損害保険仲介者の顧客に対する義務と責任

【博士論文要旨】
損害保険仲介者の顧客に対する義務と責任
――米国における判例法の展開とわが国への示唆――
一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務コ−ス
博士後期課程
序
章
井口
浩信
問題の所在と本稿の目的
1.金融取引における仲介者の台頭
今日、さまざまな金融取引の分野において、仲介者を用いる取引――たとえば、証券仲
介業や信託契約代理店等があげられる。――が広く行われつつある。
このような金融取引仲介者は、行政監督の観点から、各種の業法によって市場参入規制
(免許・登録制度等)や行為規制などが課せられているほか、仲介者の行為を原因として
顧客に生じた損害について、金融業者に厳格な代位責任を課す法律上の措置を講ずること
によって、市場における仲介者を用いた取引の適正化を企図している。
もっとも、このような行政監督上の措置が講じられているとしても、仲介者を用いた金
融取引の安定的な発展を確保しさらに活発ならしめるためには、仲介者が行う仲介行為の
私法上の効果や責任関係について明らかにしておく必要がある。
とりわけ、金融取引における仲介者は顧客に対していかなる義務と責任を負うのか、ま
た、顧客に対する責任において、金融業者の責任と仲介者の責任との重畳関係等を明確に
しておく必要がある。なぜならば、いうまでもなく仲介者は当該取引の当事者ではなく、
私法上の効果や責任関係に明確性を欠いた場合、仲介者を用いる取引の法的安定性が確保
されず、取引の発展を阻害する遠因になると考えるからである。
2.本稿の目的
上記のとおり、金融取引仲介者を用いた取引類型は、金融業者・仲介者・顧客の三者間
で形成される取引であって、そこにはさまざまな法律問題が内在していると考えられる。
そこで、本稿の目的は、わが国において、伝統的に仲介者を用いたビジネスモデルを展
1
開してきた損害保険募集の分野を対象として、そもそも保険仲介者は顧客に対していかな
る義務と責任を負うのか、そうした保険仲介者の顧客に対する義務と責任と、保険会社の
顧客に対する義務と責任との重畳関係はどのように解されるべきかを検討することにある。
なぜならば、このような検討は、損害保険仲介者のみならず、広く、金融取引の仲介者
一般の法的問題を検討する際にも援用できると考えられるからである。
第二章
紛争事例と本稿で検討対象とする紛争モデルの設定
1.保険仲介者と顧客との間に生じうる紛争類型
保険会社等に対する苦情例などいくつかの実証分析によれば、わが国において、保険仲
介者と顧客との間に生じうる紛争のうち最も多く見受けられるのは、重要事項の説明懈怠
もしくは保険契約の内容等の説明不足・説明誤りを原因とする事例である。
これに対して、米国では、顧客の保険付保ニ−ズに対応する保険仲介者の適切な助言や
推奨・教示の懈怠、または顧客の付保ニ−ズに合致しない不適切な内容の保険契約の調達、
あるいは締結された保険契約の維持・管理とりわけ保険契約の更改(継続)に関する失敗・
懈怠等を原因とする保険仲介者と顧客との間の紛争が最も多く見受けられる。
彼我の差異は、米国において、重要事項の説明懈怠、保険契約の内容等の説明不足や説
明誤りの過誤等を原因とする紛争について、顧客はもっぱら保険会社を争訟の当事者とし、
原則としてこの種の紛争には保険仲介者が登場しないことに由来する。
ところで、重要事項の説明懈怠、保険契約の内容等の説明不足や説明誤りの過誤等を原
因とする紛争は、保険会社と顧客との問題に還元されるべき法律問題であって、保険仲介
者の顧客に対する固有の法律問題といい難いことは、わが国においても同様といえる。
そこで、保険仲介者の顧客に対する固有の義務と責任が争われる場面は、上記に掲げた
米国の事例が最も典型的と考えられるのである。
2.本稿で検討対象とする紛争モデル
上記の実証分析とそれらをめぐる議論を踏まえ、本稿で検討対象とする「保険仲介者と
顧客との間で生じうる紛争モデル」を次のとおり設定する。
2
<1> 顧客の保険付保ニ−ズに十分に合致しない保険契約を推奨した保険仲介者の顧客
に対する義務と責任
<2> 保険契約の満期管理や保険期間中の保険料収納等、保険契約の管理やそれらに伴う
顧客への助言・教示を懈怠した保険仲介者の顧客に対する義務と責任
このような紛争類型を検討対象とするのは、第一に、上記の紛争モデルが、実務上、散
見される法律問題でありながら裁判例や先行研究が乏しく、また、十分に議論されている
とはいい難いからである。
第二に、上述のとおり「重要事項の説明懈怠もしくは説明不足や説明誤り」を原因とす
る紛争は、結局は、保険会社の顧客に対する義務と責任の法律問題に還元される。しかし、
本稿で検討する目的は、もっぱら『「保険仲介者」の顧客に対する義務と責任』の解明であ
って保険会社のそれではないからである。
第三に、「重要事項の説明懈怠もしくは説明不足や説明誤り」を原因とする紛争は、保険
募集分野に特有の問題ではなく、各種の取引分野と同根の法律問題であって横断的検討を
要する。この意味で、保険仲介者の顧客に対する固有の法律問題の検討を試みる本稿の目
的に照らすと、こうした紛争類型は検討対象のモデルから除外することが適切と考える。
第三章
保険仲介者の法的地位
1.わが国における保険仲介者の法的地位に関する議論
わが国における保険仲介者は、保険業法上、損害保険代理店と保険仲立人(保険ブロ−
カ−)とに二分され、保険仲介者の保険会社との私法上の法律関係や顧客との私法上の法
律関係もそれぞれ格別に理解されている。
すなわち、保険仲立人はその顧客に対して善管注意義務を負うのに対して、代理店が善
管注意義務を負うのは保険会社に対してである。
そこで、代理店は、顧客に対して顧客の付保ニ−ズに最適な保険商品を助言・推奨する
義務を負わないばかりか、原則として、顧客との間では何らの法律関係に立たず、不法行
為責任が生じる場合を除いて、代理店は顧客に対して義務や責任を負うこともないと解さ
れてきた。
3
しかし、代理店と保険仲立人とで峻別する従前の理解に合理性が認められるかどうかは、
なお議論の余地があり、近時では、特に、顧客との法律関係について、代理店と保険仲立
人との峻別を所与の前提とする相克を払拭し、むしろ、個別具体的な場面に即した柔軟な
解釈の必要性を唱える議論が有力に主張され、いくつかの裁判例も公表されている。
2.米国における保険仲介者の法的地位に関する議論
従来、米国では、保険仲介者は「誰の代理人なのか」という設問によって、保険仲介者
の法的地位に関する議論が展開されてきた。しかし、保険仲介者の保険会社に対する関係
と顧客に対する関係とに鑑みたとき、そこには二重代理性が認められ、「誰の代理人なの
か」というアプロ−チは、二重代理のディレンマの前に、保険仲介者の法的地位をめぐる
議論を閉塞させてきた。
そこで、近時では、保険仲介者は「誰の代理人なのか」というアプロ−チではなく、む
しろ、個別具体的な局面において、保険仲介者が顧客に対して注意義務を負うべき関係に
あるかどうかこそを問題にすべきであって、保険仲介者が誰の代理人なのか、代理店なの
か保険ブロ−カ−なのかは重要な問題ではない、と解する有力な主張が見受けられる。
3.保険仲介者の顧客に対する義務−抽象的義務と個別具体的義務−
米国の保険法において、自らを専門家と表示した保険仲介者や、顧客との間で保険の調
達を約した保険仲介者は、顧客に対して「保険取引において、合理的かつ慎重な保険仲介
者であれば、同一の事情のもとで用いるであろう技量と注意をもって保険仲介をなすべき
義務を負う」と一般に解される。もっとも、かかる義務は、顧客に対する保険契約の妥当
性(適合性)
・合理性についての個別具体的な説明・助言・推奨義務を当然には含まない。
保険仲介者が、個別具体的な説明・助言・推奨義務を負うのは、保険仲介者と顧客との
間に『特段の事情』が認められる場合に限られると解されているのである。
4
第四章
米国における判例法の展開-
1. Special Relationship Test
Special Relationship Test
の到達点-
の意義
米国保険法における一般的な理解は、保険仲介者が顧客に対して注意義務を負うと解さ
れる場合であっても、それは「保険取引において、合理的かつ慎重な保険仲介者であれば、
同一の事情のもとで用いるであろう技量と注意をもって保険仲介をなすべき義務を負う」
ことをいい、保険仲介者が顧客に対して、保険契約の妥当性(適合性)
・合理性についての
個別具体的な助言(説明)・推奨義務や保険調達義務を負うものではないと解されていた。
保険仲介者が、顧客に対して個別具体的な助言(説明)
・推奨義務や保険調達義務を負う
のは、保険仲介者と顧客との間に『特段の事情』が認められる場合のみであると解されて
いた。そして、米国の判例法において、かかる『特段の事情』の存否を判断する基準とし
て広く確立しつつあるのが
2.判例法で具現化した
Special Relationship Test
Special Relationship Test
である。
−今日における到達点−
具体的にいかなる要件が具備された場合に、保険仲介者が顧客に対して、保険契約の妥
当性(適合性)・合理性についての個別具体的な助言(説明)・推奨義務や保険調達義務を
負うべき『特段の事情』が存すると認められるかをめぐって、米国における判例法は、以
下の三つのアプロ−チに収斂している。
<1>狭義の
Special Relationship Test
アプロ−チ
①
保険仲介者には、顧客の要望に対応するために幅広い裁量権が委ねられていること
②
保険仲介者は、顧客の特別な保険ニ−ズに関してカウンセリングに応じていること
③
保険仲介者は、自ら高い技術をもった保険専門家であると表示していること
④
保険仲介者が表示した自らの専門性に対して、顧客の信頼が生じていること
⑤
保険仲介者が提供する専門的助言に対して、通常支払われる保険料とは別に顧客か
ら報酬が支払われていること
<2>中間的アプロ−チ
①
代理店は、顧客が保険取引について不慣れであることを知っているかどうか
②
代理店は、顧客が、適切な保険カバ−を代理店が提供してくれるであろうと信頼し、
かつ、それに依存していることを知っているかどうか
③
代理店は、顧客の個々の保険カバ−の必要性(ニ−ズ)を知っているかどうか
5
<3>不実説明(misrepresentation)アプロ−チ
①
代理店が顧客に対して保険の内容を不実説明した場合
②
保険の内容が曖昧であるために、顧客から代理店に明確な説明を求められた場合
③
代理店が顧客の相談に助言を行い、もしくは顧客が助言を必要としなくても代理店
が助言を与えた際に、その助言が不正確であった場合
④
代理店が顧客との明確な合意によって追加的な義務を引き受けた場合
第五章 わが国の裁判例
1.わが国の裁判例と
Special Relationship Test
との親和性
顧客の保険付保ニ−ズに十分に合致しない保険契約を推奨した代理店の顧客に対する責
任や、保険契約の満期管理や保険期間中の保険料収納等、保険契約の管理やそれらに伴う
顧客への助言・教示を懈怠した代理店の顧客に対する責任を判断するわが国の裁判例を概
観すると、その判断において以下のような要素が勘案されている。
○代理店と顧客との長期間にわたる継続的な保険取引関係の存在(松山地今治支判)
○日ごろ、契約者と身近に接し、各種保険の手続を代行したり、保険料の徴収等の事務
を担っている関係の存在(前橋地高崎支判)
○保険取引以外の本業における取引関係の存在と、本業における費用決済方法の存在(東
京地判)
わが国の裁判例が、代理店の顧客に対する責任の有無を判断するに当たって、上記の事
実を勘案している点において、裁判所が意識しているか否かにかかわらず、暗黙裡に、保
険仲介者と顧客との間に醸成された「関係」を法的に評価していることは疑いなく、この
意味において、わが国の裁判例においても
Special Relationship Test との親和性が認
められる。
2.代理店の顧客に対する責任と保険会社の代位責任
わが国の保険業法 283 条は、「所属保険会社は、損害保険募集人が保険募集につき保険
6
契約者に加えた損害を賠償する責めに任ずる」と定める。同条は、一般に、使用者責任規
定(民法 715 条)の特則と解され、およそ、保険募集人の保険募集行為に起因して保険契
約者等に生じた損害は、同条に基づいて所属保険会社が代位責任を負うと解されてきた。
しかし、わが国の裁判例を概観すると、保険募集人の募集行為に起因して保険契約者等
に生じた損害であっても、そのすべての場合が、保険会社の代位責任の射程範囲にあると
はいえないのではないかとの疑問が生じる。
すなわち、代理店と保険契約者との間に一般的に生じる代理店の顧客に対する義務の履
践過程、換言すれば、通常期待される処理の履行過程における代理店の過誤行為に基づく
責任は、いうまでもなく保険会社の代位責任に帰する。
しかし、わが国の裁判例は、代理店と顧客との間の個別具体的な事情に基づいて生ずる
代理店の顧客に対する義務と責任は、それが保険募集人の保険募集行為に起因して保険契
約者等に生じた損害と評価される場合であっても、もっぱら代理店の顧客に対する固有の
責任に帰するのであって、保険会社にその代位責任が及ぶとは解していないと考えられる。
第六章
米国の判例法理からの示唆−あてはめと定式化の試み−
1. Special Relationship Test
が示唆するもの
わが国の裁判例は、裁判所がそれを意識しているか否かにかかわらず、代理店の顧客に
対する責任の有無を判断するに当たって、暗黙裡に、代理店と顧客との間に醸成された「関
係」を法的に評価していると解せられ、この意味において、米国の判例法において展開さ
れた
Special Relationship Test は、わが国における裁判例に照らしても、全く異質の
ものであるとはいえないと考えられる。
わが国の裁判例おいて、「信義則上の責任」や「特段の事情」と表現される論理や法律上
の評価の過程が、言わば、米国においては
Special Relationship Test として定式化さ
れているにすぎないと解することもできる。
そこで、わが国における保険仲介者の顧客に対する義務と責任の議論を確立するために、
その要件について、米国における判例法で確立した
はめ、それを定式化する試みが可能と考えられる。
7
Special Relationship Test をあて
2.あてはめと定式化の試み
わが国の保険取引の実情に鑑みた場合、「保険仲介者が提供する専門的助言に対して、通
常支払われる保険料とは別に顧客から報酬が支払われていること」は想定されない。また、
一般に、「自ら高い技術をもった保険専門家であると表示していること、そうした表示に顧
客が信頼を寄せていること」は保険仲介者の営業戦略(顧客の囲い込み策)として日常的
に行われているとしても、わが国において、今日、それらがただちに法律上の義務と責任
の根拠となりうるという法感覚はない。
この結果、わが国おいて、保険仲介者の顧客に対する義務と責任の議論を確立するため
の要件として、狭義の
Special Relationship Test
アプロ−チは採りえない。
一方、不実説明アプロ−チは、そもそも保険約款の誤説明に関する保険仲介者(または
保険会社)の顧客に対する法律上の責任と同レベルで議論すべき法律問題であって、本稿
で検討対象とした「保険仲介者と顧客との間に形成された『特段の事情』の存否」を問題
とする紛争モデルでは、採りえないアプロ−チと考えられる。
3.わが国における定式化
そうすると、わが国においては、上記にいうところの「中間的アプロ−チ」による判断
基準を用いることが最も適切といえそうであるが、次のような批判も想定される。
第一に、代理店は、顧客が保険取引について不慣れであることを知っているかどうか、
第二に、代理店は、顧客が、適切な保険カバ−を代理店が提供してくれるであろうと信頼
し、かつ、それに依存していることを知っているかどうか、第三に、代理店は、顧客の個々
の保険カバ−の必要性(ニ−ズ)を知っているかどうか、という定式によって『特段の事
情』の存否を判断しようとした場合、多くの日常的な保険取引、とりわけリテ−ルの保険
取引においては、第一、第二の要件を具備する場合がほとんどであり、多くの場合に『特
段の事情』が認められるという結果が招来される。
こうした結論は、弛まぬ努力で自らの専門性を向上させそれを表示する代理店、あるい
は積極的に顧客の領域に立ち入って情報を収集しそれに基づいて助言・推奨を行おうとす
る代理店をして、そうした努力をするほどに、それに比例して顧客に対する法律上の義務
と責任が高度化するというディレンマに陥れるのである。
そこで、ドイツ保険法における一般的な理解などを参酌したうえで、わが国における判
断基準の定式化の試みとしては、米国における中間的アプロ−チの要件をさらに修正した、
8
以下の要件が適切と考えられる。
①
代理店と顧客との間に一定期間に及ぶ保険取引関係が存すること
②
上記のとおり形成された関係に基づいて、代理店が、顧客が抱えるリスクや
顧客の付保ニ−ズについて把握・評価できる地位にあること
③
上記①〜②によって形成された信頼関係に基づいて、保険契約の締結に関す
る顧客の代理店に対する一任的な依頼もしくは保険料相当額の寄託など、両
者間に強固な信認関係が存在することを推認させる事実が存すること
④
上記の結果、顧客は、現に、保険サ−ビスの提供・手配を、事実上、当該代
理店に一手に委ねていること
4.保険会社の代位責任の範囲画定
わが保険業法 283 条が定める所属保険会社の代位責任の範囲も、上記の定式によって影
響をうける。すなわち、代理店として日常的かつ一般的に行う業務の過程に過誤が認めら
れ、かつ、それによって保険契約者等に損害が生じた場合には、いうまでもなく所属保険
会社は顧客に対して代位責任を負う。
しかし、代理店として日常的かつ一般的に行う業務の過程において過誤は認められない
ものの、上記の定式への個別具体的なあてはめの結果、代理店と顧客の間に『特段の事情』
が認められ、もって代理店が顧客に対して法律上の損害賠償責任を負う場合、かかる代理
店の損害賠償責任については、所属保険会社は代位責任を負わず、その責任は代理店が固
有に負うと解されるのである。
終
章
残された課題と展望
以下では、本稿における問題意識との関係で極めて重要にもかかわらず、十分な検討が
及ばなかったいくつかの事項を掲げ、今後の検討課題を明らかにする。
1.保険仲介者の属性による判断基準の変化
先に提示した『特段の事情』の存否を判断する定式の適否は、保険仲介者の属性、すな
9
わち、保険仲介者の規模、専属と乗合、あるいは専業と副業といった区分によって判断が
変わりうるものか、あるいは普遍的にあてはめが可能といえるのかが検討課題となる。
2.重要事項説明義務との関係
本稿において、重要事項説明の懈怠や説明不足といった日常的な紛争類型は検討対象か
ら除いた。そこで、先に提示した定式は、保険仲介者の重要事項説明の懈怠や説明不足を
めぐる紛争の場面においても有意なのか否か、有意だとすればいかなる関連が認められる
のか、両紛争類型の架橋を試みることが検討課題となる。
3.損害保険代理店と保険仲立人−保険業法 299 条の意義−
今日、日米双方において、代理店(とりわけ乗合代理店)と保険仲立人との明確な二分
論自体に有力な異論・指摘が見受けられる。
二分論を所与の前提とせず、顧客との法律関係を柔軟に解するという立場に与する場合、
二分論を所与の前提としている保険業法 299 条(保険仲立人の顧客に対する誠実義務)の
意義をどのように解すべきかが問題となる。
この点について、後述する EU の保険仲介者指令では、代理店か保険ブロ−カ−かとい
う区分ではなく、当該保険仲介者が果たす機能に着目した規制枠組みを指向しており、こ
うした EU の国内法化の動向を参照した検討が課題である。
4.他業態の金融取引仲介者における義務と責任との関係
昨今の金融規制の趨勢は、業態分野別の規制から分野横断的・機能的な規制への転換で
あり、先に示した定式が、他業態の金融取引仲介者にも適合的なのか保険仲介者に特有の
定式であるのかが検討課題となる。
5.EU 保険仲介者指令を踏まえた検討
2002 年 9 月に採択された EU 保険仲介者指令は、本稿の問題意識と極めて近似したア
プロ−チを採用している。同指令は、保険仲介者に対する規制枠組みや市場行動に大きな
変革を求めるものであり、今後の各国国内法化の動向を踏まえた検討が課題である。
以
10
上