男性美容市場から見る 新市場の創造と新たな可能性

 男性美容市場から見る 新市場の創造と新たな可能性 指導教員:水越康介 准教授 氏名:大石 夏帆 枚数:22 枚
目次
第 1 章 は じ め に ............................................................................................................... 1
第 2 章 先 行 研 究 ............................................................................................................... 2
2 - 1 .ジ ョ セ フ ・ シ ュ ン ペ ー タ ー の イ ノ ベ ー シ ョ ン 論 ............................................... 2
2 - 1 - 1 .新 結 合 .......................................................................................................... 2
2 - 1 - 2 . イ ノ ベ ー シ ョ ン 後 の 持 続 の 重 要 性 ......................................................... 3
2 - 2 .三 宅 秀 道 に よ る 新 し い 市 場 の つ く り 方 ............................................................... 4
2 - 2 - 1 . 技 術 決 定 論 の 限 界 と 文 化 の 開 発 ............................................................. 4
2 - 2 - 2 . 商 品 の 共 進 化 ............................................................................................ 6
2 - 3 . 三 者 間 で の 共 通 点 ・ 相 違 点 ................................................................................ 7
第 3 章 男 性 美 容 市 場 の 歴 史 的 推 移 ................................................................................ 7
3 - 1 . 日 経 新 聞 各 紙 か ら 見 る 男 性 美 容 ........................................................................ 7
3 - 1 - 1 . 歴 史 的 推 移 ................................................................................................ 8
3 - 1 - 2 . 新 た な 可 能 性 .......................................................................................... 13
3 - 2 . 歴 史 的 推 移 の 分 析 ............................................................................................. 14
第 4 章 男 性 美 容 市 場 の 現 状 .......................................................................................... 15
4 - 1 . 男 性 を 対 象 と し た 美 容 に 関 し て の 数 値 デ ー タ ............................................... 15
4 - 1 - 1 . 数 値 デ ー タ の 結 果 .................................................................................. 15
4 - 1 - 2 . 数 値 デ ー タ の 分 析 .................................................................................. 17
4 - 2 . イ ン タ ビ ュ ー ................................................................................................. 17
4 - 2 - 1 . イ ン タ ビ ュ ー の 内 容 と 結 果 .................................................................. 17
4 - 2 - 2 . イ ン タ ビ ュ ー の 分 析 .............................................................................. 19
第 5 章 ま と め ................................................................................................................. 21
【 参 考 文 献 】 ..................................................................................................................... 21
第 1 章 はじめに
美容市場と言えば、女性のイメージが強い。本論文での美容市場とは、美容用品や美容
機器、美容サービスなどを指すこととする。それらの商品やサービスを提供する企業は、
女性を中心にターゲット設定してきただろう。しかし、近年では、美容に興味を持つ男性
が増加し、ある美容機器メーカーでは顧客の 3 割を男性が占めている。 このように、美容は新たな成長のキーワードとして注目を集めている。例えば美容家電
1
市場は、2011 年に野村総合研究所がまとめたレポートによると、2010 年には約 1200 億円
規模であったものが 2013 年には 1500 億円にも上ると予測されている(「市場縮小の一方で
増加する美容所店舗数」
『エコノミックニュース HP』、2013 年 4 月 22 日、2013 年 8 月 30 日
閲覧)。男性用化粧品についても、富士経済が 2012 年 6 月にまとめた調査結果によると、
メンズコスメティックやヘアケア・ヘアメイクなど多くの分野で成長を見せている。ここ
数年で、男性用化粧品や男性向けの美容家電が続々と発売されており、「男性美容」という
新たなジャンルの市場が確立されようとしているのだ。 本論文では、最終的に男性美容市場の考察を通じて、イノベーション論や新市場創造の
理論の新しい可能性を示していきたいと思う。したがって、第 2 章で新しい市場がどのよ
うに創られ、確立されていくのかを三者の先行研究と共に理解し、三者間での共通点と相
違点を述べる。さらに、第 3 章で、日経新聞各紙を中心に、男性美容市場の創造と確立が
どのように行なわれてきたのかを読み解き、既存の理論との比較・確認をする。第 4 章で
は、男性を対象に行なったアンケートの数値データやインタビューをもとに、さらなる検
証をしていくこととする。 第2章 先行研究
今日まで、美容市場における主なターゲットは女性であり、男性はあまり注目されてこ
なかったポジションである。しかし、近年では、上記に述べたように男性美容市場という
新しい市場が確立される状況となっている。ほぼ女性顧客が占める美容市場で、企業は男
性向けの市場をどのように増やしていったのか。まずは、新しい市場がどのようにして作
られて確立していくのかを、池田信夫の議論で紹介された J.A.シュンペーターの「イノベ
ーション論」と三宅秀道の「新しい市場のつくり方」から見ていきたい。 2-1.ジョセフ・シュンペーターのイノベーション論
2 - 1 - 1 .新 結 合
本節では、池田信夫『イノベーションとはなにか』に紹介された、J.A.シュンペーター
の 1912 年の著書『経済発展の理論』にもとづいて、イノベーション論を概観する。 オーストリアの経済学者である J.A.シュンペーターは、イノベーションの概念を経済学
に導入し、起業家精神という言葉を使った先駆者として有名だ。彼は、「新しい理想像を模
索・実現しようとせず、今の理想をよりコスト・パフォーマンス良く解決しようとするの
ならば、既存市場は成熟するばかりで、やがて企業も利潤の根拠を失うであろう。そして、
イノベーションがその成熟を打破する(池田、2011、p.17-18)」と主張したという。彼の
理論を推奨する池田(2011)によると、新しい事業を起こそうとする場合、まず何を売れ
ばもうかるかというアイデアがあり、その上で収益を上げる方法を考え、技術はそれに適
2
したものを選ぶ(あるいは開発する)。イノベーションの本質は技術ではなく、このビジネ
スモデルにあると言う(池田、2011、p.15)。シュンペーター自身は、イノベーションは、
経済内部から変化するものであり、社会政策や消費者の嗜好の変化は含まないとも言って
いる(シュンペーター、1997、p.172-174)。 ここでは、なじみ深い「イノベーション」という言葉を使ったが、正確に言えば、シュ
ンペーターの『経済発展の理論』には「イノベーション」という用語は登場しない(吉川、
2009、p.51)。使われているのは「新結合」という言葉だ。ただ、すぐ後に見るとおり「新
結合」は「イノベーション」と同じ意味であるとされる。J.A.シュンペーターは、イノベ
ーションを「新結合」と呼んで、次のように書いている。
「経済におけるイノベーションは、
新しい欲望がまず消費者の間に自発的に現われ、その圧力によって生産機構の方向が変え
られるというふうに行われるのではなくむしろ新しい欲望が生産の側から消費者に教え込
まれ、したがってイニシアティブは生産の側にあるというふうに行われるのがつねである
(シュンペーター、1997、p.181)。」、「新たな状態における新たな目的のために新たな手段
をもってする生産」が行われているような経済、それこそが「発展」する経済だとシュン
ペーターは言う(吉川、2009、p.24)。つまり、シュンペーターは、ニーズは消費者の側か
ら与えられるのではなく、生産者の側から消費者へ与えていくものであり、外部の影響は
ないのだと言うのだ。 イノベーションの具体的な内容としてシュンペーターがあげているのは、 1.新しい商品 2.新しい生産方法 3.新しい販路の開拓 4.原料の新しい供給源の獲得 5.新しい組織の実現 の5つであるという。このうち技術に関連するのは1の製品開発だけである。イノベーシ
ョンとは、第一義的には経営革新なのであり(池田、2011、p.17-18)、重要なのは生産者
側から新しい理想像を模索・実現していくことだと述べている。 2-1-2.イノベーション後の持続の重要性
さらに、池田は、イノベーションを起こしてから広めることが最も重要であると言う(池
田、2011、p.72)。たとえば、一つの企業の商品の技術がある程度のレベルを超えると、他
の企業の商品の技術が挽回することは難しい。さらには、市場の流れが決まると、どの企
業の技術が良いかということに関係なく、最も市場でシェアを持つ企業の技術が選ばれる
傾向にある。これを、池田は「経路依存症」と述べている。したがって、市場での戦略で
重要なのは技術的優位よりも、市場に商品やサービスを出すタイミングや顧客へのプレゼ
ンテーションによって初期に多数派を握ってネットワークを広げ、シェアを獲得すること
であると言う。池田の理論によると、新しい技術の性能がいいことをいくら宣伝しても、
3
シェアに差がある限り既存の技術をくつがえすことはできない(池田、2011、p.72)。 そこで池田は、イノベーションを広めるためには、その商品やサービスが必然だと思える
ような魅力的な物語が必要だと述べている。今日では、誰もが知っており、当たり前のも
のと化している iPad にも、この理論は当てはまる。iPad の生みの親であるジョブズは、iPad
のプレゼンテーションをソファに座って行った。コンピューターは今までは机の前で仕事
をするための機械だったが、これからはリビングルームでくつろぐとき使うものだ、とい
う物語を語ったのだ(池田、2011、p.106)。 つまり、シュンペーターの言うイノベーションによって新しい製品やサービスを開発し、
それがいくら優れたものであっても、だれも知らなければ使われない。新しい商品やサー
ビスを普及させるためには、イノベーションを起こして画期的な商品が生み出された後、
消費者の間にいかに浸透・普及させるかということが重要になるのだ。 ここまでで、新しい市場を創造するには、消費者ではなく生産者の側から新たな需要を
教え込むことで市場を創造するきっかけを作ると共に、その市場での商品やサービスを必
然だと思わせる魅力的な物語を語ることが大切であるということが理解できた。また、技
術面に関しては、シュンペーターの理論ではごく一部で語られているだけであり、池田も
それほど重要視する必要はないと述べていた。 次節では、新たな需要の教え込みや魅力的な物語とは、具体的にいったいどういうもの
なのかをより明らかにするため、三宅の議論を続けて見ていくこととする。 2-2.三宅秀道による新しい市場のつくり方
2 - 2 - 1 . 技 術 決 定 論 の 限 界 と 文 化 の 開 発 近年の日本の技術力を見ると、新商品を作る上で、高技術・高性能であることは当たり
前である。そのため、成熟化された市場では、それだけでは差別化が図れない。新しい商
品・市場を世の中に浸透させ、ヒットさせるためには、何が重要なのだろうか。 製品開発論、中小ベンチャー企業論を議論する三宅(2012)によると、技術を本当に有
価値にするのは、「それを使ってこんなふうにすれば、こんなに役に立つ」という用途の設
計、開発であると言う。つまり、それは世界に今までになかった、新しい文化やライフス
タイルを開発するということである(三宅、2012、p.14)。新しい市場を作るには、まずこ
うした新しい文化、生活習慣、ライフスタイルの登場が必要(図 1)であり、暮らしの「文
化的な差別化」とも言っている。たしかに、ペットボトル緑茶市場や缶コーヒー市場など
あらゆる市場で、企業側による新しいライフスタイルの提案が繰り広げられている。 しかる後に、競合他社が参入してきて「市場」ができてくると、性能やコストの競争に
なり、製品技術や生産技術上の差別化が争点になる。このように、技術の話の大半という
のは、いわば「市場の拡大」にまつわる話であって、そうなる前の段階をしっかりと見な
ければいけない。本当に市場が創造される最初の最初は、生活をこんなふうに変化させた
4
い、という文化の話であり、企業の職分で言うと技術開発ではなく、企画にまつわる話に
なる(三宅、2012、p.18-19)。 ▼図1.企画とはなにか 商品・ライフスタイルの
企画
文化開発 世の中にまだない新しいコンセ
プトから価値を創造する
(三宅、2011、p.19) それでは、新しい価値を生み出し、新市場を創造するまでに、どのようなプロセスがあ
るのだろうか。 新しい市場をつくるまでには4つのハードルが存在するという。 ①問題開発…消費者が直面している問題の設定や新たに問題を構築する ②技術開発…その問題の解決手段を物理的実態として形作られる ③環境開発…その製品が利用されるための環境が整えられる(家庭での配電やインフラ
など) ④認知開発…さらに教育・宣伝を繰り広げることで、社会的な生活習慣になる この4つのハードルを経て、やっと社会で新しい文化が実現し、ライフスタイルが変化し
ていく。これ全体が「文化開発」のプロセスであり、そこに新しい市場も創造される(三
宅、2012、p.26)。つまり、企業は、この一連のプロセスをマネジメントし、コントロール
することで、社会に新しい価値を提供し、新しい市場を創造することが可能になるといえ
る。 また、この4つのプロセスで最も重要なのは、問題開発、新しい問題の設定だという。
まず新しい問題が設定されて、「こういうモノ(あるいはサービス)が必要だ」という価値
判断や問題意識が普及して、新しい文化が開発される。新しい生活様式がなければ新しい
モノやサービスも必要とされず、したがってその市場も創造されるはずがない(三宅、2012、
p.69)。 三宅(2012)の新しい市場に関する議論によると、新しい文化を開発することは、自分
が持っている「しあわせ」のイメージを、これまでより多様に豊かにして、なんとかして
それを実現する、ということである(三宅、2012、p.37)。たしかに市場で流通する商品は
どれも、消費者にとってプラスの価値があるものである。自分たちにとってマイナスとな
るものは、誰も使おうとは思わないだろう。人々のしあわせを実現することのできる商品
が、世の中に広く浸透し、多くの人に必要とされるものになるのである。 三宅(2012)の議論では、新しい商品で新しい市場をつくるという行為は、否応なしに、
5
新しい文化をデザインするということと同義になる。しあわせの理想のイメージの違いや、
その理想に近づくためにどのような経路をたどろうとしているか。その違い、それがまさ
に各社会の文化やライフスタイルの違いなのである(三宅、2012、p.84)。 また、ある時点でその文化や習慣が社会のどこにもなかったとしても、新しい商品を使
うことが便利であるということの説得を十分に徹底すれば、人々の暮らしは変わる(三宅、
2012、p.104)と言う。それまでの世の中になかった新しい文化習慣を構想し、提案し、普
及させることで、人々がそれまで消費していなかったものを消費するように社会をつくり
変え、その先頭に立つことで、文化的優位を構築し、その上に事業を展開する(三宅、2012、
p.106)。そして、人々の暮らし方が変わると、説得された新しい文化や生活様式自体が、
まるでそれが以前から望まれていた暮らし方だったかのように、事後的に印象付けること
になる。普及する前に必然性が無くても、普及してからは社会がそれに適応し、事後的に
必然性を持つようになるのである。そして、その文化が社会に普及してから後発他社が参
入し、そこでやっと商品間の競争が始まる。そこで性能競争が始まってから新しい技術が
必要になるわけだが、そのときまでに先行優位を築いておけば、市場創造の時点では独自
の技術は必要ないということになる(三宅、2012、p.109)。 三宅の議論により、新市場の創造には、企業側から問題を設定して普及させるといプロ
セスを通して、新しい文化を創り出すことが重要であると分かった。これは、シュンペー
ターと池田の議論で述べたことと重なる。つまり、シュンペーターの新しい需要の教え込
みと池田の魅力的な物語とは、三宅の議論から企業側による新しい文化の開発と言い換え
ることができる。さらには池田と同様に、技術は、新市場創造の時点では必要ないと述べ
ている。 2-2-2.商品の共進化
以上までは、新しい文化の開発の重要性について述べていたが、三宅(2012)は、新し
い商品やサービスを開発する上で、周囲との関係性についても述べている。商品と商品の
働きや使いやすさは、お互いに密接に絡み合っており、新商品は思いもしなかった変化を
周囲に及ぼすと言うのだ。その関係の中で、どこか一か所で変化が起きると、その変化は
周りにどんどん波及していき、お互いの商品の価値を、より高め合うものとして影響して
いくことで、商品は魅力を増し、生き残っていくことになる。一つの商品の良さや強みと
いうものは、実はその商品単体で決まるものではなく、周りとの関係性を視野に入れてお
かなければ、その良さや強みは実現不可能なものとなってしまう。人工物と人工物は、お
互いに良さを引き出しあい、高め合おうとしているのである(三宅、2012、p.192-193)。 したがって、今までにない市場といえども、周りとの関係性をしっかり把握して企画・
開発を進めていくことが、より完成度の高い商品の開発につながり、新市場創造も成功す
るといえる。 6
2-3.三者間での共通点・相違点
シュンペーター・池田・三宅の議論を見てきて、新しい市場の創造における三者の共通
点は、次の 3 つであると考えた。まず 1 つ目は、「新しい文化・ライフスタイルの開発・提
案」である。シュンペーターは、新しい理想像を模索し実現するべきだと主張している(池
田、2011、p.17-18)。池田は、新しい事業を起こすときはまず何を売ればもうかるかとい
うアイデアを考えるビジネスモデルが重要(池田、2011、p.15)だと言い、三宅も、それ
まで世界になかった人々のしあわせを実現するような新しい文化や生活習慣、ライフスタ
イルを登場させる必要がある(三宅、2012、p.37・69)と述べていた。2 つ目は、「企業側・
生産者側からのマネジメント」ということである。シュンペーターの新しい欲望は消費者
の間から自発的に発生するのではなく、生産者側から消費者に教え込む(シュンペーター、
1997、p.181)という記述、三宅の企業が文化開発のプロセスをマネジメントし、コントロ
ールすることが、新しい価値の提供と市場の創造を可能にする(三宅、2012、p.26)とい
う記述からも明らかである。そして、3 つ目は、
「技術は重要ではない」ということである。
技術面に関して、池田は、イノベーションの本質は技術ではなく、たとえ高技術の商品や
サービスを開発したとしても、トップシェアを占める先行企業には勝つことができない(池
田、2011、p.72)と、新市場の創造において技術は完全に重要ではないと述べている。さ
らに、三宅も、高技術は当たり前となっており、競合他社が参入してきた後は、製品技術
や生産技術の差別化が争点となる可能性はあるが、市場の創造時点ではほぼ重要性はない
(三宅、2012、p.109)と言っているのだ。 また、相違点も存在すると考えた。「商品の周囲との関係性」である。これは、三宅が述
べているのだが、商品同士はお互いに影響し合っており、お互いの関係性を把握したうえ
で価値のあるものとなる(三宅、2012、p.192-193)ということだ。この議論はシュンペー
ターと池田の議論では指摘されていないため、相違点として挙げている。 以上が、三者の議論から読み取ることができた点である。しかし、新しい市場の創造に
おいて、それらの理論は正しいと言えるのだろうか。また、三宅(2012)のみが述べてい
る理論は正しいと言えるのだろうか。次の章では、これらの疑問について、近年確立され
つつある男性美容市場を通じて、明らかにしていこうと思う。 第3章 男性美容市場の歴史的推移
本章では、企業側の視点から男性美容市場を読み解き、新市場の創造についての理論と
の照らし合わせを行なっていく。また、男性美容市場は最近確立されつつある市場であり、
これに関する書籍などが少ないため、日経新聞各紙を中心に分析することとする。 3-1.日経新聞各紙から見る男性美容
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3-1-1.歴史的推移
まず、日経テレコンを使い、
「男性 美容」というキーワードで検索をしてみた。すると、
男性美容についての初めの記事は 1984 年から出てきた。美容室・エステサロンが男性をタ
ーゲットとし始めたという内容であった。 「 いままで“女の園”だった美容室、エステティック(全身美容)サロンなどが、
男たちも取り込もうと動き始めた。・・・・・男性用化粧品や男性向けファッション誌
の発売が引き金になって、男性がファッションの一環として美容にも目覚めた形だ。
男性のファッション感覚が磨かれるにつれ、男性美容の店は一段と増えそうだ(『日経
流通新聞』、1984 年 9 月 4 日、26 頁)。」 ここで、男性が美容に関心を持ち始めたのは、男性用化粧品や男性向けファッション誌の
発売がきっかけであると述べている。男性美容市場の先駆けとなった化粧品やファッショ
ン誌の発売は、企業側が、男性が美に関することを行なうという文化を世の中に広めよう
としたと言えるのではないだろうか。また、企業側のより具体的なアプローチとして、1986
年の日経産業新聞には百貨店での男性美容ギフト券の販売についての記事が載っていた。 「 ――それにしてもこのギフト券、だれがだれに贈る?「考えられるのは女性から
男性へ。男性から男性へはないでしょう。しかし、いわゆる新人類同士のプレゼント
だけに限りません。例えば、もっと身だしなみに気をつけてと複数のOLが忘年会の
時に男性課長に手渡すというのもいいと思います。東京店の周りにはオフィスが多い
ですからね」(『日経産業新聞』、1986 年 11 月 27 日、28 頁)」 この記事からは、企業が百貨店と連携して、男性美容を浸透・普及させようとしていたこ
とがうかがえる。さらに、オフィス街の近くにある店舗でギフト券の販売をすることで、
ビジネスマンの間でも男性美容市場を確立させようとしている。つまり、男性用化粧品や
男性向けファッション誌の発売、男性美容ギフト券のどちらにおいても、新市場の創造に
関する理論の「企業側・生産者側からのマネジメント」が行なわれたと考える。その後も
男性美容に関する記事が続くが、どれも美容室やエステサロンに関する内容が多い。 2005 年になると、それまでの美容室やエステサロンに関する記事から、男性向け美容家
電に関する記事が急激に増加する。男性向け美容家電とは、スチーム式美顔器やヒゲを整
えるヒゲトリマー、頭皮の毛穴の汚れを取り除くことができる電動頭皮ブラシなどである。
また、男性向け美容家電の記事を見ていると、パナソニックのマーケティンググループマ
ネージャーである岡山晃久氏の非常に興味深い記事を発見した。 「岡山氏は「2010 年に『お風呂シェービング』を提案し、T 字カミソリユーザーの取
8
り込みに成功してからシェーバー市場が拡大傾向で近年推移している」と語る。
・・・・・
『はじめよ。全身、グルーミング。』という新しい生活提案によって、2013 年を『男性
美容元年』と位置付けたい(「パナソニックが男性美容家電を拡充、日本でも「体毛ケ
ア」は当たり前になる?」『日経トレンディ』、2013 年 3 月 28 日、2013 年 10 月 1 日閲
覧)。」 美容家電メーカーであるパナソニックは、お風呂でグルーミングをするというライフスタ
イルの提案をし、男性向け美容家電の一つとしてカミソリシェーバーの市場を築いたので
ある。また、岡山氏は、ドイツとインドのグルーミング実施率は日本に比べて非常に高く、
日本もこれからますますグルーミング行為が習慣化されると予想する(『日経トレンディ』、
2013 年 3 月 28 日、2013 年 10 月 1 日閲覧)と述べ、全身グルーミングという新しい生活提
案を行なうことをはっきりと言っている。これは、海外に根付く文化を、日本で新たな文
化として取り入れようとしていると考えられる。さらに、その提案によって、カミソリシ
ェーバーの売上は伸び、市場の創造と拡大に成功しているのである。また、パナソニック
は、2013 年にも利用シーンを提案して、男性向け温感エステローラーの販売を試みている。
ビジネスマンに向けて「お酒を飲んだ翌日など、大事な商談の前にむくんだ顔をすっきり
させるのに効果的」と利用シーンを提案しているのだ(「パナソニックのメンズビューティ
ー新製品、ターゲットは「ミドルエイジの男性」」『インターネットコム HP』、2013 年 7 月
30 日、2013 年 12 月 5 日閲覧)。したがって、「お風呂シェービングの提案」、「はじめよ。
全身、グルーミング」、「商談前の温感エステ」とは、新市場の創造についての理論でも述
べられていた「新しい文化・ライフスタイルの開発・提案」と言える。 また、2012 年になると、美容家電を販売する企業が、各社の製品を体験する場を設ける
という動きが増加している。 「自宅用商品の体験利用の場として、セルフサロンを活用する動きもある。商業施設
「エチカ池袋」(東京・豊島)にある有料パウダールーム「クリュスタ」の運営はパナ
ソニック。化粧直しをするパウダーゾーンに加え、別料金で同社の美容機器をセルフ
利用できる「プレミアムケアゾーン」があり、週末は順番待ちができる人気となって
いる(『日経流通新聞』、2012 年 1 月 9 日、16 頁)。」 「美容業界大手のヤーマンは百貨店と初コラボ。横浜タカシマヤ(横浜市西区)で2
2~26日、最新機器を一堂にそろえる体験イベントを開く(「「試してほしい」男性
も美容家電の時代?パナソニックなど市場拡大へ体験会」『Sankei.biz HP』、2012 年
8 月 21 日、2013 年 10 月 1 日閲覧)。」 通常の購入価格より、低価格で美容家電を体験することができる場所を設ける。これは、
それまで女性のものだからと手を出すことができなかった男性に、製品の良さや効能を知
9
ってもらい、購入へのきっかけとすることや、自宅で美容家電を使ってケアをするという
スタイルを口コミによって広げることの目的があるのではないかと考えられる。さらに、
興味深いものとして、パナソニックが東海道新幹線を利用するビジネスマンを対象に、美
容家電のレンタルを行なったという記事を見つけた。 「「今まで美容家電と縁遠かったビジネスマンにこそ、試してほしい」。パナソニック
は20日、東海道新幹線の乗客らを対象に24日まで行う美容家電のレンタル体験会
をスタートした。・・・・・品川駅と新大阪駅に100台準備し、乗車中や1泊2日レ
ンタルで効果を実感してもらう(「「試してほしい」男性も美容家電の時代?パナソニ
ックなど市場拡大へ体験会」『Sankei.biz HP』、2012 年 8 月 21 日、2013 年 10 月 1 日
閲覧)。」 これは、パナソニックが、東海道新幹線と提携し、乗客に「目もとエステ」という美容家
電をレンタルしたという記事である。同社は、就寝前や眠りながら手軽に行う「夜美容」
を提唱しており、「目もとエステ」も仕事で疲れた眼や周囲の皮膚を蒸気とマッサージで癒
す「夜美容」の製品の一つである。さらに、担当者は「美容家電を試す好機になるのでは」
と、体験会の効果に期待を寄せていると述べていた(「「試してほしい」男性も美容家電の
時代?パナソニックなど市場拡大へ体験会」『Sankei.biz HP』、2012 年 8 月 21 日、2013
年 10 月 1 日閲覧)。この記事からは、新市場の創造の議論で述べられている「新たな文化・
ライフスタイルの開発・提案」、「企業側・生産者側からのマネジメント」を読み取ること
ができると考える。まず、新幹線の乗客であるビジネスマンをターゲットとして夜や眠る
時に美容ケアをするという新しい生活の提案を行なっていた。また、ビジネスマンが出張
などで多く利用する東海道新幹線と提携した体験会を実施することで、企業側から文化を
根付かせようというマネジメントが行なわれたと言えるからである。この「新たな文化提
案」と「企業側からのマネジメント」は、2013 年の美容機器メーカーであるフィリップス
に関する記事からもうかがえる。 「「完璧肌見せ宣言」。フィリップスはこの夏、男子高校生向けファッション誌にこん
な文言を入れた広告を出した。腕などを露出させた10代男性の写真で、肌のむだ毛
を整えることの格好良さをアピールした。・・・・・同時に毛の手入れの習慣を根付か
せようと地道な広告宣伝活動を実施。若い男性用向けのファッション誌やヘアカタロ
グだけでなく、高校球児向けや自衛官向け雑誌、お坊さん向け専門誌などにも広告を
出す(『日経流通新聞』、2013 年 9 月 16 日、10 頁)。」 フィリップスもパナソニックと同様に、「完璧肌見せ宣言」といううたい文句で体毛処理を
することが格好良いという文化を、若い男性を中心に構築しようとしている。さらには、
10
広告を高校球児や自衛官、お坊さん向けの雑誌にも掲載するなど、体毛処理に関する文化
を、ヘアカッターを使う機会が多い層に向けて広めようとしたのだ。実際に、同社のシェ
ーバーを除くボディーグルーミングの売上高は 2012 年度、前の年度に比べ 8 割増となった
(『日経流通新聞』、2013 年 9 月 16 日、10 頁)。 ここまでで、男性美容市場を構築するにあたって、
「新しい文化・ライフスタイルの開発・
提案」、「企業側・生産者側からのマネジメント」が様々な企業で行なわれてきたことがは
っきりとした。それに加えて、ここで注目したいのが、
「目もとエステ」という製品である。
それまでエステはお店に出向いて行なうものであったにも関わらず、自宅でエステをする
という新しいコンセプトの製品として開発されている。この商品には、新市場創造の議論
として、三宅が述べていた「商品の周囲との関係性」があると考える。サロン・エステも
美容家電も綺麗にする・癒すという目的は同じである。しかし、サロン・エステはお店で
高級感やプロ性を感じることができ、美容家電は自宅で手軽さやリーズナブルさを感じる
ことができるという全く異なるそれぞれの良さを持つ。つまり、三宅の言うように、サロ
ン・エステと美容家電はお互いに影響し、それぞれの価値を高め合っているのだ。実際に、
日経流通新聞でもサロン・エステと美容家電との影響について述べられている。 「美容家電や機能性化粧品などの進化で、消費の傾向は「サロン消費」から「自宅消
費」になっている。・・・・・自宅での消費者のケア技術が高水準化していく中で、サ
ロンでの消費を促す要素の1つは「プロ性」
「ホンモノ」である(『日経流通新聞』、2012
年 11 月 16 日、9 頁)。」 この記事でも、サロン・エステと美容家電の「綺麗になりたい・癒されたい」という目的
は同じであっても双方の価値は異なっており、サロン消費から自宅消費へ変わってきてい
ると言っている。この推移は、日経テレコンで検索した結果、2005 年から美容家電につい
ての記事が増加したと述べたことからも明らかであろう。また、この記事では推移の原因
として、美容家電や機能性化粧品の進化だと言っている。これは、新市場の創造における
「技術面はあまり重要ではない」という議論に反する事実ではないだろうか。ユニリーバ
ジャパンによる「男性の身だしなみ・美容の実態」における調査でも、男性の身だしなみ・
グルーミング関連のアイテム購入金額は、80%が 1 ヶ月あたり 2,000 円未満であり、男性
美容市場が好調な理由として、
「お手軽コストで出来るから」という要因を挙げていた(「「男
性の身だしなみ・美容の実態」調査レポート」『THE AXE EFFECT HP』、2014 年 1 月 16 日閲
覧)。美容家電の技術が向上し、価格を下げることができたことで、サロン・エステに代わ
る新しい市場を構築したのではないかと考える。 一方で、男性美容市場において、母親が大きな影響を持っていたという非常に興味深い
記事を見つけた。 11
「一進一退を続けてきた男性用化粧品の市場が近年、急成長している。けん引するの
は10~20代のスキンケア需要。若年層の清潔意識の向上に伴い品ぞろえが増えた
面もあるが、見逃せないのが母親のプッシュだ。・・・・・東京都葛飾区の会社員(2
8)は「高校時代に化粧水を使い始めたのは母親の薦め」と振り返る。今の20代後
半が10代だった時、美容意識が高い母親が息子にも肌ケアを薦めるケースが増加。
その習慣が2000年代半ばから定着し始め、現在の10代、20代の需要に至った、
とみられる(『日経流通新聞』、2012 年 12 月 19 日、16 頁)。」 この美容意識が高い母親とは、1959~1964 年生まれ以降の母親のことを指し、この世代の
子供にあたる 25~29 歳の男性は母親と仲が良く、中高生時代から肌をケアするのは当たり
前の家庭環境だったと言うのである(『日経流通新聞』、2012 年 12 月 19 日、16 頁)。この
場合、男性が美容に関心を持つようになったのは母親が勧めたからである。つまり、「企業
側からのマネジメント」ではないと考えられるのではないだろうか。この他にも、男性が
自分の顔への投資に目覚めた背後には、家族や恋人に「格好良くいてほしい」と望む女心
が潜む(『日本経済新聞』、2006 年 1 月 14 日、27 頁)と述べる記事や女性向け美容家電を
男性が使っていたと述べる記事(「パナソニック、頭皮の皮脂をキレイにする男性向け美容
機器「頭皮エステ」」『家電 Watch HP』、2012 年 2 月 13 日、2014 年 1 月 16 日閲覧)もあっ
た。このように、市場が創造されるきっかけは、消費者側の自発的なものである場合もあ
る。しかし、このことを利用して、男性美容市場を広めようという企業側の動きも見られ
た。 「日本ロレアルの化粧品ブランド「キールズ」の事業が軌道に乗ってきた。・・・・・
女性客に男性化粧品のサンプルを渡す取り組みを今後実施し、男性の認知度も高めた
い考えだ(『日経流通新聞』、2013 年 11 月 20 日、6 頁)。」 日本ロレアルは、男性化粧品の直接のターゲットである男性ではなく、既存の顧客である
女性から認知度を上げようと試みている。また、パナソニックのグルーミングに関する製
品においても、男性向け商品でありながら、若い女性に人気のキャラクターを起用してい
る(「コスメ、家電、美容室…拡大する「男性美容市場」のプロモーション(後編)」
『SENDENKAIGI DIGITAL MAGAZINES HP』、2013 年 11 月号、2014 年 1 月 14 日閲覧)。女性た
ちが SNS でつぶやいたり、彼氏や父親に伝えたりすることで、結果的にターゲットである
男性に届くのではないかという口コミ効果を期待しての起用のようだ。これらの記事から、
男性美容市場においては、新市場創造の議論で述べられた「企業側からのマネジメント」
が当てはまらず、市場創造のきっかけが消費者側にある場合もあると考えられる。そして、
企業がそれに付随して市場を拡大しているのではないかと考える。 12
3-1-2.新たな可能性
ここまでで、新市場の創造における議論として、「新しい文化・ライフスタイルの開発・
提案」、「企業側・生産者側からのマネジメント」、「技術面の重要度の低さ」、「商品と周囲
の関係性」に焦点を当てて、男性美容市場を見てきた。しかし、新たな可能性として、「法
の改正や社会政策」や「ビジネスのグローバル化」も男性美容市場においては、大きな影
響を与えているのではないかと感じた。 「改正男女雇用機会均等法の施行から十カ月。差別のない職場作りを目指す法の趣旨
にのっとり、これまで典型的な女性の職場と見られていた分野に挑む若い男性が目立
ち始めた(『日本経済新聞』、2000 年 1 月 17 日、12 頁)。」 「美容はマナーでもあり、男女の分け隔てないコミュニケーションのスタイルでもあ
る。中学高校は共学化の波。女子の進学率の上昇で大学生活も女子に囲まれ、社会人
になっても総合職の女性の先輩から指導を受ける。競争よりもバランス、協調、配慮
といった価値観が強い教育環境で育ち、そのまま社会に出たため、目立つことや嫌わ
れてしまうことを避けていく。美容は女子との円滑なコミュニケーションのためのも
ので、目線はボス(上司)より女子、なのである(『日経流通新聞』、2012 年 11 月 2 日、
11 頁)。」 これらの記事が述べているように、1999 年に男女雇用機会均等法が改正され、採用や昇進
などにおいて、男女間で差別することが禁止された。この禁止によって、化粧品売り場や
客室乗務員など、それまで女性ばかりが働いていた職場で男性が働くようになった。また、
女性も男性と対等に働くようになったことで、女子の大学進学率の上昇や中学高校の共学
化が目立つようになった。男性と女性が職場や学校で一緒に生活する機会が増えたことが、
男性の清潔意識を高め、今まで女性のものというイメージが強かった美への抵抗感を無く
し、美容に関心を持つようになったのではないだろうか。つまり、「法の改正」も男性美容
市場が構築された一因ではないかと考える。リクルートライフスタイルビューティ総研セ
ンター長の野島朗氏も、1990 年代後半に私立高校の男女共学校が過半数を超えたこともあ
り「中高生も女性の目をより意識するようになり、身ぎれいにする男子が増えた」と指摘
している(『日経流通新聞』、2012 年 12 月 19 日、16 頁)。」 一方で、こちらの記事は、男性が美容に関心を持つようになった理由として、「ビジネス
文化の米国化」、「米国型ビジネス」を挙げている。 「日本でメトセク男が急増した契機の一つに、ビジネス文化の米国化がある。雇用流
動化や非年功型人事、系列外取引の増加などで、対人関係での第一印象の重要性が増
し、自己表現や自己演出のカギを握る「見た目」への関心が高まった(『日本経済新聞』、
2005 年 8 月 16 日、4 頁)。」 13
「「オトコが美容に走る理由」では、高額な男性用美容クリームがヒットするなど男性
美容市場が急拡大していることに着目。その背景には米国型ビジネスが日本に入り込
み、仕事相手から信用を獲得する第一歩として外見が重視されてきていることを伝え
ている(『日経プラスワン』、2006 年 4 月 22 日、7 頁)。」 ここで言う「メトセク男」とは、米国の広告会社が提唱した用語である。北欧の都市男性
の中に、自分の見栄えにお金を惜しまない層が多く存在することを指摘したものである
(『日本経済新聞』、2005 年 8 月 16 日、4 頁)。代表的なメトセク男として、サッカーのベ
ッカム選手がそのうちの 1 人だと言う。どちらの記事も、日本のビジネスが、対人関係を
重視とする米国型ビジネスとなってきているため、第一印象、つまり見た目に気を遣う男
性が増えたと述べている。さらに、このビジネスで見た目が重視されるようになったこと
を受け、営業マンセミナーを始めた人材派遣会社もある(『日経産業新聞』、1987 年 1 月 8
日、17 頁)。身だしなみを整えることを狙いに、男性美容講座を二日間泊まりがけで開催す
るというものだ。このように、男性美容の市場が出来たもう一つの要因として、「ビジネス
のグローバル化」もあるのではないかと考える。 3-2.歴史的推移の分析
本章での分析で、「新しい文化・ライフスタイルの開発・提案」は多くの企業で行なわれ
ていたことが明らかになった。パナソニックの「お風呂での全身グルーミング(「パナソニ
ックが男性美容家電を拡充、日本でも「体毛ケア」は当たり前になる?」
『日経トレンディ』、
2013 年 3 月 28 日、2013 年 10 月 1 日閲覧)や「夜美容(「「試してほしい」男性も美容家電
の時代?パナソニックなど市場拡大へ体験会」
『Sankei.biz HP』、2012 年 8 月 21 日、2013
年 10 月 1 日閲覧)」、「商談前のむくみケア(「パナソニックのメンズビューティー新製品、
ターゲットは「ミドルエイジの男性」」『インターネットコム HP』、2013 年 7 月 30 日、2013
年 12 月 5 日閲覧)」、フィリップスの「完璧肌見せ宣言(『日経流通新聞』、2013 年 9 月 16
日、10 頁)」などである。また、サロン・エステと美容家電の関係性から、三宅(2012)の
主張する「商品の周囲との関係性」も重要であると感じた。実際に、美容家電はサロン・
エステと目的は同じであるが、全く異なる「手軽さ」や「リーズナブルさ」という価値を
武器に、市場を創ってきたのだ。サロン・エステをしっかり視野に入れていたからこそ、
美容家電の価値も引き立っていると考える。 一方で、「企業側・生産者側からのマネジメント」、「技術面はあまり重要ではない」とい
う点については、少し疑問が残った。まず、「企業側・生産者側からのマネジメント」につ
いてだが、パナソニックの東海道新幹線でのレンタルや各社の体験会などを見ると、この
理論は正しいと言える。しかし、母親に勧められてスキンケアをするようになったり(『日
経流通新聞』、2012 年 12 月 19 日、16 頁)、女性向け頭皮エステのユーザーの 3 割が実は男
性だったりした(「パナソニック、頭皮の皮脂をキレイにする男性向け美容機器「頭皮エス
14
テ」」『家電 Watch HP』、2012 年 2 月 13 日、2014 年 1 月 16 日閲覧)という記事からは、企
業が一方的にマネジメントして市場を創っていたとは一概に言えないのではないだろうか。
つまり、企業が予想していないところで、消費者側から自発的に市場が形成されていった
のではないかと考える。また、技術面に関しては、先行研究ではあまり重要でないとされ
ていたが、美容家電市場は新しいライフスタイルの提案だけではなく、技術が向上したか
らこそ確立が成功している。ユニリーバジャパンの調査からも分かるように、男性が美容
にかける金額は低く、技術の向上により価格面を抑えることが、男性美容市場においては、
成功する道だと言えるのではないだろうか。 また、男性美容市場が確立した理由の新たな可能性として、
「法の改正や社会政策」や「ビ
ジネスのグローバル化」という直接美容には関係がないと思われる要因も考えられた。果
たして、これらの点は市場の確立に影響を与えているのだろうか。 次章では、本章で疑問視された点に注目しながら、消費者側の深層を探っていきたいと
思う。 第4章 男性美容市場の現状
本章では、消費者側の視点から男性美容市場を読み解く。さらに、上記で述べた新市場
の創造における理論における矛盾点や疑問点に注目しながら、それを明らかにしていく。 また、フィールドワークの方法を議論する佐藤(2010)によると、事実、定性、定量的
アプローチ双方の発想を効果的に組み合わせることができた時にこそ、実りある研究成果
が生み出されることが少なくないと言う(佐藤、2010、p.75 )。アプローチ方法には、主
に「定性的調査(質的調査)」と「定量的調査(量的調査)」と呼ばれる二つの方法がある。
定性的調査というのは、比較的少ない数の事例を詳しく分析することによって社会現象や
文化に関わる問題について、多くの要因のあいだの関連性を分析したり記述したりするア
プローチの方法のことである。これに対して、定量的調査というのは、かなり多くのサン
プルについて集められたデータをもとにして、比較的少ない数の要因のあいだの関連を全
体的に調べようというアプローチである(佐藤、2010、p.58-59)。 したがって、本章では、定量的調査として男性を対象とした美容に関連するアンケート
の数値データと、定量的調査としてインタビューの結果の双方から、分析していくことに
する。 4-1.男性を対象とした美容に関しての数値データ
4-1-1.数値データの結果
果たして美容に関心をもっている男性はどのくらいいるのだろうか。2012 年 12 月に行わ
れた株式会社オールアバウトによる「男性の美容」に関するアンケート調査によると、「ス
15
キンケアに関心がある・少しある」と回答した男性は 67.5%もいることが明らかになった
(「20 代男性の 76.6%が「美容に関心あり」」
『Business Media 誠 HP』、2012 年 10 月 30 日、
2013 年 12 月 5 日閲覧)(グラフ1)。1 年前の 2011 年に行われた調査では、約 54.8%であ
った(オリコン調査・2011 年 11 月)。これは、1 年間で美容に関心のある男性が増加した
ことを意味し、現在では全体の半数以上である約 7 割を占めているのである。また、年代
別で見ると美容に関心があると回答した割合が、20 代は 76.6%であることに対して 40 代
は 58.6%と、前述の男性の美容への関心の高さは 20 代がけん引していることが分かった(グ
ラフ2)。 ▼グラフ1.男性の美容への関心(全国の 10~40 代男性 1202 人対象) 全く関心は
ない 11%
とても関心
がある 11%
あまり関心
はない 34%
やや関心が
ある 44%
(「男性の美容に関する意識調査」、2012 年 12 月、オリコン調べをもとに著者作成) ▼グラフ2.年代別の美容への関心 ある 40代 30代 20代 少しある あまりない 42
ない 27.6
37.8
13.8
20.7
40.7
13.5
12
9.9
(「男性の美容に関する意識調査」、2012 年 12 月、オリコン調べをもとに著者作成) 16
4-1-2.数値データの分析
以上の調査結果から、美容に関心がある男性は増加傾向にあり、特に 20 代に関しては約
7 割以上の人が美容に興味を持っていることが分かった。そこで、男性美容市場をけん引し
ていると考えられる 20 代の男性 5 人を対象に男性美容に関するインタビューを行なうこと
にした。このインタビューの結果から、前章で述べた疑問点との照らし合わせを行なって
いきたいと思う。 4-2. インタビュー
4-2-1.インタビューの内容と結果
今回は、インタビューの種類として、「デプス・インタビュー」を実施する。デプス・イ
ンタビューとは、定量的な調査では得られない、思いがけないアイデアやニーズが発見さ
れる可能性が高く、言葉によるデータを収集する定性調査であるといえる(高田・上田・
奥田・内田、2008、p.86)。インタビュアーが対象者と一対一の関係でより深く踏み込んだ
質問をおこない、対象者の行動や動機にかかわる潜在意識を探ることから「深層面接法」
とも呼ばれる(近藤・小田、2004、p.53)。今回、この手法を選んだのは、男性美容という
価値観がはっきりと分かれる市場を調査するうえで、周囲の意見に同調したり、惑わされ
たりすることがなく、被験者自身の意見を聞き取ることができる点が深層を探る上で重要
だと感じたからである。 インタビューに際して、どの対象者にも共通して質問した項目は、以下の 5 つである。 1.身だしなみなど美容に関して行なっていることはあるか。 2.そのきっかけとなった出来事はなにか。 3.身だしなみや美容に気を遣ったことで周囲の反応や影響はあったか。 4.サロン・エステに興味はあるか。 5.美容家電に興味はあるか。 さらに、回答内容によって、臨機応変に質問をしていく。対象者の深層心理や潜在意識を
探るために、単なる行動における現象面だけではなく、その行動に至った「なぜ(理由)」
まで聞いていくこととする。また、このとき対象者とインタビュアーの間の信頼関係を十
分築くことが何より大切となるため(近藤、2004、p.114)、回答者にはできるだけ自由に
話してもらい、発言を肯定的に受けていきたいと思う(浅野・後藤・小林、1998、p.41)。 ①21 歳男性(大学生) 身だしなみなどの美容に関して行なっていることは、「洗顔、化粧水や乳液などの保湿、
ひげの手入れ、まゆ毛の手入れ、ヘアワックス」という回答が返ってきた。それらの美容
に関する行動をするようになったきっかけを聞いてみると、「友達がやっているのを見て、
17
彼女に言われたから」だと言う。周囲の反応や影響については、
「対人関係が良くなった」、
さらには、「ヒゲを整えたりすることで、自分の中でオン・オフの切り替えができる気がす
る」ということである。しかし、全て朝ちゃちゃっとやる程度で、あまり時間はかけない。
また、サロン・エステに関しては、特に興味がある様子ではなく、「無料で提供してくれる
ならやってみたい」という程度であった。美容家電に関しても、同様であった。なぜサロ
ン・エステや美容家電に興味がないのかを聞いたところ、「必要性を感じないし、男がやっ
ていたら少し違和感がある」と回答した。 ②22 歳男性(大学生) こちらの男性は、美容に関しては「ひげの手入れ、まゆ毛の手入れ、髪質のケア、乾燥
した時にだけ保湿クリームを塗る」といったことを行なっていた。そのきっかけとしては、
「見た目を良くしたい、清潔感を保ちたい、女子からもよく見られたい」という気持ちか
らであった。また、髪質のケアに関しては、高校から大学 1~2 年までは、天然パーマであ
ることを気にして、美容院でのストレートパーマやヘアアイロンを利用していたが、20 歳
を超えてからは、将来毛髪が薄くなることを重視するようになったことと手間がかかるこ
とから、使用することをやめたという。また、サロン・エステについては、①番の方と同
様に、無料なら興味本位でやってみたいという程度であり、男性が利用することに関して
も「美意識が高い、違和感がある」と感じるようであった。美容家電に関しても同様であ
る。これらに興味がない理由としては、「お金・手間がかかる、人の目が気になる」とのこ
とである。さらに、女性がよく使用する日焼け止めについての話題になると、
「面倒くさい、
色が黒い方が男っぽい」と話していた。 ③22 歳男性(フリーター) まず、美容に関して行なっていることは、「ヘアワックス、化粧水をたまにつける、ひげ
の手入れ、まゆ毛の手入れ」であった。そのきっかけは、「周りの友達がやるようになった
から」であり、周囲の反応や影響は特になかったという。美容行為を行なっている理由と
して、「周りから浮くのが嫌だから」ということが大きい。さらには、「男子だけの時より
も女子がいた方がより気を遣う」と言う。サロン・エステは、まったく興味がなく、「男な
のに…という感情があるし、サロンに行かないことで不安になることが嫌だから、無料だ
ったとしてもやらない」という回答が返ってきた。美容家電に関しても同様の回答であり、
さらなる理由としては、「飽き性で続かないから、効果がすぐに出なくて周囲から見ても分
からなそう」といったことが挙げられた。これらの「効果がすぐに出にくい」サロン・エ
ステや美容家電に対し、「見た目の違いや効果が分かりやすい」ひげやまゆ毛の手入れに関
しては、お金や時間をかけてもいいと言う。 ④23 歳男性(キックボクサー) 18
こちらの方は、美容に関して行なっていることは「脱毛」だと回答した。理由としては、
「脚に毛が多いことが汚く見えると感じたから、キックボクシングのユニフォームの露出
度が高いこともあって」ということである。また、昔から見た目には気を遣っているよう
であった。 ⑤21 歳男性(大学生) 美容に関して行なっていることは、「化粧水・乳液などの保湿、ひげの手入れ、まゆ毛の
手入れ、体毛の手入れ、毛髪のケア、ヘアワックス、ダイエット」だと回答した。保湿や
ひげ・まゆ毛の手入れは、自らの意思ではなく、姉に身だしなみを整えるようにと言われ
たことがきっかけであったようである。ダイエットは、元々体型のことは気にしていたが、
中学の頃に部活動に励んだ際にやせたことがきっかけで始めたと言う。また、毛髪のケア
に関しては、自宅でスカルプケアのシャンプーや炭酸シャンプー、頭皮ブラシなどを使用
し、美容院に行く際には、スカルプケアのコースを利用している。周囲の反応や影響は、
非常に大きかったようである。周囲の人からは爽やかだと好印象を持たれるようになり、
同窓会に参加した際には、初めはやせたことで誰なのか気が付いてもらえない程であった。
さらに、サロン・エステや美容家電について伺うと、好感触な反応を示した。サロン・エ
ステについては、非常に興味を示し、実際に 20 歳の頃に利用したことがあると言う。メン
ズ脱毛のお試しコースを利用した経験があり、価格は 1000 円で時間は 10 分程のコースで
あった。その時には、勧誘が大半であり、脱毛できた部分は顎の一部だけであったが、価
格が安いということと脱毛がどのようなものかを知ることができたので、満足できたよう
である。実際にサロンに行ってみて、今後も通いたいと思ったかと聞いたところ、金銭面
と人の目が少し気になるという面で今は手が出せないが、社会人になったら、ぜひ利用し
たいと回答した。美容家電についても伺ってみると、姉が使っていたコロコロローラーや
マッサージ器具などは使用したことがあると答えた。学生ということもあり、金銭面の理
由から現時点では購入しようとは思わないが、人の目を気にする必要がないという面で、
お金に余裕があれば欲しいと話した。また、日焼け止めの話題になると、「人によると思う
が色白の方が良い、日焼けすると痛いからという理由もあると思う」と言っていた。彼の
場合、美容に関して行なっていることは、自分自身が気にしているところであるため、手
間などの時間的なコストは気にしていないようである。しかし、脱毛のような体毛の手入
れに関しては、周りに合わせたり比べたりと周囲の目が気になるため、もっと外国のよう
にグルーミングの文化が広まってほしいと言っていた。 4-2-2.インタビューの分析
まず、新市場創造の議論で述べられた 4 つの点と照らし合わせながら、インタビューの
分析を行なっていきたい。 1 つ目に、「新しい文化・ライフスタイルの開発・提案」について見ていく。ほぼ全員が
19
化粧水や保湿などのスキンケアに関する美容行為を行なっていたのに対し、サロン・エス
テや美容家電に対しては「男なのに、違和感がある」と言って、興味を示さなかった。し
かし、コンプレックスを持つ人には、理想の見た目になれるということで好感触を示して
いた。また、美容に気を遣ったことで周囲からの反応や良い効果があった人ほど、美容に
対して継続性を持っている。これは、2 章で三宅(2012)が述べていた新しい文化の価値で
ある消費者のしあわせが実現され、実感できていたからと言えるのではないだろうか。こ
れらの結果から、「新しい文化・ライフスタイルの開発・提案」は市場を創るうえで非常に
重要であり、さらにその文化は、自分にとってプラスであるということを明確に理解でき
なければ意味がないと考える。 2 つ目に、「企業側・生産者側からのマネジメント」であるが、美容行為を始めたきっか
けに注目したい。多くの場合が「友達がやっていたから」であり、「家族や恋人に言われた
から」という回答もあった。さらには、周りから好印象に見られたいという理由から自発
的に美容行為を始めた人もいた。また、3 章で女性向けの美容家電を男性が使っていたとい
う記事があったように、姉の美顔ローラーを使っているという回答もあった。これらの回
答に対し、企業からのアプローチがきっかけとなって美容行為を行なっているという回答
はなかった。やはり、前章でも述べたように、企業側・生産者側からのマネジメントが必
ずというわけではなく、身近な人たちの影響や自発的な部分が大きいと考える。 3 つ目は、
「技術面はあまり重要ではない」という点である。前章では美容家電において、
技術の向上が価格の低下にもつながり市場創造につながったのではないかと、この点に疑
問を抱いた。しかし、実際に利用したいと答える人は、多少の手間や金銭面はあまり気に
しないと答えている。そのため、技術よりも男性が美容家電を使うという文化が受け入れ
られていない方が重要点であると感じる。やはり、池田(2011)や三宅(2012)が述べて
いたように、技術面よりも新しい文化の開発・提案の方がポイントとなる点であろう。 4 つ目が、「商品の周囲との関係性」である。サロン・エステと美容家電に関しての質問
をした場合、現時点では人の目を気にしない美容家電が欲しいが、社会人になったらプロ
が施術してくれて効果も期待できそうなサロンに通いたいと答えた。このことから、それ
ぞれの商品はお互いのメリットや良さを目立たせており、美容家電はサロン・エステが存
在しているからこそ、成り立った市場ではないかと考える。 さらに、「女子の目を気にする」「女子からもよく見られたい」という回答からは、職場
や学校で女性と関わる機会が多くなったことが考えられる。また、「周りから浮きたくない
から利用する」という回答からは、浮くことを嫌い、協調性を重視する様子がうかがわれ
た。この協調性は、1 つ目の「新しい文化・ライフスタイルの開発・提案」にとって、大き
な役割を果たしているのではないだろうか。文化は、ある程度の数の人たちが同じ価値観
を持つことで成り立つ。つまり、協調性があってこそ成り立つと思うからだ。以上の事か
ら、男性美容市場が確立した新たな可能性として述べた、美容とは直接関係がないと思わ
れる「社会の変化」も市場の創造には影響していると考える。 20
第 5 章 まとめ
本論文を経て、新しい市場の創造において、先行研究の共通点でも述べていた「新しい
文化・ライフスタイルの開発・提案」、「技術面の重要度の低さ」はやはり重要であること
を理解することができた。様々な企業でもこれらの点を意識して市場を構築しようとし、
成功させていた。 しかし、今回の研究で、男性美容市場の確立と照らし合わせることで、新市場創造の新
たな可能性として挙げられることを発見した。まず、三宅(2012)も述べていた「商品の
周囲との関係性」である。新しい商品であっても商品と商品は影響し合っており、お互い
に良さや価値を引き出し合うという理論である。サロン・エステと美容家電にその関係性
が顕著に現れていた。サロン・エステのプロ性・ホンモノ感といった価値を認識し、それ
とは異なる手軽さ・リーズナブル感という価値に着目して美容家電という市場が確立でき
たのである。つまり、商品同士の関係性を把握することは新市場の確立において、重要な
点であると言える。次に、シュンペーター(1997)と三宅(2011)が重要だと述べていた
「企業側・生産者側からのマネジメント」によって市場が確立するとは一概には言えない
ということである。母親や姉、恋人が男性に対して身だしなみや美容に関することを勧め
ていたり、男性が自ら女性向け美容製品を使っていたりしていた。企業が予期していなか
った部分で、消費者側から自発的に市場が形成されていたのだ。最後に、「社会の変化」が
男性美容市場の確立の背後にあったということである。法の改正や共学化などで男性が女
性に囲まれる場面が増えたことや、協調性を大事にするという価値観の中で育つという環
境が、男性に身だしなみや清潔感を意識させたと言える。また、ビジネスの米国化により
対人関係が重視されるようになり、第一印象を良くしようと外見に気を使う男性を増やし
た。これは、シュンペーター(1997)の、イノベーションは社会政策や消費者の嗜好の変
化は含まず、外部の影響はない(シュンペーター、1997、p.172-174)という記述に反する
ものである。こういった美容には一見関係ないように思える社会の変化が、男性美容市場
の背景にはあり、市場の確立に大きな影響を与えていたのである。 男性美容市場の確立に影響を与えていたのは、既存の商品やターゲット以外の層、社会
的環境などだ。これらのように、市場の形成における新たな可能性として挙げられたこと
は、どれも男性美容とは直接関係がないような思いがけないところにあった。多くの商品
やサービスが行き来し、市場が成熟化する現代で、男性美容は新しい市場として確立し、
年々盛り上がりを見せている。無関係に思えるようなところまで広く視野を持ち、周囲と
の関係性を認識することが、新しい市場を創造する可能性を高め、より発展する世の中を
創るのではないだろうか。 【参考文献】
浅野熙彦・後藤秀夫・小林和夫(1998)『マーケティング・リサーチ用語辞典―新版―』同
21
友館。 池田信夫(2011)『イノベーションとは何か』東洋経済新報社。 近藤光雄(2004)『マーケティング・リサーチ入門』日本経済新聞社。 近藤光雄・小田宣夫(2004)『マーケティング・リサーチの実際』日本経済新聞社。 佐藤郁哉(2010)『フィールドワーク 増訂版 書をもって街へ出よう』新曜社。 シュンペーター、J.A.(翻訳:塩野谷祐一、中山伊知郎、東畑精一)(1997)『経済発展の
理論(上)』岩波書店。 高田博和・上田隆穂・奥田善之・内田学(2008)『マーケティングリサーチ入門』PHP 研究
所。 三宅秀道(2012)『明日のための「余談の多い」経営学 新しい市場のつくり方』東洋経済
新報社。 吉川 洋(2009)『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ――有効需要とイノベーシ
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11 頁、2012 年 11 月 16 日、9 頁、2012 年 12 月 19 日、16 頁、2013 年 9 月 16 日、10 頁、2013
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