核燃料の燃焼 千葉 豪 核燃料の燃焼の重要性 ・原子炉の核燃料は、核分裂反応によりエネルギーを発 生する。 ・原子炉物理では、核分裂や中性子の吸収などにより、 核燃料の組成が変化していく過程を「燃焼」と呼ぶ。 ・原子炉の特性は、核燃料の組成に依存する。従って、 燃焼に伴って原子炉の特性は変化する。 ・原子炉の運転可能期間の予測、運転期間を通じた原 子炉の振る舞いの正確な予測の観点から、燃焼の解析 は極めて重要である。 UO2燃料の組成(重量比) これを燃やすと、、、 UO2燃料の燃焼前後の組成 燃焼前 燃焼後 こうはなりません。 重核種(アクチニド核種) 中性子数 142 143 144 145 146 147 148 149 150 96 Cm-242 Cm-243 Cm-244 Cm-245 Cm-246 95 Am-241 Am-242 Am-243 Am-244 94 Pu-238 Pu-239 Pu-240 Pu-241 Pu-242 93 Np-237 Np-238 Np-239 92 U-234 陽子数 U-235 U-236 U-237 U-238 U-239 UO2燃料の燃焼に伴う組成変化 重核種の一群核分裂断面積(熱中性子炉) 縦軸が対数表示であることに注意 重核種の一群核分裂断面積(熱中性子炉) U-235、Pu-239、-241よりも断面積が大きい核種もある。 U-238からのPu同位体の生成 原子番号 (n,γ) 241Am 95 239Pu 94 2.35d 238U (n,γ) 23.5m β 239U 240Pu β- (n,γ) 241Pu (n,γ) β- 239Np 93 92 (n,γ) 14.4y β- 240Np (n,γ) 14.1h 240U β- は核分裂性物質 それ自身は核分裂性物質ではないが、中性子の吸収により 核分裂性物質に変換する核種を「親核種」fertileと呼ぶ。 UO2燃料における核分裂への核種毎寄与割合 UO2燃料の燃焼前後の組成(重量比) 燃焼前 燃焼後 生成されたPu-239と-241を核燃料として再利用: → 熱中性子炉に使う場合はプルサーマル → UO2とPuO2の混合燃料:Mixed-oxide(MOX)燃料 UO2燃料の燃焼前後の組成(重量比) 燃焼前 燃焼後 残ったU-238を燃料として再利用し、Pu-239に転換して 燃焼させることにより、核燃料の利用率は大幅に上昇 → 核燃料サイクル UO2燃料の燃焼前後の組成(重量比) 燃焼前 燃焼後 ただし、原子炉で使用したウランは、もともとはU-235、-238(と僅かな U-234)だけだったものと比べて、U-232、-234が含まれる(回収ウラ ン)ため、燃料の線量率が上昇し、特別な取扱いが必要となる。 (回収ウランの濃縮度は1.5%程度。海外からの燃料には回収ウランを含んだものもあり) MOX燃料の燃焼前後の組成(重量比) 燃焼前 燃焼後 MOX燃料の燃焼に伴う組成変化 UO2燃料とMOX燃料の燃焼に伴う組成変化 UO2燃料 MOX燃料 MOX燃料における核分裂への核種毎寄与割合 MOX燃料における核分裂への核種毎寄与割合 UO2 MOX UO2燃料では核分裂を担うU-235が時間とともに 減損していくが、MOX燃料ではPu-239の減損は それほどでもない。それはなぜか? (これまでの解説で分かる筈) 燃料の燃焼に伴う物理現象 問:下の括弧内に「正」「負」をあてはめよ (1)核分裂性核種の減少 ・核分裂連鎖反応に対して( )の効果 (2)親核種から核分裂性核種への転換 ・核分裂連鎖反応に対して( )の効果 (3)核分裂生成物の発生 ・核分裂生成物は中性子の吸収物質であるため、核分 裂連鎖反応に対して( )の効果 上記(1)~(3)を合計すると、軽水炉において、燃焼は、 核分裂連鎖反応に対して( )の効果となる 燃料の燃焼に伴う無限増倍率の変動 Refective B.C. 燃料ピンセルモデル 燃料の燃焼に伴う無限増倍率の変動 燃焼直後に無限増倍率が 減少するのはなぜ? Xe-135の蓄積 核分裂 で発生 核分裂 で発生 核分裂で (ちょっと)発生 (n,g) Te-135 Xe-135 I-135 β崩壊 19.0s Xe-136 β崩壊 6.58h β崩壊 9.14h Cs-135 I-135が半減期約7時間で崩壊し、Xe-135が生成される。 断面積の比較(JENDL-4.0) Xe-135は熱中性子領域で中性子吸収断面積が大 Xe-135の蓄積 核分裂 で発生 核分裂 で発生 核分裂で (ちょっと)発生 (n,g) Te-135 Xe-135 I-135 β崩壊 19.0s Xe-136 β崩壊 6.58h β崩壊 9.14h Cs-135 I-135は[核分裂による生成]と[半減期6.58hでの崩壊]が 釣り合って、Xe-135は[I-135からの生成]と[強い中性子吸 収による消滅]が釣り合って、それぞれ原子炉の運転中は 平衡状態にあると考えてよい。 燃料の燃焼に伴う無限増倍率の変動 燃焼直後に無限増倍率が 減少するのはなぜ? →I-135の崩壊によって生成 するXe-135の吸収による 燃料の燃焼に伴う無限増倍率の変動 燃焼直後に無限増倍率が 減少するのはなぜ? →I-135の崩壊によって生成 するXe-135の吸収による →では、原子炉を止めたら Xe-135はどうなるでしょう? Xe-135濃度の時間変動 Xe-135濃度 原子炉起動 運転停止 時間t Xe-135濃度の時間変動を考えよう。 中性子増倍率の時間変動 中性子増倍率 原子炉起動 運転停止 時間t 次は、中性子増倍率の時間変動を考えよう。 原子炉停止直後の中性子増倍率の変動 いったん下がって、 また上がる。 原子炉停止直後の中性子増倍率の変動 0日の時点で臨界の原子炉を 停止した場合に、再び原子炉 を臨界にするために必要な正 の反応度 原子炉停止直後の中性子増倍率の変動 0日の時点で臨界の原子炉を 停止した場合に、再び原子炉 を臨界にするために必要な正 の反応度 実際のPWRでは最大0.025程 度の負の反応度が入る。実効 増倍率は一か月あたり0.01程 度低下するため、寿命末期の 二か月程度は再起動不能時 間が発生する。 Xe-135蓄積の影響(補足) - 中性子束レベル(=原子炉出力)が大きくなっ た場合、Xe-135蓄積の影響は大きくなるか、 小さくなるか? - 高速中性子炉ではXe-135蓄積の影響は大き くなるか、小さくなるか? 断面積の比較(JENDL-4.0) 高速中性子領域ではXe-135の中性子吸収断面積は小さい Sm-149の毒物効果 Sm-149も大きい熱中性子断面積を持つが、 Xe-135と比べて二桁程度小さい Sm-149の毒物効果 核分裂で発生 (n,g) Pr-149 Pm-149 β崩壊 2.26m Sm-150 Sm-149 β崩壊 2.21d - Sm-149はXe-135と比べて熱中性子断面積が二桁 程度小さい - Sm-149自体は崩壊しない:停止後、減衰しない - 親核種のPm-149の半減期が比較的長い(2.21日) → 影響は時間的に比較的ゆっくり Sm-149に起因する原子炉停止後の反応度効果は? 原子炉停止後の核種別反応度効果(UO2燃料、45GWd/t) ・Np-239の崩壊(半減期2.35日)によるPu-239の生成 ・Pu-241の崩壊(半減期14.4年)とそれに伴うAm-241の生成 原子炉停止後の核種別反応度効果(UO2燃料、45GWd/t) ・Pm-148mの崩壊(半減期4.3日) ・Pm-147の崩壊(半減期2.6年)とそれに伴うSm-147の生成 Burnable poisonによる反応度制御 臨界を維持するためには、この「余 計な」反応度を抑制する必要あり →多数の制御棒が必要となる Burnable poisonによる反応度制御 臨界を維持するためには、この「余 計な」反応度を抑制する必要あり →多数の制御棒が必要となる →Burnable poisonの導入 Burnable poisonの例:Gd 中性子捕獲断面積(JENDL-4.0) Burnable poisonの適用例:炉工OB高田君の研究 • 空孔にPuO2粉末を装填した混合燃料が提案されている。 • 彼の研究ではこのPuO2粉末を可燃性毒物に代えたものとして 可燃性毒物入り燃料棒を提案した。 METMET fuel with higher open porosity BP Powder Pores 可燃性毒物: ガドリニア(Gd2O3)、炭化ホウ素(B4C)、酸化エルビア(Er2O3) Burnable poisonの適用例:炉工OB高田君の研究 可燃性毒物の集合体内配置 可燃性毒物棒 制御棒・計測装置用のガイド管 16本 24本 36本 52本 Burnable poisonの適用例:炉工OB高田君の研究 ガドリニアの場合: Burnable poisonの適用例:炉工OB高田君の研究 炭化ホウ素の場合: 反応度抑制能力は高いが、B-10の(n,α)反応によりHeが生成し、被覆管の内圧を 高めてしまうため、装荷可能量は非常に小さくなってしまう。 Burnable poisonの適用例:炉工OB高田君の研究 酸化エルビアの場合 残りは補足資料 原子炉の燃焼計算 [1] ある時点での原子炉内の巨視的断面積を計算 (Σ=Nσ) [2] ある時点での原子炉内の中性子束分布を計算(例: 拡散方程式) [3] 原子炉出力から中性子束の絶対値を計算 [4] 燃料を構成する核種の反応率(核分裂、吸収など)を 計算 [5] ある時間経過後における核種の原子数密度を計算 →[1]へ戻る 原子炉の燃焼計算 [1] ある時点での原子炉内の巨視的断面積を 計算(Σ=Nσ) [2] ある時点での原子炉内の中性子束分布を 計算(例:拡散方程式) [3] 原子炉出力から中性子束の絶対値を計算 [4] 燃料を構成する核種の反応率(核分裂、吸 収など)を計算 [5] ある時間経過後における核種の原子数密 度を計算 →[1]へ戻る
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