew Cuthbert is surprised Matthew Cuthbert and the sorrel mare jogged comfortably over the eight miles to Bright River. It was a pretty road, running along between snug farmsteads, with now and again a bit of balsamy fir wood to drive through, or a hollow where wild plums hung out their filmy bloom. The air was sweet with the breath of many apple orchards, and the meadows sloped away in the distance to horizon mists of pearl and purple; while 5 The little birds sang as if it were The one day of summer in all the year. Matthew enjoyed the drive after his own fashion, except during the moments when he met women and had to nod to them — for in Prince Edward Island you are supposed to nod to all and sundry you meet on the road whether you know them or not. Matthew dreaded all women except Marilla and Mrs. Rachel; he had an uncomfortable feeling that the mysterious creatures were secretly laughing at him. He may have been quite right in thinking so for he was an odd-looking personage, with an ungainly figure and long iron-gray hair that touched his stooping shoulders, and a full, soft brown beard which he had worn ever since he was twenty. In fact, he had looked at twenty very much as he looked at sixty, lacking a little of the grayness. When he reached Bright River there was no sign of any train; he thought he was too early, so he tied his horse in the yard of the small Bright River hotel and went over to the station-house. The long platform was almost deserted; the only living creature in sight being a girl who was sitting on a pile of shingles at the extreme end. Matthew, barely not9 10 15 20 Part 1 読解演習 ing that it was a girl, sidled past her as quickly as possible without looking at her. Had he looked he could hardly have failed to notice the tense rigidity and expectation of her attitude and expression. She was sitting there waiting for something or somebody, and, since sitting and waiting was the only thing to do just then, she sat and waited with all her might and main. Matthew encountered the station-master locking up the ticket-office preparatory to going home for supper, and asked him if the five-thirty train would soon be along. “The five-thir ty train has been in and gone half an hour ago,” answered that brisk official. “But there was a passenger dropped off for you — a little girl. She’s sitting out there on the shingles. I asked her to go into the ladies’ waiting-room, but she informed me gravely that she preferred to stay outside. ‘There was more scope for imagination,’ she said. She’s a case, I should say.” “I’m not expecting a girl,” said Matthew blankly. “It’s a boy I’ve come for. He should be here. Mrs. Alexander Spencer was to bring him over from Nova Scotia for me.” The station-master whistled. “Guess there’s some mistake,” he said. “Mrs. Spencer came off the train with that girl and gave her into my charge. Said you and your sister were adopting her from an orphan asylum and that you would be along for her presently. That’s all I know about it — and I haven’t got any more orphans concealed hereabouts.” “I don’t understand,” said Matthew helplessly, wishing that Marilla were at hand to cope with the situation. MEMO 10 5 10 15 20 25 Lesson 1 Lesson 1 Part 1 読解演習 確認問題 原文を読み終えたら、内容がどれだけつかめたか確認してください。 1. 大意把握 それぞれの選択肢から正しいものを選んでください。 (1)プリンスエドワード島では、 a. 知らない人でも、すれ違いざまに会釈をしなければならない。 b. 知り合いの女性には、すれ違いざまに会釈をしなければならない。 c. 知っている人に気づいたら、すぐに会釈をしなければならない。 (2)マシューが女性を恐れていたのは、 a. 何を考えているかわからず、不思議だったから。 b. 自分を見て不快そうな反応を示したから。 c. 陰で自分を嘲笑っているような気がしたから。 (3)マシューは、 a. 座っているのが男の子か女の子か、よくわからなかった。 b. 座っているのが女の子だとわかって、なるべく顔を見ないように通りすぎた。 Part 1 読解演習 解答・解説 1. 大意把握 【解答】(1)a (2)c (3)b 【解説】 (1)p.9, Î.10の for 以下に、プリンスエドワード島での習慣が記されています。 you are supposed to nod to all and sundry you meet on the road whether you know them or not とありますから、女性に限らず、道で出会っ た人にはたとえ知り合いでなくても会釈して挨拶するのが常だということです。 (2)p.9, Î.13∼15に、女性という不可解な生き物たちが陰でこっそり自分を笑っ ているような気がするという、マシューの気持ちが述べられています。he had an uncomfortable feeling ですから、不快な気持ちになるのはマシューのほ うです。 (3)p.9, Î.24に barely noting that it was a girl, sidled past her as quickly as possible とあります。つまり、女の子だということはわかったので、足早に 前を通りすぎたのです。without looking at her ですから、確認のために前を通 ったわけではありません。 c. 座っているのが女の子のようだったので、確認のために前を通りすぎた。 2. 原文理解 2. 原文理解 テキストを読んで、以下の設問に答えてください。 (1)駅のホームの端で、アンがどのような様子で座って待っていたかを説明しなさい。 【解答】 (1)今、自分にできるのはそれしかないとばかりに、座って待つことに全力を傾けて いた。 (2)外にいるほうが、想像力をはたらかせる余地が豊富にあるから。 【解説】 (1)p.10, Î.3、She (2)待合室に入るようにという駅長の勧めをアンが断ったのはなぜか、説明しなさい。 was sitting ∼ with all her might and main. に、アンがそ のとき唯一できることだった「座って待つ」ということに没頭している様子が説 明されています。 she preferred to stay outside とあり、そのあとに ‘There was more scope for imagination,’ と、アンが外にいたい理由が述べられてい (2)p.10, Î.13に ます。 11 12 Lesson 1 Lesson 1 Part 1 読解演習 文のインデントを生かしながらも文がつながっているように訳すほうが、読者が すんなりと自然に読める訳になります。 語彙・文法・語法 それでは、原文の内容を理解する上で注意すべき箇所を詳しく見ていきましょう。 r.9 his own fashion:in his own way の別の言い方ですが、ここでは“as always”のニュアンスを持っています。 ・had to nod to them:主語は met women と同様、when のあとの he。 “nod to(人)”は、軽く会釈をして挨拶することを指します。 Matthew Cuthbert and the sorrel mare jogged comfortably over the eight miles to Bright River. ・sorrel mare: 「栗毛の雌馬」。sorrel は、主に馬の毛の色を表すときに用いら れる語。 ・jogged:jog は現在ではジョギングをする意味でよく使われますが、もともと は馬が速足で進むことを表します。少しあとに“drive”とあり、Lesson 3で は“buggy”と書かれているので、マシューが馬と並んで歩いているのではな く、馬車に乗っていることがわかります。馬の背に乗っている場合なら“ride” が一般的です。 r.2 r.10 The air was sweet with the breath of many apple orchards, and the meadows sloped away in the distance to horizon mists of pearl and purple; r.13 r.15 little birds sang as if it were The one day of summer in all the year:米国の詩人 James Russell Lowell(ジェームズ・ラッセル・ローウェ ル)の詩“The Vision of Sir Launfal” ( 「サー・ローンファルの夢想」 )からの 引用。ここは while に続いて文章の中に組み込まれた形になっているので、原 13 creatures:= women He may have been quite right in thinking so for he was an oddlooking personage, with an ungainly figure and long iron-gray hair that touched his stooping shoulders, and a full, soft brown beard which he had worn ever since he was twenty. ・in thinking so:so は前文の内容を指します。quite 根拠として示されているのが for 以下です。 ・personage: “person”のやや古風な言い方。 ・ungainly: 「不格好な」。 ・full: 「たっぷりとした、豊富な」。 r.18 right in thinking so の In fact, he had looked at twenty very much as he looked at sixty, lacking a little of the grayness. ・had looked at twenty/ looked at sixty: 「20歳のときも60歳のときと同じよ うに見えた」。つまり、若い頃から老けて見えたということです。類例: The church still looks just as it did when it was built in the 12th century. (その教会は今でも12世紀の建立当時のままのようだ) ・lacking a little of the grayness:20歳のときには白髪がなかったけれど、現 在は白髪交じりだということを表しています。little には揶揄が込められている ことにも着目しましょう。 while The little birds sang as if it were The one day of summer in all the year. ・The Matthew dreaded all women except Marilla and Mrs. Rachel; he had an uncomfortable feeling that the mysterious creatures were secretly laughing at him. ・mysterious ・the breath of many apple orchards:breath はリンゴ園から漂う「ほのかな 香り」。 ・the meadows sloped away in the distance to horizon mists of pearl :sloped away は牧草地のなだらかな傾斜を描いています。horizon and purple もや mists は靄にかすむ地平線の彼方。美しい風景を遠望しています。 r.6 — for in Prince Edward Island you are supposed to nod to all and sundry you meet on the road whether you know them or not. ・are supposed to: 「∼することになっている」。 ・all and sundry:= everybody It was a pretty road, running along between snug farmsteads, with now and again a bit of balsamy fir wood to drive through, or a hollow where wild plums hung out their filmy bloom. ・snug farmsteads:snug は「こぎれいな、こぢんまりした」 、farmstead は「農 園」。 ・now and again: 「時折、たまに」。 ・balsamy fir:バルサムモミと呼ばれる、アロマオイルなどに用いられる北米産 のモミの木があります。balsamy は「balsam のような匂いのする」の意で、 balsam は芳香のある樹脂のこと。 ・filmy bloom:著者は、スモモの花が薄いガーゼで覆ったように白く柔らかく咲 き乱れているさまを“filmy”と表現しています。 r.4 Matthew enjoyed the drive after his own fashion, except during the moments when he met women and had to nod to them ・after p.9 r.1 Part 1 読解演習 r.20 When he reached Bright River there was no sign of any train; he thought he was too early, so he tied his horse in the yard of the small Bright River hotel and went over to the station-house. ・station-house: 「駅舎」。現代英語ではハイフンはなく、警察署や消防署を指し 14
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