娼婦美と冒険

娼婦美と冒険
芥川龍之介
3
しやうふけい
によにん
いかに
か
あた
そな
べ
べか
べ
ゑつしやう
また
けうばう
あに
ことごとく
かうむ
ぎ
ごかく
かうじん
いへど
︵大正十三年十一月︶
かうめん
あした
才を 具 へざる 可 らざればなり。 教坊 十万の 妓 は多しと 雖 いはく
とら
貴問に曰 、近来娼
婦型 の 女人 増加せるを如
何 思ふ乎 と。
そと
も、真に娼婦型の女人を求むれば、恐らくは甚だ多から
もつと
然れども僕は娼婦型の女人の増加せる事実を信ずる 能 は
しよし
せうせい
ざる 可 し。天下も亦 教坊と等しきのみ。 旦 に呉
客 の夫人
かうがふ
くれ
ず。 尤 も女人も家庭の 外 に呼吸する自由を 捉 へたれば、
となり、 暮 に越
商 の 小星 となるも、豈 悉 病的なる娼婦
もちろん
当代の女人の男子を見ること、猛獣の如くならざるは事
型の女人と限る 可 けんや。この故に僕は娼婦型の婦人の
まぬか
かならず
じやくかん
いはん
実なるべし。こは 勿論 娼婦型の女人の増加せる結果と言
そなは
こんにち
と
き
増加せる事実を信ずる能はず。 況 や貴問に答ふるをや。
か
も
ただ
いささ
ふこと能はず。又産児を 免 るべき科学的方法並びに道徳
か所
聊 思 を記 して拙答に代ふ。 高免 を蒙 らば幸
甚 なり。
ほぼ
こんにち
的論も 略 完全に 具 りたれば当代の女人の 必 しも 交合 を恐
のち
れざるは事実なるべし。若し 今日 の社会制度に 若干 の変
をは
化を生じたる 後 、あらゆる童子の養育は社会の責任にな
つひ
り了 らん乎 、この傾向の今
日 よりも一層増加するは言ふ
まぬか
なん
を待たず。 然れども 畢 に交合は必然に産児を伴ふ以上、
と
男子には冒険でも 何 でもなけれど、女人には常に生死を
する冒険たるを 賭 免 れざるべし。若 し常に生死を 賭 する
よ
冒険たるを免れずとせば、絶対に交合を恐れざるは常人
ことごとく
の善 くする所にあらざるなり。よし又天下の女人にして
悉 交合を恐れざること、入浴を恐れざるが如きに至る
なん
も、そは少しも娼婦型の女人の増加せる結果と云ふこと
てんぜん
能はず。 何 となれば娼婦型の女人は啻 に交合を恐れざる
のみならず、又実に 恬然 として個人的威厳を顧みざる天
底本:
「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和 46)年 6 月 5 日初版第 1 刷発行
1979(昭和 54)年 4 月 10 日初版第 11 刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007 年 6 月 26 日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。
入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
お断り:この PDF ファイルは、青空パッケージ(http://psitau.kitunebi.com/aozora.html)を使っ
て自動的に作成されたものです。従って、著作の底本通りではなく、制作者は、WYSIWYG(見たとおりの形)
を保証するものではありません。不具合は、http://www.aozora.jp/blog2/2008/06/16/62.html
までコメントの形で、ご報告ください。