卒業論文

卒業論文
ブランドによる消費者のアイデンティティ形成についての一考察
‐他者との関係形成‐
中村学園大学流通科学部 4 年
明神ゼミ所属
学籍番号 10B424
氏名 権藤 夏実
2014 年 1 月 10 日提出
目次
第 1 章 序論 .......................................................................................................................... 2
第 1 節 問題意識 ............................................................................................................... 2
第 2 節 本論文の構成........................................................................................................ 2
第 2 章 ブランドの購買動機とアイデンティティに関する文献レビュー ........................... 3
第 3 章 ブランドによる消費者のアイデンティティ形成の調査 .......................................... 6
第 4 章 ブランドによる消費者のアイデンティティ形成の調査結果 .................................. 7
第 5 章 アイデンティティ形成と他者との関係性についての考察 .................................... 10
第 6 章 結論 ........................................................................................................................ 13
<引用文献> ........................................................................................................................ 14
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第1章
序論
第 1 節 問題意識
本論文の目的は、ブランドと消費者の関係を考察することである。
本論文の問題意識は、自分自身とブランドとの関わり方にある。私は洋服を買う際に、
まず自分が好きなブランドの店へ行き買い物をする。そのブランドで気に入った洋服がな
ければ、そのブランドの次に好きなブランドの店を見に行くといったように、好きなブラ
ンドをいくつかあげて、その中から選ぶといった買い物の仕方をしている。また、好きな
ブランドの洋服と似たようなデザインの洋服が他のブランドで安い価格で販売されていた
としても、自分の好きなブランドの中から選んで買ってしまう。
このことを友人に話した際に、共感を得ることができた。その友人も、洋服を買う際は
いくつかある好きなブランドの中から選んで買い物をすると答えた。
日常生活を振り返ってみれば、洋服だけに限られることではなく、普段の何気ない買い
物の中でもこの行動が表れているということに気付いた。例えば、コンビニやスーパーで
ペットボトルのお茶を買う際にも、パッケージを見て、見たことのないブランドのお茶が
安く販売されていたとしても、CM で放送されているような誰もが知っているお茶を買って
しまう。
こういった経験から、無意識の内にブランドを選んで買い物をしているのではないかと
考えた。では、どのようにブランドを選んでいるのか消費者との関係を考察していき、ブ
ランドと消費者の関係について明らかにしていきたい。
第 2 節 本論文の構成
本論文では、以下の構成で議論を進める。まず第 1 章では、自分とブランドとの関わり
方から問題意識を述べる。
第 2 章では、ブランドの購買動機に関する文献レビューを通して、購買動機はアイデン
ティティだけで説明できるのではないか、という考えを述べる。
第 3 章では、ブランドによる消費者のアイデンティティがどのように形成されるのか知
るための調査方法を述べる。
第 4 章では、ブランドによる消費者のアイデンティティがどのように形成されるのか知
るための調査結果を述べる。
第 5 章では、アイデンティティ形成と他者との関係性についての考察を述べる。
第 6 章では、ブランドと消費者の関係について、文献レビューやデプスインタビューを
通して調査した結果から、結論を述べる。
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第2章
ブランドの購買動機とアイデンティティに関する文献レビュー
ブランドと消費者の関係について、ブーフフォルツ(1998)は、ブランドの購買を動機
付ける秘策を「成長の法則」として法則化している。6 年間で 1,000 を超すブランドの成功
要因を分析し、分析結果を法則へと進化させ、28 の法則の体系化を試みた。そして、消費
者行動に基づく「便益」
「規範」
「認識」「アイデンティティ」
「感情」という 5 つのポータ
ルをつくった(同掲書、22 頁)
。
ここで 5 つのポータルについて前提と事例を用いて説明する。
第 1 の「便益」ポータルは、消費者は便益に優れたブランドを買い求めることを前提と
している。例えば、ホールズ(のど飴)はのどに与える独特な刺激を「のど飴のキス」と
翻訳し、消費者の興味をそそる空想の世界をイメージさせた。
第 2 の「規範」ポータルは、消費者は規範を守るのに役立つブランドを買い求めること
を前提としている。例えば、ホールマーク(グリーティング・カード)は他社の安物のカ
ードを相手におくる罪悪感を意識化させ、値段の高い自社のカードを購入することの正当
性を説いた。
第 3 の「認識」ポータルは、消費者は頭の中で最適と「認識」したブランドを買い求め
ることを前提としている。例えば、リグレーはガムを噛むことと喫煙に共通する、緊張を
解きほぐす効果に着目し、タバコ市場への開拓を図った。
第 4 の「アイデンティティ」ポータルは、消費者は自分を表現できるブランドを買い求
めることを前提としている。例えば、リーバイス(ジーンズ)は、誰もが憧れるヒーロー
像をブランドに備えさせ、消費者の強い関心を勝ち得ることに成功した。
第 5 の「感情」ポータルは、消費者は愛するブランドを買い求めることを前提としてい
る。例えば、アンドレックス(トイレットペーパー)は、パッケージの愛らしい子犬に本
能的に抱く愛情を引き出し、長年高い市場シェアを維持している。
この 5 つのポータルを読んで、私は「アイデンティティ」ポータルが自分自身の購買動
機に一番近いと感じた。なぜなら、自分を表現できるブランドを身に着けたいと思うから
である。また、好きなブランドの商品を持っている自分になりたい、という憧れの気持ち
もあり、好きなブランドを身に着けることで、その日のモチベーションにも影響されるか
らである。
アイデンティティについて、ブーフフォルツ(1998)は次のように述べている。
「何を消費するかもそれが人の目に触れる限り、アイデンティティと密接な関係を持
つ。どんな服装をしているか、スーパーのレジに何を置くのか、来客時に何を食卓でも
てなすか、どんな車に乗っているか、それらは個人のアイデンティティを雄弁に指し
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す。実は、ブランドに対する好みも、自らのアイデンティティを変えてみたい、強調し
たい、もっと理想に近づけたいといった願望からうまれることがある。ブランドは今や、
アイデンティティを規定する重要な手段となっている。」(同掲書、186 頁)
ブーフフォルツはアイデンティティについて、服装だけでなく、スーパーのレジに何を
置くかでさえ、消費するものが人の目に触れる限り、個人のアイデンティティと密接な関
係を持つと言っている。このことから、先ほど紹介した 5 つのポータルでの事例で「のど
飴のキス」と翻訳し消費者の興味をそそる商品はのど飴が欲しいと思っても「のど飴のキ
ス」と書かれていることで、その商品を買うのが恥ずかしくて買わないかもしれない。ま
たパッケージに愛らしい子犬が描かれているトイレットペーパーも、もしかすると中年の
男性にとってはスーパーのレジに置きにくく、買わない可能性があるかもしれない。
また自分を含め、友人や街中にいる人をみてみると、好きなキャラクターがあり、その
キャラクターのポーチやキーホルダー等を持ち歩く人は多いが、そのキャラクターが描か
れた洋服を外で着ている人はほとんど見ない。好きという感情だけでは、買わない商品も
あるということに、自分が周りの人に、どのような印象を持たれているのか気にするので
はないかと考える。
したがってブーフフォルツの述べる 5 つのポータルは全て消費者一人一人のアイデンテ
ィティが関係しており、消費者のブランドの購買を動機付ける秘策はアイデンティティだ
けで説明できるのではないかと考える。
とはいっても、アイデンティティはブーフフォルツが言うようなアイデンティティとは
異なり、商品だけでなくそのブランドの店の雰囲気も含まれているのではないかと考える。
店の雰囲気も含まれているということが『日経ビズテック』ではこのように書かれている。
「ファッション業界は「フィクション」を売る商売である。売る商品が、洋服やアク
セサリーそのものだけではないからだ。販売店のロケーションやインテリア、商品のデ
ィスプレイの仕方、店員の接客、買った品を持ち帰る袋のデザイン、広告宣伝など、品
物を取り巻くイメージを含めたすべてが本当の意味での「商品」なのである。つまり、
顧客は洋服と一緒に、ブランドイメージが醸し出す「あこがれ」や「親しみやすさ」「か
っこよさ」「美しさ」といった雰囲気を買うわけだ。」(2005 年 7 月 26 日号、138 頁)
この記事には、販売店のロケーションやインテリア等、品物を取り巻くイメージを含め
たすべてが「商品」であり、顧客は洋服と一緒にブランドイメージが醸し出す雰囲気を買
う、と書かれている。私もブランドを好きになるきっかけとなるのが、店の雰囲気に惹か
れることが多いため、この記事に共感した。商品の可愛さも重要なのだが、その店の雰囲
気の中で商品を買うことに喜びを感じることが多い。価格が高い安いとは関係なく、その
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店自体の雰囲気に魅了されているため、似たようなデザインの洋服が他のブランドの店で
安く販売されていても、自分が好きな雰囲気のブランドを選んで買っているのだ。
また同じブランドの店でも、店舗によってインテリアや商品のディスプレイの仕方の違
いで全く違うブランドに見えることがある。したがって品物を取り巻くイメージを含めた
全てが重要だと考える。
ブランドが作る自己表現とはどういうものなのか考えてみると、鷲田(1989)は次のよ
うに述べている。
「きょうはどんな服を着ていこうかな?もう六月だし間服ではみっともないかな?そ
ろそろ散髪に行ったほうがいいかな?こんなことを考えながら、きょうのこのぼく自身
を含め、みんなが毎日鏡をのぞいたり、箪笥を開けたり、ショッピングに出かけたりし
ている姿を想像すると、おしゃれを楽しんでいるというよりもむしろ、ちょっと大げさ
な言い方になりますが、ぼくたちがみな何かある底知れない《存在の不安》といったも
のに急き立てられているかのようにおもわれてしかたがないのです。
そして、他者と共謀して、このような不安を押し隠し、<私>というものの確固とし
たイメージのなかに自分を密封しようとする行為、それが「身だしなみ」ということで
はないかとおもうのです。自分たちの可視性を一定のスタイルに同調させた上で、しか
もその共通の水準から自分の可視性をわずかにずらし、その微小なずれに<私>の固有
性を託す、そういう可視性の変換プロセス、それがファッションという現象であり、し
たがってファッションは、ぼくたち一人一人を象り、それぞれが他ならぬこの<私>と
なるための装置として機能しているではないか、ということなのです。
そしてこのように考えはじめて、ファッションが、ぼくたちが自分の存在の輪郭をな
ぞりながら自分と自分でないものとを区別していくという、およそ《世界》と関係しう
るための最も基礎的なプロセスに関係していることが、理解できるようになるとおもわ
れるのです。」(同掲書、38-39 頁)
鷲田は、みな何かある底知れない《存在の不安》に急き立てられ、この不安を押し隠し
<私>というものの確固としたイメージの中に密封しようとする行為、それが「身だしな
み」ということではないだろうか。したがってファッションは、一人一人を象り、それぞ
れが他ならぬこの<私>となるために機能しているではないかと述べているが、これはブ
ランドの姿を上手に表現していると考える。
私にとってファッションは自分の分身とも言え、ファッションで自分がどういう人間な
のか表現している。自分がどういう人間であるのか自分で決めることができ表現すること
ができるからこそ、不安になり、ファッションで象ろうと努力すると考える。
そこで、ブランドによる消費者のアイデンティティ形成を知るため調査を行う。
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第3章
ブランドによる消費者のアイデンティティ形成の調査
ブランドによる消費者のアイデンティティがどのように形成されているか調査するにあ
たって、1 対 1 で対話をしていく中で、本人が自覚をしていない意識までを探ることができ
るデプスインタビューを行う。
対象者は、中村学園大学に在学中の女子空手道部員 7 名である。対象者の設定理由は、
第 1 にターゲットを大学生に絞りブランドとの関わり方を探ろうと考えたからである。第 2
に毎日身に着ける洋服だけでなく、スポーツをしている人にとってはジャージも着る頻度
が高く、洋服とは違った視点でブランドとの関わり方を探ることができると考えたからで
ある。
そこで、質問内容も普段着る洋服と部活で着るジャージを買うまでの一連の流れだけで
なく、価格の差で好きなブランドと無名のブランドのどちらを選ぶのかもインタビューす
ることによりブランドを通して、アイデンティティが形成されているのか探る。
また序章で述べたように、自分自身がお茶を買う際にも価格よりもブランドに注目して
選んでいるため、身に着ける洋服だけでなくコンビニやスーパーで買うペットボトルのお
茶に関しても、アイデンティティの形成が関係しているのか探る。
調査の実施概要は、以下の通りである。
調査方法:デプスインタビュー(15 分/1 人)
調査対象:中村学園大学空手道部 女性 7 名(大学 1 年~4 年)
調査時期:平成 25 年 11 月 6 日(水)
質問内容
①洋服を買うまでの流れ
・もし、好きなブランドの洋服と似たようなデザインで同じ価格の洋服が無名ブランド
でも販売されていた場合、好きなブランドと無名ブランドのどちらを選ぶか。
・その洋服が無名ブランドの方が安かったら、どちらを選ぶか。
②ジャージを買うまでの流れ
・もし、有名ブランドのジャージと似たようなデザインで同じ価格のジャージが無名ブ
ランドでも販売されていた場合、有名ブランドと無名ブランドのどちらを選ぶか。
・そのジャージが無名ブランドの方が安かったら、どちらを選ぶか。
③コンビニやスーパーでペットボトルのお茶を買うまでの流れ
・もし無名ブランドのお茶の価格が安かったら、最初に選んだお茶とどちらを選ぶか。
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第4章
ブランドによる消費者のアイデンティティ形成の調査結果
空手道部に所属する女子大学生 7 名にデプスインタビューを行った結果は、
・A(大学 4 年生)
① 天神のソラリアやゆめタウンで好きなブランドをいくつか周り、その中から気に入った
洋服があれば買う。好きなブランド以外にも、気になる洋服があればその店に入る。
<同じ価格>好きなブランド
<安い価格>無名ブランド
② スポーツショップへ行き、有名ブランドのジャージコーナーへ行く。
<同じ価格>有名ブランド
<安い価格>有名ブランド
理由…ジャージはロゴがあり、着るとブランドが分かるから、値段が高くても有名ブラン
ドを着たい。無名ブランドは買わない。普段着る洋服は、見た目でブランドが分か
らないため、安ければ無名ブランドの洋服を買う。
③ お茶は 98 円の安いお茶を買う。ブランド関係なく値段で選ぶ。美味しいものにこだわ
りがなく、味の違いがわからない。気が向いたら綾鷹を買う。
・B(大学 3 年生)
① 天神のソラリアにある好きなブランドにまず行き、仲の良い店員さんに選んでもらう。
行くごとに 2~3 着は買う。ほとんどその好きなブランドで買うが、他のブランドの店で
も欲しいと思った洋服があれば買う。
<同じ価格>好きなブランド
<安い価格>好きなブランドで値下げがないか聞いて、迷って無名ブランドを買う。
② 大型のスポーツショップへ行き、とりあえずデザインを見て価格を比較しつつ選ぶ。
<同じ価格>有名ブランド
<安い価格>有名ブランド
理由…ジャージはブランドで選ぶ。無地のインナー等、見えるものでなければ無名のブラ
ンドでもいいが、見えるものは高くてもブランドを選ぶ。
③ 爽健美茶を買う。理由は味が一番好きだから。無名のブランドでも 100 円をきっていた
ら買う。コンビニでは、有名ブランドと無名ブランドで価格の差が大きいので安い方を
買うことが多いが、スーパーでは有名ブランドと無名ブランドの価格の差があまりない
ので、無名ブランドは買わない。
・C(大学 3 年生)
① 天神のコアやビブレで好きなブランドをいくつか周り、そのブランドの店に行くまでに、
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他のブランドの店でいい洋服があればその店も見る。全部見て回った後に、どこで買う
か決める。
<同じ価格>好きなブランド
<安い価格>無名ブランド
② 大型のスポーツショップへ行き、ジャージが安く販売されているコーナーを見に行く。
そのコーナーで気に入ったジャージがなければ、有名ブランドのコーナーへ見に行く。
<同じ価格>有名ブランド
<安い価格>無名ブランド
理由…ジャージに求めるのは安さである。そして空手の道着に合う色やデザインにも重視
している。
③ 一番安いお茶を買う。安さ重視。価格が同じであれば、お~いお茶を選ぶ。
・D(大学 2 年生)
① 天神のコアやパルコで好きなブランドをいくつか見て周り、惹かれたらすぐ買う。知ら
ないブランドでも買う。古着屋とかでも買うことが多く、デザインや色が人とかぶらな
い個性がある洋服が好き。
<同じ価格>好きなブランド
<安い価格>無名ブランド
② スポーツショップに行き、色やデザインを重視する。
<同じ価格>有名ブランド
<安い価格>有名ブランド
理由…ジャージは着なれているということから、有名ブランドがいい。洋服は価格が安け
れば無名ブランドでいいが、ジャージは価格の差があっても有名ブランドがいい。
③ お茶は綾鷹を買う。理由は他のお茶より美味しいから。お茶は味で選ぶ。安いお茶を買
うときもあるが、一度買って美味しくなかったら二度と買わない。
・E(大学 2 年生)
① 天神にある好きなブランドを一通り巡って、もう一回行って買う。通りすがりのブラン
ドの店でも、欲しいと思ったら買うこともある。
<同じ価格>好きなブランド
<安い価格>無名ブランド
② 大型のスポーツショップで自分が好きなブランドのコーナーをみる。
<同じ価格>有名ブランド
<安い価格>有名ブランド
理由…ジャージは洋服と違ってロゴがあるからそれを気にする。無名のブランドよりは、
みんなが知っているブランドを着た方がかっこいいから。
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③ お茶は綾鷹を買う。理由は美味しいから。味を重視するのでお茶の値段の差は気にしな
い。パッケージが可愛かったり、新商品だったりしたら安いお茶を買う場合がある。
・F(大学 2 年生)
① 友人に、欲しい洋服を相談して、一緒に買いに行く。好きなブランドはなく、安くて気
に入った洋服を買う。安さ重視。
② サンリブに行く。ブランドとかではなく、デザインと値段で決める。ブランドは高いの
で安い方がいい。安すぎる商品は素材が不安になるから、有名ブランドの方が頑丈なイ
メージで買う可能性もある。
③ 98 円の UCC のお茶を買う。理由は、安いから。これ以上安いお茶があったら一度は買
うが、美味しくなかったら二度と買わない。綾鷹が安かったら綾鷹を買う。
・G(大学 1 年生)
① 友達にきいて情報を集め、勧められた場所に友達と一緒に買いに行く。ブランドのこだ
わりがない。デザインと値段で決める。
② 大型のスポーツショップに行き、メンズコーナーの有名ブランドをみる。
<同じ価格>有名ブランド
<安い価格>有名ブランド
理由…有名ブランドしか見ない。有名ブランドには安心感がある。洋服とは違って、ジャ
ージの方が選びやすいからジャージは有名ブランドを選ぶ。
③ 綾鷹を買う。安いお茶が目に入るか入らないか、お金があるかないかで安いお茶を買う
可能性がある。
以上の結果をまとめると、①洋服を買うまでの流れ、については 7 人中 5 人が好きなブ
ランドがあり、そのブランドの洋服を中心に買い物をする。そして好きなブランドがある 5
人中 5 人とも、価格の差があれば無名ブランドを選ぶ。つまり、無名ブランドが安ければ、
無名ブランドを選ぶということだ。
②ジャージを買うまでの流れ、については 7 人中 5 人が、価格の差関係なしに有名ブラ
ンドを選ぶ。つまり、無名ブランドのジャージが安くても有名ブランドを選ぶ。洋服では
価格が安ければ無名ブランドを選ぶ人が、ジャージでは有名ブランドを選んでいた。
③コンビニやスーパーでペットボトルのお茶を買うまでの流れ、については味で選ぶ 4
人、価格で選ぶ 3 人。味で選んだ 4 人も、価格で判断して買うこともあるが、好みの味で
なければもう買うことはないと答えた。今回の調査では、お茶を買う際にブランドを意識
するのかはっきりとした結果は出なかった。
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第5章
アイデンティティ形成と他者との関係性についての考察
デプスインタビューを行う中で、洋服は無名ブランドが安ければ無名ブランドを選ぶ理
由を聞いてみると、洋服のボーダー柄やチェック柄等、見た目ではブランドが分からない
ため、ブランドのこだわりがなく、価格が安ければ、好きなブランド関係なしに無名のブ
ランドを選ぶと答える人が多かった。
しかし、価格の差があれば洋服のブランドにこだわりがない人でもジャージのブランド
にはこだわっていた。ジャージは洋服と違ってブランドのロゴがジャージに記載されてお
り、どこのブランドのジャージを着ているのか一目で分かるため価格の差があっても、誰
もが知っている有名ブランドのロゴが入ったジャージを選んでいる、という答えが出た。
空手の試合で他大学のジャージを見てみると、どの大学も有名ブランドのロゴが入った
ジャージを着ており、そのブランドのイメージがついている。自分の大学で新しくジャー
ジを買おうと部員で話し合う際も、まずブランドをどこにするか話し合う。そしてその話
し合いの中で、他大学が着ているブランドのデザインと被らないようにしようとはなるが、
被らないために無名ブランドのジャージを買おうとはならない。
したがって、スポーツをする人にとってはジャージのブランドでアイデンティティを形
成しており、他大学の空手道部をジャージのブランドでも覚えていることから、自分が身
に着けるジャージも無意識に有名ブランドが着たいと思うのではないかと考える。
ファッションとは存在の不安からの解放とあったが、ジャージの例で、他者との関係の
構築を作ることだと分かった。このことについて、鷲田(1989)は次のように述べている。
「身体の輪郭、それはぼくたちがふつう想像しているよりはるかに曖昧なものです。
そしてぼくたちは、自分の輪郭を最終的に確定できないまま、自分の存在をまさに無防
備に他者の視線に晒しつつ他者と関係しているわけですから、ぼくたちの存在の底はい
つもある深い不安に蝕まれていることになります。自分が他人の目にどのように映って
いるか、それが気になって仕方がないわけです。だから、それをチェックしようとして、
ぼくたちは一日に何度も鏡をのぞきこんだりするわけです。
けれどもよく考えてみれば不安なのはなにもこの<私>だけではありません。<私>
を見ている他の<私>、彼もまた同じ不安にとりつかれているはずです。そこでこの不
安をかき消そうとして、ぼくたちはたがいにまなざしあうその視線を共有しようとしま
す。他者と共謀してこの同じ不安に対処しようというわけです。
私が他人を見るその様式と同じ様式で他人も私を見ている、私が自分をイメージする
そのやり方と同じやり方で他人も自分をイメージしている、そのことを確認することに
よって、自分の可視性のなかの裂け目を、さらには自分の可視性と他者の可視性との間
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のギャップを埋めようとするわけです。」(同掲書、35-36 頁)
鷲田は、曖昧な身体の輪郭を確定できず不安なのは私だけではなく、私を見ている他の
私もまた同じ不安にとりつかれていて、そこで他者と共謀して同じ不安に対処している。
私が自分をイメージするそのやり方と同じやり方で他人も自分をイメージしていることを
確認することによって、ギャップを埋めようとしている、と述べている。
私が好きなブランドに対して持っているブランドのイメージは、他の人にとっても同じ
イメージだと考えていることからこの文献に共感した。この考えがあるため、無意識の内
にスポーツをする人にとって、ジャージに対するブランドのこだわりがあり、またブラン
ドで話したことがない相手のことをイメージすることから、ブランドがコミュニケーショ
ンツールにもなっていると考える。
ブランドが他者との関係を構築することが、活動のコミュニケーションの場で重要だと
いうことを、石井(1999)は次のように述べている。
「これまでの伝統的なコミュニケーション像とは、
「発信者」の意図する「メッセージ」
が、確かな「メディア」を経て、雑音に邪魔されながらも「受信者」に伝わる、という
ものであった。明確なメッセージ、雑音の入らない通路、そして正確に情報を受け取る
受け手といった存在が、モデルのあるべき姿として強調される。このモデルを簡単に、
「価
値通路(型コミュニケーション)モデル」と呼ぼう。」(同掲書、198 頁)
「マーケティング研究において、戦略論やマネジメント論に並ぶもう一方の柱は消費
者行動研究である。そこでもこの価値通路モデルは浸透している。「消費者は価値あるも
のを選択する」という理論は、価値がすでにして前提にあり、それがそのまま消費者に
伝わることを想定している。後は、消費者が、どのような選好構造や情報処理構造をも
っているかによって、結果は一義的に決まってくると考えられている。」(同掲書、200
頁)
「心に留めておきたいことは、第一に、これまでのマーケティングの現実を理解する
ための枠組みは、価値通路モデルの理解の上に成り立っていたがために静学的な理解に
とどまらざるをえなかったという反省であり、そして第二に、マーケティングの現実を
理解する上で、メディアとメッセージとが交錯しあう中で歴史が切り開かれるというダ
イナミックな視点をもつことの重要性である。」(同掲書、201-202 頁)
石井は、明確なメッセージを正確に受けとる存在がモデルのあるべき姿として強調され
る。
「消費者は価値あるものを選択する」という理論は、価値がすでにして前提にあり、消
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費者がどのような選考構造や情報処理構造をもっているかによって、結果が決まってくる。
マーケティングの現実を理解する上で、メディアとメッセージが交錯しあう中で歴史が切
り開かれるという視点をもつことが重要である、と述べている。
このことから、ブランドのイメージは企業が決めるのではなく、受け取る消費者の解釈
によって決まることから、企業と消費者の間でのコミュニケーションが重要だということ
が分かる。今回の調査では、大学間のコミュニケーションにおいて、ブランドがコミュニ
ケーションツールとなっており、試合で他大学の部員に会う時にジャージのブランドによ
ってお互いをイメージし合いコミュニケーションをとっている。そうすることで他大学と
の関係を構築している。
今回の調査ではジャージだが、ビジネス界でもアイデンティティに注目しており『日経
トップリーダー』ではこのように書かれている。
「ブランドは「人格」に例えられる。どんな人も時代によって着る服は変わっていく
が、根本的な「その人らしさ」は変わらない。その「らしさ」こそがブランド。ブラン
ドを守るということは、その人柄を愛してくれた人を決して裏切らないこと。」(2013 年
8 月号、25 頁)
この記事には、ブランドは「人格」に例えられる。根本的な「その人らしさ」は変わら
ず、その「らしさ」こそがブランドである、と述べられている。
このことから、ブランド=アイデンティティと考えてよいぐらいアイデンティティはブ
ランドにおける重要性があるのではないかと考える。
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第6章
結論
私たちが無意識の内にブランドを選んで買い物をしている中で、どのようにブランドを
選んでいるのか消費者との関係について研究してきた。
その中で、ブーフフォルツ(1998)は、ブランドの購買を動機付ける秘策を「便益」
「規
範」
「認識」
「アイデンティティ」
「感情」の 5 つの要因に分けて説明していた。しかし、何
を消費するかが人目に触れる限り、アイデンティティと密接な関係を持つことから、ブラ
ンドの購買動機はアイデンティティだけで説明できると考えた。
ブランドが作る自己表現とはどういうものなのか鷲田(1989)によれば、存在の不安を
ファッションで自分と自分でないものとに区別していると述べていた。
そこでファッションブランドによる消費者のアイデンティティがどのように形成される
のか知るために調査を行った。運動部に所属する女子大学生 7 名に洋服とジャージのブラ
ンドのこだわりをデプスインタビューした結果、洋服とジャージでブランドに対するこだ
わりが違うことがわかった。
その理由として、洋服は見た目でブランドが分からないため、無名ブランドが安ければ
無名ブランドを選ぶ。しかし、ジャージにはブランドのロゴが記載されているため、無名
ブランドで価格が安くても、ロゴにこだわりを持ち有名ブランドを選んでいた。
このことから、スポーツをする人にとっては、ジャージでアイデンティティを形成して
おり、ブランドにこだわりを持っているということが分かった。そしてジャージのブラン
ドは部活動においてお互いのイメージを作っていることから、他大学とのコミュニケーシ
ョンツールにもなっていることが分かった。
以上のことから、ブランドと消費者の関係はジャージの例より、その人が大事だと思う
ものには、こだわりのブランドとして表れ、アイデンティティを形成している。また部活
動において、ジャージのブランドは他大学とのコミュニケーションツールとなっているこ
とから、他者との関係を構築していることであった。
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<引用文献>
【引用文献】
1. Andreas Buchholz & Wolfram Wordemann ( 1998 )“ WAS SIEGERMARKEN
ANDERS MACHEN , WIE JEDE MARKE WACHSEN KANN”, Econ Ullstein List
Verlag GmbH&Co.KG.(井上浩嗣・松野隆一訳『あのブランドばかり、なぜ選んでし
まうのか』東洋経済新報社、2002 年)
2. 石井淳蔵(1999)
『ブランド』岩波新書。
3. 鷲田清一(1989)
『ファッションという装置』河合出版。
【引用資料】
4. 『日経トップリーダー』
「ブランドを守るために 苦しい時はこう乗り切れ」2013 年 8
月号、p.25。
5. 『日経ビジテック』
「なぜあのシャツはその価格になるのか 文◎江波尚一」2005 年 7
月 26 日号、pp.138-141。
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