第6回フォーラム議事録(エリアマネジメント)(PDF:712KB)

第6回仙台市国家戦略特区(地方創生特区)
ソーシャル・イノベーション・フォーラム
テーマ「エリアマネジメント」
平成 27 年 8 月 12 日(水)16:00~
定禅寺通緑地
○出席者一覧
NO
氏名
所属
役職
1
岡崎 正信
オガールプラザ 株式会社
代表取締役
2
清水 義次
株式会社 アフタヌーンソサエティ
代表取締役
3
竹内 昌義
株式会社 みかんぐみ
共同代表
東北芸術工科大学
教授
4
保井 美樹
法政大学 人間社会研究科
教授
5
渡 和由
筑波大学 芸術系 環境デザイン領域
准教授
○要約
「エリアマネジメント」をテーマとして、
「戦略的なエリアプロデュース」、
「担い手
となる民間組織」
、
「資金調達」という 3 つの課題について討論が展開された。
「戦略的なエリアプロデュース」については、エリアマネジメントを実りあるもの
にするために、一人ひとりを中心に考え、一人ひとりを大切にする民主的で福祉的な
発想を考え方の基盤に据えることの大切さが語られた。行政には、提案されたコンテ
ンツに対して阻害要因を並べるのではなく、それをどう乗り越えて実現していくかを、
民間とともに「市民目線」で考えていくことが求められた。
「担い手となる民間組織」については、行政は民間組織の様々な活動を観察し、パ
ブリックマインドをもつ企業を見極めたうえで連携すべきとの意見が出された。また
リノベーションスクールや、路上のカフェのように人が行き交う「場」にも、担い手
を育む環境があることが紹介された。
「資金調達」に関しては、不動産オーナーに「敷地ではなく、エリアに価値あり」
という認識をもってもらうことや、
「地域経営」という視点をもち、地域の人たちが自
分たちで稼ぎ、自分たちで課題を解決していくことの必要性が語られた。
1
○開会宣言
畑中:定刻でございますので、
『第 6 回仙台市国家戦略特区(地方創生特区)ソーシャル・
イノベーション・フォーラム』を開催致します。私は本日の司会を担当させていただきま
す、仙台市プロジェクト推進課の畑中と申します。どうぞよろしくお願いします。開催に
あたりまして、副市長の伊藤よりごあいさつ申し上げます。本フォーラムでは、伊藤を座
長として進行させていただきたいと存じます。伊藤副市長、よろしくお願い致します。
伊藤副市長:仙台市が国家戦略特区に内定を受けてから、これまで皆さんのいろいろなお
話を伺いたいということで、6 回にわたってフォーラムを実施することに致しました。
『社
会起業、女性活躍、エリアマネジメント』の三つのテーマに従って、皆さんから頂いた意
見を、9 月に予定している区域計画にまとめ上げていきたいと考えておるところです。皆
さんにお願いしたいのは、このフォーラムは役所がつらつらとしゃべって、皆さんがワン
コメントして終わりという普通の審議会ではないということです。役所の意見は最低限に
とどめまして、皆さまがたのご意見を伺う、皆さまがたの間でもご議論を戦わせていただ
ける、そのような趣旨で始めたフォーラムでございます。これまでも大変貴重な意見を 5
回にわたっていただいてまいりました。きょうも活発な意見が交わされることを期待して、
私のあいさつに代えさせていただきます。
本日お集まりいただきました皆さんに、お一人ずつ自己紹介をしていただきたいのです
が、
後でプレゼンテーションを行っていただく保井美樹さん、
清水義次さんにおかれては、
プレゼンテーションの中で自己紹介をしていただくという形でお願いしたいと思います。
左側の皆さんから自己紹介をお願いしたいと思いますが、最初に岡崎正信さん、よろしく
お願いします。
○出席者自己紹介
◆岡崎 正信 氏
岡崎:今ご紹介いただいた、岡崎と申します。仙台の隣の岩手県の紫波町という所は、仙
台の方はあまりご存じないと思いますけれども、高速道路で紫波サービスエリアがある所
なので、車で北のほうによく行かれる方は見たことがあるかと思います。人口は 3 万 3700
人で、農業が基幹産業の小さな町です。その町の中心部に、10.7 ヘクタールの町が持って
いた土地がありました。12 年間ほったらかしにされて、日本一高い雪捨て場と紫波町民に
ばかにされていたその土地を、民間人だった私のほうに町長から何とかしてほしいという
依頼がありました。2008 年からオガールプロジェクトが始まり、12 年間誰も投資しようと
しなかった町に、今は年間 100 万人のかたがたが訪れるようになりました。極力財政支出
をなく、民間の稼ぎで人を呼ぶということを大事にしてやっています。私は、そのオガー
ルプロジェクトのマネジャーをやらせてもらっています。きょうはよろしくお願いします。
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◆竹内 昌義 氏
竹内:みかんぐみの竹内と申します。みかんぐみというのは横浜にある設計事務所で、愛・
地球博のトヨタパビリオンやマーチエキュート万世橋など、いろいろな環境や古い建物を
生かすような建物造りを 4 人で共同でやっております。私の肩書のもう一つは、山形にあ
る東北芸術工科大学という大学で建築を教えています。建築だけにとどまらず、山形では
街の問題というのがいろいろとありまして、リノベーションを生かしたまちづくりという
のを、前回こちらでトークをさせていただきましたババさんと一緒に、エリアリノベーシ
ョンという形でまちづくり会社を実際に起こして、何とか街を変えていきたいということ
を今やっているところです。
昨年、リノベーションスクールというのをやりまして、先週それに引き続いた形のこと
をやったのですけれども、東北地方は立秋までは本当にすごく暑かったのが急に涼しくな
って、四季がはっきりしているということを身を持って体験してきたところです。どうぞ
よろしくお願い致します。
◆渡 和由 氏
渡:こんにちは。筑波大学から来ました、渡と申します。よろしくお願いします。今、私
は大学で教えているのですけれども、それ以前に日本の設計事務所で万博の会場設計やい
ろいろな環境デザイン、建築デザインのプロジェクトに関わっておりました。その後、ア
メリカに 8 年半ほど行っておりまして、そこでもいろいろな実務に関わっており、特に住
宅地の計画や都市のさまざまなプランニングをしておりました。実は、仙台の泉パークタ
ウンの一番奥にある紫山地区の町全体の計画を、アメリカのチームと一緒に担当させても
らっていました。
大学に入ってからは、つくばエクスプレス周辺のいろいろなプロデュース作業や、茨城
県と UR さんとともに、地元の自治体のかたがたのワークショップを中心にいろいろと提案
するなど、横つなぎのファシリテーターをやっていました。そこでもさまざまなプロデュ
ースをしていきました。昨年度は、国土交通省のプレイスメイキングシンポジウムという
画期的なシンポジウムがありまして、そこでの講師を務めておりました。本年度も、日本
の地方都市や東京などでいろいろな社会実験などに関わってきました。以上です。よろし
くお願いします。
伊藤副市長:お三方、ありがとうございました。皆さんには、ここで開催する意味をよく
考えてお話しいただきたいと思います。仙台市が誇る定禅寺通りのプロムナードにこの場
を設けてここで議論しようと、うちのスタッフが本当に一生懸命頑張って設営をしてくれ
ました。ありがとうございます。先週でしたら暑くてやめたくなるような状況でしたが、
先ほど竹内さんがおっしゃったように、立秋を過ぎたら非常に良い状況になりましたので、
きょうの議論は本当に楽しみに思っているところでございます。
3
本日のテーマ、エリアマネジメントについての説明とディスカッションに入りたいと思
います。前もってお二方にエリアマネジメントについてのプレゼンテーションをお願いし
てまいりました。ご準備等大変だったと思いますので、感謝を申し上げます。本当にあり
がとうございます。初めに、エリアマネジメントに関する本市の施策等について、まずは
少し説明させていただきたいと思います。都市整備局の都市開発部都市開発課再開発指導
係の洞口および田原より説明させていただきます。お願いします。
○本市状況等説明
洞口:まず、エリアマネジメントの前に、仙台市の都市経営課題とは何なのかというとこ
ろで、再開発課のほうでまとめております。それは何なのかというと、東北のダム機能の
低下ということが挙げられます。現状という所に書いてあるのですが、仙台市とはどのよ
うな街なのかというと、青森や秋田などの東北 5 県から仙台の大学に学生が一回集まるの
ですが、その後東京に去ってしまうというような課題があります。東北のさまざまな県か
ら、東北学院大学に学生が入ってくるというデータが右のほうにあります。逆に、去ると
きにどこに去っているのかというと、半数以上が東北に就職せず関東のほうに流れてしま
っているという問題があります。こういったところは、仙台市としてはかなり問題だと思
っております。
さらに、学生さんの出生元は宮城県以外の東北 5 県なのですが、仙台に転入してくる東
北各県の 80 パーセント以上の市町村が急激な人口減少が予測されて、その一部は消滅可能
性都市と呼ばれています。もともと学生が入ってくる所が人口減少になっているという問
題がありますので、仙台のダム機能がかなり低下しているのではないかということを、私
たちのほうで調査しております。また、長期スパンの目標というところで、今まで学生さ
んを集めても東京に流してしまっていたというところから、サーモンの絵が描いてあるの
ですが、これからの仙台は I ターン者、U ターン者、J ターン者の人たちがシャケのように
戻ってきて、仙台に新しい東北の HUB になってもらいたいという思いを込めまして、仙台
の都市経営課題としてここに載せています。
次にいきまして、仙台が既に持っている魅力とはという所で、三陸や温泉も近いので仕
事上がりにスキーや温泉に行く人も多くいらっしゃると思います。60 分、30 分圏内でこう
いった所があり、非日常空間がとても近くにあるという魅力があります。東京と比べて 2
時間で行ける都市がいろいろとあって、休日になると仙台の人たちは東北のさまざまな所
に遊びに行けるというメリットもあります。また、何といっても食べ物がおいしく、東京
に比べて家賃が安いので、チャレンジするにはとてもいい環境かと思います。
これからのビジョンという所ですが、これから人口縮退時代が来ます。私たちのほうで
も少し調査をしていて、本年度あたりが仙台でどんどん人口減少が始まっていく山場だろ
うとにらんでいるのですが、そういった中で都市の魅力の底上げをしていかなければいけ
ないというように考えています。そこで、仙台市のほうでは今後の政策の重点化方針とし
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て、例えば起業、雇用、子育て、観光、学生や若者の活力といったところを伸ばしていき
たいということをビジョンとして持っています。
次にいきまして、そもそも都市の魅力につながる多様性をどのように生み出していくか
という所で、仙台市としては仙台の今ある都市資源をきちんと再評価して、リノベーショ
ンしていこうというように考えています。例えば遊休不動産である空き地や空き家、まさ
に今やっている道路、公園などの公共空間、低未利用地としてのコインパーキング、駐車
場、仙台の顔であるペデストリアンデッキ、定禅寺通り、青葉通り、自然資源としての広
瀬川や堀などの文化資源、仙台にはそのようなさまざまな都市資源があります。このよう
な所を仙台市民が再評価してリノベーションしようということです。
先ほど言いましたが、都市資源を重点化方針とし、今後仙台が伸ばしたいコンテンツや
パブリックマインドと掛け合わせることで、私たちは ACTIVE GROUND と呼んでいるのです
が、仙台で多様な暮らしの機会を与える場、チャレンジできるような場所、生き生きとし
た子育て環境、生き生きとした雇用の場といったものをつくりまして、仙台の魅力の底上
げを図りたいと思っております。
ただ、現在のにぎわいがあるこのような ACTIVE GROUND はアーケードに集中していると
いう問題があります。重要なのは、コンテンツ文化軸の厚みがある都市の魅力だろうとわ
れわれは考えております。そこで、今中心部はこのようにアーケードがあるのですが、
ACTIVE GROUND をもっと拡張して、子育てや観光などのいろいろなものを掛け合わせてい
きながら ACTIVE GROUND を創出していくことが、仙台の懐の深い都市空間ができていくの
ではないかと考えております。
中心部の都市資源の見直しということで、前のほうにも地図が出ているのですが、都市
資源のシンボルストリートとしての定禅寺通り、西公園通り、青葉通りといった所があり
ますし、ペデストリアンデッキもあります。今後はこのようなたくさんある都市資源を有
効活用しながら、エリアマネジメントを進めていかなければと考えております。今回、特
区に挑むということで、私たちは一応若手と言われているのですが、洞口と田原でがむし
ゃらに図形に向かって絵を描きました。2 人で絵を描いておいて私ばかり話すのも良くな
いので、田原からこの絵がどのような絵なのかということを説明させていただきます。
田原:仙台の街中にこのようなにぎわいがあったら、もっと魅力的な街になるのではない
かというアイデアを描いています。例えば、左上の定禅寺通りのグリーンベルトでキャン
プをしたり、片側車線の車を止めてオープンカフェやイベント会場に使ったりということ
もできます。真ん中のほうにいって、錦町公園がありますが、ビール祭りだけではなく野
外ステージを造るなどして、地域の人のにぎわいの場や憩いの場のような所にもなってい
ます。駅前のペデストリアンデッキは普段はあまり使われていないのですが、アイドルの
ライブやフリーマーケットを行ったり、タクシープールは駅前プールに、夏はプール、冬
はスケートリンクのような使い方をしたら楽しそうです。
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仙台市の市街地でも、右下のほうに描いている古い建物が多く残っている荒町や河原町
のエリアでは、建物を活用したカフェやショップ、昔から残る堀の流れ、染物屋さんのイ
ベントなどが日常的に行われていて、道行く人が立ち止まっていくような絵を描いていま
す。屋上で農園をしている建物もあるのですが、そこで作った野菜を下のレストランで振
る舞っていて、地産地消のようなことも推進しています。真ん中に書いてある青葉通りは
屋台が立ち並んでいて、オランダで走っているようなビアバイクなどといったものを走ら
せていて、歩くのが楽しい通りになっています。今は誰もあまり行きたがらない地下道に
地下バーを造って、わざわざ立ち寄ってみたいと思ってもらえるような、通りたくなるよ
うなアイデアを描きました。仙台の人に聞くとあの地下道かと思い浮かぶと思うのですが、
そこに立ち寄りたくなるようなものがあればすごくにぎわいになるのではないかと思いま
す。
仙台も青葉通りや定禅寺通りなどをシンボルロードとして言っているのですが、なかな
か何もないということもあるので、そこに面してオープンカフェやウォータースライダー
などといったにぎわいがあったら、とても楽しいのではないかと考えています。真ん中に
描かれている辺りが裏通りのイメージなのですが、遊休不動産をリノベーションしたお店
や通りのそのような雰囲気を使っていて、空き地ではその隣の建物の壁面を使った映画館
にしています。アーケードの表側だけではない、裏側のにぎわいのようなものもつくって
います。左下の所に描いているのですが、広瀬川の親水空間は今までやっていない大人の
水遊び空間にと考えました。仙台で水遊びをするイベントのようなものがもっとあったら
良いなと考えているので、屋形船やカヌーといったものをアイデアとして盛り込んでいま
す。
西公園では音楽堂や、今回の特区の提案にも盛り込んでいる保育所を造っています。仙
台の街中には、活用したらもっと魅力的な空間になるたくさんの資源や空間があると思っ
ているので、その場所や空間を使いこなすためのアイデアということで仙台洛中洛外図を
作成しました。仙台市では、このアイデアが一つでも二つでも実現できたらと前向きに考
えておりますので、どうぞよろしくお願い致します。以上です。
伊藤副市長:ありがとうございます。前回と違って田原さんの説明があったので、この図
の意味が皆さんよく分かったのではないかと思います。本当に夢と希望に満ちあふれた街
の絵になりましたけれども、
特区といってこのような絵を描く若い人が居たということを、
私も仙台市の人間としてうれしく思っているところでございます。続きまして、保井美樹
さんに 15 分程度のプレゼンテーションをお願いしたいと思います。
○プレゼンテーション
◆保井美樹氏のプレゼンテーション
保井:法政大学に勤めております、保井と申します。よろしくお願い致します。座ったほ
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うが良いですね。恐らく、エリアマネジメントにはリノベーションなどのさまざまな視点
があると思うのですけれども、私が特区において大事にしてほしいと思うのは地域の自治
という視点です。わたしは、大都市のこのような公共空間を重視したエリアマネジメント
の他に、農山村も含め、地域が支える組織の在り方、あるいは地域が物事を決めていく自
治の在り方というようなことを研究しながら、地域のそのようなさまざまな分野を切り開
こうとしている行政の方、住民グループの方、個人や企業の方と一緒にいろいろと活動を
させていただいています。そこで、きょうは仙台におけるエリアマネジメントの本格導入
に際して、四つのメッセージを伝えさせていただこうと思っています。
一つ目は、仙台の都市全体を考えるのは後でいいのではないか、最初に個別のエリアか
ら変えていこうというメッセージです。世界を見渡すと、都市への人口集中が進んでいま
す。都市ランキングというものがいろいろな所で出ていますけれども、恐らくこれから都
市の力、
存在感がどんどん強まってくると思います。
それでは都市は安泰なのかというと、
恐らく二分化していくと思います。一つは人を収容するだけの場所、もう一つはそこに住
みたい人、行きたい人、そこで何かをしたいという人が集まってくる場所です。そうなり
ますと、
格差対策というのはもちろん重要になるのですが、そうやって人が集まってくる、
都市の競争力を向上させるような場所をつくるミクロな取り組みが、非常に大切になって
いくと思っています。
私は大学院時代から 5 年強アメリカのニューヨークに住んで、その後ロンドンに住んで
いたこともありましたので、そのような海外都市との関連でお話をできればと思っていま
す。今、アメリカの雑誌などでニューヨークやポートランドなどが盛んに取り上げられて
いるのですが、よくよく見てみると取り上げられているのはニューヨーク全体ではないの
です。1990 年代、2000 年代の初めの頃とは少し変わってきて、今はマンハッタンの隣のブ
ルックリンという区がよく取り上げられています。さらに雑誌をよく見てみると、いろい
ろな魅力的なエリアはたくさんあるのですけれども、その中でよく取り上げられるのはダ
ンボやウィリアムズバーグなどで、そこは数キロ四方の場所にすぎません。ポートランド
もいくつかあるのですが、
よく取り上げられるのはパールディストリクトという場所です。
ここも徒歩圏で歩ける場所です。
ダンボとパールディストリクトを見てみると、いずれも倉庫地区で一度は人が住まなく
なったような場所です。そこにアーティストが住み始めてきたのですが、アメリカではア
ーティストなどが住み始めると、だんだんディベロッパーが入ってきて高級化路線が始ま
るということがよくあります。そうなりますと、アーティストが居なくなってしまうので
す。バンカーの人たちばかりが住み始めると、それまであった新規の魅力は失われていき
ます。しかし、こうした場所では、今までの魅力を保持しながら、新しい取り組みや価値
を上げるような開発を進めていくというバランスを取るためのマネジメント組織が活動し
ています。
例えば、ポートランドは、いろいろなお店があってウォーカブルで人が歩きやすいよう
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な、さまざまなアクティビティやコンテンツのある地区として誘導していくために、最初
の頃から開発公社 PDA と、事業者の立場から地域を盛り上げていく BID という組織があり
ます。私はエリアマネジメントの大事な機能として、都市のカオス的な要素とコントロー
ルされた要素のバランスの取りながら、新たな都市を創り出すことがあると思っています。
カオスはとても楽しいものです。国分町などもそうだと思いますけれども、いろいろな
混沌としたものがあったほうが楽しいのです。ただ、時にいき過ぎると治安が悪化し、若
い女の子などは入れない怖い場所になってしまうということもあります。他方、業務地域
などで、大きなビルが建って、公共空間もごみ一つ落ちていない、きれいで美しい空間は
快適です。しかし、面白みがないわけです。そこで、程よく混沌さを残しつつ、安全で皆
が過ごしやすい場所をどのようにバランスを取りながらつくるかということが、エリアマ
ネジメントの核ではないかと思います。それが実現したとき、人々の地域の選び方は変わ
ると思うのです。
これは中学校でも習うようなよくある需要と供給のモデルですけれども、
今は、基本的には家賃が高いか低いかのような選択しかない所に、少し違うストーリーや
面白さが生み出されます。すると、地域選択の違う市場を生み出すとことがあり得ると思
います。そのようなものをつくっていくことが、エリアマネジメントにおいて非常に重要
なことではないかと思っています。
エリアマネジメントをどこからやるのかというときに、きょうもこのような場所でやっ
ていますが、英米の取り組みなどを見ていても、やはり新たなパブリック空間を生み出す
ということが非常に重要ではないかと思います。パールディストリクトを見ても、アート
マーケットやマルシェがあり、禁止事項のない何でもできる公園があるなど、いろいろな
所があります。ブルックリンでも橋げたの下がパーティになっているなど、さまざまな公
共空間の使い方があります。やはりこのような空間は非常に大事で、このような空間をつ
くるということは、空間に人が集まるというだけではありません。やはりここに集まって
くる人というのは、
地域のことが気になる人たち、そこへわざわざ来ることを選ぶ人たち、
緩やかな意味で地域をケアして、そこを愛してそこで楽しむことができるような人たちで
す。
その人たちをあえてパブリック人材と呼びたいと思いますけれども、そのような人たち
を寄せる空間づくりは非常に重要です。諸外国においても、この部分に着目をしている所
は非常に多いです。これは英米のさまざまな公共空間ですけれども、これは全て民間が提
供しています。公共空間ではなくてパブリック空間とあえて書いたのは、今や不特定多数
の人たちが集う空間は、行政だけが提供するものではなくなっているということです。諸
外国を見ると、そのような空間は民間がたくさん提供していますし、公有地ではあるけれ
ども民間が管理しているという所がたくさん増えています。
そのなかでの有名なのがニューヨークのタイムズスクエアだと思いますが、この地域は
もともと非常に車も人もひしめき合っているようなエリアでした。しかし、前の市政のと
き、この空間を歩行者に取り戻すという掛け声の下、このような大きなパブリック空間に
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変身しました。単に歩行者空間にしただけではなく、ここを管理しているのは先ほど言い
ました BID という地域の民間組織で、これがさまざまなコンテンツを提供しながらにぎわ
いをもたらしています。そして、その結果、ここに書いているように多くの訪街者、賃料
水準、犯罪は減っていくという、まさにカオスとコントロールのバランスを取りながら、
新しい空間づくりをしているということなのです。ここでもできそうですけれども、この
ようなヨガイベントを街全体を使ってやっているわけです。
さて、公共空間、パブリック空間を全部民営化すれば良いのかというと、私はそれは少
し違うのではないかと思っています。世界を見渡すと、たくさんの公共空間が民間で管理
されています。あるいは、民間事業で橋を造るなどのプロジェクトが、今ロンドンなどの
いろいろな所で動いています。それに対して期待もあるのですけれども、特定の企業に食
い物にされてしまうのではないか、結局その場所が高級化されたり、物が売られたりする
ことによって、間接的に入れない人が出てくるのではないかというような懸念もあるわけ
です。サンフランシスコなどでは、ある企業が公園再生にお金を出していますが、例えば、
再生された公園でスポーツ大会が行われるようになると、それまで公園を使っていた周辺
の低所得者が入れなくなりトラブルが起きたなど、いろいろな状況が見られます。
では、どうするか。わたしは、地域の自治に関する緩やかな仕掛けをつくることが大事
だと思います。そして、そのときに一つ参考になるのが、アメリカの BID という仕組みで
す。これは、経営マインドを持った地域管理の模索だからです。BID というのは、主に商
業業務地域で地域の資産所有者の申請によってつくられるのですが、彼らは税金にプラス
して地域の管理料のようなものを払うことになります。それを原資にしながら、行政サー
ビスの上乗せ的な経済振興のさまざまな活動をしていくという仕組みで、北米で生まれて
今や欧米などいろいろな所で増えています。BID はいわば特区のようなものではあるので
すが、その肝は、実際の負担者になる人たちからの申請によるということです。地域で十
分な合意を得て、このようなことを行うことに対してこのようにお金を払う、あるいはこ
のようにお金をもうけるという計画を作って始めるということなのです。
もう一つの肝は、協議と経営を分けていることです。まず、資産所有者は組合のような
ものをつくります。彼らは、いわば事業計画に対して協議をして合意形成をする組織なの
です。けれども、経営をするのは、このプレゼンの上の部分にあたる組織です。彼らは資
産所有者組合の信託を受けた上で、事業をきっちり回していきます。こうして、協議・意
思決定と経営が分離しているのです。その結果、事業の原資は資産所有者からの負担金が
主ではあるのですけれども、公共空間を使うときに路面店舗の事業者から占用料が入って
きたり、スポンサーシップが入ってきたりといういろいろな自主財源も生まれており、地
域のさまざまな資源が絡み合いながら動く流れができています。
私は 1990 年代の末からニューヨークに住んでいたのですが、その頃と今で一番変わった
と思うのはこのパブリックな空間です。いろいろな所でさまざまな活動が行われるように
なりました。橋げたの下はもちろんですが、高架下のような所など、いろいろな所でさま
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ざまな小さな活動が生まれるようになりました。ただ、こうした目立つ場所だけで終わら
ないのがニューヨーク市の素晴らしいところです。BID というのは、資産所有者がお金を
出し合う所です。そうなりますと、お金を出せる地域ばかりではない、もっと小さな公共
空間はどうするのだというような話になるのですが、今、BID の成功を見て市役所がまた
一つ新しいことをやっています。
それはプラザプログラムというもので、住宅地も含めてとにかく地域の人たちや地縁団
体や市民グループが、自分たちで使えるスペースがあったらどのように使いたいか申請を
しなさいという取り組みです。その地域にはオープンスペースが足りないので、地域の団
体がきちんと運営できそうだといういくつかの判断をした上で、例えば道路の中であまり
使われていない通過交通ぐらいしか入ってこないような所や、角の四隅の仕切っても大丈
夫な所などを広場化して、地域で管理させるということを始めています。きょうの論点の
一つである、担い手を育てるということにつながるのですけれども、このプログラムの素
晴らしいところは三つのステップで運用しているというところです。この3ステップは市
のホームページなどを見ても出てこないことですが、わたしが話を聞いて整理したもので
す。
最初のステップは、市はお金を出さないけれども、何でも良いから自分たちでやりなさ
いというようにします。左上の写真ですが、このように子どもと一緒に運動をしてみる、
子どもの発表会を外でやってみる、そのようなところから始めなさいとします。セカンド
ステップは、
その中でこれは使えるということが見えてきたら、市も少し一緒に協力して、
お金の掛からない形で空間を変えていくようなことも検討しますというようにします。そ
れが回りだしたら 3 番目のステップで、先ほどのタイムズスクエアのような、地域団体が
公共空間やパブリック空間を経営していくためにカフェを造る、いろいろな物販をするな
どして収益事業を行って、それがその場所の維持管理に回っていくという仕組みにつなが
っていきます。けれども、これは最初から誰もができるわけではないので、スリーステッ
プで考えているということです。地域に根差した地域経営組織を育てようとしているとい
うことをやっています。
このようなことから見て、経営マインドを持って動ける市民の集まりを地区経営組織と
呼べば、そのようなものをエリアごとに考えていく必要があるのではないかと思っていま
す。BID から考えれば、地域の代表性を緩やかにでも確保していくことを考えなければい
けないでしょうし、そのようなものがある程度民主的なプロセスでつくり上げられていく
ということも大事です。そして一番大事なのは、3 番目の経営力がある運営組織をきちん
と持っているということです。この三つによって、ニューヨークは BID を行政のパートナ
ーと捉え、パブリックな空間をどんどんそこに貸し出して、コンセッションを通じて自律
的に運営させています。さらに言えば、地域経営組織を育成していくということに際して
は、とにかく小さくても良いので共同活動を自立的にやって、官民連携を始めなさいとい
うことです。日本で言えば、指定管理者に近いのかもしれませんが、そのレベルを超えて、
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もっと民間が自律的に空間を経営するコンセッションにつなげていきましょうということ
です。
地域経営組織、地区経営組織などが大事だということを私のメッセージとしてお伝えし
てきたわけですが、それを本格化させるための公民連携の重要性を 3 番目のメッセージと
してお伝えしたいと思います。開発から維持・管理までということと、内発的な活動であ
るということが今まで言われてきたエリアマネジメントの定義です。内発性が重要だと言
われてきたことから、今までのエリアマネジメントは基本的には民間が知恵を出し合って
やっているので、行政は民間の創意工夫は邪魔しないほうが良い、それに任せておこうと
いうスタンスだったと思います。けれども、私はもう少し積極的な政策関与が必要だと思
っています。先ほど言いましたように、選ばれる地区をつくるには行政がシビルミニマム
の基準で同じことをやるのではなくて、プラスアルファができるような社会があっても良
いはずです。
さらに言えば、税金の使い方も今までは皆に再配分するという考え方が多かったと思う
のですが、そうではなくて地域が自立するための種として、税を使って政策を動かしてい
くという考え方もあっても良いと思います。そのようになると、行政の動き方もすごく変
わってくると思うのです。施設を造る、サービスを提供するということではなくて、自立
した市民を育てていく、あるいはそのような地区が生まれていくための制度をつくってい
くということです。規制緩和もそうだと思いますけれども、新たな制度を構築したり、現
制度を改変をしていくというようなことに、もっと積極的に取り組んでも良いのではない
かと思います。この図はエリアマネジメントの活動の射程範囲を示しており、国土交通省
がまとめたものをベースに、わたしが少し修正を加えたものです。わたしは、エリアマネ
ジメント支援政策は、この中のどれを支援するかということではないと思っています。こ
れらの事業が回っていくことが大事で、収益性の高い活動を行って、それを収益性は低い
けれども地域の課題だというところに回していくというような仕組みをつくることです。
それは特定の事業への補助金ではなくて、この仕組みをつくりだす制度構築だと思ってい
ます。
エリアマネジメントというのは内発的で、自律的にやらなければいけないというのは大
原則です。そのために、非営利と営利活動などのさまざまな活動を組み合わせながらやっ
ていきます。営利活動をすると公益的ではないとか、非営利組織は営利事業をしてはいけ
ないとかあって、この境界を超えるというのはなかなか難しいことですけれども、そこを
超えられるような制度を実現していかなければいけないと思っています。それから、行政
や多くの組織が単年度主義ですが、これを超えたいです。それができれば、本当の意味で
時間軸を超えられたということだと思っています。公共性と時間の壁です。公有地、民有
地の壁も取り払いたいです。わたしはよく「小さな共同が街を育てる」というのですが、
このこと自体も、特定の地区を特別視しているのではないか、取り残された地区はどうす
るのだという議論になりがちです。BID のように、街に「小さな共同」がたくさん積み上
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がっていくことが全体として街をよくしたり、つくりだしたりしていくのだという共通理
解をつくりたいです。
先ほども言いましたように、エリアマネジメントは変わってきています。アメリカのエ
リアマネジメントも、最初の 90 年代の頃は街が汚い、このままでは街が死んでしまうとい
うことで、とにかく街を掃除して治安をよくするというところから始まっているのです。
ところが、今では非常に多様です。公園でコンサートやネットワークイベントを行います
し、防災、防犯のようなものも官民を超えてアライアンスをつくってもっと効率的な形を
考えます。あるいは、コミュニティで裁判所をつくってしまうなど、本当にタブーのない
ところまで入り込んできています。エリアマネジメントも、ここは公共空間の民間開放だ
といってそれだけをやるのではなくて、時代で求められていることをどんどんやれるよう
に、官民が力を合わせてやっていくということだと理解をしていきたいと思っています。
それが最後の図です。
時間なので、これで終わりにしたいと思います。先ほどのお二人は、仙台洛中洛外図と
いう絵を描いてくださいました。私は文で仙台の未来予想図のようなものを作ってきて、
何を変えなければいけないかというようなことを考えてみたのですけれども、先ほど出て
きたこの仙台洛中洛外図を実現すれば良いと思います。ぜひそのような方向でこれから頑
張っていただきたいです。以上です。
伊藤副市長:保井さん、どうもありがとうございました。質問やご意見があれば、ディス
カッションの機会にお話ししていただくとしまして、続けて清水さんのほうにプレゼンテ
ーションをお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
◆清水義次氏のプレゼンテーション
清水:この素晴らしいロケーションは本当にすてきです。私は仙台に来たときに、朝や晩
に少し時間が空くといつも必ず定禅寺通りを散歩するのですが、人に会ったことは全くあ
りません。声を大きくして言いたいです。もったいないです。ジャズフェスなどの特別な
機会には使われるこのような素晴らしい通りが、360 日ぐらい使われていません。なんて
もったいないのだろうと思います。そこがきょうは使われているので、大変うれしいとい
う場面でございます。座って簡略に説明します。タイトルにあるように、仙台市のリノベ
ーションが必要ではないかと思います。そのときに、実は仙台市は仙台市最大の不動産オ
ーナーであるという認識を持たれたらどうでしょうか。
道路、公園、公共施設、市役所の敷地、水辺を含めたあらゆる場所のほとんどは、市の
所有地であり管理地です。これらの場所をどのように活用すると街が良くなるのか。逆に
言うと、今のような状態だとどのようになるのかという課題があるという認識で、受け止
めていただけたらありがたいと思います。よく言う言葉があります。日本の中で一番エリ
アマネジメントがうまくいっている場所は、東京駅の駅前の大丸有地区約 120 ヘクタール
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です。その場所の最大の地主である三菱地所が、周辺の全地主を巻き込んでエリアマネジ
メントをやっているので、一番地価が高く家賃も高いエリアが存在しているのです。それ
ならば、仙台市は仙台最大の不動産オーナーとして、どのようにやっていけば良いのかと
いうマインドを持たれたらどうでしょうかというのが、第一提案です。
エリアマネジメントについては、きょうの保井先生のお話のとおりだと思います。エリ
アマネジメントというのは、静的な行為ではないと私は思います。仙台市も来年あたりか
ら復興特需が終わって、人口減少が始まる境目の年を迎えているそうです。エリアが急速
に疲弊し始めます。仙台市の中でも、生き残るエリアと陥没するエリアが穴ぼこが空いた
ように出てくるはずです。そこで何をやったら良いでしょうか。衰退エリアをもう一回持
ち上げていくためには、衰退を止めて底を打って上に上昇させるという、エリアプロデュ
ースという概念が必要ではないかと私は思っています。エリアマネイメントをやる人たち
を見ていてよく感じることは、余裕があるところでエリアマネジメントをやっているとい
うことです。
そうではなくて、実はエリアプロデュース&マネジメントを最も必要としているのは、
衰退エリアなのではないかと私は思っています。エリアプロデュース&マネジメントとい
う概念を、ぜひエリアマネジメントに先駆けて考えてほしいと思います。変化を生み出す
プロセスがつくれないと、衰退エリアはどんどん衰退していってしまうということが起き
るという、それだけなのです。そのときに大事なのは、民間主導の公民連携というやり方
が必要です。先ほどの保井先生の民間も変わらなければいけないというお話は、誠にその
とおりです。責任ある市民が責任ある市民組織をつくって、公共の一端を担っていくとい
う概念は非常に大事な考え方だと思います。
そのもう一方で必要なことは、この中にも行政マンが居られるのではないかと思います
が、行政マンが意識のリノベーションを図らない限り、民間だけが変わっても街は少しも
良くならないということです。公、民の両者が変わるということが、エリアプロデュース
&マネジメントを本気でやって、そのエリアを変えていくというときに絶対的に必要なの
ではないかと思います。私が 2003 年から仲間と一緒にやっている、“現代版家守”という
活動があります。江戸時代は、町人が暮らす江戸の下町は民間の人たちと民間の財力によ
って町が維持、
管理されていました。
このことが明治の中期から変わってしまったのです。
もう一回江戸時代に戻れというわけではありませんけれども、江戸時代の民間が民間で責
任を持って町をつくり、マネジメントするやり方にもう一回立ち返ってみたらどうだろう
かということを、2003 年から全国各地の衰退エリアにおいてやってきています。
民間と行政が一緒になってやるということは、最初はなかなかうまく進みませんでした
が、民間だけでやったらどうなるだろうかという実験を、江戸の下町の馬喰横山界隈の問
屋の集積地帯でやってみて、結構変わるということが分かりました。その実験を、北九州
市でとても衰退してしまった小倉魚町という一番の中心地において、空きビル、空き店舗、
空き家だらけになった町で都市型産業集積をつくり、再びにぎわいを取り戻すということ
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を、2010 年から民間主導の公民連携というやり方で行いましたところ、相当効果が上がる
ということが分かりました。最初のリノベーションプロジェクトができてから 4 年間しか
たっていないのですが、まちに市民の目に見える賑わいが生まれてきました。今まで中心
市街地活性化基本計画にのっとって計画を立ててやっていたときには、補助金も多額に投
入しながら街がどんどん駄目になっていたのです。補助金は見事に役に立たないというこ
とが立証された街でもあります。
ところが、小倉家守構想というエリアを変えるビジョンに沿って民間が投資して、行政
は一切補助金を付けないという形でやったら、なんと街のエリアが軽く復活し始めるとい
うことが現実に起こるわけです。このスライドには 17 プロジェクトと書いてありますが、
実際には 20 プロジェクトが既に起こり、直接関係するプロジェクトだけで、400 名以上の
新規起業者を中心とした都市型産業集積が起こり、歩行者通行量も底を打って 3 割増加と
いうところまできています。民間の自立する力を上手に使いながら、行政側が後方から支
援するという形を取るやり方が、かなり効果的だというところまで分かってきたという状
況です。
映っているスライドは、民間主導の公民連携で進める小倉家守プロジェクトのやり方が
書いてあります。
青色で書いてあるのが、行政が主体となって行った小倉家守構想の検討、
策定、発表の工程です。実行力のある民間の人たちを委員として巻き込んで実現可能な構
想をつくったことです。絵に描いた餅は一切作らないというやり方です。立派な絵に描い
た餅を、たくさん掲げることがよくありますが、多くの町でそれが実現した試しはほとん
ど皆無です。そのような無駄なことをやらずに、実現可能なきちんとしたビジョンを対象
エリアで描き、構想を検討する段階から同時に最初のプロジェクトの仕込みに掛かるので
す。構想は構想として粛々と議論し、制定し、それが終わったらプロジェクトを始めまし
ょうという従来のやり方は間違っているということです。構想検討委員会での構想策定と、
構想を実現する実際のプロジェクトの仕込を同時にスタートを切れば良いだけなのです。
最初のプロジェクトの仕込みが完了する、ここから先は民間が主体で構想をコンセプトと
して背負った持続できるプロジェクトを進める。行政はこのようなことに補助金などを一
切付けないようにするのです。
街の真ん中の一番稼ぐ場所なのですから、民間が自立的に稼げなくて街が続けられるは
ずがありません。とても簡単な結論です。そのようなやり方で行うと、街が復活してきた
ということが実証されつつあります。行政という意識を捨てて、大きな不動産オーナーと
して私たちも家守をやるのだと仙台市が宣言すれば良いのです。簡単なことです。ここか
ら先は民間の皆さんでどうぞよろしくお願いしますというのは、あまりにも調子が良過ぎ
ます。そのようなことをしていても、街が良くなることはありません。副市長さん、勝手
なことを言ってすみません。公共が大きな不動産オーナーとして、民間の力を上手に引き
出しながら行った例を二つ簡単に紹介します。一つは、私自身が民間側の代表を務めるコ
マンド A という資本金 3000 万の会社が、千代田区の廃校になった中学校を文化拠点として
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アートセンターに変えた 3331 アーツ千代田というプロジェクトです。
今、仙台市は指定管理をやられていると思いますが、指定管理はもう一回やり方自体を
見直さなければいけません。
本当にこれで良いのだろうかという指定管理がほとんどです。
コストダウンにはなるものの、本来公共はもっと違う役割をやらなければいけないのでは
ないかと私は思っています。民間自立型のやり方があるということです。もう一つは、き
ょうは岡崎正信さんが来られていますが、私も岩手県紫波町オガールプロジェクトにデザ
イン会議委員長という形で加わらせていただいて、アドバイスをしながら一緒にオガール
プロジェクトをつくってきました。後ほどオガールでの民間主導で公民が連携するやり方
を少しだけお話しします。
まず、3331 アーツ千代田について話します。民間自立経営の文化施設はやればできます。
あらゆる文化施設は、ある条件下でやれば民間自立経営できると思います。ただし、この
活動は千代田区の公共の財産を使って、文化拠点をつくるというプロジェクトを任されて
います。
パブリック性が思う存分発揮されなければ駄目です。
民間がただ施設を利用して、
うまくお金を回せば良いというような低い思想では駄目だと思っています。2008 年 9 月に
千代田区の文化拠点の運営事業者を募集し、賃貸借契約で 5 年間この建物を借りる契約を
結び、家賃を払い、修繕費のほとんどを運営者側が持ち、ここを文化拠点として文化芸術
サービス活動を展開します。現在、大中小を合わせて年間 1000 イベントを行い、来館者数
は 80 万人から 100 万人をカウントしています。文化芸術サービスを提供するためにはとて
も人手がかかります。25 名の従業員を雇いながら、千代田区に年間約 2000 万円の家賃を
払いながらやっているという組織です。
外部評価委員会が組織され、年に 2 回活動内容のチェックを受けています。年度の初め
には活動計画を出します。適正な計画で、適正な活動を行えているかのチェックが年に 2
回あり、年に 1 回は財務内容の監査もあるというぐらいに、ガバナンスが利いた上で民間
自立の文化施設経営を行っているという例です。私自身が代表者としてアーティスト 7 割
の組織を運営して、現実的にやればできるということがその結果ですので、仙台でもおや
りになったらどうかと思います。特に、3331 アーツ千代田に隣接する都市公園はかつては
浮浪者の人たちのたまり場になっていて、ほとんど市民が近寄れない場所になっていまし
た。学校とは塀で仕切られていたのですが、やはりそこをつないだことが良かったと思い
ます。
屋内と屋外がつながるという概念は、公共空間の場合でも民間空間と公共空間がつなが
る場合でも、公民の境目なし、屋内屋外の境目なしという空間が都市の中に出来上がりま
す。このことは、やってみて大変大事なことではないかと感じております。年間 1000 を超
すイベントがここで行われているわけですが、行政が指定管理で文化施設運営をやらせて
いたら、このようなのびのびとした活動は絶対にできないのではないかと思います。なお
かつ、パブリック性もきちんとかなえ、地域にも根差さなければいけないというとても縛
りがきつい中で、それをこなしながらのびのびと自由に活動するというのが、大変大事な
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ポイントではないかと思っています。
これは岡崎さんの生まれた岩手県紫波町です。真ん中に北上川が流れ、両方を山脈で囲
まれた北上川の洪水域の農業の町です。豊かな屋敷林(いぐね)が点在する、散居村の形
態を取った非常に素晴らしい、何かイタリアのトスカーナに行ったような印象を持つ町で
す。町役場側には、公民連携室という庁内に横串を刺すセクションが日本でもいち早く出
来て、それが民間の公民連携エージェント会社であるオガール紫波と連携しながら、岡崎
さんが民間側の代表者として進めているのがオガールプロジェクトです。この辺りのこと
については、岡崎さんが詳しく説明してくださいます。私は説明を省きますが、紫波町は
人口わずか 3 万 3000 人余の小さな町ですけれども、ここで行われている民間主導の公民連
携のやり方というのは、仙台市が学ぶべき点は多々あると思います。現実的な公民連携を
民間主導で行うときの行政側に必要なノウハウは山のようにあるということです。
岡崎さんと紫波町の職員が築いたノウハウは、全国の自治体のかたがたが行政マンとし
て学ぶべき点が、実にたくさんあるのではないかと思っています。特に真ん中にある幅 30
メーター、長さ約 300 メーター余り続くオガール広場という公共空間の使い方は、定禅寺
通りがこのように使われると良いのではという見本ではないかと思います。オガールにま
だ行ったことのない仙台のかたがたは、ぜひ行ったほうが良いと思います。そのときに、1
泊しないと岡崎正信のレクチャーは受けられないそうです。お金を落としてほしいと言っ
ております。オガールプラザというのは、オガール広場の横に図書館が半分あり、残りの
約半分の建物は民間テナント棟という公民の施設が合築された建物です。2012 年 6 月に出
来上がって、これがオガール地区への集客の元になっているものです。この辺りについて
も、後で岡崎さんが説明をしてくれると思いますので、私は省略します。
私はいつも図書館が大事だと言っています。これから最も大事になる公共施設は、公共
施設の中で市民の利用度が一番高い図書館です。仙台市のいくつかの図書館に行ってみま
したが、全く普通の図書館です。何のために図書館があるのかという意識が全くありませ
ん。これでは駄目です。残念ですけれども、点数を付けるとしたら 50 点くらいです。武雄
市の図書館がモデルだということですが、全然違います。申し訳ありませんが、あれも違
います。この辺りのことも、後で岡崎さんが説明してくれると思います。大事な点は全部
岡崎さんに振りますが、弟子が育つのは良いなという感じです。
オガールプラザに面するオガール広場というのは、町の人のリビングルームとしてとて
も機能しています。これは去年の写真です。このテントよりももっと大きくしたテントが
張られて、今週の日曜日までの 4 日間、ここでオガール祭りが行われました。盛岡あたり
からも人が山のように集まって、ビールを浴びるように飲んでいました。かなり稼いでる
のではないかというように見えました。オガールのプレイスメイキングはとても大事で、
新たに町の中心をつくることをやっているのですが、ここから東側 800 メートル離れたと
ころに元々町の中心だったぼろぼろの状態の日詰地区が残っています。本年度から 10 年が
かりぐらいでゆっくりと日詰地区のリノベーションまちづくりをして、古い歴史がある町
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の中心と、新たな町の中心オガール地区をつなぐプロジェクトが始まりました。これがオ
ガールで行っていることです。そしてこのオガールプロジェクトが町の人口を維持し、町
に産業を継続的につくりだしていく一番の原動力であり、まちを再生する仕組みになって
いるということが最も大事な点です。
不動産には公民の境目はありません。しかし、向こうの歩道の端の所に公共側の敷地の
境目があって、その向こう側に民地の敷地の境界とともに店舗があります。本当はこの境
目がよく分からないような状態になっている町が、理想的な町ではないかと思います。先
ほど保井先生が、民間が提供する屋外空間的なパブリックスペースがあるとおっしゃいま
したが、
実は民間が提供している大事なパブリック空間はもっと他にもたくさんあります。
室内型のパブリック空間は、パブ、バール、カフェ、角打ち、大体は路面に面していて、
路面に開かれた飲み屋こそ民間が提供する最大のパブリック空間なのです。こういう民間
型パブリック施設も含めて街ができているということです。地べたの街がとても大事です。
地べたの街に、公民の不動産の境目がないという街をぜひつくってほしいです。
第 2 次大戦以降、
日本人は車を見れば拝むという行為をするようになりました。
皆さん、
車がそれほど偉いのですか。人間のほうが偉いのではないでしょうか。その辺りで車を拝
んでいるのですが、何とかやめてくださいということが一番言いたいことです。車を否定
しているわけではありません。細切れの駐車場ほど役に立たないものはありませんので、
それを再配置しながら、車の通る道と人が歩いて楽しいエリアを設定して、人が歩いて健
康になる街、医療、介護費がかからないで住める街をつくることも、都市地域経営課題解
決の大変大きなテーマではないかと思っています。公共空間、公共施設から収益を生む仕
組みをつくりだし、公共施設の維持管理費用を低減するという先ほどの保井先生のお話に
大賛成です。仙台市の公民の遊休不動産を使い尽して、楽しい街をつくる、食、住、育、
遊が近接する仙台の街中を、民間の人たちと行政の人たちの皆さんで力を合わせてつくっ
ていってください。どうぞよろしくお願いします。
○ディスカッション
1.戦略的なエリアプロデュースについて
竹内:自己紹介のときに言わなかったのですが、先ほど清水先生からご紹介していただい
た、紫波町の中心部のエリアの北側にある住宅地をエコハウス化して、町の産業をつくる
ということを担当しました。民間の持っている各工務店のポテンシャルをどのようにして
引き出すのかということで、工務店さんと一緒に膝を突き合わせながら、難しいけれども
このようなことをやろうということで、かなりハードルの高い設定をしてやり始めました。
分譲するときに、民間の町の工務店で高いレベルのものをつくるという建築条件です。勉
強や努力しなければいけないのですごく大変でしたが、それをやった結果として町自体の
エリアの価値が、
その場所はエコタウンになるということが皆さんに認識されたと同時に、
それぞれの工務店のレベルがものすごく上がったのです。普段はリフォームなどの小さな
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仕事しかしていなかった人たちに、どんどん受注が来るようになりました。
エリアマネジメントを行って民間が稼いで、公共にそれを戻していくためには、やはり
民間が収益を生むように頑張らなければいけません。そのようなことが非常に大事なので
はないかと思います。私も仙台市だったら何でもできると思います。このようにお話しし
ているときに、皆さん車がうるさいと感じていると思います。例えばここが公園で車が 1
台もなくて、キッチンカーのようなものがあって皆が散歩していたら、仙台はすごい所だ
というように感じると思います。そのようなインパクトのあることをできるだけ早くやら
ないと、特区といっても何も変わらなかったではないかと言われてしまうのではないか、
ということを言いましてマイクを置きたいと思います。ありがとうございます。
伊藤副市長:なかなか激しいご意見が続いております。続きまして、渡さんからお願いし
ます。
渡:私のほうからも、激しくはないですが少し聞きづらいことを言います。まず、先ほど
保井先生の資料の中に出てまいりました、ブライアントパークというニューヨークの公園
があるのですが、そこで生まれた概念として、清水さんのほうからご提示がありましたプ
レイスメイキングという発想があります。エリアマネジメントというエリアで考える発想
の、一番基になるコンテンツをつくる小さな取り組みです。人が 1 人ここに座るというこ
とから入ります。なぜそれが必要かというと、エリアマネジメントというのは、エリアマ
ネジメントすべきエリアのコンテンツがなければ存在しないわけです。
そこにお店がある、ただ物があるということでは駄目なのです。やはりそこには人を中
心とした魅力的な環境が必要です。環境というと大きく捉えがちですが、ここに人が 1 人
座って、座る人が自分で何を見て、この周辺でどれだけのその人の実存感があるのかとい
う、一人一人を中心に考えて一人一人を大切にするという、言ってみれば民主的で福祉的
な空間なのです。その発想がない限り、いくらエリアマネジメントをしても空虚なものに
なってしまうと思います。
それを最初に大きく展開したのが、ニューヨークのブライアントパークです。皆さんき
ょうのこの空間がすごく良いと感じていると思いますし、そのようにおっしゃっています
ので、少しこのことを考えていただきたいのです。ブライアントパークにはこのような屋
外の空間が存在するのですけれども、すごいのはその中になんと可動式の椅子が常時 5000
個置いてあることです。今ここに椅子がどのくらいあるのかは知りませんが、約 2 ヘクタ
ール少しぐらいの公園の平地にこの状態の何倍かの椅子が置いてあります。その中の半分
ぐらいはこのようにちょうど木陰でカバーされていて、その他には芝生や多少石張りの所
もあり、いろいろな空間が用意された中に可動式の椅子が 5000 個あるのです。実は 4500
個や 4200 個という説もあるのですけれども、私が行って実際に椅子を数え始めたら、皆が
椅子を移動してしまうので結局数え切れませんでした。
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そのように、ただ設営されて置かれている椅子に座らされているのではなくて、自分で
自主的に座って方向を変えて、グループに応じて、あるいは 1 人なら自分の好きな方向を
眺めながら過ごせるわけです。それをやろうとしたときに何が問題かというと、今の行政
のいろいろな法律や許可を必要とすることがそれを阻害する要因になるでしょうし、その
ような企画を出してもすぐに通るとは思えないのです。ブライアントパークの小さい版の
この空間であっても、恐らく普通のかたがたはこのような企画をしようとも思わないし、
行政の方もこのような企画は日常的には許可できないと思います。そのようなことが常に
発生してしまうので、民間や市民の利用者の方が今までの発想とは全く逆の、例えばこの
ような中央帯を使いたいという発想をします。これは今まで見たことがないので、恐らく
発想すらしないと思います。
けれども、このように見せることによってやっても良いのだという意識が芽生えると思
うので、私はこのようなことはたくさん見せたほうが良いと思います。今度はそれを許可
し、促進していくようになり、さらにこのような環境を維持、運営するような仕組みがで
きてくると思います。その仕組みについては、先ほどのいろいろなお話の中で一人一人に
ヒントがあったと思います。例えば民間の会社がこれを運営してくれれば、恐らく可能か
と思います。その阻害要因として、例えばここに椅子が置いてあったらこの椅子が道路に
はみ出たらどうするのか、警察がどう思うのか、ここで犯罪が起こったらどうするのかと
いうことが挙げられます。そのようなさまざまな阻害要因があるので、このような企画は
大体消されてしまうのです。それを消さないで残して日常的にこのような空間を維持して
いくには、どのようにしたら良いのかという具体的なことから考えていくと、今までの行
政のやり方とは全く逆になります。
公園というのは、普通はこのような可動の物はできるだけ置かないようにします。けれ
ども、座る場所が必要だということでベンチを置きます。ベンチというものは完全に固定
して、10 年ぐらいはメンテナンスしなくても良いようにするという、メンテナンスフリー
という発想です。そうではなくて、メンテナンスフルでメンテナンスを毎日するのです。
これを片付けることも、単発のイベントだったらできるのです。単発のイベントを 365 日
申請して誰かがやれば、メンテナンスフルに近いことができるのですが、単発のイベント
ごとに運営者が片付けなければなりません。そうではなくて、可動式の椅子を常設して自
由に使ってもらうという形で、運営するにはどうしたら良いのかということを解決しない
と、せっかくのこの絵が実現してこないということになってしまいます。民間、市民、行
政の全員が逆の発想で考えないといけません。
そのような事例は他にもあります。ハードな整備の場合に重要なことなのですが、例え
ば再開発をしていると普通は道路を広げますけれども、最近のアメリカの再開発は逆に 4
車線道路を 3 車線に減らして、車両の両脇にスペースをつくってそこに椅子やテーブルを
置いて、その前にあるレストランがその椅子やテーブルを店の座席として使うのです。先
ほど清水さんがおっしゃったように、民地の部屋の中が解放されていて、歩道にも椅子が
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あり車道にも椅子とテーブルがあるという状態です。それらが完全につながっている事例
があります。駅前商店街の再開発でそのようなことをやっています。車は路上駐車もでき
るようになっていて、その後ろには駐車場が増強されているのですが、江戸時代の日本の
町のように解放された町がずっと連なっているのです。
特にアメリカのプレイスメイキングを試行している所を見ると、私は江戸時代の日本の
町のような価値観を復活しようとしているのではないかと感じます。先ほどの清水さんの
お話を聞いていると、江戸時代から来た使者のような感じがしました。つまり、人が中心
の人が歩行する町を楽しく使って、例えばサクラをめでるなどの日本の伝統的な意識があ
りますが、それを常に発揮できるような、この洛中洛外図のような江戸時代から日本人が
持っている町を使う遺伝子を、現代で復活するということです。そのために、行政、人の
意識はどのようにするのか。人の自主的で能動的な発想の使い方や構想に対して、どのよ
うな行政サービスが必要なのかということを考えながら、そのようなコンテンツを生き生
きと担ってもらいたいです。
例えば、ここで一番足りないのは、食です。このような空間には食が必要です。われわ
れ講師陣には水がありますけれども、水だけではなくてその辺りにキオスクがあってコー
ヒーが飲めて、食べ物が食べられるようになると良いと思います。ブライアントパークに
は、おいしい食べ物を提供するキオスクとレストランが全部で 6 カ所あって、ビアガーデ
ンもあります。この通りにそのようなキオスクが建っていて、恐らくここには椅子が数千
個あると思うので、ニューヨークのブライアントパークのような空間ができてくると思い
ます。そのようなことも一つのサービスで、オガール広場には両脇にそのような空間があ
るのだと思います。
これもよく公園などで見かけることですが、せっかく芝生を作っても入ってはいけない
という所があります。使ってはいけない、もちろん物も食べてはいけないなど禁止事項が
まず優先になっているのです。そうではなくて食べても良い、中に入っても良い、使って
も良いということで、人のさまざまな居場所を町の中にたくさんつくっていくと良いと思
います。私から見ると、不動産ではなくて動産なのです。人が活動して、人が動いている、
いろいろなものを見ながら楽しんでいくという、動く価値をどのようにマネジメントして
いくかということが重要だと思います。以上です。
伊藤副市長:ありがとうございます。一つだけご紹介します。実は仙台でも大きな通りの
車線を一つずつ減らして、歩行者空間でカフェを出すようなことを考えております。その
ような動きもあるので、随分画期的だと私も思っておるところです。それとは別にエリア
マネジメントもさまざまな地域でやっていきたい、そのような流れの中で今議論をしてい
るということであります。保井さんから BID のことを中心にいろいろなお話を伺いました
けれども、お話の中で飛ばした部分があったかと思います。仙台にこのようなものがあっ
たら良いのではないかというところを、少しご説明いただきたいと思います。
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保井:直接の答えではないかもしれませんが、きょう市役所に伺う前に、仙台の都心部を
歩いてきました。今日準備した資料にも関連してくると思うのですが、路地の店などが集
積する面白い所がたくさんありました。表通りから 1 本入った賃料が少し安いであろう所
に、入りたくなるバーやレストランなどがたくさんあって非常に面白いと思いました。た
だ、目を転じて、公共施設、道路、公園などの市が不動産オーナーである施設をみると、
仙台は大都市であるということかもしれませんが、規模が大きいのです。ペデストリアン
デッキもすごく規模が大きいのですけれども、その分人が通り過ぎているだけのような、
無機的に見えてくるところがあると思いました。
プレゼンのこのページには、いろいろなことを書きました。しかし要するに、そのよう
な規模の大きい公共空間に、マルシェがあったり工房があったり、もっと人の生業や動き
が感じられるようにしたい。それに対して乗り越えていかなければいけないことを次のペ
ージに書いています。それは、公共施設を整備するのではなく、先ほどおっしゃったよう
な、エリマネ団体や民間団体が空間を管理・運用して、コンテンツをつくっていくことを
支援しないといけないということです。そして、市がこれから行う規模の大きい公共施設
の事業は全て市民目線で、先ほどの学校のお話もありましたけれども、管理は基本的には
公金を使わず自立的に、市民と知恵を絞って一緒にやるというように宣言されたらどうで
しょう。そうすれば、あとは具体的なやり方を考えるだけということになるのではないか
と思いました。これもその一つのやり方ということで見てもらえればと思います。
伊藤副市長:ありがとうございます。先ほどの清水さんのお話は、プロデュースアンドマ
ネジメントの中で民間に主導権を渡すというような観点が大事だということでした。民間
の皆さんに上手にプロジェクトに参加していただく、引き込んでくるというようなことに
ついて、これまでのさまざまなご経験があると思いますけれども、そのご経験の中でこの
ようなやり方があるのではないかということを、教えていただければと思います。
清水:民間といっても、やはり行政が握手すべき民間をつくっていかないと駄目です。今
までの行政が手を結ぶ民間は、大企業ならば良いだろうというのは、本当は駄目なことで
す。私は、何十社という上場会社のコンサルタントをやっていた人間なので、大企業の性
癖をよく知っていますが、残念ながら利益のみを優先するタイプの企業がほとんどです。
今までの行政は、この大会社ならば良いだろうといって握手していたのですが、この失敗
を反省しなければ駄目です。これはものすごく大事なポイントです。やはり、先ほど保井
先生が言われた、ある種のパブリックマインドを持つ自立型の民間組織というものが要求
されるのです。それを街の中に見分けて、既に活動している中からこれは良いなというも
のがあれば、得意なジャンルかどうかということも含めて握手するかどうかを決めれば良
いだけなのです。
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もしそういう組織がなければどうするのか、仙台のリノベーションまちづくりでも行お
うとしている家守会社をたくさんつくって、その中でこの辺りのスペース活用はこの方た
ちならできるのではないかと思うような所があれば、そこと手を組んでやれば良いのです。
行政側は、手を組むべき民間を育てるという行為がものすごく必要ではないかと思います。
それから、民間の不動産オーナーの啓発というのも非常に大事です。定禅寺通りだけ良く
なったら、他の場所も良くなるというわけではありません。定禅寺通りに面している民間
の地権者は、その一筋後ろ側あたりまでが受益地ですので、受益者が生まれるでしょう。
ここが定禅寺通りで、例えば片側の向こうの車線を歩行者空間として使って、こちらだけ
を対面でゆっくり車を通せば良いぐらいのさばき方をします。オガールはそのようになっ
ているのですが、片方に寄せて、片方が車道をつぶしてしまうというぐらいのことをやる
と、インパクトが大きいです。
さらに、定禅寺通りだけ単独で造るのではなくて、今はあまり使われていない西公園と
いう素晴らしいロケーションの公園があるのですから、西公園までつなげるべきです。余
計な話になるかもしれませんが、きょう聞いた面白い話があります。青葉山は石炭の亜炭
が取れていたそうです。江戸期あたりでは青葉山の周辺から採れるまきと、まきで作った
炭はエネルギー源だったことでしょう。そのまきを再び利用する。竹内さんが山形や紫波
町でプロデュースしているような、エコハウスが仙台にはほとんどありません。これほど
寒い街なのに、皆さんはなんと不健康な暮らしをされているのでしょうか。ぜひ、オガー
ルのエコハウスの宿泊体験をしてください。寒い冬に室内の熱環境が劇的に良くなります。
健康で暮らしやすく幸せな街として仙台市民が暮らし続けるためにも、絶対にエコハウス
をやったほうが良いです。そのエコハウスのまきが青葉山から採れて、山も管理されるよ
うなことがひとつながりで、定禅寺通り、西公園、青葉山までつながるというぐらいの構
想を持ってほしいというのが大きなところです。
民間を育てるためのやり方はたくさんあります。行政側は大きな不動産オーナーとして、
民間、行政、大学等が平たいフラットな環境で集まれるような場を提供する機能が、行政
側には大きくあるのではないかと思っています。今まで北九州市でやってみてうまくいっ
たことを全国展開しています。リノベーションスクールという民間の遊休不動産と公共が
持っている遊休化した公共空間も含めて、それらのリノベーション事業提案を、最終日に
各々の不動産オーナーの目の前でプレゼンして、それを家守会社が実現していくというよ
うなフラットな場があります。とても熱くてフラットな場を設営すると、官民双方の意識
が変わっていくのです。そのような人のつながりができる場の設営を、行政がやるべきこ
とではないかと強く感じています。
そのようになりますと、大体はお酒を飲んで面白い人たちと知り合いになって、それが
つながって会社をつくったりする中で、志を持つ不動産オーナーと自然につながって、一
緒にプロジェクトを起こすようなことが自然発生していきます。そのような場というのが、
非常に大事ではないかと思っています。
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2.担い手となる民間組織について
伊藤副市長:ありがとうございます。行政がそのような場をつくっても、民間のキーパー
ソンが本当に集まってくるのかということもあるかと思います。民間の組織の組成や、行
政がもう少しこのようにしてくれれば民間がやりやすいのではないかということを、例え
ばオガールの例で言いますとどのようなことだったのでしょうか。
岡崎:紫波町の場合は、私を巻き込んだのは力技でした。私はもともと東京で役人をやっ
ていたのですが、父が死んでしまったので 30 歳のときに地元に帰りました。父は建設会社
を興していたのですが、その会社のうら若き青年だった私を町長と副町長が連れていって
しまったのです。私の好きな個室に連れていかれて、
「岡崎くん、土地はあるから何とかし
なさい」と言われました。町長さんに頼まれれば、建設会社のうら若き青年は嫌とは言え
ないでしょう。そこからこのプロジェクトは始まったのです。本当に体育会系的なノリで
始まったのですけれども、やはり失敗はできないと考えたときに、東京では建設省の都市
局や中活法の法律をつくる部署に居て、PFI 法をつくる所にも関わっていたのですが、と
にかく自分が役人時代にやったことを全否定しました。結果的には全て失敗してしまった
のですけれども、だからこそ民間人としてやらなければいけないと思ったのです。役人の
延長線上でオガールプロジェクトをやっていたら、ほとんど失敗していたと思います。
役所の方には、私がやってきたことは全て失敗したから、今までの行政のやり方、プロ
ジェクトのアプローチの仕方を全てやめて、その真逆のことをやれば成功すると言いまし
た。一つやったのは、コンサルタントに無駄なお金を出すなということです。私が 8 年間
の役人生活で理解したこと、経験の中で覚えたことは何かというと、ひげを生やしたコン
サルタントは信用するなということです。それだけは私が経験上知り得たことで、町長さ
んにお話ししたら「そうですか」と納得してくださって、コンサルタントに発注しないで
全てを公務員の職員に任せたのです。町の再生に対する思いを、いわゆるこのような絵を
描くように言ったのですが、それが公民連携基本計画です。まずはそれを作らせて、そこ
からわれわれはどのようにして民間のキーパーソンの卵を育てていくかということを行い
ました。やはり、清水さんが場をつくるように言うと来るわけです。
けれども、大事なのは地元資本です。例えば、飲食店をやっている地元の人間というの
は地元愛があるのですが、時として面倒くさい愛につながってしまうこともあります。
「自
分はこうだ」と言って、パブリックマインドがない人も出てきます。卵のままで終わって
しまう人も居るので、この人だと決め打ちするのではなくて、まずはたくさんの人が集ま
る場をつくることによって、ものすごい数の人が付きます。けれども、私がこの人と一緒
に仕事やプロジェクトをやりたいと思う人は、自分で何かに投資した人です。飲食店でも
そうですし、農家で補助金を使わない 6 次産業をやっている人もたくさん居ます。そのよ
うな人たちと組むと、面白い提案がどんどん出てきます。その人たちは実際に行動を起こ
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すのです。お金がないからやらないという言い訳は絶対に言いません。面白いこと、やり
たいことは全部やるという人たちが集まってきて、今すごく動いているところです。
来ていただければ分かるのですけれども、オガールは次もいろいろなコンテンツを考え
ています。今度は、6.7 坪の小さい場所で自転車をコンセプトにしたバーをやるのですが、
普通の自転車バーをやっても面白くないので、今年はロンドンとニューヨークに行って世
界最先端の自転車バーを見てきました。私が編み出した今度やる自転車バーは、自転車を
買ったけれども家に持って帰られない男たちが集まるというものを造りました。自転車は
高いのです。
私が得意とするのはこのようなパブリック空間ではなくて、
個室空間なので、
そこで夜な夜な集まる男たちをターゲットにしたコンテンツをつくります。
来年はバレーボール専用のトレーニングセンターを造ろうと計画しています。バレーボ
ールのいろいろな強豪チームが来てくれるのですが、一つ足りないのはトレーニングルー
ムだと言われました。それならば来年造ろうということです。私の一つ下に、アメリカの
トレーナーの資格を取ったというすごく優秀な後輩が居るのですが、その人を捕まえて
「あ
なたがそこのリーダーとしてマネジメントをしなさい」と言って連れてきました。来年 10
月にオープンする予定ですが、そのトレーニングセンターも仙台や東京にあるような普通
のトレーニングセンターではなくて、とにかくとがったものを造らなければ駄目です。名
前だけはまず決めておこうと、ハトムネリキドウクラブという名前を付けました。
ですから、私はハトムネリキドウにならなければいけないので、4 カ月前から腕立て伏
せをしています。ハトムネリキドウクラブは、ベンチプレスに関してうるさい人たちが集
まった、単なるトレーニングではないトレーニングルームを造ろうと思っています。紫波
町が仙台や盛岡に勝つためには、とがったことをやっていかなければならないのです。そ
のときには、先ほど副市長さんがおっしゃったとおり、マネジャーを誰にするかというこ
とが大事なのです。清水さんなども、まさにとがった人です。このようなおじさんは、普
通はどこにも居ません。このような人たちと一緒にやるということが、とがったことをや
るということであり、とがった人材を集めるためにはその卵を見つけて、その卵の中から
地元資本の人間をよりすぐっていくということがすごく大事です。
伊藤副市長:ありがとうございます。少し違う観点から町に魅力を持たせるためのヒント
と言いますか、どのようにすればとがった発想が出てくるのかというようなことを、竹内
さんからお話ししていただければと思います。
竹内:とがったものというのは難しいですね。岡崎さんが造っているバレーボール専用の
体育館というのは、普通に考えたら人口 3 万 3000 人の町に、バレーボール専用の体育館が
運営していけるのかというところがあると思います。そのようなお話だけをお聞きしてい
るとすごく高等向けのような感じがしますけれども、例えばピンホールマーケティングと
いうのですが、自分の会社でクラブチームを持っていて、自分もバレーをやっていたこと
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があって、いろいろなバレーをやっていた人の知り合いが居て、営業のネットワークがあ
るからやるというようなことであれば、運営していけるのではないでしょうか。本当に狭
いところを突いていける人が、何かやることが大事なのではないかと思います。
そのとがり方のまま、自転車バーを造ってハトムネリキドウクラブを造って、岡崎さん
はいくつの顔があるのだという話にもなりますが。今度、個室でゆっくりとお話を聞いて
みたいと思います。すごく特殊なことだけれども、確実に居る層をどのように探すのかと
いうことかと思います。
伊藤副市長:竹内さん、もう少しお願いします。そのような人たちを育てる仕組みは、何
か考えられますか。
竹内:リノベーションスクールという所では、いろいろなアイデアを出していくときに 10
人ぐらいのグループで考えます。3 日ぐらいの間で、初対面の 10 人にここの物件をどのよ
うにするのかということを考えさせるわけです。最初のうちは言葉も通じないようなもど
かしい思いをしながらも、何かを伝えていかなければいけませんし、だんだんとまとめる
時間が迫ってくる中で極限状況に追い込まれていきます。けれども、そのような中でいろ
いろな人とコミュニケーションを取りながら、研ぎ澄ませていったものというのは意外と
力があるのです。
リノベーションスクールというのは、
2 泊 3 日、
3 泊 4 日ぐらいの短期間で行うのですが、
そのようなことを何人かのグループでやっていくと、研ぎ澄まされたものが出てくるので
はないかと思います。1 人で何となくつらつらと考えていると、どんどん妄想は広まるの
ですけれども、あまりたたかれないのでやはり少し緩いものにしかならないのです。そこ
をどのようにしてとがらせていくのかというのは、特に専門性の違う人がたくさん居ると
いろいろと多角的な見方ができると思うので、コミュニケーションを積んでいく中で研ぎ
澄まされていくのではないかと思います。
伊藤副市長:ありがとうございます。渡さんには先ほどの流れの中で、役所がきちんと機
能していないところもあるというようなお話を伺いました。役所が持っているものを民間
にお任せするときに、どのような仕掛けがあればもっと進むのでしょうか。民間が仕事を
しやすい状況になるためには、役所はどのような在り方をすれば良いのでしょうか。と言
いましても、カオスのような状態になってしまっては駄目ですから、その辺りのバランス
についてお話ししていただければと思います。
渡:一つの事例として、富山県富山市に市役所が企画して再開発で造られたグランドプラ
ザというものがあります。そこは、公園でも道路でも広場でもありません。つまり、用途
指定のない無法状態の空間なのです。無法状態の空間にガラスの屋根がかかっていて、隣
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には駐車場があって、既存の商店街とくっついていてスターバックスもそこに入っていま
す。そのような環境を行政が企画して造って、最初の 3 年間は市の直営で管理、運営をす
るけれども、その後は民間の会社にお任せしますと言って、無法空間を民間の会社に使っ
てもらうように預けようとしたのです。
そのような形で、例えば先ほどお話が出た西公園を公園という法律を外して、いったん
無法状態にしますと言って民間に使ってもらうというやり方が、一つあると思います。無
法というのは当然本当の意味での無法ではなくて、パブリックマインドが繊細にあって、
このようないろいろな企画ができるような組織に任せるわけです。今までのような指定管
理ではなくて、良い会社をピックアップして一定の期間完全に任せ切るという形で、一つ
の試行をしてみると良いのではないかという気がします。その発想の中で、先ほどお話し
した椅子を置いたら人が座ってくれそうな、日常的に使ってもらえそうな企画をきちんと
出していくのです。
それから、先ほどお話が出たいわゆるシクロカフェ、自転車カフェですが、本当は東京
で働きたくなくて、そのようなことをやりたいという若者は私の大学の学生にもたくさん
居ます。
「先生、本当はシクロカフェなどをやりたいのですが、今の社会はそのようなこと
を許してくれないので、仕方なく東京の会社に行かざるを得ません」と言って泣きながら
出ていくのです。そのような大学生や高校生は、この街にもたくさん居ると思います。そ
のような人たちをできるだけ呼び込むような意識を皆が持たないと、今の若者がかわいそ
うです。今の、特に知識偏重の勉強があまり得意ではない学生はそのようなことを真剣に
考えています。
私の所の学生は、筑波大学の中でも芸術系なのであまり既成概念の勉強ができないので
す。体育系もそうです。そのような学生は一芸はあるのですけれども、大学を出た後に普
通の社会に溶け込みたくないのです。体育系の学生なども、本当は自分たちでエリアマネ
ジメントやまちづくりに関わりたいと思っています。体育系なので力もあるし、いろいろ
な活動もサポートすることができます。今、そのようなアスリートのセカンドキャリアを
どのようにするのかということを、スポーツ系の先生と芸術系の私とで一緒に考えていま
す。スポーツ環境デザインという形で、芸術系とスポーツ系の学生が、まちづくりのエリ
アマネジメントやプレイスメイキングを手伝えるような視点で、全て見直してみようとい
うことです。
例えば河川敷でこの企画をしたときに、いろいろと手助けをしてくれる人材がそのよう
な試みから出てくるのです。今度はメディアでそれを発信する、看板を作ってきれいに格
好良くする、このような空間をしつらえようとする、新たな建築デザインや情報デザイン
の人材がどんどん出てくると思います。そのような形で、いわゆるベンチャー企業とまで
はいかなくても、人材をうまく活用できるようなプラットフォームをつくって、それがだ
んだんとベンチャー企業になっていければ良いと思います。そのような感じで、シリコン
バレーではいろいろな企業がたくさんできています。クリエイティブで面白い人材は、先
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ほどお話ししたような路上のカフェなどを好むのです。そこに集まって皆で交流して、ま
た違った企業が発生するというような形で、どんどん循環していきます。
場が次の人材を生んでいって、次の管理者をどんどん生んでいくというような形になれ
ば良いと思います。
仙台はそのような人材も居るでしょうし、
環境自体もたくさんあって、
おいしい食材もあって、気候も良いということで、条件は全てそろっているということで
す。以上です。
3.資金調達について
伊藤副市長:ありがとうございます。企画はあるけれども、持続的にやっていけるような
お金や組織の永続性などのさまざまな問題が、その次に出てくるのではないかと思われま
す。タウンマネジメント会社をつくったけれども、収入が細っていって結局途中で雲散霧
消するようなことが、かつてよくあったかと思います。まだ日本ではそれほど普及してい
ないと思いますが、BID の地権者やオーナーの方からの負担金の取り方についてというこ
とも、エリアマネジメントを永続させる要素だと思います。その辺りのことについてのお
考えなどを伺えればと思います。
保井:ありがとうございます。先ほど清水先生から、定禅寺通りを西公園までつなげるべ
きだ、こちら側の車線を歩行者空間化にしてしまおうというようなお話がありました。そ
のような提案は大賛成でして、仙台市ぐらいの規模になると、都市の改善や更新などはさ
まざまな場所で進んでいくと思いますので、そのときに、絶対に周りの民間の事業者や地
権者と積極的に連携をしていくべきだと思っています。
アメリカの BID は、エリアマネジメント事業をやっていることももちろん素晴らしいの
ですが、私が一番大事だと思っているのは、公民の投資状況を把握していることです。毎
年、公共が自分たちの地区のどこにお金を入れたか、それに対して民間がどこに投資して
いるかということを把握しているということです。資産所有者は自分たちで BID 負担金を
払っているわけですけれども、そのことがどんな効果を生むか、自分たちでこのようにや
っているから公共もこれだけのお金を入れるし、民間もこのように投資するんだというよ
うに捉えているのです。BID は、公共投資と民間投資をコーディネートして、最適な形で
地域に投資が行われるようにしているわけです。
この場所をもし歩行者空間化したとすると、先ほど、ここに面している所とその裏ぐら
いまでは受益地だというお話がありましたけれども、だとするとやはりその地域の資産所
有者自身が地域経営の視点を持つべきだと思います。道路は公共用地ではありますが、資
産所有者にとっても自分たちの土地の価値と切っても切り離せない場所になるので、自分
たちでお金を出して行政のプラスアルファのいろいろな振興策を行う形をつくるのです。
既成市街地で今まで行政からただでサービスしてもらっているものに対して、負担金を払
っていくというのはなかなか理解が得られにくいことだと思うのですけれども、新しい事
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業を行うとき、何らかの変化が生まれるときというのは大きなチャンスです。新しい空間
が創出されるのであれば、そこをどのように使っていくかということとセットで考えなけ
ればいけない。つくる前から、プレイスメイキングの発想をしながら使い方を考えつつ改
善も進めていきます。行政だけでなく、その使い手としての地域経営組織と一緒につくっ
ていくということが非常に大事だと思います。
また、地域経営の方法は、その地域の性格によっていろいろと違うだろうと思っていま
す。先ほど東京駅前の地区のお話がありましたが、街を全体的に底上げしていくことが、
自分たちが持っている資産価値の向上にもつながるという考え方で、特定の企業が主導し
ている所と、そういう状況ではない所があると思います。わたしは、前者のようなエリア
と自分の資産を一体化して考えるほうに誘導すべきだと思うのです。再開発が進んでいく
ときに、事業者が地域と一緒にその後のマネジメントもやっていくような仕掛けを、でき
る限り進めていくべきです。そのような意味では、積極的にエリアマネジメント団体をつ
くることが必要ですし、事業者も含めて、エリアマネジメントの財源づくりを考えていく
ことが必要になるのではないでしょうか。
ただ、恐らく既成市街地においては BID のような全員参加の仕組みを突然入れるのは難
しいと思います。一つは、歩道やアーケードなどを地域のコモンとして、新たな地域主導
の維持管理体制をやっていくというやり方があります。あとは、清水先生がおっしゃられ
たような家守です。負担金というよりも、事業をしてもうけた分をエリアに還元していく
という形になるのではないかと思います。さらに言えば、最初に岡崎さんのほうから、財
政問題が根っこのところにあるのではないかというお話がありましたけれども、公共施設
や公園などに関しては、自立的に運営していく財政はそこで完結させるというような考え
方を、根っこに置いたほうが良いと思います。それは市街地とは別の話ですが、例えば小
さな公園だったらもう少しバルクにしないと事業にならない、線にしないと駄目だなど、
都市の使い方を考えながら具体的な形も考えていくということになると思います。
今度、特区で公園の中に保育所を造るというお話があるとお聞きしました。ニューヨー
クなどでも、川沿いの公園管理などは、公共のほうがリーダーシップを取りながら管理ス
キームを構築しており、コンドミニアムやマンションを造って、その収益を公園の維持管
理費用に充てるという大胆なことをやっています。公共空間を自立的に管理する、他に財
政負担を出さないという一つの姿勢の表れだと思います。そのようなことは、仙台市ぐら
いの大都市であればできると思います。負担金とはまた違う話ではありますけれども、こ
れからつくっていく空間をどのように自立的に管理するかという視点で、いくつかのパタ
ーンをつくりだしていくと良いのではないでしょうか。そのような観点からいきますと、
共通していることがあるかと思います。
伊藤副市長:ありがとうございます。最初に清水さんのほうから、補助金をやっても全然
効果は上がらないというお話がありましたが、例えば中小企業の育成などに関しても同じ
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ことをおっしゃる方がいらっしゃるので、私もそのように実感しているところです。民間
の方がイニシアチブを取っていく上で、民間でパブリックスペースをつくっていくという
ような考えを持っていただくためには、何か必要なことがあるのではないかという気がし
ます。その辺りのことについてお話をしていだたければと思います。
清水:民間の方に対する啓発活動は公共側の役割ですので、絶対的に必要だと私は思って
います。なぜかというと、不動産所有者はほとんど高齢者ですが、特に不動産を所有し不
動産の利用の仕方に権限を持っている方など、不動産に対する独特の価値観や古い意識を
お持ちのかたがたが多いので、このかたがたが少し意識を変えてくれるだけで、街が変わ
り得る可能性がとてもあるからです。私たちが常識のように仲間の間で言い合っているこ
とがあります。街中に不動産を持った瞬間に、民間であろうがなかろうが不動産はパブリ
ックなものだから、あなたの個人所有で法律に守られて勝手に使って良いと思っているの
は錯覚です、ということを正直に伝えるしかないということです。
年配のかたがたがに、
私が 20 年間ぐらい言っている言葉があります。
「敷地に価値なし、
エリアに価値ありという言葉を、お風呂に入って 1 日 10 回ずつ言ってください」と言いま
す。そうしますと、ひと月ぐらいたったときに心の中でこの念仏が利いてくるのです。意
識の問題なので、固着した意識を変えるためには念仏が必要なのです。冗談のように言っ
ていますが、本当のことです。効き目のある効果的な念仏です。不動産の価値は、あなた
がお持ちの個別の敷地の中の建物には価値は生まれませんということです。
建築家のかたがたの中にも、竹内さんのような方なら良いのですが、自分の自己表現の
ために建築をやろうというとんでもない建築家をたくさん知っています。今、実名を言い
かけましたがぐっとこらえました。言わせようとしていますね。冗談はともあれ、敷地に
は不動産の価値は生まれません。個別の建物には不動産価値は生まれません。不動産はエ
リアにしか継続性のある価値は生まれませんので、そのことをまずは不動産オーナーのか
たがたに分かっていただくような啓発活動は、ベースとしてものすごく大事です。
北九州市でも、民間で自発的にプロジェクトが起こるようになってきています。北九州
市は 5 市が合併してできた市ですが、最初は小さいエリアで始めたことが他の 4 都市の中
心部に波及しつつあります。本年度からは水平展開が始まっているという状況になってい
ます。そのように民間ベースで波及効果はどんどん出てきているのですが、小倉も含めた
それぞれの街における、不動産オーナーに対する啓発活動だけは継続してしっかりやって
いきましょうと言っています。まずは正しい知識を正しく伝えていくということをやった
ほうが良いです。
そのときには、きょう保井先生がお話しされたような、エリアマネジメントはおやりに
なったほうが良いということを伝えます。エリアマネジメントということは、全然意識し
ていない方がほとんどです。
「あなたの不動産を、子や孫の代まで譲り渡していきたければ、
エリア価値を高めることをきちんとやっていきましょう。そのためには、エリアマネジメ
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ント、エリアプロデュース&マネジメントということを一緒になってやりましょう」とい
うことを、同じ方に対して少なくとも 100 回は言わないと聞いてくれません。
伊藤副市長:ありがとうございます。時間が押してきましたが、これだけは一言言ってお
きたいということがおありでしたら、どうぞお話ししてください。お願いします。
竹内:先ほどから、この絵は本当に良い絵だと思って見ていました。私は、海外なども旅
行してその街をすごく歩くことがあります。どのような所に行くかというと、街並みを見
て美術館に行って、川沿いを歩いて市場に行きます。そうしますと、どのような街で、ど
のような人がどのような暮らしをしていて、どのような幸せを感じているのかということ
が分かるのです。海外ではありませんが、仙台に来て観光するときに、仙台駅に降りてそ
のような所を歩けて同じように思えるかということを考えると、何か物足りないのではな
いかと思いました。これからは観光が大事だとよく言われていますし、観光が産業の一つ
になるとも言われているからそのように言っているというよりは、私が海外の街に行った
ときにいろいろな人のさまざまな生活を見て楽しそうだと思うことは、旅行者にとっても
楽しいことだからです。
そのような視点でもう一度街を見渡すと、例えば広瀬川の川沿いにレストランがあって、
テラスが出ていてご飯が食べられたらどれほど良いだろうか、ボートに乗れたら楽しいの
ではないかなど、いろいろなことをできそうだけれども、何もやられていないのだと思っ
てしまうのです。この場所も歩いていて本当に楽しそうだと思うけれども、相変わらず 4
車線あるのかなどと思ってしまいます。市場に関しては、仙台では市場を見に行ったこと
がないので何も言えないのですが、仙台の古い街を見てみようというときに、私も街のこ
とはなかなか分からないので、後から「河原町はこのような所があります」と言われて、
行ってみたらそのとおりだったということがあったのですが、そのような情報もあまりあ
りません。そのような視点でもう一回街を見直すと、いろいろなことが分かってきて、ど
うしたら良いかというさまざまなアイデアが湧くのではないかと思います。この絵を見て
いると、本当にそのようなアイデアが湧いてくる感じがずっとしていたので、最後に一つ
付け加えました。ありがとうございます。
伊藤副市長:ありがとうございます。あとお一方どうでしょうか。
渡:今のお話を聞いて少し付け加えたいと思ったのですが、実は国土交通省もこのような
絵を描いているのです。この絵はご存じでしょうか。馬場さんや大島さんらが委員で関係
している絵です。
小さくて見づらいですが、
硬いと思われる国土交通省交通政策研究所が、
可変的利用という形で柔らかい街の図を提示しているのです。私が言いたいのは、国もこ
のようなことを言いだし始めたので、仙台市は早く何か面白いことをやらないと、日本全
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国のいろいろな所で先にやられてしまうので、できるだけ早くこのようなことをしたほう
が良いということです。この絵は今年の春に出ました。
私も昨年度からさまざまなプレイスメイキングに関わっていますが、国土交通省はだい
ぶ考え方が柔らかくなっていますので、仙台市はできるだけ早く公共空間を使って具体的
な形を日本国民のかたがたに見せてあげたほうが良いのではないかと思います。この絵を
見てください。
「まちに賭ける」というタイトルが付いていますが、街の、例えば水辺や高
速道路や公園などのいろいろな場所、既存の建物、全ての場所をこのように可変的に利用
しています。以上です。どうもありがとうございました。
保井:よいですか。もう時間なのに、すみません。特区でこれから区域計画をつくられる
というお話だったので、1点だけ。エリアマネジメントの関係で東京の大丸有や大阪の梅
田もそうですし、資料にも付いている福岡もそうですけれども、どこも特区で道路占用と
いうのが出てきています。私や他の先生がたもそうだと思うのですけれども、道路の社会
実験などというのは今までの取り組みの延長線上にすぎません。先ほども言いましたよう
に、エリアマネジメントは道路占用を解放してもらうというだけの話ではなくて、そこに
コンテンツをつくる、地域価値の向上のためにさまざまな事業をやっていく、更に、その
ための担い手をつくり、組織をつくり、仕組みをつくるということです。
エリアマネジメント団体の全国ネットワークを、何年か前から続けてきた情報交換の場
をベースに本格始動させていこうとしているのですが、そこでずっと話してきたのは収益
事業と非収益事業を連動させる仕組みをつくろうということです。具体的には、収益事業
に対するみなし寄付金を認めていくということが必要で、そのためには新しい法人制度か、
あるいは公益認定の中でエリアマネジメントをきちんと位置付けていくことが必要です。
今、農山村部でも、例えば地域住民の人たちが、自ら直売所や宿泊施設を運営して財源
を生み出し、一生懸命自治的なまちづくりをやっています。そこでも、同じことが言われ
ています。地域の人たちが自分たちで稼いで自分たちで課題を解決していく、その仕組み
づくりというのは今いろいろな所で非常に課題になっているところなので、ぜひそこに特
区で踏み込んでいただきたいと思います。道路占用だけで終わらないようにしてほしいと
いうことを、最後に申し上げたいと思います。失礼しました。
伊藤副市長:ありがとうございました。きょうもまた大変活発なご意見を賜りまして、あ
りがとうございました。今、保井さんからお話があったとおり、せっかくの特区ですので
いろいろなことをやれないかということを検討していきたいです。皆さんからいただいた
アイデアや、この中でどれだけ特区にすれば良いのかという絵ですが、若い人たちが描い
てくれたアイデアがあります。いろいろなアイデアの実現に向けて、われわれがやってい
くだけではどうしようもないので、民間の皆さまを巻き込みながらやっていくということ
になるかと思います。有意義なご議論をしていただきまして、本当にありがとうございま
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した。課長のほうからお願いします。
○閉会挨拶
畑中: 以上をもちまして、第 6 回ソーシャル・イノベーション・フォーラムを終了致し
ます。最後に事務連絡ですけれども、本日のご議論につきましては、事前に皆さまにご確
認いただいた上で仙台市のホームページに議事録を掲載させていただきますので、あらか
じめご了承のほどをよろしくお願い致します。
本日は長い時間にわたってご議論いただき、
貴重なご意見を頂きまして、誠にありがとうございました。
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