オリーブ葉化合物による卵巣機能の改善効果

TX テクノロジー・ショーケース
in つくば 2009
農林水産
P-56
オリーブ葉化合物による卵巣機能の改善効果
■ 背景
古くから、夏の暑熱ストレスが雌家畜に発情や排
卵の抑制を起こすことが知られている。これは夏季
不妊と呼ばれ、畜産業では食肉や鶏卵の安定供給の
面で、地球温暖化と相まって深刻な問題となってい
る。卵胞の排卵・閉鎖の運命決定は卵胞顆粒膜細胞
の生存かアポトーシスかが鍵を握っており、我々は
既に、暑熱ストレスが体内で活性酸素種を発生させ
ること、酸化ストレスが同細胞のアポトーシスを誘
導することを示している。本研究は地中海地域の健
康食品として知られるオリーブ、特にその葉に含有
される 5 つの化合物に着目し、夏季不妊を改善する
化合物の探査とその作用機序の解明を目的とした。
■ 方法
実験にはオリーブ葉化合物 5 種を用いた。顆粒
膜細胞をと畜場のブタ卵胞から採取し培養後、活
性化型キナーゼはウェスタンブロッド法、生存率
は MTS Assay、mRNA 発現レベルは Real-time PCR、
細胞内過酸化水素量は DCF-DA を用いて測定した。
また、3 週齢雌 Wister ラットに暑熱暴露を行い、ヒ
ドロキシチロソル(HT)、その前駆体のオレウロ
ペイン(OLE)を経口投与し、排卵誘発ホルモン
(PMSG、hCG)により排卵を誘発させ、排卵卵子
数を測定した。
■ 結果
HT とルテオリンは、過酸化水素との同時添加で
過酸化水素依存的なブタ顆粒膜細胞のアポトーシ
スを有意に抑制した。一方、化合物を細胞に添加
し 24 時間経過後に添加化合物を培地から取り除き
過酸化水素処理をした場合、HT のみが同様の抑制
効果を示した。同細胞の生存に重要な Akt とその上
流の PDK1 は、HT 添加により活性化され、過酸化
水素依存的なアポトーシスを仲介する JNK と p38
は、HT の前処理でその活性化が抑制された。さら
に、HT 添加 16 時間後、カタラーゼ、スーパーオ
キシドジスムターゼ 1(SOD1)
、SOD2 の mRNA レ
ベルが上昇した。暑熱ストレス下(室温 35℃、相
対湿度 60%)のラットは、対照区(25℃、50%)に
比べ排卵数が 1/3 に減少したが、HT の前駆体であ
る OLE の 5.0 及び 1.5mg/kg 経口投与によりその減
少は完全に改善された。以上より、HT はスカベン
ジング作用、生存シグナルの活性化、アポトーシス
シグナルの抑制、活性酸素除去酵素の発現上昇を誘
導し、顆粒膜細胞に酸化ストレスへの耐性を持たせ
ることが分かった。OLE は、経口摂取後体内で HT
に変換され、上記の機序により暑熱ストレス依存的
排卵数減少を改善すると考えられる。
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Fig.1 オリーブ葉化合物による夏季不妊の改善
■ 結論
以上のことより、OLE の家畜飼料への添加は家
畜の夏季不妊を改善し、食肉、鶏卵の安定供給に繋
がると期待できる。また、ヒトへの投与によりの排
卵異常の予防・改善など不妊治療への応用も期待で
きる。
代表発表者
若林 由季(わかばやし ゆき)
所 属
筑波大学大学院 生命環境科学研究科 生物資源科学専攻 食機能探査科学研究室
問合せ先
〒 305-8572 茨城県つくば市天王台 1-1-1
遺伝子実験センター 宮崎研究室
TEL: 029-853-7720, FAX: 029-853-7723
[email protected]
■キーワード : (1)夏季不妊
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(2)酸化ストレス
(3)オリーブ