水稲作における発酵鶏糞の利用と 被覆尿素施肥の効果 担 当 土地利用作物研究室 作物栽培グル-プ ○杉田麻衣子、金子和彦、中司祐典* 研 究 課 題 名 水稲作における発酵鶏糞の利用と被覆尿素施肥の効果 研 究 年 度 平 成 23年 ~ 24年 背 景 山口県では肥料高騰に対応するため、水稲栽培においても化成肥料のリン酸、 カリの削減や基肥窒素の代替をねらいとした発酵鶏糞の活用が求められている。 目 的 発酵鶏糞の施用が水稲の初期生育に及ぼす影響および、発酵鶏糞と速効性の 窒素を含まないシグモイド型の被覆尿素肥料との組み合わせ効果を検討し、発 酵鶏糞を活用した施肥体系を確立する。 成 果 1 試験区の構成は表1に示す。 2 基肥として発酵鶏糞を施用すると、無窒素区と比べ、施用量によらず移植 後 30 日 頃 か ら 茎 数 が 増 加 し 、 穂 数 が 多 く な る こ と か ら 、 ㎡ 当 た り 籾 数 は 多 くなる。また登熟歩合は同等から劣るが、収量は増加傾向になる。しかし、 慣 行 の 基 肥 一 発 肥 料 栽 培 と 比 較 す る と 15% 低 程 度 の 減 収 と な る (表 2 )。 3 発 酵 鶏 糞 に 加 え て シ グ モ イ ド 100 日 型 の 被 覆 尿 素 を 施 用 す る と 、 発 酵 鶏 糞 のみの施用に比べて茎数、穂数が増加し、一穂籾数は並~多く、㎡当たり籾 数 も 多 く な る 。 成 熟 期 は 2~ 4 日 遅 く な り 、 登 熟 歩 合 は 同 等 で 、 千 粒 重 は 同 等~重く、多収傾向になる。外観品質は同等で、玄米タンパク含量は高まる (表 2 )。 4 水 稲 跡 で は 、 鶏 糞 (少 )+尿 素 (多 )は 発 酵 鶏 糞 の み 施 用 と 比 べ 、 一 穂 籾 数 、 ㎡当たり籾数が多く、登熟歩合が同等で多収傾向になる。慣行の基肥一発肥 料区と比べると、収量は発酵鶏糞多量区では同等で、少量区では増加する。 外 観 品 質 に 差 は 認 め ら れ ず 、 玄 米 タ ン パ ク 含 量 は 同 程 度 と な る (表 2 )。 5 大 豆 跡 で は 、 鶏 糞 (多 )+尿 素 (少 )は 発 酵 鶏 糞 の み 施 用 と 比 べ 、 一 穂 籾 数 、 ㎡当たり籾数が多くなるが、登熟歩合が低くなり、収量は同等となる。慣行 の基肥一発肥料区と比べると、収量は発酵鶏糞多量区では同等で、少量区で は増加する。外観品質に差は認められず、玄米タンパク含量は同程度となる (表 2 )。 6 発酵鶏糞を用いた場合、肥料コストは慣行の基肥一発肥料を使用した場合 に 比 べ 、 81~ 90% と な る (表 3 )。 7 成果の活用と留意事項 本 試 験 は 品 種 「ヒ ノ ヒ カ リ 」、 F 養 鶏 組 合 の 発 酵 鶏 糞 (N-P-K= 3.7-3.7-4.2 (乾 物 % ))を 用 い て 行 っ た も の で あ り 、 他 の 品 種 、 発 酵 鶏 糞 を 使 用 す る 場 合 は被覆尿素も含め施用量に留意が必要である。 * 現農業振興課 表1 試験区の窒素施用量の内訳 試 験 区 発酵鶏糞 被覆尿素 速効性窒素 総窒素 施用量 施用量 施用量 施用量 (Nkg/10a) (Nkg/10a) (Nkg/10a) (kg/10a) 無窒素区 0 0 0 0 鶏糞のみ(少) 3.2(2.8) 0 0 3.2(2.8) 鶏糞のみ(多) 4.6(4.0) 0 0 4.6(4.0) 鶏糞(少)+尿素(多) 3.2(2.8) 4.9(3.8) 0 8.1(6.6) 鶏糞(多)+尿素(少) 4.6(4.0) 3.6(2.8) 0 8.2(6.8) 慣行(基肥一発) 0 6.1(4.8) 1.9(1.5) 8.0(6.4) 注1)表の数値で括弧なしはH23年度、括弧つきはH24年度の施用量を示す。 H24年度は前作が大豆のため窒素施用量をH23年度より20%削減 注2)P、Kは慣行区を除き、鶏糞(多)の区に合わせて補正 注3)発酵鶏糞は県内産の鶏糞ペレット(N-P-K=3.7-3.7-4.2)を使用 施用窒素量は全窒素量に無機化率(50%)を掛けたものを表記 注4)シグモイド100日タイプの被覆尿素はL(N:40%)とU(N:41%)の2種類を使用 表2 試験区による生育と収量、品質の違い 試験 前作 区 最高 籾数/㎡ 登熟 千粒重 収量 同左 玄米 外観 ×100 タンパク 年度 茎数 歩合 品質 (粒) (kg/10a) 比率 (乾物 %) (本/㎡) (%) (g) (1-9) 無窒素区 419 232 C 81.5 22.3 431 c 78 6.4 d 4.0 鶏糞(少) 477 266 ABC 77.9 22.2 483 abc 87 6.6 cd 3.5 鶏糞(多) 460 251 BC 79.6 22.2 456 bc 82 6.7 bcd 3.5 H23 水稲 鶏糞(少)+尿素(多) 534 337 77.3 22.3 579 105 7.3 3.3 鶏糞(多)+尿素(少) 534 310 78.3 22.2 558 101 7.2 3.0 慣行(基肥一発) 556 326 80.0 22.3 554 100 7.2 2.0 無窒素区 398 257 74.2 22.4 352 83 7.0 b 5.5 鶏糞(少) 418 273 72.0 22.3 357 84 6.9 b 5.5 鶏糞(多) 438 286 74.2 22.3 359 85 6.9 b 3.5 H24 大豆 鶏糞(少)+尿素(多) 430 329 73.8 22.5 443 105 7.5 4.3 鶏糞(多)+尿素(少) 450 336 71.8 22.6 425 101 7.2 4.0 慣行(基肥一発) 439 318 70.1 22.3 423 100 7.4 ab 4.5 注)数値横のアルファベット間には検定による有意差があり、小文字は5%、大文字は1%の誤差範疇であることを示す。 表3-1 肥料コストの試算(水稲跡) 試験区 発酵鶏糞 被覆尿素 合計 慣行比 (円/10a) (円/10a) (円/10a) 鶏糞(少)+尿素(多) 4,053 3,520 7,573 81 鶏糞(多)+尿素(少) 5,776 2,347 8,123 87 慣行(基肥一発) 0 9,323 9,323 100 表3-2 肥料コストの試算(大豆跡) 試験区 発酵鶏糞 被覆尿素 合計 慣行比 (円/10a) (円/10a) (円/10a) 鶏糞(少)+尿素(多) 3,243 2,981 6,224 84 鶏糞(多)+尿素(少) 4,560 2,078 6,638 90 慣行(基肥一発) 0 7,388 7,388 100 注 1 )そ れ ぞ れ の 価 格 は 発 酵 鶏 糞 : 304 円 /15kg、 被 覆 尿 素 : U4000 円 /15kg(参 考 価 格 )、 LPSS 複 合 522 号 : 3518 円 /20kg 注 2 )肥 料 コ ス ト の 試 算 は 被 覆 尿 素 L と U の キ ロ 単 価 の 高 い 方 を 用 い た 。
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