高精度クロックを用いたネットワーク計測と その応用に関する研究 北口善明 要旨 インターネットが重要なインフラとなるにつれ,ネットワークの品質管理の必 要性が増してきている.そのため,現在のトラフィック量や回線のエラー発生率 などを正確に把握することが運用上重要となる.このネットワークの状態を正確 に計測する為には,計測するネットワーク両端の機器の時刻精度が大きく影響し, 精度良く同期している必要がある. 一方,現在一般的に利用されている PC(AT 互換機)では,自身の時間保持の ために水晶発振子による内部時計を持っている.一般的な水晶発振子の時間精度 低く,高精度な時刻情報を保持することが難しいため高速ネットワークにおいて ネットワーク計測を行う場合に問題となる. 本研究では,安価で汎用性の高い PC を用いて高精度な時刻情報を扱えること を可能とする機器の開発を行った.高精度な時刻情報を扱うために,PC 単体での 時間情報を高精度に安定させたものを目指し,数百ナノ秒での時刻情報を扱える ことを目指して研究を進めた.この精度は GPS 時刻を利用したハードウェアによ る実装に匹敵するものである. また,本研究の最終的な目標である広域での高精度時刻同期を目指し,単体の 時間精度とは別に,広域での時刻同期精度向上についても研究を進める.そのた めに,新しい時刻同期向上手法の提案を行い,マイクロ秒精度でのネットワーク 時刻同期手法の確立を目指す.なお,提案するネットワーク時刻同手法にはアク ティブネットワークの概念を基にしているが,この手法はアクティブネットワー クの普及を前堤にしたものではなく,ルータにおける拡張機能として提案するも のである. 第 3 章では,広帯域ネットワークで必要とされる時刻精度を実現するために開 発を行った高精度時刻 PC の開発について述べる.実装方法には PC で利用されて いる水晶発振子を外部からの高軽度周波数源により置き換えを行う方法を用いて いる.一般の PC の場合との精度比較を NTP を用いて評価し,一日の標準偏差で 200 ナノ秒の時刻精度を実現した.また,現状の PC アーキテクチャにおいて必要 十分な時間周波数精度の評価として,利用する時間周波数源による PC の時間安 定度を測定し,安価に構築するために最適な時間周波数源を決定している. 第 4 章では,開発した高精度時刻 PC を用いたネットワーク計測の一例として, ネットワーク帯域推定技術を取り上げる.帯域推定手法に One-Packet 計測手法を 用い,現状の ICMP を用いた One-Packet 計測手法に比べて推定精度を向上させる 手法として,高精度時刻 PC をもちいた UDP 片道遅延時間による計測手法を提案 する.この提案手法を従来の手法との精度比較を実施した.その結果,本手法に より精度を一桁から二桁改善することが可能であった.また,高精度計測により 明らかとなった広帯域ネットワークにおける NIC(ネットワークインターフェー スカード)の影響について述べる. 第 5 章では,広域における時刻同期の精度向上を図るために,ルータのキュー 長を基準にパケットの破棄を決定する「パケット自己消滅手法」を提案する.提 案手法では,最大キュー長制限方式(MTQ 方式)と全キュー長制限方式(QTL 方 式)の二方式による制御を可能とする.まず,現状のネットワーク時刻同期精度 を高精度時刻 PC を用いて評価し,提案手法にて目標とする時刻精度を示す.次 に,提案手法をシミュレーション評価し,実装による実証実験により時刻精度向 上が実現できることを明らかにした. 最後に第 6 章にて本研究論文における研究成果をまとめ,残された今後の研究 課題に関して論じる.
© Copyright 2024 Paperzz