解説≫ “Last week he hurled the local blacksmith over a parapet into

≪解説≫
投 げ る
鍛
冶
屋
欄
干
“Last week he hurled the local blacksmith over a parapet into
流
れ
a stream, and it was only by paying over all the money which I
集 め る
一
緒
に
そむける
別な(新たな)
could gather together that I was able to avert another
公
の
露 出 、 露 見
public exposure.
ジプシー(放浪者)
He had no friends at all save the wandering g y p s i e s , and he
放
浪
者
残る、残留する
露 営 す る
would give these vagabonds l e a v e to encamp upon the few
野
ば
ら
表す、代表する
acres of bramble -covered land which represent the family
その
代 償 に
歓
迎
estate, and would accept in return the hospitality of their
テ ン ト
う
ろ
つ
く
tents, wandering away with them sometimes for weeks on end.
熱
情
He has a passion also for Indian animals, which are sent over
連
絡
者
to him by a correspondent , and he has at this moment a
チ ー タ ー
ヒ
ヒ
自 由 に
土
地
主
人
欄
干
cheetah and a baboon, which wander freely over his grounds
and are feared by the villagers almost as much as their master.
投 げ る
鍛
冶
屋
“Last week he hurled the local blacksmith over a parapet
流
れ
into a stream,
“last week” は ‟先週の事“、特に問題はないですよね。
“local” は “その土地の“、つまり ‟ストウクモランの” です。
“blacksmith” は “鍛冶屋“ です。近年では、『森の鍛冶屋』 という
唱歌も、教科書から姿を消したとか。”鍛冶屋” と聞いても何のことやら
分からない読者もいらっしゃると思います。鉄製の農耕具を作る人たち、
とお考えください。
さて、ちょっと寄り道。
英米の苗字に多いのは、Mr. Smith と言われていますが、これは鍛冶
屋の意味だということです。先祖の職業が苗字になっている、ということで、
同様の例が、Mr. Taylor(先祖は仕立て屋さん)、Mr. Carpenter
(先祖は大工さん)など。
ホームズの住んでいる Baker street も、その通りを作った方が Mr.
Baker(先祖はパン屋さん)だったのだそうです。
日本でも、職業が名前になっている例はいくつかありますよね。犬養さん、
服部さん、鵜飼さん、とか。 日本の職業由来の苗字は由緒のある場合
が多いようですね。
and it was only by paying over all the money which I could
集 め る
一
緒
に
そむける
別な(新たな)
公
の
gather together that I was able to avert another public
露 出 、 露 見
exposure.
そして、”それは支払いによった” 。
“それ“ とは何か、は、後で出てきますので、”支払った”のは何かという説
明から。
まず、”only” は “ただ“、”~による”。 ですから、『支払ったからこそなの
です。』。
“pay over” で、”(正式に)払う”。
集 め る
一
緒
に
“all the money which I could gather together”
“全てのお金“で、そのお金とは、”私が集めることのできた”。
“gather together” で “かき集める“。
『それは、私がかき集めることが出来たすべてのお金を支払ったからに他な
らないのです。』
で、いよいよ、その “それ” が何か、ということになりますが、‟that“以下
そむける
別な(新たな)
公
の
露 出 、 露 見
の文章、”I was able to avert another public exposure”、 “be
(was) able to” は、”~できた”。
“avert” は、”そらす“。 “vert” は、”そらす” とか ”変える“ という意
味で、日本度での最近使われるようになった “バージョン(verson)”
の “ver”、 ”コンバーター(converter)” の “vert” 等が同じ語源か
らの派生語です。
“another” は “別の“ という意味ですが、『(今までに何度か起こして
いる揉め事に加えて、) ”さらに新たな” 面倒が 表沙汰(public
exposure)になることを避けることができた』 ということです。
“He had no friends at all save the wandering gypsies,”
“He had no friends at all” “彼には一人も友達がいない”。
“save” は、いつもの、”~を除いて” です。
“wander” は、以前にも出て来た単語で、
“Now, when young ladies wander about the metropolis at this hour
of the morning, and knock sleepy people up out of their beds, I
presume that it is something very pressing which they have to
communicate. (こんな早朝に大都会を歩き回ってまだ寝ている人をベッドから起
こす、なンて言う若い女性には、人に伝えなければならないよほど差し迫った事情
があるのだろう)” という文章、覚えていますか?
そう、”彷徨い歩く” ですね。
“gypsies” (単数形は “gypsy”)とは、日本人には中々想像のつかない集
団だと思います。私は、子供のころに親に説明された記憶がありますが、『ふーん、
そんな人がいるんだ。』と頭では分かっても、理解できない存在でした。
何家族かの集団で定住せずにヨーロッパ中を移動して生活をしている人々、と言
う事なのですが、子供心に、『じゃ、学校はどうしてるんだろう?』と思ったのを覚え
ています。ジプシーの子たちは学校になんか行かないんです。勿論、今日では、各
地に定住している人が多く、未だに流浪の生活をしている人は非常に少ないと思
われますが。
さて、流浪の生活を送るので、彼らは地域での繋がりを持たず、今日の露営地に
戻ってくるかどうかも分からない訳ですから、自然、行動も場当たり的な物になりが
ちです。また、住民からしてみれば、悪い事は流れ者のせいにして置けば、その場
を収める事も出来たでしょう。そんなことから、ジプシーとはあまり歓迎される存在で
はありませんでした。
ロイロット医師は、町の人とは仲良くしない癖に、そのような怪しげな一団とは交流
を持つ、という正に変人であった、と言うことなのです。
さて、ここがこの物語の一つの重要なポイントです。
この物語の原題は “the adventure of Speckled Band”。”しみのついたバン
ドの冒険”
です。
“冒険” というのは、『シャーロックホームズの冒険』シリーズの後半に収録されたお
話の統一タイトルで全て “the adventure of ~” という風になっているので、
別に ”Speckled band” が冒険する訳ではありません。
問題は “band” なのですが、今までの邦訳『まだらの紐』では、この部分が上手
く翻訳出来ず、結果、作者コナン-ドイルの意図した大きなプロットが抜け落ちてし
まうのです。
“band” には大きく分けて二つの意味があります。
一つは服飾関係で使う『バンド』。ベルトと言い換えても良いでしょう。これが『紐』
と訳されて邦題に使われています。
もう一つは、音楽関係の『バンド』。『おれ、バンドを組んでんだ。』とか、『ジャズバン
ド』とか『ブラスバンド』とか言う時の『バンド(楽団)』です。
『バンド』には、『楽団』と意味のほかに、『人々の一団』、『連中』という意味もあり
ます(良い意味では使われません)。
この段階で、このジプシーの一団を、『バンド』として意識しておくと置かないとでは、
物語後半での展開に大きく影響するのです。
そこで私の挑戦です。
ジプシーとは、先述のように旅の一団で、あちこちで歌や踊りを見せたり、タロットで
占いをして生計を立てていました。ですから、ここでは、このジプシーは楽団、つまり
ミュージックバンドをやっている連中だ、ということにさせて頂きたいのです。
つまり、『バンド』をやっている『ジプシー』、この物語の中では『ジプシー』、すなわち
『バンド』である、と言うことです。
宜しくお願いします。
さて、本題に戻ります。
and he would give these vagabonds leave to encamp upon the
few acres of bramble-covered land which represent the
family estate, and would accept in return the hospitality of
their tents, wandering away with them sometimes for weeks
on end.
“he would give these vagabonds leave, would accept the
hospitality, wandering away”
“かれは、この放浪者たちに許可を与え、歓迎を受け入れて、そして、ほっ
つき歩くものでした。“
前節からの繋がりで、一つには、”he would give・・・” そして二つ目に
は、”he would accept …”, で、最後に wandering ~.” なのです。
and he would give these vagabonds leave to encamp upon the
few acres of bramble-covered land which represent the
family estate,
“would” は、”(習慣として)~するものだった" と言う意味です。
“vagabond” は ”流浪の人”。 諸国を放浪して剣術の腕を磨いた宮
本武蔵を描いた “バガボンド“ というタイトルのマンガがありました。ここで
言う "流浪の人” とは、”ジプシー“ のことです。
“leave” は、”残る“ ではなく、この場合は、”許可”。名詞としての使用
には、他に、”休暇” という意味で使われることもあります。
彼 ら に 与 え た 許 可 と は 、 ” to encamp upon the few acres of
bramble-covered land” で、
“encamp” は、”~でキャンプする”。
“upon the few acres of bramble-covered land” “茨に覆われた
何エーカーもの土地で“。
“bramble” と言うのは ”茨”。その繁殖力と、深く根差した根が収穫を
減らすために農家にとっては大敵です。加えて、大体は、トゲがあるので
除去するのにも手間がかかってしまいます。
“茨” に覆われた土地、というのは、ですから、手入れのされていない土地、
または荒れ放題の土地、と言うことです。
ジプシーは流浪の民で、差別的な扱いもあったでしょうから野営地の確
保は大変重要な課題だったのでしょう。どんなところであろうが、土地を貸
してもらえるというのは、大変ありがたいことだったに違いありません。
が、反面、村人にしてみれば、どこの馬の骨とも知れない奴らが村の一角
に露営しているのですから、快く思うはずもなく、ロイロット医師の孤独はま
すます深まって行ったことでしょう。
で、その土地と言うのは、
“which represent the family estate,” “一族のものである“。
“represent” は “代表する”、”表す” と言う意味です。
“estate” は “土地“。 “不動産” の事を “real estate”。”工業団
地” の事を “industrial estate” と言います。
“一家が没落した様子を具体化しているかのような茨に覆われた土地に”
と言いたかったのか、とも思って何度も読み返しましたが、そこまでの意味
はないように思われます。
and would accept in return the hospitality of their tents,
wandering away with them sometimes for weeks on end.
“in return” は “その代りに“、 つまりは、見返りとして、『”hospitality
of their tents”を受け入れるのだった』 というのは、テントの中に泊めて
もらう、というのでしょう。
“hospitality”と言う単語は、英語学習の早い時期に覚える単語ですが、
同様、英語学習の早い時期に覚える単語である”hospital(病院)“ と
似ていますよね。どうして”歓迎” と “病院” がこんなに似た単語なのか、
子供のころ不思議に思ったものです。
“hospitality”も”hospital”も語源は同じく、”歓待“、”歓迎”です。
“hospital” は、”歓迎する所“ つまりは、”宿屋“ という意味だったので
すが(14 世紀頃、だそうです)、”長期滞在して身体をいやす所” とい
う意味合いが増して行って 16 世紀頃には、”病院“という意味になったそ
うです。
ロイロット医師は、テントに泊めてもらうだけではなく、このバンドの連中と
一緒に ”wandering away with them sometimes for weeks on
end.”
“wander” は “ほっつき歩く”
“away” は “離れて”、でこの場合は “(家から)離れて“、と言うことでしょ
う。
“彼らと一緒に、時々、何週間もの間、連続して“。
“on end” は “ずっと、続けて“ という意味の成句です。
He has a passion also for Indian animals, “彼は情熱を持っている、
~にまた、インドの動物”。 ですから、”インドの動物が大好き” ということ。
で、そのインドの動物は、
which are sent over to him by a correspondent,
“送られてくる、彼に、~によって、一人の仲間“
インドに仲間がいて送って来る、と言うのです。
“correspondent” の、”cor“ は、 “co (共に)”
の意味。
この、”co” (このような単語の一部を接頭辞と呼びます)は、続く単語
の 最 初 の 文 字 が 、 ”r” や ”l” の 場 合 は
“cor” 、 “col” と な り ま す
(correlation, collaboration 等)。また、続く単語の最初の文字
が 、 ”b” 、 ”m” 、 ”p” の 場 合 は 、 ”com“ と な り ま す ( combination,
communication, companion 等)。
このような変化は ”impossible” の “im” にも見られます。
“irrevant( 関 係 な く )“ 、 ”illegal( 不 法 な )” 、 ”imbalance( 不 均
衡)“、”immortal(不死の)”、”impatient(我慢できない)“などです。
どうして変化するのかと言うと、発音上続く単語の準備をしている、と言う
ことになります。分かりやすいのは、”b”、”m”、”p” の場合で、これら三つ
の音は、すべて一度唇を閉じなければ発音できません。そのため、接頭
辞で唇を閉じさせるべく、”m” を付けるのです。
“respond” は “応答する“。 接頭辞の ”共に” と合わせると、”共に
応答する“、”呼応する”、ということで、”correspondent” は”通信相手
“または、”取引相手”です。
で、そのインドにいる相方から時々動物を送ってもらうのですが、
and he has at this moment a cheetah and a baboon, which
wander freely over his grounds“
“彼は飼っている、現時点では、一匹のチーターとヒヒを、そして彼ら(チー
ターとヒヒ)は、さまよう、自由に、彼の土地の上を、”
ロイロット氏はそのインドの仲間からチーターとヒヒを送ってもらって自分の
土地に放し飼いにして、土地の人から恐れられている、という訳です
が、、、。
コナン=ドイルがこの小説を書いたのは、1891-92 年の頃で、おそらくは、
アジアやアフリカの野生動物の分布や生態への理解が一般的ではなく、
ドイル自身もあまり知識を持ち合わせていなかったものと思われます。
チーター、と言えば、私たちはアフリカの草原で獲物を追う姿を想像するこ
とでしょうが、分布を調べると僅かにアジアの種族が、現在のイラクに生き
延びているそうです。かつては、インドにも相当数がいたらしく、ムガール帝
国の皇帝の中には、チーターを集めて狩りをした、という記録もあるそうで
す。
それにしても、チーターには、いかな数エーカーの土地といえども(1エーカ
ーは 4,046 平方メートル、一辺が 64 メートルの正方形)放し飼いにす
るには、狭すぎるでしょう。
では、”baboon” はどうでしょう。
“baboon” とは比較的大型で草原に住む “サル“ の一種で性格はか
なり凶暴です。
日 本 語 で は 総 じ て ” サ ル “ と 呼 び ま す が 、 英 語 で
は、”ape”、”monkey”、”baboon”、”loris” など細かく分類されています。
“サル” はヨーロッパにはいないのに、どうしてこんなに細かく分類しているの
か不思議なのですが、もう一つ不思議なのは、中国語にすると(というか、
漢字表記にすると、かもしれませんが)英語の分類に近づくように思われ
ること(もっとも日本語では ”サル“ の一語しかないわけですから、二語
以上あれば英語に近いと言えなくもなさそうですが)。
”ape” は『猴』、”monkey”は『猿』、”baboon”は『狒々』、など。
『猩々』 というと オランウータンのことですよね。
因みに、映画、『猿の惑星』 の原題は “planet of the apes” です。
さて、”baboon” ですが、これはアフリカにしかいません。ですから、インドの
知人から送ってもらった、というのは不自然なのです。
このチーターとヒヒは、物語の中で一度登場しますが、その描写からすると、
チーターは、まあ、少し大きな山猫のことで、ヒヒは、”monkey”か”loris”
の一種の様に思われます。
“and are feared by the villagers almost as much as their
master”
“そして、恐れられている、村人に、殆ど同じように、彼らの主人と”
“fear” は “恐れる"。 それが、”be + 過去分詞” の受動態になって
いますので、”恐れられている”。
受動態ですので、”~によって“ は、”by the villagers”。
“as much as” は成句ですのでこのまま覚えましょう、”~と同じように”
です。
≪要約すると≫
先週も、町の加治屋を橋の欄干から突き落としたそうで、何とか私が集めたお金で
以って先方にお詫びに行って大きな騒ぎになる事を抑えてもらったような次第です。
友達と言えば、養父にはジプシーの一団(旅回りのミュージックバンド)の他にあり
ません。養父は、この放浪生活を送るバンドの人々に先祖から受け継いだ数エーカー
の荒れ地にキャンプする事を許可しているのです。その代わりに彼らのテントに泊めて
もらったり、時には数週間もの間彼らと放浪の旅に出たりするのです。
養父はインドの動物を飼うのも好きで時々インドから送ってもらうのですが、今はチ
ーターとヒヒを一匹づつ屋敷の内に放し飼いにしているものですから、村人たちは、養
父の事もそうですが、この動物の事も、大変怖がっているのです。