一時使用の賃貸借契約を締結するにあたって、注意しなければならない点 (解 説) 1.転勤のため所有家屋を転勤期間中のみ貸すといった契約や、工事期 間中のみ仮事務所の設置のため土地を貸すといった「一時使用」の 賃貸借契約がありますが、この契約は借地借家法の適用がありませ ん。 したがって、一時使用のための賃貸借契約は、借地借家法上、期 間満了の際の「正当事由」等が不要となり、民法の一般原則に戻っ て判断していくことになります。 2.そこで、「一時使用」として認められるには、どういった要件が必 要となるのでしょうか。 この点について、最高裁判所は「必ずしもその期間の長短だけを 標準として決せられるべきものではなく、賃貸借の目的、動機、そ の他諸般の事情から、該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣 旨のものであることが、客観的に判断される場合であればよい」と しています。 一時使用の賃貸借といわれるための契約書のポイントを次にあげ ることにします。 (1)一時使用であることを明確にすること。 ① 契約書の標題に「建物一時使用賃貸借契約書」と明記します。 ② 契約書の頭書に「賃貸人○○を甲とし、賃借人△△を乙として以 下のとおり後記の建物を一時使用の賃貸借契約として締結する。」 と明記します。 (2)使用目的は具体的に明記すること。 短期間の興業、博覧会の展示場など貸借の期間が比較的限定さ れるような使用目的であることが必要です。 (3)賃料の固定性 家賃を増額する特約があれば、一時使用の賃貸借といえない要 素となります。 したがって、「賃料の額は建物賃貸借の一時性にともない将来 増減しない。」と明記する必要があります。 (4)更新特約の排除 ① 期間満了時に更新できるという特約がある場合は、一時使用の賃 貸借といえない要素となりがちです。 したがって、「本契約の有効期間は、契約締結日から3カ年と し、本契約は更新されない。」と明記しておくほうが望ましいと いえます。 ② しかしながら、勤め人にはよくありがちなことですが、当初は短 期の予定で貸したものの再転勤する時期が遅れ、その結果期間が 延長されかなり長期となったような場合に果してそれでも一時使 用の賃貸借と認められるのでしょうか。 この点について最高裁判所の判例は、公務員である賃貸人が近 い将来当該建物から通勤できる地に転勤して来るまでという趣旨 で、当初期間を2年と決めたところ、転勤の時期が遅れて、その 後更新が数回あり結局約7年半を過ぎてから解約の申入れがなさ れた事案について、これを一時使用のための建物賃貸借と認めた 高 等 裁 判 所 の 判 断 を 肯 定 し て い ま す ( 最 判 昭 41.10.27 ・ 判 時 467.36)。 なおこの最高裁判所の判例については、この7年半は一時使用 のためとしては、異例であるとして反対する学者もあります。こ の見解によりますと、当初は一時使用のためと認定できてもその 後の事情の変化によって、その期間が長期にわたるようなときは、 当初の予定期間を超えたところか、あるいは相当期間を経過した 時点で一時使用のための賃貸借からふつうの賃貸借に変わったも のと考えて、後は解約申入れの正当事由の問題として考えるのが 妥当だということになります。 (5)高額の敷金、権利金の授受を排除すること。 高額の敷金あるいは権利金が授受された場合には、一般的に一 時使用の賃貸借とはいえないという要素になります。 要するに、一時使用のための建物賃貸借と認められるためには まず一時使用の具体的な計画とその実現の見通しが、明確かつ確 実であることが必要です。この明確性、確実性がないときは、一 時使用の賃貸借とは認められません。なぜなら、そのような場合 ですと、建物賃借人の地位を非常に不安にするからです。 なお、今後は定期借家契約、あるいは建物取壊し予定の賃貸借 を活用すべきでしょう。
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