1961年にケルンで生まれ、ベルギッシュ地方の小さな村で育ったバルダウフ氏は、8歳の 時に母親に連れて行かれたモーリス・アンドレのコンサートに感銘を受け、彼もトランペットを 演奏したいと思うようになりました。10歳の時に初めて地元のブラスオーケストラで楽器に触 れ、トランペットの演奏を始めました。その後、音楽大学のディプロムと大学院(コンツェルト・ イグザーメン・コース)でトランペットを専修し、先ずはクラッシック界にてその活動を開始し ました。またその傍らビッグバンドとリード・トランペットを重点にジャズを個人的に専攻しま す。その頃から既にバルダウフ氏は独自の道を歩む事を選択し、多くの薦めにも拘わらずオーケ ストラ等の定職を求めようとしませんでした。彼は先ずはシンフォニー・オーケストラでの仕事 と並行してミュージカルで彼のフリーランサーとしてのキャリアを始めました。 その後今日まで彼は300以上ものCD録音に参加し、たくさんの有名人達と共に仕事をして きました。また1989年から2000年までケルン音大のアーヘン分校にて講師として後進の 指導にもあたりました。 2003年の8月からシュテファン・ラーブ(ドイツのコメディアン・司会者)のナイトショ ーのバンドであるへヴィー・トーンズとしても活動を開始します。彼らの印象的なライヴサウン ドは週に4回Pro-7(テレビ局)のTV-トータルと言う番組で楽しむ事が出来ます。へヴ ィー・トーンズは1500以上ものテレビ出演を果たし、その生演奏によってドイツのメディア 界に無くてはならない存在となりました。言うまでも無く彼らはドイツの放送界で一番多忙なバ ンドでしょう。最後にリューディガー・バルダウフはクリニシャンとしてもまた国際的に活動の 場を広げています。 今年 6 月に彼の初ソロアルバム、”Own Style”という意味ありげなタイトルのCDをリリース しました。この録音には Crème de la Crème, Ack van Rooyen, Till Bronner, Andy Harder 等 バルダウフ氏と親交が深い音楽家達ががゲストとしても名を連ねています。 今日はSonic誌の Holger Muecke がTV-トータルのリハーサルの合間にバルダウフ氏 を訪ねました。 Sonic : 何があなたにとってトランペットを演奏する事の魅力ですか? RB: トランペット奏者の集まりと言うのは常に目標に向かって戦っている特殊な集団だと 思います。私はワークショップを行うたびにそう思います。今までに、いかに高い音を、早いパ ッセージを演奏する為にがんばっている何人ものアマチュア奏者を見てきました。それらは彼ら の収入やその他の環境に関係ありません。そういった殆どの人達が遠方からわざわざ一度のレッ スンを受けにやってきます。その中には他の仕事をしていてとても成功しているのに、トランペ ットの演奏によってしか幸せを感じられない人達も数多くいます。また私はそういった人々に会 うのをとても楽しみにしています。 Sonic: あなたの経歴を見ると、あなたはとても一途に音楽家になると言う夢を実現する為の道 を歩んできたようですが、他に希望の職業を持った事は無いのでしょうか。 RB: ありますよ。役者になりたいと思った事がありました。以前まだRTL(ドイツの民放 テレビ局)で土曜日の夜に演奏していた頃は、番組の構成を片手間にやってみた事もありました。 例えば、脚本に使うスケッチをしたり。どちらにしても私は何かクリエイティヴな、芸術的な仕 事をしていたでしょう! Sonic: 現在どんな練習をしていますか?毎日どのくらいの時間をどんな練習に費やしていま すか? RB: 出来るだけ短いウォームアップの時間で済むようにしています。音のその物が自然であ れば、その分そこに時間を割かずに済みますし、その分練習の内容を芸術的な物に出来ます。 もし、トランペット奏者がちゃんと演奏する前に毎回 30 分ものアップの時間を必要とするとす れば私の考えではその人の身体状況はバランスが良くないと思います。私の場合ウォーミングア ップは先ず楽器を持たずに頭の中で始めます。私は自身のバランス力を向上させる為によく、シ チュエーションに合わせたメンタルトレーニングを行っています。そのほかにはよくバズィング の練習を、特にマウスピースだけを使った練習を仕事場に向かう車の中で行っています。私がレ ッスンをしている、クリニックを行っている全ての時間が私自身にとっての更なる成長の鍵です し、いつもいかに自分のメソードを向上させる事が出来るかを考えています。また目標を定めた アンブシュアの向上はいつも心がけています。もし何か新しい発見があった場合にはすぐに試し てみて取り入れています。そういう訳で、私には特に決めた毎日の練習プログラムはありません。 私の練習はいつも自分のおかれた状況の要求によって内容を決めていきますし、そのお陰で随分 多彩だと思います。色々アンブシュアの研究をした分トランペットを演奏する事が楽になってき ますし、勿論レッスンをする場合にとても役に立っています。 Sonic: 今年のフランクフルト・メッセは如何でしたか? BR: 私は今年もまたヤマハのステージに出演しました。今年は主に私の曲をメインのステー ジでした。サックスのトーステン・スクリンガーと一緒にロックと言うよりむしろファンキーな ステージを演出することが出来ました。ヤマハがいつも私にこの機会を与えてくれる事をとても 嬉しく思っています。今回はステージで新しいボビー・シューのフリューゲル・ホルンの紹介を しました。この楽器は私も開発に参加しましたし、勿論実際に演奏しているホーンです。トラン ペットからフリューゲルホルンへの素早い持ち替えを、この楽器はその小さい構造で可能にしま した。しかし、吹奏間その物は大きな楽器を吹いているときのものと変わりません。またどの音 域でも発音がよく、極端に大きな音量で演奏しても柔らかい音色は損なわれません。因みに、今 年このフリューゲルホルンの購入を決めた方には私のにゅーアルバム”Own Style”がもれなくプ レゼントされます。ヤマハさん、ありがとう! Sonic: そういえば使用楽器についてですが、あなたはヤマハアーティストとして色んな楽器を 選択できると思いますが、どの楽器を使用されていますか? RB: ヤマハの楽器はドレもとても高いクオリティーで製作されているので、決めるのはとて も大変です!大体ジャズのステージの為には“シカゴモデル”か“ティル・ブレンナー”モデル を、それから現在TV-トータルのショウでは“エリック・ミヤシロ”か新しい“EU”モデル を使ってます。 Sonic: あなたは特殊なマウスピースを使っていますが、何故透明のアクリル製の物を使用して いるんですか? BR: アクリルは温度変化に強いと言う特性を持った素材です。例えば演奏と演奏の間に多く の時間が空いてしまうTV-トータルの様なショウでは、これは決定的な長所です。所謂アップ なしの“コールド・スタート”をしなければいけない場合の問題がこれで楽になります。スタジ オでしつこく金属製のものとアクリルのものを比べてきたのですが、音質の劣化は聞き取れませ んでした。で、今では最終的に殆どアクリルのマウスピースで演奏するようになっています。私 のマウスピースはシルケの13A4のサイズでモネの縁という、3 つの要素が入り混じったマウ スピースになっています。フリューゲル・ホルン用の物はヤマハの鍛冶職人、エディー・ファイ ト氏と私の共同作品です。 Sonic: あなたにとって音楽的に、また人間的に、目標にしている方がいらっしゃいますか? BR: 確実に、先ず誰よりも私の師、ロベルト・プラットです。彼はとても素晴らしい人間で あり先生であり、私にトランペット奏者として何が出来なければならないかを全て教えてくれま した。また私にとって最高のトランペット奏者は、と言えばモーリス・アンドレです。ディジー・ ガレスピーは未だ追いつく事が出来ませんし、マイルス・デイビスの独創性はジャズ音楽におい て打ち勝つ事が出来ないでしょう。アック・ファン・ローイェンからは特にフリューゲルホルン の演奏について影響されました。彼の人間としての暖かさと、そのサウンドは私にとっての目標 でもあります。さらにリック・キーファーや後にアンディー・ハーデラーからリード・プレイヤ ーとしての演奏を学びましたし、他にも、チェット・ベイカー、クリフォード・ブラウン、ロイ・ ハーグローブ、ジェイムス・モリソン、ニコラス・ペイトン等上げればきりがありません。 Sonic: あなたのワークショップに参加すると、受講生はあなたの音楽的な能力と色んな音楽シ ーンで積み上げられてきた経験について勉強できます。教えると言う事はあなたにとってどうい う事ですか?クリニックを行う際にあなたはどこに重点を置いていますか? RB: 先ずクリニックを始めるときに、私は受講生へのプレッシャーをなくす事を考えできる だけ彼らがリラックスして心を開く事に留意します。なぜならトランペットを演奏すると言う事 は音を出す、という事以上のたくさんの事を求められるからです!基本的にひとつの楽器の演奏 を習得すると言う事は集中して自分自身と向き合う事です。大切なことは受講生に、いくつかの、 基本的な事を気をつけさえすれば、トランペットの演奏が決して難しいことではない、という事 を気付かせる事です。そうして彼ら独自の才能を、筋力や必要以上の力を使う事無く使わせる事 です。彼らはトランペットを雁字搦めに固定してしまうのではなく、自然な演奏方法を見つけな ければなりません。その為にトランペットとアンブシュアの問題は切っても切り離せない物です。 しかし、ここでその事について話し出したら終わらなくなってしまうでしょう。 (笑)ですので、 是非コースに参加してください。 Sonic: 緊張やストレスにはどのように対処されているのですか? BR: 殆ど全ての人がこの問題と関わりがあります。しかし、本当の問題はその事について誰 も語ろうとしない事です。私はクリニックでいつもこの問題を取り上げています。みんな実はそ の事について知りたいと思っているし、話す機会ができる事を待っているんです。また、私は普 段の生活の中でもこの問題があまりにも僅かな注目を浴びている事について驚いています。もし、 私が必要な状況でその成果を発揮できないとすれば、何の為の練習でしょうか? 緊張を回避する方法は必ず習得する事が出来ます。その方法についてはクリニックでお伝えし ます。 Sonic: あなたはきっとたくさんのプロジェクトに参加していて、ほかの事に割く時間がなかな か無いと思いますが、何か他に興味のある事がありますか?何を大切にされていますか? BR; スポーツでは良くテニスをやりますし、卓球をやるのも大好きです。大変残念なことに 家族の為に使える時間はかなり限られていて、その内容については個人的なことですのでここで はいいません。 Sonic: あなたの音楽人生の中でのハイライトは何ですか? BR; TVトータルでの仕事は放送外も含めて数え切れないハイライトを与えてくれました が、その中でもいくつか特に思い出される物もあります。例えばジェイムス・ブラウンが出演し た際や、マイケル・ブーブレとのショウ、ジョージ・デュークやパティー・オースティンとWD Rビッグバンドでモントルー・ジャズフェスティバルに出演した事、またメセオ・パーカーとの ツアーも素晴らしいものでした。 Sonic: あなたのソロ・アルバムは長い間待ち望まれていた物でした。ここでもあなたはメイ ン・ストリームを行こうとはせず、むしろ独創的な作品を作り出しました。何故今まであなたは ソロアルバムをリリースしなかったのですか、また何故今なんですか? RB: 私は契約音楽家としての人生にいつも満足してきましたし、今まで自分の作品を出すと 言う事を思いつきませんでした。しかし、人間は変わっていきますし、また成長していく物です。 へヴィートーンズの新しい録音“Freaks of Nature” には当然私の意見も多く反映されています。 しかし、単純に、もし自分の作品だとしたら違う風に作りたいと考えました。因みに私はこのア ルバムの予想以上のセールスに満足しています。発売前は誰も想像しなかった結果ですし、特に 大手のレコード会社なんかは興味も持とうとしませんでしたが。 私は今、芸術的に自分自身の意見を発言できる、と思いましたし、また新しい一歩を踏み出す 時期でもあると感じました。“Own Style”はたくさんのクリエイティブな仲間達との共同作品で すが、決定的な事柄に関しては全て自分で決断いたしました。私の考えたコンセプトの可否につ いてはリスナーにゆだねたいと思います。シンプルに私は自分が気に入った物を、私の人間的に も演奏家としても尊敬のできる友人と共に録音しました。ゲストとしてティル・ブレンナー、ア ック・ヴァン・ローイェン、マックス・ムツケ、ニルス・ラングレン、アンディー・ハーデラー、 ヴォルフガング・ハフナー、ニールス・クライン、トーステン・スクリンガーが参加してくれま した。 Sonic: どういう風につくったCDですか RB: 私は一年間に渡りアイデアを集め、私のキーボード奏者でありプロデューサーと一緒に 一曲ずつ作曲し、プログラムし、そして演奏していきました。そこでへヴィートーンズのディレ クターであるヴォルフガング・ダルマイヤーと会い最初の5曲を録音しました。そこでへヴィー トーンズのベーシスト、ドミニク・クレーマーがベースパートを演奏してくれました。彼のソロ アルバム、 “Nice Bass”の中の一曲はとても気に入っていましたので私のアルバムの為に構成しな おしました。こうしてその曲は別のアレンジとして私のCDに収録される事になりました。ドミ ニクと私はそのほかに二曲TVトータルのショウが終わったあとに録音しました。またヴォルフ ガング・ハフナーも一曲叩いてくれました。そこで全部の準備が出来た後に、2日間マンハイム に行ってM.グローシュのスタジオでリズムセクションを録音しました。ベースはドミニク・ク レーマーで、ドラムはマリオ・グルッチオです。ケルンのへヴィートーンズ・スタジオではアッ ク・ヴァン・ローイェンとマックス・ムツケが参加してくれました。この全部の過程がユーチュ ーブで見ることが出来ます。ティルは彼のパートをベルリンで録音してくれましたし、ニルス・ ラングレンは移動中に彼のポータブル・スタジオで録音してくれました。今日ではこういう事が 可能です!私のソロパートについては全部グルーヴ・アイランド・スタジオで録音しました。な ぜなら素晴らしい音が録れるからです。その後ミックスをしてマスタリングをしたら出来上がり ました。因みに私のレコードレーベルは”Mons” と言います。プロモーションは長い友人のティ ロ・ベルクが助けてくれました。 Sonic: あなたはどの様に表現の仕方を考えていますか? RB: いたってシンプルです。私は自分の音楽を演奏する喜びを伝える事、自分を押しつぶさ ない事です。今一番考えている事は、このCDが一部の専門家だけではなく幅広い聴衆に聞いて もらえると言う事です。私はCDを自分のエゴだけで作る事に何の意味も認めません。勿論専門 家に認めてもらう事はきっと難しい事でしょうが。 Sonic: 今後のプランを教えてください。 RB: たくさんやる事があります。今年中にデュエットの曲集を書く予定です。それについて、 フォッゲンライター出版より Play-Along-CD を素晴らしいリズム隊と共に発売させる予定です。 スウィングもありますが、むしろソウルやファンクが中心になります。曲集はCDありでもなし でも楽しめるようにするつもりです。2011年はワークショップDVDを作る予定です。その ほかにも“Own Style”の Play-Along-CD も発売されます。これはトランペットで演奏する為だ けに書こうと思っています。色んな楽器で演奏できるようにした方が売れるでしょうがそこには 妥協しなければいけない事が多すぎます。私はその為にとてもよい Voggenleier Verlag と言う出 版社をパートナーとして見つけました。彼らは売る事の前に内容を考慮します。 Sonic: RB: 若い職業音楽家や学生に向けてアドヴァイスをお願いします。 10年毎に音楽家になる事が難しくなってきています。仕事はどんどん減っていますし、 その一方でよい音楽家はどんどん増えてきています。 80年代に私がフリーのトランペット奏者としてやって行こうと決めたときに、皆がそれを止 めました。しかし、今日私は時分の決断が正しかった、という事が出来ますし、自分がとても自 分の理想に近い形で生活していると思います。だから私はみんなに言いたいと思います。もし、 才能と努力と運があれば、上手くいくでしょう。いつだって何かしらの仕事が良い音楽家のため にはあるはずです。いつまでも評価されるだけの立場にたっていないで、現実的に自分で自分を 評価してください。 訳:篠崎 大洋
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