成果論文

チ タ ンキ レー ト錯体 を用 い たn m オ ー ダー チ タ ン酸塩 単結晶粒 子 の
水熱合成 とそ のサイ ズ効果 に 関す る研 究
東京 工 業 大学 大 学院 理 工 学研 究科 助 教授
和 田
智 志
ー
初 めて安 定 なチ タ ンキ レ ト錯 体 の 合 成 に成 功 した
ー
° そ こで ` このチ タ ンキ レ ト錯体 と水酸化 バ リウ
室温 で強誘 電性 を示す チ タ ン駿 バ リウム(BaT103)1乃
を原料 に用 い て水熱 合 成 を試 み た が 、結果 と して
等 の テ タ ン酸塩 は、そ の 自発 分極 に出来す る優れ た ム
ー
手 く行 か なか つ た 。 これ は、反応 容器 で あ るオ
特性 (誘電 、圧電性等 )を持 ち、 これ を利用 した 多 くの 上
ク レー ブ に反応液 を入 れ た瞬 間 に沈殿 が生 じ、通
製 品が実用化 され てい る。 しか も現在 、そ のデ バ イ ト
常 の 水熱 法 とあま り変 わ らな い 結果 が 得 られ た た め
スの大 き さはμmオ ダ に 到達 し、 これ に伴 い原料
で あ る。 チ タ ンキ レー ト錯 体 の配位 子 の 検討 や 、反
粒 子径 も100nmに 至 つて お り、更 に小 さな粒子 が望 応 条件 の検討 を行 ったが 、nmオ ー ダー のBaTi03微粒
まれ て い る。 しか し、微 粒 化 に は以 下 の 問題 が あ 子 を得 る こ とはで きな か つた。 そ こで 、水熱 法 に よ
る。 (1)100nm以 下 のチ タ ン酸塩粒子 の工 業合成 の 困 るBaTi03微 粒 子 の合 成 をあ き らめ、新 しい合 成方 法
難 さ、 (2)粒径 の減少 に伴 い 強誘電性 が減少す るサイ を開発す るこ とに方針 を変更 した。
ズ効果 に よる特 ″
性低 下。 従 って 、nmサ イ ズの チ タ ン
の開発
酸塩粒 子 の 合成法 の 開発 、及 び合成 したチ タ ン酸塩 2.低 温 直 接 合 成 法
チ タ ン錯 体 は完全 に溶 液 中 に溶解 してお り、非常
粒 子 にお け るサイ ズ効果 の解 明は非常 に重要 な問題
バ
ム
+1り
で あ る 。 しか し、現在 、 nmサ イ ズ のチ タ ン酸塩 に 安 定 な化合物 であ る。 また、水 酸化 リウ も水
液 中 に容 易 に溶 解 し、非 常 に安 定 な化 合 物 で あ
微粒子 を工業 的 に合成で きる方法は存在 しない。 溶
しなが ら、前述 した よ うに安 定 な両者 を混
BaT103は ヽ チ タ ン酸塩 の 中 で も代表 的 な強誘 電体 る 。 しか
と沈殿 物 が生 じて しま う。 しか も詳細 に この
で あ り、電 子材 料 には欠 かせ な い材 料 で あ る。 そ の 合 す る
べ
XRD測 定か らは非 晶質構 造 で
い1り
グル 法`
、水 沈 殿物 を調 た結果 、
微 粒 子 を合成す る方 法 と して 、 ブル ー
打りに代表 され る幾 つ か の 方 法 が 開発 され てい あ る こ と、また、 Ba7Ti比は仕 込み比通 り、100で あ
°
熱 法Ⅲ
こ とが わか つた。 そ こで 、混合す る ときの 条件 を
グル 法 は10nm近 いBaTi03微 粒 子 の 合成 に る
る。 ブル ‐
こ とで 、混合 時 にBaT103微 粒 子 がイ オ ン
有 効 で あ る。 しか しな が ら、微 粒 子 中 に は 、有 機 最 適 化す る
るこ とを考 えた。 そ の た めに、以 下
物 、水酸 基 な ど多 くの 不純物 が存在 し、 これ を完全 か ら直接 生成す
を新 しく考 えた 。 まず 、 チ タ ン錯 体溶 液
に除去す るた め には500℃ 以 上での熱 処理 が必 要 で の 合成方 法
一
1.0以下の強酸性溶液 にす る。 方 、水酸化 バ
あるが、粒径 は熱処理 に よつて増大 し、nmサ イ ズで を pHが
ム
はそれ 自体 が 強塩基性 で あ り、そ の pH
一
は な く な つ て しま う。 方 、 水 熱 法 は 20n mの リ ウ 水溶 液
130以 上で あ る。従 つて 、強酸 のチ タ ン錯 体溶 液
BaT103微 粒子 の合成 に成功 した報 告例 が あるものの は
―
対
a、 出発 原料 に水酸化チ タ ン グ ル の よ うにあ る大 き を 強塩 基 の水酸化 バ リウム水溶液 中に入れ る と、酸
が発 生す る。 この 中和
さの 重 合 体 を用 い て い るた め 、 この大 き さ以 下 の 塩 基反応 に よる巨大 な 中和熱
い
ば、Tiイオ
BaTi03微 粒 子 の合成 は不可能 であ る。 更 に、チ タン 熱 を反応 の 駆動 力 に用 る こ とがで きれ
源 に 出来す る水酸 基や バ リウム空子L等 の 格子欠 陥 に ン 、 Baイ オ ンの状態 か ら、直接 BaTi03微 粒 子 を合 虜
1叫19。この す る ことがで きる。 そ こで この方法 を、低温 直接 合
よる強誘 電性 の減少 も同時 に見 いだ した
1.は じ め に
た め 、nmサ イ ズ で 、欠陥 の な い チ タ ン酸塩単結 晶粒 成 法 (Low Temperature Direct SyntheSs Method〓
)と 命名 した 。 この概 念 図 を図 11こ示す。 も
子 を如何 に合成す るか とい うことが重要 である。 LTDS法
この2点 を解決す るた め 、本研 究ではチ タ ン源 とし し も、LTDS法 が上手 くい つた場合 には 、以 下 の 大 き
ー な メ リッ トが生ず る こ とが予測で きる。 1つ は、それ
て 、過 酸化水 素等 の配位 子 を用 いた チ タ ンのキ レ
10。これ を用 い る こ とで 、数 nmサ ィ ぞれ の イオ ンか ら直接 Bario3が 生成す るた め 、 生成
卜錯 体 を用 い る
ズ で しか も欠 陥 の 少 な い チ タ ン酸塩 単結 晶粒子 の合 す る粒 子 の 大 き さを極 限 まで小 さくで き る可能性 が
成 が 期 待 で き る。 実 際 に 、本研 究 の 開始 に 当た つ
て 、 これ らの 可能性 につい て 検討 した 。 そ の結果 、
ある。 も う1つ は、1度 の 反応 でBaT103が 生成す るた
め 、不純物 の 混入 を防 げ る可能性 が高 い とい うこ と
Str◇ng Bぬ se
(pX>13.0)
本わ
ザ半ゲ
図 1 低 温直接合成法 によるBaTi03合 成 の概念図
で あ る。 従 つて 、実 際 にLTDS法 を用 い てBaTi03が
生成す るか ど うかを検討す る こととした。
3.実験 方 法
l LTDS法 によるBaTi03の合成
3‐
チ タ ン源 として、四塩化 チタ ン (TiCL)溶 液 を0℃
付 近 ま で氷 冷 した硝 酸 (HN03)ヽ
塩 酸 (HCl)に
ィォ ン
ゆ っ く りと加 えるこ とに よ り、NOゴや C卜がTl年
の 周 りに配位 したチ タ ン錯 体溶 液 を作成 した。 チ タ
一
ン錯 体 の生 成 は、溶 液 の発色 に よ り確認 で き た。
方 、 バ リ ウ ム 源 と して 、 水 酸 化 バ リ ウ ム
た 。得 られ た 粉末 は8 0 ℃ で1 6 時 間、真 空 中 で 乾燥 さ
れ 、 これ らを試料 とした。 なお、L T D S 法 で変化 させ
る こ とがで き るパ ラメー タは幾 つ か存在 す るが 、最
初 は、反応 温度 、及 び バ リウム水溶 液 中に含 まれ る
バ リウム イ オ ンのモル 数 とチ タ ン錯 体溶 液 中 のチ タ
ンイオ ンのモル 数 の比 、す なわ ちB a 7 T i 比とい う2 つ
の パ ラメ ー タを変化 させ て 反応 を行 い 、そ の結 果 に
ついて検討す る。
2 キ ャラ クタ リゼ ー シ ョン
3‐
8 H 2 0 ) を 純水 に溶解 したバ リウム溶液 を
(Ba(OH)2・
作成 した もの を用 いた。 この とき、p H を よ り1 4 に近
づ け るた めに 、強 塩 基性 のテ トラメチ ル ア ンモ ニ ウ
ム ヒ ドロ キシ ド水溶液 を使 用 した 。 図2 に L T D S 法 の
た め の反応 装置 の概 略 図 を示す。反応 容器 は常 に窒
素流 量下 に あ り、空気 中 の水や炭酸 ガ スの 影響 を除
い た 。最 初 に、反応容器 中を真 空 ポ ンプで 排気 し、
続 い て窒素 ガ ス を導入 し、 また排 気 とい う操 作 を2 0
回近 く繰 り返す こ とで 、水 や炭酸 ガ スの影 響 を除 去
した。 そ の 後 、 一 定流速 で窒素 ガ ス を流 しなが ら、
ー
反 応 容 器 中 に バ リウ ム溶 液 を入 れ 、 ホ ッ トス タ
ラー に よ り撹拌 しなが ら所 定 の温度 で保持 した。 続
一
いて 、 チ タ ン錯 体溶 液 を上部 の滴 下管 に導入 し、
定速 度 で バ リウム溶 液 中に静 か に滴 下 した。 なお 、
反応 中 の 温度 、 p H は そ の場測定 した。反応 によ り生
ー
じた沈殿物 は 、反 応 管 中で何 度 もデ カ ンテ シ ョン
をす る こ とで、余分 な溶液 中 のバ リウム イ オ ン を除
去 した後 、空 気 中 で 吸 引損 過 を行 う こ とで得 られ
図2 LTDS法
によるBaTi03合 成装置 の概念 図
●
20
40
● ●●
60
80
a‐ax′s=o.4049nm
EO︺E〓
●
コ
ョョ
何ヽゝ
のE〇一
E”
F中
BaT103
●
コ ,
ヨ 電ヽ
.
ョコ
Gヽふ
りEΦ一
C︼
F中
●
Dlll=28.5nm・
37.5
20/°
38.5
"
39.5
a-2x,単 0口4043nm
D200=26.4nm
44
20/°
図3 70℃ 、 Ba/Ti比10で 合成 した試 料 のXRD
測 定結果
図4 図 3の 試 料 の (111)面測 定
結果
45
46
20/°
図5 図 3の 試 料 の (200)面測 定
結果
図6 図 3の 試料 のTEM観 察結果 、(a)明視野像 、(b)暗視野像 、(c)格子像 .
LTDS法 を用 い て 得 られ た試 料 の キ ャ ラ クタ リゼ ー
シ ョン は 以 下 に 示 す 幾 つ も の 方 法 を用 い て 行 わ れ
た 。 まず 、試 料 の 結 晶構 造 につ い て 、平均構 造 をX線
回折 測 定 (XRD)に
定 (Raman)に
よ り、局所 構 造 を ラ マ ン散 乱 測
よ り求 め た 。 ま た 、粒 子 径 に つ い
て 、 単 結 晶 の 大 き さ で あ る結 晶 子 径 を XRDよ り
BaTi03の (111)面を用 い て 測 定 し0、 平 均粒 子 径 に つ
い て は 透 過 型 電 子 顕 微 鏡 (TEM)を
用 いて、そ の明
と( 2 0 0 ) 面の2 つ に分 裂す るが 、図5 か らは分 裂 は観 察
されず 、 一 本 の ピー クに帰 属 で き る。 これ らの こ と
か ら、得 られ たB a T i 0 3 粒子 の 平均構 造 は正方 晶 で は
な く、立方晶であることが確認 で きた1 助
。
図6 は 図3 に示 したの と同 じ試 料 のT E M 観 察結果 を
示す 。 左 か ら、( a ) 明
視 野/ L a 、
視 野像 、 ( c ) 格
子像
(b)暗
を示す。 まず 明視 野像 か ら表 面 に細 か い粒 子 が 付 随
してい る ものの1 つ1 つの粒 子 はほぼ球 状 で あ り、そ
視 野 及 び 暗視 野 像 よ り測 定 した 。 同様 に格 子 像 を観
察 す る こ とに よ り結 晶 性 に つ い て も検 討 した 。 一
視野像 と同 じ場所 での 暗視 野像 か ら、1 つ1 つ の粒 子
方 、粒 子 中に含 まれ る不純 物 に つ い て 、TG‐DTAや 赤
の 大 き さが明視 野像 と同 じで あ るこ とか ら、 1 つの粒
lR)を 用 い て評 価 した 。 更 に 、粒 子
外 分 光 測 定 (FT―
中に含 まれ るBa/Ti比に つ い て は 、通 常 の 重 量 分析 法
子 が 単結晶 であ る こ とが確認 で きた。 また 、 ( a ) の左
上 に小 さく示 した 制 限視 野 電子線 回折像 か ら、 この
に加 えて 、 lCP分 析 に よ り損J定 した 。
粒子 がB a T 1 0 3 であ る こ とを確 認 で きた。 また格 子像
4.LTDS法
か らは格子 間隔 が ほぼ0 4 n m と 、 B a T 1 0 3 の単位 格 子
の 大 き さにほぼ等 しい こ と、 また格 子 が きれ い にそ
の原 理 の確 認
図3 に 反応 温度7 0 ℃ 、仕込み段 階で のB a / T i 比1 0 と
い う条 件 で作成 した試 料 のX R D 測 定結果 を示す 。 図
の 平均粒径 は4 1 . 2 n m で あ る こ とが わか る。 また 、明
ろ つてい ることか ら結晶性 が 良 い こ とがわか る。
よ り得 られ た粒 子 はB a T 1 0 3 単 相 で あ る こ とが わか
5 . L T D S 法に よ る B a T i 0 3 の
生成W i n d O w
る。従 つて 、上述 したL T D S 法 は概念だ けでな く、予
以上 の ことか ら、L T D S 法 は結晶性 の 良いB a T 1 0 3 単
結 晶粒 子 の 合成 に非 常 に適 した方 法 で あ る こ とを明
測通 りにB a 及 びT i イオ ンか らB a T i 0 3 粒子 が 直接合成
で きる こ とを確認 で きた。 また 、図4 、 図5 に B a T i 0 3 らか にで きた。 そ こで 、反 応 温度 、仕 込み段 階 で の
の ( 1 1 1 ) 面、お よび ( 2 0 0 ) 面の 回折 パ ター ン を示す。 B a / T i 比を変 えて合 成 を行 い 、そ の 生成W i n d O w に つ
( 1 1 1 ) 面 か ら求 め た B a T , 0 3 粒 子 の 結 晶 子 径 D l ‐
1は
2 8 . 6 n m で あ る の に対 し、 ( 2 0 0 ) 面か ら求 めた 結 晶子
い て検討 を行 つ た。 そ の結果 を表 1 に示 す。表 か らわ
2 4 . 7 n m で あ り、 ほぼ同 じよ うな値 を示す 。
径D200は
件 下でB a T 1 0 3 が生成 してい る こ とが わか る。 これ ま
か るよ うに、反応 温度5 0 ℃ 以 上 、 B a / T i 比5 以 上 の 条
また ( 2 0 0 ) 面は本 来 の正 方 晶構造 で あれ ば 、 ( 0 0 2 ) 面 で の報告例 では 、 B a T i 0 3 生成 の最低 温度 は7 0 ℃ が 限
表 l LTDS法
Ba/Ti atomic ratio
TeIIBP―tllre
C
25°
50°
C
70°
C
90°
C
= Ba/ri attmic ttjo of 35,生 BarTi atO面 c ttSo of itXlil Ba/Ti ato田
iC rado of 1511
表2 L T D S 法
平均粒子径
に よ り生成 したB a T i 0 3 の結 晶 子径及 び
Ba/Ti atomic ratio
Temperature
SO°
C
70°
C
90°
C
船 =5 B】 ■ ■10B】 恥 >35
BB/Ti‐ l Ba/Ti=2 B」
X 済 ! X iX
C
25°
一
!
一
一
!
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一
一
C)
(°
L
コく・
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Ti=5 Ba「
B」Ti‐ l B】 Ti=2 B】
●章
でいヽ りの〇 一ギ〓 D 一
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に よ るBaTi03の 生 成 llVindow
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Ⅲ ,Ba Ti atomlc ratlo of 35,生 BalTi atoEllC Iatlo of ltXlぅ
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解掛: 置
景
品
t 絆鮒態
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界 と言 われ て きた が 、 L T D S 法 は5 0 ℃ とい う低 い 温
度 で も結 晶性 の 高 いB a T i 0 3 粒子 を合成 で きる こ とを
明 らかに した。
表 2 は 、表 1 で生成 したB a T 1 0 3 の( 1 1 1 ) 面か ら算 出
した結 晶子径 D ‐1 1 を下段 に、またT E M 観 察 か ら算 出
した 平均 粒 径 を上段 に示 す 。 縦 軸 の 温 度 に 関 して
は 、粒径 の温 度依 存性 はあま り認 め られ な い 。 これ
に対 して、横軸 のB a 7 T i 比に関 しては 、B a 7 T i 比が増加
す るにつ れ て 、粒径 が 急激 に小 さくな る傾 向 が明確
400
600
800
Temperature/°
1000
C
図7 図 3 の試料 のT G , D T A 測 定結果
功 した 。 更 に これ らの 画溶 体 も仕 込 み原 料 の害J 合を
制御す る ことで容易 に作成 でき る。従 つて 、 L T D S 法
はn m サ イ ズの複合酸化物 の合成 一 般 に とって も非常
に有効 な方法 で あることがわか った。 そ こで 、L T D S
法 をま とめて特許 申請 を行 つた。
6.LTDS法 に よ り得 られ た BaTi03粒 子 の キ ャ
ラク タ リゼ ー シ ョン
表 1の条件 の 中で、図3で 用 いた条件 (反応 温度
10)で 合成 したBaTi03粒
子について、
70℃、BayTi比
ー
種 々のキ ャラクタ リゼ シ ョンを行つた。図7に 得 ら
れたBaTiα粒子 のTG‐DTA源J定結果 を示す。 11%近 い
に認 め られ る。 実際 、反応温度 5 0 ℃ 、 B a / T i 比1 0 0 で
合成 したB a T i 0 3 粒子 にお いて 、T E M か ら求 めた粒 子
ー ダー の
径 は ほ ぼ4 n m で あった。 この よ うな n m オ
B a T i 0 3 粒子 は これ まで の研 究 では得 られ た こ とがな
く、本研 究で開発 したL T D S 法 を用 い ることで初 めて
.ロ
ョ 何ヽ00CGn、0り0く
合成 できた。L T D S 法 とい う概念 を考案 した際 に、そ
の 最 大 の特徴 はイ オ ンか ら粒 子 を直接 合成 で きるた
め 、限 りな く臨界径 に近 い 大 き さのn m 粒 子 を合成で
きる可能性 で あ つた。 4 n m と い う臨界径 に非常 に近
い サイ ズ を持 ったB a T 1 0 3 粒子 の生 成 は 、 L T D S 法 が
n m サ イ ズ の 粒 子 の 合 成 に大 きなア ドバ ンテ ー ジ を
持 ってい る ことを明 らか にで きた。
また、L T D S 法 は単 にB a T 1 0 3 粒子 の合 成 に の み有
効 な方法 で はな く、他 の誘電 体粒 子 の 作成 に も有効
で あ る。 実際 に、B a イ オ ンの代 わ りに ス トロンチ ウ
ム ( S r ) イ オ ン を用 いて 、 L T D S 法 を行 うとチ タ ン酸
ス トロ ンチ ウム ( S r T i 0 3 ) を合 成 で き る。 また、¬
イ オ ンの 代 わ りに ジル コニ ウム ( Z r ) イ オ ン を用 い
3600
2800
2000
1200
Wave number/cnl‐
る と、 ジル コ ン酸 バ リウム ( B a Z r O s ) の 生成 に も成
400
1
l R 測定結果
図8 図 3 の試料のF 「‐
10
多 量 の 重 量減 少 が 観 察 され た。 700℃ 以 上 で ほぼ重
一
量減 少 は終 定、し、 ほぼ 定 とな つた 。 11%と い う値
は、格 子 内O H が 存在 し、そ の 脱離 が2 0 0 ∼ 4 0 0 ℃ の
短 い 温 度 範 囲 で急 速 に起 こ る こ とが報 告 され て い
は30∼ 40nmの 微 粒 子 の比 表 面積 を考慮 して も、大
きな値 で あ り、表 面吸着種 以外 の 不純物 の 存在 を考
る。 従 って 、図7 の 2 0 0 ∼ 4 0 0 ℃ の 範 囲 にお ける重量
減少 を見 る とほぼ5 % 近 い 重量減少 が起 こって い る こ
慮す る必 要 が ある。 図8は 図7の 各熱処理緒段 階 で得
IR測定結果 を示す。合成時 のスペ ク
られ た粉末 のF「―
とがわか る。 この値 は式 ( 3 ) から予測 され る重量減 少
トル に 、 水 酸 基 (OH)の
大 き な 吸 収 帯 と炭 酸
(C03)の 吸収帯 が若千認 め られた。従 って 、図7の
重 量減 少 の 大部 分 はOHの 脱離 に帰 属す る こ とが で
の 中で も表 面吸着種 で はな く、格子
きる。 更 に、OH‐
内 に含 まれ る格 子 内OHは 、3500cm・付 近 に鋭 い 吸
2い
跡
収 帯 を持 つ ことが報告 され て い る 名 図 8の合成 時
のOHの スペ ク トル には3500cm」付近 に シ ョル ダ ー
ピー クが認 め られ 、 この こ とか ら格 子 内水酸基 が 存
在す る こ とが確認 で きた。
値 に近 く、式 ( 3 ) は妥 当な値 である と考 え られ る。
以 上の結果 は、L T D S 法 で合成 したB a T i O s 粒子 は多
くの 格 子 内O H と B a 空 孔 を含 んでお り、 ペ ロブ ス カ
イ ト構 造 を取 つてい る こ と自体 が信 じられ な い 構 造
で あ る。 これ は微粒 子 で あ るか ら許容 され てい る の
か 、それ とも格子 内O H ' が存在す る ことで許容 されて
い るのか 、現 段階では不明 である。
図9 に 図 8 の試 料 のX R D 測 定結果 を示 す。 8 0 0 ℃ ま
で は ペ ロ ブ ス カ イ ト構 造 を保 つ て い る も の の 、
1 0 0 0 ℃ での熱 処理 に よ り、 ペ ロブ ス カイ ト構造 か ら
これ とは別 に重量分析 に よ り、図3の試料 について
T i リッチ相 で あるB a T i 2 0 5 の生成 が確認 され た。前 述
Ba7Ti比を測 定 した結果 、 Ba/Ti比は0635却 005で あ
した よ うに格 子 内O H ‐は6 0 0 ℃ で ほぼ完 全 に脱 離 す
るこ とがわか つた。通常 、BaTi03のBa7Ti比は当然 な
る。 従 つて 、 も しも格 子 内O H の 存在 が ( 3 ) 式で あ り
な が らペ ロ ブ ス カイ ト構 造 を保 つ 要 因 で あ る な ら
が ら100で あ り、ずれ て も090∼ 110の 間 にあ る と
言 われ て い る。 しか しなが ら、LTDS法 で 得 られ た
BaT103粒子 のBa7Ti比は0635と い う、多 くのBa欠 損
を伴 つてい る こ とが明 らか とな った 。 この値 を確認
す るた め同 じ試料 を用 いてiCP発 光分析 を行 つた とこ
ろ、5%以 内で ほぼ 同様 な値 を得 る こ とが で きた。
従 って 、 この結 果 と、BaTi03粒子 中にTi欠損 は存在
しな い と い う仮 定 をす る と、LTDS法 で 得 られ た
BaT103の化学式 は以下 の よ うに表 され る。
ば、6 0 0 ℃ でB a T 1 2 0 5 相が生成す るはず で ある。 しか
しなが ら、そ の よ うな傾 向は認 め られ な い。 現段 階
でペ ロブ ス カイ ト構 造 の 安 定性 を説 明す る こ とは困
難 で ある。
7 , L T D S 法 に よ り得 られ たB a T i 0 3 粒子 の 平均
構 造 と局所構造 の違 い
図 1 0 は 図9 の 試 料 の R a m a n 散乱 ス ペ ク トル を示
す。 B a T 1 0 3 がP m 3 m と い う立方 晶構造 の場 合 には、
BaO∞5[VBゴ
∞ダiOx (1)
1。
減詠…3車
品_ale iBaT20
しか しなが ら、 (1)式は電気 的 中性 条件 を満 足 してお
らず 、 正 の 電荷 を持 つ 欠 陥 を考慮す る必要 が ある。
止
上A九
▲
止ゴ
ず
皆
l
IR及研 G―DTAの 結果 は、BaTi03粒子 中に格子 内
F「‐
・
[VBゴ
1=2tOH。 1 (2)
一
( 2 ) 式を用 いて 、 ( 1 ) 式の 酸 素位 置 の 部 を格子 内O H
で 置 き換 える と以下 の化学 式 を得 るこ とができる。
も しも( 3 ) 式の化学 式 を持 つ 場合 には、6 0 0 ℃ 以 上の
熱 処理 で格子 内O H ‐が す べ て脱 離す る と考 える と、
3 5 7 % の 重量減少 が生 じる こ とにな る。 この 結果 に
基 づ いて 図 7 を 見 る と、2 0 0 ℃ と4 0 0 ℃ 付近 に明瞭 な
変 曲点 が 存在す る。水熱法 で得 られ たB a T i 0 3 粒子 に
と
出
上
止 ‐
‐ _止
_九
C‐lh
S00°
―J性 上一
____
l ■
Wl。
Ba。
7ざ∞ ( 3 )
苺[ V 磁 亜5 T i 0 2 2 7 0 1 01H。
800°C‐lh
I A
の欠陥が存在 して い るこ とがわか る。
. .
ョ G ヽ卜〓りEO”E一
OHの 存在 を明 らかに した。従 つて 、LTDS法 で得 ら
れたBaTi03粒子 中では、Ba空 孔 と格子 内OHの 2種 類
2出
上上 A⊥__上…
台
40
60
20/°
図9 図 8 の 試 料 のX R D 測 定結 果
率 は粒径 の 減 少 と共 に単調 に減少 す る のでは な く、
軸 比 の減 少 に伴 う誘 電 率 の 減少 と フ リッ ピン グ の 発
生 に よる誘 電 率 の上 昇 とい う2 つ の 効果 の 寄 与 に よ
り、 かな り小 さな粒径 で誘 電 率 が極 大値 を持 つ こ と
After TC・DTA
. .
ョ 電 ヽ 卜〓のこ0”EいCGE G伍
れる。
が予測 さオ
8 . L T D S 法の 改 良
一 連 の研 究 を通 して明 らか とな つた 格子 内OHと そ
れ に伴 うBa空 孔 とい う欠 陥生成 を抑制す る こ とが 、
欠 陥 の な いBaTi03粒 子 の 合成 に とつて 非常 に重要 で
あ る。そ のた めには如何 に反応 の 途 中 で水酸 基 を取
り込 ま な い よ うにす るか が ポ イ ン トで あ る。 そ こ
で 、 チ タ ン錯 体 のキ レー ト化剤 の 選択 、酸溶 液 の 選
択 、Ti濃度依 存性 等 、 ポイ ン トを絞 つて 検討 を行 つ
た 。 そ の 結 果 、最終 的 な結論 と して 、反応 に全 く水
を使 用 しな い 反 応 形 態 が 重 要 で あ る こ とが わ か つ
1200
800
400
0
1
Raman shift/cm‐
図10 図 9の試料のRaman測定結果
ー
R a m a n 活 性 なモ ー ドは存在 しな いた め 、 ピ クは現
ー
れ な い。 図1 0 にお いて 非常 にブ ロ ドでは あ るもの
の 何本 も ピー クが認 め られ 、 これ らはす べ てP 4 m m
た。 そ の 究極 のLTDS法 は以下 の通 りで ある。 まず 、
¬源 として純粋な¬Ci4溶液 を使用 し、水 は全 く使 用 し
な い 。 これ に対 して 、 Ba源 は無機 化合物 として最終
的 に残 つた のは 、や は りBa(OH)2・8H20で あ つた 。
8H20は 78℃ に融点 を持 つてお り、100℃ 以
Ba(OH)2・
下 で は粘性 の 非 常 に低 い 液 体 と して存在 で き る。 但
8H20は あ くま で も水和物
し、問題 点 としてBa(OH)2・
できる。
い正
に帰属
たな
方
晶
い
を持
心対称性
と う中
で あ るた め 、水 を含 ん でい る とい う点 で あ る。 この
この こ とは L T D S 法 に よ り合成 したB a T i 0 3 粒子 の 局 溶融塩 をBa源 としてLTDS法 を行 つた。
所構 造 が 、 中 心対称性 を持 たな い正 方 晶 で ある こ と
そ の 結 果 、 生 成 した BaTi03粒 子 中 の Ba/Ti比 は
一
の
を明 らか に した。 方 、前 述 した よ うに結 晶 平均 0786と 改 良前 の0635と い う値 か らか ら08に 近 い
構 造 を測 定で き るX R D 測 定 か らは中心対称性 の ある
立 方 晶 に帰 属 され た 。 この違 い はL T D S 法 に よ る
B a T i 0 3 粒子 の構 造 に揺 らぎがある ことを示 した。
純粋 なB a T 1 0 3 単結 晶 はX R D 測 定では室温 でP 4 m m
B ,
コ 電 ヽ 卜営 りEO”E 一EGE 付E
で あ るが 、 1 3 0 ℃ 以 上 でP m 3 m に 変化 す る こ とが知
られ てい る。 しか し、 R a m a n 測 定で観 察 できる局所
構造 は、 1 3 0 ℃で変わ らず 、2 0 0 ℃付近まで正方晶構
造 を保 つ こ とが報告 され 、 B a T i O s その も のが1 3 0 ℃
直 上 で 、結 晶構 造 に揺 らぎを持 つてい る。 この現象
モル を用 いた説 明 が試
は最近 、 S u p e r p a r a e t e c t t t cデ
ー
み られ た。 これ は、数 n m の クラス タ 領域 では正方
晶構 造 を持 つ も の の 、 そ の 分 極 軸 は 固 定 されず 、
G H z 以 上 の 高速 で等価 なサイ ト間を フ リッ ピング し
て い る とい うモ デ ル で あ る。 これ を考慮す る と、平
均構 造 と局所構造 の違 い を説 明す ることができる。
.
この モ デ ル はL T D S 法 に よるB a T i 0 3 粒子 に も適用
●
A
●
BaT103
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・
.
で き る と思 われ る。従 つて 、 このB a T i 0 3 粒子 は正方
晶 とい う双極 子 が高速 で動 いてい る こ とにな り、そ
の結 果 は誘 電 率 に反映 され るはず で ある。 この こ と
か ら一 般 に言 われて い るよ うに、B a T i 0 3 粒子 の誘 電
20/°
図1 1 改 良L T D S 法による試料のX R D 測 定結果
12
値 に ま で 大 き く改 善 す る こ とがで き た 。 そ の 結 果 、
図 1 1 に 示 され る よ うに 、 1 0 0 0 ℃ 以 上 で 生 成 す るT i
リ ッチ 相 で あ るB a T i 2 0 5 相の 生 成 量 が 非 常 に少 な く
な った 。 しか しなが ら、依 然 と してB a 7 T i 比1 0 0 か ら
は ほ ど遠 く、欠 陥 の な いB a T i O e 粒子 の 生 成 とい う目
標 は達せ られ て い な い 。
も しもL T D S 法 で 欠 陥 の な い B a T i 0 3 粒 子 の生 成 を
あ くま で も追 求す る の で あれ ば 、非 常 に危 険 で は あ
るが 、 そ の ときはT i 源 と して 純 粋 なT i C 1 4 溶液 を使 用
Publications Ltd,S宙 tzcriand,1999),in prcss
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本研 究 に 関す る発 表 論 文
し、 B a 源 と して は純 粋 なB a C 1 2 の溶 融塩 を使 用 し、そ
の 反 応 を常 圧 の 酸 素 ガ ス 、又 は高圧 の 酸 素 雰 囲気 中
は ,
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oumal of Matettals Science Lctters,19245‐
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で行 う こ とにな る と予 測 され る。
9.結 論
n m オ ー ダー のチ タン酸塩 単結晶粒子 を合成す るた
め 、L T D S 法 とい う新 しい方 法 を提案 し、実際4 n m の
B a T i 0 3 粒子 の 作成 に初 めて成 功 した 。 また 、 L T D S
法 は他 の誘 電体粒 子 の 合成 に も適用 で きる普遍 的 な
方 法 で あ る こ とを明 らか に した。 しか しなが ら、完
全 に 反 応 系 か ら水 を除去 で き な い た め 、生 成 した
B a T 1 0 3 粒子 中に格 子 内水酸基 とB a 空 孔 とい う2 種 類
の 欠 陥 が生 成 し、それ を除去 で きなか つた 。 このた
め欠 陥 の な い粒子作成 とい う目標 の1 つは未 だ達成 さ
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Transaction of the Materials Research Society of Japan,25
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[4]R_WADA_H.CHIKAMOM,T.SUZLIKI and T.NOMA,
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938
(2000).
れ て い な い。今後 更な る研究が必要である。
謝辞
本研 究 に対 して 多大 な ご支援 をい ただ きま した 高
柳記 念 科学 技術振 興財 団お よび財 国 の 関係 者 の 皆様
に心か ら感謝 い た します。
[5]ミ_WADA_H,CHIKAMOH,T,NOMA and T.SUZUKI,
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