海運業の発達と現状⑥

ひめぎん情報 ■ 2013.秋号
海運業の発達と現状⑥
~世界に誇れる地場産業『愛媛船主』の概要~
前号のひめぎん情報初夏号(No.273)に
引き続き、「3.外航海運業の歴史と現状」
をご紹介します。
愛媛銀行 審査第二部・第三部
部長兼船舶ファイナンス室長
日野 満
3.外航海運業の歴史と現状
を超える大型コンテナ船を所有する船主もお
⑸ 最近の傾向
り、資金力(調達力)が格段に向上している
中国の輸入拡大に端を発した未曾有の海運
ことがうかがえる。
好景気、リーマンショック以降の暴落、それ
に伴う船価と用船料の高騰と下落、多額の売
② 輸送距離の長距離化
船益、便宜置籍船の増加、為替の円高推移、
世界経済のグローバル化に伴い貨物の輸送
金利水準の低下などはこれまでにご紹介した
距離が長距離化してきている。例えば、鉄鉱
通り。
石や石炭などの場合、豪州から中国への輸送
それ以外の特徴としては、船舶の大型化、
が主流であったものが、ブラジルから中国へ
輸送距離の長距離化、外国オペレーターへの
の輸送が増加し、船腹の必要量が急増すると
用船の増加、買取オプション、用船期間の長
いった現象が起こっている。
期化、メガバンクの積極的進出、後進国の発
その他、機械・自動車などの場合で、ヨー
展、国内造船所の設備増強と海外造船所の躍
ロッパのメーカーが部品を製造して南アフリ
進などが挙げられる。
カへ輸出、そこで完成品に組み立て、製品を
アメリカへ輸出するといったケースでは、輸
① 船舶の大型化
送距離が1.5倍になる。あらゆる貨物が世界各
造船技術や素材の進歩、海上荷動きの増
地へと運ばれるようになり、船腹需要は増加
加、港湾設備の整備による荷役能力の向上
する訳だ。
などにより船舶は大型化してきている。10年
※輸送距離が2倍になれば、計算上、必要船
前は愛媛船主の所有船の中でもパナマックス
(約7万D/Wトン)の船舶が最大船型(旗艦
=フラッグシップ、ステータス)であったが、
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腹量は2倍になる。
(出所:国土交通省「海事レポート」
)
【北極海航路】
現在ではケープサイズ(20万~30万D/Wト
北極海航路とは、大西洋と太平洋を北
ン)の船舶を所有する船主も増えてきている。
極圏経由で結ぶ航路のこと。例えば、ドイ
30万トンクラスの大型タンカーや10,000TEU
ツのハンブルグ港から横浜港まで海上輸
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送する場合、スエズ運河およびマラッカ
※外国オペは(US$と比べて)低金利の日本
海峡を経由する南回り航路では距離は約
円で資金調達している愛媛船主のメリット
21,000㎞となるが、北極海航路経由では
(低い用船料でも採算が合う)とその財務
約13,000㎞と約6割に短縮することがで
内容の健全性を評価しての起用という側面
きる。単純に考えると、航海期間が短縮し
もある。
荷物が早く運べ、燃料費も節約できるとい
しかし、市況が低迷している現況下、海外
うことになる。
オペレーターからは用船契約の中途解約また
ただし、北極海は(氷は減少傾向にある
は用船料引下げの要請が幾つかきているらし
とはいえ)航海できる時期は夏期に限定さ
いと聞いている。また、
欧米や韓国のオペレー
れ、しかも夏期においても寒冷地で、また、
ターの倒産などもあり、日本のオペレーター
海氷の危険性もあるため寒冷地仕様の船
への回帰が進んでいるようだ。情報開示が進
舶が必要となる。砕氷船を同行する場合
んでいるとは言え、海外オペレーターの経営
は費用の問題もあるので、北極海航路を
状況は正確には計り知れないといったところ
航行すれば単純に時間とコストを節約でき
だろうか。一方、日本のオペレーターは同じ
るという訳ではないようだ。しかし、将来
日本国内で営業している訳なので経営状況も
的に国際貿易航路の流れを大きく変える
把握し易いし、何より「義理人情」が通用す
可能性を持っている航路といえる。
るケースもあるということだ。
※日本のオペレーターは円高是正とコストダ
ウン等により業績は回復してきている。
③ 外国オペレーターへの用船の増加
日本の船主は従来から日本の大手オペレー
なお、運航管理の面から見ると、外国オペ
ターに用船していたが、10数年前から外国
レーター(ヨーロッパ系)は大西洋などに配
のオペレーターに用船するケースが増えてき
船するケースが多いので、船用品の手配運賃
ている。この背景には、①当時は海運市況も
や船員の交代旅費
(ヨーロッパ⇔フィリピン)
、
芳しくなく日本のオペレーターの用船料水準
修繕・ドックなどの手配等で意外にコストが
が低かった(外国オペレーターは1割程度高
かかるようなので、近場(東南アジアや太平
かった)こと、②船主が積極的に船隊拡充し
洋などで、日本にも帰港する)に配船される
ようとしたこと、③船主は円高による減収分
日本のオペレーターへの用船も「利」はある。
をカバーしようと高い用船料を求めたこと、
④情報網が発達し海外オペレーターの情報が
④ 買取オプション
容易に入手できるようになったこと、⑤商社
外国オペレーター(特にヨーロッパ系)と
やブローカーの積極的な売り込みがあったこ
の用船契約には「買取オプション」が付いて
と、⑥徐々に船主側にノウハウが蓄積されて
いる場合が多いようだ。
きたこと、⑦海外オペレーターが愛媛船主の
オペレーターはこの買取オプションを行使
船舶管理能力を高く評価していること、など
し、例えば20億円で船舶を買取って、30億円
が挙げられる。
で転売し、10億円の売船益を得るということ
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になる。船主の誰もが契約当時に海運バブル
る訳だ。また、買い取って自社船としても
時の市況を予測し得ず、借入金返済と多少の
運航コストが上昇しているので採算性は低
売船益が確保できるだけの水準のオプション
いというのも理由の一つ。
価格の設定を受け入れたもので、結果として
好景気の恩恵を享受できなかったということ
⑤ 用船期間の長期化
になる。儲けたのはオペレーターということ
船主は、用船マーケットの上昇局面では比
だ。ただし、マーケットが低下している現状
較的短期の用船契約を締結したがるが、マー
では買取オプションの行使は見られない。
ケットに陰りが見え始めると、比較的長期の
また、船主にとって悩ましいのが買取オプ
用船契約を志向するようになってきている。
ション行使による売船益の処理。船主は定率
船価が高い(借入額が多い)現状では、先々
法で減価償却しているので簿価は圧縮されて
でのマーケットの急落に備える(マーケット
おり、実際のキャッシュフロー以上に経理上
が下がっても契約通りの用船料を受取れる)
の売船益が出る。この税負担を先送り(圧縮
必要があるからだが、船主とオペレーターは
記帳)するためには代替船が必要だが、今か
全く逆の立場となるので、なかなか希望通り
ら新造船を発注しても2~3年はかかるので
にはいかないようだ。
間に合わない。
安定志向の強い船主はリスクヘッジのため
【買取オプションについて】
比較的長い用船契約を好むが、契約通りの用
船料しか受取れないので、マーケットが高騰
「買取オプション」とは一定期間経過後
した局面ではその恩恵を受けることができな
に、定められたオプション価格(当初の建
かった。しかし、マーケットが下落した今と
造価格から経年減価した価格=船主側か
なっては、
長期用船契約が結果として「良かっ
ら見れば借入金を返済して、自己資金を回
た」ということになっている。ただし、長期
収できる程度の価格)で本船をオペレー
用船は収入が一定で安定している反面、船費
ターが買い取るオプション(選択権)を
の上昇による収支の悪化を招くというリスク
有しているというもの。
「買取オプション」
もある。
は竣工してから3年経過後以降に発動す
なお、用船契約期間中は売船ができないの
るものが多いようだ。
で、含み益のある所有船を自由に売船して益
マーケットが高騰していた時期にはこの
出し(資金作り)をすることはできない。
「買取オプション」は多数行使されたよう
※オペレーターの了解が得られれば用船契約
だが、現状は中古船価格も一時に比べて
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の解除や用船契約付きで売船も可能。
低下しているので「買取オプション」の行
使はほとんど見られない。
⑥ メガバンクの積極的な進出
オペレーターは売船益が余り期待できな
陸上の景気は「回復基調」がうかがえるが、
いので「買取オプション」を行使せず、安
まだまだ資金需要は増加していないので、必
い用船契約を継続して儲ける方を選択す
然的に資金需要が旺盛な海運業に資金が振
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り向けられるということになる。特に海運業
が、カースト制度の足枷もあって一気に爆
は、融資額が多額で貸出期間も長い、企業体
発する期待は薄いようだ。
力も向上している、キヤッシュフローも安定
している、担保(船舶の資産価値は世界標準
⑧ 国内造船所の設備増強と海外造船所の躍進
で、
しかも流動性が高い)もはっきりしている、
国内の造船所は海運好調時に多数の建造契
マーケットが整備(国際法規、条約、取引慣
約を締結しており、当時、造船各社はそれら
行など)されているといった特徴があり、リ
の建造契約を履行するために建造能力の増強
スクはそれなりにヘッジされている。
と工期短縮による建造量アップを目指し、
ドッ
また、銀行は中小企業向け貸出を増やさな
クの拡張やクレーンの増設・大型化に積極的
ければならないといった至上命題をもってい
に取組んできた。これらにより各社は市況好
るので、絶好のターゲットとなっているよう
調時に建造量を増やし好業績を上げた。
だ。
※現状は設備投資は完全にストップしている
※ただし、海運市況が下落している現況下、
ようだ。海運市況が下落して新規受注が
円高是正がある程度進んだが十分とは言い
急激に減少し、受注残高が減少してきたた
難く、また、オペレーターの倒産などでシッ
め、各社は工場の稼動をスローダウンして
プファイナンスのリスクを再認識し、新規
いる。
融資には慎重になっているようだ。
一方、海外の造船所でも設備増強が行わ
れ建造量を増やしてきている。2012年の新造
⑦ 後進国の発展
船竣工量は、中国が38,924千総トン、韓国が
現在のマーケットを牽引しているのは中国
31,383千総トン、日本が17,428千総トン。韓
(世界景気、海運市況のカギを握っているの
国は数年前より建造量では日本を抜いて世界
は中国)だが、今後は中国と同じような人口
1位となっており、2010年には中国が韓国を
の多い発展途上国の台頭が期待されている。
抜いて1位となっている。中国の強みは、国
ブラジル、ロシア、インド、チャイナなどで、
土の広さと低賃金および政府のバックアップ
それらの頭文字をとって「BRIC’S」と呼ば
だ。技術力が伴えば、船価自体は安いので価
れている。
格競争力がある。
また、それらに続くベトナム、インドネシア、
※後進国の場合はUS$に対して自国通貨が安
南アフリカ、トルコ、アルゼンチン(頭文字
いため、US$ベースで価格競争力がある。
をとって「VISTA」
)などの国々が大量消費
(少ないドル額でも自国通貨に換算すると
の輸入大国になると現在の船腹量ではとても
多額の資金になるため、ドルベースで値引
追いつかない。
きが可能。
)
※ブラジルは資源国で鉄鉱石などの輸出が
急増し、一方で輸入も増えてきており、今
⑧ 環境問題への対応
後に期待されている。インドも人口からす
海洋汚染防止のためにタンカーの船体を二
ると第二の中国になる可能性を秘めている
重構造にしたり、バラスト水排出基準を定め
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海洋生態系への悪影響を抑える動きがある
経済的効果が期待されている。しかし、
が、この他にも地球温暖化防止の観点から二
オーナーやオペレーターにとっては多大
酸化炭素排出量の削減に取り組んでいる。
な出費となり、経営上の大きな課題でも
【海洋環境問題への対応】
船舶はその運航に際して、魚介類・プ
ランクトン・細菌などを含む海水をバラス
ト(Ballast)としてタンクに取り込み、航
【地球環境に配慮した船舶の規制】
(出所:日本海事協会「Class NK」
)
海後に到着地(本来の生息地域とは異な
地球温暖化防止の観点から、地球温暖
る地域)でそれらを排出・拡散するなどで
化ガス(GHG: Green House Gas)の削
海洋生態系へ悪影響を及ぼし、地球規模
減が世界的に急務となっている。こうした
で環境問題が起きている。
動きの中で、国際海運は他セクターに先駆
※バラスト水とは、船舶の喫水を調整して
けて、先進国や新興国の区別をしない各国
バランスを保つために積み込む海水のこ
共通のGHG削減スキームを2011年7月の
と。
IMO海洋環境保護委員会(MEPC 62)に
これらの対策として2004年2月にIMO
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ある。
おいて採択した。
(国際海事機関)が「船舶のバラスト水お
船舶からのGHG(具体的には二酸化炭
よび沈殿物の規制および管理のための国
素)排出を規制するためのMARPOL条約
際条約(バラスト水管理条約)
」を採択し、
ANNEX Ⅵは、エネルギー効率設計指標
国際航海船舶に対してバラスト水排出基
EDDI(Energy Efficiency Design Index)
準を定め、順次適合させていく計画があ
を用いた新造船の「省エネ性能の見える
る。具体的にはバラスト水に含まれる海洋
化 」と規 制 値 への 適 合、更に、船 舶エ
生物を一定水準まで殺滅させることを義務
ネルギー効率管理計画書SEEMP(Ship
付けられるもので、殺滅方法は、水に紫外
Energy Efficiency Management Olan)を
線を照射、水中酸素量を低下、オゾンな
用いた省エネ運航の促進をその骨子とし、
どの化学物質を添加、薬剤による殺滅な
個々の船舶エネルギー効率を改善するこ
どが開発されている。
とにより、その結果として国際海運からの
※条約発効にはIMO加盟国35ヶ国以上の
GHG排出量を低減することを目的として
批准と世界の船舶に対する批准国の総
いる。
船腹量35%以上を満たす必要があるが、
改正MARPOL ANNEX Ⅵは、原則とし
現時点では条件を満たしておらず発効に
て国際航海に従事する400GT以上のすべ
至っていない。
ての船舶に適用され、条約への適合が認
なお、条約が発効されればバラスト
められた船舶に対しては、国際エネルギー
水処理装置の設置で約2兆円の需要が
効率証書、通称IEE(International Energy
発生すると見られており、業界ではこの
Efficiency)証書が発給される。IEE証書
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の発給を受けるための初回検査は、
「新
するための工夫、例えば、原則運転、潮
船」
(①2013年1月1日以降に建造契約
流や海象を考慮した最適ルートの選定、適
が結ばれる船舶、②建造契約がない場合
切なメンテナンス等を組織的かつより効率
には2013年7月1日以降に起工される船
的に実施するために船主又は船舶管理会
舶、③2015年7月1日以降に引き渡しさ
社が用意すべき管理計画書である。
れる船舶、のいずれかに該当するもの)の
場合は建造時に、新船以外の「現存船」
⑹ 最近の特徴
の場合は2013年1月1日以降最初のIAPP
① 為替対策
(International Air Pollution Prevention)
為替相場は超円高が是正されはしたが十分
証書に関する中間検査又は更新検査時
な水準とは言い難く、船主は為替対策を強化
に受検することが要求される。ただし、
している。具体的には、運航コスト(船員費
EDDI関連の規定については、条約が指定
など)のドル化、借入元本のドル化(ドル金
する船種における新船のみが適用対象と
利は上昇傾向にあるが依然低水準)
、円建て
なる。
用船料の確保など。中には、用船料を円とド
※船種は、ばら積貨物船、ガスキャリア、
ルでそれぞれ受取る契約(円ドルMIX)や、
タンカー、コンテナ船、一般貨物船、冷
為替相場が一定水準以上の円高になればオペ
凍運搬船、兼用船、客船、Ro-Ro客船、
レーターがそれなりの補填を行う(円安にな
Ro-Ro貨物船 等
ればオーナーが利益の一部をオペにバックす
※ただし、主管庁が認めた場合、条約発
る)ような契約もあるそうだ。
効後4年間はEDDIに関する要件の適用
しかし、オペレーターも採算が悪化してき
を免除できる
ているので何れにとっても厳しい環境下にあ
EDDIは、規定されたある一定の条件下
る。
において、1トンの貨物を1マイル運ぶ際
に排出される二酸化炭素のグラム数として
② 二極化と伝統への回帰
定義される。この値は、当該船舶が有す
現状、超円高は修正されたとはいえ、運航
るエネルギー効率のポテンシャルを表す指
コストは高止まりしており船主経済は依然と
標としてみなすことも可能であり、例えて
して厳しいものがある。しかし一部には、
マー
言えば自動車のカタログ燃費に相当する。
ケットが下落して新造船価が下がり(ドル船
一方、SEEMPに関する規定は、国際航
価では円高は船主にとって追い風)
、オペも
海に従事する400GT以上の全ての船舶に
以前より好条件の用船契約を持ちかけている
適用されるため、新船だけでなく現存船も
こともあって将来の円安への反転を考えれば
規制の対象となり、個船毎に省エネ運航
今は仕込みどきとの判断が船主にはある。こ
計画を記載したSEEMPを作成、所持する
の環境下でも手元資金が潤沢で新規発注に動
ことが要求される。SEEMPは、実際の運
ける船主がいる反面、過去の円高で既存船の
航において船舶のエネルギー効率を改善
事業が傷んでいることから手持ち資金は温存
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しなければならず新規の投資に資金を振り向
た。その当時は、各社はC/Fの不足分を自
ける余裕はない船主もおり「二極化」が鮮明
己資金(預金)や売船余剰金を充当しながら
になってきている。また、保有船の多様化を
借入金の約定返済を履行してきた。本来なら
狙ってタンカーなどを所有した船主は管理コ
ば「返済元金の減額(リスケジュール)
」を
ストの急騰(特殊船の管理は専門の管理会社
要請したいところだが、企業の信用力を維持
へ外注するケースが多いが、管理費は上昇し
し、次の新造船の支援を得るために、含み益
ている)もあって採算割れとなり、汎用性の
のある船舶の売船や経営者の個人資産を投入
ある貨物船(バルカー)に回帰しつつあるよ
するなど自助努力をしてきた。その他、オペ
うだ。
レーターに対する用船料の引き上げや、用船
契約期限前での売船の承認、あるいは所有船
③ ハンディ・バルカーへの傾注
の買取りを要請するケースもあったと聞いて
ドライ・ブームは終焉を迎えマーケットは
いる。
低調に推移しているが、ハンディサイズ/ハ
しかし、中古船価が下落しており計画通り
ンディマックス市況は大崩せず底堅く推移し
の資金作りができなかったり、投入できる資
ている。ハンディサイズ等は貨物や航路が多
産も底をついた一部の船主は金融機関にリス
岐にわたるため需要が安定しており、また、
ケジュール(元金返済猶予)を依頼している
新興国向けを中心に輸送需要が増加している
ようだ。
が、新興国では港湾整備が進んでいないため
※元より船舶管理費や店費の削減など、打て
比較的小型でギア(クレーン)付きの船舶の
る手も限界まできている。
ニーズが高いという訳だ。その他、中国やイ
※リスケジュールの際には弁護士や会計士な
ンドなどで「内航輸送」の需要が急増してお
どを交えて再建計画を策定し、基本的には
り、中型船のニーズは高まってきているとい
各船のC/Fに応じて返済額を減額すること
うことだ。
を前提に、取引銀行が一斉にリスケを行う
※パナマックス以上の大型船はギアが装備さ
ケースが増えてきている。
れておらず本船のメンテナンスが比較的容
※銀行によっては貸出債権を売却して取引を
易(安い)であることや投下資本が大きい
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クローズするところもあったそうだ。
だけ儲けも大きいのでバブル期にはケープ
なお、現在の為替相場は100円間近まで円高
サイズ等の大型船に傾注してきた訳だが、
修正されているので、船主の収支は改善され
昨今では金額が大きい=リスクが大きいと
ており、所有船の売船に際しても(円換算ベー
いうことで見直されている。
スで)手取り額が増えるので、リスケジュー
ルの解消も展望できる環境になっている。
④ リスケジュール
一般的に船主の円高抵抗力は90円前後と言
⑤ 海外オペの動向と金融機関の審査の厳格化
われており、昨年末まで続いたの80円前後の
従来、円の金利はUS$と比べて圧倒的に低
為替水準では利益が出ない船主が多く見られ
く、為替も円安だったため日本の船主は海外
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オペに対して競争力のある用船料を提示でき
古船価格の下落、円高による採算悪化などに
ていたが、現在は円とドルの金利差が(4~
より利益が出にくい経営環境下、税負担は実
5年前と比べて)縮小し、為替も(4~5年
質的に軽減され、シンガポール進出のメリッ
前と比べて)円高に振れているので、海外オ
トは薄くなった。相続税に関しても船価が低
ペにとって日本の船主の魅力は薄れてきてい
くなっている昨今では1株当たりの資産価値
る。しかし、欧州の金融機関は欧州債務問題
も低下しており、株式譲渡などを進めやすい
から新規貸出に消極的であり、海外オペは日
環境にある。
本の船主からの用船に頼らざるを得ないとい
なお、シンガポールは人件費や事務所費・
う事情もあるようだ。
住居費が高く費用対効果を考えるとデメリッ
日本の船主業(船舶貸渡業)はオペレーター
トも大きいといわれている。
(コストは、東京
の信用力に依拠する仕組みだが、海外オペの
を10とするとシンガポールは9、今治は7と
信用力を判断できる十分な情報が無い中での
いわれている。
)
海外オペ(業績が悪化し、倒産するオペも出
ている)への用船案件については日本の金融
⑦ 船舶投資ファンドの躍進
機関の審査や条件もおのずと厳しくなる。ま
世界的に運用難に陥っている資金力が豊富
た、国内中堅オペレーターの三光汽船の倒産
なファンドマネーが船舶投資に進出し、船主
もあり、金融機関は『船舶貸渡業の真のリス
の役割を肩代りし始めているようだ。日本で
クはオペレーターの信用リスクにある』とい
は船主の財政が疲弊している中、資金力のあ
うことを再認識し、審査・貸出条件が一層厳
る投資ファンドや異業種のキャッシュリッチ
格化しているようだ。
企業は強大なライバルでもある。日本の船主
とファンドの大きな違いは、日本の船主が家
⑥ 海外展開(シンガポールへの進出)
業として海運業を行っているのに対し、ファ
海運会社は、子会社の売船益等を含む事業
ンドは海運事業を投資として捉えているとい
利益を親会社に合算して税務申告するため多
う点だ。従って船主は財産である船舶を大
額の法人税の負担が掛るが、海運会社は特別
切にして自社管理するが、ファンドは管理会
償却や圧縮記帳の優遇制度を駆使して利益を
社へ外注することになる。世界的な諸規制の
圧縮し税負担を軽減してきた。これらの優遇
複雑化もあって船舶管理も高度化しているの
制度は時限立法であり、平成23年3月に「廃
で、日本の船主も管理会社へ外注するケース
止」の動きがあったため、日本の船主は実質
もあるようだが、きめ細かな船舶管理が採算
的に法人税が無税化できるシンガポールへの
を左右することもあるので、船主に「一日の
進出を検討した。また、事業承継(相続税対
長」があるといったところだろうか。
策)においても相続税が無いシンガポールへ
の進出は有効な対策の一つであった。しかし、
特別償却制度は2年間延長、圧縮記帳制度は
3年間延長され、一方で海運市況の低下、中
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