分生研ニュース 第12号(2000年10月発行)

10 月号(第 12 号)2000.10
東京大学 分子細胞生物学研究所 広報誌
IMCB
University of Tokyo
IMCB
Institute of Molecular and Cellular Biosciences
University
Tokyo
The of
University
of Tokyo
目 次
研究分野紹介(細胞工学研究分野)……………………………………… 1
第5回分生研シンポジウム開催のお知らせ…………………………… 19
分生研所内研究発表会(下遠野明恵)…………………………………… 3
惜敗!!学内レクリエーション「野球の部」………………………… 20
ドクターへの道(山本陽子)……………………………………………… 7
平成 12 年度科学研究費補助金採択一覧 ……………………………… 20
OB の手記(龍田 融)…………………………………………………… 8
平成 12 年度受託研究・共同研究一覧 ………………………………… 20
海外ウォッチング(向山洋介)…………………………………………… 9
お店探訪(山口千秋)…………………………………………………… 21
国際会議に出席してみて………………………………………………… 10
知ってネット……………………………………………………………… 22
留学生手記(石濱海)…………………………………………………… 18
Tea Time - 編集後記 …………………………………………………… 22
転出のご挨拶(北田義保)……………………………………………… 19
共通機器紹介 - 植物環境調節実験装置(内宮博文)………………… 23
留学生との懇談会………………………………………………………… 19
研究紹介(小林久芳、野村博美)……………………………………… 24
研究分野紹介 細胞工学研究分野
当研究室では、主に神経系細胞を材料に、生死を中心とし
た細胞運命決定の分子メカニズムの理解を目指している。
"細胞の生存"が個体にとって重要なことはいうまでもない
研究テーマ
(1) 神経系前駆細胞と成熟神経細胞の生存と死を制御す
るシグナル伝達機構
(2) 神経系前駆細胞の増殖と分化を制御するシグナル伝
達機構
(3) 細胞の癌化(特に増殖・生存)に関与するシグナル
伝達機構
(4) ストレスで活性化する MAP キナーゼカスケードの機
能解析
が、その一方で、アポトー シスも発生や分化の過程、また
新陳代謝や生体防御など、"細胞の死"という現象を通して"
個体の生存"に貢献している。一見、細胞の生存維持はアポ
活性型 AKT による神経上皮細胞の生存促進。マウス胎児(E11)神経上皮細胞の
生死を形質転換したヒストン GFP の凝縮で判定した。
トーシスシグナルの ON/OFF によって制御され、生存を維
持すること自体は受動的なものとして考えられるかもしれ
わかる。我々は、Akt、MAP キナーゼをはじめ、細胞生存
ない。しかしながら、細胞は生存シグナルによって能動的
シグナル伝達に関わる分子が、いかなるメカニ ズムで生存
に生存が促進されていることが知られている。例えば、培
を促進しているかを検討している。
養細胞の培養液から血清を除去するとアポトーシスが誘導
一方、ストレスで活性化する MAP キナーゼスーパーファ
されることからも、生存状態はデフォルトではないことが
ミリー(p38、JNK)は、細胞死の促進に関与することが、
2
いくつかの系で示唆されてきた。しかしながら、これらの
究分野の近い学生同士がより深いディスカッションを行う
キナーゼの細胞死における役割や、基質については必ずし
small group meeting も週 1 回のペースで行い、お互いに意
も明らかではない。JNK 経路が細胞死実行の中心的な役者
見を交換し、研究がスムーズに進められるようにしていま
であるカスペースを活性化して細胞死を誘導するととも
す。
に、カスペース非依存的経路を介した細胞死にも関与する
また、研究活動以外にも様々な活動を行っています。今年
可能性を検討中である。
の前半では、まず 4 月には新入生歓迎会を兼ねたお花見、
神経系前駆細胞(幹細胞)は、未分化で自己複製能を有し、
そして 5 月には近くの根津神社のつつじ祭りに出かけまし
脳内の多様な神経に分化する能力を持つ。しかし、神経系
た。6 月には研究室対抗のソフトボール大会に参加しまし
前駆細胞がどのようなメカニズムで自己複製し、どのよう
た。また、時々皆で御殿下体育館に行き、バドミントンや
なメカニズムで多様な神経に分化するのか、という問題に
卓球をしていい汗を流しています。最近では御殿下体育館
ついては不明な部分が多く残されている。我々は現在、神
のエアロビ教室通いがはやっています。
経系前駆細胞の生存を制御する細胞内シグナル伝達系に注
時にはいい汗を流して、楽しくいい研究をしていこう、
目し、生死の制御が神経系前駆細胞の自己複製および分化
というのが我々の研究室のモットーです。(M.H.&S.K.)
のタイミングの決定にいかに貢献しているか、解析を行っ
ホームページ
ている。
http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/celltech/index.html
新しいイオン輸送体アッセイ系の開発
矢部 勇
パッチクランプ法は、イオン輸送体の機能評価において
全能である。同法を微生物細胞に適用するため下記の目標
を設定し、10年の歳月をかけ基本的な成功を収めた。
(1)あらゆる微生物細胞を巨大化させる。
(2)その膜系に発現するイオン輸送系は、比活性の大きさ、
膜への配向に関わらず、その全てを解析する。
(3)これら微生物細胞を宿主細胞にして、動植物細胞のイオ
ン輸送体遺伝子を発現させ、その活性を解析する。
「微生物培養液のレオロジー特性」
古瀬 久幹
(1)微生物培養過程のコントロールに関して、培養槽内にお
ける高粘性培養液の流動挙動は微生物の増殖、発酵プロ
セスに係わるため、液体培養して得られる培養液のレオ
◆ 研究室生活・行事
学生は基本的に 1 人1テーマで研究を進めています。週に 2
回の研究室セミナーでは、研究経過の報告や、有益な情報
ロジー特性(流動特性及び粘弾性)を検討する。
(2)微生物が生成する多糖類の工業的応用に対して、多糖類
溶液の持つレオロジー特性を明瞭にする。
を与えてくれる論文の紹介などを行っています。また、研
構 成 員
助教授
後藤由季子
助 手
古瀬久幹
矢部 勇
増山典久
技 官
朝倉智子
博士研究員
1名
博士課程(工学系研究科) 4 名
修士課程(工学系研究科) 4 名
(新領域創成科学研究科)
学部学生(工学部)
1名
1名
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分生研所内研究発表会・新人歓迎会開催される
細胞機能研究分野 下遠野 明恵
去る 7 月 4 日(火曜日)に分生研所内研究発表会並びに新人歓
迎会が開催されました。
分生研所内研究発表会では下記の研究発表が行われ、立ち見
がでるほどの盛況ぶりでした。発表会後のアンケートで「質問
時間をもう少し長くしてほしい」などの感想が寄せられるほど、
全体的に活発な討論がなされました。
小口慶子(分子遺伝育種研究分野)
高等植物におけるテロメラーゼの機能解析
足達俊吾(分子情報研究分野)
Wnt シグナル伝達経路の負の制御因子 ICAT の同定及びそ
の機能解析
今回の研究発表会では特別審査員として、(財)応用微生物学
研究奨励会理事長の木下祝郎様、東京大学名誉教授 丸尾文治先
生、(株)協和発酵 研究本部の江口有様に御出席頂きました。
後日、江口様より
「(前略)発表会では学生とは思えない、充実した内容の発表
ばかりでした。受賞にもれた発表も、ほんの僅かな差ではなか
ったでしょうか。アカデミアでの活躍が期待される方、企業研
究に夢をかけようという方、さまざまとは思いますが、いずれ
の道に進まれても将来が楽しみです。(中略)最後になりました
が、鶴尾先生はじめ教職員、学生さんの今後のご活躍をご期待
申し上げます。
」とのご感想をいただきました。
発表者・演題(発表順)
松井貴輝(細胞合成・人工細胞研究分野)
オンコスタチン M とグルココルチコイドによって誘導され
る肝成熟・分化にともなう細胞間接着の形成とその制御
松井大輔(分子系統研究分野)
脳ステロイド代謝鍵酵素の発現制御機構解析
潘玲(細胞機能研究分野)
Identification of the suppressors against Bax-induced cell
death with Arabidopsis cDNA library
船越陽子(染色体分子構造解析研究分野)
Dpp モルフォゲン活性の勾配を形作る新規発現パターン形
成遺伝子 master of thick vein (mtv)
二井勇人(生体超高分子研究分野)
出芽酵母の新規塩ストレス応答経路の解析: Cpl1p とカル
シニューリンによる Rim101p 活性化機構
野間健一(生物物理研究分野)
非 LTR 型レトロトランスポゾン(LINE)の転移は転写と翻訳
の段階で調節される
富川泰次郎(生理活性物質研究分野)
Ras 依存性細胞に対して選択的に細胞死を誘導する新規化
合物、Rasfonin
千村崇彦(分子発生分化研究分野)
ヒストンシャペロン CIA :転写、細胞周期、発生・分化、
細胞死
菅井理絵(細胞構造研究分野)
∆secG の低温感受性を抑制する遺伝子 ssgA、ssgB の機能解
析
坂本 洋(分子生物活性研究分野)
抗がん剤誘導によるアポトーシス耐性細胞株で高発現して
いるグリオキサラーゼ I の解析
倉橋みどり(微生物微細藻類研究分野)
海洋生物から分離した細菌の系統分類学的研究
加来田博貴(生体有機化学研究分野)
環状 N-メチル化芳香族アミドの立体挙動
大石康二(細胞工学研究分野)
PI3-キナーゼ/Akt 経路による転写因子 Nur77 の制御機構の
解析
2000 年度所内研究発表会上位入賞者四名の方々は以下のとお
りです。おめでとうございました。
第一位 松井貴輝(細胞合成・人工細胞研究分野/ D3)
第二位 小口慶子(分子遺伝・育種研究分野/ D3)
第三位 足達俊吾(分子情報研究分野/ D1)
第三位 野間健一(生物物理研究分野/ PD)
研究発表会に引き続き新人歓迎会が夜七時より開催されまし
た。激しい雷雨を伴う悪天候のなか、前年度を上回る 250 余名
(含新人 64 名)もの多くの方々にご参加頂きました。鶴尾所長
の乾杯の音頭を皮切りに、非常に和気藹々とした雰囲気のなか、
今年度分生研に来られた新人の方々の紹介がおこなわれました。
また、昨年度の反省を踏まえ、お預かりした会費をそのまま皆
様に還元できるように、飲食物の途中持ち帰り防止などを呼び
かけました。昨年、私自身が新人であったときには、非常に気
楽な気持ちで参加させていただいた訳ですが、今回、幹事とい
う大役を任されることとなり、昨年度迄の幹事研究室のご苦労
が身にしみてわかりました。
思いがけずこのような機会を頂き、いろいろと考えさせられ
た数カ月間でしたが、幹事という仕事をしたことの一番の収穫
は、準備期間を通じて他の研究室の方々とも顔見知りになれた
ことであったと思います。
最後になりましたが、分生研所内研究発表会並びに新人歓迎
会にご協力くださった全ての方々に感謝申し上げます。ありが
とうございました。
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分生研所内研究発表会入賞者の発表要旨
オンコスタチンMによって誘導される肝分化
にともなう細胞間接着の形成とその制御
細胞合成研究分野 D3
松井貴輝
激によって細胞接着部位に局在化する傾向が認められた。
一方、アドヘレンスジャンクション(AJ)を構成する E-カド
ヘリンやβ-カテニンは、Dex のみではこのような局在化は
みられず、さらに OSM を添加すると、接着部位へ局在化
することが明らかになった。また、それらの蛋白質量は
OSM の刺激では変化せず、発現量はむしろ Dex によって調
節されていることがわかった。 したがって、TJ と AJ の形
成は異なるメカニズムによって調節されており、OSM の刺
激は、E-カドヘリンやβ-カテニンの細胞内局在を posttranslational に制御していることが示唆された。そこで、
胎生後期の発生において、肝細胞は機能的な成熟ととも
OSM のシグナル受容体である gp130 の KO マウス由来の肝
に細胞間の相互作用を強め、組織としての細胞社会の形成
細胞を用いて、E-カドヘリンの細胞内局在を調べたところ、
を開始する。この過程には、細胞接着因子をはじめとした
OSM による局在化が認められなかった。つぎに gp130 の下
様々な細胞内分子の発現や機能が関与していると考えられ
流で機能することが知られている STAT3、Ras の変異体を
る。我々の研究室では、これまでに胎生肝細胞の初代培養
肝細胞に導入してその作用を検討した。その結果、OSM に
系を確立し、オンコスタチンM(OSM)とグルココルチコイ
よる E-カドヘリンの局在化は、肝分化マーカーの発現を抑
ド(Dex)が肝細胞の成熟・分化を誘導することを明らかに
制する dominant negative STAT3 によっては何の影響も受け
してきた。このモデル系において、OSM と Dex が肝分化マ
なかった。ところが、分化マーカーの発現を増強する作用
ーカーの発現を誘導するだけでなく、マトリクスヘの結合
がある dominant negative Ras は、E-カドヘリンの局在化を
や細胞間接着を増強する作用を持つことを見出した。そこ
顕著に抑制することが明らかになった。したがって、個々
で本研究では、OSM によって誘導される肝分化にともなう
の肝細胞が機能的に成熟するプロセスに関しては STAT3 の
接着形成の分子メカニズムを解析した。
シグナルが必須であり、他方、細胞間接着を発達させ、肝
タイトジャンクション(TJ)を構成する ZO-1 は、Dex の刺
細胞が組織として社会を形成していく過程においては、
Ras を介したシグナルが重要であると考えられる。
高等植物におけるテロメラーゼの機能解析
分子遺伝・育種研究分野 D3
小口慶子
真核生物の染色体末端に存在するテロメア繰り返し配列
は細胞分裂の度に短縮し、限界の長さに達した時点で細胞
は分裂の寿命を迎える。しかし、ヒトの生殖細胞や癌細胞
にみられるように、テロメア配列を伸長付加するテロメラ
ーゼが発現した場合には分裂を繰り返してもテロメア DNA
は短縮せず、細胞は無限に増殖を続けることが可能になる。
OSM と Dex による肝成熟・分化のモデル
E-カドヘリンやβ-カテニンの蛋白質量は、Dex によって調節されており、そ
の細胞内局在は、OSM によって post-translational に調節されている。この局
在化には,OSM-gp130 の下流で活性化される Ras のシグナルが重要である。
他方、個々の細胞の成熟に関しては、STAT3 のシグナルが必須である。
植物は動物と異なり、形態形成を行いながら生長し、生
殖細胞系列も胚発生時ではなく生長の過程で形成される。
長期にわたり分裂能力を維持する必要のある植物の分裂組
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織において、テロメアの維持は不可欠であり、厳密な制御
機構の存在が予測される。また、植物は茎や葉などの分化
した組織からも簡単な操作により脱分化させ、再び個体を
再生できるという特異な性質を持つ。こうした植物の分裂
増殖に関する特異性におけるテロメラーゼの役割に興味を
持ち、研究を進めている。
テロメラーゼの作用機構は、一種の逆転写酵素である
TERT (telomerase reverse transcriptase) が内在する RNA を
鋳型にして行う伸長付加反応である。この TERT 相同遺伝
子をモデル植物であるシロイヌナズナより単離し、
AtTERT と命名した。高等植物において TERT 遺伝子が単離
されたのは初めてのことである。AtTERT は他の TERT 同様、
逆転写酵素に保存されている全てのモチーフと、TERT フ
ァミリーに特異的に見いだされる T モチーフを保存してい
た。既知の TERT のアミノ酸配列をもとに系統樹を作製し
たところ、酵母、原生動物、高等真核生物の3つのグルー
プに分類され、AtTERT が系統的にヒトとマウスの TERT に
近縁であることが示された。
ヒトやマウスではテロメラーゼ活性が主に TERT 遺伝子
の転写量に依存することが報告されている。そこで、シロ
それらの腫瘍形成の主な原因は、β-catenin / TCF を介し
イヌナズナの各組織を用い、TRAP 法によりテロメラーゼ
た転写の異常な活性化に因ると考えられている。我々はβ-
活性を測定すると共に、RT-PCR 法により AtTERT 遺伝子の
catenin / TCF を介した転写活性化の機構を解明することを
転写産物を定量した。その結果、細胞分裂が活発な培養細
目的として、β-catenin に結合しその活性を制御する因子
胞と茎頂分裂組織では、比較的高いテロメラーゼ活性と
の同定を試みた。その結果、マウスの新規遺伝子 ICAT を
AtTERT 遺伝子の転写産物が検出された。また、分化した
同定した。ICAT は 81 アミノ酸からなる低分子蛋白質で、
組織であるロゼット葉からはテロメラーゼ活性は検出され
アフリカツメガエルからヒトに至るまで存在している。生
ず、当該転写産物も見い出されなかった。
化学的な解析の結果 ICAT はβ-カテニンと TCF-4 の結合を
AtTERT 遺伝子は植物の分裂組織においてのみ発現して
阻害することで標的遺伝子の発現を抑制することが明らか
いると考えられ、現在 in situ のレベルで分裂組織における
となった。また種々の実験結果から ICAT が Wnt シグナル
発現局在の解析を目指している。また、植物体において高
非存在下でβ-catenin / TCF を介した転写活性を抑制する
発現した場合の表現形質への影響に興味を持ち、解析の準
事も示した。以上の結果から ICAT は Wnt シグナル伝達経
備を進めている。
路を負に制御する極めて重要な分子であると考えられる。
Wnt シグナル伝達経路の負の制御因子 ICAT
の同定及びその機能解析
非 LTR 型レトロトランスポゾン(LINE)の
転移は転写と翻訳の段階で調節される
分子情報研究分野 D1
足達俊吾
Wnt シグナル伝達経路は線虫からヒトに至るまで広く保
生物物理研究分野 PD
野間健一
Introduction: RNA を中間体として転位するレトロエレメ
存されており、発生、形態形成に重要な役割を果たしてい
ントの中には両端に順方向の反復配列(LTR)を持たず、
る。また、このシグナル伝達経路の異常が大腸癌などのヒ
3'端がポリ A で終わる非 LTR 型レトロトランスポゾン
ト腫瘍の発症に関係していることが明らかになっている。
(LINE)が含まれる。これまでに、LINE が植物界に普遍的
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ン ATG は見当たらなかったが、orf1 のすぐ下流には mRNA
の段階でシュードノット構造を形成しうる配列が存在して
い た ( 図 1 参 照 )。 同 定 し た A T L N の 内 、 2 つ の 因 子
(ATLN39 と ATLN-L1)の転写産物を RT-PCR によって調べ
たところ、DNA メチル化阻害剤(5-azacytidine)処理した
培養細胞と DNA 低メチル化突然変異体(ddm1)で転写が
活性化されていることが分かった。
Conclusions: ATLN では orf1 の翻訳後にしか orf2 の翻訳
が起こらない機構(translational coupling)により、ATLN-
L では翻訳段階で orf1 の終止コドンがサプレスされる機構
に存在していることを明らかにすることにより、酵母を除
(translational suppression)により、Orf1 に対する Orf2 ま
くほぼ全ての真核生物に存在することが分かった。転移性
たは Orf1-Orf2 タンパク質の生産量を、翻訳レベルで厳密に
遺伝因子は、必須遺伝子に挿入するため生物にとっては有
制御していることが示唆された(図1参照)。また、転写
害な影響を及ぼす場合もあるが、一般にそれらの転移は種
レベルでは、ATLN のプロモーター領域のメチル化による
の絶滅を導かない程度に調節されているため、ゲノムの多
エピジェネティックな制御が行われていることが示唆され
様性を与えてきたと考えられる。しかし、LINE に関して
た。以上より、ATLN の転移は、転写と翻訳の二段階で制
は、転移及び転移頻度の調節機構は殆ど解明されていない。
御されていることが強く示唆された。
我々は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)ゲノムか
ら 200 個以上の LINE(ATLN と命名)を同定し、解析した
結果、翻訳段階における転移酵素のユニークな産生制御と、
転写段階におけるエピジェネティックな制御が存在するこ
とが示唆されたので、ここに報告する。
Results: 既に同定していた数個の ATLN の配列を用いて、
シロイヌナズナのデータベースに対するホモロジー検索に
より 219 個の ATLN を同定し、それらの内、約 70 個の因子
について構造を詳細に解析した。完全長を持つと考えられ
る ATLN は、互いに配列は異なるが、ほぼ同じ大きさであ
り、それらの内部には転移に必須の 2 つの orf(orf1 と orf2)
が存在していた。例外的に他より orf2 の下流が 2 kb 程長い
ATLN(ATLN-L と命名)が存在していたが、これらは orf1
と相同性の高い第 3 の orf(orf3)を orf2 の下流に持ってい
た。全ての ATLN の orf1 は RNA に結合する zinc-finger モチ
ーフ、orf2 は標的 DNA を切断するエンドヌクレアーゼと逆
転写を行う逆転写酵素のモチーフを含むタンパク質をコー
ドしていることを確認した。orf2 にコードされるエンドヌ
クレアーゼのアミノ酸配列を基に系統樹を作成した結果、
ATLN は大きく 2 つのグループ(I と II)に分けられ、更に I
のグループ内は 3 つのサブグループに、II のグループは 6 つ
のサブグループに分けられることが分かった。ここにおい
て上記の ATLN-L 因子は II のグループの 1 つのサブグループ
を形成することが分かった。殆どのサブグループの ATLN
は、orf1 の終止コドンと orf2 の開始コドン ATG が重なって
いるか、1 ∼ 5 bp までの配列を挟んで存在しており、 orf2
の開始コドンは orf1 の終止コドンに対し例外なく-1 フレー
ムの位相に存在していた(図 1 参照)。一方、 ATLN-L は、
他の ATLN とは異なり、orf1 の終止コドン TAA を挟む形で
orf2 が in frame で続く構造をとっており、orf2 の開始コド
7
ドクターへの道
分子系統分野
農学生命科学研究科 応用生命工学専攻
博士課程2年 山本 陽子
私が現在分生研でこうして研究を行っているのは、書店で一冊の本を手にした事がき
っかけでした。
当時三重大学大学院に在籍していた私は 、転写制御のメカニズムを勉強しようと、
書店で本を物色していました。そのさなか手に取ったのが加藤先生の「核内レセプター
と情報伝達」という一冊の本でした。それまでの研究からステロイドホルモンやオーフ
ァンレセプターに興味があったので、すっかりその本の世界に引き込まれていきました。
「このような研究がしたい。」と思ったのはこの時でした。
私の在籍していた大学の場
合、他大学の大学院といえば先生方の出身から関西の大学へ進学する事が多く、まずは
先生の紹介状をもって研究室見学に行くのが一般的でした。しかし加藤先生の所ではそ
うはいきません。「どうしよう。いきなりメールを出すなんて度胸もないし.....。」
そ
うこうしているうちに時は過ぎ、M2 の 10 月末のある日廊下に掲示してある一枚のポス
ターが目に飛び込んできました。そこには加藤先生の名前があったのです。それは栄養食糧学会中部支部のシンポジウムの
ポスターでした。「やったー!加藤先生に会える!」
願ってもないチャンス到来です。
11 月 7 日いよいよシンポジウム当日加藤先生の講演が始まりました。その時はビタミン D レセプターのノックアウトマウ
スの話しでしたが、実際に先生の講演を聞いてみるとますますそれらの研究の魅力にとりつかれました。さてここからが問
題です。とにかく懇親会に参加しなくては接近するチャンスはなさそうです。しかし学生の参加者は周囲を見回して見ても
ただ一人、小心者の私は会場の端でひっそりビールを飲みながら、先生に接近するチャンスを狙っていました。しかしシン
ポジウムに招待されているだけあって先生の周囲には次から次へと人が集まり、なかなか一人にはなりません。こちらはも
はやビールを飲んで間をもたせることしかできませんでした。こうしてかなり飲んだ後やっとチャンスが巡ってきました。
「11 月という時期も時期だけに、たぶん今日のこの時を逃したらもうダメだ。後で後悔しないように当たって砕けてこい!」
と自分に言い聞かせ先生のもとへとビール片手に突進しました。「あの∼せんせ∼のところで∼けんきゅ∼をしたいのです
が∼∼」既にかなりの量を飲んでいた私はろれつが回らないながらも何とか加藤先生とお話をすることができ(日本語にな
っていたかどうかは分かりませんが)
、研究室見学の機会を得る事ができました。
その後研究室見学の際は緊張で心臓はバクバク、手足は震えてしょうがなかったのを覚えています。
こうして念願叶って私は現在の研究室の一員となることができましたが、ここへ来て間もない頃は、研究テーマががらり
と変わり、慣れない事も多かったせいか随分と苦労しました。ドクターコースでは自分で研究を進めていかなくてはなりま
せんが、実験をする手は動くものの、知識の乏しさをひしひしと感じ、思い悩んだ挙げ句「私なんかがここへ来て実験する
よりマスターの卒業生がそのまま進学して実験していた方が断然いいんだろうなぁ....」とたびたび落ち込んではトイレに駆
け込み(後輩は屋上派らしい)、休日には三重の山々が恋しくなり、いろは坂を攻めに(といっても安全運転)行ったりし
ていました。近頃は随分打たれ強くなり、「私がここへ来たのはわかりきった事を勉強するためではない。」と思えるように
なりましたが.....。 でも思いきって加藤先生の所に飛び込んできて本当に良かったと思っています。研究生活は大変充実し、
なにしろ自分を取り巻く世界が比べ物にならない程広がりましたから。
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OB の手記
三共株式会社 第三生物研究所 龍田 融
「分生研ニュース」の寄稿依頼を受け、分生研分子活性
鶴尾教授の研究室を卒業し、三共株式会社へ入社してから
の7年間という時間を改めて感じた次第です。私は学部時
代を含め、分生研には6年いましたが、研究への姿勢は当
時培われたものを現在でも財産として使いつづけており、
鶴尾教授を始め先生方への感謝の念に絶えません。さて、
本稿ですが、私自身、大学院卒業時の進路について、アカ
デミックか企業か結構思案した経験もあり、医薬品開発企
業に入ってみて感じることのできた、アカデミックな研究
と企業での研究との違いについて書いてみようかと思いま
す。もし興味を持ってお読みいただければ、また、特に大
学院生の方の進路決定での参考にでもなれば幸いです。
(システムの違い)
国際会議にて。左端が筆者。
大学と比較して、企業の研究生活での時間的な自由度は
かれていますが、創造的な研究の切り口を見出す力量が問
かなり小さいといえます。時間を大切にするという点では、
われる点ではアカデミックとそれほどの違いはないでしょ
煩雑な業務は、各種キットの使用や外注などで、極力省力
う。また、研究体制の機構再編などで、大なり小なり急に
化し(お金で解決)、とにかく各個人の勤務時間のすべて
研究の方向性の変更が余儀なくされる場合もあることは、
で業務に効率的に専念できるような体制が整っているのが
アカデミックとの違いになるかもしれません。
大きな違いでしょうか。研究設備や研究費については企業
(余談 日米の違い)
での方がかなり充実しているというのが一般的で、三共も
三共には海外留学制度というものがあり、私自身も米国
例に漏れないでしょう。入社当初は研究設備の違いに感動
アラバマ大学にて2年間留学する機会を得ました。この期
を覚えた友人もいましたが、大学であってもある程度富裕
間は、創薬研究業務とは少し離れて、創薬のための基礎ト
な研究室であれば研究設備に決定的な違いはないと思いま
レーニング的に、かなり自由度の高い研究ができます。私
す。因みに、医薬品関連企業一般でも研究職の採用は、一
の留学先の研究室は米国人の教授以外は9割方中国人であ
般に修士卒から博士卒へとシフトしているようです。効率
り、米国でのポスト得るため必死な彼らと切磋琢磨したこ
重視の企業側としては時間を使って学位をとってもらうよ
とは大きな財産になりました。ある晩午前2時過ぎだった
り、入ってすぐ即戦力として働いてもらいたいのが本音で
でしょうか、私が研究室に入ると中国人が、“Steel Hair!”
しょう。
と言います。自分の髪はそんなに硬いのか?と、髪の毛を
(ポリシーの違い)
気にしつつポカンとしていました。Chinese English と私の
アカデミックな研究者にとっては、レベルの高い科学雑
poor listening の産んだ笑い話ですが、もちろん“Still
誌に論文を出すのが主眼でありますが、医薬品企業での研
Here?”と聞き取るのが正解です。留学期間中に何回か学
究では、良い医薬品を開発し社会貢献するのが最終目標で
会発表の機会がありましたが、それらの準備練習の際のボ
す。と申しましても、優れた医薬品の開発には10年単位
スの教え方として、ある程度の自己流には寛容であること、
の時間と膨大なコストがかかり、そうした医薬品に出会え
致命的なミス以外はほとんど指摘してくれないこと、良く
たことはかなり幸運だと思われます。したがって、私など
誉めることなどが、日本の場合との違いとして強く印象に
の基礎研究レベルでは、何らかの新規な薬理作用をもつ物
残っています。
質を見つけ出し、その特許を出願するのが目標となります。
(アカデミックvs企業)
この特許取得で他社に先行することがとても重要で、留意
はっきりとした形の社会的貢献を目指すなら企業、チー
する対象がアカデミックの場合は競争相手の論文で、私た
ムワークですることの好きな人は企業向きかもしれませ
ちの場合は同業他社の特許という違いはありますが、新規
ん。再編やリストラが加速し、企業の方が経済的に安定と
性を目指すという点での厳しさは同レベルだと思います。
は言えない時代になっています。自由度の高い、自分の興
このようにして見出した物質が、より高次の病態モデルで
味の向くままの研究したい人、有名になりたい人、早起き
薬効を示し、安全性が確認され、疾患治療薬として開発さ
が苦手な人もアカデミック向きでしょうか。お金持ちにな
れ、、、、というのが医薬品企業での基礎研究者の夢だと思
りたい人はベンチャーを作り成功するのが良いでしょう。
います。
以上まとまりなく書きましたが、自由度の高い分生研ニュ
(研究の自由度の違い)
ース内ということでお許しください。
アカデミックでは研究の方向性を比較的自由に決められ
るのに対して、医薬品企業の場合、創薬という研究の方向
188−0012 田無市南町6−8−15−401
性が予め決まっており、その特化した目的をもった研究者
Tel: 0424-67-6548
がやるのが企業研究だと思います。創薬というレールは敷
E-mail: [email protected]
9
海外ウォッチング
California にいるのに遊べない日々
Division of Biology
California Institute of Technology
向山 洋介
約5年半いた分生研を離れ、はや一年近くになろうとして
います。ここ Pasadena は、Los Angels Downtown より車で3
0分程に位置しており、毎年正月に、College Football の Rose
Bowl、バラや色とりどりにデザインされた山車が見れる Rose
Parade が行われることで有名な街です。治安も比較的よく、
Old Pasadena と呼ばれる一帯は洒落た Cafe や Restaurant が並
び、週末には夜中まで賑わっています。Pasadena のほぼ中心
に位置する California Institute of Technology (通称 Caltech)
は、物理・工学系で有名な大学で、かっては Albert Einstein が
愛し、Richard Feynman が活躍した学舎でありました。昨年度
の全米大学ランキングで1位に躍り出たことで、いっそう人
気が高まっているようです。最近、ノーベル医学・生理学賞
学者である David Baltimor が President になってからは、Brain
Science を含めた Biology に力をいれているようです。Campus は非常に小さいのですが、西海岸特有の陽気と美しい花や
木々に囲まれたスペイン調の歴史ある建物で構成され、のんびり歩いているだけで時間を忘れてしまいます。
私がポスドクとして働いている David Anderson 研は、もともと Neural Crest Stem Cell の同定及び機能解析で名を馳せた
研究室です。最近、Fear Condition Behavior における遺伝子発現の変化や動脈・静脈血管形成の解析が新たに加わり、より
広がりのあるラボになっています。私は後者のグループに属しながら、血管と神経の相互作用の解明という課題にチャレン
ジしており、マウス・ラット・ニワトリの卵と格闘する毎日です#1。Anderson 教授は40代と若く、忙しいさなかも2週間
に1回は Subgroup Meeting を行い、常に皆の仕事の経過を聞くとともに、新しいアイデアを出してきます。彼は日本文化に
造詣が深く、Anderson 御殿には日本刀やら侍ムービーがあふれています#2。
Stem Cell Biology が俄然注目を浴びる昨今だけあって、必然的に世界各国から優秀な大学院生、ポスドクが集まっていま
す。彼が机の上にある proposal の山をどのように処理しているかわかりませんが、慎重に人物評価をして協調性のある人を
選んでいるようです。ですからラボのメンバーは総じて成熟した人がそろっており、研究室の雰囲気も快適です。また
Campus 内のみならず他大学の研究室との共同研究も盛んで、非常に垣根が低く感じられます。まだ来たばかりの私でさえ、
2つの共同研究を任されて、日々つたない英語でメールのやり取りをしているほどです。こちらで研究を始めると、実験の
都合上技術員に仕事をお願いすることが多いのですが、英語がうまくないことも重なり、満足する仕事が得られないことが
ままあります。しかし Communication がスムーズになると、こちらの期待以上の仕事をしてもらえることがあります。私の
研究は、全て自分で立ち上げなければならなかったので、研究室のメンバーや時には他の研究室にまで意見を聞きにまわり
ました。研究とはいえ Communication が大切であることを思い知らされます。先日はそのかいあって(?)、
FACS 機器の
operator のおばさんの結婚式に参列してきました。実験に加えて、こちらで奨学金を申請したり、頻繁にセミナーがあった
りして、時間ばかりが慌ただしく過ぎてゆく毎日です。そう言えば、東大農学部そばの定食屋『清水』の味を思い起こさせ
る日本食屋を発見したことを報告して、この体験記の最後としたいと思います。
#1:あ ま り 仕 事 の 話 を し て い な い の で 、 私 の 仕 事 以 外 に も A n d e r s o n 研 や 他 の 研 究 室 に 興 味 の あ る 方 は 連 絡
([email protected])して下さい。
#2:黒沢監督好きですが、北野武監督作品にも興味があるそうです。
10
「国際会議に出席してみて」
分生研では財団法人応用微生物学研究奨励会のご支援に
より、毎年十数名の若手職員や大学院生に海外の学会発表
◆分子生物活性研究分野◆
<薬学系研究科・博士課程 1 年 小木曽泰成>
の機会を提供しています。今回は平成 11 年度に渡航された
17 名の方の学会参加報告を紹介いたします。尚、本奨学金
会議の名称:
第 90 回アメリカ癌学会総会(90th Annual
は 1 年を 3 期間に分けて公募されています。価値ある研究
Meeting of the American Association for
成果を海外で発表すると同時に、若い時期に世界の研究者
Cancer Research)
達を知る機会を得るために、どしどし応募してください。
開 催 地:
アメリカ、フィラデルフィア
会 期:
1999 年 4 月 10 日∼ 1999 年 4 月 14 日
発 表 演 題:
Glucose starvation and hypoxia induce
◆生体有機研究分野◆
nuclear accumulation of proteasome that
<薬学系研究科・修士課程2年 六代 範>
mediates DNA topoisomerase Ⅱα degradation and the emergence of drug resis-
会議の名称:
第 90 回アメリカ癌学会総会(90th Annual
tance in cancer cells( 口 頭 発 表 /
Meeting of the American Association for
Minisymposium Slide Session)
Cancer Research)
この度私は、財団法人応用微生物学研究奨励会の援助を
開 催 地:
アメリカ、フィラデルフィア
会 期:
1999 年 4 月 10 日∼ 1999 年 4 月 14 日
いただき、アメリカ癌学会総会に参加する機会を得ること
発 表 演 題:
Caspase-mediated cleavage of Akt induces
ができました。心より御礼申し上げます。
turning off of survival signals(ポスター発
表)
学会では、固形がん内部の生理的ストレスによって誘導
される抗がん剤耐性にプロテアソームが関与することを発
表しました。固形がん内部では、栄養飢餓・低酸素といっ
私は今回、財団法人応用微生物学研究奨励会の援助を頂
た特有の環境ストレスが存在することが知られており、こ
き、アメリカ癌学会総会に出席する機会を得ることが出来
れらのストレスによって誘導される抗がん剤耐性がプロテ
ました。大変ありがとうございました。
アソームの阻害剤で克服されるという内容です。抗がん剤
会議では、アポトーシスの進行に伴うカスパーゼの活性
耐性にプロテアソームが関与するという発見は目新しく、
化により Akt 蛋白が切断されること、その際のカスパーゼ
数多くの研究朱メが興味を示していました。初めての海外
による Akt 蛋白の切断部位を特定したこと、また切断断片
での学会発表だったわけですが、光栄にも口頭による発表
に相当する遺伝子を細胞に導入するとアポトーシス誘導刺
をさせていただき、大変良い経験ができました。他の演題
激に対して高感受性となることをポスター発表で示しまし
も非常に興味深いものが多く、自分の仕事の内容に関する
た。Akt の関与するアポトーシスのシグナル伝達は現在注
多くの情報を得られただけでなく、他の研究者とも意見交
目されており、またこの内容については未発表であるため、
換や議論ができました。
予想以上に多くの出席者が興味を示し、質問などを通じて
彼らと接することができました。
今回の学会を通して、日本の学会ではあまり見られない
熱意、積極性といったものを感じ、私自身もそれに感化さ
また、他の出席者の発表の中にも、私のテーマと関係の
れ、とても良かったと思っております。この機会を与えて
深いアポトーシスのシグナル伝達に関する興味深い仕事が
いただいたことを深く感謝するとともに、今回得た経験を
数多くあり非常に参考になりました。会議全体を通して、
今後の研究に生かしていきたいと考えております。
日本の学会に比べて規模や内容などの面で興味深いことが
多く、特に出席者の一人一人が積極的であることを強く感
◆細胞機能研究分野◆
じると同時に、自分の英語力不足を痛感しました。今回の
<理学系研究科・博士課程 2 年 山口 雅利>
貴重な経験の中で、日本では得難い数多くのことが学べた
と感じております。このような機会を頂けたことに感謝す
会議の名称:
第 10 回国際アラビドプシス学会(10th
るとともに、今回の経験を今後の仕事に生かしたいと思っ
International Conference on Arabidopsis
ております。
Research)
開 催 地:
オーストラリア、メルボルン
会 期:
1999 年 7 月 3 日∼ 1999 年 7 月 8 日
11
発 表 演 題:
Isolation and characterization of verte-
今回私は、財団法人応用微生物学研究奨励会の援助をい
brate-type CDK-activating kinase(ポスタ
ただき、微生物起源薬品のバイオテクノロジーに関する国
ー発表)
際学会に出席する機会を得ることができました。ありがと
うございました。
今回、財団法人応用微生物学研究奨励会の援助により、
本会議では、抗菌剤として既に報告されていたホスミド
第 10 回国際アラビドプシス学会に出席する機会を得ること
マイシンについて、非メバロン酸経路の特異的阻害剤とし
ができました。心より感趣モいたします。
ての作用をポスター発表にて報告しました。本経路に関連
私は、細胞周期の制御因子であるサイクリン依存性キナ
のある研究をされている方や、多数の方について説明並び
ーゼ(CDK)の制御因子の一つである CDK 活性化キナー
にディスカッションを行い、私の研究について興味を持っ
ゼ(CAK)ついて、現在まで得られている結果を発表いた
ていただくとともに、今後の研究方針についてのアドバイ
しました。今年は、細胞周期関連の報告がほとんど発表さ
スも多数頂く事ができました。また、他の出席者の発表に
れていなかったものの、私の発表に関心を持つ人達と議論
も私の研究に関連のある、天然物から生理活性物質を取得
することができました。特に CAK を導入したトランスジェ
する仕事や生合成経路の研究の仕事が多く、非常に参考に
ニック植物の解析について注目が集まりました。
なりました。
モデル植物であるアラビドプシスは、来年中にその全塩
4 日間の会議を通して、特に欧米の参加者が自らの発表
基配列が決定します。そうした背景からか、今回の学会の
はもちろん他人の発表についても積極的に応じていたのを
特徴として、遺伝子のクローニングとその発現解析の結果
感じました。その様な深いコミュニケーションの為には、
についての発表が非常に多かったことが挙げられます。ま
更なる英会話能力の向上が必要であることに気が付きまし
た、別々の研究室で同じ遺伝子・同じ変異株について解析
た。更に、日本内外の企業の方の巧みなプレゼンテーショ
を行っているケースが多かった点も印象的でした。これか
ンの技術は、今後の自分の研究成果を発表していく上で非
らのアラビドプシスにおける研究は、遺伝子の単離が容易に
常に参考になりました。
なると同時に、他の研究室との競争がより激しくなると考え
私は、国際会議でしか得ることが出来ない数多くの貴重
られます。そうした中、世界中の最先端の研究が発表される
な経験をさせて頂いたことを感謝するとともに、今回上記
本学会に参加し、何に注目が集まっているのか、そしてどの
のように感じたことの全てを今後自分の研究に役立ててい
ような考え方で解析を進めているかを勉強できたことは今後
こうと考えております。
の研究の計画を立てる上で大きな収穫となりました。
また、多くの人がこの報告書に書いているように、私も
語学力のなさを痛感いたしました。この経験をふまえ、次
◆生理活性物質研究分野◆
<農学生命科学研究科・修士課程 2 年 富川 泰次郎>
回出席するときには少しでも克服することができるように
努力していきたいと思います。しかし、このような苦い経
会議の名称:
第 6 回微生物起源薬品のバイオテクノロ
験を学生のうちに経験することができたことは、これからの
ジーに関する国際学会(6th International
私にとって大きな意義があることだと思います。このような
Conference on the Biotechnology of
学会参加の機会を頂いたことに改めて御礼申し上げます。
Microbial Products)
開 催 地:
アメリカ、サンディエゴ
◆生理活性物質研究分野◆
会 期:
1999 年 5 月 16 日∼ 1999 年 5 月 19 日
<農学生命科学研究科・修士課程 2 年 清水 知宏>
発 表 演 題:
HR67, a new inhibitor of the anti-apoptotic
function of Ras(ポスター発表)
会議の名称:
第 6 回微生物起源薬品のバイオテクノロ
ジーに関する国際学会(6th International
私は今回、財団法人応用微生物学研究奨励会の援助を頂
Conference on the Biotechnology of
き、微生物起源薬品のバイオテクノロジーに関する国際学
Microbial Products)
会に出席する機会を得ることが出来ました。有り難うござ
開 催 地:
アメリカ、サンディエゴ
いました。
会 期:
1999 年 5 月 16 日∼ 1999 年 5 月 19 日
発 表 演 題:
Fosmidomycin, a specific inhibitor of 1-
規物質として、カビの代謝産物中から単離した HR67 の精
deoxy-D-xylulose 5-phosphate reductoiso-
製、構造解析、そして生物活性について発表しました。ま
merase that is a key enzyme in the non-
だ未定ではありますが、HR67 の標的に関して興味を示す
mevalonate pathway for terpenoid biosyn-
出席者が多く、今後の研究で早く HR67 の作用点を明らか
thesis
にする必要性を感じました。また、他の出席者の発表の中
会議では、Ras によるアポトーシス抑制能を阻害する新
12
には、抗癌剤として cyclin/Cdk の阻害を目的としたスクリ
カルパインをテーマにした学会ということで、いつも論
ーニングの結果、見出された UCK14A の作用点が、実はプ
文で見ていた研究者と会って話ができたり、会議全体を通
ロテアソームの阻害であゑチたという発表など興味深い発
して、日本に比べて内容を含めて興味深いことが多く、特
表が多く、非常に勉強になりました。
に出席者一人一人が、自分に比べて積極的であることを感
会議全体を通して、日本に比べて内容を含めて色々な意
じました。今回の貴重な経験で、日本では得難い多くのこ
味で興味深いことが多く、特に出席者一人一人が積極的で
とを学べたと感じております。このような機会を与えられ
あることを強く感じました。また、自分の研究発表を積極
たことに感謝すると同時に、今後の仕事にこの経験を役立
的にアピールするためにも、もっと英語力をつける必要性
てたいと考えています。ありがとうございました。
を感じました。私は今回の貴重な体験で、日本では得難い
多くのことを学べたと感じており、このような機会を与え
◆分子遺伝育種研究分野◆
られたことを感謝すると同時に、今後の仕事にこの経験を
<文部教官(助手) 金丸 研吾>
役立てたいと思います。
会議の名称:
第 10 回国際シロイヌナズナ会議(The
◆生体超高分子研究分野◆
10th International Conference on
<農学生命科学研究科・博士課程 2 年 二井 勇人>
Arabidopsis Research)
会議の名称:
開 催 地:
オーストラリア、メルボルン
Research
会 期:
1999 年 7 月 4 日∼ 1999 年 7 月 8 日
Conferences(The Calpain System in
発 表 演 題:
Expression of five sigma factors for a plas-
1999
FASEB
Summer
Health and Disease)
tidic RNA polymerase
開 催 地:
アメリカ、コロラド
会 期:
1999 年 6 月 20 日∼ 1999 年 6 月 25 日
発 表 演 題:
The Protease Activity of a Calpain-like
球での開催ということで、オーストラリア、日本、中国、
Cysteine Protease in Saccharomyces cere-
韓国などからの参加と活躍が目立った。総演題数は例年の
visiae is Required for Alkaline Adaptation
約半分の 342 題ながら、日本からの発表が 50 以上で口頭発
and Sporulation.(ポスター発表)
表にも 54 題中、7題が選ばれていた。ただ残念ながら西高
今回の会議は初めてアジア、オセアニア地区それも南半
東低というか京高東低で本学からの口頭発表は無かった。
今回、財団法人応用微生物学研究奨励会の援助を頂き、
会議初日は、ゲノムプロジェクトの進捗とデータベースへ
1999 FASEB Summer Research Conferences に出席する機会
のユーザーインターフェースの改良、T-DNA 挿入ラインの
を得ることができました。ありがとうございました。
蓄積と DNA アレイの実用に関する演題が大きく取り上げら
会議では、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)に新た
れた。計算通り 2000 年末に全シークエンスが明らかになる
に見出したカルパイン様プロテアーゼ、Cpl1p の機能につ
とシロイヌナズナ研究は他の植物に比べて逆遺伝学や変異
いて、アルカリ環境への適応と胞子形成に必要であるとい
のマッピング、遺伝子解析に大きなアドバンテージを確保
う事実の発見と、更に Cpl1p が転写因子である Rim101p を
できる。従って、同様の理由で近年らん藻が注目され着々
限定分解により活性化している仕事をポスター発表しまし
と優れた成果が報告されているように、シロイヌナズナ研
た。カルパインファミリーの中で、初めて明確な生理的な
究に参入するグループの増加と一層の研究速度の加速は覚
意義を見出した本研究に興味を示す出席者が多く、また、
悟しなければならないだろう。しかしそれ以上に痛感した
この情報伝達経路と我々が哺乳類に見出した Cpl1p のホモ
のは、もはや T-DNA 挿入変異(ノックアウトライン)は取
ログ分子である Capn7 との間の関連も注目され、多くの出
れればラッキーという時代から、取れて当たり前、むしろ
席者と接することができました。
取らなければどこかに先を越される不安を抱えなくてはな
他の出席者の発表中にも、未発表データが多く、哺乳類
らない時代に変ったということである。現在、日本でもか
カルパインの不活性化型での構造決定をはじめ、カルパイ
ずさ DNA 研究所では 10000 ライン以上をプールし、我々の
ン活性化因子の同定、肢帯型筋ジストロフィーにおける骨
グループも研究対象のいくつかの遺伝子についてスクリー
格筋特異的カルパイン p92 の KO マウスを用いた仕事など
ニングを進めている。しかし海外ではフランスのグループ
が、非常に興味が持たれました。また、線虫でのカルパイ
で 36500 の挿入ラインの大規模解析が進行中で、アメリカ
ン様分子である、性決定因子 Tra3 に関する仕事や、私が現
では数万から 10 万を越えるラインが複数の研究グループで
在非常に興味を持っている哺乳類 Capn7 をはじめとした非
それぞれプールされ、間もなく活用を始める予定だという。
典型的なカルパイン様分子(カルモジュリン領域を持たな
理論上は遺伝子長が数キロあればほぼ 100 %、1kb 程のも
い)に関する仕事があり、非常に勉強になりました。
のでもかなりの確率で挿入ラインが世界のどこかにある計
13
算になる。シロイヌナズナは遺伝子反復性が低いことから
役立つ良い経験となりました。また他の研究者達のポスタ
見た目で認識可能な表現型が出るケースが多く、フランス
ーやスライド発表を通して、多くの知見を得ることができ
のグループでも3%(1000 ライン以上)はそうしたもので
非常に勉強となりました。
優先的にマッピングをしているらしい。アメリカのグルー
今回の学会は自分が初めて体験することばかりで、貴重
プの1つは 60000 ラインのスクリーニングで 15 分子種が知
な経験となりました。この様な機会を与えられた事に感謝
られるカリウムチャンネル遺伝子のうち 10 遺伝子について
すると共に、今後もこの経験を生かして研究活動をしてい
挿入変異が取れたと報告していた。一方、大量の遺伝子
きたいと思います。
(1000 以上)の発現を一度に解析する DNA アレイの技術も、
ま だ コ ス ト 面 で 問 題 が あ る も の の、 核 コ ー ド の 遺 伝 子
(polyA をもつ転写産物)については十分な解析精度が得ら
◆微生物微細藻類研究分野◆
<農学生命科学研究科・博士課程 3 年 石田 達也>
れることが報告された。
2 日目以降は、ホルモン応答、形態形成など個別のテー
会議の名称:
第 9 回国際微生物会議(The International
Union of Microbiological Societies)
マについて報告があり、これらの分野のトレンドと方向性
を知ることが出来た。自分の研究に近い葉緑体関連の発表
開 催 地:
オーストラリア、シドニー
は無かったが光形態形成などについて最新の知見が得られ
会 期:
1999 年 8 月 16 日∼ 1999 年 8 月 20 日
た。
発 表 演 題:
Phylogenetic analysis of cyanobacteria
based on groEL gene and its homologues
本学会参加にあたり、充分な援助をして頂いた財団法人
応用微生物学研究奨励会に深く感謝いたします。ありがと
(ポスター発表)
うございました。
今回、財団法人応用微生物学研究奨励会の援助を頂き、
◆生理活性物質研究分野◆
第 9 回国際微生物会議に出席して発表する機会を得ること
<農学生命科学研究科・博士課程 2 年 升岡 優太>
が出来ました。ありがとうございました。
今回の会議はオセアニア地区であるためか、アメリカか
会議の名称:
第 29 回アメリカ神経科学会(29th Annual
らの参加は少なく、主にオーストラリア、ニュージーラン
Meeting Society for Neuroscience)
ド、ヨーロッパ、日本の地区からの参加が主でありました。
開 催 地:
アメリカ、マイアミビーチ
参加者は前回に比べ少なかったようですが、それでも口頭
会 期:
1999 年 10 月 23 日∼ 1999 年 10 月 28 日
発表 65 分野、ポスター発表 43 分野、総発表数は 1,000 を十
発 表 演 題:
Protective effect of penicillinc acid on PC12
分に越える数多くの発表がありました。そのためか通常、
cell from NGF deprivation(ポスター発表)
微生物関連の学会でシアノバクテリアの発表が多数あると
この度は財団法人応用微生物学研究奨励会の御援助をい
いうのは少ないのですが、今回はその生態、生理学的な研
ただき、第 29 回アメリカ神経科学会に出席する機会を得る
究から、系統進化にわたるまで数多くの発表があり、非常
ことができました。深く御礼申上げます。
に勉強になりました。特にシアノバクテリアが産出する毒、
本学会は大変規模の大きい学会でレジストレーション者
cyanotoxin についてその分類から、その毒の種類と生産者
数は 2 万人を越えるものであります。会場も農学部グラウ
であるシアノバクテリアの種や、分布との相関性について
ンド 3 ∼ 4 つ分位の大きな場所で、いたるところで活発な
数多くの発表があり、現在着目され始めている事を感じま
ディスカッションが行われていました。開催時間も毎朝 8
した。また、Bergey's Manual of Systematic Bacteriology の
時からで、遅い日は夜の 1 時までスケジュールが組まれて
シアノバクテリアの部門を執筆している、Castenholtz 博士
いたことから、本当に海外の研究者のパワフルさを感じま
や、各国のカルチャーコレクションの研究者と交流を持て
した。私はカビの2次代謝産物である penicillic acid が、神
たことも大変良い経験でありまして、今後の研究への励み
経細胞のモデルとして知られる PC12 細胞を保護する作用
になりました。
について発表しました。現在の日本では天然物由来の低分
今回私は groEL 遺伝子、またその相同遺伝子に基づくシ
子化合物を用いた研究はあまり盛んではなくなって来てい
アノバクテリアの系統進化についてポスター発表を行いま
ますが、アメリカの学会では逆に多くの低分子化合物が研
した。16S rDNA、groEL 遺伝子に基づいて系統解析を行い
究に使用されるようになってきており、天然有機化合物復
それぞれその系統樹を作成し、またそれらの相関性につい
興の兆しを察することができました。いずれ日本もアメリ
て発表したのですが、予想以上に出席者からの質問が多く、
カの流れを追随することと思います。私は、私のポスター
また解析方法について助言や、今後の研究の進め方につい
に興味を示した他の研究者達とディスカッションを行いま
ての助言が得られるなど、今回の学会は大変有意義な学会
したが、データに関して様々な指摘をうけ、今後の研究に
でありました。しかしながら、私の英語力が不足している
14
ため上手く説明することが出来ずもどかしく感じ、今後の
ものはとても大きく、自分の将来に大いに役立つと思いま
課題であると感じました。
す。この経験を生かし、奨励会の方々が私に対する援助が
今回、初めて海外で発表したのですが、国内での発表と
は予想以上に、質疑応答、議論が活発でありました。この
決して無駄ではなかったと感じるように、今後とも精進し
ていきたいと思います。
ような機会を与えて下さったことに感謝すると同時に、今
後はこの経験を役立てて今まで以上に研究に勤しんでいき
◆生理活性物質研究分野◆
たいと思います。
<農学生命科学研究科・博士課程 2 年 高木 基樹>
◆生理活性物質研究分野◆
<農学生命科学研究科・博士課程 3 年 小林 誠司>
会議の名称:
第 11 回放線菌の生物学における国際シン
ポジウム(11th International Symposium
会議の名称:
on the Biology of Actinomycetes)
第 11 回放線菌の生物学に関する国際シン
ポジウム(11th International Symposium
開 催 地:
ギリシャ、クレタ島
on the Biology of Actinomycetes)
会 期:
1999 年 10 月 24 日∼ 1999 年 10 月 29 日
開 催 地:
ギリシャ、クレタ島
発 表 演 題:
Cloning and characterization of the meval-
会 期:
1999 年 10 月 24 日∼ 1999 年 10 月 29 日
onate pathway for a gene cluster from
発 表 演 題:
Biosynthetic studies on fosfomycin by
Streptomyces sp. CL190-(ポスター発表)
Streptomyces wedmorensis
この度の第 11 回放線菌の生物学における国際シンポジウ
この度は私の 11th International Symposium on the Biology
of Actinomycetes への出席にあたり、財団法人応用微生物
学研究奨励会の援助を頂き、誠に有り難うございました。
ムに参加するにあたり、財団法人応用微生物学研究所奨励
会からご援助を頂きましたことを深く御礼申し上げます。
会議では、二次代謝産物としてテルペノイドを産生する
私にとってはプライベートも含めて初めての海外渡航で
Streptomyces sp. CL190 においてメバロン酸経路の遺伝子
もありましたので、「将来国際的な研究者となるために、
がクラスターをなしていることを明らかにし、クローニン
外国や国際会議の雰囲気をつかむこと、および外国人と英
グしたメバロン酸経路の遺伝子クラスターを大腸菌内で発
語で会話することに慣れること」を事前の目標として掲げ
現させることに成功したという結果をポスター発表しまし
ていきました。この目標に関しては私にとっては大きな成
た。放線菌におけるテルペノイドの生合成研究はまだ、あ
果を得ることができたと思います。会期中は会場となって
まり行われていないためか、興味を示す出席者が少なかっ
いるホテルに泊まり込みだったので、常に国際会議の雰囲
たことは非常に残念に思われました。また、このような機
気を感じ取ることができました。日本の学会と比べると服
会に自分の研究内容を積極的にアピールする必要性を痛感
装などもラフで、出席者同士が身分に関係なく近づきやす
いたしました。
い雰囲気であることを知ることができました。また、自分
会議全体を通して、初めて国際会議に参加した私として
自身のポスター発表の際には私の発表内容に興味を持った
は日本の学会に比べて内容を含めて様々な意味で差異を感
出席者が説明を求めてくることが何度もあったので、英語
じ、非常に充実した会議でありました。また、自分自身の
で会話することに対するプレッシャーを感じている暇もあ
英語力の貧困さを改めて再認識し、もっと英語力をつける
りませんでした。この自分のポスター発表を通じて学んだ
必要性を感じました。このような貴重な機会を与えられた
ことは、ポスター発表では主に自分の発表内容に興味を持
ことに深く感謝すると共に、今後の研究生活にこの経験を
つ人が主に聞きに来るので、自分の英語が下手でも一生懸
役立てたいと考えております。
命聞き、理解しようとし、そしてときには助けてくれると
いうことです。また、口頭発表のように大勢が聞いている
◆生体超高分子研究分野◆
わけではないので、自分自身も恥を恐れずに思い切ってし
<農学生命科学研究科・博士課程 2 年 秦 勝志>
ゃべれる、ということもあるので、私としては今回は口頭
ではなくポスター発表であったことが良かったです。だか
会議の名称:
第 1 回国際タンパク質分解会議(The
らといって自分の英語に満足したわけではなく、もっと英
First General Meeting of the International
語ができればより深く、正確に自分の研究についてディス
Proteolysis Society)
カッションを行うことができ、質問者からもより多くの情
開 催 地:
アメリカ、ミシガン
報やアイデアを聞き出すことができたはずということも感
会 期:
1999 年 9 月 25 日∼ 1999 年 9 月 30 日
じました。
発 表 演 題:
Characterization of stomach-specific cal-
今回の会議に出席したことにより、自分の中で得られた
pains nCL-2 and nCL-2'(ポスター発表)
15
私はこの度、国際タンパク質学会に出席するにあたり、
今年の学会はそのようなインパクトの強い発表からのさら
財団法人応用微生物学研究奨励会のご援助を頂きました。
なる結果を数多く発表している研究室が多く、大変勉強に
深く御礼申し上げます。
なる学会でありました。
この会議で私は、生体内のカルシウム依存性プロテアー
私がこの学会で得に好きな点はポスター発表でのディス
ゼ(カルパイン)、中でも胃に特異的に発現している nCL-2
カッションです。最初参加した時は英語ができず、説明す
及び nCL-2'の機能解析を目的に、ノックアウトマウス作製
るとあまりにも私のひどい英語に、「読むからいい。」とい
を行ったこと、また nCL-2'の精製に成功したので、タンパ
われてしまい、結局なにもディスカッションできずに終わ
ク質レベルでの解析等の結果についてポスター発表しまし
るという悲惨な思い出があります。結局その一言で、その
た。出席者の中にカルパインについて研究している人は今
時は何も聞く事も答えることもできなくなってしまいまし
回あまり見受けられませんでしたが、私の発表に興味を持
た。最近も相変わらず英語はひどいものなのですが、とに
った様々な国の研究者と意見を交わすことができ、大変有
かく度胸と思い、最初に「あまり話せないけど勉強になる
意義な発表時間を過ごすことができました。タンパク質分
からなんでも聞いて」と言うと意外にも好意的にいろいろ
解(プロテオリシス)といっても、その対象は哺乳類から
質問をしてくれると言う事が分かりました。未だに満足の
バクテリアまでとても幅広く、様々なプロテアーゼの機能、
いくディスカッションまでは(日本語もそうなのですが)
結晶構造についての発表が見られましたが、中でも私が現
程遠いのですが、来年こそは絶対にという気持ちがうまれ
在進行中の仕事でもあるノックアウトマウスを用いたプロ
ます。学会に行き、おもしろい発表を聞きこんなサイエン
テアーゼの生理機能解析についての発表は数多く見られ、
スをしたいと言う気持ちは多くの日本の学会でも感じる事
非常に参考になりました。
ができるのですが、もっとうまくディスカッションしたい
会議を通じ、私が討論で(英語でも)四苦八苦している
と言う気持ちは海外の学会いった時程強く感じます。また、
一方で、どの出席者も積極的かつ堂々と発表、討論してお
これは女性の立場からなのですが、女の研究者の方が元気
り、自分の力不足を痛感しました。しかし、このような国
だと言う事がたいへんこの学会に参加し嬉しい点です。お
際学会において、分野を問わず数多くの国の研究者と交流
そらく参加者の 40 %位は女性の研究者ではないかと思いま
する機会に恵まれ、非常に良い経験となりました。このよ
す。年齢層は 20 代から 60 代までありとあらゆる世代に渡
うな機会を与えて頂いたことに感謝し、今後の研究の糧に
ります。最近日本も女性の研究者が以前に比べて多くなっ
していきたいと思います。
ていると思いますが、それでもまだポジションを取り第一
線で研究を行っている女性の研究者は少ないのではないか
◆分子系統研究分野◆
と感じます。いろいろ落ち込む事も多いのですが、海外の
< CREST 研究員 須沢 美幸>
学会に行くと少し元気になります。また、今年私はポスタ
ーだったのですが、私と一緒に参加した村山明子さんが口
会議の名称:
アメリカ骨代謝学会(American Society
頭発表にえらばれ、研究室にとって大変嬉しいことであり
for Bone and Mineral Research 21st
ました。
Annual Meeting)
今年のアメリカ骨代謝学会は、St. Louis カージナルスの
開 催 地:
アメリカ、セントルイス
ホームグランドがあり、私が学会に参加した時、まさにソ
会 期:
1999 年 9 月 30 日∼ 1999 年 10 月 4 日
ーサーとマグワイヤーのホームラン争いの真っただ中であ
発 表 演 題:
TGF β/BMP suppresses PPAR γ function
りました。しかしながら、日本にいる時自分が抱いていた
though TAK/TAB1 mediated signaling
活気あるイメージとは逆に、街には人陰が少なく、ほとん
pathway
どの店が閉まっており、「for lease」と描かれた看板がはら
れ、夜になると、たかだか 200-300 mの距離でも歩くと危
私がアメリカ骨代謝学会参加させて頂き、今年で 4 回目
になります。アメリカ骨代謝学会は、毎年 600 演題のポス
険であるという、まさに日本とは全く逆の文化であると言
う事を感じさせられました。
ターと、200 演題の口頭発表からなる、かなり大きな学会
今回参加させていただいた学会は英語圏だけでなく、ヨ
の一つであります。医学系の学会であるのですが、その分
ーロッパ、アジアなどいろいろな国の研究者が発表してい
野は基礎骨代謝から臨床まで多岐にわたり、得に基礎分野
ました。どの国の人も自国の方言が強く聞いていてもよく
では一昨年前の Cell の表紙を飾った cbfa-1 のノックアウト
英語か何か分からないような発表でもみな堂々と質問に答
マウスや、昨年から今年にかけて数多く発表された破骨細
えていますが、比較的日本人は発表はともかくとして質疑
胞を活性化させる因子とその受容体である RANKL と
応答は苦手な人種なんだと感じました。新しい知識を得る
RANK のクローニングとノックアウトマウスを用いたその
と共に更に海外と比較し日本の良い点を生かし悪い点を改
性状解析は、その早さとインパクトに感動を覚えました。
善しもっと研究環境がよくなっていくと良いと思います。
16
そのためにも、もっと若い大学院生などが海外の学会に発
藹々とした雰囲気があり、私も研究者の一人として PI から
表しいろいろ感じられる機会が多いことはすばらしい事で
大学院生まで様々な研究者との親睦を深める事が出来まし
あり、この財団法人応用微生物学研究奨励会のシステムの
た。今回のこの貴重な経験をさらに今後の研究の糧にして
すばらしさを実感しました。最後に、本学会に充分な援助
いきたいと思っております。
をして頂きました財団法人応用微生物学研究奨励会に心よ
り感謝したいと思います。
◆細胞合成研究分野◆
<理学系研究科・修士課程 2 年 江指 永二>
◆染色体分子構造解析研究分野◆
<理学系研究科・博士課程 3 年 船越 陽子>
会議の名称:
「T 細胞の活性化、分化、細胞死」に関
するキーストンシンポジウム(Keystone
会議の名称:
Symposia 2000 on "T Lymphocyte
第 41 回ショウジョウバエ研究会年会
Activation, Differentiation and Death")
( 41st Annual Drosophila Research
Conference)
開 催 地:
アメリカ、キーストン
開 催 地:
アメリカ、ピッツバーグ
会 期:
2000 年 1 月 28 日∼ 2000 年 2 月 3 日
会 期:
1999 年 3 月 22 日∼ 1999 年 3 月 26 日
発 表 演 題:
Development of a distinct class of
発 表 演 題:
Novel wing patterning gene disc6 which
macrophages from thymocytes in the pres-
regulates expression of the major Dpp
ence of OSM-dependent thymic stromal
receptor, thick veins(ポスター発表)
cell line(ポスター発表)
この度のショウジョウバエ研究会年会に出席するにあた
この度のキーストーン 2000 会議に出席するにあたり、財
り、財団法人応用微生物学研究奨励会からの格別の援助を
団法人応用微生物学研究奨励会からの格別の援助を賜り、
賜り、心より感謝いたします。
衷心より感謝致します。
このショウジョウバエ研究会で特に話題となっていたの
会議では、胸腺内に T 細胞前駆細胞から分化してくる新
は、やはり学会と同時に発表された、ショウジョウバエの
規リンパ球系マクロファージが存在すること、及びその分
全ゲノム解読結果の発表でしょう。アメリカのショウジョ
化をオンコスタチン M というサイトカインを用いることで
ウバエゲノムプロジェクトのリーダーや、最近注目されて
生体外で誘導できることを発表しました。特に、新規リン
いるゲノム解読を請け負ったベンチャー企業の創始者の講
パ球系マクロファージの生体内での機能に興味を持つ研究
演、新しいデーターベースについての解読など、ゲノムプ
者は非常に多く、活発な討論を交わすことができました。
ロジェクトに関する情報が盛りだくさんのワークショップ
また、T 細胞の分化、活性化、細胞死などの研究に携わる
に参加でき、ショウジョウバエ研究のみならず、生物の研
多くの世界的な研究者が参加しており、T 細胞に特有な分
究が新しい時代を迎えた瞬間に立ち会っているという感動
化、活性化機構などについて非常に有意義な意見を交換を
がありました。
交わすことができました。さらに、加速度的に進歩してい
今回は、博士課程のテーマであります、ショウジョウバ
く当研究分野の最新の情報を多く得ることができました。
エ翅新規パターン形成遺伝子のクローニングの結果とその
会議全体を通して、テーマが比較的絞られていたことも
機能解析について発表いたしました。当研究によりこの遺
あり内容は予想以上に濃く、またそのテーマが現在様々な
伝子は、TGF-βホモログの DPP の受容体である TKV の発
疾病などで注目を集めている免疫系担当細胞のことである
現を制御していることが判明しましたので、この遺伝子が
ことから、出席者各人の研究に対する熱意を直に感じるこ
TKV の発現制御を通して DPP の細胞内シグナル強度の制御
とができました。さらに、様々な国々から多くの若手研究
を行っている、という新しいモデルを提示しました。DPP
者、学生が集まっており研究者相互の親睦を深める絶好の
を始めとするモルフォゲンの情報伝達については、近年特
機会にもなりました。今回の貴重な経験を今後の研究生活
に注目されている分野であるためか、ポスターはかなり好
に役立てていきたいと考えています。
評で、最先端の研究室の方々と意見を交換する機会を得る
ことが出来ました。また、多くの人に、"Good job!"等のお
◆分子発生分化研究分野◆
褒めの言葉を頂いたことから、研究者として研究を続けて
<研究生 作野 剛士>
行く自信を得ました。
この会議は元々ショウジョウバエをこよなく愛する研究
会議の名称:
「クロマチンの構造と機能」に関するキ
者の集まりで比較的こじんまりとしておりますが、会場内
ーストンシンポジウム(Keystone
に限らずあちらこちらで意見交換を行っているような和気
Symposia on "Chromatin structure and
17
Function")
費用の援助をいただけたからであり、当奨励会に対して改
開 催 地:
アメリカ、キーストン
めてお礼申し上げます。
会 期:
2000 年 2 月 12 日∼ 2000 年 2 月 18 日
発 表 演 題:
Functional analysis of MYST family interat-
◆分子系統分野◆
ing factors in yeast(ポスター発表)
<農学生命科学研究科・博士課程 3 年 舛廣 善和>
この度はキーストーンシンポジウムに出席するにあた
会議の名称:
「核内受容体」に関するキーストンシン
り、財団法人応用微生物学研究奨励会からの格別の援助を
ポジウム(Keystone Symposia, Nuclear
賜り、心より感謝いたします。
Receptor 2000)
会議ではクロマチン転写における必須制御因子であるヒ
開 催 地:
アメリカ、キーストン
ストンアセチル化酵素(HAT)の機能解析について報告を
会 期:
2000 年 3 月 25 日∼ 2000 年 3 月 31 日
しました。当研究室においてこれまでに、クロマチン転写
発 表 演 題:
Coactivators acting on th AF-1 of the
の根幹を担う TFIID の相互作用因子として真核生物を通じ
human estrogen receptor α(ポスター発
て高度に保存されている MYST ドメインを有するヒト
表)
Tip60 を単離し、世界に先駆けて HAT であることを見出し
た。その MYST ドメインをもつ HAT である Tip60 の生体内
この度のキーストーンシンポジウムに出席するにあた
での機能を明らかにするために、解析が容易であり、真核
り、財団法人応用微生物学研究奨励会からの格別の援助を
生物のモデル細胞である出芽酵母に系を移して解析を行い
賜り、心より感謝致します。
ました。Tip60 の出芽酵母ホモログである Esa1 は出芽酵母
会議では、核内レセプターの 1 種であるエストロゲンレ
の既知の HAT の中で唯一の致死因子であり、生体内におけ
セプターの N 末端側に存在する転写活性化能(Activation
るその機能の重要性が伺われます。その Esa1 の HAT 活性
Function-1; AF-1)領域に相互作用する p68 のコアクチベー
欠損変異種を用いた遺伝学的解析から、転写制御に関する
ターとしての機能と、AF-1 の転写活性を担うと考えられる
表現型(SPT 表現型:プロモーターへのトランスポゾン配
更なるコアクチベーターが存在する可能性等の研究成果を
列挿入による遺伝子発現の低下を抑圧しすることもの)を
発表しました。特に、これまで多くの研究者が関わってき
示すことを見出したことで、実際に Esa1 が転写制御に関与
たにもかかわらず、解明の遅れている AF-1 の転写活性化機
すること、さらにはその系に関与する初めての HAT として
構に興味を持つ出席者は多く、活発な討論がなされました。
報告いたしました。また、生化学的解析からは、Esa1 を含
またシンポジウムでは、私が博士論文の研究で行った研
む機能複合体を精製しそのサブユニットとして驚くべきこ
究内容と同じ内容の報告がなされ、世界の研究の進歩の早
とに、細胞骨格因子であるアクチンと高い相同性を示し、
さを実感でき、非常に有意義な発表を聞くことができまし
そのファミリーがクロマチンリモデリング活性を持つ
た。加えて、様々なコアクチベーター、コリプレッサーの
ATPase 複合体(Swi/Snf,RSC)にも含まれる Arp4(Actin-
研究や、核内受容体の新規なリガンドの研究、リガンド未
Related Protein 4)を同定しました。さらに Arp4 の変異に
知な核内受容体の研究など核内受容体に関する研究の最新
より esa1 変異と同様に SPT 表現型を示すことから、両者の
の進展状況を把握することができました。
生体内での機能的な相互作用性を明らかにしたこともあわ
会議全体を通して、核内受容体に関する研究が近年格段
せて報告しました。HAT を介したクロマチン転写制御に興
に進歩し、最も注目される研究分野の一つとなったことか
味を持つ研究者は非常に多く、活発な議論やお互いの情報
ら、定数以上の参加者が出席し、出席者各人の研究に対す
の交換がなされました。
る熱意を直に感じとることができました。また、同じ分野
また、普段自分達が先生に教えていただいていることは
で競争している研究者同士が親睦を深める絶好の機会にも
世界の研究者の考えやアイデアを凌駕しており、研究レベ
なりました。今回の貴重な体験を今後の研究に役立てたい
ルも日本はもとより世界でも十二分に通用することを本会
と考えています。
議での研究発表や議論を通じて改めて痛感いたしました。
さらに、今後はクロマチン転写制御の領域だけでなく、複
製や組み替えなどのクロマチンを鋳型とした様々な反応
系、さらにシグナル伝達などの分野においても世界を先導
する研究成果を当研究室から発表できうることを確信致し
ました。自分のおかれている研究や教育の環境が恵まれて
いることを海外の学会に参加して初めて自覚できたこと、
また自分の研究者として成長する機会を得たことも、渡航
18
留学生手記
微生物微細藻類M1 石濱 海
唐の時代、中国の鑑真大師は六回海を渡って日本に来まし
た。日本遣唐使の阿倍仲麻呂は帰国の途中、海で消息を絶ち
ました。当時は小舟が唯一の交通手段であり、海は、超える
ことが困難な溝でした。それでも、昔から中国と日本の関係
はよく“一衣帯水”と言われており、この意味するところは、
近くにありながらベルトのような水で隔離されている、とい
うことです。二年前に私は中国上海の虹橋空港から成田空港
までたったの二時間でやって来ました。その時、私は歴史を
感じました。
成田からの電車では、窓から外をずっと見ていました。に
ぎやかな街、便利な交通、きれいなお店…何もかもが新鮮で
した。特に初めてガングロを見た時、おのぼりさんの私は本当に驚きました。これでも化粧、パンダっぽいね、化粧は美白
だけじゃないの?…しかし、この新鮮さは一週間で終わってしまい、“あいうえお”しか覚えていなかった私はかなり困り
ました。日本語ができないと、コミュニケーションがとれません。私は言葉に手足を絞られてしまいました。果たして日本
の生活に慣れることができるのか“?”になりました。
生まれて初めて両親と離れました。ホームシックが多少ありました。中国旧暦の八月十五日は中秋節という日です。この
日は、家族一緒に月餅を食べながら満月を見る習慣があります。初めて日本で過ごした中秋節の夜はとても寂しかったです。
一人で日吉公園にすわり月を見ながら、私を二十五年間育ててくれた両親の面影を思い浮かべました。そして、両親の手紙
の言葉を思い出していました。“あなたが勉強と研究ができるなら、私達は一番嬉しい。私達のことを気にしないで、勉強
に集中しなさい。”不意に涙が溢れてきました。両親の言葉と涙の渋い味を今までも覚えています。
幸いに、日本語を勉強するうち、日本の生活に早く慣れてきました。何となく嫌いだった納豆も好きになりました。また、
無意識のうちに、私も駅でパンを食べたり走ったりしていました。
“あっ、やっと日本に慣れた”と思いました。
研究室の方々は、私に優しくて親切でした。私のことをよく関心しました。ある日、先輩が私に尋ねました“今の生活は
どうですか?大変でしょ?”“大丈夫。空気と太陽さえあれば、私はどうとでも生きられます。”私はそう答えました。“本
当?それじゃまるでカビじゃないか!”先輩は笑いました。私も笑いました。振り返ってみると、この二年間、自分は頑張
ってやってきて、今は徐々にマイペースになってきています。寂しくて苦しいことは昨日の思い出になりました。百年前の
夏目漱石のロンドン留学生活と比べて、今の私達の留学生活は幸せとしか言いようがありません。中島みゆきの“ファイト”
という歌が好きです。“ファイト!闘う君の唄を 闘わない奴等が笑うだろう ファイト!冷たい水の中を ふるえながら
のぼってゆけ。
”私も厳しい生活と闘って、より強い人間になりたいです。
どうして納豆が好きになったのか、分かりません。多分、納豆の味は人生の味です。苦味の後は旨味が出ます。本当に日
本に留学してよかった。私は成長して強くなりました。分生研に入ってよかった。自分の視野も広がり、自分の人生も広が
りました。
微生物微細藻類研究室に入った当初は、分からないことも多かったです。ゴミの分別もあまりはっきりしませんでした。
あるゴミ捨ての日に、すこし汚れのついたままのチップが発見された時、私は分別し直す必要はあまりないと思いました。
しかし、研究室の人は、ダメだと言ってやり直しました。細かいことでもきちんとしないと、良い研究者になれないと分か
り、良い勉強になりました。微生物微細藻類研究室に入ってから、いろいろなことを教え助けてくれた研究室の皆さんに心
より感謝の気持ちを伝えたいです。本当にありがとうございます。
どしゃぶりの後、いまの夜空はとても美しいです。そろそろ中秋節ですが、私は満月を見たいです。
19
「転出のご挨拶」
前庶務掛長 北田義保
3年3カ月の間、分生研の皆様には大変にお世話になりました。
分生研に勤務するまでは研究所の名前のとおり、微生物の分子、細胞などを中心としたバイオサイエ
ンス研究と院生の方々への教育機関なのだろう....位しか認識がなかったものが徐々に紀要を始めとして
先生方のレポートや、お話を解説付きで聞かせて頂いてみると、今まさに新聞紙上などで話題となって
いるDNA関連のゲノム読み取り、組換え、そして今までは軽く考えていた動物、植物の細胞をも含め
たもっと広範囲のバイオサイエンスとしての時代の最先端の研究が行われている(!)ということを実
感し始め、ここに勤務させて頂いているという喜びまでも感じることになりました。
事務の仕事の上でも皆さんのご理解とご指導の下、自由な雰囲気で働かせて頂き感謝しております。
本当に貴重な経験をさせて頂きました。唯、お世話になった分ご恩返しが十分にできなかったことを申し訳なく感じており
ます。
新しい職場は、私にとって初めての学部勤務となる文学部です。分生研と較べると教職員数が圧倒的に多く、何事におい
ても1つのことを片づけるのに時間がかかります。早くコツを掴んで一日も早く慣れようと必死です。分生研で経験した事
を生かしながら頑張ろうと思っています。
分生研の将来の発展と新棟の実現、そして皆様の益々のご活躍をお祈り致します。
留学生との懇談会開催
さる6月22日(金)午後6時より東京大学山上会館にお
いて、平成12年度分生研留学生懇談会が行われました。
この会には、分生研で、勉学・研究する留学生のほか、鶴
尾所長はじめ、丸尾・池田各名誉教授、木下応用微生物学奨
励会理事長及び関係者、本研究所教職員等約50名が参加し
ました。豊島教授の司会進行のもと、鶴尾所長のあいさつ、
木下奨励会理事長の乾杯の後、歓談をしながら、他の研究室
との交流がもたれました。日本語による留学生一人ひとりの
自己紹介、お国の歌なども披露され、楽しいひとときを過ご
しました。
〈第5回分生研シンポジウム開催のお知らせ〉
来る11月24日(金)に第5回分生研シンポジウムが開催されます。ご参加をお待ちしております。
シンポジウムタイトル「生物応答シグナルの分子基盤」
日 時:平成12年11月24日(金)10:00∼18:00
場 所:池之端文化センター1階「鳳凰」
(東京都台東区池之端1−3 ℡ 03-3822-0200)
交 通:営団地下鉄千代田線湯島駅1番出口徒歩1分
参加費:無料
懇親会:午後6時より池之端文化センター BF 1階「孔雀」会費5千円(申込みは当日会場にて)
主 催:東京大学分子細胞生物学研究所
後 援:(財)応用微生物学研究奨励会・坂口基金
プログラム
10:00
開会の辞 鶴尾 隆(東大・分生研所長)
10:10
生物応答調節剤の創製 橋本祐一(東大分生研)
10:45
細胞死抑制剤の開発とその作用機序 袖岡幹子(東北大・反応研)
11:20
レチノイド核内受容体リガンドの医薬化学 影近弘之(東大・薬)
11:55 昼休み
13:30
生物の環境応答と bHLH-PAS 転写因子 藤井義明(東北大・理)
14:05
核内ステロイド受容体の転写制御機能 加藤茂明(東大・分生研)
14:40
プロスタグランジン受容体の分子生物学とノックアウトマウス 成宮 周(京大・医)
15:15 コーヒーブレイク
15:45
発生・分化、神経系を制御する MAP キナーゼカスケード 松本邦弘(名大・理)
16:20 細胞間をシールする分子機構:クローディンの構造と機能 月田承一郎(京大・医)
16:55
生存シグナル伝達 後藤由季子(東大・分生研)
17:30
閉会の辞 橋本祐一(世話人代表)
18:00 ∼ 20:00 懇親会
問 合 先
東京大学分子細胞
生物学研究所
〒 113-0032
東京都文京区弥生 1-1-1
橋本祐一
(Tel : 03-5841-7847)
(Fax : 03-5841-8495)
(E-mail:[email protected])
20
惜敗!!学内レクリエーション「野球の部」
6月27日(火)平成12年度の学内レクリェーション「野球の部」において、分生研 VS センター連合の試合が行われ
ました。試合は激しい点の取り合いのシーソーゲームとなり、最終回に同点になる接戦。13対13で決着つかずジャンケ
ン勝負に持ち込まれました。ジャンケンは9対9でポジションごとに対戦し、勝ち数の多い方の勝利。そしてこれも、9人
目までもつれこむ大混戦となりました。結果は残念ながら5対4で惜敗。1回戦突破はなりませんでした。この試合には1
部残留がかかっていたため、残念ながら次回は2部でのスタートとなります。
平成 12 年度科学研究費補助金採択一覧(6月以降追加分)
以下は平成12年度科学研究費補助金の分生研における採択者(代表者氏名と、研究題目、本年度配分額)です。
○特定領域研究(C)(2)
多羽田哲也 教授 染色体分子構造解析研究分野
ショウジョウバエのパターン形成遺伝子の網羅的探索
6,000 千円
松山伸一 助教授 細胞構造研究分野
大腸菌の全リポ蛋白質遺伝子の網羅的機能解析
5,500 千円
田中 寛 助教授 分子遺伝・育種研究分野
単細胞紅藻葉緑体ゲノムにおける転写調節ネットワークの解明
6,000 千円
葛山智久 助手 生理活性物質研究分野
未解明一次代謝経路、非メバロン酸経路に関する遺伝子の機能解析
6,500 千円
平成 12 年度受託研究・共同研究一覧(2000.6.1 以降追加分・7月末現在)
〈受託研究〉
◆分子系統・柳澤 純・助手
科学技術振興事業団(戦略的基礎研究推進事業)
内分泌撹乱物質の作用機構の分子レベルでの解明
550 千円
◆分子情報・秋山 徹・教授
科学技術振興事業団(戦略的基礎研究推進事業)
内分泌かく乱物質が減数分裂、
相同組み換えに与える影響
440 千円
◆蛋白質解析・豊島 近・教授
科学技術振興事業団(戦略的基礎研究推進事業)
G 蛋白質共役受容体の結晶構造解析
462 千円
◆細胞合成・人工細胞・宮島 篤・教授
第一製薬株式会社 マウス由来細胞株の樹立に関する研究
2,600 千円
◆分子情報・秋山 徹・教授
第一製薬株式会社 癌細胞における APCシグナル系の役割
1,000 千円
◆生物物理・大坪久子・講師
農林水産省農業生物質資源研究所(農林水産省)
遺伝子発現モニタリング手法を用いたイネ・ゲノム有用
遺伝子の機能解明
5,246 千円
◆細胞機能・梅田正明・助教授
農林水産省農業生物質資源研究所(農林水産省)
遺伝子発現モニタリング手法を用いたイネ・ゲノム有用
遺伝子の機能解明
5,121 千円
〈民間等との共同研究〉
◆細胞工学・後藤由季子・助教授
第一製薬株式会社
神経細胞の生存・死を制御するシグナルの解明
1,000 千円
平成12年度奨学寄附金受入状況(平成 12 年 7 月末現在)
総件数 14 件 総 額 17,000,000 円(内 500 万円を超えるものはなし)
21
お店探訪
(財)応用微生物学研究奨励会・山口千秋
「白山下接骨院」
不規則な生活習慣からくる肩こり、腰痛に悩まされている方に
耳よりな情報をお知らせ致します。これからご紹介する接骨院に、
500 円玉一つ握りしめて騙されたと思って今すぐ行ってみてくだ
さい。この「白山下接骨院」は、生理歩行の指導・電気治療・マ
ッサージ等フルコースたっぷり 1 時間で、一回たったの 500 円
(初診のみ 1,500 円でその後は毎回 500 円)です。特にマッサージ
はゆっくり丁寧に揉みほぐしてくれます。ちなみに私などはあま
りの気持ち良さに涎が出てしまいました。この接骨院を知らない
文京区民はもぐりだと言われるほど地元では有名ですが、本当は
誰にも教えたくない取って置きの癒しの穴場なのです。そんなわ
けでいつも大繁昌ですが、常時 5 ∼ 6 人のスタッフがフル回転で
対応してくれますから待ち時間はありません。最初は毎日楽しみ
白山通り
三和
銀行
に通ってくるおばあさん達がマグロのように幾人も横たわってい
白山駅
るのを見てびっくりするかもしれませんが、これがいわゆる現代
さくら銀行
本
郷
通
り
の老人社会の縮図だと思って観察すると、そこでの 1 時間は大変
有意義な社会勉強となるはずです。
モスバーガー
住 所:東京都文京区白山 1-18-11 Tel : 03-3814-2124
施術時間:平日 午前 9 ∼午後 12 : 30 午後 3 ∼ 7
土曜 午前 9 ∼午後 2
休 診:第二木曜日・日・祭日
白山
児童館
セブン
イレブン
中山書店
旧
中山道
JOMO
白山下接骨院
東大
農学
部門
高崎屋酒店
「小林米店」
次は町の便利なお米屋さんをご紹介いたします。その昔農学部
前に棟割長屋の 1 軒に、小さなお米屋さんがあったのをご記憶の
方もあるかもしれません。現在は白山の東洋大学の前に転居した
「小林米店」です。とにかく親切なご主人と、不釣合いな美人の
奥さんで切り盛りしています。ご主人はお米の配達ついでにお米
を研いでいってくれたり、子供の幼稚園のお迎えまで引き受けて
くれたりと、昔は町内に必ず一人こんな親切なおじさんがいたも
のです。そんなお米屋さんが、自家製のおにぎり(たらこ、中華
おこわ、鳥ごぼう他 13 種類ー 100 ∼ 120 円)・ビーフカレー 450
円・牛めし 500 円・カルビ弁当 550 円・三色弁当 400 円を販売し
ています。切にお願いすれば(山口の名前をお忘れなく)研究室
巣鴨
東洋大学
まで配達して下さるかもしれません。特にお勧めは 1 日限定 7 個
の焼きおにぎり。じっくり時間をかけて網で焼くご主人の力作で
ジョナサン
す。念のため入れ歯の方は無理です。
小林米店
生協
白山上
団子坂
旧
中
山
道
本
郷
通
り
東大農学部
住 所:東京都文京区本駒込 1-3-7 Tel : 03-3943-2024
営業時間:午前 10 ∼午後 6
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教官公募(2000.8.25 現在)
掲示板
〈知ってネット〉
詳細は分生研研究助成掛へお問い合わせ下さい。
℡ 03-5841-7803 / E-mail:[email protected]
最新の情報は、ホームページで公開しております。
http://imcbns.iam.u-tokyo.ac.jp/office/keijiban.html
平成 12 年度分生研レクリェーション行事予定
本年度の所内レクリェーション行事を以下のとおり予定して
筑波大学教授1名(生物科学系微生物学)
2000.10.20
います。皆さん奮ってご参加ください。詳細についてはその都
締切
度、掲示等でお知らせします。
大阪大学教授1名(たんぱく質研究所 蛋白質有機化学研究部門)
なお、開催時期は前後する場合があります。
[行事]
[開催時期(予定)]
映画鑑賞
12年 9月
テニス
12年10月
ソフトボール
12年11月
卓球
12年11月
バトミントン
13年12月
ボウリング
13年 2月
2000.10.25
京都工芸繊維大学教授1名(応用生物学科生物工学講座)
2000.10.25
締切
北海道大学助教授1名(大学院理学研究科化学専攻生命分子化学講座)
2000.10.27
研究助成等公募(2000.8.25 現在)
締切
「分生研ニュース」Web 上で公開
詳細は分生研研究助成掛へお問い合わせ下さい。
℡ 03-5841-7803 / E-mail:[email protected]
「分生研ニュース」は2000年7月号(第11号)から
最新の情報は、ホームページで公開しております。
分子細胞生物学研究所のホームページ(http://www.iam.u-
http://imcbns.iam.u-tokyo.ac.jp/office/keijiban.html
tokyo.ac.jp)上で全ページをお読みいただけるようになり
平成 12 年度研究助成費の募集(財団法人中山隼雄科学技術文化財団)
募集先 2000.10.16
締切
締切
ました。最新号はもとより、バックナンバーも順次追加し
ていく予定です。「分生研ニュース」(印刷物)(無料)を
ご希望の方は編集委員会までご連絡下さい。みなさまのご
12RITE 優秀研究企画募集(財団法人地球環境産業技術研究機構)
募集先 2000.10.31
意見や投稿記事をお待ちしています。
締切
平成 13 年度笹川科学研究助成募集要領(財団法人日本科学協会)
募集先 2000.10.31
締切
Tea Time−編集後記
猛暑、夕立、雷、熱帯夜と、東京はいつから亜熱帯になったか
ば本体は無臭です。しかし、うさぎのイメージは「臭くて無反
という今年の夏でしたが、ふと気が付けば「風の音にぞ驚かれ
応」という方が多く、なかなか信じてもらえません。どうした
ぬる」。盛夏のうちは早く涼しくならないかとそればかり考えて
ら世の人にうさぎの良さが分かってもらえるか日々頭を悩ませ
いたのに、ふとしたはずみに過ぎる夏を惜しむ気持ちが差すの
ています。まさか分生研ニュースにうさぎの特集を組んでもら
を感じます。小学生だったころ、毎年この時期にさんざん刷り
う訳にはいかないし…
(細胞機能研究分野・梅田千景)
込まれたやるせない思いがそうさせるのでしょうか。過ぎてし
まったイベント、残り少ない休み、早くに済ませておくはずだ
った宿題…書いているうちに悲しい気分になってきました。
(生体超高分子分野・前田達哉)
分生研ニュース第12号
2000年10月1日号
発行 東京大学分子細胞生物学研究所
編集 分生研ニュース編集委員会(松山伸一、松尾美鶴、前田達哉、大坪
我が家ではうさぎを飼っています。もちろん抗体用の白うさぎ
久子、野村博美、梅田千景、小野口幸雄)
を1匹拝借した訳ではありません。ペット用の黒目で三毛のミ
お問い合わせ先 編集委員長 松山伸一
ニうさぎです。うさぎは案外賢い動物で、トイレも覚えるし、
電話 03-5841-7831
自分の名前だって分ります。甘えたい気分の時は寄って来て
「撫でろ」と要求したりもします。トイレの始末さえ気をつけれ
電子メール [email protected]
分生研 URL
http//www.iam.u-tokyo.ac.jp
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共通機器紹介 植物環境調節実験装置
植物体を育てる上で、植物に合った環境(温度、光など)
置をメンテナンスすることが重要である。そこで、半期に
を準備することは非常に重要なことである。そこで、植物
1度、専門家による点検作業を行い、本装置の維持に万全
環境実験装置は植物を良好な環境で育成することを可能に
の注意を払っている。
するため、平成7年度に分子細胞生物学研究所の屋上に設
置された。
内部の環境は、前室部分に設置された制御盤で一括制御
されている。装置内は、ガラス張りで日光を利用する温室
部分と、日光を完全に遮断した育成室部分に分かれている。
温室部分は日中は太陽光を利用しているが、タイマーで制
御されたタングステンランプを備えているので、冬期も長
日条件で植物の栽培が可能である。温室部分の内部は更に
大小3つの区画に分かれており、現在は温度を26℃およ
び27.5℃に設定し、イネとタバコの栽培を行っている。
品種によって多少異なるが、イネのライフサイクルは大体
6ヶ月、タバコは3ヶ月程かかるため、これらを材料とし
た研究を行うには栽培用の広いスペースが必要である。本
実験装置の設置により、まとまった栽培用のスペースが得
られ、本研究所内でイネやタバコなどの大型植物の長期的
実験が可能となった。
育成室部分は温室部分の約2分の1程の広さで、現在は
26℃に設定されており、幼植物の前培養を行っている。
なお、本装置の前室には防虫網戸が設置されており、室内
への害虫の侵入防止に役立っている。又、使用する土壌は
予め滅菌処理したもの以外は持ち込む事が出来ない。
このような実験装置はひとたび故障すると内部で育成し
ている植物が全滅する恐れがある。この為、定期的に本装
(細胞機能研究分野教授・内宮博文)
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研究紹介
新しい創薬資源を求めて:海洋微生物
生体有機化学研究分野 小林 久芳
創薬研究は、有機合成低分子化合物を中心
とした大量かつ高速スクリーニングの時代
に入り成果をあげている。一方で天然物研
究は多大な労力と時間が時代に合わず敬遠
されてきた。しかし最近、低分子化合物の
構造的単調さを補う観点から、天然物の化
学構造的多様性を再評価する声が高まって
いる。微生物は人類にとって有用な資源と
して利用され、遺伝資源としての潜在的価値、新しい機能物質
の探索源として益々期待されている。しかし、1992 年の生物多
様性条約調印により海外からの生物資源の入手は難しい状況と
なっている。日本政府は 1995 年生物多様性国家戦略を決定して
熱帯生物分野における開発途上国との協力関係を作り上げてい
るが、一方で国内における新たな微生物群の探索を行う必要に
迫られている。私は海洋微生物、特に海綿から単離できる真菌
に注目し、それら菌の代謝産物から新たなリード化合物の発見
を目指すと共に、海洋微生物群の有用性を証明するために研究
を進めている。多様な生物種が生存するサンゴ礁、マングロー
ブなどをはじめとする生態系は、人類の経済活動によって大き
筋小胞体 Ca2+-ATPase の結晶化
蛋白質解析研究分野 野村 博美
当研究室ではカルシウムポンプである筋小
胞体 Ca2+-ATPase の立体構造の解明を目的と
し、電子線− X 線結晶解析をしております。
その中で私は結晶化を担当しています。こ
の蛋白質は膜蛋白質であり、親水性部分と
疎水性部分を合わせもつことから、結晶化
が非常に困難でした。これまでには、カル
シウム非存在下で形成されるチューブ状結
晶と、高濃度カルシウム存在下で形成される三次元微結晶しかで
きておらず、電子顕微鏡にしか使えないため、アミノ酸レベルの
解析には至っていませんでした。
当研究室では、既に得られていた高濃度カルシウム存在下での
三次元微結晶を、X 線結晶解析にかかるまで成長させることに
成功しました(写真1*)。結晶化のためには、界面活性剤とリ
図1.カルシウム存在下での結晶
な影響を受けており、豊富で未解明な生物資源が消滅の危機に
さらされている。これら生態系を分析してそれを構成する生物
種と生物間相互作用、有用微生物の存在を明らかにすることは、
地球環境と生物資源の保全及び資源の持続可能な利用を実現す
るために急務となっている。
( e-mail : [email protected])
Namikoshi, M., et al. (2000) Chem. Lett., 308.
ン脂質を蛋白質に対して一定の割合になるように加え、沈殿剤
の入った溶液に透析します。結晶化において苦労した点は、脂
質の扱いで、出来具合が悪いと、蛋白質がうまく再構成されず
蛋白質が変性したようなアグリゲーションが生じたりして、サ
イズの大きく質の良い単結晶が出来ません。しかし現在では高
い確率で良質な結晶を作ることに成功しています。
現在、立体構造が高分解能で解析されているのは、カルシウム
存在下での結晶ですが、カルシウム非存在下での結晶化にも成
功しており(写真2)、これが解析されれば、イオンポンプの機
構の解明に、また大きく近づくこととなるでしょう。
当研究室で用いている結晶化の方法は独自のものであり、様々
な膜蛋白質の結晶化にも利用可能と考えられ、注目を集めてい
ます。
* Crystal structure of the calcium pump of sarcoplasmic reticulum at 2.6 Å resolution
C. Toyoshima, M. Nakasako, H. Nomura & H. Ogawa: Nature 405
: 647-655 (2000)
図2.カルシウム非存在下での結晶