平成12年度海外畜産事情研修報告書(ヨーロッパ)

はしがき
本会では、地方競馬全国協会の補助を得て海外畜産事情研修事業を実施している。
この事業は、昭和43年に開始して以来、一時中断した時期を除いて、今回で26年目に当た
る。この間、1年に2組を派遣したこともあり、これで37組、派遣人数にして373名の研修
者を派遣したことになる。
事業は、「畜産に関する経営技術指導の実態」の研修を主題とし、これに加え、研修者ご
とに課題を持ち、大きくは,研修国の畜産とその成立の背景、畜産の置かれている現状・課
題、畜産関係者の農業に対する考え方を学び、国際競争社会の中で、我が国の畜産の維持・
発展にとって必要な対応等を考えることを目的としたものであり、いわゆる調査ではない。
平成12年度においては、ドイツ、フランス、イギリスの3ヵ国に、9月11日から9月29日ま
での19日間(航空機の遅延により1日延長)、16名の研修者を派遣した。
我が国の畜産を取り巻く環境は、内外価格差、環境保全、後継者確保・育成、土地確保、
資金運用などの課題に直面しているが、これにどのように対応していくかは、経営技術指導
の課題そのものである。
今回の研修では、EU諸国において、これらの課題にどのように対応し、経営・技術の指
導をする上でどのように臨もうとしているのか、それらを実際に見て、聞いて、触れること
に狙いを置いた。
ところで、経営技術に係る「指導」については、例えば、英語でも「lead」「guide」
「consultation」「advice」「instruct」「extention service」等々、類似の用語がいくつか挙げられ
るように、「指導」の概念・実態は、それぞれの地域あるいはそれぞれの機関によりかなり
異なる。
したがって、今回の研修ではその辺りの相違性をも視野に入れて研修することを期待した。
本報告書は、こうしたことから研修で得たことを記録したものであり、調査報告書とは趣
が異なる。
このことをあらかじめお断りした上で、本報告書をお読みいただき、今後、我が国畜産の
存立の基盤を探る参考として頂ければ、幸いである。
平成13年3月
社団法人 中 央 畜 産 会
目 次
<ドイツ>
ø.ドイツの畜産事情・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
¿. 訪問先の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ ブランデンブルグ州農業協会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ アグラール農場(養豚肥育経営) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ オリオン農場(肉用牛繁殖・養豚繁殖経営)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ エバースバルダ食肉処理加工会社 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ ウッカーマルク牛乳・乳製品生産工場 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ ブロードヴィン村第3セクターファーム(エコロジー経営)・・・・・・・・・・・
□ フレックフィー種試験研究組合 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ アイデルスバーガー農場(フレックフィー種経営)・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ ミュンヘン市営屠殺場 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ バイエルン州立畜産試験場(BLT)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7
15
15
17
18
20
22
23
25
26
28
29
<フランス>
ø.フランスの畜産事情 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
¿. 訪問先の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ アルザス地方農業会議所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ フォアグラ生産農場 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ ケルヌ農場(酪農・タバコ栽培複合経営)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ ラ・グレーヌ・オ・レ・チーズ工場 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ フェルメ・デ・ラ・プルムドール農場(フォアグラ生産・養鶏・野菜栽培複合経営)・・
□ エレンスタイン農場(酪農・乳製品製造販売経営)・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ アダム農場(酪農・乳製品製造販売経営)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ 畜産研究所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ ラ・レセット農場(肉用牛・民宿・レストラン経営)・・・・・・・・・・・・・・・・
□ ドゥ・フロマンテ農場(酪農・野菜栽培複合経営)・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
40
40
42
43
44
45
47
48
50
51
53
<イギリス>
ø.イギリスの畜産事情 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
¿. 訪問先の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ ランズダウン農場(肉用牛経営) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ ローズウッド農場(酪農・肉用牛経営)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
□ 食肉家畜委員会(MLC)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
57
65
65
67
70
研修を終えての感想と抱負 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 75
付.研修日程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98
平成12年度海外畜産事情研修団員名簿
氏
名
所
属(研修時)
職
名(研修時)
砂子田 哲(団 長)
岩手県畜産課
技術副主幹兼家畜改良係長
大川 栄一(副団長)
長野県畜産会
総括畜産コンサルタント
門脇 充
北海道酪農畜産協会
畜産コンサルタント
山田 文彦
宮城県畜産会
畜産コンサルタント
大谷 秀聖
福島県畜産課
主任主査兼畜政係長
生田目一博
茨城県畜産会
畜産コンサルタント
塩原 広之
群馬県畜産協会
総括畜産コンサルタント
深沢 公男
山梨県畜産会
総括畜産コンサルタント
山田 英信
岐阜県畜産会
業務部業務第2係長
岡田 拓巳
三重県畜産会
畜産コンサルタント
藤岡 一彦
愛媛県西条家畜保健衛生所
指導係長
高橋 勉
愛媛県畜産会
総括畜産コンサルタント
川崎 広通
熊本県畜産会
総括畜産コンサルタント
西 浩一
鹿児島県畜産会
総括畜産コンサルタント
元田 茂雄
地方競馬全国協会
主査
小田中久康
中央畜産会
調査役
留意事項
本文中の通貨レートは、特に断り書きのない限り研修時のレートによることとし、
次の通りとした。
ドイツ
1マルク(100ペニヒ)
58円
フランス
1フラン(100サンチーム)
15円
イギリス
1ポンド(100ペンス)
170円
(ドイツ・エバースバルダ食肉処理加工会社)
藤
岡
一
彦
小
田
中
久
康
塩
原
広
之
高
橋
勉
岡
田
拓
巳
深
沢
公
男
元
田
茂
雄
レエ
イバ
ンー
トス
氏・
川
崎
広
通
大
谷
秀
聖
砂
子
田
哲
生
田
目
一
博
山
田
英
信
山
田
文
彦
大
川
栄
一
西
浩
一
門
脇
充
ドイツ
ブロードウィン村第3セクターファーム
(エコロジー経営)
ブランデンブルグ州農業協会
アイデルスバーガー農場
(農場の皆さんと自慢のフレックフィー種の雌牛を囲んで)
バイエルン州立畜産試験場
(畜舎施設展示場における牛床モデルの展示状況)
(農業者が、各種モデルに直接触れてみることができる)
ø.ドイツの畜産事情
1.農業の概況
ドイツの国土面積は35.7万‡、総人口は8188万人 (1998年) で、日本に比べると国土面
積が94%、総人口が65%程度となっている。
農用地面積は1716万haで、日本の3倍を超えるとともに、農用地が国土面積に占める割
合でも48%と、日本の13%を大きく上回っている。農用地のうち、耕種作目が約7割、永
年草地が約3割を占めている。
地域別では、南部や中部の高地、北部の海岸沿いの土壌・気候条件に恵まれない地域で
は、牧草・飼料作物の栽培を基礎として酪農や肉用牛経営が盛んに行われている。
また、中・南部地域の平坦地においては、穀物・バレイショを中心に、畜産を組み入れ
た複合経営が多い。なお、ライン川、モーゼル川沿いでは南向きの急斜面を利用したブド
ウ栽培が盛んである。
農業就業人口は年々減少しており、総就業人口に占める割合は2.9%と、日本の6.0%の
半分に過ぎないが、近年、雇用情勢が厳しいこともあり、その減少率はやや緩やかになっ
ている。
表−1 農業関連主要指標 (1997年)
ドイツ
国土面積
(万 ha)
総人口
(万人)
農用地面積 [耕種作目]〈永年草地〉 (万 ha)
農用地面積/国土面積
農業就業人口
農業就業人口/総就業人口
日 本
35.7
※
8,188
1,716 [1,181] 〈515〉
(%)
37.8
※ 12,586
495 [430] 〈65〉
48.1
(万人)
※
(%)
104
13.1
※
393
2.9
6.0
資料:EU委員会「The Agricultural Situation in the European Union 1998 Report」OECD Economic Survey 1998。
農林水産省「農業構造動態調査」「耕地及び作付面積統計」ほか。
(注) :※は98年。
1ha以上の農地を有する農家戸数 (1998年) は52万戸、平均経営面積は33.4haとなってい
るが、旧西ドイツ地域と旧東ドイツ地域で経営構造には、大きな違いがる。
すなわち、旧西ドイツ地域は、小規模の自作的家族経営が支配的であったが、近年、
借地による経営規模の拡大がみられ、50ha以上の大規模経営体数の増加によって、平均経
営面積は93年の20.7haから98年の24.1haへと着実に増加している。
一方、旧東ドイツ地域では、統一前に約4500あった旧農業生産協同組合の解体、民営化
等に伴う個人的農業経営体の増加により、平均経営規模も縮小方向にあるものの、98年の
平均経営面積は175.0haと依然として大きい。
農業総産出額に占める作目別割合は、牛乳が25.4%と最も高く、次いで穀類 (17.4%)、豚
肉 (16.5%)、牛肉 (10.9%) の順となっている。旧西ドイツを中心として小規模経営体が多く、
畜産によって所得を確保する傾向にあることから、畜産物全体では約6割を占めている。
−7−
表−2 主要農産物の農業総算出額に占める割合 (1996年)
穀物全体
果実・野菜
畜 産
牛乳
牛肉
豚肉
卵・鶏肉
(単位: %)
その他
計
ドイツ
17.1
9.8
59.0
25.4
10.9
16.5
5.8
14.1
100
日 本
33.6
31.3
25.0
7.8
4.2
5.3
7.3
10.1
100
資料:EU委員会「The Agricultural Situation in the European Union 1997 Report」。
農林水産省「生産農業所得統計」。
2.畜産の概況
1)酪農
酪農戸数、乳用牛頭数及び生乳生産量ともEU15カ国中で最大の酪農国であり、その総
生産額は畜産全体の約 4割を占め、主要な作目となっている。
主な生産地は、オランダに隣接する北部の平坦地を中心とした地域及び中・南部の中山
間地域で、前者では比較的大規模な経営が、後者では小規模な兼業的経営がそれぞれ多く
なっている。
なお、飼養されている品種は、ホルスタイン種が最も多く、次いでシンメンタール種、
ドイツ赤白斑種の順となっている。
∏
飼養状況
酪農戸数18万6000戸、乳用経産牛飼養頭数484万頭で、いずれも年々減少している。
日本と比較すると、酪農戸数で4.8倍、飼養頭数で4.1倍となっている。
表−3 乳用牛の飼養状況
ド イ ツ
日 本
酪農家戸数
(万戸)
18.6
3.9
乳用経産牛飼養頭数
(万頭)
484
119
資料:EU委員会「The Agricultural Situation in the European Union 1998 Report」。
ZMP 「Review Dairy 1999」。
EUROSTAT「Statistics in Focus 1998/6」
農林水産省「畜産統計」。
(注) :酪農戸数は97年、乳用経産牛飼養頭数は98年。
π
生乳・乳製品の生産及び消費の動向
EUでは、現在、共通農業政策 (CAP) の下で生乳生産割当制度(クオータ制度)
が実施されており、各国ともこの割当量を基準に生産調整を行っている。
ドイツ国内では飼養頭数は減少しているものの、1 頭当たりの乳量は年々増加して
おり、生乳生産量は2850万tで、EU15カ国で最も多く全体の23.7%を占めている。
なお、1頭当たりの乳量は5650㎏で、日本の7220㎏に比べると、1570㎏も低い値とな
っている。
飲用乳消費量は64.6㎏と前年を0.2%下回っている。乳製品の需給動向では、チー
ズは生産量、消費量とも増加傾向にあるものの、バターについては、生産量が減少す
−8−
るとともに、消費量も96年以降は減少している。また、脱脂粉乳の生産量も減少して
いる。
表−4 生乳の生産動向
年
生乳生産量
1 頭当たり乳量
1995
1996
1997
1998
(万t)
2,862
2,878
2,870
2,850
(㎏)
5,427
5,510
5,592
5,650
資料:USDA「Dairy : World Markets and Trade」。
ZMP 「Review Dairy 1999 」。
表−5 乳製品の需給動向
年
1995
1996
1997
1998
飲用乳
1人当たり消費量 (㎏)
71.5
68.7
64.7
64.6
バター
生産量
(千t)
486
480
442
427
1人当たり消費量 (㎏)
7.1
7.3
7.1
6.8
生産量
(千t)
875
947
990
1,008
1人当たり消費量 (㎏)
12.0
12.0
12.4
12.4
生産量
399
396
334
326
チーズ
脱脂粉乳
(千t)
資料:USDA「Dairy : World Markets and Trade」。
∫
価格の動向
1998年の生乳生産者価格 (農家渡し、脂肪分3.7%) は29.71ECU/100㎏と前年度を
2.2%上回ったものの、目標価格 (生乳生産者がEU域内で実現することが望ましいと
される生産者価格) の30.98ECU/100㎏を下回っている。
表−6 乳製品の需給動向
年
目標価格
(ECU/100 ㎏)
生乳生産者価格
(ECU/100 ㎏)
1995
30.98
30.02
1996
30.98
28.76
1997
30.98
29.06
1998
30.98
29.71
資料:ZMP 「Review Dairy 1999 」。
2)肉用牛生産
∏
飼養状況
牛飼養農家戸数29万戸、牛飼養頭数1495万頭で、戸数、頭数とも年々減少してい
るものの、EUの中ではフランスに次いでいずれも第2位となっている。また、日本
と比較すると、飼養農家戸数で2.0倍、飼養頭数で5.2倍となっている。
−9−
飼養されている品種構成は、歴史的にみると乳肉兼用種が主体を占め、肉専用種の
飼育は第2次世界大戦後に行われてきたもので、現在のシャロレー種など肉専用繁殖
牛は全体の4%程度に止まっている。
なお、肥育牛は、モンペリアール種などの兼用種等との交雑種が主流である。
表−7 肉用牛の飼養状況
ド イ ツ
日 本
牛飼養農家戸数
(万戸)
29.0
14.3
牛飼養頭数
(万頭)
1,495
285
資料:EU委員会「The Agricultural Situation in the European Union 1998 Report」。
EUROSTAT「Statistics in Focus 1999/6」。
農林水産省「畜産統計」。
(注) :牛飼養農家戸数は97年、牛飼養頭数は98年。
π
生産及び消費の動向
EUで「Veal(ヴィール)」と呼ばれる子牛肉は、フランス (278万頭) を中心に生産
されているが、ドイツにおいても87万頭程度屠畜されており、その頭数は年々増加傾
向にある。
牛肉の生産量は96年以降、輸入量は95年以降、それぞれ減少傾向にある。また、
輸出量については97年まで増加したが、98年は13万9000tと前年の66%まで落ち込ん
でいる。
牛肉消費量も95年以降は減少傾向にあったが、98年は14.9㎏と前年を1.4%上回っ
ている。
表−8 牛肉の需給動向
年
1995
1996
1997
1998
牛肉生産量
(千t)
1,407
1,483
1,448
1,367
牛肉輸入量
(千t)
105
92
78
74
牛肉輸出量
(千t)
178
202
212
139
(㎏)
16.4
15.2
14.7
14.9
1人当たり消費量
資料:USDA「Livestock and Poultry:World Markets and Trade」。
ZMP 「Review Dairy 1999」。
∫
価格の動向
成牛の市場参考価格 (EU各国の代表的市場における成牛〈生体〉の加重平均価格
をベースとして算出され、EUにおける肥育牛の市場価格の動向を把握するために公
表される公式価格) は、96年のBSE問題再燃の影響で97年まで低迷したが、98年は
133.716ECU/100㎏と若干回復している。
なお、ドイツの98年の価格は、EU平均よりやや低い数値となっている。
−10−
表−9 成牛の市場参考価格の動向
年
ドイツ
(ECU/100 ㎏)
EU平均
(ECU/100 ㎏)
1995
142.791
143.323
1996
132.446
129.795
1997
131.820
133.698
1998
133.716
135.162
資料:MLC 「EUROPEAN HANDBOOK」。
3)養豚
∏
飼養状況
豚飼養農家戸数は21万戸で、EUの中ではスペイン、イタリアに次いで第3位にな
っている。豚飼養頭数は、96年のBSE問題再燃に伴う豚肉代替需要の増加、97年の
オランダの大規模な豚コレラ発生に伴う一時的な需要の逼迫により、増産が加速され、
98年は2630万頭と前年を6.1%も上回り、EUの中で最も多い頭数になっている。
なお、日本と比較すると、飼養農家戸数で15.0倍、飼養頭数で2.7倍となっている。
表−10
豚の飼養状況
ド イ ツ
日 本
豚飼養農家戸数
(万戸)
21.0
1.4
豚飼養頭数
(万頭)
2,630
990
資料:EU委員会「The Agricultural Situation in the European Union 1998 Report」。
EUROSTAT「Statistics in Focus 1999/5」。
農林水産省「畜産統計」。
(注):豚飼養農家戸数は97年、豚飼養頭数は98年。
π
生産及び消費の動向
豚肉の生産量は97年に一時落ち込んだが、98年は前年を7%も上回る381万1000 tと
なった。
豚肉消費量は、97年に豚肉価格が高水準で推移したことから一時落ち込んだが、
98年には豚肉の生産過剰を背景に価格が記録的な低水準となったため、55.8㎏ (前年
比2.6㎏増) と高水準であった。
表−11
年
豚肉の需給動向
1995
1996
1997
1998
豚肉生産量
(千t)
3,604
3,635
3,562
3,811
豚肉輸入量
(千t)
9
11
14
10
豚肉輸出量
(千t)
45
26
31
63
(㎏)
54.8
54.7
53.2
55.8
1人当たり消費量
資料:USDA「Livestock and Poultry : World Markets and Trade」。
−11−
∫
価格の動向
豚肉の市場参考価格は、96年のBSE問題再燃の影響で97年まで高水準で推移し
たが、98年は豚の過剰生産に起因する記録的な価格の低迷が続き、前年より30.9%も
低い121.55 ECU/100㎏となった。
なお、ドイツの98年の価格は、EU平均より 2.12ECU/100㎏高い数値となっている。
表−12
豚肉市場参考価格の動向
年
ドイツ
(ECU/100 ㎏)
EU平均
(ECU/100 ㎏)
1995
143.22
138.45
1996
173.51
162.32
1997
175.91
164.01
1998
121.55
119.43
資料:MLC 「EUROPEAN HANDBOOK」。
3.農業政策の概要
ドイツの農業政策は、1955年に制定された農業法の理念を基本として、現在は、「地域
により多種多様な企業や経営形態がある農業を保護し、競争力があり、環境に優しい農
業・林業・食品工業の発展を促進し、欧州農業モデル(多面的機能を持ち、持続可能な競
争力のある農業)を国際的に擁護する」ことを原則に、具体的な施策については、EU共
通農業政策(CAP)を中心として運営されている。
なお、一般に地方分権体制が行き渡っているドイツでは、農業政策の実施に当たっては、
連邦政府が全体的な大枠を定めた上で、各州が具体的な政策を独自に立案・実施している。
1)農業構造改善及び海岸保全のための連邦と州の共同課題(「共同課題」)
ドイツの農業構造政策は、1973年以降、「共同課題」の下に実施されており、その事業
費については、原則として連邦政府が6割、州政府が4割の割合で負担している。主な事
業は、次のとおりである。
∏
個別経営投資助成
本事業については、70年代の開始当初は一定以上の経営基盤の農家のみを対象に生
産性向上・離農促進的な性格を持っていたが、80年代以降は一定以上の所得のある農
家を助成対象から除外するとともに、所得・労働・生活水準の向上を目的とした投資
に対する助成が強化されるなど、その内容を大幅に変更しながら実施している。
① 対象農家
農業を主たる職業とすること、課税対象になる所得を得ている農業経営・申請者及
びその配偶者の所得が年15万マルク以下等。
② 対象となる投資
合理化・費用節減による競争力向上、生産条件・労働条件の改善、経営の多角化
−12−
(農家民宿等)、省エネルギー設備、動物保護・植物衛生、環境保護。
③ 助成額
ア.150万マルク以下の投資に対し、3万4000マルク/1労働者、6万8000マルク/1経営
体。
イ.15万マルク以下の投資に伴う借入金に対し5%までの利子補給。
π
条件不利地域対策
当該対策については、1975年以降、ECレベルの条件不利地域対策の枠組みの下
で実施されている。
① 対象地域 (96年)
指定面積:約852万ha(ドイツの総農地面積の約50%)。
② 対象農家 (96年)
受給農家数:約23万戸(ドイツの総農家数の約40%)。
③ 支給額等 (96年)
1農家当たり平均年間受給額:約30万円、総支給額:約694億円。
∫
農業環境施策
EU指令2078/92に基づく農業環境政策については、畑地・永年耕作地の粗放的生
産、草地における粗放的生産、有機農業の導入の 3プログラムを実施している。
① 対象農家
粗放化を導入・維持する農家、一部門でなく全ての経営部門を粗放化すること、最
低 5年間農業環境施策を実施すること、平均家畜飼養密度が2.0家畜単位/ha以下であ
ること等。
② 支給の条件
ア.畑地・永年耕作地関係
化学肥料・農薬の使用中止、除草剤の使用中止等。
イ.草地関係
家畜頭数の1.4家畜単位/haまでの削減、1.4家畜単位/haとなるように行う永年草地
の開拓または粗放的な永年草地の維持等。
ウ.有機農業関係
有機農業の実施・維持。
③ 支払い実績
実施面積:約601万ha(ドイツの総農地面積の約35%)。
助成額:21億5000万マルク(うちEUからの助成11億6000万マルク)。
π
連邦肥料規則の制定
肥料や畜産排泄物による地下水汚染に関しては、1970年代から連邦法や州法が定
められたほか、より実効性のある対策として89年に連邦肥料法が制定されてきたが、
その後、地下水汚染に関する世論が高まったことや各州の環境規制措置の不統一の是
正が求められたことから、96年1月、連邦肥料規則が環境団体との調整を経て成立し、
これに基づき環境対策が実施されている。主な内容は次のとおりである。
−13−
1)窒素肥料の施肥
土壌水分の多い時期、土壌凍結時、積雪時期における施肥の禁止。
2)農業者による土壌の成分分析の義務
窒素:最低年1回、リン・カリ・石灰:最低6年に1回。
3)畜産排泄物の散布
① 土壌水分の多い時期、土壌凍結時、積雪時期における散布の禁止。
② 収穫後の散布については、葉への養分補給や播種の目的以外は禁止。
③ 散布する窒素総量:80㎏/ha以下。
④ 11月15日∼1月15日の散布禁止。
4)畜産排泄物の散布量(年間窒素量)
牧草地:210㎏/ha以下、耕地:170㎏/ha以下
〈参 考〉
新たな共通農業政策(CAP)の概要
2000年以降のEUにおける農業の方向性を示す共通農業政策(CAP)改革案が、99
年3月、EU首脳会議で合意に達した。
今回の改革は、前回 (92年) のCAP改革の方向性を踏襲し、価格支持政策から所得補
償政策への一層の転換を打ち出している。また、直接所得補償の交付条件に環境保護条件
を一層取り入れ、不適格な生産者への支払いを減額・停止するなど、環境対策の強化も図
られているのが特徴となっている。
−14−
¿.訪問先の概要
訪問先
ブランデンブルグ州農業協会
(Landesbau ernverband Brandenburg e.v.)
所在地
ベルリン(研修は、オーバハーベル郡クレメン町で実施)
(Boelckestr 117 12101 Berlin )
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1.組織の概要
ブランデンブルグ州農業協会は、1990年までは旧東ドイツの同業組合として活動してき
たが、東西ドイツが統一した1991年、現在の組織に生まれ変わった。当該農業協会には
4000人の会員がおり、その運営は会員からの会費で賄われ、国や州からの補助金等は受け
ていない。なお、役員については、2年に1回行われる選挙によって選出されている。
当農業協会の役割は、国や州段階における行政の情報、施策の概要、法律の内容等につ
いて会員に伝達したり、下部的な組織として存在する14の郡農業協会を通して末端の農場
へも提供している。また、各種情報等を提供した際、会員や農場から出される意見・要望
等を取りまとめ(農場については、農場→郡農業協会→当州農業協会)、国や州に対し、
既存の施策・法律等の変更・廃止、あるいは新たな制度等の創設などを要請することが、
大きな役割となっている。
なお、同州には、各畜種ごとに組織化された酪農協会等の団体も存在しているが、農業
協会はこれら団体とも密接な連携の下、より効果的な会員や農場とのコンタクトが確保さ
れるようなシステムになっている。
2.ブランデンブルグ州の農業概要
ブランデンブルグ州の農地面積は130万haで、このうち30万haが牧草地、100万haで穀物、
油性植物、大豆等が作付けされているものの、土壌・気候条件は作物の栽培には適してい
ない地域である。
農業経営体の数は7000戸で、この中には1000戸の同業組合による法人経営が含まれる。
また、農業従事者は、1989年当時は12万人(9∼10人/100ha)もいたが、現在ではその
1/4の3万人(2∼3人/100ha)にまで減少している。
家畜の飼養頭数は、牛が68万頭と、1990年の120万頭の57%まで減少しているが、生乳
生産量は飛躍的に改善され、90年が4000Î/頭/年であったのに対し、現在では1.7倍の
6800Î/頭/年となっている。なお、豚については、牛よりもっと著しい減少を示してい
る。
今回の研修が、ブランデンブルグ州の14郡の一つであるオーバハーベル郡で行われた
ため、同郡農業協会からその農業概況について次のとおり説明があった。
同郡の農地面積は7000haあり、420戸の農業経営体(農業従事者2000人)により、牛3
万7000頭、豚2万8000頭、羊7500頭が飼養されている。土地が痩せているため、穀物の生
−15−
産量が落ちていること、畜産物価格が低迷していること等により、経営主の所得分は、E
Uや州等から約20種類の補助で対応している状況にある。このため、同郡農業協会では、
経営主からの補助金申請等の事務手続きが円滑に行われるよう15人の担当者を配置してい
る。
3.現在の課題とその解決策
A
EUの新たな共通農業政策(CAP)に基づき様々な支援策が講じられること
になるが、その中においても経営主の負担をいかに軽減し、所得の安定的な増
加を確保していくかが重要である。
B
農業は、国民に対し単に食料を提供するだけでなく、今後は環境との調和を考
慮しながら、その振興を図っていく必要がある。
C
ドイツにおける畜産物の流通・販売のうち、大規模な流通業者によって左右さ
れる割合が益々増加する傾向にある中、経営主サイドとして、これら流通業者
と対等に話合いつつ、利益を確保するには、経営主で組織する団体の再編整備
が不可欠である。
D
農業後継者の問題については、地域によって深刻度に差異がみられ、ベルリン
郊外ではかなり厳しい状況にある。このため、農業以外の分野への進出(バイ
オガスの利用等)等による新たな所得の確保についても検討していく必要があ
る。
E
畜産物の安全性・表示については消費者の関心が高く、特に牛肉については、
牛海綿状脳症(BSE)の発生を契機に原産国等の表示が義務付けられている。
この流れは、豚肉等へも広がることから、生産サイドとしても適切に対応して
いく必要がある。
4.訪問しての感想
州農業協会への訪問を考えていたが、実際には郡の農業協会、町(町長=養豚経営主)、
さらには若手の経営主も加わっての意見交換の場となり、それぞれの立場での話を聞くこ
とができ、非常に有意義な研修となった。
現在、ドイツにおいては、EUの新たな共通農業政策(CAP)の下、生乳の生産調
整(生乳生産クオータ制度)の強化、乳製品や牛肉の介入買い上げ価格の引き下げ、環境
保護条件を加味した直接所得補償制度の導入等が実施され、奨励金単価の引き上げはあ
るものの、畜産経営にとってはかなり厳しい状況に直面している。
意見交換会では、このような中にあっても経営主としては新たな制度に対し不満もいわ
ず、それを最大限に活用しながら自らも生産コストの低減、生産性と品質の向上を目指し
ており、州および郡の農業協会、あるいは町もこれを支援していくんだという意気込みが
あり、そこにドイツ人の「実直さ」が感じられた。
日本においても、経営主と指導団体、行政機関等が一体となって、国や都道府県等の施
策を最大限に活用しつつ、畜産振興を図る必要があることを改めて痛感させられた。
−16−
訪問先
アグラール農場(養豚肥育農場)
(RHINLAND AGRAR GMBH)
所在地
ブランデンブルク州 フラトウ
(SCHWEINESTALL KOMBINATSTRASSE D-16766 FLATOW)
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1.経営の特徴
1)概 要
当農場は旧東ドイツ国営農場であったが、ドイツ統合後、農業有限会社の一農場として
再出発している。経営形態は900頭飼養する肥育経営で、労働力は現在女性1人が飼養管
理をしている。労働時間は朝5∼10時、昼は13∼15時までの7時間労働で作業をしている。
飼養されている肥育豚は母豚エーデル種とランドレース種、雄豚デュロック種とハンプシ
ャー種を交配した交雑種を導入している。導入体重25㎏、導入価格75マルク(約4350円)
で繁殖農場より購入している。
肥育豚の販売状況は、肥育期間120∼125日、販売価格1頭当たり240マルク(約1万
3920円)∼260マルク(約1万5080円)で系列の食肉会社(5カ所)に出荷している。年
間の出荷頭数は2000頭である。
飼料給与法は2段階切替(肥育前期・肥育後期)となっており、出荷までの飼料代は1
頭当たり約90マルク(約5220円)である。
2)施 設
農場の施設は1955年に設置された古い酪農牛舎であったものを豚舎に改造し使用し、施
設は豚舎2棟で1棟ずつ飼養方法が違っている。1棟は導入から出荷まで豚房を移動させ
ず群を固定し飼養する方法、もう1棟は導入してから群は固定し豚房を移動しながら飼養
する方法をとっている。
3)経営方針
農場はEUの規制(政策)を守りながら消費者に安全、健康でおいしい豚肉の供給を第
一に考えて、より自然な飼い方をするため敷料(麦わら)を多めに全面に使用し、充分な
スペースを確保している。
そのあらわれが肉豚の飼養形態である。1豚房が広く、敷料に麦わらをふんだんに利用
し、飼養環境が整備され、ストレスや疾病予防に気をつけ消費者の立場にたって食肉の生
産に努めているところは参考にしたい。
このような飼い方をしているので肥育期間が近代的施設と比較して延びてしまうが、良
質な豚肉の生産ができている。当農場では豚に対する治療は獣医師によって行う。予防注
射は基本的に導入先で実施し農場では行わない。
衛生対策として豚の血液検査を定期的に実施し、豚の健康状態をチェックしている。
生産費の削減などを考えると穀物の生産を増やすことにより飼料の自給率を50%の割合
−17−
まで高めていきたいと考えている。
2.経営上の課題
ドイツ統一後の機構改革により、旧東ドイツの国営農場は厳しい経営環境におかれてい
る。
農場の現在の飼養規模では経営が安定しないので、少なくとも現状規模の2倍の1800頭
にしたいが、農場付近の都市化の進展やEU・州の規制により現在の場所での規模拡大は
できない状況なので経営主も苦慮している。
規模拡大する場合は新たな所に農場を移転し、環境規制にあった施設装備・耕地面積が
必要となる。
3.訪問しての感想
農場のある地域は、住宅も点在する比較的平坦で緑豊な場所にある。訪問した農場は消
費者に安全でおいしい豚肉を生産し提供しているという自信が、経営の取り組みや経営主
の考え方を聞くことにより強く感じた。
その一例として豚舎の敷料として利用するため農場内に麦わらが大量にストックされて
いることである。これは、耕地面積の違いなのか、入手しやすいのか。敷料の量が日本と
比較にならないくらい多く、羨ましいかぎりである。豚のために豚房を広くとり、敷料も
多く投じて、ストレスの少ない飼い方をすることにより、豚が生き生きと動き回っている
姿が印象的であった。
衛生管理も当農場では、飼養管理に充分注意しているとのことで、日本との違いは特定
疾病に対する予防注射は行わず治療のみで済ませている。このことからも疾病に対する取
り組み・考え方が動物の飼養環境を中心に管理されていると実感した。
訪問先
オリオン農場(肉用牛繁殖:養豚繁殖経営)
(ORION GMBH )
所在地
ブランデンブルク州 クレメン
(Perwenitzer Chausee 16727 Vehlefanz)
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1.経営の特徴
1)概 要
農場は、ブランデンブルク州のクレメンという町にあり、1953年、旧東ドイツ時代に設
立され1991年に有限会社となった。
農場は600haの耕地を有し、自給飼料として5種類の穀物を生産している。経営形態は
肉用牛200頭の繁殖経営部門と母豚380頭の繁殖経営部門をもつ複合経営形態になってい
る。
農場の労働力は全体で14人、うち養豚部門4人(うち2人専属)、肉用牛管理・草地管理
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など10人の社員によって管理されている。
ここでは養豚関係に限って記すことにする。飼養されている種豚の品種は、母豚エーデ
ル種とドイツランドレース種の2種、雄豚デュロック種とピエトレン種による交配によっ
て肥育素豚の生産をしている。
種付方法は精液採取による人工授精が全体の95%をしめている。
生産体制は、母豚50頭を1群とし種付→分娩→離乳を3週ごとにローテーションさせて
いる。種付の平均受胎率80∼85%であるが、夏場は暑さにより若干成績が落ちる。
子豚の飼養管理は、前期・後期の2段階により育成をしている。販売は体重25㎏、日齢
70日の子豚を1頭当たり48マルク(約2784円)∼110マルク(約6380円)の間で、取引されて
いる。子豚の販売頭数は年間7500頭から8000頭で販売先はスペイン、イタリアなどが主
体になっている。販売価格はZMP(中央市場価格協会)という機関が基準を示している。
それを基準としEU諸国において取引されている。
子豚の生産原価は現在1頭当たり70マルク(約4060円)であり、販売価格の変動によ
っては収益の望めない状況にもなる。しかし、これらを補うため自家配合飼料の利用によ
り生産コストの引下げをするなど経営努力はしている。
飼養規模はブランデンブルク州では平均的な飼養頭数で、ドイツ全体で比較すると規模
が大きい方にわけられる。
母豚の更新は全体の40%を外部導入し、残りの60%を自家生産により対応している。導
入に対して補助金制度はない。
2)施 設
農場の施設は、外観は昔の古い状態であるが、施設内は近代的な設備で外観から想像も
付かない内容となっている。施設、豚舎を大事にする理由として古いものを後世に残すと
いう意味とエミッション規制という法律があるからである。この規制は、環境保護の観点
から住宅と畜舎(豚舎)は500m離れていなければならないが、昔からの古い豚舎であれば
保護されるとともに、この規制は適用されず、逆に500m以内に住宅の建設はできない。
家畜のふん尿処理は、各豚舎からでたふん尿混合液(スラリー)をタンクに貯蔵し、畑地
に刈り取り後還元している。
2.今後の課題
自給飼料(穀類)の生産を現在5種類行っているが、これ以上種類を増やすと生産費が収
益を上回り生産する意味がなくなってしまう。生産コストを引下げる努力を検討している。
3.訪問しての感想
1農場で600haという日本とは比較しがたい広大な耕地を有することに驚く。ここに限ら
ず訪問した経営のほとんどで実感したことではあるが、飼料基盤に立脚し、ふん尿処理一
つとっても有機的な組み合わせとバランスをもって経営が維持されている。こうして経営
に当たれば、日本的なふん尿処理の課題はないわけだが、環境規制によりふん尿の散布時
期が定められている点は厳しさをおぼえる。
−19−
また、特筆したいのは、旧東ドイツ時代に弾薬庫であったものを今では豚舎に利用して
いるが、古い建物を制度的に保存しつつ景観を保ち、内部は見事な改造技術をもって近代
的飼養が可能な養豚施設へとかえている。日本とは耕造物の素材が異なるなど一概に真似
ることは出来ない面もないではないが、景観の保全といい改造・改築の理念は見習うべき
ところ大なるものがある。
訪問先
エバースバルダ食肉処理加工会社
(EBERSWALDER FLEISCHWARENFABRIK)
所在地
ブランデンブルグ州 ブリッツ
(JOACHIMSTHALER STR.100 16230 BRITZ)
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1.会社の概要
1977年の旧東ドイツ時代に、当時10万頭規模の豚舎とともにヨーロッパ最大の食肉加
工処理コンビナートとして設立された。その後、デンマークの企業グループ、プロムロー
ゼ社に買収され、更に97年にはティエン社が買収し現在に至っている。
工場の敷地面積は65万㎡で、そのうち6万2000㎡の敷地には屠畜施設・製品加工処理施
設などがあり、その施設内には後継者育成を目的とした食肉処理の教育実習室なども完備
している。会社の組織構成は取締役1人、担当役員7人からなり、さらに各専任の担当を
配置している。総従業員数は600人で、そのほとんどが地元からの雇用である。
業務の内容は、牛・豚の屠畜解体、加工品の製造・販売などが主体で、1999年の売上げ
は3億2000万マルク(約185億6000万円)にまで達している。なお、以前は生産から製
造・販売までの一貫体制であったが、現在は家畜の生産は行っておらず、一部卸売業者か
らの仕入れがあるものの、ほとんどは畜産農家から直接購入している。
2.業務内容
1)屠畜解体業務
農家からの豚の仕入れ価格は、EUの週2回の公定価格を基準に取引している。大動物
については、市場の需給バランスに応じて価格を設定しており、特に取引基準はない。
屠畜業務は月曜日∼金曜日まで、解体カットは日曜日∼木曜日までの何れも1日8時間
労働、週5日制の勤務体制としている。なお、部署によっては24時間勤務体制をとってい
るところもある。
屠畜解体は、豚が週に3000∼4000頭とそれ以外に牛が1500頭程度である。1時間当た
りでは豚が200頭、牛は60頭屠畜されている。しかし、技術的には豚の場合、週に1万
5000頭の処理可能設備が整っている。
保冷庫は豚で1500頭収容可能で、その中で12時間かけて37℃の屠体温を7℃まで下げ
ており、品質管理には特に気を配っている。2001年には牛の屠畜ラインを1000万マルク
(約5億8000万円)かけて更新する予定である。
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2)製造・販売業務
解体後の豚肉は半丸、牛肉は半丸のほか1/4に切った枝肉を一部販売している。商品の
80%程度は独自の搬送システムで、州内の200店舗の肉屋などと取引している。それ以外
は加工製品としてボックソーセージ(ウインナー・フランクフルト)・サラミなど約850
種類の商品を製造・販売している。
業務分担には、①ソーセージのパック詰めと殺菌処理、②発送、③缶詰製造と製品化の
テスト、④サラミ加工製造などがあり、EUのほかロシア、ドバイ方面への輸出やリゾー
ト地のホテルなどにも供給している。
3.これからの課題
ドイツの食肉市場は自給率が85% ということもあり、最近ではEU域内から国内市場へ
の侵入で価格競争が激化しつつある。そのうえ小売業者から肉の品質向上や価格引下げの
要望があり、時には仕入れ価格以下にまで求められることがある。
このような状況に対し、①新製品の開発によって特に旧西ドイツに市場開拓をしていく、
②国内食料品販売の70%のシェアを占める5大スーパーマーケットの全てと業務提携を行
い販路を確保する、③1日当たり250∼280 tの生産を目標に機械の稼働率を高める、④消
費者に品質保証となりうる生産者の顔が見えるラベル表示をしていく、⑤家畜の改良・飼
料給与・輸送面での業務提携をもとに生産指導なども行っていきたいとしている。
4.訪問しての感想
施設の案内をしていただいたとき、通常は作業行程にしたがって屠畜現場から製造販売
の順に説明がなされるケースがほとんどだが、衛生上の関係で逆コースで案内をしていた
だいた。衛生問題に対しては会社のみならず職員に対しても十分に意識が浸透されている。
もちろん、工場内の清掃は業者に委託して毎日業務終了後の夜間に行われていた。
旧東ドイツには国営農場から形成された大規模農家が多く、取引先には肉用牛で2万
5000頭規模の農家もある。養豚農家でも年間出荷量が6万∼7万 t 以上の農家が多い。こ
のような取引先を相手に、効率的な集荷と処理施設の拡充、さらには販路の確保など、常
に先見の目を持った経営戦略としての方針も明確に体系化されていた。
設立当時には、男女合わせて3500人の従業員が働いていたが、現在は600人で1.5倍の生
産量をあげるなど、合理化がかなりの成果をもたらす結果につながっていた。
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訪問先
ウッカーマルク牛乳・乳製品生産工場
(UCKERMARKER MILCH GMBH)
所在地
ブランデンブルク州 ウッカーマルク
(BRUSSOWER AIIEE 85)
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1.経営の特徴
1)概 要
ブランデンブルク州ウッカーマルク郡はドイツ国内で面積が1番大きい郡で、人口密度
は低く自然豊かな地域に当生産工場がある。工場の職員は150人、その他18人の職業訓練
生を受け入れ地域に貢献している。
工場の年間売上げは2億2500万マルク(約130億5000万円)、生産量は3億4000万㎏で生産
はバター、ミルク、ヨーグルト、アイスクリームなどである。
施設は1990年に最新型の乳製品生産工場としてできた。投資額は1億2000万マルク(約
69億6000万円)でそのうちアイスクリーム生産施設4000万マルク(約23億2000万円)、その
他施設8000万マルク(約46億4000万円)となている。
生産ラインはコンピュターの完全管理で行われている。集乳タンクローリーの情報もコ
ンピュターとオンライン化されている。
生乳の集乳・輸送は外部業者に委託している。
2)バイオ製品の製造
バイオ製品の製造は、バイオミルクをもとに生産するもので一般の製品と製造ラインを
区別している。バイオミルクの生産量は全体の0.3%となっている。バイオミルクの価格
は基準仕入価格に1㎏当たり10ペニッヒ(約5.8円)の上乗せをしている。
なお、バイオミルクの認定は、EUガイドラインを基準に自然環境にやさしいエコロジ
ー生産をすることが前提で、管理委員会が生産農場を検査し認定書を発行している。
3)一般ミルク・加工品の生産
一般ミルクの生産は1時間当たり1万本をビンづめしている。現在ビンは一種類なので、
今後、販売促進を考える上で色々なビンも生産できるようにしたい。
バターの生産は1時間当たり6000㎏、コンピューターで自動制御により行っている。
アイスクリームの生産は当工場の主力製品で、労働力も職員65人体制で生産している。
アイスクリームの種類は60種類、生産量は100万個以上になる。販売はシュラホールディ
ング社と業務提携した、ヨーロッパ以外の国にも輸出している。
夏の消費量が増加する時期は職員も増員し3シフト制で生産対応する。
2.品質・衛生管理体制
生産農場から集乳される生乳は庭先で検査されタンクローリーで工場内に輸送される。
工場において農場の確認をし生乳の鮮度検査を行う。これらの検査データは生産農場ご
とに乳成分・乳質など細かに分類されコンピューターで製品になるまで管理される。
−22−
工場内の衛生管理もコンピューターによって行っている。職員が工場に入る場合は全身
の消毒、衣服の交換など十分に注意するなど、衛生指導は工場としても厳しく行っている。
3.生乳の取引価格
工場に生乳を販売している農場は当工場の出資者でもある。農場と年間の生乳生産量、
生乳価格、生乳輸送方法など生乳取引契約を結ぶ。
生乳の取引基準価格は国内の市場価格をもって設定をしている。この基準価格を基に農
場と話し合って価格を決定する。この価格は年間一定で成分の基準―脂肪3.7%、タンパ
ク3.4%、生乳基準価格1㎏当たり56.18ペニッヒ(約33円)を基準において脂肪分やタンパ
ク率によって生乳価格が決まる。
4.訪問しての感想
工場は、ドイツにおいて最新設備を有する生産プラントというだけあって生乳の品質管
理、衛生管理が充分行きとどいていた。さらに、工場だけでなく生産農場を含めて生乳の
品質管理、衛生管理が徹底されており見習うべきところである。
主力商品の生産ラインであるアイスクリームの製造で目についたのは、女性主体で作業
が行われている点である。アイスクリームを試食させもらったが日本人にもあう味でとて
もおいしくいただいた。
バイオミルクは、消費者に安全でおいしい乳製品を提供する上で大切な生産方法であり、
考え方であって推奨できるところである。しかし、ドイツでもまだバイオミルクの生産は
生産基準が厳しいこともあり少ないが、消費者に高い品質評価を受け好まれているため、
今後は生産農場も増え生産量も増加すると思われる。
日本でもこのような生産方式をとることにより消費者に安全・安心・おいしい乳製品を
提供していくことが望まれているのではないだろうか。
訪問先 ブロードヴィン村第3セクターファーム(エコロジー経営)
(Geschaftsfuhrer)
所在地 ブランデンブルク州 ブロードヴィン
(Okodrf Brodwin Bundesland)
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1.農場の概要
農場総面積は1220haで、このうち20%がドイツでも古いユネスコの自然保護地域に指定
されているが、気候、土壌の面で農業生産には不利な土地である。
このなかで有機農法により乳牛、豚を飼養しているほか各種野菜、馬鈴薯、ハーブ、果
物を栽培し、生産物の加工販売を行っている。
1)乳用牛
乳用牛の品種は、旧東ドイツの古い品種(フリージャン種)にホルスタイン種を交配し
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改良した牛を使っている。
飼養頭数650頭で、搾乳牛300頭に育成牛350頭の内訳となっている。
飼養方式はフリーストール・ミルキングパーラー方式で、1頭当たり年間乳量は平均
6000kgである。
1グループ80頭の牛群に、種雄牛1頭の割合で自然交配を行っている。飼料は100%自
給しており、牧草が主体で、補助飼料としてコーンサイレージ、大豆、ルーピンを給与し
ている。
子牛の育成には、100日間は牛乳で哺育し、その後2歳の種付まで放牧を行っている。
自然の状態に近づけることで、これまで目立った疾病の発生はなく、最高15産の牛が現
役で活躍している。
2)豚
豚の品種は、ドイツランドレース種の雌にピエトレン種の雄を交配している。
飼養頭数は、母豚が25頭で年間200頭出荷している。出荷月齢は8∼9カ月間で、出荷体
重は110∼125kgである。飼料は、牛同様100%自給である。
2.販売戦略
現在、消費者の間で健康な食品への意識が高まっている。EUの共通農業政策(CAP)
ではまともに生産できないことから販売戦略をエコロジーに切り替えた。当農場では消費
者の要求を実現するため、70年の歴史を誇るデメーター(有機栽培協会)の指導要領に基
づいて生産販売を行っている。
農場で生産・加工された農畜産物は各種野菜、牛乳・乳製品、パン、ジュース等と多彩
であり、販売の60%が200の小売店に自然商品として卸売りされる。それらの商品は、一
般の商品より20∼25%高で取引している。この農場の商品は、他に代替品がないと言いき
るほど自信と誇りを持っている。
残る生産物の37%は当農場の特徴である消費者との契約販売である。契約販売は、1週
間の定期契約であり、現在1300世帯の消費者と契約している。契約者を含む一般市民は、
年数回開催される農業祭り(3000∼4000人参加)に招待され実際に商品の品質、農場の
様子を現地で確認することができる。この様な取り組みを通じ消費者と常時交流し密に結
びついている。販売先は、村の半径100kmをターゲットに力を入れており、首都ベルリン
もその中に含まれる。
生産物の残り3%は農場内設置の直営店で販売されている。また、エコツーリストがリ
ピーターとして商品の良さを口コミで宣伝している。
3.雇用対策
91年東西統一後、旧東ドイツの生産組織であったLPG(農業生産組合)の解体により、
発生した雇用対策として、出来るだけ村の雇用を確保するために、新しいコンセプトが必
要とされた。EUの農業対策におけるガイドラインでは、100ha当たり一般の耕種農業で
−24−
0.5人、畜産業で1.4人労働力が必要としている。当農場は、労働力を集中することで
100ha当たり4.7人の労働力を確保している。
また、エコツーリズムを奨励し、ツーリストを呼び込むことで観光部門での雇用も確保
している。
4.訪問しての感想
今回副題としてのテーマとして「エコロジーと経済は両立できるのか」を考え研修に臨
んだ。
エコロジー農業は、成果が上がるまでは長い時間を必要とするが、世界的に消費者の健
康食品に対する意識は着実に高まっている。この農場では契約販売を通じ消費者と生産者
が密に結びついている。エコロジー農業の生産物は手間もかかり、決して大量生産はでき
ないが、消費者が農業祭り等に参加することで少々割高でも生産現場を実際に知ることで
納得して購入している。消費者の意識の高まりにより、手間の部分が、生産物への付加価
値として認められ、理解されるようになったと実感した。エコロジー農業は「自然に優し
く、家畜に優しく、人に優しい」一つの農業の方向だと確信できた。
訪問先
フレックフィー種試験研究組合
(PRUF−UND BESAMUNGSSTATION)
所在地
バイエルン州 グルーブ
(SENATOR−GERAUER−STRABE 19 D-85586 GRUB)
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1.組織の概要
当組合では1920年にスイスよりシンメンタール種を導入し、それからさらに改良造成を
重ねた結果、この地域にフレックフィー種として存在している。そういう意味からも、こ
こはフレックフィー種のメッカともいわれており、常時100∼120頭の種牛を飼養してい
る。
組合組織は、国内外合わせて約1万1000戸の農家の1組織として運営されており、現在
獣医師・家畜人工授精師など総勢100人体制で業務を行っている。
2.優良種雄牛の改良造成
毎年約100万マルク(約5800万円)の予算で、120頭の種牛候補牛をオークションで購
入している。すべての牛について5代祖までの血統を把握しており、種雄牛としての最終
選抜は4年間の後代検定の後、成績優秀牛のみを種牛としている。
精液は、週に3回の採取を行い、1日1万本のストローを生産している。最近は突然変
異からの選抜と改良を重ね、無角の牛を供給し好評を得ている。なお、遺伝子操作に関す
る試験研究は現在のところ一切行っていない。
この様な改良方針の策定は、4∼5年サイクルで、バイエルン州農業省と畜産農家で構
−25−
成する委員会において検討したうえで次世代の種牛づくりを計画している。
農家とコンタクトをとりながら乳肉兼用種としてベストな牛をつくり、生産性を高めて
いくことが要求されているなか、現在ドイツ北部において乳器・乳頭の改良を図るため、
ホルスタイン種との交配が進んできており、その普及浸透が大きな研究課題となっている。
3.精液の供給
供給体制については、近隣の場合は獣医師に販売しているが、遠隔地には予約数量を取
りまとめのうえ、3週間に1度の割合で地区の獣医師や家畜人工授精師に配布している。
その数はおよそ50万本で、うちフレックフィー種が全体の96%を占めている。
その他にジンバブエ、オーストラリア、メキシコ、ブラジルなど海外輸出向けとして年
間70万本のストローを販売している。
精液の価格は、1ストロー(0.23mÎ)当たり5マルクから高いもので35マルクと種牛
の能力によって較差はあるが、会員農家(年会費20マルク)については通常価格より安価
で販売している。
4.訪問しての感想
初めて目にしたフレックフィー種は、性格がとても温厚で飼いやすい品種のように思え
た。1頭当たりの年間産量乳が9500kgで、乳脂率3.7%はホルスタイン種と比較してもま
ったく遜色のない成績である。しかも、発育良好で肉の生産にも貢献できるなら、一味違
った酪農経営の選択がありそうに感じられた。
通常業務のほかには、毎月1回組合員どうしの情報交換の場として施設を開放し、経営
や計画交配についてのアドバイスも行っており、生産者とも密接な関係を維持している。
フレックフィー種を5年後の日本にも必ず普及させると自負していたが、本当にその日
が実現しそうな気迫さえ感じられた。
訪問先
アイデルスバーガー農場(フレックフィー種経営)
(AIDELSBIRGER)
所在地
ミュンヘン郊外
(Kirchfeldstrasse 13 D-86504)
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1.経営の特徴
アイデルスバガー農場は家族経営である。乳肉兼用種(フレックフィー種)の成牛50頭
を飼育する。日本でも専業酪農家で見られる規模であり、経営者の丁重なもてなしのせい
もあって、親近感のわく農場というのが第一印象であった。
飼料面積は53ha(その他森林が8ha)、借地も入っているが十分な面積を管理し、草地
(26ha)、麦などの穀類の生産(27ha)をし、飼料自給率も高い経営であった。
家族は父母、息子とその妻の4人で、乳肉兼用種といいながらも1頭当たりの産乳能力
−26−
が8,600kg、乳脂率4%、乳タンパク3.6%と優れており、育成の状況を見ながら肉用に仕
向けるなど、合理的な経営を行っている。
乳価は1kg当たり65ペニッヒ(約38円)で、価格的には厳しいが、飼料自給率の高さ
や購入濃厚飼料の単価も1kg当たり35ペニッヒ(20円/kg)と安く、家畜の事故率も少な
いので、経営も安定しているものと感じられた。
自然流下式でスラリーを広大な飼料畑に還元し、草も年4回刈り取る。草地管理も行き
届いており、ふん尿問題は感じられなかった。
2.乳肉兼用種フレックフィー種の課題
フレックフィー種は乳量も、また、乳成分についても申し分ない品種である。肉も出荷
時の枝重が450kg、価格は雄で2,700マルク(約15万6000円)、雌で2,100マルク(約12万
2000円)と兼用種でとしては比較的良い値段で取引されている。
ただし、日本で経営に取り入れるには、
1)
その肉質が評価されるかどうか。
2)
乳肉兼用種の飼養管理の仕方がなじみ(経験や実績)がない。
3)
後継牛と淘汰牛の選定の仕方が難しい。
4)
品種として斉一性がとれているか。
など多くの研究余地があるものと感じられた。
農場では濃厚飼料は1日1頭当たり10kgのTMRで給与している。過肥気味の牛が目立
ったが、繁殖障害もないし連産性もあるとのことであった。
毎日の出荷乳量は40頭搾乳で1,000∼1,200kg(年間365∼438t)と、高水準である。初回で
の受胎率は75%、乾乳期間は別飼いで2ヵ月、削蹄は年1∼2回実施、育成は放牧とする
である。
3.訪問しての感想
乳肉兼用種を自給飼料で低コストに生産しており、飼養管理、繁殖管理など基本技術も
徹底していることなど、家族経営の模範的な農場であった。
企業的経営が今後の太宗を占める方向であると感じるが、家族経営も工夫や努力次第で
企業経営に負けない農業が出来るものと感じられた。
特に家のたたずまいも清潔であり、畜舎の前には乾草のロールを積み上げて人形にする
など、景観の保全を心がけている。家族的であり後継者にも恵まれ、ミュンヘンにおける
優良な家族経営酪農の典型を研修した想いである。
−27−
訪問先
ミュンヘン市営屠殺場
(LANDESHAUPT STADT MUNCHEN)
所在地
ミュンヘン
(ZENETTISTR 2.D−80337 MUNICH)
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1.施設の概要
ミュンヘン市営屠殺場の設立経緯は、今から120年前の1870年にさかのぼる。バイエル
ン州全体では12ヵ所の屠殺場があるが、ミュンヘン市内には当場1ヵ所のみで年商1億マ
ルク(約58億円)の売上げを誇り、市営としてはドイツ最大の規模となっている。
現在、52万9000㎡の敷地面積があり、屠殺場にはメッカ(METZGER)という名称の食
肉卸売施設や高級な食肉加工品、乳製品、魚介類、飲料などの取扱店がテナントとして入
っている。
職員は機械技術者、衛生員、獣医師など約60人体制であるが、屠畜業務はすべて屠殺場
を借用している約180社からなる食肉業者の職員が行っている。
家畜の集荷先は、牛はバイエルン州内からが多いが、豚は州内の集荷率が60∼70%と少
ないので、北ドイツやオランダ方面から搬入されてくる。
2.屠畜処理
1)牛
年間の牛屠畜頭数は8万頭で、そのうち子牛(生体100kg)が全体の40%を占めている。
品種は乳肉兼用種であるフレックフィー種が大部分を占め、他にシャロレー種などの順と
なっている。
搬入時の生体重量は、1頭当たり500kgから大きいもので600kg程度である。枝肉重量
では300∼400kgとなる。また、1時間当たりの処理頭数は通常60∼65頭であるが、最大
処理頭数は70頭まで可能となっている。
2)豚
豚の屠畜は25人体制で、午前4時から業務が開始される。年間の豚屠畜頭数は20万頭と
丸焼き用の子豚が5万頭である。
集荷量は、休み明けの月曜日と需要の増加が期待される金曜日が2000∼3000頭と最も
多いが、反対に木曜日は200頭程度と極端に少ない。
搬入の予約申し込みは特に行っていないが、1日当たりの処理可能頭数は2500頭程度な
ので、おおむね処理は可能である。仮に予定外の搬入があっても、1日程度なら飼養でき
る施設は整備されている。
食肉の格付については、ライセンスを有した格付会社が重量やPHなどの検査項目に添
ってコンピューター処理をしたのち10段階にランク分けされる。
副産物の処理については、肝・内臓を部分的に切り分けており、ソーセージの加工品と
して利用している。血液はブルートソーセージとして食肉加工品に利用されるものと、肥
−28−
料となるものに区分される。なお、骨は糊の原料として買い取られている。
3.食肉衛生検査
豚では解体後トリコモナスの検査を主体に行っているが、牛の場合は、まず搬入時の外
観で判断してから屠畜し、さらに内臓の検査を行っている。
検査の結果、病畜については耳標による個体識別によって生産者が特定できるものの、
屠場側からは家畜を搬送してくる業者に報告しており、生産者への報告並びに飼養管理指
導はそれぞれの業者の判断に委ねている。
食肉中の薬剤の残留検査は強制的に実施している。チェルノブイリ原発事故発生時には
5頭に1頭の割合で検査を実施しており、狂牛病(BSE)発生以後は50頭に1頭の割合で
抽出検査を行っている。品質管理についても1995年からHACCPの規定に添った検査を導
入している。
4.訪問しての感想
日本では都道府県の許認可にもとづき曜日やシーズンによって集荷頭数にバラツキがあ
っても1日当たりの屠畜数が制限されている。そのことが結果的に屠場業務に支障を来し、
経営においても深刻な問題となっているところもある。しかし、ここではその様な制限も
なく日本の関係者が聞いたらうらやましい限りである。
EUでは、個体識別としての耳標のない家畜は食肉に供されない事実を知り、安全な食
料供給の義務と生産者表示の重要性を改めて認識させられた。
訪問先
バイエルン州立畜産試験場(BLT)
(BAYERISCHE LANDESANSTALT FUR TIERZUCHT)
所在地
ミュンヘン
(D-8001 Grub, PostPoing bei Munchen)
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1.組織の概要
BLT(バイエルン州立畜産試験場)は、バイエルン州政府の農業省のもとに置かれた
組織であり、農業者の発展と指導を目的とし1918年創立された。州政府から年間180万マ
ルク(約9億円)の助成金により運営されている。職員は試験場全体で約170人、敷地面
積は400haで対象家畜は牛、豚、羊、ウサギ、家禽の他、ここ数年鹿についても研究して
いる。
1)BLTにおける四つの役割
A繁殖、栄養、畜舎(衛生を含めた)の調査研究を行い生産物の品質向上を指導する。
農業者と密に連絡を取りながら現場での問題点、課題及び農業学校での理論を実際
に実験したり調査研究し成果を応用する仕組みになっている。企業から持ち込まれる
−29−
特別な研究については有料である。
B家畜の能力検定・育種価評価を行う。
農業者を訪問した際、牛・豚の能力検定方法と育種価評価の改善・普及を行っている。
Cコンサルタント(助言指導者)の養成学校。
大学、農業高校の卒業者を対象に畜産の専門分野を2年間理論と実践を勉強する。
就学中は、州から助成金が支給される仕組みとなっている。卒業後ライセンス取得
者は州に70ヵ所ある指導機関に就職することができる。
D農業者への助言指導・情報提供を行う。
調査を通じ常に農業者、企業に対する助言指導を行っている。料金は基本的に無料
である。
2.BLTが行う具体的調査・研究・指導業務
1)繁殖部門
Aセンターと現場における能力検定の方法と育種価評価の改善・普及
B枝肉と脂肪に関する試験研究(対象:牛、豚、めん羊、肉鶏)
C育種価評価と人工授精師免許の交付
D繁殖の交雑試験と選抜試験の比較研究
E畜産物の量と質の遺伝的関係の調査研究
F生物工学分野における他の施設との協力(例:受精卵移植)
2)飼料確保と家畜栄養部門
Aサイロの評価とサイレージの製法、並びにサイレージの保存試験
B乾草調整改善の研究(自然乾草と人工乾燥試験)
C飼料価値、飼料要求量を決定するための消化・代謝試験
D生産物の質、経済的価値、家畜の能力、健康等を考えた必要飼料養分量の追求
E高品質生産物や家畜の能力およびに健康を維持するための飼料試験
F畜産生産物の汚染予防の試験
3)畜舎部門
A建築資材、建築構造、建築工法、畜舎設備の研究
B家畜行動の研究
C臭気(ふん尿からの)を減らすための可能性の研究
4)家畜の健康と生産物の品質向上部門
A牛乳と牛肉の質成分における飼料給与方法の研究
B家畜生産物の残留物調査
C近代的な畜舎における家畜衛生の研究 −30−
3.試験・展示の事例
1)鹿肉の品質と経済性試験
鹿を肥育し経済的に採算が取れるか調査している。鹿は家畜と違い施設費のコストが高
い。牧柵を張るのに1ha当たり7500マルク(約38万2500円)のコストがかかる。
試験している品種は、ダンウィルド種で春(6∼7月)生まれた子鹿を14ヵ月間育成・
肥育し、翌年秋に出荷する。出荷体重は雌で約50∼60kg、雄で約80kgである。
収益の拡大には、部位の中でも一番高い腿肉をフレッシュな状態で高級レストランに卸
すことである。
1kg当たり単価は150マルク(約7650円)である。よって鹿肉生産は経済的には難しい。
2)搾乳ロボット
搾乳ロボットを使い機械改良の研究と搾乳ロボットの経済性を調査している。
ロボットは、イギリスのフルウッド社製を使用しており、1基の価格が30万マルク(約
1530万円)である。
稼動能力は1日当たり60頭の搾乳牛を2.7回(平均)搾乳している。年間の搾乳量は総
体で50万kgで搾乳牛1頭当たりは平均で約8300kgである。
問題点は、牛群全体の15%の牛がロボットで搾れない点である。
バイエルン州では25基が稼動しており、現在、調査時点では採算を取るのは難しい。
3)畜舎施設展示場
試験場側が住宅展示場のように場所を提供し、メーカーが畜舎のモデル、牛床マット、
畜舎関連設備を持ち込み展示している。ここに来れば、各種モデルを直接触れて見ること
ができ、農業者が集まり製品を検討できる仕組みになっている。牛床モデルは数多く展示
されていたが、説明者は乳牛50頭までの飼養規模なら麦ワラが一番良いと答えていた。
4.訪問しての感想
我が国では鹿の農業被害が深刻になっており、被害対策が課題となっている。有害獣駆
除の観点からだけでなく共生しながら資源として活用することが必要と考えられるが、今
回、鹿の肥育試験の説明を受け、養鹿経営の難しさを痛感した。
畜舎は、日本でも優良事例等の実証展示を視察することができるが、BLTの畜舎展示
場は細部にわたり実際に確認できる点が良く、農業者同士が検討会をし、問題点や課題を
確認できる。日本でもこのような展示場ができれば農業者にもメーカーにもプラスになる
のではないかと感じた。
−31−
フランス
アルザス農業会議所ポンネティエ総務部長(左から3人目)は
日本のことをよく知る親日家である。
(CHAMBRE D'AGRICULTURE D'ALSACE)
フェルメ・デ・ラ・プルムドールでは、フォアグラ生産の
ためにアヒルとガチョウを各,000羽を飼育。
肉用牛経営の切り札ブロンドアキテーヌ種
(FERME AUBERGE DE LA RECETTE)
農場経営者は170haの農地を所有する元貴族の家柄。民宿を経営
する自宅は1872年に建てたもの。
(FERME DE FROMENTE)
ø.フランスの畜産事情
1.農業の概況
ヨーロッパ最大の農業生産国であるフランスは、農用地面積が国土の54%を占め、1戸
当たりの農用地面積も38.5haと恵まれた環境にある。農家戸数はEU全体の約1割、農業
労働者人口はEU全体の約14%を占める農業大国である。それは主要農産物の自給率がい
ずれも100%かそれ以上となっていることからも見て取れる。
フランス農業の中で畜産は非常に重要な位置を占めており、畜産物は農業総生産額の約
6割となっている。
表−1
主要農業経済指標(1997年)
単位
フランス
EU15カ国
国土面積
km2
543,965
3,236,180
農用地面積
千ha
30,168
134,261
人口
千人
58,492
373,713
農業労働者人口(1996年)
千人
1,029
7,434
農家戸数(1996年)
千戸
735
7,370
1戸あたり農用地面積
ha
38.5
17.4
表−2
穀物
牛・
生乳
主要農産物の自給率
バター
チーズ
98
118
豚肉
鶏肉
鶏卵
子牛肉
180
129
102
表−3
穀物
102
157
100
主要農産物の農業総生産額に占める割合
牛・子牛肉
牛乳
豚肉
卵・家禽肉
14.1
12.2
16.2
7.8 9.6
2.畜産の概況
1)酪農
EUでは現在、CAP(共通農業政策)のもとで生乳生産割当制度を実施しており、生
乳生産量は安定的に推移している。1998年度の割当量は15カ国合計で1億1574万tである。
フランスでもこの国別出荷クオータを基準に生乳生産調整を行っている。生乳生産者価格
も比較的安定しているが、最近はやや低下傾向となっている。
乳用牛の品種構成は、他の多くの国と同様、ホルスタイン種が最も大きい割合を占める
が、モンペリエール種、ノルマン種などフランス原産の品種も多い。
−35−
表−4
乳用牛の飼養動向(1998年)
単位
フランス
日本
酪農家数
千戸
159
35
乳用牛(経産牛)飼養頭数
千頭
4,121
1,190
1戸当たり飼養頭数
頭
29.5
27.3
1頭当たり搾乳量
㎏
5,620
7,238
表−5
生乳生産者価格の動向
1994年
1995年
1996年
1997年
1998年
29.29
29.65
28.75
28.65
28.72
価格(ECU/100㎏)
表−6 乳用牛の品種構成(1996年)
(単位:%)
フランス
表−7
ホルスタイン種
75
シンメンタール種
1
ブラウンスイス種
1
モンペリエール種
12
ノルマン種
11
アボンダン種
1
牛乳・乳製品の生産量・消費量(1998年)
単位
フランス
百万t
75
バター生産量
千t
1
チーズ生産量
千t
1
1人当たり消費量
%
飲用牛乳
㎏
95
チーズ
㎏
8.3
バター
㎏
23.6
カ所
875
生乳生産量
乳業工場数
2)肉用牛
肉用牛飼養頭数は最近減少傾向が続いているが、1999年でも2000万頭を超え世界第9
位の飼養頭数である。
−36−
図−1 肉用牛の飼養動向(FAOSTAT, 2000)
千
21.500
21.000
20.500
頭 20.000
数
19.500
19.000
18.500
18.000
1992
1993
1994
表−8
1995
1996
1997
1998
1999 年
牛肉生産量・消費量(1998年)
単位
フランス
牛と殺頭数
千頭
5,759
牛肉生産量
千t
1,586
1人当たり牛肉消費量
㎏
26.5
1頭当たり枝肉重量
㎏
275
フラン
18.77
子牛1㎏当たり生産者価格
表−9
価格(ECU/100㎏)
肥育牛参考価格の推移
1994年
1995年
1996年
1997年
1998年
143.737
157.100
140.474
148.300
154.814
表−10
価格(フラン/㎏)
牛枝肉卸売価格の推移
1994年
1995年
1996年
1997年
1998年
16.20
14.74
12.73
13.63
13.31
−37−
3)養豚
フランスの豚飼養頭数は、1999年には1600万頭を超え、EU内ではドイツ、スペイン
についで多い。特にBSEやオランダの豚コレラによる頭数削減などの影響で、飼養頭数
は増加傾向が続いている。一方、枝肉価格は世界的な過剰生産の影響を受けて1998年には
大幅に低下したが、1999年になって持ち直している。
千
17,000
図−2 豚の飼養動向(FAOSTAT, 2000)
16,000
15,000
頭 14,000
数
13,000
12,000
11,000
10,000
1992
1993
表−11
1994
1995
1996
1997
1998
豚肉生産量・消費量(1998年)
単位
フランス
豚飼養戸数
千戸
90
飼養頭数
千頭
14,530
1戸当たり飼養頭数
頭
161.5
豚枝肉生産量
千t
2,300
1人当たり年間豚肉消費量
㎏
36.0
1頭当たり枝肉重量
㎏
86
表−12
価格(ECU/100㎏)
1999 年
豚枝肉参考価格の推移
1994年
1995年
1996年
1997年
1998年
105.05
138.10
161.00
160.28
119.67
−38−
1)アヒル・ガチョウ
30,000
図−3 アヒル・ガチョウの飼養動向(FAOSTAT, 2000)
25,000
羽
数 20,000
︵
千 15,000
羽
︶
10,000
ガチョウ
アヒル
5,000
0
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
年
5)飼料生産
表−13
飼料生産の指標
単位
フランス
牛1頭当たり永年牧草面積
ha
51.1
牛1頭当たり青刈りトウモロコシ面積
ha
7.2
t
4.3
青刈りトウモロコシ1ha当たり収量
3.フランスの農業経営指導
フランス農業においては、農業経営の指導に実際に当たるのは、さまざまに組織化され
た農業団体である。これを大別すると国のかかわり方によって公的な団体とそれ以外の民
間レベルの団体とに分けられる。
公的団体としては農業会議所が挙げられる。農業会議所は法律で定められた公的機関と
して、すべての農業者に対する指導サービスを提供している。その内容は地区担当の指導
員が農場を回って技術、経営のアドバイスを行うものである。また、農業教育制度が指導
の重要な役割を果たしており、たとえば新規就農者の教育については、職業資格を取得し
た者に対して就農助成金を支給しながら6ヵ月間の農場実習を行うなど、さまざまな支援
のためのプログラムが組まれている。また、就農後も農業職業研修・農村振興センターな
どの機関が資格取得のための教育を中心に教育コースを設けて支援に当たっている。また
民間レベルでも国の助成金や農業者からの加盟料を原資にしてさまざまな支援活動を行っ
ている。
−39−
¿.訪問先の概要
訪問先
アルザス地方農業会議所
(CHAMBRE D'AGRICULTURE D'ALSACE)
所在地
アルザス地方 バーラン県
(2, RUE DE ROME 676309 CEDEX SHILTIGHIM)
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1.組織の概要
農業会議所は、法律(1924年制定)に基づいて設置されている公的な職業組織であり、
行政機構に対応して、全国、州、県レベルの3段階により構成されている。アルザス地方
農業会議所は、ドイツ、スイスと国境を接するフランスの最東部に位置するアルザス地方
のバーラン県にある地方レベルの会議所であり、この中にバーラン県農業会議所もある。
地方会議所の主な業務としては、①管轄の県農業会議所、農業関係団体[農業組合(食
肉コ−ポレ−ション・乳製品コ−ポレ−ション)農業連盟]に対する指導及び研究、②地
方政府、地方議会、中央政府出先機関に対する諮問機能を有している。具体的には、①地
方の農業関係プログラム及び国家の農業に関する計画、②農業教育・研修、③研究所との
研究契約に関する事項について活動を行っている。予算の財源は50%が土地課税であり、
これは、県農業会議所から会費として収められるものである。その他、中央・地方政府か
らの助成金、農業組合等からの個々のサ−ビスの対価として収められる料金が財源となっ
ている。
一方、県農業会議所は、地方農業会議所の指導の下、県政府ほか県段階の各種組織に対
し農業政策に係わる戦略的分析や各種提言を行うほか、①若手農業者の自立、②生産割当
ての構造、③土地利用計画、④植林に関する規則、⑤水資源の保護について、意見の提出
や提言を行っている。また、1966年に制定された農業普及計画に関する政令(農業者自ら
が責任をもって普及事業を行う)に基づき、州が作成した普及プログラムに沿って、農業
経営者グル−プ等関係団体に対する指導、技術、経営に係る普及活動を行っている。バー
ラン県農業会議所においては、こうした業務に120の技師が携わっており、このうち80は
大学卒業資格を取得後、5年間勉強した高級技師といわれる人達である。指導は、個人的
なコンサルタントサ−ビスについては有料となっている。予算編成については、年間予算
約5100万フラン(7億6500万円)で、そのうち土地課税収入等税金が65%、地方・県議
会からの助成金が15%、残りの20%が農家からのサ−ビス料収入である。
2.アルザス地方の農業概要
アルザス地方の土地面積は82万haで、農用地(牧草地含む)40%、森林が37%で、その
他22%となっており、フランス本土の22地域圏の中で一番小さい州である。このため、農
業に供する土地面積は限られ、農用地価格は、他の地域より高く、経営の採算面から経営
形態は、タバコ、ホップなど他種目を取り入れた複合経営が主体である。
−40−
酪農については、生産振興の一環として、独自の乳量(搾乳)基準を定めており、この
ため農家戸数、頭数とも1985年当時に比べ、戸数で1/4、頭数で1/3(9万頭から3万頭へ)
減少しているが、1農家当たりの年間産乳量は19万6000Îと一定の水準を保っている。
また、生産については、質の高い牛乳生産を目途に、生乳中の細菌数1mÎ中5万以下、
乳脂肪3.8%以上、乳蛋白3.1%以上の基準となっている。なお、取引価格は、乳業協会が
定めており1Î当たり1.95フラン(29円)となっている。
肉用牛については、牛肉価格がGATT交渉以降低迷しており、EU共通農業政策の一
環として、農家個々の飼養頭数規模に応じてフランス政府から赤字補填として補助金が支
給されている。
養豚については、豚肉の消費に対し全体の飼養頭数が少ないため、供給不足の現状にあ
り、絶対必要頭数7頭に対し1頭しか供給出来ていない。
養鶏については、卵は、フランス全体の生産量の2%に過ぎないが、1戸当たりの飼養
規模は大きい。また、鶏肉は、レストラン等でのフォアグラ需要が高まるにつれて、ガチ
ョウの飼養羽数7500羽では供給が追いつかない状況であり、不足分はハンガリ−、イスラ
エルから輸入している。
3.今後の指導
当会議所では、今後、農業漁業省の指導に基づき次のような指導を中心に行う。
①動物に対する認識標の装着に係る指導 ②生産物の原産地証明添付の徹底指導
③経営テクニックの付与に係る指導
4.訪問しての感想
農業政策を実行する財源が農業者自らの税金(目的税)で賄われるシステムが整備され、
しかも、事業実施の中核となる農業会議所等の組織の構成メンバ−として農業者代表者も
参画しており、国、地方、県それぞれで行う政策立案、活動業務において直接及び間接的
に農家の意見・要望が反映され、極めて合理的かつ効率的な組織であると感じた。
農業会議所の役割を担う人材及び農業後継者の育成については、農業分野に限って、日
本とは異なり、農業漁業省の所管で確立された教育システムに基づき実施されており、
ヨ−ロッパ最大の農業国であるフランスを根底から支えている制度であると確信をもっ
た。
指導は、農家の実態に応じて、各専門の部署が連携をとりながら一元的に行っており、
農家にとっては、経営の改善事項、今後の方向性について、明確に意識した中で経営を行
うことができ、機能的である。また、会議所担当者は、農産物の品質向上のため、飼料給
与、動物の出生など最低限の生産過程を明らかにし、原産地証明(AOC)の添付などを
通じ農産物の安全性をPRする必要性があることを強調しておられ、単なる農家経営の分
析指導にとどまらない時代の趨勢をとらえた広範な視野に立っての思考、指導方針が垣間
見えた。
−41−
今後、EU共通農業政策の下、質の高い農産物生産を農業者が実践していく事が経営を
維持していくためには必要であることから、農業会議所の指導等の役割はますます重要に
なっていくものと感じた。
訪問先
フォアグラ生産農場
(LES POIES GRAS DU RIED)
所在地
アルザス地方 ストラスブール
(37, RUE DU CHATEAU ICHTRATZHEIM)
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1.経営の特徴
1)経営の概要
1985年に会社を設立し、当時はガチョウによる年間800㎏のフォアグラ生産に始まり、
現在の工場を1993年に建設し、今では年間8∼12 tの生産に至っている。
家族経営で行っているが、年末のクリスマスの最需要期に向けて9∼12月の繁忙期には
村の中で5人雇用している。
2)フォアグラの製造
ドイツ、スイスに国境を接するストラスブールはアルザス地方に属し、世界的にフォア
グラ生産で知られている町である。フォアグラの歴史は古くルイ16世の時代に始まり、そ
の製法は今も受け継がれている。
フォアグラの材料としてはアヒル、ガチョウの肝臓を利用する。アヒルは村内で生産さ
れたものを利用し、ガチョウについては20%が村内産、80%はハンガリーから輸入をして
生産している。鳥によって飼育方法が異なりアヒルの方が飼育の回転が速いため、フラン
スでは特にアヒルが多く飼育されている。
フォアグラの生産工程には大きく2種類あり、ひとつは家族経営で生産し「一流品」と
してのブランドを後継に残すためにも行われている方法、一方では工場による大量生産を
行う方法である。この経営では最も重要な工程を手作業で行い、時間をかけ完成度の高い
ものを生産している。
フォアグラは、指先で触って跡が少し残るものが程良く、色は茶色であって緑色のもの
は良くない。次いで、胆のうが取り除いてあるかを確認し、平らに伸ばし細い血管を手作
業で取り除く作業に入るが、まるで外科医の仕事の様だ。その後、塩をベースに12種のス
パイスを加えたものを15g/㎏入れ、冷蔵庫に24時間寝かす。その後、ガチョウの脂をたっ
ぷり塗って容器に入れ、80分間、72℃で煮た後、脂を塗って3∼4週間保存して完成であ
る。心臓病に大変良く、蛋白質に富み、コレステロールも抜群で、脂肪が多いが肥ること
はないといわれているのがフォアグラである。
2.訪問しての感想
フォアグラについての知識は全くなく、ただ高価なものと感じていたが、より良質なも
−42−
のを作り上げるために生産工程がとても複雑で慎重である。ガチョウへのこだわりなど、
伝統と歴史を受け継ぎながらフォアグラ生産が大切な地場産業として位置づけを確立しよ
うとしている努力に感銘を受けた。試食をしてみたが、まずガチョウとアヒルの違いは見
た目ではわからなかった。アヒルはスパイシーで味が濃く、どちらかというとガチョウの
方が美味しかった。また、一緒に飲んだワインが特に美味しくて、後でアルザス産のワイ
ンを探したが手に入れることができず、とても残念であった。
また、ここで生産されるフォアグラは日本の埼玉県の業者に輸出されているそうで、フ
ォアグラを食べられた時は「リードのフォアグラ」か確認されたいとのことであった。
訪問先
ケルヌ農場(酪農・タバコ栽培複合経営)
(FARM KERN )
所在地
アルザス地方 ストラスブール
(10, RUE DU CHATEAU 67640 ICHTRATZHEIM)
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1.経営の特徴
1)経営の概要
当農場は酪農とタバコ栽培による複合経営を行っており、6年前に後継者として就農し
た。建物はまだ父親の所有であるが、銀行から借り入れをして父親、兄妹から譲り受けた
経営の確立に努めている最中である。
28歳の本人と母親の2人でホルスタイン種経産牛20頭を飼育している。タバコ栽培との
複合であるため、特に夏場は朝5時30分から牛の管理をし、8∼18時までは畑へ出かけ、
18∼22時までは牛の管理、というとても忙しい1日となる。
経営土地面積は借地も含め合計35ha、酪農部門はトウモロコシ8ha(自家利用4ha、販
売4ha)、麦6ha、大麦 1.5ha、牧草10ha、ビート他 6.5haとなっており、3haはタバコ栽
培に仕向け、生産されたタバコは主にドイツ方面に出荷がされている。
2)経営の成績
当経営では、酪農部門とタバコ栽培で全収益の80%を占める。春夏季よりも秋冬季に乳
価が高いフランス特有の傾向も、昨年からは一定価格が保証され、1Î当たり年間平均2.5
フラン(約37.5円)で販売している。経産牛1頭当たり年間産乳量は7000Î、乳脂肪率
3.8%、乳蛋白質率3.2%である。専門技術センターからの種付、改良等の指導もあり、年
間20%の牛の更新や人工授精を実施している。
給与飼料の大半は自給飼料であるが、ビートのしぼりかすを84フラン(約1260円)/t、あ
るいは大豆を購入し、トウモロコシ、牧草を給与している。
経営状況の把握については1万5000フラン(約22万5000円)で税理士に依頼をしてい
る。
3)指導機関との関係
国からの援助を受けるための最低条件は、就農以前に技術部門の修得をすることである。
−43−
普段は乳業会社からの技術指導、冬季には特別な技術指導として3∼4日の研修制度があ
る。また、穀物等の飼料作部門の研修会、EC法などの勉強のために青年農家団体主催で
冬季に60∼70日間の研修も開催され、積極的に参加をしている。
4)経営主の意見
現在、当農場では、1Î当たり2.5フラン(約37.5円)の乳価で年間14万Îの枠が割当
てされており、他の農家からこの枠を買い取ることも可能ではあるが、今後は、もう1人
の若者と一緒に経営を行い、建物を大きくし、乳量も8500Îになるよう牛の改良に努め、
牛乳を大量に生産することが希望である。たまの夜は気のあった若者同志でディスコに行
き、冬季の休みが取れる時期には1週間くらいのバカンスを楽しみ、ゆとりのある楽しい
経営を確立したい。
2.訪問しての感想
EUでは共通農業施策(CAP)の下で生乳生産割当制が実施されているため、1頭当
たりの乳量を大幅に上げることが必ずしも良策ではなく、複合経営として確立することが
賢明であるように感じた。そのため、ここでは、タバコ栽培に関しては大変熱心で堆肥を
土地還元することで良質なタバコも生産し、さらには効率的な経営体系の確立を模索して
いる努力に感銘した。ここは、フランスの代表的な農家で20頭の乳牛を飼育しているがと
ても日本的な農家に窺えた。居住地に畜舎が位置するためか大変きれいにしてあり、とて
もここに牛が飼われているようには感じさせないほどであった。このことは、どこの農家
にも共通していえることでもある。地域、個人といった環境が各々異なるなか、畜産(酪
農)を中心に国、県、団体、仲間との連携により楽しく就農する若者に会えたことは大変
うれしく感じた。
訪問先
ラ・グレーヌ・オ・レ・チーズ工場
(LA GRAINE AU LAIT)
所在地
アルザス地方
(333, A, LA CROX D'ORBEY 68650 LA POUTRIE)
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1.工場の特徴
アルザスの山間地にある、この地方の特産品マンステールチーズの製造会社である。マ
ンステールチーズは13世紀前から作られた歴史があり、フランス国内でも有名なチーズで
ある。現在、マンステールチーズの生産は、工場で作られるもの90%、農家で作られるも
の10%となっている。
この会社では工場は2カ所あるが、見学した工場は、EUの補助金を受けて2年前に
「見せるチーズ工場」として建設した。年間見学者数は4∼5万人に上る。この工場の建
設には生産部分に約1200万フラン(約1億8000万円)、見学コース部分に120万フラン
(約1800万円)ほどかかったが、生産部分に10%、見学コースに20%の補助金がEUから
−44−
出ている。見学コースには試食をかねた直売所も設けられている。
工場の特徴は、近代的な衛生管理を行いながら、伝統に近い手作りの良さを出している
ことにある。また、各農家の牛乳を別々に処理し、できたチーズには牛乳生産農家の名前
を記入したシールを貼っている。これには、各農家の牛乳の味を生かせること、品質のコ
ントロールがしやすいこと、衛生面でメリットがあること、消費者から好まれることなど
多くのメリットがある。
チーズの生産に用いられる乳用牛は小型白黒のヴォージェンヌ種で、質の良い牛乳を出す。
年間のチーズ生産量は9000tとなっている。チーズの販売価格は450gが35フラン、220gが
25フランである。また、副産物として得られるホエーは、近くの養豚業者に安価で販売し
ている。
当初この会社は、代表者であるハクセール氏が個人ではじめたが、その後25人の牛乳出
荷者にも株式を持ってもらうことで(全体の34%)、製品に責任感を持たせるようにして
いる。この工場一帯は国立公園であることから、今後は観光プロジェクトなどの展開も考
えている。
2.訪問しての感想
伝統あるチーズを単に工業的に生産するのではなく、手作りの味を生かし、また、消費
者の指向をつかんでいこうとする姿勢には見習うべきものがあった。特に生産者ごとの処
理、生産者名を記したシールなど細かい点にも気を配っていることに感心した。良いチー
ズは質の良い牛乳から生まれ、質の良い牛乳は環境のよいところで生まれる、と説明者の
ハクセール氏がいうように、優れた環境とそれをうまく活用してさらに付加価値をつけて
いこうとする熱意が、この地で作られるチーズの人気を博しているもとになっているのだ
と感じた。また、村おこし、観光資源としての活用まで含めた今後の展開方向には注目す
るものがあった。
訪問先
フェルメ・デ・ラ・プルムドール農場(フォアグラ生産・養鶏・野菜栽培複合経営)
(FERME DE LA PLUME D'OR)
所在地
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アルザス地方 ストラスブール
(168, RUE D'ALTORF 67120 DACHSTEIN)
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1.経営の特徴
1)経営の概要
フランスのフォアグラ生産に用いられる水禽類の飼育羽数は、アヒルが2800万羽、ガチ
ョウが60万羽とアヒルが多いが、生産地として有名なアルザス地方ではガチョウのフォア
グラが好まれている。
当農場は、フォアグラを生産するガチョウ、アヒルと養鶏、野菜栽培との複合経営であ
り、経営者のクンツ氏はアルザスフォアグラ生産者協会の会長を務めている。労働力はク
−45−
ンツ夫妻とクンツ氏の弟の3人で、ひなの育成からフォアグラの生産、販売までを家族経
営で行っている。
また、消費者が有機生産を望んでいる鶏3500羽と肉用のガチョウ500羽を飼育し、所有
する35haの農地ではアスパラガス、トウモロコシ、ビート、小麦、ブドウなどを栽培して
いる。年間所得は180万フラン(約2700万円)であるが、その割合は、フォアグラが55%、
肉用鳥が17%、野菜等が28%で、フォアグラが主体となっている。
2)フォアグラの生産
フォアグラ生産用のガチョウとアヒルは約2haの敷地にガチョウ2000羽とアヒル2000羽
を飼育している。ガチョウは0日齢のひな(雌雄)を導入し5カ月間育成後3週間肥育し、
アヒルは3カ月齢の成鳥(雄)を導入し2週間肥育した後に出荷する。品種は発育が良く
フォアグラ生産用に改良された交雑種で、専門業者から購入する。飼料は有機栽培した穀
物を主体に給与し、化学的なものは使用せず良い品質を保っている。
ガチョウの育成期は、トウモロコシに肉粉と粕類を各20%の割合に加えたものを給与し
て発育を増進させる。肥育期はトウモロコシのみを1回当たり250gから徐々に600gに増
量しながら1日4回朝夕2回ずつ給与する。給餌は定量を給与できる機械を用い、1羽ご
とに強制的に給与している。肥育期間に通常体重が5㎏から7.5㎏に、肝臓が60gから800g
まで増加する。
アヒルの肥育はトウモロコシを1日2回給与し、1回当たり350gから徐々に900gまで
増量し、ガチョウと同様に1羽ずつ強制給与している。2週間で体重は3.6㎏が4.8∼5㎏
に、肝臓は60∼80gが500∼600gまで増加する。肥育時は1部屋約5.3㎡の面積にガチョウは
10羽(約0.53㎡/羽)、アヒルは15羽(約0.35㎡/羽)を収容して徹底した管理を行っている。
生産したフォアグラは毎月貯蔵しておき、アヒルのフォアグラは年間を通して販売するが、
ガチョウのフォアグラは消費量が増加する9∼12月に多く販売している。
飼養管理で最も注意を払うことは肥育開始時の健康状態である。薬剤は残留が禁止され
獣医師の検査もあるため使用できないので、肥育期間に病気にならないような育成技術が
求められる。また、日常の管理で最も大変な作業は肥育中の給餌で、多大な労力を費やし
ているがこれには専門的な技術が必要である。肥育は非常に難しく成功する技術者は20人
に1人ぐらいの割合である。
なお、アヒルのフォアグラ生産量が多い理由は、肥育期間が短く、出荷が早いので、生
産者に好まれているからである。
2.訪問しての感想
経営者のクンツ氏は父親が行っていた酪農経営からフォアグラ生産を主とした複合経営
に切り替えて、現在まで取り組んできているが、その収益性の高さと消費者の自然指向に
適応した農家伝統の飼育方法や有機生産などの取り組みには、時代の流れをつかむ優れた
経営感覚が感じられた。飼養管理面では、フォアグラという脂肪によって肥大した肝臓を
短期間に生産するのは、かなり難しい技術であると思った。いくら改良された品種とはい
え、薬剤が使用できない条件で肥育するのであるから、経営者が認識しているように育成
−46−
段階での頑健な発育が重要なポイントになるのであろう。また、給餌作業は1羽ずつ強制
的に給与していたが、その作業は大変な労力である。最も確実な方法ではあるが他に何か
良い方法はないものかと考えさせられた。給与された直後のガチョウが首を伸ばして口を
開き、喘いでいるようにしていたのが何とも印象的であった。
訪問先
エレンスタイン農場(酪農・乳製品製造販売経営)
(FERME HERRENSTEIN)
所在地
アルザス地方
(7, RUE DE LA GERE 67330 NEUWILLER LES SAVERNE)
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1.経営の特徴
1)経営の概要
当経営は、経営主夫妻が1977年に入植して搾乳経営に取り組んだのが始まりである。現
在は生乳の生産、乳製品の製造・販売までを手がけている。
労働力は、経営主夫妻と週20時間のパート、それに後継者を目指し、農業学校に通う長
男が手伝いを行っている。
経営規模は、搾乳牛50頭と自家産の育成牛50頭を飼養しており、品種はホルスタイン種
を主体にピノワール種、ホルスタイン種とピノワール種の交雑種で構成されている。
飼料生産用地は86haを有し、うち43haが牧草地として利用されている。牧草は、5月末
∼6月に刈り取り、乾草に調製して給与しており、粗飼料はすべて自給で賄っている。穀
物は、トウモロコシ15ha、ビート12haを作付けており家畜の飼料として利用している。残
りの16haはEUの協定により3年間の休耕期間中である。
2)生乳の生産状況
4頭ダブルへリンボーン式のミルキングパーラーにより、1日2回(午前7時と午後5
時)搾乳を行っている。搾乳時間は1回当たり1.5時間である。バルククーラーは容量
1700Îを備えており、2日間で満タンとなる。年間の生乳生産量は30万Îで、うち1/2の
15万Îを協同組合へ出荷し、残り15万Îは、チーズ、ヨーグルト生産に利用される。乳質
は乳脂率4.2%、乳蛋白質率3.2∼3.5%である。
また、バルククーラーには、生乳をビニール袋に充填密封する機械が備え付けられてお
り小売も行っている。1Î入りビニール袋には牧場のマークが印刷されており、販売価格
は4.2フラン(約63円)/Îで、協同組合への出荷価格2フラン(約30円)/Îに比べると有利
な販売方法である。
3)チーズの製造
チーズの製造は、1980年の生乳生産調整をきっかけとして始めた。経営主夫妻は3年間
養成所でチーズ製造の勉強を行い、試行錯誤の末本格的に取り組んだ。
製造しているチーズの種類は、アルザス特産のマンステールチーズと硬い種類のチーズ
2種類である。生乳100Îから製造できるチーズは10㎏であるが、ヨーグルトを製造する
−47−
場合は原料乳と同量を生産することができる。
チーズ製造工程では、温度管理がもっとも重要なポイントであり、1℃間違うとまった
く違うものとなる。そのため施設内は4部屋に区分され、製造工程により温度管理を行っ
ている。チーズ製造作業は、通常1週間に3回行うが、クリスマスを控えた時期は毎日製造
作業を行う。出荷までに要する期間は、硬いタイプのチーズで2カ月間の保存が必要であ
り、出荷までの期間が短いマンステールチーズでも3週間かかる。
チーズ製造に関する規制については、国の機関である獣医局が管理しており、生産から
販売まで各種の許認可が必要である。加工に関する基準は県によって異なるが、現在はE
U基準に合わせなければならない。また、品質管理に関しては、抜き打ちの検査が実施さ
れる。月に数回自己による検査を実施して、その検査結果は国の検査時に提出する必要が
ある。
2.訪問しての感想
搾乳専門経営からチーズ製造を始め、直営店舗で販売まで行うには、経営主夫妻の努力
と向上心の賜物であると感じた。また、地域消費者に安全で質の高い農産物を届けるため
の取り組みがやっと現在軌道に乗ってきたことが窺えた。これまでの苦労について奥さん
が「チーズ生産は知らないことばかりで失敗の連続、2カ月後しか成果がわからないので
売り物になるまでは試行錯誤の連続であった」と話してくれたことからも現在に至るまで
の苦労が伝わってきた。ビニール袋に生乳を詰めて販売する方法は、近隣の消費者の要望
に答えた販売方法と思われる。訪問中も店舗にはお客さんが訪れ、地域においてこの農場
の生産物に対する評判は高いということが感じられた。
最後に、「日本ではまだまだ個人経営が乳製品製造に取り組むことが難しい」との話を
すると「やろうと思えば何でもできます。やる気が大事なのです」と言った奥さんの言葉
が印象的でした。
訪問先
アダム農場(酪農・乳製品製造販売経営)
(FERME ADAM)
所在地
アルザス地方
(9, RUE PRINCIPALE 67170 WAHLENHEIM)
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1.経営の特徴
1)経営の概要
当経営は、フリーストールミルキングパーラー方式の施設で70頭の搾乳牛を飼養してお
り、飼養品種はホルスタイン種とピノワール種の交雑種が主体である。後継牛は協同組合
の技術者が人工授精を行い、自家産牛で更新している。
経営耕地面積は110haで、牧草18ha、トウモロコシ60ha、ビート8ha、大麦3haが主なも
のである。労働力は経営主夫妻と2人息子で、農場は会社組織となっている。
−48−
2)牛の飼養管理
牛の飼養管理は、2人の息子が担当している。飼料は自給飼料であるトウモロコシ、大
麦、ビートの絞り粕、牧草を給与し、不足分の大麦、大豆粕、ビタミン剤を購入している。
自給飼料は協同組合に運び込み、混合処理した飼料を給与している。
年間の生乳生産量は、55.5万Îでうち13万Îは協同組合へ出荷している。取引価格は
2.1∼2.2フラン(約31.5∼33円)/Îである。残り42.5万Îは小売及び乳製品への加工販売を
行っている。
牛群検定は毎月行っており、1頭当たり年間乳量は8500Î、乳脂率4.1∼4.2%、乳蛋白
質率3.2%である。
疾病に関しては、獣医局により伝染病の検査が6ヵ月齢から行われる。また、疾病に対
する保険制度はないが死亡に対する保険制度は設けられている。
3)乳製品加工の経緯
当経営は1970∼1985年の間は搾乳専門の経営を営んでいた。1980年の生乳生産調整以
降、採算の合う経営を模索しており、規模の小さなアルザス農家が生きる手段として養豚
との複合経営を勧められたが、酪農経営にこだわりを持っていたため生乳の加工を始めた。
15年前に始めたヨーグルト生産が乳製品加工への第一歩となった。現在製造している乳製
品は、牛乳2種類(脂肪分の高いものと低いもの)、ヨーグルト、白チーズ、生クリーム
である。
4)乳製品の販売
販売先は、個人及び商店への配達であるが、この経営の一番の特徴は、個人への宅配を
行っていることである。牛乳1パックの販売価格は5フラン(約75円)/Îであり、他メー
カーの牛乳より0.2フラン(約3円)ほど安く、消費者に求め易い価格を設定している。
牛乳業者に対する国からの補助はないため、設備資金は銀行からの借り入れで対応して
いる。また、乳製品製造のための機器具は、設備費用の低減を図るため経営主がフランス
中を回って集めた中古品を利用している。一つの例として、牛乳を1Î入りの紙パックに
充填する機械は新品購入価格の1/10で購入したものである。
2.訪問しての感想
EUの生乳生産割当制度には厳しい条件があり、枠の売買はできない。後継者の参画に
より枠が増えることもあるが、厳しい条件の中で生き残っていくために乳製品加工販売及
び宅配により活路を生み出した経営である。その態度と言葉の端々から経営主としてのプ
ライドが感じられた。
自慢げに説明する乳製品加工施設内には、フランス中を回って集めたという使い込まれ
た機械が並んでおり、経営主の話ぶりからも丁寧に使っている様子が窺えた。
また、当牧場への到着時間が予定より早すぎたため、最初は怪訝な顔で出迎えを受けた。
「あなた方、フランス語はわからないのですか」と最初に経営主が切り出した時にはどう
なることか不安を覚えたが、施設についてのじょう舌な話が進み、終了時間が迫った頃に
は自家製の牛乳やヨーグルトが用意されており、私たちの訪問を嫌がっていた訳でもない
−49−
ことがわかった。
訪問先
畜産研究所
(INSTITUT DE IELEVAGE)
パリ市内
所在地 (149, RUE DE BERCY 75595 PARIS CEDEX 12)
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1.組織の概要
1)組織の性格
畜産研究所は1966年に設立された公的機関で、農業漁業省の指導、大蔵経済省の協力の
もと、畜産の応用リサーチ業務を行っている専門家集団であり、職員の身分は公務員であ
る。現在は290人が働いており、うち160人はエンジニアとなっている。また、全国12カ
所に支局、研究農場5カ所を持ち、さらに23カ所に地域事務所がある。
組織体制としては総務部門のほか、遺伝部、生産技術部、経済部、農業モデル研究部が
ある。
2)主な業務
主な業務は、①畜産に関する応用リサーチ、②畜産関係機関や国へ専門的意見を提出す
る業務、③畜産に必要な器具等のコンピューターによる研究開発、④遺伝的改良における
各機関の調整機能である。年間予算は1億8000万フラン(約27億円)で、その45%を応
用リサーチに充てており、30%を遺伝的改良に関連する業務に充てている。
畜産に関する応用リサーチでは、①羊、②肉牛(4ヵ月齢までのもの)、③肉牛(草を食
べているもの)、④肉の分析、⑤乳牛の5カ所の研究農場を持っており、実際的な研究を
行っている。また、各地域の農業会議所と密接に仕事をしていることから、これらを保有
する実験農場を入れると全部で19カ所でリサーチを行っていることになる。さらに、全国
で3000戸の農家に実証試験を依頼しており、これらのデータ分析には農業会議所のエンジ
ニア200人、畜産研究所のエンジニア30人が連携して当たっている。リサーチにより得ら
れた結果は、農業会議所を通して農家にフィードバックし、アドバイスに用いられている。
現在の活動範囲は、①生産技術、②生産の質、③環境問題、④耕作放棄地等の荒廃地の再
開発である。
3)生産技術上の問題
安く生産する、良質なものを生産する、社会の要望に応える(特に環境問題)、動物の福
祉の4点が現在のフランスにおける生産技術上の課題である。
環境問題についてはEUの基準をもとに、環境診断をして必要な助言をしている。豚のふ
ん尿問題が特に深刻で、豚と鶏には必要な土地面積の規制があるが、現在のところあまり
厳しいものではない。
家畜の改良については、1966年に法律が制定され、牛、羊、山羊、豚の遺伝的改良が謳
われている。家畜の改良は、当初は協同組合ごとにばらばらに行っていたが、成果が上が
−50−
らないため農業漁業省と共同管理をするようになった。その仕組みは、農家での検定デー
タをもとにINRAや畜産研究所がインデックスを作り、その結果を精液センターに送っ
て人工授精センターへの提供データとし、農家へフィードバックするものである。
2.訪問しての感想
畜産研究組織の中核として重要な役割を果たしているこの機関を日本に当てはめた場
合、どこがそれに相当するであろうか。応用研究を主な目的とする、「農民によって指導
されている」と説明者が第一声で言う機関が果たしてあるだろうか。畜産が産業として重
要な位置を占めている国であることを強く感じた。また、国民の要望に応えて研究をして
いくことの必要性、消費者の考え方を取り入れることの重要性を強調していたことに、こ
の機関の持つ重みを感じた。
訪問先
ラ・レセット農場(肉用牛・民宿・レストラン経営)
(FERME LA RECETTE)
所在地
パリ郊外
(3, RUE DU MOULIN ECHOU 77830 ECHOUBOULAINS)
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1.経営の概要
当農場は、農産物(麦類45ha、ビート10ha、大豆類10ha)に肉専用種の飼育(160頭規
模、草地40ha)を加えた農用地面積107haを有している。
この農場の特徴は、経営内の肉用牛部門に付加価値を付ける取り組み(ブロンドアキテ
ーヌ種、D’AQUITAINE)を始めていることと、農業を基盤としたグリーンツーリズム的
なサイドビジネスの民宿経営とレストランをいち早く取り入れた点である。
この地域はフランス国内の平均耕地面積(38.5ha)を上回る土地を所有しつつ、穀物生
産には恵まれない土地柄で、当農場もこれまでに3回の経営転換をしている。
第1回目の転換はトウモロコシの栽培を、大麦、小麦中心の穀類の生産へと変えた経営
主の父親の時代であった。経営主はその後父親から土地を譲り受け現在10年目を迎えたが、
これまでの期間はEUの統合とも重なり、生産構造の変更を余儀なくされた時期であった。
「小さな農業から、大きくかつ質の高い経営へ」という時代の流れの中で、耕地面積をむ
やみに増やすより、労働効率や収益性を追求する部門を取り入れる方が有利と考え現在に
至っている。
第2回目の転換は、穀物基盤を草地に置き換えて取り組んだ肉用牛部門の拡充である。
また、第3回目については、農外収入を確保するため取り組んだ民宿並びにレストラン経
営への参加となる。
2.肉用牛(ブロンドアキテーヌ種)の取り組み
ブロンドアキテーヌ種は1962年にフランス南西部においてGARONNAIS、QUERCY、
−51−
BLONDE DES PYRENEESの3種の地方種を交配して作出された固有種であるが、この地
域の肉用牛がシャロレー種や交雑種の多い中では少数派の存在に当たる。なお、牛肉生産
には小格で発育の遅い欠点があるものの、筋肉質で脂身が少なくかつ柔らかい(EUにお
いては良質肉のイメージ)点や精肉歩留まりの良さが評価される肉用牛である。
当農場は子取牛60頭に人工授精を行い、生産子牛のうち雄牛は生後5∼9ヵ月で経営外
へ6000フラン(約9万円)で販売し、また、雌牛については保留を行い、子取りに回すも
の以外は8ヵ月齢から肥育し18ヵ月齢で枝肉単価28∼33フラン(約420∼495円)で出荷
している。ブロンドアキテーヌ種は発育が遅く1産するまでに4年を要し、7∼10年後に
は廃用されている(廃用価格3000フラン、約4万5000円)。
肉用牛部門は穀物を収穫し販売するより収益性は高いが、肉用牛価格の安価が影響し放
牧をしてまた穀類を自給しても、当農場においての収入面を助ける段階までにはまだ至た
らない状況にあるが、将来的には重要な部門と位置づけている。なお、フランスでは、肉
用牛価格の安さを補い肉用牛基盤を維持するために、子取り牛1頭当たり年間1000フラン
(約1万5000円)の助成金が支払われている。
将来はブロンドアキテーヌ種の肉質の良さをアピールしつつ、生産、流通、消費の一貫
体制まで進め、草地の面積を現状の35%から55%まで引き上げるつもりである。
3.民宿等農外部門の状況
民宿の施設は現在18部屋を所有している。民宿事業は県の助成で行った。なお、設備や
条件で助成の比率は変わってくる。
施設利用者の状況は一時年間1万人にまで上ったが、現在は8000人前後である。
当農場はグリーンツーリズムといっても農業体験までは行っていないが、この地域は農
場周辺に歴史上の史跡が多いことから、利用者は史跡めぐりと農場での宿泊をセットにし
て7∼10日間の連泊をして過ごす場合が多くなっている。
なお、農外部門として始めた民宿関連の事業は、農業部門の厳しい背景もあり、農場経
営全体の2/3にあたる所得額を得るまでになっている。
4.訪問しての感想
フランスにおける良質肉の条件が筋肉質の柔らかいものと言う評価は、シモフリ肉を良
質としてきた私たちに食文化の違いを確認させる良い機会になった。
当経営は民宿といっても真新しいものではなく、古い住宅に手を加えた農場風景に溶け
込んだ調和のとれた施設になっていた。また、畜舎も住宅に隣接していたが、民宿のイメ
ージを高めるのに有効に働いていると思った。
多くの仲間が穀物の生産基盤を急激に拡張していた時に、経営主の考えで集約的な付加
価値を高める方向へ進んだ点、人まねでない取り組みを自ら考案して実行してきた点につ
いて特に評価をしたい。
−52−
訪問先
ドゥ・フロマンテ農場(酪農・野菜栽培複合経営)
(FERME DE FROMENTE)
所在地
パリ郊外
(BEAULIU 77970 PECY)
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1.経営の特徴
1)経営の概要
当農場は酪農と耕種部門の複合経営であり他にレストラン経営も行っている。酪農経営
の労働力は主に経営者本人と雇用者2人の3人である。
農地は170haを所有し、うち30haを牧草・放牧地として利用するほかに小麦、大麦、トウ
モロコシ、ビートを栽培している。耕種作物の10%は飼料に利用しており、また、作物を
出荷している協同組合からはジャガイモのハネ物、ビートの搾り粕などを購入して飼料に
している。
牛舎はフリーバーンとパーラー方式を採っており、パーラーは5頭ダブルのタンデム式
である。フリーバーンの休息場所には麦わらを敷料として利用している。品種はホルスタ
イン種で経産牛85頭、育成牛25頭を飼養している。後継牛は経産牛の30%の頭数を保留
しているが、不用なものは18カ月齢で売却する。
2)牛乳の生産
搾乳牛は乳量により2群に分けて管理している。粗飼料は乾草を1頭当たり22㎏給与し、
濃厚飼料は乳量に応じて自動給餌機により個体別に給与する。特に、高泌乳牛には養分補
給のため蛋白質含量の多い飼料を給与している。搾乳は朝夕の2回行い、作業は1人で1
時間当たり60∼70頭を処理できる。
当農場の生乳生産量は年間70万Îであり、泌乳成績は経産牛1頭当たりの年間産乳量が
8200Î、乳脂肪率4.0%、乳蛋白質率3.5%と牛群の能力は高い。
生乳の販売単価は1Î当たり2.4フラン(約36円)であるが、季節的な変動があり、最
低の6月で2.03フラン(約30.5円)、最高の12月で2.48フラン(約37.2円)になる。このた
め、人工授精の時期を調整し12月までに分娩させることによって乳価の高い時期に乳量を
多くするようにしている。
乳成分の取引基準は乳脂肪率3.8%、乳蛋白質率3.2%、体細胞数25万/È、細菌数3万/È
であるが、乳蛋白質率は基準より0.1%上がれば3サンチーム(約0.45円)高くなり、逆
に0.1%下がると4サンチーム(約0.6円)低くなるスライド乳価となっている。
3)生産者の意見
安全な牛乳を生産するためには安全な飼料を給与しなければならない。良い飼料を給与
することによって健康な牛乳が生産されると考えている。
経営的に不安なことは牛海面状脳症(BSE)の防疫である。病気の侵入を確実に防ぐ
ことができる、生産者のための対策を望んでいる。また、専門的な労働者の確保が課題で
あり、農業者の報酬が少ないために仕事に対する情熱を持った就農者がいなくなっている。
−53−
2.訪問しての感想
経営者は大規模な複合経営を本人1人でコントロールしており、大型の農業機械や巨大
な乾草貯蔵施設などがそれを支えている。また、施設もさることながら、広大な草地と天
高く積み上げられた巨大なロールの飼料には圧倒された。まさに広い土地基盤により牛群
には粗飼料が充足的に給与され、加えて養分濃度を考慮した濃厚飼料を給与することによ
って高泌乳生産が維持されている。ただ、牛群の状態については管理上まだ改善できる余
地があるように感じられたが、これは個体の能力を最大限に発揮させる技術を求める日本
的な視野によるものであって、本来はもっと余裕のある飼い方が必要なのかもしれない。
また、印象的であったのは、経営者の牛乳に対する安全性の意識が非常に高く、良い飼
料が乳牛の健康を維持して健康な牛乳が生産されると認識していることである。このよう
な安全性や健康な牛乳生産に対する認識と自信は当農場だけではなく、EUの多くの経営
者に共通した特徴的なものだと感じた。
−54−
イギリス
バース市での交歓会には、養豚経営を営む
キャンディー夫妻を招いて行った。
ウォーク農場のグラスサイレージ
(イタリアンライグラスとペレニアルライグラスの混播)
−55−
ランズダウングレンジ農場(繁殖・肥育一貫経営)で
飼われている繁殖牛(ベルージャンブルー種)。
MLC(食肉家畜委員会)での研修風景。
活動内容について話を聞いたピーターレイノルズ氏。
ø.イギリスの畜産事情
1.農業の概況
イギリスの国土面積は2449万ha、総人口は5900万人で、日本との比較では国土面積で
約2/3、人口で約1/2である。農用地の国土面積に占める割合は65.0%(日本13.1%)
と極めて高く、そのうち耕地が約4割、牧草地が約6割である。
農用地面積はEU全体(15ヵ国)の12%であるが、牧草地のEU全体に占めるシェアは20%
と高く、畜産と結びついた土地利用になっている。
北部や西部(スコットランド、ウェ−ルズ、北アイルランド)では、雨量が少なく、地力
の低い丘陵地が多いため、全体としては穀物生産に適しておらず、牧草地の占める割合が
高い。耕地の大部分(7割)は平坦なイングランド(特に南東部)に集中している。
農業経営の規模拡大は1960年代から70年代にかけてかなり進展し、20ha未満の経営体数
の減少が顕著に見られたが、80年代以降やや停滞している。97年現在、1戸当たりの平均
経営面積は70.1haとEUの平均経営面積(17.4ha)を大きく上回っている。
また、近年自作経営が進んでいるものの依然として借地農業の割合が高く、北アイルラ
ンド地域(全て自作地)を除くと、農用地の4割が借地となっている。また、農業従事者
中、雇用労働力の割合が約40%と高い。
表−1
農業関連主要指標(1998年)
イギリス
国土面積
本
*
2,449
3,778
*
42
30
(万人)
5,900
12,600
総就業人口
(百万人)
29
67
農用地面積
(万ha)
*
1,586
495
(%)
*
65.0
13.1
(万戸)
▲
24
339
1戸当たり農用地面積
(ha)
*
70.1
1.6
農業就業人口
(万人)
55
308
(%)
1.9
4.6
人口1人当り面積
総人口
農用地面積/国土面積
農家戸数
農業就業人口の総就業人口に占める割合
( 万ha)
日
(a)
資料:EU委員会「The Agricultural Situation In the European Union 1998 Report」。
農林水産省「畜産統計1999」ほか ▲は1996年 *は1997年。
−57−
表−2 生産額主要指標(1997年)
(単位:%、億円)
イ ギ リ ス
日 本
農業総生産額/国内総生産額
1.3
1.7
実質経済成長率 *
2.2
-2.8
26,033
99,113
物
3,586
28,898
うち畜産物
16,561
25,784
うち牛・子牛肉
2,220
4,533
うち牛 乳
6,290
7,043
うち豚 肉
2,279
5,249
うち卵・家禽肉
3,775
7,443
農業産出額
うち穀
資料:EU委員会「The Agricultural Situation In the European Union 1998 Report」。
資料:農林水産省「畜産統計」ほか *は1998年。
表−3 畜産物の農業総生産額に占める割合(1997年)
(単位:%)
イ ギ リ ス
日 本
6.7
13.7
63.6
24.4
8.5
4.4
うち牛乳/農業総生産額
24.2
7.1
うち豚肉/農業総生産額
8.8
4.9
14.5
6.6
穀物/農業総生産額
畜産物/農業総生産額
うち牛肉・子牛肉/農業総生産額
うち卵・家禽肉/農業総生産額
資料:農林水産省「畜産統計」。
表−4 農地価格(1997年)
イ ギ リ ス
1ha当たり農地価格
1ha当たり農地借地料
日 本
(千円)
336
19,110
(円)
22,702
184,960
資料:農林水産省「畜産統計」。
イギリスの農業は、畜産と結びついて発展してきたが、EC加盟後の穀物価格の上昇に
より穀物生産が相対的に有利になったことで作付面積の拡大と、改良品種の導入が進んだ
こと等から、小麦の生産が著しく増大した。
農産物の自給率も近年著しく向上し、小麦の単収や乳用牛の1頭当たりの搾乳量が高水
準にあるなど、農業の技術水準が高い。
大麦も既に自給を達成し、輸出を行い、牛乳はほぼ自給、バタ−、チ−ズ、肉類、砂糖
などは、依然輸入に依存しているものの、自給率を向上させてきている。
農業総算出額に占める割合は、牛乳の24.2%が最大で、次いで牛肉、小麦が高い割合を
−58−
占めている。そして畜産物は全体の63.6%とかなりの割合である。
農畜産物の自給率は、第二次世界大戦前は自由貿易主義を反映した放任主義にり、食料
農産物の大輸入国であったが、戦後の国内農業奨励・保護政策と1973年のEC加盟により
生産が拡大したことから、農産物の自給率は著しく向上した。特に小麦・大麦等の穀物に
ついては、既に自給を達成し、輸出を行うに至っている。この他、生鮮乳製品はほぼ自給
しており、子牛肉は伝統的に輸出を行っている。
表−5 農産物の自給率
年次
小麦
大麦
1968(/69)
45
99
95
1980(/81)
83
118
1990(/91)
129
1995(/96)
1996(/97)
バレイショ 牛肉
(単位:%)
豚肉
羊肉
鶏肉
生 鮮 チーズ バター
61
58
42
99
100
44
10
96
82
65
64
99
100
70
49
136
91
91
69
90
93
99
71
71
120
125
89
97
75
11
39
59
77
165
128
150
91
85
71
101
84
98
68
95
資料:欧州委員会「The Agricultural Situation In the European Union(各年度版)」。
イギリスの農業の中では、乳製品の生産が最大で、農業産出額の24.2%を占めている。
その他、卵・家禽肉、穀物(小麦・大麦)など高い割合を占めている。
表−6 主要農産物の農業総産出額に占める割合
牛 乳
牛 肉
豚 肉
(単位:%)
卵・家禽肉
穀 物
イギリス
24.2
8.5
8.8
14.5
13.8
日 本
7.1
4.6
5.3
7.5
29.2
資料:欧州委員会「The Agricultural Situation In the European Union 1997 Report」。
農林水産省「畜産統計」。
2.畜産の概況
1)酪農
イギリスの畜産は、1経営体当たりの平均家畜飼養頭数においてEUで最大の水準にあ
る。酪農は畜産の中で特に重要視しており、飼養頭数は262万9000頭でEUの中でドイツ、
フランスに次いで多い。日本に比べて、畜産農家の多くは、主として酪農により生計を維
持している。飼養戸数37000戸、1戸当たりの飼養頭数(成雌牛)71.7頭はEUの中で最大で
ある。しかし、北アイルランド、イングランド北部、西部には比較的小規模な経営体が散
在している。また、酪農が生計の主体であるだけに、1人当たりの飲用牛乳消費量118Kg
はEUの中で最も多い。
−59−
表−7 酪農の概要(1998年)
イ ギ リ ス
日 本
飼養戸数
(千戸)
*
37
35
飼養頭数
(千頭)
*
2,629
1,816
うち成雌牛
(千頭)
*
2,436
1,279
(頭)
▲
71.7
27.3
(千t)
1,461
857.2
(Kg)
6,040
7,238
118.32
39.78
(円)
39
146.49
バタ−生産量
(千 t)
137
89
チ−ズ生産量
(千t)
357
124
1人当たりバタ−消費量
(Kg)
2.96
0.67
1人当たりチ−ズ消費量
(Kg)
9.91
1.72
1戸当たり飼養頭数
生乳生産量
1頭当たり搾乳量
1人当たり飲用牛乳消費量
1Kg当たり生乳生産者価格
(Kg)
資料:欧州委員会「The Agricultural Situation In the European Union」。
農林水産省「畜産統計」 *は1997年 ▲は1995年。
表−8 乳用牛飼養頭数規模別の農家割合
イ ギ リ ス
(単位:%)
日 本
1∼2頭
3.0
3∼9頭
3.8
10∼19頭
6.1
16.9
20∼29頭
9.2
16.9
30∼49頭
20.1
29.4
50∼99頭
35.7
22.0
100頭以上
22.1
3.2
資料:欧州委員会「The Agricultural Situation In the European Union」。
農林水産省「畜産統計1999」。
−60−
11.6
表−9 生乳生産者価格の推移
生 産
単 位
1994
1995
1996
1997
1998
イギリス
(ポンド/100Kg)
20.9
23.9
23.9
21.3
18.1
イギリス
(円/Kg)
33
35
41
42
39
日 本
(円/Kg)
85.8
84.5
81.8
82.0
82.9
(円/ポンド)
158
146
171
197
146
換算レート
資料:MMB「EC Dairy Factand Figures 1998」。
農水省「畜産物生産費調査1998」。
表−10
1頭当りの搾乳量
(単位:Kg/年)
1980
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
イギリス
4,898
5,287
5,393
5,442
5,463
5,541
5,696
5,964
6,040
日 本
5,006
6,500
6,724
6,765
6,819
6,987
7,170
7,206
7,238
資料:農林水産省「畜産統計」。
2)肉用牛
肉用牛生産は、酪農経営に基礎をおくものと、伝統的な肉専用種等によるものに大別さ
れる。乳用種素牛は、主にイングランドの酪農地帯でフリ−ジャン種と肉専用種のF1と
して生産され、肉専用種(ヘレフォ−ド、アバディ−ンアンガス種等)は、イングランド
北西部などの比較的条件の悪い丘陵、高地地帯で生産されている。
また、乳用種素牛の大部分は、生後2週間以内に肥育農家に販売され、肉専用種は、主
に穀物または羊との複合経営の副次部門として生産、育成された後、肥育農家に販売され
る。
1戸当たりの平均肉用成雌牛は頭数は日本の4∼5倍であり、また、平均経営面積も約
200∼400haと日本に比べて非常に大規模である。
子牛は春先に分娩するものが多く、母牛と共に秋まで放牧、育成される。越冬牛は、サ
イレ−ジ給与を主体として飼養される。肥育牛の出荷月齢は12∼20カ月齢、1頭当たりの
平均枝肉重量は299Kgであり、日本に比較して肥育期間が短く、枝肉重量が小さいのは子
牛肉が含まれているからである。子牛肉は、EUの中では極めて少なく近年減少傾向にあ
る。
1996年3月にイギリス政府が行ったBSE(狂牛病)とクロイツフェルドヤコブ病との
関連性についての報告は、EU全体に大きな衝撃を与えて、消費量が激減した。96年から
徐々に回復してきていたが、このところEU各地で再び発病をみ混乱をまねいている。輸
出量については、狂牛病の発生に伴う輸出禁止措置が継続されたため、引き続き低調に推
移している。
−61−
参考:「新型ヤコブ病、母子感染も(狂牛病は輸血でも感染)」
【ロンドン】2000年9月17日付のサンデー・テレグラフは、脳がスポンジ状になって死亡する狂牛病の症状が
人間に起きる新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(新CJD)は母子感染する恐れがあると報じた。
それによると、母親が今年5月に新CJDで死亡した生後11ヵ月の乳児を診察した4人の専門医がこの乳
児にも母親と同じ病気の兆候が見られ、これは母親の胎内で感染したとみている。この乳児が新CJDに感
染しているかどうかの最終確認は死後の検査でしかできないが、確認されれば、新CJDが母子感染したこ
とが裏付けられるという。
ある著名な微生物学者は、新CJDで死亡した67人の何人かは汚染牛肉を食べて感染したのではなく、母
親から感染した可能性があるとみている。
一方、イギリスの研究チームは15日、狂牛病が実験の結果、輸血を通じて感染することを確認したと発表
した。研究結果が同日発行のイギリス医学誌「ランセット」に掲載された。輸血による感染はこれまでも理
論上はあり得るとされてきたが、実験で確認されたのは初めて。
スコットランドのエディンバラにある動物保健研究所(IAH)の研究チームは、狂牛病に感染させたイギリ
ス産の羊から採血し、ニュージーランドから輸入した羊に輸血する実験を行った。その結果、610日後になっ
て、そのうちの1頭が発症したことを確認した。
日本のほか米国やカナダでは、1980年代や90年代前半に半年以上、イギリスに滞在した人からの献血をす
でに禁止している。
新聞記事(フランスニュースダイジェスト2000.9.22)
表−11
肉用牛生産の概要
イ ギ リ ス
日 本
農家戸数
(千戸)
93
124.6
飼養頭数
(千頭)
11,339
2,842
(頭)
122
22.8
(千頭)
2,330
1,282
枝肉生産量
(千t)
697
530
牛肉輸入量
(千t)
122
951
牛肉輸出量
(千t)
1
0
299
401
(円)
16,718
19,500
(円/頭)
16,718
19,500
(Kg)
15.8
11.8
1戸当たり飼養頭数
と畜頭数
1頭当たり枝肉重量
育成子牛1頭当り生産者価格
子牛生体価格
1人当たり牛肉消費量
(Kg)
資料:欧州委員会「The Agricultural Situation In the European Union 1998」。
農林水産省「畜産統計」。
3)養 豚
豚の飼養頭数は、近年減少傾向にあったが、ドイツ、オランダで発生した豚コレラの影
響でイギリスからの輸出が大きく増加したことから、97年には前年比6.4%増となり、ま
た、98年については同0.9%増の808万頭であるが、日本よりやや少ない。1戸当たりの飼
養頭数は545頭と日本よりやや少ないものの、EUの中ではオランダ、アイルランド、ベル
ギ−に次いで規模が大きい。
豚肉の国内生産量は、ドイツ、オランダの豚コレラ発生による影響で増加になり、98年
も対前年比5.5%増となった。しかしながら、需給の緩和やポンド高に伴う低価格豚肉の
−62−
輸入に伴い価格が低下したため、豚肉の生産額は、8億7,300万ポンドの減少となった。
豚肉の国内消費量については、96年以降増加傾向にあり、98年では前年比2.0%増で、
輸出量についても同15.7%増となった。
表−12
養豚の概要(1998年)
イ ギ リ ス
日 本
飼養戸数
(千戸)
13
13
飼養頭数
(千頭)
8,086
9,879
(頭)
545.1
790.3
豚枝肉生産量
(千t)
1,246
904
豚肉輸入量
(千t)
4
546
豚肉輸出量
(千t)
44
0
(Kg)
71
75
(円/Kg)
179.7
442.0
(Kg)
25.7
16.6
1戸当たり飼養頭数
1頭当たり枝肉重量
豚肉1Kg当たり卸売価格
1人当たり豚肉消費量
資料:欧州委員会「The Agricultural Situation In the European Union 1998」。
農林水産省「畜産統計」「食肉関係資料」。
日本の豚肉1Kg当たり卸売価格は東京市場平成11年の平均価格。
表−13
豚の飼養規模別飼養頭数割合(単位:%)
イ ギ リ ス
日 本
1∼49頭
0.8
0.6
50∼99頭
0.7
0.7
100∼199頭
1.6
−
200頭以上
96.9
11.8
500∼999頭
−
18.1
1000頭以上
−
68.8
資料:欧州委員会「The Agricultural Situation In the European Union 1998」。
農林水産省「畜産統計」。
−63−
表−14
豚の飼養規模別飼養農家割合(単位:%)
イ ギ リ ス
日 本
1∼49頭
49.5
13.2
50∼99頭
5.2
6.9
100∼199頭
6.5
−
200頭以上
38.8
37.1
500∼999頭
−
21.6
1000頭以上
−
21.2
資料:農林水産省「畜産統計」。
4)羊及び山羊
イギリスの北部や西部の丘陵地を中心に飼養され、飼養頭数は、98年には4,447万頭と
前年に比べ3.8%の増加となり、過去5年間で最大となった。EUの中で飼養頭数が最も多
く丘陵地の牧草地を有効活用すると同時に、美しい農村景観形成に大きく寄与している。
羊肉の国内生産量については、前年を8.8%上回る38万2000tの枝肉が生産されている。
しかしながら需給の緩和等により羊肉価格が97年に比べ19.5%低下したため、98年の羊肉
の生産額は11億4,200ポンドと前年より4.8%の減少となった。
国内消費量については、価格の低下等により前年に比べ5.0%増加し、輸入量について
は前年とほぼ同水準の14万tにとどまっている。年間1人当たりの羊及び山羊肉消費量は
6.0Kgで、日本の約12倍である。
表−15
羊及び山羊の概要(1998年)
イ ギ リ ス
飼養戸数
(百戸)
飼養頭数
(万頭)
羊肉生産量
日 本
63
4,447
4.5
(千t)
382
0.3
羊及び山羊肉輸入量
(千t)
140
30.5
1人当たり羊及び山羊肉消費量
(Kg)
6.0
0.5
資料:農林水産省「畜産統計」、「家畜の飼養動向」、「食肉関係資料」。
−64−
¿.訪問先の概要
訪問先
ランズダウン農場(肉用牛経営)
(LANSDOWN FARM)
所在地
バース (WESTON BATH BA 14 DS)
@@@@@@@@@
@@@@@@@@@
!@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@#
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1.農場の概要
この農場経営主ジョン・オズボーン( John Osborne家族経営)は、バース市街北部約15
分の近郊に位置し、イギリスではめずらしく傾斜のきつい場所にある。耕地面積は50haを
有し、ほとんどが傾斜地のため草地が主体を占め、穀物の栽培に適さない立地条件の悪い
地域である。
家族構成は、経営主のオズボーン氏夫妻と後継者の夫婦が同居している。
飼育頭数は、繁殖牛40頭と子牛40頭及び肥育牛40頭、合計120頭の繁殖肥育一貫経営で
ある。繁殖牛の品種は、シャロレー種30頭、ベルジャンブルー種5頭、リムーザン種5頭
と種雄牛リムーザン種1頭となっている。
バースは乗馬が盛んで多数の乗馬場があり、馬を持ちたいというニーズが非常に高い。
このため、この農場では納屋を改築し、現在16頭収容できる馬屋と運動場を完備してい
る。馬は持ち込みで、馬屋と運動場を賃貸で提供するシステムで運営しており、馬の管理
は一切していない。なお、料金は1頭当たり1週間12ポンド(約2,040円)で契約し、こ
の農場の大きな収入源となっている。
2.経営の内容
繁殖牛は放牧主体で乾草とサイレージを給与、必要に応じてミネラルを添加している。
子牛は8カ月齢になると離乳、その後、乾草・サイレージと濃厚飼料を2kg程度給与し、
10ヵ月間飼育して家畜市場に出荷する。肉用として食肉センターに出荷する牛については、
さらに3ヵ月間濃厚飼料を5㎏程度給与して出荷する。
年間の出荷頭数は、家畜市場出荷が10頭、食肉センター出荷が20頭で合計30頭である。
家畜市場出荷は、農場の穀物収穫が少ないため、生後15∼20カ月齢、生体重量450∼
500kgで肥育素牛として出荷する。また、食肉センター出荷は、生後20∼24カ月齢・生体
重量500∼550kgで出荷する。
家畜市場出荷はオークションで販売する。また、食肉センター出荷はイギリスの規格によ
り格付され、値段は交渉により決定する。1頭当たりの販売価格は、雌が475ポンド(8万
0750円)、雄で525ポンド(8万9250円)、平均では500ポンド(約8万5000円)程度である。
補助金は、雄牛のみに交付され、子牛の記録・登録が義務づけられている。補助金の額は
1頭当たり生後7ヵ月目と20ヵ月目にそれぞれ90ポンド(約1万5300円)、合計180ポンド
(約3万0600円)の補助金が交付される。雌牛は乾草とサイレージで発育し、費用がかからな
−65−
いため交付対象外、雄牛は濃厚飼料を給与しないと増体しないとの理由である。この補助金
は、政府の小売価格を上昇させないための政策であり、消費者が一番恩恵にあずかっている。
生産原価は、500ポンド(8万5000円)程度の費用がかかっており、経営的にはトント
ンで補助金180ポンド(3万0600円)が収益となっている。
3.経営指導機関との関係
経営指導は、NFU(National Farm Union)という日本の農協に相当する組織からア
ドバイスを受けている。この他にADAS(Agricultural
Development
Adviser
Service)
という機関があり、以前は、中央政府がお金を出して運営していた公的な機関であったが、
今は民営化されている。現在は、NFUの方から指導を受けておりアドバイスもフリーに
受けられ、雑誌等の情報も豊富で役立っている。会費は耕地面積によって異なるが、この
農場では年間150ポンド(2万5500円)を支払っている。
検査はFABL(Farm Assured Beef Lamb)という日本の農林水産省に相当する機関に
統括されている。FABLは検閲官を派遣し、どのように飼育しているか、どのような治
療がされているか等記録をチェックし、メディカルな部分まで検査を行っている。また、
FABLに加入・公認されないと販売が出来にくい。会費は年間90ポンド(1万5300円)
を支払っている。
4.訪問しての感想
イギリスは、日本と同様に若者が農業離れを起しており農業従事者の平均年齢が50歳を
超え、全国的にも大きな問題となっている。最近の傾向としては企業畜産に買収され廃業
するか、都市近郊においてはグリーンツーリズム等による農外収入により経営を維持して
いるのが現状である。この農場でも、馬の収入が大きく経営を支えている。今後、先行き
不透明なため、増頭や新たな投資は考えがたく、現状を維持し質の高い牛肉を生産するこ
とに努力したいと考えている。我が国においても、農業従事者の高齢化、後継者不足、農
畜産物の価格低迷、環境問題等、EUと同様な課題が深刻さを増している。今後、食料自
給率の向上、担い手の確保、所得補償対策、魅力ある農業作り等21世紀に向けた解決すべ
き課題が山積している。
EUにおける食肉の消費者ニーズは、家畜が健全な飼育環境下にありストレスや病気が
なく、しかも、赤肉が多くやわらかい食肉を求めている。この結果、EUの肉牛生産ポイ
ントは、どのような飼育環境で肥育しているか、どのような治療をしているか等、牛の健
康をチェックし、健康で安全な肉牛生産に取組んでいる。また、登録されていない牛は、
屠畜できないシステムとなっている。我が国の肉牛生産は、濃厚飼料多給型で和牛が生後
30ヵ月齢、乳用牛で生後20ヵ月齢程度肥育し、飼料要求率やDG等で経済効率の低い肉用
牛を生産している。また、健康面ではビタミン欠乏症による盲目や水腫寸前まで肥育し、
不健康な状態に追い込んで肉質・肉色を改善するという負の「芸術品」を作っている。今
後は、グルメ、食の豊かさ、高度な肉質等を追求することよりも、家畜の飼育環境・健康
管理、飼料の有効利用等食の安全性や経済性に配慮し、原点にかえった生産方式に改める
−66−
必要があるのではないか。
訪問先
ローズウッド農場(酪農・肉用牛経営)
(Lordswood Farm)
所在地
バース
(JAMES STREET WEST GREEN PARK BATH BAL 2BU)
@@@@@@@@@
@@@@@@@@@
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1.農場の概況
ローズウッド農場は農業以外の業務も行っている総合会社に属しており、農場のほかに
牛乳処理工場など20カ所から構成されている企業畜産組織の一部門である。
この農場は、1963年にマルコム・ピアス会長(Malcolm Pearce Chairman)がサマーセッ
ト地域に小さな酪農場として始めたもので、現在ではサマーセットとウィルシャーにまた
がる13の農場に分かれており、最大間隔は44マイル(約70㎞)の距離になる。
総農場の面積は4500エーカー(約1800ha)で、うち1500エーカー(約600ha)が自有地で、
3000エーカー(約1200ha)が1エーカー当たり90ポンド(約1万5300円)/年の借地である。そのう
ち飼料畑として麦・大麦に700エーカー(約280ha)、トウモロコシに700エーカー(約280ha)
を利用しており、残りは牧草地である。
牛の飼養頭数は2000年1月に1600頭であったのが、現在では2800頭に増頭しており、
このうち700頭がモンベリアード種(Montbeliard)で、残りはホルスタイン種である。
モンベリアード種はマルコム会長が1993年にパリの農業祭で出会い、最初にイギリスに
持ち込んだ牛で、牛乳と牛肉の両方の生産に優れた乳肉兼用種として評価されており、こ
の農場は世界で一番多くこの品種を飼養している。今年、飼養頭数が急激に増加した理由
は小規模の農場とテナント契約を結んだ結果である。このテナントシステムは契約期間5
年間で、個人で所有していた牛乳の生産枠と乳牛を買い取り、また、耕作地(土地)は借り
上げるもので、テナントの中にはすでに2年間経過した農家もあるが、今年からテナント
になった農家がいるため、ここ半年で急成長したものである。
最近5年間に畜産物価格が低下したために、現在はこのようなテナント方式が増加して
きている。乳価は5年前の25ペンス(約43円)/Îから17ペンス(約29円)/Îに落ち込んでお
り、牛乳生産は過剰のため今後も上がる見込みはない。
今回訪問したのはローズウッド農場のうちウォーク分場(Walk Farm)(酪農・肉用牛)
とニューマナー分場(New Manor Farm)(育成牛)の2カ所である。
2.経営の概要
イギリスもEUも家畜の飼養環境について規制が厳しくなっている。消費者は家畜が飼
われている環境を問題にする。すなわち、家畜が苦痛を感じていないか、自由に病気もな
く活動しているか、飢えや渇きはないかなどの安楽性を重要視にしている。また、有機農
法で生産された畜産物かを重要視している消費者もいる。
−67−
耳標番号はイギリス全体の牛の管理番号で、コンピューターにあらゆる情報が入ってい
る。耳標は万が一はずれた場合を考慮して2つ装着されており、生後24時間以内に装着す
るようになっている。家畜移動履歴も記録され、耳標なしでは屠殺場にも出せない。従っ
てイギリスでは農家は記帳記録が大変な作業となる。
BSE(狂牛病)における国の検査はない。発生した1996年に病牛や危険牛はすべて屠殺
された。病牛が見つかったら国へ報告しなければならないことになっている。当農場では
今までに発病していない。国の施策としてもBSEが発症した場合はすべて淘汰してしま
うし、BSE感染の母牛から生まれた子牛は発症していなくてもすべて処分される。
3.ウォーク分場(酪農、肉用牛経営)
ウォーク分場にはローズウッド農場の本部事務所が置かれており、全農場で所有してい
る700頭のモンベリアード種のうちの500頭とホルスタイン種が飼われている。
牛乳と牛肉の両方の生産に優れた乳肉兼用種として評価されているモンベリアード種は
農場内で自家育成し、ホルスタイン種は生後7日には販売する。なぜなら、ホルスタイン
種は1頭500ポンド゙(約8万5000円)だが、モンベリアード種は1頭1,000ポンド(17万円)
もするので自家育成した方が経済的だからである。
ウォーク農場では牛乳の生産性により牛群を3つに分けている。一番良い群は1日 に
1頭当たり35Îの牛乳を生産している。妊娠牛は分娩予定8週間前になると放牧場に出し
て飼い、分娩予定日の2週間前には分娩室で濃厚飼料を十分に与えて出産(自然分娩)させ、
出産後5日間は分娩室で親子で飼養している。ただ、モンベリアード種は乳肉兼用種なの
でホルスタイン種と比べて太りすぎないよう気をつけている。
分娩した24時間後に搾乳を開始する。産乳量は個体により5,000∼1万Îの幅があるの
で能力の優秀な牛は残して、低能力牛は更新している。現在700頭のモンベリアード種牛
のうち200頭は8,000Îを超えており、乳脂率4.1%、乳タンパク質3.6%で、脂質とたんぱ
く質のバランスが良いと評価が高い牛である。生産された牛乳はほとんど農場系列の姉妹
会社である牛乳工場で処理されている。このモンベリアード種はホルスタイン種と比べて
1頭当たり15%も多くチーズがとれる。
これからの農場の方針として、モンベリアード種はチーズ用、ホルスタイン種は牛乳用
として飼養したいとしており、将来的にはホルスタイン種を減らしてモンベリアード種を
増頭したいと考えている。なぜなら、5年前モンベリアード種は良質の牛乳を生産し、産
肉性も高いという特徴があったため高く売れていた。狂牛病の発生以来、規制が厳しくな
り以前ほど高く販売できなくなったが、モンベリアード種はホルスタイン種と比較して受
胎率が高く、飼養期間も長いので効率的である。最近ではホルスタイン 種(平均3産)とモ
ンベリアード種(平均5∼6産)との交雑牛の飼養も試みられているが、この交雑牛は病気
にも強く飼養期間も長いという特徴があるということで現在飼養管理など研究中である。
給与飼料としてはグラスサイレージ(イタリアンライグラスとペレニアルライグラスの
混藩)を年4回調整している。通常30%のDMが目標だが2,000年は22%であった。トウモ
ロコシは1エーカー(40a)当たり12∼16tの収穫があるが、それは土壌で決まる。ビール
−68−
粕も購入(価格:夏は16ポンド(約2,720円)/t、冬は20ポンド(3,400円/t)して給与している。
また、パン工場などで出たカスや小売店で出た期限切れのパンの粉砕(46ポンド(7,820円)
/t)なども給与している。ただし、カビが生えやすいので1週間以内に消費しなければなら
ない。
モンベリアード種の肥育はウォーク農場だけで年間100頭ほど実施して いる。9∼3月
の間に生まれた子牛を生後14ヵ月肥育し出荷している。出荷体重は500㎏、480ポンド(約8
万1600円)で販売し、1頭当たりの生産コストは飼料代2t分で約160ポンド(約2万7200円)
である。他の雄子牛は生後7日後に肥育農家へ契約販売している。肥育牛は牛乳販売に比
べて収益性はあまりよくないが、モンベリアード種の名声をあげるために実施している。
4.ニューマナー分場(乳用種育成牛経営)
ニューマナー分場では乳用種育成牛250頭を飼養している。ローズウッド農場内で生ま
れた生後12週齢の子牛を15∼16ヵ月間(5∼6ヵ月舎飼、一夏放牧)育成し、搾乳農家に
(体重約400㎏)出荷する。搾乳農家に引き取られた後、人工授精(一部自然交配)され、2∼
2.5歳で搾乳を開始する。精液は地域内の種雄牛の利用もあるが、フランスから購入して
いる。
飼育管理にあたって農場の気温は年間で−6∼25℃の範囲であるが、冬は雪が積もって
も2∼3日残る程度であり、ダニ熱(ピロブラズマ)やアブなどの心配はほとんどない。
農場では増体の向上と病気の発生防止に注意をはらっており、基本的に生まれて6時間
以内に2Îの初乳を飲ませ、月1回の体重測定も実施している。病気は生後12週間が大事
な時期なので予防接種を実施(ワクチンを6週目ごとに1回ずつ計2回)し、SCOURSとい
う病気に対しては子牛が生まれる前の母牛に予防注射している。また、ローズウッド農場
では何らかの病気が発生したとき伝染しないように育成牛農家や搾乳牛農家を分離してい
る。作業は1日2回の飼料給与とそうじ、2∼3日に敷きわらを追加し、6週間ごとにす
べての床替えを行っている。
給与飼料は12ヵ月までサイレージを飽食まで飼い、それ以降はシュガービートパルプ、
麦類、大豆、トウモロコシ、ミネラルなどを混ぜたものを2㎏追加して与えている。
事故率は出産のとき5%、その後で3%程度である。獣医の治療代は1時間当たり78ポ
ンド(約1万3260円)である。
糞尿処理はスラリー方式で処理するが、6週ごとに床替えしたものはしばらく積んでお
くこともあるが、ほとんど細かく刻んで畑を耕すときに使ってしまう。
5.訪問しての感想
訪問した農場がフットボールクラブなども所有している総合会社の経営の一部で、説明
者も雇用者の一人であったことは後からわかったことである。イギリスと同様に日本でも
今後このようなテナント方式による会社組織の畜産経営が増加するのであろうか。こうし
て昔ながらの農家が減っていくことに幾分か寂しさも感じた。しかし、生産コストを下げ、
品質を高め、収益性を上げることは個人経営であろうと会社組織であろうと同じ目標であ
−69−
る。いずれにしろ、農家も指導機関も情勢の変化に対応できる能力や順応性を身に付ける
ことが必要だと感じた。
EUにおける品質の向上とは家畜の飼養環境を良くすることである。すなわち、家畜の
安楽性を重視して、良い環境で飼われた家畜が良い品質を生産するという概念である。日
本の肥育牛は人と競合する穀物を多く与え、無駄な脂肪を付け、不健康な状態で出荷され
ており、見かけだけで価値が決められている。もう少し無駄がなく、無理のない飼い方に
改善していくべきではなかろうかと思う。また、耳標なしでは屠殺場にも出せないなど農
家にとっては手間の掛かるデータの記録も周知徹底されている。記帳・記録は経営の基本
ということと、素性の分かっている家畜でないと販売できないシステムは我が国でも取り
入れるべきと考える。
(Meat and Livestock Commission)
略 称
MLC
所在地
ミルトン・キ−ンズ
(Milton Keynes)
1.組織の概要
@@@@@@@@@@@@
@@@@@@@@@@@@
@@@@@@@@@@@@@@@@#
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訪問先
食肉家畜委員会
!@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@#
MLCは、1967年に設立され、バッキンガムシャ−のミルトン・キ−ンズに本部があり、
全国に5カ所の事務所がおかれている。この団体は、もともと畜種別に活動していた団体
が、肉用牛、めん羊、豚の肉畜すべてを一つとして組織されたものであり、家畜に関する
技術指導機関的性格を有し、政府と農家の間の仲介的存在として重要な役割を果たしてい
る。調査研究の実践活動の場として全国数カ所に牛や豚、羊などの試験研究機関が設けら
れ、家畜の改良と効率的な生産技術の確立を目的とした食肉の品質検査等の調査研究、そ
の研究成果を紹介するための展示や技術情報の提供、食肉の消費拡大、販売促進や市場開
拓のためのPR活動や輸出のサポ−ト並びに消費者ニ−ズを踏まえての加工・調理に関す
る調査など幅広い活動を行っている。
MLCは世界でイギリスだけしかない中央政府直轄の食肉家畜委員会で、イギリスの食
肉産業の中枢として、大多数の家畜生産者、流通業者並びに消費者に大きく寄与している。
委員会は中央政府からのコントロ−ルはなく、食肉業界にコントロ−ルされており、委
員会を運営する委員は酪農家など生産者6人、食肉業界6人、消費者1人を農務省が適任者
を指名し、委員長は農家から、副委員長は業界から選任されて、委員会は農務省とのコミ
ュニケ−ションを図りながら組織の運営に努めている。
運営は、①対策、②財務、③技術、④マ−ケティング、この4つの部門に区分されてい
る。その財源は、イギリスでと殺される牛、豚、めん羊から徴収する賦課金が3360万ポン
ド(57億1200万円)、コンサルタント業務料1490万ポンド(25億3300万円)、イギリス政府や
EU補助金など国からの援助が主な収入源で、利益が110万ポンド(1億8700万円)である。
−70−
一方、支出の予算額は、技術開発に445.3万ポンド(約7億5701万円)、イギリスの食肉
を売るためにマ−ケティングに年間2568万ポンド(約43億6560万円)を費やしている。
この委員会で働いている人数は、屠畜場で科学者や技術者、マ−ケティングを含めて
181人、衛生検査に携わっている者が506人、全体で687人が働いている。このメンバ−か
ら依頼によって検査や監査などの検査官として人材を派遣している。
また、畜産業界の保護策についても、消費者、羊、牛、豚、経理と財務など、それぞれ
の政策委員会が設けられ、広範囲にわたり国民に食肉の重要性と安全性を訴えてきている。
これらを達成するため、MLCの活動は、畜産コンサルタント、マ−ケティング、屠畜場
経営と多岐の分野にわたっており、各関係機関・組織との補完を図りながら仕事に携わっ
ている。
委員会(委員長・副委員長・11人の委員)
代表理事
理 事
市場関係理事
家畜関係理事
家畜連絡指導員
品
種
改
良
指
導
員
施
設
指
導
員
組
織
指
導
員
肉 種畜の 羊
牛 主 任
豚
地
域
家
畜 専門の郡指導員
指
導
員
管
理
部
本
部
事
務
職
員
部門の主任
食
肉
施
設
指
導
員
−71−
枝
肉
肉
質
指
導
員
市
場
指
導
員
管
理
部
各部門の主任
コンピューター

 経営
 組織
 EC関係
 肉畜

 財政
 出版
 研究
 統計
 衛生
2.主な活動
①家畜の改良
・家畜の資質能力調査及び産肉能力検定、能力検定済種雄畜の利用促進
②屠体の格付と枝肉評価法の改善
・2カ所の中央評価所で、牛肉、豚肉、羊肉の屠体を分解し、赤肉歩留と枝肉構成、
肉質等を調査し、枝肉の品質分類を行う。
・枝肉情報を、農家・流通業者等へフィ−ドバックする。
③生産、流通、加工等に関する技術的経済的研究
④生産農家の技術・経営指導
⑤コンピュ−ターによるデ−タの分析
⑥統計情報、調査研究結果の収集並びに伝達
⑦子畜、肥育畜及び食肉の需要と供給の動向、市場価格並びに市況情報の調査分析と
情報提供
⑧食肉に関する消費拡大のための調査及び宣伝活動
3.枝肉研究所
食肉の分析、評価を行うための研究室及び機械・器具が整備され、また、豊富な人材配
置のもとで、枝肉のカットから肉質評価、さらには食味検査に至る一連の検査業務が効率
的に実施できる体制となっている。その作業工程及び内容は次のとおりである。
① 枝肉の解体分離
国内の屠場から牛、豚、羊の枝肉が搬入され、全枝肉について赤肉、脂肪、骨の量を
測定し、赤肉歩留や枝肉構成を明確にする。
② 枝肉の品質検査
肉の色調、軟度、ドリップによるロス等を測定し、枝肉の品質分類を行う。
③ 肉の理化学的な成分検査調理前の肉に含まれるタンパク、脂肪、ミネラル等の成
分や栄養価を調査し、枝肉評価や食味性との関連を検討する。
④ 消費者嗜好検査調理した肉について味覚の検査を行い、消費者の反応を調査する。
⑤ ホルモン、抗生物質の含有量検査
以上の検査結果をもとにして、家畜の生体と枝肉の技術的な関連を追求し、その結果を
生産者及び食肉業者等に対しフィ−ドバックすることにより、肉生産についての技術指導
を行う。特に家畜飼養の経済効果を比較査定したり、育種改良方針の検討を行う上で重要
な研究材料となる。
4.消費者ニ−ズとそれを重視した食肉の販売促進活動
① イギリスの場合、既婚者の女性の2/3は働いており、日常生活の時間が少ないので、
週に1回ショッピングして家庭で20分で準備ができる食品と、一般的に急いで作る料
理には肉類が不向きなので、早くできる肉料理を望んでおり、製品の開発を進めス−
パ−に出している。
−72−
② 家族構造の変化に伴い、肉を小さく切って同じ味がするように、ここちよく育っ
た味の良い肉を消費者は望んでいる。ヘルシ−フ−ドを望んでいる消費者も多く、健
康的な肉としてPRを行っている。製品は「標準どおり生産したものである」という
ラベルを貼付して、健康的な肉としてPRを行っている。
③ 消費者の70%はス−パ−で購入、大手ス−パ−4∼5社で肉の70%を販売してい
る。「できるだけ肉を食べてもらいたい」ということから、「毎日肉が配達されている
システムを構築したい」としている。
④ 1987年以降、肉の売り上げが減少してきており、1996年のBSE(狂牛病)の影
響もあったが最近では「肉は大丈夫」という認識が高まり回復基調にある。国民1人
当たり肉全体の消費量は70Kg程度で終戦後に近い数値までになっており、さらに販
売を促進する計画をもっている。(注:最近、再び狂牛病の発症に伴い状況は一変している)
⑤ また、ベジタリアン(野菜指向)は3%ぐらいで、食肉への関心は依然として高
い。消費者ニ−ズは赤肉指向で、消費量が増加してきている。バタ−なども自然な形
での生産が好まれており、バランスのとれた食生活を望んでいる。
⑥ BSE(狂牛病)発生以降、肉の消費量を維持するために、「バランスのとれた肉」
をテ−マにキャンペ−ンを行い、専門家がこのキャンペ−ンを支援している。また、
今後10年間の牛肉の伸びは、総合的に経済面から判断して3∼4%、肉全体としての
伸びは7∼8%を期待している。
⑦イギリスでは、チキンは「体にいい、味付けしたもので電子レンジを使用して食べ
られる」ということから消費量が増えつつある。MLCはチキンより豚肉を売ろうと、
大量に質の良いものをすぐ食べられるように提供できる肉「スティ−ムミ−ル」の販
売促進を行っている。
⑧消費者が何を食べたいか、何がいやか、をキャッチしてマ−ケティングの内容を検
討している。消費者向けの広報として、肉のPRに年間2000万ポンド(34億円)を
使っており、サポ−トサ−ビスに努めている。
⑨消費者への宣伝・消費拡大、店舗・ス−パ−マ−ケットとの協力や製品の開発、
サ−ビス業、マ−ケティングに重点をおいており、特に消費者サイドのニ−ズを重要
視し、消費者に対する消費拡大のため普及活動に力をいれている。そして、イギリス
の食肉を消費者に広くPRすることにより、健康・安全食品としての優位性を訴えて
いる。
5.コンサルタント業務の内容
① 食品の衛生と安全が大事で、中央政府はBSE(狂牛病)については専門家がモ
ニタ−調査事業で検査員を派遣し、情報をキャッチしてその分析と、屠場でHACC
P(危害分析重要管理点方式)チェックを行っている。
② 農家のコンサルテ−ションは、スタッフの中から家畜の専門家が指導しているが、
必要に応じてシグネット社(民間コンサルタント会社)から専門家を派遣している。
−73−
6.MLCが課題としている事項
① アイルランド共和国への輸出は通貨統一になってから非常に売りにくくなってい
る。
また、農家の収益率も低下してきており、養豚経営では赤字が発生しているものも
みられる。しかし、補助金に頼れる状況ではなく、補助金はEU全体で肉部門は20%、
野菜部門は15%カットになっており、「売ってお金にする」をモット−にしている。
また、環境改善への補助金は、家畜の飼養環境の整備を図るためである。
② 農業や製造業の経済的ダメ−ジが大きく、農家の収益率が低下しており、EU全
体でも豚が15%安くなっている。これらの影響もあって、零細農家がなくなり規模が
大型化してきているが、その一方で、農家の失業が増えつつる。
③ BSE(狂牛病)が発生した農場の牛は、政府が買い上げて処分している。食肉
は消費者に安心感を与えるために、クオリティマ−クを貼付してる。
しかし、挽き肉は原料の仕入れ先、生産地など目に見えない流通が大きな課題とな
っている。
④ また、食肉の防疫に関する基準がEUとイギリスとでは異なり、通貨統合にも参
加していないことから輸出国の割高感が大きな障壁となっているため、イギリス独自
の努力が必要となっている。
7.訪問しての感想
わが国では生産と販売は区分されており、生産した食肉を総合的にPRしてくれる専門
的な機関が見当たらない。また、食肉のPRは業界自体の販売戦略にすぎない。MLCは
効率的な生産を推進しながら、その一方では消費者ニ−ズを最重要視し、消費者と関係者
との信頼を確保するために、たえず研究し、開発し、推進していると思われる。
また、販売促進活動、情報やサ−ビス提供、イギリス政府とEU政府への働きかけなど、
畜産産業を推進するに当たって欠かせない分野を担っている、と思われる。MLCは政府
にコントロ−ルされることなく、運営する委員も生産者、食肉業界、消費者から構成され
ていることに特異性がある。生産者自身が参加していることに、組織の一体化で力強さと
期待感を覚える。
MLCの活動内容については、十分に把握できたとは言えないが、事業が多岐にわたり、
関係機関や農家と消費者などの細かい係わりをもっていることもうかがえる。また、消費
者ニ−ズを的確に把握しながら食肉の販売促進は機敏性も感じられる。
我が国では、生産者団体、食肉業界それぞれが果たす役割は分かれていて、一連の流通
について総合的な指導をする機関は少ない。我が国においても行政や生産者団体各組織等
が連携強化を図り、効率的な生産から消費まで一連の具体的施策・指導の一体化を図るこ
とを希望したい。我が国の取り組むべき一つの課題でもあるように感じた。
−74−
研修を終えての感想と抱負
門 脇
充…………………………………………………………………………………
77
砂子田 哲 ………………………………………………………………………………… 78
山 田 文 彦 ………………………………………………………………………………… 79
大 谷 秀 聖 ………………………………………………………………………………… 80
生田目 一 博 ………………………………………………………………………………… 82
塩 原 広 之 ………………………………………………………………………………… 83
深 沢 公 男 ………………………………………………………………………………… 84
大 川 栄 一 ………………………………………………………………………………… 85
山 田 英 信 ………………………………………………………………………………… 87
岡 田 拓 巳 ………………………………………………………………………………… 88
藤 岡 一 彦 ………………………………………………………………………………… 89
高 橋 勉 ………………………………………………………………………………… 90
川 崎 広 通 ………………………………………………………………………………… 92
西 浩 一 ………………………………………………………………………………… 93
元 田 茂 雄 ………………………………………………………………………………
95
小田中 久 康 ………………………………………………………………………………
96
−75−
北海道酪農畜産協会 門 脇 充 バスの中から眺めたヨーロッパの風景は北海道に似ていると感じ、郊外の古い農家建築
物を見て本州山間の民家の雰囲気を感じた。グリーン・ツーリズムの先進地だけあって家
屋はもちろん庭先、さらには街並みの美しさに感動を受けた。ヨーロッパ研修に臨むにあ
たり、畜産の知識はもちろんのこと、ヨーロッパの文化をさまざまな角度から貪欲に吸収
してやろうと考えていた。その一つが建築である。ドイツでは夕方仕事を終えた人たちが、
建築途中の我が家に少しずつ手を加えていた。ある人はセメントをこね、ある人は煉瓦を
切り、子供達も熱心に手伝う姿がそこここで見られた。まさに家族皆で楽しんでいるので
ある。自分の手を加えた家は愛着と手作りならではの味わいがあり、なによりも低コスト
である。
ドイツでは自分自身で建てるセルフビルドホームの割合が高く、ベルリンの書店で
「DIY(do it yourself)」の本がベストセラーになっている点でもうなずけた。日本では、
建築基準法、消防法の関係により手作りのセルフビルドホームはまだ少ないが、ドイツの
この考え方は畜舎建設を行う際に参考になると感じた。
二つ目に興味を感じたのはグリーン・ツーリズムである。フランスで研修した農家民宿
は、日本の農家民宿とはあきらかに違うものだった。研修した先の利用者のほとんどは、
低料金で宿泊し、美味しい田舎料理を味わい、古城などの史跡をめぐることを目的として
いる。なかには読書をしたりして時間を過ごす人もいる。このことから農業体験をしたり
観光地を観てまわることもグリーン・ツーリズムの楽しみのひとつであるが、ゆったりと
した時間を過ごすことにとても重要な意味があると痛感した。ドイツのエコツーリズムも
農業とは関係ないようだが、今後、販売戦略のなかで健康な生産物を生産する現場を知っ
てもらう意味で大きな意味を持っている。
三つ目が食文化である。今回研修中いくつか珍しい物を食べることができた。
フランスのアルザス地方のフォアグラも印象的であったが、それぞれの国で食べた田舎
料理も強く印象に残っている。調理の仕方により口に合うもの、苦手なものなど沢山体験
したが、食べられないものはなく、研修中はすべて完食できた。研修先で試食した乳製品
も本場だけあり、どれもすばらしく、特にチーズはオーストリアのエメンタル、フランス
のマンステールが強く印象に残っている。イギリスでは雨の中、研修先の農家で出された
手作りのケーキと熱い紅茶は忘れることができない。
また、EUの農業政策のなかで有機農法の食品の地位が確立されつつあり、健康な食品
に対する人々の関心は高まっている。ドイツでは有機農法農家は毎年増えており、自然食
品市場が形成されつつある。研修したエコビレッジでも年々契約販売の消費者が増えてい
るとのことだった。日本においても畜産を取り巻くさまざまな出来事から食品に対する安
全性の意識が高まっている。エコビレッジのクレンツ氏は現在の文明病のほとんどは食品
からのものと考えており、その言葉には説得力があった。ただ生産量を上げ売上を伸ばす
より、今後は「経済とエコロジーを両立できる」ような提案をしていきたい。
−77−
岩手県畜産課 砂子田 哲
本県でも海外の視察報告会が毎年のように開催され、ある程度知識があったこととか、
周到な研修スケジュールやすべての行程に通訳が配置されていることなどから、海外が始
めてであるにもかかわらず安心して研修に臨むことが出来た。
しかし、実際に訪れてみると、風土、地形、街並み、ライフスタイルの違いや、話で聞
いていた毎日の食事の内容等々、改めてヨーロッパの歴史の深さや伝統を重んじる国民性
など肌で感じることができ、それを体験できただけでも有益な研修であった。
ドイツでは旧東ドイツの会社経営の大規模牧場を、旧西ドイツでは農家経営の牧場を研
修したが、特に移動中のバスでの印象は、畑や畜舎周辺がきれいに整っているのは旧西ド
イツだなというのが印象であった。
旧西ドイツの農家経営にあっても全般に日本と比べ農地等のスケールが大きく、飼料自
給率も日本の比でなく、環境は整っているとの感じを受けた。しかし、農地の生産性の悪
さ(敢えて高い単位当たり収量は求めていないとのことであったが)や日本の1/3以下
の畜産物価格、補助金なしでは生活が困難、後継者も不足しているという事情は、日本と
同じ印象であった。
生産過剰がもたらしたものとは思うが、なぜ人間生活の最も機軸となる大切な産業が低
迷しているか、改めて農業問題の複雑性を考えさせられた。
近年、農業の果たす多面的機能(環境、自然景観の保全や都市住民との交流など)が叫
ばれ、今回もエコロジー村や農家での畜産物加工事例を研修させていただいたが、それぞ
れ地域での雇用拡大や収益の拡大につながっており、大いに参考となった。しかし、それ
らはドイツでも農業全体から見るとスキマ産業であり、大きな広がりとなっていないのは
日本と同じ(日本の方がまだまだ事例が少ないが)という感想である。
フランスのバーラン県農業会議所では、農業全体に占める畜産物生産のシェアが低下す
る中、規模の拡大や品質向上、環境問題に向けた農家指導を中心に行っているとのことで
あった。特に衛生対策やAOC(原産地表示)システムが徹底されており、これについて
はドイツのミュンヘン市営屠畜場でも確認できた。また、農業会議所の運営費の45%は
受益者である農家負担とのことで、今後の農家指導機関の指導内容や運営管理のあり方に
ついて参考となった。
イギリスでは土地が1800ha、2800頭の酪農企業経営を研修したが、離農農家の土地をレ
ンタル方式で借り入れて規模拡大している点と、乳成分が高く産肉性もあり飼養管理のし
やすいモンペリアル種にホルスタイン種からシフトしようとしており、経営方針や飼養環
境により新畜種を積極的に導入しようとする経営感覚が参考となった。
研修全般では、特に大きな事故もなく全員健康で帰れたことで企画・研修先の手配など
旅行会社の関係各位も含め感謝しているが、全体にややハードだった印象である。特に前
半のドイツでは、環境にも慣れていないこともあって研修スタートから3日目頃までがき
つく、私のみならず参加者全体が疲れを感じていたかと思われた。
また、今回農家泊が2回組み込まれていたが、どちらも農家民宿で、宿泊先で食事をと
−78−
りながらの交流が実際はなかったということが残念であった。
オプショナルツアーは楽しませていただいた。特に最終日のドイツから成田便には間
に合わず、フランクフルトで8時間も待ちぼうけを食うこととなったが(立ちっぱなしで
閉口したが)おかげさまでバンコクに1泊でき、最高のオプショナルツアーをプレゼント
していただき感謝しています。旅行会社の添乗員さんにも大変お世話になりました。
宮城県畜産会
山 田 文 彦
今回の海外畜産事情研修にあたり、初めてのヨーロッパ諸国の訪問に対し様々な期待と
不安を募らせながら参加をさせていただいた。
各国にはそれぞれ世界的に有名な建造物や景勝地があるが、これらの文化を築き上げて、
それを維持してきた国民、さらには農家の生活習慣や文化を実際に肌で体感できたことは
何よりも替えがたい経験だった。
最初に訪れた旧東ドイツは、統一後10年ということもあり、これからの街づくりが盛ん
に行われようとしていた。そして、農家においては国営農場から形成された背景もあり、
経営規模がEU内でも比較的大きく、それに合わせた屠場や加工場の施設整備も行われ、
畜産という揺るぎのない産業が確立されつつあるように思えた。この先10年後にはどの様
な変遷を辿り、日本への市場開拓を求めて来るのかを思うととても興味深かった。
フランスにおいては、Tシャツからレザーコートまで四季折々の多彩なファッションで
街を練り歩く姿で賑わい、見る目を楽しませてくれた。同時に人種も多様化しており、失
業率や納税、そして政治経済に関しての問題も多く、華やかな一面とは裏腹に様々な課題
もあるようだ。
広大な牧草地とブドウ畑には心を洗われる思いがし、家畜についても純粋種にこだわる
ことなく、柔軟な姿勢がまさに国民性を象徴しているかのように思えた。
イギリスは島国で、しかもEU諸国でも比較的物価が高く、日本経済と類似している部
分があった。よって生産コストや販売価格面でEUの共通農業政策や公定価格との折り合
いにはまだまだ時間を要する感じがした。個人経営での経営継続には限界を訴える農家も
あり、生産基盤が充実していても改めて現状の厳しさも垣間見た。
家族経営においては、どこの農家に行っても家畜を大切に飼育していた。だから家畜も
おとなしくて人懐っこい。ある農家の娘さんは手馴れた様子で、広場に牛を引きつれて私
たちに見せてくれた。最近の日本ではなかなか見られない光景に感動した。
また、山岳酪農では、奥さんが最後にご主人と私たちを前に労働の辛さをポロリと漏ら
していた。どこの国でもご婦人方は辛い思いをしながらも、精一杯経営を支えている姿が
とても印象的だった。それでも、だれもが歴史を重んじ徹底した合理主義のもとに生活基
盤を支えてきた自信と誇りで満ち溢れていた。「頑張れ」と心の中でエールを送った。
所得追求型を目指してきた日本の畜産は、今では確かにヨーロッパ以上に優れた技術を
有しているが、大切な何かを見失った代償も大きい。後継者問題は特にそう感じさせられ
−79−
た。
指導機関の役割については、EU統一のクオータ制度や安全性の問題など日本と共通す
る部分も多いが、こうした問題のほかに各州によっても法律がまちまちであり、複雑多岐
にわたるその対応に適正な指導が求められている。指導の有料化に見合った重要な任務を
背負わされており、それに沿った体制も確立されていたように思われる。
最後に、この18日間の研修でヨーロッパの畜産を語り尽くすことは出来ないにしても、
凝縮された貴重な体験を単なる有意義な研修に終わらせることなく、今後の経営指導や畜
産振興に活かせるように役立てていきたい。
福島県畜産課 大 谷 秀 聖
私にとって今回の研修は、海外に行くこと事態が初めての経験で不安もあったが、ヨー
ロッパの畜産を自分自信の五感で体験できるという期待感が勝り、EUの新たな共通農業
政策(CAP)や環境関連政策などの若干の予備知識を一夜漬けで詰め込み、 9月11日午
前10時10分、成田発フランクフルト行きの便に飛び乗り、いよいよ研修がスタートした。
今回、ドイツ、フランス、イギリスを訪問して最も驚いたことは、いずれの国も山でな
く丘陵地となっており、広大な畑地と牧草地(放牧地を含む)が延々続いていること、さ
らに、ベルリン、ミュンヘン、パリ、ロンドンといった世界的な大都市でも、その周辺地
域は、緑の大地に囲まれた教会を中心とした小さな町があるだけで、日本のように住宅や
工場等が都市部はもとより農村地域のいたるところまで浸食していないことであった。ま
た、ある町では、数百年前に建てられた建造物、石畳の道路等が中世のヨーロッパの雰囲
気を漂わせながら残っており、畜産農家もベランダを美しい花で飾った石造りの家に住み、
やはり石造りの畜舎や収納舎等を利用して畜産を営んでいることにも感動した。
ヨーロッパにおける畜産の全体的に言えることとしては、畜産農家は 30 ∼ 70ha の農
用地を所有し、近所に一般住民も少ないことから、畜産部門における環境保護条件は着実
に厳しくなり、その対応も必要となってはいるものの、現段階での環境保全問題は日本と
比較すればその深刻度は低いという印象であった。
したがって、畜産農家にとっての最大の課題は、EUの新たな共通農業政策(CAP)
の下における生乳の生産調整(生乳生産クォータ制度)の強化、乳製品や牛肉の介入買い
上げ価格の引下げ、さらには、生産過剰に伴う豚肉価格の低迷等の厳しい環境の中、高品
質かつ安全な畜産物をいかに低コストで生産し、高付加価値化による流通・販売まで展開
できるかであり、その実現に向けて畜産農家(有限会社等を含む)の様々な取り組みや、
流通関係者の徹底した衛生管理等について、彼らが目を輝かせながら自信をもって説明す
る姿をまのあたりにして、大いなる感銘を覚えた。
これらの中で、特に印象深かったものは次のとおりである。
まず、家族的な酪農経営においては、生乳の生産調整と乳価が低いレベルに抑えられて
いる状況の下で、①農家と民間の研究機関との信頼関係に基づき、フレックフィー種(当
−80−
該研究機関で改良した乳肉兼用種)の導入による高品質の生乳と牛肉を生産している事例
〈ドイツ〉、②銀行の借入金により親から継承した農場を1人で切り盛りする若き経営主が、
規模拡大のため仲間との共同経営を目指す事例〈フランス〉、③自宅の地下に加工処理機
械を設置して牛乳、ヨーグルト、チーズ等の製造・販売まで行っている事例〈フランス〉
などであるが、これらは日本における酪農経営にも応用できるものであり、研修の成果と
して今後の業務に役立てていきたいと考える。
次に、流通施設で最もインパクトがあったのは、ドイツにおける民間の会社(旧東ドイ
ツの国営会社で、ドイツ統合後、西側の民間企業に買収され現在に至る。 [現在と旧東ド
イツ時代を比べると、従業員数は 1/6 、生産量は 1.5倍] )であった。この会社は、屠畜
の業務から部分肉やハム・ソーセージ等の製造・販売まで行っているが、その衛生管理の
徹底振り(機械等の洗浄・消毒は外部業者に委託して毎晩実施)、製品の品質向上に向け
た取り組み(公的と畜場で実施されているコンピューターによる枝肉品質測定装置の導
入)、販売戦略の展開(①新製品の開発 [特にコンビニ部門をターゲット] 、②旧西ドイツ
への進出による販路拡大 [大手スーパーとの連携強化] 、③消費者への原材料の品質保証
[牛・豚の産地や飼育方法等] 等)などの説明を聞いて、日本における第三セクター方式の
食肉センターで、現在、厳しい運営状況にあり早急にその改善が求められている場合には、
新たな民間活力の導入による経営活性化も一つの選択肢ではないのかと思った。
この他にも、①酪農経営からガチョウ、アヒル飼育とフォアグラ製造・販売へと転換し
た経営体、②家族でのチーズ製造から本格的なチーズ製造会社(酪農家からの出資もあり)
を設立し、観光との連携を図りながら伝統的手法によるチーズ等を製造・販売している経
営体、③肉用牛経営に加えて、グリーン・ツーリズムの一環としてレストランと民宿を取
り入れた経営体など、畜産を巡る厳しい環境に対応し、新たな経営スタイルを確立した事
例として研修してきた。
これらの経営体は、単に畜産物を生産するに止まらず、消費者のニーズを的確に捉えて
その加工・販売まで行い、より高い所得の確保を目指したスタイルへと進化したものであ
る。日本においても昨年制定された「食料・農業・農村基本法」の中では、消費者重視の
食料政策の展開が明記されており、今後は、畜産農家も消費動向を把握した上での生産・
流通システムの構築が不可欠であり、その実現のためには、農業団体、指導団体、行政機
関等におけるマーケティング部門の充実・強化が極めて重要であることを痛感した。
以上のように今回の研修は、私に、貴重な体験をもたらしてくれたわけで、この体験を
畜産はもとより農業・農村の発展に向けた各種計画の策定、施策等の構築などに十分生か
していきたいと思う。
なお、研修中に起きた「ロンドンのパリントン駅での爆破予告事件」と「ロンドン発フ
ランクフルト→バンコク経由成田着事件」も私にとって一生忘れられない思い出になるで
あろう。
−81−
茨城県畜産会 生田目 一 博
今回海外畜産事情研修に参加することになり、畜産に関することを始めとし数多くの日
本では経験のできないことが体験できたことにある。
ヨーロッパの長い歴史のある社会、地域の畜産の位置付けや畜産を取り巻く環境がどの
ような背景によって畜産が展開し発展してきたかを文化や生活、習慣を含め何でもいいか
ら見て聞いて吸収してやろうという意気込みで研修に臨んだ。
学ぶべき・見習うべきことは数多くあったが、ヨーロッパと日本の違いが肌で実感でき
たことが最大の収穫であった。
はじめてみるドイツ、フランス、イギリスの街並み、農村の景観のすばらしさが目に焼
きついている。歴史的建造物が建ち並ぶなか、石畳の通りに面した家々が白いレースのカ
ーテンと窓辺に季節の花が飾られるなど、いかにも人に美しくみせるかを競いあっている
かのように見える。そして街を一歩でると広大な牧草地が広がりその広さに感動した。
さて、ヨーロッパの畜産をとりまく状況は、日本と比較して同様な問題を抱え、大変厳
しい情勢であった。経営形態は、穀物、飼料作物と畜産(酪農、肉用牛、養豚など)との複
合経営が大半を占め、広大な耕地と結びついた畜産の姿をまのあたりにし、潜在的に自給
率の高さを実感した。訪問した3カ国ともEU共通の農業政策(CAP)において輸入自由
化対策、生産過剰の問題、環境問題等に取り組んでいる。
しかし、このように厳しい状況下においても経営に自信を持ち前進している姿を見て非
常に感銘した。
酪農では、EU諸国におけるクオータ制度下の総生産乳量規制や低乳価などが、生産農
場の経営の規模拡大を拒むとともに、増収の道も閉ざしているように思われた。しかし、
このような環境の中でも政策に不安・不満はあるものの経営に対する向上心、自助努力と
して日本の農家では少ないが、生産から販売(生乳・加工製品)加工施設を持ち、独自の販
売先を開拓するなど努力によって補っている姿に不屈な農民魂を見た気がする。
養豚では、旧東ドイツのみでEUの環境規制及び生産基準の中において独自の生産意識
を持ち環境や地域景観に配慮しながら農場を続けている。特に感じたことは消費者に安全
でおいしい食肉を提供することが生産するものの務めであるという認識を持っていること
であった。
肉用牛については、病気の問題(狂牛病の発生)、食肉の表示、価格補償制度の見直し(所
得補償制度への変更)など課題が山積している。しかし、生産環境が厳しい中にあっても
誇りと自信を持ち経営に取り組んでいる。
ドイツ、フランス、イギリス3カ国の畜産は、それぞれ多少の違いはあるもののEU農
業政策により生産農場が管理され安全性を追求している。日本でも食品の安全性が消費者
から求められつつあり、EUと同様、畜産物の表示及び製造方法の管理ができる体制を整
備する必要があると思われる。
指導機関については、それぞれの国によって指導方法・指導内容が違い一概にいえない
が、生産面の技術指導にとどまらず衛生管理・環境対策・行政政策など農場のニーズにこ
−82−
たえるため、幅広く総合的な指導体制をとり、あらゆる面から農場を支援していたことで
ある。
また、指導機関は半官半民の組織から生産組合・民間の指導機関と様々な形態があり、
それぞれの機関が会員からの会費等の負担により運営されていたことが印象にのこった。
今回の訪問は、時間的制約や通訳を通じてのコミュニケーションが主だったため、ヨーロ
ッパ農業のほんの一部に触れたにすぎないが、直接、農業の現場・指導機関の現状を見聞
きできたことが貴重な経験であった。
今後は、短期間であったが研修で得た知識と経験を業務に少しでも生かせたらなと思っ
ている。
群馬県畜産協会 塩 原 広 之
今回の研修は、改めてヨーロッパの畜産の先進性、ひいてはわが国畜産に求められてい
る課題を再認識する絶好の機会であった。その第一は、消費者が求めている安全・安心を
いかに具体化した形で実現していくかである。食品市場がグローバル化し、消費者が食品
の出所や成分について非常に高い関心を示す傾向が強まっている中で、指導機関、生産者
団体、生産者それぞれが共通の認識をもって努力をしている姿は、まだその認識が一部で
しかないわが国が学ばなければならない大きな課題であろう。BSEという克服困難な病
気があったとはいえ肉牛の個体識別システムを非常に短期間に立ち上げ、さらには生産か
ら販売までをトレースするシステムを立ち上げようとする動き、フランスのランジスのよ
うなマーケットでさえもHACCPシステムを採用するという見識には、大いに感心させ
られるものがあった。
第二に、自然環境との調和が畜産事業を進める上での大前提であるということである。
自然環境を保全し、家畜にすごしやすい場を与えるという姿勢が消費者の共感を呼び、と
もすればコスト競争に走りがちな国際貿易商品である畜産物に、独自の付加価値をつけて
いく、という事業の展開は、ただ単に生産費や収益性だけで畜産経営を評価しがちなわれ
われにとっては、今後の日本の畜産のあり方を十分考えさせた。ドイツで見たエコロジー
農場、イギリスにおける動物福祉にもとづいた独自のスタンダードなど、畜産物の質をよ
りいっそう追求していくという姿勢は、すべてが合理的であるとはいえないものの、今後、
消費者を引き付ける重要な要素であり続けるものと考えられた。
この研修では、同じEU圏内でありながら、やはり国によって畜産の置かれている状況
がかなり違うものだということも、当然ながら強く感じたのであった。EU推進の旗手で
あるドイツではEUの定める基準を当然のように遵守していた、あるいは遵守することが
当然のように考えられていたようだが、それにはあまり積極的ではないイギリスでは、E
Uとスタンダードが違ってもまったく意に介さず、独自のやり方を押し通そうとしている
ような感があったのは、興味深いことであった。また、同じドイツ内でも旧東ドイツと旧
西ドイツの畜産の違いを際立って感じた。旧東ドイツで訪れた農場や工場では、体制の変
−83−
更に伴い大きな変革の波にもまれたのであろうが、その変革を乗り越えて自己努力でなん
とか生き残っていこうとする強い意欲が感じられた。一方、旧西ドイツで訪れた農場では、
長い畜産の歴史を感じさせながらも、守旧的でやや硬直的な経営であるような印象を受け
た。
優れた指導組織の存在が畜産に欠かせないものであることを再認識した研修でもあっ
た。旧西ドイツバイエルン州の人工授精所とその傘下農家の訪問では、よく組織化された
指導が行われているように感じられた。特に訪問農家の内容が人工授精所に非常によく把
握されており、このような状況が日本にあるものだろうかと思った。フランスの農業指導
組織も生産者のニーズの把握を第一に考えていることがよくわかった。また、いずれの国
の経営主も良くしゃべったが、その話す内容がEUや国の政策から純粋に技術的問題まで
非常に的確であったことは、裏を返せば情報の伝達がうまくいっているということであり、
その点で指導組織の充実ぶりを感じた。
どの国でも圃場が良く整備されていたことも印象的であった。なだらかな丘陵は一見し
たところでは荒廃地などなく、みごとにひろがるトウモロコシ畑や牧草地、放牧地は、さ
すがに三圃式農法時代からの歴史を感じさせるものであった。
畜産物の売り渡し価格や生産費等を聞き、また、物価水準等を体感してみると、個人経
営農家の実質的な農業所得はいずれの国も日本と大きく変わらないのではないかとも感じ
られた。農業人口の減少と高齢化、後継者の問題や大規模化による環境問題への対応など
日本と多くの共通項があることが感じられたのも収穫であった。そして最も違うこと、ヨ
ーロッパには「畜産」という「文化」が根付いていることを感じさせられたのは最も大き
な収穫であった。
山梨県畜産会 深 沢 公 男
成田からドイツ・フランクフルトまで約11時間(時差8時間)、ヨーロッパは、つくづ
く遠いと感じながらも、農業に関しては、各国で制度・取り組みに違いはあるにせよ、こ
れに携わる指導者や農業者の真摯な考え方は日本と共通するものがあった。
訪問した国で共通して感じたことは、土地基盤の広大さである。行けども行けども続く
平らな土地、その中に広大に広がる草・耕地では、牧草、トウモロコシが栽培され、牛が
のんびりと草をはむ姿、また、西洋建築そのものの住宅、いずれをとっても、とりわけ絵
葉書にでてくる風景で、長い歴史と伝統に培われたヨーロッパの農村風景の1コマとして
心に残った。しかし、こうしたスケールの大きな生産基盤に支えられてきたヨーロッパ農
業も、EU統合を機に共通農業政策の下、クオータ制度、農産物品質保持のための表示制
度(原産地証明等)導入など規制の中での経営を余儀なくされている。日本でも規制の差
こそあれ、同様な制度は存在しており、これに対応した農家指導が、フランスの農業会議
所に代表される指導機関で一元的かつ専門分野別に行われている点は、参考とすべきもの
−84−
である。
この外、農家に対しては、所得補償制度が充実しており、農家経営存続の一翼を担って
いる。農家の現状を散見する限り、この補償制度に対する不満は一部にはあったが、総体
的な印象からすると、加工部門を取り入れた多作目との複合経営、グリーンツーリズムな
ど農家自身賢明な努力によって生き残りをかけようという謙虚な姿があり、感銘を受けた。
今後とも、農家支援は、共通農業政策を基本として行われることになるが、近い将来、
生産基盤、社会情勢を異にする中東欧諸国のEU加盟も検討されており、諸施策が加盟各
国の利害は別にして迅速に実行されるかどうか心配な面もある。いずれにしても、食糧の
根源である農業の生産基盤を守り続けようという強い意思は、ひしひしと伝わってきた。
後継者不足、畜産物価格の低迷、環境問題は、ヨーロッパ、日本に共通する事項で、特に
環境への取り組みは、ドイツでの第三セクターによる地域ぐるみでのECO農産物の生産
など、見習うべきことが多かった。身近なところでは、どこの国へいっても家の窓際のテ
ラス、畜舎の回りには、花(ゼラニウム等)があり、これが誰からの押しつけではなく整
然となされていた。日本でも、ヨーロッパとは、文化・風習の違いはあれ、こうした些細
な取り組みを第一歩として、都市住民の畜産業への理解が深められるのではないかと感じ
た。
また、人との関わりでは、どこの訪問先へいっても熱烈な歓迎を受けたことが印象深か
った。酪農家では、牛乳はもちろんのこと、チーズ、ヨーグルトの試食、カモ・ガチョウ
生産農家等では、地域で生産されたワインとともにフォアグラを食味した。このフォアグ
ラは日本では高級食材で、私にとっては到底、食すことができない一品で、貴重な経験を
させていただいた。
最後に、今回、ヨーロッパへ訪れる機会に恵まれ、その国の風土、歴史、農業情勢を肌
で実感できたことは、貴重な財産として今後の業務に生かし、微力ではあるが畜産振興に
努力していきたいと考えている。
長野県畜産会 大 川 栄 一
私にとって今回の海外研修は折角の機会であったので、単に畜産の事項のみならず、各
国の歴史や生活習慣、人柄、考え方等、内面的なものまで接する時間が持てたらと思って
いた。また、訪問先に伺う時には、私が日常接する我が国の畜産農家に向ける目で見たい
と考え臨んだ。
まずドイツ、フランス、イギリスと訪問した中で共通して感じたことは、どの国も住宅
や畜舎について、古い歴史のある施設を大事に活用している点であった。構造は効率の良
いものばかりではなかったが、畜舎内外の環境から庭や窓辺の花壇に至るまで手が行き届
き、畜産の存在が地に付いたものであること、また、生活習慣や文化にも落ち着きと深さ
を感じた。
訪問先で観光とチーズ工場を併設した場所に行った時のこと、偶然に当地の観光客と一
−85−
緒にビデオを見た。その古い映像は山岳地帯の小さな山小屋で製造された丸い大きなチー
ズを背負った老人が、みぞれのなか街に売りに行く描写であったが、その時、観光客から
はなんともいえない感嘆の声が漏れてきた。このような経験は私の田舎で昔の稲作風景を
お年寄りが見て反応していたものと同じで印象に残っている。ヨーロッパの畜産の存在と
変貌ぶりをイメージとして体験できた瞬間であつた。また、ヨーロッパの畜産は、我が国
における畜産とは異なり、地に付いた生活そのもので「ヨーロッパの畜産と日本の畜産」
という観点では足りず、「ヨーロッパの畜産と日本の稲作」という水準で語る方が適当で
はないかと思い始めている。
研修期間中、訪問先では快く迎えて貰い、もてなしも受け感謝をしているが、海外では
言葉の壁が私のような凡人にはつらいこととして体験できた研修であった。観光旅行では
不自由さのない会話が、研修には特に重要で、幸い通訳には恵まれ事無きを得たが、相手
の気持ちは分かっても、直接表現のできないもどかしさはずっと持っていた。しかし、言
葉の壁も真剣さと時間があれば克服できるとの感じは、今回の研修を通して得られたと思
う。
EU各国の畜産情勢は先に述べた日本の稲作と同じく過剰生産の状況にあるが、畜産農
家の置かれている立場は、牛乳生産枠の制限、原産地に対するこだわり、食品衛生などの
事項等で、EU内における多国の交渉や共通的政策の実施により、我が国よりかなり厳し
いとの印象を持った。また、意外であったのは耕地面積が数十ヘクタールと広大で、かつ
飼料の穀物を自給しているのにも関わらず採算が取れない状況は、我が国の稲作経営とよ
く似ている。我が国の畜産については穀物の確保などで加工的な要素が強く、ヨーロッパ
の畜産とは比較のできない特殊な体系であるとの認識も改めて現地で感じてきた。
EUの共通政策は各国の畜産に大きく影響している。概して同じ政策で取り組んだ場合、
我が国では均一化や個性を失いがちになると思っていたところ、EU各国の畜産農家の状
況は違っていた。共通政策の受け止め方や進め方も各国によりかなり違いがあり、また、
国の中でも州により法律まで異なるという国民性からか、ヨーロッパの各地の取り組みに
は独自性がみられた。同じ乳製品の取り組みにしても地域の特色や良さを前面に出したア
ピールや、グリーン・ツーリズムの考え方にしても歴史上の史跡などを繰り入れた取り組
み、また、牧場施設の貸出しの試みなど、個性豊かな対応を見せてもらい大変参考になっ
た。
正直なところ文化的にも、また、髪の色や体格でも違和感のあったヨーロッパであった
が、田舎の畜産農家の庭先で時間をかけ顔を見ながら接し、飾り気のない野良着で対応し
て貰っている内に、親近感と異文化に対する理解が段々と深まったような気がする。これ
は「百聞は一見に如かず」と言う表面的事項に限らず、当初に私が期待していた内面的な
ものについてでもある。
最後にこの研修で最も印象に残った事項は、旧東ドイツ領の農業協会で、町長を含む指
導関係者と畜産について時間をかけ討論できたことである。
現在、旧東ドイツ領は東西ドイツ統一とEU共通政策と言う大きな二つのハードルを超
えなければならない苦しい段階にある。国の補助で成り立っていた旧東ドイツ時代の畜産
−86−
に経済性と効率化を導入した結果、若者の農業離れがおこり後継者がいないばかりか、指
導者まで不足している状況になった。その中で農家の収入を他産業と同水準に近づける努
力がされている。また、旧東ドイツ領の農業や畜産の位置付けは、食糧生産の目的より環
境保全の役割で論じられることもある等、生々しく、本音で眼を輝かせて、一緒に討論が
できたことは今回の研修で貴重な私の体験になった。また、この人たちとは続けて話して
みたいと思った。
岐阜県畜産会 山 田 英 信
今回、海外畜産事情研修に参加することができ、本当に嬉しく思っている。事前研修で
は資料を頂戴するにも充分な勉強もせず、期待と不安が入り交じる中、9月11日、ルフト
ハンザ航空機のレカロシートに身を任せ、ヨーロッパへの旅立ちとなった。見ること、聞
くこと、初めてのことばかりで、ドイツ、フランス、イギリスの3カ国を訪問して、それ
ぞれの国の畜産事情を充分に理解できたわけではないが、想像以上に「歴史」を感じ、そ
れぞれの国の伝統と文化、習慣、そして人間性を味わえたことは、かつてない経験で、こ
の研修に参加できたことの喜びをあらためて実感できた。さらに移動のバスの窓から、列
車の窓から写る広大な耕地と、いたるところで目にする家畜の放牧風景に心安らぐ気持ち
になったのは、私のみならず同行した15名の仲間も同様であったに違いない。また、訪問
先に限らず、農場のガーディング、家々の小窓の花、街全体がおとぎ話の絵本にでてくる
様な環境造りに努め、街行く人も間近の牛や羊に気をとめることもなく自然に暮らしてい
る姿はとてもうらやましく感じた。
さて、畜産事情については、日本の畜産情勢もあらゆるところで、高齢化、後継者不足、
環境対策等々、耳にたこができるほど聞いてはいるが、今回、特にEU共通農業政策に始
まり、家畜伝染病対策、通貨の統一による賃金の安い農業国との競争など、さらには日本
と同じような問題を幾つも抱えていることがあり、想像以上に厳しい状況にあると痛感し
た。
しかしながら、訪問した農場では、酪農部門では限られた生産枠の中、付加価値をつけ
るため、共進会に積極的に参加し賞を獲りPRするとか、オリジナルのチーズを生産する
などの技術、環境を生かした経営戦略に努力されている姿、さらには生産による収入のみ
ならず、民泊施設、レストランなどの部門での副収入を確保していたことは、日本とは大
きく違った様に思えた。また、フランスの酪農家では、28歳の青年が準備した質問とは裏
腹に副業の「タバコ栽培」についての話がしたい様で、時間も限られている中、酪農部門
を終えると即座に我々をタバコ乾燥室へ案内し、誇らしげに説明をしていた。しかし、良
質なタバコ生産も堆肥のおかげだといい、将来は若い同志で規模拡大し、たくさんの牛乳
を生産したいと大きな夢を語り、たまの休みには彼女とデートもするんだと自慢していた。
厳しい情勢にも日々忙しい中にも畜産を営みながら希望とゆとりをもって今の若者らしい
生活を送るため努力していのに感銘した。
また、イギリスの肉用牛農家の訪問には、雨の降る中、親父と息子の2人が牛舎の中で
−87−
我々の対応をしているかたわら、そわそわとお祖母さんが暖かい紅茶とケーキやお菓子を
準備し、それを頂いた時の安堵感は日本のそれと変わりなく、とても印象的であり、とて
も嬉しい出来事であった。
多くは語れないが、海の遙か遠い国での畜産はとてつもなく計り知れないものであった
が、今回の研修でとても身近になり、私自身一回り大きくなったような気がし、その成果
をもって今後の農家指導に努めたいと考えている。また、同行した15名が一緒に行動をと
もにし、時には大笑いできた仲間をつくれたことがとてもおおきな財産となった。
三重県畜産会 岡 田 拓 巳
今回の海外研修で私が最初にヨーロッパを感じたのは、フランクフルト着陸前、機中か
ら見えた広大な農地とその一角に住宅らしき建物が散らばり、こんもりとした森が点々と
形成されている様子であった。その風景には、豊かな自然環境と農村の長い歴史を感じさ
せるものがあった。視界には高い山は見えず平坦に続く農地の広さに圧倒され、海外研修
が始まったという実感が沸いてくると同時に、ヨーロッパの畜産に触れることへの期待と
訪問先での対応への不安とが頭の中で交錯した。
研修が始まり驚かされたのは、各国各地域によってあまりにも食文化が違うことであっ
た。話には聞いていたが、そのボリュームとジャガイモに悩まされながらの食事は研修期
間中、団員の唯一の楽しみでもある。また、食事の内容からその土地の気候風土まで話題
に上り、日本で食事をするより食材を良く噛み締めていたのではないかと思う。
訪問先では、畜産経営者や指導機関担当者から熱心な説明を受け、国により気質の違い
は感じられたが好意的に私たちを受け入れてくれた。酪農経営は、訪問した3カ国(ドイ
ツ、フランス、イギリス)それぞれの国で訪問する機会があったので、訪問先の経営ある
いは地域における取り組みについて述べたい。
酪農経営では、EUの共通農業政策(CAP)によって、国別に生乳生産量が割り当て
られており、これを基準に農家が乳業者に出荷する生乳量も生産調整されている。個々の
経営は、厳しい経済環境下で規模拡大により収益を増加することは難しく、乳価自体も低
迷を続けているため、多作目との複合経営や加工・販売といった方法で地域の特色を活か
し、個々の経営努力により畜産経営を維持していることが良くわかった。
ドイツで訪問した酪農経営は、穀物生産との複合経営を行い、乳肉兼用種であるフレッ
クフィー種(ドイツにおけるシンメンタール種の改良種)を飼養することで肉牛販売によ
る収入を確保している。生産性向上のためフレックフィー種試験研究組合も設立されてお
り、産乳・産肉能力の改良が行われていた。
フランスでは、チーズを主として乳製品の製造・販売、おまけに宅配まで行う経営やタ
バコ栽培との複合経営を行う経営、グリーン・ツーリズムとして民宿経営を行うところを
訪問した。フランス人の気質なのか熱っぽく施設の隅々まで説明する姿は、どの経営にも
自信と力強さを感じた。また、アルザス地方のバーラン県農業会議所では、生産物の質を
−88−
重視した指導を行っており、高付加価値農産物生産のため技術者による農家指導が行われ、
農産物による地域おこしの一端が窺えた。
反面イギリスでは、高齢化や生乳価格の低迷を背景として離農する経営から耕地を借り
入れ、牛を買い取ることで出荷クオータを確保するテナントファーム方式で急成長した農
場を訪問した。ここ数年で飼養規模は、1600頭から2800頭に急成長を遂げているという
説明を受け、EUにおいても畜産を取り巻く環境が、特に昔からのファーマーにとって良
好な状況であるとはいえないことも実感した。
EUの畜産経営においても畜産物価格の低迷、生乳の生産調整、後継者問題、環境問題
等日本同様の課題を抱えていたが、制度を真っ向から批判するのではなく、問題を解決す
るための努力を農家自ら行っていることに畜産へのこだわりとプライドを感じた。また、
ドイツのブランデンブルク州農業協会で「消費者の目は動物愛護といった面に重点が置か
れ、食料供給が重要とはいえなくなっている」「農業のステータスが昔とは異なっている」
という話が出た。日本においても生産性向上だけの畜産ではなく、これからは地域・環境
と調和のとれた畜産という難しい壁に挑んで行かなければ生き残っていけないということ
を考えさせられた。
愛媛県西条家畜保健衛生所 藤 岡 一 彦
研修の出発日が間近に迫り、予備知識の習得を重圧に感じながらも訪問国の概要を知る
につれ、それまで漠然と持っていたEUの畜産は日本の規模に近いという認識は大きな誤
りであったことに気がついた。今回の研修の目的は「畜産に関する経営技術指導の実態」
を研修することが主題であったが、誤った認識と実態とにはどれだけの違いがあるのかと
いうことと、経営者や指導者の畜産に対する取り組みを実際に感じてみることを自身のテ
ーマにすることにした。
研修によって最初に認識した誤りは、農家が所有する土地の面積である。最初の訪問国
であるドイツでは移動する車外に広がる農地の雄大な光景に圧倒され、事実、訪問先の農
場が所有する農地の面積は50∼100ha前後と広大で、日本とは比較にならないことを痛感
した。それは後に訪問したフランス、イギリスでも同様であった。土地基盤があれば自給
飼料を生産し、糞尿処理問題も容易に解決することができる。訪問した農場では耕種部門
との複合経営を行いながら、まさに資源循環型の畜産が余裕を持ってできているように感
じられた。
次に感じた違いは畜産経営を取り巻く環境であった。自然環境のなかで農家は比較的ゆ
とりのある経営をしていると認識していたが、実態は、EU共通農業政策のもとでここ数
年間は乳価、肉畜価格の極端な低迷に加え、価格維持の生産調整等により経営的には増収
が望めない状況にあり、非常に厳しい環境にあることがわかった。しかし、そのような環
境の中にあって訪問した農場では、経営の存続のために品種の改良や施設の改善を行い、
積極的に生産性の向上に取り組む一方で、付加価値のある加工物を生産、販売し、また、
−89−
グリーン・ツーリズムの民泊施設を経営するなどして他の収入を確保する経営が多くみら
れた。特に酪農経営が生乳出荷だけでなく自ら処理加工し、チーズ、ヨーグルト等の乳製
品の生産、販売を行っていることに感心した。このような経営者の姿勢に対して、指導機
関の役割や取り組みについては残念ながら充分に把握することができなかったと思う。畜
産研究所や農業会議所等における業務の概要は把握できたものの、現場における畜産経営
との具体的な接点や指導の取り組みに関しては、思うような実態が浮かびきらないまま不
完全燃焼に終わってしまった。
研修を通して最も印象に残っているのは、農場の経営者が安全性の意識を非常に高く持
っており、安全で良い飼料を与えた家畜から健康な畜産物が生産できるという強い信念を
持っていたことである。これは長い歴史を持つ食肉文化による社会全体の認識であろうし、
近年、特に高まっている消費者からの安全な生産物の要求によるとも思われるが、いずれ
にしても安全で健康な畜産物を生産することに経営者が自信と誇りを持っていることが感
じられた。その経営を支えているのはやはり土地基盤であり、飼料自給、生産コスト、家
畜の損耗、糞尿処理、環境保全等の日本の課題は、どれもそこに起因しているように思え
る。
研修を終えて、EUの畜産経営が厳しい条件の中で生産性の向上と環境調和に取り組ん
でいる実態を知ることができ、今回の研修で得られたことは数少ないけれども貴重な経験
であったと思う。条件の異なるEUと本県を比較することには無理があるが、豊かな畜産
経営とはどのようなものか考えながら今後の業務に役立てていきたいと思っている。
愛媛県畜産会 高 橋 勉
今回の研修では、ヨーロッパの畜産の成り立ちやEU統合から大きく変貌を遂げつつあ
る農業・畜産の実態を目の当たりにして、自分の頭の中にあった印象とはほど遠いもので
あったのに改めて驚かされた。
EUの生産動向は、旧東ドイツでは戦後の社会主義体制下で、農用地が集団農場や農業
生産共同組合に提供された。その後、1991年東西ドイツの統合により解体し、農業調整法
により約2万6000の個別経営体ができ、1996年以降は信託公社が管理する農地の払い下げ
が行われた。このような制度改革により、農家戸数は減少傾向したものの、農業法人化に
より1戸当たりの農用地面積は180haと大きく、経営規模上位18%の農家が農用地面積の
87%を所有している。今後、東ヨーロッパの開発が進み経済発展が予測され、取引が7∼
8%伸びると予測されている。このため、旧東ドイツは東ヨーロッパに隣接していること
から、耕地は少し痩せているものの、農業法人化され農用地が広大で集約・合理化された
生産方式に変貌しつつあり、大きく発展するものと考えられる。一方、旧西ドイツとフラ
ンスは、家族経営による小規模農家も多く、旧西ドイツの1戸当たりの農用地面積は22ha、
フランスの農用地面積は38.5haとなっている。現在は、商工業の発展や農業専業では経営
していけないことから兼業農家の割合が多くなっている。また、イギリスの農用地面積は
−90−
70.1haとEUの平均17.4haを大きく上回っているものの、最近の傾向は、小規模農家にお
いて、企業に買収され廃業するか、グリーン・ツーリズム等の農外収入により経営を維持
する状況に至っている。大企業の畜産への参入は、生産割当の買上げや農用地の買収・借
地による生産方式となっている。今後、旧西ドイツとフランス、イギリスは、後継者不足、
BSE問題、農畜産物の価格低迷、環境問題、アジェンダ2000による補助金の削減等によ
り農業の発展は考えがたいと思われる。
環境面では、EUの環境対策、特に糞尿処理には厳しい規制があると思っていたが、堆
肥舎を持たない農家や各地で野積みも見られ、以外に簡単な糞尿対策に驚かされた。訪問
した大半農家は、広大な耕地面積を有し、牧草と穀物を栽培し家畜の飼料は充分自給して
おり、糞尿処理はスラリー方式による糞尿処理対策が多く用いられ、還元面積を充分確保
していた。酪農家においては、EUの1984年からの生乳生産割当制度により、生乳生産量
の規制や生産技術の向上に伴う飼育頭数の減少から、還元堆肥の生産が充分ではなく痩せ
地も見られた。この他にEUの環境問題とは、動物の飼育環境(苦痛、飢えや渇き、飼育
密度、日光浴等)や飼育衛生(ワクチネーション、疾病対策、ホルモン剤)、ダイオキシ
ン汚染、遺伝子組替食品等広義な意味を持つものだと強く感じられた。我が国においても
「環境三法」が公布される中、農業の多面的な存在意義は環境に優しく、安全で安心でき
る農畜産物を安定的に供給していくことが求められており、原点に返った農業の生産方式
に改める必要があると感じた。
EUにおける消費者ニーズは、家畜が健全な飼育環境下にありストレスや病気がなく、
しかも、赤肉が多くやわらかい食肉を求めている。この結果、EUの肉牛生産のポイント
は、「どのような飼育環境で肥育しているか」「どのような治療をしているか」等、牛の健
康をチェック・検査し、健康で安全な肉牛生産に取組んでいる。また、登録されていない
牛は、屠畜できないシステムとなっている。我が国の肉牛生産は、濃厚飼料多給型で和牛
が生後30ヵ月齢、乳牛で生後20ヵ月齢程度肥育し、飼料要求率やDG等で経済効率の低い
肉牛を生産している。また、健康面ではビタミン欠乏症による盲目や水腫寸前まで肥育し、
不健康な状態に追い込んで肉質・肉色を改善するという正に芸術品を生産している。今後
は、グルメ、食の豊かさ、高度な肉質等を追求することよりも、家畜の飼育環境と健康管
理および飼料の有効利用等、食の安全性や経済性に配慮した生産方式に改善する必要があ
ると感じた。
EUにおける酪農経営は、1984年からの生乳生産割当制度の中、厳しい生産を余儀なく
されている。このため、新たな生産枠を確保するため、施設面で国の許可を得てチーズ作
りを開始した農家もある。牛乳の販売は自らの手によってチーズ、バター、ヨーグルト等
に加工し、付加価値を付け有利販売している。我が国においても農村の将来を考える上で、
立地条件の悪い中山間地域や離島等において、チーズやバター等の加工を行い、特色ある
村づくりと自らが販売する自立経営の支援をしていく必要があると感じた。今回の研修に
おいてEU3カ国を訪問し、直に見、農家からの声を聞き、限られた時間ではあったが、
実際に体験できたことは、生涯忘れらない貴重な体験と財産となった。今後は、もう一度
課題を整理するなか、新たな気持ちで業務に精励し、本県の畜産振興に役立てたいと考え
−91−
ている。
熊本県畜産会 川 崎 広 通
いつかはヨーロッパに行ってみたいと思っていたが、20世紀最後の2000年という節目
の年に、しかも4年に1回開催されるオリンピックと同時期に研修に参加できることにな
った。つまり結果的に開会式も好きなサッカーの決勝トーナメント進出も、柔ちゃん、高
橋尚子の金メダルもヨーロッパでということになったわけで、畜産事情見聞は当然のこと
ながら頑張ったが、日本の活躍情報も気になりながらの研修であった。いずれにしろ今年
は私にとって大変有意義な年になった。
出発前に今までこの研修会に参加した諸氏から、事前研修会の資料以外の特別講義を受
けていた。食事が違うので太るとか、マナーに気をつけろとかなど様々な助言を受け、自
慢にならないが”体調は万全の状態で臨むこと”というアドバイスだけはほぼ完璧の出発
であった。機内での窮屈な11時間の疲れも、フランクフルト上空から見た初めてのヨー
ロッパの広大な景観ですっかり回復していた。さらに空路でベルリンへ向かったが、機内
では日本語案内もなくなり、自分はすっかり東洋の外人になっていた。
今回は3カ国の研修だったが、まず人の印象を一言で述べるとドイツ人は規律正しく、
規則を守るが堅物。フランス人は陽気で明るいが、いい加減で自分勝手。イギリス人は伝
統を守り、紳士的だが高慢。といったものである。その他、休日に訪れたオーストリアの
ザルツブルグの美しい景色とモーツアルトの調べは今でも目と耳に残っている。また、ア
クシデントによりたまたま足を踏み入れた、タイのバンコックの灯りと唐辛子の味も忘れ
られない思い出となった。
ヨーロッパの食文化の違いについても事前研修で頭の中では十分理解していたつもりだ
った。ただ、実際口の中に入れて食べてみたわけではないし、元来和食派で、少し脂っこ
いものでも腹をこわす体質のため胃袋の反応が心配だった。案の定、初日のベルリンにお
けるオプショナルツアーの夕食から心配が的中した。前菜とビールまでは良かったが、メ
インの豚すね足の輪切り肉、煮キャベツの発酵野菜とバターをたっぷり混ぜた”つぶしポ
テト”(ケーキの飾り付けクリームみたいな状態)、デザートの生クリームこんもりのアイ
スクリーム(量も多いしやたらと甘い)は半分でギブアップした。ただ、ホテルの朝食の
ソーセージ、ハムは種類も豊富で芳ばしくさすが本場ドイツランドといった味であった。
ドイツでは支援組織のブランデンブルグ農業協会を研修したが、そこに出席していた農
家の人が「ドイツも農業協会のほか酪農、養豚、肉用牛など多くの団体があり、なかなか
一つにまとまらないのが不思議」と話していた。日本でも組織統合が進んでいるが問題が
多い。何処も同じかなという印象をもった。
フランスは地域性、個性を大事にしている。家畜は当然のことウサギ、イノシシ、トナ
カイ、海産物、エスカルゴ、フォアグラなど食材も豊富で何でも料理している。また、自
分のところが世界一と自信をもって自慢する。我々日本人もこの心意気は見習いたいと思
−92−
う。
イギリスでは大企業が個人農場を買い取る、テナント方式による会社組織の畜産経営が
増加していた。昔ながらの農家が減っていくことに寂しさも感じたが、我が国でもさらに
生産コストを下げ、品質を高め、収益性を上げるなど企業感覚に優れた農家を育成し、M
LC(Meat and Livestock Commission)のようにそれにも勝る販売努力・普及宣伝もしなけ
ればならないと感じた。
EUにおける畜産物の品質向上とは家畜の飼養環境を整えることとわかった。日本の肥
育牛は無駄な脂肪を付け、不健康な状態で飼われており、見かけだけで価値が決められて
いる。今後は消費者の圧力も高まるだろうし、無理のない飼養環境に改善していくことが
自然かなと感じた。また、耳標なしでは屠殺場にも出荷できないなどデータの管理も周知
されている。我が国でも記帳・記録は経営の基本ということを再確認すべきと考えた。
私の所属する熊本県は特定品種といわれている肉用牛「褐毛和種」の原産地である。全
国的に黒毛和種が多数を占める中で、価格が低迷し頭数が減少している。この「褐毛和種」
は地域の特性を活かした“地域限定の特産物”だというフランス流の自信を持てるように
支援しなければならないと感じたし、また、イギリスのMLCのような施策も検討してい
く必要があると思った。
今回の研修を通して一番感じたことは”やはり日本が良い”ということである。我が国
はヨーロッパと比べて規模が小さく耕地面積も狭いため自給率も低いが、食料生産は生き
ていくための基本であることを再認識した。この良い日本の21世紀のために、アジアの
片隅の島国日本でしかできない畜産を自信をもって誇れるよう、自分なりに微力を尽くし
ていきたいと思う。
鹿児島県畜産会 西 浩 一
私は、海外の研修は平成5年に1回、今回の研修が7年ぶりの渡航である。初めて訪れる
ヨーロツパの地に期待と不安を抱きながら9月11日、成田国際空港からフランクフルトに
向けて出発し、18日間の研修が始まった。飛行時間は約11時間半。やがてフランクフルト
上空にさしかかってきたとき、ふと見下ろすと区画整理された広大な農地が見渡すかぎり
一面に広がっているのに、まず圧倒された。
ドイツやフランス及びイギリスのいずれの国も平坦地が多く、国土面積の5∼7割を農
用地が占めるだけに高い食料自給率を誇る。バスの窓から見える景色は、なだらかで見渡
す限りよく整備された牧草地やトーモロコシ畑で、その中にポツンと羊や牛の群が目に入
り、和やかな畜産経営を想像させる。また、日本で自分が知っている畜産経営と、広大な
土地で穀物を自給しているヨーロッパの畜産経営とでは、単に数字の上で比較するものの、
経営構造が大きく違うことも実感した。
農家を訪問した最初の印象は、畜舎施設には過剰な投資はせず、古い建物は農家が自慢
するだけに、歴史を感じさせる。機械・器具もよく手入れをして大事に使用しており、派
−93−
手さのない畜産経営に感心した。
また、住宅の窓辺やベランダ、道路脇にも花が飾られ、とても美しい村が多く、そして
何よりも日常生活の中に、環境美化がごく自然に行われていることが大いに参考になった。
日本の農家・農村もこうあってほしいし、そのような指導も必要、と感じた。
研修が進むうちに、直面しているヨーロッパ農業の厳しさも知ることができた。それは、
1999年からの通貨統合の影響、狂牛病による消費減と価格低下、牛乳の生産調整、地下水
汚染防止による糞尿の土地還元規制、動物愛護による飼養環境の規制、農業や製造業の経
済的ダメージが大きく、訪問した肉用牛繁殖農家では補助金部分しか利益が残らないとい
う経営の厳しさ、農家の収益率が低下し、一部の養豚経営では赤字が発生しているものも
あるということや、農家の失業が増えつつあるなど、農家も指導機関も苦悩しているよう
に感じた。
また、畜産に対する社会ニーズが、安全性や環境保全を重視するようになり、それに自
然保護、グリーン・ツーリズムなど、自然環境を重視した畜産経営の位置づけと、その展
開が今まで想像していた以上にすばらしく大変参考になった。
経営形態も厳しい条件の中で専業経営、複合経営、経営の付加価値を高めるために、酪
農経営とチーズ・バター工房、畜産と民宿経営というような組み合わせで、工夫しながら
経営の維持を図るなど、畜産経営に対する考え方と「魅力ある畜産経営」として夢が大き
く広がったようで、大いに参考になった。
また、山岳酪農を研修したときに、畜舎の入り口のコンクリート床に、後継者である子
供時代の足跡を彫り込んであったのが印象的で、先祖代々、経営を引き継ぐのに自然と後
継者を育てている、という感じがした。
研修した農家は水準の高い農家だからなのか、ゆとりと自分の経営は自分自身で切り開
いて行こうとする気概と誇りを感じた。
また、イギリスで訪れたMLC(食肉家畜委員会)は、生産者、食肉業界、消費者で組織さ
れているのに驚いた。その活動は、効率的な家畜の生産、屠場からキッチンまで食肉の生
産から流通にいたる研究の場として、また、マーケッティングの拠点として、消費者のニ
ーズを研究し、販売促進につなげようとする一貫したシステムは、我が国では考えられな
いような活動を行っていた。
関心のあった狂牛病の影響は我々の想像以上に大きく、それを克服するため、生産され
たすべての牛に耳標をつけて、生産者、生産地、血統などの情報を提示できるようにして、
徹底した安全性の確保に努め、最近では牛肉の消費が回復してきているという。ただ、フ
ランスニュースダイジェストが発行した、9月22日付(現地:フランス)の新聞に、「感
染牛、年1200頭が食卓へ」という記事を掲載してあったのが気にかかる。
最後に、これまでヨーロッパの農業への関心はうすかったが、今回の研修を通じて身近
に感じることができた。今後は貴重な体験をさせていただいたことに感謝し、本県の畜産
振興に役立ててまいりたい。
−94−
地方競馬全国協会 元 田 茂 雄
昭和35年当時、1戸当たりの平均飼養頭数は乳用牛2頭、肉用牛1頭、豚2頭程度であ
っが、その後の畜産情勢の進展等により飼養規模は急速に拡大された。そこで、歴史的、
構造的に、ヨーロッパの畜産を習得すべく海外畜産事情研修が地方競馬全国協会畜産振興
補助事業として昭和43年度から実施され、30年余り経過した今日においても、EU諸国
の畜産実態等から多くのことを学んでいる。
ここでは、今回の研修先から私自身が感じたこと、特に印象深かったことを記述させて
いただきたい。
1.生産者について
販売価格の低迷等により、補助金を受けなくては生活ができないという経営体もみられ
る等畜産を取巻く環境は厳しいと思われる。その中で生き残りをかけ、特用家畜や他作物
を取入れた複合経営の実施、または、生産から加工・販売までといった一貫経営の実施、
農場の買収等によりさらに規模拡大を図る大農場等個々に見合った経営努力を行ってい
る。
2.屠畜・加工業者について
食肉市場の大半を数社の流通販売業者に支配されているところでは、その販路に参入し
なければ発展は望めないという。新製品の開発、製品の品質向上、コスト削減はもとより
生産から販売までも把握しなければならない。例えば、飼養環境の改善および農場から屠
畜処理場までの良好な搬送の指示ならびに流通販売業者の求める製品の容量・形状までも
管理する。‘健康な家畜を良好な状態で処理加工する’ここに経営の執念を感じるのであ
る。
3.指導機関・農業団体について
「経営体自身の意識変化が必要である。旧東ドイツ時代は、国民の食料確保というステ
ータスは存在したが、今は通用しない。まず、EUの補助金の世話にならぬよう農業収入
を向上させ、環境保全、バイオガス、風力発電といった農業以外にその活路を見出したい。
(ドイツ)」、「農民の利益には、生産の技術、経営の技術、製品の品質、社会のための環
境対策、動物の福祉、耕作放棄地等の農業再開発がポイントとなる。(フランス)」、「常
にマーケティング調査を実施し、テレビ、ポスター等の広告により消費者の製品に対する
イメージアップを図る。(イギリス)」との説明が印象に残っている。
現在、1戸当たりの(成畜)飼養頭数だけをみればEU並み・それ以上に規模拡大がな
された畜種もみられる。また、食料需給表によると、国民1人1年当たり肉類で28kg、牛
乳・乳製品で92.3kgと40年前と比べると4倍以上にまで達した。このような伸び率は他の
食品類にはみられない。「より安く」「より安全な」「より健康的な」「よりおいしい」「よ
り簡単に調理できる(食べられる)」等、今後とも消費者からの要求は尽きることはない
であろう。そのニーズに対して、関係各位は全力を尽くさなければならない。
1億数千万人の胃袋を満たすために、外圧、他食品等との競合は避けられるものではな
く、さらに、住民(国民)に信頼され、地域(国土)になじむ畜産業(新分野含む)をも
−95−
築かなければならない。よい方向に推進するには、よい指導、よい提言等も必要であろう。
動かなければ進まない。まずは、あなたの一歩からそしてあなたの地域から・・。
中央畜産会 小田中 久 康
今回この研修に参加させていただき一番印象に残ったことは、旧東ドイツであった、ベ
ルリンの畜産がもの凄くガンバッテいるな!ということであった。
統合前は、規模の小さ農家が多かったが、統合を境にそのほとんどが離農し職を求め西
側へ行き、それら離農地等を現在残っている畜産経営者が引き取り、規模拡大を図ってき
たようである。
しかし、EU政策に併せ規模(生産量)の規制もあり、現状以上の拡大は困難なようだ
が、現状の規模でもEU諸国内でもベルリン地域の規模は相当な多頭数経営を営み、米国
並みの経営形態を持っているように感じられた。
今後、ベルリンの畜産が更にどのように発展していくか楽しみである。
次に、研修に同行し特に感じたことを挙げておきたい。
それは、「研修」をどう捉えるかである。
この研修に参加する研修生は、皆それぞれが各都道府県の代表者として参加し、それな
りの責任感を持って研修に挑んでいる。
その責任感とは、いろいろあるであろうが、私の目にうつったのは、研修先から得られ
る情報を少しでも多く持ち帰るということではないだろうか。
そのために、自らが担当となった研修先については、できるだけ多くの情報を入手する
ことを目的に、事前に「調査」を実施する。
しかし、日本で事前に入手できる情報は、既に紹介されている情報であり、この入手し
た情報も研鑽されていることなどから更に発展した質疑応答が研修先でできる可能性は低
いのではないかと感じている。
研修先では、我々研修生を受け入れるために研修内容をプログラムされているし、もし、
そのプログラムの範囲を超えた質疑応答をするとすれば、我々がどの程度、研修先の情報
としてのプログラム内容を得ていることを相手に伝えることが必要になる。果たして、限
られた時間の中で、通訳を介在しこれらのことが実現できるのであろうか。
勿論、事前に研修先のことを知り、有意義な研修を実施することも必要であるが、それ
以上のことを求め実施すべきなのは、「研修」ではなく「調査」で行うべきと感じる。
この研修は、海外出張に慣れている方を中心に実施するものではなく、極端には、自ら
が初めて海外の畜産にふれる方を中心にしているといっても過言ではないと思う。そして、
渡航に際して求められているのは立派な「調査」をすることでもないと思う。
この研修で成果物として最低必要なことは、限られた時間の中、制約のある質疑応答を
とおして、研修先で見て、聞いたことを出来るだけ正確に持ち帰り報告することであろう。
では、今回の研修で一番反省しなければならなかったのは、何だったのだろうか。
−96−
事前学習ではなかったか。学習といっても、事前に訪問する個々の研修先のことを学ぶ
のではなく、赴く国、地域の歴史・風土・習慣、地理的条件、環境、農業に対する政策な
ど基本的な部分の学習であり、そして最も必要なこととしてウル覚えではなく、事前に最
新の自らの国「日本」の農業生産をおさえておくことが必要であったと思う。
この事前学習をしておくことによって、研修先で話されるその土地の条件や気候・農業
に対する施策などについての基本部分での質疑などなくなり、更に深く本質を聞きだすこ
とが可能となるのではないか。
今回、我々は研修生としてすべきことは行ったし、ベストを尽くし研修に参加し、有意
義に修了できたと胸をはっていいたい。そして、今後、相当しばらくは、海外には行けな
いだろうが、また行ける日まで、この研修で学んだことを仕事に役立てていきたい。
最後になるが、いくら我々がもっとも最高の研修を行ってしまい、来年以降赴かれる研
修生が、我々以上の研修を味わえないであろうとしても、多少の反省すべき点はお伝えし、
より良い研修にしていただくために、反省すべき事を提示して感想と今後の抱負としたい。
−97−
《 付.研修日程 》
−研修経路−
成田
イギリス
◎
ベルリン
ロンドン ◎
ドイツ
◎
◎
パリ
◎
フランクフルト
◎
◎ ミュンヘン
ストラスブール
フランス
◎
ザルツブルグ
−98−
平成12年度海外畜産事情研修事業
研修日程
国 日 月日・曜日 地名
1 9/11(月)
成田
日
本
ベルリン
ド
イ
ツ
2 9/12(火)
3 9/13(水)
ベルリン
ホテル発:9:00
1. Rhinland Agrar GMBH
アグラール農場(養豚肥育経営)
2. OrionGMBH
オリオン農場(肉用牛緊殖・養豚緊殖経営)
3. Landesbaurernverband Brandenburg e.v.
ブランデンブルグ州農業協会
ホテル着:17:30
ホテル発:7:00
1. Eberswalder Fleischwarenfabrik
エバースバルダ食肉処理加工会社
2. Uckermarker Milch GMBH
ウッカーマルク牛乳・乳製品生産工場
3. Geschaftsfuhrer
ブロードヴィン村第3セクターファーム(エコロジー経営)
ホテル着:22:30
4 9/14(木)
ベルリン
5 9/15(金)
ミュンヘン ホテル発:5:40
1. Landeshaupt Stadt Munchen
ミュンヘン市営屠殺場
2. Bayerische Landesanstalt Fur Tierzucht
バイエルン州立畜産試験場(BLT)
ホテル着:15:30
6 9/16(土)
オ
ー
ス
ト
リ
ア
ベルリン
区分
空港集合:8:00(B-62)
結団式:8:20∼9:00
出国手続き:9:00∼9:30
搭乗:9:50
日本出発:10:10(LH711便)
フランクフルト着:14:50(所要時間12時間40分)
フランクフルト発:16:10(LH878便)
ベルリン着:17:15(所要時間1時間05分)
入国手続完了:18:00
ホテル到着:19:00
訪問時間等 交通機関 ホテル
備考
Maritim Pro
Arte Hotel
マリチィム プロ
アルテ ホテル
専用バス 同上
10:00∼11:45
12:00∼12:45
14:00∼16:00
専用バス 同上
8:30∼11:45
13:30∼15:50
17:00∼18:30
ホテル発:7:15
専用バス
ベルリン発:9:00(LH2316便)
飛 行機
ミュンヘンミュンヘン着:10:20(所要時間1時間20分)
専用バス Forum Hotel
1. Pruf-und Besamungsstation Munchen Grub e.v
13:00∼15:00
フレックフィー種試験研究組合
2. Mr.Aidelsbirger Farm
16:00∼18:00
アイデルスバーガー農場(フレックフィー種経営)
ホテル着:18:10
ミュンヘン ホテル発:8:30
ザルツブルグ 1. Kasewelt
カセウェルトチーズ工場
2. Farm Plainer
トプライナー農場
ホテル着:16:00
−99−
専用バス 同上
7:00∼11:00
13:00∼15:00
専用バス Hotel Europa
13:10∼14:10
14:20∼15:25
国 日 月日・曜日 地名
区分
7 9/17(日)
ザルツブルグ ホテル発:9:00
ザルツブルグ市内見学
ミュンヘン ホテル着:16:00
ド
イ
ミュンヘン ホテル発:6:15
ツ 8 9/18(月)
ミュンヘン 中央駅発:7:42
ストラスブール ストラスブール駅着:12:07
フ
1. Chambred'agriculture D'Alsace
ラ
アルザス地方農業会議所
ン
ス
ホテル着:18:25
9 9/19(火)
10 9/20(水)
ストラスブール ホテル発:9:30
1. Les Poies Gras DU Ried
フォアグラ生産農場
2. Ferme Kern
ケルヌ農場(酪農・タバコ栽培複合経営)
3. La Graine Au Lait
ラ・グレーヌ・オ・レ・チーズ工場
4. Ferme De La Plume D'or
フェルメ・デ・ラ・プルムドール農場(フォアグラ生産・養鶏・野菜栽培)
ホテル着:21:30
訪問時間等 交通機関 ホテル
専用バス Forum Hotel
専用バス Mercure Pont
列 車 De I'Europe
15:22∼18:10
同 上
10:00∼11:25
11:30∼12:30
15:25∼16:30
17:35∼18:30
ストラスブール ホテル発:9:15
専用バス Mercure Paris
1. Ferme Herrenstein
10:00∼12:00
La Defens Park
エレンスタイン農場(酪農・乳製品製造販売経営)
2. Ferme Adam
14:00∼15:10
アダム農場(酪農・乳製品製造販売経営)
ストラスブール発:17:10
列 車
パリ
パリ着:21:09
ホテル着:22:00
11 9/21(木)
イ
ギ
リ
ス
パリ
専用バス
ホテル発:7:05
1. Rungis Marche International
ランディス総合卸売市場
2. Mouffetard
ムフタール青空市場
3. Institut de I'Elevage
畜産研究所
ホテル着:17:35
専用バス 同上
7:40∼9:40
10:20∼11:15
14:20∼16:40
12 9/22(金)
パリ
ホテル発:11:00
専用バス 同上
1. Ferme La Recette
15:30∼16:50
ラ・レセット農場(肉用牛・民宿・レストラン経営)
2. Ferme De Fromente
17:40∼18:50
ドゥ・フロマンテ農場(酪農・野菜栽培複合経営)
ホテル着:21:45
13 9/23(土)
パリ
ホテル発:9:30
パリ市内見学
パリ発:16:07
ロンドン着:19:13
ホテル着:20:45
ロンドン
専用バス Thistle Hotel
列 車
専用バス
−100−
備考
国 日 月日・曜日 地名
ロンドン
イ 14 9/24(日)
ギ
リ
ス
15 9/25(月)
16 9/26(火)
バース
バース
区分
ホテル発:9:00
ロンドン市内見学
ロンドン発:17:05
バース着:18:40
ホテル着:19:15
※ロンドン発時刻約2時間遅延(爆弾騒動)
ホテル発:8:50
1. Lordswood Farms 9:25∼11:00(5ヵ所)
ランズダウン農場(肉用牛経営)
2. New Maner Farm 11:20∼12:30
ニューマナー分場
3. Landsdown Grange Farm
ローズウッド農場(酪農・肉用牛経営)
4.交換会
訪問時間等 交通機関 ホテル
Hilton Bath
列 車
専用バス 民宿泊
14:50∼16:37
19:30∼21:30
民宿着(分泊5ヵ所)着:22:00∼23:00
※分泊先へバス向かわず。各班交換会会場から
タクシーにて宿泊先へ向かう。
タクシー
HATT FARM集合:7:30(各分泊先から)
HATT FARM出発:7:50
1. Meat and Livestock Commission
食肉家畜委員会
2. ウィンザー城見学
車・タクシー Thistle Hotel
専用バス
ロンドン
ホテル着:18:50
17 9/27(水)
ロンドン
ホテル発:6:45
ロンドン スタッテッド空港着:8:00
出国審査・搭乗口集合:9:35
ロンドン スタッテッド空港発:12:15(予定10:15)飛行機
フランクフルト空港着:15:15(予定12:45)
フランクフルト空港発:(予定13:50)
※フランクフルト到着遅延により日本行き
飛行機搭乗できず。
空港内チケット変更手続:15:45∼22:00
フランクフルト空港発:23:00(定刻22:35)航空機内泊
18 9/28(木)
バンコック タイバンコック空港着:14:50(所要時間11時間50分)
入国手続完了:15:30
ホテル着:16:00
19 9/29(金)
バンコック ホテル発:5:30
バンコック空港着:6:00
出国審査・搭乗口集合:6:50
バンコック空港発:7:20
成田空港着:15:20(所要時間6時間)
入国手続完了・解散:16:00
−101−
10:00∼12:00
15:40∼17:30
専用バス
Miracle Grand
Hotel
備考