90nm量産のキープロセスを本音で討議 機械的強度を重視しCVD SiOCを採用

JAPAN SEMICONDUCTOR TECHNOLOGY FORUM LETTER 通刊105号
第19期第3回例会報告
2002 年 11 月 27日/後楽園会館
90nm 量産のキープロセスを本音で討議
11 月 27 日(水)午後 1 時より後楽園会館において、第 19
期第3回 JST フォーラムが『90nm 世代の Cu/Low-k 多層配線技
術:量産目前の本音を語る』と題して、会員会社から 57 名の
参加者を得て開催された。
冒頭、JST フォーラム顧問の井川彪氏(NTT エレクトロニクス
㈱顧問)より開会の辞が述べられた。今年の上半期の半導体業
組み合わせの配線が導入された。しかし、Low-k 化が進むに
界は各社の努力によって比較的順調に推移した。ただ今後の
つれ Low-k 材料の持つ機械的強度に起因する不良が露呈した。
パソコン、通信、携帯などの動きはよく見えないし、国内およ
また、Cu ビア / 配線においては SIV(Stress-Induced Voiding:
び米国の景気動向は不透明である。下期のビジネスは厳しい
応力誘起ボイド)が問題となった。このため、90nm の材料を
状況にあるが、日本の半導体業界には LSI を中心とした大きな
選ぶに際して、デバイスプロセス、チップの信頼性確保を優先
動きがあった。大手半導体企業間の連携とブロック化、半導
した。有機、無機の Low-k 材料と物性比較した結果、機械的強
体専門会社の分離・独立といった形で大きく変わろうとしてい
度の高い CVD SiOC を層間絶縁膜として選択した。CVD SiOC
る。300nm ラインの設備投資を行うという発表もあり、活気
と余裕が少し戻ってきている。今回の再編について、IDM の
第19期第3回プログラム
解体ととらえる向きもあるが、IDM が今日までの半導体技術
● 開会の辞 の研究・開発を支えてきた。今後は、各社間の連携、産学官の
● コーディネートにあたって
技術者の交流が活発になり、新しい枠組みの中で成果が表れ
● プレゼンテーション
るだろうと期待している。今年は我が国から2人がノーベル
賞を受賞し、日本の高い技術が評価された。最近、90nm に関
井川 彪氏
『SiOC 系材料を用いた Cu/Low-k プロセスインテグ
レーション』
深瀬 匡氏
する半導体プロセス技術の開発成果が次々発表されてきてい
る。今回は、90nm 半導体プロセス開発の最先端で活躍してい
る講師の方々の話を伺ってから、会場全体で根本の討議を行
いたい。今回の討議が日本の半導体の再生につながることを
祈り、活発な討議を期待したいと締めくくった。
この後、コーディネータの柴田英毅(㈱東芝 セミコンダクター
社 SoC 研究開発センター高性能 CMOS デバイス技術開発部主
幹)、関根誠(NEC エレクトロニクス㈱先端プロセス事業部先
端配線技術グループ シニアプロセスエンジニア)両氏の司会
進行で講演に入った。
機械的強度を重視し CVD SiOC を採用
『 PAE 系材料を用いた Cu/Low-k プロセスインテグ
レーション』
して講演を行った。180、130nm のデバイスで Cu と Low-k の
宮嶋 基守氏
『SiOC 系材料・プロセス・装置
―― Applid Materials の Low-k 層間絶縁膜』
有賀美知雄氏
『有機系 Low-k 材料およびプロセス』
井田 康暢氏
『Cu めっきプロセスソリューション
―― 90nm 以降に向けて』
秋山 隆氏
『Cu-CMP 装置・プロセス』
最初に深瀬匡氏(NEC エレクトロニクス㈱先端プロセス事業
部先端配線技術グループ シニアプロセスエンジニア)が『SiOC
系材料を用いた Cu/Low-k プロセスインテグレーション』と題
柴田 英毅氏
辻村 学氏
● 総合討議(司会:柴田 英毅氏・ 関根 誠氏)
● 総括 関根 誠氏
の適用課題としては①エッチング、プラズマ照射での変質②
微細なビアホールや溝を垂直加工形状にし、低ダメージ条件
と両立しなくてはいけない③密着性劣化や吸湿性対策が必要。
これらに対しては、①アッシング条件の低温・低圧化で垂直形
状を実現②プラズマダメージをなくすことで配線間容量を低
顧 問
減③構造の最適化で PTC(Pressure Cooker Test)試験後も容
井川 彪氏
量が増加しない構造とする、などができた。微細 Cu ビア形成
の課題としては① SIV 不良対策はデバイスの長期信頼性を保
証するために必要である②微細配線・ビアで Cu 埋め込み技術
が重要となる。SIV は時間の経過とともに Cu のストレスによ
りボイドが形成され、ビアや配線が断線に至るものであるが、
シングルダマシン構造の方がデュアルダマシン構造より不良
耐性がある。SIV 不良は時間とともに増加し、ビアサイズが小
さくなるほど増加する。次世代では SIV の物理的現象の理解
を正確に行い、抜本的な対策を施さねばならない。高感度・非
破壊の微細欠陥検出技術が必要であるが、OBIRCH 法により
電気的測定で見つからない不良を検出できる。また、スパッ
タとメッキの条件を最適化することでボイドのない Cu プラグ
を実現できる、と締めくくった。
SiLK の全面採用で歩留り・信頼性を両立
コーディネータ / 柴田 英毅氏
コーディネータ / 関根 誠氏
次に宮嶋基守氏(富士通㈱ LSI 事業本部次世代 LSI 開発事業
部プロセス開発部プロジェクト課長)が『PAE 系材料を用い
は、BLACK DIAMOND Ⅰ、BLOk Ⅰという膜を開発し解決した。
た Cu/Low-k プロセスインテグレーション』について講演した。
トリメチルシランを用いて、エッチング耐性、アッシング耐性
高性能な CMOS を提供するために 180nmNode から FSG 膜で
という膜の安定性を確保している。BLACK DIAMOND Ⅰは
Cu 配線を使っている。130nmNode では SiLK を用いたハイブ
メチル基終端により Si-O ネットワークを大きく取ることで低
リッ ド構造の プロセ スで立 ち上げて いる。90nm Node では
い k 値を達成している。また、バリア膜は環状のネットワーク
SiLK を全面に用いている。SiLK を用いた 90nm Node の Dual
を介 するこ とで k 値を 下げ ている。TMS によ る SiOC 膜 は
Damascene 配線は、ビアサイズの依存性が応力的になくなる、
アッシングダメージ、配線間リーク電流も少ない。Low-k 膜
130nmNode で既になじみがあった点などから採用した。工程
成膜装置としてはツインチャンバの PRODUCER を用いてい
上の問題点としては、SiLK は機械的強度が低い材料であるた
るが、ハイエンド 130nm、90nm では BLACK DIAMOND Ⅰと
め CMP を適正化する必要がある。配線の歩留りと信頼性にお
BLOk Ⅰの組み合わせ対応し、65nm では BLACK DIAMOND Ⅱ
いて、SiLK は熱膨張係数が高く、機械的強度に劣るが、配線の
と BLOk Ⅱ、その先は BLACK DIAMOND Ⅲを開発するという
歩留りと信頼性の点においては特に問題になる点はないと思
形で、3 世代以上にわたってメインフレームとして成膜可能と
われる。90nm Node の CMOS 用に下層に SiLK を用いた配線
なっている、と述べた。
を開発した。各種試験(BT 試験、PTHS テストなど)を行っ
た結果では、SiLK に起因した不良は今のところない。このよ
SiLK の優位性・量産適合性を強調
うに、SiLK により歩留りと信頼性を両立できる配線構造が開
引き続き『有機系 Low-k 材料およびプロセス』について井田
発できた。
康暢氏(ダウ・ケミカル日本㈱電子材料事業本部半導体材料担
BLACK DIAMOND と BLOk の組合せで対応
続いて有賀美知雄氏(アプライドマテリアルズジャパン㈱
DSM 製品事業部成田アプリケーションラボラトリー次長)が
『SiOC 系材料・プロセス・装置―― Applid Materials の Low-k
層間絶縁膜』と題し講演した。第 1 世代の Low-k 膜は 130nm
で使われ始めた。Cu/Low-k の課題としてはレジスト、エッチ
ング・ダメージ耐性、機械的強度、CMP、パッケージング、
Cu のリライアビリティーなどの諸点がある。これらに対して
プレゼンテータ / 秋山 隆氏
プレゼンテータ / 辻村 学氏
当部長) が講演を行った。96 年後半、SiLK が開発された。
2000 年に富士通、ソニー、IBM が Cu/ SiLK を採用した。2001
年、130nm での Cu/ SiLK による製造、同時に Porous SiLK を
先の材料として検証し始める。SiLK の特性としては①温度:
図り、低ディフェクトを達成できる。
2005 年に技術障壁:開発協力が不可欠
450℃ まで耐性がある②電気的:等方性誘電率 2.6、絶縁破壊
最後に辻村学氏(㈱荏原製作所 執行役員 精密・電子事業本
部副本部長 技術統括) が『Cu-CMP 装置・プロセス』につい
電界 4MV/cm 以上、水分吸収が少ない③機械的:靭性が高い
て講演を行った。CMP にとって「研磨すべき対象がどう変わ
④ integration:ケミカル耐性、エッチング選択比が高い、アミ
るかが重要である。平坦化に重要なパラメータとしては、初
ンを形成しない、などがある。他の材料は、機械的物性とし
期段差、均一性、Void、Scratch 耐性などがあるが、Low-k で
て、硬くてもわれてしまう、接着がよくないなどのケースがあ
はさらに強度、硬度、密着性などが材料によって大きく変わっ
り、誘電率が高くなると靭性が高くなる。SiLK は無機系材料
てくる。また、配線幅が狭くなると平坦化性能が厳しくなる
より硬さ、モジュラスが低いが、割れにくく、タフネスが高く
し、研磨量が増えるのに研磨圧力を下げて研磨速度を上げる
保てるという特長を持つ。Porous SiLK の課題はポア径を下
必要が生じることになるので、研磨方法も変わらざるを得な
げることである(現在、平均径 5nm 以下ができつつある)。
い。装置は①ウェハが 300mm になるので無人化、信頼性の向
SiLK は有機系として初めての材料であり、oxide と同じような
上② APC から e-manufacturing、が要求される。CMP は、研
プロセ スは組めな いが、エ ッチング選択 比を高くで きるメ
磨面を酸化し機械的にその部分を削るのが基本である。圧力
リットがある。130 ∼ 90nm で実績ができつつある。また、今
と速度は比例するので、均一性を向上させるには圧力をコン
のツールを使用可能な先の見える材料である、と述べた。
トロールする必要がある。300mm での Cu の研磨試験には 2 分
90nm以降のCuめっきプロセスソリューション
で 17 万円というように開発費がかかる。課題としては①洗浄
続けて秋山隆氏
(Novellus Systems Inc. Electrofill Business
Unit, Key Account Technology Senior Technologist)が『Cu
頼性の確保④廃液処理、などがある。300mm に対しては、廃
めっきプロセスソリューション―90nm 以降に向けて』と題し
e-manufacturing 化が要求される。信頼性の高い安価な装置を
講演した。ビアの開口部は狭くなっている(0.17 μ m のビアで
提供するためにも、デバイスメーカとの開発協力が必要にな
開口部 0.07 μ m)が、短時間でボトムアップを開始し、高い
ると思われる、と述べた。
ボトムアップレートを達成することが求められている。従来
のやり方では難しいが、high Cu メッキ液でアクセラレータ濃
② 10nm のモニタリング③ Cu 欠陥のカテゴライズ化による信
液処理なども含めた上で、無人化、信頼性向上、APC を含む
完成度高まる SiLK、SiOC 系
度を高めることでトップセンターのボイドのリスクを軽減で
―本 当に ITRS ロー ドマッ プを指 標にす べきか ?
きる。ただ、濃度を上げすぎるとよくない。電流値は中間値
この後、コーディネータの柴田、関根両氏の司会進行によ
を選択する必要がある。メッキ液を変えることで既存のハー
ドウエアを延長して使用できる。Low Acid の時代ではウェハ
り、『本音に迫る― 90nm 世代の Cu/Low-k 多層配線量産技術』
と題して総合討議を行った。討議は講師と参加者との質疑応
の一部に膜の急激な盛り上がりが存在するが、メッキ液を流
答という形で進行した。SiLK については参加者の関心が大変
すインサートリングのデザインを改良することで抑制できる。
高く、多くの質問が出された。SiLK についての討議としては
メッキ膜を安定して作るには、bath の改善が必要である。微
①強度は密着性さえ確保できれば問題はない。② SiOC 系との
細なビ アやトレン チを、短 時間でボトム アップを開 始する
比較において、密着性の点で劣るのではないかという質問に
Rapid Fill Acceleration で埋め込める。シードの薄膜化に対応
は、問題はないと答えられた。一方、BLACK DIAMOND はイ
して terminal effect があるが、電気抵抗の高い Low Acid bath
オン性を高めることによりダメージレスであり、他の SiOC 系
で乗り越えられる。そのための、bath の安定性を強化するた
材料に比べデメリットへの対応がトータルにできると述べら
めの SAC を紹介した。ディフェクトの管理は Leveler を含む
れた。SiLK も SiOC 系材料も量産に近い完成度に来ていると
3コンポーネントのメッキ液で plating waveform の最適化を
いうのが大方の見方のようであった。また、Low-k は MPU の
プレゼンテータ / 井田 康暢氏
プレゼンテータ / 有賀 美知雄氏
プレゼンテータ / 深瀬 匡氏
プレゼンテータ / 宮嶋 基守氏
information
ようなハイエンドのものから立ち上げるようだが、もう少し、
ローエンド、一般向けのものに使っていく方向も考えた方が
事務局便り
いいのではないかという意見もあった。CMP とメッキに関し
2002 年もいよいよ残り少なく、このフォーラムレターが会
ては、異なる膜厚、硬度の物を削る、メッキ液の抵抗値を変え
員のお手元に届く頃は既に新年がスタートしていることと存
るといったことが頻発する状況では、その都度、違う装置や
メッキ液にするのかという複数の不安視する声には、同一装
置で対応するつもりであると述べられた。CMP については超
低圧研磨が求められており、今後ケミカル要素が強くなると
じます。このお便りを年賀状と思い、会員の皆様の旧年中の
ご支援ご協力に心より御礼を申し上げます。
「JST フォーラムの例会が最近面白くなった」との有難いお
言葉を頂戴しております。「技術回帰」を運営方針の前面に打
考えられる。また、リソグラフィーのフォーカスマージンが
ち出し展開して戴いた、顧問、世話人、運営委員の先生方、さ
厳しくなるので、平坦度は 90nm で 30 ∼ 40nm、65nm で 20nm
らにコーディネータの皆様方の絶大なご尽力の賜物です。事
程度が要求されると述べられた。SiLK は高いという話もあ
り、コストを下げることが求められるが、これについては①装
置の値段を下げる②歩留りを上げる:ゴミ、コンタミを減らす
ことが必須③配線系、設計、リソなどをトータルなバランスで
務局としてこれほどの喜びは他にありません。
半導体産業という巨大な世界に「JST フォーラム」を通して
関わることが出来ることを真に誇りに思います。キラリと光
る場の創出を目指し、ささやかですが業界の変革と発展に貢
安くしていく④工程数を減らし、すっきりしたプロセスにす
献したいと念願致しております。
る⑤技術の継続性を確保する、などの対応策が述べられた。
これからも引き続きご指導ご鞭撻を賜りたく、会員の皆様
最後にコーディネータの関根氏が総括した。Low-k 材料とし
の益々のご健勝を祈りながら、事務局一同心よりお願い申し
て、SiLK 、SiOC 系は完成度が高くなっている。今後、機械的
上げます。
[事務局 元山 裕孝]
強度はもっと弱くなっていくので、材料開発、構造はこのあた
りを 考慮しな くてはいけ ない。コ スト低減 への取り 組み、
Low-k の必要性、ITRS の信ぴょう性の検証といったことは継
続されて討議されるべき事柄であるなどと述べ閉会した。
■連絡・問合せ先
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