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病理検査室移転に伴う作業環境の改善
◎坂井 絢 1)、久米 修二 1)、中村 光男 1)、楢﨑さやか 1)、次富 久之 1)、東谷 孝徳 1)、末岡 榮三朗 2)
佐賀大学医学部附属病院検査部 1)、佐賀大学医学部附属病院臨床医学検査講座 2)
【はじめに】ホルムアルデヒドは 2008 年 3 月
り重いため、迅速・手術臓器処理室と固定臓
に特定化学物質障害予防規則(特化則)の改
器切出し室および薬品保管室の床面近くに終
正により、特定化学物質の第 3 類物質から第
日稼働の壁面吸込口を設けた。染色装置等の
2 類物質に変更された。またキシレンは
有機溶剤を使う装置には排気ダクトを接続し
2012 年 4 月から女性労働基準規則(女性則)
た。検査室の入り口近くには組織検体提出用
の改正で取り扱い規制が強化された。しかし
の排気付き保管棚を設置した。検体処理室で
旧病理検査室は、たびたび作業環境測定で、
は細胞診検体の標本作製と用手染色用に、そ
ホルマリンの管理濃度において尚改善の余地
れぞれ専用のドラフトチャンバーを設置した。
があると判断される第 2 管理区分となり、対
検体受付・固定臓器切出し室にはダウンフロ
策を行ってきたが改善には至らなかった。今
ー式強制排気付切出し台、卓上型開放式プッ
回、病院再整備で新病理検査室の設置に伴い、
シュプル型換気装置、排気付き保管棚、排気
特化則、女性則や感染対策を重視した作業環
付き水槽・流しを設置した。迅速・手術臓器
境の改善に取り組んだので報告する。
処理室にはダウンフロー式強制排気付切出し
【レイアウト】旧病理検査室は、中央診療棟
台、卓上型開放式プッシュプル型換気装置、
2 階に位置し、検体保管・検体受付・臓器切出
局所排気装置、排気付き保管棚、安全キャビ
し・標本作製・術中迅速標本作製・廃液保管
ネットを設置した。
等の業務はすべて同一の部屋で実施していた。
【結果】給排気システムにより、換気回数は
そのためホルマリン濃度の対策や感染対策が
鏡検室が 6 回/時、他の部屋は 10~12 回/時、
不十分であった。病院再整備では、中央診療
行われるようになった。また各部屋から薬品
棟 3 階の手術部横に移転することとなり、設
保管室に向かってドア解放時に 0.1~
計に際し、新病理検査室の各部屋を作業目的
0.2m/sec の緩やかな空気の流れができた。移転
に合わせて区分けした。検査室入り口から
稼働約1か月後に、作業環境測定が実施され
①鏡検室、②標本作製等を行う検体処理室、
た。日常的に作業を行う場所のキシレン濃度
③検体受付・固定臓器切出し室、④有機溶剤、
は 0.5ppm、ホルムアルデヒド濃度は
切出し後臓器、廃液等を置く薬品保管室、
0.01ppm、さらに薬品保管室奥でも 0.04ppm と
⑤手術室に隣接した場所に迅速・手術臓器処
管理濃度を下回った。旧病理検査室より作業
理室の 5 部屋に分けた。各部屋の間にはスラ
環境の向上が確認できた。また術中迅速検査
イド式自動ドアを設けた。
時の感染対策用として安全キャビネットを使
【設備】給気は中央ダクト給気システムでオ
用することが可能となった。
ールフレッシュ空調とし、酸素クラスター除
【まとめ】新病理検査室では設計段階から作
菌脱臭装置を通して部屋内に天井から供給す
業環境の改善に取り組むことで、良好な作業
る。排気は中央ダクト排気システムで屋上に
環境を実現する事ができた。
設置された吸着剤フィルターを通して大気に
連絡先 病理検査室(0952-34-3260)
放出される。有機溶剤とホルマリンは空気よ
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当院におけるびまん性絨毛膜羊膜へモジデローシスのスコア化を用いた臨床病理学的検討
◎佐田 勇樹 1)、横井 伸子 1)、清家 奈保子 1)、園田 敏雅 1)
独立行政法人 国立病院機構 佐賀病院 1)
【目的】
【成績】
びまん性絨毛膜羊膜へモジデローシス(以下
高スコア群は低スコア群に対し、出血開始週
DCH)は、胎盤病理組織診断において、絨毛
数が早く、出血期間も長く有意差を認めた。
膜板・卵膜にへモジデリン色素が色素顆粒の
また、周産期死亡数および慢性肺疾患におい
ままびまん性に沈着または貪食細胞に取り込
ても有意差が認められた。新生児の体重にお
まれる病態のことであり、全分娩数の約 0.5%
いても高スコア群が低スコア群よりも低体重
に合併する。母体に対する合併症として死
児である傾向にあった。
産・早産が代表的であり、新生児合併症とし
【結論】
て出生体重 1,500g未満の極低出生体重児では
妊娠中期における性器出血持続症例の胎盤組
新生児慢性肺疾患(以下 CLD)や新生児遷延性肺
織において、へモジデリン沈着に対する病理
高血圧症候群の合併率が高いと言われている。
学的スコアリングを行ったところ、新生児お
今回、妊娠中期に性器出血が持続する症例に
よび母体に対する合併症において相関を認め
おける DCH の程度を組織学的に半定量化し、
た。高スコア群は CLD のリスクが高いことか
臨床病理学的に比較検討を行ったので報告す
ら、胎盤病理において高スコア群に該当する
る。
症例は新生児の厳重な管理が必要である。さ
【方法】
まざまな周産期管理に対する観点からも、特
2004 年 4 月~2014 年 3 月の 10 年間に妊娠中
に母子周産期医療センターである当院におけ
期に 1 週間以上性器出血が持続し当院で分娩
る胎盤病理検査は重要であると考えられる。
した単胎 77 例の胎盤組織を用いて HE 染色と
鉄染色(ベルリン青染色)を行った。鉄染色
≪連絡先≫
標本にて、強拡大(×400)1 視野における陽
TEL:0952-30-7141(内線 2937)
性細胞数を少なくとも 3 視野カウントし、平
e-mail:[email protected]
均値をだし、①陽性細胞個数(0 個:0 点、
1~25 個:1 点、26~50 個:2 点、51 個以上:
3 点)の 4 段階に応じて点数を設定した。また、
②染色強度についても陰性:0 点~陽性(弱陽
性:1 点、中等度陽性:2 点、強陽性:3 点)
の 4 段階に応じて点数設定を行った。①陽性
細胞個数の点数と②染色強度点数を掛け算し、
スコア化して高スコア群(3~9 点)と低スコ
ア群(0~2 点)に分け、出血開始週数、出血
の持続期間、出生体重、CLD、周産期死亡数
などとの関連について解析を行った。
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病理解剖により原発が明らかとなった原発不明癌
◎渋谷 秀徳 1)、伊東 孝通 2)、小田 義直 2)
国立大学法人 九州大学病院 1)、国立大学法人 九州大学大学院医学研究院 2)
*はじめに
*剖検病理学的組織所見 原発不明癌とは転移巣が先に見つかり悪性腫
膵臓腫瘍は中~低分化腺癌で一部未分化も見
瘍と診断されたにも関わらず、その後の精密
られた。全体の組織像は索状構造、敷石状配
検査によっても原発巣を特定できない病態で
列が主体で腺腔形成は明らかでなかった。腫
ある。病理組織検査によって悪性腫瘍の診断
瘍細胞は小型で N/C 比が高く核の多くは円形
に至るも転移巣の組織形態のみから原発病変
~楕円形であった。未分化領域は構造配列を
を推定することは容易ではなく、特に原発不
示さず、腫瘍細胞は多形性で核異型が強く大
明癌の場合は診断に苦慮することが多い。
小不同であった。肺の腫瘍は膵臓腫瘍と組織
今回我々は臨床経過中、原発巣の特定に至ら
像が類似しており肝臓、脾臓も同様の組織所
ず原発不明癌での死亡となったが、病理解剖
見であった。剖検診断:原発性浸潤性膵管癌
(以下剖検)で原発性浸潤性膵管癌が明らか
*考 察
になった症例を経験したので報告する。
原発不明癌は悪性腫瘍全体の 3~5% と意外
*症 例 55歳 男性 職業:教師
に多く、臨床的に原発不明癌と診断され,剖
死亡 3 年前より右耳孔結節を自覚。死亡 7 か
検により原発巣が明らかになるのは約半数程
月前に右耳下部痛が出現し、死亡 6 か月前に
度である。転移巣の病理組織診断は,原発巣
九州大学病院口腔外科を受診。精査の結果、
を推定する上で必要不可欠であり、腫瘍細胞
右耳下腺深部、両副腎、膵臓、骨および頚部、
は原発巣に類似した性質を継承してることが
鎖骨下、縦隔、腹腔内リンパ節に腫瘤を認め
多く免疫組織化学染色を行うことで、より高
たが原発巣は不明であった。死亡4か月前に
確率に原発巣を推定することが出来る。
右胸部腫瘤の生検施行、低分化癌と診断され
本剖検症例では病理学的肉眼所見から、肺
るも原発巣の特定には至らず原発不明癌とし
と膵臓のどちらかが原発と思われた。HE 組織
て治療開始。化学療法、放射線緩和照射を試
標本では、どれも類似の組織像を呈しており
みたが転移巣は増数増大し、2014 年 12 月死亡
病理学的組織所見のみでは鑑別が困難だった
された。 ので免疫組織化学染色を行い、Napsin-A,
死亡4か月前 病理組織診断:Carcinoma TTF-1 陰性,CK7+/CK20-の結果から最終診
*剖検肉眼所見 断を、原発性浸潤性膵管癌とした。
膵臓はやや腫大、表面は凹凸不正で、割面は
原発巣が明らかになれば、有効な治療が可
頭部~尾部まで硬い白色腫瘍に置換されてお
能となる臨床医学の観点から、原発不明癌の
り、主膵管は同定できなかった。右第 7 肋骨
剖検症例から得られる病理学的情報の集積と
に白色腫瘤、両肺表面には直径 3mmの白色結
その分析は、とても重要であることを再認識
節が多数見られ、右肺割面の黄白色腫瘍は境
した。
界明瞭であった。その他、肝臓、脾臓には白
(謝辞)血液内科:熊谷穂積、稲富亨子
色結節を、腎、副腎には黄白色腫瘍を認めた。
両先生に深謝いたします。
連絡先 092-642-6073(直通)
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腎生検における蛍光抗体法院内導入後の現状
◎竹田 真子 1)、谷口 康郎 1)、稲田 千文 1)、木田 裕子 1)、稲田 佑太朗 1)
宮崎県立宮崎病院 1)
【はじめに】当院では 2010 年より,腎生検の蛍
ルスライドシステムを利用し,複数の標本をコ
光抗体染色を院内で施行している.それにより、
ンピュータ上で同時に比較検討を行っている.
臨床側の治療方針の決定に貢献することが可能
【結果・考察】検体到着後 2 日以内に全ての染
となった.今回,院内導入の現状についてまと
色標本を病理医に提出する事で,迅速な診断確
めたので報告する.
定が可能となった.更に,院内で得られる情報
【背景】2010 年以前は、院内ではヘマトキシリ
が以前より増加した事で,患者一人ひとりに適
ン・エオジン染色(HE 染色)と特殊染色のみを
した治療法選択の架け橋となっている.また,
施行し,蛍光抗体染色を他施設へ依頼していた.
蛍光抗体染色の院内導入前と比較し,診断の精
しかし,臨床医より依頼検査の標本画像を直接
度が上昇した事から今後も需要が増えていくと
確認できないことによる診断の曖昧さが問題と
考えられる.
して提起され,蛍光抗体染色の院内導入が要望
【今後の展望】現在,凍結切片用検体とパラフ
された.
ィン切片用検体の 2 種類が提出されているが,
【手順】臨床医より未固定検体と,Dubosq-
凍結切片用の検体はパラフィン切片用検体と比
Brazil 液固定された検体が提出される.
べ,大きさも小さく含まれる糸球体数も少ない.
(1)蛍光抗体法用標本作製手順;
未固定検体によ
今後,パラフィン切片用検体での蛍光抗体染色
μm 凍結切片を作製後,自動免疫染色装置
が可能となれば,全ての染色標本において同じ
る2
(ライカ
BONDⅢ)を用い,間接抗体法を原理と
糸球体での比較検討ができると考えられる.
した蛍光抗体染色を行う.一次抗体は IgG,
【まとめ】蛍光抗体染色の院内導入は,病理医
IgA,IgM,C1q,C3c,C4c,Fibrinogen,Kappa-
の診断確定に向けての高精度な情報の提供を可
chain,lambda-chain の 9 種類を用いる.
能にすると共に,臨床医における治療方針の決
(2)光学顕微鏡用標本作製手順; Dubosq-Brazil 液固
定に貢献することができた.
定検体をパラフィン浸透及び包埋後,2 μm 5 枚
連続切片を 2 セット作製する.各セットの切片
を HE,PAS,PAM,Masson-T 染色を行う(1 枚
は予備として保存する).連続切片作製後,更
に深切りを行った切片を 1 枚作製し,HE 染色を
行う.
(3)標本完成後手順;
病理医に提出後,バーチャ
連絡先 0985-24-4181 (内線 2070)