WATER POWER XVコンファレンスの紹介

2007年08月
(財)新エネルギー財団(NEF)
Waterpower XV Conference
Advancing Technologies for Sustainable Energy
Chattanooga Convention Center, Chattanooga, Tennessee USA
2007年7月24 ‒ 26日
2007年7月24-26日に、アメリカ チャタヌーガ市にて開催されたWaterpower XV コンファレンス
に出席する機会を得たので、聴講したセッション概要を紹介する。
開催期間:
2007年7月24日(火) - 26日(木)
開催場所:
チャタヌーガ国際会議場,チャタヌーガ,テネシー州,アメリカ
コンファレンス・プログラム:
添付資料-1:コンファレンス・プログラム一覧表(英語)
添付資料-2:コンファレンス・プログラム一覧表要旨(和訳)
コンファレンスは7つのプログラムが同時進行するため、NEFが2006年から活動参画して
いるIEA水力実施協定
Annex-2:小水力発電 部会の活動テーマである「小水力発電に係
わる革新的技術」および「社会システムと経験」に関係すると思われたセッションについて
記す。
■「小水力発電に係わる革新的技術」に関わるセッション概要
セッション1F:新しい水車の設計
1. 超低落差用新型タービン(VLH)の概念
•
超低落差(約3m以下)を対象に,カプランランナーと可変速PMG発電機,分流装置
を一体化させた新概念のシステム。従来の縦軸カプラン水車やバルブ水車と異なり,
ランナーの小型化ではなく設置に必要な土木構造物を大幅に削減したところが特徴。
ランナーの回転速度が遅いため,魚にも優しい。既設の閘門やダム水路などに設置し
て,未利用水力を利用可能にするもの。
•
フランスのMJ2テクノロジー社が開発。カナダのLaval大学で水理実験とCFD解析が
行われ,プロトタイプは2007年からフランスMillau地点に設置されている。コストは
電気・機械がやや高くなるが,土木工事費が大幅に安くなるという。
1
2. フランシスとカプランのギャップを埋める高反動水車
•
ここでいう高反動水車(high reaction turbine)とは,プロペラ水車のランナーのブ
レード同士にオーバーラップ部分を設け,この部分で水の位置エネルギーの一部を速
度に変換することなく圧力として水車の回転に利用するもの。フランシス水車と似た
特性を持つ。狙いは水車を通過する魚の死亡率低減とキャビテーション特性の改善。
•
カナダ天然資源省とRapid-EAUテクノロジー社が共同開発。2007年春に模型実験を行
い,同年末に現場実証試験を行う予定。
3. 生態環境に優しい新型水車
•
中 低 落 差 を 対 象 に , 新 概 念 の 上 部 吸 出 し 型 縦 軸 プ ロ ペ ラ 水 車 ( Updraft
Divergent-Flow Hydro Turbine)を開発。狙いは魚の損傷率低減と出口部での流れの
エアレーションによる溶存酸素回復。
•
米国のINNOVIDEインターナショナル社が開発。アイオワ州立大学と中国・北京の
Tsinghua大学で水理模型実験が行われ,CFDにより設計の最適化が図られた。
4. 超低落差用新型タービン(VLH)の開発
•
前記1.のVLHタービンのCFD解析および水理実験による設計について述べたもの。
セッション2D:水車・バルブの最適選択
1. 水圧鉄管ヘッドバルブの鉄管事故時の流量計算
•
水圧鉄管が事故で破裂した場合の流量急増を制御するヘッドバルブの機能を水理モデ
ルで解析し,安全かつ経済的なバルブの規模を検討した。EDF流体工学センターが解
析を行い,事故時の流れを破裂箇所からのオリフィス流出として扱い,管内のキャビ
テーションおよびバルブ閉鎖過程を考慮することにより,合理的な流量の推定が可能
であることを示した。計算のみで,実験や実測はなし。
2. Bradley Lake 発電所ペルトン水車の修復と問題解決
•
アラスカ州のBradley Lake 発電所(63MW)は,1991年に6基のペルトン水車を設置
したが,運開後出力が不安定になる問題が発生した。またランナーのバケット付根に
クラックが発生した。VA TECH Hydro社が模型実験などで検討した結果,この原因
は既存のデフレクタを作用させた時のジェットの相互干渉の発生にあり,これを防ぐ
ために新型(カットイン)デフレクタに改造すること,およびランナーも新型に更新
することを提案し,採用された。修復工事は2006∼2007年に行われた。
3. Rocher-de-Grand-Mere 発電所のカプラン水車
•
Rocher-de-Grand-Mere 発電所(227MW)は,カナダ・ケベック州のSaint-Maurice
川 に 建 設 さ れ 2004 年 に 運 開 し た 。 同 地 点 に は 1913-1916 年 に 建 設 さ れ た 古 い
Grand-Mere 発電所があり,今後段階的に更新されていく予定。新発電所の3基のカ
プラン水車はALSTOM社が設計・製作し,性能試験では水車効率が保証値より約1%
高い性能を示した。
2
セッション3C:適合的管理(Adaptive Management)
•
適合的管理についての自由討議。まとまった結論はなし。革新技術との関連もほとんどな
かった。
•
適合的管理は,一般的には予期と異なる結果が得られた場合に手法や目標を変更する
やり方であるが,特に,目標が定義がしにくかったり容易には得られないような場合
に,プロジェクトがエンドレスにならないように合理的な管理が求められる。
•
司会進行役は米PacifiCorp社のダイアン・バー女史。参加者からは,水力における適
合的管理はまだ定着しておらず,そのメリットも明らかではないといった趣旨の意見
が多かった。例えば,水力計画の許認可において環境影響のミチゲーションが義務付
けられた場合などに適合的管理が行われるが,モニタリングがプロジェクトのコスト
増加要因となることが多い。
セッション4D:魚類の通過:課題と解決策
1. 回遊魚回復プログラムにおける米国東海岸地域の目標値の評価
•
米国東海岸での標記プログラムは,多くの河川において数十年∼100年以上にわたっ
て継続されている。プログラムの課題の一つが重要種に関する適切な目標値の設定だ
が,個体数や漁獲数はデータの継続性や信頼性に問題がある。そこで,魚類の生息地
面積に生息密度を乗じて推定する方法が行われている。しかしこの方法も,北米の重
要魚であるアローサ(shad, ニシンの一種)を対象に,コネチカット川やサスケハナ
川のプログラムを詳細にレビューしてみると,目標値は楽観的で過大であり達成が難
しいことが分った。
2. 魚への影響を最小化するタービン翼の開発
•
数値モデルと実物の魚を使った実験により,タービン翼の形状,厚さ,衝突速度など
が魚類の死亡に及ぼす影響について検討した。その結果,衝突速度16ft/s(約5m/s)
以下では魚類の生存率は90%以上と高く,16ft/s以上では速度が大きいほど,魚の体
長L/翼厚さtの比が大きいほど生存率が低くなることが分った。特に速度が大きくなる
と,L/tの影響も大きくなる。
3. River Mill ダムにおける降河性魚捕集効率への流れと場所の影響
•
River Mill ダムが設置されているオレゴン州のClackamas川は,サケ,マス,ヤツメ
ウナギなどが遡上する。ダムには魚道はあるが,魚が降河するときの通過施設はない。
そこでポートランドGEは,余水路からの放流および余水路∼取水口間の木製の仮設水
路設置により,降河魚の取水口への取り込みを少なくするための効果的な流れや設置
場所等の条件を,2001∼2004年にかけて現地実験により検討した。この結果は,今後
魚類降河に有効な恒久設備の設計に反映される。
3
4. Round Butte ダムにおける選択取水と魚の捕集
•
ポートランドGEのRound Butte ダムは1960年代に建設され,当初は遡上・降河用の
魚道を備えていたが,降河の効率が悪く廃止され孵化場が設けられた。2005年の発電
水利権更新時に,FERCは事業者に回遊魚のダム通過の確保を義務付けた。これに対
応し,また放流水の水温と溶存酸素に対する下流の要求に応えるため,PGEは新しい
選択取水設備(SWW: Selective Water Withdrawal)と魚類捕集装置(FCEs: Fish
Collection Entrances)を開発した。この設備は2007∼2008年に建設され,2009年春
から運用開始の予定である。
セッション5E:小規模・革新的水力
新分野の開拓
シンポジウム形式で予稿集・配布資料なし。
1. Oscillating Water Turbine
•
Voith Siemens 社のOscillating Water Column(OWC)方式波力発電の紹介。既設
の護岸などに設置すると経済性がよい。第1号300kWをスペインに納入。
2. New Projects and Experiences
•
VA TECH Hydro の看板製品 Hydromatrix および Stratoflomatrix の概念と適用
実績の紹介。適用実績多数。
3. 潮汐・波力の利用
•
海洋の各種エネルギー利用方式,研究開発,技術課題,政策課題などについての一般
論。米国では2004年にEPRIのアセスメント報告書が出されるなど,近年海洋エネル
ギー利用への関心が高まっている。
4. 海洋エネルギーの利用
•
米 Finavera Renewables 社が開発した海洋ブイの上下動を利用して発電する Aqua
Buoy Technology の紹介。1ユニット250kW程度で,現在実証試験中。
セッション6A:修復・機能向上による長寿命化
事例研究
シンポジウム形式で予稿集・配布資料なし。
1. Furras 発電所
•
ブラジルの標記発電所の水車の補修工事の紹介。
2. Messaure 発電所
•
スウェーデンの標記発電所の水車の補修工事の紹介。発電所は40年以上経過。3基の
フランシス水車のうち2基を更新した。模型実験と計測が重要。
3. Statkraft社
•
ノルウエーの同社が手がけた6発電所の修復事例の紹介。修復後,発電所の信頼性と安
全な運転が確保され,水車効率が0.2-1%向上した。重要なのは,修復計画の戦略的展
望,市場の動向把握,模型実験の継続実施,高度な専門能力など。
4. EL DORADOプロジェクト
•
カリフォルニア州の4貯水池,発電所建屋,水路は1930年代に造られ,老朽化が著し
く,1997年の水害で大きな損害を受けたため,2000年以降に本格的な補修が行われた。
取水ダムは完全に造り直し,水路は一部を補修した。
4
セッション7A:修復・機能向上による長寿命化
プラントシステムのバランス
シンポジウム形式で予稿集・配布資料なし。
1. 防火システム
•
カリフォルニア州が管理する25ダム,28発電所の防火システムの紹介。CO2貯槽,バ
ルブ,配管,火災検知器で構成される。1996年に一部のシステムが故障し,原因がバ
ルブにあったため,別方式のバルブに交換した。
2. 発電所電気システムのバランス
•
構内電源,バックアップ,電気的保護,Flash Hazard Analysisなど。
3. TVAの発電所システムのバランス
•
オイルシステム,水道,発電機以外の機器冷却,圧縮空気,保安(テロ対策),クレーン,
電源バックアップなど。
セッション8A:修復・機能向上による長寿命化
土木関係
シンポジウム形式で予稿集・配布資料なし。
1. ローラー・コンパクテッド・コンクリート(RCC)
•
RCCの特徴と米国でのダム修復への施工事例。
2. 長寿命化
•
老朽化した Blenheim-Gilboa 揚水発電所の重大な事故リスクを低減するため,水車
のオーバーホール,ランナーの更新,ガバナー等の更新,クレーンの点検を行った。
土木的な話はあまりない。
3. Friantダム
•
カリフォルニア州のサン・ホーキン川に1942年に建設されたコンクリート重力式ダム。
1986年に洪水吐ゲートの一つがStuck事故を起こす。原因はコンクリートのアルカリ
骨材反応(ASR)と判明し,1998年に洪水吐コンクリートの修復が行われた。ASRの
制御が重要。
4. ハイドロ・ケベック社における発電所の更新と近代化
•
同社の基本的な考え方,重要事項の一般論。
■「社会システムと経験」に関わるセッション概要
セッション1E:健全な河川の再生‐事例研究
シンポジウム形式で予稿集・配布資料なし。 河川の水質・流況・生態系等に係わる再生プ
ロジェクトの事例が紹介された。
1. Pigeon River 再生プロジェクト
•
(テネシー州、アメリカ)
過去の水質汚染により激減した魚類種等の回復プロジェクト。プロジェクトはテネシ
ー大学を中心としてテネシー州環境保全局、野生生物保護局、TVA、その他多数のNGO
が参加して1996以降継続している。
2. Cheah River 再生プロジェクト
•
(テネシー州、アメリカ)
水力発電所の認可更新の条件となった様々な再生事業(維持流量、生態系の保全、リ
クリエーション用途など)への取組み。川の再生は、流況の回復に終わらず長期間に
渡る関与と適合的管理(Adaptive Management)の必要性が強調された。
5
3. Waterways Management Programme (Manitoba Hydro, カナダ)
•
Manitoba
Hydroが管理する河川における倒木・流木の除去プログラムの紹介。ボー
トによる監視、フローティングネットによる流木の回収・ストック・焼却処分。れき
岩を用いた河岸の再生事業。
4. ノルウエーにおける河川再生
•
(ノルウエー)
水力開発による減水区間に対して1970-1980年代に経験した大きな議論を踏まえて、
河川環境の保全(生態系の保全、多目的利用、維持流量など)に取り組んでいる。酸
性雨対策として石灰の散布が行われている。European Water Framework Directive
に基づき、2015年までに水環境を良好な環境に戻すことが要求されている。
セッション2E:健全な河川の再生‐維持流量の管理
シンポジウム形式で予稿集・配布資料なし。 維持流量の定義、流量決定の方法・過程など
について述べられた。
1.
The Skagit License: Fish & Flow (シアトル市電力公社、アメリカ)
•
Skagit水力発電所における水利権の更新時に維持流量の放流が義務付けられた。その規模
は300 cfs(8.5m3/s)にも達するもので、電力公社にとっては30年間に$200Mのコスト
増につながる規模であったが、維持流量放流の結果として、サーモン等の魚類の生息数の
増加が顕著に現れた事例である。
2. Establishing & Managing Environmental Flows (アメリカ)
•
維持流量という用語は、異なる立場(例えば、河川管理者、水力事業者、NGO等)に
より異なる定義付けがなされるため注意が必要。維持流量に関する課題は、水温、堆
砂、水生生物相、河川レクリエーション等多岐に渡っているために、議論がかみ合わ
ないケースが多いことに留意すべき。
3. From Ignorance to Certainty (アメリカ)
•
維持流量を決定する際には、様々な課題が検討される(生物多様性、植生、水質、リ
クリエーションなど)
。Sacrament River (カルフォルニア州北部)では、重要種を中心
として生物多様性を重要課題としているが、その最適環境は場所により異なるため、
河川での生態調査が不可欠である。
4. Enhancing Aquatic Habitat below TVA Hydropower Dams (TVA、アメリカ)
•
水系の多目的運用(船運、洪水調節、水力発電、上水道、灌漑用水など)において最
小流量(Minimum Flow)を如何に決定するか?
貯水池内でのばっ気、ダム直下で
の堰、タービン流下などのばっ気方法の改善により、ダム下流300マイルの範囲で溶
存酸素量が改善された例がある。
5.
Establishing & Managing Environmental Flow (ブラジル)
•
ブラジルでは、1980年代後半に河川環境が重要課題となり各州において環境組織が設
立され、維持流量の放流が要求されるようになった。維持流量の管理は、関係者の参
画の下で長期的な環境保全を視野にいれ柔軟性ある管理(Flexible Management)が必
要である。
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セッション3E:革新的小水力‐小水力の将来
シンポジウム形式で予稿集・配布資料なし。 インド、EU、カナダ、ラテンアメリカにお
ける小水力発電の動向が紹介された。
1. India Hydropower Initiatives
•
インドでは、5MW以下を小水力、50MW以下を中水力と定義付けしている。水力発電
事 業 は 、 CEA (Central Electrical Authority) と NHPC (National Hydro-electric Power
Corporation)が主たる事業者である。小水力部門では、上級管理職での人材不足が著し
い。
2. SHP in Europe
•
ヨーロッパにおける水力は、Renewableの80%、全電力量の19%を占め、設備容量は
171GW。小水力(10MW以下)は、10,700MWで約17,500箇所。平均的な小水力発電
コストは、€0.045∼0.090/kWh (¥7.3∼14.6/kWh)
•
EU Renewable Energy Directiveに基づき、2020年までにRenewableを6.5%から
22.1%まで増やす。各国の政策は、ESHA(ヨーロッパ小水力協会)のウエブサイト
http://www.esha.be/index.
を参照。
3. Small Hydro Canadian View
•
小水力開発の鍵は、長期電力購入契約(Long Term Power Purchase Agreement)の締
結如何による。課題は、魚の保護(様々な規則)、環境影響評価の実施(時間と費用)
、
原住民との交渉(土地所有権、時間と費用)の3点に絞られる。
4. Small Hydro in Latin-America
•
2010年までに全エネルギーの10%をRenewableから調達する計画。小水力は経済的に
有望であり、公的な補助金は必要としない状況。CDMは、ファイナンスの知識不足に
より未だ機能するレベルに達していない。
セッション4E:革新的小水力‐開発のインセンティブ
シンポジウム形式で予稿集・配布資料なし。 アメリカにおける再生可能エネルギー電力
の導入促進策の一例及びグリーン電力証書の取引概要が紹介された。
1. Hydro Development Incentives, Production Tax Credits (PTCs) & Clean Renewable
Energy Bonds (CREBs) (アメリカ)
•
アメリカで用いられている再生可能エネルギーに対する比較的新しい財政支援策が紹
介された。再生可能エネルギー電力については運開から10年間に渡り、一定額の税額
控除(PTCs)が認められている。2007年12月に終了予定のPTCsの再延長が議会で審議
されている。風力・太陽光などについては$0.015/kWh、水力はその半額。CREBsは、
税額控除債権で新しい借り入れ手段である。債券発行者は金利なしで借り入れできる。
法律は、上限$800M(約960億円)の債券発行を承認した。
2. Renewable Energy Certificate (REC)
•
(アメリカ)
アメリカにおける再生可能エネルギー証書(Renewable Energy Certificate)の現状
が紹介された。RECは1MWh以上から取引可能な証書。RPSの定義は日本と同様と思
われるが、水力の適用範囲は各州で異なる。例えば、マサチューセッツでは水力は含
まない、ペンシルバニアでは50MW以下、コロラドでは10MW以下など。
7
•
証書の取引については、The Green Power Network (www.eere.energy.gov/green
power )を参照。その他、Renewable Energy Certificateに関する情報は、次のサイト
を参照。
Green-e
( http://www.green-e.org/
)
Database of State Incentive for Renewable and Efficiency
( http://www.dsireusa.org/ )
セッション5C:水資源管理
1. 水力プロジェクトにおける気候変動の影響の評価手法
•
(アメリカ)
気候変動が現実的課題と認識されたことから、水力計画においても過去の記録に基づく仮
定は正当化されず将来の流況予測が重要になってくる。ワシントン州最大の公営電力であ
るシアトル市電力が研究している管轄水系・流域に対する気候変動の影響の概要が紹介さ
れた。大気大循環モデル(General Circulation Model)による結果を地域の気象モデルを用
いて流域スケールに縮尺し、水文モデルに落とし込み、そこから、将来の流況シナリオを
研究している。
2. 気候変動に直面している水需要の調整
•
(アメリカ)
西海岸部の大河川では、流況の変化が、洪水調節・上水・水力発電などへの水量割り当て
に係わる技術的な課題となってきた。秋季の気温が高くなると、冬季流量の増加、春季ピ
ーク流量の早期化、春から夏にかけての流量減少などの結果となっている。その結果、貯
水池の流量管理の見直しが必要となってきている。
3. 貯水池の水位変動の影響を解析するために GPS と GIS を利用した事例
•
(アメリカ)
貯水池の水位変動の影響を調査するために、航空写真、GPS及びGISを組合わせた新しい
解析手法を開発した。貯水池の水位変化による生物の生育・生息状況及び生態系への季節
毎の影響、リクリエーション活動への影響などが調査された。
セッション6E:水力政策;政策推進力は?
シンポジウム形式で予稿集・配布資料なし。 水力開発に係わる各国の近年の政策に関し
て意見が述べられた。
1. Key Policy Drive in the USA (アメリカ水力協会(NHA)、アメリカ)
•
気候変動の深刻化が大きな圧力となって、再生可能エネルギー開発の支持に繋がって
いる。 power of moving water
として水力ブランドの再構築が望まれる。水力政策
の見直し(課税控除、クリーンエネルギー奨励策、研究開発の支援、
(特に小水力に係
わる)規制の再検討など。水力は”Clean and Sustainable”であるとの社会的合意を獲
得することが課題である。
2. Key Drive for Hydro in Canada (カナダ)
•
水力開発の推進力は、再生可能エネルギーに対する世論の支持、地方自治体の政策、
Canadian Eco-Action Planの導入 ( http://www.ecoaction.gc.ca/ )、行政組織の簡素化
などである。水力開発に関する現在の課題として、EIAの期間(現在は5-6年を要して
いる)の短縮、手続きの簡素化、原住民との協議期間の短縮などが挙げられる。
8
3. International Hydropower Association (国際水力協会)
•
現在の関心ごとは、ダム貯水池からの温室効果ガス排出量の研究である。
•
2004年に、世界風力エネルギー協会(WWEA)、国際水力協会(IHA)、国際太陽エネ
ルギー学会(ISES)及び国際地熱協会(IGA)によって国際再生可能エネルギー同盟
(IREA)が発足した。詳細は、( www.ren-alliance.org )を参照。近年になって、
国際的NGOも水力発電の必要性の認識が高まっていると感じられる。
セッション7E:水力に関わる政策‐USA
シンポジウム形式で予稿集・配布資料なし。 最近の再生可能エネルギー促進策が述べら
れた。
1.
Benefit from Hydropower Production Tax Credit (PTCs)
•
セッション4Cで紹介された再生可能エネルギー電力に係る一定額の税額控除(PTCs)
を利用した事例が紹介された。
2. US States RPS Program
•
2007年現時点で28の州がRPSを採用している。適用される水力の範囲は5MW∼
200MWまで。RPSに基づく再生可能エネルギーの導入目標は州によって異なる。カル
フォルニア州では30MWまでを対象として、2020年までに全発電電力量の33%を目標
としている。
3. Assessment of ILP (Integrated Licensing Process: 統合的認可手続き) for Licensing
Hydropower Projects.
•
水力開発の認可手続きには、統合的認可手続き(ILP)の他に従来の手続き(TLP)
と新しい手続き(ALP)の3種類があったが、2005年からILPが標準手続きとなり、
TLP及びALPは連邦エネルギー規制委員会(FERC)が承認した場合のみ利用できる。
この変更は訴訟を避け、エネルギー生産と環境保全のバランスを図るために実施され
た。現在の認可手続きは、1年以内が約33%、1∼2年間が約50%、2年以上が約17%と
なっている。
セッション8E:水力に関わる政策‐カナダ
シンポジウム形式で予稿集・配布資料なし。 最近の再生可能エネルギー促進策が述べら
れた。
1. Working within Policy & Regulatory Frameworks in Canada
•
許認可手続きは、連邦・州及び県の権限が混在しており、手続きの簡素化が課題であ
る。カナダ特有の問題として原住民との協議が義務付けられている。
2. Opportunity & Challenges
•
環境影響評価の課題として、時間の制限が無いために、成果と時間・コストが予測で
きない、魚資源の保全が厳しく、時には漁業組合の利益を大幅に超えるような対策コ
ストが必要になる、原住民からの土地所有権のクレームに時間を要する、など様々な
課題が存在している。
9
3. BC Hydro Experience
•
認可手続きに10年以上を費やした事例を挙げ、重要課題として環境影響の規模の大き
さと規制内容を比例させること、時間予測を可能とすべきことが挙げられた。
以上
10