No.12 - インナビネット

国民の医療安全に対する関心の高まりや医療機関の経営改善に向けた
動きが活発化する中で,物流システムが注目を集めている。ほかの産
業界ではすでに取り組まれているように,IT を駆使してモノの流れを
正確に把握することで,ミスや余分な在庫をなくし,医療事故防止に
役立てたり,効率化に結びつけるのである。
また,従来から医薬品や医療材料へのバーコードのちょう付が行われ
てきたが,その技術や仕様についても標準化が進められている。厚生
労働省としても,医薬品のバーコード表示の実施に踏み切る予定であ
る。さらに,近年,新しい技術としてより大量の情報を扱える RFID
(電子タグ)が登場してきて,医療分野での応用も始まっている。
そこで,本特集では,医療機関における物品・物流マネジメントにつ
いて,システム構築のポイントや標準化,RFID などの技術動向を取
り上げる。このほか,実際に物流システムを稼働させている施設から
の報告も紹介する。
IT
VISION
No.12 (2006)
07
── バーコードなどの標準化を採用した物流管理が,経営改善と医療安全に結びつく
酒井順哉・名城大学大学院都市情報学研究科保健医療情報学教授に聞く
DPC の拡大などに伴い,物流管理に IT を活用し,経営の効率化を図ろうとする動
きが医療機関に広がっている。また,IT による物流管理は医療安全の面からも効
果が高いとされており,今後の普及が期待されている。そこで,医療材料物流管
理システムの仕組みやそのメリット,バーコード規格などの今後の展望について,
酒井順哉氏にインタビューした。
が,今後,DPC(診断群分類)に移行
称( GMDN)の日本版である JMDN
することや医療機能評価の認定を受
を組み入れました。このほか,行政
けることを考慮すると,IT を活用し
の動きとしては,厚生労働省医政局
て物流を正確,詳細に管理していか
経済課が特定保険医療材料の価格調
なくてはなりません。また,経営改
査の必要性から,JAN コードの登録
善を視野に入れた物流管理には,定
を要請しています。
数在庫品だけでなく,管理しづらい
一方,医療材料の情報の紹介に役
とされる高額なスポット材料のフロー
立つデータベースとしては,
(財)医
を把握することが重要です。そのた
療情報システム開発センターが医療
めにも,発生源入力,実施入力,経
機器データベースの運用を行ってい
すが,バーコードに置き換わるもの
営管理分析といった情報管理が一元
るほか,
(独)医薬品医療機器総合機
ではないでしょう。
化できるシステムが求められます。
構が添付文書情報提供システムの運
── 患者安全の面から見た医療材料物
用を行っています。 また, 医療材
流管理システムの目的をお聞かせくだ
料コードやバーコードについては,
さい。
1999 年 3 月に日本医療機器関係団体
── 医療材料物流管理システムにより
近年,物流を経営戦略に取り入れた,
SCM です。SCM のねらいは,単なる
一人の患者さんに対して使用した
協議会が JAN による標準化を図りま
今後, 医療機関の経営は変わるので
トータルマネジメントとしてのロジ
モノの管理だけではありません。医
医療材料,医薬品を明らかにするに
した。さらに,2005 年 9 月には,日
しょうか。
スティクスという考え方が生まれ,さ
療の質を向上させ,患者の安全を図
は,モノと情報の整合性がなければ,
本医療機器産業連合会,
(財)医療情
経営改善には,経営状況を客観的
らにコンビニエンスストアの小規模
ることも大きな目的となります。
指示する医師も実施する看護師にも
報システム開発センター,
(財)流通
な数値として示し,改善の方向性を
医療機関が SCM を行うメリットと
間違いが生じるかもしれません。確
システム開発センターが「医療機器
明確にする必要があります。特に高
現在では,物流を電子的に管理する
しては,余剰在庫がなくなり,さら
実な管理をしていくためにもシステ
商品コード・ UCC/EAN-128 バー
額医療機器購入の損益分岐点,医療
SCM(サプライ・チェーン・マネジ
に受発注業務をバーコードなどで行
ム化による医薬品や医療材料のバー
コード標準化運用基準マニュアル
材料や人件費の原価計算,ABC 分析
メント)が広がっています。
うことにより合理化が図れます。ま
コード表示が必要です。このように
(第 5 版)」を作成し,医療機器全般
の導入は欠かせません。今後は,電
このような状況の中,物流に求め
た,診療報酬の請求漏れを防ぐこと
医療材料物流管理システムの重要性
の商品コードとバーコードの方向性
子カルテシステムだけでなく,医療
られるものとして,「スピード」,「安
ができるようになります。購入した
は高まってはいるのですが,まだ普
を明確にしています。このように日
材料物流管理システムや経営評価シ
全性」,「ローコスト」,「ネットワー
医療材料と診療報酬請求とを比較,
及していないのが現状です。これは,
本国内でも標準化が進められており,
ステムを連携させることが病院経営
ク化」,「国際化」という 5 つのキー
検討することも可能です。このよう
医療機関の認識がまだまだ不足して
今後,医療材料物流管理システムの
にとって重要になってくるでしょう。
ワードがあります。キーワードを実
にモノの流れを管理することで,無
いることと,バーコード表示などの標
普及が予測されます。
現するための手段になるのが EDI
駄やムラ,無理がなくなり,経営の改
準化作業が進んでいなかったことが
── 今後の標準化や新技術の展望につ
では,バーコードなどの標準化され
( Electronic Data Interchange : 電
善に結びつけることができるのです。
理由に挙げられます。
いてお聞かせください。
た技術, コードの採用も大切です。
POS システムなどをに発展しました。
子データ交換)です。企業間の受発注
JAN コードを使用し,それに準拠
これは第三者からの評価にもつなが
バーコードなどの標準化により
今後,医療機関への普及が進む
した UCC/EAN-128(GS1-128)のバー
るだけでなく,経営分析や医療安全
コードが付与されることで,有効期
の観点からも言えることです。標準
間短縮にもなるため,医療分野でも
── 医療機関が物流管理に IT を導入す
── 標準化が進んでいないとのことで
限,ロット番号,シリアル番号の情
化された医療材料物流管理システム
普及し始めています。
る必要性についてお聞かせください。
すが,国内の動向についてお聞かせく
報がわかり,品質保証に有効になり
に投資することは,それを上回る効
ださい。
ます。これらと医療機器データベー
果を生むと私は思います。
なミスや事務処理コストを削減し,時
── 医療分野における SCM とはどの
ようなものでしょうか。
SCM に必要なのが,医療材料物流
管理システムです。従来,医療機関
改正薬事法では,製造業者名,医
スや添付文書情報提供システムを活
医療機関が EDI を行うにあたって
では,材料部が勘や経験に基づいて
療機器名称,製造番号と製造記号の
用することで,標準化された医療材
は,各部門が医療材料の発注から納
資材を発注しており,モノの管理だ
表示が義務づけられましたが,商品
料データの共有化が図れます。
アメリカン・マーケティング協会
品,保管,使用,修理,破棄までを
けにとどまり,医療材料のフローに
コードやバーコードについての規定
新技術としてはRFID が注目されて
(AMA)では,生産から消費,利用
システムとしてとらえ,コンピュー
ついては管理できていませんでした。
はありません。また,改正薬事法で
いますが,これについては,技術面
までの財貨の移動や取り扱いを一貫
タで総合的に管理することになりま
診療報酬が出来高払いであるならば,
は,医療機器国際標準化会議
とコスト面でまだ多くの課題があり
して管理することと定義しています。
す。この医療材料の供給連鎖管理が
それでも良かったのかもしれません
(GHTF)が進める医療機器の一般名
ます。将来的には役に立つと思いま
── 物流の定義と近年の動向について
お聞かせください。
08
IT
VISION
No.12 (2006)
また,医療材料物流管理システム
情報管理を一元化し
モノと情報の整合性を確保
や決済などを電子的に行い,人為的
モノの流れを管理し
無駄,ムラ,無理をなくす
投資を上回る効果を生む
医療材料物流管理システム
略歴
酒井順哉(さかい じゅんや)
1976 年鹿児島大大学院工学研究修了。 同年
同大学医学部附属病院手術部助手。83 年から
医療情報部を兼務し, 89 年に医療情報部副
部長となる。 95 年から名城大学都市情報学
部教授。 99 年から同大学大学院都市情報学
研究科保健医療情報学教授となる。 医学博
士・工学修士。
IT
VISION
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09
は紙に赤ペンで変更するなどの運用
注射指示
ベースで対応している。この仕組み
1
医療安全と経営効率化に効果を生む
システム構築
秋山 昌範
マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院客員教授・東京医科大学医療情報学講座客員教授
では,返品したり破棄したものは誰
かが入力しないかぎりデータには反
発
注
映されないので,データの不整合が
仕
入
れ
在
庫
起こる。従来のシステムでも指示変
指示変更
注
射
せ
ん
発
行
監
査
更がなかった場合は差分が出ないが,
である。注射オーダの場合は,払
データベースを用いるので,指示変
が出ることになる。したがって,従
い出しを要求し,それを使う前に
更や中止が単品レベルでリアルタイ
来の在庫管理システムでは,在庫数
ビンを割ってしまったりすると,
ムに可能になる 1)。
が合わない。
従来システム
混
注
最返
終品
ポ可
イ能
ンな
ト
消従
費来
ポの
イ
ン
ト
混注した後に変更がある場合には差
在庫管理システムと
注射オーダの問題点
調
剤
実
施
医
事
消単
費品
ポの
イ
ン
ト
返品廃棄の管理が重要
現在では,多くの病院で在庫管理
その薬の再請求はするが,薬の使
しかし,従来の注射オーダや在庫
システムが導入されている。しかし,
用報告は,保険請求に適用するも
管理システムでは,注射せん発行後
在庫管理システムが導入されていて
のだけについて行うことになる。
にデータがロックされ,看護支援シ
も,これとオーダリングシステム,例
破棄したものや誤って割ってし
ステムやリスクマネジメントシステ
POAS を使ったシステムでは, 従
握できる仕組みである 3 )。 その背後
タッフにとってはカードを出しただ
えば注射オーダとの間は,バッチ処
まった分は,オーダリングシステ
ムにデータが転送される。そこで,注
来のシステムと違って,患者が死亡
で,同期して物流の受発注が動いて
けで物品が配送されるから省力化に
理,もしくはオフライン処理されて
ムで把握できない。いまの医事会
射オーダを変更しても,看護支援シ
するまで指示変更があることを前提
いるので,在庫が完全一致するよう
なる。
2)
変更を前提とした注射オーダと
混注直前のチェック
図1
従来システムの管理範囲と POAS の管理範囲
いる。日次でしか管理されていない
計システムはレセプト作成が目的
ステムやリスクマネジメントシステ
に設計されている 。具体的には,医
ので,急な変更が反映されにくい。ま
であり,
「保険適用される部分だけ
ムのデータベースには瞬時には反映
事請求のみが目的ではなくて,物品
た,通常はオーダリングシステムで物
を請求する」という観点のシステ
されず,データ転送が行われてから
を自動発注することやリスクマネジ
を要求するが,注射オーダが 1 日単位
ムである。使用料を把握するため
反映されるので,そのタイムラグの
メントをも目的にしている。正確な
多くの場合,管理部門の考え方と
入したことになる。そこで,SPD 業
で管理されており,医療現場で急な変
のシステムではないので,請求単
間に実施した場合には PDA(携帯型
実施データとして管理されるので,ク
現場スタッフの考え方は相対立する。
者はカードを受け取り次第,可及的
更があった場合,それがこのシステム
位である 1 日単位のデータになっ
情報端末)などのベッドサイド実施端
リティカルパスのバリアンスをデー
現場はたくさん在庫を持っておきた
速やかにバーコードを読み取ろうと
に載らず,物は動いても起票化(伝票
ている。 そのために廃棄が増え,
末でアラームが鳴らない。つまり,処
タ解析することも可能になり,廃棄
いと考えがちであるが,管理部門の
する。しかし,一般的に配送は翌日
化)されずに,現場で闇に葬り去られ
使用料と請求額の不一致が生じる。
方せん発行後は原則として変更しな
や変更したものも,正確に反映され
方は過剰在庫を減少するように考え
にされる。したがって,会計課や管
い仕組みになっている。従来のシス
る。すなわち,廃棄のバーコードを
る。医師や看護師は,病棟において,
理部門が見る在庫はこの段階でシス
テムでは,図 1 のオレンジ色の枠の部
読み取ったら自動的にシステムが発
患者の急変時に在庫がなくて処置が
テムにより定数量になっているが,実
分だけしか管理を行えない。筆者が
注を行い,返品のバーコードを読み
遅れ,万が一手遅れになったら困る
際はまだ現場に配送されていない。配
てしまうケースが少なくない。この差
分により,使用料と請求額の不一致が
返品可能な最終ポイントの
チェックが経営改善効果を生む
生じる。リアルタイムな在庫管理がで
になった。
管理在庫と実在庫の不一致
一方,院内の在庫は卸などの SPD
業者が負担することになるが,バー
コード読み取りの段階で,病院が購
一方, 医療安全やトレーサビリ
開発にあたった POAS(Point of Act
取っていたら,返品カートに載せる
ので,手元に持っておきたいと考え
送は翌日にされるので,データベー
ティ,経営改善を可能にするシステ
System)では,実施まで,調剤,監
のみで,発注はされずに在庫が1 つ元
がちである。 そこで, 従来の SPD
スでは定数量あることになっている
使用料と請求額の不一致を生む原
ムは,他業界では SCM(サプライ・
査,混注,実施まで,すべてリアル
に戻るというような動き方をする。
(Supply Processing & Distribution :
にもかかわらず,院内配送が終わっ
因を整理すると,以下のようになる。
チェーン・マネジメント)と呼ばれる
タイムな管理を可能にした。実施す
特に,最も重要なのは,混注直前
病院内外に SPD 倉庫を設けて病院在
た後の準夜帯,深夜帯には病棟の実
○ 現場で起票化せずに物を使う。こ
流通システムとの連動が重要とされ,
るまで各プロセスで管理することが
のチェックで指示変更を発見するこ
庫を集約し,供給加工作業をアウト
在庫は寡少になってしまう。このタ
れについては,前に述べたとおり
その本質は物流データベースにある。
重要なのは当然だが,最も重要なの
とである。このポイントは,「 返品可
ソーシングする仕組み)や在庫管理シ
イミングで患者が急変すると,現場
である。
この物流データベースで扱う物品で
は「 返品可能な最終ポイント」である
能な最終ポイント」であり,ここを抜
ステムを入れると,現場は運用で手
で必要になる物品がないことになる。
○ 保険点数以上に物を使って,それ
は,単品レベル(使用単位)の管理を
混注直前のチェックで,「指示変更を
いてしまうと,医療安全の面から効
元の在庫が増えるように工夫をする。
このように,情報システムのデータ
をオーダリングシステムに入力す
行うので,すべての物品にユニーク
見つけること」である。POAS を運
果が激減する。さらに,経営の面で
病院は経営管理上,できるだけ在庫
処理と配送のタイミングにタイムラ
ると,それが自動的にレセプト請
な ID を振ることが必要になる。その
用している国立国際医療センターでは,
は,ほとんど改善効果が期待できな
を持ちたくないので,基本的に在庫
グがあることで,実在庫が増えてし
求に使われてしまう。そうなると,
結果,ある瞬間にボトルやアンプル
2004年度で9.75%を混注直前に把握で
くなる。混注後に発見しても,廃棄
負担は SPD 業者負担になる。一般の
まうのである。 一般的に, データ
過剰請求として処罰されるので,
が,病院のどこにあるか(アリバイ)
き,1億円強のコストが削減された。
するしかなく,再利用できないから
物流システムは,端末は倉庫のとこ
ベースは管理部門から見ているので,
意識的にオーダリングシステムに
をリアルタイムに管理することに
処方せん発行後や病棟まで医薬品
である。以上の仕組みはトヨタのカ
ろにしかない場合が多い。そこで,病
当該病棟に定数量在庫があることに
入力しない場合もある。
よって,注射のトレーサビリティ管
が届いた後に,患者の状態が変わり
ンバン方式をベッドサイドまで持ち
棟端末で入力する代わりに SPD シス
なっているが,実際には当該病棟に
理も実現する。 注射オーダもこの
注射指示が変更した場合,一般的に
込んだもので,必ず在庫が正確に把
テムでは一般にカード運用を行う。ス
在庫がないので,中央倉庫まで取り
きれば,前述の差分が減少し,コスト
の削減が可能である。
○ 注射オーダでは,話はもっと複雑
10
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に行く必要が出る。そこで,スタッ
劇的に減少した。在庫が少ないので,
定すれば,有効期限が3か月を切って,
ステムを拡張して, ナースステー
の中に梱包単位や商品名が入ってい
る。混注後に発見しても,廃棄する
フは次第に自己防衛するようになる。
病棟に移動しただけのように思える
2 か月しかない場合にはアラームが鳴
ションや外来に持ち込んでしまった
る。GTIN は消費単位,SSCC は流通
しかなく,再利用できないからであ
具体的には,使っていない場合でも
かもしれないが,病棟でも劇的に在
る。不良ロット情報が出回っている場
ため,1 日のオーダ単位で処理してい
単位に向いているフォーマットで,相
る。経営改善や事故防止に,実施前
カードを出すようになる。カテーテ
庫が減った。 病院中の在庫が全部
合は,不良ロットを入荷しようとする
る。そのため,入力から伝達完了ま
互に互換性があるのである。 した
のチェックが重要である。さらに,起
ルの定数が2 個の場合,それを使用し
1/10 以下になったので,管理も楽に
とアラームが鳴るようになっていて,
で 10 分∼数時間のタイムラグが発生
がって,この仕組みを用いれば,バー
こった事象を個々の視点だけでなく,
ない場合でも,カードを2 枚提出する
なったのである。たくさん在庫があ
アラームが鳴らないかぎり安全であ
するが, 医療現場では問題である。
コードのはり替えが不要で,トレー
全体から見ることがもっと重要であ
ことにより,病棟在庫が 4 個になる。
るから,棚の整理が大変になるので
る。いわば切符切りや回収をせずに自
ベッドサイドで求められるレベルで
サビリティが担保できる。このよう
る。全体から見るためには,客観的
ただし,データベース上は2 個使用し
あり,在庫がなければ棚の整理も不
動改札機を監視しているだけの駅員の
ある 2,3 秒のライムラグに抑えるた
な仕組みにより,初めて完全な一気
実施データを用いることが必須であ
たことになっているので,この段階
要になる。つまり,整理する時間も
ように会計職員は監視業務に専念でき
めには,データの粒度を 1 本 1 バイア
通貫である SCM が実現できる。バー
り,組織・システムとしての視点か
で管理部門の人たちは,実在庫が2 個
減った。結果的にコストも年間 5 億円
るわけである。いままで多勢の職員で
ル単位にしておく必要がある。医事
コードでも電子タグでも,そこで用
ら分析することで,経営改善・事故
だと思っているのである。実際は4 個
弱減少した。その上,コンビニエン
まる 1 日がかりでやっていた検品作業
課と医療現場とでは,扱いたいデー
いるコードの標準化が重要であるが,
防止を生む。従来の“部分最適”が
であるので, 差分の 2 個を「 安心在
スストアチェーンのような情報活用
が,毎回必要な量だけ納品するので,
タの粒度が異なることを最初に理解
厚生労働省医薬食品局安全対策課に
優先しがちな医療現場で,リアルタ
庫」と呼ぶ。
を行ったので,さらに利点が生じた。
職員 1 名で配送も含め 1 時間半弱の短
する必要がある。最初から,システ
おいて,コード表示標準化検討会の
イムなデータを活用し,全体像から
倉庫スペースが 1/10 以下になったに
時間で終わるようになった。非常に簡
ムの粒度を細かい医薬品などの単品
報告を受け,まもなく通知が出る予
管理する“全体最適”ができるよう
もかかわらず,物品の選択肢は十分
単かつ短時間になった。このように物
にしておけば,その積み重ねである
定である。
になると,マネジメントレベルが上
流は劇的に変わることになる。
医事課のほしいデータも導き出せる。
物流システムによる安心在庫
以上のような在庫の不一致は,物
流システムの問題である。在庫管理
を目的とするこれまでの物流システ
4)
確保できたのである 。
有効期限管理とロット管理
異なる粒度の連携管理が重要
このように,トレーサビリティや安
従来のシステムが,生産性向上,臨
全性を確保した情報流通に対する国民
床データ収集,経営改善に使えない
の期待を受けた薬事法の改正により,
6)
,7)
。
ムでは,このようになってしまう。実
在庫管理以外に,入荷検品時でも
従来のシステムが,オーダ変更の伝
際に導入すると経営者側,管理者側
メリットがある。通常読み上げ検品
達を自動化できないのには理由があ
医薬品や医療材料は,工場では単
まっている。前述したように,製薬工
が見ている管理在庫と実在庫には乖
を行うのが一般的であり,1 日がかり
る。すなわち,システム導入前の伝票
品単位の生産管理をされているが,
場から卸を経て病院内に至る経路は,
離ができてくる。安心在庫を国際的
で行われている。しかし,国立国際
の流れを単純にそのまま電子化した
卸を介し病院に引き渡される際は,
単品レベルで生産管理される工場の生
には“safety stock”というように,
医療センターの入荷検品は,1 時間半
ペーパーレスをめざしたため,1 つの
箱単位,購入単位である。そのため,
産ラインから販売単位,ダンボール
どこの国でも起こっていることであ
弱で全部終わってしまう。年間 60 億
伝票の記入内容が,1 つの情報の単位
従来の物流システムは,入荷時点の
箱,パレットなど物の集積と分解を繰
る。これは IT が未熟なことによって
円程度購入しているが, 週 2 回配送
で扱われている。伝票の単位とは 1 回
伝票の単位で処理し,単品管理をし
り返しながら複雑な経路を通る。院内
起こる。前述したように,国立国際
で,1 時間半弱で終わってしまう。非
のオーダのことなので,その中にはい
ていない。 伝票単位, 1 日単位で
の流通のみならず,工場という川上か
医療センターでは最新の IT である
常に楽であるし,担当する会計課の
くつもの処方や処置が含まれている。
チェックしても,事故が起きてしまっ
ら患者という川下まで,一気通貫の仕
POAS により, この安心在庫を減ら
職員は1 名しか必要なくなった。現場
もし,その一部を変更する場合は,
ては遅いのである。事故を防止する
組みが必要になっている。卸業界は,
すことが可能になった。 POAS によ
では納品してきた業者が自らバー
オーダごと差し替えることになるの
には,始めから1 本ずつリアルタイム
この情報と物を一致させる「情物一
り使ったものだけが自動的に配送さ
コードを読み取っていると同時に,会
で,どの部分が変更になったかまで,
に管理する必要がある。そのために
致」の管理のプロフェッショナルとし
れる。バーコードのシールははがせ
計職員は「卸担当者が発注分だけ納
システムは判断できない。判断できる
は,入荷の時点で伝票ではなく,単
ての期待に応えることで,国民の支持
ないので,安心在庫を増やすために
品しているか,有効期限切れや不良
のは,データがまるごと更新された場
品の粒度で管理しなければならない。
がますます高まると思われる。
バーコードシールをはがしてカード
ロット製品などを納品していないか,
合のみである。コンピュータが扱う情
工場と同じレベルの生産管理システ
運用することはできない。したがっ
不正を行っていないか等々」チェッ
報の単位のことを“粒度”と呼んでい
ムを病院の中に入れることと同じな
て, POAS を使った物流システムで
クをしているのみであって,そこで
るが,その粒度より細かな情報をシス
ので,事故がなくなるのである。
は,正確に在庫数が合うことになる。
アラームが鳴らないかぎりきちんと
テムは扱えない。このことが,医療現
これらを解消し一元管理を行うた
は,決して経営は改善しない。重要
一つひとつのアリバイ管理を行うの
納品されていることになる。
場に必要な“リアルタイム性”や“プ
め,GS1(旧国際 EAN 協会)では,統
な点は,無駄な消費や廃棄を減らす
ロセスのコントロール”を不可能にし
一したシステムを提唱している。扱
ことである。注射に関して言えば,混
で絶対数が一致するし,1 個ずつ配送
つまり,期限切れのものを納品しよ
5)
ている 。
のは,このためである
従来にも増して医薬品流通に注目が集
まとめ
単に物流システムを入れただけで
する仕組みを持っているので,必ず
うとするとアラームが鳴るし,同時に
う情報は移動させる器(データキャリ
注直前のチェックで指示変更を発見
データが一致することになる。
有効期限管理も行える。例えば,シ
POAS が従来のシステムと違う点
ア)として,GS1-128(旧 UCC/EAN-
することである。前述のとおり,こ
ステム上有効期限は 1 か月単位で設定
は,オーダを中心にするのではなく
128)や RSS,RFID(電子タグ)を用
のポイントは「 返品可能な最終ポイン
9 2 5 床のベッドで平均在院日数が
できるので,仮に 3 か月以上有効期限
て,実施を中心にしている点である。
いる。その中で運ぶデータは,GTIN,
ト」であり,ここを抜いてしまうと,
15 日程度であるが,病院の全在庫は
が残ってないと納品できないように設
従来のシステムは,医事課の会計シ
SSCC などを使用する。GTIN やSSCC
ほとんど改善効果が期待できなくな
実際に国立国際医療センターでは,
12
IT
VISION
No.12 (2006)
がり,より安心・安全な医療が実現
され経営も改善する。
●参考文献
1)秋山昌範 : 国立病院における医療材料の情
報標準化について── POS( 消費時点物流管
理)システムの病院物流管理への応用―. 医工
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20(Suppl. 2), 44 ∼ 46, 2000.
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テムを医療に応用する. 日本医師会雑誌,
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2005.
6) Akiyama, M. : Migration of the Japanese
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7) 秋 山 昌 範 : 病 院 管 理 を 行 う た め の ERP
(Enterprise Resource Planning)システム. 医
療情報学, 23 ・ 3, 3 ∼ 13, 2003.
略歴
秋山昌範(あきやま まさのり)
1983 年徳島大学医学部
医学科卒業。 同大学泌
尿器科, 慶應義塾大学
医学部病理学, 国立四
国がんセンター, 国立
国際医療センターなど
を経て現職。医学博士。
浜松医科大学・慶應義
塾大学医学部非常勤講
師,日本医療情報学会理事,デジタルフォレ
ンジック研究会理事, HL7 国際委員, GS1HUG 検討委員, 文部科学省科学技術振興調
整費「医療分野における電子タグ利活用のた
めの実証実験」研究代表者などを務める。
IT
VISION
No.12 (2006)
13
RSSファミリーの適用方法
2
横幅が小さい容器への表示
(01)14912345678900(17)010425(30)1000(10)1234
バーコードなどの標準化動向
商品コード
有効期限
数量
( 01) 14912345678901
バイアル
・RSSスタック
2001年04月25日 1000個
( 01) 12345678901231
アンプル
・RSSリミテッド
ロット番号
直径が小さい容器への表示
・RSSスタック・オムニディレクショナル
武隈 良治
はじめに
財団法人医療情報システム開発センター標準化推進部部長
商品コードの
AIが“01”
医療分野にバーコード? 一見ど
バーコードを使用することによる
策の一つになっている重要な問題で
うしてだろうと思われる人が多いの
効果は,物以外でも医療現場で多数
ある。これを推進するためには,標
ではないかと思われる。
報告されている。 利用例としては,
医療分野において,特に医療現場
者,企業,流通業界などが使ってい
で使用される医薬品,医療機器など
くことが重要で,このことは厚生労
のトレーサビリティ(履歴管理,追跡
患者のリストバンド,スタッフの ID
カードなどがある。
現在,トレーサビリティを確保す
働省をはじめ,さまざまな省庁の報
管理)を確保することが,医療安全に
る技術としては,バーコード,RFID
告書にも繰り返し強調されている。
もつながることが実証されている。
(電子タグ)がある。これらにはそれ
医療情報の標準化の必要性は,同
医療現場で発生する事故の多くが
じ言葉で話をすることを意味してい
医薬品や患者の取り違いなどによる
る。医療機関同士がそれぞれ違った
ものであり,患者安全のための緊急
ロット番号の
AIが“10”
( 01) 14912345678901
全方向読取レーザスキャナで読み取る場合の表示
・RSSスタック合成シンボル
固形製剤包装
横幅が小さく,GTIN以外に有効期限,
( 01) 14912345678901
ロット番号などを表示する場合
なくすことがある。
医療分野の IT 化は,現在の国の政
準的な用語,コードなどを医療関係
数量の
AIが“30”
各データをAIで定義して,連結表示できる
固定長,可変長データを表示できる
薬品と調剤される医薬品)の間違いを
医療分野におけるバーコード
有効期限の
AIが“17”
図3
GS1-128(UCC/EAN-128)
項目
無線タグ
図4
バーコード
二次元シンボル
最大情報量
数千桁
数十桁
1000桁程度
最大通信距離
5∼6m*
50cm前後
50cm前後
情報の書き換え
寸法
可能
小さい
不可
(縦×横)
(自在)
不可
きわめて
小さい
耐環境性
強い
(汚れ・経年変化)
小さい
ここで,バーコー
ドと標準化につい
には,間違いなく導入されることに
なるであろう。
て少し述べること
バーコードとRFID の違いは,保存
にする。何を標準
できる情報量にある。バーコードが
(封止材を選択)
きわめて
弱い
化するかと言えば,
数十桁の情報を保存するのに対して,
ぞれ特徴があり,医療現場で使い分け
複数情報/一括読み取り
可能
不可
不可
バーコードの要素
RFID は IC チップのメモリにもよる
ることにより一層効果が期待できる。
国際標準コードの
活用例
――
GS1-128(UCC / EAN-128)
JAN,EAN
RSS合成シンボル
である商品コード
が,数千桁以上の情報保存が可能と
である。商品コー
されている。その上,RFID は情報を
ドは,ユニークな
読ませるだけでなく,書き換えるこ
ものでなければ商
とも可能である。また,繰り返し使
品が特定できない。
用することができ,さまざまな応用
商品とコードが
が考えられる(図 5)。
バーコードの規格と標準化
備考
種類(利用する周波
数)によっては
熱,水,金属などに
弱い
――
きわめて
弱い
RSS の表示例
――
用語・コードで情報のやりとりをし
の取り組みが必要になってきた状況
ても,理解し合うことはできない。そ
がある。これらは人間が起こした間
ここでは,バーコードについて述べ
こで,(財)医療情報システム開発セ
違いであり,完全に除去することは
る。バーコードと言っても,皆さんが
ンターでは,診療情報を電子的に交
難しい。そこで,未然に防ぐことの
日ごろ目にしているのはJANコードと
換するための用語・コードの標準化
対策として,事故に至らなかった事
言って,13桁のコードである(図1,2)。
(UCC/EAN-128)をちょう付すること
1 対 1 になる標準コードが必要になっ
を行っており, 現在までに 9 分野 10
例(ヒヤリハット)を収集,分析し,
これは,JIS 規格化されており(JIS-X-
が,各業界で決められている(GS1-128
てくる。また,それに伴い,その商品
マスター( 病名, 手術・処置, 医薬
医療現場にフィードバックすること
0501)
,また,世界規模で情報識別でき
の 128 は英数字,記号など 128 種類の
のデータベースも当然必要で,これら
バーコード,RFID は,医療現場に
品,医療機器データベース,臨床検
により,警鐘を鳴らす一方,IT の一
るように,日本の国コードとして“45”
文字を表示できるという意味)。どう
は基盤であると考える。バーコードを
おいてはトレーサビリティ,患者安
査( 生理機能検査含む), 歯科分野
つであるバーコードを医薬品,医療
と“49”が決められている。そのほ
して医薬品,医療機器にちょう付する
ちょう付した医薬品などをリーダで読
全に有効である。だからといって過
(病名,手術・処置)
,症状所見(身体
機器にちょう付することにより,患
か,企業コード,商品コード,チェッ
ことを決めたのかと言えば,有効期
み取った場合,データベースと直結し
信するのではなく,それぞれの特徴
所見),看護実践用語,画像検査)の
者(処方された医薬品と投与されるべ
クデジッドで構成されている。
限,ロット番号など,記録を保存しな
て何であるかを一瞬にして表示し,確
を理解して人が使いこなすことで,大
開発を行い,維持管理している。
き患者),物(例えば,処方された医
ければならない情報を提供することが
認ができるのである。
きな効果を発揮する。それを支える基
医薬品, 医療機器には, GS1-128
*電波規制のため国や地域によって距離にばらつきがある。
図5
バーコードと RFID の比較
できるからである(図 3)。
① 標準タイプ13桁
メーカーコードが9桁の場合
② 短縮タイプ8桁
a:9桁メーカーコード
JANメーカーコード
b:7桁メーカーコード
商品アイテム チェックデジット
コード
メーカーコードが7桁の場合
JANメーカーコード
図1
14
JAN コードの体系
IT
VISION
No.12 (2006)
JANメーカーコード(9桁)
商品アイテムコード(3桁)
チェックデジット(1桁)
商品アイテム チェックデジット
コード
JANメーカーコード(7桁)
商品アイテムコード(5桁)
チェックデジット(1桁)
9桁と7桁のメーカーコードがある
図2
JAN コード
JANメーカーコード(6桁)
商品アイテムコード(1桁)
チェックデジット(1桁)
GS1-128 は,見てのとおり長いバー
RFID と今後の展望
コードになるため,医薬品の中でも注
ここまで,バーコードについて述
射薬のアンプルのように小さいものに
べてきたが,RFID(電子タグ)も医
は不向きである。そこで,物が小さく
療現場で使用した場合の実証実験が
十分なスペースのないものには,RSS
行われ,有効なものであることが証
(省スペースシンボル)が適当である
明されている。ただし,万能ではな
(図 4)。このように,それぞれの特徴
く, まだ医療現場に導入するには,
を生かした使い方をすることが重要で
いろいろな問題を解決しなければな
ある。
らない。しかし,そう遠くない将来
まとめ
盤として,コードの標準化,データ
ベースの構築が必要なのである。
略歴
武隈良治(たけくま りょうじ)
1973 年北里大学薬学部
卒業。 埼玉県庁勤務の
後, 1986 年に厚生省
(現厚生労働省)入省。
環境庁, 医薬品総合機
構を経て現職。
IT
VISION
No.12 (2006)
15
ことも示された。しかし,先に述べ
RFID の利点
たスタッフの労務負荷の増大に関す
3
RFID を活用したベッドサイド
注射認証システムの実際
る弱点で,根本的な解決は難しい。
そこで,RFID の利用を考えたので
ある。きっかけは,空港の手荷物管
―― 秋田大学医学部附属病院
近藤 克幸
る懸念はバーコードが原理的に抱え
① 厳密な方向調整を行わずとも
ある程度読み取り可能
② 間に遮へい物があっても読み取り可能
③ 多くの情報を記録可能
④ 書き込みも可能
⑤ 複数タグの情報を読み取り可能
厳密な方向調整必要 厳密な方向調整不要
バーコード
電子タグ
理にRFID を利用した実証実験を行う
という新聞記事だった。2000 年から
秋田大学医学部附属病院医療情報部教授
2001 年ごろの話だったと思う。それ
まで,RFID という技術は認知してい
をいかに確実に行うかということが,
ドの安全管理システムとしてバー
たものの,医療分野への応用を具体
遮へい物があるとダメ
遮へい物があっても可
同時読み取り不可
同時読み取り可
安全な医療のための重要課題の一つ
コードという技術は本当に最適だろ
的にイメージしてはいなかった。だ
バーコード
電子タグ
バーコード
電子タグ
患者の生命を預かる医療現場では,
と言えよう。同報告では,「処方・与
うか,と疑問を感じていた。
が,調べてみればみるほど,この技
安全は最優先課題である。 しかし,
薬」として内服と注射を一括してい
最近の医療を取り巻く環境は厳しさ
るが, 患者への影響度を考えれば,
術であるから正確にリーダを向けな
を増し,診断・治療を高水準に保ち,
注射薬の誤投与防止策がいかに重要
ければならないし,変形していると
安全かつ良質な医療を提供すると同
であるかは明らかであろう。
読み取りエラーも起きやすい。リス
はじめに
例えば,バーコードは光学的な技
術の優位性,将来性が明確に感じら
RFID とバーコードの比較
れたのである。
バーコードと RFID の比較(図 1)
時に,経営的視点からの効率性や労
ところで,医療機関が抱える課題
務環境の整備も解決することが求め
は安全のほかにもさまざまある。例
表面のバーコードは容易に変形し,読
個体に取りつけたタグの情報を読み
られる。多くのモノと人が相互に関
えば,情報の開示と説明責任が求め
み取りにくいのではないか。また,就
取る技術だが,似て非なるものであ
連しながら医療行為が遂行される中,
られる時代であり,実施行為の確実
眠中の点滴交換では,布団の中に隠
る。 光学的な読み取りであるバー
これらが誤りなく関係づけられ,確
な記録は, 必須要件の一つである。
れたリストバンドの読み取りは不可
コードに対し,無線技術を利用して読
実に実施されていくことは,課題解
そして,それら医療行為に関する情
能である。バーコードを読み取るた
み取るRFIDは次のような利点がある。
決のためにはぜひとも満たすべき条
報は,同時に経営状態の把握と改善
めだけに眠っている患者を起こすの
① 厳密な方向調整を行わずともあ
件と言えよう。われわれの病院では,
の資料としても重要である。
は,スタッフにとって心理的にも負
る程度読み取り可能,② 間に遮へい
トバンドや柔らかい点滴ボトルでは,
図1
バーコードと電子タグは,ともに
図 2 秋田大学医学部附属病院で使用している PDA
13.56 MHz RFID リーダを背面(赤枠部分)に内蔵。
RFID とバーコードを,画面タップまたはソフトウエア
からの制御で切り替え可能。
近年注目されている,RFID を利用し
こうした背景から,高い次元で課
担だろうし,何より患者も心地良い
物があっても読み取り可能(材質にも
たベッドサイド認証システムを開発・
題解決を支援するシステムとして,
はずがない。そして,複数薬剤混注
よる),③ 多くの情報を記録可能,
運用し,諸課題解決のための一ツー
バーコードリーダを内蔵した医療用
時のチェックや物流管理への応用を
④ 書き込みも可能,⑤ 複数タグの
ルとして活用してきた。 病院での
携帯情報端末(PDA : Personal Dig-
考えたとき,一つひとつのアンプル
情報を読み取り可能。
RFID 利用はいまだ例が少なく,特に
ital Assistant)によるベッドサイド
やボトルのバーコードをすべて読み
① や ② の利点から,RFID では電
薬剤に個別に電子タグが装着されて
ただ,当時は医療現場での利用を
取るのは,スタッフにとって相当な
子タグにリーダを近づけるだけで読
いることが前提となり,一病院の取
想定したRFID 機器や,電子タグ内蔵
負担と予想される。スタッフの負担
み取り可能で,ボトルやリストバン
り組みで直ちに実現するのは困難だ
のリストバンドはなかった。そこで,
が増えることは,潜在的なリスク要
ドが少々変形していても問題がない。
ろう。製薬メーカーを含めた国全体
PDA はオリンパスメディカルシステ
因にもなりかねないと考えたので
布団の中に隠れたリストバンドも読
としての取り組みが必要かもしれな
ムズの協力をいただき,バーコード
ある。
み取れる可能性がある。よって,最
い。しかし,混注後のボトル単位の
リーダ内蔵型医療用 PDA として実績
も心配した,読み取り操作によるス
ラベル印字・ちょう付や,患者リス
の あ っ た「 S o l e m i o N u r s e 」に
タッフの負担増を最小限に抑えるこ
トバンドの利用はすでに実施されて
13.56 MHz RFID リーダを内蔵した
とができると考えた。③ や ④ からは,
おり,それに電子タグを導入するこ
モデルを製作(図 2)。無線 LAN も内
ベッドサイドでの利用例は国内初と
思われるので,概要を解説したい。
課題解決のための
ベッドサイド業務支援システム
2)
認証システムが脚光を浴びてきた 。
スタッフの負担増は?
ところで, エラー防止のための
チェックは重要ではあるが,わが国
も実現できるかもしれない。
こうした発想の一部は,すべての
PDA やリストバンドの開発
( 財)日本医療機能評価機構の報
の医療機関でスタッフが余裕を持っ
1)
告 によれば, ヒヤリハットの発生
てチェックに時間を割ける病院はど
場所は「 病室」 が, 場面としては
の程度あるのだろう。大多数の病院
ただ,RFID がまったく普及してい
「処方・与薬」が最多である。また,
のスタッフはきわめて多忙で,従来以
なかった数年前は,バーコードを利
製剤に手が加えられた時に情報を追
とは容易である。人的負担の増加な
蔵しているので,電子カルテシステ
発生要因では「確認が不十分」が最
上のチェックを求められる中,どう
用したシステムが最適解の一つであ
記することも可能となろう。⑤ から
く可能だからである。そして,それ
ムともリアルタイムに連携できた。
多で,処方・与薬に限ってみてもこ
にか工夫して医療事故の防止に努め
ることは間違いなかったし,そうし
は,複数の薬剤混注時,すべての薬
らを電子タグで管理すれば,労務負
の傾向は変わらない。すなわち,病
ているのが現状ではなかろうか。そ
たシステムの登場で,タギングがベッ
剤が誤りなくそろっているかを一度
荷を最小限に抑えつつ安全管理の向
13.56 MHz 電子タグを内蔵したタイ
室で処方・与薬に関連する確認行為
うしたことを考えると,ベッドサイ
ドサイド業務にも有効に活用できる
にチェックできる“混注チェック台”
上が図れると考えたのである。
プを制作していただいた。当初は,タ
16
IT
VISION
No.12 (2006)
RFID に注目
リストバンドはサトーの協力で,
IT
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No.12 (2006)
17
初期のリストバンド(タグ挿入型)
なお,スタッフはネームカード裏面
み取り操作”にかかる時間が短縮さ
にちょう付した電子タグで同定され
れていることである。1 回の時間差は
るため,誰が,いつ,誰に,どの薬
わずか数秒だが,全スタッフの全注
剤を注射したのかの実施記録は,無
射業務にかかわってくる以上,トー
線 LAN を通じて電子カルテに記録さ
タルでは無視できない時間差である。
れる(図 4)。
これら労務負荷の差異は科学研究費
運用後の評価
本システムは,取り違え防止と実
施記録を主なターゲットとしている。
現在使用しているリストバンド
(裏面にタグを内蔵)
図3
秋田大学医学部附属病院で使用している電子タグ内蔵型のリストバンド
R F
果を公表できる見込みである。
RFID を利用したベッドサイド注射
ちょう付し院内物流管理に利用して
認証システムについて,開発の経緯
いるのではなく,あくまで実施する
から運用後の評価までを概説した。
Rp 単位の管理なので,コスト面での
本年度はさらに, 混注前のダブル
数値上の効果は出にくい。 そこで,
チェックの記録にも適用を拡大し,ダ
図4
ようになっている。さらに,最近は
均件数が半減していたが,報告内容
輸血製剤にも電子タグを装着し,実
こうした事前準備を経て,2004 年
は患者への投与に限らず注射関連全
施認証を開始した。いずれも,電子
10
11月15日より全病棟・全入院患者の注
般のため,バラツキも大きく,必ず
タグで読み取りの負担が少ないから
5
射業務を対象に,RFID を利用した注
しも本システムの効果とは言い難い。
こそスムーズに適用拡大ができてい
0
実施結果
経過表
注射関連の
インシデント
うち,人間違い
20
15
ると考えている。
2
0
0
4
年
4
月
2
0
0
4
年
5
月
2
0
0
4
年
6
月
2
0
0
4
年
7
月
2
0
0
4
年
8
月
2
0
0
4
年
9
月
2
0
0
4
年
10
月
2
0
0
4
年
11
月
2
0
0
4
年
12
月
2
0
0
5
年
1
月
当院のゼネラルリスクマネージャー
では,ハンディタイプのRFID 機器と
医師が注射オーダを電子カルテに
が,すべてのインシデント報告から
製品個別に電子タグが装着されてい
植込み型医用機器を22cm 以上近づけ
入力する。薬剤部では,部門システ
「注射・人間違いのインシデント」だ
ない。したがって,われわれの病院
ないこととされている。リストバン
ムでオーダの受け付けを行う際,Rp
けを抽出した件数である。本システ
では下流工程に相当するベッドサイ
ドは手首に装着するため,肢位によっ
ごとに患者氏名や日時,注射内容が
ム導入前は,月に 1 ∼ 3 件の間で散見
ドなど医療現場の側から,安全管理
助け,ヒューマンエラーを防止でき
てバンドが植込み型医用機器に近接
印字されたラベルが出力される。こ
されていたインシデントが,導入後
や業務効率の向上を目的とした電子
るようなシステムもまた,安全な医
する可能性があり,うっかりスタッ
のラベルに電子タグが内蔵されてお
はまったく見られなくなった。これ
タグの利用を模索し,効果を上げて
療には有用だろう。そして,“チェッ
フがそのまま読み取るリスクが残る。
り,印字と同時に固有のオーダナン
は明らかにシステム導入の効果と考
きた。これが,個々の製品にあらか
クシステム”というものは確実性と
そこで本院では,電子カルテの患者
バーが電子タグにも記録され,個人
えられ,インシデントを完全に抑止
じめ電子タグが装着されてくると,適
ともに,スタッフの負担が少なく運
基本情報に植込み型医用機器( 予定
別の注射薬とともに病棟に払い出さ
できたことを示す。もちろん,バー
用範囲は飛躍的に広がる。それは単
用しやすいものでなければ十分な効
含む)のフラグがセットされている患
れる。病棟では,混注時にラベルが
コードによるシステムも同様の効果
に物流管理, トレーサビリティと
果を発揮しない。それを実現するた
者の場合, 自動的に PDA 側がバー
ボトルにちょう付され,ベッドサイ
は期待できる。しかし,電子タグで
いった“モノの管理”にとどまらず,
めにも,適正な標準化がなされ,さ
コードに切り替わるよう制御を入
ドでの注射実施時に,ボトルラベル
ユーザビリティの高いシステムを構
混注する薬剤の適正性や相互作用,
まざまな問題をクリアし,電子タグ
れた。
の電子タグとともに患者リストバン
築したことで,「ベッドサイド認証」
各種医療材料と行為のチェックなど,
がまさに“医療インフラの一つ”と
また,シリンジポンプなどの医療
ドの電子タグも読み込む。そこで,万
という新業務に対する抵抗感が払拭
多方面で医療の安全性・質の向上に
して普及していくことを期待するし,
機器も,使用している全機種につい
が一組み合わせが異なっていればア
できたと同時に,操作に対する「慣
寄与できる可能性がある。もちろん,
われわれも医療現場側からの提案を
てテストを行った。 一部機種では,
ラートが表示され,実施操作はでき
れ」に必要な時間も短くてすむ。
医療安全には個々の医療者の知識と
さまざまな形で行っていきたい。
センサー基盤部が 1 ∼ 2 cm に近接し
ない。組み合わせが正しい場合は最
さらに重要なことは, 24 時間
適切な判断が何より重要である。し
て電波を出力すると,閉塞アラーム
新のオーダ内容が表示され,確認で
365 日,数多く行われている注射実施
かし,平易な操作性のもと,時には
の誤作動が起こるため,筐体の一部
きるとともに実施入力が可能となる。
業務,そのすべての行為において“読
自動化されたアラート機能で判断を
No.12 (2006)
各種
オーダ
25
用の大まかな流れは次のようになる。
VISION
EG-MAIN/EX
利用者認証
総務省から公表されている指針 3),4)
IT
富士通
電子タグ認証
システム導入
30
ト全体の報告件数では,導入後の平
18
電子カルテシステムサーバ
報
I D
35
ようとするとアラートが表示される
一方,赤い棒グラフで示したのは,
ル情
患者情報
(件)
してみた(図 5)。注射関連インシデン
射認証システムの運用を開始した。運
イタ
システム全体概念図
対策を施した。
医療機器への影響と対策
情報
OK?
NG?
患者認証 注射認証
プを試作していたが,入浴時の漏水
いる(図 3)。
注射
オーダ
電子カルテ
システム端末
ブルチェック未施行の注射を実施し
ティング処理した改良型を利用して
ーダ
まとめ
すべての薬剤に個別に電子タグを
サトー MR410e
サトー MR410e
,オ
,バ
補助金で研究中であり,近日中に結
導入前後のインシデント報告を比較
運用の開始
情報
最新オーダ表示
実施時認証
バイタル入力
にアルミテープをちょう付し電磁波
電子タグをちょう付し,全体をコー
情報
実施
入院時の患者
リストバンド発行
(電子タグ内蔵)
ラベルプリンタ
(電子タグ内蔵)
RFID ラベルプリンタ RFID
患者
オーダ照会
結果送信
グを透明ポケット内に格納するタイ
の問題もあり,現在はバンド裏面に
薬剤部門での
注射ラベル発行
認証管理用サーバ
オリンパスメディカルシステムズ
Solemio Nurseサーバ
現在はまだ, 病院の前段階では,
図5
2
0
0
5
年
2
月
2
0
0
5
年
3
月
2
0
0
5
年
4
月
2
0
0
5
年
5
月
2
0
0
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年
6
月
2
0
0
5
年
7
月
2
0
0
5
年
8
月
2
0
0
5
年
9
月
システム導入の効果
●参考文献
1)財団法人日本医療機能評価機構医療事故防止
センター : 医療事故情報収集等事業 平成 17
年年報. 2005.
2)秋山昌範 : 医療行為発生時点情報管理によ
るリスクマネジメントシステム. 医療情報学,
20(Suppl. 2), 44 ∼ 46, 2000.
3)総務省 : 電波の医用機器等への影響に関す
る調査結果報告書. 2004.
4)総務省 : 各種電波利用機器の電波が植込み
型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針.
2006.
略歴
近藤克幸(こんどう かつゆき)
医学博士。1990 年秋田
大学医学部卒業後, 心
臓血管外科入局。以後,
関連病院で心臓血管外
科医として臨床の研鑽
を積んだ後,99 年から
秋田大学医学部附属病
院医療情報部助手( 副
部長)となり,2002 年
から現職。ユーザビリティの高いシステムを
めざし,電子カルテやデバイスの研究を続け
ている。
IT
VISION
No.12 (2006)
19
導入事例に見る
物流システム構築の実際
4
―― 聖路加国際病院
板井 明
はじめに
当院は,1992 年に新病院が開設さ
がなぜ実践困難であったのか,構築
そのため,SMILE Ⅲへの情報入力は
めて針のサイズや,真空採血管で行
から運用までと,その評価を中心に
処置前ではなく,看護師が処置後に
うか,シリンジを使用するのかをそ
新物流システムについて報告をする。
使用した物品を処置実施画面から入
の場で選択しなければならない。す
力することとなる。
べてをそろえてセット化した場合,数
3)全物品へのバーコード添付
種類の異なるセットが必要となるの
構築から運用まで
患者別コスト算出が可能となるシ
で,ある程度共通した物品だけを選
ステムを実現するためには,全物品
択し,それをセット化することで標
にバーコードが必要になる。例えば
準化が可能となる。しかし,大人用
に,新物流システム構築のためのプ
UCC/EAN-128 を使用し,バーコード
と子供用,女性用と男性用などで共
1.実施入力方法について
2001 年 5 月(SMILE Ⅲ導入 2 年前)
聖路加国際病院物品管理センターチーフ
ロジェクトが発足した。メンバーは
管理を実行した場合, 2003 年当時,
通のセット化が難しい場合もある。さ
管理センターを中心に供給部門が隣
営支援システムなどの部門間を連携
医療情報システム室物流担当 2 名,供
ほとんどの物品には個包装単位では
らに,セット化を希望する種類が 300
接し,互いに有機的に連携した中で
するシステムの構築により,患者単
給部門物流担当として 5 名(物品管理
なく,中箱単位でバーコードが付い
セットを超えたため,在庫管理や供
業務が行われている。
位の原価管理が実現可能となり,医
センター 1 名,中央滅菌室 1 名,薬剤
ているというのが現状であった。そ
給方法などが問題となった。
れ,物品の供給と管理を集中的に行う
当院では 2003 年 7 月,富士通とと
療現場からの「SMILE Ⅲ情報を基に
部1名,リネン洗濯室1名,CE室1名)
,
こで,SMILE Ⅲ独自でのバーコード
供給部門〔物品管理センター・中央滅
もに病院統合情報システム(SMILEⅢ)
した物品供給」ができる統合的な新物
物流担当看護師 2 名で,定期的にミー
を作成し,全物品にはり付ける方法
SMILE Ⅲからの医療情報が今後どこ
菌室・リネン洗濯室・薬剤部・臨床工
を構築した。 すでに前システム
流システムづくりをめざした(図 1)。
ティングが開催された。富士通側か
を考案したが,これにも以下のよう
まで必要なのかを検討した結果,下
学室(CE 室)〕をワンフロアに集約さ
SMILE Ⅱにおいて,発注∼納品∼供
しかしながら,現在当院で行われ
ら新物流システムの概要説明,運用
な疑問点が浮かび上がった。
記に示す「オーダーカードによる定
せた。搬送も含めた総合的な物品管理
給∼請求∼支払い・在庫管理・棚卸
ている方法は「オーダーカードによ
方法,今後のスケジュールや各部門
○ 安価で小さい包装の注射針や採血
数補充方式」を採用することにした。
シ ス テ ム( Supply Processing and
しといった管理業務や,部門別・材
る定数補充方式」であり,物品の供
間との連携方法などの説明が行われ
管にバーコードをはり付けること
Distribution : SPD)をハード面から
料別の払い出し実績などの多種にわ
給は SMILE Ⅲからの情報ではなく,
たが,現行システムの改良点や追加
が可能か。
サポートし,その運用に成功した。
たるデータが蓄積されていた。
物品使用時に外したオーダーカード
項目の確認がその都度行われた。
物品管理センターが目標として掲
SMILE Ⅲでは,それらを基に,診療
が医療現場からの請求とみなされ,そ
SMILE Ⅲにおいて物流部門の重要
げたことは,「 院内物流業務の効率
情報から必要な物品を医療行為前に
のデータを基に供給するシステムで
課題として以下の 4 項目が明確化さ
化」,「在庫の圧縮」,そして「原価管
明確化させ,供給を可能にするシス
運用している。
れた。
理の徹底」であった。これらを具体
テムとなるよう検討した。また,手
化したシステムが SPD であり,物品
術システム・医事会計システム・経
「SMILE Ⅲ情報を基にした物品供給」
手術部門システム
放射線部門システム
手術予定
病棟
実施入力
オーダーカード
今回,当初の目的であった
実施入力
注射オーダ
処置オーダ
使用実績
使用予定
使用実績
実施入力
オーダーカード
それぞれのシステムからの情報を統合して、
それぞれのシステムからの情報を統合して、
物品マスタの設定をもとに,以降の処理を振り分ける。
物品マスタの設定をもとに、以降の処理を振り分ける。
電子チャートサーバ
処置オーダ
医事会計システム
オーダ・実施
物品の使用実績&オーダ(予定)
外来
回収= 使用情報
物品管理センター 物品管理センター 新物流システム
部門別原価計算/経営支援システム
図1
20
IT
VISION
新物流システムの物品請求情報経路
No.12 (2006)
化された情報が印字される。各物品
えると,膨大な予算と労力がかか
の棚に供給される。バーコードは,病
るのではないか。
院独自のバーコードで運用し,物品
入力を行うだけで,新物流システム
これらの疑問点を一つひとつ解決
すべてに添付されるが,物品によっ
にリアルタイムな情報が流れ,物品
し,実際に SMILE Ⅲで行えるかどう
て数本で 1 枚のカードであったり,
の請求などが可能になる。これは新
か判断しなくてはならなかった。
1 本に 1 枚のカードが添付されている
物流システムや物品を意識せずして,
4)処置セットの標準化
場合がある。カードは2 色とし,物品
1)患者単位の原価管理
SMILE Ⅲに医師オーダや看護処置
看護師は多忙な業務の中で,現場
使用時に回収ボックスに入れるカー
がある 。しかし,これらの情報を入
で使用した物品をすべて入力しなけ
ドを「赤」,箱単位で供給した診療材
力し,利用するにはいくつかの問題
ればならない。処置に必要な物品数
料が使い終わるころに回収ボックス
点を解決しなくてはならない。
は膨大な数となり,規格が多種類に
に入れるカードを「青」とした。使
2)情報入力手段
もわたると,使用物品を選択するの
用時にそのカードを外し,回収ポケッ
にも時間がかかり,入力ミスが生じ
トに入れ,物品管理センター搬送ス
(PDA : Personal Digital Assistant),
ることも懸念された。そのため PC へ
タッフが毎日定時にポケット内の
または,ノート PC などの導入が検討
の入力を最少化し,すべての物品が
カードの回収を行う。物流システム
された。 PDA では, 医療従事者が
効率良く入力できるようなシステム
に登録後,当日中に医療現場に補充
ベットサイドにおいて検査結果など
づくりをめざした。
供給をする。
算定情報
処方オーダ
のくらいかかるのか。
オーダーカードには,バーコード
はこのカードが添付されて医療現場
1)
オーダエントリ
にあたり,イニシャルコストはど
2.オーダーカードによる
定数補充方式
○ バーコードを張る作業コストを考
物品の管理が行えるというメリット
モニタ受付
処方オーダ
○ それらの機械や設備をそろえるの
これらの問題が明確になり,
医療現場では, 携帯情報端末
の診療記録を参照しながら処置を行
例えば,「採血セット」を作成した
うことが困難なため,最終的に当院
際,セット内容は単純なように見え
「いつ,どこで,何を,いくつ」とい
で採用したのはノート PC であった。
るが,実際には患者を目前にして初
う情報の追跡ができ,未供給情報や
オーダーカード定数補充方式は,
IT
VISION
No.12 (2006)
21
に,これらのデータを表計算ソフト
⑤ 供給
① カード回収
病棟・手術室
ウエアで加工し,病院経営と医療安
備考
全を支援するためのデータとして利
CE 機器の所在地確認・使用中の機
器の点検時期や空き情報管理を可能
滅菌材料
払い出し
病棟名
指示票
払い出し 医療材料
病棟名
指示票
実施入力
術式別のコスト算出を可能にする
滅菌材料
(図 4)。
医療現場への物品供給方法(オーダーカード定数補充方式)
どの滅菌材料を
どの病棟へ配送するか
入力後
払い出し指示票出力
2)
手術オーダ
受付
5)
3)中央滅菌室の場合
図2
2)
術式別リスト
入力
にする。
③ ピッキング作業
手術オーダ受付
物流サーバ
(部門機能
サーバ)
2)CE 室
② PCへ登録
1)手術依頼オーダ入力を行う。
術前オーダ
依頼入力
用することができる。
④ 搬送
中央滅菌室
物品管理センター
1)
済
5. 医療現場での操作性と
コスト意識
済
3)
配送準備
4)搬送スタッフによる定時搬送
ケース
カート
3)払い出し指示票の指示に従い,医療材
料・滅菌材料とともにケースカートへ
配送準備を行う。
4)搬送スタッフにより,定時搬送時に手
術室へケースカートごと搬送される。
5)手術の実施入力により,実際に使用さ
れた物品の一覧情報が物流側へ流れる。
この情報により回収予定一覧リストが
作成される(中央滅菌室側)
。
医療材料
回収予定
リストに
則った回収
ケース
カート
配送準備
2)術式別リスト受け付けを行った物品管
理センター・中央滅菌室ではどの医療
材料・滅菌材料をどの手術室へ配送す
るかの入力を行い,払い出し指示票を
出力する。
滅菌材料
SMILE Ⅲの端末では供給部門への
定数外払い出し( 臨時物品)機能な
求関連情報などを入力し,その情報
すべてのオーダが一画面上から操作
ど, 管理上有用となる機能をオー
は病院情報システム室で SMILE Ⅲに
可能であり,SMILE Ⅲと新物流シス
ダーカード利用して,物流システム
反映される。実際に医療現場で物品
テムの操作方法が同じであることな
に情報を持たせることが可能となる
を使用し,SMILE Ⅲに処置入力を行
ど,より良い機能の充実をめざした。
( オペコード), 物品管理センター
また,医療現場のコスト意識を向
(物品コード),医事課(医事コード)
(図 2)。
うと,医事会計システムへ情報が伝達
図3
中央減菌室との手術オーダ連携運用
部門間連携システムでは,手術室
される。
上させるため, 画面上で物品の定
との共通コード化をめざしたが,最
3)経営支援システム
価・定数の確認・依頼物品の状況確
終的に共通化できず,各コード間の
SMILE Ⅲでは,医療現場で実施入
認・物品の存在部署などの情報を簡
紐づけをして運用している。
次週の手術予定情報が,前週の金
力された情報を新物流システムに取
易検索できるシステムづくりもめざ
曜日までに手術オーダ入力情報とし
り込み, 患者単位での注射材料( 薬
した。
て,物流サーバから中央滅菌室に伝
剤部)・手術材料(中央滅菌室)・処
達される。中央滅菌室ではその情報
置材料の一部を把握することができ
を基に,どの材料をどの手術室へ配
る。また,物流システムでの物品払
現在「オーダーカードによる定数
療科別や部署別のコストを割り出す
送するかを示す払い出し指示票を出
い出し情報を,部門別に集計するこ
補充方式」によって物品の供給・発
など,病院経営に重要なデータの抽
力し,手術前日までに払い出し指示
とも可能である。経営支援システム
注・納品・在庫管理・定数管理とい
出ができるようになった。
票に従い,材料を患者ごとにケース
では,この実施情報と払い出し情報
う新物流システムに関するすべての
また,オーダーカードに物品の価
まで追跡することにより精度の高い
カートに収納,手術当日に手術室へ
を毎月自動的に抽出し,部門別原価
情報を得られている。SMILE Ⅲでは
格が明記されているため,医療現場
データ取得が可能となる。物品の不具
ケースカートが搬送される。手術後
計算,患者別原価計算の材料費とし
「 いつ, どこで, 誰が, 何を, いく
ではコスト意識を持った物品の使用
合の際にもロット管理されていれば,
は実施入力により,回収予定一覧リ
て有効活用している。
3.部門間連携システムの構築
1)手術システム
ストが作成される。さらに術式別に
部門ごとのコスト管理では,院内
での医療材料の運用が円滑に行われ,
運用後の評価
つ」 というリアルタイム情報がメ
リットであったが,物品管理センター
適正数の在庫管理や随時棚卸しが可
能となった。そのデータを利用し,診
図4
術式コスト算出画面
今後の最重要課題である。製品ロット
「いつ,どこで,誰に,いくつ」とい
が心がけられている。
う情報が判明するので,早期回収が可
今後の課題
にとって「誰が」は最重要課題では
つ,どこで,何に(術式),何を,い
4.供給部門に役立つ
正確なデータ取得
なかった。しかし,この「誰が」は
医療業界においては製造から使用
行うためには,物品個々にバーコード
くつ」の情報収集が可能になる(図3)。
1)物品管理センター
完全に物流システムから排除された
までのトレーサビリティ(追跡管理・
をはるという時間と手間がかかる。次
コストが算出されることにより,「い
2)医事会計システム
能である。しかし,バーコード管理を
オーダーカード方式によって得ら
わけではなく,特定の診療材料と保
履歴管理)の必要性が生じており,医
期システム構築までに , G S 1 - 1 2 8
新規物品の登録が必要な場合,新
れた情報を基に,物品請求一覧表・
険適用材料については処置マスター
療業界で標準化したコードの登録お
( UCC/EAN -128)などの標準バー
物流システム内の基本情報( 物品名
納品記録・受け払い明細記録・定数
登録後,使用した際に必須入力する
よび公開,バーコード表示が医療安
コードが普及していなければ,個包
2)
称・規格)などは物品管理センターが
一覧表・日々の使用状況の把握・非
ようにし,経営支援システムとの連
全面からも重要となってきている 。
装単位においては,電子タグを利用
入力する。医事課スタッフは保険請
在庫品一覧表などを取得する。さら
携を図った。
当院でも,物品のバーコード管理が
した方法も考えなくてはならない。
22
IT
VISION
No.12 (2006)
●参考文献
1)秋山昌範 : 物品調達と電子カルテ──オンラ
イン発注を中心に. ITvision, 3, 19 ∼ 21, 2003.
2)厚生労働省医政局総務課医療安全推進室 : 医
療安全対策のための医療法施行規則一部改正に
ついて. http://www.mhlw.go.jp/topics/
bukyoku/isei/i-anzen/2/kaisei/
略歴
板井 明(いたい あきら)
1986 年聖路加国際病院
入職。 臨床検査技師を
経て 96 年から物品管理
センターに配属。2001
年に物品管理センター
チーフとなり, 現在に
至る。
IT
VISION
No.12 (2006)
23
発生する個人情報漏えい事件の収集
表2
や関連情報の紹介を行っているニュー
個人情報の漏えいは,「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」の施
1
(http://www.security-next.com/)
」に
個人情報保護は,万全の対応が求められるものであり,経営に直結する課題と
言っても過言でないだろう。本特集では,個人情報保護法施行後の発生した医
全国で発生した医療機関,および医
療機関の情報漏えいから,その原因と対策を考える。また,職員教育に IT を活
用した事例を報告するとともに,今後,医療機関の取得が増えることが予想さ
い事件は,2006 年 8 月 21 日現在,48 件
れるプライバシーマーク制度についても取り上げる。
――“インシデント”のうちに適切な対策を
どう防ぐ? 「個人情報漏えい」事故
秋元 聡
スガイアの関連サイト「Security Next
行から時間が経過した現在でも,Winny による個人情報の流出などが話題にな
るなど後を絶たない。“信頼”という言葉が重視される医療機関においても,
個人情報保護法施行後の医療機関の対応状況
漏えいした人数
府省名
件数
500人
以下
よれば,法施行の 2005 年 4 月以降に
金融庁
110
130
33
8
0
0
0
0
総務省
104
81
9
6
1
7
法務省
3
3
0
0
0
0
である(図 1)。病院や製薬会社 MR に
外務省
1
1
0
0
0
0
よる漏えい事件の発生が主で,事故
財務省
6
4
0
2
0
0
発生に至る状況や原因が近似してい
文部科学省
13
8
3
2
0
0
るという特徴を有している。
厚生労働省
69
38
20
11
0
0
農林水産省
89
72
12
2
0
3
経済産業省
610
527
64
17
2
0
国土交通省
204
180
19
4
療従事者の個人情報に関連した漏え
具体的には「パソコンや記録媒体
の盗難・紛失(23 件)」と「車上荒ら
合計
1556
(重複分除く) (100.0%)
流出(7 件)」が目立つ。これらの事
る。それとほぼ同数なのが金融庁で
れないため,発生の事実さえ伝わら
官庁である金融庁から小さな事故で
あるが, 漏えいした人数( 個人情報
ないということも言えるであろう。し
個人情報保護法が施行されて,す
あっても必ず報告するよう,行政通
数)は比較にならないほど多い。マイ
かし,これだけ同類のケースが多発
でに 1 年半が経過しようとしている。
達が発せられている。つまり,法施
クロフィルムの紛失など,一つの情
していることを考えると,これらの
施行前後はマスコミをはじめ,国中
行以前までは「事故が発生しても報
報源に多くの個人情報が含まれてい
発生要因は医療に共通の“弱点”で
が大騒ぎになった感のあった同法。は
告されていなかった」ということで
るのは,金融機関の特徴である。な
もあり,近い将来に大きな事故につ
たして「一段落した」と言ってもい
ある。言葉を換えれば,水面下にあっ
お,法施行前年の 2004 年は,金融庁
ながる可能性は高いと言わざるを得
いのであろうか。本稿では医療機関
たケースが露出したにすぎない。表 2
では 122 件( 5 万 1 人以上の情報漏え
ない。次項ではこれら事故・事件を
で発生し続けている個人情報漏えい
を見ると最も事故が多発しているの
いは 1 件), 経済産業省では 220 件
解説するとともに,医療機関におけ
事件を振り返りながら,特に IT 関連
は経済産業省であるが,これは一般
業務におけるリスクマネジメントの
企業や株式会社の監督官庁であるた
2 つ目は「同種・同様の事故が繰り
あり方について考えてみたい。
め,発生件数の多いことは理解でき
返し発生していること」である。日々
まず結論から述べておこう。個人
る個人情報保護対策について分析し
個人情報漏えいの年度別推移
2003 年
2004 年
2005 年
57 件
366 件
1032 件
155 万 4592 人
1043 万 5061 人
881 万 4735 人
損害賠償額(想定)
280 億 6936 万円
4666 億 9250 万円
7001 億 7852 万円
発生件数が約 2.8 倍となったが,この
漏洩原因(第 1 位)
誤操作 19.3
盗難 36.1
紛失・置忘れ 42.1
変化には 2 つの理由が考えられる。
漏洩原因(第 2 位)
設定ミス 15.8
紛失・置忘れ 21.6
盗難 25.8
漏洩原因(第 3 位)
管理ミス 12.3
誤操作 10.7
誤操作 12.4
情報保護法の施行後,情報漏えいに
年
件数
関連する事故は大きく増加している。
法施行前後の件数推移などは,表 1 を
ご覧いただきたい。2005 年には事故
1 つ目は「事故の報告が徹底される
ようになったこと」である。特に銀
24
IT
VISION
No.12 (2006)
被害者数
出所: NPO 日本ネットワークセキュリティ協会報告
てみたい。
医療機関と個人情報保護
1
1114
220
167
(71.6%) (14.1%) (10.7%)
37
(2.4%)
0
18
(1.2%)
(注)1.漏えい事案には,「漏えい」のほか,「減失」,「き損」の事案を含む
2.漏えいした人数とは,漏えいした個人情報によって識別される個人の数をいう。
「Winny によるインターネット上への
行や保険会社などについては,監督
表1
不明
1
4.2%
(7)
4.2%
(7)
ページや地方新聞紙上にしか掲載さ
法施行後の状況
5万1人
以上
326
を除いて製薬会社である)」,および
(同 6 件)であった。
5001∼
5万人
1
国家公安委員会
故・事件については,一部のホーム
はじめに
501∼
5000人
607
しによるパソコンの盗難(12 件。1 件
株式会社日本医療事務センター医療事業推進部
監督官庁別個人情報漏えい事件の状況
出所:国民生活審議会個人情報保護部会「平成 17 年度個人情報の保護に関する法律施行状況の
概要」
14.6%
(7)
50.0%
(24 うち,PC盗難が21件)
27.1%
(13 うち,PC紛失が7件)
盗難
図1
紛失
Winny流出
無断持ち出し
その他
医療機関における個人情報漏えいの原因
本文とは一部分類が異なる。
出所:ニュースガイア「Security Next」
えて, ほかの 2 つの産業と異なる点
【ケース 1】
2006 年 4 月,K 大学病院の職員宅
に空き巣が侵入し,パソコンが盗
まれるという事件が発生。この私
用パソコンには学会発表のために,
248 名分の患者データが保存され
ていた。
医療機関は金融・情報産業ととも
は,「情報の形態が統一されていない
に,個人情報保護の「三大重点産業」
(電子データ,紙,フィルムなどさま
とされている。そのため,法成立前
ざまである)」,「いつ,誰が取り扱う
の検討段階では個別法策定が議論さ
のか不明である( 特定の担当者はな
れていたほどである。最終的には厚
く,誰もが情報を必要とする)」など
生労働省によるガイドライン提示とい
も挙げられる。これらの特徴を踏ま
う形で落ち着いたものの,運用・対応
えた上で,対応策を講じなければな
ケース1 は,パソコンが盗難に遭っ
の難しさはご承知のとおりである。
らない。以下,医療機関に求められ
た例である。 保存されていた患者
る対応について,実際に発生した事
データは,氏名・生年月日・患者 ID
故事例を基に解説したいと思う。
など。事例発生後に同院ではホーム
医療の特徴は,取り扱う情報がセ
ンシティブ(機微的)であることに加
IT
VISION
No.12 (2006)
25
ページに謝罪文を掲載し,再発防止
定」の整備がある。完全に禁止する
を誓っている。このケースにおける
のか,あるいは持ち出す場合に何ら
問題点と改善策は何であったか。
かの匿名化処理を加えるなどをルー
盗難のように外部の第三者による
記載されている利用目的については
問題点は大きく 2 つに分かれる。
ルとして確立しなければならない。次
悪意を持った行為,あるいは紛失に
職員に理解されていなければならな
1 点目は「個人所有のパソコンに患者
に「医療機関内での作業・研究を保
代表される不注意やヒューマンエ
いだろう。
データが保存されていたこと」であ
証する」ことも大切である。共有の
ラーは,防止するための対応策があ
る。医療機関のルールにもよるが,患
PC を設置すること,就業時間外でも
る程度まで構築可能である。しかし,
て,チェックする方法がないこと」で
者データの外部持ち出しは禁止,も
作業ができる場所の確保( 図書室な
内部にいるスタッフの意識を高めな
ある。この問題は医療機関であれば,
しくは許可制というのが現在の主流
ど)が重要なポイントとなる。さらに
ければ,せっかく対策を講じても無
どの施設でも同じ悩みを抱えている
になっている。しかし,このような
盗難防止措置が講じられれば,セキュ
駄になることが多い。これについて
はずである。医師に限らず,誰でも
ケースは後を絶たない。その背景に
リティの質はアップする。盗難事例
も実例で示してみたい。
患者情報を閲覧することが可能であ
は「(職場では)作業の時間が確保で
の中には「パソコンの固定ベルトご
きない」,「PC 端末台数が足りない」
と盗まれた」というケースが1 件あっ
といった原因が考えられる。医師不
たものの,やはり防止措置は大切な
足や看護師不足が叫ばれる昨今,研
事項である。 個人所有の PC を含め
究や学会準備などの「医療人として
て,医療機関内に置かれているノー
の資質向上(=人材育成)」に理解を
ト PC の使用者全員に固定ベルトを貸
示さない医療機関は,そのあり方自
与している医療機関もあり,個人情
体が問題であると言ってもいいだろ
報保護徹底の度合いがうかがえる。
う。外部にデータを持ち出さざるを
匿名化の対応に関しては,前述の暗
ケース2 は診療所を開設する予定の
個人情報にかかわる意識を高める
得ないというリスクは,実は個人の
号化ソフトが最も効果的であろう。個
医師が,患者情報を本来の目的以外
には,その重要性が認識され,一人
問題ではなく,そのような環境こそ
人が特定できないようデータの一部
の用途で使用した事例である。この
ひとりの行動レベルが変化するよう
問われなければならない。
を削除・加工するという方法も考え
ケースでは,患者から苦情があった
な研修を継続して実施することが必
2 点目は「患者データが匿名化され
られるが,人間心理の側面から見て
ため発覚したが,おそらく同様の事
要となる。
ていなかったこと」である。医療機
も,余計な手順を設定することは得
態は全国各地で発生しているのでは
個々の意識が変わったか,あるい
関がデータの持ち出しを許可してい
策ではない。また,個人所有の PC 上
ないだろうか。患者の苦情や問い合
は行動が変わったかを検証するため
これまで述べたように,個人情報
クマネジメント」である。日々の実
たとしても,個人の特定ができない
にデータを保存しないように,暗号
わせによって表面化するか,しない
には,「個人情報サーベランス」が欠
漏えいに関する事故は決して減って
践が積み重なることによって,初め
ようにされていなければならない。最
化された電子媒体(USB メモリなど)
かの違いだけであり,それほど患者
かせない。定期的に院内を巡視して
はいない。パソコンや電子媒体の盗
て適切な運用とルールを遵守する組
近ではデータの暗号化ソフトも広く
でデータを管理したまま活用すると
情報は「誰にでもアクセス可能な(無
個人情報がどのように扱われている
難・紛失が多発しているため,むし
織風土が生まれる。法律を守るとい
活用されており,組織として導入す
いう方法も考えられる。
防備な)状態」 に置かれているので
かを点検すること,併せて不適切な
ろ漏えい被害者は増加していると
う意識だけでなく,「患者の権利と財
ある。
扱いを題材にした OJT についても工
言ってもいいだろう(図 2)。情報は漏
産を守る」という認識を持って,取
り組んでいただきたいと思う。
ることが望まれる。PC そのものにパ
いずれの対応策においても,二重,
個人の意識を高める工夫
【ケース 2】
2005 年 10 月, T 大学病院で個人
情報の目的外使用が判明。同院を
退職した医師が診療所の開設案内
を送付する際に,患者名簿が利用
されていた。案内状は 244 通送付
されており,患者からの苦情で明
らかになった。
関などで患者に対しての掲示が行わ
れており,少なくともその掲示物に
16.7%
(8)
8.3%
(4)
31.3%
(15)
もう1 点は「患者情報の使用につい
50件未満
1000∼5000件未満
り,なおかつ報告義務は課されてい
ない。ケース 2 の事例にあるとおり,
8.3%
(4)
6.3%
(3)
図2
50∼100件未満
5000件以上
の情報にアクセスしたかを知ること
はきわめて困難なのである。そのた
これらの取り組みを第一歩にしな
昨年 4 月に個人情報保護法が施行さ
め目的外使用に該当していないかどう
がら,「情報が存在していることを確
れた時は,多くの医療機関で個人情
かを検証するには「個々人の人間性・
認する」,「 個人情報として認識す
報に関連する委員会組織がつくられ,
モラルに頼る」形となってしまう。
る」,「 取り扱いが適切か評価する」
対応策が検討されていた。その後委
という一連の対応が可能になるよう,
員会の開催が不定期になる,あるい
各ステップで工夫された研修が必要
は組織自体がなくなるという例も散
であると考えられる。
見される。本年 4 月に新入職員が入職
インシデントの段階で
適切な対応を
夫をしていただきたい。院内の個人
えいしたものの,そのことによる直
は,かなり定着しているようである。
ことが大切であると同時に,「決めら
目は「個人情報の使用目的が浸透し
情報を写真に撮り,改善前後の様子
接的被害が発生していないという状
車上荒らしをはじめとして,PC の盗
れたルールは遵守する」という組織
ていなかったこと」であろう。研修
を材料にした教育も効果的である。
態である。大きな事故・事件につな
難は全国で発生しているが,製薬会
風土の構築を行っていただきたい。
は実施されていただろうし,マニュ
巡視については,医療安全(リスクマ
がる前に適切な対策を講じ,インシ
社の PC 盗難事例はその全件がパス
「コンプライアンス(法令遵守)」は
アルも配布されていたであろう。し
ネジメント)を目的に,多くの医療機
デントの段階で「芽を摘む」ことが
ワードによって保護されていた。万
現在,企業の大きな価値になってい
かし,「実施した」ということが,即
関ですでに取り組まれている。その
大切なのだ。その意味で,考え方は
全とは言えないかもしれないが,セ
る。 これは医療機関も同様であり,
「浸透した」ということにはならない。
応用を個人情報をターゲットに実施
「医療安全(事故防止)」の取り組み
キュリティ対策が行われていたとい
医療法をはじめとする各種法令に基
前述のとおり,運用や対応が難しい
することから始めたい。院内の至る
と同じである。医療安全活動が患者
うのは不幸中の幸いである。
づいた運営は,組織にとって不可欠
からこそ,研修やマニュアルの効果
ところに個人情報の存在しているこ
をアクシデントから守るための実践
な事項であることを全員が認識しな
や理解度は,適切に測定することが
とがわかると同時に,その適否と対
であるのと同様に,個人情報保護は
ければならない。
必要とされるのだ。ほとんどすべて
応についても考えることができると
患者の権利や財産を守ることが目的
の医療機関では,待合いホールや玄
思われる。
なのである。
26
IT
VISION
No.12 (2006)
しているにもかかわらず,研修を実
施していない医療機関も少なくない。
個人情報保護の取り組みは「リス
では問題点を確認してみたい。1 点
人データの外部持ち出しにおける規
500∼1000件未満
個人情報漏えい事故に伴う情報流出件数
三重のセーフティネットを準備する
ず1 点目の問題を解決するために「個
100∼500件未満
不明
どのような目的を持って,誰が何件
スワードなどでロックをかける方法
対応策はいくつか想定できるが,ま
22.9%
(11)
6.3%
(3)
略歴
秋元 聡(あきもと さとし)
株式会社日本医療事務
センター医療事業推進
部所属。 社団法人日本
医業経営コンサルタン
ト協会認定コンサルタ
ント。病院勤務を経て,
医療機関の経営支援や
運営・業務改善のコン
サルティング業務に従
事。著書に「医療機関のためのマンガでわか
る「個人情報保護法」対策(1,2)」,「在宅
療養支援診療所運営ハンドブック」(いずれ
も日本医療企画)がある。
IT
VISION
No.12 (2006)
27
2
病院職員に向けた
IT 化によるセキュリティ対策
宮原 勅治
神戸市立中央市民病院医療情報部・医療情報研究チーム チームリーダー
図 2 第 25 回日本医療情報学連合大会の展示
e-ラーニング病院情報
セキュリティ教材の開発
ニング形式の教育方法」を考えた。
1 時間といった,まとまった時間をと
ところが当時,病院の情報セキュ
ることが難しい。特に医師にはきち
リティに関するe-ラーニング教材は発
んとした休憩時間すらない。受講し
個人情報保護法が施行されて1 年半
売されておらず,一般企業向けの教
ようとしても,すぐ呼ばれて席を立
が経過した。その経過中,過熱気味
材を流用することも検討した。しか
たなくてはならないことがしばしば
に多くのセキュリティ対策に関する
し,「 患者情報」 というきわめてセ
起こる。こうした状況に対応できる
話題が取り上げられ,それはやがて
キュリティレベルの高い情報を扱う
教材でなければ,せっかく開発して
沈静化してきた。しかし,その経過
病院職員にとって,それらが最適と
も使用されない。また,教材の構成
中も,患者情報の漏えい事件は相変
は言い難かった。どの教材の分量も
わらず続いており,それに対する患
教材の制作エピソード
教材の e-ラーニングコンテンツは,
教材の展示と販売
使ってみてストレスがなかった。教
ビデオ画像も含め,すべて自前で制
材のコンテンツのボリュームは,わ
作した。ビデオ撮影現場でわかった
ずか 25 問のクイズと解説だが,中身
ことだが,当院の医療情報技師チー
はきちんとしている。あえてこの分
おけば,何とか最後までたどり着く。
ムのメンバーの中には色々な技能を
量にしたところがミソである。結構
が冗長だと,途中で止められてしま
一方,女性医師や看護師は比較的まじ
持っている者がいる。ビデオ撮影は
良いものができたと思った。そこで,
多かった。そこで,医療従事者自ら
う。つまり,コンパクトでなければ
めなので,そのようなワザは必要ない。
自前でカメラを回した。ライブハウ
第 25 回日本医療情報学連合大会
者情報漏えいの想定損害賠償額も上
が制作する「病院職員用に特化した
ならないのだ。こうした医師やほか
教材用にトピックスとして取り上
スでのミキサー経験のある者が音声
(2005 年 11 月)にブースを出して展示
昇を続けている。2005 年の NPO 日本
e-ラーニング情報セキュリティ教育教
の医療従事者の性格,特性,生態を
げた項目は,いずれも情報セキュリ
を拾い,レフ板を使った照明や,モ
した(図 2)。一般企業に混じっての公
ネットワークセキュリティ協会によ
材」の開発プロジェクトを立ち上げ
知り尽くした上で教材を開発する必
ティの国際標準を満たすことを念頭
ニター画面にカンペを映しながら,音
立病院のブース展示は珍しく,多く
る試算では,病名病歴の含まれるも
た。プロジェクトを担当したメンバー
要がある。今回開発した教材は,確
に置き,ISMS(infomation Security
楽事務所でのステージマネージャー
の人の目を引いた。 展示会場では,
のは一人あたり 90 万 9000 円とされて
は,日本医療情報学会の認定する医
かにそうした点で条件が満たされて
(注 1)ver.2 に
Management System)
経験のあるメンバーがキューを出し
この教育教材を多くの施設にお勧め
いる。ここまで来ると,もはや情報
療情報技師 14 名のチームだった。
いる。なぜなら制作プロジェクトメ
準拠させ,それを医療に特化した身
ていた。
したが,その中には,「情報セキュリ
ンバーの 14 名は,いずれも医師をは
近な内容として,クイズ形式につく
じめとした医療従事者そのものだか
り上げた。作成した問題数は約 250 題
らだ。つまり,ユーザーが開発者なの
に及んだが,その中から 25 トピック
驚いたことに,最も受講しないで
に職員教育はしていない」という,意
セキュリティを経営戦略としてとら
え,戦略的防衛を行う必要が生じて
e -ラーニング教材開発における
留意点
くる。ネットワーク技術を駆使した
図 1 e-ラーニング病院情報セキュ
リティ教材のチラシ( 上)と
CD(右)
実際に職員教育に使ってみた
ティについては,情報管理センター
にお任せしているので大丈夫です。特
で,教材として使用されるための基本
スを厳選し,受講に必要な時間を1 時
あろうと予測していた医師の受講率
識の低い反応もあった。 情報管理セ
必要性は容易に理解できるが,職員
に留意した。
的な条件は,十分考慮することができ
間以内になるように想定した。それ
が,半年間で約 65 %に達した。しか
ンターにお任せして,いったい何をす
教育としての情報セキュリティ教育
○ いつでも受講できる。
たものと思う。
以上の受講時間が必要となると,最
し,その内訳では,研修医の受講率
るというのだろう? IEEE 802.1x
を実践・継続するには,その具体的
○ 細切れの時間でも受講できる。
次に,教材の内容であるが,クイ
初から受講する気にならないだろう
は 10 %に満たなかった。一方,正規
の検疫ネットワークは組めるかもし
な方法がとりにくい。
○ 受講した日時が記録される。
ズ形式にすると,コンパクトで結果
という受講者の性格,生態からの判
スタッフの医師は,85 %が受講した
れない。しかし,それで安心してい
○ 内容を医療に特化し,国際基準を
が見えやすい。特に,医師に対して
断である。ちょうどうまい具合に,こ
ことになる。この乖離した原因は分
るわけにはいかないことを,この教
は,少し挑戦的な問題や,ちょっと
の 25 トピックスで,病院職員が知っ
析できていないが,筆者の推測では,
材は物語っている。
レベルの高いものをちりばめると,結
ておくべき事項は一通り網羅できた
病院に対する帰属意識,つまり,
「自
ように思う。
分たちの病院を守る」という意識が,
情報セキュリティ対策を行うことの
約 2000 人の職員を擁する当院の場
合,講習会形式での一堂に集めた情
報セキュリティ教育は,現実的に実
教材開発にあたっては,次のこと
満たす。
○ 職務ごとのセキュリティレベルに
施が難しい。 200 人収容の会議室を
教材を対応させる。
構喰いついてくる。この教材にはそ
使っても最低 10 回の開催が必要であ
○ 受講意欲をそそる。
うした要素も含ませてある。解答を
これらの作業は,プロジェクトマネ
研修医(当院の研修医は 2 年間の期間
り,また,24 時間体制で勤務する職
医療スタッフ,特に最も受講して
間違えると,悔しい思いで解説を読
ジメントの国際資格を持つリーダーの
限定採用)には最初から欠如している
員の時間調整を行うことも現実的で
ほしい対象は医師である。最も患者
むのだが, 解説文が 3 行以上になる
統括のもとで進められ,メーリングリ
のかもしれない。しかし,ここに厳
はない。そこで,院内に張り巡らせ
情報漏えいのリスクが高いのは医師
と,面倒くさがって読まない可能性
ストを最大限に利用し,わずか 2 か月
然とリスクが存在することも明らか
てある診療系のネットワーク端末を利
であるということがわかっているか
がある。そこで,女性タレントが解
というスピードで開発された(図 1)。
となり, 今後対策の必要な部分で
用して,いつでも受講できる「e-ラー
らだ。医師には受講するための30 分,
説するビデオを制作した。こうして
注 1 : JIS Q 27001(ISO/IEC27001)に移行。
ある。
28
IT
VISION
No.12 (2006)
略歴
宮原勅治(みやはら ときはる)
1993 年京都大学大学院
修了。医学博士。同大
学第一外科・同大学大
学院腫瘍外科助手を経
て,2000 年から神戸市
立中央市民病院外科医
長。 食道がんを専門と
する。2002 年から医療
情報部兼務。現在,医
療情報技師 21 名のチームを率いている。
IT
VISION
No.12 (2006)
29
3
プライバシーマーク制度を活用した
個人情報保護
相澤 直行
Act
代表者による見直し
財団法人医療情報システム開発センタープライバシーマーク付与認定審査室室長
Check
DECD8原則
日本情報処理開発協会(JIPDEC)が
は一般産業分野に比べより注意が必
あたり,指定機関は現在 11 団体が指
要となる。 そこで, 2002 年 10 月に
プライバシーマーク制度は,JIS Q
定されている。P マークの審査を希望
JIPDEC は(財)医療情報システム開
15001 に則った適切な個人情報保護措
する事業者は,その業態および所在
発センター(MEDIS-DC)と共同で,
置を講ずる体制を整備している事業
地により審査機関(申請先)が異なる
保健医療分野(福祉分野も含む)の事
者を対象に審査を行い,合格した事
ので注意が必要である。指定機関に
業者が P マークを取得する場合のガ
業者には, その旨を示すプライバ
ついては, http://privacymark.jp/
イドラインとなる「医療機関の認定
(図 1)が付与
シーマーク(P マーク)
list/dlist.html を参照されたい。
指針」を作成した。この認定指針を
され,事業活動に関して P マークの使
用を認める第三者認証制度である。
保健医療分野の P マーク制度とは
計画・ルール
教育および運用
図2
Plan
個人情報保護
監査
プライバシーマーク制度とは
個人情報保護方針
Do
PDCA サイクルによる保護水準の維持・向上
適用範囲とする保健・医療・福祉に
(Check : C),不都合な部分があれ
関する事業を行う事業者を対象とす
ば見直す(Act : A)という一連の流
及び対応に関する規定
f)個人情報の取得,利用及び提供に
監査を含めたマネジメントシステム
として定義されている点が法律と大
P マーク制度の運営は,P マークの
保健医療分野のP マーク制度は,基
る場合に, 特に「 保健医療分野の P
れを繰り返すことにより,保護水準
商標権を持ち,P マークの付与を行う
本的に一般事業者の P マーク制度と
マーク制度」と呼び,一般事業者の
の維持・向上をめざすシステムであ
g)個人情報の適正管理に関する規定
り個人情報保護法を完全にカバーす
機関である「付与機関」と付与機関
同様である。しかし,保健医療分野
制度と区別している。保健医療分野
る(図 2)。
h)本人からの開示等の求めに関する
ることが可能である。
が指定した付与認定審査だけを行う
においては,保健医療情報という非
における P マークの付与認定審査は,
機関である「指定機関」の2 つの機関
常に機微な情報を主として扱うこと
MEDIS-DC が 2003 年 7 月から実施し
はなく,個人情報保護のための唯一
i)教育に関する規定
により維持される。付与機関は(財)
から,個人情報の取り扱いについて
ている。 本制度の詳細については,
のマネジメントシステムである。医
j )個人情報保護マネジメントシステ
http://privacy.medis.jp を参照され
療機関などに個人情報保護の体制を
たい。
根づかせるには,本規格のようなマ
う。① 収集制限の原則,② データ内
容の原則,③ 目的明確化の原則,④
⑥ 公開の原則,⑦ 個人参加の原則,
たことから,2006 年 10 月に「保健医
個人情報マネジメントシステム文書
m)是正処置及び予防措置に関する
⑧ 責任の原則。
下,JIS)」と言い,1999 年に日本工
No.12 (2006)
イン」 で示した次の 8 つの原則を言
l)点検に関する規定
マネジメントシステム─要求事項(以
VISION
人データの国際流通に関するガイドラ
が望まれる。以下に,JIS が要求する
JIS Q 15001 とは「個人情報保護
IT
k)苦情及び相談への対応に関する
が公にした「 プライバシー保護と個
いては,2006 年 5 月に JIS が改定され
JIS Q 15001 とは
30
ム文書の管理に関する規定
注 1 :OECD の 8 原則とは 1980 年に OECD
ネジメントシステムを導入すること
定指針」として改定を予定している。
プライバシーマーク
規定
きく異なる。JIS に対応することによ
なお,「医療機関の認定指針」につ
療福祉分野のプライバシーマーク認
図1
本規格は,単なるガイドラインで
関する規定
(内部規定)の例を示す(原文)
。
a)個人情報を特定する手順に関する
規定
b)法令,国が定める指針その他の規
範の特定,参照及び維持に関する
規定
c)個人情報に関するリスクの認識,
規定
規定
n)代表者の見直しに関する規定
o )内部規程の違反に関する罰則の
規定
個人情報保護法と JIS
利用制限の原則,⑤ 安全保護の原則,
申請から付与までの流れ
P マークを申請するためには,「体
制の整備」→「マネジメントシステ
ム文書(内部規定)の制定」→「計
画の策定」→「マネジメントシステ
JIS は,個人情報保護法と同様に経
ム文書に基づく運用」→「監査」→
業規格として制定された(2006 年 5 月
分析及び対策の手順に関する規定
済協力開発機構( OECD)の 8 原則
「代表者による見直し」の手順を経る
に改定)個人情報保護を実践するため
d)事業者の各部門及び階層における
(注 1)を満たすことを目的として構成
必要がある。すなわち,マネジメン
のマネジメントシステムである。マ
個人情報を保護するための権限及
されているが,単なる基準を示した
トシステムとしての P, D, C, A
ネジメントシステムとは, 計画を
び責任に関する規定
だけでなく,個人情報保護の考え方
のサイクルが一巡することが必要と
立て( Plan : P), 教育・実行を行
e)緊急事態(個人情報が漏えい,滅
を関係者に浸透させ,適切な運用を
なる。以下に PDCA サイクルが一巡
い( D o : D ), 運 用 状 況 を 監 査 し
失又はき損をした場合)への準備
継続的に実施できるように,計画や
したことを前提として,申請から付
IT
VISION
No.12 (2006)
31
与までの流れを示す(図 3)。
MEDIS-DC 内に設置された審査委員
の配慮の2 つの観点が必要である。安
1)①∼③ 申請書の送付から書類審査
会に付議し,合否の判定を行う。
全管理については,保健医療分野の
4)⑥ 合格書の発行
事業者も一般の事業者も取り扱いに
MEDIS-DC に申請書を提出する。
MEDIS-DC では申請書類のチェック
合否の判定を申請者に通知すると
大きな違いはない。しかし,プライ
(%)
100
(計36)
(計30)
90
6
6
を行い,不備がなければ申請書を受
ともに,合格と判定された事業者に
バシーへの配慮は,保健医療分野の
80
理し,書類審査を行う。
は MEDIS-DC から合格証が発行さ
事業者にとって一般の事業者より一
70
2)④現地調査
れる。
層の注意が必要であることは取り扱
5)⑦∼⑨ P マークの使用契約から
う情報の重要度からも当然のことと
MEDIS-DC の審査員(原則 2 名)が
公表(JIPDEC との手続き)
現地にうかがい,現地調査を実施す
関である JIPDEC に合否を通知する。
結するが, プライバシーの配慮を
30
現場確認などを半日から 1 日で行う。
JIPDEC では MEDIS-DC からの通知
怠っても直接事故にはつながらない。
20
現地調査により不備な点があれば,
を受け,P マークの使用許諾契約を申
しかし,プライバシーの配慮は,患
指摘事項を文書化し,申請者に送付
請者と締結するとともに,認定の公
者や利用者の心証に大きく影響する。
ビュー,規程および運用記録の確認,
する。指摘事項を受け取った申請者
表を行う。
は,3 か月以内に改善を行い,改善結
する。
すべての改善が終わった後,
医科歯科診療業
検診事業
情報処理サービス業
社会保険・介護事業
薬局業
その他
18
3
16
10
15
1
4
8
3
3
1
2
4
2
1
2005年1∼6月
2005年7∼12月
2006年1∼6月
2006年7,8月
3
0
シーの配慮への取り組みから,組織
図4
の安全管理の取り組み程度を計る尺
個人情報保護には,個人情報を安
健医療分野では,安全管理と同様に
全に管理することとプライバシーへ
プライバシーの配慮も個人情報保護
①
申請書の送付
②
受理審査
③
書類審査
④
現地調査
改善結果の報告
不備
業種別認定比率の推移
指摘事項の通知
⑤
不合格
審査委員会
合格証の発行
⑥
における重要な取り組みの一つであ
人情報を取り扱っているという意識
しく, 2006 年 1 ∼ 6 月は前年比の
を果たす必要性から,データ処理や
ると言える。ただし,プライバシー
の低下を招き,不注意から漏えい事
2倍の伸びを示している(図 4)。また,
検診業務などの個人情報の取り扱い
の過度の配慮は事故につながる可能
故を起こしかねない。しかし,P マー
2005年1 月∼ 2006 年 6 月までの半年ご
を委託される側の事業者の関心が高
性もあることにも注意が必要である。
ク取得の取り組みによる体制整備や
との業種別認定比率の推移を見ると,
かったが,最近は,医療機関や介護
例えば,患者の名前を呼ばないこと
教育・監査の実施により,職員の意
当初は情報処理サービス業(レセプト
施設などの直接患者や利用者の個人
で患者の取り違えが発生しては本末
識の活性化がなされ,職員の業務に
のデータパンチ,電子カルテシステ
情報を取り扱う事業者の P マークに
転倒である。本来サービスを低下さ
対する倫理意識が向上すること,さ
ムの開発・保守など)が認定件数の半
対する関心が高まっている。このこ
せないことを第一義としたプライバ
らに,外部から個人情報保護体制を
数近くを占めていたが,2005 年の後
とは P マーク制度が, 外部からの信
シーへの配慮を前提とすべきである。
明確に説明することが可能となるの
半から,検診事業者と医療機関の申
頼だけでなく,職員の意識改革やモ
で,患者・利用者からだけでなく委
請件数が増大し,2006 年の前半には,
ラルの向上に役立つことに医療機関
託元(健診の委託など)からも信頼を
情報処理サービス業とほぼ同じ比率
などが認識し始めたからではないだ
P マークの現地調査では,冒頭に代
得られること,これらを2 つを大きな
となっている。その中で特に医療機
ろうか。今後は,ますます医療機関
表者(理事長,病院長など)へのイ
メリットとして代表者は実感してい
関の伸びが著しく, 件数ベースで
と介護事業者の申請が増加すると期
ンタビューを実施している。その際
るようだ。
2005 年に比べ 3 倍近くの伸びを示し
待される。
P マーク取得の効果
判定
改善
不合格の通知
に, ほとんどの代表者が P マークの
取得(P マーク申請までの体制整備の
⑦
図3
IT
9
度となる場合がある。したがって,保
3)⑤ 審査委員会
32
10
患者や利用者から見ると,プライバ
保健医療分野の個人情報保護と
プライバシー
果を報告書として MEDIS-DC に送付
7
8
50
言える。
40
MEDIS-DC から P マークの付与機
(計15)
16
60
安全管理を怠ることは,事故に直
る。現地調査は,代表者へのインタ
(計61)
VISION
Pマーク使用契約
⑧
使用許諾証交付
⑨
認定の公表
申請から付与までの流れ
No.12 (2006)
医療機関の関心が高まる
ている(図 4)。また,図 4 の右端に示
す直近の 2006 年 7 月,8 月の 2 か月の
P マーク認定事業者の数は,2006 年
データ見ると,2 か月分のデータであ
して以下の 2 つを挙げる。
9 月の時点で約 5300 事業者となって
ることから認定件数は 15 件と少ない
○ 職員の意識改革に役立つこと
いる。 そのうち保健医療分野の P
が,医療機関の比率が5 割近くとなっ
○ 外部からの信頼を得られること
マーク認定事業者は 154 事業者(申請
ている。
プロセスを含む)によるメリットと
受付件数は合計 235 件)で, 全体の
これらのことから,保健医療分野
業務に対する意識のマンネリ化は避
3 %にすぎない。しかし,保健医療分
の P マーク認定事業者は増加傾向に
けられず,非常に大切な利用者の個
野の P マーク取得事業者の伸びは著
あること,さらに,当初は説明責任
長く同じ業務にかかわっていると,
略歴
相澤直行(あいざわ なおゆき)
1993 年日本大学大学院
理工学研究科精密機械
工学専攻修了・修士
(工学)
。2005 年から現
職。
IT
VISION
No.12 (2006)
33