No.08-030 2009.01.21 BCM ニュース <2008 No.3> 夜間・休日の震災発生に備えた参集基準 近年の大地震の多くは夜間・休日に発生しています。この状況を踏まえ、企業としてはまず何を検 討しなければならないのでしょうか。本稿では、人員の参集基準にフォーカスし、その検討にあたっ てのポイントを説明します。 1.近年の大地震の 7 割は夜間・休日に発生 現在、BCP を策定・検討している多くの企業では、日中・勤務時間中に地震が発生することを想定 して BCP を策定していることと思います。一方、実際に地震はどんなタイミングで発生しているので しょうか。結論としては、近年の大地震の約 7 割が夜間(含む早朝)・休日に発生しています。 表 1-1:人的被害をもたらした震度 6 弱以上の地震 (集計:1996 年 1 月~2008 年 11 月) No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 年月日 1997/05/13(火) 1998/09/03(木) 2000/07/01(土) 2000/07/15(土) 2000/07/30(日) 2000/10/06(金) 2001/03/24(土) 2003/05/26(月) 2003/07/26(土) 2003/09/26(金) 2004/10/23(土) 2005/03/20(日) 2005/08/16(火) 2007/03/25(日) 2007/07/16(月) 2008/06/14(土) 2008/07/24(木) 時刻 マグニチュード 最大震度 震央地名/地震名 2:38 PM 6.4 6弱 鹿児島県薩摩地方 4:58 PM 6.2 6弱 岩手県内陸北部 4:01 PM 6.5 6弱 新島・神津島近海 10:30 AM 6.3 6弱 新島・神津島近海 9:25 PM 6.5 6弱 三宅島近海 1:30 PM 7.3 6強 鳥取県西部(鳥取県西部地震) 3:27 PM 6.7 6弱 安芸灘(芸予地震) 6:24 PM 7.1 6弱 宮城県沖 7:13 AM 6.4 6強 宮城県北部 4:50 AM 8 6弱 釧路沖(十勝沖地震) 5:56 PM 6.8 7 新潟県中越地方(新潟県中越地震) 10:53 AM 7 6弱 福岡県西方沖 11:46 AM 7.2 6弱 宮城県沖 9:41 AM 6.9 6強 能登半島沖(能登半島地震) 10:13 AM 6.8 6強 新潟県上中越沖(新潟県中越沖地震) 8:43 AM 7.2 6強 (岩手・宮城内陸地震) 12:26 AM 6.8 6強 岩手県沿岸北部 出典:気象庁ホームページを基に加工・加筆 上記の表 1-1 では、1996 年以降に人的被害をもたらした地震のうち震度 6 弱以上のものを一覧化し ています。企業の一般的なオフィス勤務時間帯を月~金曜の 8:30~18:30 と仮定し、これ以外の勤務時 間外にあたる曜日・祝日や時間帯は枠内を黄色で示しています。(なお、2007 年 7 月 16 日の新潟県中 越沖地震の発生は月曜でしたが、海の日で祝日のため勤務時間外にカウントしております。 )その結果、 表 1-1 から 17 件中 12 件(70%)が勤務時間外に発生していることが分かります。ちなみに、上記表に は含まれていない阪神・淡路大震災(1995 年1月 17 日発生)は火曜でしたが、時間帯は午前 5 時 46 分の早朝であり勤務時間外となります。 先に述べた前提(勤務時間帯を月~金曜の 8:30~18:30 と仮定する)にしたがって計算すれば、1 週 間のうち勤務時間帯は 50 時間(週の 30%)、勤務時間外は 118 時間(週の 70%)となります。さらに 1 祝日を加えると、勤務時間外となる時間帯の割合はさらに増加します。 下記の表 1-2 は、表 1-1 の地震発生データを曜日/時間帯別にプロットし集計した結果です。勤務時 間外にあたる曜日や時間帯は黄色で着色して、勤務時間帯と区別しています。時間帯で見れば、8 時~ 18 時台の 11 時間に 13 件(76%)が集中して発生しています。曜日別では、3 件以上発生している曜日 は土日のみであり、合計 9 件(53%)が発生しています。 表 1-2:人的被害をもたらした震度 6 弱以上の地震の発生タイミング(曜日/時間帯別) (集計:1996 年 1 月~2008 年 11 月) 曜日 時間帯 0 月 火 水 木 ★ 金 土 日 集計 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 ★ ★ ★ 2 2 ★ ★ ★ ★ ★ ★ 1 1 ★ ★ ★ 1 1 3 1 ★ ★ ★ 1 1 1 2 1 1 集計 ★ 1 2 2 6 3 17 出典:気象庁ホームページのデータを基に集計 以上を踏まえると、企業が地震対策を立案する上では、勤務時間外あるいは夜間・休日に地震が発 生することも視野に入れて BCP を検討する必要があるということが分かります。もちろん、休日・夜 間の発災を想定した対策だけを立案するということは現実的ではありません。 それでは、夜間・休日の発災に備えて、BCP の中でどのような検討をすれば良いのでしょうか。今 回は「人員の参集」にフォーカスして説明します。 2.夜間・休日の地震発生に備えた参集基準の必要性 勤務時間外に震災が発生することを想定した場合、最も重要な課題のひとつとして、人員の参集に 関する問題が挙げられます。 復旧に必要な経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)のうち、第一に必要とされるのがヒトつまり人 員でしょう。まず、災害後の被害がどの程度なのかを確認し、事業復旧に必要な対策を立案・実行す る。これは会社や各職場の状況を熟知した人員のみが可能なことです。 一方、前述の調査では、職場に出勤者の少ない夜間・休日などの時間帯に多く大地震が発生してい るという結果が出ていました。つまり、事業の復旧に必要な人員が集まりにくい状況であったという ことが考えられます。 また、震災時においては連絡が取りにくくなります。被災地では、携帯/固定電話いずれも通話規 制をおこない、最大で平常時の約 9 割の通話が制限される状態が半日~数日間程度続きます。実際、 新潟県中越沖地震では、携帯電話の通話規制が約 13 時間程度、岩手・宮城内陸地震の場合は約 6 時間 程度実施されました。そのため、発災後に事業復旧に必要な人員へ連絡を取ることが難しい状況とな ります。 以上を踏まえて従業員の立場に立った時に、夜間・休日に震災が起こった場合、事業の復旧のため にいつ会社に出社するべきか判断に迷う一方、上司とも連絡が取りづらい状況となると想像されます。 これらの状況を踏まえると、夜間・休日での震災時で且つ連絡が取りにくい状況に備えた、参集の 基準や方針をあらかじめ定めておく必要があるといえます。以降、参集基準の検討ポイントについて 2 説明します。 3.参集基準の検討ポイント 参集基準を検討するにあたってのポイントは 6 つです。 (1)参集にあたっての基本原則 (2)参集すべき人員 (3)参集のトリガー (4)参集のタイミング (5)参集する場所 (6)上記参集基準の周知 (1)参集にあたっての基本原則 「参集」というと、必ず会社に出社しなければならないような印象を受けるかもしれませんが、こ の基本原則では、会社が従業員に対して「参集しなくても良い条件」についても方針を示します。具 体的には、本人およびその家族の安全が確保できていない場合は、参集しなくて良い(出勤中の場合 は帰宅して良い)ということを明示します。 広域災害において、家族が怪我をした場合や連絡が取れず安否不明というような状況下で、その従 業員を出社させ勤務させ続けることは倫理上の問題にかかわります。また、勤務したとしても、本人 が不安を抱える中では、業務に集中することができないと予想されます。 このような基本原則が明示されない中では、災害時に各自が何を優先すべきかの基準も異なります。 そのため、従業員各自や連絡を受けた上司も判断に迷いが生じ、足並みが揃わない恐れがあります。 したがって、 「災害時は、まず本人およびその家族の安全確保を最優先とし、それが完了してから会社 の復旧に力を貸してください」と方針をあらかじめ示しておくことが重要となります。 (2)参集すべき人員 ここでは、誰が参集するのかを役割に応じて分類し検討します。震災からの事業の復旧を早期にお こなう上で、特に重要な役割を果たす人員としては、①緊急対策本部の要員、②重要な業務を担当す る人員、③各種業務復旧・継続にあたり支援をおこなう人員、などが挙げられます。これらの人員が 参集しなければ、適切な初動対応や業務復旧活動をおこなうことができず、復旧が遅延する恐れがあ ります。業態によっては現場の人員が少ないため、他部署等からの支援要員(上記③)が業務復旧に 向けて必要となる場合があります。 また、これら人員は、役割等に応じて参集タイミングや参集場所などが異なる可能性があります。 したがって、人員の分類別に、次項以降の内容を検討することが望まれます。 <人員の分類例> ①緊急対策本部の要員 ②重要業務の従事者(※あらかじめ会社として重要業務の選定が必要です) ③支援要員 ④上記以外の社員 (3)参集のトリガー 参集のトリガーとは、どんな事象が発生したら参集するかを判断する基準のことです。地震を例に 考えると、「オフィス(或いは工場)の周辺で震度 6 弱以上の地震が発生した場合は参集する」という ような内容になります。なお、ここでは参集の要否のみを判断し、すぐに参集するかどうかという参 3 集のタイミングは別途検討します。(これについては次項で説明します。 ) また、人員の所属部門や役割によっては参集トリガーが異なる場合があります。例えば、緊急対策 本部の要員は、震度 6 弱以上を参集のトリガーとする一方、工場などの設備担当者は、工場内の他に 先駆けて設備異常を迅速に発見し対処する必要があるため、震度 4~5 程度でも参集するよう部署内で ルールを定めているケースもあります。 なお、震度 5 強程度以下の場合では、会社全体へ被害が及ぶのか、緊急体制を執る必要があるのか、 状況確認しなければ判断できないような場合があります。そのような状況に備え、あらかじめ参集の 決裁者を決めておき、その決裁者が状況確認した後に参集を決定する、というルールを定めることに なります。 <トリガーの設定例> ①震度 6 弱以上:参集する ②震度 5 強以下:総務担当役員が参集を判断し、指示する (4)参集のタイミング 前項では参集の要否を判断しましたが、ここでは「いつ参集するか」を検討します。参集のタイミ ングは、会社の業態、各自の業務内容/役割などによって異なります。業態で考えれば、公共的な要 素が強く、その会社の事業が停止することで社会的に大きな影響を及ぼすような企業(電力やガス、 通信インフラ、金融など)については、早期の参集が必要となる可能性があります。 参集のタイミングとしては、以下のようなものが考えられます。 <参集のタイミング> ①即時(昼夜問わず、すぐに参集する) ②翌日(発災翌日が休日の場合でも参集する) ③翌営業日(平時の営業日と同じ) ④その他 (5)参集する場所 地域に複数の拠点が存在するような企業では、誰がどこに参集するかについても検討しておく必要 があります。例えば、首都圏内に複数の支店を持つ企業などでは、災害発生後、自身の勤務する職場 ではなく、最寄りの支店に一旦参集し、無線等で本部と連絡を取って指示を受けてから移動する、と いうことも考えられます。 参集場所はおおまかに、下記が考えられます。 <参集場所の例> ①緊急対策本部の設置場所(必ずしも本社に対策本部を設置するとは限りません) ②自身の勤務するオフィス ③あらかじめ定めたオフィス ④(自身の現在地から)最寄りのオフィス ⑤所属長や対策本部が指定したオフィス (6)参集基準の周知 前項までは参集基準の検討ポイントを説明しましたが、併せて検討すべき事項として、これら参集 基準の周知が挙げられます。 せっかく実効性の高い参集基準を整備しても、これを従業員が認識し、いざという時にも再確認で きなければ機能しません。周知の具体的な方法としては、従業員が常時携行できるよう防災カードに 印刷して、これを配布する方法が有効です。 4 まとめと検討例 以上、災害時における参集基準について 6 つの検討ポイントを説明しましたが、ポイント(2)~(5) を整理したサンプルを表 3-1 に示します。(本サンプルでは、本社は首都圏、工場は別の地域に存在し ているという前提とし、重要業務としては本社の経理・財務業務および工場の設備管理業務として挙 げています。 ) 表 3-1:参集基準の検討例 (2)参集すべき人員 (3)参集トリガー (4)参集タイミング (5)参集場所 本社緊急対策本部の要員 重要業務の従事者 経理・財務担当者 工場の設備担当者 (首都圏で) (首都圏で) (工場周辺で) 震度 6 弱以上: 参集 震度 6 弱以上: 参集 震度 5 弱以上: 参集 震度 5 強以下: 総務担当役員が参集を判断 震度 5 強以下: (緊急対策本部と同じ) 震度 4 強以下: 設備部長が参集を判断 発災後、即時 発災の翌日 発災後、即時 本社(対策本部設置場所) 本社(経理部執務室) 工場(設備監視室) 上記はあくまで参考例ですので、会社の事業や部門の業務、自社における重要業務などに合わせて ご検討ください。 参考資料 [1]気象庁ホームページ(日本付近で発生した主な被害地震), http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/higai/higai1996-new.html、2009 年 1 月 5 日閲覧 [2]新潟県ホームページ(新潟県中越沖地震によるライフライン被害・復旧状況)、 http://www.pref.niigata.lg.jp/bosai/1203613273602.html、2008 年 9 月 12 日閲覧 [3]内閣府防災情報のホームページ(「平成 20 年(2008 年)岩手・宮城内陸地震について(第1報)」) http://www.bousai.go.jp/saigaikinkyu/2008-iwate-cao-001.pdf、2008 年 9 月 12 日閲覧 不許複製/Copyright 株式会社インターリスク総研 2009 5
© Copyright 2024 Paperzz