サイエンスショー「光のヒ・ミ・ツ」実施報告

大阪市立科学館研究報告 23, 65 - 68 (2013)
サイエンスショー「光のヒ・ミ・ツ」実施報告
小野
昌弘
*
概 要
2012 年 9 月~12 月 において、光の 3 原色やその補色そして、ナトリウム灯下での色彩の確認等、光
に関 するサイエンスショーを実 施 した。ここではその内容について報告する。
1.はじめに
テレビの番組でよねむらでんじろう氏が紹介していた
当館では、これまで光 に関 するサイエンスショーとし
実 験を垂 直 方 向に 起こし、見 学 者が 現 象を確 認 しや
てスペクトルに関して実 験を行ったものや、偏 光をテー
すいようにした。なお、このCD 回 転による 展 示 製 作も
マに実 験 を行ったもの、また化 学 発 光について実験を
行ったが、これは、別稿に譲る。
行 ったもの があった。しか し、 光 に 関 する 基 礎 的 な R
(赤)G(緑)B(青)の実 験について紹 介することがなかっ
2-2.ナトリウム灯の光
たので、 本 実 験 で 取 り 上 げ、 光 の 色 の 紹 介 並 びに 人
低圧ナトリウム灯の単色光下では、周りの色がどのよ
間の目の補色に関する話題 提供を約 30 分の演示実
うに観 察できるのかを紹 介する実 験。オレンジ色の 光
験で行った。
が CD 盤で分光されず、単色光であることを確認したり、
通常のカラー写真が、白黒のような写真になることを確
2.実験項目
認した。見学者に示したものは、色鉛筆をたくさん並べ
2-1.CD 盤の回転による立体 虹の観察
た写真と野菜や果物の写真である。このうち野菜や果
CD の表面に光を当てると虹が観察できるが、CD の
反射面を上にして、直径 60 ㎝の板に多数 貼り付けた
物の写真は、本物とは色を異なるものを用意し、ナトリ
ウム灯下では、色の区別がつかないことも確認した。
ものを回 転 盤 に 取 り 付 け、 回 転 させる。そ こに 懐 中 電
灯の光を当てると立体的な虹が見えるようになる。
2-3.RGB による光の色の合成
当 館で使 用していたプラネタリウム 用スライドプロジ
ェクタ(ELMO omunigraphic 301 100V-300W)を3
写 真 1.CD の回 転 盤
写 真 2.使 用 したプロジェクタ 本 機 3台でRGB 光 を映した
*
大 阪 市 立 科 学 館 企 画 広 報 グループ
台用意し、それぞれに赤、青、緑のカラーセロファンを
小野 昌弘
フィルムマウントに挟み込んだものをセットし、白い壁面
にRGBの各色を投 射できるようにした。
そして、R+G、G+B、B+R、R+G+B の光の色の足し算で
どのような色 ができるのかを観 察 した。また、G の光を
暗くすることで、R と合わせた時 にどのような色 変化が
起きるのかも確認した。
2-4.RGB の光の下での影の色
RGB 混色の実 験から、その光を利 用して、色付きの
影が 観 察 できる実 験 。プロジェクター1 台 につき、1色
の光 を出 していることを利 用 して、その光 を当 てたとこ
ろにできる影の 色を確 認 する 実 験 を行 った。まず、 太
写 真 3.使 用 し たひまわりの写 真 。もともとはカラー画 像 のもの
陽 光 や 白 熱 灯 、 蛍 光 灯 下 で の 影 は 黒 である ことを確
をパソコンの画 像 ソフトで、白 黒 にしたものとネガ 変 換 にしたも
認 し、プロジェクターから出 るRGBそれぞれの単 色 光
のを用 意 した。まず、ネガ 画 像 を 10 秒 程 度 見 た後、白 黒 のひ
でできる影も黒であることを確認した。
まわり画 像 を見ると、白 黒 画 像 が一 瞬 カラーに見える。
次にR+Bなどの光 を当 ててできたM(マゼンタ)の部
する CD で作られた虹を観察するとき、人間の目の視
分には赤 と青 の 影 ができることを紹 介 した。またG+B
差から、立体的に見えるようになる。そのため、片目で
の光を当てたC(シアン)の部 分には緑と青の影、そして
確認した場合には、この虹はあまり立体的には見 えな
G+Rの 光 を当 てたY(イエロー)の 部 分 には、 緑と赤
い。
のが下ができることを示した。そして、最 後にRGBの光
また、 円 盤の 回 転 速 度 で 虹の 形 状が 変 わったり、CD
が当たってできている白 色の部 分では、M、C、Yの影
にあてる光を点滅させるなどすると、確認できる立体虹
ができることを紹介した。
の形状が変わってくる。
本 実 験 では、 まず一 般 的 な光 には、 様 々な色 が 含 ま
2-5.補色実験①
人間の目は、RGB の光 を受ける細 胞 を持 っており、
特 定 の 光 を見 続 けた後 には、その 光 の 色 を差 し引 い
れていることを示した。そして、この立体 虹を紹 介する
ことで、本実験への興味関心の動機づけを強めるもの
とした。
た補色が見えることを確 認する実 験。部 屋を暗くして、
白 い壁 にプロジェク ターから 赤 色 の 光 を写 し、 赤 色 を
消して、部屋を明るくすると、赤 色 の光 が写 っていたと
ころに、水色から青色の影のようなものが見える実験。
3-2.ナトリウム灯の光
低圧ナトリウムから発せられる波長、589.6nm と
589.0nm は、人間の目には、同一のオレンジ色にしか
見えず、回折格子などを利用しなければ、その区 別は
2-6.補色実験②
つかない。しか しほかの 波 長の 光 がないために、そ の
カラー写真のネガ状態のものと、白 黒写 真を用 意し、
波長で照らされた物体は、そのオレンジ色を反射 する
ネガ状 態 の 写 真 を見 続 け た後 に 白 黒 写 真 を見る こと
か 吸 収 するか の 状 態 で、 明る くなるか 黒 くなるかの 色
で、白 黒 写 真 が カラ ー 写 真 に 見 える 実 験 。 本 実 験 で
彩に なる。その ため、 一 般 的 な蛍 光 灯 や白 熱 灯 下 の
は、ひまわりの写真(写真3)を利 用して行った。
色はできず、カラフルな色を確 認することができない。
本実験では、まずパネルとして準備したひまわりのネガ
これは、本 実 験の 前に行 った一 般 的な光の 中には
写真と、白 黒 写 真を利 用して行 った。ここで、特トリック
様々な色が 含まれていることを逆説 的に 示すことがで
ももなく、見学者の目の作 用によって、色がついて見え
きる実験である。
ることを確 認 した。そしてそのあとにプロジェクタから同
様の写真を使って、現 象を再 確 認した。プロジェクタか
3-3.RGBが作る色
らは強い光で映像が出ているため、この補色 確認の現
プロジェクタから映し出される、RGBの色の混合を行 う
象がより鮮 明になった。
ことで、どのような色が作ることができるかを確認したが、
小学生は、絵の具などで色の混合を行うことから、そこ
3.解説
から合成色の予想を行っていた。そして、人間の目は、
3-1.CD 盤の回転による立体 虹の観察
この3色があれば、その光の強弱によってさまざまな色
CD はその表面 記録 面の形 状から入射 光を分 光し、
を認識できることを解説した。そしてこの場合、絵 の具
虹(スペクトル)を確 認することができる。円 盤 状で回転
など、 色 素 の 合 成 とは 異 なり、 RGB が 混 ざる ことで 白
色ができることを解 説した。
の影ができる。このMCYの影ができる理 由は、2色 の
場合と同じで、当ててある光の色のうち1色が当たらな
3-4.
いためである。見 学 者にとっては、ほとんど見 たことの
ここでできた赤や緑、青の影は、異なる角 度から出て
ない現象であること、また、色の組み合わせを変えるこ
いるそれぞれの光 の色 が混 ざった部 分 に、影 ができる
とで 次にどの よう な結 果が 出 るかを予 想 する 楽 しみを
物 体 をおいて、その物 体 がどの 光 を遮 っているかで、
喚起できる実験となった。
影に色がついたように見えるものである。具 体 的には、
3-5.補色の実験①
R+BでMの光ができているところに、影 を作 る物体を
3-4の実験で、白色光から、ある1色が抜けた場合
当てると、物体がRの光を遮 った場 合には、MからRの
に、その残った色が補色となるということを解説し、それ
色を差し引いたBの影ができる。逆に言えば、Bの光が
を踏 まえたうえで、プロジェクタから 出した赤い光 を見
当たっている場所の一 部 分にRの光が当たっていない
続けた後に、赤い光を消すと同 時に 会場のやや黄 色
味が 強いハロゲン 球による 白 色 光を出した。なお、赤
い光を出した場所を集中してみてもらうために、その光
の当たっている中心に1㎝ほどの黒いマークを付けると
見学者が集中して見やすくなる。
この 時、 人 間 の 目の Rに 反 応 する 視 細 胞 が 一 瞬そ の
働きを弱 め、そのほかのG,Bに反 応する 視 細 胞 だけ
が働くことで、緑から青色の残像が見えるようになる。
3-6.補色の実験②
引き続き行った補色の実験では、単に光を観察する
だけでなく、写真を利用してその確認を行った。
写 真 4.2色 の光 の混 合 の場 合 。左 右 から、RとB の光 を当て
て真 ん 中 部 分 がM となってい る。 光 の 手 前 に 物 体 を 置 くと、
その物 体 がRもし くは、B の光 を遮 り、M部 分 に 色 付 きの影 を
作 る。R が 遮 ら れた ときは、 青 色 の 影 、B が 遮 ら れたと きは 赤
色 の影 となる。
用意したものは、数種 類あるが、形 状がはっきりして
いて、そのもとの状態の色が誰でも知っているものが、
初めてこの 実 験を行う 見 学 者にとって見やすいものと
なる。今回 用 意したものでは、以下のものが反 応 が大
きかった。
・ひまわり:その形状から、ひまわりとすぐ分かり、花弁
の黄色、葉の緑色が容易に思い浮かべら
れる。
・甲 子園 球 場 風 景:野 球 場の 風景ということが 一 目で
分かり、外野からバックボード、そして芝生
の色が容易に思い浮かべることができる。
逆に、お弁 当の写 真を提示しても、それなりに反応は
あったが、お弁当のおかずの一つ一つが何かわからな
いことや、 元の 色 が 分からないため、 単に 色が 変 わっ
たというような反応が多かった。
写 真 5 . 3 色 混 合 の 場 合 。 人 の 絵 の 後 ろ の 影 が 、 左 からY 、
M、Cとなる。いずれも背 景 となる白 色 光 から、何 色 の光 が当
たっていないかで決 まる。
ため、そこだけ、Bの影 ができたように見 え、周 りはR+
BのMになっているものである。
そして、他の2色の混 合でも同 様の現 象が起きるが、
3色の光が当たったところで同じことを行うと、M、C、Y
4.まとめ
4-1.ショーの構成について
本サイエンスショーの流れとして、
① 一般的な光に様々な色の光が混ざっていることの
紹介。
② その光があることで、周りの物のいろいろな色を確
認できること。また、単 色 光では、色が 分からなく
なることの紹介。
③ 原理的には、RBGの光があれば、様々な色の光
小野 昌弘
RGBの光の混色の実験や、その影を確認する実 験の
展示品は、全国の科学館によく見られる。しかし、これ
ら展示は、残念ながら、見学 者の興 味を引く力が弱く、
実験を行っても知的な感動を起こすものがない。
これは、この現象が「当たり前」「だから何?」とみられる
ことが多く、現象が単に確認できるだけでは、人の心は
動かないという例でもある。今回のサイエンスショーは、
近年まれにみる盛り上がりを見たが、事前には、そこま
で盛り上がることは予想することができなかった。しかし
本サイエンスショーのように、実験を行う前の問題の提
示 の 仕 方 、 また実 験 で 何 が 起 き ているの かの 確 認 や
提示、そしてその現象に対峙している人の意識を動か
写 真 6. 外 野 芝 生 の緑 色 、また、スタンド前 の壁 の 緑 色 や
す働きかけを行う人の介在が必要ということが分かる。
夕 暮 れ時 の空 の色 が確 認 しやすい写 真
4-3.その他
① 本実験では、当館のミュージアムショップで販売
する商品として以下の2点のものを開発した。
◆光の三原色確認キット(500円)
100円ショップ等で販売しているLEDランプ3
点とRGBのセロファンをセットにしたもの。光
の3 原 色 の 実 験 の 行 い方 と、 色 付 き の 影 の
作り方の解説シート付。
限定80セットほど準備したが、本サイエンスショー
開 始から2 週 間で完 売 してしまうほどの 人 気 だっ
た。
写 真 7.お弁 当 の 写 真 。もとの 食 材 が 何 か わからない た
◆ひまわりのネガ-白黒はがき (1枚50円)
め、単 に色 が変 わったという認 識 しか起こらない。
補色の実験を行うための絵ハガキ。こちらも好 調
が作れること。
に売れた商品である。
④ 補色のしくみ、それを確認する自分の視 覚を利用
した体験実験。
② テレビ番組での取り上げ
という流 れを作 ることで、光 の 色 の 基 礎 的 な内 容を見
テレビ大阪で放映されている「かがく de ムチャミ
学者に紹介することができた。
タス」という番組で、今回のサイエンスショーで作
一つ前 の実 験が、次の実 験 の布 石になっており、新し
成したCD回転装置の実験と、RGBの光の下で
い現 象 がその 前の 確 認 に もなっている。この 流れが、
の 影の 実 験 で 取 り 上 げてもら い、 実 験 の 紹 介 と
見 学 者 に対して、科 学 的 な思 考 を巡らせることに効果
解説をさせていただくことができた。
的で、「科学」を楽しめる時間を作れたようである。
特にRGBの光の混 色、そしてそこにできる影の確認
5.謝辞
を行う 実験 以 降は、一 つ 一 つ 丁 寧 に行 うことで、次に
本実験を開発実施するにあたっては、光の3原色の
予想されることと、その結 果 の違 いから、どうしてそうな
実験法や補色の実験の行い方を月僧氏から教えてい
るのか、なぜ予 想 が違 うのか、また当 たったのかなど、
ただきました。また演示に関してのポイントや流れにつ
見学 者 各 人の思 考 レベルに合 わせて、本 実 験を楽し
いて、当館の斎藤学芸課 長から助言していただきまし
んでもらうことができた。
た。また、ナトリウム灯の製作やナトリウム灯下で確認す
実験内容としては、古 典 的なものばかりで特 に目新
る絵の作 成 を長 谷 川 学 芸 員にしていただきました。さ
しいものはないが、その構 成 を丁 寧に作り込 むことで、
らにスケジュール管理等を岳川学 芸員にしていただき
見 学 者 に 光 の 色の 面 白 さや、その 中 の 科 学 を伝え ら
ました。また、事前の公開実験等で様々な意見をいた
れたためであろう。
だいた大倉学芸員や当館の科学デモンストレーターの
皆様にこの紙面をお借りして感謝申し上げます。
4-2.ショーと展示