P2Pコンテンツ配信ネットワークシステムの検討および実装 - Biblio

P2P コンテンツ配信ネットワークシステムの検討および実装
Study and Implementation on P2P based Contents Delivery Network System
辻智博
Tomohiro Tsuji
金子三紀雄
Mikio Kaneko
荒川豊
Yutaka Arakawa
岡本聡
Satoru Okamoto
山中直明
Naoaki Yamanaka
慶應義塾大学理工部情報工学科
Dept. of Information and Computer Science, Faculty of Science and Technology, keio University
1
まえがき
マルチメディアコンテンツを高速に伝送するネット
ワークとして,CDN(Contents Delivery Network) が注
目されているが,HDTV(High Definition TeleVision) を
はじめとするリッチコンテンツに対するダウンロード遅
延を削減するには至っていない.そこで,P2P(Peer-toPeer) の技術を CDN に応用し,サーバのみではなくコ
ンテンツのダウンロードが終わったクライアントもダウ
ンロード先の候補とし,候補リストの中で RTT(Round
Trip Time) が最短のクライアントからコンテンツのダ
ウンロードを行うネットワークの検討および実装を行っ
た.その結果を報告する.
2
コンテンツ配信ネットワークの現状
現在,音楽配信では Apple,動画配信では YouTube,
Gyao,ニコニコ動画などのサービスが普及している.こ
れらの動画配信サービスは非常に多くのチャンネルを
持っているため,ユーザーが比較的大きなデータを伝送
する機会が増えている.現状のこのような動画コンテン
ツ配信サービスは,ほとんどの場合がストリーミングに
よるものである.しかし,ストリーミングには,
「ネット
ワーク接続がなければ映像を閲覧することができない」,
「ネットワークに大きな負荷を与える」,
「ネットワーク
回線のデータ転送スピードやコンピュータのパワーに
画質が影響される」という欠点がある.また,Youtube
のビットレートは 280kbps,Gyao は 384kbps もしくは
768kbps 程度で共に解像度も低い.一方 HDTV を見て
みると,ビットレートは 22Mbps と高く,解像度も高く
高画質高精細である.今後普及すると予想される HDTV
コンテンツはデータ量が莫大なため,多チャンネル配信
サービスを考えた場合,ネットワークに与える多大な負
荷や,画質の劣化のためストリーミングによる配信は難
しいと考えられる.そこで,本稿ではダウンロード型に
着目し,HDTV コンテンツの多チャンネル配信を検討
する.
3
ミラーサーバ自動選択型プリフェッチプロ
トコルプロキシの提案
インターネットにおける Web ドキュメントの多くは
Hyper Text Markup Language(HTML) で記述されてお
り,多くのミラーサイトからダウンロード先を選択する
場合,最適なダウンロード先が選択されない可能性があ
る.そこで複数のミラーサーバを持つ,ダウンロードに
1
5
Client
図1
Prefetch
Proxy
1
2
3
4
Server
プリフェッチプロキシシステム
膨大な時間を要するリッチコンテンツのダウンロード時
間短縮を目的とし,応答時間が最短のミラーサーバを自
動的に選択し,コンテンツをプリフェッチする手法を提
案する [1].プリフェッチとは,クライアントが以前に検
索した Web ドキュメントを処理している間に,近い将
来アクセスされる可能性のある Web ドキュメントを取
得する技術である.プリフェッチプロトコルシステムの
アルゴリズムを図 1 に示す.
1. クライアントはプリフェッチプロキシサーバを介し
て Web サーバにアクセス.
2. プリフェッチプロキシサーバは Web サーバの HTML
文書を解析しすべてのリンクを抽出.同時にすべての
リンク先の空き帯域状況,回線速度などを調べ Web
アクセス時間が最短のダウンロード先を選択.
3. プリフェッチプロキシサーバは選択された Web ア
クセス時間が最短のダウンロード先にコンテンツを
要求.
4. 要求したコンテンツをプリフェッチプロキシサーバ
のキャッシュに保存.
5. クライアントがリンクをクリックすると,Web サー
バからではなくプリフェッチプロキシサーバからダ
ウンロード.
4
P2P コンテンツ配信ネットワークシステム
の検討および実装
4.1 プロトタイプシステム
図 2 に実装を行ったプロトタイプシステムを示す.プ
ロトタイプシステムの主要素は 2 つあり,
「カテゴリー
(嗜好性)」と「ダウンロード先選択」である.本プロ
トタイプシステムでは,従来の CDN とは異なりクライ
アントとコンテンツサーバで自動的にカテゴリー(嗜好
性)のマッチングを行い,動的に最適なダウンロード先
を選択することによる,HDTV コンテンツの自動配信
が可能となっている.そのため,クライアントはローカ
ルの HDD(Hard Disc Drive) に溜まった HDTV コンテ
ンツを即時に閲覧することができる.図 2 にプロトタイ
(1)register a content
with category
Contents Server
*movie
Administrator
Client 6
*movie
*sport
(2)auto
access&&Meta
Meta
auto access
information
acquisition
information
acquisition
(3)Automatic
㽴Automatic
delivery
delivery
Client 5
*cartoon
*sport
*other
Client 1
Client 4
*news
*sport
*other
図2
Client 2
Client 3
*movie
*others
*movie
*sport
*news
*cartoon
*news
プロトタイプシステムの全体像
プシステムにおけるコンテンツ配信の様子を示す.図中
の手順 (1),(2),(3) について以下に説明する.
1. ネットワークの管理者がコンテンツサーバにカテゴ
リー(嗜好情報)と共にコンテンツを登録.図では
一例として movie となっている.
2. 各クライアントはランダムにコンテンツサーバに自
動アクセスしカテゴリーマッチングを行う.またこ
の際に,カテゴリーがマッチしたコンテンツを既に
ダウンロード済みのクライアントのリストも取得す
る.その後,リストのクライアントすべてに Ping を
送り RTT が最短のダウンロード先を選択する.こ
こで,カテゴリー情報・カテゴリーがマッチしたコ
ンテンツを既にダウンロード済みのダウンロード先
候補リストなどの情報はコンテンツサーバから XML
形式の meta データとしてクライアントに配信され
る.本プロトタイプシステムで XML の含む情報と
しては,カテゴリー情報,ファイルサイズ,アブスト
情報,コンテンツを既にダウンロード済みのダウン
ロード先候補リスト,最終 update 日時などである.
3. RTT が最短のダウンロード先からコンテンツを自動
ダウンロード.
4.2 サーバ-クライアント協調型
プロトタイプシステムではコンテンツを要求するクラ
イアント側のみによる RTT 計測でダウンロード先選択
を行っているため,P2P を導入しているにも関わらず常
に RTT が最短のダウンロード先にアクセスが集中して
しまい結果的にダウンロード遅延に影響が出てしまうと
いう問題点があった.そこで,本稿ではダウンロード先
候補の適応的絞り込みと,各候補への最大コネクション
数を制限することにより,更なる負荷分散を図ったサー
バ-クライアント協調型 P2P コンテンツ配信ネットワー
クシステムを提案する.
4.2.1 最大コネクション数制限
本提案ではダウンロード先に最大コネクション数制限
を設け,ダウンロード先のコネクション数が最大コネク
ション数を超えた後のクライアントの挙動を工夫する.
まずサーバ側の動作について説明する.サーバ側の
動作はプロトタイプ実装システムと同様であり,要求の
あったクライアントのカテゴリーと一致したコンテンツ
を既にダウンロード済みの全ダウンロード先候補リスト
をクライアントに配信する.
次にクライアント側の動作について説明する.クライ
アントは受信したダウンロード先候補リストすべての
RTT を計測し最短のものをダウンロード先として選択
する.プロトタイプ実装システムでは最大コネクション
数を越えた後に来た要求はキューイングされていたため
遅延が大きくなっていたが,提案方式では RTT が最短
の所で要求をキューイングせずに,RTT が 2 番目に短
いものを DL 先として選択しコンテンツを要求する.そ
のため,提案方式の全クライアントへのコンテンツ配信
時間の短縮が見込める.
4.2.2 ダウンロード先候補の適応的絞込み
提案方式では,クライアントに提示するダウンロード
先の重複を減らし負荷分散を図ることと,Ping の送信測
定回数及び測定時間の低減を目的とし,コンテンツサー
バ側でクライアントに与えるダウンロード先候補を絞込
む.クライアント側は,従来通り提示されたダウンロー
ド先候補の中から最も RTT が短いものを選択するだけ
で,ネットワークの負荷分散が期待でき,全クライアン
トへのコンテンツ配信時間の短縮を実現できると考えら
れる.
5
結論
本稿では多数のミラーサーバの中から自動的にアクセ
ス時間が最短のダウンロード先を選択しプリフェッチす
る手法,並びにダウンロード先候補リストの適応的絞込
みと,各候補への最大コネクション数を制限することに
より,更なる負荷分散を図ったサーバ-クライアント協調
型 P2P コンテンツ配信ネットワークシステムを提案し,
実装結果を報告した.
参考文献
[1] 辻智博, 本間潤一郎,荒川豊, 岡本聡, 山中直明, “
バースト転送を用いたミラーサーバ自動選択型プリ
フェッチプロトコルプロキシの提案,” 電子情報通信学
会技術研究報告, Vol. PN2005, No. 119, pp. 115-119,
March 2006.