創造的な想像力をはぐくむ表現の指導に関する研究 ― 図画工作科

創造的な想像力をはぐくむ表現の指導に関する研究
―
図画工作科における発想・構想段階の指導の工夫を通して
【研 究 者】
教科教育部
指導主事
木村
―
彰
【研究指導者】
広島大学大学院教育学研究科
【研究協力員】
大竹市立大竹小学校
教諭 西村 利惠
広島大学附属三原小学校 教諭 岡
芳香
教
授
若元
澄男
呉市立三津口小学校
教諭
下重千香子
研究の要約
本研究は,図画工作科における発想・構想段階の指導の工夫を通して,創造的な想像力をはぐくむ表
現の指導について一つの方向性を提案することを目的とするものである。文献研究から,創造的な想像
力とは「過去の知識や経験をもとにして,自分の意図する新しいものや美的な価値のあるものを考え出
す想像力」と定義した。まず,この定義や国立教育政策研究所の資料等をもとに,創造的な想像力がは
ぐくまれた児童の姿を評価規準として示した。次に,発想・構想段階を三つの場面に分けて考え,「見
る」,
「語る」,
「試す」という視点で指導の工夫を取り入れた。その結果,低・中・高学年で実施した研
究協力者の授業において,評価規準に示した児童の姿を確認することができた。以上のことから,図画
工作科の表現の指導において,①創造的な想像力がはぐくまれた姿を評価規準で示すこと,②発想・構
想段階を三つの場面に分けること,③「見る」,
「語る」,
「試す」に焦点化して指導の工夫を行うことは,
創造的な想像力をはぐくむ上で一定の効果があることが分かった。
キーワード:創造的な想像力 図画工作科 発想・構想段階
目 次
はじめに ……………………………………………141
Ⅰ 研究の目的と方法 ……………………………142
Ⅱ 研究の基本的な考え方 ………………………142
Ⅲ 実態調査と分析 ………………………………146
Ⅳ 発想・構想段階の指導の工夫を生かした授業の
実際 ………………………………………………148
Ⅴ 研究のまとめ …………………………………159
おわりに ……………………………………………160
はじめに
表現活動は感性をはぐくむといわれている。感じ
たこと,体験したことを,自分なりの方法で思うよ
うに表現することができた時,なんともいえない心
地よさや充実感を味わった経験はだれもがもってい
ることであろう。こうした経験の積み重ねが感性を
はぐくみ,次に何かをする時,今までの自分とは違
う視点で取り組む力になると考えられる。
では,図画工作科において,自己表現による充実
感を味わうためには,どのような資質や能力が求め
られるのであろうか。表現活動でまず思い浮かぶの
は,自分の思いに合わせ,実際に工夫して表す創造
的な技能である。しかし,発想や構想の段階でアイ
デアが何も出なければ,表現活動自体が成立しない。
表現する時には,自分の思いをもとに表現へのきっ
かけとなる発想をし,どのように表現していくのか
を構想する能力が必要である。したがって,発想や
構想の能力は,創造的な技能と同じように表現にお
ける重要な能力なのである。
ところが,発想や構想の能力は,表面に現れにく
い能力であり,発想や構想という大きなとらえのま
までは指導方法が具体化できないという問題がある。
評価も具体的な指導に対応していない場合があり,
完成した作品の情報のみに評価を頼り,作品の完成
度に評価が左右される場合も多い。
そこで,本研究では,発想や構想の能力に直接結
び付く創造的な想像力に着目することにした。創造
的な想像力をはぐくむ表現の指導についての研究を
通して,発想や構想の能力を高める指導方法の工
夫・改善に一石を投じることができれば幸いである。
‑ 141 ‑
Ⅰ
研究の目的と方法
1
研究の目的
図画工作科の目標として,小学校学習指導要領(平
成 10 年告示)では,
「造形的な創造活動の基礎的な能
力を育て」ることが示されている。このことについ
て,小学校学習指導要領解説図画工作編(平成11年)
(以下 解説図画工作編)では,「造形的な創造活動
においては,形や色,材料や場所などを対象に進ん
で見たり,感じ取ったりしながら働きかける過程で
自分らしい思いをふくらませるために,創造的な想
像力が必要である。」と述べられている。つまり,創
造的な想像力は,造形的な創造活動の基礎的な能力
を育てる上で必要な力の一つであると考えられる。
また,創造的な想像力は,「想像力」という言葉
が付いているように,主として発想・構想の際に発
揮される力である。発想や構想について,図画工作
科の内容「A表現」にかかわる学年目標には,それ
ぞれ次のように示されている。低・中学年では,材
料などから「豊かな発想」をすること,高学年では,
「想像力を働かせて主題の表し方を構想」すること
である。しかし,学校における児童の実態はどうで
あろうか。研究協力校において実態調査を行ったと
ころ,多くの児童が,発想や構想の際にアイデアが
浮かばず,悩んでいるという実態が明らかになった。
これは,発想・構想に着目した指導が十分ではない
ためと思われる。
そこで,本研究では,低・中・高学年それぞれに
おいて,発想・構想段階の指導の工夫を取り入れた
授業を実施することにより,創造的な想像力をはぐ
くむ表現の指導について一つの方向性を明らかにし
たいと考えた。
2
研究の内容と方法
○ 創造的な想像力をはぐくむ表現の指導に関する
文献研究
○ 児童の発想・構想段階の学習に関する意識調査
及びその分析
○ 研究協力校による研究授業実践及びその分析・
考察
3
研究の計画
研 究 内 容
○ 研究計画書の作成
期
4月
間
○ 文献研究
○ 第1回研究協力員会議の開催
○ 児童の意識調査及びその分析
○ 第2回研究協力員会議の開催
○ 研究協力員の授業実践及び
その分析・考察
○ 第3回研究協力員会議の開催
○ 研究のまとめ及び報告書作成
Ⅱ
研究の基本的な考え方
1
創造的な想像力について
5月〜8月
7月
7月〜9月
8月
10月〜11月
12月
12月〜2月
(1) 創造的な想像力とは
「創造的な想像力」という言葉は,一般に,心理
学用語として用いられることが多い。しかし,画家
や作曲家など芸術家のみならず,科学者,発明家な
どの創造活動においても重要な役割を果たす力であ
る。豊かな創造性を発揮するには,その基盤となる
創造的な想像力が必要である。
考えてみると,豊かな創造性が求められるのは,
芸術や科学に携わっている人間だけではない。今や
ビジネスの世界においても,豊かな創造性をもつ人
材が求められる時代であることに異論を唱える人は
いないであろう。
創造的な想像力について,遠藤友麗(平成12年)は,
「新たなものやより美的な価値のあるものを考え出
す想像力」であると述べている。
また,「想像力」について,内田伸子(平成11年)
は,
「想像力とは目に見えないものを思い浮かべる能
力」であり,
「想像力が発揮される前提には,過去の
経験が必要になる。」と述べている。
想像力が発揮される前提に過去の経験が必要に
なることについて,リボー(1893〜1916)の例をもと
に考えてみたい。リボーは次のように述べている。
たとえば,土地を耕すスキははじめ先端部を焼
いただけの一片の木だった。このまったく素朴な
手製の道具が今のようになるまでには何冊もの
研究書が書けるくらい長年にわたる多くの修正
が加えられ,そのためにどれほどの想像力が働い
たのかということを誰も考えはしないだろう。
(中略)日常生活のすべての事物は,最も簡素な
ありふれたものも例外なく,いわば想像が結晶化
したものなのである。
この例が示すように,身の回りにあるあらゆるも
のは,先人が思い付いたアイデアをもとにつくりだ
され,ものとして存在している。それは,今までに
‑ 142 ‑
あったものや今あるものをもとに,よりよいものや
使いやすいものはできないかといった想像力が数多
く働き,その集大成として現在の道具があることを
物語っているのである。
それでは,造形活動における創作場面で働く想像
力とはどのようなものであろうか。図1は,筆者が
デザインした「第14回 日本生活科・総合的学習教育
学会」の大会要項の表紙
である。
この図案には,星,ト
ンボ,チョウ,カタツム
リなどが使われている。
これらデザインの素材自
体は,実際に自然界に存
在するものであり,決し
て珍しくないものである。
筆者は構想に当たり,生
活科や総合的な学習のイ
図1 大会要項の表紙
メージから,自然物を直
線や曲線のみで表現することを思い付いた。そこで,
カタツムリやトンボの形体についての知識をもとに
して,円や三角形などの組み合わせによるデザイン
を考えた。その際,遠藤が述べているように,より
美的な配置を試行錯誤しながら考え,最終的に図1
のような図案を完成させたのである。
以上のことから,本研究においては,創造的な想
像力を「過去の知識や経験をもとにして,自分の意
図する新しいものや美的な価値のあるものを考え出
す想像力」と定義した。
(2) 創造的な想像力がはぐくまれた児童像
図画工作科で育成すべき資質や能力は,
「造形への
関心・意欲・態度」,「発想や構想の能力」,「創造的
な技能」,「鑑賞の能力」である。このうち,創造的
な想像力に直接かかわる資質や能力は,
「発想や構想
の能力」である。小学校児童指導要録(図画工作科 評
価の観点及びその趣旨)には,「発想や構想の能力」
について,「感じたことや考えたことなどをもとに,
想像力を働かせながら自分らしい発想をし,よさや
美しさなどを考え,豊かな表現を構想する。」と示さ
れている。これまでにも,
「想像力を働かせながら自
分らしい発想」をしている状態についての評価事例
はあるが,何を根拠に児童の自分らしい発想ができ
たと判断するのかが曖昧な事例が多いと感じていた。
そこで,本研究では,創造的な想像力がはぐくまれ
た児童像を「発想や構想の能力」の具体的な評価規
準として示すことにした。
評価規準作成に当たっては,国立教育政策研究所
が平成14年2月にまとめた報告書(
「評価規準の作成,
評価方法の工夫改善のための参考資料【小学校】‐
評価規準,評価方法等の研究開発‐<報告>」)を参
考にして,低・中・高学年の発達段階や創造的な想
像力の定義を踏まえて以下のように設定した。
○ 第1学年及び第2学年
・ 材料の形や色などをもとに表したいものを思い
付いている。
・ 思い付いたことを次々と試しながら,新しい表
し方や工夫した表し方を見付けている。
○
第3学年及び第4学年
・ 形や色,材料などの組み合わせの美しさや用途
などをもとに,表したいものを発想している。
・ 友人と表し方を交流するなどして作品を見直し
ながら,新たな発想を思い付いている。
○
第5学年及び第6学年
・ 今までの知識や経験をもとに,主題に沿って,
用途や使う人の気持ちなどを考えながら表したい
ものを発想している。
・ 美的要素などの視点をもって友人とアイデアを
交流するなどしながら,材料や技法を組み合わせ
たり,新たな方法や表し方を付け加えたりしなが
ら構想している。
2
発想・構想段階の指導の工夫について
(1) 創造的な活動のプロセスにおける発想・構想
段階とは
「造形教育事典」(平成3年)には,
「発想には『ひ
らめき』という瞬間性の要素と『イメージ』に代表
される持続的ではあるが潜在的な要素の両方が混在
している。」と書かれている。そのような発想により
生み出されたアイデアをつなぎ合わせて組み立て,
表したいものを明確にしていくことが構想である。
ここで注目したいのは,発想には瞬間性の要素と持
続的で潜在的な要素が混在しているという点である。
東山明(1998)は,創造的な活動のプロセスとして,
次の六つの過程を示している。
① 動機:新しいものをつくり出す必要性や改善す
べき阻害要素があり,
「なぜだろう」
「つくりたい」
「やってみたい」という意欲や動機がある。授業
であるなら「動機づけ」にあたる。
② 課題をとらえる:課題が何か,問題点は何かと
いうように,これから活動しようとすることに対
して課題や問題点を明確にする。
③ 情報を集めたり学習をする:課題に関連する情
‑ 143 ‑
報や資料を集めたり,調査をしたり,学習をして
内容を深める。
④ 構想をねる:課題に対する情報をもとに,その
条件や要素を把握したり,考えをまとめたり,ア
イデアスケッチをするなどして,構想をねったり,
どういう表現方法をするか,
イメージを具体化する。
⑤ 表現・制作・活動:構想をもとに具体的に表現
したり制作したりする活動に移る。自分の手やか
らだと知恵を働かせ,技術や技法を駆使してつく
り出す。表現・制作・活動をしながらも,常にイ
メージを深めたり,新しいアイデアや構想を加え
て試行錯誤しながら創造的な活動をして新しいも
のをつくり上げていく。
⑥ 評価,改善:自分が表現したり制作したり活動
してきたことを振り返り,今後の活動への問題点
や課題を考え,次の活動に生かす。
一般的には,①のような表現活動に対する「動機」
をもつ段階から④「構想をねる」段階までを発想・
構想段階とすることが多い。
つまり,創造的な活動を「発想・構想」→「表現・
制作」→「仕上げ・完成」→「鑑賞」という流れで
とらえる考え方である。
一方,⑤には「表現・制作・活動をしながらも,
常にイメージを深めたり,新しいアイデアや構想を
加えて試行錯誤しながら創造的な活動をして新しい
ものをつくり上げていく」とある。発想には持続的
な要素もあるということから考えると,表現・制作
している場においても,新たな発想・構想は常に生
み出され,更新されていると考えられる。
また,板良敷敏(2002)は,
「創造的な想像力は,つ
くり・つくり変え・つくり続ける過程に不可欠な資
質や能力として働くものである。」と述べている。こ
れらのことから,表現・制作の場における発想・構
想段階も当然存在し得ると考える。
以上のことを踏まえ,本研究においては,表現・
制作に入るまでを「発想・構想段階(ⅰ)」,表現・制
作・活動中を「発想・構想段階(ⅱ)」として研究を
進めることにした。
(2) 発想・構想段階における指導の工夫
発想・構想段階(ⅰ)は,表現・制作に入るまでの
発想・構想段階である。この段階は,創造的な活動
のプロセスの①〜④に相当する場面である。①から
④を見ると,①から③までに蓄えた情報をもとに④
の「構想をねる」場面でイメージを具体化している
ことが分かる。そこで,発想・構想段階(ⅰ)をさら
に「a.発想・構想のための情報を蓄える場面」と「b.
イメージをふくらませたり,アイデアを具体化した
りする場面」に細分化することにした。
また,発想・構想段階(ⅱ)は,表現・制作・活
動中の発想・構想段階である。これは,⑤に相当す
る場面である。そこで,本研究では,これを三つ目
の場面として「c.実際に表現を試したり,制作した
りしながら発想・構想する場面」とした。
以上のような三つの場面において,創造的な想像
力をはぐくむ指導の工夫の視点を次のように考えた。
ア 「a.発想・構想のための情報を蓄える場面」
東山は,創造的な活動の第一段階として「新しい
ものをつくり出す必要性や改善すべき阻害要素があ
り,
『なぜだろう』
『つくりたい』
『やってみたい』と
いう意欲や動機がある。」と述べている。まず,表現
への動機付けが重要であると考える。
また,参考作品の提示などは,最も手軽に発想の
ヒントを提供することができる手段である。参考作
品の選定や見せ方を工夫することにより,児童が発
想・構想のための情報を吸収しやすくすることが必
要であると考える。
遠藤は,発想の基礎として「インプット能力」を
挙げている。
「インプット能力」とは,自分の心の中
に新しい情報(感動,気付き,把握したことなど)
を取り入れていく能力である。児童が新しい情報を
取り入れやすい状況をつくれば,「インプット能力」
も自ずと発揮されると考える。
これらのことから,「a.発想・構想のための情報
を蓄える場面」においては,動機付けや参考作品の
提示など「見る」という視点で指導の工夫を取り入
れることにした。
イ 「b.イメージをふくらませたり,アイデアを具
体化したりする場面」
この場面は,蓄えた情報をもとに構想を練り,ア
イデアを具体化していく場面である。発想・構想の
ヒントとして蓄えられた情報もそのままでは素材と
して頭の中にバラバラに存在しているだけである。
したがって,イメージをふくらませ,アイデアを具
体化させるための手立てが必要である。アイデアを
具体化する方法としては,一般に二つの方法が考え
られる。
一つは,創造的な活動のプロセス④に例としてあ
るように,アイデアスケッチに表す方法である。ア
イデアスケッチは,イメージをダイレクトに形に表
すことができるという利点がある。
もう一つは,ことばで表す方法である。思い付い
たアイデアを話したり,書いたりすることによって,
‑ 144 ‑
思いを明確にする方法である。アイデアをことばに
表す場合,長い文章で表す必要はなく,単語やメモ
で表すなど多様な工夫が考えられる。また,ことば
で表す行為は,他者へアイデアを発信する手段とし
ても有効である。ことばで表すことによってコミュ
ニケーションが生まれ,自分一人では得られないア
イデアが広がると考えられる。
図2は,広島県教育委員会の Web ページ(ホット
ライン教育ひろしま)に掲載されていることばの教
育と関連させた図画工作科の指導例である。
① 自分が選んだ花について,どこが好
きなのか友だちと伝え合う。
② 描きたくなる雰囲気をつくるよう
な提案をする。
「先生は,自分が小さくなってこの花の中に入
って眠りたいなって思ったことがあるよ」
○友だちのいろいろな感じ方に触
れさせる。
→ 感じ方を深める
○どこが好きなのか理由を述べさ
せる。
→ 描きたいものを具体化させる
項には,
「活動の過程において,いろいろな試みや選
択ができるようにする。」と示されている。例えば,
第5学年で,布の特性を生かし,場所とかかわりな
がら発想を広げ,豊かに表現する題材では,表現し
ながら,自由に思い付いた発想を形にする活動が設
定されている。この活動では,ただ材料(布)を眺
めて発想するのではなく,加工し,実際に身に付け
て仮装するなど表現活動しながら更なる発想の広が
りをねらっている。
このことから,「c.実際に表現を試したり,制作
したりしながら発想・構想する場面」においては,
試行錯誤や材料の選択など「試す」という視点で指
導の工夫を取り入れることにした。
以上の考え方をもとに創造的な想像力をはぐく
む構想図を図3のように考えた。
創造的な想像力がはぐくまれた姿(評価規準)
中心を明確にする
「こんなきれいな花に,自分が想像した不思議
指導者が,どのような「技能」や「能力」を育成しようとしているのか明確にしておくこと
「こんな力を
で子どもたちへの指示や助言の内容が自然と変わってくるのではないでしょうか。
付けさせよう」という意識を持つことが第一歩です。
図2
試
す
発想・構想段階(ⅱ)
見る
発想・構想段階(ⅰ)
語る
>
○
多くの場合,子どもたちは,表現したり鑑賞したりする時,頭の中で「こんな感
じに…」
「あんな表現方法で…」と,言葉に置き換えて考え,具体化しているようで
す。表現したいことを自分の言葉で明らかにすることによって,豊かな造形活動に
実現させましょう。
<c. 実際に表現を試したり,制作したりしなが
ら発想・構想する場面>
・試行錯誤,道具や材料等の選択
>
○
<
相手や目的に応じて
<
③
⑤ 友だちの表現のよさを感じ取る。
○友だちの表現のどの部分に対し
てどのように感じたのか,メッ
セージカードに書かせ伝えさせ
る。
→ 気持ちをことばで伝えさせる
b.イメージをふくらませたり︐アイデアを
具 体 化 し た り す る場 面
・ こと ば で 表現 ︐アイ デ ア の 交 流
④ 感じたイメージを大切にしながら水
彩絵の具などで描く。
・ 動 機 付 け ︐ 参 考作 品 等 の 提 示
③ 花の形や色のおもしろさや美しさを
コンテなどでかく。
○花に触れるなどさせて,感じ取
ったり,想像したりしたことを
表現に加えさせていく。
○BGMをながし,花に対する思
いを広げさせる。
a . 発 想 ・ 構 想 のた め の 情 報 を 蓄 え る 場 面
な虫をとまらせてみたいね」
子どもの実態(アイデアが浮かばない)
ことばの教育と関連させた図画工作科の指導例
(「ホットライン教育ひろしま」より
そこには,指導のポイントとして「頭の中で『こ
んな感じに・・・』『あんな表現方法で・・・』と,
言葉に置き換えて考え,具体化」することの大切さ
が示されている。このように,イメージを明確化す
る手立てとして,ことばで表すことは有効である。
これらのことから,本研究においては,ことばに
着目し,
「b.イメージをふくらませたり,アイデアを
具体化したりする場面」においては,発表やアイデ
アの交流など「語る」という視点で指導の工夫を取
り入れることにした。
ウ 「c.実際に表現を試したり,制作したりしなが
ら発想・構想する場面」
制作中,ふと新しいアイデアが浮かぶことがあ
る。「平成15年度 広島県教育資料」の図画工作科の
図3
創造的な想像力をはぐくむ構想図
「アイデアが浮かばない」という児童の実態をス
タートとして,創造的な想像力をはぐくむ過程に次
のような指導の工夫を取り入れる。
まず,発想・構想段階(ⅰ)では,「a.発想・構
想のための情報を蓄える場面」において,
「見る」と
いう視点で指導の工夫を取り入れる。具体的には,
動機付けにつながる参考作品の提示等が考えられる。
そして,
「b.イメージをふくらませたり,アイデアを
具体化したりする場面」においては,
「語る」という
視点で指導の工夫を取り入れる。具体的には,思い
付いたことをことばで表現したり,お互いにアイデ
アを交流し合ったりするなどが考えられる。
次に,発想・構想段階(ⅱ)では,「試す」とい
う視点で指導の工夫を取り入る。具体的には,試行
錯誤を促したり,道具や技法を選択できるようにし
‑ 145 ‑
Ⅲ
0%
低学年
7
中学年
6
高学年
9
86
計 22
195
調査の概要
60%
64
80%
24
45
100%
21
28
15
35
21
2 時々困ることがある
3 ほとんど困ることはない
4 まったく困ることはない
0%
低学年
中学年
高学年
(3) 調査方法
設問①,③は四段階評定尺度法で行った。②,④
は選択及び自由記述式で,複数回答可とした。⑤は
自由記述式とした。
計
(4) 調査対象
調査対象学年及び調査児童数を表1に示す。
表1
低学年
中学年
高学年
第1学年
第4学年
第5学年
第6学年
計
呉市立三津口
小学校
広島大学附属
三原小学校
発想・構想時に困ることがあるか
20%
40%
48
20
41
11
98
187
33
60%
80%
6
49
100%
0
27
37
2
2 17
60
2
50
146
4
1 何をかいて(つくって)よいかわからなかった
2 道具の使い方がわからなかった
調査対象学年及び調査児童数
大竹市立大竹
小学校
57
1 いつも困ることがある
図4
(2) 調査時期
平成17年7月及び9月
87
※グ ラフ 中の 数 字は 人数 を 表 す
(1) 調査内容
それまでの図画工作科の授業について,次の項目
で調査した。
① 発想・構想時に困ることがあるか
② 困ることがある場合,その具体的な内容
③ 発想・構想時に困ることがあるか(表現活動別)
ア.絵に表す イ.工作に表す ウ.造形遊び
④ アイデアが浮かばないときはどうするか
⑤ アイデアのヒントや参考にするものは何か
2
40%
実態調査と分析
各研究協力校において,発想・構想段階における
児童の意識を把握するために,実態調査を行った。
1
20%
※グ ラフ 中の 数 字は 人数 を 表 す
たりするなどが考えられる。
(3) 評価について
以上のような創造的な想像力をはぐくむ授業構想
に基づき,
「見る」,
「語る」,
「試す」という視点で指
導の工夫を取り入れた研究授業を実施する。研究授
業は,次に示すものによって評価する。
○児童の発言や行動
○アイデアスケッチ
○作品
○自己評価カード,振返りカード 等
3 使いたい材料や道具がなかった
116 名
4 思うようにかけそうに(つくれそうに)なかった
5 その他
23 名
図5
71 名
76 名
75 名
361 名
調査結果の分析と考察
(1) 発想・構想における児童の意識
図4は,発想・構想時に困ることがあるかどうか
を低・中・高学年別に示したグラフである。
困ることがある場合,その具体的内容
361名の調査対象児童のうち,発想・構想時にいつ
も困ることがある児童と時々困ることがある児童の
合計は217名であり,全体に占める割合は60.1%であ
った。低,中,高学年別では,低学年61.2%,中学
年54.3%,高学年62.9%となっており,中学年が若
干少ないものの,過半数を超える児童が,発想・構
想時に何らかの「困ること」を感じていることが分
かった。
‑ 146 ‑
0%
6
60%
80%
64
中学年
8
高学年
18
計
40%
25
21
25
70
13
29
159
32
22
20
74
56
1 いつも困ることがある
2 時々困ることがある
3 ほとんど困ることはない
4 まったく困ることはない
図6
0%
13
中学年
7
60%
80%
55
25
高学年 5
計 25
15
100%
24
11
35
65
42
19
145
92
54
1 いつも困ることがある
2 時々困ることがある
3 ほとんど困ることはない
4 まったく困ることはない
図7
工作に表す活動について
※グ ラフ 中の 数 字は 人数 を 表 す
低学年
40%
7
中学年
5
40%
60%
57
30
11
60
計 22
147
80%
100%
32
26
16
高学年 10
36
63
26
84
1 いつも困ることがある
2 時々困ることがある
3 ほとんど困ることはない
4 まったく困ることはない
図8
絵に表す活動について
20%
低学年
20%
100%
※グ ラフ 中の 数 字は 人数 を 表 す
低学年
20%
0%
※グ ラフ 中の 数 字は 人数 を 表 す
図5は,「困ることがある」と回答した児童が理
由として選んだ具体的内容の割合を学年別に示した
グラフである。複数回答であるが,各学年とも,
「何
をかいて(つくって)よいかわからなかった」が高
い割合になっている。特に,高学年の平均は54.7%
であり,発想・構想時に困ると感じる傾向が強いこ
とが分かった。
図6〜図8は,質問①「発想・構想時に困ること
があるか」にかかわって,表現活動別の割合を示し
たグラフである。今回の研究対象とする表現活動の
領域を判断するために調査した項目である。
造形遊びについて
「いつも困る」と「時々困る」を合わせた人数を,
その表現活動の発想・構想時に困ることがあると感
じる人数とした場合,全体では「絵に表す活動」が
59.5%,「工作に表す活動」が 53.8%,「造形遊び」
が 53.5%という結果になった。アンケート実施前の
予想では,
「絵に表す活動」が圧倒的に高い割合にな
ると考えていた。しかし,結果を見ると,どの表現
活動も50%から60%の間であり,
「絵に表す活動」が
とりわけ高い割合ではなかった。
これらのことから,児童は,表現活動全般におい
て,発想・構想時に何らかの困ることがあることが
分かった。特に,
「何をかいて(つくって)よいかわ
からなかった」や「思うようにかけそうに(つくれ
そうに)なかった」といった,アイデアが浮かばな
いことによるつまずきが多いという傾向があること
が明らかになった。そのため,アイデアを浮かばせ
るための指導の工夫が重要であると考える。
(2) アイデアを出すためのヒント
それでは,発想・構想段階にアイデアが浮かばず
困ったとき,児童はどのような方法を取っているの
であろうか。図9は,アイデアが浮かばないときの
方法を学年別に示したグラフである。
図9のグラフによると,低学年は,
「自分で考える」
が 49.3%と最も高く,続いて「先生に聞く」が 28.2%
となっている。
「友だちに聞く」という回答は,他の
学年の半分以下の 15.5%である。低学年は,自分で
考えることを主としながら,困ったときには先生を
頼りにしていると考えられる。
ところが,中,高学年になると,この割合に変化
‑ 147 ‑
0%
20%
35
低学年
28
高学年
56
計
119
60%
11
28
100%
20
5
7
53
92
80%
17
12
39
26
48
1 自分で考える
2 友だちに聞く
3 先生に聞く
4 参考作品をさがす
図9
Ⅳ
1
低学年
中学年
高学年
低学年の実践
題 材 名:「どうぶつむらのピクニック」
(開隆堂『ずがこうさく1・2上』より)
実施対象: 第1学年 31 名
実 践 校: 大竹市立大竹小学校
指導時数: 6時間
アイデアが浮かばないときはどうするか
が見られる。
「自分で考える」が減り,逆に「友だち
に聞く」が増えている。両者の割合もほぼ同じ比率
である。また,低学年よりも「先生に聞く」割合が
激減し,「参考作品をさがす」が増えている。
したがって,中・高学年では,友だちとの交流や
他の作品を参考にして,発想や構想のアイデアを考
える傾向があると考えられる。
次に,アイデアのヒントや参考にするものとして,
児童が記述したものを表2に示す。
表2
発想・構想段階の指導の工夫を生かし
た授業の実際
以上の文献研究及び実態調査を踏まえ,「見る」,
「語る」,「試す」の視点から指導の工夫を取り入れ
た授業展開を考え,低,中,高学年でそれぞれ研究
授業を行った。
※グ ラフ 中の 数 字は 人数 を 表 す
中学年
40%
アイデアのヒントや参考にするもの
友だちの作品,先生がつくった作品(参
考作品),本・教科書
友だちの作品ややり方,材料,景色,
友だちとの会話,身の回りのもの
友だちの作品,参考作品,動植物や昆
虫など自然物,材料,自分が好きなも
の,有名な人の作品,身の回りのもの,
色や形など
どの学年にも共通して挙げられているものは,友
だちの作品や教師が提示した作品である。このこと
から,身近な作品を見せることは,児童の発想をふ
くらませる上で大きな支援になると考えられる。し
たがって,アイデアを生み出せるような参考作品を
提示する工夫を取り入れれば,創造的な想像力をは
ぐくむ上で効果があるのではないかと考えた。
(1) 題材について
○ 動物は,児童が大好きなものの一つである。ウ
サギ,イヌ,キリンなど,絵をかかせると必ずだ
れかがかいているように,児童にとって親しみや
すいテーマである。本題材は,
「A表現」(2)「表
したいことを絵や立体に表したり,つくりたいも
のをつくったりするようにする。」を受け,身近
な材料とふれあうことによって,その色や形,材
質感などの特徴から想像を広げ,自由に組み合わ
せて思い付いた動物をつくる題材である。
児童は,これまでに動物と接した知識や経験を
生かし,材料から思い付いたアイデアを自分なり
の方法で表現していくと思われる。
また,身近な材料から様々な動物を生み出すこ
とができることを知ることによって,材料の形や
色などを見る感覚が豊かになる題材である。
○ 本学級の児童の多くは,活発で何にでも興味を
示し,図画工作の時間を楽しみにしている。しか
し,何かをかいたりつくったりするときに,テー
マとするものがなかなか思い浮かばない児童が多
い。また,表現活動に入ってからも,発想を広げ
ることができず,教師の参考作品や教科書の作品
をそっくり真似してしまう児童がいる。
「作品をつくるとき,作業が進まなくて困るこ
とがあるか」という事前のアンケートでは,
「いつ
も困る・時々困る」という児童が約6割いる。
○ そこで,指導に当たっては,児童の想像力を広
げる材料との出合いを工夫するなど,つくってみ
たいと思えるような動機付けを促す活動を重視す
る。児童が主体的に材料を集めることはもちろん
であるが,「こんなふうにつくってみたい。」,「何
に使えるかな?」というように,児童の夢がふく
‑ 148 ‑
らみ,発想が広がるような材料を充分確保し,表
現活動が充実するように配慮したい。また,材料
とふれ合い,よく見て,どのように使いたいかを
発表し合うなど友だちとのかかわり合いを深め,
発想や構想の能力が高まるように支援していく。
(2) 題材の目標
○ つくりたい動物を想像しながら自分の方法で表
すことを楽しむことができる。
○ 材料の形や色などの特徴や組み合わせをもとに
動物の表し方を考えることができる。
○ 材料の形や特徴を生かし,工夫して表現するこ
とができる。
○ 自分や友だちの作品を見て,よさや工夫に気付
くことができる。
(3) 指導と評価の計画(全6時間)
次
1
2
3
学習内容
(時数)
評価規準
関:つくりたい動物を
表 す こ と を 楽し も
うとする。
発:材料の形や色など
の特徴をもとに,つ
くりたい動物を思
い付いている。
集 め た 材 料 で 発:材料を組み合わせ
るなど思い付いた
動物をつくる。
ことを次々と試し
(4)
ながら,動物の表し
方に生かせる工夫
を見付けている。
創:表したい動物に合
わせて,材料の特徴
を生かし工夫しな
がら表している。
動 物 を 集 め 自 鑑:自分や友だちがつ
くった動物の形の
分や友だちの
おもしろさやよさ,
作品のよさや
工夫に気付いてい
工夫に気付く。
る。
(1)
つくりたい動
物を想像しな
がら,材料を見
たり,集めたり
する。
(1)
評価方法
発言
発表
行動観察
図工カード
発言
行動観察
図工カード
発表
図工カード
(4) 発想や構想の能力の具体的な評価規準
○ 材料の形や色などの特徴をもとに,つくりたい
動物を思い付いている。
○ 材料を組み合わせるなど思い付いたことを次々
と試しながら,動物の表し方に生かせる工夫を見
付けている。
(5) 指導の工夫
ア 見る
○ 多様な材料を確保する。
本題材を実施するに当たり,事前に児童が自分で
材料を集めるという作業を重視した。ただし,何を
つくるのかは秘密にしておき,工作に使えそうな材
料をできるだけ集めておくように伝えた。学級通信
を通じて家庭に協力を依頼することにより,一年生
の児童だけでは集められないような材料を確保でき
るようにした。
○ 材料の種類ごとに分類したり,ラベリングした
りする。
集めてきた材料を生活科ルームにある個人のロ
ッカーに収納させるようにした。これにより,自分
が準備した材料にはどんなものがあるのかを確認し
やすくすることができた。
○ 発想のヒントになるような導入の工夫をする。
発想のきっかけをつかませるために,児童に「材
料の変身マジック」を
見せた。タマゴパッ
ク・箱・紙皿・牛乳パ
ックを切ったり,貼っ
たり,紙を挿入させた
りなど少し手を加える
ことにより,材料の使
材料の変身マジック
い方のヒントになる情
報を与えることをねら
いとした。その際,意図的に未完成の参考作品を見
せることで,イメージが広がるようにした。
イ 語る
○ ひらめいたアイデアを発表する場を設定する。
材料集めが一段落した段階で,何に見えるか想像
したことを自分のことばで自由に発表させた。この
ことにより,自分自身のアイデアを再確認するとと
もに,友だちの発言からヒントになる情報をもらえ
るようにした。
ウ 試す
○ 材料を組み合わせながら試行錯誤する場を設定
する。
低学年の児童においては,材料の接着などをしな
くても自然に表現活動が広がるものである。そこで,
構想時に自然に始まる表現活動を大事にすることに
した。組み立てながら試行錯誤する活動が全員に広
がるように声かけをし,材料を組み合わせながら試
行錯誤する場を設定した。また,試行錯誤によって
変化した構想を評価しながら,個に応じた表し方を
引き出すようにした。
(6) 実践の分析・考察
以上のような指導の工夫をもとに実施した授業に
おいて,特徴的な姿が見られた児童について,三つ
の場面での様子や作品をもとに分析・考察した。
‑ 149 ‑
ア
発想・構想のための情報を蓄える場面
A児は,導入で見た「材料
の変身マジック」をヒントに,
赤 い 箱 で ワニ の 頭 を つく っ
た。そのとき,導入で見た「材
料の変身マジック」(右の写
真)を思い出し,口が開いた
り閉じたりする仕組みを取り
入れることを思い付いた。そ
導入で見せた作品
こで,導入で見せた箱の見本
を再び見せながらつくり方を
アドバイスした。その結果,
写真のように,参考作品をも
とにして開閉するワニの頭を
つくった。
A児は,参考作品の開閉す
A児がつくったワ
る仕組みをもとに,ワニの歯
ニの口
は紙コップを利用して自分な
りに工夫して付けていた。
また,B児は,透明な卵パックの中にお花紙を入
れて見せた参考作品をヒントにして,写真のような
作品をつくった。卵パック同様,透明なペットボト
ルの中にシュレッダ
ーで細かくなった,
黄色やオレンジ色の
紙を入れてライオン
の毛並みを表してい
た。このアイデアに
は,B児本人も大変
満足していた。この
シュレッダーの使い方を工夫
様子からは,参考作
したB児の作品
品として見せたもの
をもとに自分の表し方で工夫している姿を見取るこ
とができる。
イ イメージをふくらませたり,アイデアを具体化
したりする場面
C児は,アイデアを出し合う場で,材料を組み合
わせてキリンをつくるというアイデアとともに,キ
アイデアを発表するC児と完成作品
リンが食べるアイスクリームもつくりたいと発表した。
写真(左)は,紙コップとラップの芯でアイスクリ
ームの構想を説明しているところである。
C児の発表の様子からは,自分のアイデアをこと
ばで発表することによって,つくりたいキリンをは
っきりとイメージしている様子が読み取れた。写真
(右)の完成作品では,キリンが背の高い動物であ
ることから,キリンと同じくらい背の高いアイスク
リームをつくっていた。
ウ 実際に表現を試したり,制作したりしながら発
想・構想する場面
D児は,材料集めが一
段落した段階で床に座り,
右の写真(上)のように
集めた材料を組み合わせ
ながら試行錯誤をし始め
た。この段階ではキリン
をイメージして材料を組
み合わせていた。しかし,
材料のエアクッションが
ゾウの鼻に使えることを
思い付き,最終的には右
D児の試行錯誤の様子
の写真のようなゾウをつ
(上)と完成作品(下)
くっていた。
D児のように,いろいろな材料を試しながら自分
の思いに合った作品を完成していく児童も多く見ら
れた。例えばE児は,材料を組み合わせながら試行
錯誤しているうちに,新たに使いたい材料が思い付
いたようだった。
「たから箱」と名付けた材料コーナ
ーに行き,自分の思いに合った材料を選んでいた。
右の写真は,この時の
E児の様子である。材料
を組み合わせてみること
によって浮かんだ新しい
イメージに合う材料を見
付けるため,白や茶色,
透明なカップを交互に手
に取りながら見比べて選
再び材料を選ぶE児
んでいた。
エ まとめ
低学年の児童には,材料の形や色などの特徴や組
み合わせによる工夫をいかに印象付けるかがポイン
トであると考え,
「材料の変身マジック」など,特に
「見る」という視点で,材料に興味をもたせる工夫
を取り入れた。なお,本題材の発想や構想の能力の
評価規準は,次の2点である。
‑ 150 ‑
○
材料の形や色などの特徴をもとに,つくりたい
動物を思い付いている。
○ 材料を組み合わせるなど思い付いたことを次々
と試しながら,動物の表し方に生かせる工夫を見
付けている。
図10は,本題材における,児童一人一人の「発想
や構想の能力」について,評価規準に基づいて「十
分満足できる」状況を(A),
「おおむね満足できる」
状況を(B),「努力を要する」状況を(C)として
指導者が評価したそれぞれの人数である。
このアンケートでは,約8割の児童が「先生が へ
んしんさせた ざいりょう(材料の変身マジック)
に ヒントになったものがあった」と感じている。
これは,作品のヒントになる情報を「見る」という
視点で行った導入によって,児童に興味をもたせる
ことができた成果であると考える。
以上のことから,本題材において提示したヒント
が,児童の創造的な想像力をはぐくむ上で効果的で
あったと判断することができる。
2
(人)
中学年の実践
題 材 名:「キラキラの世界」
30
(開隆堂『図画工作3・4下』より)
「十分満足できる」状況(A)
4名
25
実施対象: 第4学年 24 名
実 践 校: 呉市立三津口小学校
指導時数: 5時間
20
「おおむね満足できる」状況(B)
25名
15
10
「努力を要する」状況(C)
2名
5
0
(31名中)
図10
「発想や構想の能力」の評価結果
「おおむね満足できる」状況(B)以上の児童は,
31名中29名であった。これは学級全体の 93.5%であ
ることから,児童の創造的な想像力をはぐくむとい
う目標は,おおむね達成することができたと考えら
れる。特に,(A)の児童は,材質の違いにこだわっ
て独創的な動物をつくっていた。
図11は,1,2時限終了後の学習カードによるア
ンケートの結果である。(複数回答)
(人)
30
あつめたいものが たくさん
見つけられた
25
20
先生が へんしんさせた ざい
りょうに ヒントになったもの
があった
15
10
ともだちが みつけたものが
じぶんにもあったらいいなと
おもった
5
0
(31名中)
図11
1,2 時限終了後の学習カードより
(1) 題材について
○ キラキラと光が反射する金や銀の紙などには何
か心をひきつける不思議な美しさがあり,児童に
とってはとても魅力的な素材である。児童の身の
回りには,キラキラ折り紙,キャンデーの包み紙,
アルミホイル,テープ,キラキラのりなどキラキ
ラ光るものがたくさんあり,児童は身の回りにあ
る光る材料を集めながら,つくりたいものを思い
付いたり,つくりたいものへの思いを深めたりす
ることができると考える。
また,これらの材料は,切り貼りや折ったり丸
めたりして自由に形成することができる。さらに,
キラキラ光る美しさから発想し,自分の思い付い
たことを試してみたり,直したり試行錯誤を繰り
返したりしながら発想を広げ,自分の思いを表現
することができる題材である。児童は美しく輝く
作品に自分の思いを重ね合わせながら,材料がも
つ美しさを味わい,自分自身の「キラキラの世界」
を完成させていくと考える。
○ 本学級の児童は,約9割の児童が図画工作の学
習が好きである。休憩時間にはイラストをかいて
友達と見せ合って楽しむ姿が見られる。また,だ
れかがつくった折り紙がクラス全体に広まるな
ど,ものをつくったりかいたりすることに関心が
ある児童が多い。しかし,その一方で,図画工作
の時間に何をつくっていいのか分からない,思う
ようにつくれそうにないというように,「作品を
つくるとき,困ることがある」と感じている児童
が8割近くいる。
‑ 151 ‑
○
そこで,指導に当たっては,児童一人一人が何
を表現したいのか意識できるような活動を取り
入れる。また,表現活動では,児童の発想を引き
出すように声をかけるようにする。自分のつくり
たいものが思い付かず,つまずいている児童には,
話を聞きながら表現のきっかけをつかませるよ
うにしたい。
(2) 題材の目標
○ 自分らしい「キラキラの世界」を楽しみながら
意欲的に表すことができる。
○ 「キラキラの世界」のイメージから思い浮かぶ
材料を選んで発想し,自分なりの表し方を構想す
ることができる。
○ キラキラ光る材料の特性を生かして,自分のイ
メージした世界を工夫して表現することができる。
○ 自分や友達の作品のよさや美しさに気付き,共
感することができる。
(3) 指導と評価の計画(全5時間)
次
1
2
学習内容
(時数)
評価規準
自 分 が 考 え た 関:自分らしい「キラ
キラの世界」をイメ
お話をもとに,
ージしながら,意欲
集めた材料を
的に取り組もうと
使って「キラキ
する。
ラの世界」をつ
発:
「キラキラの世界」
くる。
を思い浮かべなが
(4)
ら,自分が考えたお
話や材料の特徴を
もとに,その特性を
生かして表したい
ものを発想してい
る。
発:友だちと表し方を
交流するなどしな
がら,その形を変え
るなどして新たな
発想を思い付いて
いる。
創:用具や材料の特性
を生かしながら,表
したいものに応じ
て工夫して表現し
ている。
自 分 た ち の 作 鑑:自分や友だちの作
品の表し方,形や
品を紹介し合
色,材料の組み合わ
う鑑賞会を開
せのよさなどに気
く。
付いている。
(1)
評価方法
行動観察
発表
ふり返りカ
ード
発表
行動観察
鑑賞カード
(4) 発想や構想の能力の具体的な評価規準
○
「キラキラの世界」を思い浮かべながら,自分
が考えたお話や材料の特徴をもとに,その特性を
生かして表したいものを発想している。
○ 友だちと表し方を交流するなどしながら,その
形を変えるなどして新たな発想を思い付いている。
(5) 指導の工夫
ア 見る
○ パターンの違う参考作品を提示する。
教科書の作品のみではなく,下の写真のように,
作風や台紙の形などパターンの違う参考作品を見せ,
発想のためのヒントを得られるようにした。
作風やパターンの違う参考作品
○
多様な材料を確保する。
材料に関しては,自分の表現活動にはどんな材料
がいるのか目的をもって事前に材料集めをさせた。
また,児童の発想が広がりそうな材料をあらかじ
め準備しておくようにした。
イ 語る
○ キーワードをもとにお話づくりをする。
国語科と関連させ,「キラキラの世界」をキーワ
ードにして連想したことばやその様子を思い描きな
がらお話づくりをさせることにより,児童一人一人
に自分らしい「キラキラの世界」のイメージを明確
にもたせるようにした。
ウ 試す
○ いつでも使える道具を準備しておく。
ホットボンドなどの道具をすぐに使えるように専
用のコーナーを設けておき,制作中にいつでも試せ
るようにしておいた。
○ 友だちの作品を見て話し合う場を設定する。
表現活動の途中に「鑑賞タイム」という時間を設
定し,全体で意見を交流する場を設けた。このこと
により,自分が思い付かなかった発想や表現のよさ
に気付き,新たな試行錯誤につながると考えた。
(6) 実践の分析・考察
以上のような指導の工夫をもとに実施した授業
において,特徴的な姿が見られた児童について,三
つの場面での様子や作品をもとに分析・考察した。
ア 発想・構想のための情報を蓄える場面
F児は,青いセロハンやテープで海の表現をする
ときに,よりキラキラ感を出したいと考えていた。
‑ 152 ‑
そこで,参考作品を見てアルミホイルをくしゃくし
ゃにして貼っているところに注目し,自分の表現に
取り入れていた。
参考作品は,くしゃく
しゃにしたアルミホイル
を画面全体に貼り,キラ
キラ光る宇宙の広がりを
表現していた。F児はセ
ロハンやテープだけでは
キラキラ感が弱いと考え,
F児の作品「海」
くしゃくしゃにしたアル
ミホイルのしわを少し伸ばしてバックに貼ることに
よって,波のキラキラ感を表そうとした。
(上の写真)
このように,参考作品をヒントにして自分の表現
に取り入れ,工夫して表している様子が分かる。
イ イメージをふくらませたり,アイデアを具体化
したりする場面
「キラキラの世界」のイメージをことばで表すこ
とによって明確にするため,合科的に国語の作文の
時間を使ってオリジナルのお話づくりをさせた。児
童は,
「キラキラの世界」というキーワードから,頭
の中でイメージしたものを文章で表した。お話づく
りと同時に,一場面を挿絵にかかせることで,最も
表現したい場面をしぼることができ,そのことが表
現・制作時のアイデアを一層ふくらませたと考えら
れる。このことについて,G児の事例をもとに述べる。
G児は,虫や草花など自然が大好きな子どもであ
る。G児のお話は,作品をイメージしながら挿絵と
ことばで書き表されていた。作文の内容を次に示す。
題「キラキラおかし王国のアリ」
そこには小さいアリが住んでいました。砂はビーズのような小
さいおかしのカス,アリはこの下に住んでいました。おかしはい
つも取れるし,女王アリも食べきれないほどでした。今日はチョ
品(右の写真)にもビーズ
が使われていることから,
物語を考えながら砂の部分
の材料をビーズでつくろう
と意識していたことが分か
る。
G児の作品「キラキ
以上のように,G児は,
ラおかし王国のアリ」
お話づくりや挿絵をきっか
けとしてアイデアをふくらませ,自分なりの表し方
で作品をつくっていたことが伺える。
ウ
実際に表現を試したり,制作したりしながら発
想・構想する場面
H児は,お話をつくる段階では,「光る空」とい
う話を考えていた。この話は,父親といっしょに飛
行機で旅をしていると,星のように光るものを発見
したというあらすじであった。この話をもとに,キ
ラキラした空を表現するため,ホットボンドコーナ
ーに行っては画面いっぱいにビー玉やビーズを貼り
付けていた。(右の写真)
しかし,H児は,切った
り貼ったり試行錯誤をする
過程で平面ではもの足りな
くなった。そこで,準備さ
れた材料や道具を駆使して
最終的には下の写真のよう
に,立体的な「未来の国」
という作品を完成させた。
初めは平面的な作品
この作品を見ると,制作
をつくっていたH児
の初期にホットボンドで付
けていたビーズやビー玉が
ちりばめられた画用紙は,立体作品の土台として生
かされていることが分かる。ビーズやビー玉以外に
使われているキラキラ光る材料は,アルミホイル,
金色のモール,光るテープ(銀,緑),アルミケース,
リボン,スチロールトレイ等,じつに多様である。
コの砂を手に入れました。いっつもおかしはダイヤのようにキラ
キラ光ります。
水あめの雨がやむと,虹がかかります。その上にある雲はわた
がしでした。山も海も砂も雲も雪も全部おかしでした。アリたち
も水あめを草のつぼで取ったり,砂を取ったり大あわて,女王ア
リもいっぱい食べても昼にはすぐおなかがへります。だけどごは
んをとる時,全部おかしなのであまりつかれませんでした。アリ
はいつもいつもしあわせでした。
G児の創作文
文中に「砂はビーズのような小さいおかしのカ
ス」という記述(※網掛け部分)がある。G児の作
‑ 153 ‑
H児の作品「未来の国」
H児は,これら多様な材料を有効に使って表すため
に,平面ではもの足りなくなり,構想が立体作品に
変化していったと考えられる。このことから,制作
しながら,自分の思いに合わせて材料を工夫して使
いながら,新たな発想を付け加えていったことが伺
える。
また,I児は,参考作
品を見て立体的な表現に
関心をもっていた。鑑賞
タイム(右の写真)でH
児の作品を見て,
「ぼくも
立ててみたくなりまし
た。」といいながら,思い
鑑賞タイムの様子
をふくらませ,門の部分
を立体的に表現することに挑戦した。試行錯誤の末,
下の写真のように「キラキラの海のテーマパーク」
という作品が完成した。
いて「十分満足できる」状況を(A),「おおむね満
足できる」状況を(B),
「努力を要する」状況を(C)
として指導者が評価したそれぞれの人数である。
「おおむね満足できる」状況(B)以上の児童は,
24名中22名であった。これは学級全体の 91.7%であ
ることから,児童の創造的な想像力をはぐくむとい
う目標は,おおむね達成することができたと考えら
れる。
(人)
14
「十分満足できる」状況(A)
12名
12
10
8
「おおむね満足できる」状況(B)
10名
6
4
「努力を要する」状況(C)
2名
2
0
(24名中)
図12
「発想や構想の能力」の評価結果
図13は,第1次(表現活動)の①1,2時間目と②
3,4時間目の終了後に,児童がつくるとき,考え
るヒントになったものを聞いた結果である。
H児の立体作品からヒントを得たI児の作品
この作品では,H児の作品から思い付いた,立体
的にするというアイデアを生かし,海に泳いでいる
魚を画面に固定するのではなく,画面に置いて自由
に動かすことができるような工夫を取り入れていた。
鑑賞タイムを通して友人と表し方を交流しながら
新たな発想を思い付いていることが分かる。
エ まとめ
中学年の児童は,語彙が増え,ことばによる意見
交流が活発である。そこで,お話づくりや鑑賞タイ
ムにおけるアイデアの交流を重視した指導の工夫を
取り入れた。
本題材の発想や構想の能力の評価規準は,次の2
点である。
○ 「キラキラの世界」を思い浮かべながら,自分
が考えたお話や材料の特徴をもとに,その特性を
生かして表したいものを発想している。
○ 友だちと表し方を交流するなどしながら,その
形を変えるなどして新たな発想を思い付いている。
図12は,本題材における,児童一人一人の「発想
や構想の能力」について,設定した評価規準に基づ
70
60
50
40
30
20
10
0
(%)
①
②
創作文
材料を見て
1,2時間後
52.2
3,4時間後
16.7
図13
友だちの作 友だちのア
参考作品
先生のアド
その他
品
ドバイス
66.7
52.2
0.8
1.3
1.3
0
66.7
45.8
0.4
1.7
20.8
0
バイス
つくるとき,考えるヒントになったもの
例えば,つくるとき,考える上で最もヒントにな
ったものは,①,②とも,児童の3分の2に当たる
66.7%が「材料を見て」と答えている。児童の感想
では,
「キラキラするものがいっぱいあって選びやす
かった。」「ここをもっと光らせようとか,ここには
ろうとかいろいろな材料を見ていると思いついた。」
「キラキラ光るものを見て,どんどんアイデアがう
‑ 154 ‑
かんだのでよかったです。」などの感想が見られた。
これらの感想から,キラキラ光る材料から,多くの
アイデアが浮かんでいることが分かる。
また,「創作文」は①の時点で52.2%であったが,
ある程度制作が進んだ②では16.7%に減少すること
から,構想を練る初期の段階において,有効に作用
したと考えられる。
3
(人)
20
18
16
14
時々困ることがある
19名
12
10
高学年の実践
8
6
ほとんど困ることはない
8名
4
まったく困ることはない
6名
2
0
(1) 題材について
(37名中)
題 材 名:「思い出の一枚をかざろう」
実施対象: 第6学年 39 名
実 践 校: 広島大学附属三原小学校
指導時数: 9時間
○
いつも困ることがある
4名
図14
作品をつくるとき困ることがあるか
○
本題材は,自分の思い出深いスナップ写真から
発想を広げ,今までの造形経験を総合的に生かし,
写真飾りを思いのままにつくって楽しむ活動で
ある。この題材がもつよさとして次の3点が考え
られる。
1点目は,自分の大切な一枚の写真から情景や
その時のエピソードなどを思い出し,造形的な発
想をしながら創作すること自体を楽しむことが
できる点である。
2点目は,自分の思いを込めて選んだ写真であ
ることから,内容にふさわしい形や色,効果的な
材料の生かし方やつくり方などについて発想や
構想がしやすくなる点である。
3点目は,これまでの6年間の造形体験を総合
的に生かし,自分の力を出し切って作品に表そう
という意欲をもって臨める点である。
以上のようなよさを生かし,児童は,題材に取
り組む中で,作品に自分の心の内を表現し,思い
出を大切にしながら創造的に活動すると考える。
○ 図14は,本学級39名(アンケート時2名欠席)
の児童に,事前にアンケート調査を行った結果で
ある。
作品をつくるときに「いつも困る」と答えた児
童は4名であったが,
「時々困る」は19名であり,
62.2%の児童が何らかのつまずきをもっている
ことが分かる。困る理由については,「何をつく
ってよいのか分からない」が17名で最も多く,次
いで,
「思うようにつくれそうになかった」が16名
であった。これらのことから,題材の主題を把握
し,発想をふくらませて自信をもって表現に取り
組むことができにくいという児童の実態が分かる。
そこで,指導に当たっては,導入で九つの参考
作品を提示し,児童が気に入った作品を一つ選び,
その理由について交流できるようにする。その際
「色や形などその写真ならではの飾り方をする」,
「効果的な材料の使い方」,
「アイデアのおもしろ
さ」を今後の制作への視点としてもたせるように
する。発想・構想段階においては,アイデアスケ
ッチを取り入れ,発想をふくらませ,アイデアを
生み出しやすい環境づくりをする。
また,制作時間を十分確保することにより,児
童が試行錯誤を繰り返しながら制作することが
できるようにしたい。
(2) 題材の目標
○ 思い出の写真を飾るための作品づくりに意欲的
に取り組むことができる。
○ 写真に対する自分の思いを効果的に表現できる
材料や方法を思い付き,アイデアスケッチをかい
たり,作品に表したりしながら発想を広げること
ができる。
○ 主題に基づき,材料や用具の選び方,組み合わ
せ方,組み立て方,飾り方などを考え,工夫しな
がら表すことができる。
○ 主題や思い出の内容,制作方法の特徴,よさな
どに着目してお互いの作品を味わうことができる。
(3) 指導と評価の計画(全9時間)
次
1
‑ 155 ‑
学習内容
(時数)
思い出の写真
をもとに写真
立ての飾り方
を考える。
(2)
評価規準
関:思い出の写真を飾
る作品づくりに意
欲的に取り組もう
とする。
発:思い出の写真をも
とに発想を広げ,写
真にふさわしい飾
評価方法
行動観察
発表
ふり返りカ
ード
2
3
り方を考えて表し
方を構想している。
思 い 出 の 写 真 発: 表現の工夫や材
料の特徴など視点
を飾る写真立
をもって友人とア
てをつくる。
イデアの交流をし
(6)
ながら,新たな表
現方法を思い付い
ている。
創:表したいことを表
現するために,材
料の特性や用具の
使い方を考えなが
ら,効果的に表し
ている。
鑑賞会を開く。 鑑:お互いの作品の表
したかったことに
(1)
着目し,材料の組
み合わせなど写真
に合った表現方法
の工夫や美しさに
気付いている。
行動観察
発表
ふり返りカ
ード
発表
行動観察
鑑賞カード
(4) 発想や構想の能力の具体的な評価規準
○ 思い出の写真をもとに発想を広げ,写真にふさ
わしい飾り方を考えて表し方を構想している。
○ 表現の工夫や材料の特徴などの視点をもって友
人とアイデアの交流をしながら,新たな表現方法
を思い付いている。
(5) 指導の工夫
ア 見る
○ 参考作品の提示を効果的に演出する。
参考作品を提示す
るに当たっては,右の
写真のように,見る直
前まで布をかぶせてお
いた。このことによっ
て,
「見る」という意識
を高める効果をねらっ
見る直前まで参考作品
を秘密にしておいた
た。
また,アイデアや工
夫に満ちた数種類の参考作品を見ることにより「発
想や表現方法の工夫を学ぶ(知る)」ことや「挑戦し
てみよう」という意欲を喚起することができると考
えた。飾りと写真がマッチしているものや,材料が
効果的に使われているものを選んで提示した。左下
の写真は,提示した参考作品のうちの2例である。
イ 語る
○ 付箋紙に感想や意見を書いて,アイデアの交流
をする。
新たな発想やヒントを生み出すきっかけをつくる
ため,アイデアスケッチをかいた段階で付箋紙を活
用した意見交換タイムを設けた。このことにより,
一言感想やアドバイスから新たな発想を得ることが
可能になると考えた。
ウ 試す
○ 写真の縮小コピーを用いて試行錯誤できるよう
にする。
本題材では,自分が選んだ思い出の一枚を作品の
中でどのようにレイアウトするかがポイントであ
る。そこで,それぞれが選んだ写真の縮小カラーコ
ピーを希望の枚数だけ準備し,レイアウトを試しな
がら構想できるようにした。
○ すぐに使える材料・用具コーナーを設置する。
図工室にある材料を実際に手に取って試すことが
できる場を設定することにより,試行錯誤できるよ
うにした。
(6) 実践の分析・考察
以上のような指導の工夫をもとに実施した授業
において,特徴的な姿が見られた児童について,三
つの場面での様子や作品をもとに分析・考察した。
ア 発想・構想のための情報を蓄える場面
図15は,第1次終了時のJ児のふり返りカードで
ある。
図15
参考作品例
左「夏 おばあちゃん家」,右「雪遊び」
J児のふり返りカード
J児の感想を見ると,導入で提示した参考作品か
らヒントを得ていることが分かる。参考作品(次ペ
ージの写真左)は,ミッキーが手で写真をもってい
るが,J児のアイデアスケッチ(写真右)は,犬が
写真をくわえるという新しいアイデアになって受け
継がれている。また,J児は,参考作品から,写真
の中心的な部分を取り出して飾りのメインにするこ
‑ 156 ‑
左:参考作品「ミッキーとの思い出」
右:J児のアイデアスケッチ
とで,より一層写真を
引き立たせることを学
んだようだった。
J児の最終的な作
品が右の写真である。
J児は,最初の構想ど
おり犬に写真をくわえ
J児の完成作品
させ,犬の毛並みのリ
アル感を出すために,これまでの経験を生かして使
う毛糸やその巻き方を工夫していた。
参考作品の中にあるアイデアをもとにして,自分
の主題に合わせ,独自の工夫を取り入れて表してい
ることが分かる。
イ イメージをふくらませたり,アイデアを具体化
したりする場面
アイデアをことばで具体化する手立てとして,感
想やアドバイスを付箋紙に書いて交換し合うという
工夫を取り入れた。アドバイスやアイデアの交流が
付箋紙を通してダイレクトに伝わり,イメージを明
確化することにつながるのではないかと考えた。
K児が選んだ思い出の一枚は,修学旅行で訪問し
た太秦映画村での写真だった。
図16は,K児がこの写真にふさわしい飾りを考え
て,最初にアイデアスケッチしたものである。
図16 K児のアイデアスケ
ッチ
図17 友だちからK児への
アドバイス
K児は写真が五条橋で弁慶と記念撮影したもの
であることから,写真の周りに五条橋や撮影セット
などを飾ることを思い付いた。ところが,アイデア
スケッチの段階では,それぞれのパーツを並べただ
けで,具体的にどのような表現にしてよいのか迷っ
ていた。
その後,鑑賞タイムで,友だちから写真と飾りの
組合わせや配置について,
図17のようなアドバイス
をもらった。
K児は,友だちからの
「写真の後ろにつながる
ように橋を作り,映画村
のかんじをもっと出した
方がいいと思う」という
アドバイスをもとに,右
の写真のような作品を完
成させた。「五条橋」を
中心に「手裏剣」,「撮影
K児の完成作品「映画村」
用カメラ」をバランスよ
く並べ,更に写真を橋の
後ろに配置し,写真の中の人物が再び橋を渡るかの
ように工夫している。
以上のようなK児の作品の変容からは,「語る」
視点で取り入れた付箋紙によるアイデアの交流をヒ
ントに工夫を行っている様子が分かる。
ウ 実際に表現を試したり,制作したりしながら発
想・構想する場面
L児は,写真が動く仕掛けを飾りとして取り入れ
たいと考えていた。アイデアスケッチの段階では,
飾り箱の横にクランク状のハンドルをつくり,それ
を回すことによって写真が垂直方向に回転するとい
うアイデアを思い付いていた。(下の写真)
しかし,制作を進め
るうちに,ハンドルを
横に付けると写真の収
まりが悪くなることに
気が付いた。そこで,
いろいろと試行錯誤を
重ねた結果,ハンドル
を上部に付けて写真を
水平方向に回転させる
L児のアイデアスケッチ
方が写真の見栄えもよ
くなる上に,つくりや
すいことに気が付いていた。
さらに,L児は,同じ写真を二枚貼り合わせれば
‑ 157 ‑
回転させても常に写真が見えることに気付き,写真
のカラーコピーを追加して試していた。下の写真は,
L児の完成作品である。
以上のようなL児
の表現活動や作品の
変容からは,最初の
構想をもとに試行錯
誤しながら,より自
分の意図に合ったも
のをつくり上げてい
った姿を見取ること
ハンドルを上部に付けるア
ができる。
イデアを生かしたL児の作品
また,M児は,吊
り橋を本物のように
つくりたいという思いをもっていたが,手元には思
いに合う材料が見当たらなかった。そこで,材料コ
ーナーから小枝や麻ひもを見付けてきて,最もイメ
ージに合う材料を選び,リアル感をもたせた吊り橋
をつくることができた。この段階で完成としてもよ
かったが,吊り橋があまりにもリアルにできていた
ので,M児は,「この
際,本当に渡っている
ようにしよう。」と思
い付いた。右の写真の
ように,思い出の写真
にはさみを入れ,自分
だけを切り取って吊
り橋を渡っているか
のように飾った。写真
M児の完成作品「かずら橋
を渡った」
を切り取る場合,背景
を少し残すことによ
って状況が分かるようにする児童がほとんどである
が,M児は,写真を大胆に切り取ることによって,
飾りとなる吊り橋との一体感を求めたのである。こ
のようなアイデアは,M児が吊り橋のリアル感に満
足していなければ出てこない発想である。
以上のように,自分の主題に合う材料をもとに発
想を広げ,一度出来上がった作品から新たな発想を
付け加えて更に作品を完成させていく様子から,創
造的な想像力を発揮している姿を見取ることがで
きる。
エ まとめ
高学年の児童は,これまでの造形体験を総合的に
生かして表現を選択する。自分の主題に迫るために
どのような表現がふさわしいのかを判断することが
できれば,発想をより一層ふくらませるきっかけに
なると考えた。
本題材の発想や構想の能力の評価規準は,次の2
点である。
○ 思い出の写真をもとに発想を広げ,写真にふさ
わしい飾り方を考えて表し方を構想している。
○ 表現の工夫や材料の特徴などの視点をもって友
人とアイデアの交流をしながら,新たな表現方法
を思い付いている。
図18は,本題材における,児童一人一人の「発想
や構想の能力」について,評価規準に基づいて「十
分満足できる」状況を(A),
「おおむね満足できる」
状況を(B),「努力を要する」状況を(C)として
指導者が評価したそれぞれの人数である。
(人)
25
「十分満足できる」状況(A)
17名
20
15
「おおむね満足できる」状況(B)
22名
10
「努力を要する」状況(C)
0名
5
0
(39名中)
図18
「発想や構想の能力」の評価結果
その結果,全児童が「おおむね満足できる」状況
(B)以上となった。思い出の写真という題材とい
うことで,児童が主題を設定しやすかったとともに,
教師が提示した参考作品から,主題を具体的な作品
としてどのように表せば効果的なのかを一人一人が
考えており,児童の創造的な想像力をはぐくむとい
う目標は,おおむね達成することができたと考える。
図19は,作品づくりのヒントになったことについ
て,図20は,参考作品を見て役に立ったことについ
て,それぞれ39名の児童にアンケートを取った結果
である。(複数回答可)
図19では,
「試す」に対応する「材料」がヒントに
なったと回答した児童が最も多く,64.1%であった。
このことから,材料をもとに試行錯誤することによ
ってアイデアが広がったことが伺える。しかし,こ
のことは単に「試す」の工夫のみが効果的だったの
ではなく,導入での「見る」という工夫も効果的に
作用したと考えられる。なぜなら,図20の結果では,
‑ 158 ‑
導の工夫として提案する。
(1) 創造的な想像力がはぐくまれた姿を評価規
準で示すこと
創造的な想像力がはぐくまれた児童像として,各
学年の評価規準を次のように設定した。この評価規
準をもとに,題材に応じて具体的な評価規準を作成
し,評価を適切に行う。
作品づくりのヒントになったことは何ですか
つくりながら
2
8
自分の写真
先生のアドバイ ス
9
18
友だち のアドバイ ス
○
・
第1学年及び第2学年
材料の形や色などをもとに表したいものを思い
付いている。
・ 思い付いたことを次々と試しながら,新しい表
し方や工夫した表し方を見付けている。
19
友だち の作品
25
材料を
みて
材料
参考作品
参考作品を
みて
8
0
図 19
5
10
15
20
25
(人)
30
○ 第3学年及び第4学年
・ 形や色,材料などの組み合わせの美しさや用途
などをもとに,表したいものを発想している。
・ 友人と表し方を交流するなどして作品を見直し
ながら,新たな発想を思い付いている。
作品づくりのヒントになったこと
参考作品を見て役に立ったことは何ですか
材料の使い方が参考になった
38
美しいと思った
自分もつくろうと思った
28
8
自分もアイ デアが浮かんだ
アイ デアや工夫が学べた
31
39
作品のよ さに感心した
0
図20
○ 第5学年及び第6学年
・ 今までの知識や経験をもとに,主題に沿って,
用途や使う人の気持ちなどを考えながら表したい
ものを発想している。
・ 美的要素などの視点をもって友人とアイデアを
交流するなどしながら,材料や技法を組み合わせ
たり,新たな方法や表し方を付け加えたりしなが
ら構想している。
39
10
20
30
40
(人)
50
参考作品を見て役に立ったこと
全員が「材料の使い方が参考になった」と回答して
いるからである。
また,図19では「語る」に対応する「友だちのア
ドバイス」も約半数の児童がヒントになったと回答
している。児童が簡単に意見交流できるように,付
箋紙を使った指導の工夫を取り入れた。この小さな
メモ書きのコメントが,アイデア交流のきっかけを
生み出し,児童にヒントを与えたということが伺える。
Ⅴ
研究のまとめ
1
研究の成果
以上のような文献研究や研究授業の結果をもと
に,次の3点を創造的な想像力をはぐくむ表現の指
(2) 発想・構想段階を三つの場面に分けること
発想・構想段階を次のような三つの場面に分けて
指導の工夫を考える。
a.発想・構想のための情報を蓄える場面
b.イメージをふくらませたり,アイデアを具体化し
たりする場面
c.実際に表現を試したり,制作したりしながら発
想・構想する場面
(3)「見る」,「語る」,「試す」に焦点化して指導
の工夫を行うこと
(2)の三つの場面において,それぞれ,
「見る」,
「語
る」,「試す」に焦点化して,次のような指導の工夫
を取り入れる。
「見る」:動機付けや参考作品の提示など
「語る」:ことばによる表現やアイデアの交流など
「試す」:材料,道具などの選択や試行錯誤
研究授業の結果,発想・構想段階において,「見
る」,「語る」,「試す」という視点で取り入れた指導
の工夫は,どの学年においても創造的な想像力をは
ぐくむ上で一定の効果があることが分かった。
‑ 159 ‑
特に「見る」という視点で行った指導の工夫につ
いては,どの学年においてもベースとなるものであ
ることが分かった。
2
今後の課題
(1) 評価方法について
今回の研究では,創造的な想像力がはぐくまれた
児童像を見取るため,アンケートやビデオの映像,
児童の発言,ふり返りカード,作品などをもとに評
価した。評価の資料が多いほど,データをもとにし
た,より客観的な評価が可能になるが,評価をする
ために多くの時間を費やさなければならない。
そこで,今後は,指導の工夫を焦点化したように,
評価についても焦点化する方法を探る必要がある。
(2) 指導の工夫と題材の関連性について
今回の研究授業では,いずれも「見る」を導入に
位置付けて展開する流れであった。しかし,図画工
作科の内容は多様であるため,題材によっては,
「語
る」や「試す」を導入に取り入れた方がよい場合も
想定できる。今後の課題として,発想・構想段階の
指導の工夫について,題材との関連性を明らかにし
ていく必要がある。
おわりに
本研究は,創造的な想像力がはぐくまれた姿を評
価規準で示すことからスタートした。今回は,この
評価規準をもとに,
「見る」,
「語る」,
「試す」という
切り口で指導の工夫を考え,実践的に研究を進めて
きた。しかし,この切り口による指導の工夫は,一
つの方法であり,もちろん絶対的なものではない。
今後も児童の実態や扱う題材の特性によって,最適
な指導は何かについての研究を継続する必要がある
と考える。
また,本研究を通して,図画工作科で育成すべき
資質や能力の一つである,発想や構想の能力につい
ては,児童の具体的な姿を想定し,めざす児童像か
らその指導を考えることが重要であることを実感し
た。今後,この研究成果を参考に,新たな切り口で,
より効果のある指導の工夫が実践されることを期待
したい。
最後に,本研究を進めるに当たり,懇切丁寧にご
指導,ご助言を与えてくださった若元澄男先生をは
じめ,実践研究の推進にご理解,ご協力いただいた
研究協力員及び研究協力校の皆様に心から感謝申し
上げる。
【引用文献】
文部省(平成11年):『小学校学習指導要領解説 図画工作編』
日本文教出版 pp.9‑10
遠藤友麗(平成12年):「新学習指導要領で期待する美術教育」,
文部科学省教育課程課編『中等教育資料』6月号 ぎょう
せい p.61
内田伸子(平成11年):「創造的な想像力を働かせて自らの考
えや行動をつくりだす心の世界」,文部省小学校課・幼稚
園課編集『初等教育資料』8月号(No.708) 東洋館出版
p.4
ヴィゴツキー 著 広瀬信雄 訳(2002):『子どもの想像力と
創造』 新読書社 p.12
日本生活科・総合的学習教育学会 第14回全国大会(広島大
会)実行委員会:『日本生活科・総合的学習教育学会 第14回
全国大会(広島大会)大会要項』 表紙
真鍋一男・宮脇理監修(平成3年):「造形指導における発想
法の論理」,『造形教育事典』 建帛社 p.614
東山明(1998):『美術教育の基軸と課題』 明治図書 pp.43‑44
板良敷敏(2002):「新しい図画工作科のポイント」,板良敷敏
編著『新学習指導要領を生かした図画工作科の授業』 小
学館 p.21
広島県教育委員会(平成17年):「感受性を働かせ,感情を込
めて表現する(3年)」,
『ホットライン教育ひろしま/こと
ばの教育県づくり/各教科・活動等の指導例/小学校図画工作』
http://www.pref.hiroshima.jp/kyouiku/hotline/kotoba
/03/04/04̲shozukou%203nouryoku%20.htm
広島県教育委員会(平成15年):『平成15年度 広島県教育資料』
p.142
【参考文献】
1)
2)
内田伸子(1994):『想像力 創造の泉をさぐる』 講談社
藤澤英昭(1999):『学習指導要領早わかり解説 小学校
新図画工作科授業の基本用語辞典』 明治図書
3) 国立教育政策研究所(平成14年):『評価規準の作成,評
価方法の工夫改善のための参考資料【小学校】‐評価規準,
評価方法等の研究開発‐<報告>』)
4) 遠藤友麗(平成10年): 文部科学省教育課程課編『中等教
育資料』9月号 ぎょうせい
5) 相田盛二(1995):北尾倫彦編集『小学校 思考力・判断力
−その考え方と指導と評価−』 図書文化社
6) ジェームス・W・ヤング著 今井茂雄訳 竹内均解説
(1988):『アイデアのつくり方』 阪急コミュニケーションズ
7) ジャック・フォスター著 青島淑子訳(2003):『新装版
アイデアのヒント』 阪急コミュニケーションズ
8) 齋藤孝(2004):『齋藤孝のアイデア革命』 ダイヤモンド社
‑ 160 ‑