2-2-1 アメリカ(連邦)

資料
・
1
2-2-1
アメリカ−連邦
アメリカにおける職場の安全衛生対策
( 1) 職 業 安 全 衛 生 法 ( OSHA)
ア メ リ カ に お け る 、労 働 安 全 衛 生 に 関 す る 現 行 の 連 邦 レ ベ ル の 包 括 的 立 法 は 、
「 1970 年 職 業 安 全 衛 生 法 ( Occupational Safety and Health Act of 1970 1 ; 以
下 「 OSHA」 と い う 。 ) 」 で あ る 2 。
アメリカでは伝統的に、職場の安全衛生については、州法によって規制され
て き た 3 。連 邦 レ ベ ル で の 初 め て の 包 括 的 立 法 で あ る OSHA は 、1970 年 に 、労
働 災 害 に よ る 死 亡 が 14,000 人 、 負 傷 者 が 250 万 人 と い う 状 況 を 受 け て 、 総 合
的 な 安 全 衛 生 対 策 が 必 要 で あ る と の 認 識 の も と に 制 定 さ れ た も の で あ る 4 。す な
わち、「被災労働者の数の増大と、それが国家にとって大きな経済的損失であ
ることが、認識されるようになり、また、産業の広がりと労働力移動の活発化
により労働者の安全衛生は、各州ではなく国家のかかわるべき問題になったと
いう共通認識が、議会内に作られ、労働安全衛生についての包括的な連邦立法
制 定 の 機 運 が 高 ま 」り 、立 法 化 さ れ た の が OSHA で あ る 5 。連 邦 最 高 裁 も 、OSHA
は、「国の働いている男女すべてに、安全かつ健康的な労働条件を保証するこ
と を 目 的 と し て 」 制 定 さ れ た も の で あ る こ と を 明 ら か に し て い る 6。
( 2) OSHA の 構 成
OSHA の 構 成 は 、 以 下 の 通 り で あ る 。
まず、第 2 条から第 4 条で、立法趣旨、定義、適用等、総則的事項を定め、
5 条 で 使 用 者 、 労 働 者 の 直 接 的 義 務 を 定 め た 「 一 般 的 義 務 条 項 ( General Duty
Clause) 」 を 規 定 す る 。 そ し て 、 6 条 で 、 労 働 長 官 ( Secretary of Labor) に
1
「 注 釈 付 合 衆 国 法 律 集( United States Code Annotated)」29 編 651-678 条( 以 下 、「 29 U.S.C.A.
§§651-78」 と い う 。 ) 。
2
小 畑 史 子「 労 働 安 全 衛 生 法 規 の 法 的 性 質( 1)― 労 働 安 全 衛 生 法 の 労 働 関 係 上 の 効 力 ― 」法 学 協 会
雑 誌 112 巻 2 号 ( 1995 年 ) 112 頁 。
3 合 衆 国 に お い て は 、労 働 安 全 衛 生 に 関 す る 立 法 活 動 は 、1977 年 に マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 州 が 、機 械 の
危険な部分に防護装置を施すことを要求する労働安全立法を作ったのを皮切りに、州のレベルで行
わ れ 、 1920 年 ま で に は 、 ほ と ん ど す べ て の 州 が 労 働 安 全 立 法 を も つ よ う に な っ て い た ( 小 畑 史 子 ・
前 掲 「 労 働 安 全 法 規 の 法 的 性 質 ( 1) 」 254 頁 ) 。
4
岡 崎 淳 一 『 ア メ リ カ の 労 働 』 ( 日 本 労 働 研 究 機 構 、 1996 年 ) 340 頁 参 照 。
小 畑 史 子 ・ 前 掲 「 労 働 安 全 法 規 の 法 的 性 質 ( 1) 」 254 頁 参 照 。 OSHA は 、 2 条 で 、 そ の 立 法 趣 旨
について、全国のすべての労働者に可能な限り安全で衛生的な労働条件を保証し、人的資源を保持
す る こ と で あ る と 規 定 し て い る ( 29 U.S.C.A.§651 参 照 ) 。
5
6
Industrial Union Department, AFL-CIO v. American Petroleum Institute, 448 U.S. 607, 611
(1980). 本 件 は 、空 気 中 の ベ ン ゼ ン 濃 度 に つ い て 、1978 年 に 制 定 さ れ た 基 準 が 、従 来 の 基 準 の 10ppm
以 下 を 1ppm 以 下 と 改 訂 し た こ と に 対 し 、石 油 産 業 の 団 体 か ら 提 起 さ れ た 訴 訟 で あ る 。労 働 長 官 は 、
発癌性の物質の場合は、これ以下なら安全というレベルはないので、とにかく技術的に実行可能な
最下限を基準とする必要があると主張した。これに対し、控訴裁判所は基準の取り消しを認め、連
邦最高裁もこれを支持した。
141
よ る 使 用 者 に 遵 守 さ せ る「 職 業 安 全 衛 生 基 準( Occupational Safety and Health
Standards)」の 設 定 に つ い て 規 定 し 、第 7 条 か ら 第 10 条 で 、一 般 的 義 務 や 基
準の実効性確保に関する措置、機関等に関する規定をおく。その上で、行政に
よ り と ら れ た 措 置 に 対 す る 司 法 審 査 ( 第 11 条 ) 、 準 司 法 機 関 に よ る 不 服 申 し
立 て の 審 査( 第 12 条 )、急 迫 し た 危 険 に 対 す る 手 続( 第 13 条 )を 規 定 し た 上
で 、 第 17 条 で 罰 則 に 関 し て 規 定 す る 。
そ の 他 、州 と の 関 係 に つ い て は 第 19 条 が 規 定 し 、第 20 条 か ら 第 22 条 で は 、
安全衛生計画の推進、連邦による研究、教育の機能とそれを担う機関について
規定するという構成をとっている。
( 3) OSHA の 適 用 範 囲
次 に そ の 適 用 範 囲 で あ る が 、OSHA は 、連 邦・州 及 び 地 方 の 政 府 機 関 を 除 く 、
アメリカ国内の州際通商に影響を与える事業に従事するすべての使用者に適用
さ れ る 7。
す な わ ち 、OSHA は 、第 3 条 (5)で 、適 用 対 象 と な る 使 用 者 を 、「 被 用 者 を 使
用し、通商に影響を与える事業に従事する者」と広く規定する。ただし、他の
連邦機関による労働安全規制との重複を避けるため、船員、鉱山、天然ガスの
ように他の連邦法による機関が職業安全衛生に関する基準や規則を制定し執行
す る 労 働 条 件 に つ い て は 、 適 用 に な ら な い ( 第 4 条 (b)(1)) 8 。
以 上 の よ う に 、OSHA は 、民 間 企 業 に つ い て は 全 面 的 に 適 用 さ れ る が 、連 邦 、
州、地方の公務員に対しては適用されない。
( 4) 州 法 と の 関 係
OSHA は 、基 本 的 に は ア メ リ カ 全 域 を 適 用 対 象 と す る も の で あ る が 、同 法 は
各州が州独自の安全衛生基準、安全衛生監督制度を設けることを認めている。
す な わ ち 、 OSHA は 第 18 条 で 、 州 が 申 請 す る こ と に よ り 、 労 働 長 官 の 承 認
を 受 け れ ば 、 OSHA に 代 え て 州 の 計 画 ( State Plan) を 適 用 す る こ と を 許 容 す
る ( 第 18 条 (b)) 。 た だ し 、 州 の 計 画 が 示 す 基 準 や 実 効 性 確 保 措 置 及 び そ の 仕
組 み が 、OSHA の そ れ と 少 な く と も 同 レ ベ ル の 実 効 性 を 持 た な い 場 合 に は 、州
の 計 画 は 承 認 さ れ な い( 第 18 条 (c)) 9 。OSHA に よ っ て 承 認 さ れ た 職 業 安 全 衛
生 計 画 を 有 す る 州 は 、最 終 基 準 の 発 行 さ れ た 日 か ら 6 月 以 内 に 類 似 の 基 準 を 採
7
竹 内 規 浩 『 ア メ リ カ の 雇 用 と 法 − 在 米 日 本 弁 護 士 か ら 進 出 日 本 企 業 へ の 報 告 − 』 ( 一 粒 社 、 1993
年 ) 121 頁 参 照 。 竹 内 は 、 「 郵 便 で 他 の 州 に 手 紙 等 を 出 す こ と も 『 州 際 通 商 』 と さ れ る の で 、 こ の
法律はほとんどすべての雇用者に適用されると見てよい」とする。
8 29 U.S.C.A.§651(b)(1)、中 窪 裕 也『 ア メ リ カ 労 働 法 』( 弘 文 堂 、1995 年 )251 頁 及 び 小 畑 史 子 ・
前 掲 「 労 働 安 全 法 規 の 法 的 性 質 ( 1) 」 257 頁 参 照 。
9 29 U.S.C.A.§667 及 び 小 畑 史 子 ・ 前 掲 「 労 働 安 全 法 規 の 法 的 性 質 ( 1) 」 257-258 頁 参 照 。 な お 、
連 邦 の 承 認 を 受 け た 安 全 衛 生 計 画 を 設 け て い る 州 及 び 地 区 は 全 部 で 25 で あ る( 岡 崎 淳 一・前 掲『 ア
メ リ カ の 労 働 』 340 頁 参 照 。 ) 。 こ れ ら の 州 及 び 地 区 と は 、 ア ラ ス カ 州 、 ア リ ゾ ナ 州 、 カ リ フ ォ ル
ニア州、コネチカット州(地方公務員のみ)、ニューヨーク州(州及び地方公務員のみ)、ハワイ
州、インディアナ州、アイオワ州、ケンタッキー州、メリーランド州、ミシガン州、ミネソタ州、
ネバタ州、ニューメキシコ州、ノースカロライナ州、オレゴン州、プエルトリコ州、ユタ州、サウ
スカロライナ州、テネシー州、バーモント州、バージニア州、バージン諸島、ワシントン州及びワ
イ オ ミ ン グ 州 の 25 で あ る 。
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択 し な け れ ば な ら な い と さ れ る 10 。
な お 、承 認 を 受 け て い な い 州 で も 、OSHA の 基 準 が 設 け ら れ て い な い 領 域( 例
え ば ボ イ ラ ー 、エ レ ベ ー タ な ど )で あ れ ば 、適 用 は 許 容 さ れ る 。し か し 、OSHA
の基準が設けられている領域については、州法の規制は承認を受けない限り、
内 容 の い か ん を 問 わ ず 、 「 連 邦 法 に よ る 専 占 ( preemption) 」 11 の 法 理 に よ っ
て排除される。
( 5) OSHA の 規 定 す る 義 務
OSHA の 定 め る 義 務 に つ い て は 、前 述 し た 一 般 的 義 務 条 項 と 職 業 安 全 衛 生 基
準があり、さらに記録保存や職業病に対する報告義務がある。
OSHA は 、罰 則 付 き で 、使 用 者 に 、「 労 働 者 に 対 し て 生 命 や 身 体 に 重 大 な 侵
害 を も た ら す 又 は そ の 可 能 性 の あ る 危 険 の な い 雇 用・職 場 を 提 供 す る 」義 務( 一
般 的 義 務 )( 第 5 条 (a)(1)) 12 、及 び 本 法 下 で 作 ら れ る 職 業 安 全 衛 生 基 準 を 遵 守
す る 義 務 ( 第 5 条 (a)(2)) 13 を 課 し て い る 。 さ ら に 、 使 用 者 に 記 録 保 持 ・ 掲 示 、
職業病・労働災害に関する報告、立ち入り検査後出された通告の掲示の義務を
課 し 、 労 働 長 官 に 、 厚 生 長 官 ( Secretary of Health and Human Services) と
協力の上これらの義務に関する省令を定める権限を与えている(8 条)。
( 6) 基 準 の 制 定 ・ 改 正 ・ 撤 回 の 手 続
前 述 し た よ う に 、労 働 長 官 は 、以 下 の 制 定 手 続 き に 従 っ て 新 し い 基 準 を 発 し 、
又 は 既 存 の 基 準 を 改 正・撤 回 す る こ と が で き る こ と と さ れ て い る( 第 6 条 (b))。
すなわち、利害関係者や使用者・労働者の組織の代表、国で認められた基準
作 成 組 織 、 厚 生 省 、 連 邦 職 業 安 全 衛 生 研 究 機 構 ( National Institute for
10
州 の 基 準 が 交 付 さ れ る ま で は 、 連 邦 法 が 仮 施 行 ( interim enforcement assistance) さ れ る 。
合 衆 国 憲 法 第 6 編 2 項 は 、「 憲 法 に 準 拠 し て 制 定 さ れ る 合 衆 国 の 法 律 … … は 、国 の 最 高 法 規 で あ
る。各州の裁判官は、州の憲法又は法律中に反対の定めがある場合でもこれに拘束される」と規定
する。これにより、連邦法違反の州法は無効とされるが、連邦の法律に州法と明示的に抵触する定
めがなくても、連邦の法律が制定されたことがその分野の法規制はすべて連邦法による趣旨のもの
であると解されるときは、その分野は連邦法が「専占」したものであり、その分野についての州法
の 定 め は 、 無 効 と さ れ る ( 田 中 英 夫 編 『 英 米 法 辞 典 』 ( 東 京 大 学 出 版 会 、 1991 年 ) 656 頁 参 照 ) 。
11
12 OSHA5 条 (a)(1)違 反 を 証 明 す る た め に は 、「 労 働 長 官 は 、使 用 者 が 、職 場 か ら 、使 用 者 又 は そ の
産業により認識されている、死亡や重大な傷害の原因である又は原因となりそうな危険を、取り除
くことを怠ったことを立証しなければならない。それに加え、労働長官が取るべきであると考える
手 段 の 実 行 可 能 性( feasibility)と 、有 効 可 能 性( utility)を 論 証 し な け れ ば な ら な い 」( 29 U.S.C.A.
§654(a)(1)及 び 小 畑 史 子 ・ 前 掲 「 労 働 安 全 法 規 の 法 的 性 質 ( 1) 」 259-260 頁 ) 。
13 職 業 安 全 衛 生 基 準 は 、そ の 制 定 方 式 の 違 い か ら 、以 下 の 3 種 に 分 類 さ れ る 。第 1 は 、「 既 存 基 準
( existing standards)」と 呼 ば れ 、OSHA の 成 立 後 す ぐ に 法 規 制 を 立 ち 上 げ る た め に 、既 に 一 部 の
領域で存在していた連邦の安全衛生基準や、民間の安全衛生団体により承認されていた「全国コン
セ ン サ ス 基 準 」を 、基 本 的 に そ の ま ま OSHA の 基 準 と し て 採 用 す る よ う 命 じ た も の で あ る( 第 6 条
(a))。第 2 は 、後 述 す る よ う に 、正 規 の 手 続 に よ り 制 定 さ れ る「 永 続 的 基 準( permanent standards)」
で あ る ( 第 6 条 (b)) 。 労 働 長 官 は 、 新 基 準 の 作 成 ( 若 し く は 現 行 基 準 の 改 正 ・ 廃 止 ) が 必 要 と 判 断
す る 場 合 、フ ェ デ ラ ル・レ ジ ス タ に よ っ て 基 準 案 を 公 示 し 、以 後 30 日 間 、利 害 関 係 者 か ら 提 出 さ れ
る デ ー タ や コ メ ン ト を 受 け 付 け な け れ ば な ら な い 。第 3 は 、「 緊 急 暫 定 基 準( emergency temporary
standards)」で あ り 、被 用 者 が 有 害 物 質 や 新 た な 危 険 源 に よ っ て 重 大 な 危 険 に さ ら さ れ て い る と 認
められる場合、労働長官は、フェデラル・レジスタによる公示により、直ちに係る基準を発行させ
る こ と が で き る( 第 6 条 (c))。た だ し 、そ の 有 効 期 間 は 6 か 月 に 限 ら れ る( 29 U.S.C.A.§654(2), 655
及 び 中 窪 裕 也 ・ 前 掲 『 ア メ リ カ 労 働 法 』 252-253 頁 参 照 ) 。
143
Occupational Safety and Health) 、 州 等 が 提 出 し た 情 報 や 労 働 長 官 が 収 集 し
た情報に基づき、労働長官が基準を制定・改正すべきであると判断した場合、
労 働 長 官 は そ れ を 「 フ ェ デ ラ ル ・ レ ジ ス タ ( Federal Register) 」 14 に 掲 載 し 、
そ の 後 30 日 間 を 利 害 関 係 者 が デ ー タ や コ メ ン ト を 提 出 す る 期 間 と し な け れ ば
ならない。
また、労働長官が勧告委員会を任命して討議の上勧告をなすよう要求した場
合 は 、 勧 告 の 報 告 後 又 は 勧 告 の 報 告 期 間 満 了 後 60 日 以 内 に フ ェ デ ラ ル ・ レ ジ
スタに掲載しなければならない。なお、反対意見が出たか又は公聴会の要求の
あ っ た 場 合 に は 、 労 働 長 官 は 、 デ ー タ な い し コ メ ン ト 提 出 期 限 最 終 日 か ら 30
日以内に、当該基準及び公聴会の日時をフェデラル・レジスタに掲載しなけれ
ばならない。
デ ー タ ・ コ メ ン ト 提 出 期 間 満 了 後 又 は 公 聴 会 終 了 後 60 日 以 内 に 、 労 働 長 官
は、基準の制定・改正・撤回を発表し、又は規準を制定しないことを決定しな
け れ ば な ら な い 15 。
( 7) 実 効 性 の 確 保 措 置
OSHA の 執 行 を 担 当 す る の は 、 労 働 省 の 中 に お か れ た 「 職 業 安 全 衛 生 局
( Occupational Safety and Health Administration) 」 16 で あ る 。 職 業 安 全 衛
生局については労働長官が最終的責任をもつが、職業安全衛生局を率いるのは
「 労 働 副 長 官( Assistant secretary of Labor)」で あ る 。な お 、OSHA の 執 行
を直接担当するのは、職業安全衛生局の地方支部に所属する「安全衛生遵守監
督 官( Compliance Safety and Health Officers
以下、
「 遵 守 監 督 官 」と い う 。)」
である。
OSHA の 主 要 な 実 効 性 確 保 措 置 は 、 「 立 ち 入 り 検 査 ( inspection) 」 ( 第 8
条 (a))に よ り 法 規 則・基 準 違 反 を 発 見 し 17 、そ れ に 対 す る「 違 反 通 告( citation)」
( 第 9 条 (a)) 18 と「 制 裁 金( penalty)」( 第 10 条 (a)) 19 の 通 知 を 発 す る こ と
14
合 衆 国 の 行 政 機 関 の rule( 規 則 )、regulation( 行 政 規 則 )、 standard( 基 準 )の 公 報 で 、毎 日
発行される。行政規則等の改正や提案の際にはその草案がこれに記載され、市民や公私の団体に広
くコメントを寄せるよう要請がなされ、公聴会の日程・場所などが掲示されることがある。最終的
に 制 定 さ れ た 規 則 等 は 、 Code of Federal Regulations に ま と め ら れ る ( 田 中 英 夫 編 、 前 掲 『 英 米 法
辞 典 』 338 頁 参 照 ) 。 な お 、 Federal Register 及 び Code of Federal Regulations は 、 と も に 「 連 邦
行 政 命 令 集 」 と 訳 さ れ る こ と が あ る が 、 本 稿 で は 、 Federal Register は 「 フ ェ デ ラ ル ・ レ ジ ス タ 」
と 、 Code of Federal Regulations( 以 下 、 「 C.F.R.」 と 略 す る ) は 「 連 邦 行 政 規 則 集 」 と 訳 す る 。
15 実 際 は 、「 起 案 か ら 最 終 的 な 基 準 制 定 ま で に 数 年 を 要 す る こ と も 珍 し く は な い 」( 中 窪 裕 也 ・ 前
掲 『 ア メ リ カ 労 働 法 』 253 頁 ) と さ れ る 。 後 述 す る 「 屋 内 空 気 清 浄 度 管 理 規 則 案 」 は 、 1994 年 3 月
に 当 該 基 準 案 が フ ェ デ ラ ル ・ レ ジ ス タ に 掲 載 さ れ て か ら 2001 年 12 月 に 撤 回 さ れ る ま で 、実 に 7 年
9 か月の期間を要している。
16 職 業 安 全 衛 生 局 も 「 OSHA」 と 略 称 さ れ る が 、 法 律 名 と 混 同 す る 恐 れ が あ る の で 、 本 稿 で は そ の
まま「職業安全衛生局」とする。
17
職 業 安 全 衛 生 局 の 立 ち 入 り 検 査 は 、① 急 迫 し た 危 険 の あ る と き 、② 死 傷 事 故 に つ い て の 調 査 、③
苦情に基づく調査、そして④地域で計画された立ち入り検査、という優先順位で実施される(小畑
史 子 ・ 前 掲 「 労 働 安 全 法 規 の 法 的 性 質 ( 1) 」 267 頁 、 中 窪 裕 也 ・ 前 掲 『 ア メ リ カ 労 働 法 』 256 頁 参
照)。
18
立 ち 入 り 検 査 の 結 果 、使 用 者 が 法 規 則・基 準 に 違 反 し て い る と 考 え た 場 合 、行 政 機 関 は 書 面 に よ
る 違 反 通 告 を 行 う 。違 反 通 告 で は 、違 反 の あ っ た 場 所 、違 反 を 測 定 し た 方 法 、違 反 の 性 質 の 特 定 と 、
違反のあった法規則・基準を明示したうえで、合理的期間を定めて、使用者に違反の「解消
144
で あ る 。さ ら に 、裁 判 所 の「 一 時 的 緊 急 差 止 命 令( temporary restraining order)」
( 第 13 条 (a)・ (b)) 20 を 得 る 方 法 も あ る 。
な お 、違 反 通 告 又 は 制 裁 金 の 通 知 に 対 し て 、使 用 者 は 、15 日 以 内 に 、労 働 長
官 に 不 服 申 立 を な す こ と が で き る ( 第 10 条 (c)) 21 。
2
アメリカにおける職場の受動喫煙防止対策
アメリカにおいては、現在、受動喫煙を直接規制する連邦レベルでの法、行政
規則及び基準等は存在しない。職業安全衛生局は、従来から受動喫煙の防止につ
いて、積極的に取り組んできた。その代表的なものが、屋内空気環境とたばこの
煙 の 規 制 に 関 す る 基 準 を 定 め る こ と を 目 的 と し て 1994 年 3 月 に 公 表 さ れ た 、
「屋
内 空 気 清 浄 度 管 理 規 則 案( Indoor Air Quality)( 以 下 、「当 該 規 則 案 」と い う 。)」
22 で あ る 。 当 該 規 則 案 に 対 し て は 、 使 用 者 団 体 か ら 負 担 が 大 き い と し て 強 い 反 対
が あ り 、 同 年 に 公 聴 会 が 開 催 さ れ た も の の 2001 年 12 月 に 撤 回 さ れ た 23 。
当該規則案は、受動喫煙の防止について、職業安全衛生局が提示した初めての
包括的規則案である。したがって、当該規則案の内容及び規則案の撤回に至った
経緯を紹介することは、わが国にとって示唆となりうると考える。
そこで、まず①当該規則案の提出に至る経緯を述べた上で、②当該規則案の内
容を条文に沿って紹介する。その上で、③当該規則案にみる受動喫煙基準の意義
と問題点について検討する。
(1)
屋内空気清浄度管理規則案の提出に至る経緯
( abatement) 」 を 命 じ る ( 第 9 条 (a)) 。 違 反 通 告 を 受 け 取 っ た 使 用 者 は 、 そ れ を 掲 示 し な け れ ば
な ら な い ( 第 9 条 (b)) ( 29 U.S.C.S.§658、 小 畑 史 子 ・ 前 掲 「 労 働 安 全 法 規 の 法 的 性 質 ( 1) 」 267
頁 及 び 中 窪 裕 也 ・ 前 掲 『 ア メ リ カ 労 働 法 』 256 頁 参 照 ) 。
19
違 反 通 告 が 出 さ れ た 場 合 に は 、 合 わ せ て 制 裁 金 の 通 知 も 使 用 者 に 送 付 さ れ る ( 第 10 条 (a)) 。 制
裁 金 の 金 額 は そ の 違 反 の 程 度 に 応 じ て 、 最 高 7,000 ド ル の 枠 内 で 、 諸 般 の 事 情 を 総 合 考 慮 し た う え
で 決 定 さ れ る ( 第 17 条 (b),(c)) 。 な お 、 再 度 ( repeated) 又 は 故 意 ( willful) の 違 反 の 場 合 に は 、
70,000 ド ル 以 下 の 制 裁 金 を 課 す る こ と が で き る こ と と さ れ 、 特 に 故 意 の 場 合 は 、 5,000 ド ル が 下 限
と な る ( 第 17 条 (a)) 。 さ ら に 、 違 反 解 消 命 令 の 不 遵 守 に 対 し て は 1 日 当 た り 7,000 ド ル 以 下 ( 17
条 (d))と 定 め ら れ て い る( 29 U.S.C.A.§659, §666、小 畑 史 子・前 掲「 労 働 安 全 法 規 の 法 的 性 質( 1)」
270-271 頁 及 び 中 窪 裕 也 ・ 前 掲『 ア メ リ カ 労 働 法 』257 頁 参 照 。な お 、制 裁 金 の 金 額 は 2007 年 現 在
のものである)。
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遵 守 監 督 官 は 、急 迫 し た 危 険 を 発 見 し た 場 合 、使 用 者 に 対 し 、危 険 に さ ら さ れ て い る 労 働 者 を 移
動させ、自発的に危険を取り除くことを要求する。使用者がこれに従わないとき、労働長官は、連
邦 地 方 裁 判 所 に 差 止 命 令 ( injunction) を 請 求 す る こ と が で き る ( 第 13 条 (a)(b)) ( 29 U.S.C.A.§
662、 小 畑 史 子 ・ 前 掲 「 労 働 安 全 法 規 の 法 的 性 質 ( 1) 」 272 頁 及 び 中 窪 裕 也 ・ 前 掲 『 ア メ リ カ 労 働
法 』 256 頁 参 照 ) 。
21
不 服 申 立 が な さ れ た 事 件 は 、 職 業 安 全 衛 生 委 員 会 ( Occupational Safety and Health Review
Commission)に 送 付 さ れ 、そ こ で 審 査 が 行 わ れ る 。審 査 委 員 会 は 、大 統 領 か ら 任 命 さ れ た 3 人 の 委
員 か ら 構 成 さ れ る 独 立 し た 機 関 で あ り ( 第 12 条 (a)) 、 訴 追 者 た る 労 働 長 官 と は 別 個 の 中 立 的 な 立
場から、違反通告や制裁金の当否を審査して、これに承認・修正・破棄し、あるいは他の救済を追
加 す る 権 限 を 有 す る ( 第 10 条 ) 。 な お 、 審 査 委 員 会 の 決 定 に 不 服 な 当 事 者 ( 労 働 長 官 も 含 ま れ る )
は 、 連 邦 控 訴 裁 判 所 に 司 法 審 査 を 求 め る こ と が で き る ( 第 11 条 ) ( 29 U.S.C.A.§661(a), 659, 660
及 び 中 窪 裕 也 ・ 前 掲 『 ア メ リ カ 労 働 法 』 257-258 頁 参 照 ) 。
22 59 Federal Register at 15968-16039 (1994).
23 66 Federal Register at 64946 (2001).
145
「 間 接 喫 煙 ( environmental tobacco smoke) 」 に 職 業 上 曝 さ れ る こ と に よ
り 、 健 康 が 損 な わ れ る と の 危 惧 に 基 づ き 、 1987 年 5 月 、 3 つ の 市 民 グ ル ー プ 24
は 、政 府 に 対 し 、合 衆 国 法 律 集( United States Code)29 編( 以 下 、
「 29 U.S.C.」
と い う 。 ) 655 条 (c)、 す な わ ち OSHA 第 6 条 (c)に 規 定 す る 緊 急 暫 定 基 準 を 制
定 す る よ う に と の 「 申 請 ( petition) 」 を な し た 。 当 該 申 請 は 、 ほ と ん ど の 屋
内職場での喫煙の禁止を要求するものであった。これに対し、職業安全衛生局
は、既存のデータを分析した上で、間接喫煙に曝されることから、直ちに緊急
暫 定 基 準 制 定 の 要 件 で あ る 「重 篤 な 危 険 ( grave danger) 」 25 が あ る と ま で は い
え な い と し て 、 1989 年 9 月 、 当 該 申 請 を 却 下 す る 決 定 を な し た 。
そ こ で 、 前 記 市 民 グ ル ー プ の 1 つ で あ る ア ッ シ ュ ( ASH) 26 は 、 職 業 安 全 衛
生局が緊急暫定基準の申請を却下したことに対する審査を、コロムビア特別区
の 合 衆 国 控 訴 裁 判 所 に 請 求 し た 。 控 訴 裁 判 所 は 、 1991 年 5 月 、 控 訴 裁 判 所 は 、
職業安全衛生局がなした緊急暫定基準を正当化するために必要な、たばこの煙
に伴う職場のリスクを十分に証明することはできないとした決定は相当である
と判示して、アッシュの請求を棄却した。
一 方 、 規 則 化 す る 選 択 肢 を 検 討 し て い た 職 業 安 全 衛 生 局 は 、 1991 年 9 月 20
日、屋内空気清浄度管理に関する規則を制定することが、適切かつ実行可能か
ど う か を 決 定 す る の に 必 要 な 情 報 を 得 る た め に 、 「情 報 提 供 要 請 ( Request for
Information) 」 27 を 公 布 し た 。 要 請 さ れ た コ メ ン ト は 、 空 気 清 浄 度 管 理 、 換 気
シ ス テ ム 機 能 、 暴 露 影 響 評 価 ( exposure assessment) 及 び 除 去 方 法 が 不 十 分
であることに帰因する健康への影響に関する情報、並びに間接喫煙及びバイオ
エ ア ゾ ー ル と い っ た 特 定 汚 染 物 質 に 関 す る 情 報 で あ っ た 28 。
当 該 情 報 提 供 要 請 に 応 え て 、 1,200 以 上 も の コ メ ン ト が 寄 せ ら れ た 。 考 慮 す
べき点としては、前記健康への影響の問題に加えて、換気履行基準の欠如、空
調 (HVAC) 29 シ ス テ ム の 操 作 及 び 保 守 管 理 に 関 す る 労 働 者 訓 練 の 欠 如 、汚 染 源 削
減の欠如、及び空気清浄度管理問題及び抑制技術に関する有益な専門手引書の
欠 如 の 問 題 が あ っ た 。大 多 数( 75% )は 、職 業 安 全 衛 生 局 が 屋 内 空 気 清 浄 度 管
理を規制することを支持するコメントであった。なお、規制の必要性を表明し
た コ メ ン ト の う ち 、約 21% が 間 接 喫 煙 を 規 制 す る こ と に 、41% 強 が 包 括 的 な 屋
内 空 気 清 浄 度 を 規 制 す る こ と に 、そ し て 約 13% が 屋 内 空 気 清 浄 度 管 理 規 則 を 制
定することに賛成の意を表明した。なお、大多数のコメントは、たばこの煙及
び屋内空気汚染に伴う健康への影響に関するもので、その影響は、単なる刺激
24
アメリカ公衆衛生協会、パブリック・シチズン及びアッシュの 3 市民グループである。
OSHA6 条 (a)(1)は 、 緊 急 暫 定 基 準 制 定 の 要 件 と し て 、「 ( A) 被 用 者 が 有 害 物 に 曝 さ れ る こ と に
より重篤な危険に直面している又は当局が有害である若しくは身体に害を及ぼす又は未知の危険が
あ る と 認 め た 場 合 、及 び( B)当 該 基 準 を 設 定 す る こ と が 、そ の 種 の 危 険 か ら 被 用 者 を 守 る た め に 必
要である場合」を挙げている。
25
26
ASH;Action on Smoking and Health( 英 国 の 禁 煙 運 動 推 進 の ボ ラ ン テ ィ ア 団 体;1971 年 設 立 )
56 Federal Register at 47892 (1991).
28 ま た 、 1992 年 3 月 、 ア メ リ カ 労 働 総 同 盟 産 別 会 議 ( AFL-CIO) も 、 職 業 安 全 衛 生 局 に 対 し 、 包
括 的 な 空 気 清 浄 度 管 理 基 準 を 制 定 す る よ う 請 求 し た 。こ れ に 対 し 、職 業 安 全 衛 生 局 は 、1992 年 5 月 、
この種の基準の制定を考慮中であると応えている。
27
29
HVAC; Heating, ventilation and air-conditioning( 暖 房 、 換 気 及 び 空 調 )
146
から癌にまでおよんでいた。
屋内という労働環境で働く被用者にとって、空気清浄度を悪化させる要因と
なる汚染物質の存在が健康を損なう重大なリスクとなりえることは、提出され
た記録、データ及びその他の証拠が明確に示していた。そこで、職業安全衛生
局は、間接喫煙の暴露を含む屋内空気清浄度管理のための規則を提案すること
の 必 要 性 も デ ー タ が 明 確 に 示 し て い る と 解 し た 30 。
以 上 の 経 緯 に よ り 、 職 業 安 全 衛 生 局 は 、 1994 年 5 月 4 日 、 合 衆 国 に 対 し 当
該規則案を公表した。
(2)
ア
屋 内 空 気 清 浄 度 管 理 規 則 案 の 内 容 31
趣
旨
劣悪な屋内の空気環境は、頭痛、呼吸器疾患、アレルギーなどの原因とな
っており、また、他人のたばこによる間接喫煙は、心臓疾患、肺癌、肺機能
低 下 、 流 産 な ど の 原 因 と な っ て い る 32 。 そ こ で 、 職 業 安 全 衛 生 局 は 、 屋 内 労
働環境における空気清浄度に関する基準を制定することとした。すなわち、
屋内という閉鎖的な労働環境で働く被用者が、空気清浄度管理が不十分なた
めに、健康を損なう重大なリスクに直面している。そこで、当該リスクを根
本的に減少させることが当該規則案を公開した趣旨である。
したがって、当該規則案に提示された基準は、最新のデータに基づいて、
職業安全衛生局が、屋内の空気清浄度を悪化させ、職場の被用者に対して、
健康を損なうという重大なリスクの原因となる状況を抑制するために必要か
つ適切であると考えるものである。
イ
定義及び適用範囲
(ア)
空気汚染の定義
ま ず 、 当 該 規 則 案 の 規 制 の 対 象 と な る 「 空 気 汚 染 物 質 ( air
contaminants) 」で あ る が 、 職 業 安 全 衛 生 局 は 、 「 非 製 造 的 な 労 働 環 境 で
働 く 被 用 者 の 健 康 に 対 し 、身 体 的 な 弊 害 を 引 き 起 こ す 可 能 性 の あ る ペ ン キ 、
クリーニング剤、殺虫剤、溶剤からの煙霧に含まれる物質、微粒子、屋外
の 空 気 汚 染 物 質 、及 び そ の 他 空 気 中 を 運 ば れ て 来 る 物 質 」( 第 (b)条 )と 定
義する。すなわち、当該規則案の規制の対象が、主に、非製造的な労働環
境の中に存在する可能性のある空気中を運ばれてくる物質であることを明
示する。
30
1992 年 12 月 に 、 環 境 保 護 庁 ( Environmental Protection Agency) に よ っ て 出 版 さ れ た 、 間 接
喫煙に曝されることに直結するリスクを取り上げた報告書は、労働安全衛生局の結論を下すにあた
っての理論的根拠となっている。当該研究報告書、すなわち「間接喫煙の呼吸器官に及ぼす影響:
肺 癌 そ の 他 の 疾 患 ( Respiratory Health Effects of Passive Smoking: Lung Cancer and Other
Disorders)」に お い て 、環 境 保 護 庁 は 、間 接 喫 煙 に 曝 さ れ る こ と は 、癌 の 誘 発 へ の 過 度 の 危 険 を も
たらすと結論づけている。
31
以 下 は 、 59 Federal Register at 15968-16039 (1994)か ら 多 く の 示 唆 を 得 た 。
職 業 安 全 衛 生 局 の 推 定 に よ れ ば 、屋 内 で 働 い て い る 約 7,000 万 人 の 労 働 者 の う ち 2,100 万 人 が 劣
悪な屋内空気環境の下で働いており、数百万人の労働者が間接喫煙に曝されている(岡崎淳一・前
掲 『 ア メ リ カ の 労 働 』 359 頁 参 照 ) 。
32
147
当該規則案によると、空気汚染は、①非効率・不十分な換気設備、②汚
染源に直接作用する換気設備の使用方法の誤り、③場所的汚染をもたらす
修繕・改築・補修等といった屋内工事及び作業、並びに④排気ガス・廃棄
物・保管材料若しくは近隣の工場からの汚染物質といった屋外からの汚染
源 の 侵 入 に よ っ て も た ら さ れ る 33 。 し た が っ て 、 使 用 者 は 、 前 記 空 気 汚 染
の原因となる汚染物質の集積を防止するための措置を講ずることが求めら
れる。
(イ)
当該規則案の適用対象
次 に 、そ の 適 用 範 囲 で あ る が 、職 業 安 全 衛 生 局 は 、第 (a)条 (1)で 、当 該 規
則 案 で 提 示 さ れ た 基 準 が 「 非 製 造 的 な 労 働 環 境 ( non-industrial work
environments)す べ て に 適 用 さ れ る 」こ と を 明 示 す る 。す な わ ち 、製 造 的
な労働環境に対しては適用されない。
た だ し 、 当 該 規 則 案 中 の た ば こ の 煙 に 関 す る 基 準 34 は 、 「 職 場 が 屋 内 に
ある又は閉鎖的である場合は、職業安全衛生局の管轄権がおよぶすべての
事 業 場 に 適 用 さ れ る 」( 第 (a)条 (2))こ と を 提 案 す る 。す な わ ち 、た ば こ の
煙に関する基準に関しては、職場が屋内である場合には、非製造的な労働
環 境 だ け で な く 製 造 的 な 労 働 環 境 ( industrial work environments) に 対
しても適用される。
な お 、 「非 製 造 的 な 労 働 環 境 」と は 、 「 オ フ ィ ス 、 教 育 施 設 、 商 業 施 設 及
び 医 療 施 設 、並 び に 製 造 若 し く は 生 産 施 設 内 に 設 置 さ れ て い る 事 務 エ リ ア 、
カフェテリア及び休憩室といった、被用者によって使用される屋内の若し
く は 閉 鎖 的 労 働 空 間 を 意 味 す る 」と 定 義 さ れ て い る( 第 (b)条 )。し た が っ
て 、非 製 造 的 な 労 働 環 境 に は 、「製 造 施 設 及 び 生 産 施 設 、住 宅 、車 、並 び に
農 業 施 設 」は 含 ま れ な い ( 同 条 ) 。
ま た 、当 該 規 則 案 は 、規 制 の 対 象 と な る「 使 用 者( employer)」を「 家
屋の換気又は保守管理をコントロールしている他の使用者の下で働く(建
物 の オ ー ナ ー 若 し く は 賃 貸 人 と い っ た ) 者 を 含 む 、 1970 年 OSHA 第 3 条
(5)に よ っ て 使 用 者 と し て 定 義 さ れ た す べ て の 者 を い う (
」 第 (b)条 )と す る 。
す な わ ち 、当 該 規 則 案 で は 、前 記 OSHA 第 3 条 (5)に 規 定 さ れ た 使 用 者 35 に
加えて、職場の換気システムについてコントロールする権限を有する者と
しても定義されている。
ウ
IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム
(ア)
IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム の 策 定
当該規則案が適用される使用者は、書面による「屋内空気清浄度管理規
33
屋 内 空 気 清 浄 度 管 理 規 則 案 「 Ⅶ . 要 約 及 び 解 説 ( Summary and Explanation) 」 の 「定 義 : パ ラ
グ ラ フ (b)( Definitions: Paragraph(b)) 」参 照 。
34 後 掲 、 屋 内 空 気 清 浄 度 管 理 規 則 案 第 (e)条 「 特 定 汚 染 源 に 対 す る 抑 制 」 (1)( た ば こ の 煙 ) 参 照 。
35 前 述 し た よ う に 、OSHA 第 3 条 (5)は 、使 用 者 を 「被 用 者 を 使 用 し 、通 商 に 影 響 を 与 え る 事 業 に 従
事 す る 者 」と 規 定 し て い る 。
148
則 遵 守 プ ロ グ ラ ム ( Indoor air quality compliance program; 以 下 「 IAQ
遵 守 プ ロ グ ラ ム 」 と い う 。 ) 」 を 策 定 し な け れ ば な ら な い ( 第 (c)条 (1)) 。
そ し て 使 用 者 は 、IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム の 履 行 を 確 保 す る た め に 、そ の 履 行
責 任 を 付 与 さ れ た 「受 命 管 理 者( designated person)」 36 を 任 命 す る こ と が
要 求 さ れ る ( 同 条 (2)) 。
書 面 に よ る IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム の 策 定 に 当 た っ て は 、少 な く と も 以 下 の
こ と が 要 求 さ れ る 。す な わ ち 、① ビ ル・シ ス テ ム( building systems)37 は
一 般 的 な 記 述 的 表 現 で 記 載 す る こ と( 同 条 (3)(i))、② 主 要 な ビ ル・シ ス テ
ム 設 備 及 び そ れ が 受 け 持 つ エ リ ア の 位 置 を 示 し た 単 線 概 略 図 ( single-line
schematics) 若 し く は 建 築 付 加 構 造 図 ( as-built construction document)
を 記 載 す る こ と ( 同 条 (3)(ii)) 、 ③ ビ ル ・ シ ス テ ム の 日 々 の 操 業 及 び 管 理
情報の記載に当たっては、少なくとも、通常の操作手順の説明、季節ごと
の 始 動 と 停 止 と い っ た 特 別 な 手 順 、 並 び に 最 低 外 気 換 気 率 ( minimum
outside air ventilation rate)・飲 料 用 の お 湯 の 保 管 及 び 熱 放 射 率( potable
hot water storage and delivery temperature)・空 間 相 対 湿 度 範 囲( range
of space relative humidity ) 及 び す べ て の 空 間 加 圧 要 件 ( space
pressurization requirement ) を 含 む 、 稼 動 性 能 基 準 ( operating
performance criteria)等 の 一 覧 が 必 要 で あ る こ と( 同 条 (3)(ⅲ ))、④ 業 務
の内容、被用者及び訪問者の人数、営業時間、週末の使用の有無、当該ス
ペースにおけるテナントの要件及び発生したことが判明した空気汚染物質
の種類を含む、当該建物の使用形態及びその機能等の一般的記載が必要で
あ る こ と ( 同 条 (3)(ⅳ )) 、 ⑤ ビ ル ・ シ ス テ ム 管 理 業 界 で 定 め ら れ た 、 設 備
製造業者の推薦及び推奨稼動の枠内で予防し、かつそれを反映する保守管
理 計 画 で あ る こ と( 同 条 (3)(v)) 38 、並 び に ⑥ ビ ル・シ ス テ ム を 目 視 点 検 す
る た め の チ ェ ッ ク リ ス ト が 必 要 で あ る こ と で あ る ( 同 条 (3)(ⅵ )) 。
また、使用者は、屋内空気清浄度の評価を可能ならしめるために、でき
るだけ以下の追加情報を明記することが要求される。すなわち、①建築付
加 構 造 図( as-built construction document)( 同 条 (4)(i))、② 空 調 (HVAC)
シ ス テ ム 39 の 注 文 書 ( 同 条 (4)(ii)) 、 ③ 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 試 運 転 、 整
備 及 び 調 整 報 告 書 ( 同 条 (4)(ⅲ )) 、 ④ 運 用 及 び 保 守 管 理 マ ニ ュ ア ル ( 同 条
36
「 受 命 管 理 者 」 と は 、 「使 用 者 に よ っ て 当 該 規 則 案 の 遵 守 を 確 保 す る た め に 必 要 な 措 置 を と る 責
任を与えられ、かつ当該基準の要求事項及び汚染されたビル若しくはオフィスを清浄する
( servicing) た め の 特 定 の ビ ル ・ シ ス テ ム に つ い て の 知 識 の あ る 者 」と 定 義 さ れ る ( 第 (b)条 ) 。
37 「 ビ ル・シ ス テ ム 」と は 、「 暖 房 、換 気 及 び 冷 房 シ ス テ ム(「 空 調 (HVAC)シ ス テ ム 」と い う 。)、
飲 料 用 水 シ ス テ ム ( potable water systems) 、 エ ネ ル ギ ー 管 理 シ ス テ ム ( energy management
system) 及 び 屋 内 空 気 清 浄 度 に 影 響 を 及 ぼ す 可 能 性 が あ る 施 設 内 の す べ て の シ ス テ ム を い う 」 と 定
義 さ れ る ( 第 (b)条 ) 。
38
当 該 保 守 管 理 プ ロ グ ラ ム に は 、最 低 限 、保 守 管 理 の 対 象 と な る 設 備 、保 守 管 理 の 手 順 及 び 履 行 の
頻 度 を 明 記 す る こ と が 要 請 さ れ る ( 第 (c)条 (3)(v)) 。
39
「 空 調 (HVAC)シ ス テ ム 」 と は 、 「 フ ィ ル タ ー 及 び フ レ ー ム 、 冷 却 コ イ ル 凝 縮 液 受 パ ン ( cooling
coil condensate drip pan)及 び 排 水 パ イ プ( drainage piping)、外 気 ダ ン パ ー( outside air damper)
及 び ア ク チ ュ エ ー タ ー( actuator)、加 湿 器 、空 気 分 配 管( air distribution ductwork)、自 動 温 度
制 御 装 置 、 並 び に 冷 却 塔 ( cooling tower) を 含 む 、 暖 房 ・ 換 気 及 び 冷 房 の 複 合 シ ス テ ム を い う 」 と
定 義 さ れ る ( 第 (b)条 ) 。
149
(4)(ⅳ )) 、 ⑤ 汚 水 処 理 記 録 ( water treatment log) ( 同 条 (4)(v)) 、 並 び
に ⑥ 操 作 者 の 訓 練 用 具 で あ る ( 同 条 (4)(ⅵ )) 。
な お 、 「 ビ ル 関 連 疾 患 ( building-related illness) 」 40 に 罹 患 し た 可 能
性のある兆候や症状を訴える被用者がいる場合は、当該記録を書面で作成
することも要求される。そしてその記録には、少なくとも報告された病気
の性質、罹患した被用者の数、被用者が申し出た日付、及びその原因を是
正するために補修工事がなされた場合はその工事に関する情報も含めなけ
れ ば な ら な い ( 同 条 (5)) 。
(イ)
IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム の 履 行
使 用 者 は 、 前 記 IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム の 履 行 を 確 保 す る た め に 、 最 低 限 、
以下の活動をすることが要求される。
す な わ ち 、① 実 際 の 占 有 に 基 づ い て 、最 新 の ビ ル 規 格( building code)、
機 械 規 格 ( mechanical code) 若 し く は 換 気 規 格 ( ventilation code) に よ
って要求された設計仕様まで稼動し、少なくとも最低限の外気換気率を提
供 し 続 け る こ と を 確 保 す る た め に 、 空 調 (HVAC)シ ス テ ム を 保 守 管 理 し か
つ 運 用 す る こ と ( 第 (d)条 (1)) 、 ② 当 該 規 則 案 の 第 (c)条 の 基 準 に し た が っ
て ビ ル・シ ス テ ム の 検 査 及 び 保 守 管 理 を 実 施 す る こ と( 同 条 (2))、③ 空 調
(HVAC)シ ス テ ム は 緊 急 の 修 理 及 び 予 定 の 保 守 管 理 の 間 を 除 い て 、 業 務 の
す べ て の 時 間 稼 動 す る こ と を 確 保 す る こ と( 同 条 (3))、④ 他 の 建 物 若 し く
は施設エリアで働く被用者に対し、危険な化学物質若しくは微粒子への暴
露をもたらす可能性がある器具及び製品を使用して、保守管理及び物的管
理 活 動 を 実 施 す る 場 合 は 、全 体 的 若 し く は 局 所 的 な 排 気 換 気 を 行 う こ と( 同
条 (4)) 、 ⑤ 機 械 的 冷 却 シ ス テ ム で 、 建 物 内 を 相 対 湿 度 60% 以 下 に 保 つ こ
と( 同 条 (5))、⑥ 日 々 保 守 管 理 を 実 施 す る 場 合 は 、二 酸 化 炭 素 レ ベ ル を 監
視 す べ き こ と ( 同 条 (6)) 41 、 ⑦ 自 然 換 気 が で き る よ う 設 計 若 し く は 使 用 さ
れる窓、ドア、通気孔及び煙突等といった機械的換気に頼らない建物の維
持 を 心 が け る こ と( 同 条 (7))、⑧ 送 風 が 清 潔 な 状 態 に 保 た れ 、有 害 物 質 が
流出しないよう適切に貯蔵され、かつアスベストが砕けやすい場合には空
気配給システム内に侵入しないように密封若しくは除去された機械室、並
び に 無 配 管 の エ ア ー プ レ ナ ム ( air plenum) 又 は チ ェ ー ス ( chase) を 確
保 す る こ と( 同 条 (8))、⑨ ビ ル・シ ス テ ム の 検 査 及 び 保 守 管 理 が 受 命 管 理
者 に よ っ て 又 は そ の 監 督 の 下 で 実 施 さ れ る べ き こ と ( 同 条 (9)) 、 ⑩ ビ ル ・
40
「 ビ ル 関 連 疾 患 」と は 、「 病 気 の 原 因 が 、身 体 的 兆 候 及 び 研 究 機 関 の 所 見 に よ っ て 証 明 す る こ と
ができることが知られている特定の健康状態を意味する」と定義される。そしてその種の病気とし
て 、 周 知 の 病 原 菌 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る い ら い ら ( sensory irritation) ・ 呼 吸 器 ア レ ル ギ ー
( respiratory allergies)
・喘 息( asthma)
・院 内 感 染( nosocomial infections)
・加 湿 器 熱( humidifier
fever) 、 過 敏 性 肺 炎 ( hypersensitivity pneumonitis) ・ 在 郷 軍 人 病 ( Legionnaires’ disease) 、
並 び に 一 酸 化 炭 素( carbon monoxide)・ホ ル ム ア ル デ ヒ ト( formaldehyde)・殺 虫 剤( pesticides)・
エ ン ド キ シ ン ( endotoxin) 若 し く は マ イ コ ト キ シ ン ( mycotoxin) と い っ た 化 学 的 又 は 生 物 工 学 的
溶 剤 へ の 暴 露 に 特 徴 的 な 兆 候 及 び 症 状 が 該 当 す る ( 第 (b)条 ) 。
41 二 酸 化 炭 素 レ ベ ル が 800ppm を 超 え る 場 合 は 、 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 点 検 を し 、 必 要 な 措 置 を
講 ず る こ と が 要 求 さ れ る ( 第 (d)条 (6)) 。
150
シ ス テ ム の 検 査 及 び 保 守 管 理 記 録 は 書 面 で 作 成 さ れ る こ と ( 同 条 (10)) 、
⑪ビル・システムに関する業務に従事する被用者に対して、適切な身体保
護 具 ( personal protective equipment) 42 を 提 供 し か つ 使 用 す る こ と を 保
証 す る こ と ( 同 条 (11)) 、 ⑫ 被 用 者 か ら の ビ ル 関 連 疾 患 の 申 告 が な さ れ た
場合には、ビル・システムを変更するための必要性を評価すること(同条
(12)) 、 そ し て ⑬ そ の 必 要 性 を 評 価 し た 証 と し て 、 補 修 措 置 を 講 じ る こ と
( 同 条 (13)) で あ る 。
エ
特定汚染源に対する抑制
(ア)
たばこの煙
使用者は、職場での喫煙が禁止されていない場合には、「指定喫煙所
( designated smoking area)」 43 を 設 置 し 、当 該 喫 煙 所 以 外 の 喫 煙 は 許 容
す る べ き で は な い( 第 (e)条 (1)(i))。そ し て 、当 該 指 定 喫 煙 所 は 、密 閉 さ れ
かつ直接屋外に排気させる構造を有するものであり、しかも当該喫煙所の
中 に た ば こ の 煙 を 封 じ 込 め る た め に 、 (周 囲 の 空 間 よ り )低 い 大 気 圧
( negative pressure)で 保 持 さ れ る こ と を 確 保 し な け れ ば な ら な い( 同 条
(1)(ⅱ )) 。
また、指定喫煙所の清掃及び保守管理作業は、喫煙が行われていない時
に 実 施 す る こ と が 要 求 さ れ る ( 同 条 (1)(ⅲ )) 。 そ し て 、 被 用 者 が 通 常 の 業
務活動で、指定喫煙所内に立ち入ることを強制されないようにしなければ
な ら な い ( 同 条 (1)(ⅳ )) 。 さ ら に 、 指 定 喫 煙 所 で あ る こ と を 明 示 す る 掲 示
を し な け れ ば な ら な い ( 同 条 (1)(ⅴ )) 。 し か も 、 当 該 職 場 に 入 っ て く る 者
すべてに、喫煙が指定場所に限定されていることを知らせる掲示をするこ
と が 求 め ら れ る ( 同 条 (1)(ⅵ )) 。
なお、当該エリアに設置されている排ガス換気システムが適切に稼動し
ていない場合は、いかなる場合でも指定喫煙所での喫煙は禁止される(同
条 (1)(ⅶ )) 。
(イ)
その他の汚染物質
使用者は、建物の中に車の排気ガスといった屋外の空気汚染物質が侵入
するのを制限するために必要とされる場合は、当該建物の空気取入口等を
移 設 す る と い っ た 措 置 を 講 ず る こ と が 要 求 さ れ る( 第 (e)条 (2)(i))。そ し て 、
一 般 的 換 気( general ventilation)で は 職 場 内 の 特 定 の 場 所( point source)
から発散された空気汚染物質を抑制することができない場合には、局所的
排 気 換 気 ( local source capture exhaust ventilation) を 採 用 す る 等 の 措
置 を 講 ず る こ と が 求 め ら れ る ( 同 条 (2)(ⅱ )) 。
さらに、建物内の微生物汚染を抑制するために、病原菌の繁殖の原因と
42 「 身 体 的 保 護 具 」に つ い て は 、29 C.F.R. part 1926, subpart E 「身 体 保 護 具 及 び 救 命 具( Personal
Protective and Life Saving Equipment) 」、 29 C.F.R. part 1926.52 「 職 業 上 の 騒 音 暴 露
( Occupational Noise Exposure)」、29 C.F.R. part 1910, subpart I 「 身 体 的 保 護 具 」及 び 29 C.F.R.
part 1910.95 「 職 業 上 の 騒 音 暴 露 」 に お い て も 同 様 の 規 定 が 置 か れ て い る 。
43
「指 定 喫 煙 所 」と は 、 「 労 働 エ リ ア で は な い 、 喫 煙 が 許 容 さ れ る 空 間 」 と 定 義 さ れ る ( 第 (b)条 ) 。
151
なる水漏れに対する定期点検を実施し、水漏れがある場合には迅速に修理
す る こ と が 要 求 さ れ る( 同 条 (3)(i))。そ し て 、迅 速 な 乾 燥 、除 去 、又 は 湿
気若しくは湿気物の清掃を行うことによって、微生物汚染を抑制しなけれ
ば な ら な い ( 同 条 (3)(ⅱ )) 。 配 管 、 加 湿 器 、 そ の 他 の 空 調 設 備 及 び ビ ル ・
システム設備の保守管理の際又は目視検査の際に微生物汚染を発見した場
合には、当該汚染物を取り除くための措置を講じなければならない(同条
(3)(ⅲ )) 。
また、使用者は、化学溶剤、殺虫剤等の化学物質を使用する場合には、
製 造 業 者 の 取 扱 説 明 書 に 従 っ て 使 用 す る こ と が 要 求 さ れ る ( 同 条 (4)(i)) 。
な お 、 危 険 だ と さ れ る 化 学 物 を 使 用 す る 場 合 に は 、 少 な く と も 24 時 間 前
に 、当 該 エ リ ア 内 で 働 く 被 用 者 に 通 知 し な け れ ば な ら な い( 同 条 (4)(ⅱ ))。
オ
修繕及び改築の間の空気清浄度
「 修 繕 及 び 改 築( renovation and remodeling)」44 を す る 場 合 、使 用 者 は 、
その種の工事を履行する被用者及び当該建物内の他のエリアにいる被用者に
対し、空気清浄度の悪化を最小限にするような作業手順及び適切な抑制策を
と る こ と が 求 め ら れ る ( 第 (f)条 (1)) 。
改築、修繕若しくは類似の工事を開始する前に使用者は、当該工事を履行
する建築業者と打合せを行い、当該作業の間及びその後、当該建物の他のエ
リ ア に 空 気 汚 染 物 質 が 侵 入 す る の を 最 小 限 に す る よ う な 作 業 計 画 書 ( work
plan)を 作 成 し か つ そ れ を 履 行 す る こ と が 要 求 さ れ る( 同 条 (2)(i))。そ し て 、
当 該 作 業 計 画 書 は 、① 当 該 規 則 で の 要 求 基 準( 同 条 (2)(ⅱ )(A))、② 改 装 及 び
修 繕 工 事 の 間 、 空 調 (HVAC)シ ス テ ム が 効 果 的 に 機 能 し 続 け る こ と を 確 保 す
る た め の 履 行 方 法( 同 条 (2)(ⅱ )(B))、③ 仕 事 エ リ ア の 孤 立 又 は 隔 離 、及 び 適
切 な 低 空 気 圧 に よ る 封 じ 込 め( 同 条 (2)(ⅱ )(C))、④ 空 気 汚 染 物 質 の 抑 止 又 は
空 気 ろ 過 / 洗 浄 支 援 ( 同 条 (2)(ⅱ )(D)) 、 そ し て ⑤ 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 空
気 配 給 シ ス テ ム 内 へ の 汚 染 物 質 侵 入 の 防 止( 同 条 (2)(ⅱ )(E))を 考 慮 し て 作 成
することが求められる。
ま た 使 用 者 は 、 当 該 建 物 内 で 前 記 作 業 を す る 場 合 は 、 そ の 24 時 間 前 又 は
緊急な場合は即座に、当該作業エリア内に空気汚染物質が侵入する可能性が
あ る こ と を 被 用 者 に 通 知 す る こ と が 求 め ら れ る( 同 条 (3)(i))。な お 、当 該 通
知には、屋内空気清浄度又は職場環境に関して予想される悪影響を含めるべ
き こ と が 要 求 さ れ る ( 同 条 (3)(ⅱ )) 。
カ
情報開示及び教育訓練
使用者は、メンテナンス作業員並びにビル・システムの運用及び保守管理
に従事する労働者に対して、少なくとも①ビル・システムの運用と保守管理
を す る の に 必 要 な 身 体 防 御 具 の 使 用 に つ い て の 教 育 訓 練 ( 第 (g)条 (1)(i)) 、
44
「修 繕 及 び 改 築 」と は 、「 壁 、天 井 、 床 、 カ ー ペ ッ ト 及 び モ ー ル デ ィ ン グ 、キ ャ ビ ネ ッ ト 、 ド ア 及
び窓といったコンポーネントの撤去若しくは取替え;塗装、解体、外壁再仕上げ及び換気管の撤去
若 し く は 清 掃 を 含 む 建 物 の 改 装 ( modification) を 意 味 す る 」 と 定 義 さ れ る ( 第 (b)条 ) 。
152
②ビルの清掃及び保守管理の間に発生した空気汚染物質を適切に換気するた
め の 教 育 訓 練 ( 同 条 (1)(ⅱ )) 、 ③ 化 学 溶 剤 等 の 使 用 及 び 処 分 の 間 、 屋 内 空 気
清 浄 度 に 及 ぼ す 影 響 を 最 小 限 に す る た め の 教 育 訓 練 ( 同 条 (1)(ⅲ )) を 実 施 す
ることが求められる。
ま た 、 使 用 者 は 、 当 該 規 則 案 及 び 附 則 に 定 め る 基 準 の 内 容 ( 同 条 (2)(i)) 、
及びビル関連疾患に関する被用者からの申告を受け取り次第その兆候及び症
状 並 び に 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 有 効 性 及 び そ の 改 善 策 を 要 求 す る 当 該 規 則
案 の 内 容 45 ( 同 条 (2)(ⅱ )に つ い て 、 す べ て の 被 用 者 に 開 示 す る こ と が 求 め ら
れる。
さ ら に 使 用 者 は 、 被 用 者 、 選 任 被 用 者 代 表 ( designated employee
representative) 46 、 所 長 ( Director) 47 及 び 副 長 官 48 に よ る 立 ち 入 り 検 査 及
び 閲 覧 ( copying) に 供 す る た め 、 当 該 基 準 に し た が っ て 開 発 さ れ た 訓 練 具
を 整 備 す る こ と が 求 め ら れ る ( 同 条 (3)) 。
キ
記録保存
使 用 者 は 、前 掲 (d)条 の 下 で 要 求 さ れ る 検 査 記 録 及 び 保 守 管 理 記 録 を 保 存 す
る こ と が 求 め ら れ る 。当 該 保 存 記 録 に は 、な さ れ た 改 修 又 は 保 守 工 事 の 詳 細 、
当該作業を履行する者の氏名及び所属、並びに検査及び保守工事の日付を記
載 す る こ と が 求 め ら れ る ( 第 (h)条 (1)) 。
さ ら に 使 用 者 は 、「 書 面 に よ る IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム 」49( 同 条 (2))及 び「 ビ
ル 関 連 疾 患 に 関 す る 被 用 者 か ら の 兆 候 及 び 症 状 の 申 告 記 録 」 50 ( 同 条 (3)) を
保 存 す る こ と が 求 め ら れ 、か つ 少 な く と も 前 3 年 分 を 保 持 す る こ と 51( 第 (h)
条 (4))、並 び に 被 用 者 、選 任 被 用 者 代 表 及 び 副 長 官 の 調 査 及 び 閲 覧 に 供 す る
こ と が で き る よ う に 保 存 す る こ と が 求 め ら れ る ( 第 (h)条 (5)) 。
なお、当該保存記録は、当該使用者が事業から撤退するときは常に、当該
事 業 を 継 承 す る 者 に 提 供 さ れ か つ 保 存 さ れ る こ と が 要 求 さ れ る( 第 (h)条 (6))。
ク
施行日及び適用日
当 該 規 則 は 、 フ ェ デ ラ ル ・ レ ジ ス タ へ の 「 公 布 日 か ら 60 日 後 」 に 施 行 さ
45
第 (d)条 (12)及 び 同 条 (13)参 照 。
労 働 安 全 衛 生 局 の 遵 守 監 督 官 は 、 職 場 の 安 全 衛 生 水 準 を 維 持 し 、 OSHA の 履 行 確 保 を 図 る た め 、
事業場の安全衛生の状況について監督を行うが、その監督に立ち会う被用者代表の選任を求めてい
る。労働組合や安全衛生委員会がある場合には通常その代表、これらがない場合には労働者に選任
さ せ る か 遵 守 監 督 官 が 選 任 す る( 岡 崎 淳 一 、前 掲『 ア メ リ カ の 労 働 』333∼ 344 頁 、中 窪 裕 也 、前 掲
『 ア メ リ カ 労 働 法 』 256 頁 参 照 ) 。
46
47
「所長」とは、「合衆国厚生省、連邦職業安全衛生研究機構の所長又はその指図人を意味する」
と 定 義 さ れ る ( 第 (b)条 ) 。
48
「 副 長 官 」と は 、「 合 衆 国 労 働 省 、職 業 安 全 衛 生 局 の 副 長 官 又 は そ の 指 図 人 を 意 味 す る 」と 定 義
さ れ る ( 第 (b)条 ) 。
49 第 (c)条 参 照 。
50 第 (c)条 (5)参 照 。 な お 、 当 該 申 告 記 録 は 、 解 決 の た め 即 座 に 受 命 管 理 者 に 送 付 す る こ と が 求 め ら
れ る ( 第 (h)条 (3)) 。
51 た だ し 、 新 た な 記 録 を 作 成 し た こ と に よ り 陳 腐 化 し た 場 合 又 は 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 買 換 え 等
により無用となった場合は、 3 年間の保存する必要はない。
153
れ 、 そ し て 「 施 行 日 」 か ら 1 年 以 内 に 適 用 す る こ と が 予 定 さ れ て い た 52 。
(3)
ア
当該規則案にみる受動喫煙基準の意義と問題点
適用範囲に関する意義と問題点
職業安全衛生局は、特に間接喫煙に関する基準については、一般製造業、
造船業、港湾労働業、海港業、建設業及び農業に従事する被用者を含め、管
轄権のおよぶ事業所を屋内に有するすべての被用者に適用させることを提案
す る 53 。
そ の 上 で 、当 該 規 則 案 は 、第 (a)条 (1)で 当 該 条 項 の す べ て の 基 準 が 非 製 造 的
な 労 働 環 境 に 対 し て 適 用 さ れ る こ と を 述 べ た 後 で 、第 (a)条 (2)で そ の 管 轄 権 の
およぶ屋内にあるすべての職場に対し、たばこの煙に対する抑止に言及する
第 (e)条 (1)の 規 定 を 拡 張 適 用 さ せ る こ と を 提 案 す る 。 す な わ ち 、 第 (e)条 (1)の
適 用 範 囲 に は 、建 設 現 場 、造 船 所 及 び 農 業 に お け る 屋 内 の 仕 事 場 も 含 ま れ る 。
この結果、屋内空気環境に関する基準は、事務所、商業施設、医療施設、工
場 等 の 休 憩 室 450 万 事 業 場 に 適 用 さ れ 、ま た 間 接 喫 煙 に 関 す る 基 準 は 、職 業
安 全 衛 生 局 の 管 轄 下 に あ る 600 万 事 業 場 す べ て に 適 用 さ れ る こ と と な っ た 54 。
間接喫煙に関する条項を遵守するということは、喫煙を全面的に禁止しな
い場合には、①屋外に直接排気する設備を備えかつ②周囲の空間より低い大
気圧で保持される、③分離独立した喫煙所の設置が必要とされる。職業安全
衛生局は、非製造的な労働環境だけでなく製造的な労働環境に対しても、当
該条項を適用させることについて、特別な説明はなされていない。しかし、
各種の産業汚染物質の抑制が第一の責務とされてきた製造的な労働環境に対
して、新たにタバコの煙に関する基準の適用を課するにあたっては、その必
要 性 に つ い て の 明 確 な 説 明 が 必 要 で あ っ た 55 。 ま た 、 バ ー 、 レ ス ト ラ ン 及 び
商店といった職業安全衛生局がまだ禁止していない職場での顧客の喫煙につ
いても、被用者が間接喫煙に曝される危険を防止するという意味で、顧客の
喫煙を禁止することを使用者に課することも考慮する必要があるだろう。
イ
IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム に 関 す る 意 義 と 問 題 点
当該規則案は、屋内空気清浄度の悪化を防止するのに必要とされる措置の
履 行 を 促 す た め の 、書 面 に よ る IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム を 策 定 す る こ と を 使 用 者
52
職 業 安 全 衛 生 局 は 、 当 初 、 当 該 施 行 日 か ら 1 年 以 内 で 、 当 該 適 用 使 用 者 が IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム
の策定及び履行、喫煙が禁止されていない場合の指定喫煙所の設置並びに被用者への教育訓練を完
了することが可能であると判断していた。
53
職 業 安 全 衛 生 局 は 、管 轄 権 の 及 ぶ す べ て の 被 用 者 に 対 し て 当 該 規 則 案 の 基 準 を 適 用 さ せ る た め に 、
29C.F.R. 1910.1033 で 一 般 製 造 業 に 、29C.F.R.1915.1033 で 造 船 業 に 、そ し て 29C.F.R. 1926.1133
で 建 設 業 に 対 し て 、 全 く 同 一 の 基 準 を 交 付 す る こ と を 提 案 し た 。 ま た 、 29C.F.R.1910.1033 が 港 湾
労 働 及 び 海 港 業 の た め の 29C.F.R. Par.1917 及 び 1018 で 、 相 互 参 照 さ れ る よ う 規 定 さ れ て い る
Subpar. Z の 基 準 で あ る こ と を 明 示 す る た め に 、 §1910.19 を 改 正 す る こ と を 提 案 し た 。 さ ら に 、
29C.F.R.1910.1033 が 農 業 に 対 し て も 適 用 で き る よ う 29C.F.R.1928.21 の 改 定 を 提 案 し た 。
54
岡 崎 淳 一 ・ 前 掲 『 ア メ リ カ の 労 働 』 359 頁 参 照 。
当 該 規 則 案 は 、た ば こ の 煙 以 外 の 空 気 汚 染 物 質 対 策 の つ い て は 、そ の 適 用 範 囲 を 製 造 的 な 労 働 環
境にまで拡張適用させていない。なぜ、たばこの煙に限り製造的な労働環境にまで拡張適用させる
のかについての説明が必要であった。
55
154
に 要 求 す る( 第 (c)条 )。職 業 安 全 衛 生 局 は 、当 該 遵 守 プ ロ グ ラ ム を 策 定 す る
に当たって、屋内空気清浄度に焦点を当て、かつ当該規則案の基準を遵守す
る た め に 必 要 な 措 置 の 履 行 を 使 用 者 に 義 務 付 け る た め の 書 面 に よ る 記 録 集 56
を作成することが必要であるとしている。特に、ビル・システム、建物の機
能 及 び そ の 使 用 形 態 に つ い て は 、 分 か り や す い 表 現 57 で 記 載 す る こ と を 要 求
する。さらに、ビル関連疾患に関する被用者からの申告記録も当該記録集に
添 付 す る こ と を 要 求 し て い る 58 。 そ の 上 で 使 用 者 に 、 当 該 規 則 案 で 提 示 さ れ
た基準を遵守するための計画書を作成することを提案する。
長い期間使用されて続けてきた建物は、当初の設計意図とは異なった態様
で使用されている場合がある。例えば、プライベート・オフィスのために壁
を作る又は当初の占有密度を超える人員を収容するスペースを作る等、当初
の設計意図とは異なる増築又は改築がなされる場合である。その際には、当
然 に 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 容 量 変 更 が 必 要 と な る 59 。 さ ら に 、 当 初 の 空 調
(HVAC)シ ス テ ム の 許 容 範 囲 を 超 え て 、 当 該 建 物 を 取 り 巻 く 環 境 が 悪 化 す る
ことも予想される。そこで、ビルの占有者が、当該ビル・システムの設計意
図及びその容量等をいつでもチェックできる状態にしておく必要がある。こ
れらの問題を解決するために、職業安全衛生局は、建物ごと又は施設ごとの
書 面 に よ る 運 用 及 び 管 理 記 録 が 必 要 で あ る と す る 60 。 さ ら に 、 当 該 書 面 に よ
る運用及び管理記録は、新たな人員や工事人が当該現場に派遣された場合に
は い つ で も 、言 語 に よ る 伝 達 に 代 わ っ て 、必 要 な 訓 練 情 報 を 提 供 す る 。な お 、
運用記録は、抑制方針等が変更された場合には、それを反映させたものでな
くてはならない。
産業界においては、安全・衛生に関するマニュアル等を作成し、それに従
って実施することは一般的でありまた慣行ともなっている。したがって、書
面による記録集を作成することは、屋内空気清浄度の悪化を防止する当該遵
守プログラムの第一段階である。当該記録集は、職業安全衛生局、使用者若
しくは被用者が、後で選択された防止策を審査しかつ履行するよう計画され
た防止策が正確に実施されているかを評価する必要性が生じた場合に、有効
な 情 報 源 と な り う る 61 。
56
当 該 規 則 案 は 、少 な く と も 、① 当 該 施 設 の ビ ル ・ シ ス テ ム の 説 明 、② ビ ル ・ シ ス テ ム 設 備 の 配 置
を示した概略図若しくは構造図、③当該ビル・システムの日々の操業及び管理に関する情報、④当
該建物の使用形態及びその機能の記載、⑤書面による保守管理計画及び⑥当該ビル・システムの目
視 検 査 の た め の チ ェ ッ ク リ ス ト は 、 必 要 で あ る と し て い る ( 第 (c)(3)参 照 ) 。
57
当 該 規 則 案 は 、 「 一 般 的 な 記 述 的 表 現 で 記 載 す る こ と 」 ( 同 条 (3)(i)) を 要 求 す る 。
第 (c)(5)参 照 。
59 増 改 築 に と も な い 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 容 量 変 更 を な す べ き で あ る 。 し か し 、 複 数 の 企 業 が 使
用する建物である場合、当該企業間で余剰容量のバランスを取ることはほとんどなされない。
58
60
当 該 情 報 は 2 つ の 意 味 で 必 要 で あ る 。ま ず 第 1 は 、当 該 ビ ル・シ ス テ ム の 前 提 条 件 、最 小 換 気 率
及び占有密度といった空気清浄度管理をするに当たっての稼動情報を提示ことである。第 2 は、当
該稼動情報に沿ったビル・システムの運用及び管理をなすための方法を提示することである。
61 当 該 規 則 案 は 、屋 内 空 気 清 浄 度 の 評 価 を 可 能 な ら し め る た め に 、で き る だ け 、① 建 築 付 加 構 造 図 、
② 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 注 文 書 、 ③ 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 試 運 転 ・ 整 備 及 び 調 整 報 告 書 、 ④ 運 用
及び保守管理マニュアル、⑤汚水処理記録及び⑥操作者の訓練用具の情報も保持することを要求す
る ( 第 (c)(4)参 照 ) 。
155
また、当該規則案は、ビル・システムの定期点検をするためのチェックリ
ス ト が 必 要 で あ る と す る ( 第 (c)(3)(v)) 。 当 該 チ ェ ッ ク リ ス ト は 、 ビ ル ・ シ
ステムの故障、劣化又は誤用は空気清浄度に悪影響をおよぼすことになるの
で、それを定期的に点検するために有効である。なお、被用者からのビル関
連疾患に関する申告記録も保存すべきことも要求しているが、これは、当該
ビ ル・シ ス テ ム の 調 査 及 び 評 価 を 促 し 、IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム を 適 切 に 履 行 す
るためには是非とも必要である。
当該遵守プログラムは、たばこの煙に対する対策を実施する上で必要とさ
れるビル・システムの運用及び保守管理基準を構築する上でも不可欠な要件
である。ただし、職場を取り巻く環境がめまぐるしく移り代わる現代におい
て 、当 該 遵 守 プ ロ グ ラ ム を 陳 腐 化 さ せ ず に 適 切 に 維 持 し 続 け る こ と の 困 難 は 、
並大抵ではないであろう。
ウ
受命管理者制度に関する意義と問題点
当該規則案は、①機械式換気がなされなくとも自然換気ができるよう建物
を運用しかつ維持すること、②ビル・システムに関する検査及び保守記録を
作 成 す る こ と 、そ し て 、③ 当 該 規 則 案 で 提 示 さ れ た 最 低 基 準 を 満 た す た め に 、
ビル・システムの改修が必要であるか否かを評価することを要求する。その
上 で 、前 記 IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム の 策 定 及 び そ の 履 行 の 監 督 、並 び に ビ ル・シ
ステムの検査及び保守管理を監督する責任を付与された受命管理者を任命す
る こ と を 使 用 者 に 要 求 す る( 第 (c)条 、(d)条 )。し か も 当 該 受 命 管 理 者 は 、空
調 (HVAC)シ ス テ ム に つ い て の 専 門 知 識 を 有 す る 者 で あ る こ と が 必 要 と さ れ
る。このように、職業安全衛生局は、職場を空気汚染から守るためには、専
任の管理者が必要であると考えている。
ビ ル ・ シ ス テ ム 及 び 屋 内 空 気 清 浄 度 に 影 響 を 及 ぼ す 要 因 は 複 雑 で あ る 62 。
また、複数の管理責任者がいる施設では、その責任の所在が曖昧となる可能
性 が 高 い 63 。 し た が っ て 、 使 用 者 に 代 わ っ て 活 動 す る 現 場 の 受 命 管 理 者 を 任
命 す る 意 義 は 大 き い 64 。 し か も 、 複 数 の 使 用 者 が 同 一 の 建 物 内 に 混 在 す る 場
合 、 受 命 管 理 者 が 他 の 使 用 者 の 活 動 を 指 揮 管 理 で き る こ と が 重 要 と な る 65 。
62
例 え ば 、一 つ の 施 設 内 で 、複 数 の 使 用 者 が 、ビ ル ・ シ ス テ ム の 機 能 若 し く は 空 気 清 浄 度 に 影 響 す
るようなそれぞれ異なった活動に従事している場合がある。しかも、ある使用者による活動が他の
使用者の被用者に危害をもたらすという場合がある。
63
例 え ば 、屋 内 空 気 清 浄 度 や ビ ル 関 連 疾 患 に 対 す る 立 ち 入 り 検 査 の 際 に 、遵 守 監 督 官 は 、当 該 施 設
の賃貸人、設備業者、企業の経営者、保守管理者及び運用責任者等といった多様な施設管理責任者
集 団 か ら 情 報 を 集 め る こ と が 必 要 と さ れ る 。し か し 、こ れ ら の 管 理 者 が 外 部 の 請 負 人 で あ る 場 合 は 、
その権限及び指揮権は全くといっていいほど持っていないのが通常であろう。従って、受命管理者
に当該建物又は施設の環境状態を総合的に管理する責任を負わせることにより、このような弊害を
緩和させる意味合いがあると解される。
64
職 業 安 全 衛 生 局 は 、使 用 者 に 代 わ っ て 活 動 す る た め の 者 を 選 任 す る こ と は 、危 険 の 存 在 を 明 確 に
し か つ 効 果 的 な 防 止 策 を と る 上 で 必 要 で あ る と 考 え て い る 。 例 え ば 、 ク ロ ム ( 57 FR 42102) 及 び
鉛 ( 58 FR 26590) に 関 す る 基 準 で は 、 建 築 工 事 の 間 、 専 門 知 識 を 有 し た 「有 資 格 者 ( competent
person) 」が 現 場 に い る こ と を 要 求 し て い る 。
65 し た が っ て 、受 命 管 理 者 は 、実 際 に は 、単 な る 監 督 又 は 調 整 役 に 過 ぎ な い の で は な い か と の 懸 念
も生ずる。
156
特に、間接喫煙を防止するためには、喫煙を全面的に禁止するか又は指定喫
煙所の設置が必要不可欠とされることから、その判断及び費用負担の割合を
調整する上でも受命管理者の責任は重いと解する。
エ
間接喫煙防止策に関する意義と問題点
前述したように、喫煙が禁止されていない職場でのたばこの煙への対策と
し て は 、 第 (e)条 (1)が 、 指 定 喫 煙 所 の 設 置 が 必 要 で あ る こ と を 規 定 し て い る 。
当該喫煙所は、①密閉されかつ②屋外に直接排気する設備を有したものであ
ることが要求され、しかも当該エリア内にたばこの煙を封じ込めるために、
③周囲の気圧より低い大気圧で保持されていることが要求される。
また、当該指定喫煙所で清掃及び保守管理作業がなされている間は、喫煙
は許容されない。喫煙がなされている場合は、指定喫煙所内でいかなる種類
の作業もなされるべきではないというのが職業安全衛生局の意志である。し
たがって、指定喫煙所は、被用者が通常の作業活動の際に立ち入ることのな
いような区域としなければならない。さらに、指定喫煙所の所在を明示する
掲示をすることも求められる。しかも、喫煙が指定区域内に限定されている
ことを当該建物に立ち入る者すべてに知らせるための掲示も必要とされる。
なお、当該エリアに設置されている排気換気システムが適切に稼動していな
い場合には、いかなる理由があろうとも当該指定喫煙所での喫煙は許容され
ない。
言 う ま で も な く 、た ば こ の 煙 の 制 御 に 言 及 す る 第 (e)条 (1)は 、指 定 喫 煙 所 外
にいる被用者が間接喫煙に曝されないことを確保するための規定である。喫
煙エリアの密閉、屋外に排気させる構造、周囲の気圧以下に保たれた内部気
圧、及び排気システムが故障している場合の喫煙の禁止は、いずれもたばこ
の煙が当該建物内の他の区域に侵入することを防止するために必要とされる
措置である。
当該指定喫煙所は、隣接する部屋、廊下等、周囲の空間の気圧より低い大
気圧で保持されることが要求されている。当該喫煙所を周囲の空間より低い
大気圧で保持するためには、当該空間に供給される以上の空気を排気しなけ
ればならない。したがって、供給される空気の量と排気される空気の量をコ
ン ト ロ ー ル す る 給 ・ 排 気 設 備 の 設 置 が 必 要 と な る 66 。 な お 、 指 定 喫 煙 所 は 、
汚染された空気が禁煙区域に漏れることのないように、排気ダクトを通じて
直接屋外に排気させる構造を有していることが必要となる。
掲示に関する規定は、不注意による喫煙エリアへの侵入及び不注意による
喫煙所以外での喫煙を防止することを意図している。意図しない間接喫煙に
曝されることを防止するために、指定喫煙所は、被用者が通常の労働を行う
エリアであってはならない。同様の理由で、指定喫煙所の清掃及び保守管理
といった作業をする間は、当該喫煙所での喫煙は禁止される。
以上のように、喫煙が禁止されていない場合には、指定喫煙所の設置が義
66
周 囲 の 空 間 よ り 低 い 大 気 圧 及 び た ば こ の 煙 の 封 じ 込 め を 達 成 す る た め に は 、当 該 空 間 を 隙 間 の な
い密封状態に保つ必要もある。
157
務づけられる。しかし、当該規則案の基準を満たす設備に必要な費用は、後
述するように、非常に高額となることが予想される。
オ
その他の基準に関する意義と問題点
第 (g)条 は 、 メ ン テ ナ ン ス 作 業 員 及 び 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 運 用 等 に 従 事
する労働者に対して特定の教育訓練を実施すること、及びすべての被用者に
対して適切な情報開示をすることを使用者に要求する。
す な わ ち 、第 (g)条 (1)は 、当 該 建 物 の メ ン テ ナ ン ス 及 び 空 調 (HVAC)シ ス テ
ムの運用等に携わる作業員に対しては、身体防具の使用及び空気汚染物質を
換 気 す る た め の 教 育 訓 練 等 が 必 要 で あ る こ と を 規 定 す る 。 ま た 、 第 (g)条 (2)
は、当該規則案及び附則に定める基準の内容、ビル関連疾患に関する兆候及
び 症 状 、 並 び に 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 有 効 性 及 び そ の 改 善 策 に 関 す る 事 項
について、すべての被用者に通知することを規定する。
教 育 訓 練 及 び 情 報 開 示 は 、IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム を 適 切 に 運 営 す る た め の 必
須 要 件 で あ る 67 。 し た が っ て 、 被 用 者 が 曝 さ れ て い る 危 険 に つ い て 開 示 し 68 、
その防止のための訓練をすることは、間接喫煙に暴露されることを防止する
上でも重要である。ただし、具体的にどのような教育訓練を実施し、どのよ
うな情報を開示することが最も適切であるかは、必ずしも明確ではない。ま
た 、第 (h)条 は 、使 用 者 が 、3 年 間 分 の ① IAQ 規 則 遵 守 プ ロ グ ラ ム に 関 す る 記
録 69 、② 検 査 及 び 保 守 管 理 記 録 70 及 び ③ ビ ル 関 連 疾 患 に 関 す る 被 用 者 か ら の 申
告 記 録 71 を 保 存 す る こ と も 要 求 し て い る 。
前 述 し た よ う に 、職 業 安 全 衛 生 局 は 、書 面 に よ る IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム を 策
定することが当該遵守プログラムを履行するための要件であると考えている。
ま た 、 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 健 全 な 稼 動 レ ベ ル 及 び 許 容 可 能 な 空 気 清 浄 度
のレベルを維持するための情報も保存することが要求される。この種の情報
としては、当該建物の占有密度、設備計画、保守管理事項及びその回数とい
ったものが考えられる。また、健康データの保存は、ビル関連疾患を誘発す
る屋内空気清浄度の悪化を認識、評価及び是正するために有益であると解す
る。ただし、間接喫煙の防止に関して、具体的にどのような情報を保存する
べきかは、同様に必ずしも明確ではない。
(4)
当 該 規 則 案 の 撤 回 に 至 る 経 緯 72
当該規則案の制定手続の間、利害関係人及び団体の関心を専ら引いたのは間
接喫煙に関する部分で、それ以外の部分はほとんど注意を引かなかった。しか
も、当該規則案に対するコメントの多くは使用者団体からのもので、負担が大
67
教育訓練及び情報開示は、職業安全衛生局の健康基準のお決まりの要件である。
被 用 者 が 曝 さ れ て い る 危 険 に つ い て の 開 示 は 、正 規 の 講 習 会 若 し く は 課 程 を 通 し て な さ れ る 必 要
はなく、事実記録、メモ又は掲示物といった書面を通してなされてもよいとされる。
69 前 掲 、 第 (c)条 参 照 。
70 前 掲 、 第 (d)条 参 照 。
71 前 掲 、 第 (c)条 (5)参 照 。
72 以 下 は 、 66 Federal Register at 64946 (2001)か ら 多 く の 示 唆 を 得 た 。
68
158
き い と し て 強 い 反 対 の 意 を 示 す も の で あ っ た 73 。
職業安全衛生局は、数年間にわたって、寄せられたコメントの分析を行って
き た 74 。 し か し 、 結 果 と し て 、 規 則 案 の 間 接 喫 煙 に 関 す る 部 分 の 基 準 を 正 当 化
する明確な証拠は得られなかった。
また、当該規則案が公開されて以来、既に非常に多くの州や地方公共団体及
び民間企業の使用者は、公共の場や職場において、たばこの煙を削減するため
の 措 置 を と っ て い る 75 。し た が っ て 、間 接 喫 煙 を 防 止 す る と い う 当 初 の 目 的 は 、
不十分ではあるが、ある程度は達成されたと解された。
職 業 安 全 衛 生 局 が 、 2001 年 12 月 17 日 、 当 該 規 則 案 を 撤 回 し た の は 、 以 上
の 理 由 に よ る も の と み ら れ る 76 。
3 わが国への示唆
受動喫煙の健康への影響については、前述した通り、肺機能低下や呼吸器系疾患
のリスク増加のほか、肺癌のリスク増加も報告されている。また、受動喫煙は、虚
血性心疾患や喘息等慢性疾患を有する非喫煙者に対して、循環器系や呼吸器系の機
能低下を促すことも報告されている。さらに、受動喫煙により非喫煙妊婦であって
も 低 出 生 体 重 児 の 出 産 の 発 生 率 が 上 昇 す る と の 研 究 報 告 も あ る 77 。 し か し 、 わ が 国
の 受 動 喫 煙 防 止 措 置 は 「 努 力 義 務 」 に と ど ま っ て お り 78 、 禁 煙 の 国 際 的 な 措 置 強 化
の 潮 流 か ら 取 り 残 さ れ て い る 感 が あ る 79 。 そ こ で 、 さ ら に 一 歩 踏 み 込 ん だ 受 動 喫 煙
73
中 窪 裕 也 ・ 前 掲 『 ア メ リ カ 労 働 法 』 253 頁 、 岡 崎 淳 一 ・ 前 掲 『 ア メ リ カ の 労 働 』 359 頁 参 照 。
職 業 安 全 衛 生 局 は 、 間 接 喫 煙 の 量 的 リ ス ク 評 価 ( quantitative risk assessment) ( 例 え ば 、 デ
ー タ ソ ー ス 、分 析 的 方 法 論 、用 量 反 応 モ デ ル )と い う 課 題 に 取 り 組 む た め に 、1998 年 7 月 、専 門 家
に よ る 会 合( workshop)を 招 集 し た 。こ の 会 合 の 目 的 は 、以 下 の 4 点 で あ る 。す な わ ち 、① 間 接 喫
煙 の リ ス ク 評 価 に 当 然 含 ま れ る 種 々 の 健 康 被 害 の エ ン ド・ポ イ ン ト( health end points)を 検 討 し 、
当該エンド・ポイントに関する提案を行うこと、②健康被害へのエンド・ポイントに言及するあら
ゆる研究実績を検討し、職業上のリスクを見積るデータの質を評価すること、③間接喫煙に曝され
る 職 業 上 の リ ス ク を 見 積 る 数 量 的 モ デ ル を 検 討・評 価 す る こ と 、及 び 、④ 用 量 反 応( dose-response)
のリスク・モデルの特性を審査し、妥当性と不確実性、及び職場が間接喫煙に曝されることに帰因
す る 職 業 上 の リ ス ク を 見 積 る た め の 適 用 性 に 関 す る モ デ ル を 区 分 す る こ と で あ る( Meeting on Risk
Assessment Methodology for Occupational Exposure to Environmental Tobacco Smoke, 63
Federal Register at 34934-34935 (1998)参 照 ) 。
75 ア メ リ カ で は 、飛 行 機 は 全 面 禁 煙 で あ る な ど 、喫 煙 に 対 し て 厳 し い 環 境 に あ り 、メ リ ー ラ ン ド 州
では同州の職業安全衛生規則によって、一部の小規模レストランの除いて職場は全面禁煙とされて
い る ( 岡 崎 淳 一 ・ 前 掲 『 ア メ リ カ の 労 働 』 360 頁 参 照 ) 。
76 同 時 に 、職 業 安 全 衛 生 局 が 管 轄 権 の 及 ぶ す べ て の 被 用 者 に 対 し て 当 該 規 則 案 の 基 準 を 適 用 さ せ る
た め の 、29C.F.R. 1910、29C.F.R.1915、29C.F.R. 1926 及 び 29C.F.R.1928 の 改 定 案 も 撤 回 し た( 前
掲 、 注 (53)参 照 ) 。
74
77 平 成 19 年 度 「 受 動 喫 煙 の 健 康 へ の 影 響 及 び 防 止 対 策 に 関 す る 調 査 研 究 委 員 会 」 設 置 要 綱 、 厚 生
労 働 省 「 受 動 喫 煙 防 止 対 策 に つ い て 」 ( 平 15・ 4・ 30 健 発 第 0430003 号 ) 参 照 。
78 2002 年 に 制 定 さ れ た 健 康 増 進 法 は 第 25 条 で「 学 校 、体 育 館 、病 院 、劇 場 、観 覧 場 、集 会 場 、展
示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が利用する施設を管理する者は、これ
らを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならな
い」と規定する。
79 世 界 保 健 機 関 ( World Health Organization: WHO) に よ る 「 た ば こ の 規 制 に 関 す る 世 界 保 健 機
関 枠 組 条 約 ( WHO Framework Convention on Tobacco Control) 」 第 8 条 は 、 「 た ば こ の 煙 に さ
らされることからの保護」として「締結国は、屋内の職場、公共の輸送機関、屋内の公共の場所及
び適当な場合には他の公共の場所におけるたばこの煙にさらされることからの保護を定める効果的
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防止措置を講ずることの必要性が論じられている。
わ が 国 に お い て 受 動 喫 煙 防 止 基 準 を 策 定 す る に 当 た っ て は 、建 物 の 換 気 シ ス テ ム 、
汚染源の削減方法、並びに労働者への情報提供及び訓練プログラムの設計、運営及
び 保 守 に 焦 点 を 当 て た OSHA の 規 則 制 定 の 試 み は 、大 い に 参 考 と な る だ ろ う 。ま た 、
当 該 規 則 及 び 法 令 遵 守 に つ い て の 教 育 訓 練 の 実 施 、 空 調 (HVAC)シ ス テ ム の 運 用 及
び保守管理を取り入れた基準とすることなどは、注目に値する。特に、指定喫煙所
の 設 置 要 件 、IAQ 遵 守 プ ロ グ ラ ム の 策 定 及 び そ の 履 行 を 確 保 す る た め の 受 命 管 理 者
制度、並びに記録の保存方法に関する基準は、重要であると解する。
<指定喫煙所を設置するための費用>
指定喫煙所を設置す
単一企業入居ビル
複数企業入居ビル
る事業場の数
(単位;百万ドル)
43
8
$ 0.024
業
4
1
0.002
農・林・水産業
鉱
初年度の年間費用
建
築
業
105
21
0.059
製
造
業
65
13
0.037
輸
送
業
34
7
0.019
卸・小売業
93,411
36,058
60.829
83
16
0.046
11,188
3,968
7.121
104,932
40,091
68.138
金 融・保 険・不 動 産 業
サービス業
計
〔注〕
( 1) 製 造 業 の 23% 、 輸 送 業 及 び 公 益 事 業 の 36% 、 卸 ・ 小 売 業 の 7% 、 及 び そ の 他 平 均
25% の 企 業 が 喫 煙 を 禁 止 し て い る の で 、事 業 場 の 数 は 、そ の 比 率 を 調 整 し て い る 。ま
た 、事 業 場 の 数 に は 、3 若 し く は そ れ 以 上 の フ ロ ア ー を 持 ち か つ 10 万 平 方 フ ィ ー ト 以
上 の フ ロ ア ー 面 積 を 持 つ ビ ル 内 に あ る 大 企 業 の 50% を 含 め て い る 。さ ら に 、産 業 分 類
基 準 ( SIC) 58( 飲 食 所 ) 及 び 70( ホ テ ル ) の 全 事 業 場 の 50% を 含 ん で い る 。
(2) 換 気 設 備 を 変 更 す る に は 、10 人 用 の 喫 煙 所 単 位 あ た り 4,000 ド ル の 建 設 費 用 が か か
る。
初 期 費 用 は 、 年 利 10% と し て 20 年 以 上 で 換 算 し て い る 。
出 典 ; U.S. Department of Labor, OSHA, Office of Regulator Analysis, 1994.
Indoor Air Quality –59:15968-16039.
間接喫煙に関する基準を厳格に遵守するということは、事業場の建物全体を禁煙
にするか、そうしない場合には、仕事をする場所とは別の、隔離され、直接屋外に
排気できかつ周囲の空間より低い大気圧が保持された密閉の指定喫煙所を設置する
ことが必要とされる。しかし、指定喫煙所を設置するための費用は、前記合衆国労
働 省 職 業 安 全 衛 生 局 管 理 分 析 室 の 試 算 表 の 通 り 、1994 年 当 時 と し て は 非 常 に 高 額 で
な立法上、執行上、行政上又は他の措置を国内法によって決定された既存の国の権限の範囲内で採
択し及び実施し、並びに権限ある他の当局による当該措置の採択及び実施を積極的に促進する」と
規 定 す る ( 外 務 省 訳 「 た ば こ の 規 制 に 関 す る 世 界 保 険 機 関 枠 組 条 約 の 説 明 書 」 ( 2004 年 ) 5 頁 ) 。
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あった。前述したように、当該規則案は、主に使用者団体からの負担が大きいとす
る反対により撤回された。しかし、間接喫煙に対する危険の認識及び知見が当時と
は 大 幅 に 前 進 し た 現 在 、そ の 基 準 の 内 容 を 再 検 討 す る こ と の 意 義 は 大 き い と 解 す る 。
その上で、アメリカで撤回に至った経緯をも考慮するならば、わが国で同様の基準
の制定を検討するにあたっては、その適用範囲、指定喫煙所を設置するための費用
の負担等についても一定の配慮をすることが求められるであろう。
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