複合化技術を武器に世界に発信

22
キャッチ
2007年 9 月
複合化技術を武器に世界に発信
―株式会社トクヤマデンタル―
高純度ポリシリコンの製造で世界第 2 位のシェアを誇る大手総合化学
メーカー・株式会社トクヤマ(旧名:徳山曹達株式会社)。 同社の歯科
材料部門が 2001年10月に独立して誕生したのが株式会社トクヤマデ
ンタルである。 その技術力には定評があり,現在では世界を舞台に事業
を展開するなど,順調な成長を続ける同社の中核をなすのがつくば研究
所だ。 同社の誇る技術力や,それを生み出す背景,スタッフの研究へか
ける思いについて,同研究所の風間秀樹所長に聞いた。
■
ケミストリー老舗の気概を技術に集約
■
(株)
トクヤマの創業は1918年
(大正i7i年)に
さかのぼる。日本のケミストリー分野をリー
ドする製品を数多く送り出してきた同社が歯
科へ進出したのは,1978年(昭和53年)のこと
であった。1989年(平成元年)5i月にはつくば
研究所がスタートした。
以降,同社は着々と業績を伸ばして今日に
至り,歯科材料で揺るぎない地位を獲得して
いるのは,多くの読者が知るところだろう。
同社の業容の発展を支える中核には技術力が
あることは言をまたない。
つくば研究所所長
風間秀樹 氏
風間氏は「トクヤマのベースは,ケミスト
リーです。ですから我々の研究所では歯科に
限定せず,ケミストリーの世界においてもト
ップとして評価される製品の開発を目指して
います」と述べる。
「世界一の製品を生み出す
研究所」との自負を持つ風間氏ならではのコ
メントといえるだろう。
風間氏によると,つくば研究所の高い技術
力を生み出すバックボーンには「VOSS」の精
技術をアピールしたりしてきます。逆に,海
神があるという。
外からの研究員を受け入れて研修をさせる機
VOSSとはVitality(誰にも負けない情熱を持
会も多くなっています」
と風間氏は述べる。
って開発に挑戦する姿勢)
,Originality(独自
製品を生み出す知恵)
,ふたつのSはSpeed(よ
い製品をより早く提供するスピード感)とSer技術を市場ニーズに適合させる
vice(人を思いやる心と人と人とのつながりが
「複合化技術」
新しい製品や価値を生み出す価値観)を示す
という。これは,風間氏が考案した標語だ。
同社がこれまで蓄積してきた「複合化技術」
「単なる修復から予防や審美,保険から自費
のプラットホームには,以下のi5iつの分野が
診療といったように,歯科は発展を続け,市
ある。
場ニーズも大きく変化しています。この状況
に対応しうるオンリーワンかつナンバーワン
●有機機能性分子設計技術
製品を開発し続けることが,つくば研究所の
・接着性モノマー
ミッションとなっています」
(風間氏)
・接着性ポリマー
つくば研究所の研究者は平均年齢が約30歳
・無刺激性モノマー
という若い集団だ。ここでは,基礎研究から
●重合触媒技術
製品化までの一連のプロセスすべてに研究者
・ボレート系触媒
が関わるという特色がある。研究者が工場へ
・ラジカル増幅型光重合開始剤
出向き,工場のスタッフに製品の物性につい
●無機粉体制御技術
ての解説を行なったり,営業担当者に技術の
・球状フィラー
(ゾルゲル法)
PRポイントを直接伝えたりすることがあるの
・粉砕技術
はこのためだ。
●表面・界面制御技術
「この方式によって,研究者には『これは私
・表面処理
の製品だ』という強い意識が生まれ,研究へ
・自己組織化
のモチベーションもとうぜん高くなります」 ●バイオケミストリー
と風間氏はいう。同氏自身,トクヤマの研究
・抗体精製
畑の第一線を歩いてきただけあり,研究にか
・免疫学的測定
ける情熱はひとしおだ。そし
てその目は,つねに世界に向
無機粉体制御技術
けられている。
有機機能性分子設計技術
・球状フィラー
トクヤマデンタル社が想定
(ゾルゲル法)
・接着性モノマー
するエンドユーザーは,世界
・粉砕技術
・接着性ポリマー
の国の人々である。そこで,
・無刺激性モノマー
グローバルな市場動向を把握
複合化
するため,年に数回,大学な
技術
ど外部の研究者をつくば研究
所へ招いてプライベートな講
重合触媒技術
表面・界面制御技術
座を開いているほか,同社の
・ボレート系触媒
・表面処理
研究員を海外留学させること
・ラジカル増幅型
・自己組織化
も珍しくない。
光重合開始剤
「外国の大学に籠もって勉
バイオケミストリー
強するわけではなく,国際学
・抗体精製
会に出席したり,海外の歯科
・免疫学的測定
材料の動向や性質を学ぶほ
か,人脈を作ったり,弊社の 図. トクヤマデンタル社のテクノロジー
2007年 9 月
これらが,まさに「複合」し同社の製品が形
作られてゆく。風間氏が「技術は手段にすぎ
ない。ユーザーが使えるように応用するのが
複合化技術」と強調するように,いかに優れ
た技術であっても,その技術単体だけで製品
が生み出されるわけではない。いくつもの技
術を絶妙に調合するノウハウ。これも,トク
ヤマデンタル社のポテンシャルのひとつだ。
同社の「オンリーワン・ナンバーワン」の独
創的な技術を端的に物語るのが,サブミクロ
ン単位へのこだわりだ。
21世紀のキーテクノロジーのひとつとして,
世界中で開発競争が激化しているコンポジッ
ト技術を用いた新素材。歯科においては人工
歯等での実用化が始まっているが,同社では
20年以上も前からコンポジット材料の研究を
続けてきた。
1992年(平成i4i年)にベルリンで開催された
4thiWorld Biomaterials Congressesでは,サブ
ミクロン球状フィラーを用いた歯科充ô用コ
ンポジットレジン開発の功績が表彰された。
「現在のところ,世界のマテリアルの研究で
はナノコンポジットが主流ですが,当社が研
究を始めたころは,ナノという単位の認識は
低い状態でした」
(風間氏)
。同社のコンポジッ
ト材料は,現在では色褪せているのだろうか。
じつは,そうではない。事実は真逆であり,
歯科においてはサブミクロンのレベルの大き
さこそ使い勝手がよいことが分かってきたと
いう。
「
(ナノのように)
細かすぎる素材より,サブ
ミクロンのほうが,たとえば充ô用コンポジ
ットレジン
(樹脂)
では充ô率が上がりますし,
研磨性にも優れているのです。世界の主流が
ナノだからといって,当社がナノに変える気
はありません」
と風間氏。
審美性,研磨性,操作性で高い評価を得て
いる歯科充ô用コンポジットレジン
「パルフィ
ークエステライトペースト」
「エステライト」
「エステライトフロークイック」等,これらの
製品に使われた技術のうち,中核といえるの
が単分散・均一サブミクロン球状フィラーだ。
球状フィラーは,
「ゾルゲル法」という製法で
キャッチ
合成される。これは真珠と
同じく,極微小の核を起点
「ゾルゲル法によるフィラーコントロール」
として,各フィラーを真球
種結晶から徐々に粒子を成長させていき,粒子同士の凝集を防ぎなが
状に育てるというもの。独
ら,粒径のそろった真球状のフィラーを合成していきます(単分散球状
自に開発してきたこの技術
フィラーの合成)。
は,ナノサイズのフィラー
合成過程をコントロールすることで,フィラーの大きさを自由にコントロー
からミクロン単位のフィラ
ルすることが可能となり,原料を調整することで,自由にフィラーの屈
ーまで思い通りの大きさの
折率を変更することが可能となります。 また,X線造影性の付与など,
球状フィラーを作ることが
必要な機能を与えることもできます。
できる。この技術を応用し,
原料を調整することで,X
線造影性を持たせたり,屈
折率の異なるフィラーの製
造も可能となり,高い充ô
率でも極めて高い透明性を
持ったコンポジットレジン
や硬化前後で色調変化の少
ないコンポジットレジンの
製造も可能となる。
トクヤマデンタル社で
は,80ナノメートルの球状
フィラーを使用し,高い充
ô率でありながら極めて透
明性の高いフロアブルレジ
ン「パルフィーククリア」を
1987年(昭和62年)に発売し
ている。
高いフィラーコントロー
ル技術に支えられた理工学
物性,とくに,高強度と高
マイオノタイトF」等接着性セメント類,ペー
審美を両立させ,患者の求める白さや,天然
ストアルジネート印象材自動練和システムの
歯の色彩の再現など,多岐にわたるニーズに
,ハイブリッド型硬質
対応できるようになっている。またX線造影 「トクヤマ APシステム」
レジン
「パールエステ」
,歯冠用オールセラミ
性も有している。
ックス「セラエステ」
,カリエスリスク検査キ
同社が培ってきた複数の技術を総合するこ
ット「オーラルテスター」
,歯科用埋没材など
とで,使い勝手のよいハイブリッド素材が生
さまざまな分野にわたる。
み出され,臨床に供給される。まさにつくば
歯科材料を通して「健康で豊かな社会」の実
研究所のミッションのコンプリート(完遂)で
現に貢献することを標榜する同社の歯科診療
ある。
における患者ニーズのカスタマイズと多様化,
むろん,同社の誇る製品は歯科充ô用コン
そして技術の進化が続く限り,風間氏をはじ
ポジットレジンだけではない。「トクヤマリベ
めとする同社研究員たちのあくなき挑戦は続
II
」等のリライニング材や,
「トクヤマ
ボ
ース
くのだろう。 DT
ンドフォース」等のボンディング材,
「トクヤ
サブミクロン球状フィラー含有の『エステライトプロ』※を用いた臨床例
充ô前
※ 歯科充ô用コンポジットレジン(保険適応外)
充ô後
〔写真提供〕鹿児島県鹿児島市 かなむら歯科医院
金村敏生先生
23