人事考課についての基礎知識

人事考課についての基礎知識
人事考課、給与体系の手引き
目
次
1. 人事考課制度について
Ⅰ.人事考課についての基礎知識 …P.2
Ⅱ.人事考課の進め方
…P.4
2. 給与体系について
Ⅰ.給与体系の基本的な考え方
1
…P.9
1.人事考課制度について
Ⅰ.人事考課についての基礎知識
1.人事考課の意味・目的は?
人事考課とは、個々の従業員の勤務態度・職務能力・勤務実績を、直接に経営者が査定する制度です。考課を行う際は、
合理的に制定された一定の考課項目・スキームを予め定めておく必要があります。
従業員は誰でも、自身の働き・成果・能力に対し公正に評価されたいと思っている訳ですが、そうではなく経営者の好き嫌
いや、性格の一致・不一致などで評価されたのでは、従業員の能力開発はおろか、定着率は低迷し、専門性のある優秀な
スタッフをかかえたプロフエッショナルな体制を築くのは困難と思われます。
そのような人事考課における経営者の恣意性をなくすために、公平かつ客観的で、従業員にオープンにできるような人事
考課制度を持つことは、経営を安定化していく上で必要です。
人事考課の目的は次の通りです。
(1)従業員の指導・育成の指針とする。
従業員に必要としている職務や課題と本人の能力や実績を比較・分析し、指導・教育、または自己啓発のための指針と
する。
(2)公正・公平な昇給・昇格の査定を行う。
従業員の能力や実績を一貫した方法で評価し、公正で公平な昇給・昇格に結びつけ、処遇に対する納得感を持たせ
る。
(3)安心して働けるルール作り
就業規則もそうですが、給与体系や人事考課制度作成し、従業員にオープンにすることにより安心感や公平感、納得感
が得られ、従業員の定着化が図れます。
上記のように、人事考課の目的は単に昇給・昇格を決めるだけでなく、従業員の能力開発と育成を基本として、処遇に
納得感がありやる気のある生き生きとした組織作りと、安心して働ける即ち従業員の定着化を目指す制度であり、その観
点に立った運用が求められます。
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2.人事考課を行う際注意すべきことは?
人事考課を行う際には、当然のことながら公平・公正を期す必要がありますが、そのためのポイントは次の通りです。
(1)
考課の評定基準や評価方法を客観的・明確に定めておく。
(2)
経営者以外に管理職がいる場合、第一次考課者をその管理職とし、経営者自身は第二次考課者になるなど、 複
数名で考課する体制にする。
(3)
考課に当たり生じやすい心理的偏向をできるだけ是正するよう努める。公正にしようとしても考課者が自然におかし
てしまう心理的偏向には、主に次のようなものがあります。
a.中央化傾向
評価が平均並みになり、優劣の差が生じない傾向(考課結果が中央に集中)。考課者に自信がない場合、考課基
準が不明確な場合などに生じます。
b.寛大化傾向
特定の特性について、評価が実際以上に甘くなってしまう傾向。(考課結果が上位に集中)考課者の観察不足、部
下に対し必要以上に人情が働いている場合に発生します。
c.ハロー考課
部下の評価要素の中に、一部特に優れたものや劣悪なものがあると、他の要素も良く思えたり、悪く思えたりすると
いう傾向。部下についての印象ができあがってしまっている場合に生じます。
3.職能等級制度とは?
職務遂行能力の程度によっていくつかの等級を設け、従業員を該当等級に格付けするものです。この等級は、職務能力
の困難度や責任度などをベースに職能等級を設定し、各等級区分に該当する職務遂行能力の種類や程度を明確にした
基準を設け、この基準にもとづいて人事考課を行う制度です。等級のアップが「昇格」ということになります。
このような職能等級制度を、給与システムと結びつけ、職能給制度として、給与モデルプランを作成します。
4.目標チャレンジ(自己申告)制度とは?
人事考課の限界として一般に言われているのは、あくまでも他人評価であるということです。誰しも主観的な傾向から完
全には脱し切れるものではなく、勤務成績や業績のような顕在的なものでしか見ることができません。
そこで人事考課に加えて、従業員自身による自己申告制度などの自己評価の要素も入れて調整を図るのが一般的です。
その際、本人の潜在的能力および顕在的能力の把握を多角的に行い、総合的に勘案して決めるのが望ましいと言えま
す。
自己申告の具体的な内容としては、担当職務(職務の遂行状況、目標及び達成状況、新たな職務希望等)、自己の能力
開発(能力の活用状況、今後伸ばしたい能力等)、その他(職場に対する要望、健康状態・家族の状況等)などです。
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Ⅱ.人事考課の進め方
1.人事考課のステップ
人事考課には次の2つの要素があります。
(1)単年度評価
考課対象期間である1年間の、能力の発揮度及び成果について評価します。従って当然のことながら、毎年必ず行わ
れることになります。
(2)等級評定
上記の単年度評価の結果など、一定条件を満たした者に対し、職務遂行能力に基づき等級評定を行います。単年度評
価が1年間の能力の発揮度の評価であるのに対し、等級評定は入社以来蓄積された能力の保有度を評価するもので
す。等級が上がれば昇格、下がれば降格であり、それに連動して給与の職能給が上下することになります。
2.単年度評価の仕方(評価給対応部分)
(1)評価の大項目
営業職・事務職どちらも基本的には職務能力と取組姿勢と成果の3つを評価項目としていますが、それぞれの求められ
る役割から、ウエイト配分します。
職務能力
取組姿勢
成 果
合計
営業職
30
30
40
100
事務職
30
40
30
100
(2)評価の小項目
上記3つの側面(大項目)について正しく評価できるように、次表の通り職務能力と取組姿勢については、4項目に、成
果については2項目に細区分(小項目)しております。
営業職
事務職
※
職務能力
取組姿勢
成果
職務知識
計画性
短期的成果
判断力
責任感
長期的成果
業務遂行力
チャレンシ゛意欲
指導力
協調性
職務知識
マナー
正確性
判断力
責任感
効率性
対人対応力
チャレンシ゛意欲
指導力
協調性
内は、営業職・事務職の独自(固有)の項目です。
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(3)評価の仕方
職能等級表に基づき、小項目評価→大項目評価→評価ランク決定の手順となります。
(a)小項目評価
小項目それぞれに評価のポイントとして次の例のような着眼点を説明しております。
例 職務知識・・・担当業務を自ら行うのに必要な知識を身につけているか
これに基づき、小項目それぞれにa~eまでの5段階評価をします。
その際の、a~eの評価区分は次の通りです。
a:特に優れている
b:優れている
c:普通
d:努力を要する
e:特に努力を要する
(b)大項目評価
次に、小項目の評価を勘案して、大項目の評価を決めますが、小項目の評価結果と大項目評価の間には、点数
化するなどのルールは特に設けておりません。これは小項目の中でも重点とする評価項目の 評価を優先する、
長所主義でプラス評価するなど経営者の考えで柔軟に対応できるようにするためです。
大項目の評価区分も小項目と同じですが、評価区分別に点数が決まっていますので該当点数にマークをします。
(c)評価ランク決定
「評価」欄を用い、大項目の評点を加算して合計点を出し、評価ランクを決定します。これは大項目の合計点により、
次のように区分しています。
A:91~100 特に優れている
B:81~90
優れている
C:71~80
普通
D:61~70
E:50~60
努力を要する
特に努力を要する
この評価ランクにより、給与テーブルの評価給が決まります。
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(例)
職能給
A
1等級
2等級
3等級
4等級
5等級
6等級
190,000
215,000
245,000
280,000
320,000
365,000
15,000
18,000
21,000
24,000
27,000
30,000
B
10,000
12,000
14,000
16,000
18,000
20,000
評価給
C
5,000
6,000
7,000
8,000
9,000
10,000
D
2,500
3,000
3,500
4,000
4,500
5,000
E
0
0
0
0
0
0
3 .等級評定の仕方(職能給対応部分)
(1)実施条件
等級評定は毎年行うものではなく、次の条件を満たす場合に実施します。
(a)上位等級への等級評定(昇格)の場合
・等級別の最短在留年数*を満たしている。
・等級評定実施時の単年度評価における評価ランクがAである。
最短在留年数
1等級
2年
※「最短在留年数」とは、ある程度の期間一定の等級に在留させ、教育訓練、自己啓発
2等級
3年
により、各人の職務能力をじっくり養ってもらう事が望ましいことから、一定期間は
3等級
4年
上位等級に昇格できないルールです。
4等級
4年
5等級
4年
6等級
4年
(b)下位等級への等級評定(降格)の場合
・等級評定実施時の単年度評価における評価ランクがEである。
(2)評価の仕方
職能等級表および下記の職能等級概要記述に基づき、どの等級に格付けするのが適当かを判断します。
1等級・・・・自らの業務について、上司の指示を仰ぎながらも、ほぼ自立して行うことができる。
2等級・・・・自らの業務について、ほぼ自立して行うことができる。
3等級・・・・自らの業務は自立して対応し、下位者の指導も行うことができる。
4等級・・・・自らの業務は申し分なく対応し、下位者の指導・管理も行える。
5等級・・・・組織全体に目が行き届き、下位者に対し適切な指導・管理ができる。
6等級・・・・経営者的な視点から、問題点の把握・分析、対応策を立案し、実行することができる。
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等級評定における評価区分は次の通りです。
優:上位等級の業務に十分対応できる
(上位等級へ昇格)
良:上位等級の業務に対応できる
( 〃
可:現等級維持が相応しい
(現等級のまま)
不可:現等級の業務に対応できていない
)
(下位等級へ降格)
従って、上位等級へ昇格する場合の評価は、優・良のいずれかに、下位等級へ降格の場合には、不可が評価結果とな
ります。
(3)単年度評価ランクの調整
等級変更があった場合には、単年度評価のランクについて、次の通り調整します。これは、給与の大幅な上下を防ぐた
めに評価給で調整をするのと、同じ昇格でも優と良の評価で差を設ける意味があります。
等級評定
優
単年度評価ランク
上位等級のC
良
不可
〃
D
下位等級のA
4.人事考課結果のフィードバック
人事考課制度は単に処遇の決定のみを目的としたものではなく、従業員の育成に資するものにするという観点から、考
果のフイードバック(考課結果の口頭での伝達)は大変重要です。この際には、考課結果(等級・ランク)のみを伝えて終える
のではなく、優れていた点や劣っていた点、および今後の課題等について十分な対話を行うことにより従業員に認識させ、
具体的な能力開発につながるよう努めて下さい。
5.目標チャレンジ(自己申告)制度
(1)目的
目標チャレンジ(自己申告)制度には、既に記述の通り、他人評価である人事考課の限界に対する補足策として、次の通
りいくつかの目的があります。
①従業員に 1年間の「課題・目標」を正しく認識させ、その取組状況を年間を通して上司がフオローすることにより、計
画的・具体的に本人の能力開発を推進する。
②人事政策上把握しておくべき従業員の身上情報(退職希望・担当職務希望、本人及び家族の健康状況)等の情報
を確実に収集できる機会とする。
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(2)実施方法
次の通り年間3回実施します。
①年度初め(年度が4~3月の場合、4月実施)
課題・目標の設定欄を用いて、事前に従業員に記入させ、それが適切かどうか話し合いをします。ポイントは、経営
者自身が取り組んでもらいたいことと本人が取り組みたいと思っていることのすりあわせを、年度のスタート時点で行
うということです。
②中間面接(10月実施)
年度初めに設定した課題・目標の達成状況の振り返りと、課題・目標の追加・修正の検討を行います。
③振り返り面接(翌4月実施)
実施時期は、翌年の年度初めの面接と一緒になります。
本人が記入した成果ならびに評価を踏まえ、過去1年間の課題・目標の達成状況について評価し合います。特に本
人評価と経営者の見解が食い違う点については、十分に話し合い事実認識を共有化しておく必要があります。
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2.給与体系について
Ⅰ.給与体系の基本的な考え方
1. 能力主義と年功制
給与の基本給を決めるものとして、属人的要素(年齢・勤続年数・学歴)によるものと、 仕事的要素(職務遂行能力)によ
るものと2つがあります。前者を年功給、後者を能力給と呼ぶことができますが、我が国の企業の給与システムは、従来の
「年功制」から「能力主義」へと大きく転換しつつあります。それは、経済の高度成長時代を終え、右肩上がりの成長が約束
されない状況となった今日、年功制における次のような問題点が顕著になってきたからです。
① 従業員の年齢上昇により賃金コストが大きくなる。
② 能力と賃金額に格差があると、特に若年層のやる気を喪失させる。
③ 年功給で将来の生活保障があると、安易な仕事の遂行になる。
2. 業績主義(歩合制)について
「能力主義」で言う能力は顕在化された職務遂行能力、即ち、仕事ができる能力、実績が出せる能力を言いますが、仕事
と処遇、業績と処遇の関係付けはどちらかというと間接的で、短期的には仕事・業績と処遇は一致させないのが一般的です。
それらは中長期的に見て一致することを前提に能力主義の人事・処遇制度は成立しており、短期的な結果だけに目を向け
るのではなく、中長期観点からじっくり人材を育てその上で育成、開発した能力を適材適所で発揮してもらい成果・業績に結
びつけていく考え方です。
一方、「成果・業績主義」(歩合制)は短期的な結果を重視し処遇に反映させる考え方で、
一見合理的な様ですが、短期的な成果は個人のみの力で出せるわけではなく①外部要因(不景気による客の倒産、天災、
保険料の引き下げ、直販会社の参入等)②内部要因(経営者のアドバイス・サポート、他の従業員の協力、担当の変更等)
③本人要因(病気・けが、個人的悩み等)で大きく左右されます。
更に、経営規模が小さければ小さいほど成果・業績に変動を受けやすいことを考えますと、「能力主義」に重点を置いた
給与体系が望ましいといえます。
3. 総額賃金管理
給与を支払う際に経営者として留意すべき事項として、総額賃金管理(組織全体の賃金総額の管理)があります。
この管理手法としては、労働分配率による方法を考えています。これは付加価値(事業活動の結果、新たに生み出された価
値=粗利)に労働分配率(粗利の中から支払われた賃金、社会保険・福利厚生費などの割合をいう)を乗じ、適正賃金総額
を算定するやり方です。
賃金総額(含む役員報酬)フアンド=粗利総額×55%
ここで算出された賃金総額には、経営者・役員に支払われる役員報酬・役員賞与も含まれますので、従業員だけに支払わ
れる賃金総額は、役員分をマイナスする必要があります。
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4. 賞与(ボーナス)について
賞与には報償金的性格や、企業の利潤分配的な性格がありますが、業績変動リスクに対応し、賃金総額を調整する安全
弁的な機能を与えることもできます。すなわち決算の結果、思うように粗利収入が伸びず(または減収となり)、当初予定して
いた賃金総額の支払いが難しい見通しの場合、その調整を賞与支払額で行うことが可能です。こうすることにより、貴社経
営をより安定させることができますし、従業員にとっても生活給としての毎月の給与(月例給)は保証されることになります。
<賞与金額の決め方例>
・従業員給与フアンドの内、20%を賞与分とする。
・決算の結果、賃金総額の調整が必要であれば、賞与フアンドで調整する。
従って賞与金額については、業績により支給金額を決定するということですが、全員が頑張り予定以上に業績(粗利総額)
が増えれば、多く配分されますし、逆もあるということです。
従業員個々の賞与金額決定方法は、年間の月例給合計額によって、賞与フアンドを按分配分する方法が簡便かつ納得
感も得られやすいと思います。金額を賞与支給の都度、査定するという考え方もありますが、評価スキームが複雑になりま
すので、避けた方が良いでしょう。
賞与算出の具体例は次の通りです。
<前提条件>
賞与ファンド計:5000万
人数構成:役員、従業員3名
役員収入:役員報酬1250万+賞与250万=1500万
従業員分:従業員A月例給 25万…年額300万
B 〃
20万… 〃240万
C 〃
15万… 〃180万 (3名合計:720万)
<算出例>
従業員給与フアンド…5000×0.55-1500=1250万
〃 賞与フアンド…1250×0.2=250万
従業員A分…250×300÷720=104万
〃 B分…250×240÷720= 83万
〃 C分…250×180÷720= 63万
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