小脳の学習と内部モデル(眼球運動を題材に)

小脳の学習と内部モデル(眼球運動を題材に)
川人光男
ATR
科学技術振興事業団、ERA TO 、川人学習動態脳プロジェクト
1. はじめに
脳の計算理論、もしくは計算論的神経科学は、次のように定義できる。脳の機能を、特に情報処理に
焦点を当てて理解しようとする試みである。その時、脳が解いているのと同じ問題を、脳が用いている
のと同じ原理で解くことのできる、計算機のプログラム、もしくは人工的な機械を作れる程度に脳を知
ることを目指す。これによって、従来の神経科学が陥りがちであった、単なる場所と物質に関する知識
の積み重ねからの脱皮を計っているのである。キャッチフレーズとしては、脳を作ることによって、脳
を知るのである。また脳を作れるように、脳を知るのである。
コミュニケーション、言語、意識などのヒトで著しく発達した高次認知機能が脳科学、神経科学の真
面目な研究対象になるとは15年前には予想さえできなかった。これは、主に4つの駆動力によると考
えられる。第1は実験的神経科学の急速な進歩である。脳に関する我々の知識は、場所(例えば脳のど
の部位にどのような機能が局在しているかなど)と物質(遺伝子、タンパク質など)については、多重
電極や光学システムによる神経活動の計測や、分子生物学の手法など新しい実験技術の導入によって、
目覚ましく拡大した。第2は計算論的神経科学の勃興である。場所と物質に関する知識が積み重ねられ
るほど、それだけでは脳の機能、さらにいえば情報処理の理解には単純に繋がらないことが、明らかに
なった。その結果、脳の計算原理、情報表現、アルゴリズムなどを真正面から研究する計算論的研究が
進展し、システムレベルの実験神経科学との緊密な協同研究が行われるようになった。まだ歴史は浅い
が、脳の特定の機能(視覚、運動制御)や特定の部位(小脳、大脳基底核、大脳皮質視覚野)について
は素晴らしい成果が得られた。第3は脳活動を外から、脳を傷つけずに測る手法(非侵襲計測法)の著
しい発展である。20年前には、空間的解像度のほとんどない脳波が唯一の手段であったが、脳磁計、PET
(陽電子断層撮像法)、fM RI(機能的核磁気共鳴画像法)など新しい方法が次々に開発されてきた。第
4は、心理学、認知科学、言語学、哲学などと、脳神経科学の境界が、ぼやけながら、より高次へと移
動する、研究者の心理と人気のある研究トピックスの動きである。
このように、神経科学がヒトの知性と心の問題に真正面から取り組む気運が盛り上がりつつあるが、
いまなお、それは大変困難である。最大のチャレンジは、ヒトに対しては、電気生理学の単一細胞記録
の手法や、トレーサーを用いた神経回路同定の解剖学的手法などが用いられない条件の下で、如何にし
て心と物質を繋ぐかという点にある。非侵襲脳活動計測の手法は、進歩したとはいえ、上の手法とは較
べ様もないほど、得られる情報が限られている。非常に多数のニューロンの活動を空間的、時間的に平
均化し、それが2次的にひき起こすだろうと思われる、電場、磁場、血流などの変化を間接的に観測す
るだけなのであるから。ヒトの知性に関わる、個々のニューロンが、例えば言語課題の遂行中にどのよ
うに興奮しているか、それを含む神経回路はどのようになっているか、従って1個のニューロンの情報
1
処理がどのように行われているかを観測することは、すくなくとも近い将来は不可能である。
従って、ヒト固有の高次機能の研究は、例えば視覚や運動制御など、ヒトと実験動物で共有される機
能にくらべて、著るしく困難になる。このことは次のような研究プログラムに関する思考実験を行えば、
明らかであろう。仮に、視覚や、運動制御の研究で、使える手法が、計算理論と、心理学(損傷脳の研
究を含む)と非侵襲計測の3つしかないとしよう。その結果、当然我々は、高次の視覚野、高次の運動
野の存在も、脊髄や小脳の神経回路も、これらの脳部位でのニューロンの発火パターンも、情報表現も、
情報処理も知らないことになる。この条件の下では、我々は脳のなかでどのように視覚や運動制御の情
報処理が行われているかについて、何も確からしいことは知り得ない。
言語など『ヒト固有の?』高次認知機能の解明は、この3つの手法に頼るしかないから、神経科学と
しての理解の見込みはないのであろうか。答えは、必ずしもそうとは限らない。ヒトの高次認知機能を
になう神経回路や神経計算原理そのものには、ミクロなレベルでは、サルとの不連続がないと考える。
そうすると、計算理論主導で、サルの神経生理学的研究を、ヒトを対象にした脳活動非侵襲計測研究、
認知科学、心理学、言語研究などと結びつけるアプローチが有効となる。ヒトの高次認知機能の解明は、
このような計算理論主導の方法しかあり得ないと考える。
2. 小脳の内部モデル仮説
小脳は運動制御のためにあるというのがこれまでの常識であった。ところが最近の研究は、この考え
を根底からくつがえし、ヒト小脳は高次認知機能で活動することがわかった (1)。小脳の異なる部位は、
脳、脊髄などの多様な神経部位と結びつき、この多様な結合と対応してさまざまな機能とかかわってい
る。自律神経系の調節、反射運動の適応、条件づけ、歩行運動、随意運動の実行と計画、運動の想像、
ゲームの思考、暗算、視覚や体性感覚に基づくパターン認識、メンタルローテーション、言語など実に
多種多様で、原始的な機能から、ヒト特有の知性にまで及ぶ研究が続々と報告されている。
ところが、小脳皮質の神経回路は、小脳のどの部位でも一様である――これは、大脳皮質の異なる領
野が、ニューロン(神経細胞)の種類だけでなく、層構造まで異なるのと対照的だ。小脳研究の魅力は、
そのハードウエアの一様性と機能の多様性のコントラストにあるのだ。小脳皮質のシナプス可塑性(刺
激の組合せによっておこるシナプス伝達効率の変化)も小脳内の部位によらない。小脳皮質の独特の神
経回路と可塑性や他の脳部位との結合様式から考えて、その情報処理には大脳皮質、大脳基底核、海馬
の機能とは異なる小脳に特有の何かがあるはずである。単純な運動制御から言語まで、学習によって小
脳に獲得される内部モデルが、その特有の何かだといえることを示そう。
3. 小脳皮質の神経回路
小脳は、脊椎動物の脳の一部位をさし、ヒトでは大脳皮質の後頭葉の下に半分隠れるように位置する。
ヒトでは、大脳に比べて、体積は 1/10 であるが、表面積は半分以上、さらにニューロンの数はかえっ
て多い。小脳皮質は、わずか 5 種類のニューロンから構成されている(プルキンエ細胞、顆粒細胞、ゴ
ルジ細胞、バスケット細胞、星状細胞)。
2
小脳皮質からの出力をおこな
うのは、そのうちプルキンエ細
胞に限られ、小脳核へと投射す
る。そのプルキンエ細胞には、
主に 2 種類の線維をとおしたシ
望ましい
運動
平行線維
複雑スパイク
単純スパイク
(内部モデル) (誤差信号)
登上線維
(誤差信号入力)
前向き
運動司令
ナプス入力がある(図 1)。プ
ルキンエ細胞 1 個当たり、数十
万個のシナプスを作る平行線維
プルキンエ細胞
図 1 小脳プルキンエ細胞の 2 種類の主な入力線維と
それがひきおこす異なる形のスパイク(活動電位)。
と、ただ 1 本であるが強力なシ
ナプスを作る登上線維である。
違いはシナプスの数だけではない。平行線維は、プルキンエ細胞に数百パルス/秒にまでいたる高発火
頻度の単純スパイク(スパイクとは、電気的なパルスのこと)をひきおこす。いっぽう、登上線維は、1
秒間にたかだか 1 個か 2 個しか生じない複雑スパイクをひきおこす(図 1)。
平行線維からのシナプスの伝達効率は、登上線維からの信号に依存して、可塑的に変化する。平行線
維入力と登上線維入力が同時に興奮(発火)するとそのシナプスの伝達効率は減少していくことになる
(長期減弱 (2))。いっぽう、登上線維が発火していないのに、平行線維だけが興奮するとシナプス伝達
効率は増加していく(長期増強)(第6節を参照)。この 2 種類のシナプス可塑性が対になって働くこ
とによって、登上線維入力によるプルキンエ細胞の発火は、興奮しすぎるでもなく、興奮しなさすぎる
でもない、ちょうどよい程度に保障されている。これはいいかえれば、登上線維がもし学習のための誤
差信号を表わしているなら、理論的によく知られている教師あり学習則がシナプス可塑性のしくみによ
って、実現されていることになる。つまり、プルキンエ細胞の発火が調節されて誤差を減少させること
になる(第 7 節を参照)。
小脳は、苔状線維(顆粒細胞に向かう)の起始細胞からなる層、顆粒細胞からなる層、プルキンエ細
胞からなる層の 3 層を持ち、その間に主に前向き(起始細胞→(苔状線維)→顆粒細胞→プルキンエ細
胞)の結合をもつ。この 3 層神経回路の第 2 層(中間層)を構成する顆粒細胞が 100 億個以上も存在す
ることなどに着目した最近の数学的(理論的)な研究によって、この回路でかなり広い範囲の非線形関
数が実現できることがわかる。
小脳皮質は、数千個から、数万個のマイクロゾーンと呼ばれる小さな解剖学的単位に別かれ、一つの
マイクロゾーンに、同じ性質を持つ登上線維が入力する。小脳皮質の中でも系統発生的に新しい部位に
向かう苔状線維の起始細胞は橋核にあり、その主な入力は大脳皮質から来る。新しい小脳部位からの出
力は、小脳核の一つ歯状核をとおり、視床を介して、大脳皮質に戻る。したがって、系統発生的に新し
い小脳皮質は、大脳と、入出力ともにループ回路を構成している。
大脳皮質と橋核を結ぶ大脳皮質橋線維は 2000 万、苔状線維は 2000 万、顆粒細胞は 100 億、プルキ
ンエ細胞は 2000 万、小脳核細胞は 200 万個ある。マイクロゾーンが約 5000 あるとすると、一つのマ
イクロゾーンあたり、大脳皮質橋線維が 4000 本、苔状線維が 4000 本、顆粒細胞が 1000 万個程度、
プルキンエ細胞が 4000 個、小脳核細胞が 400 個程度あることになる。出力(小脳核細胞)の数が、入
3
力(大脳皮質橋線維)の数のほぼ 1/10 であるから、小脳では情報を縮約しながら、入力を出力に変換
していることになる。
4. 内部モデル
小脳皮質が、登上線維入力を教師信号として、運動学習をおこなうとする仮説(M arr-A lb us-Ito 仮説
(3)(4)(5)
)は、1970 年前後に提案された。その後、学習によって制御対象の内部モデルが小脳皮質に獲得
されるとする計算理論が提案されたのは、1980 年代終わりころである。
ここでいう内部モデルとは、脳の外に存在するある対象の入出力特性をまねることができる脳内の神
経回路のことだと考えてほしい。われわれヒトを始めとする動物の脳の中にあるということで、内部と
いう用語を用いる。外界のある物のまねをする、シミュレーションする、エミュレーションするという
意味で、モデルという用語が使われている。
ヒトが身体を動かすとき、脳はかなり複雑な計算問題を解く必要があり、内部モデルを必要とする(6)。
ヒトの身体や環境の動特性は、生後激しく変化するので、あらかじめ内部モデルを遺伝的に決められな
い。したがって、内部モデルは、シナプス可塑性にもとづいて学習で獲得しなければならないことにな
る。内部モデルは、実際にはどのようなものなのだろうか。
内部モデルには、順モデルと逆モデルの 2 種類がある。順モデルとは、モデリングの対象となるダイ
ナミカルシステムと同じ入出力の方向性をもち、同じ入出力変換を実現するものである。例えば、腕や
眼球などの運動制御の対象は、筋肉の張力などの運動指令を受け取って運動軌道(腕や眼球の動き)を
実現するが、それと同じ入出力特性をもつモデルを身体の順モデルと呼ぶ。順モデルは実際に運動シス
テムに送られる運動指令のコピーを受け取り、実際に実現される軌道の推定をおこなう。
いっぽう、逆モデルとは、ダイナミカルシステムの入出力をひっくり返した、いわば入出力変換の逆
関数をシミュレーションするものである。身体の逆モデルは、運動軌道が入力されるとそれを実現する
ために必要な運動指令を計算する。その入出力特性は制御対象の入出力特性のちょうど逆になっている
ので、逆モデルと制御対象とを直列につなぐと恒等写像になる。このシステムに目標軌道を入力すると、
実現される軌道は目標軌道と同じになる。つまり、逆モデルはフィードバック情報を使わない前向き制
御のための理想的な制御器になっている。
過去 15 年ほどの人工的な神経回路モデルの研究で、内部モデルを定義する一見複雑な式が簡単な構造
をもつ人工的な神経回路モデルで実現されることがわかってきた。とくに、逆モデルは簡単な 3 層の前
向き神経回路で実現できる。この人工的な神経回路は、実際の小脳の神経回路に比べればずっと簡単な
構造をしているから、小脳に、われわれが考えているような逆モデルや順モデルがあっても何の不思議
もない。内部モデルの学習は、モデリングの対象が外界にあり、例えば順モデルの学習では誤差信号が
内部モデルによる推定と実際の感覚フィードバックの差として簡単に計算できるので、まさに教師あり
学習に適している。
実際に、我々が発展させた理論は、登上線維入力が外界のモデリングの対象からのフィードバック情
報に基づいた誤差信号を運んでいれば、小脳皮質に、プルキンエ細胞の可塑性に基づいて内部モデルが
獲得できることを示した(7) ∼(10)。この理論を以下の節(5、6、7)で紹介する。
4
(imp/sec)
200
(i)
単純スパイク
100
0.1
0
TIME (msec)
N =163
20
0
10
20
40
80
10
STIMULUS SPEED (deg/sec)
C
40
80
C
I
0
160
I
0.05
N =24
10
10
STIMULUS SPEED (deg/sec)
U
U
(iii)
20
20
20
40
80
160
STIMULUS SPEED (deg/sec)
U
U
C
50
TIME (msec)
49ms
N =87
10
0
160
TIME (msec)
43ms
50
40
30
20
CELLS
40m
s
100
80
60
40
CELLS
(ii)
300
CELLS
(i)
(B)
400
FIRING RATE
(A )
IC
I
発 0
0
火
確
率
100
200
複雑スパイク
5
0.01
D
D
D
背外側橋核
M ST 野
小脳皮質
顆粒 プルキンエ
細胞 細胞
(C)
大脳皮質
MT MST
上側頭溝壁
0 発
火
頻
度
(ii)
D
垂直細胞
水平細胞
V PFLプルキンエ細胞
0
苔
状
線
維
0
100
200
時間 (ミリ秒)
0ス
パ
イ
ク
数
/
秒
橋核
視覚領野
外側膝状体
視覚
刺激
平行線維
登上線維
運動指令誤差
+
-
網膜
副視索系
PT NOT
下オリーブ核
+
-
脳幹
外眼筋運動
ニューロン
眼球
運動
+
図 2A フィードバック誤差学習モデルを支持するデータ。大脳皮質 M S T 野、背外側橋核、小脳腹側傍片葉の発火の特性をそれ
ぞれ、左、中、右列に示す。(i)は、三つの脳部位の典型的なニューロンの発火頻度時間波形を示す。時間の原点は、視覚刺激
のランプ状の速度変化の開始にとってある。(ii)は、ある視覚刺激速度の範囲に最適速度をもつ細胞の数のヒストグラムであ
る。(iii)は、最適刺激方向の極座標表示である。U 、C、D 、I はそれぞれ、上方向、対側方向、下方向、同側方向を示す。小脳
腹側傍片葉のプルキンエ細胞は単純スパイク(緑線)と複雑スパイク(赤線)の最適刺激方向によって、垂直細胞と水平細胞の
二つのグループに分類される。
図 2B フィードバック誤差学習モデルを支持するデータ。上向きの追従眼球運動時の小脳腹側傍片葉のプルキンエ細胞の発火
頻度の時間波形を示す。9 個のプルキンエ細胞から加算平均された発火頻度の時間波形(黒)と、眼球の逆ダイナミクスモデル
による理論予測(赤緑)。理論はさらに、各プルキンエ細胞ごとに、単純スパイクの発火頻度の時間波形と複雑スパイクのそれ
が互いに鏡像になることを予測する。小林ら
(13)
はこれを確認して、さらに単純スパイクと複雑スパイクの両方が逆ダイナミク
スモデルで再構成できることを示した。
図 2C フィードバック誤差学習モデルを支持するデータ。追従眼球運動を制御する神経回路を示す。追従眼球運動を制御する
神経回路は二つの主要な経路にわけられる。上の大脳皮質から小脳皮質にいたる経路は、フィードバック誤差学習モデルの前向
き経路に対応する。下の経路は、系統発生的に古いフィードバック経路で副視索系を含む。これはフィードバック誤差学習モデ
ルの、フィードバック制御器に相当する。フィードバック誤差学習理論は、副視索系が運動指令の座標系を最初に決めると予測
する。この場合は前視蓋(PT)で上向き、視索核(NO T)で反対側である。この運動指令の座標系は、下オリーブ核に伝えられ、結
局複雑スパイクの方位選択性を規定することになる(図 2A (iii)右列赤線)。プルキンエ細胞のシナプス可塑性である長期減
弱と長期増強に基づいたモデルの予測から、それぞれの細胞で、単純スパイクの最適方位は複雑スパイクのそれのちょうど 180
度反対になると期待される。図 2A (iii)右列に示した赤線と緑線の関係は、この予測が正しいことを示している。
5
5. フィードバック誤差学習
先に述べたとおり、逆モデルは、目標軌道を受け取って、正しい運動指令を出力しなければならない。
もし、脳に正しい運動指令を計算する他の部位があれば、それを教師の情報として使って逆モデルを獲
得することができる。ところが、そもそも脳に正しい運動指令を計算する機構があったとすれば、それ
を使って運動制御をおこなえばよいわけで、正しい運動指令を教えてくれる教師が存在するという都合
のよい仮定はできない。
つまり、逆モデルを獲得するために脳は、運動をおこなった結果得られる運動軌道の空間での誤差を、
運動指令の空間の誤差に変換するという重大な計算論的困難を含む問題を解いていると考えざるをえな
い。フィードバック誤差学習理論は、登上線維入力が、フィードバック運動指令を伝えることによって、
そのような運動指令の誤差信号を提供していると提案した(7)(8)(10)。この仮説は、神経生理学的研究と詳
細な神経回路モデルを組み合わせて、かなりの程度まで証明された(11)∼(14)。
サルの追従眼球運動中(大きな視覚パターンを移動させるときの比較的単純な眼球の運動を調べる実
験)に、小脳腹側傍片葉のプルキンエ細胞が特徴的なスパイクの列を発生させる。そのスパイク発火頻
度変化の時間波形がフィードバック誤差学習理論の予測とよく一致した。これをはじめとして、理論の
予測を支持するデータが実にさまざまに、かつ異なる側面に関して得られた(図 2A 、図 2B、図 2C)。
図 2A 、図 2B、図 2C はフィードバック誤差学習モデルを支持するデータで、サル小脳腹側傍片葉と、
追従眼球運動に関する、生理学と解剖学データを要約する(14)。図 2A と図 2B に示されている神経生理
データは小林ら(13)、河野ら(15)、竹村ら(16)による。図 2A 、図 2B、図 2C に示したデータは全体として
フィードバック誤差学習の最も本質的な仮定、登上線維が誤差信号を運動指令の座標系で表現していて、
これに誘導されて、単純スパイクの波形が、制御対象の逆ダイナミクスモデルを構成するように、学習
で獲得されることを強く支持している。大脳皮質と橋核では、情報がポピュレーション符号化されてい
るのにたいして、小脳皮質の出力、単純スパイクは、情報をきめられた運動指令の座標系で発火頻度の
時間波形によって、発火率符号化している。山本ら
(17)(18)
はフィードバック誤差学習にもとづくシミュ
レーションによって、神経符号化の劇的な変化も含めて、図 2A 、図 2B、図 2C にまとめられているほ
ぼすべてのデータが、再現できることを示した。
単純な眼球運動について系統発生的に比較的古い小脳部位で検証されたこの理論が、腕の運動にかか
わる系統発生的に新しい小脳部位でも正しいことを示唆するデータも得られはじめている
6. シナプス可塑性とフィードバック誤差学習
。
登上線維発火 登上線維発火せず
プルキンエ細胞への平行線維入力部におけるシナプス
平行線維発火 LTD
可塑性については、次のことが知られている。 平行線
抑制性細胞発火 維が発火した際に、登上線維発火を伴うと平行線維とプ
ルキンエ細胞との間のシナプス伝達効率が長期的に減弱
する(lo ng -term d ep ression: LTD )
(19)
(20)(21)
。 また、平行
RP
LTP
変化なし
表 1 小脳皮質におけるシナプス可塑性
平行線維発火と登上線維発火の相互作用によるシ
ナプス可塑性を示す。 平行線維の発火に登上線維
の発火が伴うと LTD が生じ, 伴わなければ LTP が
線維発火が登上線維発火を伴わない場合には、シナプス
生じる。また、抑制性細胞の活動に登上線維の発
伝達効率が長期的に増強する(lo ng -term p otentiatio n:
火が伴うと RP が起きる。
6
LTP)
(22)(23)
。皮質内の抑制性介在ニューロンが発火した際に登上線維発火が伴ったとすると、reb o und
(24)(25)
p o tentiatio n (RP)という LTP 様変化が生じる
(表1)。
また、可塑性の強さは、平行線維、 登上線維の発火するタイミングによって変化することが知られて
いる。 これを、可塑性の時間窓という。田端他(26)の前庭動眼反射適応シミュレーションでは、Chen and
Tho m pso n (1995)
(27)
の LTD の時間窓の研究に基づき、平行線維が登上線維よりも 250m s 早く発火
したときに最も強く、平行線維が登上線維よりも 100m s 早く発火したときには LTD の効果がピーク時
の3分の1の強さになるように、標準偏差が 85m s のガウス分布で与えられるようにモデル化した時間
窓を用いた。なお、Yam am o to et al.(1998)
(18)
で提案された、 K aracho rt et al.(1994)
(28)
の研究を
再解釈した時間窓を用いてもシミュレーションには成功した。
Yam am o to et al. (1998)
(18)
では、これらのシナプス可塑性と時間窓に基づき、シナプス伝達効率値
を時間的に変化させる以下のような学習式を提案している。Yam am o to et al. (1998)
(18)
では、それを
用いて潜時の短い眼球反射運動である追従眼球運動(O cular Fo llo w ing Resp o nse:O FR) の学習シミュレ
ーションに成功した。
η (t ) = ∫0 PF(s) G (s − t ) ds
t
τ
(1)
dw (t )
1
1
= − w(t ) −
η (t )1(CS(t ) − CSSP ) +
η (t )1(CSSP − CS(t ))
dt
nLTD
nLTD
(2)
ただし
0 : x < 0
1( x ) = 
x : x ≥ 0
PF(t), CS(t) は時刻 t における平行線維および登上線維の発火頻度、CSSP は登上線維の自発発火頻度、
1 nLTD , 1 nLTD はそれぞれ LTD 、LTP 時の学習係数、G(t) は上述の時間窓を表現するガウス型の積分カ
ーネル、 1 τ は忘却係数である。田端他(26)では M iles and K aw ano(1986) (29)の O FR 適応実験の忘却率
に基づき Yam am o to et al.(1998) (18)で推定された τ
= 4.67 × 10 4S を用いた。(2) の式は、シナプス伝
達効率値の変化率を表す。第1項は忘却により変化した値を元に戻そうとする量、第2項は LTD (長期
抑圧)により変化する量、第3項は LTP(長期増強)により変化する量を表す。w(t) は正負を許すとす
る。学習係数は学習の時定数の逆数を示し、この数値が大きければ大きいほど伝達効率値の変化は早く
なる。田端他(26)では、サルの V O R ゲイン変化の行動実験の結果(30)を定量的に満足するように、学習シ
ミュレーション終了後に V O R ゲインが約 0.2 変化するように学習係数を決定した。しかし、厳密にこの
数値を決めるためには、生理学的及び解剖学的に定量的な解析を行う必要がある。学習係数は、実際に
はプルキンエ細胞の数や入力線維の数、結合の数や強さ、更には入力情報の大きさなどの影響を受ける。
例えば、モデル上で学習係数を半分にしたとしても、入力情報の大きさが倍になれば、シナプス伝達効
率値に及ぼす変化は結果的に同じとなる。つまり実験結果により厳密に学習係数を決定することができ
ない以上は、この数値が絶対的な意味を持つとは考えにくい。そのため田端他(26)においては、結果から
考えて最も適当と思える学習係数を選択している。 nLTD
= nLTD = 2.34 × 10 −3 とした。また、小脳皮質へ
の入力のシナプス伝達効率値の符号が負である場合、興奮性細胞よりも抑制性細胞の方が強い状態であ
7
ると考えられる。この際には、登上線維発火によりプルキンエ細胞への入力シナプスには RP が起きる。
ゆえに、上式の nLTD の代りに nRP として,
nLTD と同じ値を用いた。
7. フィードバック誤差学習の性質
教師あり学習とフィードバック誤差学習を比較する。まず、フィードバック誤差学習則は以下の通り
となる。
dω
dt = ε (∂τ ff ∂ω )T τ fb
(3)
これに比較して、教師あり学習の場合は、運動指令の教師信号が τ desired と与えられていて、2 乗誤差で
ある E
= 1 2(τ desired − τ ff )T ⋅ (τ desired − τ ff ) をωの最急降下方向に減少させる(W id ro w -Ho ff 則)ため以
下の通りとなる。
dω
(4)
dt = ε (∂τ ff ∂ω )T (τ desired − τ ff )
(3)式と(4)式を比較すると τ fb が (τ desired − τ ff ) を近似していることがわかる。つまり、フィードバック
運動指令が、逆モデルを学習するための運動指令の誤差信号として働いている。この近似に基づいてフ
ィードバック誤差学習がうまく働くための条件は以下の 2 つである。第 1 に、 τ fb と τ desired が同じ座標系
で表現されていること。第 2 に 2 つの信号の時間経過はある程度似ていることである。フィードバック
制御器が制御対象の線形近似の逆になっていると仮定すれば、これらの条件が満たされることが分かる(31)。
最近では線形の場合の学習の収束の証明も与えられている(32)。
次に、フィードバック誤差学習としてみた LTD 、LTP を詳しく調べてみよう。プルキンエ細胞の入出
力モデルは、出力発火頻度 y は n 本の平行線維入力 xi のシナプス荷重 ω i による線形和として以下の通り
になる。
y = ∑ ω i xi
(5)
dω i dt = −ε xi (C − Cspont )
(6)
LTD と LTP のモデルは前節の式を更に簡単化して以下の通りである。
n
フィードバック誤差学習による解釈では、登上線維の発火頻度の自発放電からの変化分 C − Cspont がフ
ィードバック制御器の運動指令に対応する。
dω i dt = ε (∂τ ff ∂ω i ) τ fb
= ε (∂ ( − y) ∂ω i ) τ fb
= −ε xi (C − Cspont )
(7)
つまり登上線維がフィードバック運動指令を表現しているなら LTD ・ LTP はフィードバック誤差学習を
実現していると考えられる。このような学習のもとでは、複雑スパイクと単純スパイクの時間波形の間
に鏡像関係が導かれることがわかる。
SS(t ) = ∑ wi (t ) xi (t )
n
τ d wi (t )
wi (t ) ~
{
(8)
}
dt = −ε xi (t ) CS(t ) − CSspont − wi (t )
{
−ε xi (t ) CS(t ) − CSspont
}
(9)
(10)
8
{
}
SS(t ) = −ε ∑ xi (t ) CS(t ) − CSspont xi (t )
n
{
~ −δ CS(t ) − CSspont
}
(11)
その相関をまとめると以下の表 2 の通りである。
フィードバック
学習後
鏡像
フィードバック
学習前
相関なし
表 2
フィードフォワード 時間遅れ、学習後
複雑スパイク 運動開始時
フィードフォワード 時間遅れなし、学習後
複雑スパイク 消失
8. 小脳の高次認知機能
小脳の高次認知機能への関与
I.脳活動計測
(1) 運動の想像
(2) 名詞からの動詞の連想
(3) ペグボードパズル fM RI
(4) 複数の形の視覚識別
(5) 心的回転
(6) 皮膚感覚による物体認識 fM RI
(7) 視覚的注意 fM RI
小脳の系統発生的に新しい部位は、
運動制御ではなく、運動の想像、計画、
あるいは運動と直接の関係のない高次
S PECT Ryd ing et al.(1993)
PET Raichle et al.(1994)
K im et al.(1994)
PET Parso ns et al.(1995)
PET Parso ns et al.(1995)
G ao et al.(Bo w er) (1996)
A llen et al.(1997)
認知機能、例えば、パターン認識、心
的操作、視覚的注意、視覚運動認知、
自閉症、言語、暗算、思考などとかか
わることがわかってきた (33)∼ (44)。代
的な研究を表 3 にまとめた。その中
II.臨床
でも、とくに言語とヒト知性にかかわ
(1) ハノイの塔 小脳皮質変性症
G rafm an et al.(H allet M .) (1992)
(2) 視覚運動認知 小脳皮質変性症
Naw ro t & Rizzo (1995)
(3) 自閉症患者 小脳サイズ
Co urchesne et al.(1995)
る三つの研究だけを簡単に紹介しよう。
III.解剖
想するときに、ともに言語中枢だとい
(1) 46野
HSV I
(2) IQ 小脳サイズ
M id d leto n & S trick (1994)
Parad iso et al.(1997)
Raichle ら(34)は、名詞から動詞を連
われてきた大脳皮質のブローカ野とウ
ェルニッケ野と同等かそれ以上に右小
表 3 ヒト小脳が高次認知機能に重要な役割を果たすことを示す
非侵襲脳活動計測、損傷脳、と解剖学的研究のまとめ。
脳半球が活動することを PET(陽電子
放射断層撮影)計測でみいだした。被
験者に与えられた課題は、1.5 秒に 1 個の割合で、誰でも知っているような英語の名詞を視覚的に呈示
されたら、それに対応する適切な動詞をしゃべるというものであった。例えば“ハンマー”という語を
視覚的に呈示されたら、“たたく”と答えるのである。差分画像(目的の課題とコントロールとの脳活
動の差を計算する)を作るためのコントロール状態の課題は、みた名詞の復唱であった。
この結果は、コントロール課題で活動する小脳の両側傍虫部は発話運動制御にかかわっているが、右
小脳半球は単語の選択という言語課題で活動することを示した。
小脳半球が言語学習にかかわっていることも、関連しておこなわれたつぎのような実験によって示さ
れた。上で述べた最初の計測が終わった後、40 個の名詞から成るリストを 15 分間学習し再度同様の計
測をおこなうと小脳半球の活動がみられなくなる。しかし、新しいリストに切り替え計測をおこなうと、
9
また強い活動がみられるようになる。この結果をどう解釈したらよいのだろう。
PET や fM RI(機能的磁気共鳴映像法)は、ニューロン活動に伴う血流の増加をみている。登上線維入
力による複雑スパイクは平行線維入力による単純スパイクの 100 から 1000 倍の代謝を必要とするので、
学習中の PET 計測は誤差信号である登上線維入力を主に観察していると考えられる。我々のフィードバ
ック誤差学習理論にもとづくこの解釈を支持する結果は、後で紹介する今水ら(35)の研究からも示される。
マカクサルを用いた生理学的な実験で、小脳が作業記憶や言語機能と関係していることが示されてい
る。例えば、小脳にある歯状核の腹外側部が、空間的作業記憶に役立っている大脳皮質 46 野に視床を介
して出力を送っている
(42)
。いっぽう、歯状核の背内側部は第一次運動野へ、歯状核の中間部はヒトのブ
(43)
。
ローカ野と相同であると考えられている腹側運動前野に出力を送っている
被験者 62 人の小脳の体積と種々の能力の相関を調べた研究もある
(44)
。人差し指でできるだけ多数回
鍵をたたく能力(相関係数 r =0.2、 有意確率 p < 0.05)、言語的記憶能力(r =0.3、 p < 0.02)、一般的知
能指数(r =0.2、 p < 0.07)と正の相関があった。それに対して大脳皮質左側頭葉の体積は調べられたど
のテストとも有意な相関はなかった。小脳の体積は M RI
(磁気共鳴映像法)の画像から自動的に決められ、
脳全体の大きさの影響を打ち消すために、脳全体から小脳を差し引いた体積も説明変数の一つに加えら
れた。
9 . 道具の内部モデルの学習
上でも述べたとおり、小脳は実に広範囲な認知活動に役立っているが、一見無関係とも思える多くの
機能を説明する統一的な計算理論はあるのだろうか。
今水ら(35)は、fM RI 法を用いて、ヒト小脳の系統発生的に比較的新しい場所に、道具の内部モデルが、誤
差に誘導される教師あり学習で獲得されることを明らかにした。これによって、小脳内部モデル仮説が、
運動制御から、ヒト特有の高次認知機能に拡張できることが示唆された。さらに小脳皮質の神経回路構
造と、シナプス可塑性は一様であることも考えあわせれば、小脳の系統発生的に新しい部位も、外界の
さまざまな対象の内部モデルを学習で獲得していると考えられる。そしてこの場合の外界の対象は、運
動制御対象ではなく、例えば道具や、脳の他の部位、他者の脳である。この三つの例では、小脳の機能
は、道具使用、思考、コミュニケーションとなる。
今水ら (35)は、ヒト被験者が、新しい道具の使用を学習している最中と、学習が終わった後の小脳の活
動を fM RI 計測で調べた。ふつうのコンピュータマウスに細工をして、うまく使えるようになるのに 2、
3 時間かかるような回転マウスと積分マウスを作った。回転マウスでは、マウスの動きと、コンピュー
タ画面上のカーソルの動きの間に 120 度の回転変換が入っている。積分マウスでは、マウスの位置が、
カーソルの速度を規定する。
10
C
被験者7人の平均
25
テスト
20
N.S.
15
P < .005
10
5
ベースライン
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11
トレーング
セッション数
B
画面上の追跡誤差
画面上の追跡誤差
A
25
20
15
10
5
0
テスト ベースライン
(誤差を統制)
D
3
5
7
>8
t値
図 3 新しい道具使用の学習に伴う、追跡誤差の減少(A )と、それに伴う小脳活動の変化(B)。(C )(D )の実験
では、回転マウスと通常のマウスで追跡誤差が同じになるように(C)、標的の速度が実験的に調節されている。
課題は、画面上でランダムに 2 次元的な動き(数個の正弦波の重ね合わせでつくりだした動き)をする
標的を、上記の特殊なマウスを操作し、カーソルを動かして、追跡することである。したがって課題の
誤差つまり追跡誤差は、標的とカーソルの距離の時間平均とする。は、11 回のトレーニングセッション
での追跡誤差と図 3A 、奇数回目のセッションで計測された小脳活動図 3B を並べて示している。7 人の
被験者から得られたデータが平均されている。
図 3A で白丸で示したテストは、回転マウスを使った課題である。いっぽう黒丸で示したベースラインは、
細工をしない通常マウスを使った課題である。通常マウスについては誤差がセッション数とともに変化
しないが、回転マウスでは誤差が訓練とともに減少し、11 セッションめではほぼ定常状態に達している
ことがわかる。
図 3B の fM RI 信号は、テストでベースラインより有意に活動が高い場所を統計的検定の有意さ(t 値)
で示してある。学習のはじめには、広い範囲で活動がみられたが、学習の終わりには小さな場所にだけ
活動が残っている。
運動課題や認知課題の学習に伴って小脳の活動が顕著に減少することは、過去の非侵襲脳活動計測でも
観測されていた。これらのデータをもとに、小脳は学習の初期には重要であるが、学習が完了したとき
には記憶の痕跡は(つまり内部モデルも)小脳にはないという解釈がしばしばなされてきた。しかし、
図 3C と D に示すデータは、この考え方を否定した。
11
図 3C と D に示した実験では、ベース
1.0
0.8
250
0.6
200
0.4
150
0.2
100
0.0
50
0
1
3
5
7
9 11
トレーングセッション数
ライン条件で、標的の速度を増加させ、
ベースラインからの
追跡誤差上昇率(%)
ベースラインからの
MR信号上昇率(%)
A
テストとベースラインでの追跡誤差を等
しくした。この条件では、視覚刺激速度、
運動の大きさ、注意、努力などすべての
要因がベースライン条件のほうが大きい。
それにもかかわらず、テスト条件の方で
誤差の
統制実験
小脳活動が大きい部位が図 3)のように
B
みつかったのである。したがってテスト
条件でより大きくなる小脳の活動は、新
しい道具の使用法の記憶、さらにいえば、
回転マウスの内部モデル以外として解釈
することはできない。
C
学習の最初に広く活動する部位(図 4B
250
0.8
200
0.6
0.4
150
0.2
100
0.0
50
0
1
3
5
7
9 11
トレーングセッション数
赤)の信号値を空間的に平均して、セッ
ベースラインからの
追跡誤差上昇率(%)
ベースラインからの
MR信号上昇率(%)
1.0
ション数に対してプロットすると、追跡
誤差とほとんど同じ時間経過をたどるこ
とがわかる(図 4A )。いっぽう最後まで
活動が残る部位(図 4B 黄色と青)では、
信号値は追跡誤差のようには減少せず、
誤差の
統制実験
追跡誤差に対応する赤の部位の活動を差
図 4 追跡誤差を表現する広い小脳部位(B 赤)と、内部モデルが
し引くと、図 4C の水色で示したように
獲得される狭い部位(B 黄色と青)との比較。(A )赤の部位の脳
学習とともに増加する曲線が得られる。
活動(赤丸)と追跡誤差(黒白抜き丸)は訓練セッションにたいし
てプロットすると非常に高い相関を示す。(C )それにたいして、
これは学習とともに徐々に獲得される内
黄色と青の部位の脳活動は(黄丸)追跡誤差(黒白抜き丸)との相
部モデルの活動に対応していると考えら
関は低い。そこで、黄色と青の部位の脳活動から(A )に示した赤
の部位の脳活動(赤丸で示した各セッションごとの平均の fM RI 信
れる。
号値)を差し引くと、水色丸の曲線が得られる。これは理論が予測
この結果から、系統発生的に新しい小脳
する、内部モデルの学習に伴う獲得を表わしていると解釈できる。
部位での道具使用という認知的な課題で
(B)の右図は、fM RI 画像の計測された、脳内水平断面の高さなど
を示す立体図。黄色で示した部分が小脳内の活動を示す。
も、フィードバックとになる。つまり、
赤の部位での信号は、登上線維が表現し
ている運動誤差を表わしている。いっぽ
う、黄色と青の部位では、学習によって内部モデルが徐々に獲得され、その活動が学習が完了しても観
測される。
さらに玉田ら(45)は、大脳と小脳の活動の左右差が反対称になることを利用して、最後に活動の残る小
脳部位が、大脳皮質運動前野腹側部(三角部と弁蓋部)と機能的に結合していることを、示している(図
5)。この大脳部位の左側は、言語野であるブローカ野を含んでおり、道具使用と言語の神経機構が重な
12
っていることを示している。
右
上前頭回
中心前回
中前頭回
左
さらに今水ら(46)は、複数の道具にたいして、
小脳の異なる部位が活動することも示している。
縁上回
弁蓋部・三角部 中心前溝深部
(島回含む) (上前頭溝隣接部) 上頭頂小葉
角回
縁上回
頭頂間溝
上頭頂小葉
角回
また玉田ら(47)は、把持力負荷力結合という行動
課題を用いて、物体の順モデルが小脳内に存在
することを示している。これらの実験データは、
角回
角回 中心前回
右
多重順逆モデルを強く支持するデータとなって
有線前野 角回
中心前溝深部
(上前頭溝隣接部)
中心後回
小脳後葉外側部
中心前回
左
いる。
10 . 分裂病とくすぐりの予測
弁蓋部・三角部
(島回含む)
中心前回
角回
他人に身体を触られるとくすぐったいのに、
頭頂間溝
自分で触ってもくすぐったくないのはどうして
だろう。小脳の中の順モデルが、自分自身の運
角回
有線前野
動のときは、運動指令の遠心性コピーから、触
小脳後葉外側部
覚を予測し、それが実際の感覚フィードバック
図 5 道具使用の学習に伴う、大脳小脳機能連関図。代表
的なひとりの被験者における学習初期(上)と学習後期(下)
から差し引かれるので、くすぐったくないので
の脳活動。色をつけた部分が、ベースライン条件よりテス
ある(48)。
ト条件で有意に高い(P<0。0001)信号値を示した領域。
図の左上が頭頂、左下が小脳下部の水平断面。大脳皮質の
分裂病の患者では、自分で自分をくすぐって
さまざまな脳部位が、道具使用の学習に伴って活動するこ
も、十分くすぐったいと感じる。このとき、小
とがわかる。これらの部位のうち、大脳と小脳では対側に
脳の順モデルの活動が、正常者と異なることも
結合があるという事実に基づいて、小脳と機能的に結合さ
れている場所を探ると、ブローカ野だけが残った。
わかっている。分裂病の患者が示す症状の多く、
特に幻聴などの運動制御の妄想が、自分自身の
運動指令からひきおこされる感覚信号の変化と、
外界の状況の変化によってひきおこされる感覚信号の変化とを区別できないことによると解釈できる。
つまり、分裂病が、小脳内の順モデルが機能しないことによる病態として理解できるのである。
運動制御から言語にいたるまで、小脳が同じ計算原理を用いていることを説明した。小脳皮質の神経
回路構造は一様であるから、計算原理も系統発生的に新しい部分と古い部分で共通である。系統発生的
に古い小脳では、運動制御対象(身体の一部)の逆モデルが、シナプス可塑性に基づく運動学習で獲得
されることが示された。系統発生的に新しい小脳部位でも、言語の連想や新しい道具の使用など、認知
的な課題で、誤差に誘導される学習が生じていることが、PET や fM RI といった非侵襲脳活動計測からわ
かった。
ヒト小脳には複数の道具に対応して、複数の内部モデルが存在する。ヒト小脳の順モデルの異常は精
神分裂病の原因となる。小脳皮質のシナプス可塑性と、神経回路をこれらのデータに基づいて計算論的
に解釈すれば、小脳皮質は、運動制御から高次認知機能までの異なる機能にかかわらず、入力を出力に
変換する非線形写像(内部モデル)を、教師あり学習で獲得するといえる。
13
11. モザイクモデル
ここでは、ヒトの柔軟な運動学習と環境への迅速な適応能力を説明するモデルとして提案された、多
重順逆対モデルを紹介する(49)。ヒト小脳半球外側部に、認知活動のために、運動制御対象に限らない様々
のダイナミカルシステムの順方向と逆方向の内部モデルの対が学習で獲得される。小脳半球外側部は系
統発生的に新しい小脳部位である。この部位にも、内部モデルが認知学習によって獲得される。ただし、
モデリングの対象となる外界は、他者の脳や身体、あるいは自身の脳の一部等を含む。これらの内部モ
デルは運動の想像、言語及び非言語的コミュニケーション、思考、自己意識のために必須なものである。
ここで、順モデルとは、モデリングの対象となるダイナミカルシステムと同じ入出力の方向性、つまり
同じ入出力変換を実現するものである。一方、逆モデルとは、ダイナミカルシステムの入出力をひっく
り返した、いわば入出力変換の逆関数をシミュレーションするものである。
小脳皮質は登上線維入力によって区切られるマイクロゾーンを単位として、苔状線維入力を小脳核へ
の出力に変換する非線形ダイナミカルシステムである。ただし、皮質内の神経回路には時定数の大きな
要素はないから、基本的には非線形写像と考えてよい。小脳皮質からの出力はプルキンエ細胞からだけ
である。したがって小脳は粗くいって一入力一出力の変換器であるといえる。ただし入力・出力の次元
はとても大きい。大脳皮質橋線維が 2千万、苔状線維が 2千万、顆粒細胞が百億、プルキンエ細胞は
2千万、小脳核細胞は2百万ある。約 5,000 マイクロゾーンがあるとすると、1 つのマイクロゾーンあ
たり、
大脳皮質橋線維が 4,000 本、
苔状線維が 4,000 本、
顆粒細胞が千万個程度、
プルキンエ細胞が 4,000
個、小脳核細胞が 400 個程度あることになる。出力の次元が、入力の次元のほぼ 1/10 であるから、小
脳では縮約された重要な情報の抽出が行われることがわかる。また顆粒細胞の数が圧倒的に多いことは
かなり強い非線形変換を自由に実現できることを示している。従って、小脳には少なくとも1万個近く
の、解剖学的モジュールが存在する。これらの多数のモジュールの協調的な計算モデルが、順逆モデル
なのである。
このモデルの計算論的根拠は次の2つである。第1に、ヒトが感覚運動統合において取り扱わなくて
はならない外部世界は非常に複雑で、しかしある種のモジュール構造をもっているので、対応する制御
器(逆モデル)もモジュール構造を持っている。第2は、複数の制御器を異なる環境、時間、制御対象
物にあわせてスイッチングし、学習することが、最も困難な計算論的課題になるが、これを解決する最
良の方法は、多数の順モデルに並列に状態変化を予測させ、その予測の良さに応じて、逆モデルの最終
的な制御出力への寄与と、順モデルと逆モデルのある学習データへの責任を決定すると言うものである。
つまり、ある環境でもっとも良い予測をした順モデルと対になっている逆モデルを、その場面での制御
に主に使う。この場面ではこの対になっている順モデルと逆モデルが、それぞれより良い予測を行うよ
うに、そしてより良い制御を行うように集中的に学習させる。従って、予測の悪かった順モデルとそれ
と対になっている逆モデルは、予測にも、制御にも学習にもほとんど関与しないことになる。この操作
が、予測と、そのソフトマックス関数による比較、そして学習のゲーティング、出力の重み付け和の数
学的な手続きによって、全く自動的に行なえるのである。これによって、いわば、運動のプリミティブ
(逆モデル)と認知のプリミティブ(順モデル)が組みになって、多重に学習で獲得されることになる。
順逆モデル仮説は、次のような論理とデータに基づいている。(1)小脳皮質の神経回路構造は一様であ
14
るから、計算原理も系統発生的に新しい部分と古い部分で共通である。(2)系統発生的に古い小脳では、
運動制御対象(身体の一部)の逆モデルが、シナプス可塑性に基づく運動学習で獲得されることが明ら
かになった(小脳内部モデルの項目参照)。(3)認知機能に関わる新しい小脳部位でも、新しい道具
の使用など、認知的な課題で、誤差に誘導される学習が生じていることが、非侵襲脳活動計測から明ら
かになってきた。(4)ヒト小脳に、把持される物体の順モデルが獲得されることを示唆する非侵襲脳
活動計測のデータが得られた。(5)ヒト小脳に複数の道具に対応して、複数の内部モデルが存在する
ことが分かった。(6)計算論的に考えれば、小脳皮質は、入力を出力に変換する非線形写像を、教師有り
学習で獲得する。特に、この基本的な順逆モデルを階層化したモデルは、階層的多重順逆内部モデルと
呼ばれる。階層的多重順逆内部モデルは、小脳と大脳の連関ループ、さらには特にヒトでいちじるしく
顕著な、小川の三角形(小脳歯状核、中脳の小細胞性赤核、脳幹の下オリーブ核が構成する興奮性神経
結合の閉ループ)を中心とする神経回路と見事に対応する。
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