November 6. 2013・国立音楽大学附属図書館・通巻 281 号

ISSN 0916-1368
November 6. 2013・国立音楽大学附属図書館・通巻 281 号
2013・
Contents
図書館で〈聴いた〉…飯野幹夫⃝1
音楽・人・メディア-変わりゆく音楽の価値-
2013年度国立音楽大学音楽研究専修 研究発表会 専門ゼミⅠ・Ⅱ…⃝2
身元を突き止めよ!-「名無しの権兵衛」が名前を取り戻す時ー 長谷川由美子…⃝4
オーケストラ・ライブラリアンという仕事…伊藤陽子⃝6
63
図書館員のノートから 参考図書のご紹介 ○
ベイカーの音楽家人名辞典2種類…小関康幸⃝8
図書館と著作権と資料の複写(番外篇~引用と転載)…⃝9
図書館のう・ご・き…⃝10
雑誌の部屋 ⑧ …⃝12
館長室へようこそ ⑪ 個人的なわばり…古川聡⃝13
図書館のう・ご・き(続)…⃝13
Book/CD/Book…大森智浩・曲輪大地・宮本貴史⃝14
Information…⃝16
表紙:中川祐花 武蔵野美術大学空間演出デザイン学科2年
281
281
2013・
図書館で〈聴いた〉
飯野 幹夫
図書館ではときに霊が走ると聞いたことがあ
る。読者諸氏には、書架の間をふと何か影がよ
うそ泣きか、と影が走ったかのようにその連
ないなあ、と。
るのではどうも難しい。ちょうど夜空の遠く彼
ない。それを見るには、真正面から焦点を当て
特徴を伝えるくだりがある。この苔の光は強く
武田泰淳の『ひかりごけ』では「ひかりごけ」の
ているように勝手に感じて、手に取りページを
て行くと、彼の『フランクル回想録 世紀を
生きて』(春秋社)が並んでいる。なぜか私を見
んで涙したことを覚えている。近くに目を移し
た。学生時代からよく馴染んだ一冊であり、読
ランクルの『夜と霧』(みすず書房)が目に入っ
想に導かれるまま思い巡らし、ふわふわ行きつ
方 の 星 に 眼 を 凝 ら す と き の よ う に、 少 し 外 し、
めくって行った。強制収容所を生き延びたある
戻りつしているうちに、いつのまにかV.E.フ
ちょっと斜に構えた視線ずらしにより初めてふ
男性について回想されていたと思う。その人は
ぎったような感に襲われた経験がお有りではな
れることが叶うと云う。都心の或る大学図書館
いだろうか。
を何度か訪れたことがある。
えわからず、ただ詫びるしかなかった。きっと
楽に「からきし駄目」人間の私には何のことかさ
うに聴こえるのだがと言う。情けないことに音
れたことがあった。その学生は「うそ泣き」のよ
ザークの交響詩《野ばと》について感想を求めら
に何度か訪ね来た学生から或るとき、ドヴォル
そしてふと、何年も前のことが甦った。研究室
た。そこには「ドヴォルザーク」の文字がある。
ううち、たまたま或る本の背表紙に眼が止まっ
料などは幾何学的に壮観である。書架の間を漂
立する書架、そこにうねる書籍・音盤・映像資
そこは、各階全体が開架式となっている。林
に通うものを優しく照らし出す。
に撚り合わされたかのようにこの夫婦の心の底
の薄い「光」の寄り添うところでは、「うそ泣き」
取り繕いではあろう。しかし、「それ」はあの苔
ように感じた。うそ泣きの心は確かに外面的な
人である。夫は〈贈り〉「それ」を妻は 聴<いた 、>
そしてそれを私は書架の林立の中で響いたかの
う、告げたという。この男性はフランクルその
生き抜く)を(私に対する新しい)貞操にするよ
分(の魅力)を取り引き道具に使ってでも(必ず
に捕らわれずに、どんな代償を払ってでも、自
直前に妻に向って、(云うところの)第一の貞操
愛する美しい妻と別々の収容所へ引き離される
で憩うて〈聴く〉時機に邂逅されんことを。
知恵の蔵庫で、とは言わないまでも、どこか
弾き込み聴き込んで自分なりの手応えを持って
来 た も の で あ ろ う に、 気 の 毒 な こ と を し て し
まった。ただ私には、「うそ泣き」という表現は
なぜか妙に新鮮に響いた。今時、あまり耳にし
いいの みきお 本学准教授(教養)
1
20
ヨーロッパ。啓蒙主義の 世紀に
音楽の価値ってなんだろう―そ
こから、私たちの研究は始まりま
おいて、上流階級と下層階級とで
した。
は音楽との接し方がまるで異なっ
音楽の価値なんて、人それぞれ
ていました。音楽は、上流階級の
…そう思われる方が多いかもしれ
宮廷や貴族が楽しむものであって
ません。
「
支配の道具」としての意味合いも
しかし、私たちはあえてそれを
強くもっていました。下層階級の
考えてみることにしました。十人
人々は、多くが音楽に触れていた
十色、みんなちがってみんないい
わけではありませんでした。しか
― そ れ ぞ れの 見 方 や 考 え か らみ
し、 世紀中頃に起こった中産階
えてくることがあるというわけで
級の台頭や演奏会の発達によって、
す。今回、私たちが、音楽の価値
人々と音楽の関わりは変化してい
を考えるにあたって、焦点を当て
きます。
たのは、メディア
(ここでは、主に
新聞、雑誌、テレビ等の媒体をい
紙媒体の登場
う)
。メディアの変遷を見ながら、
世 紀 に 登 場 す る の が、 楽 譜、
そこに見えてくる人と音楽との関
雑誌を始めとする紙媒体です。楽
わり、音楽の社会における在り方
譜の印刷は 世紀前後から盛んに
を探ってきました。
行われるようになり、楽譜の大量
皆さんも一緒に、音楽の価値を
頒布が可能になりました。そして、
考えてみませんか?
することで、人々の音楽観はどの
ように変わっていったのでしょう
か。また、音楽作品にどのような
影 響 を 与 え て い た の で し ょ う か。
当時の人々にとっての音楽の価値
や当時の社会での音楽の在り方を
考察します。
日本の紙媒体と音楽
ここで、少し日本に目を向けて
みましょう。日本に音楽雑誌が登
場したのは明治になってからのこ
と。明治 (1890)年に創刊さ
掲載されていました。作曲家やそ
や新聞には音楽批評、楽譜批評が
は増えていきました。当時の雑誌
けて飛躍的にその種類や発行部数
場し、
世紀にか
世紀前後に登
しょうか。紙媒体をめぐる日本の
うに音楽を受けとめていたので
特殊な状況の中で、人々はどのよ
つくられていました。このような
によって国家目的に応じで音楽が
940年代は、新聞の公募や委嘱
真っただ中の1930年代から1
いて考えました。第二次世界大戦
紙媒体の例として、戦時下の音楽
では、現代のようなメディアが
の作品、各地で行われた演奏会に
必要不可欠な存在です。
18
19
音楽雑誌や新聞も
なかった時代には、人々はどのよ
ついて書かれた音楽批評、演奏を
世紀半ばから
うに音楽と関わりをもっていたの
人々の音楽の考え方の変化を探り
世紀の
現代社会において、メディアは
でしょうか。まずはここから、音
ます。
と紙媒体(新聞など)の関係性につ
のもありました。また、日本での
や唱歌について取り上げられたも
奏会の報告、その時代特有の童謡
日本の音楽界についての論評や演
刊されて現在に至ります。当時の
た。それ以後様々な音楽雑誌が発
れた『音楽雑誌』がその始まりでし
23
中産階級を含む一般市民もその楽
18
聴く前に楽譜のみを見て書かれた
出 発 点 と し た の は、
18
譜 を 手 に と る よ う に な り ま し た。
18
楽譜批評。これらの紙媒体を手に
そもそもメディアとは?
18
18
楽の価値を考えていきます。
18
281
2013・
音楽・人・メディア
ー変わりゆく音楽の価値ー
2013年度国立音楽大学音楽研究専修 研究発表会 専門ゼミⅠ・Ⅱ
2
281
2013・
現代の私たちにまで通じるような
さ て、 1 9 0 0 年 代 に な る と、
機会ではなくて、番組自体が減っ
組をみる機会はありますか?見る
ところで、最近テレビの音楽番
*
見出されていくのかを考えます。
登 場 し、音 質に重 視 してつく られ
レーヤ ― も、新 しいものが 次々と
り ました。デ ジタルオー ディオ プ
をみつけ ることがで きる よ う に な
たり、共 通の音 楽の趣 味 をもつ人
んか。「研究発表会?難しそう」と
「?」への答えを知りたくありませ
してみたいと思います。これらの
ちの考える音楽の社会的価値を示
との関係。研究発表会では、私た
楽、そしてそれを享受する私たち
多様な見方があるメディアと音
現代に目を向けて
ー様々なメディアの登場ー
メ デ ィ ア が 登 場 し て き ま す。 レ
る よ う に なっていま す。この2つ
というメディアが誕生してからで
もが可能になったのはこのCD
例 え ば、 C D。 い つ で も ど こ で
れに伴う音楽(BGM)との関係性
たことはありませんか。映像とそ
て扱われるBGMに違和感を覚え
テレビで流れる外国の映像に伴っ
用して聴くものが登場しています。
は、スマートフォンやパソコンを使
生 産 量 が 増 加 していま す。ラ ジオ
レコードは、持ち運べもしないのに
らのメディアが見直されています。
の で し ょ う か。
◆ 大崎滋生『音楽演奏の社会史:よみが
える過去の音楽』 東京書籍
(請
1993
他)
求番号⃝ C57-870
◆ ダ ー ル ハ ウ ス 他 奥 田 恵 二 他 訳 『 ロ
マン派の音楽 クラシック音楽史大系
(請求記号
』 パンコンサーツ
1985
⃝ C8-749
)
『総力戦と音
◆ 戸 ノ 下 達 也 長 木 誠 司 編 楽文化:音と声の戦争』
2008
青弓社
(請求記号⃝
)
J114-364
◆ 小 原 由 夫『 ア ナ ロ グ レ コ ー ド 再 聴 戦 』
径書房
(請求記号⃝ C60-571
)
1996
◆鳥賀陽弘道『 ポJップとは何か:巨大化
(請求
する音楽産業』 岩波書店
2005
)
記号⃝ J104-934
参考資料
•••••••••••••••••
身構えずに、ぜひお越し下さい。
のメ ディアの 出 現 による 私 た ちの
*
たのではと思う方もいらっしゃる
ここ ま で、 私 た ち に とって 身 近
かもしれませんが、実は逆に増え
なぜ、音楽番組を目にする機会
な メ デ ィア を 取 り 上 げ て き ま し た
コ ー ド、 ラ ジ オ、 テ レ ビ、 デ ジ タ
は 減 っ て し ま っ た の で し ょ う か。
が、これ らのメ デ ィア 以 前 に 誕 生
ルオーディオプレーヤー、そして
ディアを通じて考えるのは、今を
音楽番組が私たちにもたらしてい
音 楽の価 値の変 容をみていきます。
生きる私たち自身がどのように音
る影響を考えます。また、視覚を
機 会 は あ り ま す か。 現 在、 こ れ
し たレコー ド や、ラ ジ オ に 触 れ る
ているのです。
楽について考えているのか、そし
伴うことで音楽の在り方が変わっ
イ ン タ ー ネ ッ ト …。 こ れ ら の メ
て音楽の社会的価値はどうなって
て き て し ま っ た の が B G M で す。
しょう。音質を重視するクラシッ
をみることで、私たちの音楽に対
より 便利なも
*
きているのかということです。
クですが、このCDの登場により
する意識を探ります。
な ぜ、 こ れ ら
の が あ る 現 在、
私たちのクラシック音楽の聴き方、
*
で、
私たちと音楽との関わりは増々
デ ィア が 私 た
この 2つの メ
インターネットや デ ジタルオー
また音楽への価値観はどのように
促 進 されていきました。私 たちは、
変化したのでしょうか。CDの登
りません。この分野でも、CD を
CDを買 わ ずとも 音 楽 を聴 くこと
な 音 楽 との 触
ち に どの よ う
な く な ら ない
無料配布するという新たな試みが
ができ、より 多 様に音 楽 を楽しめ
の メ デ ィア は
なされています。CDの売り上げ
る よ う に な り ま し た。その一つに
配 信 が 行 わ れ る よ う に なったこと
低迷が叫ばれている中、なぜその
らすかを考 え
れ 合いを も た
ディオ プレーヤーが 登 場 し、音 楽
よ う な こ と を す る の で し ょ う か。
インターネットでの 音 楽 を 通じた
場 に よ り 変 わ っ て き た の は、 ポ
もはや、CDの売り上げ低迷は音
す。これによ り 新 しい音 楽 を 知っ
オ ン ラ イ ン コ ミ ュニ テ ィ が あ り ま
研究発表会の日程
「音楽・人・メディア —変わりゆく音楽の価値—」
2013年12月6日
(金)16時30分開演 場所:6号館110スタジオ
3
ピュラー音楽の分野も例外ではあ
楽の価値を左右していないのかも
ます。
しれません。音楽の価値はどこに
5
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い。ただ楽譜の第一ページの上部に作曲者名とオペラ
版だと思われた。1700年代のイギリスの出版社のう
ち、クニタチが多くの資料を持っているのはウォル
のタイトルが記され、出版社や出版年は楽譜の下部に
シュ社である。所蔵しているウォルシュ出版の楽譜の
記してある。何とも味気ない実用譜・・・。この中に
字体と比べた結果、見事に一致した。
曲名がプリントされていない楽譜があった。作曲者名
次はウォルシュの出版物をカタログ化した2冊の本
だけはReyerと記されていた。幸運なことに役名はわ
“A bibliography of the musical works published by
かる。ブルヌヒルド、シグルト・・・あれあれ、ワー
( 註4) と
John Walsh during the years 1695-1720”
グナーの指輪と同じじゃない!じゃあ、簡単、New
Grove の作品表で確かめ、音源があったのでチェック。 “A bibliography of the musical works published by
(註5)を基
John Walsh during the years 1721-1766”
“Sigurd”
でした。
(請求記号◦M3-559、S10-768)
に該当する曲を調べた。前所有者のメモにある「1765
年ごろ出版」を一つの手掛かりに1721年-1766年の本
を最初にあたった。この本には題名から引ける索引が
付いていない。そのため、最初からすべての項目に目
を通した。キャプションタイトルはSONATAである
タイトルページを欠いた一冊の楽譜・・・声楽曲に
が、この時代の楽曲ではタイトルがSOLOとなってい
は、歌詞という強力な情報源があるが、器楽曲は簡単
る楽譜でもキャプションタイトルはSONATAとなっ
ではない。これはイギリスの著名な音楽史学者で、民
ている場合がある。そのため、ヴァイオリンまたはフ
謡研究家であったフランク・キドソンが、同じく民
ルートの曲で題名に6 SONATAS あるいは6 SOLOS
謡収集家であったアルフレッド・
がついた楽譜を探した。全部で10以上の楽譜が見つ
モッファットに贈った楽譜で、彼
かったが、ウォルシュの目録には楽曲の調性は含まれ
らによって出版年代は1765年ご
ていないため、これらの作曲者の作品を当館のOPAC
ろと推定されていた。楽譜からわ
で検索して、実際の楽譜を確かめた結果、Richterの曲
かる情報は1)ヴァイオリンあるい
であることが判明した。詳しい書誌事項はこの曲を掲
はフルートとハープシコードの曲
の校訂報告に記載があった。なお、
載していた楽譜(註6)
が6曲、2)調性はF, D, G, C, Bb,
出版年は1759年であり、あまりずれてはいなかった。
A 3)キャプションタイトル(楽
前所有者はおそらく楽譜の内容からこの年代にたど
譜が始まる前についているタイト
り着いたのだろう。
(請求記号◦M4-428、S11-176)
ル)はSONATA I(II, II, IV, V,
もし、図書館に現代版の楽譜がない場合はどうして
VI)
、4)ユリ紋とIVという透かし
いただろう。たぶん、RISM-AIにあたって、所蔵館
ユリ紋とIV入りの透かし
付、5)
ページ数だけであった。
を調べ、フランス国立図書館や大英図書館に質問状を
出していただろう。フランスの場合は翌日答えが返っ
てくるし、大英図書館も一週間以内(実際は4日ほど)
に答えを返してくれる。世界の大図書館は蔵書と共に
サーヴィスの良さも第一級である。
作曲者
参考文献
註1 “Répertoire International des Sources Musicales
A-1 : Einzeldrucke vor 1800” Bärenreiter 1971 ~
2003(参考図書⃝X-035/R/A/1)
楽譜第1ページの冒頭
これだけ!ため息が出る。でも待てよ、この字体は
見たことがある!以前にたくさん見ている出版社の出版
物だ・・・でもどうやってたどり着く?そうそう、透か
しが入っている!もしかしてヒントになるかもしれない。
元気を取り戻し、「ユリ紋とIV」がいつごろ使わ
(註3)で調べた結果、
れたマークなのかを『透かし文様』
1700年代の中ごろまでイギリスで多く使われたこと
がわかった。また、SONATAの文字からイギリス出
註2 “Annales de la musique et du théatre à Liège
de 1738 à 1806” H.Hamal. P.Mardaga 1989
(請求記号⃝C52-491)
註3 『透かし模様』エドワード・ヒーウッド 雄松堂出版
1987(請求記号⃝J59-638)
註4・5 “A bibliobraphy of the musical works
published by John Walsh during the years
1695-1720” “ 〃 1721-1766” W.C.Smith &
C.Humphries 1968/1948(参考図書⃝X-038/S)
註6《Sonaten für Flöte(Violine), Cembalo und
Violoncello(ad lib)》 F.X.Richter. Wiener Urtext
Edition 2004
••
•
これらの資料は貴重書につき利用に制限があります。
4
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身元を突き止めよ!
―「名無しの権兵衛」
が名前を取り戻す時―
長谷川 由美子
古い楽譜や書籍の中には作曲者や著者、
題名、
出版の情報が欠けている資料が時々見つかる。
「誰だ、
こんな資料を買っ
た人は!!」
まずは呪いの言葉を発し、たぶん購入にかかわったと思われる退職なさった何人かの先生方の顔を思いだす。
それからすごすごと何か手がかりはないかと調べ廻り、解決できたときは、ビールで乾杯、である。
「名無しの権兵衛」
は、図書館員に過度のストレスと共に喜びを与えるやっかいな代物だ。
楽譜の「名無しの権兵衛」は作曲者、曲名、出版社、出版年のすべてについて言えるが、19世紀以前の出版楽譜は原
則的に出版年の記述がない。従って、出版年を調べることはいわばルーティン化した作業である。この文章では主に楽
譜の貴重書にふくまれた
「名無しの権兵衛」
が出版社、曲名、作曲者という名前を取り戻していった過程を3例紹介しよう。
出版社
91曲もの曲が一緒に綴じられた楽譜がある。内容
は18世紀末に流行したオペラのアリアが大半で、現
在でいうA3の用紙に片面だけ印刷され、オペラの題
名や出版年月が楽譜の上に入っているが、作曲者名は
ほとんど記されていない。編成はアリアと通奏低音
で、1773年から1778年まで二週間ごとに一曲づつ出
版されている。作曲者名がないが、この年代のオペラ
のアリアの場合、その歌詞からほぼ作曲者名は突き止
められる。91曲のうち、2曲だけが作曲者不明で残さ
れたが、どこで出版されたのかは皆目見当がつかない。
おそらく予約者を募って定期的に配布されたのだろ
う、内容や使われている言語がフランス語であること
からフランス語圏の出版物だと想像がついた。18世紀
までの楽譜の国際的書誌に何らかの手がかりがあるか
もしれない。“Répertoire international des sources
musicales ”(通称RISM)の“BII Recueils imprimés
(註1)だ!
XVIIIe siècle ”
参考閲覧室に走り込み、人に取られてはなるものか
とこの本をゲットする。ところがこの本はそれぞれの
楽譜を統括する大きな題名の元に書誌事項が記入され
ているのである。この題名がわからない以上、フラ
ンス語圏と出版年を頼りに、すべての項目を見てい
くしか方法がない。実に57ページから408ページま
で、一日何ページと決めて、何日かに分けて私は探し
続けた。ようやくそれらしき出版物に行き当たった。
,
RISMの320ページに載っている“Recueil d ariettes
,
d opera, avec premier et second violon et basse
continue[Bi-mensuel] Liège, Latour, 1772-1781”
である。リエージュ出身のグレトリーの楽譜が多いし、
5
載っているイタリアやフランスの作曲家の名前やオペ
ラ名は知っている楽譜が多いが、グレトリー以外のベ
ルギーの作曲家は初めて出会う名前ばかりだった。こ
れだこれだ・・・でも一件落着とはいかなかった。本
当にこの出版物かどうか、最後の確信が持てなかった。
現物を所蔵している図書館にメールで問い合わせよう
かと思ったが、何かリエージュの出版物について書い
てある本があるかもしれないと、気を取り直して図書
館の所蔵をあたったところ、“Annales de la musique
(註2)の中に、
et du théatre à Liége de 1738 à 1806 ”
同種の楽譜の画像を発見した。――よくぞこの本を購
入してくださいました。呪いの言葉は返上します。感
謝感謝――
ちなみにグレトリーのオペラを見てみると、パリで
ヴォーカル・スコアが出版されるとほとんど間髪を置
かずにリエージュで主なアリアが出版されている。本
物のオペラは見に行けないが、せめてその中のアリア
は楽しみたい・・・そういう人々が購入者になったの
であろう。当館以外ではリエージュの音楽学校図書館
やオーストリー国立図書館がバラバラに持っているが、
18世紀末の地方の音楽文化を考えるうえで貴重な資料
である。(請求記号◦M4-431、S11-278)
曲名
19世紀の末に出版されたフランスオペラのフルス
コアが何冊かある。一般の読者を対象とした出版で
はなく、恐らく指揮者用と思われるこれらの楽譜はト
マ、マスネ、ドリーブなどの作品である。楽譜の顔と
いうべきタイトルページを持たず、製本もされていな
はせがわ ゆみこ 上海から36時間!最後は地元のあんちゃんのバイクの背にしがみついてやっとたどり着いた
中国貴州省の
「加車村」
、大自然と人間の造り出した美しい棚田の風景と満天の星を満喫した5日間だった。
伊藤 陽子
ラ イ ブ ラ リ ア ン と い う 言 葉 は、
ふつう、図 書 館 員 とか司 書 を 指 す
が、オーケストラ な どの 演 奏 団 体
で働く、楽譜管理者の意味もある。
日本では「オーケストラ・ライブラ
リアン」と呼ばれることが多い。英
語 で は、 パフ ォ ーマンス・ ラ イ ブ
ラリアン、あるいはアンサンブル・
。
ライブラリアンと総称される (註1)
北米では、1970年代頃から次
第に職業として確立し、現在では、
厳しいオーディションを経て採用
される。指揮者との関係は密接で、
その地位は演奏者と同等か、それ
以上と言われる。
本 書 は、 米 国 の オ ー ケ ス ト ラ、
オペラハウス、バレエ団などさま
ざまな団体で活躍するベテランの
ライブラリアンたちが、自分たち
の仕事について語った、おそらく
初めての本である。
JJJJJJJJJJJJJJJJJ
オーケストラ・ライブラリアン
のもっとも重要な仕事は、演奏会
で使う楽譜を、用意することであ
る。プログラムが決まると、ライ
ブラリアンは指揮者と打ち合わせ、
(レンタルや自前作成も含め)パー
ト譜を揃え、間違いチェックと修
正、ボーイングや指揮者による指
示の書き込み、リハーサル番号の
「わが祖国」崩壊の悪夢
(Meredith Music Publications.
2012 請求記号⃝J124-994)
調整など、準備作業を行う。
楽譜にはふつう、複数のエディ
ションが存在するので、通常は指
揮者が使うスコアを確認して、対
応するパート譜を用意する。スコ
アとパート譜のエディションが異
なっても、リハーサル番号に至る
まで、問題ない曲もたくさんある。
しかし、時にはこんなことも。
ダラス交響楽団のチーフ・ライ
ブラリアン、カレン・シュナッケ
ンベルグが経験したスメタナの連
作交響詩「わが祖国」全曲演奏の場
。この楽譜は、エディショ
合(註2)
ンごとの違いが大きい上、楽章に
よって、パート譜に読みにくい箇
所がある。同一エディションのス
コアとパート譜の間でも食い違い
がある。その上、客演指揮者のス
コアは、異なるエディションを組
み合わせたものに、長年の経験に
基づく変更を加えた「パッチワー
ク型」だ。さて、どうしたか。
彼女は、指揮者と打ち合わせを
重 ね る 一 方、 全 曲 演 奏 の 経 験 を
もつライブラリアンたちに問い合
わせ、エラーリストや、楽章の繋
ぎなどの細かい情報を入手し、ど
の楽章にどのエディションを選べ
ばもっとも問題が少なくて済むか、
調べた。予算も考え合わせ、最終
的 に、 3 つ の 楽 章 の パ ー ト 譜 は
ス プ ラ フ ォ ン か ら レ ン タ ル、 演
奏する機会が多い3つについて
は、購入した。入手後のパート譜
のチェックや指揮者指示の書き込
みも、チームで取組み、なんとか
間に合わせた。初リハーサルまで、
何度か「わが祖国」崩壊の悪夢を見
たそうだ。
JJJJJJJJJJJJJJJJJ
バレエ・ライブラリアンは
もっと大変
サ ン フ ラ ン シ ス コ・ バ レ エ で
ライブラリー業務を統括するマ
シュー・ノーティンも、一番大変
なのは楽譜の準備だと言う。
おなじみ、チャイコフスキー「白
鳥の湖」でも、事情は変わらない。
ど の バ レ エ 団 の 公 演 も、 振 付 に
よって、音楽は大胆にカットされ、
順番が変わり、時に無関係な楽節
が挿入される。振付家は楽譜準備
のことなど、まったく頭にないの
だ。リハーサル・ピアニストや指
揮者から刻々情報を得て、変更す
べてを書き込んだスコアを楽譜浄
書家(コピイスト)に、(十分余裕
を持って)送る、それでようやく、
貼り込みや複雑怪奇な矢印のない、
譜めくりにも配慮したパート譜が
準備できる。
初 め て の 作 品 に 取 組 む 場 合 は、
数 週 間、 あ る い は 月 単 位 か け て、
音楽を振付家の考えに沿って編集
し て い く。 そ の 際、 別 の 作 曲 家
6
日本のオーケストラ・ライブラリアンの第一人者、武田英昭氏
(東京交響楽団チーフ・ライブラリアン)
は、
国立音大の卒業生。山形交響楽団のプログラム・アドバイサーも務められている。
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2013・
Performance Librarian
Ensemble Librarian
オーケストラ・ライブラリアンという仕事
Insights and Essays on the Music Performance Library
edited by Russ Girsberger & Laurie Lake
JJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJ
281
2013・
25
10
の音楽が挿入されることさえある。
だから、出版社から届いたパート
譜は、大きく変更されることにな
り、結局、頭から作り直すことも
少なくない。
JJJJJJJJJJJJJJJJJ
註と参考資料
註3 国
立 音 楽 大 学 で 言 え ば、 号館の図
書館ではなく、新1号館音楽資料課「ラ
イブラリー室」
にあたる。
,
註4 M
O L A Major Orchestra Librarians
日本からは関西フィル、N響、
Association
札響、都響、読響の 団体・ 名が加盟
している。 http://mola-inc.org/
註5 実
務 に 関 し て は、 本 書 の 編 者 2 人 が
執筆した “
”
The
Music
Performance
Library
とい う 本 も 出 版 さ れ て い る( Meredith
請求記号⃝ J122Music Publications 2011
)
エディションの探し方・選び方、購
342
入とレンタル、目録、保存・補修、演奏
会 の た め の 楽 譜 準 備、 ボ ー イ ン グ 記 入、
間違い訂正、パート譜の配布と回収等な
どについて、図や業務用フォーマット付
でより具体的に書かれている。第 章に
は、オーケストラ・ライブラリアンから
学生作曲家、学生指揮者に宛てた手紙の
形で、楽譜の仕上げ方や指揮の指示の出
し方など、具体的アドバイスを収載。
註1 英
“ Ensemble Librar 語 版 Wikipedia
”
ianship
歴 史、 タ イ プ ご と の 特 徴
か ら 今 後 の 課 題 ま で、 詳 述 さ れ て い
る。 参 考 文 献 や サ イ ト も 充 実 し て い る。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ensemble_
librarianship
註2 “
” / Karen
Mein Vaterland, Mein Gott!
サ イ ト の 記 事。
Schnackenberg. Polyphonic
http://www.polyphonic.org/2010/01/16/
mein-vaterland-mein-gott/
JJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJ
☆ 日本オーケストラ連盟のホームページ http://www.orchestra.or.jp/
☆「オ
ーケストラ・ライブラリアンという仕
事 密着取材:東京フィルハーモニー」
月刊パイパーズ 2009年 月 33
2号 p. 28-31請求記号 P841 28(8)
5
仲間どうしのネットワーク
こ の 本 の 第 1 章 で は、 バ ン ド、
オペラハウス、音楽祭、音楽出版
社・ レ ン タ ル 部 門、 音 楽 大 学・ コ
、合唱
ン セ ル ヴ ァ ト ワ ー ル( 註 )
団、映画録音スタジオなどで働く
人のライブラリアンが登場して、
仕事内容を語る。親団体によって、
生じる問題やその解決策は異なる
が、 共 通 す る 課 題 も も ち ろ ん 多
い。そこで大きな力を発揮するの
が、仲間どうしのネットワークで
ある。インターネットとメールの
おかげで、誰もが世界中の情報を
探せる時代になったが、それより
ずっと以前から、世界のオーケス
トラ・ライブラリアンたちは、楽
譜のエラー情報を交換し、ボーイ
ング譜を貸し借りするなど、互い
に協力してきた。
JJJJJJJJJJJJJJJJJ
MOLA 主要オーケストラ・
ライブラリアン協会
,
フィラデルフィアで開かれた第1
質や能力について書いている。ラ
回会議の参加者はわずか 人だっ
イブラリアンになるための、オー
たが、今や、世界中270以上の
ディションや面接に関する情報も
演奏団体から450人以上のライ
掲載されている。
ブラリアンが参加する大きな組織
続く第4章では、オーケストラ・
。 現 在、 M O L
に 発 展 し た( 註 )
ライブラリアンの実務が詳述され
。「 事 前 に 計 画 を た て る 」、
Aは国際的非営利団体として、ラ
る(註 )
「パート譜の探し方」、
「エディショ
イブラリアン相互のコミュニケー
ン を 選 ぶ 」、「 校 正 の 仕 方 」、 さ ら
ションを促進し、ライブラリアン
「著作権」、
「(オペラなどの)
育成とサービス向上に力を尽くし、 には、
グランド・ライツ」、「演奏ライブ
出版界と協力して演奏楽譜の質の
ラリーにおけるコピー機の選び
向上を図るなど、演奏芸術全体の
方」、「データベースの作り方」な
発展を目指して活動している。
ど、さまざまな項目を、その道の
M O L A の ホ ー ム ペ ー ジ で は、
ベテランが解説している。
ライブラリアンのキャリア情報は
第2章と第5章では、ライブラ
じ め、「 オ ー ケ ス ト ラ 楽 譜 作 成 の
リ ア ン の 他 に、 音 楽 出 版 者、 楽
ガ イ ド ラ イ ン 」、「 北 米 の レ ン タ
譜ディーラー、楽譜編集者、楽譜
ル楽譜 権利と責任」など、参考
になる資料が多数公開されていて、 浄書家など、協力して働く人たち
が、寄稿している。指揮者、作曲家、
誰でも読むことができる。
JJJJJJJJJJJJJJJJJ 編集者からの短い寄稿もある。箇
音楽の現場
条書き、思い出話風、Q&A形式
と、書き手によって文体はさまざ
まだが、具体的で、エピソードに
富んだ話は、興味深い。
オーケストラ・ライブラリアン
という、譜面台に楽譜を準備する
人々が書いたこの本は、いくつも
の「音楽の現場」を描き出す。
音楽の世界で活躍を目指す音大
生に、ひろくお勧め。
4
実は、米国にも、オーケストラ・
ライブラリアンの公式な資格はな
いし、養成する学科やコースも存
在しない。本書の冒頭、 ページ
にわたって掲載される執筆者の経
歴紹介を見るだけで、この仕事が
どれほどの学識と経験を必要とし
ているか、およその見当はつく。
本書の第3章では、ベテラン達
が、自らの経験に基づいて、プロ
としての基本姿勢、求められる資
☆「 ラ
イブラリアンは指揮者のもう一人の
「片腕」広島交響楽団ライブラリアン北米
留学記」 月(刊誌パイパーズ 1997年
月 1 8 9 号 掲 載 ) http://www.pipers.
co.jp/kijilib/ippan-02.html
いとう ようこ
ぱるらんど273号の
「ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール体験記」
で、ニューヨーク・フィルが、スコアなどの膨大な資料を
ウェブ公開しはじめたことを書いた。これもオーケストラ・ライブラリアンが関わる大きな仕事だと、今回あらためて気がついた。
7
7
4
7
4
3
Major Orchestra Librarians
は、 北 米 の オ ー ケ ス
Association
トラ・ライブラリアンが、198
3年に結成した協会である。米国
5
10
5
JJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJJ
2013・
図書館員のノートから
281
参考図書のご紹介 63
ベイカーの音楽家人名辞典2種類
小関 康幸
今回ご紹介するのは、以下の①と③の音楽家人名辞
典です。どちらも最近の出版ではありませんが、一度
まとめておきます。②は①の旧版で、比較する時に登
場します。
,
①Slonimsky/Diana 編“Baker s biographical dictionary of musicians”
(Centennial ed. Schirmer
Books, c2001)
全 6 巻
X-020/B/1-6
,
②Slonimsky 編“Baker s biographical dictionary of
musicians”
(8th ed. Schirmer Books, c1992)
X-020/B
,
③David Freeland 編“Baker s biographical dictionary of popular musicians since 1990”
(Schirmer
Reference, c2004)
全2 巻
X-092/B/1-2
時代別、ジャズは主に演奏様式別(初期、スウィング、
①は、初版が 1900 年に出版されたので、100 年
記念版(centennial ed.)と謳われていますが、要する
に第 9 版です。昔は、もっぱらクラシックの音楽家人
名辞典だったようですが、第 5 版から第 8 版(=②)ま
で編集に携わったニコラス・スロニムスキー(1995
年没)が、その収録範囲をポ
ピュラーやジャズの音楽家に
まで広げました。①では、ポ
ピュラーとジャズ分野の人名
が、②よりも一挙に 2,000 項
目も増えました。クラシック
の音楽家も項目数が増え、辞
典全体で 15,000 項目を超し
たそうです。そして遂に、①
biographical
は 6 分冊となりました(②以 ①Bakerʼs
dictionary of musicians
(請求記号⃝X-020/B/1-6)
前の版は1冊)。
項目は、姓の ABC 順に並び「Mahler, Gustav」のよ
うに表記されます。クラシックの音楽家の場合、作曲
家の多くは作品表と文献表がつき、演奏家の場合は
時々文献が示されます。一方、ポピュラーの音楽家
は、本文のあとに、多くはディスコグラフィーがつき
ます。「Bibl.:」で始まる文献表では、文献名に作曲家
の氏名が含まれる場合、たとえばグスタフ・マーラー
であれば「G.M.」といった具合に略号が使われます。
また、第 6 巻には 3 種類の索引(ジャンル別、国別、
女性作曲家&音楽家)が付きました。このうちジャン
ル別索引は、クラッシック、ジャズ、ポピュラーと3
つの音楽ジャンルに大別され、さらにクラシックは
いいますから、①と比べると
ビバップ、前衛、リヴァイヴァリスト)
、ポピュラー
はジャンル別
(カントリー、ポップ、ロック)
に分けら
れ、それぞれ関連する人名が挙がっています。
次は③です。ポピュラー音
楽 の 参 考 図 書 が あ る X-092
が置き場所です。2004 年の
出 版 で す が、 書 名 に“since
1990”
とあることから、実質
的には 1990 年代に活躍した
か、1990 年代に影響を与え
つづけた人やグループが採録
対象です。2 冊で 583 項目と
厳選されています。
項 目 は、 や は り 姓 の ABC
③Bakerʼs biographical
dictionary of popular
musicians since 1990
(請求記号⃝X-092/B/1-2)
順に並びますが、①とは異なり「Herbie Hancock」の
ように表記されますから、自分で姓を判断します。ま
たグループ名も混在していますから、戸惑うかもしれ
ません。ためしに、次の人名やグループ名を辞典の
ABC 順に並べ替えてみましょうか。
(a)Herbie Hancock (b)Bon Jovi
(c)Dianne Reeves
(d)The Strokes
正解は (b)(a)(c)(d) の順になります。(b) はグルー
プ名なので、姓はなく、さいしょの一語 Bon の位置
にきます。(a) と (c) は個人のアーチストなので、姓
の Han と Ree に項目があります。(d) もグループ。冒
頭にある定冠詞
“the”
は度外視して Str を探します。
ちなみに、The Beatles は 1990 年代に影響を残し
ている一例で、項目があります!辞典全体ではディス
コグラフィー付の項目が多いようです。また、アーチ
ストの白黒写真がところどころに配置されていて、い
い写真だなと思って何気なく生年月日に目をやると
「あっ、全盛期の写真だ」
と納得させられることも ・・・。
調べたい項目が③にはあって①にないケース(例:
Nina Simon)もあれば、その逆のケース(例:McCoy
Tyner)
もあります。ベイカーの音楽家人名辞典を使っ
てポピュラー音楽家を調べる時は、①と③どちらも
チェックすることをお薦めします。
こせき やすゆき 久しぶりに人名辞典のご紹介。じっさいに重たい辞典を
ひっくり返しながら記事を仕上げました。根気と腕力が鍛えられたかも・・・。
8
2013・
281
図書館と著作権と資料の複写
番外篇~引用と転載
前回一旦 終了したこのシリーズですが、番 外篇と
して、
「引用」と
「転載 」について、著作権 法と図書
館資料との関わりから、述べてみたいと思います。
思 想・感 情を表 現する著 作 物は、 多かれ少なか
れ、 先 人の文化 遺 産を 母 体として生み出されるも
ので す。 特 に 論 文 を 作 成 するには、 最 新 の 研 究、
調査などに依 拠しなければなりませんね。ただし、
その利用のしかたを誤ると、トラブルとなりかねま
せん。そこで、
「 引用」と
「転載 」の知 識が必 要となっ
てきます。
<適法引用の原則と条件>
<引用にも2種類ある>
→「変 更、切 除その 他の改 変を受けないものとす
る」という第20 条に気をつけなければなりませんが、
一方、 引用作品自体 が主体 的 な 鑑 賞 対 象となって
しまうと、問題になりかねません。
いずれにしても、思わぬトラブルを避けるために
も、引用しようとする作品の出版元や所蔵図書館に、
事前に確認を取っておくと安心でしょう。
(ik)
まず、適法引用の対象は「公表された著作物」で
す。そこで、未公表著作物の引用は、認められませ
ん。一方、著作権法第2条1項1号で定めた著作物以
外 の 物や権 利の目的とならない 物、著 作 権 保 護 期
間が切れている物は、自由に利用することができます。
著 作 権 法32条1項の「 公 正な 慣 行 に合 致 するも
の」と「引用の目的上 正当な範囲内」という要件は、
谷 井精之 助氏の解釈(*註)によれば、三つの原則
と一つの条件があるとのことです。
第一原則:自分の著 作物が主→引用してくる他人
<引用と転載とは?>
の 著 作 物は 従 であるという、 主と従の関 係 が 保
著作 者の権 利を守るための「著作権 法」ですが、
たれていること
文化発展に寄与するための公正利用に向けて、
「著
第 二 原 則:引 用 が 不 可欠→ その引用がないと自
作権を制限する条項 」
( 第30 ~ 50 条)を定めてい
分 の 著 作 物 が成り立 たない、 というくらい の 必
ます。その中の第32条が、次の条文です。
然性が必 要
第三十二条 公 表された著 作物は、 引用して利用
第三 原 則:原 文のまま使 用する→原文のままで、
する こ と が で きる。 こ の 場 合 に お いて、 そ の引用
しかも必 要最小限であること
は、 公正な慣行に合致するものであり、 かつ、 報 道、
条 件:出所明示→引用したすぐ側に、この引用は
批 評、 研 究その 他の引用の目的上正当な 範 囲 内
誰の何という著作物だという出所を明示すること
で行われるものでなければならない。
この 原 則と条 件 に 関 する解 釈 はまちまちで す が、
2 国 若しくは 地 方公共団 体 の 機 関、 独 立行政 法 「出所明示」だけは、第48条で定められていますの
人 又 は 地 方独 立行 政 法 人 が 一 般 に 周知 させる こ
で、必ず守るべきことと言えるでしょう。
と を目的 と して作成 し、 そ の 著 作 の 名義 の下に公
表する広報 資料、 調 査 統 計 資料、 報 告書 その 他
<楽譜の引用は?>
こ れ に 類 する 著 作 物 は、 説 明 の 材 料 と して 新 聞
さて、 音 楽 に関 する論 文作成をめざ す皆さん の
紙、 雑 誌 そ の 他 の 刊 行 物 に 転 載 する こ と が で き
最 大 関 心 事 は、
「 楽 譜を 論 文 で引用するときは?」
る。 ただ し、 こ れを禁 ずる旨の表示があ る 場 合は、 ということでしょう。文献と同様に、著作権のある
この限りで ない。
楽譜は、著作権 上の「適法引用」が可能です。上記
→この条文の
「引用」
と
「転載 」
を比較してみましょう。 の要件を満たせば、論文の中に引用して使うことが
共通点 :
「転載 」、
「引用」のいずれも著作権が制限
できます。 著 作 権 が 切 れた 楽 譜 は、 原 則としては
される場 合であり、要 件を満たせば 著 作 権 者の許
自由利用
( 広義の「引用」)が可能なのですが、楽譜
諾を得ずとも著作物を自由に利用できる。
の場 合、作曲者以 外にも著 作 権 者 があることが多
相違点 :
「転載 」は、あくまで官公庁の著作物を広
いので、編曲者等の著作 者の保護 期間が過ぎてい
く利用させることや、迅 速な報 道に接することがで
るかどうかのチェックを忘れないようにしましょう。
きるように認められた制 度 で「 説 明の材 料として」
また、楽譜の場 合、次のような問題があります。
用いることが必 要であるが、 厳しい 要 件を満たす
★ 著 作 権は切れていても、出版社や所蔵図書館か
必 要はない。ただし、著 作 権 者 が「転 載 禁 止 」の
ら権 利を主張される場 合がある
表 示をした場 合 は、 認 められ ない。 一方、
「 引用」 →日本 国内では、出版社の版面権は法制 化されて
は、公 表された著作物である必 要があるが、メディ
いませんが、 海 外 の出 版 物には、 必ずしも国内 法
アや内 容 による限 定はない。 ただし、 後で 述べる
が適用されないことがあります。また、図書館によっ
厳しい 要 件を満たす必 要がある。その 要 件を満た
ては、所有 権 から、資 料 の複 製に際して許 諾が 条
せば、著作権 者が「転載 禁止」と表 示したとしても、 件とされる場 合があります。
引用は認められる。
★同一 性保 持権の問題
論文作成に際しては、
「引用」の知 識が重要です
が、広義の語 句上の「引用」と著作権 法上の「適法
引用」とがあることをまず知っておきましょう。
『広 辞 苑 』第6版によれば、
「引用」とは
自分 の 説 のよりど ころ と して他 の文 章や 事 例 ま た
は古人の語 を引くこと。
「―文 」
とあり、単に
「他の文章や事例を引くこと」ですので、
自分 の言 葉 で要 約して引用したり、 出 所を 明 示 せ
ずに引用することも含まれます。これに対し、上記
著作権 法第32条1項に該当する引用が「適法引用」
であり、 下記に述 べる要 件 を満たす必 要がありま
す。著作権のある著作物は、
「適法引用」以 外の「引
用」をすることは、無断ではできませんので、ご注
意ください。
9
<参考文献>
『クリエイター・編集者のための引用ハンドブック』谷井精之助ほか著
(大田出版) 請求記号⃝J88-126 (*註:p.14 ~ 20)
『学術論文のための著作権Q&A』新訂2版 宮田昇著(東海大学出版会)
請求記号⃝J113-126
『Q&A 引用・転載の実務と著作権法』北村行夫・雪丸真吾編(中央経済
社) 請求記号⃝J115-321
サイト:日本音楽学会ホームページ→機関誌→著作権に関するQ&A
http://www.musicology-japan.org/publish/copyright_Q&A.pdf
2013・
281
〇ブラウザ
2013.4
2012.4
2011.4
MS Internet Explorer
98,269
45.2%
15,847
58.1%
103,125
71.6%
Safari
53,706
24.7%
44,942
17.2%
16,717
11.6%
Google Chrome
23,315
10.7%
21,162
8.1%
※ 7,288
5.0%
※ 2011 年は第 4 位でした。第 3 位は Firefox:10,589/7.3%、Firefox は 2012 年、2013 年とも
5 位、4 位は Android browser (PDA/Phone browser) でした。
2013.9
2012.9
2011.9
MS Internet Explorer
62,486
42.5%
117,772
52.4%
181,371
69.3%
Safari
37,471
25.5%
48,872
21.7%
35,962
13.7%
Google Chrome
16,018
10.9%
19,171
8.5%
※ 15,437
5.9%
※ 2011 年の 4 位は Firefox、Chrome が第 3 位になりました。
ブラウザについては、MS Internet Explorer の第 1 位は揺るいでいませんが、比率が下がってきてい
ます。思ったよりChrome の比率が上がりません。
〇 MS Internet Explorer
2013.4
Msie 10.0
2012.4
5,717
2.6%
Msie 9.0
45,194
17.3%
Msie 9.0
47,599
21.8%
Msie 8.0
71,621
27.4%
Msie 8.0
31,380
14.4%
Msie 7.0
21,790
8.3%
※ IE10.0 での利用は、2012 年 6 月に 1 件のアクセス、その後、8 月はアクセスがありせんでしたが、
9 月以降は着実にアクセス数が増えています。
2013.9
Msie 10.0
2012.9
2011.9
19,693
13.4%
17
※ 0%
Msie 9.0
9,098
6.1%
50,374
20.7%
20,769
7.9%
Msie 8.0
20,091
13.6%
46,693
12.9%
105,550
40.3%
Msie 7.0
11,792
8.0%
11,976
5.3%
32,006
12.2%
−
−
※正確に計算すると0.000144% でした。
主任司書 松浦淳子 10
2013・
281
図書館の う ・ご・ き
◇ OPAC のプログラムについて
今年度の 4 月以降、「WebOPAC にアクセスできない」、「WebOPAC の表示が真っ白になる」と
いう連絡をいただくことが増えてきました。 図書館からのアクセス確認では問題ないので、原因がわ
かりませんでしたが、ある時、不具合を連絡してくださる利用者の共通点としてブラウザに IE10 を
利用していることが判明しました。 残念ながら図書館の OPAC 端末、業務用端末すべて IE8 あるい
は IE9 ですので、確認の術がなく困っていました。 その後何とか IE10 での検証をすることができ、
原因が判明しました。 現在、IE10 対応のプログラムに改修すべく方法を検討中ですが、当面の対応
策として「互換表示」に切り替えることで問題なく表示されることもわかりました。
図書館 HP を通してもお知らせしていますので、下記アドレスをご参照ください。
http://www.lib.kunitachi.ac.jp/webopac/webopac_error.htm
このこともあり、当館 HP へのアクセスログで OS、ブラウザの種類を確認してみましたので、その
一部をご紹介します。(アクセス数/比率%)
〇オペレーティングシステム
2013.4
Windows
2012.4
2011.4
125,756
57.8%
181,261
69.3%
116,903
81.2%
Macintosh
61,067
28.0%
42,044
19.9%
20,015
13.9%
Linux
27,778
12.7%
24,547
9.3%
※ 3,149
2.1%
※ 2011 年は第 4 位でした。第 3 位は不明:27778/12.70%
2013.9
2012.9
2011.9
Windows
80,676
54.9%
143,056
63.6%
204,330
78.1%
Macintosh
43,177
29.3%
54,708
24.3%
40,722
15.5%
Linux
17,124
11.6%
24,074
10.7%
11,040
4.2%
Windows のバージョン
2013.9
2012.9
2011.9
Windows2008
47,436
32.2%
69,351
30.8%
64,665
24.7%
Windows XP
16,260
11.0%
43,355
19.2%
※ 80,255
30.6%
WindowsVista
(LongHorn)
11,436
7.7%
29,019
12.9%
54,928
21.0%
※ 2011 年では、WindowXP が第 1 位でしたが、2012 年から Windows2008との順位が入れ替わっ
ています。
11
2013・
281
雑誌の部屋
⑧
••••••••••••••••••••••••••••
「雑誌の部屋」は、当館が所蔵しているたくさんの雑誌を、もっとみなさんに手にとっていた
だけるよう紹介するコーナーです。
ここ数年、電子媒体の出版物が増えてきています。官公庁の白書や刊行物は、全文をホーム
ページで公開するようになってきました。学会などの会報でも、印刷物を作らずwebコンテンツ
のみのものが出てきています。今回の「雑誌の部屋」では、webコンテンツに切り替わった
和雑誌のタイトルを紹介します。
タイトル
P番号
掲載ホームページ
◆ 経済財政白書
P1070
内閣府 http://www5.cao.go.jp/keizai3/keizaiwp/
◆ 世界の統計
P1074
総務省 http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm
◆ 情報管理
P1079
科学技術振興機構 http://johokanri.jp/journal/
◆ 労働経済白書
P1085
厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/
◆ 日本の統計
P1108
総務省 http://www.stat.go.jp/data/nihon/index1.htm
◆ 人権教育・啓発白書
P5469
法務省 http://www.moj.go.jp/hakusyo_index.html
◇ 文化庁月報
P1312
文化庁
http://www.bunka.go.jp/publish/bunkachou_geppou/
● Newsletter
P1582
日本ポピュラー音楽学会 http://www.jaspm.jp/
◆官公庁や関係機関の刊行物。発行元が、自身のホームページで全文を公開している一般誌(音楽専
門誌以外)については、冊子の購読を中止しました。保存期限が終了したので、すでに冊子は所蔵
していません。
◇
「文化庁月報」は、2011年3月号(第510号)で刊行が終了し、webコンテンツのみとなりました。
保存期限は4年なので、現在2009 ~ 2011年度・3年分の冊子を所蔵していますが、順次、除籍
されることになります。
●日本ポピュラー音楽学会「Newsletter」は、2011年3月号(第23巻1号/通巻87号)で刊行が終了し、
webコンテンツのみとなりました。すでに刊行されている第23巻1号までの冊子はそのまま保存
します。
今後ますます進む電子化に向けて、こうした情報を利用者のみなさんにどのように伝えていくの
かが検討課題です!
••••••••••••••••••••••••••••
12
281
2013・
◇ AV 資料室の機器入れ替えについて
2013 年の夏休みの間に、AV 資料室の機器の一部を入れ替えました。
昨年の夏から、グループ席を 6 席(今までの個人視聴卓の仕切りを外した形でしたが)には、
ディスプレイが 2 台並んでいました。これは、ディスプレイが小さかったので、同じ画像を 2 台
で見てもらおう、という工夫の結果でしたが、あまり、利用者の方には気づかれなかったかもし
れません。 今回はディスプレイを少し大型(24 インチ)のものに変更し、DVD プレーヤーから
図書館内の施設がどのように利用されているのかを自分
の目で確かめようと、毎日館内を歩く。そうすると、同じ
曜日、同じ時間、同じ席に、常に同じ人が座っているのに
気づく。それがわかると、いつもいるはずの時間にその人
がいないと気になり、体調が悪いのか、どこかに出かけた
のかなどと余計な推測をしてしまう。
これは個人的なわばりと呼ばれる。本来は公共の場所で
あって誰もが同じようにごく普通に使って良いはずの空間
であるのに、特定の人がいつも使うことで、その場所の占
有権をその人が確保してしまったのである。混雑した図書
ソフトウェアも購入していますので、是非ご利
館で行った先行研究の結果、机の上に開いたノートを置い
入 替と専 用 席を準 備しました。 現 在、BD の
ておくと平均七十七分間、あわせてイスにコートをかけて
のディスプレイに交換し、BD プレーヤーへの
おくと二時間以上もその席を占有できるという。
に入 れ替えました。 個 人 視 聴 卓も 19 インチ
このような個人的なわばりは、教室での座る位置にも現
Blu-ray(ブルーレイ、 以 下 BD) プレーヤー
れるが、学生だけに限ったものではない。教員もなわばり
を主張したがる。それは教授会の座席である。四月はメン
バーも入れ替わり、初めて会議に出席する人は無難な所を
選んで座ったつもりだが、そこが三月までベテランの先生
が座っていた場所となると事情は異なる。その先生からす
ると、自分の定位置が奪われて心中穏やかではなくなる。
会議などどうでもよくなる。そうなると、次の会議では早
大学院生であった頃、私にも図書館でお気に入りの場所
めに来て席を確保するはずだ。観察していると興味深い。
があった。人目につかない所にあるものの外の景色が見え
るソファーで、そこに座り本を読みながら通り過ぎる人を
観 察 し た り、 実 験 の 疲 れ を ほ ぐ す た め の 居 眠 り を し た り。
みなさんにとって図書館の中で個人的なわばりと言える場
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所はあるか。ノートやコートを放置するのは困りものだが、
落ち着く自分のなわばりをつくってみてはどうだろうか。
用ください。
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古川 聡
ようこそ
室へ
館長
(続)
図書館の う ・ご・ き
個人的なわばり
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図書館長 •
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BOOK
大森智浩
年
人を魅了する演奏
‼‼
演奏学科声楽専修
ていて、 頭を抱 えたり眉 間にシワを 寄せず、 読
む 進 め る こ と が で き ま し た。
同時に読み進めれば読み進めるほど演奏する
上 や、 勉 強 し て い く 中 で 自 分 に 足 り な い も の、
演奏す る上で大 切なこと が明瞭にな りました。
本 の 一 部 を 簡 単 に 紹 介 す る と、
「 西 欧 音 階 で は、 和 音 の 流 れ が 心 に も た ら す 作 用
への関心が不可欠な要素であるのに対し、日本人
は主としてメロディーの上がり下がりをとらえ
て音楽の抑揚を感じているので、和音の変化を聴
き取ってもそこに抑揚を感じない民族的な感性
の特質を持っている旋律のラインへの関心は高
いが、 和音や 他の音と 作る響き には関心 が低い」
などと本を読んでいくと心にとどめておきたい
言 葉は た くさ んで てき ま す、「演奏 す るこ とは
人 に 演 奏 を 聴 い て も ら う こ と で は な く、 ま た 聴
か せ る こ と で も な く、 何 と か 音 楽 を 相 手 の 心 の
奥 深 く へ 届 け、 そ こ で 心 と の 対 話 を さ せ る …」
という 部分など、 ハッとさ せられる 言葉が多い
と感じ ました。 文 章にマー カーを引 いたり付箋
をつけて是非自分だけの一冊になるような読み
方をお すすめし たいです。
おお
もり ともひろ 音大は学費が高い(笑)少しでも元を取っ
てやろう精 神でたくさんのことに興 味を示して勉 強したい
専攻だけじゃなく音楽の総合的な力を身につけて卒業したい
そ
して専攻以外の人やたくさんの人と知り合い新たな視点で
音楽を見てみたい今日この頃。
『人を魅了する演奏』紙谷一衛著
角川学芸出版 2009
請求記号⃝J115-613
3
人 を 魅 了 す る 演 奏 っ て 難 し い、 ま し て や 自 分
の国のものでは無く西洋文化の物を日本人が演
奏しな きゃいけ ない、 外国 語で歌う ことに疑問
を抱い ていたと きに、 この 本に出逢 いました。
本 の 中 に で て く る、 あ る 言 葉 に ド キ ッ と し ま
した。その言葉とは「空っぽでナンセンス」な演
奏という言葉でした 最初は頭にハテナがた
くさん浮かび読み進めるうちに確かに と頷
き、 い ま自分が 当たり前の ようにド の音がドで
あ り レ は レ で あ り、 音 名 も 読 め て 音 階 を 歌 え る
という ことは、 ほんの数十 年前には 難解だった
こと、 この本を 読むと、 い かに自分 がいま恵ま
れた環境で勉強できているかに感謝しなくては
と、 思 わ さ れ ま す。 同 時 に、 今 の 環 境 に 満 足 す
る 事 無 く、 自 分 で 切 り 拓 い て 行 く こ と も 大 事 だ
と思い ました。
僕たち 日本人が、 西洋音楽 を勉強す るときに
起 こ る 多 く の 疑 問。
学 べ ば 学 ぶ ほ ど 疑 問 は 増 え 続 け、 た く さ ん の
壁に突 き当たる。 そんな時、 指揮者 という立場
での音 楽のとら え方や、 紙 谷先生の 考え方が大
変分か りやすく、 なるほど と読んで いて腑に落
ちてい きます。
また、 大切な事 柄がユーモ アを交え て書かれ
‼
‼
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2013・
CD
自分の目指す音楽
曲輪大地
3年
演奏学部ジャズ専修
『 Roman Night
』私 が 初 め て Tom Harrel
と
いうミ ュージシ ャンに出会 ったCD でした。 彼
の音楽 はとても 暖かく、 優 しさなど の感情に満
ち あ ふ れ て い ま す。 C D の タ イ ト ル で も あ る
《 Roman Night
》は私が音楽生活をしている中
で と て も 衝 撃 を 受 け た 曲 で も あ り ま し た。
の 音 楽 に 出 会 っ た き っ か け は、
Tom Harrell
私 が ま だ 1 年 生 の 頃、 音 楽 に 対 し て 色 々 悩 ん で
い た 時 に ジ ャ ズ 専 修・ S a x の 池 田 篤 先 生 に
「 Tom Harrell
っていうミュージシャンがいる
から聴いてみるといいと思うよ」。と言ってい
た だ い た の が き っ か け で し た。 そ れ か ら C D
ショップで何となく手に取ってみたのがこれで
した。 早速聴い てみると、 素晴らし い音楽、 そ
し て と て も 美 し い ト ラ ン ペ ッ ト の 音 色。 私 は す
ぐに彼の音楽にはまってしまいました。1曲目、
2 曲 目 と 過 ぎ て 3 曲 目《
》。私が
Roman
Night
今 ま で に 聴 い た 事 の な い よ う な、 Tom
の優し
さ に 満 ち あ ふ れ た フ リ ュ ー ゲ ル ホ ー ン の 音 色。
これまでフリューゲルはトランペットより柔ら
か い 音 が 出 る か ら、 そ の た め だ け の 持 ち 替 え 楽
器 ぐ ら い に し か 思 っ て な か っ た の で す が、 こ れ
を聴いてフリューゲルに対しての思いが変わり
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281
2013・
音楽を俯瞰で見る
ました。 彼のフ リューゲル にはとて も大きな感
BOOK
情 が 詰 ま っ て い る よ う に 感 じ ま し た。 こ れ が
きっかけで私は自分の目指したい音楽が見えて
き ま し た。
昨 年 私 は Tom
が 来 日 す る と い う の を 知 り、
に 行 っ て き ま し た。 そ こ で 聴 い た
Cotton Club
演奏はCDで聴いた以上に素晴らしいものでし
音楽文化デザイン学科コンピュータ音楽専攻 3年 宮本貴史
た。 C Dだけで は絶対にわ からない、 その場だ
け の 空 気、 2 度 と 同 じ も の は 生 ま れ な い 音 楽。
音大生 はしばし ば 「音楽と 美術はど う違うの
聴いて いてとて も感動して、 涙が出 そうになっ
か」または「どこまでが音楽で、どこからが美術
てしま いました。
なのか」 などと いう話をす ると思う。 これは多
も し、 こ の 記 事 を 読 ん で 少 し で も 興 味 が わ
いたら是非聴いてみてください。この《 Roman くの音大生が、音楽と美術には明確な境界線が
どこか にあるの ではないか、 と思っ ているとい
》以外にも Tom Harrell
のリーダーアルバ
Night
うこと でもある だろう。 し かし音楽 も美術も常
ムは図 書館にた くさん入っ ています。
に相互に還元し合あっているのは明らかなため
今はジ ャズと言 っても、 様々なスタ イルがあ
「明確な境界線」などというものは、考えるだけ
ります。 そんな 中で私は彼 のような、 感情に満
無駄な ような気 がする。
ちあふ れたミュ ージシャン を目指し たいです。
音大に通っていると必要以上に音楽を特別視
してし まいそう になる。 自分を納得 させるだ け
の理由 もなく、 音楽は美 術や文学な どの他の 芸
術よりも圧倒的に素晴らしいものだと思いそう
になる。 もちろ んその背 景には音大 という環 境
以前に、 自分の 過去や未 来を肯定す るための 無
意識下 での働き もあるだ ろうから、 しょうが な
いこと だと思う。 自分は 音楽と同じ くらい美 術
が好きだが、そもそも美術に興味を持ったのは、
音楽が本当に他の芸術よりも素晴らしいものな
のかどうかを確かめたいという思いがあったか
ら だ。 も ち ろ ん 美 術 に 興 味 を 持 っ て 間 も な く、
音楽が特別素晴らしいという考えはどこかに消
えた。
しかしそれは音楽も美術も同じようなものだ
Tom Harrell《 Roman Night 》
High Note HCD7207
請求記号⃝XD68260
くる
わ だいち 大学生活も半分を過ぎ、残りわずかになって
き ました。今でもた く さ ん 悩 ん だ りしていますが、一つ一つ
しっかり乗り越えて成長していきたいと思います。
という結論に至った訳ではない。美術と音楽で、
表 現 し た い も の が 同 じ と い う こ と は あ っ て も、
異なる プロセス を経て、 結 果として 全く違うカ
タ チ の 作 品 に な る と い う こ と は ま ま あ る。 同 じ
も の を 表 現 す る に も、 音 楽 家 と 美 術 家 で は 異 な
るプロセスをたどり異なるカタチに仕上がると
いうこ とは、 享 受する側も 音楽と美 術では異な
る回路 を使うべ きなのでは ないか。 そ してその
回路は無意識のうちに使われているのではない
か と 思 う。 要 す る に 音 楽 に は 音 楽 の 聞 き 方、 美
術 に は 美 術 の 見 方 が あ る と い う こ と だ。 そ し て
サウン ドアート の面白いと ころは、 音 楽を美術
の 見 方 で、 美 術 を 音 楽 の 聞 き 方 で 感 じ る こ と が
で き る と い う と こ ろ だ と 思 う。
サウンドアートについて書かれている本はこ
の図書 館にも幾 つかあるが、 本書は 音楽家の視
点からサウンドアートについて書かれているた
め 非 常 に 親 し み や す い と 思 う。 美 術 に 興 味 を 持
ち、 延 いては音 楽をもっと 好きにな るきっかけ
になれ ばと思う。
「サウンドアート:音楽の向こう側、
耳と目の間」アラン・リクト著 荏開津広、西原尚訳 フィルムアート社 2010 請求記号⃝J118-602
みや
もと たかし どうせだったら自分がリクエストして入れ
てもらったCDとかを紹介すればよかった(笑)
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Photo credit:Angela Harrell
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冬休み貸出
「くにおんアーカイブ」に
「公開レッスン」を追加
昨年度から取り組みを開始した「くにお
んアーカイブ」。すでに、「大学院オペラ」、
「 基 礎 ゼ ミ 」、 2 0 1 2 年 度 の 演 奏 会 の 映
像 資 料 を 公 開 し て い ま す。 2 0 1 3 年 度
は「公開レッスン」映像を対象としていま
す。 第 1 弾 と し て、 月 日 よ り、 1 9
7 8 ~ 1 9 8 6 年 度、 2 0 0 9 ~ 2 0 1
1 年 度 の 映 像 を ア ッ プ し ま し た。 こ れ か
ら、 第 弾、 第 弾 と 公 開 映 像 を 増 や し
て い き ま す。 図 書 館 階・ A V 多 目 的 室
でぜひ貴重な映像をご覧ください。
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「新潮文庫の100冊」
2013を設置(予定)
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AV資料室のAV機器の入れ替え
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テーマ展示 in ブラウジングルーム
10月1日(火)~ 11月9日
(土)
11月12日(火)~ 12月14日
(土)(予定)
2013年度国立音楽大学音楽研究専修
研究発表会資料展
企画⃝国立音楽大学附属図書館
閲覧参考部ガイダンス担当
企画⃝国立音楽大学音楽研究専修専門ゼミⅠⅡ
めまぐるしく変化する時代の中で、世代を超えて歌い継
がれる歌があります。みんなが知っていて、誰もが歌った
あの歌この歌。今回の展示では、いつまでも色あせること
のない童謡・唱歌の世界を当館所蔵資料とともにご紹介
します。
12月6日
(金)に、6号館110スタジオにて研究発表会を
行います。それに先立ちまして、研究発表に関する文献や
図版などの資料を展示にてご紹介します。この機会に
「音
楽と人とのつながり」
「音楽の価値」について一緒に考え
てみませんか?
ガイダンス
9月19日(木) 神戸愉樹美先生クラスガイダンス(西洋古楽表現(ヴィオラ・ダ・ガンバ) I・II 1, 3年)
9月26日(木) 江﨑公子先生クラスガイダンス(音楽教育講義G 2年)
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ぱるらんど281
2013年11月6日(年 4 回、4,6,9,11月)発行
国立音楽大学附属図書館 〒190-8520 立川市柏町5-5-1 電話042-536-0326
テーマ展示 in ブラウジングルーム・AV資料室
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国立音楽大学附属図書館 h t t p : / / www.lib.kunitachi.ac.jp
http://www.lib.kunitachi.ac.jp/i/(携帯サイト)
E-mail [email protected]
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2013年秋のテーマガイダンス
“童謡・唱歌の世界”実施
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音楽・人・メディア ―変わりゆく音楽の価値―
童謡・唱歌の世界
1 12
冬休み貸出が 月 日(月)から始まり
今年の「新潮文庫の100冊」のなかか
ます。返却日は 月 日(水)以降になり
ら、昨年度までに購入していないものを、
ます。楽譜や本、CD(学内者のみ)を長
月 中 旬 以 降 に 追 加 す る 予 定 で す。 自 由
く借りられますのでご利用ください。
閲覧室に設置し、貸出期間は 週間です。
••••••••••••••••• ぜひご利用ください。
Information •••••••••••••••••••••••••••••••
図 書 館 で は、 2 0 1 3 年 秋 の テ ー マ ガ
夏 休 み に、 A V 資 料 室 の A V 機 器 の 一
イダンスとして、‘童謡・唱歌〟に関する
部 を 入 れ 替 え ま し た。 席 の 機 器 を D V
一 連 の 催 し を 行 い ま し た。 図 書 館 ブ ラ ウ
( ブ ル ー レ イ、
D プ レ ー ヤ ー か ら Blu-ray
ジ ン グ ル ー ム で の 資 料 展 示 や、 図 書 館 員
以 下 B D ) プ レ ー ヤ ー に 入 れ 替 え、 ビ デ
に よ る ガ イ ダ ン ス、 江 﨑 公 子 先 生 に よ る
オ・ C D・ D V D・ L D 複 合 席 の う ち
公開講座( / (水))、書庫ツアーといっ
席 に B D プ レ ー ヤ ー を 追 加 し ま し た。 ま
た企画を実施しました。
た、 上 記 の 席 と グ ル ー プ 席 席 の デ ィ
••••••••••••••••• スプレイを大型のものに切り替えました。
現在、BDのソフトウェアを発注中です。
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・ぱるらんどは「語りかけるように歌う」という意味の楽想記号です■発行・国立音楽大学附属図書館■編集担当・河田篤子■
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Parlando
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閉館
◆月〜金
8:50 〜 19:00 (書庫内資料の受付は 18:10 まで)・AV資料室 8:50 〜 18:50(受付は 18:10 まで)
◆ 土
8:50 〜 17:00 (書庫内資料の受付は 12:30 まで)・AV資料室 8:50 〜 12:50(受付は 12:30 まで)
8:50 〜 17:00 (書庫内資料の受付は 16:50 まで)・AV資料室 8:50 〜 16:50(受付は 16:30 まで)
◆ 印
◆ は学内者のみ
*閉館時間の変更はその都度ホームページや掲示でお知らせします。学事予定により臨時閉館となる日もありますので、必ず事前に確認してください。