オープン・アクセスと機関リポジトリ 日本大学文理学部 小山憲司 [email protected] DRF地域ワークショップ(DRF-Kagawa) @情報通信交流館e-とぴあ・かがわ 2013年2月1日 2 目次 • オープン・アクセスとは • オープン・アクセスの実現方法 • オープン・アクセスの背景と最近の動向 • 研究成果の発信にかかる課題 • 機関リポジトリとオープン・アクセス 3 オープン・アクセスとは • Budapest Open Access Initiative(BOAI、2002)の定義 査読された雑誌論文で、広くインターネット上で、無料で利用 でき、(中略)すべての利用者に閲覧、ダウンロード、コピー、 配布、印刷、検索、リンク、索引化のためのクロール、ソフト ウェアへのデータの取り込み、その他合法的な目的での利 用を、財政的、法的、技術的障壁なしに許可する (出典:倉田敬子著『学術情報流通とオープンアクセス』勁草書房,2007. p.146.) 4 オープン・アクセスの実現方法(BOAI) Ⅰ.セルフ・アーカイビング(グリーン・ロード) • 著者自身のウェブサイトでの公開 • イープリント・アーカイブ(プレプリントサーバ): arXive • 政府主導(中央集権型)分野別アーカイブ: PubMed Centralなど • 機関リポジトリ(Institutional Repository:IR) Ⅱ.オープンアクセス・ジャーナル(ゴールド・ロード) • 完全無料型 • 著者支払い・読者無料型 • ハイブリッド型 • 一定期間後無料公開型 • 電子版のみ無料公開型 (出典:倉田敬子著『学術情報流通とオープンアクセス』勁草書房,2007. p.164-178. ; 三根慎二「オープンアクセスジャーナルの現状」 『大学図書館研究』No.80, 2007. p.54-64) 5 オープン・アクセスと機関リポジトリ 投稿 生産者 (発信者、著者) 掲載料 オープン・アクセス ジャーナル 主題リポジトリなど セルフ・アーカイブ 消費者(利用者) 図書館 機関購読 セルフ・アーカイブ 研究者 出版社 機関リポジトリ 6 オープン・アクセスの背景 • 研究成果としての学術論文を、生産者(発信者、著者)でもあ り、消費者(利用者)でもある研究者自身が利用できないとい う現実 = シリアルズ・クライシス • オープン・アクセス運動 • 誰もが学術研究成果に経済的な障壁なくアクセスし、利用できることを 目指したもの • cf. SPARCの活動 • 商業出版社に対抗した、代替誌の発行 • 機関リポジトリ、オープン・アクセスへ軸足を移す 7 オープン・アクセスの背景 • シリアルズ・クライシス • 雑誌価格の高騰、図書館資料費の減少など=購読タイトル数の減少 投稿 個人購読 機関購読 研究者 図書館 出版社 8 研究者の論文の入手先(個人購読、機関購読) 100% 90% 15.2% 16.9% 10.7% 17.8% 15.4% 80% 70% 24.8% 30.1% 53.8% 60% 43.6% 62.0% 50% 40% 30% 60.0% その他 機関購読 個人購読 53.0% 20% 35.5% 38.6% 22.6% 10% 0% 1977 1984 1993 2000-2003 2005 (出典:Tenopir, Carol and King, Donald W. “Electronic journals and changes in scholarly article seeking and reading patterns,” D-Lib Magazine, 14(11-12), 2008. doi:10.1045/november2008-tenopir.) 9 雑誌受入タイトル数の変化 20,000 18,000 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 (出典: 学術情報基盤実態調査の各年度をもとに作成) 国立大学 私立大学 10 雑誌受入タイトル数の変化 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 (出典: 学術情報基盤実態調査の各年度をもとに作成) 国立大学(紙) 国立大学(EJ) 私立大学(紙) 私立大学(EJ) 11 電子ジャーナル登場後のコスト・モデル 電子ジャーナル (の急速な普及) ビッグ・ディール コンソーシアム 契約 購読モデル Article Processing Charge (APC) 著者支払 モデル 12 大学図書館予算の厳しい状況 国立大学(8学部以上)の資料費 私立大学(8学部以上)の資料費 800,000 800,000 700,000 700,000 600,000 600,000 500,000 500,000 400,000 400,000 300,000 300,000 200,000 200,000 100,000 100,000 0 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 その他 電子ジャーナル (出典: 学術情報基盤実態調査の各年度をもとに作成) 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 その他 電子ジャーナル 13 著者支払モデルによるゴールドOA • ハイブリッド・モデル • OAオプション • 著者支払・読者無料モデル • OAメガジャーナルの登場 タイトル 出版社 APC PLOS ONE PLOS $1,350 Scientific Reports NPG $1,350 (US) / ¥142,500 (Japan) SpringerPlus Springer $1,080 SAGE Open SAGE $99 • 完全無料モデル • eLife(現在のところ) 14 オープン・アクセスの背景(再掲) • 研究成果としての学術論文を、生産者(発信者、著者)でもあ り、消費者(利用者)でもある研究者自身が利用できないとい う現実 = シリアルズ・クライシス • オープン・アクセス運動 • 誰もが学術研究成果に経済的な障壁なくアクセスし、利用できることを 目指したもの 厳しい状況にあるとはいえ、消費という側面からみた場合、 学術情報の利用環境は、コンソーシアムによるビッグ・ディー ル契約+オープン・アクセスによって、以前に比べて、改善し ているともいえる 15 大学によって異なる学術情報環境 国立および私立大学の電子ジャーナル所蔵タイトル数(平均) 0 5,000 10,000 15,000 国立(8学部以上) 25,000 18,804 国立(5~7学部) 8,340 国立(2~4学部) 7,474 国立(単科大学) 5,954 私立(8学部以上) 21,960 私立(5~7学部) 7,193 私立(2~4学部) 私立(単科大学) 20,000 3,099 1,046 (出典: 学術情報基盤実態調査. 大学図書館編. 平成23年度. 文部科学省) 16 OAによる論文入手の現状 ビョークほか(2009年時点) (全分野、n=1,837) 松林ほか(2005年時点) (生物医学分野、n=4,667) 8.5% 19.8% 26.6% 11.9% 0.4% 79.6% ゴールドOA 53.2% グリーンOA その他 OA 制限付きOA 購読者のみ オンライン利用不可 (出典: Bjork, B-C. et al. “Open access to the scientific journal literature: situation 2009.” PLOS ONE, 5(6), 2010. doi:10.1371/journal.pone.0011273. ; Matsubayashi, M. et al. “Status of open access in the biomedical field in 2005.” Journal of Medical Library Association, 97(1), 2009, p. 4-11. doi:10.3163/1536-5050.97.1.002) 17 研究成果の発信にかかる課題 • APCとその妥当性 • 研究者はいくら(まで)なら支払えるのか • 国や公的機関によるOAの推進 • 科学技術基本計画(第4期)(2011年8月) • 学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について (2012年7月) • 知的財産推進計画2010(2010年5月)〜 • 学位論文のインターネット公開 • 利用可能性の増加が論文利用に与える影響 18 利用可能性の増加が論文利用に与える影響 • 学術出版社によるさまざまなサービスの展開 • 研究成果(特に公的資金による)のOA義務化 • 機関リポジトリをはじめとするグリーンOAの推進 • 電子的学術情報流通の充実(情報入手環境の大幅な改善) =“電子的に入手できて当たり前” • 電子的に流通(発信)していないことのリスク • 読まれない • 引用されない • “この世に存在しない”のと同等? 19 電子ジャーナル、印刷体雑誌以外からの論文入手 方法(SCREAL2011) 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 56.0% 図書館のILLを通じて入手 出版社等のサイトで入手する (クレジットカード決済) 著者にメールで抜き刷り等の 送付を依頼する 14.9% 10.7% 70.0% 80.0% 72.0% 74.5% 74.0% 24.1% 22.7% 15.9% 7.4% 11.4% 9.1% 24.7% 27.3% 機関リポジトリや著者のサイトを 探して入手する 39.8% 42.5% 27.4% 27.4% 24.5% 24.4% 友人や知人を通じて入手する 23.8% 入手をあきらめる その他 60.0% 12.3% 1.5% 2.7% 3.9% 6.2% 24.7% 31.0% ■自然科学・教員(n=2,124) ■自然科学・院生(n=729) ■人文社会・教員(n=722) ■人文社会・院生(n=308) 20 オープン・アクセスの実現方法(BOAI)(再掲) Ⅰ.セルフ・アーカイビング(グリーン・ロード) • 著者自身のウェブサイトでの公開 • イープリント・アーカイブ(プレプリントサーバ): arXive • 政府主導(中央集権型)分野別アーカイブ: PubMed Centralなど • 機関リポジトリ(Institutional Repository:IR) Ⅱ.オープンアクセス・ジャーナル(ゴールド・ロード) • 完全無料型 • 著者支払い・読者無料型 • ハイブリッド型 • 一定期間後無料公開型 • 電子版のみ無料公開型 (出典:倉田敬子著『学術情報流通とオープンアクセス』勁草書房,2007. p.164-178. ; 三根慎二「オープンアクセスジャーナルの現状」 『大学図書館研究』No.80, 2007. p.54-64) 21 機関リポジトリとオープン・アクセス • オープン・アクセスを実現する方法は、機関リポジトリだけでは ない • 機関リポジトリは、オープン・アクセスの理念のみを実現する ものでもない • 機関リポジトリの可能性を考え、実現していくこと • そして、それを利用者に伝え、利用してもらうこと 22 機関リポジトリとは • 大学等が所属研究者等の研究成果等を収集、整理、保存し、 インターネット上に公開したデジタル・アーカイヴ • 大学等=設置主体 • 所属研究者等=教員、研究者、職員、学生… • 研究成果等=査読つき論文、査読なし論文、教材… • 収集、整理、保存、公開=図書館の得意分野? • 利用者はだれ? • コンテンツの利用者 • システムの利用者=大学等を構成する人々ほか 23 機関リポジトリの目的 • Crow(2003)による定義 ①学術コミュニケーション・システムの変革を促す装置になる • セルフ・アーカイヴによるオープン・アクセス • OAI-PMHによるメタデータの流通 • 研究成果の保存とアクセスの保証 ②大学の研究成果のショーケースになる • 研究機関としての社会的役割 (出典:Raym Crow. The Case for Institutional Repositories: A SPARC Position Paper. ARL Bimonthly Report. 2002, 223, http://works.bepress.com/ir_research/7/, (accessed 2012-12-14). ; クロウ, レイム. 機関リポジトリ擁護論 : SPARC声明書. 栗山正光訳. http://www.tokiwa.ac.jp/~mtkuri/translations/case_for_ir_jptr.html, (参照2012-12-14).) 24 機関リポジトリができること(1) 研究者の情報発信力の強化 • 本文が読める(利用可能性を高める) • 論文にたどりつくことができる(発見可能性を高める) • 論文がどのくらい(どのように)使われているのかがわかる 研究成果はもちろん、 研究者自身のプレゼンスを高める 大学のプレゼンスが高まる 25 機関リポジトリができること(2) その機関ならではの学術情報の電子化と公開 • 大学紀要、科研費報告書、貴重書など (参考)ILLログ分析にみる機関リポジトリの効果 26 NACSIS-ILLの処理件数 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 約110万件 ■複写 ■現物貸借 約76万件 27 和洋別複写処理件数 700,000 600,000 500,000 400,000 300,000 200,000 100,000 0 約67万件 ■洋雑誌 ■和雑誌 約53万件 和:約44万件 洋:約27万件 28 機関リポジトリ クリック上位20誌 タイトル 件数 タイトル 件数 1 筑波大学心理学研究 955 11 (図書) 427 2 一橋論叢 807 12 同志社法學 411 3 大阪教育大学紀要. 第4部 門, 教育科学 798 13 数理解析研究所講究録 392 14 教育実践総合センター研究紀要 374 4 國民經濟雜誌 769 15 彦根論叢 361 5 京都大学大学院教育学研 究科紀要 639 16 学部・附属学校共同研究紀要 359 6 九州大学心理学研究 511 17 大分大学教育福祉科学部研究 紀要 330 7 広島大学心理学研究 500 308 8 上越教育大学研究紀要 473 18 岩手大学教育学部附属教育実 践総合センター研究紀要 9 弘前大学教育学部紀要 429 19 同志社政策科学研究 305 428 20 千葉大学人文社会科学研究 298 10 三田商学研究 (出典:佐藤翔. 機関リポジトリが学術文献流通の中で果たしている役割:電子化プラットフォーム、Open Access、Public Access. Open Access Week Seminar. 2012.) 29 上位19誌に対するILL依頼件数 (件数) 2,500 (タイトル数) 2,052件 20 18 16 2,000 14 12 1,500 10 1,000 365件 8 6 500 4 2 0 0 30 上位10誌に対する依頼件数 500 450 400 CiNii 試験公開(2004.8) 正式公開(2005.4) 350 300 250 NDL-OPACで 雑誌記事索引DB 公開(2002.10) つくばリポジトリ 公開 (2006年3月) 筑波大学心理学研究 一橋論叢 大阪教育大学紀要. 第4部門, 教育科学 國民經濟雜誌 京都大学大学院 教育学研究科紀要 200 九州大学心理学研究 150 広島大学心理学研究 100 上越教育大学研究紀要 50 弘前大学教育学部紀要 0 三田商学研究 31 つくばリポジトリ収録の紀要に対する依頼件数 2,732件 3,000 2,500 つくばリポジトリ公開 (2006年3月) 262タイトル中、 NCIDのある238タイトル 2,000 1,408件 1,500 1,000 500 0 32 つくばリポジトリ収録の紀要に対する依頼件数 1,800 1,600 1,400 1,200 1,705件 ■登録あり ■登録なし ? 1,000 800 600 400 200 0 479件 33 機関リポジトリができること(3) 従来の学術情報(論文)以外の情報の提供による、あらたな学 術研究活動の喚起、支援 • 研究データのOA化 従来の利用者以外の利用による、あらたな学術研究活動の喚 起、支援 • 他分野の研究者 • 他研究機関(企業や医療機関など) • 市民
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