5.事例紹介5:業界の取組み - 公益社団法人 日本下水道協会

5.事例紹介5:業界の取組み
(1)はじめに
民間企業は、廃棄物のリサイクルや減量・バージン資源消費量の削減等、公共目的に合致した取
組みを打ち出して企業イメージのアップを図ったり、バージン資源の枯渇等を予測した取組みを行
うなど、公共団体とも協力しながら、それぞれ独自の経営戦略で汚泥の資源化に取り組んでいる。
しかし、資源化・リサイクル製品は、原料である廃棄物の収集・運搬に手間がかかるなどの理由
から、割高になることが多い。また、一般に市場におけるリサイクル製品の評価は高くなく、価格
競争力が低いことが多い。
このような現状のままで、民間企業のマーケティングだけで下水汚泥の資源化事業を成立させる
ことは難しいといえる。
また、灰・スラグなどを販売等によって民間企業に引き渡した後に、民間企業が引き取った灰等
を使用せず不法に処分したり、使用していない製品を「使用している」と偽って販売したりする可
能性もある。
更に、このような悪質な例ではなくても、市場の状況によっては、これまで引き取られた灰等の
引取りが不可能になったり、開発された製品が製造できなくなるリスクも存在する。
このため、公共団体として、排出者として責任を果たす立場及び環境保全の施策を推進する立場
から、資源化製品のマーケティングと、市場流通の管理において、費用対効果・公共性の維持や民
間のモラルハザードの防止に配慮しつつ、適切な役割を果たすことが重要となる。
その内容としては、次のようなものが考えられる。これらを状況に合わせて適切に組み合わせる
施策展開が求められよう。
① 民間のマーケティングの直接的な支援
・資源化製品の一定量を適切な価格で買い上げる。
・原料である灰等の取引きにおいて、製品買い上げと同様の効果を持たせる。
・公共事業の設計仕様に明記し、価格を設計で保障する(優先使用)
。
・施設の建設費・事業の運営費への補助・助成を行う。
② 資源化製品に信用力を付与する取り組み
・リサイクルに対する住民の理解を広めるための行政としての啓発を行う。
・民間企業同士の協力を促進する行政指導を行う。
・公共的な技術上の認定・指定の制度をつくる。
・公共機関としてのマーケティングを行う(パンフレットの発行・宣伝による製品紹介、公共
団体内部での宣伝・周知・啓発による需要開拓等)
。
・公共団体間の協力・情報交換や、共同した情報管理・情報発信による市場開拓。
③ 民間企業や業界団体との意見交換
マーケティングにおける公共団体の役割について、民間の意見を聞く。
-340-
④ 民間企業の協力を得た灰など排出物の管理(報告制度等)
⑤ 複数の民間企業・業種との取引き
⑥ 新しい技術開発の推進
重要なことは、
これらマーケティング戦略を公共団体が自らの業務として位置付けることである。
以下の事例紹介においては、いくつかの業界での資源化の取組みの例が記載されているが、民間
の取組みは、例示された業界だけにとどまるものではなく、コンクリート製品など幅広く展開され
ていることを銘記されたい。
(2)エコスラグ業界の取組み
1)発生状況
昭和54年に、一般廃棄物対策としての溶融炉の導入に始まり、灰溶融へ移行した。下水汚泥で
は、昭和56年川崎市におけるアーク式溶融炉の導入が最初であり、脱水汚泥の直接溶融方式や灰
溶融が普及しつつある。
平成元年には、建設省(現在の国土交通省)による下水汚泥を下水道施設内の建設資材に有効
利用するモデル事業化が開始され、平成10年3月に厚生省(現在の厚生労働省)は、ダイオキシ
ン問題に端を発し、ごみの直接溶融を推進しようとしている。
現在、溶融炉は一般廃棄物分野で約20事業所(平成9年度末)
、下水汚泥処理の分野では16箇
所(平成12年度末)で操業されている。最近のエコスラグの発生状況を表5-14に示す。
現在、両分野で発生している年間約十数万tのエコスラグの8割近くは埋立処分されており、
再利用されているものは、わずかに約22%といわれている。
表5-14 ごみと下水汚泥エコスラグ発生量推移(単位:t)
平成5年
ごみ分野
平成6年
66,660
平成7年
81,845
100,713
下水分野
22,785
28,829
合 計
104,630
129,542
平成8年
31,984
平成9年
平成10年
105,703
115,502
28,595
31,156
134,298
146,658
2)将来発生量予測と再利用
① エコスラグの発生量予測
社団法人日本産業機械工業会(以下、
「産機工業会」という)では、平成10年度から3箇年、
学識経験者や溶融処理メーカーなどにより「エコスラグの利用普及に関する調査研究委員会」
を発足させて、エコスラグの有効利用について調査している。当委員会では、平成26年(2014
年)度におけるエコスラグの発生量を、下水汚泥では年間約5万t、一般廃棄物は年間約95万
t、合計で年間約100万tと予測している。
-341-
② 今後の課題
a コスト
建設資材の業界は、エコスラグの価格として鉄鋼スラグや再生砕石、砂利・砂価格と同等
かそれ以下であることを要望している。
なお、単粒度砕石、再生砂等の価格は、5,100円/m3から2,100円/m3の範囲にある。
b 流通
他の消費財に比較して、容量/価格比が非常に大きい建設資材を扱うため、破砕・粒度調整
や検査業務等を行う加工会社は、溶融施設に隣接することが望ましい。また、流通に関して
は、その加工品の販売するルートを有するアスファルトやコンクリート業者に委託する方法
がある。
3)今後の展望
国土交通省が全国で21地域の海岸で侵食対策を実施しているが、その年間流失砂量が約5、900
万m3と推定されている。このうち1割の590万m3にエコスラグを使用して、人工砂を用いて養
浜することを検討している。その場合、表層の砂は天然材にし、下層材としてエコスラグを利用
する。
(3)セメント業界の取組み
1)セメント産業の現状
現在、日本のセメント産業は19社39工場で構成されているが、図5-23のとおりセメント生産
量は景気動向により左右されるものの、ここ20年間でみれば8千万t前後で推移している。
セメント生産量の推移
100,000
80,000
千
t
60,000
40,000
20,000
0
70 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98
年
度
図5-23 セメント生産量の推移
-342-
また、セメント業界は近年の経済不況に対応して、生産設備の合理化や省資源、省エネルギー
に努めており、その一環としてセメント原料に代替として廃棄物の再利用を推進している。その
ため、平成9年度にはセメント原料化している廃棄物は、セメント全原料の約20%を占めるに至っ
た。
なかでも下水汚泥については、その灰分がセメント原料のひとつである粘土に類似しているため
、大量かつ安定した有効利用方法の一つとしてセメント企業では有望視しており、積極的な営業活
動を展開している。
2)各種廃棄物の利用
表3-56に示すとおり、セメント産業における廃棄物・副産物の利用量は年間約2,700万tで
あり、また、これら廃棄物等は図5-24のとおり幅広い産業から発生するものである。
セメントの原料は、第3章第6節に示すように、けい素、アルミニウム、鉄、カルシウムなど
自然界のみならず廃棄物にも多く含有しているので、今後とも、多くの廃棄物がセメントの原料
化に利用されると考えられるが、下水汚泥は微粒子のため粉砕作業は必要ではなく、質・量とも
に安定しており、自冶体等からの処理委託費も確実に受領できるなど他の廃棄物に比べて、多く
の利点があるため、セメント業界としても下水汚泥を優先的に利用したいと考えているようであ
る。
他産業廃棄物のセメント資源化
食品
焼酎かす、
廃ろ過材
非鉄金属
自治体
スラグ、石膏
下水汚泥、都市ごみ
建材
紙パ
ボード建材
スラッジ
化学
石膏、
廃プラスチック
石材
石油精製
スラッジ、廃石材
廃白土、廃油、
DOC、FOC
セメント
石油
家電
電子
廃油
繊維
フロン、汚泥
汚泥
自動車
漁業
鉄鋼
スラグ、EP灰、
貝殻、ウロ 電炉ダスト
廃珪砂、塗料カス、
古タイヤ、
研磨くず アルミ
赤泥
電力
石炭灰、重油灰、
石膏
パチンコ
クリーニング
プリペイドカード、
廃台
汚泥
図5-24 セメントを中心とした産業クラスター
3)下水汚泥のセメント資源化
現在、セメント工場で受入れている下水汚泥を乾燥重量で換算すると、平成10年度で焼却灰と
して約26万DS-t/年、脱水ケーキとして約4万t/年であり、合計約30万DS- t/年となり、全国の下
水汚泥発生量の約16%に相当する。
下水汚泥の発生状況は、平成10年度186万DS- t/年であるが、この全量を全国のセメント工場で
-343-
原料化したと想定して、セメント品質のネックとなるりんと塩素の含有量について試算すると以
下のとおりとなる。
(設定条件)
・下水汚泥中の無機物量
約20%
・無機物中のP2O5量
約25%
・無機物中のCl量
約0.05%
・セメント生産量
約8,000万t
(結果)
・P2O5に関し、現在のセメントのP2O5含有率約0.13%が0.23%となるが、これは理論的許容
値(0.5%)内である。
・Clに関し、現在のセメントのCl含有量は約0.005%が0.0054%となるが、これは理論的許容
値(0.02%)内である。
以上より、我が国の下水汚泥全量をセメント原料化することは十分可能である。しかし、現実
的には脱水汚泥の受入施設の有無、輸送距離、臭気等の面セメント工場周辺からの苦情など制約
条件があり、セメント資源化の導入に当たっては、これらの条件を十分調査する必要がある。
4)今後の課題
前述のように、セメントの生産量は年間9,000万t前後で推移しており、需要面では相当量の余
裕がある。
しかし、下水汚泥を全量委託処理した場合、企業の経営方針やオーバーホールなど工場の運転
状況により、委託量や処分費が大きな影響を受けることになる。特に、工場が閉鎖されるときは、
すぐに他の処置を考えなければ、処理場の運転に大きく影響する。
この対策として、多くの都市では多少コストが高くとも、委託先のセメント会社を2箇所以上
にしたり、セメント原料化以外の再資源化方法を併用している。
(4)レンガ業界の取組み
1)レンガ業界の現状
我が国におけるレンガメーカーは30社で、北海道から沖縄まで全国的に散在している。そのう
ちの18社の最近5年間における普通レンガの年別生産高及び出荷高の推移を図5-25に示す。図
5-25からもわかるように平成9年の出荷高はガーデニングブームの影響で前年比で約8%伸び
たが、平成10年には公共投資や民間設備投資が伸び悩み前年比で7%落ち込んでいる。レンガの
用途は、舗装用を中心に建物の外構や庭園等に使われている。また、最近では表面加工したレン
ガなど役物が多く使われる。
-344-
(千個)
80000
国産レンガ(出荷高)
60000
国産レンガ(生産高)
40000
20000
輸入レンガ
0
1993
1994 平成7年
1995
平成5年 平成6年
1996 平成9年
1997 平成10年
1998
平成8年
図5-25
国産レンガと輸入レンガ
図-1 国産レンガと輸入レンガ
その他
5.1%
商店街
3.0%
公園
歩道
27.8%
34.6%
建物外構
29.40%
図5-26 レンガ舗装材の用途別ウェイト(平成9年度)
図-2 レンガ舗装材の用途別ウェイト(1997年度)
輸入レンガ量は、昭和60年頃より毎年2倍ペースで伸長し、平成8年には前年比136%、平成9
年は116%と伸びているが、平成10年上期は深刻化した不況の影響で前年比で落ち込んでいる。平
成9年の輸入数量(t)を個数で表示すると、1個当り2.8㎏換算で約4,000万個になる。国別輸
入高では平成6年頃までオーストラリアが90%以上占めていたが、平成9年にはオーストラリア
83.2%、イギリス4.6%、カナダ2.5%の順となっている。輸入レンガは色合いやテクスチャが豊
富で、用途は主に舗装用を中心にホームセンターや外装用等に使われている。
現在レンガ業界では次のような3つの課題に取り組んでいる。第1に建築用レンガで構造用並
びに耐久性や美観を重視した製品の開発、第2に景観用レンガで輸入レンガ並の色調、テクスチ
ャや形状を重視した製品の開発、第3に環境共生用レンガで省資源の立場からレンガ粘土の代替
として廃棄物を原料に利用することである。
2)今後の課題と将来
焼却灰は通常の粘土に比べて、SiO2が少なく、Fe2O3やCaOが多く、かつP2O5を多量に含んでいる。
特にP2O5が融剤として顕著に働くので焼成温度が低く、かつ焼成範囲が極めて狭い。
-345-
また、焼却灰はりんやアルカリが多いので、温度が高いとガラス質を生成しやすい。したがっ
て、気孔率が低下して焼成収縮率が大きくなり製品寸法が変動しやすくなる。
色調に関しては、焼却灰は、通常の粘土に比べてFe2O3が多く若干のMgOもあるので暗赤色を呈
する。焼成温度が高くなるとガラス相が結晶に熔け込み濃い赤紫色になる。
特に問題となるのは白華現象で、焼却灰は通常の粘土に比べて可溶性塩類を多く含んでいるた
め、レンガ粘土に添加すると素地乾燥の際、硫酸塩として結晶化し水分とともに折出して焼成後
レンガに白い斑点として残る。この斑点は主に硫酸カルシュウムで水に対する溶解度が著しく小
さいので洗浄の際、多量の水が必要になる。
このように、レンガ粘土に焼却灰を添加すると白華現象が発生し、かつ焼成温度が1、000℃以
上になると収縮が大きくなり製品寸法が不安定になる。したがって、従来、現状での安定的な添
加量は地域差もあるが、おおむね3~5%程度にとどまっていた。
なお、最近、赤レンガ工場において焼却灰を粘土の代替として、10%以上添加できる技術も開
発されつつあり、今後が期待できる。
(5)タイル業界の取組み
1)タイル市場の現状
日本におけるタイル市場の規模は、平成11年度の販売量として55、127千㎡である。これは平成
7年度の販売量に比較して3割以上の減少である。特に、内装タイルの市場が壁紙や化粧板等の
他部材に変わり、タイル市場全体の規模縮小に大きく影響していると考えられる。一方、販売単
価の安い外装用モザイクタイルの販売数量は、2年前まではほとんど横ばいであり、あまり減少
してはいない。
数量 (千 ㎡)
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
※(%)は前 年
比
102.20%
96.40%
98.70%
84.70%
82.30%
平成7年
平成8年
平成9年
年
平成10年
平成11年
度
図5-27 タイル出荷推移表
2)タイルの原材料
タイルの材質には磁器質、せっ器質及び陶器質があり、外装や床に使用される磁器質タイルは
、ほとんど茶碗の原料と同じ長石や陶石に粘土を加えたものが主体である。酸化鉄等の金属酸化
物の不純物を多く含む原料は、耐火度が低くなるので使用量を控えるか、又は磁器化する前の低
い焼成温度で製造できるせっ器質原料として利用している。
-346-
有色粘土の中でも瓦用粘土のような耐火度の低い原料は、焼結が進むと軟化して形状がくずれ
るのでタイル用原料としてはあまり利用していない。他方、陶器質タイルは蝋石、陶石、石灰石、
粘土を主体とした組成で、白色素地が一般的である。
3)タイル原料としての下水汚泥焼却灰
タイル原料における焼却灰の位置付けを考えた場合、軟化温度が約1,000℃と低い、アルカリ分
の多い着色原料として考えなければならない。そのため焼却灰の利用は、タイル原料の中で融剤
としての作用を考えなければならない。
タイル業界における焼却灰の利用については、昭和59年1月に日本下水道事業団から「下水汚
泥の建設資材化に関する調査」の委託実験からスタートしたといえる。その目的は「加圧成形法
によるタイル製造における粉砕、成形等の加工特性、焼成品の品質特性、及び使用原料の素材特
性等から、焼却灰のタイル原料としての適性使用範囲、使用限度について評価検討を行う」もの
であった。この調査で使用した焼却灰の焼却灰は、高分子凝集剤の名古屋市山崎下水処理場の焼
却灰である。
焼却灰の熱的特徴は、900~950℃で急激に焼結が起こり直ちに発泡し、1、000℃では膨張して
閉気孔が内部にできることである。呈色は焼成温度が上がるにつれて赤味及び黄味がなくなり、
黒味を帯びてくる。
焼却灰のタイル素地への利用に関する問題点としては、①団粒や生地の密度が低下するために
成形しにくくなること、②生地の曲げ強度が低下すること③急激に焼結が起こるため、焼成温度
の範囲が狭くなることおよび焼成収縮率が大きくなることである。これらの項目を考慮して、実
際の製造ラインにおいて使用できる焼却灰の配合量は約 10%以下である。
4)タイル原料としての溶融スラグ
溶融スラグのタイルへの取組みは、平成5年10月に日本下水道事業団において「タイル表面に
ゆう薬を施した施ゆう外装タイルと床タイルに溶融スラグを5%以上利用すること」を開発目標
に、民間企業との共同開発で進められた。
その結果は「大阪南エースセンター溶融スラグを原料とするタイルの製造」というタイトルで
平成6年8月に報告されているが、最終的にはスラグ含有量10%以上が可能と判断でき、含有率
20%の製品も可能であるとする成果が得られた。
5)焼却灰及び溶融スラグを使用したタイルの実績
実際の製品化になると、焼却灰が入っていることにより形状不良や表面からの発泡、ゆう薬の
破損や欠け更に強度低下等の欠点が発生するので、それらの欠点をいかに回避するかが課題とな
ってくる。
そのため、当初は焼却灰をそのまま使わずに蛙目粘土等の原料に焼却灰を30%入れた一次処理
坏土を作って、それを斑点用の原料として10~40%使用して斑点入りタイルを製造した。
その後、焼却灰の前処理技術の開発を行い、数回に分けて混合を繰り返すことにより全商品に
応用できるようになった。しかし、安定して使用できる焼却灰の混合範囲は3%程度となった。
わずかな量でも、全商品に添加することを続ければ安定した用途として定着することができる。
-347-
一方、溶融スラグについては50%以上混合率を高めた商品が開発されている。施ゆうタイルの
場合は比較的安定した色合いを得られるが、無ゆうタイルの場合製造ロットごとの色差が大きく
安定しにくい欠点がある。
環境に対して積極的に取り組む姿勢を、官民が一緒になってPRして市場を形成していかない
と、せっかくのリサイクル商品も拡大していかないのが実体である。つまり、これまでの実績は
ほとんど下水処理場関連の現場であり、最近はそれらの物件も少なくなってきている。また各地
方自治体からは、それぞれ地方の焼却灰の使用を義務付けられることがあり、新たな原料として
の物性確認試験が必要となったり、輸送コストの高騰で苦慮しているらしい。
焼却灰をタイル原料としての経済性で考えた場合、焼却灰そのものは低価格であるが、原料工
場まで運ぶ運賃や焼却灰をボールミルなどに投入する作業が付加されるために、ある程度の使用
量がないとむしろコストアップとなっている。
一部の施主や設計には好感をもたれているところもあるらしいが、まだ廃棄物というイメージ
で印象が悪いようである。前述の溶融スラグ入り床タイルが、最近大手ハウスメーカーの玄関床
仕様に採用された。これは環境に配慮した材料に対する関心の高まりを反映しており、今後に期
待が持てる。
業界としては官庁に対し、融資制度などの拡充など資金面の補助より、公共事業などで一定量
消費することにより設備の稼働率を上げるなどの支援を期待しているようである。
(6)陶管業界の取組み
1)陶管業界の現状
我が国における陶管メーカーは5社で、茨城県と愛知県に工場はあるが、生産量はここ数年減
少しており平成11年度は約25,000tで、発注延長距離は、図5-28に示すように現在600kmあまり
である。
1400
) 1200
m
kキ
( 1000
800
600
ュ 400
200
0
年度
図5-28 陶管の発注延長距離
-348-
下水汚泥焼却灰の有効利用は、昭和58年より日本下水道事業団及び名古屋市下水道局と共同研究
により開発し、昭和61年より高分子系焼却灰の再利用を始めたが、平成11年度には約360tを有効利
用するに至った。
2)焼却灰添加による問題点
高分子系焼却灰の成分が、陶管の原料である粘土と比較的似ていることより、順次添加率を増
加させる調査研究を進めているが、焼却灰の成分比率が季節変動するため、焼却灰自体の耐火度
(溶解温度)が変化し、製品の収縮率が変わり寸法等が変化しやすくなり、管体表面に白華現象
が出現し、ゆう薬がのらず、焼成後、管体表面にピンホールが多数発生するなど多くの課題があっ
たが、無ゆう薬にすることによりこの問題は解決し、現在30%の添加が可能となった。
しかし、実際に10%前後の焼却灰を添加し、陶管の製造に着手したとき、白華現象に加え、製
品表面に茶系統の部分的な色むらが生じた。製品としての諸性能は十分規格を満足しており使用
上の支障はないものの、ユーザーからの理解が得られないために、添加率を下げなければならな
かった。
3)今後の課題と将来
前述のように、陶管の生産量は、年間2万トン以上あり、現在は色むらの点より添加率を3~
5%に抑えて生産せざるを得ない状況であるが、ユーザーの理解が得られれば添加率を大幅に増
加することができる。現実に、焼却灰を15%添加した陶管を50t程度連続して生産している。
添加率を15%までに増加させれば、年間、約3,000t以上の焼却灰を安全に有効利用することが
可能である。
現在のセラミックパイプの製造工程を、図5-29に示す。天然の粘土を規定の配合割合に従っ
て、混練・調製し配合粘土を作り、後工程で焼却灰、シャモット(焼成品の微粉砕粉)を添加し更
に混練後、エージングさせた坏土を成形し、乾燥、焼成を経てセラミックパイプとなる。
焼却灰
配合粘土
混練 調製
成形
乾燥
窯詰め
焼成
シャモット
図5-29 焼却灰添加によるセラミックパイプの製造工程
-349-
検査
写真5-9 混練・調製工程
坏土の混練・調製方法、製造方法等を改善し、より高品質の陶管を製造する研究開発が開始さ
れており、その過程において焼却灰を 30%添加する技術が確立されつつある。この場合、陶管工
場のある愛知県、茨城県を中心に年間数千トンの焼却灰の需要が見込めると思われる。
(7)都市緑化業界の取組み
近年都市化の進展に伴い、自然環境が破壊され、エネルギーの集中的消費によるヒートアイラン
ド現象が問題となっている。都市緑化は、市民生活に潤いを与えるだけでなく、大気汚染や地球温
暖化ガス(二酸化炭素ガス)対策として、注目されているが、特に屋上緑化は都市の内水対策とし
ても有効といわれている。そのため、多くの自冶体では大規模な都市公園や緑地帯を建設している
が、一般のビジネスビルや高層住宅においてもベランダや屋上を緑化するところが増えている。
特に、東京都では、屋上庭園など建築物緑化を実施したところはその容積率を緩和するなど対策
をとっており、国土交通省の入居している合同庁舎3号館の屋上(約500m2)でも、オリーブやサツ
キ、ツツジなどで緑化している。
現在、屋上緑化の総市場は130億円、ベランダなど建築物緑化の潜在的市場も含めると数百億円と
いわれているが、そのうち、2割近く(100億円前後)は土壌改良材が占める。現在利用されている
土壌改良材の分類を表5-15に示す。
無機質系としては、第3章第4節でも詳述しているが、今後、この方面で下水汚泥の再生資材の
需要を開拓するためには、透水性、通気性、保水性があり、軽量・硬質で、径が2mm前後の安価な
土壌改良材の開発が求められる。
有機質系では、下水汚泥の完熟コンポストと炭化汚泥が有望である。樹木の場合、根茎を発達さ
せるためには、易分解性有機物や窒素・りんはできるだけ少ないほうがよいので、コンポストは完
熟させなければならない。一方、屋上やベランダを緑化する場合、自然土壌の場合、重量が大きく
なり建物構造物を補強しなければならないが、炭化汚泥はかさ比重が0.4と小さいため、重量の調整
-350-
材として適している。
また、炭化汚泥は、透水性、保水性、通気性、保肥性にも優れているといわれており、下水汚泥
の持つダーティなイメージがないため都市緑化での使用には障害にならないと考えられる。そのた
め、都市内で安定して大量に発生する下水汚泥の有効利用先として、膨大な需要は見込めないとし
ても今後の有望な市場と考えられる。
一方、都市緑化に欠かせないフラワーポット、コンテナ及びガーデンウオール(人工地盤緑化、
特に既存ビルの屋上において軽量かつ短時間でしかも乾式施工できる植樹桝用外枠)などの材料と
して、下水汚泥を原料とする軽量骨材や溶融スラグが注目されている。特に、黒色の溶融スラグは、
フラワーポットを自然石に見せる化粧用として貴重である。
しかし、その需要量としては未知数で、
今後の市場開拓の方法によると考えられる。
表5-15 緑化用に使用される土壌改良材の分類
原料
製法
一般名称
摘要
無機質系
焼成
焼成
焼成
焼成
真珠岩パーライト
黒曜石パーライト
松脂岩パーライト
硬質流紋岩発泡物
保水性改良、軽量
通気・透水性改良、軽量、土壌に混合及び層状に使用
保水性改良、軽量
保水・通気・透水性改良、軽量、硬質
セラミック系
珪藻土
粘土鉱物
木材・ヤシ・パル
プスラッジ
焼成
焼成
焼成
珪藻土焼成粒
粘土鉱物焼成粒
木炭・再生炭
透水・通気・保水性の改良
透水・通気・保水性の改良
透水・通気・保水性の改良、保肥力の改善
岩石焼成系
ひる石
鉱滓+珪石等
焼成
焼成
バーミキュライト
ロックウール
保水性、保肥力の改良
保水性改良、軟質
天然鉱物系
凝灰岩
火山噴火物
篩分
ゼオライト
火山砂利
保肥力の改良、リン酸の肥効増進
多孔質、やや軽量、層状に使用
パーライト
黒曜石パーラ
イト
筒詰
黒曜石パーライト筒詰体
通気性、酸素供給効果
樹皮
堆積醗酵
バーク堆肥
モミ殻
堆積醗酵
炭化植物
採集
モミ殻堆肥
草炭(ピートモス)
泥草炭
泥炭
ヤシガラ繊維・粉
土壌の膨軟化、置換容量、透水性改良
腐熟度に要注意
保水性、膨軟性の改良
土壌に混合
土壌に混合、置換容量、保水性の改良
土壌に混合、保水性、膨軟化に効果
汚泥堆肥
都市塵芥コンポスト
C/N比が小さく、肥料効果あり
土壌の膨軟化にも効果あり、微量要素あり
腐熟度に要注意、やせ地向き
有機質系
パーライト系
真珠岩
黒曜石
松脂岩
硬質流紋岩
植物繊維
都市廃棄物
採集篩分
堆積醗酵
その他
家畜糞尿
堆積醗酵
食物残渣
堆積醗酵
オガ屑入り牛糞堆肥
鶏糞発酵堆肥
食物残渣醗酵堆肥
有用微生物
堆積醗酵
微生物資材
混合
複合土壌改良材
保水性、有機物の投入、肥料効果あり
混合
鉱物繊維改良材
保水性、有機物の投入、肥料効果あり
砂質客土
砂質客土
通気・透水性改良
保水・保肥力改良
真珠岩パーライト
+有機物
ロックウール+有機
物
砂質土
粘質土
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土壌に混合、少量で肥料効果あり
有用微生物の働きで土壌を団粒化
共生菌の作用で肥効、窒素固定、耐病効果有
〈参考文献〉
1)三品文雄、汚泥排水からのリサイクル「花工場 21」構想の実現に向けて、月刊下水道、Vol.20、
No.12、pp.68-71(平成9年)
2)杉浦広和、加賀山守、下水汚泥溶融スラグの新しい有効利用方法、第 32 回下水道研究発表会講演
集、pp.826-828(平成7年)
3)杉山塗装工社エンジニアリング事業部:耐腐食性・静電気防止型-ハイテク産業でも活躍 FRP カ
ラーグレーチング、月刊下水道、Vol.20、 No.12、 p75(平成9年度)
4)三品文雄、内田文雄、杉山則夫:スラグと重金属の分離によるスラグの多孔質化とリサイクルの
新たな展開に関する一考察、第 35 回下水道研究発表会講演集、pp.157-159(平成 10 年7月)
5)坂井泰行、三品文雄、加古登志夫、溶融スラグから製造したハイドロボールの性能に関する一考
察、第 36 回下水道研究発表会講演集、pp.935-937(平成 11 年7月)
6)丸山敏彦他、下水汚泥焼却灰の有効利用(第2報)、北海道立工業試験場報告、No.285(昭和61
年)
7)神戸穣、愛知県における下水汚泥の資源利用、再生と利用、No.74(平成9年)
8)長谷川龍三他、舗装用煉瓦の性能向上研究、愛知県常滑窯業技術センター報告20、平成5年
9)金子祐正、レンガ粘土に焼却灰を添加した赤レンガ製造の課題、再生と利用、№.86(平成12年)
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