54 病理検査室移転に伴う作業環境の改善 ◎坂井 絢 1)、久米 修二 1)、中村 光男 1)、楢﨑さやか 1)、次富 久之 1)、東谷 孝徳 1)、末岡 榮三朗 2) 佐賀大学医学部附属病院検査部 1)、佐賀大学医学部附属病院臨床医学検査講座 2) 【はじめに】ホルムアルデヒドは 2008 年 3 月 り重いため、迅速・手術臓器処理室と固定臓 に特定化学物質障害予防規則(特化則)の改 器切出し室および薬品保管室の床面近くに終 正により、特定化学物質の第 3 類物質から第 日稼働の壁面吸込口を設けた。染色装置等の 2 類物質に変更された。またキシレンは 有機溶剤を使う装置には排気ダクトを接続し 2012 年 4 月から女性労働基準規則(女性則) た。検査室の入り口近くには組織検体提出用 の改正で取り扱い規制が強化された。しかし の排気付き保管棚を設置した。検体処理室で 旧病理検査室は、たびたび作業環境測定で、 は細胞診検体の標本作製と用手染色用に、そ ホルマリンの管理濃度において尚改善の余地 れぞれ専用のドラフトチャンバーを設置した。 があると判断される第 2 管理区分となり、対 検体受付・固定臓器切出し室にはダウンフロ 策を行ってきたが改善には至らなかった。今 ー式強制排気付切出し台、卓上型開放式プッ 回、病院再整備で新病理検査室の設置に伴い、 シュプル型換気装置、排気付き保管棚、排気 特化則、女性則や感染対策を重視した作業環 付き水槽・流しを設置した。迅速・手術臓器 境の改善に取り組んだので報告する。 処理室にはダウンフロー式強制排気付切出し 【レイアウト】旧病理検査室は、中央診療棟 台、卓上型開放式プッシュプル型換気装置、 2 階に位置し、検体保管・検体受付・臓器切出 局所排気装置、排気付き保管棚、安全キャビ し・標本作製・術中迅速標本作製・廃液保管 ネットを設置した。 等の業務はすべて同一の部屋で実施していた。 【結果】給排気システムにより、換気回数は そのためホルマリン濃度の対策や感染対策が 鏡検室が 6 回/時、他の部屋は 10~12 回/時、 不十分であった。病院再整備では、中央診療 行われるようになった。また各部屋から薬品 棟 3 階の手術部横に移転することとなり、設 保管室に向かってドア解放時に 0.1~ 計に際し、新病理検査室の各部屋を作業目的 0.2m/sec の緩やかな空気の流れができた。移転 に合わせて区分けした。検査室入り口から 稼働約1か月後に、作業環境測定が実施され ①鏡検室、②標本作製等を行う検体処理室、 た。日常的に作業を行う場所のキシレン濃度 ③検体受付・固定臓器切出し室、④有機溶剤、 は 0.5ppm、ホルムアルデヒド濃度は 切出し後臓器、廃液等を置く薬品保管室、 0.01ppm、さらに薬品保管室奥でも 0.04ppm と ⑤手術室に隣接した場所に迅速・手術臓器処 管理濃度を下回った。旧病理検査室より作業 理室の 5 部屋に分けた。各部屋の間にはスラ 環境の向上が確認できた。また術中迅速検査 イド式自動ドアを設けた。 時の感染対策用として安全キャビネットを使 【設備】給気は中央ダクト給気システムでオ 用することが可能となった。 ールフレッシュ空調とし、酸素クラスター除 【まとめ】新病理検査室では設計段階から作 菌脱臭装置を通して部屋内に天井から供給す 業環境の改善に取り組むことで、良好な作業 る。排気は中央ダクト排気システムで屋上に 環境を実現する事ができた。 設置された吸着剤フィルターを通して大気に 連絡先 病理検査室(0952-34-3260) 放出される。有機溶剤とホルマリンは空気よ 55 当院におけるびまん性絨毛膜羊膜へモジデローシスのスコア化を用いた臨床病理学的検討 ◎佐田 勇樹 1)、横井 伸子 1)、清家 奈保子 1)、園田 敏雅 1) 独立行政法人 国立病院機構 佐賀病院 1) 【目的】 【成績】 びまん性絨毛膜羊膜へモジデローシス(以下 高スコア群は低スコア群に対し、出血開始週 DCH)は、胎盤病理組織診断において、絨毛 数が早く、出血期間も長く有意差を認めた。 膜板・卵膜にへモジデリン色素が色素顆粒の また、周産期死亡数および慢性肺疾患におい ままびまん性に沈着または貪食細胞に取り込 ても有意差が認められた。新生児の体重にお まれる病態のことであり、全分娩数の約 0.5% いても高スコア群が低スコア群よりも低体重 に合併する。母体に対する合併症として死 児である傾向にあった。 産・早産が代表的であり、新生児合併症とし 【結論】 て出生体重 1,500g未満の極低出生体重児では 妊娠中期における性器出血持続症例の胎盤組 新生児慢性肺疾患(以下 CLD)や新生児遷延性肺 織において、へモジデリン沈着に対する病理 高血圧症候群の合併率が高いと言われている。 学的スコアリングを行ったところ、新生児お 今回、妊娠中期に性器出血が持続する症例に よび母体に対する合併症において相関を認め おける DCH の程度を組織学的に半定量化し、 た。高スコア群は CLD のリスクが高いことか 臨床病理学的に比較検討を行ったので報告す ら、胎盤病理において高スコア群に該当する る。 症例は新生児の厳重な管理が必要である。さ 【方法】 まざまな周産期管理に対する観点からも、特 2004 年 4 月~2014 年 3 月の 10 年間に妊娠中 に母子周産期医療センターである当院におけ 期に 1 週間以上性器出血が持続し当院で分娩 る胎盤病理検査は重要であると考えられる。 した単胎 77 例の胎盤組織を用いて HE 染色と 鉄染色(ベルリン青染色)を行った。鉄染色 ≪連絡先≫ 標本にて、強拡大(×400)1 視野における陽 TEL:0952-30-7141(内線 2937) 性細胞数を少なくとも 3 視野カウントし、平 e-mail:[email protected] 均値をだし、①陽性細胞個数(0 個:0 点、 1~25 個:1 点、26~50 個:2 点、51 個以上: 3 点)の 4 段階に応じて点数を設定した。また、 ②染色強度についても陰性:0 点~陽性(弱陽 性:1 点、中等度陽性:2 点、強陽性:3 点) の 4 段階に応じて点数設定を行った。①陽性 細胞個数の点数と②染色強度点数を掛け算し、 スコア化して高スコア群(3~9 点)と低スコ ア群(0~2 点)に分け、出血開始週数、出血 の持続期間、出生体重、CLD、周産期死亡数 などとの関連について解析を行った。 56 病理解剖により原発が明らかとなった原発不明癌 ◎渋谷 秀徳 1)、伊東 孝通 2)、小田 義直 2) 国立大学法人 九州大学病院 1)、国立大学法人 九州大学大学院医学研究院 2) *はじめに *剖検病理学的組織所見 原発不明癌とは転移巣が先に見つかり悪性腫 膵臓腫瘍は中~低分化腺癌で一部未分化も見 瘍と診断されたにも関わらず、その後の精密 られた。全体の組織像は索状構造、敷石状配 検査によっても原発巣を特定できない病態で 列が主体で腺腔形成は明らかでなかった。腫 ある。病理組織検査によって悪性腫瘍の診断 瘍細胞は小型で N/C 比が高く核の多くは円形 に至るも転移巣の組織形態のみから原発病変 ~楕円形であった。未分化領域は構造配列を を推定することは容易ではなく、特に原発不 示さず、腫瘍細胞は多形性で核異型が強く大 明癌の場合は診断に苦慮することが多い。 小不同であった。肺の腫瘍は膵臓腫瘍と組織 今回我々は臨床経過中、原発巣の特定に至ら 像が類似しており肝臓、脾臓も同様の組織所 ず原発不明癌での死亡となったが、病理解剖 見であった。剖検診断:原発性浸潤性膵管癌 (以下剖検)で原発性浸潤性膵管癌が明らか *考 察 になった症例を経験したので報告する。 原発不明癌は悪性腫瘍全体の 3~5% と意外 *症 例 55歳 男性 職業:教師 に多く、臨床的に原発不明癌と診断され,剖 死亡 3 年前より右耳孔結節を自覚。死亡 7 か 検により原発巣が明らかになるのは約半数程 月前に右耳下部痛が出現し、死亡 6 か月前に 度である。転移巣の病理組織診断は,原発巣 九州大学病院口腔外科を受診。精査の結果、 を推定する上で必要不可欠であり、腫瘍細胞 右耳下腺深部、両副腎、膵臓、骨および頚部、 は原発巣に類似した性質を継承してることが 鎖骨下、縦隔、腹腔内リンパ節に腫瘤を認め 多く免疫組織化学染色を行うことで、より高 たが原発巣は不明であった。死亡4か月前に 確率に原発巣を推定することが出来る。 右胸部腫瘤の生検施行、低分化癌と診断され 本剖検症例では病理学的肉眼所見から、肺 るも原発巣の特定には至らず原発不明癌とし と膵臓のどちらかが原発と思われた。HE 組織 て治療開始。化学療法、放射線緩和照射を試 標本では、どれも類似の組織像を呈しており みたが転移巣は増数増大し、2014 年 12 月死亡 病理学的組織所見のみでは鑑別が困難だった された。 ので免疫組織化学染色を行い、Napsin-A, 死亡4か月前 病理組織診断:Carcinoma TTF-1 陰性,CK7+/CK20-の結果から最終診 *剖検肉眼所見 断を、原発性浸潤性膵管癌とした。 膵臓はやや腫大、表面は凹凸不正で、割面は 原発巣が明らかになれば、有効な治療が可 頭部~尾部まで硬い白色腫瘍に置換されてお 能となる臨床医学の観点から、原発不明癌の り、主膵管は同定できなかった。右第 7 肋骨 剖検症例から得られる病理学的情報の集積と に白色腫瘤、両肺表面には直径 3mmの白色結 その分析は、とても重要であることを再認識 節が多数見られ、右肺割面の黄白色腫瘍は境 した。 界明瞭であった。その他、肝臓、脾臓には白 (謝辞)血液内科:熊谷穂積、稲富亨子 色結節を、腎、副腎には黄白色腫瘍を認めた。 両先生に深謝いたします。 連絡先 092-642-6073(直通) 57 腎生検における蛍光抗体法院内導入後の現状 ◎竹田 真子 1)、谷口 康郎 1)、稲田 千文 1)、木田 裕子 1)、稲田 佑太朗 1) 宮崎県立宮崎病院 1) 【はじめに】当院では 2010 年より,腎生検の蛍 ルスライドシステムを利用し,複数の標本をコ 光抗体染色を院内で施行している.それにより、 ンピュータ上で同時に比較検討を行っている. 臨床側の治療方針の決定に貢献することが可能 【結果・考察】検体到着後 2 日以内に全ての染 となった.今回,院内導入の現状についてまと 色標本を病理医に提出する事で,迅速な診断確 めたので報告する. 定が可能となった.更に,院内で得られる情報 【背景】2010 年以前は、院内ではヘマトキシリ が以前より増加した事で,患者一人ひとりに適 ン・エオジン染色(HE 染色)と特殊染色のみを した治療法選択の架け橋となっている.また, 施行し,蛍光抗体染色を他施設へ依頼していた. 蛍光抗体染色の院内導入前と比較し,診断の精 しかし,臨床医より依頼検査の標本画像を直接 度が上昇した事から今後も需要が増えていくと 確認できないことによる診断の曖昧さが問題と 考えられる. して提起され,蛍光抗体染色の院内導入が要望 【今後の展望】現在,凍結切片用検体とパラフ された. ィン切片用検体の 2 種類が提出されているが, 【手順】臨床医より未固定検体と,Dubosq- 凍結切片用の検体はパラフィン切片用検体と比 Brazil 液固定された検体が提出される. べ,大きさも小さく含まれる糸球体数も少ない. (1)蛍光抗体法用標本作製手順; 未固定検体によ 今後,パラフィン切片用検体での蛍光抗体染色 μm 凍結切片を作製後,自動免疫染色装置 が可能となれば,全ての染色標本において同じ る2 (ライカ BONDⅢ)を用い,間接抗体法を原理と 糸球体での比較検討ができると考えられる. した蛍光抗体染色を行う.一次抗体は IgG, 【まとめ】蛍光抗体染色の院内導入は,病理医 IgA,IgM,C1q,C3c,C4c,Fibrinogen,Kappa- の診断確定に向けての高精度な情報の提供を可 chain,lambda-chain の 9 種類を用いる. 能にすると共に,臨床医における治療方針の決 (2)光学顕微鏡用標本作製手順; Dubosq-Brazil 液固 定に貢献することができた. 定検体をパラフィン浸透及び包埋後,2 μm 5 枚 連続切片を 2 セット作製する.各セットの切片 を HE,PAS,PAM,Masson-T 染色を行う(1 枚 は予備として保存する).連続切片作製後,更 に深切りを行った切片を 1 枚作製し,HE 染色を 行う. (3)標本完成後手順; 病理医に提出後,バーチャ 連絡先 0985-24-4181 (内線 2070)
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