事例に学ぶ! 処方箋監査 vol.7 下 平 秀夫 先生 帝京大学薬学部実務薬学研究室 / 富士見台調剤薬局 このシリーズでは、新人薬剤師ハツミさんの失敗談を例に処方箋監査を学びます。 おやおや? ハツミさん、なにか困っていますね。どうしたのでしょうか? 事例 処方箋 氏 名 生年月日 交付年月日 処 処 備 方 方 考 山吹 はじめ 平成3年4月5日(23歳) 新人薬剤師ハツミさんは、処方箋を受付ました。 医 療 機 関 男性 平成 ○ 年 △ 月× 日 アルシス内科 渋谷区******* 電 話 番 号 03-6861-**** 保 険 医 向日葵 光男 処方箋の使用期間 1) ディレグラ配合錠1回2錠(1日4錠) 1日2回 朝夕食間 7日分 この患者さんは駅伝の選手なのですが、走ってい る間の鼻づまりがひどくて困っているようです。患 者の山吹さんに、「すぐご用意しますのでお待ちく ださい。」と言って調剤を始めたら、先輩薬剤師か ら、「ちょっと待って、疑義照会が必要だよ !!」とい われてしまいました。 箋 欄 えっ?!疑義照会 ・・・ して! 駅伝の選手…。 もしか 解 説 ?! ドーピング禁止物質を含むと知らずに花粉症の薬や漢方薬などを、アスリートが 服用してしまうことがないよう、うっかりドーピングを防止することが大切です。 ディレグラ配合錠の配合成分について ディレグラ配合錠には、第二世代の抗ヒスタミン薬であるフェキソフェナジン塩酸塩と、鼻づまり治療薬の塩酸プソイ ドエフェドリンが配合されています。第一世代の抗ヒスタミン剤では競技者にとって運動能力や集中力、判断力などが 低下するインペアード・パフォーマンスが問題となるので、フェキソフェナジン塩酸塩は悪くない選択だと思います。 しかし、塩酸プソイドエフェドリンは WADA( 世界アンチ・ドーピング機関 ) の禁止表において、興奮薬に分類される 禁止薬です。 うっかりドーピングに注意! 薬やサプリメントにはさまざまな「禁止物質」、すなわち摂取するとドーピング違反とみなされる物質が含まれること があります。これを知らずに服用すれば、競技記録だけでなく選手生命をも奪いかねません。薬局薬剤師には、処方せ ん応需の際や医薬品の販売において「うっかりドーピング」を防ぎ、選手の心身の健康とフェアプレーの精神を守る大 切な役割があります。 WADA 禁止表 次ページに WADA 禁止表(2014 年)を示します。①常に禁止される物質や②競技会時のみに禁止される物質、③特定 競技においてのみ禁止される物質に分かれています。プソイドエフェドリンは他のエフェドリン類と同様に表②の「S6. 興奮薬」に分類され、競技時に禁止となっています。このため、期間中にディレグラ配合錠を服用するとドーピングと みなされることになります。 ⇒次ページにつづく 2014年10月作成 事例に学ぶ! 処方箋監査 vol.7 下 平 秀夫 先生 帝京大学薬学部実務薬学研究室 / 富士見台調剤薬局 WADA 禁止表(2014 年) ①常に禁止される物質と方法(競技会(時)&競技会外) [禁止物質] S0. 無承認物質 S1. 蛋白同化薬 S2. ペプチドホルモン、成長因子および関連物質 S3. ベータ2作用薬 S4. ホルモン調節薬および代謝調節薬 S5. 利尿薬および他の隠蔽薬 [禁止方法] M1. 血液および血液成分の操作 M2. 化学的および物理的操作 M3. 遺伝子ドーピング ②競技会(時)に禁止される物質と方法(競技会(時)) [禁止物質] S6. 興奮薬 S7. 麻薬 S8. カンナビノイド S9. 糖質コルチコイド ③特定競技において禁止される物質(主に競技会(時)) P1. アルコール P2. ベータ遮断薬 漢方薬に注意 漢方薬には特に注意が必要です。麻黄には禁止物質のエフェドリンが含まれています。また、ホミカの中にも禁止物質 のストリキニーネが含まれています。麻黄を含む葛根湯や、防風通聖散 ( コッコアポ EX 錠など ) を競技選手に販売し てしまわないように気をつけたいものです。 参考資料 薬局の店頭で薬剤師がうっかりドーピングを防止するための教材としては、日本薬剤師会等が発行している「薬剤師の ためのドーピング防止ガイドブック」が参考になります。毎年改訂されるので最新版を利用してください。また、JADA(日 本アンチ・ドーピング機構)のホームページ http://www.playtruejapan.org/ も参考になります。 治療目的使用に係る除外措置(TUE) 病気やケガの治療のために禁止物質や禁止方法を使用する必要があるときは、所定の申請をして認められた場合に限 り、その禁止物質や禁止方法を治療のために使うことができます。この使用許可を「治療目的使用に係る除外措置」 (Therapeutic Use Exemptions : TUE)といいます。ただし、TUE が承認されなければ、医療上の理由でも禁止物質・禁 止方法を使用できません。原則として、TUE が必要な大会の 30 日前までに申請する必要があります。 ハツミさんの対応と留意点 向日葵先生に疑義照会をしたところ、アレグラ錠 ( フェキソフェナジン塩酸塩 ) とフルナーゼ点鼻液 ( フルチカゾンプ ロピオン酸エステル ) に変更になりました。 なお、プリビナ液(ナファゾリン硝酸塩)やトラマゾリン点鼻液は局所使用なので禁止薬ではないのですが、何回も使 用して体内に吸収されると「S6. 興奮薬」としてドーピング違反が疑われる可能性があります。 2014年10月作成
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