『人事マネジメント』2010年11月号

著者に訊く
ど,あれが時代の象徴だったか
もしれませんね。お金の話に限
って言えば,私は,お金に対し
て欲を持つのは悪いこととは思
す。
あなたに期待しているから,
今は100%できるとは思ってい
いません。だって人は,自分よ
り少し背伸びをして,自分に合
わないものを手に入れて,それ
ば。きっと,言葉が足りないん
ですね」
本書は,若い女性に対して会
社での,
仕事での心構えを語る。
「(自分に)天井をつくらない」
から自分を合わせていくことで
成長していくものでしょう。そ
意外にも ,本書は鈴木氏
にとって初の著作である。いき
なり見知らぬ編集者から執筆依
頼が来たのがきっかけという。
「20代30代の働く女性がもっ
と元気に働いて,夢や目標,未
れが今の若い子たちには見えな 「頭から相手を否定しない」
「仲
いんです。自分のお給料が月に
間には心を開く」。一つひとつ
20万円しかない,だったら20万
が,『このままでいいんだ』と
で自分が最高に幸せと思えれば
思い込む女性たちへの気づきを
それでいい,私は私の小さな幸
促す言葉となっている。
せをつかんだ,以上おしまい,
「会社の中でも,上の世代の
来を描けるような本を書いて
ほしいと言われたんですね。私
も,若い女の子たちは元気がな
いとは感じていました。いえ,
元気がないというより,自分サ
って。だから次へのステージ,
次への階段が見えにくくなって
いるのではと思うんです」
女性に対して,多少レベルの
高い仕事をオファーすると「そ
女性と話をしていないし,飲み
会にも行かない。だから自分の
ロールモデルがいない。結局,
自分サイズでOK,どうして面倒
くさいことしなきゃいけないの,
イズの幸せにちまちま固まって
しまっている,どこかで諦め感
を持っているというのかな。私
んなのは私の仕事じゃない」と
断られる,そんな話はよく耳に
する。お金と仕事の違いこそあ
れ,思考の構造は同じだ。
となってしまう。でも彼女たち
だって,心の奥底ではこのまま
でいいとは思っていないはずで
す。仕事でもっと活躍してみた
にはそう見えていましたね」
氏は自身を「バブルど真ん中
世代」と言う。実は記者も同世
代。確かにど真ん中世代からは
今の若者,特に女性は少し違っ
て見える。バブルの時代は「自
分サイズの幸せ」「ちまちま」
などという言葉はあまり聞かれ
なかったし,若い世代は,もっ
と上昇志向,野心のようなもの
を持っていたように思う。
「矢沢永吉の『成り上がり』。
ちょっとくどくはありますけ
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ないけれどオファーするんだ
よ,ときちんと言い含めなけれ
人事マネジメント
2010.11
い,違う仕事をしてみたいと思
「『私はこのまま でいい
のに』。最近の若い子たちには
顕著です。それは,仕事の報酬
は仕事であるとインプットされ
ていないことも原因の一つです
ね。だから『どうして私が新し
い仕事なんか』
となってしまう。
仕事が自分を成長させるという
ことが理解できていないんで
す。これは人事の方,上司の方
も良くない部分はあると思いま
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っているはず。彼女たちはそん
な自分の心を押し殺して,
『これ
でいいんだ』と思い込んでいる
ように見えてならないんです」
今の状況のままでは,10年後,
20年後に社会の中で女性自身が
生きにくくなってしまう,と鈴
木氏は危惧する。
「人事の方は,そんな女性た
ちへの対応を難しいとお考えか
もしれませんね。女性って,慢
著者に訊く
すずき ゆかり
1962年横浜生まれ。文化女子短期大学生
活造形学科卒業後,森ビル開発株式会社
(現 森トラスト株式会社),株式会社伊勢
丹研究所勤務。1993年渡米,1999年現地
で独立。2006年,コンサルティング・ファ
ームJOYWOWを設立,代表取締役就任。
経営・育成コンサルタントとして人事考
課システム作成,組織再構築,人材育成な
どに取り組む。法人・個人クライアントの
90%がリピーター。
心しやすい部分も持っているん
です。私は仕事ができる,でき
るのに,会社が私にぴったりの
仕事をオファーしてこないん
だ,とね。まずはそれを潰さな
●
日本能率協会マネジメントセンター
●
税込価格 1,365円 ● 2010年9月
きゃいけません。今のままじゃ
ダメだ,もう一歩進めば先に
ても,
女性の私には関係ないし』
ではなく,一緒に仕事の成果を
に対して不満に思うことは,ほ
とんどが大人のせいです。だか
行ける,と言ってあげてくだ
さい。そして単なる思い込みの
小さな慢心は厳しく潰す。そう
してこそ,女性は成長すると思
います」
喜んだり,
笑ったりしてほしい。
もし,産休を取ろうとする女性
が,同僚として男性と同じ仕事
を懸命にし,一緒に戦ってきた
仲間なら,よし,帰って来るま
で待っててやろうって気持ちに
ら私たち大人は,きちんとした
背中を見せて,彼ら彼女らのモ
現在,企業は女性の活用
なるでしょう。心が伴っていな
い制度は使えません。企業が風
土を変え,女性自身も意識を変
えていけば,制度は自然につい
てくるのではないでしょうか。
それが私たちの,大人の責任だ
と思います」
本書の後書きに「生き切る」
という言葉がある。働く女性は
どう生きていけばいいのか,そ
面ではないと思います。まず,
日本の企業が『女の子』扱いを止
めること。女の子が入れたお茶
だって,どんなことでも結局,
最後は人の心なんですから」
の疑問に対して,鈴木氏の出し
のほうがおいしいね,という風
土を改めることです。そして女
箸の使い方,靴の脱ぎ方,
身だしなみなど,本書は,基本
性も気持ちを改めなくてはいけ
ません。男性が『ちゃん』付けを
改め,女性も同じ仕事をしてい
る仲間と認識すること。それと
同時に,女性のほうも『女の子
扱い』をうまく利用している部
的なマナーについても多くのペ
ージが割かれている。
ときは気づかないですよね。今
は,誰も言ってくれませんから
きているのを感じています。こ
れは違う,という心の声を押し
殺して,聞かないフリをして小
さくまとまるなんてつまらない
でしょう。だから気づいてほし
い。気がついたときが始まりで
分を改めなければ。実は女性が
なおさらです。私たちの世代は
上の大人に教えられた。でも今
の子は教えられていません。大
人が若者に教える余裕がなくな
っているんでしょうね。若い子
す。20歳でも,50歳でも,そこ
からが始まり。この本が,何か
に気づくきっかけになってくれ
たら,こんなに嬉しいことはあ
りません」
(土屋)
策を模索している。その多くは,
出産休暇,育児休暇など制度面
の整備だ。
「女性活用に必要なのは制度
一番見落としがちなのが,男性
と一緒に働いているという視点
なんですね。営業が外回りから
帰ってきたら『営業が頑張って
「小さなことですよね。けれ
ど本当に大事なこと。でも若い
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デルにならなきゃいけないと思
います。上司も同じ。堂々と,
若い社員に接してください。か
っこいい大人でいてください。
た答えだ。
「昔は私も『これでいいんだ』
と思い込んでいた時期がありま
した。でも今は違う。ラクに生
2010.11 人事マネジメント
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