事業事前評価表 国際協力機構地球環境部防災第2

技プロ用
事業事前評価表
国際協力機構地球環境部防災第2課
国際協力機構地球環境部防災第2課
1.案件名
国名:エクアドル共和国
案件名: 和名 津波を伴う地震のモニタリング能力向上プロジェクト
英 名 Project for Enhancement of Earthquake and Tsunami Monitoring
Capability for Tsunami Early Warning
2.事業の背景と必要性
(1)当該国における防災セクターの現状と課題
エクアドル共和国(以下、エクアドル)は環太平洋地震帯に位置する地震・津波多
発国であり、1906 年及び 1979 年にコロンビア国境付近で発生した津波では被害が発
生している(1979 年の津波の被害は被災者 1500 名、死者 30 名規模)。ナスカプレー
トの沈み込みによる海溝型の地震では、地震発生から津波到達まで数十分以内で避
難が必要とされており、近い将来起こり得る津波への対応として地震観測・津波解析
技術の向上が必要である。
エクアドルで想定される津波は、①発生から数十分で到達する南米大陸沖合の海
溝型地震による津波(近地津波)、②近地津波のうち地震の大きな揺れを伴わない津
波(明治三陸地震に代表される津波地震)、③日本等の環太平洋対岸で発生した地
震による津波(遠地津波)、がある。しかしながら、現在の津波警報は、地震解析技術
及び関係機関の連携体制が不十分なため近地津波・津波地震の判定が困難な状態
であり、沿岸部住民の迅速な避難に支障を来している。現状では、マグニチュード7
程度以上の地震が発生した場合には即座に津波警報を発信しているが、警報の継
続、更新、解除の判断や、更には津波地震のような揺れを伴わない津波への対策が
急務となっている。
遠地津波の場合は、太平洋津波警報センター1からの警報情報を利用しているが、
近地津波も含め迅速かつより正確な警報情報の発出には、海底地形データを反映さ
せた津波予測の実施を含む、自国内の地震解析技術・津波モニタリング体制の強化
が必要である。
エクアドルでは地震観測はキト市にある国立理工科大学地球物理研究所
(Geographical Institute, National Polytechnic University 以下、IGEPN)が所掌してお
り、潮位観測・津波観測情報については、グアヤキル市に本部、ガラパゴス諸島に支
部を構える海洋学研究所(Oceanography Institute 以下、INOCAR)が担当している。
INOCAR からの情報を受け、国家危機管理庁(Risk Management Secretariat 以下、
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PTWC:Pacific Tsunami Warning Center
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SGR)が地方自治体に津波警報を発信する役割を有していることから、上記3機関を
実施機関としてプロジェクトを実施する。
(2)当該国における防災セクターの開発政策と本事業の位置づけ
防災セクターについては、エクアドル「国家開発計画 2013-2017」で設定されている
3 つの軸と 12 の目標の 2 つ目の軸「良き生活を実現するための権利、能力、自由の
保障」の(3)生活の質の向上の中で、「自然災害の脅威・リスクの下での文化・自然遺
産、及び人間の保護」と優先度の高い目標として設定されている。
本事業は同国家計画達成の一助となるものであり、津波警報にかかる関係機関の
技術者の能力向上を通じて、津波災害の脅威から国民の人命を守り、持続的な開発
を実現することが期待される。
(3)防災セクターに対する我が国及び JICA の援助方針と実績
我が国の「対エクアドル国別援助」では 2 つの援助重点分野は(ⅰ)「格差是正」と
(ⅱ)「環境保全・防災」である。また、JICA 国別事業展開計画には、開発課題として
「防災」が掲げられ、関連プログラムが設定されている。本プロジェクトは同
プログラムの主要投入の1つに位置付けられる。
(4)他の援助機関の対応
過去に津波防災分野で協力を行っていた機関として、UNESCO-IOC(ユネスコ政府
間海洋学委員会)、UNESCO エクアドル事務所、OXFAM があるが、活動は主に津波
のリスクの高い地域における防災教育を通じたコミュニティ支援に関する活動であり、
本事業との重複はない。
3.事業概要
(1)事業目的(協力プログラムにおける位置づけを含む)
本事業はエクアドルにおいて、津波を伴う地震情報の迅速な決定、津波警報の発出、
津波観測・警報解除技術の向上、関係機関との連携に基づく津波警報基準の策定と
手順の改善のための施設整備及び中核人材の育成を行うことにより、津波警報のた
めの地震・津波モニタリング能力が強化され、もって津波警報システムの構築と運用
に寄与するものである。
(2)プロジェクトサイト/対象地域名
キト市(人口:1,399,378 人、面積:324km2)、グアヤキル市(人口:2,196,800 人、面積:
316.42km2)、ガラパゴス諸島(人口:23,000 人、面積 7665.14km2)
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(3)本事業の受益者(ターゲットグループ)
IGEPN 地震解析実務者および地震研究者 15 名、INOCAR 海洋研究者 3 名、SGR オ
ペレーションセンター実務者 12 名、合計 30 名程度
(4)事業スケジュール(協力期間)
2014 年 2 月~2017 年 2 月(3 年間)
(5)総事業費(日本側)
約 1.8 億円
(6)相手国側実施機関
国立理工科大学地球物理研究所 (Geographical Institute, National Polytechnic
University 以下、IGEPN)
海洋学研究所(Oceanography Institute 以下、INOCAR)
国家危機管理庁(Risk Management Secretariat 以下、SGR)
(7)投入(インプット)
1)日本側(総額約 1.8 億円)
・長期専門家(業務調整)
・短期専門家(地震解析、津波解析、津波警報、機材計画)
・機材供与(地震観測機器、分析・解析ソフトウェア、ワークステーション、計算機、車
両、等)
・本邦研修(津波を伴う地震の解析技術、津波概論、津波警報システム
2)エクアドル国側
・カウンターパートの配置
・プロジェクトダイレクターの配置(IGEPNから任命予定)
・プロジェクトコーディネーターの配置(IGEPNから任命予定)
・プロジェクトマネージャーの配置(3 機関から任命予定)
・専門家執務スペース及び必要な機材
・プロジェクト実施に必要な情報
・プロジェクト運営管理費
(8)環境社会配慮・貧困削減・社会開発
1) 環境に対する影響/用地取得・住民移転
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①カテゴリ分類:C
②カテゴリ分類の根拠:
本事業は、地震、津波観測技術の能力向上を目的としており、ソフト面での技術
協力を行うものである。このため、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」
(2012 年4月公布)上、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
2)ジェンダー平等推進/平和構築・貧困削減
・ 本事業ではプロジェクトカウンターパートに複数名女性が関わる予定となってお
り、ジェンダーバランスに配慮している。
(9)関連する援助活動
1)我が国の援助活動
これまで我が国は技術協力プロジェクト「火山監視能力強化」(2004 年 5 月~2009 年
4 月)を実施し、地震・火山監視能力の向上を目的とした技術移転活動を実施してい
るほか、主に防災分野の課題別研修を実施しており、研修を通じたエクアドルにおけ
る防災分野の中核を担う人材の育成に貢献している。
2)他ドナー等の援助活動
上述のとおり、防災教育に対する支援が津波のリスクの高い地域において 2012 年ま
で実施されてきたが、OXFAM 基金を基にエスメラルダス県とマナビ県において津波、
洪水、旱魃対策の強化を目的としたプロジェクトが計画されていることから、本プロジ
ェクトで改善された津波予警報を活用した避難訓練の実施など連携による相乗効果
が見込まれる。
4.協力の枠組み
(1)協力概要
1)上位目標:
津波警報システムが構築・運用される。
指標:
・エクアドル政府による津波警報システムの更新(1 回/年)
・津波警報にかかる標準手順書の改善(1 回/年)
2)プロジェクト目標:
津波警報のための地震・津波モニタリング能力が強化される。
指標:
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・IGEPN から提供される地震情報の質(伝達時間、震源・マグニチュード情報の正確
性)の向上
・INOCARから提供される津波情報の質(伝達速度、浸水エリアの正確性)の向上
3)成果及び活動
成果 1:
IGEPN がリアルタイム地震モニタリング、地震パラメーター(マグニチュード、震源情
報)の適切な決定、地震情報の迅速な発信に必要な能力を向上させる。
指標:
・地震データ収集システムの記録(リアルタイム)
・地震検知から15分後に発出される地震情報の質(震源・マグニチュード情報の正確
性)
活動:
1-1.
1-2.
1-3.
1-4.
リアルタイムのモニタリングに必要な地震観測機器を設置する。
地震観測機器を適正に維持する。
地震情報を適切に決定し情報発信するために必要なソフトウェアを開発する。
1-3.活動で開発されたソフトを運用する技術を、IGEPN の現業スタッフが習得
する。
成果 2.INOCAR が IGEPN からの地震情報に基づき、SGR に適切なアドバイザリー情
報 2 を発信するための津波の予測・観測・影響範囲の推定に必要な能力を向上させ
る。
指標:
・津波発生の可能性の評価のための技術ガイドラインの策定
・津波影響エリア予測分析データの作成
・INOCAR からSGRに発信される津波注意勧告情報の発信
・潮位観測システムの記録
・潮位観測データを用いた津波注意勧告情報の更新と解除のための技術ガイドライ
ンの策定
活動:
2-1. 津波にかかる理解を深める。
2-2. 津波予測に必要な手順・体制についての理解を深める。
INOCAR は津波による浸水エリアにかかる分析結果をアドバイザリー情報として SGR
に提供し、SGR において評価されたのち、自治体に対して伝達される。
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2-3.
2-4.
マグニチュードと震源距離を用いた近地津波予測技術を確立する。
INOCAR の津波予測・沿岸地のモニタリングに必要な技術移転を行う。
成果 3.SGR が IGEPN、INOCAR からの情報に基づき決定する緊急時の津波警報発
信・更新・解除に必要な能力を向上させる。
指標:
・SGR の津波警報にかかる標準手順書の策定
・SGR が実施する訓練記録の作成(1 回/年)
・SGR が発信する津波警報記録(毎時)
活動:
3-1. 津波警報発信にかかる緊急時手順を整備する。
3-2. 迅速な津波警報発信に必要となる SGR, IGEPN, INOCAR 間の情報伝達システ
3-3.
3-4.
ムを改善する。
警報訓練を通じて津波警報手順を維持・更新する。
他の南米地域で実施している JICA プロジェクトのカウンターパート及び日本
人専門家と共に津波観測・警報にかかるセミナーをエクアドルで開催する。
4) プロジェクト実施上の留意点
・地震・津波分野に関しては我が国のリソースが極めて限られること、及び長期の派
遣が困難なことから、本邦研修の戦略的活用によりエクアドルの技術者に対するき
めの細やかな技術移転活動を展開する計画とする。
・合同調整委員会やプロジェクト会議など、3 機関が情報共有・議論する機会を定期
的に設定することで連携強化を図るとともに、SGR が年1回実施する津波警報発令
訓練などを通じて関係機関の協働体制の改善と津波警報システムの有効性の確認
を行う。
・2011 年 3 月 11 日に東北地方を襲った東日本大震災による甚大な被害を受け、住民
が災害情報をどう理解し、どういった警報内容が避難行動につながりうるかという観
点で、リスクリテラシーの重要性が高まっている。本案件の実施に当たっても、SGR
が実施する防災訓練等のレビューの際、津波警報を住民がどのように理解している
かを分析し、必要な警報内容の改善を図ることとする。
・指標については第一回 JCC において日本側、エクアドル側双方により確認の上必
要に応じて変更する。
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(2)その他インパクト
上位目標の達成により、災害による死者数の最小化が期待でき、「国家開発計画
2013-2017」の達成に貢献することが予想される。また、減災への取り組みを通じエク
アドル国の持続性の高い開発の実現への側面支援につながる。
5.前提条件・
前提条件・外部条件
リスク・コントロール))
5.
前提条件・
外部条件 (リスク・コントロール
(1)事業実施のための前提
・エクアドル政府の開発計画において防災に対する優先度が変化しない。
・プロジェクト対象地域において社会・経済状況が悪化しない。
(2)成果達成のための外部条件
・プロジェクト活動を実施するに当たり必要となる技術・専門性を有する職員がカウン
ターパートとして任命される。
・エクアドル政府において津波防災にかかる責任機関・法体制に変更が生じない。
・研修を受けたエクアドル側技術者がプロジェクト期間中同じポストに留まる。
(3)プロジェクト目標達成のための外部条件
・設置した機材が自然災害により故障しない。
(4)上位目標達成のための外部条件
・プロジェクト終了後も 3 機関での連携・協働体制の改善に向けた協議が継続される。
・プロジェクト終了後もエクアドル関係機関において十分な予算確保がされ、地震・津
波観測機器が適切に維持管理される。
6.評価結果
本事業は、エクアドル国の開発政策、開発ニーズ、日本の援助政策と十分に合致し
ており、計画の適切性が認められることから、実施の意義は高い。
7.過去の類似案件の教訓と本事業への活用
過去にJICAが実施した地震・津波観測にかかるプロジェクトの教訓として、供与機
材の選定にあたっては、設置後に必要となるメンテナンスにも留意し、プロジェクト終
了後も適切に維持管理がなされるよう適切な仕様を設定する必要があることが分か
っている。現在、チリ、ペルーにおいて地震、津波防災に関する地球規模課題対応国
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際科学技術協力プロジェクトが実施中であることから、プロジェクト期間中に明らかに
なった課題を迅速に共有し、コロンビアをも含む 4 か国間で、それぞれが得た知識、
技術を共有することにより、各国の津波被害軽減能力の向上と、地域間協力のネット
ワークの促進に取り組む。
8.今後の評価計画
(1)今後の評価に用いる主な指標
4.(1)のとおり。
(2)今後の評価計画
事業終了 6 ヶ月前
終了時評価
事業終了 3 年後
事後評価
以 上
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