IEA HP 実施協定(ヒートポンプセンター)ニューズレター 国内版 第 18 号(平成 20 年 11 月発行) NEWS 1.ナショナルチームミーティングの報告 ナショナルチームミーティングは IEA HPP をサポートするために、各国がヒートポンプの研究 に係っている実務者が集まり、HP 実施協定の Annex(付属書)の国際共同研究テーマのアイデアを 議論します。その結果を IEA HPP 執行委員会へ提案し、次の Annex が決定されていきます。今回 の会議は 2008 年 9 月 11 日~12 日にスウェーデンの Malmö City で開催され、HPP 参加国(12 カ 国)の内、10 カ国と HPC が参加した。合計 24 名の参加で会った。 (参加国:スウェーデン、ノル ウェー、ドイツ、フランス、オーストリア、スイス、アメリカ、カナダ、韓国、日本 不参加国: オランダ、イタリア)。各国毎にマーケットデータや現在進行中のナショナルプロジェクトの紹 介及びその国にとって興味のある Annex 候補について紹介する。各国の市場の動向や研究開発の 課題がイメージできると思う。 1.アメリカ アメリカのナショナルチームは 17 団体で組織され、DOE を始めとし各団体(ASHRAE, AHRI 等)、 メーカ、大学などで構成されている。エネルギー庁では”NET zero energy homes by 2020”や HVAC and WH Program Element Goals など住宅におけるエネルギーをトータルでゼロにする取り 組みや、空気調和と給湯の統合システムにおいて 50%省エネを目指したプログラムをサポートし ている。 興味のある Annex 提案は 出計算ツール ポンプ給湯 1)SPF(Seasonal Performance Factor)の計算方法 3)温室効果ガス評価の統合 2)カーボン排 4)建物と機器性能のデータベース 5)ヒート 6)新住宅用ヒートポンプ給湯 2.カナダ カナダの Annex 提案は、1)産業用ヒートポンプの応用 ートポンプ 3)低価格地中熱交換器 2)Net Zero エネルギー建物用ヒ 4)特殊地中熱源ヒートポンプ 3.フランス まずフランスマーケットの紹介があった。フランスでは 2006 年から機器の 50%を TAX で支援 する政策が功を奏し、2005 年から 2006 年にかけて Air-Air ヒートポンプが+11%、地中熱ヒート ポンプで+40%、また Air-Water では+190%の伸びを示した。今後は安定的な地中熱ヒートポンプ 1 の販売、冷専の縮小(冷暖房を推奨)、Air-Water の拡大、改築マーケットへの着手を行っていき たいとのこと。Annex の提案は、 1)暖房用 Air-Air ヒートポンプの効率性の検証 熱ヒートポンプの地中コレクターの小型化と設置の簡易化 源ヒートポンプの騒音低下 3)フリークーリング 2)地中 4)空気熱 5)産業用ヒートポンプ 特に産業用については、既に検討が開始されており、エネルギー利用の現状・エネルギー削減量 のポートフォリオを作成しているところであり、EDF が主体となって取り組んでいる。 ※EDF:フランスの電力公社 4.スイス まずスイスの電力供給事例が紹介された。電力の 52%は水力、原子力は 42%であり、化 石燃料はわずか 5%でしかない。またヒートポンプは 55%が Air-Water、42%が Brine-Water であり、直膨式はわずか 1%である。スイスのR&Dも紹介され、エネルギー効率向上、自 然冷媒、マグネチックヒートポンプ、建物におけるシステム改善、フィールドテストと計算 方法などが実行中であるとのこと。Annex の提案としては、1)圧縮機やコンポーネンツの 改善 2)アンモニア、プロパンを使用した小型ヒートポンプ ンプ統合 算方法 4)国際的なフィールドテスト比較 7)ヒートポンプ給湯 3)建物におけるヒートポ 5)排熱回収の最適化 8)パフォーマンスデータベース 6)共通の SPF 計 9)産業用ヒートポン プ 5.ドイツ 2007 年 1 月に欧州委員会が発した 2020 年に向けたエネルギー政策に対して、どう取り組 んでいくかというアプローチについて述べた。2020 年までに、①20% エネルギー消費効率を 改善する ②20% 温室効果ガス排出量を低減する③20% 再生可能エネルギーでエネルギー 消費を賄う④10% バイオ燃料で自動車燃料を賄う という目標である。Eco-Labeling や Renewable 指令はまだ議論途上であるが、ヒートポンプ技術が大きく関わっていくことが大 事であり、EHPA を通じ盛んに議会にアプローチをかけている。Annex の提案は、1)産業用 と業務用ヒートポンプ 2)乾燥工程におけるヒートポンプの応用 であり、10 月 15 日か らの CHILLVENTA シンポジウムで議論することになっている。 ※EHPA:Europe heat Pump Association 6.オーストリア Annex の提案としては、 テンシャルとニーズ セス改善 1)産業用ヒートポンプ 3)フリークーリング 4)超臨界CO2ヒートポンプにおけるプロ 5)DSMにおけるエアコンの役割 体としてのCO2 2)ヒートポンプと冷房のためのポ 6)ヒートポンプ応用における 2 次流動媒 7)ヒートポンプとソーラーとの併用システム ムにおけるヒートポンプの役割 2 8)エネルギーシステ 7.スウェーデン Annex の提案は、1)家庭用給湯ヒートポンプ の検証 3)ローエネルギーハウス 冷媒家庭用ヒートポンプ 発 5)効率的な除霜 2)ヒートポンプの SPF 規則と市場計測 新 Annex として、1)フリークーリング 3)業務用のエネルギー効率システム 2)自然 4)地中熱熱交換器の開 6)新冷媒 またスウェーデンのマーケットについても述べられた。欧州の中ではヒートポンプが最も多 く導入されており、過去は地中熱ヒートポンプが主流であったが、近年空気熱源ヒートポン プの伸びが顕著である。2007 年度は 95,000 台が販売されたとのこと。またR&Dについて も紹介され、より効率の高いシステム開発を目的に EffSys2 プログラムが走っており、スウ ェーデンエネルギー省から 40%、産業界から 60%の資金で 21 の研究開発プロジェクトが進 行している。総額約 12 億円規模である。 前述の各国提案を踏まえ、さらにグループ議論を深めた結果、まとめると以下 5 点が主要な Annex のテーマ候補となった。 1) Calculation method for SPF 2) Industrial heat pump application 3) Heat Pump Water heater 4) Heat Pump performance database (include field measurement) 5) Free Cooling 日本としては、1)SPF の計算方法及び 2)産業用ヒートポンプに興味があるとしている。 このテーマ毎にリーガルテキスト(研究の目的や作業の進め方について詳細を述べたもの) を仕上げ、次回 11 月 13 日の執行委員会で次期 Annex を決定していくこととなる。 【Annex 候補の議論】 【各国の提案】 財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター 登埜 3 誠 NEW PUBLICATIONS 1.IEA HPC NEWSLETTER Volume 26 2008/2 号の発行 本号は、“ローエネルギービルのためのヒートポンプ” (Heat pumps for low energy buildings)特集として、 下記の6件の特集記事が掲載されています。 (IEA HPC Newsletter を添付ファイルとして配布していま したが、容量オーバーによるトラブルの発生が多いため とりやめました。ご面倒ですが、IEA ヒートポンプセン ターのホームページ http://www.heatpumpcentre.org よ り各自直接ダウンロードして頂きますようお願いいたし ます。) (特集記事) (1) 地中熱源ヒートポンプを導入したローエネルギー商業ビル(Frederic Genest and Vasile Minea /カナダ) (2) 日本における住宅ヒートポンプシステム(Hasegawa Kohei /日本) (3) ローエネルギー・パッシブハウスのための統合 CO2 ヒートポンプシステム(Jorn Stene /ノ ルウェー) (4) ニアゼロエネルギー住宅の地中熱源ヒートポンプシステムの性能(Xiaobing Liu /米国) (5) 日本のローエネルギー住宅に導入された統合ヒートポンプシステム(Katsunori Nagano /日 本) (6) アパートやフラット住宅に導入したローエネルギー・パッシブハウス用のヒートポンプ式給 湯機の標準規格(Jorn Stene and Tore Hjerkinn /ノルウェー) ON GOING ANNEXES 1.ANNEX 29「土壌(地中)熱源ヒートポンプ-市場と技術の障壁の克服」(Ground Source Heat Pumps / Overcoming Market and Technical Barriers) (OA:オーストリア、分科会主査:北 海道大学、長野教授) 2004 年 9 月にスタート、地中熱源ヒートポンプシステムの普及阻害の要因となっている市場 の障壁や技術的な問題点について討議し、それらを克服するための解決策について検討してい ます。当財団の「地下熱利用とヒートポンプシステム研究会」の中に「IEA ANNEX 29 分科会」 を設置して活動しています。現在、ファイナルレポートを作成中です。 第1回専門家会議は 2004 年 9 月 13 日~15 日、ウィーン(オーストリア)にて開催されました。 また、2005 年 5 月 30 日にはラスベガス(米国)にて Annex 29 ワークショップが開催されまし た(第 8 回 IEA ヒートポンプ国際会議と併催)。さらに、第2回専門家会議及びワークショップ 4 は 2006 年 5 月リンツ(オーストリア)にて、第3回専門家会議及びワークショップは 2007 年 1 月札幌・登別(日本)にて、それぞれ開催されました。2008 年 5 月 19 日に、第 9 回 IEA ヒート ポンプ国際会議に併せ、チューリッヒ(スイス)にてワークショップが開催されました。 2008 年中にファイナルレポートが完成の予定で、最後にファイナルレポートを配布、Annex 29 の活動を終了する予定です。 2. ANNEX 30「建築物へのヒートポンプのレトロフィット」(Retrofit Heat Pumps for Buildings)(OA:ドイツ、日本は参加していません) 2006 年 4 月にスタート、欧州の市場で注目されている既築住宅へのヒートポンプのレトロフ ィットを中心テーマとしたものです。2008 年 5 月 19 日に、第 9 回 IEA ヒートポンプ国際会議に 併せ、チューリッヒ(スイス)にてワークショップが開催されました。 3. ANNEX 31「スーパーマーケットシステムにおけるエネルギー消費のモデリングと解析ツール」 (Advanced Modeling and Tools for Analysis of Energy Use in Supermarket Systems) (OA:スウェーデン、日本は参加していません) 2006 年 1 月にスタート、スーパーマーケットにおける冷凍・空調システムについて、シ ステム全体のエネルギー性能を明らかにする解析ツールを開発し、最適運転のための制御方法 やエネルギー効率を表す指標について検討するものです。2008 年 5 月 19 日に、第 9 回 IEA ヒ ートポンプ国際会議に併せ、チューリッヒ(スイス)にてワークショップが開催されました。 4. ANNEX 32「ローエネルギー住宅の経済的な冷暖房システム」(Economical Heating and Cooling Systems for Low Energy Houses)(OA:スイス、分科会主査:北海道大学、長野教授) 2006 年 1 月にスタート、ローエネルギー住宅に適した、冷・暖房、給湯、換気、除湿などが 可能な多機能・複合ヒートポンプシステムに関する調査やエネルギー消費・コストなどのシス テム評価を通して、最適なシステム構成に関する検討や設計手法(ガイドライン)の確立を行 うものです。 第1回専門家会議(キックオフミーティング)は 2006 年の 4 月にムーテンツ(スイス)で、 第 2 回専門家会議は 2006 年 11 月にアルクマール(オランダ)で、第 3 回専門家会議は 2007 年 5 月にアーリントン(米国)で、第 4 回専門家会議及びワークショップは 2007 年 12 月 5-7 日、京 都(日本)にて開催されました。2008 年 5 月 19 日に、第 9 回 IEA ヒートポンプ国際会議に併せ、 チューリッヒ(スイス)にてワークショップが開催されました。次回(第 6 回)専門家会議は 2009 年 3 月上旬、オーストリアで開催の予定です。 国内体制として IEA Annex 32 分科会を設置して活動しています。 5. ANNEX 33「ヒートポンプ用コンパクト熱交換器」( Compact Heat Exchangers in Heat Pumping Equipment)(正 OA:イギリス、副 OA:スウェーデン、分科会主査:九州大学、小山教授) ヒートポンプで使用される各種の熱交換器(蒸発器、凝縮器など)について、マイクロチャ ネル熱交換器などの高性能化・コンパクト化の可能性について検討しています。 2006 年 7 月にロンドン(イギリス)で立ち上げのための準備会合が開催され、イギリスの Brunel 5 大学が OA(幹事国)、スウエーデンの王立工科大学が副 OA に決まりました。活動期間は 3 年間と し、2006 年 11 月にスタートしました。第 1 回の専門家会議・ワークショップは 2007 年 5 月にス トックホルム(スウエーデン)にて開催されました。2008 年 5 月 21 日に、第 9 回 IEA ヒートポン プ国際会議に併せ、チューリッヒ(スイス)にてワークショップが開催されました。 次回の Annex 33 専門家会議は、2009 年 1 月 24 日~28 日シカゴにおいて開催される ASHRAE に合わせて開催する。 国内体制として IEA Annex 33 分科会を設置して活動しています。 6. ANNEX 34「冷暖房ための熱駆動ヒートポンプ」(Thermally Driven Heat Pumps for Heating and Cooling)(OA:ドイツ、日本は参加していません) 2007 年 10 月にスタート、IEA ヒートポンプ実施協定 Annex 24(吸収・吸着ヒートポンプ の将来展開)の後続研究であり、IEA 太陽エネルギー冷暖房実施協定の Annex 38(太陽熱 空調と冷凍)との共同研究である。このアネックスは熱駆動ヒートポンプシステムの経済 性、環境性およびエネルギー性能の定量の検討を加え、最も大きい環境効果、最も有利な 経済性および最大の市場潜在力を明らかにするものです。 2008 年 5 月 20 日に、第 9 回 IEA ヒートポンプ国際会議に併せ、チューリッヒ(スイス)にて ワークショップ(キックオフミーティング)が開催されました。 NEW ANNEXES 1.提案・検討中のアネックステーマ 冒頭の NEWS の中で述べていますが、ナショナルチームミーティングで新しいアネック スの議論を通して、現在下記の6件のテーマが各国から提案され、検討されています。参 加したいテーマなどのご意見をお待ちしています。詳細については事務局までお問い合わ せ下さい。その他、新しいテーマのご提案などにつきましても、事務局までご連絡下さい。 ・Annex Proposal (1) Common calculation method for SPF, annual energy savings and “carbon foot prints”(SPF と年間省エネルギー、“カーボン・フットプリント”の計算方法の確立) (2) Real-time performance database “heat pump systems”(「ヒートポンプシステム」 におけるリアルタイム性能のデータベース) (3) Hot water domestic heat pumps (住宅用給湯ヒートポンプ) (4) Heat pumping technologies and the industrial sector(ヒートポンプ技術と産業分野) ・Annex Idea (5) Future potential and needs for heat pump systems(ヒートポンプシステムの将来ポ テンシャルとニーズ) (6) Free Cooling (フリークーリング) 6 IEA HPC NEWSLETTER 1. 原稿募集 2008 年中に発刊予定の IEA HPC ニューズレター記事(Article)およびニュース(News)への寄 稿を募集しています(随時)。下記のトピックス(特集)記事以外の記事(Article)も歓迎いた します。投稿に関するお問い合わせは事務局までお願いします。 (1) March/2008: Air source heat pumps (空気熱源ヒートポンプ)(済) (2) June/2008: Heat pumps for low energy buildings (ローエネルギー建物におけるヒー トポンプ) (済) (3) September/2008: 9th IEA heat pump conference (第9回IEAヒートポンプ国際会議特集) (4) December/2008: Natural working fluids(自然作動媒体)(募集中) 7 SPECIAL REPORT:Purdue Conferences 2008 参加報告 宮良明男(佐賀大学) 1.はじめに Purdue Conferences は 2 年ごとに Purdue 大学(アメリカ,インディアナ州)で開催される国 際会議であり,圧縮機国際会議(International Compressor Engineering Conference)と冷凍 空調国際会議(International Refrigeration and Air Conditioning Conference)が同時に並 行して開催される.圧縮機国際会議は第 19 回目,冷凍空調国際会議は第 12 回目の会議で,第 1 回会議は 1972 年であるので,その歴史も長いが,私のほうはこれまで参加する機会がなく,今 回が最初の参加であった.2 つの国際会議とはいえ,論文投稿や参加登録から会場,講演プログ ラム,懇親会などのイベントまで,全て共同で行われており,参加者の立場からは,1 つの国際 会議で講演が 2 つの分野に分類されているという印象であった.会期は,2008 年 7 月 14 日~17 日であり,その前の 12 日~13 日には,”Hands-On Modeling and Computer Simulation of Gas Pulsations in Reciprocating Compressors” および ”Update on Natural Refrigerants” と 題した 2 つの Short Courses も開催されていた. Purdue 大学は,シカゴとインディアナポリスの間にあり,国際空港のあるシカゴからは約 200km, インディアナポリスからは約 100km である.公共交通機関はほとんどなく,交通の便がわるいの で,シカゴでレンタカーを借り,延々と続くトウモロコシ畑の中を約 3 時間かけて移動した.日 程の都合で,初日の午後からの参加となり,午前中にあった Opening Session の Keynote Address を聞くことができなかったのは残念であった. 2.会議概要 会議は 4 日間で,初日は午前中にオープニングセッションがあり,1 件のキーノート講演が行 われ,午後から 5 室に分かれて一般講演のセッションが開催された.1 つのセッションは 2 時間 で,30 分のコーヒーブレークを挟み 2 つのセッションが行われた.2~4 日目は 8:30~9:30 にプ レナリーセッションが 1 件ずつあり,その後,5 室に分かれて午前中に 1 件,午後に 2 件の一般 講演セッション(最終日の午後は 1 件)が開催された. 表 1 に,国別の参加者および圧縮機国際会議,冷凍空調国際会議それぞれの論文数を示す.参 加者数は会場で配布された参加者リストから,論文数は講演プログラムから調べたものである. 圧縮機国際会議では 108 件の投稿論文が 20 のセッションに分けられ,冷凍空調国際会議では 146 件の投稿論文が 29 のセッションに分けられて講演された.なお,1 つのセッションでは 4~6 件 の発表が予定されていたが,私が参加したセッションでは 0~2 件のキャンセルがあり,全体で は約 1 割のキャンセルがあったと考えられる.参加者は 26 カ国 534 人であり,これは過去の会 議とほぼ同じである.参加者はアメリカが 263 人と圧倒的に多く,約半数を占めている.日本か らの参加者数は,アメリカの次に多い 57 人である.一方,論文数のほうはアメリカが 58 件であ るのに対して,中国が 48 件,日本が 31 件,韓国が 22 件であり,アジアでの冷凍空調の研究が 盛んであることを示している.なお,中国の論文数はアメリカの次に多いが,講演をキャンセル した論文の多くが中国からの投稿であったのは残念であった. 8 表1 国 名 Austria Belgium Brazil Canada China Czech Republic Denmark France Germany India Ireland Italy Japan Malaysia Mexico Netherland Singapore South Korea Spain Sweden Switzerland Taiwan Thailand Turkey United Kingdom USA 合 計 各国の参加者および論文数 参加者数 圧縮機 3 5 21 3 38 2 6 16 25 11 1 8 57 2 1 2 4 35 3 6 4 4 4 4 6 263 534 4 3 9 0 17 0 1 8 6 4 0 1 17 0 0 0 3 8 2 1 0 2 0 3 2 17 108 論 文 数 冷凍空調 0 1 9 1 31 0 0 5 3 6 1 5 14 0 0 2 2 14 5 1 1 2 0 0 2 41 146 総数 4 4 18 1 48 0 1 13 9 10 1 6 31 0 0 2 5 22 7 2 1 4 0 3 4 58 254 親睦を深めるイベントも多く,初日の夜はレセプション,二日目は昼食会,三日目はステーキ バンケットがあった.最終日は弁当が配られた.また,学会のイベントではないが,二日目の夜 には日本人が集う親睦会があった.この会議に参加している日本人やアメリカに駐在している日 本人の方など,36 人もの方が集まり,楽しい一時を過ごした.なお,36 人の内,大学関係者は 4 人で 32 人は企業の方であった.正式な懇親会ではないので,ある企業の方が中心となり声をか けていただいたのだが,前回も行われており,次回もやりましょうとの声があがっていた.この ようなイベントが多かったせいか,セッションでの討論は活発に行われながらも和やかな雰囲気 があった. 3.講演内容 3.1 プレナリーセッション プレナリーセッションの講演者,論文タイトルおよび概要は次の通りである. 初 日:S. Forbes Pearson, Star Refrigeration Limited, Scotland UK,“Development Trends and Possibilities in Industrial Refrigeration” 天然の氷を利用していたころから現在までの冷凍工業の歴史が要約されるとともに現在の動向 9 が説明され,冷媒や要素機器,制御,基準などについての将来の可能性が述べられた. 2 日目:Dr. Peter Egolf, University of Applied Sciences, Switzerland,“Magnetic Heating, Refrigeration and Power Conversion” スイス連邦エネルギー省によって実施された磁気熱量効果を利用したいくつかの研究,磁気ヒー トポンプや磁気冷蔵庫,発電などの研究が紹介され,これらの技術が現在存在するシステムと置 き換わるポテンシャルを有していると報告された. 3 日目:Professor Denis Clodic, ARMINES, France,“Latest HVAC&R Development Trends in Europe in Response to Imminent HFC Regulations” ヨーロッパでの HFC 規制の現状が説明され,それに対応するためのさまざまな技術開発の動向, すなわち,R1234fy などの新冷媒の開発,エジェクタなどの CO2 システムの高効率化,アンモニ ア利用技術,工場やビル,一般家庭におけるヒートポンプ利用などについて説明された. 4 日目:Professor Ruzhu Wang, Shanghai Jiaotong University, P. R. of China,“Trends and Perspectives in HVAC & R Technology in China” この 10 年の間に急速な成長を遂げた中国の冷凍空調工業について,その製品や技術,独自の基 準や認証システムが説明された.また最近の 5 年間で変化した国の研究機関や大学での研究開発 の進歩により,”made in China” から ”researched and developed in China” や “innovated in China”を目指していることが述べられた. プレナリーセッションの講演者に日本人がいないのは残念であったが,各国の研究開発のトピ ックや動向やフロン系冷媒の規制の動きなど,興味深い話を聞くことができた. 3.2 一般セッション 次に一般講演の概要を述べる.一般講演の論文をセッションの内容別に分類すると表 2 および 表 3 のようになる.分類名は学会のセッションタイトルで,その後のローマ数字はそのテーマが いくつかのセッションに分けられていたことを表している.セッション番号は開催の順番に付け られた通し番号である.ある分野に論文が極端に集中しているということはないが,ある程度の 分布が表れている. 表2 2008 International Compressor Engineering Conference セッション名 Air and Other Compressors Automotive Air Conditioning Compressors CO2 Compressors & Expanders I, II Compressor Valve Designs I, II Lubrication Issues in Compressors I Modeling of Compressors New Compressor Concepts I, II Noise Reduction Technologies I, II Reciprocating Compressors I, II Rotary Compressors I, II Screw Compressors Scroll Compressors I, II, III 合 計 セッション番号 C-17 C-2 C-1, C-4 C-16,C-20 C-11 C-3 C-7,C-10 C-5,C-13 C-9,C-15 C-12,C-19 C-6 C-8,C-14,C-18 10 論文数 5 4 12 11 5 5 11 10 12 10 7 16 108 表3 2008 International Refrigeration and Air Conditioning Conference セッション名 セッション番号 Absorption Cooling R-11 Air Flow and System Modeling R-23 Air-Side Performance of Heat Exchangers R-4 Alternative Cooling and Heating Technologies I, II R-15,R-18 Control and Diagnostics R-12 Desiccant Systems R-1 Dynamic Behavior of Components and Systems R-27 Heat Exchanger Enhancements R-14 Heat Exchanger Modeling and Design R-2 Heat Exchanger Performance and Modeling R-20 Heat Pumps for Space Heating I, II R-3,R-8 Heat Pumps for Water Heating R-19, Heat Recovery and "Free" Cooling Technologies R-24 Heat Transfer and Pressure Drop I, II R-10,R-25 Heat Transfer and Pressure Drop in Small Tubes and Channels R-7 Refrigerant Flow Control and Maldistribution R-22 Refrigeration R-17 Small-Scale Cooling Applications R-21 Solar Assisted Systems R-28 Split Air Conditioning Systems R-29 Supermarkets R-5 Technology and Refrigerant Assessments R-16 Vapor Compression Cycle Enhancements R-9 Work Recovery I, II R-6,R-13 Working Fluids R-26 合 計 論文数 6 5 4 8 7 5 5 5 4 4 11 6 5 11 7 5 6 4 5 5 4 5 6 8 5 146 圧縮機国際会議では “Scroll Compressors” が 16 件と最も多く,”CO2 Compressors & Expanders” が 12 件 と そ れ に 次 い で 多 い . CO2 に つ い て は , ”Lubrication Issues in Compressors” や ”Compressor Valve Designs”などのセッションでも発表があったので,特 定の冷媒を対象とした研究という点では最も発表件数が多い.また,自然系冷媒に関する研究と しては,CO2 の外にもアンモニア圧縮機などの研究があった. 冷凍空調国際会議は内容が多岐にわたるため,多くのセッションに分類されており,”Heat Pumps for Space Heating” と ”Heat Transfer and Pressure Drop” がいずれも 11 件と少し 論文数が多いが,他はほぼ同じ論文数である.しかし,熱交換器および伝熱に関連するセッショ ンを合計すると 35 件の発表があり,熱交換技術に関する研究が活発であることがわかる.また, フロン系冷媒の規制に関連した CO2 などの自然系冷媒や混合冷媒,その他の新冷媒を対象とした 研究は,熱交換器や伝熱のセッションやその他のセッションでも多く見られた. 次に,圧縮機国際会議で参加したいくつかのセッションについて,その概要を述べる.“Heat Exchanger Modeling and Design”では,熱交換器の最適設計法に CFD の計算を組み入れた新し い方法やフィンと管の熱伝導のモデル化などの研究発表があった.“Air-Side Performance of Heat Exchanger”では,PIV 計測による速度分布の測定結果や空気流を加速することによる熱交 換器の性能向上,熱交換器の姿勢の影響などが報告された.”Heat Transfer and Pressure Drop 11 in Small Tubes and Channels” では,ミニチャンネルの局所熱伝達を測定する新しい実験装置 やボイド率の測定,流動沸騰の詳細な実験結果などが発表された.”Heat Transfer and Pressure Drop” では,CO2 の溝付管内凝縮の熱伝達率や圧力損失,ボイド率の整理式,ニューラルネット ワーク法を用いた予測方法,管外凝縮や沸騰熱伝達の基礎的研究,R600a のプレート熱交換器内 凝縮の特性などのさまざまな研究の発表が行われた.”Heat Exchanger Enhancement” では, ナノ粒子による沸騰伝熱促進,ポリマー製の管群熱交換の特性,マイクロ加工された表面上の液 滴の挙動などの新しい技術が紹介された.”Heat Exchanger Performance and Modeling” では, エントロピー生成を用いた熱交換器の評価やフィンを介した管同士の熱伝導の影響などの研究 発表が行われた. 参加したセッションの全体的な印象は次の通りである.CFD コードが熱交換器のモデル化や最 適設計に組み込まれたり,測定の不足を補う道具として使われたりしており,多様な利用がなさ れている.細管やミニチャンネルの研究では,測定技術や実験方法に工夫がなされ,流動特性や 熱伝達特性などが明らかにされてきており,実機への応用も進みつつある.熱伝達や圧力損失に ついては,より詳細な現象解明と一般的な予測方法が求められている.新しい伝熱促進技術や評 価方法の試みが積極的に行われている. 地球温暖化係数が小さい冷媒として開発された HFO-1234yf については,”Technology and Refrigerant Assessments” において,DuPont 社と Honeywell 社が共同で発表した.講演者が二 人で,発表の途中で交代するという,学術講演会ではあまり見られない発表であった.発表内容 は,熱物性や毒性,可燃性,材料に対する適合性などであり,これまでに他の学会等で発表され た内容と本質的に同じものであったようだが,多くの人が興味を持っていたようで,講演会場は 約 30 人の立ち見が出るほどの満員であった.HFO-1234yf がどの程度使われるようになるかはま だ不明であるが,2010 年にはプラントを建設するという話もあり,その普及に熱心な様子であっ た.いずれにしても,次世代冷媒の研究が今後しばらく活発になされることは間違いなく,その 研究の成果や動向に注意を払う必要があるだろう. 4.おわりに Purdue Conferences に始めて参加したが,予期していた以上に多くの情報を得ることができた. また,多くの研究者とも交流を図ることができ,今後の研究活動のためにも有益であった. 会議が終了した翌日に Illinois 大学 Urbana-Champaign 校の Hrnjak 教授および Jacobi 教授の 研究センター,Air Conditioning and Refrigeration Center を訪問した.Purdue 大学からは 150km 程の距離である.日本の企業や外国からの訪問者もあり,約 15 人の見学者がいた.研究セ ンターでは,アメリカの企業だけでなく,日本やその他の国の企業との共同研究を多く行ってお り,外国からの研究者も多く,基礎的な研究から応用的な研究まで,多くの研究テーマで活発な 研究が行われていた.冷凍空調機のシステムや熱交換器の性能試験が行えるカロリーメータも 5 台ほどあり,設備的にも充実しているようであった. 本報告では,研究発表の内容以外のことも少し書かせていただいたが,まだ参加されていない 方にも学会の雰囲気を感じていただき,次回の会議に参加するきっかけになってくれれば幸いで ある. 12 OTHERS このニューズレターの効果的な活用のために、今後、改善を図っていきたいと考えていますの で、忌憚のないご意見、ご要望など下記事務局までお寄せ下さい。 (事務局連絡先)(財)ヒートポンプ・蓄熱センター 技術研究部 IEA ヒートポンプ実施協定(IEA HPP Net Japan)事務局 (TEL: 03-5643-2404/ FAX: 03-5641-4501/ e-mail: [email protected]) 13
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