ボラティリティの推定と 非平滑化のテクニック 川口有一郎 明海大学教授 京都大学金融工学センター客員研究員 不動産投資リスクの測度 将来収益率の確率分布 正規分布 「標準偏差(ボラティリティ)」 不動産はめったに取引されない→測定できるか? 例)米国,不動産ボラティリティ 個別不動産=15%(年率) 不動産ポートフォリオ(分散効果):‘78-’98 6.9%(NCREIFインデックス,レバなし) → 過少評価? 8.0%(CM価格インデックス,レバあり) 16.4%(NAREITインデックス,レバあり) 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 2 不動産投資インデックス 1.鑑定評価を用いたインデックス 主に,商業不動産の不動産投資インデックス 米国(NCRIEF),英国,EU(IPD),日本(MTB−IKOMA)など 2.取引価格を用いたインデックス 主に,住宅価格のインデックス (ヘドニックモデル) 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 3 リクルート事業用マンション価格・賃料インデックス ーヘドニックモデルの例 明海大学川口研究室作成ー 4000 12 不動産の価格 不動産の賃料 3500 10 3000 8 2500 2000 6 1500 4 1000 2 500 0 0 87 88 89 90 91 92 93 94 95 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 96 97 98 4 ーヘドニック不動産インデックスの場合ー 古典的な時間ダミーモデル Pi = β ′X i + δ ′Ti + ε Pi:i番目不動産の取引価格 Xi:説明変数ベクトル (物理的,立地,タイプ,取引特性など) β:固定パラメータ T:時間関連変数ベクトル ε:誤差項 ~ N(0,σ2) 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 5 ー古典的時間ダミー・ヘドニックモデルの限界ー 1.投資用不動産(賃貸住宅含む) 取引事例が少ない モデルを推定できない ★鑑定評価を利用せざるを得ない(商業不動産市場の特徴) 2.豊富なデータがある住宅価格推定にも大きな課題がある. (1)空間相互作用(外部性)の影響 (説明変数として考慮しないとバイアスをもつ) (2)回帰パラメータの可変性 (従来のモデルはパラメータは固定,バイアス) (3)サンプリングバイアス問題 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 6 Spatial Hedonic Specification -新しいヘドニックモデル誤差項=①測定誤差(missing variables, incorrect function form,inadequate sampling)+ ②取引誤差→分離不能→明示的に空間相互作用を組み込め(1997) Pi = β ′X i + λWi Pi + ui , ui = ρM i ui + ε i , λ <1 ρ <1 W,M: spatial weighting matrices (WP,MP: spatial lags) λ,ρ:scalar autoregressive parameters 推定方法:例えば,一般化空間2段階最小二乗法(1998)など 注意:空間相互作用モデルでは「時空間」効果は無視されている.また,時間効果と空 間効果は分離可能と仮定している! 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 7 Time Varying Parameters Approach with Sampling Bias -新しいヘドニックモデル- φ (γ ′Z i ) +πi Pi = β ′X i + δ ′Ti − κ Φ (γ ′Z i ) β:「可変」パラメータ φ/Φ:inverse Mills ratio(密度/分布) S = γ ′Z i − ε i * i S:売却指標変数(s>0:売却) Z:売却,売れ残りを決定する変数ベクトル 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 8 鑑定評価を用いた投資インデックス -米国,NCREIFインデックス1)個別不動産の収益率(HPR) 期末価格 rNPI 期初価格 その他収入 資本支出 正味収入 EndVal − BegVal + ( PS − CI ) + NOI = BegVal − (1 / 2)( PS − CI ) − (1 / 3) NOI 価格:個別鑑定評価 仮定1:四半期の1/3NOI → 各月の期末に受け取る. 仮定2:資本改良支出,その他収入は四半期の中間で発生. 2)インデックス=集計(価値荷重:Value Weighted aggregate) 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 9 -5 -10 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 1997,2 1996,2 1995,2 1994,2 1993,2 1992,2 1991,2 1990,2 1989,2 1988,2 1987,2 1986,2 1985,2 1984,2 1983,2 1982,2 1981,2 1980,2 1979,2 1978,2 % 商業不動産四半期収益率のボラティリ ティ ーNCREIF(過少評価)とNAREIT− 25 20 15 10 5 0 NCREIF NAREIT -15 -20 図1.米国の不動産とREITの収益率(79四半期) 10 商業不動産月次収益率のボラティリティ ー英国IPD(過少評価)とFTSEの比較ー 英国商業不動産月次収益率の特性(165ヶ月,1986年5月〜2001年1月) 対数収益率 IPDインデックス調整 IPD FTSE(不動産) ME仮定 ME非仮定(k=0..2と仮定 平均 0.84 0.26 0 0.84 標準偏差 0.86 6.34 2.46 1.99 歪度 0.28 -1.28* -0.09 0.02 * * 4.68 4.19* 尖度 0.58 6.70 JB統計量 4.65 362.28* 154.17* 123.43* 自己相関 ラグ1 0.89 0.12 -0.03 -0.10 ラグ2 0.85 0.06 0 0.15 ラグ3 0.82 0.06 0.03 0.31 ラグ4 0.74 0.08 0.12 0.11 ラグ5 0.67 0 -0.01 0.11 ラグ6 0.6 -0.10 0.04 0.16 *:5%水準有意 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 11 不動産市場の特徴 不動産市場 組織化の程度 資産の数 local (loose ) 約2,000棟(東京のビ thin 市場価格 鑑定評価 取引価格 ボラティリ ティ 「平滑化」 central 約2,500社(上場企業) ル) 取引量・頻度 (ノイズ) 株式市場 (大) 鑑定による平滑化 Temporal Smoothing 集計による平滑化 thick 取引価格 (小) なし 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 12 不動産の取引価格とその情報構造 不完全市場,探索費用,時間変化する期待の下での相対取引価格 pr Ψ ( PT ) = ∫ h*[(1 − ω ) P o ]g *[ P r − (1 − ω ) P o ]dP o 0 分布(取引価格)=買い手の留保価格と売り手の申し出価格の畳み込み積分 推定 P r = Pb − ε b = 1 ρ b (P + es ) − ε b , Po = P s + ε s = ρ s (P + es ) + ε s 観測 価格 戦略 割引率 P T = BP + ν P:真の価格 ρ b ( ρ s − 1) + 1 , B= b ρ 売買条件 (1 − ρ b )(e b − ρ bε b ) + ( ρ b ) 2 (1 − ρ s )( ρ s e s + ε s ) ν= ρ b (1 − ρ b ρ s ) 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 取引ノイズ 13 不動産鑑定評価モデル カルマンフィルタ 状態方程式 Pt = Pt −1 + ηt 観測方程式 Pt T = BPt + ν t 観測不可能な真の価格を推定 Quan and Quigley(1989,1991) 市場価格(真の価格)がランダムウォークに従うとき,t時点の市場価格につい ての鑑定士の最適推定Vtは Vt = kPt T + (1 − k )Vt −1 当該物件の前期の鑑定価格 取引事例(comparable)から得た今期の取引価格 市場全体のノイズ σ η2 k= 2 0 ≤ k ≤ 1. 2 σ η + σν 個別の取引ノイズ Smoothing parameter 今期の鑑定価格は今期の真の価格と前期の鑑定価格を重みkで 加重平均したもの(上記観測方程式においてB=1のとき). 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 14 市場価格と鑑定価格の分散 Vt = kPt + (1 − k )Vt −1 Brown&Matysiak(1998) Smoothing Parameter k 一定のとき 1 1 − k 1− k 1 VarPt = VarVt + VarV 2 − ρVt ,Vt −1σ Vt σ Vt −1 t −1 k k k k 2 2 現在と過去の評価の分散が等しいとき, [ { VarPt 1 = 2 1 + (1 − k ) (1 − k ) − 2 ρVt ,Vt −1 VarVt k ρV ,V t t −1 }] :1次の系列相関 kが小さいとき市場価格の分散は鑑定評価の分散よりも大きい 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 15 Recovery without Assuming Efficient Market; Geltner(1993) rt* = art + (1 − a )rt*−1 rt:真の収益率 rt * :鑑定評価により求めた収益率 a :平滑化係数 実証により,a=0.4 (0.33〜0.50) 真の収益率は, [ 1 * rt = rt − (1 − a )rt*−1 a ] 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 16 Full-Information Value Index Fisher-Geltner-Webb(1994)モデル (別紙参照) 欧米で非平滑化インデックスとして実務に適用されている Cho-Kawaguchi-Shilling(2001)モデル (別紙参照) 上記モデルを一般化して問題解決. 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 17 リアルオプションモデルを用いた不動産価格 インプライドボラティリティの推定 開発可能な更地の取引価格にはリアルオプションの価値が含まれている. 更地の取引価格データ;Vo V ( P, X ) = X ( Az j + k ), A = ( z * − 1 − k )( z * ) − j , z * = j (1 + k ) /( j − 1), ROVM k = βz /( r −ν x ), z = P/ X 1 2 2 1 2 2 j =ω ω + ν x −ν P + ω ω −ν P −ν x + 2r + (ν x −ν P ) 2 4 −2 インプライ ド・ボラティ 18.55%-28.07%(Quigg) リティ ω 2 = σ x2 − 2 ρσ xσ P + σ P2 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 18 株価収益率を利用した 不動産収益率ボラティリティ推定 Vt ≡ ln ε t2 (A Fundamental Measure of Volatility, Bond et al.(2001)) Vt = µ + FVt + ϕ t FVt = φFVt −1 + ηt Transitory error Fundamental Volatility ・REITインデックスリターンのボラティリティ ・鑑定評価インデックスリターンのボラティリ ティ ・インプライドボラティリティ 共通のボラティリティが存在す るはずである → V1t µ1 ϕ1t V2t µ 2 ϕ 2t Μ = Μ + FVt + Μ V µ ϕ Nt N Nt FVt = φFVt −1 + ηt 明海大教授 川口有一郎(京大客 員) 19
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