武蔵野音楽大学音楽学部音楽環境運営学科 年間活動報告書 第 4 号(平成 27 年度[2015]) Annual Report of the Department of Arts Management, Faculty of Music, Musashino Academia Musicae Vol.4 [April 2015- March 2016] 武蔵野音楽大学 音楽学部 音楽環境運営学科 Department of the Arts Management, Faculty of Music MUSASHINO ACADEMIA MUSICAE 目次 / Contents 緒言 『年間活動報告書』第 4 号発行に寄せて ………………………………… 1 1.平成 27 年度 音楽環境運営学科の主な年間活動記録 ………………………………… 2 2.平成 27 年度 音楽環境運営学科 科目一覧 ………………………………… 3 3.音楽環境運営学科における実習活動 ………………………………… 5 ………………………………… 5 1)芸術文化施設見学実習 芸術文化施設見学実習における事前研究・プレゼンテーション …………………………… 19 2)バッハザールでの照明実習( 「舞台技術概論」[1 年次]の授業の一環として)………… 21 ………………… 21 3)新国立劇場見学( 「劇場音響概論」[2 年次]の授業の一環として) 4)音楽芸術運営実習 I(2 年次) …………………………………… 22 5)音楽芸術運営実習 II(3 年次) …………………………………… 26 6)学生の自発的な実習活動 …………………………………… 27 7)博物館学講座活動報告(1~4 年次) …………………………………… 28 音楽環境運営学科の学芸員課程の方針 …………………………………… 28 平成 27 年度に実施した学外施設見学 …………………………………… 30 平成 27 年度博物館実習報告 …………………………………… 34 4.平成 27 年度卒業論文 …………………………………… 36 5.音楽環境運営学科が実施した諸活動 …………………………………… 37 …………………………… 37 1)ミューズフェスティヴァルにおける音楽環境運営学科企画 ①学科主催コンサート(3 年次「アートマネジメント論」授業企画) ………………… 37 ②「入間キャンパスフラワーマップ in 武蔵野音楽大学」作成 ( 「生涯学習概論」授業企画) …………………………………… 39 2)松岡美術館ロビーコンサート(3 年次「アートマネジメント論」授業企画) 3)図書館での楽器資料展示(4 年次「博物館実習」課題企画) ……… 40 …………………………… 45 4)楽器展示におけるデジタル技術活用提案 ( 「コンピュータ音楽応用演習」講師 安田寿之) 5)その他の活動 ………………………………… 49 ………………………………… 51 6.特集:池田温名誉教授追悼 ………………………………… 52 7.学科教員における研究・社会貢献活動(平成 27 年度) ………………………………… 58 8.学科教員のコメント ………………………………… 60 編集後記 凡例: ・本報告書は、平成 27 年度(2015)における、音楽環境運営学科の授業、実習、その他の活動を紹介するものである。 ・本報告書で記載されている教員の役職名、学生の年次などは、すべて平成 27 年度(2015)時点のものである。 ・本報告書のテキストは、特定の執筆者名が記載されていないものは、本号編集担当者が作成したものである。 緒言 『年間活動報告書』第 4 号発行に寄せて 音楽環境運営学科 学科長 中川俊宏 平成 19 年度に開設された音楽環境運営学科も、 は、依然として楽観しがたい状況にあると言って 今年度(平成 28 年度)は第 10 期生を迎える節目 よいかと思います。それは芸術文化関連の業界に の年となりました。同時に来年度(平成 29 年度) 、 限らない今日の社会全体の傾向であるのかもしれ 江古田新キャンパスの完成とともに行われる学科 ませんが、多くの就業先において、採用はされて の再編により、本学科は「音楽総合学科」の「アー も低賃金であり、且つまた非正規雇用であるとい トマネジメントコース」と装いを新たにする予定 う不安定な条件を受け入れざるを得ない状況が認 となっております。言うなれば音楽環境運営学科 められます。公共ホールにおける指定管理者制度 としての10年間を締め括る年を迎えるわけであ は勿論その大きな要因でありますが、そうでなく りますが、何をもってその評価をなすべきかを考 ても、非正規の雇用で人件費を抑えて業務を回し える時、やはり中心となる評価基準は学科の「教 ていく、という経営のあり方が常態化していると 育目的」ではないかと思います。平成 27 年度の認 いう現実があるようです。 証評価を機にまとめられた本学科の「教育目的」 そのため、 「芸術文化の発展に貢献」したいとい は、 「高い芸術的感性と優れたマネジメント能力を う理想に燃えて本学科に入学してきた学生たちが、 養い、音楽をはじめとする各種舞台芸術や音楽文 のびのびとその力を発揮しうる社会には程遠い現 化産業を牽引するスタッフとして芸術文化の発展 状が一方であるわけですが、我々本学科の教員一 に貢献できる人材の育成」ということでありまし 同としては、そのような厳しい状況の中にあって たが、それは「アートマネジメントコース」にも継 も、本当に必要とされる人材として常に輝きを放 承されるところとなっております。 っていけるような学生を育てていかなくてはなら 「人材の育成」の達成度合は、卒業生の就職状況 ないと改めて肝に銘じているしだいであります。 を一つの指標として測ることができようかと思い 期待を胸に入学してきた学生たちの思いに十分 ます。そして、その目的は、厳しい就職状況の中に 応え、彼らが本学科で学んだことに大きな喜びと ありながら概ね達成されていると言って間違いな 誇りを感じて社会に巣立っていってくれるよう気 いものと私は見ております。1期生が卒業した5 を引き締めつつ、学科の教育の現状を振り返るよ 年前、即ち東日本大震災の発生した平成 23 年度に すがとして、この『年間活動報告書』を編集・発行 大卒就職率は 91.0%という過去最低の数字を記録 いたしました。併せて日頃本学科を支えてくださ しました。以後、数字の上では年々持ち直してき っている皆様へのご報告ともさせていただきたく、 ておりますものの、本学科の卒業生の多くが志望 進呈させていただきます。関係各位の皆さまにお する「音楽をはじめとする各種舞台芸術や音楽文 かれましては、引続き本学科へのご指導やご助言 化産業を牽引するスタッフ」という分野に関して を賜りますようよろしくお願い申し上げます。 1 1.平成 27 年度 音楽環境運営学科の主な年間活動記録 平成 27 年(2015) 4月7日 入学式 4 月 11 日 在校生オリエンテーション/新入生ガイダンス 4 月 14 日 新入生歓迎行事 4 月 15 日 前期授業開始 5 月 17 日 美術館・博物館見学(白金台・上野にて。1~4 年対象) 5 月 30 日 松岡美術館にてロビーコンサート 6 月 28 日 松岡美術館にてロビーコンサート 7月4日 見学実習事前研究会 7 月 15 日 授業最終日 7 月 16 日~8 月 31 日 夏季休暇 7 月 16 日~17 日 芸術文化施設見学実習(富岡製糸場/草津音楽の森国際コンサート ホール/新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)) 7 月 25 日 松岡美術館にてロビーコンサート 8 月 29 日 松岡美術館にてロビーコンサート 9月1日 秋期授業開始(~9 月 14日) 9 月 19 日 松岡美術館にてロビーコンサート 9 月 28 日~10 月 9 日 博物館実習(武蔵野音楽大学楽器博物館にて) 10 月 1 日 後期授業開始 10 月 9 日 アークヒルズ音楽週間 2015 武蔵野音楽大学ジャズオーケストラ Ciao!公演 10 月 23 日~25 日 ミューズフェスティヴァル 学科主催「新技術紹介コンサート」(3 年) 10 月 31 日 松岡美術館にてロビーコンサート 11 月 28 日 松岡美術館にてロビーコンサート 12 月 11~12 日 文化学園大学第 9 回卒業イベント「長靴をはいた猫」 12 月 12 日 松岡美術館にてロビーコンサート 12 月 21 日 卒業論文提出日 冬季休暇(~平成 28 年 1 月 6 日) 平成 28 年(2016) 1月7日 授業開始 1 月 20 日 授業期間終了 1 月 27 日 卒業論文発表会/4 年生を送る会 3月9日 卒業者・進級者氏名発表 3 月 23 日 平成 27 年度卒業式・学位授与式 2 2.平成 27 年度 音楽環境運営学科 科目一覧 1)必修専門科目(専門科目 54 単位/外国語 10 単位) 専門(合計 54 単位) 科目名 年次 単位 担当教員 音楽環境運営研究 I 1 4 中川俊宏/上田順/熊澤弘 音楽環境運営研究 II 2 4 中川俊宏/上田順 音楽環境運営研究 III 3 4 中川俊宏/上村英郷 音楽環境運営研究 IV 4 4 中川俊宏/上田順/熊澤弘 音楽芸術運営実習 I 2 2 上田順 音楽芸術運営実習 II 3 2 中川俊宏 芸術文化政策論 2 4 垣内恵美子/根木昭 アートマネジメント論 3 4 上田順/熊澤弘 芸術関係法概論 4 4 村山貴子 情報機器操作・処理実習 1 4 上田順 コンピュータ音楽基礎実習 2 4 上村英郷 西洋音楽史 I・II 卒業論文 1・2 4 4 音楽学教員 2 中川俊宏/上田順/熊澤弘 外国語(合計 10 単位) 英語 I~III 1~3 2 外国語担当教員 ドイツ語 I・II 1・2 2 外国語担当教員 イタリア語 I・II 1・2 2 外国語担当教員 フランス語 I・II 1・2 2 外国語担当教員 2)選択必修科目 舞台技術概論 1 4 奥畑康夫 劇場音響概論 2 4 渡邉邦男 会計論 1 2 大内孝夫 広報・資料制作 1 2 内野博子 コンピュータ音楽応用実習 3 4 安田寿之 音楽メディア概論 3 4 上田順 演劇論・演出論 4 2 酒井誠 劇場運営論 4 4 中川俊宏 3 3)選択科目 科目名 年次 単位 担当教員 ポピュラー音楽概論 1 4 欠田芳憲 日本音楽概論 1 4 音楽学担当教員 諸民族音楽概論 2 4 音楽学担当教員 オペラ概論 3 4 金子建志 舞踊概論 4 2 稲田奈緒美/平野英俊 楽曲研究 I~III 1~3 2 米田かおり 音楽美学 3 4 茂木一衛 管弦楽法 4 4 佐藤誠一 ソルフェージュ I・II 1・2 2 ソルフェージュ担当教員 音楽実技 III・IV 3・4 2 実技担当教員 ピアノ I~III 1~3 2 実技担当教員 4)教養科目 (以下の科目のうち、4 科目 16 単位を選択必修とする) 〇哲学 〇美 学 〇倫理学 〇西洋美術史 * 〇日本文学 〇法学(日本国憲法) 〇西洋文学Ⅰ 〇経済学 〇西洋文学Ⅱ 〇西洋史 〇西洋文学Ⅲ 〇生活科学 〇国語表現法 〇音響学 〇文化史 * 〇自然科学概論 * *上記科目のうち「西洋美術史」「文学史」「自然科学概論」は、学芸員課程を取得するため の履修指定科目(2 科目 8 単位を必修とする) 5)学芸員に関する科目等 生涯学習概論 2 2 守重信郎 博物館学概論 1 2 熊澤弘 博物館学各論 I 2 4 熊澤弘 博物館学各論 II 3 4 守重信郎 博物館情報・メディア論 2 2 久保仁志 博物館教育論 3 2 熊澤弘 博物館実習 4 3 熊澤弘 *複数の教員が担当している科目については、講師の所属学科のみを記載した。 4 3.音楽環境運営学科における実習活動 音楽環境運営学科における実習について 本学科の主たる目的である舞台芸術のマネジメント人材の育成は、今まさに現場で動いている事象か ら学ぶ要素が多いという特質を持っています。もちろん講義によって身につけていく知識や情報の重要 性は常に自覚してもらっていますが、同時に、教室では学べないことがあることも強調しています。この 両者は車の両輪であり、相乗的に効果を発揮するものです。 (中川俊宏) 1)芸術文化施設見学実習(全学年) 2)バッハザールでの照明実習( 「舞台技術概論」1 年) 3)新国立劇場見学( 「劇場音響概論」2 年) 4)音楽芸術運営実習 I(3 年) 5)音楽芸術運営実習 II(4 年) 6)学生の自発的な実習活動 7)博物館学講座における見学実習(1~4 年) 1)芸術文化施設見学実習(全学年:指導教員:音楽環境運営学科教員) 〇芸術文化施設見学実習の目的 劇場・音楽ホール・美術館・博物館等を訪問し、バックステージなどを見学させていただき、スタッフ の方々のお話を聞かせていただく体験は、最良の生きた教材です。また、事前調査、プレゼンテーション、 レポートなども含めて、教育的効果は極めて大きなものがあるため、各学年の「音楽環境運営研究」の中 に位置づけています。(中川俊宏) 〇スケジュール ・日程:平成 27 年 7 月 16 日(木)~17 日(金) 7 月 4 日(土) ・事前研究発表会(於武蔵野音楽大学入間校地) 7 月 16 日(木) ・富岡製糸場/草津音楽の森国際コンサートホール見学 ・宿泊施設(本学軽井沢高原研修センター)にて研究会実施 7 月 17 日(金) ・新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)見学 5 施設概要と、見学者の感想 1 日目(7 月 16 日(木)) ①富岡製糸場 の指導・工場管理・機械の発注を任された 1 基本情報 所在 群馬県富岡市富岡 3 内部建造物 開 場 時 間 9:00~17:00(受付は 16:30 まで) 国 休 場 日 毎週水曜日(祝日の場合は翌日) 、12 重 要 文 化 財:ブリュナ館、蒸気釜所、女工館、検 月 29~31 日 査人館、鉄水槽、煉瓦積み排水溝、附、 料 金 大人 1,000(900)円、高校・大学生 宝:繰糸場、東繭倉庫、西繭倉庫 鉄製煙突基部、旧候門所 250(200)円、小・中学生 150(100)円(団体) 開 業 1872 年 4 製糸方法 富岡製糸場では、購入した繭の乾燥・貯蔵から出 2 設立に関わった人々 荷のために束ねることまでの一連の工程を機械に 尾高惇忠(1830~1901) 小さい頃から文武に優 よって行えるようになっていた。 れ政府の役人になった尾高は、製糸場が富岡に決 ① 乾繭(かんけん)繭を乾燥させる、繭の中の 定すると日本側責任者となり資材の調達や建設工 蛹を殺す事とカビの発生を防ぐ。 事の総指揮をとった。また初代所長で経営に携わ ② 選繭(せんけん)不備のある繭を除外し繭の り日本における模範工場として近代的な製糸技術 質によって等級に分け用途を決める。 の普及に力を注いだ。 ③ 煮繭(しゃけん)繭から糸を引き出す。 ④ 繰糸(そうし)引き出した糸を複数撚り合わせ 渋沢栄一(1840~1873) 明治維新となり明治 る。 政府に招かれ大蔵省の一員として新しい国づくり ⑤ 揚返(あ げ か え し)小枠に巻き取った生糸を大 に深く関わる。農家出身で蚕桑に詳しかったため 枠に巻きなおす工程。 設置主任として尽力する。 ⑥ 束装(そ く そ う)揚返をした後の生糸は出荷 のために束ねる ポール・ブリュナ(1840~1908) フランス フランス国内で製糸などの経験を積んだ後政府に 雇われ、建設場所の決定・建物の建設・繰糸技術 6 〇見学者の感想 らでも活かしていきたいと思いました。 (1 年 梅 津隼也) 富岡製糸場は自分が今回の見学実習の発表会で調 べる事になった場所でした。今まで高校や中学で 事前に行った富岡のプレゼンの内容が細かいとこ 世界遺産や国宝などの場所に行く機会が何度かあ ろまで調べられていたので、見学した際には、知 ったのですがその頃はそういう物を見学していて っていた知識の確認をしているようだった。事前 も特に何も思わず、昔にそういう背景があって建 に調べなければ、施設に対しての理解が今とは全 てられたのだなと大雑把な感想だけしかありませ く違っていただろうなと見学後に思い、事前に調 んでした。今回、自分達で調べ合い、発表し合って べることの大切さを感じました。現地で得た新し 自分が思っていた以上の事がその発表会で学べて、 い知識としては、実際に繭から糸を取り出す作業 その発表会の後に向かった見学実習での現地では の工程と、自動繰糸機の仕組みについてです。繭 この建物がどういった経緯でどの様に使われてい から糸を取り出す作業の実演が行われていて、い た、そして何故現代で世界遺産として保存されて ろいろと説明していただきましたが、その説明の いるのか、という情報を前もって学べた事で今ま 中の話で、糸を取り出した後の蚕は捨てるのでは でには無かった、現地で有意義な見学が出来たと なく、他の工場に送られたり、魚のエサになった 思いました。 りしていて、捨てるところがないという点には驚 何も事前情報が無しに見学に行ったら現地で得ら きました。蚕の一生を見ていると他の生き物のた れる情報の半分以下は消化しきれずもっと奥に踏 めに生かされてるように感じました。自動繰糸機 み込んだ疑問も出ないままになっていたのだなと については、煮た繭から生糸を繰糸する全行程を 思います。自分は今回富岡製糸場の概要のテーマ 自動化した機械で人が行う作業としては機械のメ の発表で主に富岡製糸場内部の建造物についてと ンテナンスがメインでとても近代的な機械だなと 製糸の仕方について調べたのですが、調べた時に 感じました。もう少し手間のかかる作業かと思っ 学んだ情報をまとめていた事が、実際に自分で建 ていましたが、案外簡単な作業で女工哀史があっ 造物や製糸を見て目から入ってくる情報と相まっ たと言われていますが、実際のところは他の工場 てこの施設はどういった物で誰が居たのか、など よりも労働環境は良かったのではないか、とも思 コンパクトになって頭に入ってきた事がとても印 いました。 (1 年 河口裕道) 象に残っています。 ネットで調べた情報は富岡製糸場の建物だけでし まず見学したのはフランス式繰糸器の実演である。 たが現地の富岡製糸場やその周辺では富岡製糸場 丁寧な説明とともに実演されていて分かりやすか にちなんで色々な珍しい商品が売っていたり、富 った。印象的であったのは、製糸の過程で余った 岡製糸場内部では蚕が実際に展示されており写真 繭の一部分や蛹などをそのまま処分するのではな で見たときよりもとても大きかったことなど発表 く、繭を別の工程を通して再び製糸に使えるよう では学べなかった富岡製糸場や周辺の風景や町並 にし、蛹は佃煮や魚の餌にする、という話である。 みが現地で新しく学べて良かったです。 一切の無駄を出さず繭を使いきれるように昔から 今回自分が調べたところに行って、事前に調べて 考えられていたのだととても感心した。 から現地に向かう事によって深く学ぶ事が出来る その後、部屋の奥に展示されていた蚕を見に行っ のだと思った事と、事前情報で多く人数で色々な た。ケースに入った状態ではなく、隔てるものが 内容を調べていても現地では新しい情報が次々と 何もない状態で展示されていたので驚いた。回転 入ってくるのだなと思いました。 蔟などの特殊な道具がどのように使われているか、 現地と事前で得た両方の情報どちらも大切であり 間近で見られたことは貴重な経験であった。 視点が違った情報が入ってくるという事をこれか また見学中に熊澤先生から伺った、世界遺産のよ 7 初めに訪れた富岡製糸場は事前勉強会で発表した 内容に関連している施設であり、さらにほかの人 の発表などで知識を得たことから見学することを 楽しみにしていた。 東繭倉庫ではまずフランス式繰糸機の実演を見学 し、現在でも再現できることに感激した。糸をす べて取り終わり不必要になったものは捨てずに、 家畜等にリサイクルされると知って、最後まで無 駄にしないところが良いなと感じた。また蚕が桑 の葉をのそのそと食べたり、繭の部屋で繭を作っ ているところも展示されていた。案外かわいいと うな歴史ある建物には「当時のまま保存しておき 思ったし、しっかりと仕事をしていると感じ、養 たい箇所」と「観光施設としてよりよく加工され 蚕農家を支える「お蚕さま」は偉いなと思った。絹 た箇所」があるというお話もとてもためになった。 糸は生糸より明らかに柔軟性があった。 ただ見て回るだけでなく、建物自体の細かいとこ 建物内は温度や湿度の管理が為されていた。また ろまで注目することでより一層有意義な見学にな 当時の傷がむき出しの柱や、逆に触れられないよ ると感じた。 (1 年 小林 未稀) うに覆われている部分もあった。昔からある建物 を維持するために残す部分と手を加える部分があ 富岡製糸場は世界文化遺産に登録されて、世界 るのだなと感じた。 中から大きな注目を得ている。そこで観光という 今回見学してみて、入場料が値上げをしたことや 視点から考えてみたいと思う。 立ち入ることができない建物が多いことから、物 まず、富岡製糸場と駐車場との距離が遠いよう 足りなさも感じてしまった。(2 年 に感じた。これではお年寄りや身体障害者の方に は歩いていくのに不便だと感じた。特に、車椅子 小野寺日記) 世界遺産になり、多くの人が訪れる場所となっ の方などは道幅が狭く、自動車との接触等の危険 たため地面や壁はシートが貼られていたが外壁や がある。しかし、途中の道でお土産などの販売が 天井は昔のままだった。明治からある建物を創業 あり、富岡製糸場だけでなく周りに経済効果があ 当初の状態で良好に保存するためには完全に保護 ると考えられる。 しないといけないのだと思った。お城でもそうだ また、当日は悪天候だった影響もあってか道が が外観は昔のまま、内観は現代風となってしまっ 整備されていない場所があり、歩き辛いうえに見 ており、保存のためとわかってはいるが中も昔の 学出来る所が少なかった。他にも、工事中で見学 ままの姿で見たいと思ってしまう。パネル展示や できない場所があったが、案内表示がなく判りづ 映像も、詳しく知ることができて、それはそれで らい。まだ整備が追いついていないのかもしれな 楽しいがやはり、実物を見たいと思ってしまう。 いが、世界遺産に登録された今もっと来場者のこ 富岡製糸場は見学時間がとても短く、折角の世 とを意識した環境造りに期待したい。しかし、フ 界遺産なのに全部をしっかり見学することができ ランス式繰糸器の実演や、当時のままの建物を見 なかったのが非常に残念だった。しかし、内部を 学出来る所は大きな魅力だと思う。他にも映像を 見られるのは最初の二つの建物だけで、そこはじ 使った富岡製糸場の紹介があり子供やお年寄りに、 っくり見られたので良かった。そこでは繭から糸 より富岡製糸場の歴史などを理解してもらえるだ を紡ぐ実演を見たり、実際の手触りを比べる経験 ろう。 (1 年 日髙聖羅) ができたのは良かった。生糸の製品を触るのは初 めてで、イメージは柔らかいものだったが触ると 8 固めで丈夫な感じがした。今は品種改良がなされ た。 て蚕の繭も大きくなっているが、これが当時も今 事前学習で取り上げていた産業革命遺産の軍艦 と同じ高級品として出回っており、現在と価値観 島。恥ずかしながら軍艦島は軍艦の形に似ている は変わらないのだと思った。 (2 年 安本薫) 島としか思っていなかった。 最近思うのはこのような場所は日本が何のために 富岡製糸場は平成 26 年に世界文化遺産に登録 作りどのような影響を与えていたのかをしっかり された日本の官営工場である。事前学習で自分は 学び、産業革命だけではなく、日本人だからこそ この富岡製糸場に関連する発表のために富岡市と 日本がどのような歴史を経て今の生活を私たちが の関連などを調べたうえでの見学だったので非常 歩めているのかを考えるべきだと感じた。 に有意義な時間を過ごすことができた。世界遺産 現在、世界遺産は人為的に破壊される事が出てき 登録にあたり経済効果などプラスの面も多くある てしまった。同じ過ちを繰り返さないためにも歴 中、管理、保全など様々な多くの問題を抱えてい 史と共に存在したということを忘れてはいけない るということも学ぶことができた。昨年の豪雪に と感じた。 (4 年 大江真央) よる屋根の破損など痛々しい光景も見ることがで き、今後の富岡製糸場の様々な苦労をうかがい知 現在は片倉工業から富岡市に管理が移管され、来 ることができた。また実際に見学してみて、建物 場者の累計は昨年末で 300 万人を超えている。運 から当時の雰囲気などを感じることができた。雨 営には地域の住民、また高校生などの協力が必要 の為か来場者が比較的少なく快適に見学するこる 不可欠であるように感じた。富岡製糸場内の見学 ことができた。また機会があればぜひ訪れてみた ガイドには高校生の姿もあった。ガイド、解説の いと感じた。 (3 年 今井崇貴) 一つとして木曜日、金曜日のフランス式繰糸機実 演、土曜日、日曜日、祝日の座繰り・実演イベント 事前学習で富岡製糸場の概要や歴史を学んでから が行われていたことも印象的である。富岡市の公 見学をしたので見るポイントを押さえることが出 立小中学校等であれば授業の中で蚕を育てること 来た。しかし思ったより見学場所が少なく少し残 も考えられるが、基本的には蚕、生糸作りという 念だった。東繭倉庫が主に見学が充実しており富 のは触れる機会が滅多にないものだ。短い時間の 岡製糸場の概要、実演、歴史を学ぶことができ 簡単な作業であれ、それを体験できるというのは た。小さいブースではあるが実際に作られている 非常に貴重であり、理解を深めることもできるだ スカーフなど品物が販売されているのも面白く感 ろう。また、座繰り体験の向かい側では絹製品の じた。 販売や、手触りの違いを実際に触れて実感するこ 歴史のブースには子供に分りやすく子供向け資料 とのできる展示もされていた。訪問時、東置繭所 を設置していた。合計で 4 枚あり、紙の色がそれ の奥では『浮世絵版画コレクション』展が開催さ ぞれ違うところもポイントだと感じた。天気が悪 れていた。現在は置繭所として使用していないせ かったが観光客が多く見学していた年代層として いか展示スペースとしての色が濃く、当時の面影 はリタイヤされた方など高齢の方が多いように感 はあまりないように感じたのはやや残念である。 じた。 富岡製糸場内は補修工事等で見学できない箇所 富岡製糸場は日本の近代化の為に作られた工場で が多くある。整備や調査研究が済み次第、順次公 あり日本を外国と対等な立場にするためになくて 開される計画はあるが、数年先のことになるだろ はならないものであった。教科書でさらっと勉強 う。世界遺産に登録されたことにより来場者は各 しただけでそこまで重要視していなかったが今回 段に増えた。登録前の平成 25 年度が 314,516 人 勉強したことで、富岡製糸場がなければ現在の日 であるのに対し、登録された 26 年度は 1,337,720 本とは違う道をたどっていたかもしれないと思っ 人と文字通り桁違いになっている。今年度も 7 月 9 界遺産に登録された」という比較的新しい話題が あるため、その効果もあって集客には困らないだ ろう。しかしながら前述の体験イベントも時間、 曜日が限られており、いついっても体験できると いうものではなく、基本的には子供向けになって いる。私見だが、富岡製糸場に行ったが公開され ている場所が少なく、もう一度行きたいとは思わ なかったという感想も多いのではないかと思った。 公開範囲が拡大されても来場者がいなければ意味 がない。新規来場者はもちろん、リピーターの獲 末の時点で昨年度と同等の来場者を記録しており、 今後もしばらくは勢いが続くだろう。それに伴い、 得も今後の運営には重要なはずである。例えはガ イドとは異なる講座の開講や、大人向け体験学習 イベントなど、繰り返し楽しめる企画が今後の集 富岡製糸場の周辺施設にも観光客が訪れているこ 客に関わってくるのではないかと思う。 とが予想される。しかしながら前述の通り富岡製 富岡製糸場は周辺施設の集客にも貢献し、富岡 糸場内の施設は公開範囲が多いわけではなく、立 市全体に利益をもたらしているに違いない。今後 ち入り禁止の場所も多い。また、例えば美術館や 世界遺産を守りながら、更なる地域振興のために 博物館のような展示替えも基本的にはなく、劇場 どのようなアクションを起こしていくのか注目し のように公演があるわけでもない。今はまだ「世 たい。 (4 年 田中菫香) ②草津音楽の森国際コンサートホール このホールもまた近代的なつくりで周辺の自然と 施設概要: 見事に融合したデザインとなった。 所在:群馬県吾妻郡草津町大字草津字白根国有林 音楽の森内 運営団体:群馬県草津町 1991 年の完成以来、草津夏期国際音楽アカデミー 用途:クラシック音楽のコンサート &フェスティヴァルをはじめとする音楽イベント 座席数:608 席(中規模) の会場として毎年沢山の人が訪れている。 1.音楽ホール建設の背景 2.行われる主なイベント もともと温泉地として有名であった草津町は、温 草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル 泉地から観光地への発展・さらなる地域活性化を …毎年 8 月開催 推進する取り組みに力を入れており、2001 年には ○草津温泉ジャズフェスティヴァル…毎年開催 温泉・自然・文化(音楽ホールなど)・スポーツ(スキ ○カルチャーイン草津 …町民対象のイベント。年間 1 回~2 回のコン ー場など)を融合させた、国際温泉リゾートづくり サートと 4 回~5 回の映画会を開催。 を目指す計画を制定。 そのような取り組みの中で、草津の雄大な自然の 中で音楽を楽しむことのできるホールの設計を、 建築家 吉村順三氏に依頼した。 吉村氏は当時多くのモダン建築を設計しており、 10 〇見学者の感想 草津音楽の森国際コンサートホール 辺り一面緑で さなことではあるが、舞台後方の合唱団用の椅子は 覆われて非常に開放感のあるホールだが、説明を聞 曲線状になっており座り心地が良く、長時間座った くと鉄や酸が多い分、錆びてしまい維持費がかかる ままでいなければならない合唱団への配慮が感じら ということで運営には苦労をされていることが分か れた。また、同じく舞台後方にある大きな窓は他のホ った。ホール内は、天井が高くまた客席の正面上のガ ールでは見られない光景であり、昼は雄大な自然の ラスから見える緑がホールと自然が調和していて草 景色、夜は月を見ることができるという工夫がなさ 津ならではの美しい景観だった。アカデミーの講師 れていた。 たちが多忙の日程でも、自然を見てくつろげる環境 大規模なホールとは違い、限られた用途でしか使用 だと思った。ヤマハとベーゼンドルファーのピアノ しないホールだからこそ、自然の中で音楽をするた は高価なものが設置されていたが、特にベーゼンド めの最高の空間作りが実現したのだろう。しかし、こ ルファーの音色は和音で弾いても一音一音が浮き立 れだけの施設の状態を維持するためには金銭面での って聴こえるという繊細な音をしていた。ピアノの 問題が伴うということも知ることができ、ホールの ほかにもパイプオルガンがあるがアカデミーと年に 運営・管理について考えるきっかけとなった。(1 年 数回のコンサートでだけ使うのは少しもったいない 細井優花) 気がする。また印象に残っているのは、客席の他にコ ーラス用のベンチが舞台上方に並んでいるが、この 富岡製糸場からバスに乗って山を登っていくと、草 木造のベンチの座り心地が曲線を描いていて、フィ 津音楽の森国際コンサートホールがひっそりとたた ットするような感じでとても良かった。個人的な感 ずんでいた。第一印象は「ホール」というよりも、お 想だが長時間座っていても疲れないと思うほどだっ しゃれな別荘みたいな感じだった。通常のホールと た。 (1 年 池田千穂) は違い、特徴的な屋根や、まるでどこかのバーベキュ ー場を思わせる広い敷地、さらには山の上ならでは 草津音楽の森国際コンサートホール周辺の環境の良 の自然。とても恵まれた環境といえるだろう。ホール さに驚いた。 『自然と音楽の融合』をコンセプトに掲 に着くと、ホールのスタッフさんに迎えられ、ホール げ、草津町の自然に馴染む外観、木目を基調としたデ のさまざまな説明を受けた。自分も調べたが、あんな ザインで自然の景観を取り入れたホール内・楽屋の にスムーズに説明できていたところを見ると、さす 構造はこのコンセプトを見事に体現していた。コン がと思ってしまうところがあった。こういうときの サートホールは中規模ながらとても豊かな響きを持 対応にもなれていらっしゃるのだろう。説明を受け つホールで、壁は全て木が使用されており、天井がド た後、ホールのほうを見せてもらった。そこではオル ーム型になっていることで響きが生まれていた。小 ガンだけではなく、ピアノまで触らせていただき、本 11 当に大きな経験をさせていただいた。さいごに、ホー った。日本のピアノと海外のピアノでは音域が異な ル周りを見せていただき、帰り際にはホールの天井 れば、響き等も異なることにとてもびっくりした。 (2 にある自動開閉式の扉を、普段使わないにもかかわ 年 米盛達哉) らず動かしてみせていただいた。本当に最初から最 後まで最高の見学になったと思う。 (1 年 吉澤紳吾) 自然に囲まれた空気の澄んだとても良い環境のコン サートホールだな、というのが訪れた時の第一印象 ここ草津町は当初リゾート地としてホール以外にゴ だった。交通アクセスはとても良いとは言えないが、 ルフ場やマンションが建設予定だったが、バブル崩 だからこそ音楽だけを目的に、音楽だけに集中でき 壊でその計画はなかったことに。しかし、ホールだけ る場であると感じた。それは、ただ演奏会を行うため でも建設しようと現在に至る。草津町は温泉地であ だけの施設ではなく音楽アカデミーといった学びの るため、硫黄によるホールの欠損がひどく、草津国際 場としての施設でもあることを含めて、一年生の事 アカデミーに向けた毎年の補修工事が欠かせないと 前発表の資料にもあったとおり、武蔵野音楽大学の いうことを知り、毎年いくらくらいの予算がホール 入間キャンパスにも共通している点であると思う。 にはあるのかとても気になった。 入間キャンパスと違う点は、自然光が入る大きな窓 舞台の上下手に土壁が使われていたこと、ホールの のあるホールや大きなガラス張りで緑豊かな風景が 床にカーペットが敷き詰められていて床が音を吸収 よく見えるロビーなど、自然の豊かさが室内からで してしまうのではないかということ、楽屋は特に硫 も感じられる点だろうか。特に夜になるとホールの 黄の匂いがすること、舞台の後方上の方に窓があり 中から月を覗くことができる設計になっているとい 夜は月を見ながら演奏を聴くことができるという点 うお話を聞いた時にはその粋な設計に驚いたし、ア に驚いた。オーストリアウィーンのピアノとヤマハ ーティストを癒しリラックスさせる“おもてなし”の のピアノを聴き比べてみたが、ウィーンのピアノの 精神が垣間見られる素敵な造りの自然の解放感ある 方が1音1音の音に迫力を感じ、響きがものすごか ホールになっていると感じた。 しかし、メンテナンスが行き届いていない状態であ ることやアクセスが良くないことから緊急の事態が あったときに対応できない可能性があったりと課題 の多い施設だということもお話を聞いて深刻な問題 だと感じた。実際私たちが見学させていただいてい るときもエアコンの工事を行っている最中でなんと か 8 月の音楽アカデミーとフェスティバルに間に合 うように…といった状態で、とても貸館や他のコン サートを行う余裕はなさそうだった。せっかくこん なにも素敵なホールなのだから音楽アカデミーやイ ベントの会場として以外にも自主事業を行ってたく さんの演奏会ができたらいいのに、と思ったが現状 イベントに間に合わせるので精一杯、尚且つ周りは 森なのでリピーターのお客さんが見込めないためそ ういった事業は厳しいのだろうと思うと少し残念な 気持ちになった。 また見学の際はとても自由に見学させてくださり、 舞台に上がらせていただきピアノやオルガンをあん なに自由に触り、聴かせていただける機会はなかな 12 かないのでとても興奮したし職員の方の心の広さに ールのステージ奥の大きな窓から、条件が重なれば、 感動した。 (2 年 月明かりが見えることもあるというから、ここにホ 前川佳津) ールを建てた意義は大きい。このホールのメインイ スキー場の奥にコンサートホールがあるのがとて ベントである「草津夏期国際音楽アカデミー&フェ もびっくりした。以前冬に何度か草津は訪れたこと スティヴァル」に参加する国内外の音楽家達からも、 があったが、まさかこんな所に立派なホールがある このホールと自然との調和は好評だという。草津と とは知らなかった。そしてその設備にも驚いた。あま いう場所と音楽の融合が実っている施設である。(4 り見たことのない、黒鍵で通常よりも低い音が演奏 年 猪腰諒) できるピアノや、開放的な窓、小柄ながらしっかりと したオルガンである。座席数も608席と少なくな 草津夏期国際アカデミー&フェスティヴァルで有名 い。楽屋は木々が見える窓がついた5室ある。演奏者 だが、夏期でも冷涼な環境にあるこのホールは、年間 によってはお気に入りの部屋があり、指定される場 2 カ月程しか開館していないとのことで非常に驚い 合もあるとお聞きした。入って奥にある大きな窓は た。12 月から翌年 3 月までは積雪、4 月以降は 8 月 カーテンを閉めることもできるが、月を見ながらの に開催される草津夏期国際アカデミー&フェスティ コンサートなど通常では出来ない、このホールなら ヴァルに向けての修繕工事が行われているため基本 ではの演出もできると感じた。ちょうど客席の下が 的には閉館しており、開館している約 2 カ月の間に お手洗いとなっていた。苦労としては、草津温泉が近 開催される事業や貸館、町の予算によって金銭面を く、酸による影響があるとおっしゃっていた。つまり やり繰りしている。草津町の観光課の方によると、設 メンテナウンスが大変だということである。外のベ 備の維持費にお金を費やしているため自主事業もあ ンチだけではなく、中の木なども短い期間で修繕が まり開催できておらず、細かく修繕が行われている 必要になってくる。そして何よりの苦労は、ここまで 素晴らしい施設なだけに非常にもったいないと感じ いいホールにかかわらず、60日程度しか稼働でき た。 ていないことである。何よりも職員の方が、観光課に また、金銭面もだが、事業運営に関しては担当してい 所属しているため、ホールの業務だけに集中できな る観光課では手が回らず、事業をあまり開催できて いとおっしゃっていた。ホールのデザインは三角形 いないという現状が見受けられる。ホールへのアク にこだわっていてほとんどが、三角形を組み合わせ セスがあまり良くないというのもあるが、より地元 たりし作られていた。 (3 年 の人々に身近に感じてもらうために、人手が足りな 池田智之) い中でも少しずつ事業に幅をもたせてホールを受け 昨年度の見学実習で訪れた箱根のポーラ美術館と同 入れてもらう体制を整えていくことが重要なのでは 様、こちらの「草津音楽の森国際コンサートホール」 ないかと感じた。 (4 年 久保田菜未) も草津温泉という観光地に立地しているのが一つの 特徴である。職員の方のお話を伺った中で、ある種、 このホールは昨年アルバイトスタッフとして参加し その立地が故の難点という内容もあった。それは、草 た草津アカデミー&フェスティバルで頻繁に訪れて 津という土地柄、酸が強く、施設の壁等が傷みやすく、 おり、懐かしい気分だった。改めて見学すると、自然 錆びや腐食が大変ということである。他の文化施設 と調和し人をリラックスさせる雰囲気と厳かな雰囲 では、注意を促さなくてもよいような観点でメンテ 気を併せ持つ魅力的なコンサートホールだと感じた。 ナンスを行わなければならないのは、この地で管理 パイプオルガンも併設されており、音響もよく温泉 運営していく中での宿命とも言えるであろう。しか の影響で酸が強くメンテナンスが難しい中、コンサ し、それ以上に、草津に位置する最大のメリットは、 ートホールとして良い環境であるが、使われ方につ 空間自体が自然と調和しているということだ。それ いては地方のコンサートホールの中でも特殊である。 を思う存分活用しているものとして、コンサートホ まず車なしでは訪れることが不可能であるアクセス 13 のために、草津音楽アカデミーやジャズフェズティ にまずホールに対して感じたことが、なんだか寂し バル等短期間に集客が見込まれる時期にしか基本的 い雰囲気だったからである。一定の期間だけ使用さ には使用されない。もともとリゾート開発の一環と れるのではなく町民との距離が近いホールになるた して建設されたこともあり本来の目的に沿ってはい めには、町民のニーズにあった自主事業から始め、少 るが、観光客だけでなく草津周辺の町民にとってさ しずつ町民がホールに行くことが特別ではなくなる らに身近な存在として使われるようになったら個人 ようなプログラムを考えてみたい。 (4 年 関根百花) 的に嬉しい。草津アカデミーのスタッフで訪れた際 2 日目(7 月 17 日(木)) ③新潟市民芸術文化会館 りゅーとぴあ 客席は大きな勾配により良好な視野を確保し、3 施設概要 層になっているバルコニーデザインが活気ある劇 所在: 新潟県新潟市中央区一番堀通町 場の雰囲気を持ちます。 開館時間/9:00~22:00 そして、舞台からは観客ひとりひとりの顔が見え 休館日/毎月第 2・第 4 月曜日(祝日にあたる場 るような緊張感のある空間となっています。 合はその翌日) 年末年始(12/29~1/3) 〇能楽堂 〇コンサートホール 桧床の舞台、桧皮葺(ひわだぶ)きの屋根、能の 舞台を客席が取り込み、側面や後方からも舞台を 上演にふさわしい伝統的な形式を持ちながら、幽 望むことのできるアリーナ形式。 玄の闇に能舞台の屋根が消えていくようなシンプ 波紋が増幅して重なり合うような客席と天井は、 ルなデザインとなっています。舞台正面の鏡板を 音を包み込みながら豊かに広げる効果を持つと同 外すことによって中庭が見え、野外の雰囲気も味 時に、客席間の親密で祝祭的なイメージの演出と わうことができます。 なっており、音響的にも、視覚的にもステージと 楽屋は水屋を備えた正式な茶室として「茶会」に の一体感・臨場感を楽しめます。音量感・残響 利用することができます。 感・広がり感の 3 つの要素をすべて満たし、交響 楽に最も適したホールです。 〇スタジオ 正面には国内最大級のパイプオルガンを設置して コンサートホールの舞台とほぼ同じ面積を持ち、 います。 ホールでの演奏を想定したリハーサルを行うこと が可能です。また、仮設舞台も設営できるため、 〇劇場 室内楽など小規模の発表会などの会場としても利 演劇をはじめ、オペラ・ミュージカル・歌舞伎・ 用できます。 舞踊などのさまざまな用途に適合する広い舞台と 舞台設備を装備。可動のプロセニアムアーチ(舞 〇ギャラリー 台と客席を区切っているアーチ) 、大小の迫り、 空間を自由に仕切るための可動展示パネルや展示 すっぽん付きの本花道などが多彩な舞台空間を演 用スポットなどを用意し、絵画・彫刻・書道など 出します。 の作品発表の場として最適です。 14 〇見学者の感想 りゅーとぴあは一度訪れたことがあったが、そのと きのいい香りがしました。舞台の隅にある柱を外す きはここがどういう場所なのかよく知らなかった。 ところも見せて頂きました。柱の有無で舞台の正面 コンサートホールは、全体的にステージと客席の距 が変わるそうです。また、舞台の奥にある鏡板には 離が近く、3 階席からでもそれほど遠いと感じなか 竹が描かれていますが、鏡板を外すと本物の竹林が った。劇場では、舞台上に客席を作り、臨場感を感 見えるつくりになっています。その後スタジオ B に じられる工夫が施されていた。能楽堂は、目付柱や て Noism の練習風景を見せて頂きました。Noism 鏡板を外すことができ、それによって多様な使い方 はひとりひとりで独立したダンスとは異なり、完璧 を可能にしていた。 ではない人間が共同でうみだす作品を創りあげてい りゅーとぴあは、さまざまな芸術活動に対応できる ます。また、りゅーとぴあはアウトリーチ事業とし よう工夫がされているため、ロビーのポスターは音 て地域のアーティストの方をオーディションで選 楽、演劇、能・狂言からトークショーまで、多様で び、二年間学校などの施設で講座を行う活動も行っ あった。 ています。この活動によって子供たちの芸術に対す 今回、一番勉強になったのは、 「リスナー」と「プ る関心を高め、またアーティストと地域の人々の交 レイヤー」の視点を分けて考えるということであ 流を深めることができます。このようなさまざまな る。確かに、音楽愛好家といっても、音楽を「聴 事業が新潟県の芸術文化の発展につながれば、新潟 く」のが好きな人と「演奏する」のが好きな人がい 県民としても嬉しい限りです。 (1 年 江口はな) て、それぞれ求めることが違うため、両方を一緒に 考えるのは難しい。それを分けて考え、それぞれに りゅーとぴあは本当に大きいホールだった。ガラス あった事業を行うのはとても画期的で、本当に音楽 張りの外観がきれいで、ホールが三つあり、設備も を愛する人を大切に思っている取り組みだと思っ 整っていた。入った瞬間にかっこいいなと思った。 た。自分も、今後「リスナー」と「プレイヤー」の 説明してくださった寺田さんや平石さんがとても丁 2 つの視点で考えられるよう、勉強していきたい。 寧に案内してくださってわかりやすく、さらに質疑 (1 年 応答の時間まで設けていただいた。この時、正直自 原千尋) 分で、ほかの人にとっても価値のある質問なのか自 まずコンサートホールは約 1900 席もある大きなホ 信がなく、質問する勇気が起きず質問できなかった ールですが、ステージと客席がとても近く、臨場感 のが心残りである。せっかく設けていただいた機会 を感じることができます。とても響きのいいホール なので、来年は自信を持って質問できるように頑張 なので紙をめくる音や小さく話す声もとてもよく聞 ろうと思った。 こえます。五階にある能楽堂は入った瞬間からひの 15 コンサートホールは、客席が多い大きなホールだ いるものは違う。その両者のうち、より多くの人を が、ステージが近いため臨場感が味わえると感じ 満足させるために、ここでは多くの事業を行ってい た。ステージ上も 200 名以上乗れるので大編成のオ るのだ、と思った。 ーケストラも演奏可能である。 また、Noism の担当者の方から、Noism は行政か 劇場は、ロビーの白さとは逆に真っ黒な空間で、演 ら給料ではなく契約料を貰っている、というお話が 劇等、役者がより際立つと感じた。いかようにも空 あった。その言葉から、Noism は芸術のうち舞踊部 間を変えることができるこの劇場は、多種多様な演 分の発展を行政から委託されている団体であり、そ 劇やミュージカルを上演することにもってこいであ の役目を果たすために日々活動しているのだな、と る。 より感じた。Noism が、これからどのように日本や 能楽堂では、実際に目付柱を取り外すところを見る 世界へ広まっていくのか、これから、この団体の活 ことができてとても感動した。この能楽堂は、この 動に注目したいと思う。 (1 年 山内真由子) りゅーとぴあ内にあるとは思えないくらい他とは雰 囲気が違った。一気に日本の伝統に触れることがで りゅーとぴあに入り、コンサートホールのあるイン きた。橋掛かりは、本舞台より少し段差がある理由 フォメーションからの景色が、横壁がガラス張りで も初めて知ることができ、初めての経験ばかりだっ とても開放感があり、館内からガラスを通して見て た。 (1 年 る風景が池袋の東京芸術劇場にも似た近代的な雰囲 北野絵莉) 気を感じました。とても大きなホール内では、実際 数ある施設のなかで最も印象に残ったのが能楽堂 に米盛君が歌ってくれた音を、いろいろな座席に移 だ。自分の目で初めて見ることができてとても感動 動して聴き比べができ面白かったです。 した。しかも目付柱を外す状態も見ることができ 他にも、立派な能楽堂を見学でき、初めて能舞台 た。白砂利の所が側溝のようになっていることが気 を間近で見ることができ新鮮でした。 になった。聞いたところによると、そこは空調の吸 一番印象的だったのが、実際に舞台の稽古を見学さ い込み口だそうだ。 せていただいたことで、本来は絶対に見ることがで 日本音楽概論の映像で観た能楽堂よりも本物はずっ きない、動きや演技を作り上げている場面に立ち会 と大きく感じたし、四つの柱もとても存在感があっ わせていただいたのは今までにないとても有意義な た。この広い舞台の中で面を付けて舞うという事が 時間でした。(2 年 安西慎也) いかに難しいことなのかを知ることができた。ま た、Noizm の練習を見学させていただいたことも貴 今回の見学実習の最後にして、一番の目的でもある 重な体験だ。 と言える施設がこのりゅーとぴあである。 意味は分からなかったが美しく力強いものだなと思 能楽堂では、能や狂言に限らず様々な分野のダン った。楽譜や台本がなく、どうやって動きを覚える スその他をする事ができるように、考えられて設計 のかが気になった。音楽ではない芸術に触れること されていた。また今日、目付け柱を移動して頂いた ができたのでよかった。 (1 年 スタッフが、足に足袋を履いていたのが、劇場を傷 渡辺歩) つけないようにしている心配りを感じた。 りゅーとぴあについて調べた時、何故こんなにた ホールは草津音楽の森国際コンサートホールと同 くさんの事業を行っているのか不思議だった。しか じような規模にも見えたが、実際に客席に上がって し、それは「リスナーとプレイヤーは違う」とい みると、三階席でも、側面の席でもとても演奏者と う、りゅーとぴあの考え方に基づいているのだ、と の距離が近くに見え、臨場感が得られた。 いうことが担当者の方のお話を聞いて分かった。リ また見学させて頂いたノイズム 2 は、洗練された スナーは、質の高い公演を求め、プレイヤーは、多 動きで今までに見た事のないようなものであった。 くの発表の場を求める。このように、両者の求めて このノイズムは、海外との交流を積極的に行うこと 16 や、地域や学校に繰り出し体験してもらっているよ うなアウトリーチ活動をしており、ダンサーの活躍 の場を作り出すと同時に、人々にダンスを広める活 動をりゅーとぴあ主催で行っており、これを見習う 芸術文化施設が増えれば良いと思った。 アウトリーチ活動の一環かは定かではないが、プ レイヤーである市民の為の事業として説明頂いた4 つの事項だが、音楽離れしている現代ではもっと推 進して、気軽に参加できる仕組みを全国各地で展開 をしていってもらいたいと思った。 (2 年 末廣 優 志) りゅーとぴあにはコンサートホール、劇場、能楽堂 コンサートホールには初めて訪れたにも関わらず既 の3つのホールと、2つのリハーサル室、8 つの練 視感を覚えました。何故だろうと不思議に思ってい 習室がある。 たのですが、後日、ドラマで使用されていたからだ コンサートホールは客席数約 1900 席で、パイプオ と気付きました。ホールに入った瞬間、凝った装飾 ルガンがありアリーナ式の席が特徴的。130~140 があるわけでもないのに何故か優美な印象が与えら のオーケストラを乗せることができる。舞台裏に壁 れるその広々とした空間に思わずため息が出たほど にはりゅーとぴあで演奏したアーティストのサイン です。 が書かれている。 大ホールの他にも施設が大変充実していて、コン 劇場は約 500 席で、見学時は cocoon の仕込みをし サートホールの他に能楽堂や劇場、どこの施設をと ていた。ゲネプロは 17 日の夜だが、演劇の仕込み っても広々とした空間で設備も充実しているように には約 3 日かかる。臨場感のあるシーンを伝えやす 感じました。また、全体の景観もスマートで美しい いのがこの劇場の特徴である。 印象を受けました。 能楽堂は客席数 382 席で、舞台は檜造りでよく響く よう床板は 36mm でできている。アマチュアの人 また、舞踊は、DVD で見たことがあるだけで、 実際には見たことがないのですが、その独特な踊り の稽古や発表会の他、Noism の公演やラ・フォルジ はどのようにしてつくられているのか大変興味があ ュルネなどのコンサートも行われる。役者が舞台の ったので、今回 Noism の稽古を見学させて頂けた 目印とする目付け柱は上下からつっぱっていて取り こと、私は大変嬉しかったのです。皆さんの真剣な 外すこともできる。 まなざしと、やはりその独特な世界に引き込まれる りゅーとぴあの事業はリスナーのための事業とプレ ようでした。これは是非、生で本番を見てみたいと イヤーのための事業に分かれている。クラシック初 思いました。 心者に向けた 1 コインコンサートや、小学校でのコ ンサート、地域のアーティストを起用したアウトリ 余談ですが、私達が見学に行った日に行われた、 ロシア交響楽団によるチャイコフスキー交響曲 ーチ活動も行っている。 (3 年 第 小林美智子) 4・5・6 番の連続演奏会には、私がこの交響曲がど れも大好きなこともあり、またとない機会に大変心 コンサートホールはとても広く、3 階席まであっ 惹かれ、バスを降りて見てから帰ろうかしばらく た。実際に、3 階席の一番上まで上ってみると、パ 悶々としていたほどでした。(2 年 関口瑛美) イプオルガンのすぐ横まで行くことができる。劇場 では、「cocoon」という演劇の仕込みをやっていた が、ちょうど照明のセッティングをしている所を見 17 ることができ、現場スタッフの動き等を見ることが こちらで特徴的なレジデンシャルダンスカンパニ できた。 ー「Noism」は、以前個人的に公演を鑑賞して感銘 コンサートホールの公演では舞台のセッティングや を受けていたことから、当日も興味深くお話しを伺 片付けも含めて 1 日で終わることもできるが、劇場 った。また、国内でのレジデンス事業は施設自体が では仕込みなどのため長い時間と手間がかかる。 まだ数も少なく、人的な面でも受け入れる体制が整 次に見学した能楽堂では、目付柱の取り外し作業を っているとは言えないという課題もあることを実感 見学した。ジャンルにとらわれない融合的な公演を した。 している場所なので、自分が以前行ったことのある 全国的に見ても比較的芸術文化が盛んな新潟市で 能楽堂よりも目新しさを感じた。床の下の石が敷い あるが、近年のように芸術文化に力を入れているの てある部分は空調の吸い込み口となっていて、見た は、やはりりゅーとぴあの存在が大きかったのでは 目には分からないので良い方法だと感じた。 ないかと推測できる。 (4 年 小平みのり) Noism2 の練習を見学した際は、とても緊張感があ り、体の動きで様々な表現をする舞踊の動きは 2 人 りゅーとぴあは今回初めて訪れたが、想像以上の大 以上が絡んでいて、不思議に見えた。Noism では給 きさであった。劇場の規模や多彩な事業をから、非 与という言い方をせず、契約料という言い方をし、 常に文化芸術に対して積極的な市であると感じた。 雇用関係ではなく対等に専門家の力を貸す、という 今回最も印象に残ったことはノイズムの稽古見学 ことを明示していた。 (3 年 で、静かながら緊張感あふれる雰囲気だった。理想 中村彩夏) 的な環境のなかで作品を創りあげることができるこ コンサートホール、劇場、能楽堂という充実した施 のような仕組みが、より多くの地域でも行うことが 設を持ち、ガラス張りのロビーは明るく開放感のあ できるようになると良いと感じた。また、りゅーと る印象を受ける。また、屋上には庭園、中庭には竹 ぴあは教育普及に力を入れていることも特徴である 林があり、近代的な建物の中にも自然を感じられる と感じた。一つの事業を行うことも難しいと思う 造りになっている。コンサートホールは客席に勾配 が、オーケストラや合唱、劇団など幅広い教育普及 があるため、視界を遮るものがない状態で鑑賞でき 活動を行っていることに感激した。このような立派 る。この点に鑑賞者に対する配慮を感じた。そして なソフトとハードを持った劇場がより多くの地域に 劇場は可動式の迫りや花道等の装置を持ち、能楽堂 生まれることで、その地域の活性化にもつながるの も鏡板や目付柱を外すことができる等により、幅広 ではと感じ、文化芸術の力を改めて感じることがで いジャンルの公演ができる点が魅力的であった。 きた施設だった。 (4 年 18 渋澤菜都乃) 芸術文化施設見学実習における事前研究・プレゼンテーション 芸術文化施設見学実習を実施する場合、訪問施設に対する事前調査・研究が不可欠である。この見学実 習が行われるようになってから、本学科では学部 1 年生を中心として、「見学実習の栞」を作成してき た。これは、学部一年次に履修される「情報機器操作・処理実習」の授業の一環として実施されてお り、見学実習を行うようになってから恒例化している。 この栞作成とともに、平成 25 年度より、全学年の学生を対象として、見学実習のための事前研究・ プレゼンテーションも実施している。訪問施設の基本情報のほか、各々の施設に関連する様々な事項を 学生が調査し、施設見学前後にプレゼンテーションを行うというものだ。学生は、基本的には二人一組 でプレゼンテーションを割り当てられ、指定された担当施設に関する調査内容を発表することが求めら れた。なお、この調査実施および発表準備については、博物館学講座で指導を行った。 調査結果の発表を行ったうえで施設に実際に見学することにより、個々の事例に対する理解度が深め られると共に、その内容をプレゼンテーションすることで、学生同士が批判的に意見交換を行うことが 求められている。 平成 27 年度の事前研究では上記の事項に加え、文化遺産施設である「富岡製糸場」の見学概要を、 学生自身に策定させることも行った。これは、3 年次に実施される「博物館教育論」(*学芸員課程選 択者のみ)履修者が行った。この施設の見どころを、特に学部 1・2 年次の学生に対してどのようにガ イドすることが可能であるかを検討しながら施設見学を行った。(熊澤弘) 平成 27 年度の事前研究の内容は以下のとおりである。 7月4日 (司会 3 年 小林/築田/中村/山本) ・富岡製糸場の概要 (1 年 池田/梅津) ・富岡製糸場:歴史的背景 (1 年 江口/河口) ・明治時代の日本における「産業革命」とは (2 年 青木/安西) ・「世界遺産」とは (2 年 小野寺/末廣) ・富岡製糸場が世界遺産されるまでの経緯 (2 年 関口/前川) ・富岡市の行政のなかでの富岡製糸場 (3 年 池田/今井) ・草津音楽の森国際コンサートホールの概要(1 年 北野/小林) ・草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルの概要 (1 年 吉澤/渡辺) 7 月 16 日 (司会 3 年 池田/今井) ・新潟市の概要 (1 年 原/日高) ・新潟市の文化政策の概要(市の文化イベント事例を中心に)(3 年 小林/築田/2 年 森寺) ・りゅーとぴあ の概要 (1 年 細井/山内) ・りゅーとぴあ Noism の活動について(2 年 安本/米盛) ・りゅーとぴあ レジデンス事業 とは (3 年 中村/山本) 19 平成 27 年度芸術文化施設見学実習を終えて 平成 27 年度は、1 日目富岡製糸場、草津音楽の森国際コンサートホール、2 日目新潟市民芸術文化会館 (りゅーとぴあ)の 3 施設を見学しました。宿泊は本学の軽井沢高原研修センターを利用しました。2 日 目の新潟が比較的遠方であるため、りゅーとぴあ1ヶ所の見学となりましたが、是非とも見学させたい施 設であり、有意義な体験を提供できました。今回も前年度に始めた学生による事前調査の発表を行いまし たが、見学に伴う事前学習として既に定着してきました。(中川俊宏) 20 2)バッハザールでの照明実習(「舞台技術概論」[1 年次]の授業の一環として) (指導教員:奥畑康夫) 実施時期:平成 27 年(2015)12 月 22 日、24 日 場 所:バッハザール(入間校舎) 参加学生: 「舞台技術概論」履修者(学部 1 年) 学部 1 年次の選択必修科目の一つ「舞台技術概論」(奥畑康夫講 師)の授業では、古今東西の劇場の成り立ちを学び、舞台技術の一 つである照明の定義や要素を学んでいる。この授業の一環として、 バッハザール(入間校舎)にて、舞台照明実習を行った。実習では、 舞台装置の仕込みや照明の仕込み、照明づくりを行い、舞台照明の 実務理解に努めた。 3)新国立劇場見学(「劇場音響概論」[2 年次]の授業の一環として) (指導教員:渡邉邦男) 見学日程:平成 27 年(2015)9 月 14 日(月) 見学者: 「劇場音響概論」履修者(学部 2 年) 学部 2 年次の選択必修科目の一つ「劇場音響概論」 (渡邉 邦男講師)の授業の一環として、新国立劇場バックヤード 見学を実施した。 「劇場音響概論」は、舞台芸術における音響の役割を学 び、録音・効果音作成・編集などの実習を通して舞台音響 の基礎を学び、演出家をはじめ舞台美術、照明、映像など 他の職域からなる舞台スタッフや観客との関わり方につい て学習する講義である。この講義の一環として、新国立劇 場のバックヤードを見学し、音響を含めた劇場の運用状況 を学習する機会としている。 21 4)音楽芸術運営実習 I(2 年次:指導教員:上田順) (1) 実習の概要 大学主催の大規模な公演本番に、スタッフの一員として参加し、2,000 人規模の公演運営を体験実習す る他、27 年度は、企画を基に制作から準備運営、様々な事後処理等、演奏会運営の一連の流れを体験す る大規模公演も2公演を実習対象としている。平成 25 年度から行っている地域貢献のコンサートは、今 年度から縮小している。これらの実習と併せて各種の講義により実務関連の知識を習得し、演奏会実務へ の理解を深めている。 (2) 演奏会運営 本学演奏部が社会貢献(サントリーホールカラヤン広場におけるビッグバンドジャズ公演)や他大学コ ラボレーション(文化学園大学卒業イベント)として実施している学外コンサートに於いて、以下を目的 として実習した。2 公演の詳細は別項。 ・公演にかける主催者の「思い」を理解し、本学演奏者が応えられる範囲とのマッチングを図りながら制 作・運営する。それらの経緯を体験することで同種公演への理解を深める。 ・ステージ設営から進行など公演運営を担当し、OJT(On the Job Training)形態で、講義で得た知識の 定着を図る。 ・学内公演では体験できない、学外の方達(主催者や他大学教職員、学生)との事前調整、共同作業等、 一般的な業務に準ずる作業を行い、演奏会制作と実務についてより一層深く体験する。 (3) 講義 大学主催の大規模公演当日は、所謂レセプショニストとしての実習を行うため、この部分の教育プログ ラムは、SPS(SUNTORY Publicity Service)のそれを取り入れている。内容は様々な知識と所作を含むス キル全般である。演奏家から最善のパフォーマンスを引き出すための知識については、本学の大場講師に より舞台心理の立場から講義いただいた。 (4) 演奏会実務実習 本学主催演奏会のレセプショニストとして、大規模会場における公演当日の現場と業務の流れを体験す るもの。 (5) 実習施設 ① 演奏会運営 実施日 10 月 4 日 10 月 9 日 12 月 12,13 演奏会名 会場 練馬区公民館「気軽に楽しむクラシック」 練馬区生涯 練馬区教育委員会 ArkHills 音楽週間“Ciao”コンサート 学習センター サントリーホール 森ビル 文化学園大学卒業イベント カラヤン広場 文化学園大学 日 文化学園大学 22 遠藤記念館大ホール ②演奏会実務実習 実施日 演奏会名 会場 6 月 19 日 オーティス・マーフィー サクソフォーン リサイタル バッハザール 7 月 15 日 ウィンドアンサンブル演奏会 東京芸術劇場 9 月 15 日 管弦楽団演奏会 東京芸術劇場 11 月 14 日 シンフォニック ウィンドオーケストラ バッハザール 11 月 20 日 イリヤ・イーティン ピアノリサイタル バッハザール 12 月 01 日 管弦楽団合唱団演奏会 バッハザール 12 月 02 日 管弦楽団合唱団演奏会 東京芸術劇場 12 月 14 日 ウィンドアンサンブル演奏会 東京芸術劇場 (6) 所見 今年度は、森ビルが展開するアークヒルズに於けるビッグバンド Jazz 公演と、昨年度は有志学生で制 作・運営に参加していた文化学園大学卒業イベントを正式に授業実習に取り入れた。前者は曲順や服装検 討から練習や本番の管理まで、授業枠を遥かに超えた濃い内容となった。後者は主催者側の企画長やスタ ッフとの調整やビジュアルブック(演奏会のプログラム冊子に相当)内容検討と取材対応や原稿執筆と、 前者とは全く異なる分野で実習体験ができている。 大学主催大規模公演のレセプショニスト実習は7年目となり、先輩達からの引き継ぎもあり、すっかり 定着した感がある。会場がこれまでのベートーヴェンホールと東京オペラシティーからバッハザールと 東京芸術劇場主体に変更されたが、全く問題なく実習を終えることができた。(上田順) 23 アークヒルズ音楽週間 2015 ■武蔵野音楽大学 ジャズオーケストラ Ciao!!公演(音楽芸術運営実習Ⅰ) 実習概要 10 月 9 日にサントリーホール前のカラヤン広場で行われた、武蔵野音大のジャズオーケストラ公演の 制作運営を行った。授業 10 枠(計 16.時間)を使って、演奏順決定、香盤表作成、演奏者の服装決定、 共通ワンポイントとなるワッペンのデザインと製作を行った。その他に練習管理、楽器運搬管理、会場 設営/撤去を実習した。練習管理では夜まで続く練習に立ち会い、ビッグバンド公演の企画制作運営に ついて広く理解する実習となった。(上田順) 参考)アークヒルズ音楽週間 2015出演者香盤表 2015年9月1日 音楽環境運営学科 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 学年学科 氏名 副 企 部 画 長 部 長 係 企 画 企 画 企 画 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 4 1 4 1 2 1 2 1 3 1 4 1 4 1 4 1 4 1 4 1 4 1 4 1 4 1 4 1 1 9 2 1 2 1 3 1 3 1 3 1 3 1 3 1 4 1 4 1 2 1 4 1 2 1 2 1 2 1 2 1 2 1 2 6 4 1 海 老 原 彩 香 大 吉 健 太 日 下 雅 央 高 知 尾 和 規 田 嶋 怜 奈 若 林 俊 介 冨 山 和 暉 小 笠 原 優 心 小 川 龍 太 西 山 友 理 平 木 佑 弥 田 中 瑛 美 夏 山 内 万 優 理 田 内 綾 女 宮 西 野 鷹 上 川 川 澤 野 原 瑛 舞 誉 圭 歩 美 之 香 中 三 山 谷 鈴 島 上 口 治 木 美 愛 雅 雅 耕 貴 貴 晃 太 酒 湊 青 琴 中 井 谷 木 原 沢 友 圭 大 誠 怜 香 河 翔 子 1 1 1 1 1 1 1 4フリューゲルホルン使用 4 4 4 4 4 3 1 1 1 1 1 1 1 藤 山 若 岩 越 澤 下 田 倉 當 健 創 典 宗 隆 一 子 二 史 郎 坂 田 志 織 霜 村 友 香 西 嶋 蘭 奈 宮 下 夕 芽 吉 原 佑 輔 稲 吉 啓 太 企 画 1 1 1 1 1 1 1 1 3 1 3 1 4 1 4 1 2 1 2 1 4 1 4 1 橋 本 憲 人 村 上 創 一 郎 小 林 奏 人 三 澤 怜 奈 山 本 己 太 郎 関 口 裕 夕 大 久 保 杏 子 山 中 涼 恵 楽器 曲目 Sax Fl Cl Trp Trb Perc Hr TANK A1 T2 B A2 T1 A1 3 1 4 1 2 1 2 3 4 TAKE THE A TRAIN A1 T2 B A2 T1 A1 3 1 4 1 2 3 1 2 4 BEIJO IN INOCENTE A1 T2 B A2 T1 A1 3 1 4 2 2 3 1 4 FH pc dr HAY BURNER MOON LIGHT SERENADE OBATARA fl A1 fl T2 A1 DANCING MEN IN A MELLOW TONE QUEEN BEE cl SING SANG SUNG cl B T2 A2 T1 B A2 T1 B A1,2 T2 A2 1 A1 T1 B A1,2 T2 A2 1 A1 B A2 A1 B A2 T1 T2 T1 T2 pc pc 4 2 3 1 4 pc dr pc 2 1 3 1 4 3 1 2 4 pc dr pc 1 3 1 4 1 1 2 3 4 1 2 3 4 1 1 2 3 1 4 1 1 4 2 3 3 1 2 1 2 3 2 3 dr pc dr pc FH pc dr pc 1 2 3 CRUISIN’FOR A BLUESIN’ A2 A1 T1 T2 B A2 1 2 4 1 3 2 3 1 4 dr Encore)THE CHICKEN A1 A1 T1 T2 B A2 1 2 4 1 3 3 1 2 4 dr pc pc pc ep When You wish upon a Star 4 4 19 19 ep 18 ep 13 ep 19 pc 4 4 4 3 1 pc pc 4 4 pc dr ep pc ep 1 3 2 ep 19 pc dr pc 2 2 A1 T1 dr Pf ep 20 ep 20 ep 20 pc dr pc ep pc pc 20 ep 2 3 2 3 1 1 1 2 1 2 3 4 4 1 2 5 6 6 4 5 4 4 7 5 7 4 5 5 7 5 3 4 4 4 9 5 4 5 3 4 3 6 3 5 5 4 4 4 4 5 6 8 5 8 9 8 12 3 3 3 3 参考)アークヒルズ音楽週間 紹介 Web ページ http://www.arkhills.com/event/5852.html より 24 19 20 13 文化学園大学 国際ファッション文化学科 卒業イベント『長靴をはいた猫』 (音楽芸術運営実習Ⅰ) 実習概要 12 月 11 日、12 日に開催された 3 大学コラボレーションイベント(標記)の制作と運営の実習を行っ た。イベントでは武蔵野音楽大学作曲学科学生によるオリジナル曲を含み既存曲で構成される BGM を、武蔵野音大オーケストラと声楽科選抜生により演奏、日本体育大学による大迫力パフォーマンスの コラボレーションが加わり、パフォーミングアーツとファッションショーの融合が図られた。(上田 順) イベントの紹介 Web ページ https://bwu.bunka.ac.jp/info/2015/11/2367 より 25 5)音楽芸術運営実習 II(3 年次:指導教員:中川俊宏) 学外の文化施設、芸術団体、文化関連団体等におけるインターンシップです。3年次で履修する必修科 目です。基本的に各学生が自分で実習先を探し、春休み中に先方のご担当者に実習受入れのお願いをし てきます。実習させていただく業務内容についても、その際にご相談させていただいています。実習中 は毎日実習日誌に、担当した業務や指導を受けたことがらなどを記入し、実習終了後は実習先のご担当 者の方に評価をつけていただくことになっています。(中川俊宏) 平成 27 年度の実習先および業務一覧 実習生氏名 実習期間 日 実習先(機 数 関・施設) 所在地 所沢市民文化 谷治雅晃 9 月 5 日(土)~ 12 月 23 日(水) 10 センター ミュ 所沢市並木 ーズ 山本祥悟 オフィス新音 9 月 24 日(木)~ 10 月 17 日 16 (土) (一部公演 先) ハーモニージ 池田智之 5 月 25 日(月)~ 6 月 7 日(日) 14 ャパン(一部 公演先) 今井崇貴 8 月 17 日(月)~ 8 月 28 日(金) 10 7 月 20 日(月)~ 8 月 8 日(土) 12 築田宜拡 6 月 6 日(土)~ 6 月 21 日(日) 10 中村彩夏 8 月 17 日(月)~ 8 月 28 日(金) 10 小林美智子 26 世田谷区赤 堤 渋谷区神宮 前 つばさエンタ 渋谷区宇田 テインメント 川町 練馬文化セン ター サントリーホ ール 練馬区練馬 港区赤坂 エス・シー・ 新宿区早稲 アライアンス 田 業務内容 一般事務、制 作補助 舞台音響 制作補助、資 料作成、観客 対応 一般事務、資 料作成、観客 対応 制作補助 制作補助、舞 台進行 録音・編集 6)学生の自発的な実習活動 本学科では、必修科目となっている「音楽芸術運営実習Ⅰ」 「同Ⅱ」や学科で用意した各種の実習のみな らず、学生がインターンシップに個人で参加し、積極的に体験してくることを推奨しています。事前に 「実習概要」を教員に提出し、実習後にレポートないしは実習日誌が提出された場合は、各学年の「音楽 環境運営研究」の成績評価に加点されることとしています。 (中川俊宏) 〔平成 27 年度の個人参加インターンシップ実績一覧〕 ◇小林未稀(1 年) 実習日:5 月 23 日 実習場所:三鷹市芸術文化センター(風のホール) 参加事業名:アサル馬頭琴コンサート 担当業務:舞台進行補助 ◇細井優花(1 年) 1)実習日:7 月 3 日~12 月 18 日(計 32 日) 受入団体名:フェスティバル/トーキョー実行委員会 実習場所:実行委員会事務局、アサヒアートスクエアほか 参加事業名:フェスティバル/トーキョー 担当業務:運営に関する各種業務 2)実習日:1 月 16 日~2 月 14 日(計 16 日) 受入団体名:国際舞台芸術交流センター事務局 実習場所:国際舞台芸術交流センター事務局、神奈川芸術劇場ほか 参加事業名:国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2016 担当業務:公演制作補助 3)実習日:3 月 17 日~3 月 20 日 受入団体名:主催者=多田汐里(ダンサー)・赤川純一(映像作家) 実習場所:赤レンガ倉庫 1 号館 3F ホール 参加事業名:多田汐里/赤川純一 新作公演「Into the Cave」 担当業務:公演制作補助 27 7)博物館学講座活動報告(1~4 年:指導教員:熊澤弘/久保仁志/守重信郎) 音楽環境運営学科の学芸員課程の方針 2007 年の学科開設以降、本学ではアートマネ 学芸員課程が、楽器博物館という施設に相当の恩 ジメント教育の一貫として、学芸員課程の講座を 恵を受けている点は強調しておきたい。 開設し、学芸員資格取得のための単位を認定して きた。学芸員とは、文部科学省が定義するところ 科目ごとの基本方針 では、 「 「博物館資料の収集、保管、展示及び調査 本学の博物館学講座全体の基本方針を設定する 研究その他これと関連する事業を行う「博物館 としたら、以下のとおりとなる。 法」に定められた、博物館におかれる専門的職 1.博物館学/文化遺産に対する基礎知識を学ぶ 員」のことであり、学芸員資格取得のため、わが (博物館学概論) 国では多くの大学で単位認定が行われ、多くの学 2.博物館という社会教育施設の運営と、その政 治性を学ぶ(博物館学各論 I) 生が、学芸員に必要な科目を履修し、資格を取得 している。しかし、現実的には、わが国に、たと 3.博物館で取り扱う「資料」の概念を学ぶ(博 え多くの美術館・博物館が存在しているにせよ、 物館情報メディア論) 学芸員として仕事を得る人間はほんのわずかであ 4.社会教育施設としての博物館の、「教育的側 る。むしろこの学芸員課程は、多くの学生に、歴 面」を学び、考察する(生涯学習概論/博物 史や文化遺産、芸術など、貴重な文化財に対する 館教育論) 意識を高め、芸術文化に対する意識を高める、と 5.博物館資料としての「楽器」を学ぶ(博物館 学各論 II) いう点で効果を挙げていると考えられる。 この学芸員課程のための学問は「博物館学」 6.「楽器」「音楽資料」を活用した展示企画を (Museology)と称され、そこでは座学を通じた 実施する(博物館実習) 学習のみならず、博物館資料という「実物」に即 した学習が重視される。そして、学芸員課程を開 上記の内容を達成するために、各科目では、以下 設する大学では、どのような「実物」が蓄積され のような個別方針が共有されることが望ましい。 ているか、活用可能かによって、その大学の博物 1.座学、実物に触れる学習、博物館・文化施設 館学講座のキャラクターが決まってくる。本学で などの現場での学習を、バランスよく実施する。 その実物とは、 「楽器博物館」や「図書館」が所 2.学内施設、特に、楽器博物館、図書館の所蔵 蔵する種々の資料がそれに当てはまる。 資料を十全に活用できるプログラムをつくる。 本学の学芸員課程では、最終年度に実施される 3.学外施設での学習の機会を、可能な限り確保 「博物館実習」において、通常の講義・実習とと する。 もに、 「館務実習」として、本学の楽器博物館を 主たる実習先としている。学外の施設で実習を行 上記のような基本方針、個別方針を達成するた う学生もいるとはいえ、これだけ多くの件数と多 めに、本学科の選任教員は、非常勤講師と連携し 様性を持った施設を、学芸員資格のための学習に て全体プログラム作りを行う必要があるといえ 活用できることは大変なメリットとなっている。 る。本学科は、コンサート制作などの実習活動が また、 「博物館実習」のみならず、通常の授業の 多いこともあり、博物館学の各講座が連携して、 なかでも(例:博物館学概論/博物館学各論/博 博物館学講座全体で、さらに効率的で充実したプ 物館教育論 等) 、協力を頂いており、本学科の ログラムを作ることが求められる。 28 音楽系大学における学芸員課程の意義 前者は、楽器を単に、音楽史上に残る珍しい資料 ところで、本学のような音楽系単科大学のなか として取り扱うだけでなく、その楽器資料を出発 で、博物館学講座を開設しているところはさほど 点として、音楽、ならびに、音楽に関連する文化 多くはない1。そのなかで、 「ユニヴァーシティ・ (芸術史全般、西洋・日本東洋・民俗芸能史、な ミュージアム」 、すなわち大学内の学術資産をま ど)を考察する原点とすることを意味する。ま とめた博物館を有しているところは、東京圏内で た、後者については、楽器資料を出発点として、 は国立音楽大学と武蔵野音楽大学が挙げられる。 展示されているもの/教育普及プログラムとして 本学のような音楽を専門とする単科大学にとっ 提供するものが、「来場者」「鑑賞者」 「参加者」 て、博物館学を履修可能であるという事実は、以 にいかなる効果を与えるのか、という点から理解 下の点で利点があるといえる。すなわち: することができる。 1.楽器資料を通じて、音楽と、音楽に関連する 音楽環境運営学科では、音楽文化史を学ぶきっ 文化全体を学習することができる。 かけとしての、あるいはこの領域に対する知見を 2.楽器資料を活用した展示と、教育普及プログ 深め、探求するきっかけとして、博物館学講座が ラムを展開することができる。 実行されるべく準備を進めている。音楽芸術にた いする知見の多様性を得るためにも、この講座全 体でより質の高い教育を提供してゆきたい。 (熊澤弘) 1 芸術系総合大学では、東京藝術大学大学美術館、東京藝 術大学小泉文夫記念資料室、大阪芸術大学博物館などが 思い起こされるが、音楽系大学のなかで学芸員課程を開 設しているのは、国立音楽大学、昭和音楽大学、そして 本学が挙げられる。 29 平成 27 年度に実施した学外施設見学 (学芸員課程) 博物館学講座では、講義室で行われる講義、実習とともに、学外にある実際の美術館・博物館・資料 館での見学も重視される。講義の中で取り扱われる様々な事象(博物館/博物館学史、国内外の文化施 設と制度設計、博物館資料の収集・保管・調査研究・展示・教育活動)が、現場においてどのような形 で具現化されているのかを学ぶことが、この見学では重視される。 「芸術文化施設見学実習」と同様に、 事前調査と現場見学、そして事後研究を連動的に行いながら、文化施設、そしてそのコレクションに対 する接し方を学ぶことを、この見学は意図している。 音楽環境運営学科の学芸員課程では、博物館学にとって基本である「実物を見る」 「実物に触れる」機 会を、可能な限り増やしたいと考えているが、楽器博物館/図書館という、重要な学内施設を活用した 学びとともに、外に出なければならない「多様な経験」を学ぶ機会を作っている。(熊澤弘) 全学年合同の見学施設 日時:2015 年 5 月 18 日(日) 見学施設: ・東京都庭園美術館( 「フランス国立ケ・ブランリ美術館所蔵 マスク展」) ・東京国立博物館(総合文化展および特別展「鳥獣戯画─京都 高山寺の至宝─」見学) ・国立西洋美術館(常設展見学) *指導担当:熊澤弘 学芸員課程履修者全員(1~4 年)による、東京都内の博 物館見学を実施し、東京都庭園美術館、東京国立博物館、 そして国立西洋美術館の見学を行った。 午前中は、マスク展を開催中の東京都庭園美術館を見学。 学芸員の方からご説明いただいたあと、館内を見学した。 フランスのケ・ブランリ美術館が、諸民族の「マスク」を 所蔵し、展示するということの意味を考えながら見学した。 このなかで注目されたのが「能面」の展示であった。日本 の伝統的な文化の文脈で見るのと、フランスから見た民俗 資料(から転じたアート作品)という視点から見るのとで は、その意義が決定的に変わることを実感させられる展示 であった。 午後は、上野にて国立西洋美術館の常設展示を見学。そ の後、東京国立博物館に移動し、総合文化展の見学を実施 した。いずれの見学でも、 「展示」が持つ意味を考える機会 となった。 一部の学生からの強い希望により、 「鳥獣戯画チーム」と いう別動隊をつくり、長い待ち時間に耐えながらも鑑賞す ることができた。 なお、今回のプログラムは、 「博物館教育論」(3 年次履修)の学生を中心に運営を行った。彼らにと 30 っては、スケジュール管理と資料制作を通じて、 「博物館学の経験の低い学生(=新入生)に対して、ど のようにガイドするのか、という視点を考察する機会になったのではないかと思われる。 (熊澤弘) 博物館学概論(1 年次):指導担当:熊澤弘 日時:2015 年 11 月 20 日(金) 見学施設:東京藝術大学大学美術館 ・ 「藝大コレクション展 美の収穫祭――特集 展示 平櫛田中ゆかりの作品を中心に」 ・ 「 「武器をアートに-モザンビークにおける 平和構築」展 東京美術学校開学以来の所蔵資料が展示 される「藝大コレクション」展を見学しなが ら、美術資料の分類の概念についての講義を 行った。また、同時期に開催されていた「武 器をアートに」展では、実際の武器からアー ト作品へと作り替えられたものの展示も見 学し、 「アート」が射程とする領域について考 察する機会が与えられた。 (熊澤弘) 博物館学各論Ⅰ(2 年次) :指導担当:熊澤弘 日時:2015 年 7 月 9 日(木) 各学生による一斉文化施設見学および報告 西武池袋線沿線にある様々な博物館・美術館等の施設を一時に見学した。 学生はチームを作って訪問施設について事前調査を行いながら、現場でどの ような運営がされているかを見学した。 (熊澤弘) ・清瀬市立郷土博物館 所在地:東京都清瀬市上清 開館時間:9 時~17 時(ギャラリー、講座室は 9 時?20 時) 休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、12 月 29 日~1 月 3 日 料金:無料 設立時期:昭和 60 年 11 月 設置運営:清瀬市 ・キヨセケヤキアートギャラリー 所在地:清瀬市上清戸付近 西武池袋線清瀬駅北口から駅前交番前北方向へ徒歩約 5 分 けやき通りの両側に約 1km にわたり設置 作品選定:三木多聞(元国立国際美術館館長) 31 設置時期:平成元年~5 年以降 設置団体:清瀬市 助成団体:ふるさとふれあい振興事業 ・狭山市立博物館 所在地:埼玉県狭山市稲荷山 開館時間:9:00~17:00(入館は 16:30 まで) 休館日:月曜日/第4金曜日(7 月 8 月は除く) 年末年始(12 月 27 日から 1 月 4 日) 料金:一般 150 円 *敬老の日(9 月 15 日)は、65 歳以上の方は無料。 *県民の日(11 月 14 日)は、入館者全員無料 指定管理者:アクティオ株式会社 ・石神井公園ふるさと文化館 所在地:東京都練馬区石神井町 開館時間:午前 9 時~午後 6 時 (※会議室の利用は、午前 9 時~午後 9 時 30 分) 休館日:月曜日(月曜日が祝休日のときは、その直後の祝休日 でない日) 、年末年始(12 月 29 日~1 月 3 日) 、臨時休館日 入館料:常設展示無料(※特別展観覧料は有料) 開館:2010 年 3 月 28 日 事業主体:練馬区 管理・運営団体:公益財団法人 練馬区文化振興協会 博物館情報・メディア論(2 年次) :指導担当:久保仁志 博物館情報・メディア論での施設見学は、同講義で主眼を置く「アーカイヴ」の概念に対する理解を 高めることを目的に、日本有数の現代美術資料を所蔵する「慶応義塾大学アートセンター」において、 所蔵資料見学、収蔵システム、および現代美術における「資料」の重要性に関するレクチャーを行っ た。 同日には、民族楽器資料で知られる小泉文夫記念資料室も見学した。 現代美術の意欲的な企画を数多く実施したことで知られる草月会館でも講義を行った他、東京国立近 代美術館では、映像を用いた展覧会である「Re:play1972/2015」展において、過去の展覧会を再現す る企画から、アーカイヴ概念についての考察を行った。 1.2015 年 7 月 13 日(月) 東京芸術大学および慶応義塾大学 ・東京芸術大学 小泉文夫記念資料室 所蔵資料見学および講義。 ・慶應義塾大学アートセンター 所蔵資料見学および講義。 32 ・草月会館・草月アートセンター 2015 年 11 月 9 日(月) 建築外観・資料室見学および講義/イサム・ノグチ石庭《天国》・和室見学 所在地:東京都港区赤坂 7-2-21 運営:一般財団法人草月会 ・東京国立近代美術館 2015 年 11 月 7 日 『Re:play1972/2015―「映像表現‘72」展、再演』 『てぶくろ|ろくぶて コレクションを中心とした小企 画』 『MOMAT コレクション 特集:藤田嗣治、全所蔵作品展 示』 博物館教育論(3 年次):担当指導:熊澤弘 ・東京国立近代美術館 2015 年 11 月 7 日 (博物館情報メディア論と合同) 博物館学各論 II(3 年次) :指導担当:守重信朗(本学楽器博物館) 博物館学各論 II は、音楽資料、主に楽器を「博物館資料」として扱う講義であり、本学の学芸員課程 における大きな特徴の一つである。講義では西洋を中心とする楽器の歴史を学びつつ、博物館資料と して楽器を理解するための理念も講じられる。 この講義内容にあわせて、様々な種類の楽器の修復作業を実地で見学する機会も作られており、鍵盤 楽器、弦楽器、管楽器それぞれの修理工房の見学も行った。これらの見学実習を通じて、次年度に予 定されている楽器資料展示に対する予備的な学習を 行っている。 ・日時:2015 年 9 月 26 日(土) 場所:JMC 株式会社 ピアノ修理工房見学 ・日時:2015 年 10 月 3 日(土) 場所:江古田ストリングス 弦楽器工房見学 ・日時:2015 年 10 月 3 日(土) 場所:ヤマハミュージックリテイリング管弦楽器リペアセンター 管楽器修理工房見学 33 平成 27 年度博物館実習報告 平成 27 年度の博物館実習履修者は合計 6 人で、そのうちの 5 人が、 「館務実習」先として、本学施設で ある武蔵野音楽大学楽器博物館に、1 名が府中市美術館を選択した。 1.武蔵野音楽大学楽器博物館 所在地:埼玉県入間市中神 728 武蔵野音楽大学 入間キャンパス内 概要: 武蔵野音楽大学では、教職員・学生の教育・ 研究のために、昭和 28 年から世界各地の楽器資 料を収集し、楽器陳列室で展示・保管してき た。昭和 42 年、邦楽器研究家である故水野佐平 氏から貴重な邦楽器コレクションが寄贈された のを機会に、この陳列室を武蔵野音楽大学楽器 博物館に改組した。さらに、昭和 53 年には、入 間キャンパスにも楽器博物館が、平成 5 年に は、パルナソス多摩に楽器展示室が開設されて 現在に至っている。 所蔵している資料は、楽器、楽器附属品、装置・器具類、その他の音楽関係資料の 4 部門に分類され ている。楽器部門には、数々の名器や珍しい歴史資料と世界各地の民族楽器が、楽器附属品部門に は、ヴァイオリンやチェロの名弓コレクションが、装置・器具類にはエジソンの蓄管機や歴史的オル ゴールが、音楽関係資料には、楽器演奏人形や図像資料が含まれ、その総数は 5,300 点を超えてい る。 ・実習: 楽器博物館の楽器コレクションの博物館資料としての意義を知り、展示業務に関わった。 また、実習の最後には、各実習生が、コレクションから選定した資料についてのプレゼンテーション を行った。 ・参加学生:5 名 ・実習期間:平成 27 年 9 月 28 日~10 月 9 日(10 日間) 9 月 28 日(月) 午前:概要説明、館内点検、調査テーマ決定 午後:文献調査、多摩の企画展について (入間キャンパス) 9 月 29 日(火) 展示替え作業①(梱包作業指導)(パルナソス多摩) 9 月 30 日(水) 展示替え作業②(資料の搬出・搬入、展示ケース清掃) (パルナソス多摩) 10 月 1 日(木) 午前:展示資料の点検作業料受入 午後:資料の受入について、発表準備(入間キャンパス) 10 月 2 日(金) 多摩:展示替え作業③(展示) (パルナソス多摩) 10 月 5 日(月) 館内点検(入間キャンパス) 10 月 6 日(火) 館内点検、展示作業(多摩資料返却)、移動作業(入間キャンパス) 34 10 月 7 日(水) 撮影(入間キャンパス) 10 月 8 日(木) 調査仕上げ、パネル作成(入間キャンパス) 10 月 9 日(金) パネル作成、模擬案内、反省会 2.学外施設 府中市美術館(所在地:東京都府中市) 緑豊かな都立府中の森公園の中にある府中市美術 館は、 「生活と美術=美と結びついた暮らしを見直 す美術館」をテーマに、2000 年 10 月に開館しまし た。 府中市美術館は、名作の鑑賞そして学習や創作、 発表の体験を通じて、身近に美術と出会える場所で す。美術館本来の使命である美術品の収集・保存・ 展示を活動の中心とし、また美術館ならではの教育 普及活動を行っています。 美術館は、地上 2 階地下 1 階建て建物です。1 階 はどなたでも無料で利用でき、美術図書室や、作品 発表の場としてご利用いただける市民ギャラリー、教育普及関係の施設、そしてミュージアムショッ プ、カフェなどがあります。2 階は落ち着いた展示空間となり、江戸後期から現代にいたるコレクショ ンを紹介する所蔵品展や、ヴァリエーションに富んだ企画展がご覧になれます。 (府中市美術館ホームページ: 「活動と特色」より転載) ・実習日程:平成 27 年 7 月 28 日(火)~8 月 7 日(金) ・参加学生:1 名 35 4.平成 27 年度卒業論文 1.平成 27 年度卒業論文の概要 平成 27 年度は 8 名の 4 年生が卒業論文を提出しました。中川・ 上田・熊澤の 3 名の専任教員による個別指導を中心に調査・研究 を進め、中間発表などの折には担当全教員による助言・指導を行 いました。 なお、1 月 27 日(水)10 時 30 分から、入間校地 6 号館 305 室において「卒業論文発表会」を本学科全学年の参加にて開催し、 4 年生を代表して、猪腰諒・関根百花の 2 名がそれぞれの卒業論 文の要旨を発表しました。 (中川俊宏) 2.平成 27 年度卒業論文提出一覧 谷治雅晃 「日本のジャズ・フェスティバルの運営についての考察」 猪腰 諒 「地方文化施設が 21 世紀において必要とされ続けるための方策 ─いわき芸術文化交流館アリオスを例に─」 大江真央 「よさこい祭りの変遷と地域振興」 久保田菜未 「飯田市における文化事業の果たす地域振興的役割 小平みのり 「日本におけるクラシック音楽の社会との関連性と今後の展望 ~運営体制に注目して~」 ─近代から現代まで─」 澁澤菜都乃 「新国立劇場におけるバレエ公演の在り方について」 関根百花 「プロ・オーケストラのワークショップに関する考察 ─その定義と実践事例、評価方法に注目して─」 田中菫香 「十五年戦争時のレコード検閲と放送規制~『ネェ小唄』から 『国民歌謡』まで~」 平成 27 年度 卒業論文発表会 日時:平成 28 年 1 月 27 日 10:30~ 場所:入間校地 6 号館 305 室 発表者: 猪腰 諒 「地方文化施設が 21 世紀において必要とされ続ける ための方策─いわき芸術文化交流館アリオスを例に─」 関根百花 「プロ・オーケストラのワークショップに関する考察─ その定義と実践事例、評価方法に注目して─」 36 5.音楽環境運営学科が実施した諸活動 学内外における実習について 本学科では、教室で学んだことがらをアートマネジメントの現場で確認し、また現場で体験したこと を教室での勉学に生かしていくことが重要と考えており、必修科目となっている「音楽芸術運営実習Ⅰ」 「同Ⅱ」のほか、学科で用意した各種の実習から個人参加のインターンシップまで、積極的に体験して くることを推奨しています。(中川俊宏) 平成 27 年度に学科として実施した学内外における諸活動 1)ミューズフェスティヴァルにおける音楽環境運営学科企画 ①学科主催コンサート ②入間キャンパスフラワーマップ in 武蔵野音楽大学」作成 2)松岡美術館ロビーコンサート 3)図書館での楽器資料展示 4)楽器展示におけるデジタル技術活用提案 5) その他の活動: ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 1) ミューズフェスティヴァルにおける音楽環境運営学科企画 ①学科主催コンサート(3 年次「アートマネジメント論」授業企画) (1) 概要 企画名:音楽環境運営学科 新技術紹介コンサート これで譜めくり必要ナシ!~未来楽譜 DiSco 日時:2015 年 10 月 24 日(土)13:00~13:20 10 月 25 日(日)13:00~13:20 会場:入間校舎 6 号館 201 教室 過去 2 年間、江古田ミューズフェスティヴァル期間中に江古田図 書館にて「アートマネジメント論」の授業企画コンサートを企画開 催してきているが、その第 3 回企画としてヤマハ研究所の最新技術 を利用したコンサートを、6 号館 201 教室で実現した。 なお、過去2回は以下であった。 第 1 回“福井直秋 Memorial Concert”(2013 年度) 初代学長である福井直秋先生の教育者にとどまらない多分野、特 に作曲家としての偉業にスポットライトを当てて、作品を再演す るコンサート。 第 2 回“楽器博物館所蔵楽器コンサート”「ふれて・弾いて・理解す る」(2014 年度) 楽器博物館所蔵のレプリカ楽器(自由に演奏可能)を使って、ピ 37 アノ音楽の起源であるクラヴィコード音楽に関わる楽器の特性を明らかにし、ピアノ演奏解釈への気 付きを喚起するもの。 (2) 目的 「アートマネジメント論」の授業内容は、平成 25 年度の見 直しで、より実習の性格を強めており、大学主催演奏会の制 作運営が主体である2年次履修の「音楽芸術運営実習Ⅰ」に 続く実習として、演奏会そのものを無から企画する実習で ある。従って、演奏会として話題性があり、一定以上の来場 者を期待でき、会場となる入間ミューズフェスティヴァル に相応しい内容を求められる。実習としては、コンサートの 企画から始まり、印刷物のキャッチに代表される企画内容 のブラッシュアップ、演奏枠の確保、演奏者手配、演奏者と のプログラム調整、印刷物製作、会場設営、進行準備等々、 経費関連以外の全てを体験することにある。 授業の成果物であり、コンサートに向けて準備したものには以下がある。企画書、作業工程表、機材設 備リスト、借用依頼書、広告原稿(フェスティバルプログラム用) 、会場配置図(含客席)、進行表、会 場配布資料(プログラム) 、ポスター、アンケート用紙等。 (3) コンサート概要 本コンサートは、ヤマハ株式会社研究開発統括部の全面的な協力を得て、製品試作版(商品名“DiSco”)を 活用した提案である。ピアノ独奏では、チューニングピンの上に寝せて置くことで、あたかも暗譜で弾いて いるようなアピアランスを実現、ヴァイオリンソナタではピアニストの譜めくりが不要になる点を訴求した。 演奏曲目は以下。 W.A.MOZART .............. Piano Sonata in C Major, K.545 第 1 楽章 C.DEBUSSY ................ Arabesque 第 1 番 C.FRANCK .................. Violin Sonata 第 2 楽章 38 (4) 所見 事前リハーサル時にピアノ科の先生方に声を掛けたところ、皆さん多大なる関心を示され、楽譜を置 いてソロ演奏をする、的確な譜めくりをしてもらう、という双方の訴求ポイントについて実際に早く自 分でも使ってみたいとのコメントを皆さんからいただいた。本番では研修員で伴奏分野にて幅広く活動 しているピアニストが開場と同時に待機されるなど、当該技術への関心の高さが見て取れた。本番当日 も、特にピアノ関連の方々の関心が高く、学園祭プログラムをご覧になって興味を持っていらした方も 多く、両日とも立ち見がでる盛況となった。学生にとって、来場者に価値を伝えることができる企画を 実現できたことが何よりの自信につながったようである。(上田順) ② 入間キャンパスフラワーマップ in 武蔵野音楽大学」作成(生涯学習概論授業企画) (指導担当:守重信郎[本学楽器博物館学芸員]) ミューズフェスティヴァルの企画の一環として、平成 27 年度の「生涯学習概論」において、授業の一 環として、配布用のリーフレットを作成した。(守重信郎) 1.名称: 「入間キャンパスフラワーマップ in 武蔵野音楽大学」 2.概要: A4 カラー 7 ページ(表紙を除く) 武蔵野音楽大学入間キャンパス内に咲く「花」や 訪れる「動物」などについて、各月(4 月から 10 月までの 7 ヶ月間)ごと 1 ページにまとめ、キャ ンパス地図にその名前と写真、解説文を配置し た。 3.目的 学生の学ぶ入間キャンパスの自然を理解すると ともに、学園祭で訪れる一般客に無料配布する資 料を作成することで、生涯学習に資する資料の作 成と配布という一連の作業を体験させる。また、 DTM 教室の PC ソフト「イラストレータ」の扱い をより習得させる。 4.実習内容 制作期間 平成 27 年 5 月~10 月(うち 10 回) ・授業の終り約 30 分をフラワーマップ制作の 時間とした。 ・表紙及び各月ごと計 8 名に担当ページを決め、 各自が 1 ページを制作し、 最終的に合作させた。 39 2)松岡美術館ロビーコンサート(3 年次「アートマネジメント論」授業企画) 企画概要: 松岡美術館とのロビーコンサート企画は、平成 27 年度で 3 度 目の実施となる。平成 25 年度に、松岡美術館とのロビーコンサー ト/ワークショップの合同プロジェクトが始まった際には、授業 としてではなく、学生有志が参加してこのプロジェクトは始まっ た。この年には、コンサート用の広報物の制作、ワークショップ の準備、そしてコンサート/ワークショップ当日の運営を、音楽 環境運営学科が担当した。翌平成 26 年度は、授業の一環(3 年次 の「アートマネジメント論」 )として、松岡美術館と共にロビーコ ンサートづくりに取り組むこととなった。 平成 27 年については、松岡美術館の開館 40 周年にあたる記念 の年であり、1 月から毎月第 3 土曜日に、無料のロビーコンサー トを実施することとなった。本学科は、前年から継続して企画協 力をさせていただくことになり、全 12 回のうち、5 月から 12 月 までの全 8 回のコンサートにご協力することになった。 音楽環境運営学科がご協力したのは、5 月から 12 月までの演奏 家の手配、各コンサートでのプログラム作成、コンサート用ポス ター制作、そして演奏会およびリハーサル立ち合いである。演奏 内容については、演奏者との協議を経て決定された。 所見: 松岡美術館でのロビーコンサートは、平成 27 年度で 3 年目と なった。これまでは年 1 回に開催される有料コンサートにご協力 をさせていただいたが、今回は、ロビーコンサートの実施回数が 毎月、合計 12 回にもなるという特別な機会となり、そのなかで 5 月から 12 月までの合計 8 回のコンサート制作にご協力させてい ただくことができた。 個々の演奏会については、演奏者とのコミュニケーションをと りながら配布物作成、ポスター制作を行うとともに、演奏会当日 の進行を確認するなどの準備をすすめ、本番に向けて準備を進め ていった。 学期中に計 8 回のコンサートにかかわることは、たとえ無料の 小規模企画とはいえ、相当の労力が必要となり、学生には相当の 負担となったことは否めず、準備作業についても反省すべき事柄 はあった。とはいえ、コンサート制作にこれほど連続的にかかわ ることができた点で、学生にとっては有意義な機会となった。 受講学生は、上記のようなコンサートマネジメントとともに、 活動報告書の編集・作成も併せて行った。各コンサートの詳細に ついては、この報告書で別途報告する予定である。 40 このたびのコンサート企画に対しては、松岡美術館からのご了解がなければ実施できないものであっ た。本学科の教育に多大なご協力をいただいた松岡美術館の皆さま、特に同館館長の松岡治さま、同副 館長の黒川裕子さまには、心よりの御礼を申し上げたいと思います。 また、様々な制限のある中で、今回の演奏会出演を了承くださった演奏者の皆さんにも、ここより御 礼申し上げたいと思います。それとともに、各演奏者を推薦くださった本学内外の先生方、および本学 演奏部の皆さまのご協力にも感謝申し上げます。 (熊澤弘) ○演奏会情報 2015 年 5 月から 12 月のプログラムと演奏者一覧 (演奏者は敬称略) 。 5 月 30 日(土)15:30~ ロビーコンサート アートとともに 憩いの響き-管楽アンサンブル プログラム: 1. Divertimento No.1 K.439b W.A.モーツァルト 2. 四季メドレー(春が来た・春の小川・七夕・我は海の子・ 村祭り・もみ じ・雪・冬景色) アンコール Divertimento No.5 K.439b 演奏者: 大塚さゆり (フルート:武蔵野音楽大学大学院) 浦脇健太 (オーボエ:武蔵野音楽大学別科) 土屋郁未 (クラリネット:武蔵野音楽大学大学院) 6 月 28 日(土)15:30~ ロビーコンサート アートとともに 知られざるラフマニノフを歌う プログラム: セルゲイ・ラフマニノフ(S. Rachmaninov) 1."A.ミュッセからの断片"(Op.21-6) 2."おーい!" (Op. 38-6) 3."わが子よ、おまえは花のように美しい"(Op.8-2) 4."夜の静けさに"(Op.4-3) 41 演奏者: ギルバート慶 (バリトン) ダルファンディ チャー(チェロ) 芳我英典 (ギター) 7 月 25 日(土)15:30~ ロビーコンサート アートとともに フルートデュオの魅力 ~バロックから現代まで~ プログラム: 1.若林千春《木霊…隠喩の森Ⅲ 二人のフルート奏者の ために》 2.J.H.オトテール《組曲 ロ短調 Op.5 No.4 より PASSACAILLE》 3.シュニーダー 《プロヴァンス風組曲より Ⅳ.Mistral、Ⅸ.Les Fontaines d`Aix》 演奏者: 中野一麻 (武蔵野音楽大学) 内山貴博 (パリ国立高等音楽院) 8 月 29 日(土)15:30~ ロビーコンサート アートとともに マリンバの色彩 ~ヨーロッパからアルゼンチンの 音楽~ プログラム: 1.安倍圭子 《涙のパヴァーヌ変奏曲》 2.ギジョ・エスペル 《あなたのいない静寂に耳を傾けて》 (Zamba para Escuchar tu silencio / Guillo Espel) 3.村松崇継 《Land》 4.エリック・サミュ《リベルタンゴ:マリンバ変奏曲》 演奏者:松澤美希 (武蔵野音楽大学大学院) 42 9 月 19 日(土)15:30~ ロビーコンサート アートとともに フルートアンサンブルの輝き プログラム: 1.フェルー《Octave :3 つの小品》 2.堀悦子 《3 本のフルートのための二章》 演奏者: 鈴木芙美子(武蔵野音楽大学卒業) 香川恵理 (武蔵野音楽大学卒業・現東京藝術大学別科 2 年次) 渡辺梨乃 (武蔵野音楽大学卒業・現東京オーラル ミュージック新宿校講師) 10 月 31 日(土)15:30~ ロビーコンサート アートとともに 遥かなときを超えて―箏曲の彩り プログラム: 宮城道雄 1. 《数え唄変奏曲》 2. 《ロンドンの夜の雨》 3. 《衛兵の交代》 演奏者: 松田育子(邦楽奏者) 11 月 28 日(土)15:30~ ロビーコンサート アートとともに マリンバの響き―バッハからコンテンポラリーまで プログラム: 1 .フェデリコ・モンポウ 《 コンポステラ組曲 》 2. J.S.バッハ 《 無伴奏チェロ組曲 第 6 番 》 3. 早坂 文雄 《 春夫の詩に依る四つの無伴奏の歌 より うぐひす 》 4. ハロルド・アーレン(ロバート・オエトモ編) 《 虹の彼方に 》 43 演奏者: 長谷翔太(武蔵野音楽大学大学院) 12 月 12 日(土)15:30~ ロビーコンサート アートとともに 名曲にふれる-ヴァイオリン デュオ コンサート プログラム: 1.ルクレール 《2 台ヴァイオリンの為の 6 つのソナタ 第 5 番 ホ短調》 2.ニールセン 《ヴァイオリン二重奏 イ長調》 3.フォーレ 《シシリエンヌ》 演奏者: 橘麻衣(武蔵野音楽大学研修員) 山本有莉(東京国際芸術協会会員 *会場風景 44 3)図書館での楽器資料展示(4 年次「博物館実習」授業企画) 音楽環境運営学科が開設する学芸員課程では、1 年次から 3 年 次までに博物館学系科目(博物館学概論、各論、教育論など)を 履修したのちに、最終学年で実践的な科目である「博物館実習」 を実施している。この科目では、学外の館園でのインターンシ ップである「館務実習」とともに、年間を通して、博物館学に関 する実践的な企画として、資料展示を行っている。この企画で は、学内の学術資産が集約されている楽器博物館、図書館にご 協力をいただき、モノ(展示物としての楽器資料、図書資料な ど)とバ(展示スペース)を提供していただいている。 例年、博物館実習では、10 月下旬に大学で開催されている学園 祭(ミューズフェスティヴァル)の機会に資料展示を行ってい たが、今年度は諸事情により予定変更し、11 月 6 日~12 月 2 日 の期間に、図書館 2 階の展示スペースのなかで、二つの企画を 実施した。 1:ラテンアメリカの笛特集 2:吟遊詩人の世界 履修学生は、限られた時間のなか、資料調査・展示、配布物、ポスターなどの準備を、手際よく進めること ができた。展示ケース一つという小規模な展示ではあったが、何をどのように展示すべきかを入念に検討し、 楽器博物館との調整も自ら行ったほか、展示および様々な制作物を作成して進めることができた。 この展示企画にご協力をいただいている楽器博物館の皆さま、図書館の皆さまに心より御礼申し上げます。 (熊澤弘) 企画①: 「博物館実習企画:ラテンアメリカの笛特集!」 日時:2015 年 11 月 6 日(金)~11 月 18 日(水) 場所:武蔵野音楽大学 大学図書館 2 階 主催:音楽環境運営学科「博物館実習」講座 協力:武蔵野音楽大学楽器博物館、武蔵野音楽大学図書館 企画概要: 博物館実習企画 ラテンアメリカの笛特集!」にお立ち寄りいただ き、ありがとうございます。 この企画は、音楽環境運営学科学芸員課程履修者の 4 年生の博物館 実習の授業内企画であり、武蔵野音楽大学楽器博物館と武蔵野音楽大 学図書館の協力によって実現しています。 ラテンアメリカとは、中南米に位置する 33 の独立国といくつかの非 45 独立地域を指します。そこで古来より用いられていた笛は、先住民の生活と深く結びついた非常に重要な楽 器でした。 今回「ラテンアメリカの笛特集!」では、このラテンアメリカの笛に焦点を当て武蔵野音楽大学楽器博物 館に収蔵されている貴重な資料のなかから見た目にも楽しい楽器 4 点を紹介いたします。 ラテンアメリカの独特な雰囲気と鮮やかな色合いを楽しんでいただければ幸いです。 どうぞお楽しみください。 音楽学部音楽環境運営学科学芸員課程履修者 大江 真央/澁澤菜都乃/関根 百花 (配布用リーフレットより転載) ~おわりに~ このリーフレットは、音楽環境運営学科が開設する学芸員課程の「博物館実習」 (4 年次)で実施した、楽器 資料等の展示企画のために作られたものです。学芸員課程で学ぶ学問は「博物館学」 (Museology)と呼ばれ ますが、これは博物館資料や文化財などの「資料」 (モノ)をどのように収集、保管し、調査・研究し、そし て展示などの教育的な配慮とともに「活用」する方法を考えながら、文化・芸術に対する知見を高めてゆく 学問です。 本学科の学芸員課程は、本学の特性を生かして、楽器博物館や図書館が所蔵する音楽関連資料にアクセス して学んでいます。加えて、インターンシップとして楽器博物館での実習に毎年参加させていただきながら、 「楽器」をいかに扱い、「活用」することが可能となるのかを学んでいます。そしてその活用の一環として、 楽器資料の展示企画を行っています。 今年度の展示では、受講している学生がゼロレベルから企画案をつくり、調査を経て、資料展示までを行 いました。今回の「ラテンアメリカの笛特集」企画は、その原点には「お祭り」にふさわしい華やかな民族 楽器への関心がありました。しかし、見た目に楽しそうな外観を持つそれらの楽器には各々、ラテンアメリ カの長きにわたる文化的背景があります。その歴史的な厚みを、今回展示されている楽器から感じていただ けるとありがたいです。 今回の企画を担当した学生は、ともすれば曖昧になりか ねない民族楽器の興味深い特性にスポットライトをあて、 様々な状況変化に対し、臨機応変に対応しながら一つのプ ロジェクトを完成にまで仕上げました。展示される資料の 数は多くはありませんが、それなりの完成度を持つ状態に まで仕上げた点が、評価できる部分ではないかと思います。 このたびの企画につきまして、楽器博物館の皆さま、図 書館の皆さまには大変お世話になりました。ここに記して 御礼申し上げます。 (指導担当:熊澤弘) (配布用リーフレットより転載) 46 企画②:吟遊詩人の世界 日時:2015 年 11 月 20 日(金)~12 月 2 日(水) 場所:武蔵野音楽大学 大学図書館 2 階 主催:音楽環境運営学科「博物館実習」講座 協力:武蔵野音楽大学楽器博物館/武蔵野音楽大学図書館 展示企画概要: このたびは博物館実習展示企画「吟遊詩人の世界」をご覧いただき、誠に有り難うございます。この企 画は博物館学 4 年間の成果であると共に、たくさんの方々のご協力によって実現いたしました。 さて、本企画にて展示するのは「吟遊詩人」と呼ばれる人々と、彼らが愛した楽器の世界です。吟遊詩 人は中世ヨーロッパに花開いた音楽文化の一つでした。楽器と共に、彼らの姿が描かれた絵画をご紹介 いたします。音楽と絵画、異なる芸術が結びつき、セ気圧の中に溶け込んでいたことがお分かりいただ けることでしょう。当時の生活、そして吟遊詩人の世界を少しでも感じでいただけましたら幸いに存じ ます。 音楽環境運営学科 久保田菜未、小平みのり、田中菫香 (展示用リーフレットより転載) ご挨拶 このリーフレットは、音楽環境運営学科が開設する学芸員課程の「博物館実習」(4 年次)で実施し た、楽器資料等の展示企画のために作られたものです。学芸員課程で学ぶ学問は「博物館学」 (Museology)と呼ばれますが、これは博物館資料や文化財などの「資料」 (モノ)をどのように収 集、保管ン氏、調査・研究し、そして展示などの教育的な配慮とともに「活用」する方法を考えなが ら、文化・芸術に対する知見を高めてゆく学問です。 本学科の学芸員課程は、本学の特性を生かして、楽器博物館や図書館が所蔵する音楽関連資料にア クセスして学んでいます。加えて、インターンシップとして楽器博物館での実習に毎年参加させてい ただきながら、 「楽器」をいかに扱い、どのように「活用」することが可能となるかを学んでいます。 そしてその活用の一環として、楽器資料の展示企画を行っています。 前期(11 月 6 日~18 日)に実施した「ラテンアメリカの笛」特集とは異なり、 「吟遊詩人」に焦点 をあて、その歴史の一端を、楽器博物館所蔵の楽器を通じて紹介するものです。ギリシャ神話のオイ ディプスをはじめとして、 吟遊詩人の姿は、文学や美 術などの作品に数多く登場 しています。今回展示する リュートとハーディ・ガー ディはともに、ルネサンス 期からバロック時代の絵画 作品にしばしば描かれてい ます。今回は参考作例とし て、フランス・ナントにあ る美術館が所蔵するジョル ジョ・ド・ラ・トゥール策 47 のものを紹介しています。絵画に登場する楽器が、どのような音を奏でていたのかを考えながらご覧 いただけると、より一層楽しんでいただけるのではないでしょうか。 このたびの企画につきまして、楽器博物館の皆さま、図書館の皆さまには大変お世話になりまし た。ここに記して御礼申し上げます。 熊澤弘 (展示用リーフレットより転載) 48 4)楽器展示におけるデジタル技術活用提案 (「コンピュータ音楽応用実習」 講師 安田寿之) 概要: 楽器博物館所蔵の貴重なコレクションから楽器選定、サンプリング録音/プログラム/電子鍵盤に割り 当てた試奏システムを構築、当該楽器と対として展示する。 目的: ・ 新楽器博物館(2018年開館)来場者への能動体験の提供 (能動的) 電子鍵盤で擬似的に演奏できる > 演奏者の演奏録音をデジタルプレイヤーできく> 楽器を鑑覧する (受動的) ・ 貴重楽器音源のアーカイブ 工程: 1. 楽器選定、準備 膨大なヴィンテージ楽器の中より、録音/プログラムの可能性、演奏許可、重要性など諸条件により楽 器を選定。 調律、メンテナンスなど録音準備。 2. 録音、プログラム 音階別/ヴェロシティ別に録音、編集。サンプラーソフトウェアでプログラム(チューニング:オリジ ナル、平均律など) 。電子鍵盤で試奏できるシステム構築。 上記1-2を、まずは鍵盤楽器の中から(展示の視覚的符合)1もしくは少数でトライアルし、工程バラン スの目途を立てた上で随時楽器数を増やしていく。 3. 展示、広報、活用 新楽器博物館(2018年開館)にて、実際の楽器を観覧できる場所にセットで試奏システムを併設。(こ の楽器がこういう音がする、という高ユーザビリティなプレゼンテーション) アーカイブ版として、様々な楽器を試奏できるシステムも設置。(文化財的楽器をまとめて疑似演奏で きるエポカルなプレゼンテーション) 文化財的価値を持つ楽器を「誰でも」 「いつでも」試奏できる、デジタル技術を活用した楽器展示の新た な試みとして告知。 演奏会での導入、ソフトウェアとしての販売など、音源プログラムの活用。 システム案: 電子鍵盤とサンプラーソフトウェアのインストールできるコンピュータかタブレットで構築。 以下、システム概要図。 49 懸案事項: ・ 予算組み(調律/録音/プログラムなどの作業費や機材費などの費用調達) ・ 調律の困難さとプログラムとの兼ね合い。 ・ 鍵盤楽器から開始するとして、どういう楽器に/どこまで発展させていくか。 進捗: ・ 2015.5 本提案考案。中川先生、上田先生、熊澤先生に提案。意見交換。 ・ 2015.7 テスト録音を目指し、楽器博物館 守重先生、上田先生とピアノ選定。候補:Conrad Graf (1845年頃、オーストリア ウィーン) 、J.F.Marty(1800年頃、ドイツ) 。 ・ 2015.10 Conrad Grafをテスト録音。プログラム。 ・ 2015.11 楽器博物館長、守重先生、職員の方々に試奏していただく。 50 5)その他の活動 他学科との連携:外国語学科の教材作成 本年度も英語科とドイツ語科のリスニング教材制作に全面的に協力した。いずれも、改変部分とリス ニング・テストのデータ収録のみで編集と CD 制作を自学科内でされるようになり、作業時間はそれぞ れ半日程度と減少傾向である。 このほかに器楽学科やヴィルトーソ学科生のコンクール事前審査や奨学金の応募 CD、留学先への提出 用 CD 作成に協力している。事前審査に関しては合格率 100%である。 FD活動 学科内の FD 活動として、コーチング講習を報告者(上田)が講師を務めて 2 回開催した。 第1回 日時・場所:12 月 5 日 1-308 室 概要 ・タイプ別コミュニケーション ・Communication Skill 効果的な褒め方 正しい褒め方 第2回 日時・場所:2 月 21 日 1-308 室 概要 ・質問力 -質問力とは何か -質問の種類 51 6.特集:池田温名誉教授追悼 池田温先生追悼 福井直敬(武蔵野音楽大学学長・理事長) 池田温先生が逝かれて半年余が過ぎました。 先生に初めてお会いしたのは、先生が文化庁文化部芸術課の 芸術調査官として活躍されていた昭和六十年頃であったと記憶 しております。先生の優れたご業績はもとより、誰とでも分け 隔て無くお付き合いくださる明るく誠実なお人柄、従って広い ご人脈をお持ちの先生に、本学へのご出講をお願いした時であ ったと思います。歳月の流れは早いもので、それからすでに三 十有余年が経ちました。 文化庁ではその後主任芸術文化調査官に栄進され、引き続き 公益財団法人 新国立劇場運営財団の事業部長へ転進されたの で、当初は非常勤講師としてご就任いただきましたが、平成十 二年、新国立劇場ご勇退を機に教授としてお迎えいたしまし た。大学では図書館・博物館参与、音楽教育学科長、学務部長 を歴任された後、新設された音楽環境運営学科長と演奏部長を 兼務され、それまでの優れたご業績、卓越した手腕を生かして 誠心誠意ご尽力くださいました。 思い出すだけでも、本学とリストアカデミーとの交歓演奏旅行、ウィンドアンサンブルの米国公 演、オーケストラのドイツ公演、またアートマネジメントを中心とする音楽環境運営学科の新設な ど、どれもが先生抜きでは為し得ない大きな事業でした。 一方、この間も独立行政法人 日本芸術文化振興会をはじめ数多くの公的機関における役員や委員、 さらには全日本音楽教育研究会や公益財団法人 音楽鑑賞振興財団等の役員や評議員を積極的に務めら れ、指導者としてのみならず運営管理者として広く積極的に活躍をされておりました。 他界される4ヶ月程前の平成27年5月、所定の手続きを経て、先生に名誉教授の称号をお贈りし 大変喜んでいただけたことは、私どもにとりましてせめてもの慰めであります。 先生が大学を卒業された昭和三十六年、初めて公立学校の音楽教諭として教壇に立たれてから、正 に半世紀を優に超える長い間の多彩なご業績のかずかずは、その時々にご交誼を持たれた多くの方々 によって、わが国の芸術界、音楽教育界に広く染みわたり、いつまでもその発展に活かされて行くも のと信じております。 先生の御霊の平安ならんことを、改めてご祈念申し上げます。 平成 28 年 5 月 52 合掌 人の気持ちを和やかにしてくれる天才――故池田温先生を偲んで―― 丸山忠璋(武蔵野音楽大学名誉教授、元音楽教育学科長) 池田先生は、つねに周囲の人たちの気持ちを和やかにしてくださる方で、その類稀なる能力は何人 も及びつかないものだったのではないでしょうか。またその幅広い人脈を生かして、本学に多くの人 材を引っ張っても来られました。 私が初めて先生とお会いしたのは、昭和 63 年 4 月、文部省(現文科省)初等中等教育局に教科書調 査官として赴任したときでした。当時、池田先生は文化庁におられましたが、新参のわたくしを温か く迎えて、省内の合唱団のメンバーに加えるなど活躍の場を与えてくださいました。 その後、わたくしは横浜国立大学に転勤し、先生とはしばらく全日本音楽教育研究会の会合等でお 会いする程度でしたが、60 歳を超えたあるとき、本学へのお誘いをいただいたのです。これはもう先 輩の命令でもあり断ることはできないと判断して、本学に移ることを決めたのでした。 本学に来てまもなくのころ、長崎大学から集中講義のお誘いを受け、池田先生とともに 8 年ほど通 いました。先生とごいっしょのときは、まったく余計な気を遣う必要がなく、つねに楽しい時間を過 ごすことができました、長崎行は池田先生にとっても日頃の疲れを癒す貴重なひとときになっていた のでは、と感じています。 ご病気で入院されたといっても、先生はつねに携帯を手放されず、見舞いに行ったこちらが逆に癒 されて帰るという始末。そんな気の遣い様が先生の寿命を縮めてしまっていたのだとしたら、ほんと うに申し訳ない気持ちでいっぱいです。 心からご冥福をお祈り申し上げます。 ありがとう!!池田 温 先生 田中通孝(元音楽環境運営学科教授) 池田先生との初対面は昭和51年春、府中市立第五中学校に美術教師として赴任した折りに、合唱 指導で数々の実績を上げられていた先生が職員室の向かいの席におられました。同校の合唱部の中に は音大に進み、後にプロとして活躍している卒業生も居ます。先生が始められた全校で行う合唱コン クールは今も継続され卒業生たちの楽しい思い出として語り継がれています。ありがとう!!池田 温 先生。 平成元年、自分は文化庁文化部芸術課に赴任した折りにまた、席を向かい合い仕事をすることにな りました。文化庁では音楽の専門家としての初代調査官だったと聞いています。音楽家ばかりでなく 全ての芸術家の人材育成、地位の向上、発表の場の確保など休日返上の毎日を過ごされ、文化庁芸術 祭、在外研修、顕彰活動、助成活動等でお世話になった芸術家は計り知れない数に上ります。ありが とう!!池田 温 先生。 新国立劇場の建設に当たっては建設場所の選定から、基本構想、基本計画、建築計画、運営計画等 全ての活動の中心となって仕事をこなされ、開場とともに事業部長として現在の同劇場の活動の基礎 を築かれました。中でもオペラシティーとの共同開発による、オペラ、バレエ、演劇、オーケストラ 各々が専用ステージを持ち芸術家の育成から公演までの機能を備えた我が国初の劇場として完成しま した。ありがとう!!池田 温 先生。 53 また、池田先生は多忙の中、青年海外協力隊の専門委員としての音楽部門の募集に関すること、選 考、各訓練所での講義から派遣先でのバックアップ等を担当し、多くの隊員が実績を残して帰国後全 国で活躍しています。自分は美術・デザイン、写真、学芸員等の担当でここでもご一緒させて頂きま した。ありがとう!!池田 温 先生。 さらに、平成17年からは大阪学院大学で勤務して居ました自分に武蔵野音楽大学に音楽運営環境 学科を新設する旨、博物館学芸員課程の指導をとのお声かけをいただき赴任することになり、ここで も席を並べて仕事をさせて頂きました。大学での先生のご活躍は周知の通りでありますが、今年で開 設10年、それぞれの現場で活躍している卒業生たちの将来が楽しみです。 ありがとう!!池田 温 先生。 池田温先生とのご縁 中川俊宏(本学科教授) 私が国立劇場の養成課という部署で伝統芸能の伝承者育成事業に携わっていた平成 10 年のことだっ たと思います。新国立劇場でオペラ研修が始まるにあたって、担当の方がご挨拶に見えました。同じ国 立の劇場の人材養成事業と言っても、仕事の上で何らかの接点があるわけでもなく、 「よろしく」と言葉 を交わしただけの出会いでしたが、その折にお目にかかったにこにこと愛想のいい紳士が事業部の池田 部長という方であったことは、申し訳ないことながら、その時はあまり意識もしていませんでした。 その前後であったと記憶していますが、ある演劇関係の雑誌が芸術家の人材育成について特集を組み、 私が依頼を受けて伝統芸能の人材育成システムについて書くこととなりました。その特集で、拙稿と並 んでオペラの人材育成について書いておられたのが、やはり新国立劇場の池田部長でした。 そんなことのあった翌年、私は図らずも文化庁芸術文化課に演劇・舞踊等の担当調査官として異動す ることになったのですが、そこに3年ほど前まで、音楽担当の主任調査官として在職しておられたのが 池田先生だったのでした。池田先生は、新国立劇場に転職されてからも文化庁にはこまめに顔を出され ていたので、そこで漸く昼食をご一緒させていただくような近しい関係になりました。 文化庁に移ってまだ間もない頃、あるバレエ関係の授賞式とパーティがあり、私も上司のアテンドで 付いて行っていました。しかし、知っている人とて一人もなく、もちろんアテンドらしい働きなど何も できず、所在なく時を過ごしていたところ、救いの神のように池田先生が現れ、舞踊家や舞踊評論家の 先生方につぎつぎと私を引き合わせては、「今度文化庁に着任した調査官ですのでよろしく」とお願い して回ってくださいました。 さらに私が、国立劇場時代の上司の後を受けて、本学の非常勤講師として「文化史」という科目を担 当させていただくようになりますと、そこにもまた池田先生のお姿がありました。池田先生はやがて新 国立劇場を退職され、本学の教授に就任されたわけですが、土曜日の午前中に「文化史」の授業を終え た私は、図書館・楽器博物館参与を勤めておられた池田先生のところへちょくちょく顔を出すようにな りました。池田先生からアートマネジメントの学科を創設する計画があることを知らされ、「それは面 ひ と ご と 白そうですね」と他人事のようにお話を伺っていた私は、いずれ自分がその学科の学科長を池田先生か ら引き継ぐことになろうとは、まったく予想だにしておりませんでした。 池田先生と田中通孝先生のご縁はまるでドラマのような話でありますし、池田先生と上田順先生が同 郷のご出身であったのも、偶然とはいいながらご縁を感じる話でした。お二人ほどではありませんでし 54 たが、私もまた池田先生との浅からぬご縁に引き寄せられて、今ここにいるのだという ことを、心からの感謝の思いとともに感じています。 池田先生との思い出 上田順(本学科講師) 池田先生をお見送りしてから、まもなく8ヵ月になろうとしていますが、今でも研究室にいるとあ の柔やかな笑顔で「こんにちは~」と入っていらっしゃるような錯覚を覚えます。先生のご逝去があ まりに惜しく認めたくないのかもしれません。 先生は、日本の音楽界について極めて該博な知識をお持ちでした。何をお訊きしてもたちどころに 教えてくださり、先生がいらっしゃる安心感はかけがえのないものでした。また、小さな事でもこま めに誉めてくださり、先生とご一緒していると何度力づけられた事か分かりません。 もう少し早くお会いしたかったと残念です。 先生と初めてお会いしたのは、学科開設準備中の 2005 年 7 月 30 日仏子駅北口でした。色々打ち合 わせを終えて学食でランチを囲んだ時に先生が私の出身地を問われたことから、私が先生と同じ福井 県武生市の小学校、中学校(校舎のみ) 、高校卒業であること。先生のお宅の横を通って通学していた ことが分かり、大先生との距離が一気に縮まったのでした。 これからも先生を目標にして参ります。11 年間でしたが、本当にご指導ありがとうございました。 心より御礼申し上げます。 池田先生を偲んで 上村英郷(本学科講師) 池田先生の御逝去から早や半年余りが経ちました。今思い返しましても、そのあまりに突然の計報に は驚愕と悲嘆のほかなく、改めて衷心より哀悼の意を表する次第です。いつも穏やかな笑顔を絶やさな かった先生のお顔を思い起こすたびに、何とも言えぬ寂寥感に襲われます。 池田先生が長きにわたり築き上げてこられた数々のご功績は極めて多様で、文化庁、新国立劇場運営 の実務をご担当され、音楽の振興と文化の向上に多大な貢献をなされたご経験をもとに後進の指導にあ たられ、本学音楽環境運営学科創設にもご尽力されました。 当時、本学器楽学科でピアノを指導していた私が、初めて先生と直接お話しする機会を得ましたのは、 音楽環境運営学科創設に携わることとなった 2005 年頃からです。音楽環境運営学科長と演奏部長も兼 務しておられた 2012 年には、本学ウィンドアンサンブルとの共演時に何時も励ましの言葉をかけて戴 けたことが非常な喜びであり誇りでもありました。 いつも周囲の発言に丁寧に耳を傾けられ、よく皆の意見を汲み上げた上で、手際よく、かつ現実的な とりまとめをされました。 幅広い視野に立って事態を把握する力量と洞察力と、大きな包容力に常々 感服致しました。 その根底には、「一人でも多くの人に素晴らしいクラシック音楽を聴いてもらいたい」という理念と ともに、クリエイティブでクオリティの高いコンサートを提供するにあたって、 「心」で向き合い、マニ ュアルに則った行動ではない、人としての「心」の精神というものを中心に据えて、予期せぬ事態にも、 55 より迅速に対応していきたいという「心」があったように思います。 これからは先生の教えを受けた多くの後輩が先生の意思を繋いで音楽の発展に寄与することを祈念 申し上げまして追悼の辞とさせていただきます。 池田温先生に接した 3 年 熊澤弘(本学科講師) 池田先生ご逝去のご連絡を受け取ったとき、私はドイツ・ボンで、長年にわたって準備を進めてき た印象派の展覧会準備の最終調整を、現地美術館で進めているところでした。ご葬儀に伺うことので きなかった私は、その報を受けた夜、東の方角に向かって一人献杯を掲げることしかありませんでし た。先生と最後にお話をさせていただいたのは、2015 年度のはじめのことです。池田先生が名誉教授 を授与されるために入間校舎にお越しになったとき、桜の舞うなかで先生と写真を撮らせていただい た時が最後の機会となってしまいました。 池田先生とのご縁は、私が本学でお世話になるようになった 2012 年からの 3 年という短いものであ るため、私自身は先生のこれまでの業績を語る資格はありません。しかし先生とご一緒することので きた 3 年間は、私にとって極めて印象的なものでした。2012 年からの 2 年間、音楽環境運営学科の仮 研究室が江古田校舎に開かれたのは演奏部長室の向いの部屋でした。この学科で私がどのように活動 をすべきかに悩んだ折、池田先生はご多忙であるにもかかわらず、私のような若輩者の相談にたびた び乗ってくださいました。あるときは学生の指導方法を、あるときは外部機関との折衝に際しての注 意事項を、ある時は演奏家の方々への対応など、様々なご助言をくださいました。そのご助言に、先 生のこれまでのアートマネジメントの現場の膨大な蓄積が垣間見え、先生への畏怖の念を禁じえませ んでした。 このような現場に即したご助言以上に印象に残っているのは、先生の音楽的なご経験に触れる瞬間 があったことです。江古田校舎の外で昼食をご一緒したとき(そのような機会には時に、現演奏部長 の八反田さんもご一緒されていました) 、先生が学生時代、作曲家の箕作秋吉先生の平塚のご自宅に足 を運ばれたことを、懐かしそうにお話されていました。また、オペラのお話で、カルロス・クライバ ーがミュンヘンで指揮したオペレッタ《こうもり》のことで大いに盛り上がり、とりわけ第二幕に登 場するオルロフスキー公爵役のブリギット・ファスベンダーのアリア”chacun à son gout”での芸達者 振りが先生のお気に入りであったことも、懐かしく思い出されます。 このようなお気遣いや音楽的なご経験のみならず、池田先生に対して私が最も共鳴したのは、仕 事、芸術、そして人物に対する厳密な目でした。様々なお気遣いをなさりながらも、先生はクオリテ ィに対して妥協なき精神をお持ちでした。それを体感することができる機会があったことは、私にと って忘れ難き経験となりました。だからこそ、池田先生とは率直に、ある時には激論ともいえるよう なお話をすることができたのだと思っております。そして、そのような私を寛大にも受け入れてくだ さったことを、心から嬉しく思います。 本学学生、教職員のみならず、お会いしたすべての方に愛された池田温先生は、音楽の世界から門 外漢であった私にとっても忘れ難き恩師でありました。先生へのご冥福を心よりお祈り申し上げま す。 56 池田温名誉教授(1936-2015)ご経歴 1936 年 福井県出身 【学歴・取得学位】 1952 年 武生第一中学校卒業 1955 年 武生高等学校卒業 1961 年 国立音楽大学音楽学部声楽科卒業、学士(音楽) 1973 年 東京都教員派遣生として東京藝術大学に内地留学 【職歴】 1961 年 東京都公立学校教員 1982 年 文化庁文化部芸術課芸術調査官 1993 年 同主任芸術調査官 1994 年 文化庁文化部芸術文化課主任芸術文化調査官 1996 年 (財)新国立劇場運営財団事業部長 2000 年 武蔵野音楽大学教授 2002 年 図書館・楽器博物館参与 2005 年 学務部参与、音楽教育学科長(2006 年まで) 2006 年 学務部長(2009 年まで)、音楽環境運営学科長(2011 年まで) 2009 年 演奏部長(2015 年まで) 2015 年 武蔵野音楽大学名誉教授 【主要研究・執筆等】 1977 年 『改訂 中学校学習指導要領の展開<音楽科編>』明治図書(共著) 1977 年 「私の鑑賞指導」 『教材・教具』 (月刊) (全 5 回連載) 1977 年 「音楽家教育指導事例〈第 2 学年〉 」『音楽教育』(月刊) (全 5 回連載) 1978 年 『中学校指導書<音楽編>』(文部省)共著 1979 年 「移行期~教科指導の重点〈音楽〉」 『中学教育』(月刊) (全 12 回連載) 1985 年 「日本伝統音楽ミニ講座」 『現代教育~学校教育』(月刊) (全 53 回連載) 1998 年 「オペラ研修所の発足から今日まで (特集 劇場芸術教育)」『演劇人』 2000 年 『音楽科教育法』教育芸術社(共著) 2000 年 教科書『高校音楽I・II・III』教育芸術社(著者) 2000 年 「日韓文化交流<特にオペラ活動について>」『月刊 文化庁月報』 2010 年 「こどもの文化体験 芸術は子どもの心を変える」 『月刊 文化庁月報』4 月号(文化庁) 57 7.学科教員における研究・社会貢献活動(平成 27 年度) 中川俊宏 教授 学科長 ・文化庁平成 27 年度戦略的芸術文化創造推進事 〇研究活動 ・研究報告「舞踊実演団体と劇場の提携に関する 業協力者会議委員 調査報告」 (科研費助成「公立文化施設と芸術 ・平成 27 年度芸術選奨(舞踊部門)推薦委員 団体の提携に関する調査研究」4 年目)日本音 ・新国立劇場情報センターの在り方に関する検討 楽芸術マネジメント学会第 8 回研究大会(上田 委員会委員 順先生と共同) ・公益財団法人文楽協会専門委員 ・研究レポート「演劇実演団体と劇場の提携に関 ・日本音楽芸術マネジメント学会理事 する調査報告」 ( 「音楽芸術マネジメント」第 7 ・『近代歌舞伎年表』名古屋篇第 10 巻(国立劇場 号、日本音楽芸術マネジメント学会) (上田順 近代歌舞伎年表編纂室)編集統括 先生と共同) ・公益財団法人大学基準協会大学評価委員会大学 〇講座・シンポジウム等 評価分科会委員 ・講演「世阿弥のことば」第 22 回武蔵野音楽教 〇その他の執筆活動 育研究会秋の研究大会 ・連載「幕間のひととき」 (国立劇場歌舞伎公演 ・講座「イベント企画支援講座」逗子文化プラザ 筋書) ・特集「壺阪寺というところ」 (平成 27 年 6 月国 ・パネル・ディスカッション コーディネーター ・ 「第 4 次『文化芸術の振興に関する基本的な方 立劇場歌舞伎鑑賞教室筋書) ・特集「『船弁慶』と『千本桜』」 (平成 27 年 7 月 針』の考え方と舞台芸術分野における課題」日 本音楽芸術マネジメント学会第 7 回夏の研究会 国立劇場歌舞伎鑑賞教室筋書) 〇その他の社会的活動 ・解説・見どころ・あらすじ「双蝶々曲輪日記」 ・独立行政法人日本芸術文化振興会基金部舞踊分 ほか(国立文楽劇場「上方歌舞伎会」公演筋 野プログラムディレクター(舞踊実演団体に対 書) する助成事業全般への助言等) 上田順 講師 ○研究活動 ○学外活動 ・ 「舞踏実演団体と劇場の提携に関する調査報 ・独立行政法人 日本芸術文化振興会 基金部 告」 (科研費助成)の日本音楽芸術マネジメン 平成 28 年度運営委員会 地域文化・文化団体 ト学会第8回冬の研究大会における発表と学会 活動部会文化団体活動 専門委員 誌へのレポート投稿。 (中川俊宏教授と共同) ・日本音楽芸術マネジメント学会(JaSMAM) 幹事、企画委員 上村英郷 講師 〇演奏及び研究活動 ・「今後の地方オーケストラ運営の方向性の検討 ・2015 年 政策研究大学院大学研究科修了 ~群馬交響楽団を事例として」 『音楽芸術マネ ジメント』第 7 号(論文採択、査読付き) (文化政策) ・日本クラシック音楽事業協会「クラシック・コ ンサート制作基礎講座」運営実行委員 58 ・"Current Issues of Cultural Policy in Korea" 〇そのほかの社会的活動 政策研究大学院大学 ・日本音楽芸術マネジメント学会(JASMAM) ・ 「21 世紀のアートマーケティング」会議 政策 企画委員 研究大学院大学 ・日本電子キーボード学会正会員 ・Avid/Digidesign ProTools 公認インストラクタ ・東京、大阪等、全国各地でコンクール審査員 ・大阪にてピアノ招待演奏(2015 年 6 月 26 日 ー 大阪フィルハーモニー会館) 熊澤弘 ・日本ピアノ研究会顧問 講師 〇教育活動 しい 永遠のフェルメール) -- (フェルメール以 ・自由学園最高学部にて非常勤講師( 「西洋美術 前、そして以後))pp.82-87. 史」平成 27 年度後期) 〇展覧会企画: ・監修:『第 21 回 秘蔵の名品アートコレクショ ・立教大学にて兼任講師( 「美術と社会」 平成 27 年度後期) ン展 美の宴 ~ 琳派から栖鳳、大観、松園ま ・昭和音楽大学アートマネジメントコースにてに で』(ホテルオークラ東京本館) て特別講義: 「ミュージアム/コレクション/ ・学術協力『フェルメールとレンブラント:17 展覧会 美術展覧会をつくることとは」 (2015 世紀オランダ黄金時代の巨匠たち』 (京都市美 年 12 月 22 日) 術館/森アーツセンターギャラリー/福島県立 〇研究活動: 美術館) ・監修補佐:Japan’s Love for Impressionism. ・ 「 「17 世紀オランダ美術の東洋表象研究」 (基盤 From Monet to Renoir , Kunst- und 研究(A):研究代表者:幸福輝)連携研究者。 〇執筆・編集: Ausstellungshalle der Bundesrepublik ・ (共編著) 『第 21 回 秘蔵の名品アートコレク Deutschland GmbH ション展 美の宴 ~ 琳派から栖鳳、大観、松 ○講演会: 園まで』 (展覧会図録:企業文化交流委員会 ・雑司が谷地域文化創造館にて連続講演会 (2015 年 5 月 9 日、5 月 16 日、5 月 23 日、5 (ホテルオークラ東京) 月 30 日) ・ (分担翻訳) 『フェルメールとレンブラント:17 世紀オランダ黄金時代の巨匠たち』 (展覧会図 ・雑司が谷地域文化創造館 録:TBS) 平成 27 年度 地域 文化創造事業 雑司ヶ谷霊園に眠る偉人シリー ・ “Private and Corporate Collections and ズ「東郷青児」 (2015 年 12 月 12 日、19 日) Public Museums: Impressionist Collections in ・文京いきいきアカデミア(高齢者大学)講座に Japan following the Second Word War”,in: て講演会: 「レンブラント、フェルメールとそ Japan’s Love for Impressionism. From Monet to Renoir, Prestel Verlag, の時代」(於文京シビックセンター 2016 年 1 月 27 日) Munchen/London/New York, 2015), pp.208- 〇学会: 215. ・日本美術史学会会員 ・ 「絵具と格闘し続けた画家、レンブラント “ラ ・日本音楽芸術マネジメント学会会員 フさ”と“エレガントさ”の狭間で」 『芸術新潮』 ・CODART(オランダ・フランドル美術学芸員 2016 年 2 月号(大特集 日常こそ愛おしく、美 学会)準会員(associate member) 59 8.学科教員のコメント 上田順 今年度は経済状況が好転したことと卒業生の優秀さと相まって、昨年にまして就職状況が良かったこと は非常に喜ばしいことであった。本学科卒業生にとっては、社会に出て活躍の場を得るということは 4 年 間の教育の集大成ともいうべきことであり、殆ど全員が正規採用でそれを実現できたという結果は、我々 教員に大きな安堵をもたらしてくれた。彼らの活躍を祈念するばかりである。また、新しく入学した 9 期 生が今までにない人数で、ようやく学科の教育成果が世の中に認知されたことを感じた一年でもあった。 上村英郷 文化施設や芸術団体の管理業務を担い、芸術を伝え社会とつなぐ仕事といわれる「アートマネジメン ト」に関する教育は主に芸術系の大学で実施され、その内容は、各大学で相違はあるものの、座学の教養、 専門科目とともに企画制作、学外実習などの実践科目を中核としている。この実践教育は、今日の大学教 育改革で重要性が指摘されているアクティブラーニング(能動的学習)、学外体験学習の役割を担うと思 われる。 実践科目を履修することでコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、課題解決能力、創造的 思考能力などとともに、公演の企画制作、実施、管理などの専門的能力の基本を身に着けさせることを目 的としている。とりわけ、この企画制作に関する知識・経験は、 「アートマネジメント人材育成に関する 公立文化施設のニーズ調査」 ( (社)全国公立文化施設協会:2009)においても 80.6%と最も高いニーズ として求められており、今後本学科の授業体系の中でも重要な科目の一つと考えられる。そのため、クラ シック音楽やその他の音楽を取り巻く状況の変化について前向きに関心を抱き、音楽が将来発展してい くため、新しい聴衆との接触の在り方についても検討していくことが大切であろう。 熊澤弘 平成 27 年度は、個人的には一つの節目となる一年となりました。私が本学科に赴任したのは平成 24 年度になりますが、その年に入学した第 6 期生が最終学年を迎え、卒業してゆきました。自らが受け持 った学生が 4 年間の間にどのような成長を見せるのかを見届けることができたことに深く感慨を覚えて おります。この 4 年間、学生に対しては、調査、プレゼンテーションや文章力などの力をつけることを繰 り返し要求し続けましたが、第 6 期生の卒業生たちはそれに応え続け、時に私の想像を超えた実力を見 せました。彼らを見届けた 4 年間は、大学教員の醍醐味を実感するとともに、若き学生の力に驚嘆し、自 らを省みる連続でありました。彼の卒業を心から喜ぶとともに、その将来が輝かしいものであることを 心から願っています。 この一年はまた、例年以上に学外に赴いての企画にかかわることが多く、特に、松岡美術館でのロビー コンサート企画は、学生とともに(あるいは彼ら以上に?)右往左往することとなりました。しかし若き 演奏家たちの、優れた、時に野心的な演奏に触れながら、かえって彼らに鼓舞されもしたことが印象的で もありました。 本学科が「音楽環境運営学科」という科名で活動できるのは、平成 28 年度をもって終わりを迎え、よ く平成 29 年度からは新たな体制で教育活動を行ってゆきます。これまでの蓄積と、新たな体制へと向か う過程で出会うであろう方々との「化学反応」に期待しつつ、本学科の活動をより力強く展開させてゆき たいと考えております。 60 編集後記 このたび、 『年間活動報告書』第 4 号を発行するに運びになりました。この報告書の編集作業を進め ながら、第 1 号を刊行した平成 24 年度を比較すると、本学科が様々な学内・学外活動を展開するよう になったことを確認することができるかと思います。コンサート、展示企画のみならず、所属教員によ る調査プロジェクトを発表できたことも一つの成果となるのではないかと思います。 また、本学科設立に尽力された池田温先生追悼のページを掲載いたしました。このページの準備を進 めながら、池田先生と過ごした時間を思い出しながら、池田先生のご遺志を引き継ぐべく、本学科の活 動がより充実したものにしてゆくことに なお、この年間活動報告書は、編集作業の一部を、 「博物館教育論」 (学芸員課程 3 年次)の履修者が 担当いたしました。彼らにとって書籍編集は初めてのことになります。今回の経験が将来に有効になれ ば幸いです。 最後になりましたが、本報告書の編集・執筆作業にご協力をいただいた皆様に、心より御礼申し上げ ます。 熊澤弘(平成 27 年度報告書 61 編集担当) 武蔵野音楽大学 音楽学部 音楽環境運営学科 年間活動報告書 第 4 号 発 行 :武蔵野音楽大学音楽学部音楽環境運営学科 編 集 :武蔵野音楽大学音楽学部音楽環境運営学科 教員及び担当学生 刊行日:平成 28 年(2016)4 月 1 日 62
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