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April 2014
医療現場からみた、医薬情報提供活動の課題
IMS Japan K.K.
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医療現場から見た医薬品市場
医薬品を取り巻く市場環境は医薬分業や後発品の処方が進み、さらに今年は薬価改定、
消費税増税が予定されるなど、製薬企業、医療施設、それらをつなぐ医薬品卸、そして患者
といったすべての医薬に関係する人々を巻き込んで大きく変わろうとしている。
こうした中、医薬品を採用し、処方・調剤する現場は市場環境の変化をどのように捉えてい
るのか。また変化を捉えるためにどのような情報をどのように得ているのか。特に最近では、
インターネットを介したeディテーリングが医師が認知している全ディテール数の約 3 割を占
めるまでに増加し(IMS JDI 調査)、その重要性を増してきていると言われているが、製薬メ
ーカーMR や医薬品卸 MS など人を介した従来の人的チャネルと比べてどう評価されている
のか。
今回は、各チャネルに触れる機会が多く、且つ薬剤採用に直接携わる可能性が高い 19
床以下の医療機関(以下、GP)と調剤薬局の先生方へアンケートを実施し、医療現場の視
点から医薬市場環境がどう見え、どのようなことをお考えになっているのかを伺った。
アンケートの実施内容は以下のとおりである。
- 調査実施期間:2013 年 11 月 25 日~12 月 8 日
- 対象者条件、及び対象者数:薬剤採用に関わっている次の施設に所属する先生
① GP(19 床以下医療機関)の医師: 215 名
② 院外調剤薬局の薬剤師:189 名
- 調査方法:インターネット調査法
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●社会環境の変化による施設運営への影響
環境変化について具体的イメージをもってもらう為に次の 8 項目を選定し、それらがどの程度、
施設運営に影響するかを「とても影響がある/やや影響がある/あまり影響はない/まったく影響は
ない」の 4 段階評価で回答を得た。
【社会環境の変化についての質問 8 項目】
①医薬分業 ②後発品処方 ③一般名処方 ④代替調剤
⑤薬価収載品の増加 ⑥長期処方 ⑦診療/調剤報酬の改定 ⑧消費税増税
図 1.社会環境による施設運営への影響
4 段階評価のうち、「とても影響がある/やや影響がある」の割合
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結果は、GP において消費税増税、診療報酬の改定といった利益に直結する価格関連の項目が
多く挙げられ、次いで長期処方や後発品処方などが挙がり、この理由は以下のとおりで在庫管理
の難しさに依るものが主であった。
19 床以下 GP における社会環境変化が施設運営に影響する主な理由
-
消費税増税;増税で損金が出る可能性がある、薬剤の購入価格を患者さんに転嫁できない
-
診療報酬の改定;診療報酬改定で減額される可能性がある
-
長期処方;1 日あたりの患者数が減少し在庫管理が難しい、診療実日数が減り在庫が増える
-
後発品処方;安定供給に不安がある、後発品が把握しきれない
また、調剤薬局おいては調剤報酬の改定や消費税増税による利益減少、医薬分業により処方箋
応需が増え、それと共に後発品処方や一般名処方がさらに在庫管理を難しくしている。
調剤薬局における社会環境変化が施設運営に影響する主な理由
-
調剤報酬の改定;技術料が減る、単価が安くなる
-
医薬分業;応需する医療機関が増え採用薬が増える、在庫をしていない医薬品の処方が増
える
-
後発品処方;薬剤の在庫が飛躍的に増える、在庫管理が難しくなる
-
消費税増税;差益がなくなる、仕入れ値が上がる
-
一般名処方;何を調剤するか患者様の希望を優先することで在庫数が増える
なお、医薬分業については「患者様へのきめ細かいサービスを提供できる」「分業だから調剤薬局
が成り立つ」、一般名処方については「銘柄指定ではすぐに調剤できないことがあるので一般名
処方がよい」「導入当時は戸惑ったがこちらに薬剤の決定権があるのでウエルカム」といったポジ
ティブな意見もあり必ずしも否定的な捉え方だけされているわけではないが、全体的にはネガティ
ブな意見が多かった。
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●薬剤採用時に参考にすること
こうした環境変化の中で、医師や薬剤師は薬剤採用を考える際にどのようなことを参考にして
いるのか。
GP では薬剤の効果や安全性情報、副作用情報が最も参考にされている。調剤薬局では安定供
給の体制が最も参考にされ、次に医師で最も多い薬剤の効果や安全性情報、副作用情報が挙げ
られている。
目を引くのは先ほどの社会環境の変化で施設運営に影響があるとされた価格関連(納入価の
安さ/薬価差益)のことよりも、GP では MR や MS の熱心さ、製薬メーカーの信頼度、調剤薬局で
は製薬メーカーの信頼度が上位に挙げられたことだ。人や企業との関わり、信頼というものが価
格関連よりも重要視されている。
図 2.薬剤採用を考える際に参考にしていること
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●情報収集経路
では、こうした情報を医師や薬剤師はどのように得ているのか。
「薬剤を初めに認知する情報源」「薬剤採用を考える際の情報源」「薬剤採用後に疑問を解決する
ために調べたり相談する情報源」の 3 つの場面における情報収集の様子を訊いてみた。
その結果は、GP と調剤薬局の両方で 3 つの場面のどれにおいても MR から情報を得ている人
が最も多い。また医薬品卸 MS から情報を得ている人も多く、特に調剤薬局では MS が重要な情
報源になっているようだ。
またe関連の情報提供が現在のインターネット社会において高くなるのではないかと想定してい
たが、e 宣伝は製薬メーカーが実施するものでも卸によるものでも、MR や MS そして製薬メーカ
ーや学会が主催の講演会やシンポジウムなどの従来型の人的チャネルと比べて低い結果となっ
ており、そのギャップが大きかったことは意外であった。
これは先程の薬剤採用時に気にする点として挙げられた MR や MS の熱心さ、製薬メーカーの
信頼度などの人や企業との関わりや信頼が重視されていたことと関連するものと思われる。
そこで次のパートでは、特に重視されていた人的情報源である MR と MS について利用状況の
深堀りを試みた。
図 3.初めに薬剤を認知する情報源
※回答された割合の内、”重視”する情報源として回答された割合を濃い青色で示した(割合のベ
ースは両者とも同じ n 数)
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図 4.薬剤採用を判断する際の情報源
※回答された割合の内、”重視”する情報源として回答された割合を濃い青色で示した(割合のベ
ースは両者とも同じ n 数)
図 5.薬剤採用後に調べたり相談する情報源
※回答された割合の内、”重視”する情報源として回答された割合を濃い青色で示した(割合のベ
ースは両者とも同じ n 数)
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●製薬メーカーMR と医薬品卸 MS の比較
先ほどの「初めに薬剤を認知する情報源」「薬剤採用を判断する際の情報源」「薬剤採用後に
調べたり相談する情報源」の 3 つの場面でどれにおいても多く挙げられた製薬メーカーMR と医薬
品卸 MS について、医師や薬剤師にとってどのような違いがあるのかを、「MR と MS ではどちら
の対応や情報が、先生の薬剤処方や調剤において好ましい、役立つと思われますか」という問い
かけでいくつかの項目について訊いてみた。
図 6.薬剤処方/調剤への影響 MR と MS の比較
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製薬メーカーMR のほうが MS より好ましいとして挙げられた項目は、薬剤効果の説明、薬剤の
安全性や副作用の説明、大規模臨床試験や治験結果などのエビデンス、処方ガイドラインの説
明、海外情報の提供、薬剤処方対象患者についての説明など薬効関連の説明が多く、GP と調剤
薬局ではほぼ同じ傾向であった。
医薬品卸 MS のほうが MR より好ましいとして挙げられた項目は、GP では後発品の説明、施設
における経営関連の情報提供やコンサルティング、調剤薬局では訪問頻度、相談のしやすさや日
頃の相談相手、人柄の熱心さ、人脈の広さや深さであった。GP と調剤薬局で共通して多かったの
は近隣地域の医療機関や薬局の情報、近隣地域の患者や疾病情報であった。
この結果から MR と MS はいくつかの内容で使い分けられており、これは自由回答においても
確認できた。
19 床以下 GP
-
薬剤の特徴は MR、在庫情報や価格は MS
-
薬剤に関する事は MR,価格や納入に関する事は MS
-
薬剤に関する知識は MR、多剤比較と価格は MS*
-
薬剤に関する知識は MR、同効薬剤の比較は MS*
-
多剤の比較がわかりやすいのは MR*
-
多剤の比較説明は MR*
調剤薬局
-
薬剤に関する情報は MR、入出庫など業務関係は MS
-
薬剤に関する情報は MR、地域情報は MS
-
薬剤に関する情報は MR、地域での医薬品採用情報は MS
-
薬剤の薬効や用法は MR、流通関係は MS
-
薬剤の詳しい情報は MR、価格については MS
-
治療に関する情報は MR、近隣医療機関の情報は MS
尚、この結果において、GP で多剤比較の情報が MR の方が好ましいとする先生と MS のほうが
好ましいとする先生がいた (上記、GP の意見で文末に*印をつけたもの)。
その理由は以下の自由回答から、MR では薬剤の知識、MS ではメーカー間の利害に左右されな
い中立性、どちらを優先するかで意見が分かれていることがわかった。
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多剤比較について


MR が好ましい理由
-
MR のほうが自社の薬剤について情報をもっている
-
MR のほうが薬剤の知識はある
-
MR のほうが薬剤の専門知識がある為、こちらの質問内容を十分理解してくれる
-
MR のほうが薬剤の特徴や他剤との比較の説明がわかりやすい
MS が好ましい理由
-
MS のほうが第三者的立場で各メーカーの薬剤を説明できる
-
MS のほうが同じ薬理作用の薬剤について公平に評価できる
-
MS のほうが各メーカーの利害の影響が弱いので実際の情報を得られる
-
MS のほうが複数の製薬メーカーと交流があり、客観的評価ができる
●考察
医療用医薬品市場は、医薬分業が進み、後発品や一般名処方など処方や調剤方法が変化し、
また薬価改定、消費税増税の予定など劇的変化が起きつつある。
こうした中で、これまで医師や薬剤師まかせで薬剤を使っていた患者は、後発品や一般名処方
の影響で自分の要望を医師や薬剤師へ訴えるようになってきており、一方、医薬分業による調剤
薬局の増加で地域における薬局間の競争が激しくなりつつあることから、GP や調剤薬局といった
医療施設側は患者ニーズにできるだけ沿う必要が出てきている。
そのため医療施設は薬剤効果や副作用情報の他、地域における薬剤の流通状況や同業者の
状況、地域疾病状況などの情報に敏感にならざるを得なくなっている。そして、必要な情報を正確
に、迅速に入手するための体制を整えることが急務になっていると思われる。
今回実施したアンケート結果から、依然として医師や薬剤師の情報収集はeチャネルに依る手
段よりも、製薬メーカーMR や医薬品卸 MS を中心に人を介した情報伝達手段が重視されている
ことがわかった。そして、MR と MS から収集される情報は、MR からは薬剤効果や副作用、MS
からは地域における薬剤の在庫状況などの流通情報や疾病情報、製薬メーカーの利害にとらわ
れない中立的立場からの薬剤情報が求められ、使い分けられていることもわかった。これらを考
え合わせると、製薬メーカーや医薬品卸は、変化する多様な医療施設のニーズを的確に掴み、期
待されている役割に応じた情報提供を行っていくことが重要となる。また、e チャネルについては、
量的な増加の反面、まだ十分な評価を獲得出来ていないものの、コストや利便性の面では非常に
優れたチャネルであることは間違いないため、その活用場面、活用方法、コンテンツ、人的チャネ
ルとの連携方法などを再度深く検討する時期に差し掛かっているのではないか。
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IMS Health について
IMS Health は、医療実績の向上を目的として、それに資する情報、テクノロジー、そしてサービ
スを提供するグローバルリーディングカンパニーです。最新の分析力、IMS One プラットフォーム
上の独自のアプリケーションを活用することにより、疾病、治療、コスト、アウトカムに関する 10 ペ
タバイト超の複雑な医療データを統合し、お客様の業務効率の改善を実現します。10 万もの医療
提供者からデータの提供を受け、また年間 450 億件以上に上る取引から得た情報を知財とし、
9,500 人を超える専門知識を有した弊社の人財が、世界中で 5,000 を超える医療関連のお客様
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