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平成20年度サービス生産性向上支援調査事業
北海道の観光産業のグローバル化促進調査事業
報
告
書
平成21年3月
経済産業省 北海道経済産業局
1
はじめに
北海道経済産業局では、
本年度、
サービス産業生産性向上支援調査委託費により、アジア、
豪州等からの富裕層を中心とした外国人観光誘客の拡大方策等を検討する
「北海道の観光産
業のグローバル化促進調査事業」を実施しました。
(委託先:財団法人日本交通公社)
観光産業は経済波及効果の高い産業であり、地域の特性を活かした取組は、北海道にとっ
て幅広い産業に経済効果をもたらすことが期待されています。しかしながら、同産業の主た
る市場である国内観光人口は、尐子高齢化等によって長期的な縮小が見込まれており、その
持続的な成長、発展には課題も尐なくありません。
こうした中、北海道には年間約 71 万人の外国人観光客が訪れており、国際的な旅行市場
の増大や、昨年 7 月の北海道洞爺湖サミットの開催をはじめとした各種取組によって、今
後、
その数はますます増加することが見込まれており、特にアジア圏からの富裕層の増加は、
北海道の観光産業、そして、地域に大きな経済効果をもたらすものと期待されています。
一方で、国内外では外国人観光誘客に係る取組が積極化しており、北海道観光はグローバ
ル競争に晒されています。北海道観光が十分な国際競争力を持つためには、外国人観光客の
顧客満足を高めつつ、
観光消費行動の活発化等に繋がるための取組を行うことが必要であり、
具体的には、観光客のニーズに対応した質の高いサービス提供と、それを実現するためのサ
ービスインフラ整備を進めていくことが必要と考えられます。
以上の現状認識を踏まえ、本調査事業では、国内や道内におけるグローバル化先進地であ
るニセコ地域の観光産業・地域におけるグローバル化の取組や市場動向を整理しながら、道
内観光産業・地域のグローバル化に向けた基本的な方向性について検討しました。
その上で、2つのモデル地域(洞爺湖、夕張)を対象に、グローバル化に向けた方向性と
取組について検討するとともに、3 つ目のモデル地域(ニセコ地域)において、サービスイ
ンフラの一つとして「通訳システム」の実証調査を行い、外国人観光客の再来訪促進や観光
消費額の向上に資するサービス提供のあり方について検討しました。
なお、
本調査事業の実施に当たっては、有識者や観光業等で活躍される方々で構成する「北
海道観光産業グローバル化促進研究会」
(座長:北海道大学観光学高等研究センター 石森
秀三センター長・教授)を設置し、グローバル化を進めるための外国人観光客に対応するサ
ービス提供内容や方法、
サービスインフラ整備のあり方等について、
ご検討いただきました。
ここに、関係各位のご指導、ご協力に対し厚くお礼申し上げます。
平成21年3月
経済産業省 北海道経済産業局
産業部 サービス産業室
平成20年度サービス産業生産性向上支援調査事業
北海道の観光産業のグローバル化促進調査事業報告書
<目次>
序章 ........................................................................... 1
第1章 北海道観光グローバル化の現状と課題 ..................................... 3
1.観光のグローバル化の現状及び展望 .......................................... 3
(1)グローバル観光の現状..................................................... 3
(2)グローバル観光の展望..................................................... 5
2.我が国の観光のグローバル化の現状及び展望 .................................. 6
(1)我が国のグローバル観光の現状 ............................................. 6
(2)我が国のグローバル観光の展望 ............................................ 10
3.北海道観光のグローバル化の経緯と現状 ..................................... 12
(1)北海道観光のグローバル化の成果 .......................................... 12
(2)
【ケーススタディ】ニセコ地域におけるグローバル化事例 ..................... 17
4.北海道観光のグローバル化の課題 ........................................... 23
(1)北海道観光のグローバル化における課題 .................................... 23
(2)北海道観光のグローバル化における課題の背景 .............................. 25
第2章 北海道観光のグローバル化の進展に向けて ................................ 26
1.グローバル化に必要な視点 ................................................. 26
(1)観光グローバル化の目的.................................................. 26
(2)観光振興を経済振興につなげるには ........................................ 26
2.北海道観光のグローバル化の基本的な方向性 ................................. 28
3.北海道観光産業の生産性向上に向けて ....................................... 30
(1)グローバル競争下における観光事業者の役割 ................................ 30
(2)生産性向上の基本的な考え方.............................................. 32
(3)生産性向上に資する取組 4 領域 ............................................ 33
第3章 ニセコ地域における外国人観光客 CS 調査、及び通訳サービス実証調査 ....... 36
1.外国人観光客CS調査 ..................................................... 36
(1)概要 ................................................................... 36
(2)調査結果 ............................................................... 37
2.通訳サービス実証調査 ..................................................... 49
(1)概要 ................................................................... 49
(2)実証結果 ............................................................... 50
(3)事業性及び課題整理...................................................... 52
1
第4章 観光産業グローバル化のためのモデルフィールド調査 ...................... 54
1.【洞爺湖地域】外国人観光客の変動を見越した観光産業のあり方検討 ............ 54
(1)九州・沖縄サミット開催前後の観光入込動向及び対応策の状況 ................ 54
(2)洞爺湖地域における観光の現状と課題 ...................................... 57
(3)サミット開催後の洞爺湖地域のグローバル観光へ向けた取組方策案 ............ 60
2.【夕張地域】地域における観光再生方策の検討 ................................ 67
(1)観光産業の再生事例...................................................... 67
(2)夕張地域における観光の現状と課題 ........................................ 71
(3)観光産業を再生させるために必要な方策 .................................... 74
第5章 北海道観光グローバル化促進に向けての「3つの提言」 .................... 79
< 資料編 >
1
サービスインフラいい事例集 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 81
2
ニセコ地域における通訳サービス実証調査関連資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 93
3
北海道観光産業グローバル化促進研究会の記録 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 107
2
序章
1.調査の背景と目的
観光産業は経済波及効果の高い産業であり、地域の特性を活かした取組は、北海道にとって
幅広い産業に経済効果をもたらすことが期待されている。しかしながら、同産業の主たる市場
である国内観光人口は、尐子高齢化等によって長期的な縮小が見込まれており、その持続的な
成長、発展には課題も尐なくない。
こうした中、北海道には年間約 71 万人の外国人観光客が訪れており、国際的な旅行市場の増
大や、
道内における昨年 7 月の北海道洞爺湖サミットの開催をはじめとした各種取組によって、
今後、その数はますます増加することが見込まれている。特にアジア圏における富裕層の増加
は、北海道の観光産業、そして、地域に大きな経済効果をもたらすものと期待されている。
一方で、国内外では外国人観光誘客に係る取組が積極化しており、北海道観光はグローバル
競争に晒されている。北海道観光が今後とも十分な国際競争力を持っていくためには、北海道
観光の水準を一段高め、外国人観光客の顧客満足を高めつつ、観光消費行動の活発化等に繋が
るための取組を行うことが必要である。具体的には、観光客のニーズに対応した質の高いサー
ビス提供と、それを実現するためのサービスインフラ整備を進めていくことが必要と考える。
以上の現状認識を踏まえ、当調査事業では、道内外の観光産業・地域におけるグローバル化
の取組や市場動向を整理しながら、道内観光産業・地域のグローバル化に向けた基本的な方向
性について検討を行う。その上で、2つのモデル地域(洞爺湖、夕張)を対象に、より具体的
にグローバル化に向けた方向性と、取組事項について検討を行う。
さらに、3 つ目のモデル地域(ニセコ地域)において、サービスインフラの一つとして「通訳
システム」の実証事業を行うことで、外国人観光客の再来訪促進や観光消費額の向上に資する
サービス提供のあり方について整理を行うことを目的とする。
2.調査概要
(1)観光グローバル化事例の把握及び分析
国内のグローバル化先進地の発展過程等を分析し、現在に至るまでのきっかけ、要素、取組
等を抽出するとともに、グローバル化に必要な取組等について把握する。
① 地域への外国人観光客の入込数及び消費動向
② 外国人観光客に対応した国内事業者の取組事例の把握等
(2)ニセコ地域における発展過程分析
北海道のグローバル化の先行地域であるニセコの発展過程を分析する。
①ニセコ地域のグローバル化の過程分析
②ニセコ地域における国内事業者の対応状況等
(3)モデル地域を対象としたグローバル化方策の検討
グローバル化の進展状況に応じた道内 2 地域(洞爺湖、夕張)をモデルフィールドとし、具
体的に、各地域における新しいグローバル化方策について検討を行う。
1
①外国人観光客の増加を見越したグローバル化方策検討調査【洞爺湖地域】
洞爺湖地域では、2008 年 7 月に開催された北海道洞爺湖サミットを契機に外国人観光客の増
加、特にサミット会場が集客の核となったアジア圏からの富裕層等の入込の活発化が期待。
こうした状況にあって、地域で長期的・持続的に外国人観光誘客を図るための方策等につい
て検討する。
②地域でのグローバル化による観光再生方策調査【夕張地域】
夕張地域では、指定管理者制度の導入により民間企業が当該地域の観光産業の再生に取組、
外国人観光客の増加等で成果を上げはじめている。こうした外国人観光誘客の拡大等による
観光産業の再生は、その他の多くの地域での活用例ともなり得ることから、夕張地域の観光
再生に向けた取組方策について、特にグローバル化の観点から検討を行う。
(4)モデル地域を対象としたサービスインフラ整備実証調査
グローバル化の進展した観光地においては、顧客満足度(再来訪や口コミへの効果)の向上
や、消費単価の増大を目的にサービスインフラの整備が必要とされる。そのサービスインフラ
の一つとなる「通訳サービス」について、ニセコ地域にて実証調査を行うことで、今後の利用
拡大方策等について検討する。
①通訳サービス実証調査【ニセコ地域】
豪州やアジア圏等の外国人観光客で賑わうニセコ地域では、外国人観光客が地域の病院で診
察を受けたり、商店街等で買物、飲食したりするケースが増加。一方、現状、外国人に対す
る通訳提供体制(観光サービスインフラ)が十分ではなく、今後の外国人観光誘客のために
継続可能な通訳提供サービスの仕組みを構築することが必要。このため、インターネット通
話システムを活用した通訳サービスを現地で提供することにより、実用化の可能性等につい
て検証する。
3.研究会の設置
事業に当たっては、
「北海道観光産業グローバル化促進研究会」を設置し、本調査事業の結果
や先進地事例分析等を踏まえ、北海道の観光事業者や地域に対し、外国人観光客に対するサー
ビス提供や、サービス提供のためのインフラ整備のあり方等についてとりまとめ、提言を行う。
<研究会委員名簿>
座長
石森 秀三
北海道大学観光学高等研究センター センター長・教授
委員
有塚 宣夫
社団法人北海道観光振興機構 事務局長
委員
大西 雅之
株式会社阿寒グランドホテル 代表取締役社長
委員
國枝 弘二
有限責任中間法人ニセコ倶知安リゾート協議会 事務局長
委員
張
株式会社北海道チャイナーワーク 代表取締役社長
委員
ベン カー
株式会社 NISEKO REAL ESTATE 代表取締役
委員
山本 光子
株式会社電通北海道 主管 ディレクター
相律
2
第1章 北海道観光グローバル化の現状と課題
本章では、現在の観光市場の傾向を把握するため、先ず、世界のグローバル観光の動向を確
認する。そして、日本全体のグローバル化の現状について把握した後、北海道観光グローバル
化の動向と課題について整理する。
1.観光のグローバル化の現状及び展望
(1)グローバル観光の現状

国際観光市場は、堅調な伸びを示している。

特にアジア地域の伸びは大きく、近年は前年比 10%近く増加している。その中でも、中国
市場の拡大は著しく 2000 年には 1,000 万人に過ぎなかったが、2002 年に日本を、2005 年
にはマレーシアを抜いてアジア No.1 となり、2007 年には 4,095 万人に達している。

我が国及び北海道としては、こうした大きな環境変化「観光ビッグバン」に対応し、国際
的な競争力をもった観光地づくりを行っていくことが求められている。
図 1-1 国際旅行到着数の推移
'千人(
1,000,000
897,700
900,000
846,390
802,828
800,000
764,483
702,854
696,758
700,000
636,581
692,583
651,647
689,689
600,000
500,000
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
出典:世界観光機関(UNWTO)
図 1-2 中国人海外旅行者数の推移
'万人(
4,500
4,095
4,000
3,452
3,500
2,885
3,000
2,500
2,022
2,000
1,500
3,103
1,660
1,047
1,213
1,000
500
0
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
出典:世界観光機関(UNWTO)
3
図 1-3 国別の出国者数及び入国者数
外国人訪問者数'2007年 上位30位(
出国者数'2006年 上位30位(
71,200
69,536
63,662
ドイツ
英国
米国
ポーランド
中国
ロシア
イタリア
カナダ
スロバキア
フランス
ポルトガル
ハンガリー
日本
ウクライナ
オランダ
メキシコ
スウェーデン
韓国
スペイン
オーストラリ
ルーマニア
台湾
インド
トルコ
ベルギー
アイルランド
デンマーク
フィンランド
香港
シンガポール
シンガポー
44,696
34,524
29,107
25,697
22,732
22,688
22,466
18,378
17,612
17,535
16,875
16,695
14,002
12,591
11,610
10,676
10,042
8,906
8,671
8,340
8,275
7,852
6,848
6,142
5,756
5,739
5,533
0
20,000
40,000
5位
10位
15位
20位
25位
30位
60,000
81,900
フランス
スペイン
米国
中国
イタリア
英国
ドイツ
ウクライナ
トルコ
メキシコ
マレーシア
オーストラリア
ロシア
カナダ
香港
ギリシャ
ポーランド
タイ
マカオ
ポルトガル
サウジアラビア
オランダ
エジプト
クロアチア
南アフリカ共和国
ハンガリー
スイス
日本
シンガポール
アイルランド
80,000
'千人(
59,200
56,000
54,700
43,700
30,700
24,400
23,100
22,200
21,400
21,000
20,800
20,200
17,900
17,200
16,000
15,000
14,500
12,900
12,300
11,500
11,000
10,600
9,300
9,100
8,600
8,400
8,300
8,000
8,000
0
20,000
5位
10位
15位
20位
25位
30位
40,000
60,000
80,000
100,000
'千人(
出典:JNTO「日本の国際観光統計」
表 1-1
地域別外国人観光受入数及び国際旅行収入の推移
出典:国土交通省「観光白書」
図 1-4 諸外国における旅行消費額の国内・海外比率
42.5
スイス'04
57.5
75.6
オーストラリア'04
54.4
47.4
オーストリア'00
52.6
53.9
55.1
ニュージーランド'05
スペイン'04
46.1
44.9
67.4
70
スウェーデン'05
カナダ'00
32.6
30.0
70.5
ノルウェー'04
29.5
8 1Z. 9
83
イギリス'00
ドイツ'00
18.1
17.0
85.7
アメリカ合衆国'03
14.3
日本'04
93.3
93.5
6.7
6.5
日本'03
94.3
5.7
日本'05
0%
10%
20%
30%
40%
国民の旅行消費
4
50%
60%
70%
外国人の旅行消費
80%
90%
100%
出典:国土交通省「観光白書」
(2)グローバル観光の展望

世界観光機関(UNWTO)では、21 世紀初頭に、国際観光市場が爆発的に増大することを
指摘している。

しかし、昨年勃発した国際的な金融危機を受け、直近については旅行需要の世界的減速も
指摘している。
表 1-2 拡大する国際観光市場
区 分
平成15年の外国人
旅行者受入数
'百万人(
平成22年の
外国人旅行者
受入数の推計
'百万人(
平成12年~22年の
年平均増加率の
推計'%(
全世界
691.0
1006.4
4.2
アフリカ
30.8
47.0
5.6
南北アメリカ
113.0
190.4
3.9
東アジア・太平洋
112.9
195.2
7.7
欧州
398.8
527.3
3.0
中東
28.8
35.9
7.0
南アジア
6.4
10.6
6.7
出典:世界観光機関(UNWTO)
図 1-5 全世界の国際観光客数の推移
12%
10.3%
10%
7.8%
8%
6.6%
5.4% 5.5%
6%
4.2%
4% 3.0%
3.0%
3.7%
予測
2~3%
2.9%
2%
-1.7%
0.0%
0%
2009
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
2008
予測
0~2%
-2%
1995
伸び率
6.2%
出典:世界観光機関(UNWTO)
5
2.我が国の観光のグローバル化の現状及び展望
(1)我が国のグローバル観光の現状

平成 14 年(2002 年)2月の小泉首相による国会での施政方針演説での観光立国宣言、同
年 12 月の「グローバル観光戦略」策定及び平成 15 年(2003 年)3月から始まった「ビジ
ット・ジャパン・キャンペーン(以下、VJC)」以降、訪日外国人旅行者数を平成 22 年(2010
年)までに倍増の 1000 万人にすることを目指した取組が積極的に展開されている。

VJC の取組以降、訪日外国人(以下、外客)は順調に増大し、飽和状態にある国内宿泊旅
行市場を補完する存在となっている。ただし、その伸び率はアジア・太平洋地域の平均値
に留まっており、今後さらに増加する可能性は大きいと考えられる。

また、外客は、国内客に比して、滞在日数や消費単価が高い傾向にあるため、人数だけで
なく単価の点でも注目される市場となっている。ただし、周遊型・団体型の旅行形態が多
いこともあり、実際に地域や宿泊施設での個別単価は低い場合も尐なくない。

このように、外客誘致による観光立国への取組は、全体として着実に進みつつあるが、そ
の歩みは途上にあり、今後とも持続的な取組が求められている。
図 1-6 訪日外国人旅行者数の推移
千人
9,000
8,347
8,000
7,334
6,728
6,138
7,000
6,000
5,212
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
昭和51年
56年
61年
平成3年
8年
13年
18年
出典:国際観光振興機構(JNTO)
表 1-3 訪日外国人と国内宿泊旅行客の滞在日数(宿泊数)
訪日外国人 '滞在日数(
国内宿泊旅行客'宿泊数(
'日(
平成17年 平成18年 平成19年
8.0
7.2
6.5
1.72
1.70
1.58
出典:JNTO「日本の国際観光統計」
、財団法人日本交通公社「旅行者動向」
6
表 1-4 訪日外国人と国内宿泊旅行客の旅行消費単価
'千円(
平成17年 平成18年 平成19年
108.6
134.3
131.7
35.60
34.31
34.44
訪日外国人
国内宿泊旅行客
出典:日本銀行、JNTO、東洋経済新報社、財団法人日本交通公社「旅行年報」
※旅行収支の算出方法は平成 18 年より変更された。平成 17 年の数値は新手法による試算値。
図 1-7 アジアにおける国際旅行到着数の推移
300
%
日本
マカオ
中国
アジア・太平洋地域
250
200
150
100
※平成 10 年の到着数を「100」とした場合の指数
50
平成10
平成11
平成12
平成13
平成14
平成15
平成16
平成17
平成18
年
出典:JNTO「日本の国際観光統計」
、UNWTO「国際観光概観」より財団法人日本交通公社作成
図 1-8 訪日外国人旅行者数の推移(上位7カ国)
300
'万人(
韓国
台湾
中国
アメリカ
香港
オーストラリア
250
200
150
100
50
0
平成9年
11年
13年
15年
17年
19年
出典:国土交通省「平成 20 年版観光白書」
7
表 1-5 国内における観光グローバルへの取組事例
ゴルフツアーで韓国人の集客に成功 ~福島県
福島県が韓国からのゴルフ客を前年比 48.6%増(56,604 人)と急増させた。結果、平成
19 年末からは福島-ソウル便は週 3 便から週 5 便に増便され、平成 20 年夏には就航以
来初めてとなる毎日運行となり、80%を超える搭乗率となっている。
成功の要因
韓国内のゴルフ人口の高まり、韓国と県内のゴルフプレー料金の差額、県
内ゴルフ場の観光資源としての優位性といった点に注目し、福島空港の有
効活用を絡める形で、官民で韓国ゴルファーの誘致に取り組んできた結果
である。福島県では国内のゴルフ事業者の破綻に伴い、韓国資本がゴルフ
出典:財団法人日本交通公社
場を取得するケースが尐なくなかった。これらのゴルフ場では、韓国人に
対し安価でゴルフ会員権を販売、また、アシアナ航空と連携した旅行商品
づくりに取り組んできた。これに福島県も連動し、韓国の雑誌で県内のゴ
ルフ場の紹介を行ったり、旅行商品の商談会にて PR を行ったりすること
で認知度を高め、この急増につながった。
出典:福島空港カントリークラブ HP
より
振興による効果
もともと福島県のゴルフ場は、国内需要では週末型であり、平日の稼働率
が低いのが課題であったが、こうした韓国ゴルファーの来訪は、人数だけ
でなく、曜日格差の解消にもつながっている。
トップセールスとイベント開催で集客に成功 ~富士河口湖町
古くからの観光リゾート地であるが、ゴールデンルート(外客が多く訪れる東京~大阪
間)から外れ、温泉資源にも乏しい富士河口湖町が、外国人宿泊者数を 4 年間で倍増さ
せ、17 万人に達した。
成功の要因
富士河口湖町では、早い段階から町長自らがアジア圏を訪問し、トップセ
ールスを行うとともに、中国の旧正月の時期にあわせて日本の冬文化を伝
える春雪ウィークやハーブフェスティバル、紅葉まつりを開催するなど、
セールスとイベント開催を矢継ぎ早に行うことで、外客来訪観光地として
の位置づけを確立した。
振興による効果
外客の来訪は、富士河口湖町への観光客を増大させ、平成 19 年には「観光
立町推進条例」を制定するなど、同地域の観光との結びつきをより強いも
のとした。しかしながら、外客の約 6 割が夕方宿に着いて、翌朝旅立つ団体
出典:財団法人日本交通公社
旅行であるため、一泊が全体の 7 割を占め、団体型観光地というモデルは、
変わっていない。現在同地域では、2 次交通の充実や、エコツーリズムの
取組などによって、滞在時間の増加を図っている。
8
サービスインフラの充実によって再生
~箱根町
日本最古参と呼べる観光リゾート地である同地は、社会経済環境の変化によって長らく
低迷期にあったが、10 年振に 2,000 万人台(うち宿泊客は 470 万人)に回復した。外国
人宿泊客はその内約 17 万人を占め、前年比 143%となっている。
成功の要因
成功の背景には、立地を含めた、もともとの観光資源の優位性があるが、
近年の急増は、外国人観光客向けのサービスインフラの充実が指摘できる。
これによって、首都圏に来訪する外国人観光客の呼び込みに成功した。具
体的には、春節の時期に「春節遊客キャンペーン」として割安な外国人旅
行者専用のフリー切符(春節限定箱根フリーパス)の販売や、交通施設で
の多言語案内、案内表示の充実、箱根湯本駅での多言語対応による旅行荷
物のホテル・旅館等への搬送サービス(有料)の実施などが挙げられる。
振興による効果
出典:箱根ナビHPより
本地域は、企業の保養所閉鎖や各種施設の老朽化などによって、集客力を
落とし、長らく低迷期となっていた。しかし、我が国への外客増加の流れ
を背景に、内外の資本によって投資が再び促進され、地域が活性化しつつ
ある。特に同地域を貫く箱根ロープウェイの整備完了は、今後の持続的な
成長において大きな原動力となることが期待されている。
統計データを活かし FIT(Foreign independent Tour:海外個人旅行客)への対応をい
ち早く実施 ~別府市
韓国を主たる市場に、ゴルフと温泉を魅力とした誘客を行い、外客数を急伸(平成 18 年
は、平成 16 年比 154%)させた。
成功の要因
同地域では、観光資源の優位性と韓国からのアクセスのよさを活かし、主
たる魅力を「ゴルフと温泉」と規定。それを踏まえた誘致プロモーション
を展開した。さらに、地元の立命館アジア太平洋大学と連携し、外客観光
統計を整備し、毎月発表することで、実態を的確につかみ、それらの情報
を元に、FIT に対応した各種のサービスインフラの充実、例えば、空港か
らのシャトルバスや、両替所の整備、外国人スタッフの雇用、言語研修な
どに取り組んできた。
振興による効果
本地域は、現在、外客に限らず様々な手法にて地域再生に取り組んでいる。
出典:財団法人日本交通公社
外客の増加は、わかりやすい成功事例であり、そうした動きを促進させる
ものとなっている。さらに、平成 12 年に設立された立命館アジア太平洋
大学との連携が進み、グローバル化への対応が進んでいる。
9
(2)我が国のグローバル観光の展望

現在の訪日旅行は、韓国・台湾市場に偏った構成となっているが、リスクヘッジのために
は、他国についても新たな市場を開拓する必要がある。

どの国をターゲットとするかは、観光地によって異なるが、急拡大し、今後の増進も期待
できる中国市場は、多くの国内観光地において狙うべきターゲットといえる。

また、訪日旅行の課題である地域への経済効果の尐ない周遊型からの脱却を図るため、単
価の高い滞在形態を持つ市場、具体的には、ラグジュアリー、MICE といった市場は、特
に注目される。
図 1-9 訪日外国人観光客の国別市場規模・成長率・個人比率
110
(%)
オーストラリア
100
カナダ
90
シンガポール
米国
個
人 80
客
比
70
率
タイ
香港
韓国
中国
60
台湾
円の大きさは、外客数
(人日=人数×平均滞在
日数)を示す
50
40
0
50
100
150
200
(%)
250
過去5年間の伸び率
出典:JNTO 国際観光白書 2007 より財団法人日本交通公社作成
10
表 1-6 近年注目されており、かつ、北海道にて対応が検討できるインバウンド需要事例
ラグジュアリー市場
平成 8 年から平成 17 年の 10 年間で、金融資産 100 万ドル以上の個人
資産家「富裕層」は、450 万人から 870 万人と著しく拡大している。
そして、欧米市場では、レジャー目的の旅行で年間 1 億円以上消費す
る市場が 10 万人を越え、大きな注目が集まっている。
サミットの成功に見られるように、北海道の持つ自然、温泉、食とい
う魅力はラグジュアリー層に対しても十分な魅力を有していると考え
られる。
出典:財団法人日本交通公社
MICE 市場
出典:Aspen Idea の HP より
Meeting、Incentive、Convention、Event と言った非観光需要の総称
であり、
「地域での滞在時間が長いこと(=消費額が高くなる)
」
「必ず
しも季節性に左右されないこと(=計画的な誘致が可能)」「グローバ
ル化、IT 化の中でその効用が企業側において再評価されてきているこ
と(=市場拡大の期待)
」などから、注目を集めてきている。
炭鉱町から国際的なリゾートとなったアスペンにて開催される Aspen
Idea Festival に見られるように、欧米ではリゾートミーティング、コ
ンベンションが盛んであり、北海道においても、そうした需要の取り
込みが期待できる。
ブライダル市場(ハネムーン市場)
出典:アルファリゾートトマム 水の教会の HP より
本市場は、通常の観光旅行に比べ「地域での滞在時間が長い(=消費
額が高くなる)
」傾向にある。国内は尐子化及び未婚率の増大で挙式数
は減尐傾向にあるが、中国などの市場は拡大傾向にある。既に国内の
ブライダル事業者が中国に進出し、沖縄県がハネムーン先として同地
域の売り出すといった取組が進んでいる。
北海道の観光地も、美しい自然と日本ならではのきめ細かいサービス
を持つ地域は多く、これらの需要の取り込みが期待できる。
買い物市場
出典:財団法人日本交通公社
国による違いはあるが、訪日動機の上位には「ショッピング」が挙げ
られるように、我が国の主たる魅力の一つは「高質な商品を安心して
購入できる」ことにある。対象となる商品は、従来の電化製品に限ら
ず、アパレルや化粧品、食品など幅広い領域に拡大してきている。こ
れに合わせ、クレジットカードや銀聯(ぎんれん)カードなど、サー
ビスインフラの整備も進んできている。
北海道においても、札幌をはじめとする商業施設が集積する諸都市や、
アウトレットモール、また、各種農水産物を対象とした市場など、買
い物需要に対応する施設は数多く、これらの需要の取り込みが期待で
きる。
医療観光市場
出典:オーストラリア政府観光局の HP より
平成 18 年、医療サービスの提供を目的にアジア諸国を訪れた外国人旅
行者は 180 万人、その市場規模は約 68 億ドルに及んでおり、シンガポ
ールやインドではそうした市場の取り込みを行っている。我が国では、
医療サービスそのものを対象とする市場(≠ヘルスツーリズム)への
対応は進んでいないが、国民皆保険制度を背景に、国際的に見て高度
な医療体制、医療機器を有した国であり、同市場の取り込みを十分に
行える環境が整っている。
我が国にとって初めての領域であるため、課題も尐なくないが、北海
道においては、過疎化の進展に伴い、医療サービスの存立が危ぶまれ
ている地域もあり、外客需要の取り込みによる再生が期待できる。
出典:各種資料より財団法人日本交通公社作成
11
3.北海道観光のグローバル化の経緯と現状
(1)北海道観光のグローバル化の成果

北海道は、近年、順調に外客数を増加させてきている。特に平成 15 年からの伸びは著しく、
平成 15 年から 19 年の 5 年間で倍増以上の伸びを示している。これは、国全体の外客数の
伸びを大きく上回るものである。

こうした成功の背景には、北海道が持っている景観、温泉、食といった魅力ある資源が国
際的にも競争力をもったものであったこと、そして、北海道や各観光地が、積極的に各種
のプロモーションや、旅行商品造成などに取り組むことで、その魅力を外客に伝えること
が出来たためと考えられ、新規市場開拓という点で大いなる成功である。
<委員コメントより>
 北海道が、特に台湾から多くの観光客を受け入れるようなったきっかけは、台湾からのチ
ャーター便の就航、チャーター便の就航に伴う定期路線の就航による。その結果、現在北
海道におけるインバウンドの観光客は、台湾、香港、韓国の 3 カ国が中心となり、今日で
は、中国の観光客が増えつつある。

夏の繁忙期を除くと、道内閑散期といわれる 12~3 月までの冬期観光は、外客が多くを担
っている。
表 1-7 北海道での外客誘致の取組
年
訪日
外客数'人(
外客誘致の取組
1998
平成10
170,300
■長野冬期五輪開催
・海外プロモーションの実施'台湾(
・海外マスコミ招聘'台湾プレスなど(
・国際旅行博への出展'以降、毎年(
1999
平成11
204,200
・日華観光セミナー、台湾観光プロモーションの実施
・外国人道内取材の受け入れ
・海外マスコミの招聘'台湾プレスなど(
・台湾海外旅行博への出展
2000
平成12
206,600
・観光ミッション派遣事業'以降、毎年(
・外国人道内取材の受け入れ'台湾(
・洞爺湖温泉への海外マスコミの招聘'台湾、香港、韓国(
2001
平成13
236,100
◇新千歳-上海線、新千歳-香港線の就航
・宣伝印刷物の発行'パンフレット'華・韓・露・英文(、ウエルカムガイド'英・華文(、英文マップ(
・外国人道内取材の受け入れ'米国、台湾(
279,350
■日韓ワールドカップ開催
◇北海道観光連盟と中国遼寧省旅遊協会との友好関係覚書を締結
・マスコミ、旅行エージェント招聘事業'韓国、広東省(
・海外観光説明会の実施'ロシア、韓国(
・外国人道内取材の受け入れ'香港(
・宣伝印刷物の発行'パンフレット'露・華・韓・英文(、英文マップ、四カ国語会活集(
2002
平成14
2003
平成15
293,780
■VJC開始
◇新千歳-台北線就航
・マスコミ、旅行エージェント招聘事業'台湾、韓国(
・海外観光説明会の実施'韓国・ソウル(
・外国マスコミによる道内取材の受け入れ'台湾、韓国(
・外国観光宣伝印刷物の発行'パンフレット'華・韓・英文(、英文マップ(
・広東省との交流'「観光交流と協力に関する協定書」を調印、合同交流会の実施(
2004
平成16
427,050
・旅行エージェント招聘事業'香港(
・海外観光説明会の実施'北海道ソウル事務所(
・外国マスコミによる道内取材の受け入れ'オーストラリア(
・外国観光宣伝印刷物の発行
'パンフレット'中・韓文(、アクセスマップ・花パンフレット・ポスター・絵葉書'中・韓・英文((
2005
平成17
513,650
2006
平成18
590,650
2007
平成19
710,950
2008
平成20
-
'知床が世界遺産に登録される(
・宿泊滞在施設の充実や人材の育成など、国際観光振興地域の整備の促進
・外国語対応ウェブサイトの内容充実
・道内の海外事務所と連携した誘客プロモーション実施
・国際ミーティングエキスポへの出展、海外の旅行エージェントの招聘
・国際観光通訳ボランティアの育成促進、外国語表記のパンフレット発行
・観光入込客数調査の実施、訪日外国人貸切バス利用状況調査の実施
・訪日外国人来道者動態、満足度調査の実施
H18、19年度に加え、
・札幌駅構内の一等地に観光案内所を開設
・台湾人の日本における自動車運転解禁
'洞爺湖サミット開催(
・北海道スキープロモーション協議会'仮称(設立
・「北海道通訳案内士」の資格制度新設
出典:週間ダイヤモンド 070623、北海道外客来訪促進計画国際観光推進プログラム推進状況(H 17~19
年度)
、北海道観光連盟事業計画書事業報告書(H10~16 年度)より財団法人日本交通公社作成
12
図 1-10
北海道及び全国年間入込客数の推移
%
450
訪日外国人'北海道(
訪日外国人'全国(
国内客'北海道(
国内宿泊旅行客'全国(
400
350
300
※平成 10 年の入込客数を
「100」とした場合の指数
250
200
150
100
50
平成10 平成11 平成12 平成13 平成14 平成15 平成16 平成17 平成18 平成19
年度/年
※北海道は「年度」、全国は「年」
出典:北海道観光入込客数調査、JNTO「日本の国際観光統計」
、財団法人日本交通公社「旅行年報」より
財団法人日本交通公社作成
図 1-11
道内市町村の訪日外国人及び国内客の宿泊人数(上位 20 市町村)
外客宿泊人数
0
200,000
400,000
国内客宿泊延数
600,000
札幌市
800,000
(人)
659,833
0
6,000
洞爺湖町
上川町
104,672
上川町
壮瞥町
97,628
壮瞥町
函館市
59,058
函館市
釧路市
53,008
釧路市
49,629
音更町
1,106
793
207
4,148
1,317
476
39,062
小樽市
旭川市
37,235
旭川市
ニセコ町
36,458
ニセコ町
千歳市
31,920
千歳市
伊達市
31,839
伊達市
328
占冠村
26,363
占冠村
225
146
新得町
26,114
新得町
23,955
倶知安町
留寿都村
22,824
留寿都村
10,000
(千人)
631
小樽市
倶知安町
8,000
8,490
登別市
106,262
音更町
4,000
札幌市
195,928
登別市
洞爺湖町
2,000
689
708
486
158
571
358
網走市
22,550
網走市
605
富良野市
17,014
富良野市
575
夕張市
13,279
夕張市
96
出典:平成 19 年度北海道観光入込客数調査
図 1-12
北海道の訪日外国人宿泊者国別構成比
オーストラリア,
1.8%
その他, 8.2%
中 国, 3.6%
シンガポール,
6.9%
台 湾, 47.1%
韓 国, 14.7%
香 港, 17.6%
出典:平成 19 年度北海道観光入込客数調査
13
図 1-13
北海道の国別訪日外国人宿泊者数の推移(上位 6 位)
'人(
900,000
台湾
香港
韓国
シンガポール
中国
オーストラリア
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
14年度
15年度
16年度
17年度
18年度
19年度
出典:北海道観光入込客数調査
図 1-14
北海道の月別訪日外国人宿泊者数(延べ人数)の構成比
16
(%)
18年度
19年度
14
12
10
8
6
4
2
0
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月 1月
2月
3月
出典:北海道観光入込客数調査
14
表 1-8 道内における観光グローバルへの取組事例
サービスインフラの充実がすすむ北の都 ~札幌
宿泊施設の集積、食、歴史、そしてイベントなど。北海道観光の核である札幌市は、外客向
けのサービスインフラの充実とあわせ、過去 5 年で、外客数を倍増させた
・入込客数推移
14,200
14,000
13,800
13,600
13,400
13,200
13,000
12,800
12,600
12,400
入込総数'千人(
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
外客'人(
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
入込総数
200,000
外客宿泊延数 100,000
0
2006
2007
H10
H11
H12
H13
H14
H15
H16
H17
H18
H19
・入込客数に占める宿泊者の比率 47.0%(平成 19 年度、国内客含む)
出典:北海道観光入込客数調査
成功の要因
同地域は、もともと多くの宿泊施設が立地し、ススキノをはじめとする飲
食施設、物販施設の集積地であり、その交通の利便性も含めて、北海道観
光の中心的存在であった。その中でも札幌雪祭りは、外客に対しても大き
な魅力である。こうした資源性、集積を背景に、多言語での観光案内、情
報提供や、交通案内、案内表示の整備といった交通移動系のサービスイン
フラの充実によって、利便性を向上させた。
さらに、こうした変化を受け、民間事業者や NPO などが国際化に向けた各
種取組を進めてきたことが、外客の更なる増加につながっている。
振興による効果
もともと、人口規模が大きく、かつ、国内の観光客数も多い地域であるた
め、全体に占める外客の比率は低い。
(H18 年の札幌市の宿泊者数は 1,010
万人泊、うち外客は 56 万人泊で、その比率は 5.5%に留まっている。これ
は全国平均 7.3%、道内平均 7.5%(いずれも H19 年実績)より低い) ま
た、滞在日数は 1.1 泊(H18)であり、短期に留まっている。
しかしながら、56 万人泊という規模は、TDR(東京ディズニーランド)を
擁する千葉県の宿泊者数(60 万人泊/H19)に匹敵するものであり、その絶対
出典:財団法人日本交通公社
的なインパクトは非常に大きく、各種ホスピタリティ産業に好影響をもた
らしている。
また、本地域は、北海道観光の中心、ハブ的な位置づけにあるため、こう
した影響は小樽や旭川など周辺地域にも及んでおり、裾野の広い振興効果
につながっている。
15
外客にいち早く着目、時期を得たプロモーションが奏功 ~登別
国内の観光宿泊客が減尐傾向に転ずる中で、いち早く市場を海外に求め、VJC 以前から独
自に台湾へのプロモーションを展開。外客の来訪する温泉観光地の先駆けとなった。
・入り込み客数推移
4,000
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
入込総数'千人(
外客'人(
250,000
200,000
150,000
入込総数
外客宿泊延数
100,000
50,000
0
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
H10
H11
H12
H13
H14
H15
H16
H17
H18
H19
・宿泊者比率 39.3%(平成 19 年度、国内客含む)
出典:北海道観光入込客数調査
成功の要因
同地域は、VJC 以前から、いち早く海外市場に注目し、豊富な湯量の温泉
や地獄谷、及び周辺の観光施設や千歳空港からの近さを活かしたプロモー
ション活動に取り組んだ。
我が国にとって前例の無い、こうした海外プロモーションの実施により、
台湾の人々に、北海道、登別ならではの魅力が伝わり、北海道ブームを引
き起こすきっかけとなった。
振興による効果
台湾人の来訪は、単に観光客数の確保につながっただけではなく、雪と温
泉という魅力で、国内客の落ち込む冬期の集客につながった点も大きい。
また、同地域の取組は、「成功事例」となって広まり、他の温泉観光地で
の台湾人誘致活動につながり、北海道観光そのものの振興にもつながって
いる。
出典:登別観光協会HPより
一方で、台湾人の滞在形態は、周遊団体型の傾向が強いため、滞在時間が
短いことや、単価の低さ、そして、風習文化の違いにより国内客と衝突が
発生するといった課題も残っている。
16
(2)
【ケーススタディ】ニセコ地域におけるグローバル化事例

道内では多くの観光地が外客誘致に成功しているが、その中でもニセコ地域は、以下のよ
うな点で、他の道内観光地とは異なる成功形態となっている。

従来の国内客の滞在形態とは異なる形態をもった長期滞在の外客が来訪していること

外客誘致に成功した道内宿泊地の多くが、台湾人を主要な顧客としているのに対し、
オーストラリア人が中心となっていること

誘致の初期段階において、大規模なプロモーション活動などは実施していないこと

道内のみならず国内においても、ユニークなビジネスモデルを持った事業者(例:コ
ンドミニアム事業、宿泊施設の泊食分離)が立地していること

景観やインフラ面において課題は尐なくないが、集客を実現していること
図 1-15
道内市町村の外客平均宿泊数(宿泊人数上位 20 市町村)
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
泊
倶知安町
5.99
2.28
富良野市
1.99
留寿都村
1.62
新得町
夕張市
1.21
占冠村
1.19
小樽市
1.14
札幌市
1.14
網走市
1.12
伊達市
1.11
ニセコ町
1.09
旭川市
1.09
洞爺湖町
1.05
釧路市
1.05
函館市
1.05
千歳市
1.04
音更町
1.02
登別市
1.01
上川町
1.00
壮瞥町
1.00
出典:平成 19 年度北海道観光入込客数調査より財団法人日本交通公社作成
17
図 1-16
ニセコ地域の外客構成の特異性(主成分分析結果)
その他
2
倶知安町
静岡県
千歳市
沖縄県
山梨県 千葉県 京都府
ニセコ町
旭川市
上川町
広島県
新得町 占冠村
愛知県
函館市
富良野市
東京都 神奈川県
宮城県
釧路市
長野県
日本全体
兵庫県 大阪府
洞爺湖町 石川県 札幌市 留寿都村
小樽市 岐阜県
伊達市
登別市
北海道計 網走市
1
音更町
0
台湾客多
-1
壮瞥町
-2
福岡県
夕張市
台湾系
大分県
長崎県
-3
熊本県
韓国系
韓国客多
-4
-3
-2.5
-2
-1.5
-1
-0.5
0
0.5
1
1.5
2
出典:北海道観光入込客数調査、国土交通省「宿泊旅行統計調査」より財団法人日本交通公社作成
表 1-9 不動産系リゾート商品の特徴
リゾートマンション
リゾートクラブ
タイムシェア
コンドミニアム
所有形態
不動産単独所有
会員権所有
利用形態
いつでも可能
空室時は可能
利用期間指定
いつでも可能
非利用時
空室
他者が利用
'収益無し(
他者が利用
'収益無し(
他者が利用
'収益有り(
管理形態
自己管理
管理法人管理
管理法人管理
管理委託
不動産共有所有
'利用権方式も有り(
不動産単独所有
出典:財団法人日本交通公社
図 1-17
ニセコの抱える課題
歩車分離されていない車道、電線の存在、待合所が整備されていないバス停、両替や交通の不
備などの課題を抱えている。
出典:有限責任中間法人ニセコ倶知安リゾート協議会
18

ニセコ地域が他地域とは異なる成功形態を実現した理由は以下のように考えられる。

もともと、ニセコ地域の資源性が高かったこと

複数の外国人(オーストラリア人)が、その資源性を評価し、独自の視点で魅力づく
り、受け皿づくりに取り組んでいたこと
2001 年の同時多発テロによって、日本に注目したオーストラリア人が、それらの受け

皿を目指して来訪し、その後、口コミを主体にニセコの魅力が広まったこと

オーストラリア人の来訪増を契機とした新しい動きを、ニセコ地域の既存事業者も受
け入れ、自らのビジネスモデルも変化させていったこと

さらに、ニセコユナイテッド(ニセコ三大スキー場の共通ブランド)や有限責任中間
法人ニセコ倶知安リゾート協議会(NPB)のような、内外の事業者が幅広く連携する
形態が作られていったこと
図 1-18
ニセコの地域づくり年表
200,000
150,000
'人(
'円(
25,000
外客宿泊延数
公示地価
20,000
15,000
100,000
10,000
50,000
5,000
0
0
1997年以前 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
平成9年以前 平成10 平成11 平成12 平成13 平成14 平成15 平成16 平成17 平成18 平成19 平成20
全体
・海外からの移住者による活動
・ニセコ高校の観光プロジェクト開始
・英会話教室の開始
アウトドア ・ラフティング事業の開始'平成5年~( ・全国アウトドアスポーツフェアが後志で開催
スキー
・尻別川ラフティング・カヌー組合発足
・ニセコ・ユナイテッド
交通
・ニセコ東山自然体験ゾーンPureオープン
・観光周遊バス「ぐらんぷる・しりべし号」の運行
・観光周遊バス「ぐるり・ぬぷり号」の運行
・くっちゃんナイト号運行開始'平成5年~(
・シーニック・バイ・ウエイ事業開始
イベント
・ニセコサイクルウィーク開催
組織系
計画・調査系
・'株(ニセコリゾート観光協会の設立
・ニセコ倶知安リゾート協議会'NPB(の設立
・しりべしツーリズムサポートの設立
・倶知安町外国人観光客誘致・受入促進協議会の発足
・北海道ニセコ・羊蹄・洞爺周辺リゾート地域整備構想の策定
'倶知安町(
'ニセコ町(
・観光活性化策調査の実施
不動産系
・ニセコ・羊蹄地域振興計画の策定
・滞在型観光促進整備事業の開始
・倶知安町環境基本計画
・リゾート景観づくり調査
・倶知安町景観要綱の施行
・倶知安町景観条例の施行
・ニセコ町景観条例の施行
・ニセコリアルエステート設立
・ヒルトンニセコビレッジ開業
・北海道トラックス設立
・豪州系企業'日本ハーモニー・リゾート(が花園スキー場を買収
・香港系企業'PCPD(花園スキー場を買収
発展前夜期
発展期
成長期
資源性の元々高いニセコに、
オーストラリア人起業家が進出開始
911後、オーストラリア人観光客が急増。
既存事業者も変わり、その流れを受け止める
NPB設立。サービスインフラや、新た
な市場開拓へ
出典:北海道観光入込客数調査、地価調査マップ等各種資料より財団法人日本交通公社作成
19
図 1-19
ニセコの資源性を示すもの
羊蹄山の眺望と良質なパウダースノー、河川といった自然環境はニセコの高い資源性を象徴す
る存在である。
出典:財団法人日本交通公社
図 1-20 NPB の構成図
設立基金拠出'300万円(
NP B 組織構成
基盤は
年間活動資金
NP B 会員区分
スキー場
+要員派遣他
大型ホテル
コンドミニアム
事業者
倶知安町
ニセコ町
地元
事業者
団体
外国人
事業者
スキー場
Nis eko P romotion B oard
有限責任中間法人
ニセコ倶知安リゾート協議会
代表理事 ロス・フィンドレー
'㈱NAC 代表取締役(
代表理事 村上 公彦
'中央バス観光商事㈱(
ほか理事23名 'うち外国人11名(
※2008/09/01現在
年間活動資金
※活動事業に応じて
行政及び
団体補助
アウトドア事業者
ランドサービス業者
総務部会
業務執行
理事役員会
理事会
不動産事業者
法人参加
理事の中から
各スキー場
部会長
地域代表
で構成
代表理事
業務執行理事
理事・監事
個人参加
企画部会
サービス部会
インフラ部会
出典:有限責任中間法人ニセコ倶知安リゾート協議会
20

前述したような成功形態を実現したニセコ地域においても、以下のような課題意識を有し
ている。

ニセコ地域では、オーストラリア人を中心に、国際的な山岳リゾート地同様の滞在ス
タイルが確立されているが、景観や施設、土地利用などの点で、弱みを抱えており、
リゾート需要を持った顧客の一部を開拓できていない。

グリーンシーズンの認知度はまだまだ低く、夏のプロモーションについては昨シーズ
ンからようやく開始したばかりである。

ニセコ地域はオーストラリア市場の開拓が今日の成功につながったが、オーストラリ
アの人口は 2,000 万人弱に過ぎず量的な拡大には限界がある。さらに、観光は社会経
済環境の変化や有事に大きく左右されるため、一国への過度な依存はリスクを高める
ことにもなる。

さらに、来訪する外客が多様化する中で、交通や金融、医療といった各種サービス分
野に対するニーズも高まっているが、十分に応えられていない。
図 1-21
国際的な滞在型山岳リゾート事例
米国の滞在型山岳リゾートでは、美しい景観、建物、散策や飲食、買い物を楽しめる空間、そ
してリゾート地域内での 2 次交通手段などが魅力となっている
出典:財団法人日本交通公社(撮影地は米国コロラド州)
図 1-22
スキー場の一般的な CS 構造
満足度点=8.6×ゲレンデの内容+5.2×景観や雰囲気+2.5×店舗やスタッフの対応
+2.3×食事+天候要素+17.8(定数項)
※天候要素(晴れ+2.0、雪+1.3、曇り+0.9、雤-2.5、ふぶき-4.4)
※自由度調整済み R2 は 0.42。
「雤(97%)
」と「曇り(95%)」要素を除き、信頼性は 99%以上。
出典:スノービジネス109号(日本ケーブル株式会社)
21

こうした課題意識を踏まえ、ニセコ地域では、以下のような事項に取り組むことで、国際
的な競争力と持続力をもった、滞在型山岳リゾートを目指している。

【顧客の開拓】開発ルールや景観整備、空間整備を促進することで、リゾートとして
の基本的な価値を高めるための潜在的なリゾート需要顧客を顕在化させる。

【顧客の誘致】グリーンシーズンの盛り上げとして、ゴルフやサイクリングに取り組
んでいる。

【顧客の誘致】現在のニセコの魅力に対応する他国の顧客(例:中国系でありながら、
欧米系のライフスタイルも合わせもったシンガポール市場)に対し、プロモーション
活動によって旅行商品造成を行い、実際の誘致につなげる。

【顧客の維持】サービス水準の向上(通訳支援や 2 次交通の充実など)によって、来
訪者の滞在ライフを質的にサポートし、離反を防ぐとともに、単価の増大を図る。
図 1-23
シンガポールのアウトバウンド数の変遷
10,000,000
(人)
8,000,000
6,000,000
4,000,000
台湾
シンガポール
2,000,000
0
平成14年
平成15年
平成16年
平成17年
出典:JNTO 国際観光白書 2007 より財団法人日本交通公社作成
顧客区分と基本的な対応方策
来訪経験有り
離反顧客
③
顧客に対応したサービス水
準の向上によって、CSを向
上させ、離反を防ぐととも
に、単価増大を図る
現役顧客
②
図 1-24
来訪意向無し
潜在顧客
新たな魅力要素を創造し、
対象となる顧客を拡大する
①
来訪経験無し
来訪意向有り
顕在顧客
プロモーション活動や、旅行商
品造成などによって、当該観光
地の魅力に興味関心を持って
いる顧客の、実際の来訪を促す
出典:財団法人日本交通公社
22
4.北海道観光のグローバル化の課題
(1)北海道観光のグローバル化における課題
これまで見てきたとおり、北海道は、国全体の伸びを大きく上回るペースで、外客を増加さ
せてきた。その一方で、観光グローバル化における課題も生じている。
■低い消費単価
外客は来訪したものの、基本となる旅行形態は従来の国内客と同様であったため、
「周遊型で広
域を巡るために、地域での消費額が低い」という北海道観光が抱えている課題は残されること
となった。北海道観光の振興を、地域振興に着実につなげていくためには、ブームに流されな
い持続的な集客と、地域での消費額の増大が課題となっている。
<委員コメント・地域ヒアリングより>

道内宿泊の平均単価は、国内客、外客ともに低い。

海外マーケットを得るためにダンピングが起きている。北海道の宿泊単価は全国一安く1
万円を下回り、阿寒での外客宿泊単価は 4,000 円台からで、平均でもおおよそ 6,000 円程
度に留まる。

国内の移動費用の高さが足かせになるため、ほとんど買物はしない。

FIT の観光客は全体的に尐なく、まだまだ団体の観光客が多い。
表 1-10
国内客の1人1回当たりの旅行費用(北海道と沖縄県の比較)
平成17年
平成18年
'円(
平成19年
'H13~17平均( 'H14~18平均( 'H15~19平均(
北海道
沖縄県
57,000
85,000
56,000
86,000
58,800
91,200
出典:財団法人日本交通公社「旅行者動向」
表 1-11
北海道観光の人気コースの代表的なスケジュールの時間配分
出典:日本銀行札幌支店「北海道観光の現状と課題」
23
図 1-25
国別の個人客比率
97.5
95.4
94.6
87.3
84.0
80.2
69.1
67.9
58.9
オーストラリア
カナダ
米国
シンガポール
タイ
韓国
中国
香港
台湾
0
20
40
60
80
(%)
100
出典:JNTO「国際観光白書 2007」
■日本人客とのコンフリクト
国全体の伸びを大きく上回るペースで外客を増加させてきた北海道だが、外客が急増した分、
日本人客とのコンフリクトが尐なからず生じている。対応に注意しないと、日本人客離れにつ
ながりかねない。
<委員コメント・地域ヒアリングより>

マナー等の問題があり、ゴルフ場にしても、食事処にしても、国内客は韓国人観光客が大
勢いる場所には行きたがらない。

入浴時のマナーについて多くのクレームがある。また、日本人客からは「外国人多いのね」
と指摘されることは尐なくない。実際、外国人が宿泊していることを伝えると宿泊を止め
たケースもある。

外客とのコンフリクトを避けるために、例えば、フロアを分けたり、
(団体客の)朝食時間
を伝え、時間をずらすことを促したりしている

入浴やロビーでの過ごし方、バイキングなどにおいてマナーの問題がある。特に中国人に
おいて残っている。
■硬直した商品サービス
キャリア(航空会社)の強さや、商習慣の違いがあり、柔軟な商品サービスづくりができない。
<委員コメント・地域ヒアリングより>

台湾と日本との大きな違いは、航空会社が「旅行会社と一緒の席で会合はやらない」とは
っきり言うぐらい航空会社のポジションが高く、旅行会社のポジションが低い。

例えば、韓国の旅行会社については、予約時、予約後、来訪直前・・・と、途中で値段交
渉が 3 回ぐらいあるのは当たり前で、挙句の果ては来ないこともある。外客市場はきちん
とやろうと思うととても参入できる状況ではないが、国内市場の縮小は目に見えているた
め、どうしても入っていかなければいけないというジレンマを抱えている。
24
■外国人観光客のニーズへの対応が不十分
ショッピングや伝統文化・歴史的施設、温泉など、多様化する外国人観光客のニーズへの対応
が十分ではない。
<委員コメント・地域ヒアリングより>

言語、食習慣、または宿泊施設等の設備等を含めて残念ながら必ずしもお客様のニーズに
かなった受け入れ態勢になっているかというと、まだまだ整っていないというのが現状。
そういった中で、特に医療問題や言語の問題は早急に何らかの手を打たなければならない
課題のひとつ。

リピーターの外客は、多尐困ったことがあっても尐しは我慢していたが、口コミが広がっ
て以降に訪れるようになった様々な国の観光客は、サービスも期待して来ているが、実は
あまり整っていない。

現状のヒラフでは、FIT しか対応できない。また、レストラン、ベビーシッター、コンド
ミニアム用のコックといった観光客のニーズにも応えることができていない。
図 1-26
観光客の訪日の動機
ショッピング
34.8
伝統文化/歴史的施設
32.4
温泉/リラックス
32.1
自然・景勝地
28.5
日本人とその生活
27.7
日本の食事
19.4
都市の魅力/現代性
16.0
日本訪問への憧れ
13.6
テーマパーク
10.3
その他
6.7
0
5
10
15
20
25
30
35
(%)
40
出典:JNTO「JNTO 訪日外客実態調査 2006-2007〈訪問地調査編〉
」
(2)北海道観光のグローバル化における課題の背景
団体客を相手に、「発地(外客の出発地)」側が商品造成、集客を行うという、日本国内にお
いては既に崩壊しつつあるビジネスモデルに依存していることである。但し、この構造は、需
要側の意識や旅行商品の流通形態などが複雑に絡み合った結果であるため、短期的には変える
ことができない。
<委員コメント・地域ヒアリングより>

中国人を日本に連れてくる旅行よりも、日本人を中国に連れて行く旅行のほうが儲かる。
旅行業は、着地側よりは発地側が儲かるビジネスモデルになっている。北海道の一番の問
題は、下請け型旅行になっていること。中国人観光客を誘致するのであれば、中国の旅行
エージェントに頼るのではなく、中国でいかにエージェントを通さないで観光客を集客で
きるかが重要となる。

北海道は直行便が尐ないために価格競争がなく、航空券が他地域に比べ高額である。

台湾の旅行博に出展した際、他国ブースではその場で旅行を販売していた。現地に行って
旅行を販売するといった勢いを持たなければならないのではないか。
25
第2章 北海道観光のグローバル化の進展に向けて
前章の整理を踏まえ、本章では、今後、北海道観光のグローバル化の進展に向けて必要とな
る視点、基本的な方向性を検討する。
1.グローバル化に必要な視点
(1)観光グローバル化の目的
観光振興の効果、目的は、観光立国推進基本法の前文が示すように、国際交流の促進、平和
の促進、文化の振興、健康増進など多岐にわたっている。その中でも、厳しい社会経済環境に
おかれている北海道において経済的な振興、すなわち、観光産業の振興をきっかけとした地域
経済の振興は大きなテーマである。
しかしながら、我が国の国内観光宿泊旅行の市場規模は中期的に減尐傾向にあり、また、季
節性の強いものとなっている。一方、海外市場は中国を中心にまだまだ増加基調にあり、また、
日本人とは休暇制度や嗜好が異なるため、冬期を中心としたオフシーズンの立ち上げも期待で
きるものである。北海道の観光産業を持続的に成長、発展させていくには、産業をグローバル
化し、こうした海外市場の取り込みを図っていくことが必要不可欠である。
北海道は、国内において屈指の観光資源を持ち、多くの観光客が来訪し、多くの観光関連産
業が立地する我が国を代表する観光リゾート地域であり、観光による地域振興が強く意識され
る地域である。
<参考:観光立国推進基本法前文>
「観光は、国際平和と国民生活の安定を象徴するものであって、その持続的な発展は、恒久の
平和と国際社会の相互理解の増進を念願し、健康で文化的な生活を享受しようとする我らの理
想とするところである。また、観光は、地域経済の活性化、雇用の機会の増大等国民経済のあ
らゆる領域にわたりその発展に寄与するとともに、健康の増進、潤いのある豊かな生活環境の
創造等を通じて国民生活の安定向上に貢献するものであることに加え、国際相互理解を増進す
るものである。
」
(2)観光振興を経済振興につなげるには
観光振興を着実に経済振興につなげるには、3つのステップが必要となる。
Step1. 消費単価の高い傾向にある観光客を集客すること
Step2. 各事業者が十分な利潤を上げ、持続的な経営が可能となること
Step3. 地産地消に代表されるように、観光消費が地域内における経済循環に繋がること
すなわち、価値の高い顧客を呼び込むこと
そして事業者が潤い、地域が潤うというチェー
ンを構築することが重要である。特に、グローバル化においては、基本的に一様であった国内
客と異なり、様々な顧客がいるため、このチェーンの構築は意識的に行っていくことが必要で
ある。
26
図 2-1 チェーンの構築
地域
Step3.
観光消費による
地域内の経済循環
Step1.
消費単価の高い
観光客を集客
Step2.
各事業者が十分な利潤を上げ
持続的な経営を実現
事業者
観光客
出典:財団法人日本交通公社作成
そして、これら 3 ステップを実現していくためには、以下の2つの取組が重要であると考え
る。
1. 北海道の持つ様々な資源の総体そのものを「魅力」とすることで、優良な顧客を惹きつける
とともに、域内調達率を高める
2. 産業及び個々の事業者において、経営力を強化し、環境変化への耐性を高めるとともに、生
産性の向上を図る
<参考:
「観光客数は地域振興効果を代弁しなくなっている」>
観光振興において「経済効果」は最も重要な目的の1つである。この経済効果は、
観光客数 × 1 日あたり単価 × 滞在日数
という3つの変数によって構成されるものである。
従来、旅行会社造成のパッケージ旅行、団体旅行が主流であった時には、1 日あたり単価は概
ね収束する傾向にあったが、現在では、例えば、数千円クラスのバジェット型ホテル(宿泊特
化型の高品質ホテル)から、数万円から数十万円クラスの高級ホテル・旅館まで様々あり、そ
れぞれが集客に成功しているように、1 日あたり単価は、大きな開きを持つようになっている。
また、一般に、旅行費用(交通費や宿泊費、パックツアー費)を安価に抑えた観光客は飲食や
土産品購入などの現地での消費も抑える傾向も高い。さらに、滞在日数についても、日帰り客
が増大する一方で、ロングステイが注目を集めたり、海外からの長期滞在客が来訪したりと、
大きな差が生じるようになっている。
このように、観光客数以外の変数の変動幅が大きくなってきており、観光客数と経済効果と
は必ずしも連動しなくなってきている。実際、量的な拡大を続ける沖縄県では、観光客数の増
大の一方で、消費単価(単価×日数)は減尐傾向にあり、高稼働のホテルであっても経営が困
難になる(例:オーシャンビューホテル)事例が発生している。
また、観光魅力が、地域の文化や生活と密接に関わるようになった今日、観光客数の増大は、
そのまま、地域住民の生活へ影響を与えることにもなっている。そのため、単純な観光客数増
加は、逆に負の効果を与えてしまうことにもなっている。
こうしたことを踏まえ、例えば、ハワイ州では、観光振興の目標を観光客数ではなく、「経済
効果」
「観光客の満足度」
「住民の満足度」の3つに設定し、総合的な視点にて振興計画を立案
している。
27
2.北海道観光のグローバル化の基本的な方向性
以上を踏まえ、北海道観光のグローバル化の基本的な方向性は、以下のように整理できるの
ではないか。
北海道が持つ、自然やアイヌ文化、食などを、オール北海道としてアピールすると同時に、エ
リアとしても特徴的な魅力をアピールしていくことで、既存の発地型団体旅行の取り込みを維
持しつつ'量の確保(、より単価の高い個人客'FIT 客(の獲得'質の向上(を図っていくこと
<委員コメントより>
(北海道の強み)
 北海道が一体となり、こちらの“お品書き”を統合的に示す必要がある。その際、国よっ
て知らせる方法論が変わるので、その辺りの見極めをしていきたい。また、表現の仕方が、
日本全体、北海道、各地域でそれぞれ異なると観光客が戸惑ってしまうので、共通して必
要な情報の見極めについても検討したい。

オール北海道としてアピールしていく観点と同時に、エリアとしてもそれぞれの特徴的な
魅力を元に個々にアピールしていく必要がある。

海外に出ていくときには統一した顔が必要だが、その中にも特徴をもった地域の顔を持た
なくてはならない。そのためには、各地域の個性豊かな文化、伝統的な文化をきちんと育
成し、さらに新たなものを創造していくことが必要だと思う。

北海道は「パークス北海道(北海道全体が公園)」といってもいいぐらい誇るべき自然があ
る。その部分をもっと強調し、何か世界にアピールできるものを発信すること、あるいは
判断材料をエンドユーザー向けに提供することが大切だと思う。

今ロードレーサーが日本国内はもとより世界的に大変なブームになっているが、羊蹄一周
を案内すると、こんないいところはない、空気がおいしい、水がおいしい、景色がきれい、
車が尐ない、道路がいい、気温がいい、と非常に評判がよい。10 年前、パウダースノーに
ついて同じこと言われていた。これから 5 年先、ニセコも含めた北海道は、間違いなく冬
より夏のほうが多くの観光客が来ると信じて、今取り組んでいる。

来年、アイヌの古式舞踊がユネスコの無形文化遺産に登録される可能性があるが、北海道
に根ざした独特の先住民の文化を、このタイミングでもっと海外に発信していく態勢をと
ってはどうか。

食材のブランド力を活かす視点も必要。素材は一緒なのかもしれないが、それをより個性
化して地元の食材に磨きをかける、料理法を工夫することが必要だと思う。
(北海道の弱み)
 日本の宿泊施設が安すぎることを、もう尐し私たちが認識する必要があるのではないか。

台湾においては航空会社の発言力が非常に強く、キーとなるエージェントによる乱獲が起
きていた。しかし、数年前にチャーター便から定期便に変わり、今や台湾人観光客は頭打
ちの状況となっている。

韓国人観光客は、ゴルフ目的などグリーンシーズンに多く、ピークが国内客と重複するた
め有り難みが尐ない。一番の期待は中国人観光客だが、ビザの問題でまだ多くは望めない。

量を確保しつつ質の向上を狙っていくためには、滞在に向けた地域づくりの必要性、滞在
化に向けた取組といった視点を入れる必要がある。
28
図 2-2 対象国にあわせた魅力情報の提供
~ニュージーランド政府観光局の例
出典:ニュージーランド政府観光局 WEB サイト(http://www.newzealand.com/travel/Japan/)

ニュージーランドでは、国別に WEB サイトを構築し、各国の嗜好に合わせコンテンツを変
えている。
(左から対豪州、対日本、対米国)
表 2-1 国際旅行博スケジュール
中国本土
台湾・香港
韓国
アジア・オセアニア
・TTF & OTM 2008
・チャイニーズニューイヤーパ
2月
・AIME
レード
・TTAA International Travel Fair
・上海世界旅遊資
・MATTA FAIR MARCH 2008
3月 源博覧会
・シドニーホリデー&トラベルエキスポ
'WTF2008(
・ブリスベンホリデー&スノーエキスポ
・訪日旅行説明会・意見交換 ・大邱国際観光博覧会 ・メルボルンホリデー&トラベルエキス
4月
会
'TED(
ポ
・高尾旅行博覧会
・ブリスベンスノートラベルエキスポ
5月
・訪日教育旅行現地説明会
・シドニースノートラベルエキスポ
・香港国際旅遊展
・韓国国際観光展
6月
・メルボルンスノートラベルエキスポ
2008(ITE2008)
'KOTFA(
7月
・訪日インセンティブツアー説
8月
・NATAS HOLIDAYS
明会・意見交換会
・釜山国際観光展
9月
・MATTA FAIR 2008
'BITF(
・北京・広州・上海・ ・訪日旅行商談会・意見交換
10月
・IT&CMA
インセンティブセミ 会
・中国国際旅遊交
・京畿国際観光博覧会
11月
易'CITM)
'GITM(
出典:JNTO WEB サイト(http://www.jnto.go.jp/jpn/event_schedules/2008_events/index.html)

旅行会社との関係づくりにおいて、各国で開催される旅行博は有効なツールである。近年
は、JNTO(日本政府観光局)が主体となって、これらの旅行博の情報が共有されるように
なっているため、積極的に活用していくことが求められる。

ただし、旅行博に出れば関係が構築できる訳ではなく、相手の旅行会社の客層、嗜好に合
わせたきめ細かい対応が必要である。
29
3.北海道観光産業の生産性向上に向けて
(1)グローバル競争下における観光事業者の役割
北海道の観光産業が、グローバル化が進む中にあって、コスト増の要因ともなる外国人観光
客向けの良質なサービスの提供とそれに見合う利益の確保(増大)を行っていくことが、その
事業を存立させ、かつ、地域経済の振興に資するために必要ではないか。
我が国のサービス産業は諸外国に比して、生産性(※)が低い傾向にあり、その向上は、国全
体で命題になっている。
(※生産性は、
(「生み出される付加価値」/「投入されるコスト」)にて示される。)
図 2-3 グローバル化に対応したサービスプロフィットチェーン
事業者は、国際的な競争の中で、より費用対
効果に優れた良質なサービスを提供し、利益
を確保していくことが求められる。
地域
雇用増大
税収増大
事業者
地域経済の振興
'再投資力の創出(
生産性向上が
重要
従業員満足の
向上
ALL北海道の取組
の充実・拡大
従業員ロイヤリテ
ィの向上
社内サービス品
質の向上
国際的な「ディスティネー
ション」力の増大
良質なサービスの
提供
利益の拡大
潜在顧客
顕在顧客
優良顧客
来訪前
来訪中
継続顧客
来訪後
口コミによる新規顧客開拓&自身の再来訪
図 2-4 サービス産業の労働生産性上昇率(1995-2003)
出典:OECD compendium of Productivity Indicator2005
30
表 2-2 生産性向上事例 ~ハイ・サービス日本 300 選より
湯けむりの向こうの IT のおもてなし/(株)阿寒グランドホテル
旅館業という「家業」を盛り上げていくためには、個々のホテルのみならず地域全体の盛り上
げが必要と考え、対外的に阿寒地域全体をアピールする取組を実施。
付加価値の増大/客単価の増大、顧客の維持
旅館経営を「家業」ととらえ、個々の企業が頑張っても、地
域自体に魅力がないと先細ってしまうという考えのもと、阿
寒地域全体の魅力を対外的に PR。実際、同社では阿寒地域
全体の活性化のための取組にも積極的に参加している。
投入するコストの圧縮/効率化の徹底
館内の各箇所に双方向のコミニュケーションカメラを設置。
従業員が個人で判断できないような要望をお客から受けた
出典:サービス産業生産性向上協議会 HP
場合にはカメラを通じて管理室に判断を求め、管理室から指
示を与えることで、要望(トラブル)へ迅速に対処し、お客
の満足度を高めている。
お客に対して毎日アンケートを実施。100 枚以上集まるアン
ケートを翌朝までに分析し、各項目ごとに 100 点満点で評価
して毎日の朝礼で報告。日ごと、10 日ごと、1カ月ごとで
点数の増減傾向を分析し、点数の下がっている部門(項目)
に対して改善活動を実施。
感動をキーワードに、低価格と高品質なサービスを提供/スーパーホテル
激しい競争下にあるバジェットホテル業界において「誰にでも喜んでもらえることはできない
ので顧客を絞る、コンセプトを絞る」という基本方針で対応。絞り込んだ顧客ターゲットのビ
ジネスマン、エンジニア、セールスエンジニアの「1秒でも長く寝ていたい」「1秒でも早く
チェックアウトしたい」という宿泊ニーズ(必要なこと)と、ウォンツ(要求)に対応したサ
ービスプロセスを構築。
付加価値の増大/客単価の増大、顧客の維持
各部屋でインターネットサービスも無料で提供し、ビジネスマンニーズ
に対応。リピーター比率 80%を実現するために、2 年間で 5 回以上利用
した顧客を内部的に「ロイヤル会員」として区分し、一般客とは差別化
した接客を提供。
フロントはロイヤル会員の 7 割~9 割の顧客の氏名、顔、会社名などを
記憶して対応。
リピーター率の向上を測定する手段として、顧客から送られてくる「サ
ンキューレター」の内容と件数を重視し、改善策を積み重ねる取組をし
ている。
投入するコストの圧縮/効率化の徹底
特許を取得した自動チェックイン、チェックアウトシステムを導入し、
出典:サービス産業生産性向上協議会
HP
待ち時間を短縮。
チェックアウト業務の遅滞につながる電話サービスを提供しない(各部
屋に外線に繋がる電話を設置しない)。
アウトソーシングを活用し、コストダウンと同時に、接客業務の担当者
の負担を軽減して接客品質の向上に集中できる業務環境を実現。
31
(2)生産性向上の基本的な考え方
生産性を向上させるには、生産性の分子である「付加価値」を大きくする方法、及び生産性
の分母である「投入するコスト」を小さくする方法の2つがある。
北海道観光の現状を踏まえると、以下の2つの方向性が検討できるのではないか。

地域側が裁量権を持って、
「自立した個人客」市場を開拓、獲得、維持することを主体に、
付加価値を生み出す体質を構築すること(客単価の増大、既存顧客の維持、新規客の獲得)

既存の発地型団体旅行を主体に、業務の効率化を徹底し、付加価値に対するコストを圧縮
すること(効率化の徹底)
さらに、これらの取組方向は、その実現手法において、2つに区分できるのではないか。

事業者の意志、意欲によって取り組むことが可能であるもの(自主的な意欲が必要)

なんらかの法規制や、慣行が取組を阻害しており、規制緩和や国全体としての取組が必要
であるもの(規制緩和が必要)
図 2-5 付加価値と投入コストの関係イメージ
①サービスの内容'質(や、数'量(の向上、増大を通じて、付加価値を増大させる
提供するサービスの内容や数を向上、増大し、顧客が支払う対価を増大させることで、事業者が得る付加価値を増大さ
せる方式。「顧客」が、向上したサービスを評価し、対価を増大させることが必要であり、「自立した個人」が主たる対象と
なる。'団体客は、価格抑制圧力が高く、サービス向上を対価に反映させることが難しい(
顧客
+価値評価+
事業者
+増大+
+向上+
対価
サービス
内容'質(
・
サービス数
'量(
+付加価値増大+
利益
価値意識
・
収入
付加価値
人件費
ー削減ー
投入コスト
ー投入コスト削減ー
提供するサービスの内容や数を維持したまま'=対価を維持したまま(、業務の効率化によって、投入コスト'人件費含
む(を圧縮し、生産性を増大させる方式。価格抑制圧力の高い団体客対応に特に有効。
②提供サービスを変更せずに、投入コストの圧縮によって無駄を省くこと
そして、余裕の出たリソースを価値向上に繋がる部分に投入し、価値増大を図る
32
(3)生産性向上に資する取組 4 領域
前項で取り上げた、自主的意識による対応と規制緩和などが必要な対応、付加価値増大と業
務効率化の 2 軸から、北海道の観光産業のグローバル化に対応した付加価値向上手法のマッピ
ングを行った。本調査では、付加価値増大への貢献が大きく、かつ、取り組みやすいことから、
「領域1」に着目する。この領域には、図に示した魅力をたかめるための滞在環境づくりの他
にも、核となる魅力をつくるために商品・サービスづくり、魅力を売るための販売環境づくり
も含まれるが、グローバル化が普及していく中で、特に重要と考えられるサービスインフラ(グ
ローバル化対応に有効であり、かつ、個々の企業ではなく、地域や同業者が連携することで、
より効率的に生産性向上を図れる取組)を取り上げている。
図 2-6 北海道の観光産業のグローバル化に対応した付加価値向上手法マッピング
自主的意識、意欲による対応
領域2
領域1
工学的・科学的アプローチによる効率化6分野
'サービス生産性向上協議会より(
外客向けの対応が必要
サービスインフラ'滞在環境(づくり
'魅力をたかめる(
1.サービス生産、提供プロセスなどをロボットやITなどで代
替する
例(インフォメーションシステムや配膳ロボットを導入する
来訪の目的となり得る商品・サービスの魅力を更に高め
たり、利便性を高めたりする取組
2.サービス設計に「技術」を導入する
例(CRMの導入によって優良顧客を明らかにし、維持策を検討する
3.認知工学等を活用して、顧客視点でより高質なサービス
を実現する
交通サービス
例(行動を科学的に分析することにより、その人に合致する最適なサ
ービスを提供
情報提供サービス
4.従来サービスをモデル化し、そのプロセスを工学により
最適化する'含む:製造業ノウハウを導入する(
例(客室清掃の動線、手順をモデル化し、作業時間を圧縮する
医療サービス
5.市場化された新しい技術を活用してサービスを提供する
金融サービス
例(スカイプを利用した通訳システム'ニセコ地域(
6.他分野ではすでに普及している技術をサービス提供に
活用する
例(携帯電話を利用した地域情報提供
グローバル化が普及していく中
で、特に重要と考えられる領域
基本的に、本領域の取組は、
外客と国内客、双方に有効である
業務の効率化/低コスト化
付加価値増大
・中国人などビザの解禁'拡大(、航空規制の自由化、
・レンタカーへの運転手派遣解禁、現地送迎サービスの解禁
・通訳認定制度の拡充
外国人労働者の雇用、燃料費の抑制、固定資産税などの軽減…
領域3
基本的に、本領域の取組は、
外客と国内客、双方に有効である
領域4
規制緩和などが必要
現状で少ない直行便を急速に増やすことは難しいと思うの
で、羽田に入っても日本全国に低価格で行ける、例えば九
州にも沖縄にも北海道各地にも低価格で入れるような制度
をぜひ作ってほしい。
冬季間の冬道を安心して旅できるよう、レンタカーを借り
る際に、併せて運転手も手配できるような制度が日本にも
あっていいのではないか。重要なことは中国のビザ発給が
なるべく早い時期に開放されることだが、それに合わせて
こういう制度も整備していくべきではないか。
33
<サービスインフラに関する委員コメント>
(情報提供サービス)

YouTube などの動画情報が一般的になっている中で、今後は、北海道の様々なエリアの動画情報を多国語
言語できちんと整備していく必要があるのではないか。

スキー場も含めた地域として、ターゲットとなる相手国の嗜好に合わせた Web ページの作り方なども含め
て考え始めたところだが、どのようにコンテンツを揃え、いつどういったものを出していくのかを十分考
えながら、商品をつくり、伝えていかなければいけないと強く感じている。

ワンワールド航空会社を利用して訪日した外国人観光客は、JAL グループの国内線ネットワークを最大 5
区間まで、1区間どこでも1万円の運賃で利用可能。インバウンド(海外から日本に来る観光客)につい
ていつも口にしている我々もほとんど知らなかったが、おそらく諸外国でもこの情報は一般の方に提供さ
れていないだろう。こういった情報をきちんと提供していくと、もっと FIT が動きやすくなるのではない
か。

「日本に行ったら全然役に立たないガイドがついてくる」と、中国
通訳ガイドが非常に問題となっており、
の旅行会社から頻繁に苦情を受ける。安いレベルのガイドでの対応で品質を落とし、リピーターに繋がら
ないという問題があるので、人材育成、ガイド育成について早急に取り組むべき。また、人材の中での留
学生の活かし方についても、もっと工夫をする必要ある。

ホテル、レストラン、サービスも含めたランク付けがあったほうがよい。従来どおりのランク付けではな
く、例えばエコを表す環境ランクを入れるなど、北海道らしいランク付け、北海道以外では取り組んでい
ない北海道の先進的なランク付けも入れたほうが、世界にアピールしていく、情報発信のひとつのバロメ
ーターとしてはいいのではないか。

北海道旅行における価格競争、価格下落のひとつの原因は、情報がきちんと発信されていないことだと思
う。尐なくとも、自分が泊まるホテルはどのようなホテルか、調べたらすぐ情報が出るような仕組みが必
要だと思う。
(交通サービス)

海外からのアクセスがしやすいか(移動時間や乗り換えの利便性)
、また、到着後は気軽に楽しく時間を過
ごせるかどうかという点が重要である。

空港からの2次交通をどうするのか。新千歳、旭川、帯広と複数ある空港をどうするのか。陸海空のネッ
トワークをどうするのか。これらの問題を考える際、運営側も大切だが、ユーザー側に立ったアクセスの
方法論が必要である。将来の方向としては、メリットとデメリットを事業者間でどう調整するかが難しい
が、どの国の方も困らないよう1枚のカードで全て決済できると素晴らしいのかもしれない。

ニセコひらふ地区での今一番の課題は、歩道を改善すること。真冬でもハイヒールで歩く観光客が増えて
いるが、ひらふ地区には安全に歩ける歩道がない。
(金融サービス)

両替やクレジット対応の金融サービスの問題以前に、お客様が買いたがっているものが揃えられていない、
外国人観光客が持ってきている日本円が使いきれていないというのが現状。
(医療サービス)

ケガをしたお客様を現場でケアするにあたって、どこが痛いのかを聞けない、あるいは 30 分も外で待たせ
てしまうこともある。現場レベルでも、どういった状況なのか、アレルギーがあるのかないのか、血液型
は何型か、宗教上の問題で何が必要なのか、保険のことはきちんと触れられているのかなどの問診レベル
の最初の対応を重点的に取り組む必要がある。

スキー場でのケガの場合、大半が骨折のため強い痛みが伴うが、日本では病院に着くまで痛み止めが打て
ない。他国のスキー場では、スキーパトロールが口に入れて一時的に効く痛み止めのようなものを持ち歩
いている。日本の法律の問題だと思うが、日本の救急隊員はそれができないので、骨折した人は病院に着
くまで非常に辛い。
34
そこで、本調査では、来訪の目的となり得る商品・サービスの魅力を更に高めたり、利便性
を高めたりする取組であるサービスインフラに着目し、訪日外国人観光客の滞在環境づくりと
して特筆すべき 11 の取組を「サービスインフラいい事例集」として作成した。
(※詳細は、資
料編1を参照)
< 資料編1「サービスインフラいい事例集」より、一部抜粋>
変更前
事例1
【わかりやすい案内表示】
情報
変更後
企業グループ間で案内表示を統一するとともに、HP・携帯
HPの多言語化を行い、個人旅行の外国人観光客が移動しやす
いよう、情報提供を工夫している。
出典:小田急箱根ホールディングス株式会社
事例2
【中国人の買物需要を創出】
金融
日本で唯一、中国銀聯と提携を結び、現金持ち出し制限のあ
る中国人観光客に国内と同様の決済環境を提供するとともに、
高額ショッピングの需要を創出している。
事例3
【冬の山と街を結ぶ夜間無料バス】
出典:三井住友カード株式会社
交通
冬季の倶知安でスキー場のあるひらふ地区と市街地を結ぶ夜
間無料バス「くっちゃんナイト号」を 16 年前から運行。1シー
ズンに約 14,000 人の外国人が乗車するなど、域内の移動手段を
サポートしている。
出典:倶知安観光協会
事例4
医療
【電話での医療通訳】
外国人観光客が最も困る病気や怪我の対応として、外国人診察
に理解のある医療機関の紹介や医療通訳サービスの電話提供など
安心を広域的にサポートしている。
出典:AMDA 国際医療情報センター
35
第3章 ニセコ地域における外国人観光客 CS 調査、及び通訳サービス実証調査
前章では、北海道観光のグローバル化の基本的な方向性について確認した。本章では、北海
道の中でも、冬季間の豪州スキー客やアジア圏等からの個人の外国人観光客で賑わうニセコ地
域を対象に、訪れる観光客の満足度構造や消費行動を分析する。これにより、その成功要因を
探るとともに、FIT を中心とした外客の持続的な取り込み手法について検討を行う。
また、ニセコ地域では、スキーを楽しむ外国人観光客が怪我や病気で地域の病院に行くケー
スが増加している。しかしながら、病院ではこうした外国人対応は想定外の部分が多く、意思
疎通などの点で課題が生じている。同様に、外国人観光客が商店街等で買い物や飲食する場面
においても通訳サービスが提供されていないなど、地域と外国人観光客の円滑なコミュニケー
ション環境が不十分な状況にある。そこで、本調査では、インターネット通話システムを活用
した通訳システムを構築し、病院や店舗において実証事業を行った。この事業を通じ、通訳サ
ービスシステムのコスト分析、利便性、通訳サービスシステムの今後の利用拡大方策等につい
ても、あわせて検討する。
1.外国人観光客CS(Customer Satisfaction:顧客満足)調査
(1)概要
–
目的
ニセコ地域を訪れる外国人観光客の満足度構造、消費行動を把握することで、以下の3点を明
らかとする。
1.ニセコはなぜ成功しているのか
2.ニセコが今後も成功し続けるためにはどうしたらよいか
3.その中で、サービスインフラはどういう位置付けにあるのか
–
仕様
・調査時期:2009 年 1 月 20 日~22 日の3日間 11~16 時頃
・調査場所:ニセコビレッジ、アンヌプリ、グランヒラフ、花園のスキー場のレストラン・カ
フェ
・調査手法:レストラン・カフェで席に着いた外国人スキー客に直接アンケート用紙を配布し
記入を依頼。10~20 分程度かかるアンケートのため、ある程度時間を置いてから
直接回収した。
図 3-1 回収数の内訳
・回収数 :248 件
全体'N=248(
(内訳)ひらふ(キングベル)
:75
アンヌプリ
23.8%
花園(HANAZONO308)
:69
ひらふ
30.2%
ニセコビレッジ(ビレッジピープルカフェ)
:45
アンヌプリ(ヌックアンヌプリ):59
ニセコビレッ
ジ
18.1%
花園
27.8%
36
図 3-2 調査地点の様子
(2)調査結果
図 3-3 ■基本項目
居住地
年齢
その他
7.7%
全体'N=248(
全体'N=248(
ニュージーランド
56 - 66歳
10.1%
1.6%
中国
2.4%
67歳以上
0.8%
17歳以下
8.9%
46 - 55歳
21.0%
香港
8.5%
23 - 28歳
14.5%
36 - 45歳
17.7%
オーストラリア
79.8%
性別
29 - 35歳
17.3%
旅行形態
全体'N=248(
女性
40.3%
全体'N=247(
パッケージツ
アーを利用し
ていない
66.4%
男性
59.7%
37
18 - 22歳
9.7%
パッケージツ
アーを利用し
ている
33.6%
同行者(複数回答可)
家族
48.8%
友人
40.2%
25.6%
配偶者
一人
4.9%
2.4%
その他
0%
全体'N=246(
10%
20%
30%
40%
50%
60%
ニセコへの来訪回数
57.1%
全体'N=247(
0%
20%
初めて
2回目
18.2%
40%
60%
3回目
12.6%
5.7%
6.5%
80%
4回目
100%
5回目以上
滞在日数
ニセコ滞在日数
'N=243(
35.4%
日本滞在日数
'N=208)
27.4%
0%
1週間以内
20%
1~2週間以内
9.1%4.9%
50.6%
45.2%
40%
21.6%
60%
80%
2週間~1ヶ月以内
5.8%
100%
1ヶ月より長い
宿泊タイプ
全体'N=246( 6.9%
6.5%
22.4%
25.6%
0%
20%
自己所有物件
コンドミニアム
40%
60%
友人の保有物件
ベンション・民宿
38
24.4%
14.2%
80%
ホテル
その他
100%
■1.ニセコはなぜ成功しているのか
 ニセコを来訪する外国人観光客(スキー客)の満足度は、
「大変満足」が 46.5%と、高い水
準にある。
 この値は、主に日本人を対象とし、日本全国 59 地域で実施した「全国観光客意識調査」
(以
下、全国CS調査)と比較すると「大変満足」が 20 ポイント以上高い。さらに、スノービ
ジネスでのスキー場調査によれば、我が国のスキー場における「大変満足」とする率の平
均は 24.6%であり、ニセコを来訪する外国人観光客の満足度は、非常に高いと言える。
図 3-4 総合満足度
ニセコ'外国人(
'N=243(
46.5%
日本全国'日本人(
'N=15290(
40.7%
25.9%
0%
45.8%
20%
大変満足
40%
満足
やや満足
9.5%
21.6%
60%
どちらとも
80%
やや不満
100%
不満
大変不満
出典:日本全国の結果/経済産業省「観光集客地における顧客満足度(CS)の活用に関する調査研究報告書」
 ニセコに外客が来訪するようになってまだ年数は浅いが、今回の調査によれば、すでにリピ
ーターが4割以上に達しているように、ニセコの成功は「リピーター」の確保にある。
 一方、総合満足度と再来訪意向との関係をみると、全体の半数弱を占めている「大変満足し
た人」の内、約 6 割が「絶対また来る」との再来訪意向を示している。
 総合満足度が「満足」
、
「やや満足」と低下すると、再来訪意向は急減することも同時に明ら
かとなっており、来訪時に、高い満足度を与えたことが、ニセコの成功を支えている「リ
ピーター」の確保に直結していることが指摘できる。
図 3-5 総合満足度×再来訪意向
61.5%
大変満足(N=109)
21.1%
45.8%
満足(N=96)
9.1%
やや満足(N=22)
0%
29.2%
36.4%
20%
絶対来る(48.9%)
12.8% 4.6%
21.9%
3.1%
54.5%
40%
きっと来る(26.2%)
60%
80%
100%
もしかしたら来る(21.0%)
(3.9%)
来ない
※総合満足度がどちらとも以下は、回答数が尐ないため割愛
39
 実際、以下の来訪経験別の「ニセコ来訪のきっかけ」からも、リピーターの 9 割以上が、自
身の来訪経験により、ニセコを訪れていることが伺える。
 さらに、初来訪者は、約 6 割が「友人・家族などからのクチコミ」を、ニセコ来訪のきっか
けとしている。すなわち、満足度の高さは、本人の再来訪を促すだけでなく、クチコミを
通じて、新しい来訪者を呼び込む事にも繋がっていると言える。
図 3-6 来訪経験別のニセコ来訪のきっかけ
友人・家族などからのクチコミ
来訪経験
雑誌
テレビ
インターネット
広告・新聞
58.9%
21.0%
0.0%
93.0%
8.5%
0.0%
7.0%
0.0%
5.4%
0.0%
5.4%
0.0%
その他
27.9%
2.0%
0%
10%
初来訪者'N=129(
リピーター'N=100(
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
 さらに注目されるのは、ニセコ来訪のきっかけ別に総合満足度をみると、クチコミや来訪経
験による来訪者は、他の媒体をきっかけとした来訪者よりも、
「大変満足」とする率が高い
ことである。これは、クチコミや来訪経験に基づいての来訪者は、更なるリピーター化に
繋がる可能性が高いことを示している。
図 3-7 ニセコ来訪のきっかけ別の総合満足度
友人・家族などからのクチコミ(N=97)
48.5%
39.2%
11.3%
来訪経験(N=93)
48.4%
40.9%
6.5%
雑誌(N=11)
45.5%
33.3%
テレビ(N=9)
42.9%
広告・新聞(N=7)
42.9%
その他(N=39)
43.6%
0%
満足
18.2%
55.6%
インターネット(N=7)
大変満足
36.4%
20%
やや満足
40
11.1%
42.9%
14.3%
57.1%
0.0%
41.0%
40%
どちらとも
12.8%
60%
80%
やや不満
不満
100%
大変不満
 以上の分析より、ニセコの成功要因としては、以下のサイクルが成立していることが明らか
となった。
・来訪した人の満足度が高い
・その人達が自身の再来訪で来訪し、ニセコの素晴らしさを友人や家族にクチコミする
・自身の再来訪及びクチコミで来訪した人が、ニセコ滞在で期待通り(期待以上)の満足
度を得る
・そして、さらなるリピーター化が促進される
 では、そうした満足は、どういった要素によって構成されているのだろうか。各要素別に満
足度を見てみると、満足度評価点1がほぼ平均点付近の 4 項目「アクセス(ニセコ内)」
「天
候」
「情報」
「言語」を除いたうち、平均点を上回った上位 4 項目は、
「スキー」
「自然景観・
町並み」
「宿泊施設」
「食事」であった。
 一方、平均点を下回った下位 3 項目は、
「アクセス(ニセコまで)」
「買い物」
「費用」であっ
た。
平均点
'81.9 点(
図 3-8 個別満足度評価点
スキー
92.9
自然景観・町並み
89.4
宿泊施設
89.1
食事
85.9
アクセス'ニセコ内(
84.1
天候
84.1
情報
81.8
言語
81.1
アクセス'ニセコまで(
78.5
買い物
72.1
費用
61.7
40点 50点 60点 70点 80点 90点 100点
1
満足度を 100 点満点に換算した点数。大変満足(7 点)~大変不満(1 点)までの 7 段階で総合的な満足度を
示す。平均点を 100 点換算して算出。最高点は 100.0 点(7 段階評価の 7 点)であり、最低点は 14.3 点(7 段
階評価の 1 点)になる。満足度評価点={(7 段階評価平均点)/7 点}×100 点
41
 これらの個別満足度の高低は、それぞれの分野での満足度水準を示しているが、総合満足度
と個別満足度の高低とは、必ずしも連動しない。なぜなら、来訪者にとって、関心の低い
項目において、個別満足度が変動しても、総合満足度には影響しないためである。
 そこで、「総合満足度の構成要素」を探るため、重回帰分析(総合満足度と個別満足度との
関係性を科学的に見つけ出すための手法)を行った。この結果、総合満足度に与える影響
が強い項目は「スキー」
「自然景観・町並み」
「食事」「情報」「費用」であった。
 このうち、
「スキー」
「自然景観・町並み」「食事」についての満足度は非常に高く、こうし
た資源、もしくは取組が良いために、ニセコ来訪者の満足度を向上させることが出来たと
考えられる。
表 3-1 総合満足度に好影響を与えるベスト5、総合満足度に悪影響を与えるワースト5
① 総合満足度に影響を与える構成要素【外客:ニセコ】
No
標準化係数
自然景観・町並み
スキー
食事
宿泊施設
アクセス'ニセコ内(
天候
情報
言語
アクセス'ニセコまで(
買い物
費用
0.277
0.182
0.162
-
-
-
-
-
-
-
-
1
スキー
2
情報
3
費用
4
天候
5
言語
不満層
- 自然景観・町並み
'悪影響(
- 宿泊施設
- 食事
- アクセス'ニセコ内(
- アクセス'ニセコまで(
- 買い物
※調整済み決定係数:0.59
-0.198
-0.178
-0.143
-0.115
-0.106
-
-
-
-
-
-
大変満足
'好影響(
1
2
3
-
-
-
-
-
-
-
-
項 目
② (参考)総合満足度に好影響を与える構成要素ベスト5
【日本人客:全国平均】
No
大変満足
'好影響(
1
2
3
4
5
項 目
景観雰囲気
スタッフ対応
宿泊施設
食事
訪れた時季
標準化係数
0.141
0.116
0.071
0.066
0.056
③ (参考)総合満足度に悪影響を与える構成要素ワースト5
【日本人客:全国平均】
No
不満層
'悪影響(
1
2
3
4
5
項 目
景観雰囲気
宿泊施設
動機達成
食事
天候
標準化係数
-0.138
-0.112
-0.109
-0.091
-0.069
※調整済み決定係数:0.32
出典:日本人客の結果/経済産業省「観光集客地における顧客満足度(CS)の活用に関する調査研究報告書」
■2.ニセコが今後も成功し続けるためにはどうしたらよいか
 ニセコの成功要因については前述の通りだが、同時に、課題についても重回帰分析より明ら
かとなった。それは、総合満足度への影響度が高いにもかかわらず、その満足度が低位に
留まっている「費用」
「情報」の2分野である。この2分野については、何らかの対応が、
特に求められる要素であると言える。
 一方、
「アクセス(ニセコまで)」「買い物」は、個別満足度では低い傾向にあるものの、総
合満足度への影響度が低い。これより、この2分野については、改善させることが望まし
いことには変わりないが、限られた資源の中での取組の必要性は低いと言える。
42
 ところで、全国CS調査では、総合満足度への影響が強い項目は、
「景観雰囲気」
「スタッフ
対応」
「宿泊施設」「食事」等であり、「費用」「情報」といった項目は、総合満足度に与え
る影響は大きくないことが明らかとなっている。このことは、
「費用」
「情報」の2分野は、
ニセコの特徴である個人の長期滞在の外客への対応において、特別な分野であると言える。
 次に、ニセコにとっての「優良顧客」
「取り込みたい顧客」は誰なのかを明らかにするため、
属性別分析を行う。なお、ここでの優良顧客とは、リピーターとなる可能性が大きい「現
在の来訪者の中で高い評価をしている客層(以下、高 CS 層)
」と、地域への経済効果の大
きい「現在の来訪者の中で高い消費をしている客層(以下、高消費者層)
」とする。
 まず、高 CS 層を見つけ出すため、クロス集計分析2を用いて、来訪している顧客を、評価が
高い属性と評価が低い属性に区分した。そのうえで、それらのセグメント別に、構成比や、
満足度の現状を整理した結果、
「オセアニア3からのひらふ地区滞在客(構成比 54.7%)」
「オ
セアニアからのひらふ地区に滞在しない中高年層4(7.0%)」
「アジアからひらふ地区に滞在
する中高年層(2.1%)
」
「アジアからのひらふ地区に滞在しない青年層(1.6%)
」からの評価
が高いことがわかった。
 その一方で、今後伸びが期待される「アジア圏からの壮年層(主にファミリー層)
(13.5%)」
の満足度が、特に低位に留まっているという課題も見えてきた。
表 3-2 ニセコ来訪外国人観光客の総合満足度によるセグメント
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
2
3
4
居住地
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
ひらふ滞在
○
○
×
×
○
×
○
○
×
×
○
×
年代
青年層
中高年層
青年層
中高年層
壮年層
壮年層
主にアジア'欧含む(
青年層
主にアジア'欧含む(
中高年層
主にアジア'欧含む(
青年層
主にアジア'欧含む(
中高年層
主にアジア'欧含む(
壮年層
主にアジア'欧含む(
壮年層
全体平均
:大変満足率が全体平均以上のセグメント
大変満足率
61.8%
50.0%
35.0%
47.1%
57.1%
45.8%
60.0%
50.0%
28.6%
8.3%
19.0%
46.5%
N数
55
50
20
17
28
24
0
5
4
7
12
21
243
構成比
22.6%
20.6%
8.2%
7.0%
11.5%
9.9%
0.0%
2.1%
1.6%
2.9%
4.9%
8.6%
100.0%
クロス集計の有意差を測る手法として、ここではカイ二乗検定を用いた。
オーストラリア、ニュージーランド。
ここでは、28 歳以下を青年層、29~45 歳を壮年層、45 歳以上を中高年層としている。
43
54.7%
 続いて、高消費者層を見つけ出すため、満足度と同様の分析から、1人当たりの消費額が高
い属性と、低い属性とに区分し、セグメント毎に整理を行った結果、
「ニセコに1週間以上
滞在し、滞在中にスキー以外の日帰り旅行をした青年層・中高年層(構成比 28.6%)」「日
帰り旅行をしていないが、1週間以上滞在した壮年層・中高年層(19.9%)
」
「1週間未満の
滞在ではあるが、日帰り旅行をした壮年層(4.1%)
」の消費額が高いことがわかった。
 一方、
「日帰り旅行をしていない1週間未満の滞在層(29.8%)」、「1週間以上滞在したが、
日帰り旅行をしていない青年層(9.4%)」の消費額は、特に低い結果となった。
表 3-3 ニセコ来訪外国人観光客の消費総額によるセグメント
スキー以外の
日帰り旅行
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
○
○
○
○
○
○
×
×
×
×
×
×
1週間以上
滞在
○
○
○
×
×
×
○
○
○
×
×
×
年代
中高年層
青年層
壮年層
中高年層
青年層
壮年層
中高年層
青年層
壮年層
中高年層
青年層
壮年層
全体平均
:高消費者率が全体平均以上のセグメント
高消費者率
N数
構成比
51.6%
33.3%
22.2%
0.0%
25.0%
42.9%
31.3%
18.8%
27.8%
21.4%
20.0%
7.4%
25.8%
31
18
9
1
4
7
16
16
18
14
10
27
171
18.1%
10.5%
5.3%
0.6%
2.3%
4.1%
9.4%
9.4%
10.5%
8.2%
5.8%
15.8%
100.0%
28.6%
19.9%
29.8%
図 3-9 ニセコ来訪外国人観光客の消費総額の度数分布図
28.5%
30%
25%
20%
15%
22.0%
低消費者
層
11.8%
高消費者
11.8%
11.3%
14.5%
層
10%
5%
0%
10万円未満
10~20万円
20~30万円
30~40万円
40~50万円
50万円以上 '1人当たりの消費総額(
平均:345,735 円
表 3-4 ニセコ来訪外国人観光客の平均消費額
1人当たりの
1人一日当たりの
平均消費額'円( 平均消費額'円(
消費総額
'内訳(航空券
宿泊費
リフト券代
食料品・雑貨
飲食費
買物費
北海道での地上交通費
その他
44
345,735
92,742
92,922
33,123
23,362
39,717
32,748
14,489
16,632
28,339
-
7,617
2,715
1,915
3,256
2,684
1,188
1,363
 前述の満足度、消費額の両分析結果をあわせると、ニセコ地域として最も取り込みたい客層
(CS が高く、かつ消費額が高い層)は、以下の通りとなった。
表 3-5 CSと消費額に着目したニセコの客層セグメント(抜粋)
居住地
1
5
8
9
13
21
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
スキー以外の 1週間以上
ひらふ滞在 日帰り旅行
○
○
○
○
○
×
○
○
×
○
×
○
滞在
○
○
×
○
○
○
年代
青年層
壮年層
壮年層
中高年層
青年層
中高年層
 ニセコ地域の今後の発展のためには、CS と消費額の関係から「最も取り込みたい顧客」を
明確にし、よりきめ細かな対応でそれらを維持しつつ、更に「ロイヤルカスタマー(優良
顧客)化」への取組を行っていくことが必要である。
 特に、今後の新規市場として期待されるアジア系と、既存の優良顧客であるオセアニア系と
を比較すると、消費額の点では差は認められないものの、アジア系の満足度は低い傾向に
あるため、満足度の向上に向けた取り組みが必要となろう。
図 3-10
ニセコの取り込みたい客層(消費額×CS)
消費額高
【取り込みたい顧客】
CSの向上
【最も取り込みたい顧客】
C
S
低
消
増費
加額
の
【取り込みたい顧客】
消費額低
45
C
S
高
表 3-6 CSと消費額に着目したニセコの客層セグメント(詳細)
1
オセアニア
ひらふ
滞在
○
青年層
○
2
オセアニア
○
青年層
○
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
オセアニア
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
青年層
青年層
壮年層
壮年層
壮年層
壮年層
中高年層
中高年層
中高年層
中高年層
青年層
青年層
青年層
青年層
壮年層
壮年層
壮年層
壮年層
中高年層
中高年層
中高年層
中高年層
青年層
青年層
青年層
青年層
壮年層
壮年層
壮年層
壮年層
中高年層
中高年層
中高年層
中高年層
青年層
青年層
青年層
青年層
壮年層
壮年層
壮年層
壮年層
中高年層
中高年層
中高年層
中高年層
×
×
○
○
×
×
○
○
×
×
○
○
×
×
○
○
×
×
○
○
×
×
○
○
×
×
○
○
×
×
○
○
×
×
○
○
×
×
○
○
×
×
○
○
×
×
居住地
年代
スキー以外の
日帰り旅行
1週間以上
大変満足率高消費者率 N数 構成比
滞在
○
62.5%
30.8%
16
7.1%
×
50.0%
0.0%
○
60.9%
18.2%
×
44.4%
14.3%
○
60.0%
66.7%
×
100.0%
0.0%
○
42.9%
30.0%
×
66.7%
33.3%
○
51.9%
54.2%
×
○
41.2%
23.1%
×
80.0%
25.0%
○
50.0%
40.0%
×
0.0%
100.0%
○
40.0%
20.0%
×
25.0%
50.0%
○
0.0%
0.0%
×
33.3%
66.7%
○
42.9%
0.0%
×
83.3%
0.0%
○
100.0%
75.0%
×
○
40.0%
66.7%
×
25.0%
0.0%
主にアジア'欧含む(
○
主にアジア'欧含む(
×
主にアジア'欧含む(
○
主にアジア'欧含む(
×
主にアジア'欧含む(
○
0.0%
0.0%
主にアジア'欧含む(
×
主にアジア'欧含む(
○
0.0%
100.0%
主にアジア'欧含む(
×
0.0%
0.0%
主にアジア'欧含む(
○
33.3%
0.0%
主にアジア'欧含む(
×
主にアジア'欧含む(
○
主にアジア'欧含む(
×
100.0%
0.0%
主にアジア'欧含む(
○
主にアジア'欧含む(
×
0.0%
0.0%
主にアジア'欧含む(
○
主にアジア'欧含む(
×
50.0%
0.0%
主にアジア'欧含む(
○
主にアジア'欧含む(
×
25.0%
33.3%
主にアジア'欧含む(
○
33.3%
0.0%
主にアジア'欧含む(
×
14.3%
7.1%
主にアジア'欧含む(
○
主にアジア'欧含む(
×
0.0%
0.0%
主にアジア'欧含む(
○
主にアジア'欧含む(
×
40.0%
50.0%
全体平均
46.5%
25.8%
:大変満足率、高消費者率が全体平均以上のセグメント(構成比29.0%)
:大変満足率は全体平均以上だが、、高消費者率が全体平均未満のセグメント'17.9%(
:大変満足率は全体平均未満だが、高消費者率が全体平均以上のセグメント'17.0%(
:大変満足率、高消費者率ともに全体平均未満のセグメント'36.2%(
46
2
0.9%
23
9
5
1
14
7
27
17
5
6
1
5
4
5
3
7
6
4
5
8
3
2
5
3
1
1
2
4
3
14
1
5
224
10.3%
4.0%
2.2%
0.4%
6.3%
3.1%
12.1%
7.6%
2.2%
2.7%
0.4%
2.2%
1.8%
2.2%
1.3%
3.1%
2.7%
1.8%
2.2%
3.6%
1.3%
0.9%
2.2%
1.3%
0.4%
0.4%
0.9%
1.8%
1.3%
6.3%
0.4%
2.2%
■3.その中で、サービスインフラはどういう位置付けにあるのか
 スキー、交通、宿泊施設、レストラン、買い物などのシーンでの、46 事項の個別項目につ
いて評価を計測したところ、金融、情報、交通などサービスインフラ系の項目の多くは下
位を占め、課題があることがわかった。
 特に、金融インフラに関しては、評価点が 44.8 点と、他項目に比して非常に低位に留まる
結果であり、対応が急がれる事項と言える。
 また、情報については、42 頁でも触れた通り、総合満足度への影響が大きい項目であるた
め、発地向け情報、ニセコ内での情報ともに、対応が必要と考えられる。
表 3-7 個別項目の評価(降順)
サービス
その他分類
インフラ
ス
魅
レ
宿
タ
力ア
ス
ス買そ
そ
交泊
情交金ッ 料そ ク
キ
ト いの
の
通
施
報
通
融
フ
金
の
セ
ー
ラ 物他
他
設
対
も ス
ン
応
の
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
↓
●
●
平均以下
●
●
●
●
●
●
●●
●
●
●
●
●
●
●●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●●
●●
●
●
●
●
●
●
●
●
←46項目の平均点
:「金融」サービスインフラ
:「情報」サービスインフラ
:「交通」サービスインフラ
シーン
内容
評価点
リフト乗り場のスタッフの親切さ・サービス
雪の量と質
自然景観
スキー場の魅力
レストランやバーの従業員の親切さ・サービス
温泉
安全性・快適性'犯罪がない、騒音がないなど(
従業員の親切さ・サービス
ニセコ以外のスキー場の魅力
食事や飲み物の味
店舗従業員の親切さ・サービス
美術館、歴史施設などの魅力
スキー以外の活動'クロスカントリー、スノーモービル、日本文化体験など(
タクシーやバスの運転手やバスガイドの親切さ・サービス
温泉など、スキー以外の活動の入場料・体験費用
リフトやゴンドラの便利さ・快適性
町並み
ルスツや小樽などニセコ以外への交通手段の頻度と時間
天気
部屋の快適さ'ベッド、サイズ、暖房、備品等(
ルスツや小樽などニセコ以外への交通料金
活動事業者や美術館スタッフなどの親切さ・サービス
レストランやバーの種類や数
ニセコ内の交通料金
リフトの運行状況や天気予報などの情報の入手しやすさ
宿泊施設のグレードやタイプの種類
宿泊先からスキー場までの交通手段の頻度と時間
食事に関する情報の入手しやすさ
スキー場周辺'倶知安やニセコ市街地(への交通手段の頻度と時間
宿泊施設内の施設'レストランやジムなど(
ニセコでの交通情報の入手しやすさ、わかりやすさ
自国での宿泊施設情報の入手しやすさ
日用品店'食料品店やスーパーマーケット(へのアクセス
地域文化やライフスタイル、地元住民との会話などを体験する機会
ニセコでの観光情報の入手しやすさ・わかりやすさ
商品の種類や質
家からニセコまでのアクセスのしやすさ
リフトやゴンドラの料金
宿泊料金
日用品以外のモノの入手しやすさ
自国でのニセコの交通情報の入手しやすさ
自国での観光情報の入手しやすさ
家からニセコまでの旅行料金
レストランやバーで飲食料金
食料品・雑貨の価格
ATMや銀行窓口での両替のしやすさ
47
91.1
90.6
90.0
89.7
88.0
87.9
87.1
86.7
86.5
86.4
85.4
84.8
84.6
83.1
82.9
82.0
81.7
81.5
81.1
81.1
81.0
80.7
80.4
80.0
79.7
79.5
79.1
78.4
77.8
76.4
75.4
74.8
74.5
74.3
74.1
73.3
73.2
72.6
71.8
70.3
69.3
68.3
67.0
66.6
64.1
44.8
78.7
 以上、観光客の側から、個人の長期滞在外客が多いニセコにおいて必要なサービスインフラ
は、
「金融」
「情報」
「交通」が挙げられる。
 また、本 CS 調査の結果が示すように、来訪者の情報を収集し、解析し、共有し、対応策を
立案していくことは、地域の持続的な発展において重要な要素と考えられる。よって、こ
うした地域側で共有し、活用していくような情報インフラも、サービスインフラの一つと
捉えることが出来る。
図 3-11
<参考>ニセコの魅力と欠点、改善してほしいことと変わらないでほしいこと
ニセコの魅力
ニセコの欠点
両替・カードが不便
66.1%
良い雪質
スキー・スノーボード
33.0%
親切な人
19.4%
言葉の壁
食物
17.6%
ショッピング施設のなさ
自然・景色
11.5%
文化
11.0%
施設
16.8%
13.3%
10.7%
費用の高さ
9.2%
スキー場整備・コース・リフト
8.8%
温泉
31.6%
アクセスが不便
9.2%
6.1%
食物の違い
日本らしさの欠如・
多すぎる外国人
5.7%
4.1%
夜'レストランやバー(
4.0%
アクセスの良さ・時差・交通
2.6%
天候
2.0%
言語対応'英語(
1.8%
景観'タウンスケープ(
1.5%
その他
全体'N=227(
6.2%
0%
20%
40%
60%
80%
ニセコに改善してほしいこと
0%
ATMの設置
コストの改善
ショッピング施設を増やす
10.3%
スキー場以外の施設の増設
10.3%
リフトの改善'早く、多く(
食
7.3%
料金・コスト
1.7%
スキー場
1.1%
3.6%
1.8%
1.8%
1.2%
その他
全体'N=165(
5.5%
0%
5%
5.6%
0%
2.4%
WEBサイト改善
7.3%
その他
4.2%
禁煙・マナー向上啓発
7.9%
すべて
西洋式にならない
5.5%
イベント開催・娯楽を増やす
16.9%
14.1%
7.3%
4.8%
安全管理
23.2%
20.9%
雪質
6.1%
リフト券の改善
'時間券、半日券、価格(
28.2%
自然・環境
7.9%
言葉の壁の改善
40%
24.3%
田舎・親切な人
8.5%
日本レストランを増やす
開発をストップ・景観規制
30%
開発を制限する
15.2%
西洋レストラン・カフェ・パブを増やす
スキー場の改善
'滑走ゾーンの拡大、規制等(
20%
日本らしさ・文化
17.6%
15.8%
英語表記
10%
全体'N=196(
ニセコに変わらないでほしいこと
アクセスの改善
地図・案内版'数や場所や質(
9.7%
その他
10%
15%
20%
48
10%
全体'N=177(
20%
30%
2.通訳サービス実証調査
(1)概要
–
目的
ニセコ地域を訪れる外国人観光客との円滑なコミュニケーションの促進を目的に、インターネ
ット電話を利用した通訳サービスシステムを試験的に導入する。
–
仕様
・内容
:外国人観光客と日本人店員、通訳との三者間通訳
・実験期間:平成 20 年 12 月 1 日(月)~21 年 2 月 28 日(土)
・運用時間:12 時~24 時
・対応言語:英語、中国語(主に普通話)、韓国語
・通訳者 :東京大学に在籍する留学生、国際基督教大学に在籍する学生等
・導入店舗:32 施設
–
通訳サービスシステムの流れ

インターネット電話「Skype」を基幹システムとして、各店舗に設置したパソコンと通訳者
の専用携帯電話を「Skype Out 機能(インターネット電話の一般電話への接続機能)
」によ
って接続。各店舗側の外国人観光客及び店員と通訳者との三者間通話により、スムーズな
通訳を実現する。
図 3-12
–
通訳サービスイメージ図
システムの概要
• 本システムは大きく、スカイプが提供する既存のシステム、通訳者に関わる各種の情報を記録
する専用データベース、そして両者をつなぐ Web アプリの3つによって構成される。
• 専用データベース、Web アプリは、そのソフトウェア利用において費用のかからないオープ
ンソース(いわゆる LAMP 環境)を活用することで、本事業後の持続的な活用時にもニセコ
地域で追加的な費用負担が発生しないようにする。
• Web アプリ(データベース)には、スカイプ ID など個人情報に類する情報を格納するため、
パスワードによってロックを行い、それら情報の保全を行う。
49
(2)実証結果
–
稼働実績

利用実績は 17 件(利用実績一覧は「参考資料」を参照)
。


言語別
英語:15 件、中国語:2 件、韓国語:0 件。

施設別
病院(歯科を含む)
:7 件、ドラッグストア:3 件、その他 7 件。

月
12 月:9 件、1 月:5 件、2 月:3 件。
別
通訳内容は、患者の症状や、探している薬の種類といった、詳しい説明に関する内容が多
かった。
–
利用者アンケート結果

利用した外国人へのアンケートの結果(アンケート結果一覧は「参考資料」を参照)を見
ると、こちらも概ね好意的であり、印象深かった点としては「発音の良さ」が多く挙げら
れた。

回答数:6 件。

通訳の満足度
とても満足(Quite Satisfied):3 件、満足(Good Job):3 件

通訳者の技能
とても高い(Quite High):3 件、高い(High):3 件

印象深かった点 発音の良さ(Pronunciation):5 件
一生懸命さ・親切さ(Hospitality Kindness):1 件

施設担当者アンケートの結果(利用実績一覧は「参考資料」を参照)を見ると、概ね好意
的であり、印象深かった点として「通訳者の一生懸命な対応・親切さ」が多く挙げられた。

回答数: 8 件。

通訳の満足度
とても満足:4 件、満足:2 件、普通:2 件

通訳者の技能
とても高い:2 件、高い:4 件、普通:2 件

印象深かった点 一生懸命さ・親切さ:7 件(無回答 1 件)

この通訳者に再度頼みたいか
はい:7 件(無回答 1 件)
–
ヒアリング結果

本実験に参加した施設担当者に対し、ヒアリングを行ったところ、以下のような回答があ
った。
【利用側の課題】

常時 PC を起動していないため、(対応時間的、心理的に)利用のハードルが高い。

今回のシステムの使用方法について、従業員への周知が十分でなく、利用可能な人が限
られていた。
【システム側の課題】
●通訳者について

Skype を接続しても、通訳者につながらない(不在等になる)場合があった。
[倶知安厚
生病院、ツルハドラック倶知安南店、小川原修記念美術館]
50

通訳者に土地勘がないため、地理案内では利用しづらい。[倶知安町観光協会]

通訳者と観光客だけの会話になってしまうことがある。
[倶知安厚生病院]
●起動、接続、音質等について

音質が安定しないことがあった。[はんこ広場、Mポケット]

接続までの待ち時間が長い。
[倶知安厚生病院、ツルハドラック倶知安南店、Mポケット]

システム起動に時間がかかり対応が間に合わない。
[倶知安町役場住民課、Mポケット]
●サービス全般について

本システムにかかりきりになってしまうため、繁忙な時間帯や従業員の尐ない時間帯に
は利用しづらい。[倶知安厚生病院、倶知安町役場住民課]

利用が多い時間帯(午前中、あるいは深夜)と、本実験の稼働時間が一致していない。
[倶
知安厚生病院、倶知安町役場住民課、ツルハドラック倶知安南店]

外国人観光客に本システムの趣旨を説明すると大げさに感じられて使用を断られる場合
がある。
[はんこ広場]
【要望、感想等】
●通訳者の改善について

もっと地元の人材や組織(倶知安観光協会等)を活用した方が、人材育成や活用の観点
から良いのではないか。
[羊蹄丸、くにもとデンタルクリニック]
●システムの改善について

テレビ電話のように顔が見える方が安心感があるのではいか。
[㈲日進堂、小川原修記念
美術館、くにもとデンタルクリニック]

携帯電話やスピーカーフォン等のように、もっと簡便なシステムを使った方が良いので
はないか。
[倶知安厚生病院、ペンションポテトチップス、はんこ広場]

電話やFAXでの問い合わせに対応できる方法もあると良いのではないか。
[NAGOM
I、羊蹄丸、司法書士金井政二事務所、ニセコパークホテル]

通訳システムだけのために常時起動は難しい。街の情報なども一緒に提示した方がよい
のではないか。
[ニセコパークホテル]
●サービス全般について

ネットワークやマイクを無線で準備し、院内のどこでも利用できるようになると良いの
ではないか(かかりっきりにならなくて済むし、院内のどこでも利用できるようになる)。
[倶知安厚生病院]

受付では片言でも問題ないことが多い。むしろ「看護師による問診」でこそ利用価値が
あるのではないか(専門用語は必ずしも必要ではない)。
[倶知安厚生病院]
●その他
51

利用機会は尐なかったが必要であることは間違いない。万一困ったときの保険として必
要。
[ウェルカムセンター 他多数]
。

今後、中国や韓国からの観光客が増えると考えられることから、このようなシステムは
必要。
[BOOM スポーツ、ニセコリゾートサービス]

こうしたサービスが安定的にあれば、中国語圏、韓国語圏の観光客を受け入れることも
できるのではないか。
[ペンションポップコーン]

ある程度、従業員による英語対応が可能。特に地理案内は片言の英語であっても、地図
等を利用して説明した方が簡単である。
[倶知安観光協会 他多数]

普段使い慣れているやり方(外国人に翻訳サイトに英語入力してもらい、日本語に翻訳
する)の方が慣れているので心理的に使いやすい。
[安全センター]

有料サービスであってもよいので確実につながること、利用側が引け目なく利用できる
ことが重要ではないか。
[くにもとデンタルクリニック]

各施設の英語力向上も同時に進めていくことが重要ではないか。[ウェルカムセンター、
ペンション風]

(使い勝手を議論する以前に)こうしたシステムがあるということが重要。言語的なサ
ポートはVJCの基本であり、ここだけでなく全国展開するべき。
[ウェルカムセンター]
(3)事業性及び課題整理
本調査では、利用した施設担当者や外国人からの評価は概ね高かったが、事業性を確保する
ためには、通訳者数を確保したうえで多くの需要が必要となるため、1地域だけでの実施は難
しく、全道、若しくは北日本というような単位に、エリアを拡大する必要があると考えられる。
エリア拡大や問い合わせ内容や回答のデータベース化なども含め、慎重に事業性を検討しなけ
ればならない。なお、本調査における個別課題を整理すると、以下のようになる。
■需要が多い「説明シーン」での有効性が高い

今回の実験では病状や商品・サービスに関する詳しい説明が必要なシーンでの通訳利用が
目立った。理由としては、倶知安町ではこれまでも外国人の来訪が多かったため、多尐な
りとも英語が話せる方が多く、また、簡単なやりとりであれば通訳を必要とせずに対応で
きる施設や、ウェルカムセンターや倶知安厚生病院のように英語が堪能なスタッフが常駐
している施設があるといったことが挙げられる。しかし、投薬に関することや、保険の取
り扱い、ルーティンのやりとりではない特別な対応が必要な際には、より正確な意思疎通
が求められるため、こうしたシーンでの需要は高いと考えられる。

説明を要するシーンの多い施設としては、病院・歯科、薬局といった施設が中心になると
考えられる。この他、複合的なサービスを提供している DTP サービス店等での利用も考え
られる。
■困った時のための「最終手段」としての設置も有効

倶知安町を訪れる外国人観光客(特にオーストラリア、香港)の多くが英語を話せること
52
から、英語対応に慣れている倶知安町民にとっては、多尐のコミュニケーションは通訳を
介さずに取ることが多い。一方で、英語の話せない外国人が来訪した際には、全くコミュ
ニケーションが取れないことにもなる。そのため、説明シーンの発生が尐ない店舗等にお
いても、
「困ったときの最終手段」としての通訳システムが常備されていることが観光客に
とって望ましく、施設側にとってもそうしたニーズがあると考えられる。
■システムの常時起動を促す工夫が必要

参加施設に対しては、事前説明会時においてパソコン及び Skype を常時起動しておいてい
ただくよう依頼をしていたが、実際は必要な時にパソコンを起動する施設が多かった。そ
のため、外国人が来てからパソコンを立ち上げていても間に合わないことがあった。

一方で、今回の実験で利用のあった施設はパソコンを常時起動していた施設が多く、通訳
システムの利用を増やしていくためには「常時起動」が必須であると考えられる。ただし、
そのためには、パソコンを常時起動しておくための「理由」として、使用していない時間
帯でもパソコンを利用するようなコンテンツも同時に提供する必要があると考えられる。

例えば、倶知安町の最新ニュース等の情報掲載、関係者のブログ、天気予報、通訳を依頼
するまでもない簡単な外国語を調べるための辞書(本実験でも提供)等の便利ツールの提
供が考えられる。
■通訳者の属性多様化が必要

本実験では、事業継続性を考慮し、常駐して通訳の発生を待つような体制ではなく、通常
の生活を送りつつ必要に応じて対応するという体制を採用していたが、通訳者に電話がな
かなか通じないという状況が何度か見られた。理由としては、通訳者が全て学生であった
ため、授業が重なるなど生活のリズムが共通する傾向が強く、電話に出られない時間帯が
一致する可能性が高かったことが考えられる。これを避けるためには、主婦(主夫)など
日中の対応がしやすい方を通訳者に加える等、属性を多様化することが必要と考えられる。

また、今回の実験では、東京都内に居住する学生が中心であったが、たとえば道案内など
のシーンでは、土地勘がないと通訳が難しい。外国語が堪能な人を多く集めるのはある特
定の地域内(倶知安町)だけでは困難であるため、東京都内の学生に依頼するのはやむを
得ないが、通訳者の中に地元民を数名加え、地元民であることを明記することで利用シー
ンが広がると考えられる。さらに、北海道大学の留学生の活用も検討するべきと考えられ
る。
53
第4章 観光産業グローバル化のためのモデルフィールド調査
北海道全体の観光産業のグローバル化のためには、各観光地での魅力を増進するとともに、
地域特性から生じる様々な個別課題を解決し、それを積み上げていくことが必要である。
このため、本章では、グローバル化の進展状況に応じ、洞爺湖地域、夕張地域をフィールド
に、各地域の特性等に基づいた個別課題の解決策等を検討する。
1.
【洞爺湖地域】外国人観光客の変動を見越した観光産業のあり方検討
洞爺湖地域では、2008 年 7 月に開催された北海道洞爺湖サミットが開催されたことで、国際
的な知名度が向上し、今後の外国人観光客の増加が見込まれている。特に、サミット会場を核
にしたラグジュアリーツアーや MICE の増加が期待されているが、短期的には、社会経済環境
の変化による需要変動も尐なくない。そこで、サミット開催地としての利点を活かしながら、
地域で長期的・持続的に外国人観光誘客を図るための方策等について検討する。
(1)九州・沖縄サミット開催前後の観光入込動向及び対応策の状況
第 34 回のサミットは、温泉リゾート地である「北海道虻田郡洞爺湖町」で開催された。今で
こそ、一般的となったリゾート地でのサミット開催であるが、サミットは、基本的に首都、も
しくはそれに準じた大都市での開催が基本であった。
転機が訪れたのは、第 26 回(2000 年開催)の「九州・沖縄サミット」においてであり、実
に、第 2 回(1976 年開催)の「サンフアン(プエルトリコ/米国)」以降、24 回振りのリゾー
ト地開催となった。その後、第 27 回の「ジェノバ(イタリア)
」において大規模なデモが発生
したため、第 28 回(2002 年開催)の「カナナキス(カナダ)
」以降は、警備が容易であり、良
好なサミット運営が出来る地域として、リゾート地での開催が続いている。こうしたリゾート
地での開催は、開催地となるリゾート地にとっては、警備の負担は尐なくないが、国際的にそ
の知名度を高める好機にもなっている。
表 4-1 過去のサミット開催地一覧
首脳会合開催地
首脳会議期間
議長国
会議地
首脳会合開催地
首脳会議期間
議長国
1 ランブイエ
会議地
パリ郊外 ランブイエ城
1975年 11月15日~17日
フランス
18 ミュンヘン
レジデンツ'宮殿(
1992年 7月6日~8日
ドイツ
2 プエルト・リコ
プエルト・リコ サン・ファン郊外 ドラド・ビーチ 1976年 6月27日~28日
アメリカ
19 東京
東京 迎賓館
1993年 7月7日~9日
日本
3 ロンドン
ロンドン 英国首相官邸
1977年 5月7日~8日
イギリス
20 ナポリ
王宮
1994年 7月8日~10日
イタリア
4 ボン
ボン 西ドイツ 旧首相官邸
1978年 7月16日~17日
西ドイツ
21 ハリファックス
サミット・プレイス
1995年 6月15日~17日
カナダ
5 東京
東京 迎賓館
1979年 6月28日~29日
日本
22 リヨン
現代美術館
1996年 6月27日~29日
フランス
6 ヴェネチア
サン・ジョルジョ・マッジョーレ島
1980年 6月22日~23日
イタリア
23 デンヴァー
中央図書館
1997年 6月20日~22日
アメリカ
7 オタワ
モンテベロ 及び オタワ
1981年 7月20日~21日
カナダ
24 バーミンガム
バーミンガム国際会議場
1998年 5月15日~17日
イギリス
8 ヴェルサイユ
ヴェルサイユ宮殿
1982年 6月4日~6日
フランス
25 ケルン
ルードヴィッヒ美術館
1999年 6月18日~20日
ドイツ
9 ウイリアムズバーグ
ウイリアムズバーグ
1983年 5月28日~30日
アメリカ
26 九州・沖縄
沖縄県名護市「万国津梁館」
2000年7月21日~7月23日 日本
10 ロンドン
ランカスター・ハウス
1984年 6月7日~9日
イギリス
27 ジェノヴァ
デゥカーレ宮殿
2001年7月20日~22日
イタリア
11 ボン
ボン 西ドイツ 旧首相官邸
1985年 5月2日~4日
西ドイツ
28 カナナスキス / ウィスラー カナナスキスホテル
2002年6月26日~27日
カナダ
12 東京
東京 迎賓館
1986年 5月4日~6日
日本
29 エビアン/パリ
エビアンホテル'エビアン・ロイヤルリゾート(
2003年6月1日~3日
フランス
13 ヴェネチア
サン・ジョルジョ・マッジョーレ島
1987年 6月8日~10日
イタリア
30 シーアイランド
ジョージア州シーアイランド
2004年6月8日~10日
アメリカ
14 トロント
メトロ・トロント・コンベンション・センター
1988年 6月19日~21日
カナダ
31 グレンイーグルズ
スコットランド'グレンイーグルズホテル(
2005年7月6日~7月8日
イギリス
15 アルシュ
グランド・アルシュ'新凱旋門(
1989年 7月14日~16日
フランス
32 サンクトペテルブルク
コンスタンチン宮殿
2006年7月15日~7月17日 ロシア
16 ヒューストン
ライス大学
1990年 7月9日~11日
アメリカ
33 ハイリゲンダム
ハイリゲンダム
2007年6月6日~8日
ドイツ
17 ロンドン
ランカスター・ハウス
1991年 7月15日~17日
イギリス
34 北海道洞爺湖
ザ・ウィンザーホテル洞爺
2008年7月7~9日
日本
出典:外務省HP、洞爺湖町HPより財団法人日本交通公社作成
54
前述したように、サミットの歴史上、九州・沖縄サミットはリゾート地開催のパイオニアと
位置づけることが出来る。当時は、観光立国の取組がなされる以前ではあったが、観光産業の
比重の高い沖縄地域の観光振興、地域振興が副次的な目的となっていた。しかしながら、結果
としてみれば、同サミットの開催は、外客の誘致には残念ながら結びつかなかった
この理由は、アメリカ同時多発テロ事件(2001 年)
、SARS 問題、イラク戦争勃発(2003 年)
、
鳥インフルエンザ問題(2005 年)と、サミット後、世界的に情勢が悪化したことが挙げられる。
また、そもそも、沖縄県は、国内において非常に強いディスティネーションであり、国内客の
みで多くの需要を取り込むことが可能であり、国際化への感心が低かったことが挙げられる。
いずれにしても、サミット開催が直接的に観光の国際化に繋がるわけではないことは、九州・
沖縄サミットの結果から伺うことができる。
なお、アメリカ同時多発テロ事件以降、長い間外国人観光客数は低迷していたが、平成 19 年
度は前年度比で倍増となっている。これは、宿泊容量の増加(シティホテル系の増加に伴い日
本人で満室だった状態が解消され、受け入れ側の体制が整ってきた)
、台湾からの定期クルーズ
船の運行再開、香港とのチャーター便増加(2008 年 4 月からは定期便化)
、台湾での沖縄旅行
商品の販売好調などによるものであり、サミット開催との繋がりは弱い。
図 4-1 沖縄県のサミット前後の入込観光客数(県内客含まず)の推移
2008
2007
2006
2005
1997
2004
1996
2003
1995
2002
1994
2001
1993
2000
1992
1999
1991
1998
1990
'千人(
1989
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
H1
H2
H3
H4
H5
H6
H7
H8
H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20
サミット開催
出典:沖縄県観光統計
図 4-2 沖縄県のサミット前後の外客入込数の推移
2008
1998
2007
1997
2006
1996
2005
1995
2004
1994
2003
1993
2002
1992
2001
1991
2000
1990
1999
サミット開催
'千人(
1989
300
250
200
150
100
50
H1
H2
H3
H4
H5
H6
H7
H8
H9
H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20
出典:沖縄県観光統計
前述したように、九州・沖縄サミットと外客誘致との繋がりは希薄ではあった。しかしながら、
国際的な一大イベントであるサミットを開催したことは、地域にその後の観光振興の推進力と
なるタネをまくことにつながっている。これらの効果について、現地ヒアリングを元に、観光
対象となる「魅力」、実際の来訪を担う「移動・滞在」、観光客と地域とをつなぐ「情報収集・
55
発信」
、そして、実際に観光振興を担う「人・組織」の4つに分けて整理を行った結果、以下の
成果が確認された。
 【魅力】8 年後の北海道洞爺湖サミットを利用した取組、観光の低迷時にホテルなど受入れ
側のレベルを上げる活動などによって、知名度を持続的に向上させることができた。
 【移動・滞在】
【情報収集・発信】その一方で、移動・滞在、情報収集・発信については言
語(英語)対応の充実、発信する情報の多言語化などの基本的な対応に留まっており、8
年経過した現在も、金融・交通インフラの充実など、特に外客対応にとって重要となる要
素については、多くの課題が残っている。
 【人・組織】市民活動の活性化などによって市民の意識が向上し、また、サミット開催地と
しての連携が強化された。観光事業者に留まらず幅広い人達が地域づくりに参画できた。
 【人・組織】秒単位でのスケジューリングやセキュリティ対応など MICE 独特の対応能力
を向上させることができた。
表 4-2 九州・沖縄サミットを通じて実現できたこと、できなかったこと
魅
力
移
動
・
滞
在
情
報
収
集
・
発
信
人
・
組
織
できたこと
できなかったこと
持続的な知名度向上
・2008年夏に再び国内で行われるサミットを利用した取組を考え
た。洞爺湖サミットが環境をキーワードにしていたことや、珊瑚礁
年であったことから、珊瑚の植え付けプログラムを行ったところ、
非常に好評で、サミット開催地としての深化もできた。
・サミット後、観光産業だけでなく、コールセンターやサーバー関
連など情報通信産業の集積が進んだ。
・サミット翌年の911後の悪状況時、じたばたしても仕方ないと考
え、施設を一部クローズ、通常では出来ない研修に従業員を送
るなど、違う時間の使い方を行い、「中を高める」取組を行った。
結果、3月から回復に転換し、その後は順調に推移してきた。
・岬部分だけでなく、山側にもホテルの集積が進みつつある。こ
れらを含めた広域エリアをサミットゾーンとしてコンベンションの核
としていくことも考えている。
・サミット効果は、忘れた頃に引っかかるということだろう'インター
ネットの時代はそういうことが起きやすい(。
中国人観光客の取り込み
・アフターサミットとしては、特に外客に特化した取組はしていな
い。外客対応は、むしろサミット後落ち着いてから取り組んでき
た。これから先の5年は、中国をどうするかが大きな課題。中国マ
ーケットについては、富裕層を巻き込む仕掛けを考えている。
言語(英語)対応の充実
・英語のみの対応施設がほとんどであるが、英語ができればあま
り不自由さは感じない。また、外国語の教育支援を行っている施
設も多い。
金融インフラの充実
・ホテルでは、ドル以外の両替はほとんど行われていない。クレジ
ットカードが使えるところは増えているが、銀聯カードにはまだほ
とんど対応できていない。
ラグジュアリーツーリズムの確立
・ブセナ、マリオット、喜瀬別邸、スパリゾートエグゼスなど、同エリ
アはラグジュアリーツーリズムとしての要素がようやく整ってきた。
今後はいかにその要素を活かすかが課題。
交通インフラの充実
・国際会議を誘致する上で、那覇空港がハブでないことは大きな
マイナス。アジアのコンペティターは、皆、ハブ空港を持ってい
る。安全安心や食の魅力は大きな魅力だが、それが、交通のマイ
ナスを取り戻せるほどかどうかは解らない。
発信する情報の多言語化
・サミットを機会に、英語のHPを作成したり、パンフレットを多言語
化したりした。
来訪者に関する基礎情報の収集
・インバウンドについての正確な統計がとれている宿泊施設は一
部であるとともに、質的情報'年齢、目的、同行者(についてはほ
とんど把握できていない。
幅広い人達の参画・地域側の意識向上
・サミット開催は名護市民にとって「自信」となった。特に、花、緑
化運動は特筆される活動で、現在も継続して行われている。
・各国首脳の宿泊先が西海岸全体に分散していたため、広範な
地域が一体となった。
・ロシアとのつながりが出来たことで、ロシア客の誘致にもつなが
っている。
官民一体となった対応
・全県レベルでみると、MICE対応できる人材や、様々なノウハウ
が不足している。
・大きな会議には民間の協力が必要。
・サミットの効果を活かしていくためには、官民をあわせたしっかり
とした短期的でないビジョンが必要だろう。その上で、具体的な各
論も必要。
・リゾートホテルのフルサービスではMICEには高すぎる。うまく
オフ期に入れば良いが、利益との相反が生じる場合が尐なくな
MICE能力の向上
・サミットを実施したことは、MICEの適正、対応力について一種の い。
お墨付きを頂いたようなもの。
・もともと、フレンドリーな対応力はあったが、フォーマルな対応は
未経験であった。VIP対応では、秒単位での時間管理、セキュリ
ティを学んだ。
・MICE対応として、カンファレンスコーディネーターを4名指名
し、セッティングからエクスカーションまでをワンストップで対応し
ている。これによって、信頼感を得ている。
出典:沖縄県内の宿泊施設・自治体ヒアリングより財団法人日本交通公社作成
56
(2)洞爺湖地域における観光の現状と課題
一方、我が国においてリゾート地での 2 カ所目のサミット開催地となった洞爺湖地域に注目
すると、同地域は 1990 年代の全国的な宿泊需要縮小の流れの中において、比較的堅調に推移し
てきたが、2000 年の有珠山噴火によって大きく入込客を減尐させていることがわかる。
この噴火は、同地域の観光に大きなダメージを与えたが、その後の対応を協働する必要があ
ったため、各施設の経営者や観光協会が一斉に若返り、意志決定から行動までの時間差が圧縮
され、スピーディーな対応が可能となったという予期し得ない効果を生むきっかけともなった。
これによって、翌年には大幅に入込客が増加したものの、未だ噴火前の水準までは回復してい
ない。
こうした中、外国人宿泊客は徐々に増加しつつあり、宿泊需要拡大への期待が持たれるとこ
ろであるが、北海道全体での急激な増加に比べればわずかな増加に留まっており、十分にその
需要を取り組めていない現状が伺える。
その他、洞爺湖地域では、2002 年から広域でエコミュージアム構想に取り組んでおり、まち
づくり総合計画(2007 年)、バイオタウン構想(2008 年)を含め、地域の農業、水産業といっ
た“環境と観光との融合”を大きな地域づくりの方向として掲げている。
図 4-3 洞爺湖町の入込客数推移(年度)
2007
2006
1997
2005
1996
2004
1995
2003
1994
2002
1993
2001
1992
2000
1991
1999
1990
1998
1989
'人(
6,000,000
5,000,000
4,000,000
3,000,000
2,000,000
1,000,000
0
H1
H2
H3
H4
H5
H6
H7
H8
H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19
出典:北海道観光入込客数調査
図 4-4 洞爺湖町の外客数(宿泊延数)推移(年度)
'人(
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
H9
H10
H11
H12
H13
H14
H15
H16
H17
H18
H19
出典:北海道観光入込客数調査
表 4-3 洞爺湖町の近年の観光系振興計画
計画名
洞爺湖町バイオタウン構想
洞爺湖町まちづくり総合計画
まちづくり交付金事業'魅力ある観光地づくり整備事業(
エコミュージアム サイン整備計画
エコミュージアム アクションプラン
洞爺湖周辺地域エコミュージアム構想
主体
洞爺湖経済部生活環境課
洞爺湖町
国'国土交通省(、洞爺湖町
策定年
2008年3月1日
2007年3月
2004~06年度
2004年3月
2003年3月
「レイクトピア21」推進協議会
「レイクトピア21」推進協議会
「レイクトピア21」推進協議会'伊達市'旧伊達市+旧大滝
2002年10月26日
村(、豊浦町、洞爺湖町'旧虻田町+旧洞爺村(、壮瞥町(
57
出典:各種資料より財団法人日本交通公社作成
このような状況の中、第 34 回北海道洞爺湖サミットは、2008 年 7 月 7 日から 9 日までの 3
日間にわたって開催された。8 年ぶり 5 回目の日本開催となった今回のサミットは、地球温暖化
の進行や原油価格高騰など、地球規模の問題が人々の生活に切実な影響を与えている中で行わ
れたため、きわめて重要な会議として注目を集めた。特に焦点となっていた気候変動問題では、
「世界全体の温室効果ガスの排出量を 2050 年までに尐なくとも 50%削減」するという長期目
標を世界全体の目標とするよう求めることで合意した。
図 4-5 北海道洞爺湖サミットの様子
出典:外務省「G8 北海道洞爺湖サミット 2008 パンフレット」
ここで、今回のサミット開催による観光振興への影響について、現地ヒアリングを元に整理
を行うと、以下のような事項を挙げることが出来る。
 【魅力】環境・気候変動問題が主要テーマであったことから、宿泊施設や観光施設において、
湖水を利用した冷房装置やペレットストーブを導入するなど、環境対策が推進された。
 【魅力】洞爺湖の自然や景観が国内外に大いに配信されたことによって知名度が向上し、そ
の結果、欧米系を中心とした外国人の個人観光客が増加しつつある。しかし、個人客の対
応には課題も多く残されている。
 【移動・滞在】
【情報収集・発信】サミット以前から外客誘致に取り組んでいたこともあり、
言語(英語)対応の充実、発信する情報の多言語化など、基本的な対応には素地があった。
それに加え、サミットを機会に、飲食店組合全体でのクレジットカード導入による金融イ
ンフラの浸透を実現することができた。
 【人・組織】外国人観光客が増加したことにより、大手だけでなく中小の旅館でもある程度
受入れ態勢が整備された。その一方で、今回のサミットではテロ対策のために厳重な警備
体制が敶かれたこと、会議会場、宿泊施設が実質的には「ザ・ウィンザーホテル洞爺」に
絞られたことなどにより、地域としての MICE 対応可能人材の育成、地域内・地域間の連
携強化には課題が残された。
58
表 4-4 北海道洞爺湖サミットを通じて実現できたこと、できなかったこと
魅
力
できたこと
できなかったこと
環境対策の推進
・サミットを機会に、水利権を取得し、湖水の冷水を利用した冷
房装置を導入した。
・サミットを機会に、ペレットストーブを導入した。ただし、これは
暖房機能と言うよりは見栄えという点が大きい。すでに90%以
上が蛍光管に変えてある。割り箸の王子製紙を介したパルプ
化、天ぷら油の燃料化にも取り組んでいる。
・「ちょこっとエコ旅」を催行した。
・落ち込んだ修学旅行対策として、環境面でのセールスをかけ
ている'ウッドチップをつかった遊歩道づくり体験など(。
個人客への対応
・アジア系は団体客が主体であるが、近年は個人客が増えてき
た。もともとは団体で来訪し、洞爺湖が気に入り個人客として再
来訪してくれている。一方、欧米系の外国人は個人客が主体。
時間はかけるが、お金はメリハリをつけて使う。団体客から個人
客へのシフトが起きている中で、必ずしも旅館はそれに対応し
ていない。
・FIT客の利用は、口コミで広がる傾向が高いので、満足度向
上を図らなければならない。
・個人客対応を念頭に、泊食分離の取組をすすめている。しか
し、なかなか難しい点もあるので、例えば期日を決めて実行す
るなどの取組が必要。
知名度の向上
・サミット効果は知名度向上の点で大きかったと思う。この知名
度は時間が経つと下がってしまうので、この知名度を活かした
アフターサミットの取組が重要。洞爺湖の自然、景観が大量に
配信されたことが大きい。効果はこれからだろう。
・体験プログラムは元々日本人向けであったが、外客も興味を
示し、現在ではシンガポールの旅行会社からの外客を受け入
れている。
環境対策への魅力づけ
・環境対策は、外客には魅力とは感じてもらえない。
外国人個人観光客の増加
・サミット後、団体客を置き換えるほどではないが、個人の外客
が安定して宿泊している'特に、欧米系の外国人が増加(。
・リピーターは、大型旅館から'より異国情緒を味わえる(中小旅
館に移動する傾向も見られるようになっている。また、個人客を
中心に、旅館の夕食を外し、まちの居酒屋に行くようになった。
移
動
・滞
在
情
報
収
集
・
発
信
人
・組
織
金融インフラの浸透
・温泉街の殆どの飲食店にてクレジットカードが使えるようにし
た。団体で加盟することで手数料率も下げるのに成功した。ま
た、サミットによってカード利用者が多く来訪したため、飲食店
ではカード決済の方法を習得した。
金融インフラのさらなる充実
・外貨両替についてはドルしか対応していないが、クレジットカ
ード対応を実現したため、今後、銀聯カードへの対応を考えて
いる。
外国人とのコンフリクト解消
・入浴時のマナーについて多くのクレームがある。また、日本人
客からは「外国人多いのね」と指摘されることは尐なくない。
・入浴やロビーでの過ごし方、バイキングなどにおいてマナーの
問題がある。特に中国人において残っている。
言語対応の充実
・住民や従業員向けの言語講習会を実施している。
発信する情報の多言語化
・観光協会のHPは今年から4カ国語対応とした。
情報提供手段・内容の充実
・地図や飲食店情報、インターネットのアクセス環境、外国語表
記などが課題。外客の問い合わせは、道がわからない、施設の
場所がわからないなど、地図に関する事項が多い。
・WEBサイトは重要と認識しているが、外国語対応はさほど進
んでいないのが実情。だが、外国人は翻訳をして情報収集して
いるようだ。WEBサイトの外国語を充実させて、「外国語対応が
きっちりできるところだ」と思われるのも困る。
・飲食店のメニューについては写真を掲載することを促してい
る。
大手・中小旅館の安定化
・外客誘致は、当初、中小旅館にとっては関係のない話であっ
たが、大型旅館の稼働率が上がらない'修学旅行が落ち込ん
だため稼働率低下(と中小旅館の市場'例:敬老会など(にも手
を出してくる事もあり、大小関係なく、外客誘致に取り組んだ外
客誘致の成功によって、大手旅館が安定し、結果、中小も安定
した。
MICE対応可能な人材の育成
・現状では、国際会議への対応は考えていない。これは、人材
の点で、国際会議に対するセールスをする事が出来ないため。
地域内・地域間での連携強化
・観光協会が旧村町で分かれたままになっており、地産地消な
どの取組も全体では難しく、個別対応になっている。
・留寿都やウインザーでも独自の外客誘致を行っていて、洞爺
にも来訪している。留寿都の客層は洞爺の客層に近く、ウイン
ザーはFITのみ、富裕層に特化している。
・登別に宿泊需要が移り、洞爺湖が立ち寄りになっている傾向
がある。
・壮瞥町とは合併していないが、観光面では、協働して取組を
行っている。但し、行政の壁はある。
出典:洞爺湖町内の事業者・自治体ヒアリングより財団法人日本交通公社作成
59
(3)サミット開催後の洞爺湖地域のグローバル観光へ向けた取組方策案
ここまで、九州・沖縄サミット、北海道洞爺湖サミットそれぞれを通じて実現できたこと、
できなかったことの整理を行った。両者の結果を比較・検討すると、以下の事項が指摘できる。

外客対応についてはむしろ洞爺湖の方が先進地であった
沖縄観光は現在でも国内客対応がメインであり、外客対応はこれからであるのに対し、
洞爺湖では、サミット以前から外客の誘致活動に取り組み、実際、外客が多く訪れる地
域となっている。外客対応という視点で見れば、沖縄よりも洞爺湖の方が先進であると
言える。

沖縄県では市民レベルの幅広い活動が生まれ、その後の「継続」を実現した
九州・沖縄サミット時は、市民レベルを含め様々な交流イベント、受け入れ態勢づくり
が行われた。これらの活動は、貴重な経験となり、現在でも美化運動を始めとする市民
活動が継続されている。
これに対し、洞爺湖では、テロ対策のために厳重な警備体制が敶かれ、会議会場、宿泊
施設は「ザ・ウィンザーホテル洞爺」に絞られた。そのため、洞爺湖を中心とした地域
的な広がりでの連帯感の醸成や、市民レベルを含めた多様な主体の参加には繋がりにく
かった。

MICE に対応するノウハウが地域に蓄積された
九州・沖縄サミット時は、各国首脳の宿泊先が分散したことや、市民レベルでも様々な
交流イベントが開催されたことで、行政、民間、市民にそれぞれ国際的な MICE への対
応ノウハウが蓄積された。その結果、現在までそれぞれの主体において、様々な MICE
開催が実現されている。
これに対し、洞爺湖では、会議会場が「ザ・ウィンザーホテル洞爺」に限定されたこと
もあり、MICE ノウハウが地域に広がらなかった。
以上より、先行事例の取組を受け、洞爺湖地域が今後サミット開催地としてのメリットを活
かすためには、以下の3点の取組を実施することが重要と考えられる。
取組策1 中長期の視点での知名度の向上
 洞爺湖の自然や景観が大いに配信されたことによって知名度が向上し、その結果、欧米系を
中心とした外国人の個人観光客が目に見えて増加している。
 このサミットによる知名度の向上を、一過性のものではなく、持続的なものにしていく。例
えば、G8 が 8 カ国のままであれば、8 年後は再び日本で開催することになるが、その時に
向けて前サミット開催地として、今から準備出来ることは多い。
 1、2 年先の結果ではなく、8 年先、16 年先をも見据えるといった中長期の視点で、サミッ
ト開催の効果を活用していく方策を考える必要がある。
60
取組策2 サミット開催地域内での連携、市民参加による活動の拡大
 観光客の認識としては、“サミット開催地=洞爺湖地域全体”であり、湖畔だけではなく、
地域が一丸となってサミット開催地として盛り上げていく必要がある。そのためには、合
併町村内での連携、会議会場であった「ザ・ウィンザーホテル洞爺」との連携、小中学生・
農家・市民など観光事業者以外の地域の幅広い人々の参加による活動など、地域内での連
携や草の根的な活動の拡大を強化すること。また、国際メディアセンターが設置された留
寿都村、配偶者プログラムが行われた真狩村など近隣地域との連携も強化することが望ま
れる。
 サミットで高まった市民や地域の気運を持続させ、また、サミットエリアでの連携、参加主
体の拡大により、サミット開催地としての存在感を高めることが重要である。
取組策3 サミット開催を通じて得た「エコ」に対する取組の活用
 九州・沖縄サミットでは、MICE そのものへの対応能力が向上したが、北海道洞爺湖で地域
を貫いたテーマは、“環境(エコ)”であり、徹底した環境への配慮がなされた。世界初の
環境サミットの開催を通じて、洞爺湖地域では、カーボンオフセットの取組や、湖水を利
用した冷房装置の導入などが進んだ。
 今後は、“エコツーリズム”ではなく、“エコ(省エネ)”と観光を融合した新しい観光を創
造し、活用していくことが、ラグジュアリー層の取り込みには重要な視点となる。
 なお、現状では、“エコ”はアジア圏には訴求点とはなっていないが、日本においても 10
年前はエコに興味がなかったことを考慮すると、今後は訴求点となりうる可能性は大きい。
以上を踏まえ、洞爺湖地域が今回のサミット開催地のメリットを活かし、さらにグローバル
化を推進していくにあたっては、以下の重要な事項が指摘できる。
 日本国内において、
“エコ”というテーマで世界的なネームバリューを誇る地域は、洞爺湖
と京都(
「京都議定書」が議決された地球温暖化防止京都会議の開催地)である
 現状では、
“エコ”はアジア圏の集客には効果はないが、欧米では、
“エコ”は、高学歴、高
所得者層ほど意識が高まっている。
 注目市場である中国を含めたアジア圏においても、将来的には、そうした傾向が高まる可能
性は大きい。
そこで、グローバルの視点から、
“エコ”をキーワードにした地域づくりを追求し、それによ
って、国内外からラグジュアリー層等を集客していくことができるのではないか。そして、サ
ミット終了後だからこそ、増加する外国人の個人観光客への対応強化、外客と日本人客のコン
フリクト解消、情報インフラや金融インフラのさらなる充実など、目の前にある様々な課題へ
の対応はもちろんのこと、沖縄サミットや高松丸亀商店街のような長期的な視点で、例えば 40
年後に再びサミット誘致を目指す、という目標を設定する。そして、そのためにすべきことを、
地域一丸となって検討していくことが、洞爺湖地域の長期の視点でのグローバル化促進にとっ
て重要な視点となりうると考えられる。
61
<参考:イベント開催後における長期視点での地域づくり成功事例(高松丸亀商店街)>
高松丸亀町商店街は、高松市の中心商業地区の中央に位置する全長 470mの 400 年余りの歴
史を誇る商店街である。バブルの絶頂期の 1988 年、同商店街は 108 日間に及ぶ生誕 400 年祭
を開催し、大盛況に終わった。しかし、生誕祭を一過性のものに留めるのではなく、
「この賑わ
いがこれからの 100 年も続き、次の 500 年祭を迎えることができるのだろうか?」という視点
から、その後の地域づくりが始まった。青年会が中心となって再開発委員会を発足、将来の丸
亀町商店街のあり方について真剣に議論を重ねた結果、一軒一軒の個別の努力とともに、自分
の土地を合理的に利用し集積のパワーを生み出していこうという結論に至り、再開発に向けて
の歩みがスタートした。今では、全国で有数の元気な商店街として名を馳せるようになってい
る。この様な取組により、2006 年 5 月「 がんばる商店街77選」
(経済産業省)に選定された。
なお、北海道洞爺湖サミットの期間中は、道路規制情報の発表が遅くなり観光客や旅行会社
への対応が後手に回る、厳重な警備体制が敶かれるなどの状況が発生したため、観光客は激減
した。こうした状況は、サミットに限ったことではなく、大型のイベントやコンベンション、
オリンピック、スポーツイベントなどにも同じことが言えるものである。ただ、これらのイベ
ント開催にあわせ、様々なインフラが整備されることも事実である。地域では、これらのイベ
ント開催「後」
、そのイベントの成果、効果を、地域づくりにどのようにつなげていくのかを長
いスパンで考えていくことが重要と考えられる。
<参考:日本円取得可能なATM導入検討>
サミットを通じてできなかったこととして、「金融インフラのさらなる充実」が挙げられた。
洞爺湖温泉街では、サミットを機会に飲食店組合のほぼ全店でクレジットカードを導入してお
り、観光地における金融インフラの先進地と言えよう。金融インフラのさらなる充実の手段と
しては、前段の整理で挙げられた銀聯カードの導入もあるが、現状での使われた方は、中国人
の現金持出し制限を代替する手段として、百貨店や家電量販店などでの高額な買物の決済に使
われる事例が多くなっている。そこで、観光地での土産品の購入や観光施設の入場料など、日
本円による尐額の支出における金融インフラとして、より優位性のある、日本円取得が可能な
セブン銀行 ATM の設置についてフィージビリティスタディを行い、道内の他地域での展開可能
性について検討する。
なお、洞爺湖の温泉街の東端には、既にセブン銀行 ATM が設置されたセブンイレブンがある。
しかし、温泉街全体として、自国の銀行口座から手軽に日本円を出金できる金融インフラを、
より利便性の高い場所に整備することが重要であるという視点に立ち、検討を行う。
62
-概要
■セブン銀行 ATM のサービス概要
・設置台数
:全国 13,000 台以上
・サービス時間:24 時間 365 日稼動
・提携金融機関:550 社以上
・海外発行カード対応:
・・VISA、MasterCard、American Express、JCB、中国銀聯と連携
・・ATM 画面及び利用明細は、英語、韓国語、中国語、ポルトガル語の4カ国語に対応
・・海外発行カードは出金のみ可能で、1 万円札のみの取扱い
■セブン銀行 ATM の導入効果
・海外発行カードの利用者数は、多い日には 3,000 人/日程度に達し、着実に浸透している。特
に観光地での利用が多い(京都市市内中心部、浅草雷門。道内では、セブンイレブン倶知安
基町店や新千歳空港など)
。外国人の不満軽減にも貢献しているとの調査結果(TIC 調べ)も
ある。
・ATMの設置場所は、全国のセブンイレブン以外にも、国内主要空港や東京駅のほか、高速
道路サービスエリア、ショッピングセンターやホテル、病院、地下街やオフィスビル等に拡
大している。
今回日本滞在中、最も失望したこと、不便と感じたこと
40.5%
言語、標識、説明不足、地図等の不便
13.1%
天候
10.6%
交通関連
8.8%
宿
7.1%
物価
5.8%
観光地事物
飲食関連
4.8%
町中環境について
4.6%
3.8%
観光案内所
2.7%
混雑
1.9%
買物・サービス
1.2%
禁煙・喫煙
キャッシング、クレジットカード
1.0%
景観
0.8%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
出典:JNTO「平成 20 年度 TIC 利用外国人旅行客の訪日旅行動向調査」より(財)日本交通公社作成
63
■洞爺湖地域におけるセブン銀行 ATM 導入について
・洞爺湖地域には、
「セブンイレブン洞爺湖店」が既にあるが、ここでは、 “地域”として ATM
を導入すること(セブン銀行との契約者は、洞爺湖温泉観光協会を想定)についての検討を
試みる。なお、具体的な場所については、既存店舗との位置関係、観光客の動線を考慮し、
洞爺湖遊覧船乗り場、洞爺湖ビジターセンター、町立火山科学館付近への ATM 導入を検討す
る。
セブンイレブン洞爺湖店
ATM導入検討エリア
-導入検討結果
■設置施設候補
セキュリティが確保される場所でないと設置は不可となる。夜間クローズしてしまう店舗の
場合は、シャッターがあること、空間警備があることが大前提となる。例えば、簡易的な建物
を設営し、その中に ATM を設置することはセブン銀行の基準では不可である。但し、利用され
ないと利益が出ないため、人通りが多い場所への設置が望ましい。上記を考慮すると、大規模
宿泊施設のフロントが候補として挙げられる。
■ATM 設置施設とセブン銀行の役割分担
洞爺湖
セブン銀行
設置前
・設置場所の提供
・事前現場調査への協力
・電源・通信線工事
・回線申請、ケーブル工事
・ATM 及び周辺機器の搬入、設置
運用開始後
・電力の供給
・パンフレット等の補充
・ATM 清掃
・ATM サービス緊急停止時の案内
・ATM サービスの提供
(現金装填回収、軽微、ATM 保守メンテ)
・計画停止時の事前案内
・ATM 緊急事態発生時の警察への通報
その他
出典:セブン銀行資料より財団法人日本交通公社作成
64
■今回の検討での想定
洞爺湖側の担当事項
今回の検討での想定
・設置場所の提供
・洞爺湖湖畔の大規模宿泊施設を想定
・事前現場調査への協力
・洞爺湖周辺は、光ファイバー未提供エ
リア(09 年 2 月 12 日現在、NTT 東
日本 HP より)のため、光回線工事が
必要。
・洞爺湖温泉観光協会、洞爺湖温泉飲食
店組合で分担
設置前
・電源・通信線工事
・電力の供給
運用開始後
・パンフレット等の補充
・ATM 清掃
・洞爺湖湖畔の大規模宿泊施設を想定
・ATM サービス緊急停止時の案内
出典:セブン銀行資料より財団法人日本交通公社作成
■前提条件
a.H19 年度の洞爺湖町の外国人宿泊者数
106,262 人(8,855 人/月、295/日)
b.洞爺湖町の人口(平成 21 年 1 月 31 日現在)
10,635 人
c.洞爺湖温泉観光協会の会員数
45 団体
d.洞爺湖温泉飲食店組合の会員数
37 店
e.ATM1台の1ヶ月設置にかかるコスト
40 万円
f.ATM の使用1回あたりの銀行からの手数料収入
平均 130 円
g.e+f より、1日 100 件程度の利用があれば、採算が得られる計算となる。
■検討結果
CaseA~C は外国人観光客の利用率、Case1~5 は住民の利用率を仮定し、利用率を変化させた
場合の、ATM1 台の 1 ヶ月設置にかかるコストとの差額を以下に表す。
CaseA
CaseB
CaseC
外国人観 海外発行カード 各銀行から 各銀行から コストとの
光客の利 での利用者
の手数料収 の手数料収 差額'負
用率
'人(
入'円/日( 入'円/月( 担額(
1.0%
3
384
11,512 388,488
5.0%
15
1,919
57,559 342,441
10.0%
30
3,837
115,117 284,883
Case1
Case2
Case3
Case4
Case5
洞爺湖町
各銀行から 各銀行から コストとの
洞爺湖町住民
住民の利
の手数料収 の手数料収 差額'負
の利用者'人(
用率
入'円/日( 入'円/月( 担額(
0.1%
11
1,383
41,477 358,524
0.2%
21
2,765
82,953 317,047
0.3%
32
4,148
124,430 275,571
0.4%
43
5,530
165,906 234,094
0.5%
53
6,913
207,383 192,618
各銀行からの手
CaseA~C と各銀行から
Case1~5
を組み合わせたコストとの差額を、10、20、30
施設で平等に分担する
コストとの差
の手数料 数料収入'円/
額'負担額(
収入'円/ 月(
場合の、1施設あたりの負担額は以下の通りとなる。
CaseA&Case1
CaseA&Case2
CaseA&Case3
CaseA&Case4
CaseA&Case5
CaseB&Case1
CaseB&Case2
CaseB&Case3
CaseB&Case4
CaseB&Case5
CaseC&Case1
CaseC&Case2
1,766
3,149
4,531
5,914
7,296
3,301
4,684
6,066
7,449
8,831
5,220
6,602
52,988
94,465
135,941
177,418
218,894
99,035
140,512
181,988
223,465
264,941
156,594
198,070
347,012
305,535
264,059
222,582
181,106
300,965
259,488
218,012
176,535
135,059
243,406
201,930
65
1施設あたりの負担額
各銀行からの 各銀行からの
コストとの差額
利用者数'人( 手数料収入
手数料収入
10施設の場合 20施設の場合 30施設の場合
'負担額(
'円/日(
'円/月(
CaseA&Case1
CaseA&Case2
CaseA&Case3
CaseA&Case4
CaseA&Case5
CaseB&Case1
CaseB&Case2
CaseB&Case3
CaseB&Case4
CaseB&Case5
CaseC&Case1
CaseC&Case2
CaseC&Case3
CaseC&Case4
CaseC&Case5
14
24
35
45
56
25
36
47
57
68
40
51
61
72
83
1,766
3,149
4,531
5,914
7,296
3,301
4,684
6,066
7,449
8,831
5,220
6,602
7,985
9,367
10,750
52,988
94,465
135,941
177,418
218,894
99,035
140,512
181,988
223,465
264,941
156,594
198,070
239,547
281,023
322,500
347,012
305,535
264,059
222,582
181,106
300,965
259,488
218,012
176,535
135,059
243,406
201,930
160,453
118,977
77,500
34,701
30,554
26,406
22,258
18,111
30,096
25,949
21,801
17,654
13,506
24,341
20,193
16,045
11,898
7,750
17,351
15,277
13,203
11,129
9,055
15,048
12,974
10,901
8,827
6,753
12,170
10,096
8,023
5,949
3,875
11,567
10,185
8,802
7,419
6,037
10,032
8,650
7,267
5,885
4,502
8,114
6,731
5,348
3,966
2,583
-事業性検討及び課題整理
主に以下の 3 点について、実現可能性、横展開するに当たっての課題を整理する。
1.設置場所
・ATMの高さ(2300mm 必要)
、重さ(約 480kg)の制限があるため、設置場所は限定される。
・設置施設は、観光客へのアピールという点でのメリットは大きいが、その分、パンフレット
等の補充、ATMの清掃、セキュリティ等の負担が発生するため、設置場所の選定には、地
域内での十分な検討が必要となる。
2.負担コスト
・初期費用については、光回線の導入状況・設置場所によって大きく変わる(10 万円で済むと
ころもあれば、100 万円かかるところもある)。
・運用費用については、セブン銀行との契約段階で、コストの 40 万円と推定手数料収入額との
差額から設置施設の運用負担額を算出し、1 年間はその負担額を支払う。1 年間の契約毎に負
担額を見直すため、運用費用をいかに下げるかが課題となる。
・各ホテルにパンフレットを置くなどして、地域全体として利用を促進することが必要となる。
また、観光客だけでなく、地域住民の利用も影響が大きいため、地域として ATM を“可愛が
る”ことが望ましい。
・利用者が伸び悩んだ場合でも、参加施設が多ければ、各施設の ATM 導入費用負担を抑えるこ
とができる。その一方で、地域(団体)として契約する場合は、運用にあたっての負担額の
分担をどのように設定するかが課題となる。
3.他地域への展開
・ATM 設置場所から地理的に離れた施設の場合、観光客にもアピールしにくくメリットを享受
しにくいため、参加の可能性が低位に留まることが予想される。そのため、施設が徒歩圏内に
集積している地域であれば、ATM 導入を検討しやすいのではないか。
・道内では、ニセコ(ひ
らふエリア)
、小樽(運河通り)などの地域への導入が検討可能なのではないか。
66
2.
【夕張地域】地域における観光再生方策の検討
夕張市は、
「炭鉱から観光へ」と 1980 年代から各種の観光開発に取り組んできたが、2007 年
3 月に財政再建団体となり、観光による地域づくりは休止を余儀なくされた。その後、核となる
観光施設には指定管理者制度が導入され再建に取り組んだり、市民レベルでの新しい地域づく
りの動きが生まれたりすることで、外国人観光客の増加等で成果を上げはじめている。
北海道内では、夕張市以外にも財政状況の厳しい市町村や、疲弊している観光地は尐なくな
いのが実情である。こうした状況において、夕張地域での再生の取組を整理することで、夕張
地域だけでなく、他の地域にとっても参考としたい。
(1)観光産業の再生事例
まず、はじめに、観光産業の破綻が地域レベルにまで影響を及ぼすに至ってしまった 2 地域
の先行事例を取り上げ、地域規模での観光産業の破綻から再生までの流れを整理する。
事例1 鬼怒川温泉の事例
鬼怒川温泉は、栃木県日光市に位置し、東京の奥座敶と呼ばれる関東を代表する温泉地であ
る。しかし、長引く景気の低迷に加え、団体旅行から個人旅行への旅行形態のシフトへの対応
が遅れ、観光客は 1993 年をピークに減尐傾向にあった。決定的となったのは、2003 年の地場
の銀行「足利銀行」の破綻、一時国有化であり、これによって大多数の旅館で資金繰りが悪化
し、鬼怒川温泉は街ごと破綻することとなった(当時 50 軒以上あった旅館も、今は 30 軒程度
に減尐)
。その後、経営難に陥った各旅館は、産業再生機構や整理回収機構等と協働して再生に
取り組んだ。並行して、自治体は、地域再生計画を立案し、2004 年に内閣府より認定を受けた。
現在もその計画、“
「自分らしくなれる町」構想の実現に向けての再生構想”に基づき、再生計
画が進められている。
新規市場として、外客にも注目し、2004 年に鬼怒川・川治温泉観光協会内に「訪日外国人誘
致委員会」が設置され、それまで個々のホテル等で取り組んでいたインバウンド誘致活動が、
協会の組織的な活動へと集約された。中国・香港・台湾地域へのキャラバンや国際観光展への
積極的な参加など、国・県等の外客誘致施策と連携した訪日外国人誘致促進事業に継続的に取
り組んだ結果、近年では外客が急増している。
図 4-6 鬼怒川温泉の写真(左・中央:鬼怒川沿いに建つ大型旅館、右:再生計画で整備された足湯)
出典:財団法人日本交通公社
67
図 4-7 鬼怒川温泉(旧藤原町)の観光客入込数・外国人宿泊数推移
8,000,000
7,000,000
6,000,000
5,000,000
4,000,000
3,000,000
2,000,000
1,000,000
0
(人)
(人)
50,000
40,000
30,000
20,000
観光客入込数
外国人宿泊数
平成5年
'1993(
平成7年
'1995(
平成9年
'1997(
10,000
平成11年
'1999(
平成13年 平成15年
'2001(
'2003)
0
平成17年 平成19年
'2005(
'2007(
出典:栃木県観光客入込数・宿泊数推定調査結果
破綻から再生に至る流れを、現地ヒアリングや各種資料をもとに整理すると、以下のように
整理される。
表 4-5 鬼怒川温泉が再生する中で実現できたこと、できていないこと
できたこと
鬼怒川温泉の核となる宿泊施設の再生
・産業再生機構や整理回収機構等の支援などで、鬼怒川温
泉の各旅館の経営が再建されつつある。
できなかったこと
地域内での連携強化
・破綻直後は、街がプツプツ切られたような感じがした。鬼
怒川のイメージを上げるより、まずは自分のホテルを良くし
ていこうという思いの方が先だったため、"地域で"という活
新しい取組主体の誕生
動がなかなかできなかった。
(最近になって、ようやく街のこ
・商工会の青年部(主に地元商店の 2 代目)や行政の有志 とを考えることができるようにはなったが、また足りていな
が中心となった「藤原の明日を語る会(約 20 名)
」では、 い)。
観光客を再び呼び戻そうと町の活性化策を探っている。
・再生機構が入った旅館と入っていない旅館の間の大きな溝
・癒しが必要な都会のお客様に、心と体の安らぎを提供し、 を埋められていない。
人間性を回復してほしい、また、地元の住民にも本来の自 ・旅館組合と観光協会の意思疎通が図られていない。
分を取り戻してほしいという思いから、中・長期的には、 ・行政主導でハードはできたが、その運用の核(主体)をど
「福祉観光」と「ヒーリング観光」を目標に掲げており、 うするのか決まっていない。
獨協医科大学日光医療センターと連携した「人間ドッグ& ・地域再生マネージャーに依頼して、勉強会の開催などおも
温泉プラン」が最近ようやく稼動してきた。
てなし向上に取り組んでいるが、行政主導の取組への参加が
・鬼怒川・川治温泉観光協会内に「訪日外国人誘致委員会」 尐ないため、効果が上がっていない。
が設置され、それまで個々のホテル等で取り組んでいたイ
ンバウンド誘致活動が協会の組織的活動へと集約された。 地元住民の意識の改善
・地域の宿泊観光施設、観光協会などの団体で構成される ・地元の温泉旅館の 2 代目、3 代目は、何もしなくても観光
「鬼怒川・川治温泉観光ブランド戦略委員会」が設立され、 客は来ると楽天的に考えている人が多い。
(外から来た人のほ
旅行会社の系列を超えた体験型の共通企画を打ち出した。 うが危機感が強く、積極的に変えようと活動している。)
・日光市の各温泉地は、どこも自分達の観光地は非常に知名
ハード面の整備
度が高いと思いこんでいる。
「鬼怒川」は自分達が思っている
・観光客に鬼怒川は変わったと理解してもらうため、まず 程、有名ではない。鬼怒川が破綻したことも、一般の観光客
は駅前を整備。そして、観光客が街を回遊できるよう、川 は知らないのではないか。そのせいか、鬼怒川に対して抱か
に降りる遊歩道を整備。また、景観対策としては廃業した れた否定的なイメージを払拭するための取組は、特に何も行
旅館の廃屋を所有者に自費で解体してもらい、更地は時価 われていない。
で市が買い取る手法を用いた(まちづくり交付金を活用)
。
整備した施設の有効活用
多様なマーケットの受け入れ
・行政主導でハードは整備された。後の、ソフト面(運用面)
・以前は高価格帯から低価格帯までカバーする客室のライ は民間に頑張ってもらいたいが、誰が核となって運営を推進
ンナップだったため、客層はバラバラだったが、今は施設 していくのかが今後のポイント。
規模を縮小したことにより、客室の価格帯の幅も小さくな
り、客層のバラツキも尐なくなった。
・これにより、提供するサービスも(バラツキが減って)
定まり、稼働率も上がった。自分の宿の中で幅のある客層
を受け入れられなくても、新しい鬼怒川温泉街には様々な
価格帯の旅館があるので、お客様が自身で選択できるよう
になっている。
出典:ヒアリングより財団法人日本交通公社作成
68
事例2 野沢温泉の事例
野沢温泉は、長野県野沢温泉村に位置し、麻釜(おがま)、共同浴場、野沢菜等で知られる奈
良時代から続く温泉地である。日本有数のスキー場である野沢温泉スキー場を有し、数多くの
旅館や宿泊施設とともにスキー客の宿泊拠点として長らく繁栄してきたが、全国的なスキー人
口減尐の中で、1991 年度をピークにスキー客が減尐、そして、1997 年度には初めて同スキー場
が単年度の赤字となった。
村の大きな収益源であったスキー場が赤字に転落し、そこからの脱却が見えない状況は、村
の経営を大きく揺るがすこととなった。また、当時検討が進められていた周辺市町村との合併
(結果、不成立。単独のまま)についても、スキー場の取扱は大きな課題となった。
そこで、村では、野沢温泉スキー場の所有と経営のあり方について、一般公募委員を含めた
研究会などにて検討を重ね、2005 年、村の団体からの出資により株式会社野沢温泉を設立し、
指定管理者制度を利用して、スキー場の経営を株式会社に委託することにした。なお、スキー
場の民営化にあたっては、スキー場の山の頂上付近は国有林、麓付近は野沢組(明治時代から
続く伝統ある住民の組織)と約 300 人の個人地主が所有していており、これらの全契約の更新
は困難を極めるため、資産と借地の契約は村に残し、上下分離方式をとった。
その後、入込客数の絶対数は減尐しているものの、近年においては、オーストラリア人を中
心に外国人客が急増している。これは、2006 年春、長野と新潟両県が連携して「長野―新潟ス
ノーリゾートアライアンス実行委員会」を設立し、海外の旅行博・商談会への共同出展、商品
企画など、外客の誘客に取り組んできた成果である。
図 4-8 野沢温泉の写真(左:野沢温泉のシンボル麻釜、中央:共同浴場、右:野沢温泉スキー場)
出典:(左)財団法人日本交通公社、
(中央)野沢温泉村商工観光課 HP、
(右)野沢温泉スキー場 HP
図 4-9 野沢温泉村の観光客入込数・外国人宿泊者数推移
1,600,000
1,400,000
1,200,000
1,000,000
800,000
600,000
400,000
200,000
0
(人)
(人)
5,000
4,000
3,000
2,000
観光客入込数
外国人宿泊数
平成6年
'1994(
平成8年
'1996(
1,000
平成10年
'1998(
平成12年
'2000(
平成14年
'2002(
平成16年
'2004(
0
平成18年
'2006(
出典:長野県観光地利用者統計調査結果、野沢温泉村外国人宿泊者数調査
69
表 4-6 民営化により野沢温泉スキー場が実現できたこと、できていないこと
できたこと
できなかったこと
人材力の向上
・スキー場の村営時代は、仕事を覚えても約3年周期で違
う部署に異動してしまうため、前任者の手法を踏襲するだ
けで、ノウハウが蓄積されず、新しいことにチャレンジす
る人はいなかった。民営化後は若い人に様々な仕事を経験
させていることもあり、従業員のやる気がでてきた。自分
で長く携わることができれば、失敗も成功も経験となって
身に付く。
・社長は地元から選出して地元をまとめてコンセンサスを
とれるように、総支配人は外部とのやりとりや現場の責任
者として外部から招聘した。
資金の確保
・スキー場の運営資金の問題が一番大きい。借り入れ保証が
ないと金融機関がお金を貸してくれないので、村の出資、バ
ックアップは助かる。資産がないので、今年のように状況が
苦しいときは大変苦しい。
・村にスキー場の使用料も払わなければいけないし、備品の
メンテナンス費用もかかる。村営時代はスキー場設備の様々
なメンテナンスをせずに放置していた。
・何年か後に、スキー場を運営していく人材がある程度育っ
たら、指定管理者制度による運営ではなく、本当の民営化を
目指したい。
柔軟な対応
・かつては、スキー場の予算は議会を通さなくてはならず、
必要な時期にすぐに動くことができなかったが、今は村の
予算に縛られることがないので、動きやすい。様々なこと
を迅速に、かつ柔軟に行うことができるようになった。工
事、宣伝、販促、どれも村営時代とスピードが違う。
・各観光事業者や宿泊施設に対しても、村営スキー場時代
は、全てに平等な対応を強いられていたが、民営化後は、
頑張る事業者と連携し、個別に対応するようにしている。
地元住民との良好な関係の構築
・ 今まで村が主体となり取り組んできたことについて、民営
化後も全て継続することはできないが、その原因がスキー場
の民営化にあると考えている人もいる。
・ 民営化の会議に関わっていない村民は、民営化すれば客が
増えると思っていた人もいる。スキー場に頼る感覚が抜け切
れていない。旅館でも、会議で一緒に検討した人としていな
い人とでは意識に明確な差がある。住民との調整は結構大変。
・ 「スキー場の経営が良くないと、自分たちの商売も良くな
らない」という理解はある。効率的なスキー場運営のために、
一部のリフトを運行停止する必要があることは理解するが、
自分の旅館前のリフトは止めないでほしいというのが、正直
な心境。
コスト削減による経営改善
・人件費の削減、借地料の削減(地主に依頼)
、一部リフト
の運行停止(但し、利用者の利便性は確保されている)、圧
雪車、スノーモービルなど必要な備品の見直し、備品の仕
入れ先(村内限定)の見直し、会計科目の見直し、従業員
の意識改革
サービス向上など柔軟な対応
・安全確保のためのリフト、ゴンドラへの投資。トイレや
休憩室のリフォーム、インターネットコーナーの設置、ス
キー場のコンシェルジェ「お役に立ち隊」の配置など、目
に見える形でのサービス向上。
地元住民の自主的な取組
・高山植物園の草刈りなどに自主的に参加してくれる人が
増えた。
・宿泊施設の関係者が首都圏キャラバンの際、自らの施設
に加えスキー場の宣伝も引き受けている。
出典:ヒアリングより財団法人日本交通公社作成
70
(2)夕張地域における観光の現状と課題
一方、明治初期から炭鉱のまちとして栄えた夕張のこれまでの経緯を振り返ると、1960 年代
には「石炭から石油へ」のエネルギー政策転換により、次々と炭鉱が閉山され、1990 年には最
後まで残っていた三菱石炭鉱業南大夕張炭鉱が閉山した。石炭産業が衰退していく中で、
「炭鉱
から観光へ」を合言葉に、1978 年の「夕張石炭の歴史村」の建設を皮切りとして、テーマパー
クやスキー場の開設、映画祭などのイベント開催など地域経済の再生を図ったが、過大な投資
が市の財政を圧迫していった。さらに、2001 年の産炭地域振興臨時措置法の失効などで、夕張
市の財政状況はさらに悪化した。そして、2007 年、総務省が財政再建計画に同意し、夕張市は
財政再建団体となった。
このような厳しい状況ではあるが、冬季間のスキー客を中心に外国人宿泊客は、近年急激に
増加しつつあり、宿泊需要拡大への期待が持たれている。
図 4-10
夕張市の入込客数推移
'人(
2,500,000
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
2007
2006
1997
2005
1996
2004
1995
2003
1994
2002
1993
2001
1992
2000
1991
1999
1990
1998
1989
0
H1
H2
H3
H4
H5
H6
H7
H8
H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19
出典:北海道観光入込客数調査
図 4-11
夕張市の外客数(宿泊延数)推移
'人(
18,000
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
H9
H10
H11
H12
H13
H14
H15
H16
H17
H18
H19
出典:北海道観光入込客数調査
71
表 4-7 夕張における観光産業の発展経緯
総人口
炭鉱数 炭鉱閉山など
観光関連
'国勢調査(
1960 昭和35
107,972
17
1962
37
15 北新炭鉱・北隆炭鉱閉山
北炭夕張三鉱・小野炭鉱閉山
1963
38
14
新夕張炭鉱発足
1964
39
13 遠幌鉱業閉山
1965
40
85,141
11 石山組・新北海鉱業閉山
旭開発鉱業閉山
1966
41
10
三菱南大夕張鉱開削着手
1967
42
9 石川鉱業閉山
大和炭鉱閉山
1968
43
8
三菱大夕張鉱坑道開通
1969
44
8 三菱大夕張メタノール工場閉鎖
北夕炭鉱閉山
1970
45
69,871
9
三菱南大夕張炭鉱営業出炭開始
1971
46
9 北炭夕張二鉱閉山
1972
47
7 北菱鹿島炭鉱・新夕張炭鉱閉山
1973
48
7 三菱大夕張炭鉱・北炭夕張炭鉱閉山
北炭平和鉱閉山
1975
50
50,131
5
北炭夕張新炭鉱営業出炭開始
1977
52
5 北炭夕張新二鉱閉山
・「石炭の歴史村」建設開始
1978
53
・市役所庁舎新築落成
1979
54
4
・夕張市新総合開発計画の策定
1980
55
41,715
3 北炭清水沢炭鉱閉山
・石炭博物館開館
北炭夕張新炭鉱ガス突出事故発生
1981
56
3
死者93名
1982
57
2 北炭夕張新鉱閉山
1983
58
2 北炭夕張新鉱廃山決定
・「石炭の歴史村」全面オープン
1984
59
・めろん酒等完成、発売始まる
三菱南大夕張炭鉱でガス爆発事故
1985
60
31,665
2
・めろん城完成
発生、死者62名
・国土開発が夕張岳開発構想に着手
・夕張バカンス村構想作成
1986
61
2 三菱南大夕張鉱人員削減
・ホテルシューパロ'石炭の歴史村内(オープン
・トムソーヤ共和国構想検討
・松下興産がレースイ開発で市と合意
1987
62
1 北炭真谷地炭鉱閉山
・商工会議所が自衛隊誘致に本腰を入れる
・国がオートレース場建設を提言
・国土計画が夕張岳開発に乗り出すことを表明
・バカンス村構想断念
1988
63
・サンタクロースビレッジ構想発表
・松下興産がレースイスキー場を買収、夕張パインバレー設立
・国際映画祭構想がまとまる
・レースイホテル着工
1989 平成元
・ホテルシューパロ増築
・国土計画社長が夕張岳開発断念と表明
・サンタクロースビレッジ構想断念
1990
2
20,969
0 三菱南大夕張鉱閉山
・黄色いハンカチ思いで広場が復元、オープン
・第1回ゆうばり国際映画祭開催'ふるさと創生資金を利用(
・市長が夕張岳開発休止を表明
・ライベックス社がナチュラルケアリゾート構想を発表
・ホテル「マウントレースイ」開業
1991
3
・北海道物産センターが旧北炭跡地にレストハウス建設
・JR夕張駅移設開業
・夕張シューパロダム建設計画発表
・ナチュラルケアリゾート構想断念
1992
4
・松下興産がホテルシューパロ買収
・夕張市総合開発計画策定
1993
5
1994
6
・夕張鹿鳴館'旧北炭鹿の谷倶楽部(観覧を開始
1995
7
17,116
・夕張長いも焼酎「ゆうばり寅次郎」販売開始
1996
8
・「夕張岳」国の天然記念物に指定
・「ユーパロの湯」オープン
1997
9
1998
10
・虹ヶ丘パークゴルフ場オープン
・石炭の歴史村内にローラーリュージュオープン
1999
11
・紅葉山パークゴルフ場オープン
2000
12
14,791
・ゆうばり化石のいろいろ展示館オープン
・産炭地域振興臨時措置法が失効
2001
13
・郷愁の丘ミュージアム・生活歴史館「郷愁・むかしを訪ねて」オープン
・ロイヤルパインズ'株(撤退
2002
14
・マウントレースイリゾート施設を市が取得
2003
15
2004
16
2005
17
13,001
・夕張市、財政破綻表明
2006
18
・第三セクター「石炭の歴史村観光」自己破産
・総務省が夕張市財政再建計画に同意し、財政再建団体となる
・第三セクター「夕張木炭製造」「夕張観光開発」自己破産
2007
19
・加森観光の子会社である夕張リゾートが、夕張市から委託を受けた
約20の施設のうち、石炭博物館、マウントレースイなど12施設の営業
・夕張リゾートが、指定管理を受けていた施設のうち、3施設を市に返上
2008
20
出典:各種資料より財団法人日本交通公社作成
72
表 4-8 再生を進める中で夕張が実現できたこと、できていないこと
できたこと
指定管理者制度によるスキー場の再生・外客増
・世界的な景気悪化に伴い、外客は他の地域同様目減りして
いるが、その数は一昨年よりは今年の方が多く、また、冬季
に限定すれば、昨年よりも多い。今年は、中国、マレーシア
など、従来とは違う国からの外客が来ている。
・スキー場、ホテル及び観光施設の情報は4カ国語(日英中
韓)対応のHPで発信しており、ホテルの衛星放送も中国・
韓国の放送は対応済み。一定の外客対応は出来ているので、
今後は、その精度を上げていく段階。
・スキー以外の体験として、スキー場内に「雪遊び王国」を
オープン。冬のレンタカーはまだ外客には無理だが、この王
国内にドライビングコースを用意しているので、雪上でのド
ライブ体験を楽しむことができる。
できなかったこと
大型施設への依存からの脱却
・市全体が財政破綻の一因となった"観光"に対するアレル
ギーから抜け切れていない。
・「夕張リゾートが来ても地域振興に繋がっていない」「恩
恵ない」という声が多い。産炭地や、その後の第3セクタ
ーによる観光開発の時代には当たり前だった「上から甘い
汁が降ってくる」ことに慣れ過ぎている。
・自衛隊市街地戦闘訓練演習場、刑務所、カジノ誘致とい
う計画もある。自分たちではどうしていいかわからないの
で、大きな箱モノに牽引してもらおうという意識が強い。
・今は、人の意識を変えていくことに没頭している段階。
依存する人全てに何かを与えるのではなく、出来る人にと
ことん協力することで、小さな魅力を生み育てつつある。
市民活動の活性化・新しい取組主体の誕生
・破綻後、市が対応できなくなり、切り捨てられていった部
分を、市民を中心とした民間団体が担っていった。
<ゆうばり映画祭>
・夕張市の外郭団体であった「ネクスト夕張(業務内容:市
内のイベント受け入れ、フィルムコミッションの受け入れ、
ゆうばり映画祭の主催など)」
を上手く民間会社へ移行するこ
とができた。かつては行政が担っていた業務で、破綻後取り
組めなくなった部分をカバーするとともに、市役所、市民、
企業を結ぶ役割も果たしている。
・ネクスト夕張やゆうばりファンタなどの取組によって、ゆ
うばり映画祭を復活させることができた。民間が事業主体と
なり、議会に諮る必要がなくなったため、迅速な意志決定と
事業の実施ができるようになった。
・
「ゆうばりキネマクラブ」には、映画祭を応援してくれる市
民が 200 名以上いる。
<市民会館の再利用>
・文化の殿堂である市民会館は、所有権を市が持ち、施設は、
ゆうばりファンタが無償で借り受けている。築40年が経過
し、いつ何が起こるか不安な状況ではあるが、文化の活動の
場を残したいという思いから保存活動を開始。民謡発表会、
映画、音楽祭など、高齢者の楽しみの場も提供している。課
題は運営資金と掃除。掃除はボランティアに頼っているが、
人集めに苦労している。
<桜プロジェクト>
・ニトリ主催「桜プロジェクト」は、市内に 2 万本の桜を植
樹、日本一の桜の名所を目指している。今後はNPOを立ち
上げ、地域主導型にしていきたい。植樹の時期だけではなく、
年間通して様々なツアーが提供できるのではないか。
・昨年の桜の植樹に合わせ、実行委員会主催の「ゆうばり桜
まつり」を開催した
・今までは市役所が箱モノをつくり、住民はそこに勤めさせ
てもらっていた(市役所以前は、北炭)
。桜の取組については、
自分達の手で一からやっていかなければならない。"やっても
らう"ことに慣れている地域の意識を根底から変えたい。
<特産品開発他>
・メロン以外に特産品がないので、商品開発には苦労するが、
石炭シュークリームなど、独自の産品を開発した。
・栗山町とは若い人同士の会合の場がある。栗山町には野菜
があり、夕張にはメロンしかない。彼らと夕張リゾートを引
き合わせたことにより、今やリゾートの朝食バイキングには、
栗山町の野菜が並ぶようになった。
炭鉱の歴史の活用
・かつて産炭地であったことに対して、外部の人がどれ程、
興味を持ってもらえるかどうか。"学べる観光(産業観光)
"に関して、夕張の特色が出せていない。
・夕張を道東に向かう通過点と考えている人が多い。観光
客を呼び込む前に、夕張に魅力的なモノを作らなくてはな
らない。それは地元の人の話。この間立ち寄った観光客は、
この近くに住む元炭鉱夫のおじさんと話したことが一番の
旅の思い出と話していた。
・夕張の魅力として、人や歴史が抜けている。観光施設を
歴史文化施設として見直そうという動きがある。
・駄目なものは駄目なものとして無かったことにするので
はなく、それはそれで、何らかの形で夕張に地層として残
していく、夕張の 100 年の歴史の一部として(博物館の中
ではなく)まち全体で表すために残したい。隠すのではな
く、歴史の片鱗を感じられるように、目に見えるように残
したい。夕張にあるモノは全て魅力がある。残骸や歴史は、
後生に説明する義務があるし、見せると面白いと思う。
・広島市の原爆ドームや、知覧町(鹿児島県)の特攻隊記
念館のように、炭鉱夫が多数亡くなっている場所の見学の
際には厳粛な気持で来て欲しい。夕張の炭鉱遺産をお金を
掛けずに活かすため地域の語り部の力を借りていきたい。
・石炭博物館は多言語化している。外客は、教育的な施設
に興味を持つ傾向が強い。
SIT(Special Interest Tour)への取組
・ドキュメンタリーツアーは反響大。社会的なものは海外で
は人気があり、特に韓国からは多くの人が訪れた。ビジネス
にはならないが、商品に対する特性をきちんと作ることがで
きる。また、話題性があるので、パブリシティ効果は大きい。
地域内での連携強化
・NPOゆうばりファンタ、NPOゆうばり観光協会など、
夕張市内には複数のNPOがある。夕張を盛り上げるため
に向かっている方向は一緒だが、連携が弱い。
・観光協会の動きが弱く、また夕張リゾートとの連携も弱
い。皆何をしてよいかわからない。手足を動かす人がいな
いので商業者よりも地元の市民が動きだそうとしている。
・目的は同じでも、農業、観光、商業などそれぞれのセク
ションでバラバラの取組をしている。
・市民が映画祭に全く関わっていないことが怖い。主催が
行政から民間に変わったことも知らない人もいて、そうい
った人は映画祭がなくても生活できるという意識があるよ
うだ。その一方で、映画祭に関わる人は、より強く関わる
ようになり、市民の二極化が進んでいるように感じる。
・働ける場が尐ないこともあり、20~30 代の住民が尐ない。
市内で勤めている人の多くは介護施設に就職しており、時
間が不規則なため市民活動には参加できない状況。
情報提供の充実
・個人の観光客に対しても必要な情報を提供することや、
旅行者が自己完結できるシステムが必要。ホテルとエアを
押さえておけば、旅行行程が見えてくるパッケージを作る
ことなども必要。また、HPで商品販促や、マーケティン
グのための情報を提供していきたい。
出典:ヒアリングより財団法人日本交通公社作成
73
(3)観光産業を再生させるために必要な方策
前節までに、鬼怒川温泉、野沢温泉、夕張の再生を進める中で、それぞれで実現できたこと、
できなかったことについて整理を行ったが、これらの結果より、以下の共通項が指摘できる。
事業主体の財政悪化や破綻後、地域の核となる施設
の経営権は外部人材を含めたものに変化している

鬼怒川
各旅館オーナー
→
RCC

野沢温泉
村営
→
指定管理者制度(株式会社野沢温泉)

夕張
市営(第 3 セクター) →
指定管理者制度(夕張リゾート株式会社)
経営権の委譲という再生スキームの適用によって、核となる施設の事業主体は再
生されるものの、その事業主体にかつてのような地域の後ろ盾としての力はない
 鬼怒川
地域づくりに参加
→
旅館業に専念
 野沢温泉
幅広い利益供与
→
スキー場事業に専念

幅広い利益供与
→
リゾート事業に専念
夕張
地域の事業主体を喪失した地域において、民間主体の新たな取組が見られる
 鬼怒川
商工会議所がまちづくりに参加
 野沢温泉
村民のボランティア活動や宿泊施設の独自の活動が活発化
 夕張
NPO 法人ゆうばりファンタなどの活動が顕在化
元々の地域の核となる施設に対し、新しい事業主体と民間主体の新たな取組
が相乗、かつ補完して取り組んでいくことで地域の魅力が再構築されていく
 鬼怒川
温泉旅館は、今でも、鬼怒川の基本かつ核となる魅力
 野沢温泉
スキー場は市場規模が縮小する中でも、最大の魅力
 夕張
スキー場や映画祭が最大の集客を誇る魅力
地域の魅力(集客力の売り)は、変化しない
新たな事業主体に過度に依存せず、地域の自主的な取組を活発化させていくことがポイント
このように、地域レベルでの破綻から再生に至る道筋には、共通項と呼べる段階が存在して
いる。さらに遡ると、破綻に陥った原因も共通しており、社会環境の変化(団体客から個人客
へのシフト、スキー人気の落ち込み、ハコモノ観光の衰退など)にもかかわらず、その変化に
対応せずに従来からの枞組みを踏襲し、地域の核となる施設への依存を続けたことにある。ま
ずは破綻させないことが第一であり、そのためには、地域の核となる施設に過度に依存する体
制をつくらないことが重要である。
破綻から再生の段階に関しては、個別の施設レベルに注目しても、公共系施設は、民間事業
者に比して再生スキームの確立が遅れていたが、現在では、指定管理者制度を含め、再生スキ
74
ームが確立されてきている。こうした再生の流れを参考とすることで、より効果的、効率的な
再生が可能となるのではないだろうか。破綻後の再生スキームを一般化し、各地域に、また後
世に引き継いでいくことは、非常に重要であると考えられる。
また、注目すべき点は、地域全体を牽引する魅力は、事業主体が破綻したり変わったりする
ことにより喪失されるわけではなく、地域や事業主体の再生過程や再生後においても、集客力
の核であり、最大の魅力であることに変わりはないということである。これは、観光客の立場
から見れば、破綻自体は大きな問題ではないことを示している。変化したのは、地域側の体制、
意識の部分であり、事業主体への過度な依存から、市民や個別事業者の自主的な取組との連携
によって、事業主体を支えるようになったことである。
こうした自主的な取組が活性化することにより、新たな魅力が創造されるとともに、多様な
需要にきめ細かく対応していくことも可能となるため、言語や習慣が異なる外客を対象とする
グローバル化対応においても有効な取組となりうる。また、地域の核となる魅力も、長期的に
は時代や環境の変化によって喪失しうるものであるが、そうした将来的な「主役交代」にも対
応出来るものと考える。
夕張においては、自衛隊の市街地戦闘訓練演習場、刑務所、カジノ等スキー場に代る大規模
施設を誘致する計画もあるが、こうした大きな施設(ハコモノ)に依存するのではなく、地域
の事業主体を支える新たな取組を市民から起こすことが、地域全体を活性化するためには重要
と考えられる。
また、夕張地域全体の活性化を検討する中で、特に重要な要素となる「地域の自主的な取組」
については、以下の具体策が考えられる。
取組策1
国内外からの情報収集と発信
 多言語化した地域観光情報の充実と発信
 属性・国に合わせた魅力の情報発信
 観光情報だけではなく、街歩きやスイーツなどの周辺情報の収集と発信
 個人の外国人観光客が活用できる夕張ポータルサイトでの情報集約
 パブリシティ効果を狙った SIT ツアーの開催
 多様なマーケットを受け入れるための来訪客に関する基礎情報の収集など
取組策2
地域内や国内外との連携強化
 映画祭を通じた国内外との人的ネットワークの充実
 破綻後の外部支援者との人的ネットワーク充実とそれを活用した夕張のPR活動
 国内外の旧産炭地との連携による、産業遺産としての炭鉱関連施設のPR
 留学生を含む札幌圏の大学生の研究活動フィールドとして地域を提供するとともに、夕張
にとって必要な観光や地域に関する調査を代行してもらう
 夕張メロン農家への海外研修生受け入れを通じた、海外での夕張メロンのPR
75
 スキー場でのアジア圏のスキーインストラクター研修生の受け入れを通じた、海外からの
スキー客の集客増
 地域NPOと農商工団体の連携強化や、夕張の元気な高齢者も取り込んだ、市民ネットワ
ーク充実と活動強化など
取組策3
未利用施設の活用、再資産化の促進
 炭鉱住宅の再活用(社宅、長期滞在者や移住者用の住居など)
 観光施設の用途転用の促進(例:旧サイクリングターミナル「黄色いリボン」から花畑牧
場の製造工場への転用)
 国内外の事業者を対象に市内未利用地の新規開発コンペを実施し、土地の有効活用を図る
など
以上を踏まえ、夕張の観光産業の再生のためには、以下の事項が重要と考えられる。
 上記のように、草の根レベル、行政レベルの両側面から、また、国内外から、情報、人、も
のを取り込んでくるような取組を展開すること。
 なかでも、今後、益々増加する国内外からの個人の観光客を夕張に呼び込むために、まず、
最も重要と思われる「情報収集と発信」について、地域全体が連携して取り組むこと。
 その取組を通して、グローバル化に対応した多様な取組を行う地域の団体・組織を作ってい
くこと。
CS 調査の結果より、個人の長期滞在外客が多いニセコにおいて、「情報」が重要なサービス
インフラであることが明らかとなっている。夕張においても、今後グローバル化をさらに進め
るにあたり、初めに取り組むべきインフラであると考えられる。
なお、中国からの留学生に、夕張の観光情報について中国語で検索してもらったところ、以
下のような意見が得られた。
・財政破綻、負債に関する情報がほとんどであり、それらに比べて観光情報は尐ない
・夕張の観光資源を写真と一緒に紹介したサイトが尐ない
・ブログ等個人ページでの紹介は主に写真のみ
・旅行者の目線からの情報はあるが、地域からの情報発信がないため、観光客が旅程の中で見
たものだけが単体で紹介されている。
・観光情報がまとまっていない(例:市の HP と夕張リゾートの HP が観光資源を分けて紹介)
・夕張に行きたいのかどうかを判断できるだけの情報を入手できなかった
基本事項ではあるが、まずは、地域観光情報の多言語化、そして、個人の外国人観光客が活
用できる夕張ポータルサイトでの情報集約への取組から、グローバル化への対応を考えていく
ことが重要だと考えられる。
76
<参考:国内における情報発信の成功事例(大山王国)>
国内において、観光情報の発信事例として注目される事例の1つとして「大山王国」があげ
られる。大山王国は、NPO 法人大山中海観光推進機構が発信する観光総合情報サイトであり、
以下のような特徴を持っている。
・行政区域に関わらずディスティネーションとなる地域を「王国」として一体的に情報発信し
ていること
・地図や観光施設などスタティック(静的)な情報だけでなく、イベントカレンダーや、最新
の現地情報などのダイナミック(動的)な情報もあわせ一体的に情報発信していること
・鳥取県内、松江周辺など、他地域の観光情報サイトとも有機的なリンクがなされ、情報の共
有化、一体化が行われていること
・着地型旅行商品や特産品販売などの個別事業サイトとも、有機的なリンクがなされ、情報の
共有化、一体化が行われていること
・ブログ機能や CMS(コンテンツマネジメントシステム)機能を積極的に活用し、観光振興
に取り組む市民や事業者、行政の担当者など「情報を持っている人」が容易に情報発信でき
るようにしていること
こうした取組によって、観光客に向けての広域を網羅した情報発信から、関係者間の情報共有
(蓄積)
、そして、商品やサービスの販売に至るまで、同サイトのみでワンストップ対応でき
るようになっている。多言語化への対応は弱く、観光の国際化面では弱みもあるが、地域を対
象とした観光情報サイトのロールモデルの1つと考えることが出来よう。
77
図 4-12
対象国にあわせた魅力情報の提供
~ニュージーランド政府観光局の例(再掲)
出典:ニュージーランド政府観光局 WEB サイト(http://www.newzealand.com/travel/Japan/)

ニュージーランドでは、国別に WEB サイトを構築し、各国の嗜好に合わせコンテンツを変
えている(左から対豪州、対日本、対米国)
・対豪州向けには、週末のイベント情報、季節情報(ワイン畑の風景など)といった直近の話
題・情報を提供
・対日本向けには、エコツーリズムやロングステイ、世界遺産など日本人観光客が興味を抱き
やすい特集を組んで掲載
・対米国向けには、米国とニュージーランドの位置関係を地図で示し「飛行機に乗り込み一晩
眠ると、翌朝にはもうパラダイス(ニュージーランド)!」 という時間距離の近さをPRす
るコンテンツを掲載
78
第5章 北海道観光グローバル化促進に向けての「3つの提言」
本調査での結果や先進地事例分析等から「北海道観光のグローバル化促進のための方策」と
して、受入側の連携や長期的視点でのビジョン策定、急速に伸びつつある中国市場への対応強
化などに、国、自治体、関係機関が一丸となって取り組むことなどが重要であると考えられる。
さらに、効率的、かつ効果的にグローバル化を推進するための手法について「北海道観光産
業グローバル化促進研究会」での議論を踏まえ、以下のとおり「3つの提言」にまとめる。
提言1:マーケティングの徹底

例えば、具体的に「東アジアのラグジュアリー層」といった、国・地域、客層のターゲテ
ィングを行うことが重要である。世界的にも、アジアからの観光客は奪い合いになること
は必至であるので、ターゲットをきちんと見極める必要がある。

ただし、外国人観光客の動向は世界経済情勢に左右されやすいため、ある一国への集中誘
客はリスクが伴う。現在、北海道は、台湾、韓国市場への偏りが大きいため、リスクヘッ
ジのためには、他国にも視野を広げ、新たな市場を開拓する必要がある。また、属性につ
いても、例えば、景気の影響を受けやすいファミリーだけに特化するのではなく、団体旅
行や FIT、ラグジュアリー層など様々な客層を開拓することが重要である。

ターゲットの観光客の動向や嗜好、満足度(CS)、消費行動などを緻密に調査・分析する
ことが重要である。
提言2:プロモーションの工夫

ターゲットの行動パターンに合わせ、来訪意欲を喚起する内容の映像コンテンツの活用
や、対象国別の web サイトなど情報発信の手法についても工夫が重要である。

北海道の魅力を発信する際、自然やアイヌ文化、食などオール北海道としてアピールする
と同時に、各地域でも特徴的な魅力をアピールしていくことにより、既存の発地型団体旅
行の取り込みを維持しつつ(量の確保)
、より単価の高い個人の外国人観光客の獲得(質
の向上)を図っていくことが重要である。
提言3:サービスインフラの整備

グローバル化が普及していく中では、「サービスインフラ」が重要となる。情報提供、金
融、交通、医療などの分野は、外国人と日本人とでは異なる対応が必要となるため、グロ
ーバル化促進、特に個人の外国人観光客に対応するためには欠かすことができない。

これら分野のサービスインフラを充実させることで、来訪の目的となり得る商品・サービ
スの魅力や利便性を更に高め、満足度(CS)向上と消費額増加を図る。

特に、今後増加が見込まれる個人の外国人観光客対応としては、
「情報」
「金融」が重要な
サービスインフラとなるが、情報については、観光客向けには、対象国にあわせた魅力の
情報発信や現地で入手できる情報の充実などが、地域側では、地域側で共有し、マーケテ
ィングなどに活用していく情報の収集などが重要となる。

また、サービスインフラについて、国内外の先進事例や最新情報を収集し、地域の取組に
活用・応用することが重要である。
79
80
資料 1
サービスインフラいい
サービスインフラ
いい事例集
事例集
~外国人観光誘客の11の取組~
< 情報提供サービス >
① わかりやすい案内表示/小田急箱根ホールディングス
② ドライブ観光ツアーの支援/ シーニックバイウェイ支援センター
③ 買物時の円滑なコミュニケーション/日本百貨店協会
④ 地域で連携した観光案内/別府SGGクラブ(別府外国人観光案内所)
< 金融サービス >
⑤ ATMでの日本円取得/セブン銀行
⑥ 中国人の買物需要を創出/三井住友カード
⑦ 地域全体でクレジットカードを導入/洞爺湖温泉飲食店組合
< 交通サービス >
⑧ 外国人観光客にも使いやすいフリーパス/小田急電鉄
⑨ 冬の山と街を結ぶ夜間無料バス/倶知安観光協会
< 医療サービス >
⑩ 電話での医療通訳/AMDA国際医療情報センター
⑪ 医療通訳者の派遣/多文化共生センターきょうと
-81-
< 情報提供サービス >
① わかりやすい案内表示/小田急箱根ホールディングス
企業グループ間で案内表示を統一するとともに、HP・携帯HPの多言語化を行い、個
人旅行の外国人観光客が移動しやすいよう、情報提供に工夫している。
なぜ(きっかけ)
誰が(実施団体)
小田急箱根グループの交通各社では、乗り物、
駅・施設名表示、案内看板のロゴ・カラー・案内
サイン等のデザインや表示方法について、各社
が独自のルールに基づき整備を推進してきた。
この結果、箱根を周遊する外国人を含む観光
客の利用に際して、分かりづらいものとなって
いた。
これらの改善と観光地らしい情緒感のある空
間づくりを目的として、グループ各社の案内表
示を統一することとした。
小田急箱根ホールディングス株式会社
・設立:2004年10月
・資本金:57億9029万円
・従業員数:40名(小田急箱根G13社計1,236名)
(2005年11月現在)
・事業概要:箱根エリアの経営計画、営業計画
の企画・立案・推進業務
・本社所在地:神奈川県小田原市城山1-15-1
※筆頭株主は、小田急電鉄(98%)
どのように(サービス内容)
案内表示に使用するカラー、書体、外国語表記方法等を詳しく定めたサインマニュアルを作成、小
田急箱根グル プの交通機関全てにおいて共通化し、観光客にとってわかりやすい表示としている。
田急箱根グループの交通機関全てにおいて共通化し、観光客にとってわかりやすい表示としている。
箱根の玄関口である箱根湯本駅の場合、以前は青色を基調と
変更前
した小田急電鉄のサインを使用していたが、小田急箱根グループ
の統一サイン(あかぐす色、隷書体)を使用し、和のおもてなしの
心を表現している。
マニュアルでは、案内表示をむやみに4カ国語(日英中韓)表記
するのではなく、観光地の風情を重視している。
例えば、記念撮影など日本の情緒が求められる場所では、表記
は日本語のみに留めている。また、ピクトグラム(絵文字)を用い、
言葉だけではなく視覚的にもわかりやすいよう工夫している。
翻訳は、直訳ではなくその国の人にとってわかりやすいよう意訳
している。(例:海賊船→Hakone sightseeing cruise)
インターネット環境を整備し、箱根の地理案内や交通・観光情報
などを「箱根ナビ」「箱根ナビモバイル」を通じて発信。両サイトとも
に4カ国語で対応。 外国人観光客のニーズを踏まえ、日本語版と
外国語版では内容を変えている。
変更後
出典:小田急箱根ホールディングス株式会社
どうなったか(アウトプット)
マニュアルに沿って案内表示の統一を進めた結果、個人の外国人観光客が自立的に動けるよう
になり、乗り継ぎに関する問い合わせや迷う人が減少した。
「箱根ナビ」の2009年1月のアクセス数は、対前年度比で英語16.3%増、中国語19.1%増、などと
なっている。
-82-
< 情報提供サービス >
② ドライブ観光ツアーの支援/シーニックバイウェイ支援センター
シンガポールからのドライブ観光ツアーに対し、移動中のレンタカーの位置情報や、地
域情報の発信など、きめ細やかにサポートしている。
誰が(実施団体)
なぜ(きっかけ)
有限責任中間法人
シーニックバイウェイ支援センター
北海道開発局の「北海道における外国人ドラ
イブ観光調査」によって、景観、食事や、ドライ
ブ自体に対する満足度が高いことが明らかとな
り、「シーニックバイウェイ」の基本理念とも合致
するため、シンガポール人向けの「外国人ドライ
ブ観光ツアー」を企画した旅行会社との間で支
援契約を結び、ツアーのサポートに取り組むこ
ととなった。
・設立:2005年7月
・職員数: 3名 (2008年12月現在)
・事業概要:みちをきっかけに地域住民と行政
が連携し、美しい景観、魅力ある観光空間及
び活力ある地域づくりを図る「シーニックバイ
ウェイ北海道」の活動を支援
・所在地:北海道札幌市中央区南1条東2丁目
どのように(サービス内容)
支援センターの主なサポート業務は、GPS携帯電話を活用して
パソコン上の地図に表示された各レンタカーの位置情報を旅行会
パソコン上の地図に表示された各レンタカ
の位置情報を旅行会
社に提供したり、GPS携帯電話によるレストランや景観ポイント等
の地域情報提供や、トラブル発生時における各レンタカーや旅行
会社との連絡調整などで、きめ細やかな対応をしている。
また、道内のみならず東北や九州を巡る外国人ドライブ観光ツア
ーについても同様のサポートも行うなど、活動の場を広げている。
今後は、道内各地のシーニックバイウェイ地域団体と連携して、
医療機関や荒天時のオプションとしての日本文化体験メニュー(着
付け、柔道・剣道等の武道体験ほか)等、地域情報の整備を更に
進めるとともに、個人旅行の外国人観光客への対応に取り組む予
定。
出典:シーニックバイウェイ支援センター
どうなったか(アウトプット)
シンガポールからのドライブ観光ツアー参加者は2006年327人、2007年637人、2008年は716人と
年々増加している。
ツアー料金は一般団体ツアー(約2,000ドル)に比べ3,500~4,000ドルと割高だが、レンタカー会社
と連携した多機能カーナビゲーション(簡易な目的地設定や英語音声ガイド付き)の提供や英語版ド
ライブマップの提供などの手厚いサービスにより、参加者の満足度は約9割と高い。
また、個人型旅行のドライブ観光ツアーは、団体旅行と比較して食事や買物に自由度が高く、消費
額も多いことから、地域への経済効果も期待できる。
-83-
< 情報提供サービス >
③ 買物時の円滑なコミュニケーション/日本百貨店協会
案内表示の多言語化や外国人観光客とのコミュニケーションを円滑にするツールを
作成し、外国人観光客のショッピングをサポートしている。
誰が(実施団体)
なぜ(きっかけ)
日本百貨店協会
国内人口が減少する中、百貨店にとって外国
人観光客はターゲットとして大きな存在となりつ
つあったため、2006年1月、外国人観光客急増
への対応を目的とし、日本百貨店協会に「外国
人観光客招致プロジェクト」を立ち上げた。
更に、2007年1月からは、国の外国人観光客
誘客の取組であるビジット・ジャパン・キャンペ
ーンの中核事業 「Yokoso! Japan Weeks」に全
国の協賛百貨店が参加するなど、複数の取組
が相乗効果を生んでいる。
・設立:1948年3月
・会員数:94社 266店舗(2007年6月現在)
・目的:百貨店業の健全な発達を図り、もって国
民生活の向上と国民経済の発展に寄与する
・所在地:東京都中央区日本橋2-1-10
どのように(サービス内容)
外国人観光客が多い百貨店の案内表示は4カ国語(日英中韓)対応済みであり、通訳については
基本的には英語による対応で、一部店舗では中国語及び韓国語でも対応している。
加えて、店員と観光客とのコミュニケーションを円滑にすることを目的とした「指さし会話集」を作成
し、百貨店協会の会員専用HPで提供している(2008年12月完成)。内容は、挨拶、接客、免税、決済、
名所案内等基本的なもので、各百貨店は、カスタマイズして使用することができる。
Webについても、百貨店協会のHPを4カ国語対応とし、各百貨店のHPをリンクさせるとともに、各百
貨店に対しても4カ国語での対応を推奨している。
中国人観光客は短時間詰め込み型の弾丸ツアーが多いため
短時間で買物して満足してもらえるサービス(銀聯カード対応端
末の増加や目的の売場に速やかに到達できる案内表示等)が
求められている。
中国等でのプロモーションの際には、日本の百貨店が提供す
るサービスの魅力を伝えるとともに、銀聯カードへの対応もアピ
ールしている。
出典:YOKOSO! JAPAN WEEKS 2009パンフレット
どうなったか(アウトプット)
「Yokoso! Japan Weeks 」については、2008年は全国の協賛する百貨店の外国人売上高(免税手
続きをして購入した額)が、前年比26.9%増の約22億円。1人当たりの購買単価は59,883円で、国
内客の約10倍。
ブランド品購入を目的とした旅行を卒業した外国人観光客への対応として、店内だけで魅力を作
るのではなく、蒔絵や友禅など日本の伝統工芸を製作現場で触れてもらい、その場で購入してもら
うなど旅行業者や製造業者とのコラボレーションも検討している。
-84-
< 情報提供サービス >
④ 地域で連携した観光案内/別府外国人観光案内所
別府市を訪れる外国人観光客に対し、観光協会や別府市と連携し、23年間にわたっ
て案内業務を行っている。
誰が(実施団体)
なぜ(きっかけ)
別府市は、1950年に国際観光温泉文化都市
の指定を受け、バックパッカーなど多くの外国人
観光客が訪れていた。しかし、駅に案内所がな
く、外国人観光客は英語が通じず困っていた。
別府SGG ※クラブ
(別府外国人観光案内所)
・設立:1986年9月
・登録会員数: 27名(2008年11月現在)
そこで、1986年、廃校になった小学校に「外国
人観光客SOS案内所」を開設、英語が話せる
23名のボランティアスタッフで本格的に観光案
内業務を開始。1999年には、別府駅構内に観
光案内所を移転し、活動を拡げた。
・事業概要:外国人観光客に対する案内業務、
在日外国人向けの日本語レッスン等
・所在地:大分県別府市北浜1-3-17
※Systematized Goodwill Guide
どのように(サービス内容)
別府SGGクラブが運営する観光案内所は、外国人観光客の多い別府駅構内と、駅前通りの国際
交流プラザの2カ所に開設。 年末年始を除き毎日9時~17時まで3カ国語(英、中、韓)に対応。
運営するのは、ボランティアであるクラブの会員で、 語学力はもとより、別府市内、大分県及び九州
全体の観光知識も身につけた20代~70代の主婦、退職者、会社員等で構成。
地理に不案内な外国人観光客に対し、早く正確な情報
を伝えるためにオリジナルの外国語版地図やパンフレット
を作成するなど、わかりやすい情報提供を心掛けるととも
に、観光案内所のホームページでも温泉をはじめとする
観光地や宿泊施設等について、情報提供している。
宿泊施設、観光協会等と連携し、外国人の受入可能な
宿泊施設の紹介も行っているほか、2000年の立命館アジ
ア太平洋大学設立を機に、市民と外国人留学生との交流
にも力を入れている。
出典:財団法人日本交通公社
どうなったか(アウトプット)
2008年度の外国人観光客の利用者数(4月~1月)は対前年同期比14%増の19,839人で、年々
増加している。また、2007年度の案内所利用件数は27,094件で、うち、市内バスに関する情報
5,025件、市内及び国内の観光地情報4,573件、別府ほか温泉情報2,469件で利用目的全体の約
半数を占めている。
こうした取組により、「平成19年度地域づくり総務大臣表彰」を受賞。
-85-
< 金融サービス >
⑤ ATMでの日本円取得/セブン銀行
全国約13,000台のATMで、海外発行のキャッシュカード、クレジットカードに24時間、
365日対応し、外国人が手軽に日本円を出金することを可能にした。
誰が(実施団体)
なぜ(きっかけ)
株式会社セブン銀行
海外発行カードは、国内発行カードと規格が
異なるため、利用可能なATMが少ないうえに、
利用の多い早朝夜間や土日に利用できるATM
は更に限られており、外国人が大変不便に感じ
ていた。
・設立:2001年4月
・資本金:305億円
・従業員数:290人(2008年3月現在)
こうした外国人のニーズに応えることが、AT
Mの利用者層の拡大と同時に他のATMとの差
別化に繋がると考えた。
・事業概要:ATM事業、金融サービス事業
・本社所在地:東京都千代田区丸の内1-6-1
どのように(サービス内容)
同社のATMは海外発行カードを読み取る機能を有していたので、それを活かして、対応するソフト
ウェアを整備し、2007年7月、国際的な金融ネットワークであるVISA、MasterCard、American
Express、JCB、中国銀聯との提携を行い、海外発行カードでの日本円の出金や残高照会のサービ
p
、
、中国銀聯
提携を行 、海外発行
本
出
残高照会
スを開始した。
ATM画面及び利用明細は、4カ国語(英、中、韓、ポルトガル)に対応し、出金単位は、1万円札のみ
の取扱いとなっている。また、利用の際のトラブルを減らすために、画面インターフェース、レシートへ
の情報記述などを工夫している。
ATMは、全国のセブンイレブンの店舗内だけでなく、月々一定件数
以上の利用があれば設置することができる。
外国人観光客に対しては、JNTO(日本政府観光局)の海外事務所
でのリーフレット配付による周知や、到着先の国内空港へのATM設置
等を通じ利用環境の整備に努めている。
また、北海道観光振興機構、TIJ(日本ツーリズム産業団体連合会)
の賛助会員やJNTOの会員になるなど、観光関連の団体及びその会
員企業との接点を作ることにより、観光関係者への同社ATMサービス
の認知度向上に努めている。
出典:株式会社セブン銀行
どうなったか(アウトプット)
海外発行カードでのATM利用者数は、2008年度は多い日で約3,000人と年々増加しており、特に
京都市内中心部、浅草雷門前など観光地での利用が多い。(道内ではセブンイレブン倶知安基町店
での利用が最多)
ATMの設置場所は、国内の主要空港や駅、高速道路サービスエリア、ショッピングセンター、ホテ
ル、病院、地下街やオフィスビル等に広がっている。
-86-
< 金融サービス >
⑥ 中国人の買物需要を創出/三井住友カード
日本で唯一、中国銀聯と提携を結び、現金持ち出し制限のある中国人観光客に国内
と同様の決済環境を提供するとともに、高額ショッピングの需要を創出している。
誰が(実施団体)
なぜ(きっかけ)
三井住友カード株式会社
中国では、現金主義(借金やローンを好まな
い)や、与信システム構築の遅れ(無担保での
与信供与が根付いていない)からクレジットカー
ドが普及しておらず、デビットカードである銀聯カ
ードが最もポピュラーな決済手段である。
・設立:1967年12月
・資本金:340億3千円
・従業員数:1,989名(2008年3月現在)
・事業概要:クレジットカードに関する業務、ロ
ーン業務、保証業務、ギフトカード業務等
・本社所在地:
東京本社:東京都港区海岸1-2-20
大阪本社:大阪府大阪市中央区今橋4-5-15
銀聯カードを国際ブランドにしたい中国政府は、
2005年12月に日本マーケットに進出。三井住友
カードも、VISA、Master、銀聯など決済ブランド
を幅広く提供できる点や巨大な中国市場をにら
み中国銀聯と提携を結んだ。
どのように(サービス内容)
銀聯カード加盟店でのショッピングのほか、セブン銀行等のATM約46,000台で現金の引き出しも
できる。但し、ATMでの1日の現金引出限度額は10,000元(約14万円)。
加盟店は、ゴールデンルート(東京~大阪間)上の都市や観光地を中心に、福岡など地方都市で
も開拓している。当初は、銀聯カードの存在を知らない人が多かったため、こちらから提案していた
が、今は逆に店舗側から導入したいという問い合わせが入るようになった。
家電量販店、空港(免税店)、百貨店をはじめ、高級旅館やホテル等でも導入が進んでおり、一
部の家電量販店やドラッグストアでは、銀聯カード利用者に対し買物額の割引を実施をしている。
銀聯カードの利用額については、ある大手家電量販店では「1人平均55,000円で日本人の平均
カード利用額の約5倍」に達し、また、銀座の化粧品店では「月間売上の2割~4割を占める」等、全
国的に着実に増加している。
銀聯カードは、決済時にサインとは別に6桁の暗証番号が必要なた
め専用端末を開発したが、通常のクレジットカード端末に比べ割高に
なり、海外とのネットワーク費用の負担も大きいため、クレジットカード
とは異なる手数料率を設定している。
導入に際しては端末コストがかかるため、地域展開は店舗側が観光
客の動向等を見て慎重に判断する必要がある。
出典:三井住友カード株式会社
どうなったか(アウトプット)
加盟店数は、サービス開始の2005年12月で200店舗、2008年11月には12,000店舗強に拡大。
利用額も2007年度40億円、2008年度は100億円を超える見込み。店舗別では、家電量販店、空
港(免税店)、百貨店の順で利用額が多く、最近は百貨店での利用額の伸びが著しい。
-87-
< 金融サービス >
⑦ 地域でクレジットカードを導入/洞爺湖温泉飲食店組合
洞爺湖サミットの開催を契機に、温泉街の飲食店でクレジットカードの利用を可能に
した。
誰が(実施団体)
なぜ(きっかけ)
洞爺湖温泉飲食店組合
外国人観光客の旅館外での飲食が増加傾
向にあったが、カード対応が出来る温泉街の
飲食店は、4軒に留まっていた。
・設立:1955年4月
・組合員数:40
2008年7月の北海道洞爺湖サミット開催を契
機に、更に多くの外国人観光客の来訪し、飲
食店の利用が見込まれることから、導入に踏
み切った。
・事業概要:洞爺湖温泉の飲食店組合
・所在地:北海道虻田郡洞爺湖町洞爺湖温泉
142 洞爺湖町商工会洞爺湖温泉支所内
どのように(サービス内容)
洞爺湖温泉街の飲食店は小規模な店舗が多いため、個店レベルでは手数料率が高くなってしま
うことが導入にあたってのネックであった。そこで、飲食店組合として、地域の全店が加入すること
を前提に、カード会社と交渉することで、手数料率の低減を図った。
また 地域全体で同時期に本サ ビ を導入する とで 高齢化が進んでいる個店においても
また、地域全体で同時期に本サービスを導入することで、高齢化が進んでいる個店においても、
カード決済の方法についての情報を共有、訓練することが出来たために、導入後の運営もスムー
ズとなった。
さらに、サミットにて多くの外国人が来訪し、クレジットカード
が多用されたことにより、対応ノウハウも蓄積され、カードを
日常的に扱うことが出来るようになった。
地域全体でクレジットカードの対応は可能となったが、外貨
両替については米ドルにしか対応できていないことが今後の
課題としてあげられる。また、中国人観光客の増加を見込み、
地域全体での銀聯カードへの対応も検討している。
また、洞爺湖温泉観光協会が主体となり、接客の心得や3
カ国語(英中韓)での受け答えを記したハンドブック「おもてな
し いんぽっけ」を作成するなど、外国人観光客の満足度向
上を目指した取組も進んでいる。
出典:財団法人日本交通公社
どうなったか(アウトプット)
サミット後の観光客については、原油高騰や世界的な不況の影響もあり、思うように増加していな
いが、カード対応への取組により国内外の観光客の旅館外での飲食需要への対応が容易となった。
また、飲食店組合が主導で、旅館と協働した泊食分離商品 (グデングデンヘブンツアー:宿泊・食
事・二次会がセットになった一人当たり6,000円~の企画商品、2008年12月7日~11日実施) が開
発されるなど、観光誘客に向けての積極的な取組が見られる。
-88-
< 交通サービス >
⑧ 外国人観光客にも使いやすいフリーパス/小田急電鉄
多種多様な交通ネットワークを活かした「箱根フリーパス」等の周遊券を外国語表記
のパンフレットや時刻表付きで発売するとともに、ホームページや外国人旅行センタ
ーでの多言語対応により、外国人観光客の旅行をサポートしている。
誰が(実施団体)
なぜ(きっかけ)
小田急電鉄株式会社
1967年「箱根ゴールデンコース」と呼ばれる
回遊コースに来訪する客をターゲットに「箱根
フリーパス」を発売したが、近年は、個人旅行
の外国人観光客に対する販売が増加している
ため、フリーパスを説明するパンフレットや箱
根地域の交通機関の時刻表を多言語化し、外
国人観光客の利用に際して利便性の向上を
図ることとした。
・設立:1948年6月
・資本金:603億5,900万円
・従業員数:3,443名(2008年3月現在)
・事業内容:鉄道事業、不動産業、その他事業
・本社所在地:東京都新宿区西新宿1-8-3
・グループ会社:104社(2008年8月1日現在)
どのように(サービス内容)
「箱根フリーパス」等の主要商品については4カ国語(日英中韓) のパ
ンフレットを作成するとともに、フリーパスに指定された交通機関(ロマン
スカー、登山電車、ケーブルカー、バス、ロープウェイ、海賊船等)の時
刻を1冊にまとめた「箱根の交通時刻表」も英語表記で作成し、外国人
観光客が利用しやすいように工夫している。
また、東アジアから多くの観光客が訪れる旧正月の時期には、「春節
遊客キャンペーン」を展開し、「箱根フリーパス」を期間限定で外国人観
光客に割引発売をしているほか、宿泊施設と協力して「春節限定宿泊
プラン」などを発売している。
箱根フリーパスパンフレット
1999年には小田急新宿駅西口に外国人観光客向け窓口「小田急外
国人旅行センター」を開設。4カ国語に対応できるようにスタッフを配置し、
個人旅行の外国人観光客に対し、宿泊手配、交通・観光案内等のサポ
ートを行っているほか、Qツアー(宿泊+箱根周遊)の予約・発売も行っ
ている。
周遊券は「箱根フリーパス」「富士箱根パス」「江の島・鎌倉フリーパ
ス」等があり、小田急全線各駅や外国人旅行センター等で購入できる。
小田急外国人旅行センター
( 出典:小田急電鉄株式会社 )
どうなったか(アウトプット)
2007年度の外国人旅行センターでの「箱根フリーパス」販売枚数は、対前年比40.8%増の約
47,000枚(購入者は全て外国人)。
また、外国人旅行センターの利用者も年々増加傾向にあり、2007年度の実績は対前年度比
39.4%増の約64,000人に達した。
-89-
< 交通サービス >
⑨ 冬の山と街を結ぶ夜間無料バス/倶知安観光協会
冬季の倶知安でスキー場のあるひらふ地区と市街地を結ぶ夜間無料バス「くっちゃ
んナイト号」を16年前から運行。1シーズンに約14,000人の外国人が乗車するなど、域
内の移動手段をサポートしている。
誰が(実施団体)
なぜ(きっかけ)
倶知安観光協会
当初は、路線バスの無くなる夜間に、ひらふ
地区のスキー客の市街地への誘導や、地域
住民のナイタースキーの交通手段確保を目
的に、1993年に運行を開始した。
・設立:1949年6月
・会員数:273名 (2008年4月現在)
・事業概要:地域のゲレンデ情報や観光情報の
提供、レンタカーの予約代行など
その後、国内スキー客の減少に伴い乗客数
が減少し運行存続が危ぶまれた時期もあった
が、豪州を中心とした外国人観光客の急増に
伴い、運行を継続できた。
・所在地:北海道虻田郡倶知安町北1条西2丁目
「まちの駅 ぷらっと」内
ひらふ支部/北海道虻田郡倶知安町樺山41
どのように(サービス内容)
2008年度の運行期間は12月1日から翌年3月31日まで。ニセコグラン・ヒラフスキー場とJR倶知安
駅前を結ぶルートに毎日17時から23時の時間帯に6往復半のバスを運行。
停留所は、ひらふ地区中心部や外国人観光客が多く立ち寄る市街地の飲食店、スーパー、商店付
近を中心に11カ所設置し、全ての停留所でスキー・スノーボードの積込を可能とするなど、乗客の利
便性を確保。また、途中で満員になった場合は待機場所からもう1台のバスが駆けつける体制で運行
している。
運行経費は観光協会、倶知安町及び地元事業者で負担し、近隣の観光バス会社に運行を委託して
おり、今シーズンは国土交通省の地域公共交通活性化事業の
一環としての実証運行と、今後の利便性の向上のために乗客の
乗車頻度や区間などの基礎データを収集。
また、観光協会では地元警察署や倶知安町と連携し、2007年
度から冬季限定で、ひらふ地区に「ニセコひらふ安全センター
(民間交番)」を開設。
日本人及び外国人スタッフが毎日9時から23時まで観光案内や
トラブルに対応している。(2008年度からは、警察官も24時間体
制で駐在)
出典:倶知安観光協会
どうなったか(アウトプット)
2007年度の乗客数は過去最多の26,724人(対前年度比46%増)で、うち、外国人の利用が53%を
占めている。2008年度は12月~1月の2カ月間で17,829人(対前年同月比38%増)。同じく外国人の
利用が65%となっている。
乗客に対するアンケートの結果では、乗車目的は道外及び外国人の乗客の約50%が「買物」、30%
が「飲食」と、市街地の活性化につながっている。
-90-
< 医療サービス >
⑩ 電話での医療通訳/AMDA国際医療情報センター
外国人観光客が最も困る病気や怪我の対応として、外国人診察に理解のある医療機
関の紹介や医療通訳サービスの電話提供など、安心を広域的にサポートしている。
誰が(実施団体)
なぜ(きっかけ)
特定非営利活動法人
AMDA国際医療情報センター
現理事長の小林氏が難民の健康診断に携わ
る中で「外国人が困ったときに助けてあげられ
る病院が必要」という思いから、1990年小林国
際クリニックを設立し、通訳者を配置した。
・設立:1991年4月
・通訳者:センター東京76名
センター関西17名(2009年2月現在)
各方面からクリニックへの電話問い合わせが
多く、医療相談を受ける組織が別途必要となり、
AMDA国際医療情報センターを立ち上げること
となった。
・事業概要:電話で各国語により、言葉の通じる
医療機関の紹介や医療福祉制度など医療情
報の提供等
どのように(サービス内容)
外国人、外国人患者を受け入れている医療機関、外国人を雇用している会社、地方行政窓口など
から医療関連の相談を電話で受け、言葉の通じる医療機関の紹介や、治療時の通訳を行っている。
各言語の対応状況は、5カ国語(英、中、韓、タイ、スペイン)が毎日、ポルトガ
ル語、タガログ語(フィリピン語)は週1日~3日で、相談時間は9時~20時。
東京都からの「外国人医療関連委託事業(医療通訳事業の実施)」や外国人
患者対応の各種対訳集の出版、医療通訳セミナー・シンポジウムの開催等を
行っている。
通訳者はボランティアではなく、有償で雇用
している。また、通訳者の語学レベルについ
ては、外国人の通訳者には日本語検定1級
以上、日本人の通訳者には現地での生活経
験があることを求めており、かつ、担当者の
面接により直接レベルを確認した上で、採用
している。
大都市(東京、大阪)に通訳者を集め、そ
こを拠点に全国各地をサポートすることにつ
いて、検討中。
出典:AMDA国際医療情報センター
どうなったか(アウトプット)
2007年度の相談件数は、センター東京では約4,000件、センター関西では約800件。最近は、特に、
外国人を受け入れる医療機関からの通訳依頼が増加している。
-91-
< 医療サービス >
⑪ 医療通訳者の派遣/多文化共生センターきょうと
提携病院への医療通訳者派遣による通訳対応や、多言語に対応した受付や問診を
支援するパソコンシステムの開発など、日本在住外国人、外国人観光客を医療面で
サポートしている。
誰が(実施団体)
特定非営利活動法人
多文化共生センターきょうと
・設立:1998年7月
・スタッフ:28名 (うち、医療通訳者24名)
(2009年2月現在)
・事業概要:国籍・ 言語・文化や性などの違い
を認め尊重しあう「多文化共生社会」実現の
ための活動を日本国内を中心に行っている
・所在地:京都府京都市下京区万寿寺町143
なぜ(きっかけ)
1999年から外国人が多く住む地域で無料医療
相談会を実施。この活動で病院への通訳派遣を
求める声が多かったことから、医療通訳者派遣
のモデル事業(市、国際交流協会との3者共催)
に取り組み始めた。
更に、2002年に京都市国際交流協会からの委
託で実施した医療通訳に関する実態調査から、
京都府内の無償通訳者の2名で1カ月に約100件
もの通訳対応をしている実態が明らかとなり、個
人の善意に依存しない支援制度の仕組みが必
要であるという認識が強まった。
どのように(サービス内容)
現在、4つの病院に通訳を派遣しており、そのうち2カ所には、中国語通
病
訳を常駐させている(現状の対象患者の9割以上が中国語対応)。その
他の2カ所には、事前予約を受け派遣している。
患者に安心感を持ってもらえる対応が必要であり、かつ、医療や外国
文化に関する一定の通訳が必要なため、高度な言語能力を持つ医療
通訳者を採用している 。
医療現場で求められる柔軟な対応は通訳者の経験値に依存するため
経験豊富な医療通訳者は貴重と考えている。
また、医療通訳を行う際には、通訳者が現場で活動しやすいよう、セン
ターから病院へ医療通訳コーディネーターを派遣するとともに、病院側か
らもコーディネーターを配置してもらい、医療通訳現場のサポートを行っ
ている。
病院側と一体になって取り組むために、多文化共生センターきょうとと
病院の間で協定を結んだ上で、医療通訳者の派遣を行っている。
また、医療通訳者にも医師と同様に賠償責任保険に加入してもらい、
訴訟リスクなどに対応している。
出典:多文化共生センターきょうと
どうなったか(アウトプット)
派遣実績は、2007年度1,279件に対し、2008年度1,519件と年々増加している。
また、通訳者が居なくても、簡単な問診や病院内の誘導等に対応出来るパソコンシステムを開発
し、2009年2月、京都大学の付属病院に設置した。
-92-
資料 2
–
ニセコ地域における通訳サービス実証調査関連資料
画面イメージ
00 言語選択画面(初期画面)
01 通訳者選択画面
- 93 -
02 通話画面(通訳者を選択したときに立ち上がるスカイプの画面)
03 接続結果確認画面
- 94 -
04 アンケート画面
- 95 -
–
店舗設置用チラシ
- 96 -
–
利用促進用チラシ
- 97 -
- 98 -
–
参加施設の一覧
業種
小売業
宿泊施設業
飲食業
案内所
美術館・博物館
医療
スポーツ施設
その他サービス施設
司法書士事務所
役場
総計
件数
10
7
4
3
2
2
1
1
1
1
32
[内訳]
NO
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
事業者名
業種
倶知安厚生病院
ペンションポテトチップス
ペンションホップコーン
ニセコパークホテル
株式会社 ニセコリゾートサービス
ブームBOOMスポーツ
株式会社 石本商店 Mポケット
有限会社 川端文化堂
有限会社 日進堂
司法書士金井政二事務所
倶知安観光協会
はんこ広場倶知安店
PASSAGE
倶知安町役場住民課住民係
オーエムフーズ株式会社 回転寿司羊蹄丸
くにもと歯科医院
エコーフォト カシワヤ
NISBAK
リラクゼイションカイロ NAGOMI
飲み食い処 波ちゃん家
株式会社 浅岡家具店
ホテルニセコアルペン
ニセコ高原ホテル
Bar Be
小川原脩記念美術館
風土館
ニセコひらふ安全センター
サンスポーツランド
ウエルカムセンター
ペンション風
ツルハドラッグ倶知安店
ツルハドラッグ倶知安南店
- 99 -
医療
宿泊施設業
宿泊施設業
宿泊施設業
宿泊施設業
小売業
小売業
小売業
小売業
司法書士事務所
案内所
小売業
小売業
役場
飲食業
医療
小売業
飲食業
医療業
飲食業
小売業
宿泊施設業
宿泊施設業
飲食業
美術館・博物館
美術館・博物館
案内所
スポーツ施設
案内所
宿泊施設業
小売業
小売業
–
利用実績一覧
表
利用実績一覧
年月日
利用者
言語
内容
1
2008/12/8
(有)日進堂
English
2
2008/12/8
厚生病院
Chinese
3
2008/12/8
厚生病院
Chinese
骨の状態確認のため、X線写真を撮ること等について通訳を行った。
4
2008/12/10
はんこ広場倶知安店
English
コピーサービスについての通訳を行った。
5
2008/12/15
はんこ広場倶知安店
English
USB メモリに入っている資料のプリントアウト方法について通訳を行った。
6
2008/12/20
厚生病院
English
保険の関係で、レントゲンのコピーが取れるかどうか等について通訳を行った。
7
2008/12/22
小川原脩記念美術館
English
香港の TV 局が取材をしたいというオファーと、そのスケジュールの相談につい
ての通訳を行った。
スキーによりくるぶしを怪我をした方について、怪我をした時間、状況、下山の
方法について通訳を行った。
美術館で、ひとりで立っている外国人の方がいるので、もし何か必要、または困
っているなら教えてください、という質問とやりとりについて通訳を行った。
通訳システムが機能しているかの確認と思われる電話があった。外国人が来てい
8
2008/12/22
小川原脩記念美術館
English
るので、電話をしたが、その時点で通訳する内容はないので、また何かあったら
連絡をします、という内容。
美術館、もしくはギャラリーで、ひとりで立っている外国人の方がいるので、も
9
2008/12/24
厚生病院
English
し何か必要、または困っているなら教えてください、という質問を訳して伝えて
くださいという内容。
- 100 -
年月日
利用者
言語
内容
10
2009/1/13
㈱浅岡家具店
English
11
2009/1/14
㈱浅岡家具店
English
家具の在庫の種類の説明についての通訳を行った。
12
2009/1/14
ツルハドラッグ倶知安南店
English
お客様が探していた薬とその内容説明について通訳を行った。
13
2009/1/16
厚生病院
English
薬の種類についての通訳を行った。
14
2009/1/16
厚生病院
English
足にけがをされたオーストラリア人への対応の通訳を行った。
15
2009/2/5
くにもと歯科医院
English
薬の内容、症状についての歯科医と患者とのやりとりについての通訳を行った。
16
2009/2/6
ツルハドラッグ倶知安南店
English
オーストラリア人女性が探していた薬の種類等についての通訳を行った。
17
2009/2/9
ツルハドラッグ倶知安南店
English
贈物の送付先のオーストラリア人が帰国してしまって受け取れない、というトラ
ブルについての通訳をおこなった。
赤ちゃん用のミルクパウダーで、香港にあるバニラ味と似たものがないか、とい
う質問とそのやりとりについての通訳を行った。
- 101 -
–
利用者アンケート結果
表
アンケート結果一覧(外国人観光客への質問)
外国人観光客への質問
問 1. Did you 問 2. How you
satisfy
her/his evaluate her/his
translation?
skill?
問 3. What was the
most impressive?
(1)Pronunciation
(2)Hospitality
Kindness
(3)Knowledge
(4)Others
(4)others
年月日
利用者
言語
(5)Quite satisfied
(4)Good job
(3)Not bad
(2)Prefer another
person next time
(1)Upset
1
2008/12/8
(有)日進堂
English
NA
NA
NA
NA
2
2008/12/8
厚生病院
Chinese
NA
NA
NA
NA
3
2008/12/8
厚生病院
Chinese
NA
NA
NA
NA
4
2008/12/10
はんこ広場倶知安店
English
(4)Good job
(4)High
(1)Pronunciation
NA
5
2008/12/15
はんこ広場倶知安店
English
(5)Quite satisfied
(5)Quite high
(1)Pronunciation
NA
6
2008/12/20
厚生病院
English
NA
NA
NA
NA
7
2008/12/22
小川原脩記念美術館
English
(4)Good job
(4)High
(1)Pronunciation
NA
8
2008/12/22
小川原脩記念美術館
English
NA
NA
NA
NA
9
2008/12/24
厚生病院
English
NA
NA
NA
NA
- 102 -
(5)Quite high
(4)High
(3)Not bad
(2)Bad
(1)Very bad
外国人観光客への質問
問 1. Did you
satisfy
her/his
translation?
問 2. How you
evaluate her/his
skill?
問 3. What was the
most impressive?
(5)Quite high
(4)High
(3)Not bad
(2)Bad
(1)Very bad
(1)Pronunciation
(2)Hospitality
Kindness
(3)Knowledge
(4)Others
(4)others
年月日
利用者
言語
(5)Quite satisfied
(4)Good job
(3)Not bad
(2)Prefer another
person next time
(1)Upset
10
2009/1/13
㈱浅岡家具店
English
(5)Quite satisfied
(5)Quite high
(1)Pronunciation
NA
11
2009/1/14
㈱浅岡家具店
English
(5)Quite satisfied
(5)Quite high
(1)Pronunciation
NA
12
2009/1/14
English
NA
NA
NA
NA
13
2009/1/16
厚生病院
English
NA
NA
NA
NA
14
2009/1/16
厚生病院
English
NA
NA
NA
NA
15
2009/2/5
くにもと歯科医院
English
NA
NA
NA
NA
16
2009/2/6
English
(4)Good job
(4)High
17
2009/2/9
English
NA
NA
ツルハドラッグ倶知安南
店
ツルハドラッグ倶知安南
店
ツルハドラッグ倶知安南
店
- 103 -
(2)Hospitality
Kindness
NA
NA
NA
表
アンケート結果一覧(施設担当者への質問)
お店・病院の方への質問
年月日
利用者
言語
問 4. 今の通訳には
満足しています
か?
問 5. この通訳者の
技能を評価する
と?
問 6. この通訳者の
最も印象深かった
点は?
問 7. またこの通訳
者に依頼したいと
思いましたか?
(5)とても満足
(4)満足している
(3)普通
(2)次は他の人にお
願いしたい
(1) 最 悪 。 二 度 と こ
の人には頼まない
(5)とても高い
(4)高い
(3)普通
(2)低い
(1)最悪
(1)発音の良さ
(1)はい
(2) 一 生 懸 命 さ ・ 親 (2)いいえ
切さ
(3)豊富な知識
(4)その他
1
2008/12/8
(有)日進堂
English
NA
NA
NA
NA
2
2008/12/8
厚生病院
Chinese
(3)普通
(3)普通
NA
NA
3
2008/12/8
厚生病院
Chinese
(3)普通
(3)普通
4
2008/12/10
はんこ広場倶知安店
English
(4)満足している
(4)高い
5
2008/12/15
はんこ広場倶知安店
English
(5)とても満足
(4)高い
6
2008/12/20
厚生病院
English
NA
NA
7
2008/12/22
小川原脩記念美術館
English
(4)満足している
(4)高い
- 104 -
(2)一生懸命さ・親
切さ
(2)一生懸命さ・親
切さ
(2)一生懸命さ・親
切さ
NA
(2)一生懸命さ・親
切さ
(1)はい
(1)はい
(1)はい
NA
(1)はい
お店・病院の方への質問
年月日
利用者
言語
問 4. 今の通訳には
満足しています
か?
問 5. この通訳者の
技能を評価する
と?
問 6. この通訳者の
最も印象深かった
点は?
問 7. またこの通訳
者に依頼したいと
思いましたか?
(5)とても満足
(4)満足している
(3)普通
(2)次は他の人にお
願いしたい
(1) 最 悪 。 二 度 と こ
の人には頼まない
(5)とても高い
(4)高い
(3)普通
(2)低い
(1)最悪
(1)発音の良さ
(1)はい
(2) 一 生 懸 命 さ ・ 親 (2)いいえ
切さ
(3)豊富な知識
(4)その他
8
2008/12/22
小川原脩記念美術館
English
NA
NA
NA
NA
9
2008/12/24
厚生病院
English
NA
NA
NA
NA
10
2009/1/13
㈱浅岡家具店
English
(5)とても満足
(5)とても高い
(2)一生懸命さ・親
切さ
(1)はい
11
2009/1/14
㈱浅岡家具店
English
(5)とても満足
(5)とても高い
(2)一生懸命さ・親
切さ
(1)はい
12
2009/1/14
ツルハドラッグ倶知安南店
English
NA
NA
NA
NA
13
2009/1/16
厚生病院
English
NA
NA
NA
NA
14
2009/1/16
厚生病院
English
NA
NA
NA
NA
15
2009/2/5
くにもと歯科医院
English
NA
NA
NA
NA
16
2009/2/6
ツルハドラッグ倶知安南店
English
(5)とても満足
(4)高い
(2)一生懸命さ・親
切さ
(1)はい
17
2009/2/9
ツルハドラッグ倶知安南店
English
NA
NA
NA
NA
- 105 -
- 106 -
資料 3
北海道観光産業グローバル化促進研究会の記録
第 1 回 北海道観光産業グローバル化促進研究会 議事要旨
日
時:平成 20 年 9 月 17 日(水)15:00~17:30
場
所:札幌第 1 合同庁舎
4F 特別会議室
出 席 者:石森座長、有塚委員、大西委員、國枝委員、張委員、ベン委員、山本委員、
オブザーバー・事務局 計 21 名
議
題:北海道観光地のグローバル化に向けた基本的方向性の検討
(1) グローバル化の経緯と現状
(2) グローバル化の展望
(3) 北海道観光地のグローバル化に向けた基本的方向性の検討
事務局からの説明に対して、委員からの主な発言の要旨は以下のとおり。
1.グローバル化の経緯と現状について
(北海道全体の現状)
・北海道が、特に台湾から多くの観光客を受け入れるようなったきっかけは、台湾からの
チャーター便の就航、チャーター便の就航に伴う定期路線の就航による。その結果、現
在北海道におけるインバウンドの観光客は、台湾、香港、韓国の 3 カ国が中心となり、
今日では、中国の観光客が増えつつある。
・夏の繁忙期を除くと、道内閑散期といわれる 12~3 月までの冬期観光は、外客が多くを
担っている。
・台湾においてはキャリアの発言力が非常に強く、キーエージェントによる乱獲が起きて
いた。しかし、数年前にチャーター便から定期便に変わり、今や台湾人観光客は頭打ち
の状況となっている。
(北海道全体の課題)
・道内宿泊の平均単価は、国内客、外客ともに低い。
・海外マーケットを得るためにダンピングが起きている。北海道の宿泊単価は全国一安く
1万円を下回り、阿寒での外客宿泊単価は 4,000 円台からで、平均でも大凡 6,000 円程
度に留まる。
・FIT の観光客は全体的に少なく、まだまだ団体の観光客が多い。
- 107 -
・韓国人観光客は、ゴルフ目的などでグリーンシーズンに多く、ピークが国内客と重複す
るため有り難みが少ない。一番の期待は中国人観光客だが、ビザの問題でまだ多くは望
めない。
・国内の移動費用の高さが足かせになるため、ほとんど買物はしない。
・マナー等の問題があり、ゴルフ場にしても、食事処にしても、国内客は韓国人観光客が
大勢いる場所には行きたがらない。
・予約時、予約後、来訪直前・・・と、途中で値段交渉が 3 回ぐらいあるのは当たり前で、
挙句の果ては来ないこともある。外客市場はきちんとやろうと思うととても参入できる
状況ではないが、国内市場の縮小は目に見えているため、どうしても入っていかなけれ
ばいけないというギャップを抱えている。
・中国人を日本に連れてくる旅行よりも、日本人を中国に連れて行く旅行のほうが儲かる。
旅行業は、着地側よりは発地側が儲かるビジネスモデルになっている。北海道の一番の
問題は、下請け型旅行になっていること。中国人観光客を誘致するのであれば、中国の
旅行エージェントに頼るのではなく、中国でいかにエージェントを通さないで観光客を
集客できるかが重要となる。
・北海道は直行便が少ないために価格競争がなく、航空券が他地域に比べ高額である。
・通訳ガイドも非常に問題になっており、「日本に行ったら全然役に立たないガイドがつい
てくる」と、中国の旅行会社から頻繁に苦情を受ける。
・台湾の旅行博に出展した際、他国ブースではその場で旅行を販売していた。現地に行っ
て旅行を販売するといった勢いを持たなければならないのではないか。
(ニセコ地域の現状)
・ニセコは、シンプルな話でいうと、極端に雪がよくて楽しい。そして、現地の人が一生
懸命で、喜んだ観光客はさらに口コミで友人を呼ぶという繰り返しだけ。マーケティン
グや宣伝もせずに、観光客が増加した。しかし近年、観光客のニーズの変化を感じる。
かつてはスキーのみが目的であったが、今は札幌、小樽など他の観光地にも行きたい、
マッサージをしたい、日本茶や生け花などの日本文化にふれたいという声も挙がってい
る。
・ニセコの次のステップは、アメリカ、ヨーロッパ、アジアからの観光客。今年のリフト
券売上は、オーストラリア人率が初めて 5 割を下回ると予想している。不動産でも、オ
ーストラリアからの投資は 3 割程度に留まっており、香港、上海の方が金額的に上回っ
ている。また、オーストラリアの投資額は大凡 5~6,000 万円程度だが、今アジアは、億
単位にまで到達している。なお、この 2~3 ヶ月の間、ニセコで最も大きく動いているお
金はマレーシアである。
- 108 -
・多くの外国人がニセコに居住して事業を展開しているが、日本人が少しずつ歩み寄って
いる雰囲気がある。コンドミニアムの建設事業においては、価格面等から地元業者はあ
まり使われていないが、網戸などの周辺設備等では、まだまだ地元との繋がりが持てる
と期待している。
・通常はマーケティングでいうセグメンテーションをするが、ニセコのケースは、最初か
らコアターゲットが自ら来てくれ、最も効果的だといわれている口コミでさらに新規顧
客も連れて来ており、インターネット時代のダイレクトな手法で観光客を獲得している。
・ニセコでは、コンドミニアムを押さえている現地の3~4つのオペレータが旅行代理店
になっているため、全ての料金は自らコントロールできる。飛行機を押さえることがで
きないが、
FIT の観光客は、
マイレージやネットを活用し、
自分で航空券を用意している。
エージェントを通すことなく、なるべく直でやりとりをしている。
(ニセコ地域の課題)
・ヒラフでの今一番の課題は、歩道を改善すること。真冬でもハイヒールで歩く観光客が
増えているが、ヒラフには安全に歩ける歩道がない。
・現状のヒラフでは、FIT しか対応できない。また、レストラン、ベビーシッター、コンド
ミニアム用のコックといった観光客のニーズにも応えることができていない。
・ニセコのパイオニア的な存在の方は、多少困ったことがあっても少しは我慢していたが、
口コミが広がって来るようになったいろいろな国の方は、サービスも期待して来ている
が、実はニセコではあまり整っていない。
2.グローバル化の展望と北海道観光地のグローバル化に向けた基本的方向性の検討
(北海道全体)
・北海道が一体となり、こちらの“お品書き”を統合的に示す必要がある。その際、国よ
って知らせる方法論が変わるので、その辺りの見極めをしていきたい。また、表現の仕
方が、日本全体、北海道、各地域でそれぞれ異なると観光客が戸惑ってしまうので、共
通して必要な情報の見極めについても検討したい。
・オール北海道で海外に出て行くことは、非常に大切なことのひとつだと思う。
・日本の宿泊施設が安すぎるということを、もう少し私たちが認識する必要があるのでは
ないか。
・北海道旅行における価格競争、価格下落のひとつの原因は、情報がきちんと発信されて
いないことだと思う。少なくとも、自分が泊まるホテルはどのようなホテルか、調べた
らすぐ情報が出るような仕組みが必要だと思う。
- 109 -
・ホテル、レストラン、サービスも含めたランク付けがあったほうがよい。従来どおりの
ランク付けではなく、例えばエコを表す環境ランクを入れるなど、北海道らしいランク
付け、北海道以外では取り組んでいない北海道の先進的なランク付けも入れたほうが、
世界にアピールしていく、情報発信のひとつのバロメーターとしてはいいのではないか。
・現状で少ない直行便を急速に増やすことは難しいと思うので、羽田に入っても日本全国
に低価格で行ける、例えば九州にも沖縄にも北海道各地にも低価格で入れるような制度
をぜひ作ってほしい。
・冬季間の冬道を安心して旅できるよう、運転手付きレンタカーに運転手のような制度が
日本にもあっていいのではないか。核は中国のビザ発給がなるべく早い時期に開放され
ることだが、それに合わせてこういう制度も整備していくべきではないか。
・来年、アイヌの古式舞踊がユネスコの無形文化遺産に登録される可能性があるが、北海
道に根ざした独特の先住民の文化を、このタイミングでもっと海外に発信していく態勢
をとったらどうか。
・安いレベルのガイドで品質を落としてリピーターに繋がらないという問題があるので、
人材育成、ガイド育成についても早急に取り組むべき。また、人材の中での留学生の活
かし方についても、もっと工夫をする必要ある。
・訪れる場所がニセコ1箇所だけでは飽きてしまうが、北海道というブランドからは、こ
れからまたいろいろな場所が出てくると思っている。
・今ロードレーサーが日本国内はもとより世界的に大変なブームになっているが、羊蹄一
周を案内すると、こんないいところはない、空気がおいしい、水がおいしい、景色がき
れい、車が少ない、道路がいい、気温がいい、と非常に評判がよい。10 年前、パウダー
スノーについて同じこと言われていた。これから 5 年先、ニセコも含めた北海道は、間
違いなく冬より夏のほうが多くの観光客が来ると信じて、今取り組んでいる。
・北海道は「パークス北海道」といってもいいぐらい誇るべき自然がある。その部分をも
っと強調し、何か世界にアピールできるものを発信すること、あるいは判断材料をエン
ドユーザー向けに提供することが大切だと思う。
以上
- 110 -
第2回 北海道観光産業グローバル化促進研究会 議事要旨
日
時:平成 20 年 12 月 9 日(火)15:00~17:00
場
所:札幌第 1 合同庁舎
4F 特別会議室
出 席 者:石森座長、有塚委員、大西委員、國枝委員、ベン委員、山本委員、
オブザーバー・事務局 計 21 名
議
題:1.北海道観光のグローバル化の基本的な方向性
2.北海道の観光産業のグローバル化に対応した付加価値向上手法について
事務局からの説明に対して、委員からの主な発言の要旨は以下のとおり。
1.北海道観光のグローバル化の基本的な方向性
・オール北海道としてアピールしていく観点と同時に、エリアとしてもそれぞれの特徴的
な魅力を元に個々にアピールしていく必要がある。
・海外に出ていくときには統一した顔が必要だが、その中にも特徴をもった地域の顔を持
たなくてはならない。そのためには、各地域の個性豊かな文化、伝統的な文化をきちん
と育成し、さらに新たなものを創造していくことが必要だと思う。
・食材のブランド力を活かす視点も必要。
・素材は一緒なのかもしれないが、それをより個性化して地元の食材に磨きをかける、料
理法を工夫することが必要だと思う。例えば、北海道だけでもジャガイモは何種類もあ
るが、料理法の違いなどその地域らしい供し方をその地域としてブランド化をしていか
なくてはいけない。
・量を確保しつつ質の向上を狙っていくためには、滞在に向けた地域づくりの必要性、滞
在化に向けた取組といった視点を入れる必要がある。
・札幌以外の都市観光の充実が必要である。
2.北海道の観光産業のグローバル化に対応した付加価値向上手法について
(情報提供サービス)
・YouTube などの動画情報が一般的になっている中で、今後は、北海道の様々なエリアの
動画情報を多国語言語できちんと整備していく必要があるのではないか。
・スキー場も含めた地域として、ターゲットとなる相手国の嗜好に合わせた Web ページの
作り方なども含めて考え始めたところだが、どのようにコンテンツを揃え、いつどうい
- 111 -
ったものを出していくのかを十分考えながら、商品をつくり、伝えていかなければいけ
ないと強く感じている。
・ワンワールド航空会社を利用して訪日した外国人観光客は、JAL グループの国内線ネッ
トワークを最大 5 区間まで、1区間どこでも1万円の運賃で利用可能。インバウンドに
ついていつも口にしている我々もほとんど知らなかったが、おそらく諸外国でもこの情
報は一般の方に提供されていないだろう。こういった情報をきちんと提供していくと、
もっと FIT が動きやすくなるのではないか。
(交通サービス)
・海外からのアクセスがしやすいか(移動時間や乗り換えの利便性)
、また、到着後は気軽
に楽しく時間を過ごせるかどうかという点が重要である。
・空港からの2次交通をどうするのか。新千歳、旭川、帯広と複数ある空港をどうするの
か。陸海空のネットワークをどうするのか。これらの問題を考える際、運営側も大切だ
が、ユーザー側に立ったアクセスの方法論が必要である。将来の方向としては、メリッ
トとデメリットを事業者間でどう調整するかが難しいが、どの国の方も困らないよう1
枚のカードで全て決済できると素晴らしいのかもしれない。
(金融サービス)
・両替やクレジット対応の金融サービスの問題以前に、お客様が買いたがっているものが
揃えられていない、外国人観光客が持ってきている日本円が使いきれていないというの
が現状。
・・本当においしければ、若しくはブランド力があれば、お客様はお土産を買う。そ
ういった力は今のニセコにはないと感じている。
(医療サービス)
・ケガをしたお客様を現場でケアするにあたって、どこが痛いのかを聞けない、あるいは
30 分も外で待たせてしまうこともある。現場レベルでも、どういった状況なのか、アレ
ルギーがあるのかないのか、血液型は何型か、宗教上の問題で何が必要なのか、保険の
ことはきちんと触れられているのかなどの問診レベルの最初の対応を重点的に取り組む
必要がある。
・スキー場でのケガの場合、大半が骨折のため強い痛みが伴うが、日本では病院に着くま
で痛み止めが打てない。他国のスキー場では、スキーパトロールが口に入れて一時的に
効く痛み止めのようなものを持ち歩いている。日本の法律の問題だと思うが、日本の救
急隊員はそれができないので、骨折した人は病院に着くまで非常に辛い。
以上
- 112 -
第3回
北海道観光産業グローバル化促進研究会
日
時:平成 21 年 3 月 18 日(水)15:00~17:00
場
所:札幌第 1 合同庁舎
議事要旨
4F 特別会議室
出 席 者:石森座長、張委員、大西委員、國枝委員、ベン委員、山本委員、
オブザーバー・事務局 計 18 名
議
題:1.調査の経過報告
2.北海道観光産業グローバル化促進に向けての提言
事務局からの説明に対して、委員からの主な発言の要旨は以下のとおり。
1.各地域の現状と課題
<北海道全体>
・中国の観光競争は日本より激しいので、一度低価格でマーケットに定着してしまうと、
なかなか戻せない。この辺りは慎重に対応していく必要がある。今一時凌ぎで対応する
と、後から大変になるのではないかと少し危惧している。
・地方空港の入管問題。高所得層を受け入れていく際、千歳以外では直行便の受け入れが
難しい状況にある。
・中国の旅行社の一番の問題は、外貨を中国から持ち出せないので支払いが厳しいことだ
と聞いた。中国から観光客を運んでくるだけでは中国から外貨を送金できないので、あ
る程度のロットになると厳しいとのこと。
・中国人向けのビザ発給がさらに緩和されれば、中国からの観光客は間違いなく急増する
ことが予想される。民間の受け入れサービスをいくら充実させても、来日できなければ
グローバル化は難しい。まずは、ビザの緩和が重要である。
・中国本土の方が多く来訪するようになったが、台湾の方とは全く状況が異なっており、
商店街も戸惑っている。観光協会には、中国本土の方の受け入れる際の注意点、好まれ
る商品の勉強会などを早く開いてほしいという声が多く寄せられている。これは地域だ
けではなく、北海道全体で早急に対応しなければならない課題である。
<ニセコ地域>
・今回の経済危機での最大の問題は、サブプライムより円高であった。結果、オーストラ
リアからの観光客は半減したが、アジアからの観光客(中国、香港、台湾、マレーシア、
シンガポール)
が昨年と比べて伸びた。全体的には今シーズンの外客数は 1~2 割減だが、
2~3 月は 2、3 年前の価格まで下げたため、収入はかなり減少した。
- 113 -
・主に外国人を専門とするコンドミニアム管理会社では、今シーズンは外客が少ないため、
日本人客もターゲットとした。通常、日本人客は 5%以内に抑えているところ、3 月半ば
には 45%となった。日本人客は 1 泊 2 泊しかできないというイメージがあったが、ここ
では 3 泊からしか受け付けていないが、日本人客にも受け入れられた。これからは、外
客・日本人客合わせて、長い目でプランニングを行う必要があると実感した。
・ニセコというブランドのために、皆が協力するようになった。これまでは、皆、自社や
個人のために動いていたが、今はグループで動くことが必要になっている。例えば、千
歳空港のカウンターを、ニセコブランドとして一つに絞ろうという話が出てきたが、皆
ライバル同士でもあるので、半年前のニセコでは考えられない話だった。
・ニセコで今問題になっている点は、コンファレンス(会議)をできる場所がないこと。
FIT で来られるお客様と一緒にビジネス関係の会議をしたいという声が大変多いのが、現
在はホテル内に 2~3 カ所程度しかない。この施設があるかないかで、呼べるマーケット
がかなり変わってくる。
・長期滞在のお客様でさえ、エージェントから購入したリフト券を使うことが多かったが、
最近、リピーターを中心に窓口販売のリフト券を購入する方が増えた。悪天気の日、リ
フトが動かない日には買わないといった選択ができるので、楽しみ方や滞在の仕方も
徐々に分かってきたようだ。
・スキー場の話によると、今年はメディアの数がかなり増加し、ヨーロッパやアメリカ方
面からも多く来訪した。また、羊蹄山を登って滑るといった体験も雑誌でも紹介されて
おり、ニセコの楽しみ方が、単に「来る」ということから、
「暮らしながらリゾートを楽
しむ」という滞在の方向に変わってきていると感じる。
2.調査の経過報告
<ニセコ地域における外国人観光客CS調査>
・レッスンなどのオプションも含め、予約をインターネット上で行っているので、予約と
同時にアンケートに答えてもらうようにすると、お客様が来る前の時点でコンタクトが
取れる。さらに、そこからリンクさせ、ニセコ滞在中、若しくは帰国後にもアンケート
がとれるといい。
・アンケートの結果から見ても、ニセコではクレジットカードに問題がある。地元の商店
街はまだまだ昔の商店街なので、クレジットカードを入れてないという店舗も多いと聞
いている。
<ニセコ通訳サービス実証調査>
・北海道大学の留学生の活用も、北海道は視野に入れるべき。今回の実証調査では、通訳
者としてのグレードは高いけれども、一方で現地情報を把握できないという問題もある
- 114 -
という課題が挙げられたが、今後、この辺りをどう整理していくのか。また、そもそも
需要はあるのかという問題もある。基本的には現地でのサービスがあり、それを補完す
るものだと思うので、どういうバランスがいいのかを検討する必要がある。
・過去にこういった取組みをしてきた中での共通の問題点は、利用が少ないことと、利用
があってもしっかりした対応ができないこと。利用が少ないから整備ができない、整備
ができていないと問い合わせ時に対応できないという悪循環に入ってしまう。もうひと
つの課題は、質問や回答がデータベース化されていないこと。通訳はできるが、それ以
上のことを聞かれると答えられないということがあり、その辺りのデータベースができ
ていないと、留学生では対応できないと思う。これらの課題を解決するためには、地域
だけの実施では難しく、オール北海道でできることを考えなくてはならない。
<洞爺湖地域 フィールド調査>
・アフターサミットの話はサミット開催前から色々な議論があったが、昨年秋以降の状態
で止まってしまった。大変だが、今こそやらなくてはいけないことがある。
・サミットがどこで行わるかについて、我々や海外の人がどの程度興味を持っているかを
考えると、サミット時よりも、サミットが終わった後、それをいかに利用して、地元が
いかに付加価値をつけて、どう宣伝するかが一番大事である。
<夕張地域 フィールド調査>
・観光産業を再生方策ということで破綻から現在までの流れを辿っているが、破綻の前に
原因があるので、原因についても入れた方がよいのではないか。
・鬼怒川のような再生方法がどのようになされていくのか、過去に学んできたことを、国
も地方もきちんと引き継いでいくべきだと思う。
3.北海道観光グローバル化促進に向けての提言
<マーケティングの徹底>
・ターゲットをきちんと見極める必要がある。アジアの国はそれぞれ事情が全く異なり、
さらに去年の暮からまた状況が変わっているので、現地に行っていないと感覚がわから
ない。そういう最先端の現実的な情報を、オール北海道といいつつも、できるところに
動いてもらい、ケースを作っていく必要がある。アジアからの観光客は奪い合いになる
ことは必至。
<プロモーションの工夫>
・
「非誠勿擾(フェイチェンウーラオ)」
(北海道を舞台にした中国映画)が大ヒットし、中国
人客が増加した。また、それに絡めて大規模プロモーションを実施することになってい
る。中国全土に北海道が知れ渡るというチャンスは滅多にないと思うので、ここで一挙
- 115 -
にブランド力を高めたい。
<サービスインフラの整備>
・先進地域のことも、情報として我々は勉強していかなくてはならないと感じている。
・由布院と比べ、北海道は 20 年程度遅れていると感じる。観光地だけではなく、お手伝い
する側の我々も相当遅れている。こういった国内の先進事例もきちんと把握していなく
て海外からのお客様を呼べるのだろうか。マーケティング、基礎データもさりながら、
皆の知見を集めておく必要がある。
<長期的視点>
・色々な問題はあるが、シンプルに見ると「極端にきれいなところに行って、美味しいも
のを食べたい」という気持ちが大切。ニセコは良い所だが、少し磨く必要がある。「少し
磨く」といってもかかる費用は大きいので、今年、来年ということではなく、5 年後、10
年後、新幹線にあわせるということでもいいので、ビジョンが必要だと思う。
・ボトムアップ的に提言するとともに、トップダウン的な視点、中長期的な視点について
も配慮する必要がある。2030 年ぐらいまでの間に、北海道を取り巻く国際的環境、日本
の国内における環境は大きく変わることが予想される。農業、環境、エネルギーなど色々
な問題があり、どういう変化が起きるかというのは相当予測困難だが、そういった意味
でも、中長期的な視点が必要となるだろう。
<推進体制(国、自治体、関係機関など)>
・地元としてできる仕組み、一枚岩の組織体制など、時間をかけて整理する必要がある。
・洞爺湖ではエネルギー再生として湖の水を使うことで大凡冷房の 3 分の 1 がまかなって
おり、この省エネ効果は大変大きい。現状では、他地域は水利権の問題で踏み込むこと
ができないが、大変有用な手段なので、早く手を打っていく必要がある。これは各省庁
間の問題もあるし、また国と道の問題もあるが、スピードが大変重要なので、「観光」と
いう切り口の中で一つになっていってもらいたい。
・これから一番将来性のある産業に、オール北海道で、いかに政策的に、どれだけお金を
つぎこめるか。地域がいかに戦略的にやっていくか、1 社 1 社がいかに頑張るかの影響が
非常に大きいため、徐々に民間にシフトしていくという考えもわかるが、地域産業は国
がしっかりやっていくことも大事だと思う。
・北海道観光のグローバル化を進めていくためには、観光振興機構、それを取り巻く経済
界、道民が一緒になって推進していく体制をどう作るか、どういう方向に進むかという
ことも必要。
以上
- 116 -
平成 20 年度サービス産業生産性向上支援調査事業
北海道の観光産業のグローバル化促進調査事業
報告書
平成 21 年 3 月発行
編集・発行:経済産業省 北海道経済産業局 産業部 サービス産業室
〒060-0808 札幌市北区北 8 条西 2 丁目 札幌第 1 合同庁舎
調査委託先:財団法人日本交通公社 研究調査部
〒100-0005
東京都千代田区丸の内 1-8-2