12 レストラーレ - ミュージカル研究所

レストラーレ(RESTAURARE) 作 白川惠介
第4塙 2010年11月21日
~「信仰による祈は、病んでいる人を救い、そして、主はその人を立ちあがらせて(レストラー
レ)下さる」(ヤコブの手紙5章)~
1765年,パリに出来たレストランの入り口に,聖書の言葉「レストラーレ(再び立ちあが
る・快復)」を書いた看板がかけられました。これがレストランの語源です。つまりレストランと
は食を通じてお客様に癒しや元気を与える場所だったのです。
最後の晩餐
君は人生の最初に愛される甘味を知り
やがて世界の中心が自分ではないという辛味を知るだろう
君は自分ではない特別な誰かに恋焦がれる酸味を味わい
また自分の無力さや生きることのやるせなさの苦味を味わうだろう
それも悪くはないさ
人はそんな季節を歩きながら、人生の旨味を感じるものだ
どうだい? 君の最後の一皿はうまかったかい?
1幕2月
1場 幕中
1景
○ 路上(昼)
ランチタイム、家族連れでにぎわう街角。様々なレストランやファーストフード店の宣伝
をする人々。チラシを配りながら、
A(夏野子)「駅前レストラン、トレビアンです。本日先着20名様限定で、てりやきハンバーグス
テーキを450円にさせていただきます。どうぞ駅前レストラン、トレビアン、トレビアンにお
越しください」
B(彩夏)「テイクアウトピザのパルマでーす。ご好評のパルマスペシャルピザ、新鮮な海の幸がい
っぱいのヘルシーメニューでーす。ランチタイムは、ドリンクをお付けいたしまーす。」
らん「お母さん。らん、お子様ランチがいい」
らんお母さん「らんちゃんが欲しいのは、お子様ランチについてるおもちゃでしょ」
らん「恵那ちゃんも持ってるもん。恵那ちゃんと遊ぶもん」
らんお母さん「分かった分かった」
C(亜採加)「和風料亭黒川亭でございます。本日のおしなは、季節を味わう山花御膳。お昼の一時を
心落ち着くお座敷でお過ごしいただきたく存じます」
D(明日香)「100%秋田小町の、おにぎり秋穂です。梅は紀州、昆布は日高、のりは佐賀県有明
産、今週のおすすめは、牛カルビむすび120円です」
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森川「森川寿司はネタで勝負。今朝、地元の猟師さんが釣ったぴっちぴちのお魚を握るよ。いらっし
ゃい。いらっしゃい」
石坂「3丁目三つ葉デパート隣り、中華料理みんみん。平常650円の肉団子甘酢あんかけ、本日3
時まで、498円。本格中華みんみんよろしく。餃子もうまいよ」
子供たちが、チラシを見ながら話している。
華「ハンバーグが食べたいし、餃子もいいし、ピザもすてがたいし、牛カルビむすびもね・・・」
胡桃「華と来るといつもこれなんだから、さっさと決めてよ」
和歌「私、山花御膳にする」
花梨「ナスとキノコのスパゲッティにしょうかな」
合歓「みんなばらばらじゃないの。いったいどこいくのよ?」
華「いっぱいあって目うつりしちゃって」
華・胡桃・和歌・合歓・花梨「目玉がぐるぐる回っちゃう」
全員登場して歌う。
歌「らりるれランチ」
ランランらりるれランチ おでかけランチ
ランランらりるれランチ レストランへ行こう!
家族でお出かけ 日曜日
お昼はいつもの お子様ランチ
エビフライにハンバーグ スパゲッティーにドライカレー アイスにプリンに おもちゃつき 日の丸をたてて
目うつりしちゃって ぐるぐるぐる目
ランランらりるれランチ ビジネスランチ
ランランらりるれランチ レストランへ行こう!
サラリーマンのお昼は 節約ランチ
OL はいつでも おしゃべりランチ
毎日上司に叱られて お茶くみ 掃除に コピー取り
安くて 豪華で 速くて オシャレで 太らないランチ
オアシスさがして ぐるぐるぐる目
榛名「フライドチキンが20%増量らしいわよ」
那美「フルーツパフェが250円だって」
りりね「道頓たこやきには、チーズが入ってるのよ」
もも「私どっちに行ったらいいの?」
行列ができる有名店 2時間待ちは当たり前
焼肉定食 弱肉強食 生き残りをかけて
千客万来 ぐるぐるぐる目
2
100円バーガー 100円ラーメン 100円コーヒー 100円肉まん
タイムランチは1コイン 500円ポッキリ食べほうだい
牛丼 かつ丼 天丼 ウニ丼 おそるべきさぬきうどん
目うつりしちゃって ぐるぐるぐる目
ランランらりるれランチ 究極のランチ
ランランらりるれランチ レストランへ行こう!
恵那「ママ、わたしお寿司がいい。大トロ食べたい」
恵那ママ「大トロねえ。大トロより、シーチキン巻きの方が美味しいのよ」
恵那「いやだ。いやだ。大トロ食べたい」
駄々をこねながら去る。
2景
○ パ・マル
パ・マル前、お客さんが三々五々。
いただきさんのルリコが自転車付きリアカーに乗ってくる。
ルリコ「典生さんおる」
みどり「あ、ルリコさん。典生さーん。(ルリコに)今日はええの入りました」
ルリコ「まかしとき」
ルリコは、誇らしげな顔で、箱から舌平目を出す。
ルリコ「昨日のオープン戦、阪神勝ったから、まけとくわ」
みどり「ほんまにええの。やっぱり阪神ファンはええ人ばっかりや」
典生と有紀が奥から出てくる。
典生「おおこりゃいいね。夜は、舌平目のブレゼと行こうか」
みどりはお金を払っている。
有紀「ルリコさん、アニキの逆転満塁ホームラン見る?」
ルリコ「金本の一昨日のやつ? あれ見逃したんよ。見たいけど、まだ、私のファンが待ってるから、
明日見に来るわ」
典生「もう年なんだから無理すんなよ」
典生は、奥に入る。
去るルリコとすれ違いに洋子がやってくる。
洋子「あの・・・」
みどり「すんません。もうランチは終わりました。次は5時半からです」
幸介が奥から出てきて
幸介「おくさん、ちょっと出てきます」
洋子「幸介」
幸介「洋子? 洋子だよなあ。久しぶり、高校卒業以来か。なんでここにいるんだ」
洋子「え、取材に来たの」
みどり「幸ちゃんの知り合い?」
洋子「はい。私、料理雑誌フードコムの丹波洋子と申します」
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洋子はみどりに名刺を渡す。
みどり「フードコム」
有紀「もしかして、うちの店の取材に来たの!」
洋子「そうよ」
有紀「おとうさん! 取材よ取材、取材」
有紀は奥に入る。
幸介「活躍してるそうだね。テレビ出てるって聞いたよ」
洋子「ちょっとね」
みどり「なんか顔を見たことがあると思たら、あの羽鳥麗子さんと一緒に出てるあの番組、えー
と・・・」
洋子「食の泉です」
みどり「そうそうそれ、毎週見てるよ」
奥から有紀が力なく出てくる。
みどり「おとうさんは?」
有紀「今忙しいからって」
みどり「すんませんね。いい素材が入るといつもこの調子で」
洋子「私の方こそ、突然お伺いして。また出直します」
有紀「おねえちゃん絶対来てよ。約束よ」
洋子「約束する」
みどり「幸ちゃん、送ってったら」
幸介「行ってきます」
洋子と幸介は去る。
有紀「おとうさん、腕はいいのかもしれないけど、経営者としては失格だねえ」
みどり「この子は何言うてんの」
2場 幕前
○ ランチルーム(昼)
給食の時間。
幕間で給食の放送をしている。ピンポンパンポン。
沙織「給食委員会より、今日の給食の献立をお知らせします。ごはん・牛乳・ちくわのいそべあ
げ・かぼちゃコロッケ・野菜サラダ・シイタケとうずらのスープ・納豆・みかんです。主に血
や筋肉、骨をつくるもの。牛乳・うずらの卵・ミンチ・納豆。主に体の調子を整えるもの。青のり、
かぼちゃ・ピーマン・アスパラ・椎茸・みかん。主に熱や力のもとになるもの。米・さとう・じ
ゃがいも・ドレッシングです。給食は残さずに食べましょう。これで給食委員会からのお知らせ
を終わります」
那美「椎茸あげる」
華「先生、椎茸減らしています」
先生「食べないと大きくなれませんよ」
榛名「サラダすきでしょ。かぼちゃコロッケとかえよう」
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華「先生、きらいなものを交換しています」
先生「好き嫌いせず、何でも食べて大きくなってください」
りりね・榛名「はーい」
もも「大きく大きくってどこまで大きくなればいいのかなあ」
大「ぼく、ウルトラマンゼロぐらい大きくなりたいな」
合歓「なれるわけないでしょ」
華「先生、一志君がちくわの磯辺揚げを残しています」
先生「一志君、おいしいわよ」
一志「おいしいかもしれないけど、これって体に悪い食品添加物が入ってるような気がする」
文「さすが医者の子。食べない理由が医学的」
一志「多分合成保存料のソルビン酸と弾力増強剤の疑いがあるなあ」
先生「このちくわには添加物は使ってません。あなたは青海苔が嫌いなだけでしょう。好き嫌いが
あると強くなれませんよ」
那美「私、シンケンジャーぐらい強くなりたいな。強くなって、悪い怪人をやっつけるんだ」
もも「私はゴセイジャー。ゴセイレッドってかっこいいもの」
榛名「私はゴセイイエローの方がいい」
胡桃「レッドやイエローが好きなんじゃまだまだ子供ね。やっぱりブルーでしょう。ブルーの渋さ。
分からないかなあ」
もも・榛名「何よ!」
先生「あなたたちどうしてそっちの方に話がいくのかなあ」
梨子「だれにだって、すきなものときらいなものはあるもの」
立ち上がりながら
榛名「たまねぎきらい」
那美「なっとうきらい」
もも「セロリきらい」
花梨「レバーきらい」
子供全員「○○きらい」
歌「きらい、きらい」
毎日毎日きらいきらいって あなたたちいいかげんにしてよ
きらいきらいって言うけれど あなたは本当の味を知らないの
食わず嫌いは止めにして 一口食べて見て
朝露に輝くみどりのキュウリ(オエー) お日様をすいこんだ真っ赤なトマト(イヤー)
ホクホクの土の中で育つジャガイモ(ふとっちゃう) どれもこれも自然の恵み
みずみずしくて 新鮮ならば きっとあなたも大好きになれるわ
食べなさいって言うけれど 無理に嫌いなもの食べなくても
美味しいものはいっぱいあるわ だから残してもいい?(ダメ!)
口の中に広がるレバーのくさみ 歯の間にひっかかるセロリの繊維
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ネバネバに糸を引いたくさい納豆 どれもこれもいやだきらいだ
みずみずしくて 新鮮だっても きっと私は大好きになれない
(きらいきらいって言うけれど あなたは本当の味を知らないの
食わず嫌いは止めにして 一口食べて見て)
ニンジン たまねぎ 大嫌い ゴボウにナスビなんか見たくない
椎茸 アスパラ 大嫌い この世から消えてなくなれ!
みずみずしくて 新鮮ならば きっとあなたも大好きになれるわ
(食べなさいって言うけれど 無理に嫌いなもの食べなくても
美味しいものはいっぱいあるわ 残させて)
先生「食べなきゃだめ!」
子供全員「はーい」
いやいや食べている。
先生「よろしい」
給食当番が前に出て、あいさつをする。
沙織「ごちそうさまでした」
全員「ごちそうさまでした」
食器を片付けているが、梨子だけは、きらいなピーマンが食べられない。
華「先生、梨子ちゃんがピーマン食べてません」
先生「梨子ちゃん。食べなさい」
梨子「私、私・・・」
梨子、食べられずに、泣き出して教室を飛び出す。
文「せんせーがなーかした。せんせーがなーかした」
子供「せんせーがなーかした。せんせーがなーかした」
先生「私が悪いっていうの? じょうだんじゃないわよ。みんなの体のこと考えていってるんでし
ょう。だれか、梨子ちゃん見てきて」
沙織「はい」
先生「他の人は片付け、片付け」
給食の片づけをはじめる。
文「有紀、あさってのテレビことだいじょうぶ?」
有紀「お父さんにはまだ言ってないけど、だいじょうぶ。うまくいくわ」
文「まだ言ってないの? あさってよ」
有紀「最初から分かってると、お父さん絶対来ないから」
文「そういうことか。じゃあバス停のところに2時半ね」
有紀「わかった」
3場 幕中
○ ヴェルサイユ(昼)
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歌「グランメゾン」
人は呼ぶ あの店はグランメゾン それは一流のあかし
いらっしゃいませ グランメゾン「ヴェルサイユ」へ
グランメゾン それは恋 だれもが憧れるお店
グランメゾン それは愛 食をいとおしむまなざし
一流の料理 一流のおもてなし 一流のお客様
メニューをどうぞ 私はギャルソン ワインはお任せソムリエ
素材選びのガルド・マンジェ 甘いデザートパティシエ
見習の僕はお皿洗いプロンジュール ようこそこの店へ
一流の装飾 一流の身だしなみ これがグランメゾン
たくさんの客でにぎわっている。初めて来た春日と英子が、きょろきょろ回りを見回して
いる。ギャルソン安奈は、席に案内する。
安奈「いらっしゃいませ。メニューでございます」
春日はマニュアル本とメニューを見比べている。
春日「えーと、えー、あのー」
安奈「本日のおすすめランチコースがございますが、」
英子「じゃあ私はそれで」
春日「おれも、そ、それにしょうか」
安奈「かしこまりました」
安奈下がる。
英子「フレンチって難しいですね。メニューを見てもさっぱり分からない。春日さんはよくいらっ
しゃるんですか。ここ」
春日「ああ、まあ時々ね」
英子「さすが一流企業の課長さんとなると使うお店が違いますね。心強いです」
春日「ま、任せてください」
ソムリエ茜がやってくる。
茜「ワインリストでございます」
メニューを見ずに
春日「ボルドー・メドックの89年を」
英子「ワインもお詳しいんですね」
春日「まあ、一流の男のたしなみですかねえ。ハハハハハ」
茜「サン・ジュリアンとサン・テステフがございますが」
春日「サ・サン?」
マニュアル本を見ながら
春日「えーと・・・てふてふの方を」
茜「サン・テステフですね」
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春日「それ」
茜「かしこまりました」
茜は下がる。
英子「テステフって何ですか?」
春日「てふてふっていったら蝶々、蝶々ですよ」
英子「へえ、蝶々」
かおりと達也が話している。
かおり「テステフが蝶々だって。最近のワインブームで、知ったかぶりの客が多くなったわね」
達也「かおりさん、テステフってなんですか」
かおり「ワインの産地の名前よ。サン・テステフは、水はけが悪い土地だけど、それが有利に働いて
高い品質のワインを生むの。土の香りと熟した口当たりのよいタンニンが特徴なのよ」
達也「覚えておきます。サン・テステフ」
茜「かおり、サン・テステフ、セラーから取ってきて」
かおり「行ってきます。まあ、あの二人に飲ませるのはもったいないと思いますけど」
茜「つべこべ言わず行きなさい!」
かおり「はーい」
かおりはワインセラーへ向かう。
安奈「ねえあの二人、どういう関係だと思う?」
早季「夫婦ではないようね」
夏子「男性は、スーツのよれ方からすると、単身赴任3年目の東証二部上場の中堅会社の課長。女性
は外資系保険会社の営業で、バックの中身は企業向けのグループ保険の資料。大学生のお子さん
への仕送りのために働きに出るようになった。商談まであと一歩ってとこかしら」
あかり「夏子さんの観察力ってすごいですね」
夏子「当たり前よ。私ら一流のギャルソンは、お客様のバックボーンを見抜いてなんぼなんだから」
あかり「私も早くそうなりたい!」
茜「ハイハイ、無駄話をしないの。仕事仕事。夏子さん、またお客様の品定め?」
夏子「そんなあ、誤解です。私はお客様のよく理解して、サービスをしようと思って」
茜「若い子に変なこと教えないの」
夏子「はーい」
修平がやってくる。
修平「達也、なに油売ってんだ。厨房に入れ」
達也「すみません」
洋子が入ってくる。
洋子「こんにちわ」
修平「洋子さん」
洋子「厨房にテレビが入っているそうじゃない」
修平「ええ、『千客万来あなたのお店お助けします』という番組です」
洋子「売れない店をテレビ局が助ける番組ね。ディレクターは三島さん?」
修平「そうです。でも甘いよ、フレンチが1週間ぐらいの修行で身に付くはずがない」
洋子「修平君、この店来て何年?」
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修平「4年です。僕もまだまだですけど、フレンチの厳しさを教えてやりますよ」
黒子ギャルソンがレストランを片付け、転換する。
4場
○ 厨房
忙しく働いている厨房。テレビスタッフが準備をしている。
三島「お忙しいところすみません。みなさん今日は、よろしくお願いします」
全員「よろしくお願いします」
直樹「こちらこそ。高津テレビさんにはいつもお世話になっていますから。私、ちょっとオーナーと
打ち合わせがあるので席はずします。後は、この修平に任せてあります」
直樹は去る。文が走りこんでくる。
文「おじさん、連れてきたよ」
三島「文ちゃん、すぐ入ってもらって」
文「分かりました」
文は、有紀と典生を連れてくる。
有紀「こんにちは」
典生「おい、ひっぱるな」
三島「高津テレビの三島大二郎です」
三島は、名刺を渡す。
典生「高津テレビ?」
三島「姪の文から話を聞きまして、なんとかお力になれるようにと」
文「これでお客さんいっぱい間違いなしよ」
三島「おい、カメラ回して」
有紀「お願いします」
典生「有紀、何だこれは?」
有紀「料理番組の撮影よ。お父さんは、言うとおりに動いてくれればいいのよ」
三島「高畑さん、すいませんが、こちらへどうぞ」
修平「今回お世話させていただきます。西村修平です」
典生「高畑です」
修平「フレンチは奥深いものです。一週間ぐらいで簡単に身に付くとは思わないでください。(咳
払いひとつ)それではまず、素材選びから。いい料理人はいい素材を見極める目を持たなければ
なりません」
スチロールの中から、かれいを出す。
修平「ひらめです」
高畑「かれいじゃないか」
動揺して
修平「え? かれい」
高畑「君、働いて何年になる」
修平「4年です」
高畑「4年も働いて、かれいとひらめの違いもわからないのか。左ひらめで右かれいというんだ。こ
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れは右に顔があるだろう。だからかれいだ」
修平「ちょっと待ってください。右はお箸を持つ方だから、えーとこっちだ。だから、この魚は、かれ
い、かれいです。間違いありません」
高畑「あたりまえだ」
修平「それでは、さばいてもらいましょうか。まず僕がやってみますから」
洋子が高畑の姿を見つける。
洋子「あの人、高畑典生じゃないの」
三島「洋子ちゃん知ってるの」
洋子「三島さん知らないの? グランメゾンアビニヨン時代に天才シェフとして腕を振るった高
畑典生よ」
三島「アビニヨンの高畑さんって、東京サミットのディナーを担当した高畑さん?」
洋子「そう」
三島「まいったなあ」
洋子「修平君、高畑さんに魚のさばき方を教えてる」
亮と一志、大が野球の道具を持って、厨房にやってくる。
文「しずかに」
亮「あれ、みんな何やってるんだ」
文「有紀のお父さんが、ここで修行しているの」
一志「有紀のお父さんも料理人か」
有紀「亮君、お世話になってます」
亮は典生がさばいている様子を見て、近づいていく。
厨房のみんなが寄ってくる。
洋子「修平君、修平君、ちょっとちょっと」
修平「どうです僕の指導ぶり」
洋子「あなた誰に教えていると思ってるの。はやく羽鳥さん呼んできて」
修平「え?」
高畑は、厨房のみんなにさばき方の指導をしている。
達也「すごい」
あかり「あざやか」
賢示「すてき」
かおり「神業」
修平が羽鳥を連れて戻ってくる。
直樹「高畑さん!」
典生「羽鳥。ここお前の店か?」
直樹「はい。高畑さんこそ、アビニヨンをお辞めになってからどちらへ」
典生「おれか。今、ちょっとした総菜屋をやってるんだ」
直樹「高畑さんが、惣菜屋ですか?」
一志「亮と有紀のお父さんどうし知り合いみたいだな」
有紀「知らなかった」
文「おじさん、撮影、撮影」
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三島「よわったなあ。これじゃ番組にならないよ」
一志「これどんな番組?」
文「売れない町の料理人が、一流のレストランで修行する番組よ」
三島「すいません。知らなかったとはいえ、高畑さんほどの方にこんな番組にご出演いただいて」
典生「いいじゃないか。おれは売れない町の料理人だし、ここは一流レストランみたいだから」
三島「え、やってくださるんですか」
典生「おれはいいよ」
直樹「無理です。高畑さんを教えるなんて・・・」
三島「羽鳥さん、助けてくださいよ。今日撮影できないと、来週のオンエアに間に合わないんですよ。
お願いします」
直樹「・・・分かりました」
三島「ありがとうございます。あくまでも、高畑さんが羽鳥さんの指導のもと、ヴェルサイユで修行
をしているという設定ですので、よろしくお願いします」
大「おじさん、これいつ映るの?」
三島「来週の月曜日の8時だよ」
一志「後はテレビで見るか。おれ帰るわ」
大「じゃあな」
亮「またな」
一志と大は去る。
三島「それでは再開しますよ。気分を変えて、デザートなんかどうですか」
茜「あー、それはちょっと・・・」
三島「え、どうしたんです?」
茜「パティシエ以外ならどこ撮っていただいても結構なんですが・・・」
三島「パティシエの仕事は華があって、絵的にはテレビ向きなんですけどねえ」
賢示がスキップしながらやってくる。
賢示「パティシエの池上賢示でーす。パイを作りましょうか」
ヴェルサイユスタッフ全員「最悪」
三島「いいね、いいね。カメラ、カメラ。高畑さんこっちお願いします」
高畑がやってくる。
典生「おお、パイか。やってみろ」
賢示「私、お花の形の可愛いパイを焼くのが好きなんです」
三島「この子、男、女?」
茜「戸籍上は一応男ですが、最近流行のおネエ系です」
三島「おネエ系ねえ。まあいいか今流行りだから」
賢示が楽しそうにパイ生地をこねている。
典生「それじゃ、弾力が付かないだろう。ちょっと貸してみろ」
典生がパイ生地をこねる。
典生「いいか。手のひらでこうやって上から前へと押しつぶすんだ。やってみろ」
賢示に代わる。
典生「いいぞ。その調子だ」
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賢示「わあ、勉強になりました。ありがとうございまーす」
三島「よわったなあ。高畑さんが教えちゃ困るんですよ。ここカットね」
典生「あ、そうか。悪い悪い。次いってみよう」
高畑は次々といろんな所で指導している。
歌「グランメゾン2」
グランメゾン それはドリーム 至福を味わう天国
グランメゾン それは欲望 飽くなき食へのこだわり
一流の食材 一流の調度品 一流のグランシェフ
一流の食材 一流の調度品 一流のグランシェフ
亮は高畑のソースをなめる。
亮「こんなソース食べたことがない」
洋子「高畑典生に教えようなんて、番組設定に無理があるわ」
あかり「高畑典生? 私、本で読んだことがあるわ。日本一のレストランの名を欲しいままにした
アビニヨンの天才シェフ。そして突然姿を消した幻のシェフ」
かおり「なんでそんな人が売れない惣菜屋なの?」
達也「ぼくも聞いたことがある。アビニヨンのワインセーラーには常に時価3億円分のワインが置
いてあるって」
かおり「3億! そんなワインセラーで暮してみたい」
安奈「風邪ひくでしょう」
かおり「それでもいい」
夏子がお皿を運んでくる。
修平「達也、お皿帰ってきたぞ」
達也「行きます」
達也がお皿を洗おうとすると、横から典生が出てきて、
典生「ちょっとまって」
典生はソースをなめる。
典生「このソースはだれが作った?」
達也「羽鳥シェフです」
典生「羽鳥が?」
もう一度なめる。
直樹「高畑さん、もうやめてください。確かに昔のあなたはアビニヨンのシェフで、私は、駆け出し
のコックでした。しかしあなたは第一線から身を引かれました。今、私はヴェルサイユのシェフ
で、あなたは町の惣菜屋です。そしてこの店の総料理長は私です」
典生「・・・そうだな。有紀、帰るぞ」
典生は退場する。
有紀「お父さん」
有紀は後を追う。
文「有紀ちゃん」
三島「弱ったなあ。羽鳥さん、編集でつながせてもらいますよ」
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羽鳥「勝手にやってくれ」
羽鳥は去る。
賢示「私のところ映ります?」
茜「あんな場面が映ったら、うちのレストランの評判はがた落ちよ。こいつ冷蔵庫にでもぶちこん
でおいて」
夏子は賢示を引っ張っていく。
賢示「どうして、どうしてなの。いてててて」
亮は、羽鳥のソースをなめる。
文「どんな味?」
亮「うーん」
5場 幕前
○ ランチルーム(昼)
給食を片付けている。
先生「ほら、ご飯つぶがついている」
花梨「えー。このぐらい」
先生「あなたも。先生が子供の頃はね、ご飯つぶひとつでも残すと叱られたものよ。お米の中には、
お百姓さんの心がいっぱい詰まってるの」
和歌「今は、お米が余っているってテレビで言ってた」
先生「だからといって粗末にしてもいいの」
合歓「さすが先生。戦争時代を生きてきた人間は違うわね」
先生「じょうだんじゃないわよ。私いったい何歳なのよ」
華「先生、梨子ちゃんがピーマン残しています」
先生「梨子ちゃんまた?」
梨子「私、赤ちゃんの時からずっとピーマン食べられないんです。ピーマンの苦味が口の中に広が
ってきて、吐きそうになるんです」
沙織「分かる私もかぼちゃがいやだから」
先生「それでもがんばって食べなきゃ」
胡桃「私いつも気になってたんだけどぉ、先生、給食で鶏肉が出た時、いつも一志君にあげてな
い?」
一志「先生はいつも鳥のからあげくれるよ」
先生「そ、それは一志君が鶏肉好きだからでしょう。ねえ」
一志「うん、おれ将来焼き鳥屋になってもいいと思ってるぐらいなんだ」
子供全員、先生をにらんでる。
先生「何、みんな私を疑ってるの? じょうだんじゃないわよ」
子供全員、先生に迫ってくる。
先生「分かりました。私は鶏肉きらいです。どうしても食べられないものは残してもかまいません」
全員「やったー残すぞ残すぞ」
片付けを始める。先生は去る。
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大「昨日見た? テレビ」
合歓「見た見た。亮君ところのレストランが出たんでしょ」
那美「有紀ちゃんのお父さんも出たのよ」
沙織「やっぱり一流のレストランは違うわね」
花梨「亮君のお父さんかっこよかったね」
華「お父さんは一流のシェフ、お母さんは売れっ子の評論家。理想的な家庭」
りりね「有紀ちゃんのお父さんはどうだったの?」
有紀「え・・・うん」
一志「亮のお父さんと比べるのはかわいそうだよ」
胡桃「おなじシェフでもお惣菜屋と一流のレストランじゃぜんぜん違うわ。年収も10倍は違うで
しょう」
和歌「でもこれで有紀ちゃんとこのお店もお客さん増えるんじゃないの」
花梨「最後は味よ。テレビに出てすぐはお客さんが来るかもしれないけど、おいしくなければ続か
ないわ」
有紀はうつむいている。
文「ちょっとみんな勝手なことを言わないで。有紀のお父さんはすごいのよ」
りりね「どんな風にすごいの?」
文「有紀のお父さんが何かするとね、レストランのみんなが集まってきてね。すごいすごいって」
梨子「そんなのテレビに映ってなかったわよ」
文「それに亮君のお父さん、昔は有紀のお父さんのレストランで働いていたんだって」
一志「昔の話だろ」
梨子「そんなにすごいんなら、どうして町の総菜屋なの?」
文「料理の腕と経営者の手腕は別なのよ」
沙織「でもどっちがおいしいか食べて見たい」
合歓「料理はかけっこと違うわ。どっちがおいしいかなんて簡単には分からないんじゃないの」
胡桃「簡単よ、同じ料理作ってみて、おいしいと思った人が多い方が勝ち」
榛名「なるほどね」
華「お父さんどうしの勝負がだめなら、亮君と有紀ちゃんの子供どうしでやってみたら」
有紀・亮「えー」
りりね「亮君の料理食べてみたい」
花梨「有紀がそんなにすごい料理人の子供なら、きっとすばらしい料理をつくれることでしょう
ね」
沙織「こう言うのはどう? ピーマンを使った料理を作って、梨子ちゃんが食べられるかどうかで
勝負するの」
梨子「そんなあ」
文「有紀、やりなさい。お父さんの名誉挽回よ」
一志「亮、受けて立てよ。売られたけんかは買うのが男ってもんだ」
亮・有紀「ちょっとまてよ(まってよ)」
文・一志「よし決まった。料理対決の始まりだ」
14
歌「料理対決」(子供)
始まるぞ 料理対決 どんな素材を使っても 一口食べれば分かってしまう 料理の天才羽鳥亮参上!
冷蔵庫の奥にある残り物 あの子にかかればごちそうさ 料理の女王高畑有紀よ!
この勝負負けられないわ 名誉をかけて
誰もが知ってるヴェルサイユ フランス料理の一流店 後継ぎ息子の羽鳥亮参上!
気軽に立ち寄る総菜屋 味は最高フランス仕込 看板娘の高畑有紀よ!
この勝負負けられないわ 名誉をかけて 始まるぞ料理対決
文「対決は、土曜のブランチで勝負よ」
一志「ブランチだな。まあ勝負の結果は目に見えてるけどな」
文「その言葉、のしつけてお返しするわ」
有紀「文」
6場 幕前
1景 上手
○ 料理番組(夜)
家庭問題評論家羽鳥麗子と洋子が対談している。
洋子「食の泉。本日は、子どもと食事というテーマでお送りいたします。コメンテーターは家庭問題
評論家、羽鳥麗子さんです。先生よろしくお願いいたします」
麗子「こちらこそ」
洋子「ちょっとこのフリップをご覧ください。ある学校のアンケートなんですが、まず、朝食を食べ
ずに学校に来る子どもが16%。クラスに6人は食べてないことになります」
麗子「私が講演会でおじゃました学校でも、朝礼で倒れるお子様のお話をよく伺います」
洋子「そうなんですね。そして朝食を食べない子どもの64%が、いらいらを感じているという結
果が出ています」
麗子「最近キレル子どもが話題になっていますよね。やはり毎日栄養バランスのいい朝食を食べて
欲しいですね」
洋子「さらにもう一つ問題があるのです。一人で食事をすることを、孤独な食事と書いて孤食と呼
ぶそうなんですが、厚生労働省の調べでは、なんと31.4%の子どもがひとりで食事をしてい
るという結果が出ています。最近よく見かけますよね、塾に行く前に、コンビニのおにぎりを食
べている子どもとか」
麗子「私が遅く帰る時もね、電車の中で菓子パンを食べている子どもを見かけますよ」
洋子「家で食べてる子どもも、カップラーメン、冷凍食品、レトルトパックなどのインスタント食品
を食べている比率がかなり高いようですね」
麗子「研究によりますと、孤食だとだ液の分泌が減るそうです。反対に家族と一緒だとだ液が出て、
よく消化、吸収するそうですよ」
洋子「みんなでワイワイ言いながら食事をするのがいいんですね」
15
麗子「そうです。また、孤食の場合は、強い酸をもつ胃液を大量に分泌させて、胃壁を傷つけてしま
うそうです」
洋子「恐ろしいですね」
麗子「丹波さん、あなたはどうです? 家族と食事してますか」
洋子「ひとりぐらしですから」
麗子「ひとりで食事するってどうです? あ、ごめんなさい。恋人でもいいんですよ」
洋子「残念ながら、ひとりで食事をすることが多いですね。なんかひとりだと簡単に済ませてしま
いますし、あまりおいしくないですね」
麗子「そうでしょう。大人のあなたでもそうなんですから、まして子どもの場合は、家族のふれあい
というものが、健やかな成長には欠かせませんからね」
歌「家族団欒」
子供にとって将来必要なものは? (何ですか?)
お金 (健康) 学歴 (家柄) 等など (いっぱいありますね)
親は誰でも子供の幸せを願うものよ (当たり前ですね)
本当に大切なもの見極めなくちゃ (ダメですね)
子供にとって一番大切なものは(一番は?)
今 自分が愛されている実感 (実感!)
だからどんな時も (どんな時も) 忘れないで (忘れずに) 家族の団欒
洋子「羽鳥先生のところのお子様は・・・」
麗子「男の子がひとりおります」
洋子「そうですか、それでは、今から家族でお食事ということですね」
麗子「うちも主人がレストランをやっています関係で、なかなか全員が揃わないんですが、できる
だけ一緒に食事するように心がけています」
本当に大切なもの見極めなくちゃ (ダメですね)
子供にとって一番大切なものは (一番は?)
今 自分が愛されている実感 (実感!)
だからどんな時も (どんな時も) 忘れないで (忘れずに) 家族の団欒
麗子「丹波さんも早くいい人を見つけて一緒に食事できますように」
洋子「お気遣いいただきまして、ありがとうござます。本日は子どもと食事というテーマで家庭問
題評論家羽鳥麗子先生に、お話をおうかがいいたしました。先生、ありがとうございました」
軽く頭を下げる。
洋子「来週は、成人病と食事というテーマでお送りいたします。それではさようなら」
2景 幕前下手
○ 羽鳥家の居間(夜)
亮がひとりで食事(スパゲッティ)をしている。食事の用意は4人分。
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賢示がやってくる。
賢示「亮君」
亮「賢示さん」
賢示「またひとりなの」
亮「いつものことだから。賢示さんちょっと食べてみて」
賢示はスパゲッティを食べる。
賢示「亮君、腕あげたわね。でもにんにくがちょっと焦げてる」
亮「そうか」
賢示「お母さんは?」
亮「さっきテレビに出てた。帰りは、11時ぐらいかな」
純(室内着)が出てくる。
賢示「純ちゃんこんばんは」
純「こんばんは」
冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲んでいる。
亮「姉ちゃん、スパゲッティあるよ」
純「ありがとう。でもいらない」
賢示「亮君のスパゲッティなかなかのもんよ」
純「欲しくないの」
亮「冷蔵庫に入れとくからね」
純は自分の部屋へ入る。
賢示「純ちゃんいつも食べないの」
亮「うん。でも時々夜中に起きていっぱい食べるんだよ」
賢示「そうなの。シェフとお母さんはそのこと知ってるの?」
亮「知ってると思うよ。今日だってお母さん、テレビで、子どもは男の子としか言わなかった。姉ち
ゃんのことは秘密にしたいんだ」
賢示「中学校は行ってるの」
亮は首を横に振る。
賢示「私からシェフに話してみようか」
亮「言わないでよ。お父さんもお母さんも忙しいから」
賢示「分かった。でも亮君はちゃんと食べてね」
亮「賢示さん。また味みてくれる」
賢示「もちろん。シェフみたいな一流の料理人にならなくっちゃ」
亮「ぼくは料理人にはならない」
賢示「えっ」
亮「ぼくは・・・お客さんに食べてもらうんじゃなくって、家族に食べてもらいたいんだ」
賢示「亮君。それでいつも4人分・・・」
賢示は、話をそらして
賢示「このお皿、シャレてるわね」
亮「お父さんがフランスで買ってきたんだ。ここにレストラーレって書いてあるでしょ」
賢示「レストラーレ?」
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亮「レストランという言葉は、もともと『元気になる』元気になるという意味の『レストラーレ』だっ
たんだって」
賢示「へえ、元気になる。レストラーレか」
歌「レストラーレ」(亮と純と賢示の歌)
(亮)ぼくはいつか この白いお皿に 朝焼けの森を描きたい
鳥は歌い 花が咲き乱れる命の息吹を
傷ついた蝶が羽を休め 再び空を舞うように
レストラーレ 元気を出して もう一度笑って見せて
(純)笑い声が この同じ部屋に こぼれてたあの日はどこにいったの?
(亮)ここにいるよ ぼくが
(純)ここが家? これが家族? 私はだれ?
(亮)きっと守ってあげる
(賢示)閉ざされた繭の中でひとり 羽を折りたたみもがいている
(純)私はひとり いつでも
(賢示・亮)レストラーレ 勇気を出して
(純)だれも分かってくれない
(賢示)あの日の君のように
(亮)朝日に輝く蝶のように
(純)ここから出られない
(亮)レストラーレ 元気を出して
(純)あの日に戻れない
歌のメンバー残りで転換
7場 幕中
○ ヴェルサイユ(昼)
外交官川内、オーナー小柳、麗子が食事をしている。
川内「君」
早季「はい」
川内「ソムリエを呼んでくれたまえ」
小柳「何かお気に召せませんでしたか」
川内「いや何、ワインについて教えていただこうかと思いましてね」
小柳「川内さんは、ヨーロッパ勤務が長く、かなりワインにも造詣が深いと伺っておりますが」
川内「それほどでも」
麗子「茜を急いで呼んで」
早季「かしこまりました」
早季は茜を呼びに行く。
早季「茜さん。3番のお客さんがお呼びだそうです」
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夏子「私のあの客大嫌い。この間も来たんだけど、何かじろじろ見てさ。感じ悪い」
茜「私たちはどんなお客様に対しても、自分の仕事に誇りを持って接すればいいのよ」
早季「がんばってください」
茜がテーブルに着く。
茜「ランシュ・バージュ90年はいかがだったでしょうか」
川内「マルゴー82年はあるかね」
茜「ございます」
川内「私は、マルゴー、ラフィット、ラトゥール、ムートン、オーブリオン以外は飲まない」
茜「今日の料理には、ランシュ・バージュがよく合うと存じますが」
川内「君は、自分の考えを押し付けるのかね」
小柳「白沢君、早くマルゴー82年を持って来たまえ」
茜「かしこまりました」
川内「ああゆうソムリエはいかがなものですかな」
麗子「あの子のワインの知識は、一流なのですが、ちょっとくせがありまして」
小柳「よく指導しておきます」
川内「今回の文化サミットの会場選考は、横並びの状態です。選ばれたレストランは世界的に注目
される。お宅にとっても悪くはない話だと思いますが」
小柳「日頃からお付き合いさせていただいています川内様のお力で、ぜひうちにお願いできれば
と」
麗子「主人の料理でしたら、日本最高のフレンチをご提供できると思いますわ」
川内「フランスの大使が、今回のサミットに大きな発言力を持っております。日本最高のフレンチ
ではなく、世界最高のフレンチをお願いしますよ」
小柳「もちろんです。羽鳥なら大丈夫です」
洋子が、やってくる。
洋子「あれって外務省の川内じゃない?」
安奈「洋子さん。よくご存知ですね」
洋子「あちこちのレストランで仕事をちらつかせて、ただめし食ってるやつよ」
夏子「そんな顔してますね」
川内が去る。オーナーと麗子は見送り。
直樹が出てくる。修平が顔を出す。
修平「洋子さんいらっしゃい」
洋子「修平君、何か大きな仕事があるの?」
修平「え、それは言えません」
洋子「口止めされてるということはよほど大きな仕事ね」
修平「さすが洋子さん、感がいいですね。でも言えませんから。いくら洋子さんの頼みといえども、
これだけは言えません」
洋子「分かってるわよ。修平君だんだん料理人の顔になってきた」
洋子は厨房に入る。
修平「そうですか。洋子さんにそう言ってもらえるとうれしいです。西村修平、一流の料理人になる
ために日々精進してまいります。そしていつかあなたに気に入ってもらえるようなフレンチ
19
を・・・」
茜「あなた、誰に言ってるの?」
修平「あれ? 洋子さーん」
直樹と麗子が話をしているところに賢示が来る。
賢示「シェフ、お話があります」
直樹「今忙しいんだ。後にしてくれ」
賢示「純ちゃんのことです」
直樹「純がどうしたって」
賢示「シェフ、純ゃんともっと話し合っていただけませんか」
麗子「サミットから逆算すると、第1回目の選考のメニューチェックまで、後2週間しかないわ」
賢示「奥さん。純ちゃんは、最近食べてないようです」
直樹「オーナーは、川内さんの官僚ルートのパイプで動いてる。君、政界ルートでだれか力のある議
員を知らないか?」
麗子「何人か懇意にしている文教族の議員がいるから、ちょっと当たってみるわ」
直樹「よし。後は、メニューだな」
賢示「純ちゃんは・・・拒食症だと思います」
直樹「拒食症?」
賢示「多分。私も中学校の頃、ご飯が食べられなくって・・・」
麗子「あなた、誰に言ってるの。私は家庭問題評論家よ。あなたよりもずっと子どものことは分かっ
てるの。食べないのは、ダイエットのためよ。あの年頃の子どもにはよくあるの。それから賢示さ
ん。あなた、時々家に来て亮と会ってるようだけど、私の家庭のことに口出ししないで」
直樹「賢示、子どもたちを気遣かってくれているのには感謝している。だが今、ちょっと手が取れな
いんだ。ヴェルサイユは今大きな仕事を抱えている。この仕事が終われば、純とよく話す」
麗子「ユーロアカデミアの理事会の時間。あなた行きましょう」
直樹と麗子が席を立つ。
賢示「子どもは、親に真っ直ぐ向き合ってもらいたいんです。シェフ・・」
麗子「あなた何様のつもり? 人の心配する暇があったら、その変なしゃべり方、直しなさい。気持
ち悪い」
直樹は立ち止まって、
直樹「おれは純と亮の親だ。だがそれと同時にヴェルサイユのシェフなんだ。君たちみんなを食わ
していかなければならないシェフなんだ」
直樹と麗子が去る。
ギャルソンが転換。
8場 幕中
○ 厨房
厨房のスタッフが上がっている「おつかれ」等。
修平「達也、智也、後片付けしっかりやっとけ」
達也・智也「はい」「はーい」
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達也はデッキブラシで掃除している。智也はやる気がない。
智也「先輩、いつまで、皿洗いとか掃除やってるんすか」
達也「これも修行のひとつだからな」
智也「お皿なんか洗っても、料理の腕は上がりませんよ。おれ、今月でここやめようと思ってるん
す」
達也「もう少しがんばったらどうだ」
智也「ファミレスに行けば、すぐ料理を作らせてもらえるし、給料だって今の二倍ぐらいもらえる
そうっすよ」
達也「好きにすればいい。おれはここでがんばる」
智也「先輩まじめっすね。正直者が損をする時代っすよ」
亮が入ってくる。
亮「達也さん」
達也「どうしたんです」
亮「ちょっとお願いがあって。あした厨房貸してもらえませんか?」
達也「貸すも何も、お父さんの店じゃないですか」
亮「お父さんに言うと絶対だめだっていうから」
達也「僕には決められない。西村さんに聞いてみたらどうです」
友達がぞろぞろと入ってくる。口々に「こんにちは」「お願いします」
沙織「これが一流レストランの厨房か」
花梨「お鍋がいっぱい」
修平が帰ってくる。
修平「おいおいこれ何事だ。達也、何だこれ」
達也「すみません」
亮「西村さん」
修平「亮君」
亮「達也さんは悪くありません。ぼくたちが勝手に入ってきたんです」
修平「何がはじまるんだ」
亮「あした休みでしょ。厨房貸してもらえませんか」
一志「僕たち、料理対決やるんです」
修平「料理対決?」
文「ピーマン料理作ってピーマンぎらいの梨子ちゃんに食べさせる」
和歌「食べてもらった方が勝ちになるの」
榛名「梨子ちゃんだいじょうぶ?」
梨子「私、ピーマン食べられるようになりたいから」
修平「誰と誰が対決するんだ?」
一志「亮と」
文「有紀」
智也「有紀ちゃん?」
文「この間、ここに来たでしょ。高畑典生って料理人。その子ども」
智也「高畑シェフの娘さんと羽鳥シェフの息子さんの対決か。これはすごいっすね」
21
修平「面白そうだ。よし、あしたおれの立ち合いのもとだったら、貸してもいい」
全員「やったー」
修平「ただし条件がある。今から全員で掃除して、厨房をぴかぴかにすること」
一志「よし、準備はいいか」
亮「さあ、掃除の開始だ」
掃除開始
歌「料理対決2」
始まるぞ 料理対決 どんな素材を使っても 一口食べれば分かってしまう 料理の天才羽鳥亮参上!
冷蔵庫の奥にある残り物 あの子にかかればごちそうさ 料理の女王高畑有紀よ!
この勝負負けられないわ 名誉をかけて
誰もが知ってるヴェルサイユ フランス料理の一流店 後継ぎ息子の羽鳥亮参上!
気軽に立ち寄る総菜屋 味は最高フランス仕込 看板娘の高畑有紀よ!
掃除をしている。掃除の音がリズムアンサンブルになっている。
この勝負負けられないわ 名誉をかけて 始まるぞ料理対決
デッキブラシのストンプをしている間に転換幕が降りる。
疲れて座り込んでいる。
修平「こんどはこっちだ」
全員「えーまだぁ」
修平「料理人の修行はつらいもんよ」
全員ぞろぞろついていく。
智也「先輩、おれやっぱり辞めまっすよ。ここ」
9場 下手花道
○ 港(夜)
修平が釣り糸を垂れている。
恵那「お兄ちゃん、大トロ釣れる?」
修平「大トロねえ。釣れるのはシーチキンぐらいかなあ」
恵那「シーチキンもおいしいのよね」
修平「まあそれなりにな」
恵那「バイバイ」
幕中
○ 港(夜)
ボラードに洋子が座っている。下手から幸介がやってくる。
幸介「待った?」
洋子「私も今来たところ」
22
幸介は洋子にあったかい缶コーヒーを渡す。
幸介「はい」
洋子「ありがとう」
幸介「何、話って」
洋子「うん」
幸介「なんだよ。あ、先週のテレビ見たよ。面白かった」
洋子「そう」
幸介「あの評論家の先生失礼だよな。ひとりで食事するってどうですかなんて、食事する恋人もい
ないって決めてかかってんだからな」
洋子「私、あの番組辞めようかと思ってるの」
幸介「なんで、もったいない」
洋子「みんなよくしてくれるんだけど、私自身もっと勉強する時間が欲しいのよ。今は上滑りの仕
事って感じ。幸介はいつまでそこで働くつもり?」
幸介「おれ? そうだな。もっと自分に自信がつくまで」
洋子「それっていつ?」
幸介「分からないよ」
洋子「はっきり言って、パ・マルにいても、幸介のキャリアにはならないと思う。確かに高畑典生は、
すごい人よ。でもそれはアビニヨン時代のこと。いくら腕がよくても今は町の惣菜屋にしか過ぎ
ないわ」
幸介「・・・言ってることがよくわからないよ」
洋子「あなたは料理のことは多少分かっても、料理の世界のことが分かってない」
幸介「そうだろうな。おれは、パ・マルのことしか知らないからな」
洋子「あなたの回りには、もっと広くて大きな世界があるの。第一線のレストランで仕事をすれば、
いい食材を使っていろんな料理を覚えられる。一流のお客さんからたくさんのことを吸収でき
る。フランスに留学できる可能性だって」
幸介「洋子、君が大学に行ってる間、おれ何やってたと思う? フリーターさ。警備員、コンビニの
店員、訪問販売、電話勧誘、道路工事、それからキャラクターショウ」
洋子「キャラクターショウって」
幸介「デパートの屋上で、シュリケンジャーレッド!」
洋子「幸介のシュリケンジャー? 見たかったわ」
幸介「子どもたちのヒーローさ。悪役の怪人を倒して拍手喝さい。でも勧善懲悪のヒーローは悩む
んだ。ぼくはステージの上で叫んだ。よい子のみんな。ぼくは戦いたくない。ぼくと怪人とどっち
が正しいかなんて簡単には分からないんだ。生きるってことは教科書には書いてないことばか
りだ。だからみんなも、自分が気に入らないからってお友達を叩いたりしないでくれ」
洋子「幸介らしい」
幸介「ボスがステージの袖で叫んでた。あほ! ヒーローは怪人を倒してなんぼじゃ。戦え」
洋子「それはそうよね。ハハハハ」
幸介「ぼくは泣きながら戦った。怪人と戦えば戦うほど、疲れていった。そんな時だ。高畑さんが声
をかけてくれたのは。『ぼうず、食え』って。デパ地下で買ったよもぎ餅をひとつくれたんだ」
洋子「よもぎ餅?」
23
幸介「子どもの餅には砂糖だけが入ってる。甘くて美味しい。でもそれまでだ。お前の餅には塩も入
っている。だからその甘さには深みがある。おれの餅にはよもぎも入ってる。おれの甘さはもっ
と深い。心配するな。子どもたちは、いつかお前の言ったことが分かる時がくる」
歌「人生の味」
子どもは愛される甘さを知り 少年は悲しみの辛さを知る
青年は虚しい苦さを知って 人は道を歩いていく
人生はひとつの料理 甘味も辛味も苦味もあって
生きていく素晴らしさの旨味をじっと味わうのさ
だから今は自分の味をしっかりと受け止めて
幸介「この仕事はお前には向いてない。おれの所へ来いって高畑さんが呼んでくれた。まだ高畑さ
んから学ぶことがいっぱいあるんだ」
人生は白紙のメニュー 一度限りのコースを書き込む
(あなたのメニューに私は入るの?)
人はだれも自分の生き方を探すシェフなのさ
(あなたの描く夢を一緒に歩きたい)
だから今は自分の味をしっかりと受け止めて
(だから今はあなたをみつめていたい)
洋子「幸介の話を聞いているとなんか元気が出てきちゃった」
幸介「そうか。おれそろそろ帰る。明日の下ごしらえが残ってんだ」
洋子「ごめんね。忙しいのに呼び出して」
幸介「今度おれの料理食わすよ。まだまだだけど」
洋子「楽しみにしてる幸介の味」
幸介は去る。
洋子「私、まだ甘いな。幸介はしっかりと自分の足で歩いてる。りっぱだわ。でもあなたは人に恋す
る酸っぱさを知らない。昔からずっとそう」
子どもは愛される甘さを知り 少女はひとりの少年と出逢い
恋する甘酸っぱさ 心に秘めて ひとつ大人になっていく
恋に恋する時が過ぎて 本当のあなたを見つけた時
愛することの喜びがいっぱい胸に溢れ出した
だから今はそんなあなたを見つめていたい
修平がつり道具を持って、通りかかる。寂しそうに佇んでいる洋子に気付く。
修平「あれ? 洋子さん」
洋子「修平君。つり?」
修平「さっぱりでした。今日の収穫は、シーチキンの空き缶一個です。今日の占い、ニコニコマーク
24
だったんですけどね。でも洋子さんと会えたから、二重マルだ。洋子さん・・・いつもの元気が
ない」
洋子「そう見える? 私だって、悩む時もあるのよ」
修平「今や飛ぶ鳥を落とす勢いの料理ライターの洋子さんがね。オレでよかったら相談に乗ります
よ。これでもヴェルサイユのみんなに信頼されてんです」
洋子「ありがとう。でも大丈夫」
修平「人生いろいろありますからね。うまいもの食ってぐっすり寝れば、また元気がでますよ」
洋子「そうね。じゃあまた」
洋子は去ろうとする。
修平「あ、えーと」
洋子「何?」
修平「いや、今から一緒にうまいものを・・・」
洋子「大好物のモンブラン食べて寝るわ。今日はありがとう」
洋子は上手へ去る。
修平「何やってんだおれ。食事に誘ういいチャンスだったのに。詰が甘いんだよなおれ」
子どもは愛される甘さを知り 青年はひとりの女性と出逢い
恋する甘酸っぱさ心に秘めて ひとつ大人になっていく
あなたと出会うその日まで 知らなかったこの気持ち
恋することの幸せを いっぱい胸に感じている
だから今はそんなあなたを見つめていたい
幸介下手、洋子上手に出てくる。
人生はひとつの料理 甘味も辛味も苦味もあって
(あなたの書くメニューに私は入ってるの)
(たとえあなたの瞳の中にぼくが)
生きていく素晴らしさの旨味をじっと味わうのさ
(あなたの描く夢を一緒に歩きたい)
(映らなくても この想いを)
だから今は自分の味をしっかりと受け止めて
(だから今はあなたをみつめていたい)
(大切に守っていきたい)
だから今はそんなあなたをみつめていたい
緞帳が降りる。
幕間で大人・中学生キャストによるストンプ。
2幕 1場 幕中
25
○ 厨房(昼前)
料理対決をしている。
歌「料理対決3」
始めよう 料理対決 どんな素材を使っても 一口食べれば分かってしまう 料理の天才羽鳥亮参上!
冷蔵庫の奥にある残り物 あの子にかかればごちそうさ 料理の女王高畑有紀よ!
この勝負負けられないわ 名誉をかけて 始めよう料理対決
沙織「さあ、始めるわよ」
一志「いつでもOKさ。そっちはどうだ」
文「余裕のよっちゃんよ」
華「梨子ちゃん。ここに座って」
一志「亮、一流レストランの実力を見せてやれ」
文「有紀、本物の味を味わわせてやりなさい」
一志「望むところだ。ようし、どっちから始める」
文「じゃんけんで決めましょ」
一志・文「最初はぐー、じゃんけんぽん」
一志「勝った! 亮、先行だ」
胡桃「梨子ちゃん、今の気持ちは?」
梨子「なんか緊張する。でもこれでピーマン食べられるようになればうれしい」
沙織「それでは、亮君の料理です」
亮は料理を運ぶ。
全員「わー!」
沙織「タイトルは?」
亮「赤ピーマンのムース、ヴェルサイユ風」
合歓「おいしそう」
和歌「さすが、亮君」
花梨「ピーマンの姿が見えないわ」
大「ムースのきめが細かくて、とろけそう」
那美「大くん、よだれが出てる」
全員笑う。
一志「これなら梨子でもぜったい食べられるさ」
沙織「梨子ちゃん、どうぞ」
梨子「いただきます」
梨子は、ゆっくりスプーンを持って一口食べる。もぐもぐ口を動かす。
榛名「どう?」
口の中にピーマンの味が広がって、嫌な顔になる。
梨子「ピーマンの味。亮君には悪いけど、これ以上はちょっと・・・」
全員「えー!」
26
一志「梨子の舌って、ピーマンに対してすごく敏感なんだな」
梨子は水を飲む。
沙織「次、有紀ちゃん」
有紀は料理を持ってくる。
華「なんかこんな料理よくあるわね」
りりね「ピーマンそのまま」
胡桃「これじゃ、ぜったい食べられないわ」
沙織「有紀ちゃん、タイトルは?」
有紀「ピーマンの肉詰め煮、ケチャップソース味」
梨子はピーマンを指差して、
梨子「ピーマンの姿が見える」
文「梨子、目をつぶって」
梨子は目をつぶる。文は、フォークとスプーンを手に持たせる。
梨子「いただきます」
梨子はフォークでピーマンを切って食べる。
和歌「緊張の一瞬」
梨子「あ! おいしい」
全員「うそー!」
梨子「これなら食べられる」
梨子、どんどん食べる。
沙織「この勝負有紀ちゃんの勝ち!」
有紀側、大喜び。文と有紀は抱き合って喜ぶ。
一志「おかしいなあ、なんで食べられるんだ」
文「へへん、これが有紀の実力よ」
合歓「有紀、どうやったの?」
有紀「ピーマンの嫌いな人は、だいたいあの独特の苦さが嫌なの。だから、トマトケチャップでじっ
くり煮こんで、ピーマンの苦さを消したのよ」
もも「なるほどねえ」
達也「二人ともいい勝負だったよ」
梨子「亮君、有紀ちゃん、ありがとう。私ピーマン食べられそう」
亮が有紀に近寄ってくる。
亮「おめでとう」
有紀「ありがとう」
亮「君のお父さんはすごい料理人だ。あの日、僕には分かった」
有紀「お父さんは関係ない。この料理は私が考えたの」
修平「さあ、片付けてくれ。そろそろあしたの準備をするから」
全員「はーい」
片付けを始める。大が亮の料理のお皿を持って、
大「これどこに捨てればいいですか?」
達也「おいしそうだけど、しかたがないな」
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有紀「ちょっと待って」
有紀は亮の料理の味見をする。
有紀「おいしい。おいしいわ! 私の負けだ」
全員、有紀に注目する。
2場 幕前
1景 上手
○ パ・マル(夕方)
有紀と母みどりが話している。
みどり「そんなにおいしかったん?」
有紀「うん。あんな味食べたことない。私はね。ピーマンが嫌いな人に、ピーマンの味がしないよう
に工夫したの。でも亮君の味は違う。ピーマンが嫌いな人に、ピーマンの味のよさが分かるよう
に作ってあるの。梨子ちゃんも今は食べられないかもしれないけど、きっとあの料理の味がわか
るようになると思う」
みどり「お母さんも食べてみかったわぁ」
有紀「亮君はきっといいシェフになる」
みどり「その時、食べに行こか。お父さんも一緒に」
有紀「亮君がね。うちのお父さんはすごい料理人だって言ってた」
みどり「それが分かる亮君もすごい小学生や思うけど」
有紀「お母さん、お父さんって、どんなにすごいの?」
みどり「お父さんはね。日本を代表する一流のシェフなんよ」
有紀「どうして一流のレストランで働かないの?」
みどり「あんたは小さかったから覚えてないと思うけど、あれはお父さんが東京サミットのディナ
ーを担当した時やった。サミットは大成功。いろんな国の大統領や総理大臣が、お父さんの料理
を大絶賛したんよ。スタッフの苦労をねぎらいたいから、とっておきのワインを持ってきてくれ
いうてお父さんから電話があってね。お母さんは、ワインを持ってレストランに向かったんよ」
2景 幕前下手
○ アビニオン(夜)
ワイングラスを手に持って、スタッフが談笑している。
典生「お疲れ様」
全員「お疲れ様」
典生「世界一のスタッフに恵まれて、最高のディナーができた。この日のために取って置いた極上
のワインがもうすぐ到着するからな」
全員歓声「おー!」
典生「取りあえず第1回目の乾杯ということで、乾杯!」
全員「乾杯」
歌「グランメゾン3」
28
グランメゾン それは恋 だれもが憧れるお店
グランメゾン それは愛 食をいとおしむまなざし
一流の料理 一流のおもてなし 一流のお客様
典生「ちょっと、聞いてくれ。サミットが終わってからと思って、今まで黙っていたんだが、おれは、
今日でアビニヨンを止める」
コック(修平)「シェフ、冗談は止めてください」
典生「本気だ」
一瞬静かになる。
ギャルソン(あかり)「どこのレストランに行くんですか? 私もついていきます」
コック(達也)「ボクもいきます」
典生「料理人を止めるんだ」
ソムリエ(安奈)「お止めになる理由がわかりません」
電話がなる。
典生「健康上の理由だ。去年倒れて、お前たちにも迷惑をかけただろう。医者からこれ以上仕事を続
けると命は保証しないと言われた」
コック(智也)「まだ教えていただきたいことがいっぱいあるんです」
典生「後は羽鳥に任せる」
直樹「無理です。私には荷が重過ぎます」
ギャルソン(かおり)「本当にお止めになるんですか?」
典生「おれは料理人として、精一杯働いてきた。悔いはない。お前たち、いい料理人になれよ」
直樹「本当に悔いはないんですか?」
典生「・・・・ああ」
ギャルソン(茜)「シェフ、今連絡が入りまして、みどりさんが、交通事故に・・・」
典生「何!」
車の急ブレーキの音。救急車の音。
3景 上手
○ 病院の廊下(夜)
車椅子に乗ったみどりを数人が囲んでいる。典生が飛び込んでくる。
典生「みどり!」
みどり「やってもうた」
典生「どうなんだ」
みどり「足の骨が折れたみたい」
典生「それだけか」
みどり「それだけや。阪神タイガースの優勝を見るまで死ねません」
典生「みなさんは?」
みどり「私を助けてくれはった同じく阪神ファンのみなさん」
町の人1「奥さんこれ」
ワインを渡す。
29
みどり「あんた。守ったで」
典生「バカやろう。命とどっちが大切だと思ってるんだ」
みどり「典生さん。それより命の恩人にお礼言うて」
典生「本当にありがとうございました。なんとお礼を申してよいやら・・・」
町の人2「お礼なんて、いい、いい」
町の人3「それにしても大切なワインなんですね」
みどり「この人フランス料理のコックやねんで」
町の人1「ああ、それでワイン」
町の人2「ワイン知ってんのか? お前、焼酎しかのまないだろう」
町の人1「おれだって、ワインぐらい飲んだことあるぞ。赤玉ハニーワイン」
町の人3「うちにもそんなビンがあったような気がするな」
町の人2「お前のは養命酒だろう」
みどり「そうや!いっぺんみなさんにうちのレストランにきてもろたら」
典生「それがいい。ご馳走させていただきます」
町の人1「フランス料理ってこれだろ。なんか肩こるなぁ」
ナイフとフォークを持つ格好をする。
町の人2「かたつむりが出るらしいな」
町の人3「聞いたことはあるよ。順番にいろいろ出てくるんだろ」
典生「そういうのもあります」
町の人1「ちなみにランチいくら?」
典生「1万円からです」
町の人「一万円!」
町の人2「おれなんか、かーちゃんにお昼代って、500円玉一個だよ」
町の人3「ラーメンにライスとコロッケつけるのがスペシャルランチだよな」
町の人2「フランス料理はなんか敷居が高いって感じだな」
町の人1「それじゃ帰るか」
町の人2・3「おう。気をつけてな」
典生「お名前とご連絡先を教えていただけませんか」
町の人1「名乗るほどのものじゃないよ。阪神タイガース命の善良な一市民」
町の人2「奥さん元気でね」
みどり「レストランアビニヨンゆうねん。覚えとって」
町の人3「アビニヨン。わかったわかった」
町の人は去る。
3場 幕中
○ 帰り道(夜)
典生は車椅子を押して、家に帰っている。
典生「いい人ばっかりだったね」
みどり「阪神ファンに悪人はおらへんよ」
30
典生「ほんまやね」
みどり「あんたの大阪弁へんやわ」
典生「今日は忘れられない1日だ」
みどり「サミットうまいこといったん?」
典生「もちろん。あれだけ準備してきたからね。それにおれの最後の仕事だからな」
みどり「ミッテランさんもクリントンさんも、びっくりしたやろな。日本人がフレンチやなんて。ほ
ら見て星がきれいや」
典生「オリオン座か。ほら、オリオン座の真中に三ツ星があるのが見えるか」
みどり「あるある。三ツ星いうてレストランのランクみたいや」
典生「フランスで修行していた時な、トロワグロのおやじがこういったんだ。典生、どうしてこのレ
ストランが三ツ星なのか分かるか? ここには、三つの星が輝いている。一つ目の星は、優秀な
料理人。二つ目の星は、気配りの接客係。三つ目の星は、品格のあるお客様だ」
みどり「トロワグロさん、うまいこというね。・・・それであんた、ほんまに料理人止められん
の?」
典生「・・・」
みどり「もうじれったいなあ。何年一緒に住んでると思てんの。あんたの思とることぐらい分かる
わ。はよ言い」
典生「・・・これまでおれは、一流のお客様に最上級の料理を出してきた。今回のサミットで仕事
を止めても悔いはないと思っていた。いや、自分にそう思いこませていたのかもしれない。しか
しまだ、おれにはやることが残ってたよ。料理人の集大成として、今度は500円のランチを食
べてる人たちに、本物の味を味わってもらいたい。食品添加物の味しかしらないサラリーマン、
ファーストフードやインスタント食品ばっかり食べている子供たちに最高のフレンチを出して
みたい」
みどり「よう言うた。それでこそ、私の惚れた典生さんや。料理の前では、大統領もおっちゃんもお
ばちゃんも平等やからね」
歌「レストラーレ2」(典生・みどりの歌)
おれはまた あの空の彼方に 輝ける星を描きたい
暗闇の海に漂う小舟を導く光を
(ここにいるわ私が きっと守ってあげる)
黒雲が立ちこめた空に 再び星座が煌くように
(私は一緒いつでも)
レストラーレ 元気を出して もう一度始めよう
車椅子ダンスをする。
レストラーレ 元気を出して もう一度始めよう
レストラーレ 元気を出して 君と始めたい 4場 幕中
○ パ・マル(夕方)
31
有紀「知らなかった」
みどり「べらべらしゃべるお父さんとちゃうからね。おいしい料理をつくることしか頭にないん
や」
有紀「私、お父さんのこと誤解してた」
みどり「有紀は、梨子ちゃんにピーマンが食べられるかもしれへんいう勇気をあげたんやろ。さす
がお父さんの子や。もっとおいしい料理が作りたかったら、お父さんに教えてもらい」
有紀「うん」
亮と文がたずねてくる。
文「有紀、亮君連れてきた」
亮「おじさんいる」
有紀「奥にいるけど・・・」
亮「教えてもらいたいことがあるんだ」
有紀「お父さんに・・・お父さーん」
典生が奥から出てくる。
典生「君が羽鳥くんか」
亮「おじさん。ぼくに料理を教えてください」
典生「料理? お父さんに教えてもらえばいいんじゃないのか。そうか、サミットで忙しいか」
亮「違うんです。お父さんのソースは一流だと思います。芳醇で豪華でまろやかで、元の素材がなん
であったか分からないまでに味がまとめられています。でもおじさんのソースはそれとまった
く反対なんです。おじさんのはひとつひとつの素材が立ちあがってきて主張するんです。あの味
を舌が覚えていて忘れられません。料理対決の時に、まねして作ってみたんですが、まだ、よく分
からないところがあって」
みどり「料理対決のこと聞いたよ。すごい料理作ったそうやね」
亮「姉ちゃんが食事をしなくなってもう2ヶ月たちます。姉ちゃんが元気になる料理を作りたいん
です。おじさんのソースの中に、ヒントがあるように思うんです」
有紀「お父さんなんとかしてあげて」
典生「うーん。君の姉さんは今、人生の苦味と戦っているんだ。そんな時は、隠したり、ごまかしたり
するような料理ではだめだ。正面からぶつかっていく料理、逃げ出したいものから反対にそのよ
さを引き出す料理が必要だ。どうだやってみるか」
亮「やります」
有紀「それがこの間はピーマンだったのね。ピーマンを隠すんじゃなく、ピーマンを生かしたのね」
歌「人生の味2」
子どもは愛される甘さを知り 少年は悲しみの辛さを知る
青年は虚しい苦さを知って 人は道を歩いていく
人生はひとつの料理 甘味も辛味も苦味もあって
生きていく素晴らしさの旨味をじっと味わうのさ
だから今は自分の味をしっかりと受け止めて
典生「心配することはない。みんな乗り越えてきた道だ。きっと苦味も味わうことのできる大人の
32
女性として、ひとつ成長していけるさ」
一志がやってくる。
一志「おーい」
文「一志君どうしたの?」
一志「亮のお父さんがうちの病院に来たんだ」
亮「お父さんが?」
一志「おれ、陰で聞いてたんだけど、亮のお父さん、味覚障害らしい」
有紀「味覚障害? 何それ」
典生「味が分からなくなるんだ」
一志「亮のお父さん、何かショック受けた感じで、おれ心配になって・・・」
亮「ぼく帰る」
典生「おれも行く。みんな、このことは誰にも言うな」
有紀・文・一志「わかった」
みどり以外全員ヴェルサイユに向かう。
5場 幕前
1景 上手
○ 鍋島医院(夕方)
鍋島が直樹を診察している。
鍋島「いつからだ」
直樹「ここ2ヶ月、味が分からなくなった」
鍋島「ふつうは亜鉛不足が原因だが、お前の場合、料理で牡蠣とかレバーやチーズを使うからな」
直樹「サミットが近づいているんだ。鍋島、何とかしてくれ」
鍋島「何か薬を飲んでるか?」
直樹「飲んでない」
鍋島「となると心因性か。何か心配事は?」
直樹「・・・娘のことかな」
鍋島「純ちゃんがどうかしたのか?」
直樹「ろくに食べてないんだ。ここ2ヶ月」
鍋島「拒食症か。まずそっちを治すことが先だな。ストレスからくる味覚障害は簡単には直らない
ぞ」
直樹「時間的にそんな余裕がないんだよ」
鍋島「一応薬を出しておくが、あくまでも純ちゃんの治療が先だ。純ちゃんとよく話し合え」
直樹は力なく去る。
2景 下手
○ 羽鳥家の居間(夕方)
33
純が冷蔵庫の中のものを貪っている。
麗子「純ちゃん何やってるの」
純は自分の部屋に帰ろうとする。麗子は腕を掴む。
麗子「純ちゃん。三食ちゃんと食べて。お願いだから、私たちに心配をかけないで。今、お父さんもお
母さんも大切な仕事を抱えてるの」
純「お母さん、私はこの家にいないことになっているんでしょ。私なんかいない方がいいと思って
るんでしょ。家庭問題評論家のうちの娘が拒食症なんて言えないものね」
純は腕をふりほどいて、自分の部屋に戻る。
麗子「純ちゃん」
麗子は泣いている。
6場 幕中
1景
○ ヴェルサイユ厨房(夕方)
直樹「帰れ!」
あたりのものを投げる。
修平「シェフ。サミットのメニューの審査は明日ですよ!」
茜「シェフ。やりましょう」
直樹「もういいんだよ」
達也「シェフ」
直樹「終わったんだよ。何もかも」
直樹、伏せる。
茜「一度出ましょう」
茜・修平・達也・安奈は去る。
直樹「ちくしょう」
直樹、泣いている。
典生が入ってくる。
典生「羽鳥」
直樹「高畑さん。僕はもう終わりです。味覚障害ですよ。ハハハハハ。これまで必死でやってきて、後
一歩で一流のシェフとして評価されるところまで手が届いたと思ったら・・・味が分からなく
なっていました。ハハハハ」
典生「羽鳥、頭を冷やせ」
直樹「あなたには分からないでしょう。運に見放されて、子どもたちにも見放された惨めさ
が・・・」
麗子がやってくる。
麗子「あなた、味覚障害ってどういうこと」
直樹「麗子、サミットは諦めてくれ」
麗子「諦めるって、私がこれまでどれだけの苦労をしてきたと思っているの。後はメニューだけな
のよ」
34
直樹「しかたないだろう。味が分からないんだ」
麗子「味が分からないって・・・」
亮「お父さん」
亮、有紀、文、一志が入ってくる。
直樹「亮・・・」
亮「ぼくは信じてるよ。ぼくのお父さんは、一流のシェフだって」
直樹「亮、お父さんは料理人として一番大切なものをなくしてしまったんだ」
亮「一番大切なもの?」
直樹「味だ」
賢示「・・・シェフのいう大切なものって、それだけですか」
直樹「それだけ・・・」
賢示「シェフ、麗子さん。亮君が毎日、食事を作っているのご存知ですか?」
麗子「知ってるわよ。亮は直樹さんと同じで料理の才能があるの」
賢示「毎日4人分作ってるんです。テーブルに4人分盛り付けて、そのテーブルにぽつんとひとり
座って、ひとりで食べて、残った3人分片付けるんです。その3人分を夜中に起きた純ちゃんが
食べては吐くんです。亮君は家族を思って料理を作って、それが痛いほど分かる純ちゃんが食べ
るんです。お二人の分を食べているんです。食べてくれない人のために料理をつくる悲しみがわ
かりますか? 亮君の料理の味はまだまだかもしれませんが、亮君の料理の向こうには、食べて
もらいたい人の顔が見えるんです。それって料理人として一番大切なことじゃないんですか」
麗子「亮ちゃん・・・純ちゃん・・・」
麗子泣いている。
亮「お父さん」
亮はレストラーレのお皿を出す。直樹は手に取る。
亮「レストラーレ 元気になるだったよね」
直樹「レストラーレ 元気になる」
典生「お前には、食べてくれるお客様が待ってる。お前の料理で幸せになりたい人が待っているん
だよ」
麗子「あなた、やりましょう。亮と純のためにも」
直樹「でもおれにはもう支えてくれるスタッフがいない」
ヴェルサイユのスタッフが出てくる。
修平「シェフ」
安奈・夏子・早季「シェフ」「シェフ」
達也・智也「シェフ」
あかり・かおり「シェフ」「シェフ」
茜「シェフ」
直樹「お前たち帰らなかったのか」
安奈「このレストランに何か忘れ物をしたような気がして」
茜「私たちはこのレストランを愛しているんです。一緒に働く仲間を」
典生「おれをスー・シェフとして使え。おれはお前の味を覚えている」
直樹「高畑さん」
35
高畑は、直樹の肩を叩く。
直樹「やってくれるか。おれと一緒に」
修平「ヴェルサイユのスタッフみんなが、その言葉を待ってましたよ」
麗子「あなた、がんばりましょう」
沙織、梨子、大がやってくる。
直樹「修平、食材はあるか」
修平「ヒレとフォアグラはあります。ただ魚介類が・・・」
有紀「大丈夫。ルリコさんなら新鮮な活きのいい魚を持ってるわ。みんな、一緒にルリコさんを探し
て」
梨子「携帯持ってないの?」
有紀「ルリコさんが持ってるのは包丁とはかりだけよ」
一志「ルリコさんなら、この時間だと東マンションの下あたりじゃないかな」
沙織「うち中華料理屋だから、アワビだったらいいのあるわよ」
大「父ちゃんに頼んで、寿司のネタ回してもらうよ」
文「私は、公園に行って見る」
有紀「お願い」
梨子「行きましょう」
子どもたちはルリコさんを捜しに行く。
修平「さあ、やるぞ!」
全員「おー!」
全員がてきぱきと働いている。幸介が到着する。
幸介「シェフ」
典生「おお着いたか。羽鳥、これがうちの幸介だ。一緒に経験させてやってくれ」
幸介「よろしくお願いします」
羽鳥「こちらこそよろしく」
陰で
典生「今から出す料理のすべて、おれが味をみる。その後、羽鳥に持っていけ」
幸介「わかりました」
2景 上手花道
○ 街(夕方)
上手花道でルリコさんを探している子どもたち。
沙織「そっちはどうだった?」
梨子「いないわ」
大「ルリコさんどこいったんだろう」
文「港の方に行ってみよう?」
一志「よし」
大「父ちゃん、頼むよ。友だちの家が大変なんだ」
森川「よーし、いつもは商売敵だかが、今回は敵に塩を送るか」
大「よ、父ちゃん、男だネエ」
子供たちは去る。
36
3景
○ 厨房
洋子がやってくる。
洋子「修平君、聞いたわよ。みんな張り切ってるわね。私も何か手伝おうか」
修平「洋子さんが! 感動です」
洋子、幸介の下手間をする。
修平「洋子さんが、おれのために来てくれた」
夏子「あほらし」
早季「幸せな人」
安奈「洋子さんって、昔、高畑さんところの幸介さんと付き合ってたんだって」
修平「うそ! あいつと。ショック! でも昔のことだろ昔の」
かおり「なんかいい感じじゃないあのふたり」
茜「そうねえ」
修平、手が止まっている。
直樹「修平、何ぼーっとしてるんだ。ヒレが焼けてるぞ」
修平「あ、いけねえ」
安奈「修平君。そんな姿を洋子さんに見せていいんですか?」
修平「みんなでおれのことからかいやがって」
夏子「賢示、今日のあんた、かっこよかったよ」
茜「100 年に一回ぐらいはいいこと言うわね」
あかり「賢示さん、見直しました」
賢示「そう、私よかった?」
早季「そのしゃべり方は気持ち悪いけど」
賢示「いうよねえ」
全員笑う。
梨子と文が下手から帰ってくる。
梨子「ルリコさん見つけてきたよ」
典生「みんなでかした」
修平「ルリコさん? ルリコさんって?」
文「ルリコさん? 本名朝岡ルリコ。元気で明るい美人です」
修平「元気で明るい美人で、名前が朝岡ルリコ。どんな人だろうな」
安奈「この浮気者」
沙織、一志、ルリコがやってくる。
ルリコ「何よ。引っ張らんといて」
典生「ルリコさん、今日なんかいいの残ってる?」
ルリコ「私の魚に悪いものなんてないよ。寒すずきどう? 安くしとくよ。オープン戦阪神勝った
から」
典生「いいね。幸介、さばいてくれ」
幸介「分かりました」
修平「文ちゃん、ルリコさんってこの人?」
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文「そうだよ」
修平「元気で明るくて美人の朝岡ルリコさん?」
ルリコ「なんか文句ある?」
修平「いや、別に・・・」
ルリコ「あんたええ男やね。阪神の鳥谷に似とるよ」
歌「やるぞ」
さあ 作るぞディナー 最高のディナー
さあ 三ツ星光る レストランにしよう
サミットの審査は あしたまで
残りの時間は 後わずか
前菜 スープに 肉料理 魚料理に 氷菓子
デザート ワインに フランスパン
力を合わせて 時計の針がグルグル回る
グランメゾン それは恋 だれもが憧れるお店
(グルグル回る 時間はないぞ 目玉も回るいそがしさ)
グランメゾン それは愛 食をいとおしむまなざし
(忘れていたわ 親はだれでも 子供の幸せ願うもの)
一流の料理 一流のおもてなし 一流のお客様 (子どもにとって一番大切なものは愛されている実感)
おれはきっと この白いお皿に 朝焼けの森を描いてみせる
ぼくはいつか お父さんのようなシェフになるよ
(子どもたちは私がきっと守ってみせる)
わたしは生きる道を見つけたわ お父さんのすごさを感じている
(グランメゾンそれは恋 グランメゾンそれは愛)
(いつも君はそばにいてくれた)
レストラーレ 元気を出して あともう少し
疲れて眠り出す。
レストラーレ 元気を出して
智也「先輩、もう立ち上がれません」
達也「おれもだ」
智也「先輩、体はくたくただけど、何か・・・いいっすね」
達也「もう辞めるんじゃなかったのか」
智也「ひと眠りして考えます」
達也「いい夢みろよ」
典生「みんなよくやった」
38
オーナーがやってくる。
小柳「みんな聞いてくれ。今外務省のみなさんがお帰りになった。サミットの会場の件だが、正式の
決定は1週間後。しかしヴェルサイユで開催されるつもりで準備してくださいということだ。決
定の理由は料理の質、サービスの質だそうだ」
みんな抱き合って喜ぶ。
修平「洋子さん、ありがとうございます」
安奈「私たちの実力からすると当然よね」
あかり「サミットか。わくわくする」
かおり「ワインいっぱい注文くるだろうな」
直樹「高畑さんありがとうございます」
典生「お前の力だ。そしてお前の育てたヴェルサイユのスタッフの力だ。だが、お前が本当に食べて
もらいたいお客様は、もう一人いるんじゃないのか」
直樹「はい。麗子、亮」
麗子「みなさんありがとうございます。お一人お一人にお礼を申し上げなければならないところで
すが、今日は私たち家族に時間をください」
賢示「亮くん、よかったね」
亮「うん」
茜「あなたが泣いてどうするの」
賢示の頭を叩く。
直樹「みんなありがとう。ヴェルサイユのスタッフは私の誇りだ」
全員拍手で送る。
7場 幕前
○ 羽鳥家居間(夜)
直樹、麗子、亮が食卓についている。
麗子「純ちゃん」
純が出てくる。
直樹「純、食べよう」
亮「お姉ちゃん。みんなが作ったんだよ」
純は席に着く。
直樹「4人そろうのは何年振りかな」
麗子「お父さんがヴェルサイユのシェフなった時のお祝い以来よ」
亮「いただきます」
直樹・麗子「いただきます」
みんな純をみている。純、ゆっくりとフォークを取る。一口食べる。
亮「どう?」
純「おいしい。ピーマンの苦味がほんのりして」
直樹「亮、やるなあ。お父さんの作った根セロリ・じゃがいも・ニンニク入りのオニオンスープは」
39
純はスープを飲む。
純「おいしい。根セロリの歯ごたえがこりこりしてて」
麗子「純ちゃん、亮ちゃんやお父さんみたいにはいかないけど、お母さんの作ったきんぴらごぼう」
亮「お母さんの料理か。久しぶりだなあ」
亮、直樹、純は小皿にとっていっせいに食べる。
亮・直樹・純「からーい」
自分も味見をしてみる。
麗子「からーい」
純「お母さん、砂糖と塩を間違って入れたんじゃないの」
麗子「え、砂糖いれるの?」
亮・直樹・純「あたりまえでしょ」
全員笑う。
純「お父さん、お母さん、亮ちゃん。私、がんばるから、また学校いくから」
麗子「純ちゃん」
麗子泣いている。
直樹「さあ、食べよう。うまい。うまいな。こんなに楽しい夕食はひさしぶりだ」
亮「おとうさん、味分かるの?」
直樹「あれ、分かるぞ。味が分かる。お母さんのきんぴらごぼうのショック療法が効いたのかな」
麗子「何よ」
全員笑っている。
直樹「亮、純、ありがとう。今回はお前たちに教えられた。おれはこれから人を元気にする、人を幸せ
にする料理を作っていく」
亮「レストラーレだね」
直樹「そうだ」
8場(夜)幕中
1景
○ ヴェルサイユ
サミットが終わり、小柳、茜、修平がマリア、アルベール、ソンヨンにお礼を言っている。
マリア「I want to express my gratitude to the staff of this summit.」
茉莉「今回のサミットのスタッフにお礼がいいたいそうです」
小柳「羽鳥君を呼んでくれ」
修平「はい」
修平は羽鳥以下スタッフを呼びにいく。スタッフみんなが出てくる。
小柳「シェフの羽鳥です」
茉莉「He is the Chef Hatori.」
マリアは羽鳥に近づいて、握手をして
マリア「It’s my pleasure to host the summit at this restaurant. I’m very satisfied for the menu and service
provided by the staff. Your hard work is truly appreciated .Thank you so much.」
40
茉莉「このレストランで、サミットを開催できたことに喜びを感じます。料理、サービスとも大変満
足いたしました。レストランのスタッフみなさんに感謝の意を表します」
スタッフ全員歓喜の声をあげる。
アルベール「Avant de venir au Japon、 c’etait le repas、qui m’a enquillete le plus.
Mais le niveau eleve de la cuisine francaise au Japon m’a vraiment etonnee! J’avais eutendu par le chef du
“TROISGROS” 、 qu’il avait au Japon un excellent cuisinier 、 qui avait travaille a son restaurant.
Vraiement! C’etait un gout merveilleux! Vous etes un chef representatif、 d’une classe mondiale!」
茉莉「来日する前、食事が一番心配でしたが、日本のフレンチのレベルの高さには驚かされました。
トロワグロのシェフが、日本にはうちで働いていた優秀な料理人がいると聞いていましたが、本
当に見事な味でした。あなたは世界を代表するシェフのひとりです」
修平「世界を代表するシェフだってよ」
羽鳥「ありがとうございます。しかし、今夜の料理は私の料理では・・・」
典生「Bien sur! Hatori est un chef superbe、 representatif du Japon !」
羽鳥「高畑さん・・・」
修平「なんて言ったんだ?」
洋子「羽鳥さんは、日本を代表する最高のシェフです」
修平「洋子さんフランス語分かるんですか」
川内「それでは次の公式行事がありますので」
羽鳥は、マリア、アルベールと握手を交わす。
マリア、アルベール、川内、小柳は去る。
洋子は、幸介に話し掛ける。
洋子「私、今回のことでもっと深く料理を勉強したいと思ったわ。迷ってたんだけど、決心した。4
月からフランスに留学する」
幸介「そうか」
洋子「本当は幸介も一緒にフランスにいってもらいたかったんだけど・・・。思いきって言っちゃ
った。気にしないで」
幸介「おれはもう少し高畑さんのところで勉強する。洋子はフランスでがんばれ。おれは、もう一回
り大きくなってから、洋子を迎えに行く」
洋子「幸介・・・」
修平「何話してるんです?」
洋子「修平君、いろいろお世話になりました。しばらく会えないと思うけど、一流のシェフになって
ね」
洋子と幸介は去る。
修平「会えない? どうして」
夏子「洋子さん、フランスへ留学らしいよ」
修平「そんなあ」
直樹は典生のところへ来る。
直樹「高畑さん、今回のサミットの成功は・・・」
典生「何も言うな。お前はもう日本を代表するシェフとしての力を持っている」
直樹「いい料理人になれるようにがんばります」
41
直樹は去る。
有紀「お父さんってやっぱり一流のシェフだったんだね。でもどうして本当のことを言わなかった
の? あの料理は自分が作ったって」
みどり「それがお父さんの生き方やから」
有紀は典生のところへいく。
有紀「お父さん、こんな生き方も悪くないね」
典生「こいつ」
2景
歌「魔法のお皿」
That’s a magical dish.
君の心の中にある真っ白なお皿知ってるかい?
誰も持ってるピカピカの光輝くお皿さ
君のお皿はサラダでいっぱい サラダサラダサラサラダサッサー
ボクのお皿は涙でいっぱい ポロロポロロポロローン
今日も一日元気で行こう いただきますで始めよう
しょっぱい涙のスープでも 君と一緒ならおいしいね
That’s a magical sauce.
君の心の中にある虹色のソース知ってるかい?
どんな料理もおいしくなるすごい魔法のソースさ
ボクのソースはカカオでいっぱい カカオカカオカオカカオソース
君のソースは笑顔でいっぱい シャララシャララシャララーン
今日も一日素敵な日だったね ごちそうさまでさようなら
苦手な野菜のサラダでも 君と一緒なら楽しいね
君のお皿はサラダでいっぱい サラダサラダサラサラダサッサー
ボクのお皿は涙でいっぱい ポロロポロロポロローン
今日も一日元気で行こう いただきますで始めよう
しょっぱい涙のスープでも 君と一緒ならおいしいね
歌「人生の味」
子どもは愛される甘さを知り 少年は悲しみの辛さを知る
青年は虚しい苦さを知って 人は道を歩いていく
人生はひとつの料理 甘味も辛味も苦味もあって
生きていく素晴らしさの旨味をじっと味わうのさ
だから今は自分の味をしっかりと受け止めて
緞帳降りる。
カーテンコール「料理対決」
42