これからの電子オルガンのあり方についての考察

これからの電子オルガンのあり方についての考察
― personal computerを併用しての音楽作り―
片桐 章子
はじめに
は,4オクターブのマニュアル鍵盤2段と13keyのペダル鍵
1958年に,電子オルガンが日本で初めて誕生してから50
盤,それぞれの鍵盤に対応する数個の音色レバーとエクス
年近くが過ぎた。わが国では,ヤマハ
(株)
・
(株)
河合楽器
を持った楽器として
プレション・ペダル
(expression pedal)
製作所・日本ビクター
(株)
・松下電器産業
(株)
・そして最
誕生した。その後,エレクトーンはこの楽器を原型として,
近ではローランド
(株)
,などといった様々なメーカーが,
音色の拡大やリズム装置などの付加が行われ改良を重ねて
各々の特徴を生かし電子オルガンを開発してきた。商品登
きた。
録名は,エレクトーン・ドリマトーン・ビクトロン・テク
そして徐々に,アナログ・シンセサイザーの集大成とも
,FM
(Frequency Modulation)
音源を搭載し
いうべき
「GX-1」
ニトーン・アトリエである。
当初の電子オルガンは,トランジスタを使用したシンプ
,さらに楽器音を録音
たデジタル方式による
「Fシリーズ」
(General MIDI)
の規格に
ルなものであったが,近年はGM
(Advanced
しデジタル化してメモリーを蓄える方式のAWM
対応した音源などを内蔵してのフル装備になった。そして
音源などを付加した機種が開発された。ま
Wave Memory)
扱われる音楽も,当時のコンボ編成の音楽から変遷して,
(Music Disk
た各種設定に対しての外部記憶装置・MDR
オーケストラ作品やビッグ・バンド作品,と編成の大きな
も活用されるようになった。
Recorder)
そして本論のテーマにもなる,XG音源と呼ばれる音源
ものが主流になってきた。
音色的には大編成のものの表現を可能にはしているが,
が出現し,現在もそ
モジュールを内蔵した
「ELシリーズ」
の進化を続けている。
実際は1人の演奏者が演奏することに限りはある。
そこで今回,電子楽器ならではの試みとして,シーケン
を導入し,表現幅を広げることに挑戦した。
サー
(sequencer)
2.シーケンサーの概要
以下はそのプロセスである。
①シーケンサーとは
楽器で言うところのシーケンサーとは,MIDI信号を記
Ⅰ 今回使用する機材とソフトウェアについての
説明
録・再生する機器,もしくはソフトウェアのことである。
シーケンサーは,もともと定型の動作を繰り返す機器のこ
本題に入るに当たり,この度の試みで使用するハードウ
とをいい,音楽の専門用語というわけではない。
ェアとソフトウェアについての簡単な説明をしておく。
(以
このソフトウェアは,専用機に比べ personal computer
の大きなディスプレイが利用できるため,一
降PCと略す)
1.電子オルガンについて
度に多くの情報が表示できる。グラフィカルな方法で編集
電子オルガンは,
「はじめに」
の部分でも記したように,
できることの便利さも評価され,現在ではシーケンス・ソ
日本国内の数種類のメーカーから発売されていて,その使
と呼ばれているソフトウェアが主流に
フト
(sequence soft)
い勝手も各々の特徴を有する。ここでは,国内初の電子オ
なってきている。
ルガンとして発売されたヤマハ製エレクトーンを例に取
②MIDIとは
り,その変遷をたどってみた。
Musical Instrument Digital Interfaceの略で,電子楽器同士
①ヤマハエレクトーンの変遷について
を接続するための通信規格である。この規格はもともと,
初代ヤマハエレクトーンとして開発されたD1
( 機種名)
電子楽器の接続方法と制御方法を統一し,異なるメーカー
―1―
片桐 章子
の電子音楽機器を接続して相互に利用できるようにする目
2.シーケンサーを導入したアレンジへのプロセス
的で作られた。
①電子オルガン・ソロでの演奏の場合
MIDIを使って作成されたデータは,MIDI楽器への演奏
このスコアを電子オルガンのソロ譜にする際,譜例2の
の指示を出すための演奏情報である。この演奏情報は,16
ビッグ・バンド・スコアに近い形で再現すると,譜例3の
進法で記述された容量の小さいものなので,近年では,カ
ようになる。この場合,各パートとも音はほぼ忠実に拾え
ラオケ・着メロ・ホームページのBGM等の様々な用途で
るが,ベース部分1つをとらえても演奏の難易度が高く,
使用されている。
スィング・ジャズ本来の持ち味である,楽しさ・軽快さを
表現することはむずかしい。
③MIDI 規格とは
そこで,オリジナルの雰囲気を壊さない程度に,電子オ
MIDIの普及が始まったばかりの当初は,MIDIデータに
よるやり取りがなされるようになったものの,それぞれの
ルガン演奏として弾きやすさを重視したアレンジを試み
た。
(譜例4)
音源ごとの音色配列や機能は,ばらばらであった。そこで,
この形式での演奏は,演奏者本人が楽しめる環境を容易
ある規定を満たしていれば,どの音源でもある程度再生で
に作ることができる。しかしその反面,音の厚みがなく,
きるようにするために,GMという規格が誕生し,128種
ジャズ独特のハーモニーやベース・ラインも表現されな
類の音色の相互やり取りができるようになった。
い。聞く側にとっての不消化現象をも生じさせる。
その後ローランド社がGMの上位互換の規格として提唱
したのがGSフォーマットであり,さらにヤマハがそのGS
更に,どちらのアレンジにも共通な問題としてあげられ
ることがある。
音源に対抗して提唱したのが XGフォーマットである。
右手パートで取る金管楽器セクション
(トランペット4
本+トロンボーン4本)
と左手パートのサックス・セクショ
Ⅱ シーケンサーを導入しての音楽制作
ン
(アルト・サックス2本+テナー・サックス2本+バリト
1.題材:
『Let’s Dance』
では,息使い・タッチ
(イニシャル・タ
ン・サックス1本)
①本来のオリジナル曲
ッチ&アフター・タッチ)
などの面で対照的な動きを必要
Ë楽曲説明
とする。そこでおのずからフレージングなどの使い分けが
今回題材にした音楽の本来のオリジナルは,カルル・マ
生じてくる。
リア・フォン・ウェーバー
(Carl Maria von Weber 1786∼
最近の電子オルガンは,演奏時のタッチで,かなりきめ
1826)
作曲の
『舞踏への勧誘』
(Aufforderung zum Tanz)
であ
の細かい強弱が表現できるようになった。しかし音楽全体
る。この曲はピアノ曲であるが,後にエクトル・ベルリオ
のダイナミクスなどは,やはりエクスプレション・ペダル
により,管弦楽用に編曲
ーズ
(Berlioz, Hector 1803∼1869)
での表現に委ねることは否定できない。しかもこのペダル
された。
はそれぞれの鍵盤ごとに装備されているわけではない。そ
原曲は変ニ長調であり,
「序奏部-A-B-A-C-D-A-B-A-結
は,
尾部」
の形式を有する。ここで題材とする
『Let’s Dance』
れ故,上記のような異なったフレーズの使い分けには,演
奏者の苦労がつきまとう。
この原曲のCの部分を使用したものである。
そこでこの対照的な金管楽器セクションのパートとサッ
クス・セクションのパートを別々に演奏して,1人アンサ
Ì『舞踏会への招待』
Cの部分の譜例
(譜例1参照)
ンブルを試みることにした。
②
『Let’s Dance』
②シーケンサーをプラスした場合
Ë楽曲説明
ここでは,金管楽器セクションが受け持っているセカン
この曲は,Fanny Baldridge/Joseph Bonime/Gregory Stone
ド・メ ロ デ ィ に あ た る パ ー ト と フ ォ ー ・ リ ズ ム( Fo u r
の3者の合作で,
“スィングの王様”
として知れ渡ったベニ
すべてを,あらかじめ録音することにした。フォ
Rhythm)
ー・グッドマン率いるベニー・グッドマン楽団のテーマ曲
ー・リズムとは,ドラムス・ギター・ベース・ピアノを総
として使用され,一世を風靡した。演奏スタイルは当時の
じた言い方である。したがって,実際に演奏するのはテー
アメリカを反映させたジャズ風にアレンジされている。
マの部分のサックス・セクションとクラリネットのソロの
部分となる。
(譜例5参照。 D からはアドリブ)
Ì『Let’s Dance』
ビッグ・バンド・スコアの譜例
(譜例2参照)
―2―
リズム・セクションとジャズ的フレーズの金管楽器セク
これからの電子オルガンのあり方についての考察
譜例1
ションのパートを聞きながら,左手でメロディを奏で右手
サックス・セクション・パートとの両立が困難である。以
でソロのアドリブ・フレーズを演奏するのは,この方式で
上がこれらのパートを入力した理由である。
のオーソドックスなアンサンブルの手法である。
但し,逆にする方法もある。主役のクラリネットのアド
リブを演奏する際,左手パートは,サックス・セクション
4.DP4の使用法とその手順
手順その1:電子楽器とPCの接続について
シーケンス・ソフトのDP4と電子オルガンは,共通言語
よりも金管楽器セクションの方が弾きやすいと感じる場
を持たない。そこでその媒体をするのが,MIDIである。
合,譜例6のようにするとよい。
そこで,そのMIDI信号の相
(MIDIに関しては上記に記載)
3.シーケンサーでの音楽データ制作
(interface)
の登場とな
互変換機であるMIDIインターフェイス
①使用機種について
り,各メーカーから様々な機種が開発され発売されている。
今回電子オルガンは,その世界で最も主流メーカーであ
しかし最近では,楽器内にすでにこの相互変換機能を搭
(機種名)
を使用し,
るヤマハ
(株)
の最新機種のELS-01/01C
載しているものが多く,今回使用のELS-01/01Cも,PC側
(Mark of the
シーケンス・ソフトは最も歴史のあるMOTU
でドライバーをダウンロードするだけで,USBにダイレク
社のDP4
(Digital Performer4)
Ver. 4.1.2を,PC側は
Unicorn)
トにつなぐことができる。図1は,Mac OS Xのドライバー
Mac OS X Ver. 10.3.4を使用した。
であるCore MIDIの設定を行うアプリケーション「Audio
尚,ELS-01/01Cに内蔵されているXG音源の種類はMU-
の画面である。
MIDI設定」
このように,PC画面上でセッティングのいかんを確認
90Rである。
することができる。
②その内容について
譜例5にあるように,実際の演奏で取り上げるクラリネ
手順その2:MIDIデーター入力用のトラックの選択と設定
ットのソロとサックス・セクション以外の部分をあらかじ
新規MIDIトラックの作成→MIDIデバイスとMIDIチャン
めリアルタイムでDP4に入力し,それに合わせて演奏する
の設定
ネルの設定→デフォルト・パッチ
(DEFAULT PATCH)
試みに挑戦した。
という順で各設定を行う。
→録音するトラックの選定
(図2)
ベースは電子オルガンで演奏するのが常套手段とされて
デフォルト・パッチとは,そのトラックで使用する初期
いるが,ジャズの4ビートによるベース・ラインはウォー
設定の音色プログラムであり,デフォルト・パッチ欄に
キングと言われ,左足で演奏するのは難しい。バッキング
XG音源MU-90Rの音色を設定する。
のピアノとギターも,クラリネット・パート&
(backing)
―3―
この場合,ELS-01/01Cの音色は楽器側でセットし,PC
片桐 章子
譜例2-1
―4―
これからの電子オルガンのあり方についての考察
譜例2-2
―5―
片桐 章子
譜例3
譜例4
―6―
これからの電子オルガンのあり方についての考察
譜例5
側にはレジストレーション
(Registration)
・チェンジのコン
手順その3:Outputチャンネルの設定
としてPatch X
(XはELS-01/01Cのレ
トローラー
(controller)
チャンネルとは,独立して特定の信号を送受信する回路
を入力しておく。レジストレーションとは電子
ジストNo.)
である。トラックとほぼ同義語ではあるが,シーケンス・
オルガン上での上鍵盤・下鍵盤・ペダル鍵盤のボイスやリ
ソフトでのMIDIチャンネルは,1つのチャンネルでいくつ
ズムの組み合わせをいう。
ものトラックを構成することができる。
MIDIチャンネルは,1∼16まである。その中で,1チャ
ンネルはELS-01/01C・上鍵盤,2チャンネルはELS-
―7―
片桐 章子
譜例6
01/01C・下鍵盤,3チャンネルはELS-01/01C・足鍵盤に固
あり,5段目以降の43, 70はヤマハ電子オルガンの固有の情
定されている。さらに4チャンネルはELS-01/01C・リード
報である。
音色用,15チャンネルはELS-01/01C・リズム用,そして
具体的に記すると,1-1-002に入力されたデータはGM音
16チャンネルは各パラメーターをつかさどるコントロール
源オンを表す。これは今回のように,ヤマハのXG音源の
用に指定されている。尚,10チャンネルもXG音源でのリ
みを使用する場合必要ないが,他社のGM音源で再生する
ズム用に固定されている。
場合などのために,入れておくと便利である。
残りのMIDIチャンネル・5∼9,11∼13を使用して,この
1-1-005はXG音源を初期化するためのデータである。
たびの各トラックに振り分けてみた。
(前出の図2参照。MU-
1-1-010と1-1-020のデータはリバーブ・タイム値とリバ
90R-8とは,8チャンネルに設定されていることを表わす)
ーブ・センド値である。このデータは通常以上に幅を持た
尚,この送受信のチャンネルに関しては,
「手順その1」
で触れたオーディオ・MIDI設定ウィンドウのプロパティ
せるため,あえて筆者が設定したものである。このデータ
の入力がなくても,通常のリバーブはかかる。
に表される。
( 図3)この場合の受信チャンネルは1∼16,
1-3-000は電子オルガン・モードの設定を表わす。1-3-
送信チャンネルは電子オルガンの上下鍵盤を使用するため
005から1-3-030までのデータは,ヤマハ電子オルガンに内
に1 & 2に設定してある。
蔵されているリズム・シーケンサーをオンにするデータで
ある。
手順その4:system exclusiveの設定
2-1-000と2-1-030に表されているものは,電子オルガン
System exclusiveはMIDIチャンネルの16で交信される。
のリズム・シーケンサーのスタート&ストップのためのデ
16チャンネルを振り分けたトラック16のイヴェント・リス
ータである。但しこの場合,リズム開始時の電子オルガン
を開き,インサート・メニュー
(insert menu)
ト
(event list)
のレジストレーションを,左フットスウィッチのモードを
(図4)
でSystem exclusiveにデータを入力する。
「リズム」
,リズム設定を
「停止」
に設定しておく。
表記はすべて16進法である。11ページの表は,16進法と
尚,これらのデータは,同タイムに入力すると誤操作が
起きやすいので,わずかにタイムをずらして入力すること
10進法の表記を対比させたものである。
図4でのF0, F7はSystem exclusiveの始まりと終わりを表
が必須である。
す情報である。2段目以降の43, 10, 4CはXG固有の情報で
―8―
これからの電子オルガンのあり方についての考察
図1
図2
手順その5:テンポ&拍子・メトロノームの設定
のように行う。
コンダクター・トラックにおいて,テンポと拍子を設定
手順その6:各パラメーター
(parameter)
のセットアップ
する。
(図5)
入力信号から不要なデータをあらかじめカットしておく
尚,後述するが,ELS-01/01Cのリズム・シーケンサー
を使用する場合のため,こちらの方にも同テンポの設定を
ため,Input Filterを図7のようにセットする。
個々の理由は,この度はPitch bend,Mono pressure,
する。
リアルタイム録音で不可欠なメトロノームの設定を図6
Poly pressureは 演 奏 上 使 用 し な い の で オ フ 。 ま た Tune
―9―
片桐 章子
図3
入力の順序としては,リズム・セクションを先に入力す
requestはアナログシンセの場合にのみ必要な設定なので,
今回はオフ。Mode changesはModeを複数持っているモジ
ると,メロディ・パートが弾きやすいので,下記のような
ュールを使う場合の設定なので,これもオフ。(今回の
順序で試みた。入力はすべてリアルタイムである。
ELS-01/01Cは1つ)
①バス・パートの入力
不要なデータを解除する理由は,不必要な設定がデータ
②ドラムス・パートの入力
(リズム・データは電子オルガン
量を増大し,それによって発音を遅らせる可能性が出てく
本体に内蔵されるリズム・シーケンサーにも入力してお
るためである。
くが,DP4側にも入力し,演奏の目的により使い分ける)
その他に,ELS-01/01C側で演奏する際の強弱をエクス
プレション・データとして入力するため,Create Continuous
③ピアノ・パートの入力
④ギター・パートの入力
(このパートに関しては表拍と裏
拍を2つのトラックに分けて入力した。理由はこの曲が
Dataを図8のように設定しておく。
2拍・4拍を強くするアフター・ビート
(after beat)
である
手順その7:録音開始
や
ため,トラックを分けておくと,ベロシテイ
(velocity)
それぞれに設定したデータを生かすため,オーヴァータ
ブ・メトロノームを各々オンにしておく。
(図9)
を揃える処理がしやすいからで
デュレーション
(duration)
ある。もちろん,でき上がってから合成してもよい。
)
― 10 ―
これからの電子オルガンのあり方についての考察
図4
表
10進法
16進法
10進法
16進法
10進法
16進法
10進法
16進法
0
0
32
20
64
40
96
60
1
1
33
21
65
41
97
61
2
2
34
22
66
42
98
62
3
3
35
23
67
43
99
63
4
4
36
24
68
44
100
64
5
5
37
25
69
45
101
65
6
6
38
26
70
46
102
66
7
7
39
27
71
47
103
67
8
8
40
28
72
48
104
68
9
9
41
29
73
49
105
69
10
A
42
2A
74
4A
106
6A
11
B
43
2B
75
4B
107
6B
12
C
44
2C
76
4C
108
6C
13
D
45
2D
77
4D
109
6D
14
E
46
2E
78
4E
110
6E
15
F
47
2F
79
4F
111
6F
16
10
48
30
80
50
112
70
17
11
49
31
81
51
113
71
18
12
50
32
82
52
114
72
19
13
51
33
83
53
115
73
20
14
52
34
84
54
116
74
21
15
53
35
85
55
117
75
22
16
54
36
86
56
118
76
23
17
55
37
87
57
119
77
24
18
56
38
88
58
120
78
25
19
57
39
89
59
121
79
26
1A
58
3A
90
5A
122
7A
27
1B
59
3B
91
5B
123
7B
28
1C
60
3C
92
5C
124
7C
29
1D
61
3D
93
5D
125
7D
30
1E
62
3E
94
5E
126
7E
31
1F
63
3F
95
5F
127
7F
― 11 ―
片桐 章子
図5
図6
⑤トランペット1・パートの入力
ンの重なりである。この重なりがあると発音しない音が生
じる場合があるため,重複が認められた場合に修正してい
手順その8:エディット
(Edit)
作業
く。重複箇所は図11のGraphic Editor画面で確認できる。
このアレンジの金管楽器セクションに関しては,8パー
ト
(トランペット4本+トロンボーン4本)
ともほぼ同じ音型
このようにして作成した各パートの音量調節はミキシン
グボードで行う。
(図12)
を有する。1パートだけリアルタイムで入力しておき,そ
機能で
タイミングのバラつきはクォンタイズ
(quantize)
のデータをもとにエディット作業で他のパートを作成して
調整する。この場合はスウィングなのでバウンス
(bounce)
いく。
感をもたせたい。クォンタイズを100%にすると機械的に
具体的には,それぞれのパートのインターバル
(たとえ
(図13)
この数
なるので,あえて85%くらいにしてみた。
に応じたトランス
ば基本的に3度下げている場合は3度で)
字は演奏するテンポなどによって変えてみるのもよい。ま
をかけ,そのインターバルではない動き
ポーズ
(transpose)
た部分的なバウンス感を変えたいところなど,その部分だ
の部分だけを修正する作業を続ける。その場合,Quick
けのクォンタイズを設定するとおもしろい。
(図10)
Scribe Editorを使うとやりやすい。
デュレーションやベロシティも統一することが可能だ
ここでの注意点は,同じチャンネルから同じタイミング
が,生弾きの特徴を生かすため,敢えてエディット作業を
で音高の等しいデータがある場合,フェイジング
(phasing)
施さなかった。もし修正の必要な箇所があれば,そのデー
が生じるため,削除しておくことである。
タのみを個々にエディットしていくとよい。
もう1つの注意点は同じチャンネル内でのデュレーショ
― 12 ―
尚,ベース・パートに関してだけは,次々加えていくパ
これからの電子オルガンのあり方についての考察
図7
図8
ートのタイミングの安定感を考え,図14のようなクォン
アルタイム録音でクォンタイズ機能を極力使用しない方法
タイズをかけた。
を試みている。
メロディ・パートは,筆者が自然感を表現するため,リ
― 13 ―
補足になるが,DP4には,ステップ入力などの機械的な
片桐 章子
図9
図10
データに対して,敢えて音符を自動的にバラつかせるヒュ
endを譜面の終止線に合わせると,余韻がミュートされて
ーマナイズ機能も搭載されている。
しまう。その場合,シーケンス・データでの入力を,実際
尚,電子オルガンなどを使用する場合,シーケンサーの
の曲の長さより多少長くしておくとリバーブの余韻が残
― 14 ―
これからの電子オルガンのあり方についての考察
図11
図12
― 15 ―
片桐 章子
図13
図14
る。それには,シーケンス・データに何か貼り付けておく
手順その9:ミキシング
(Mixing)
作業
ミキシングとは,個々のデータに対する音量・パンニン
必要があるので,筆者は拍子記号などを入力している。
そしてエフェクター
(effector)
の調整のことで
グ
(panning)
― 16 ―
これからの電子オルガンのあり方についての考察
図15
図16
ある。
にステレオ録音で広がるような指向性に作り上げられてい
楽器の定位をXG音源で再現するには,様々なパラメー
るため,このような大きさでの表記をしてみた。
図12は,XG音源の音量およびパンニングを示したもの
ターを設定しなければならないが,この度は,音量とパン
量のみで表現してみた。
ニングとリバーブ
(reverb)
であり,図17・図18・図19はELS-01/01Cの音量およびパ
(舞台の真上から見た想定)
本来のフル・バンドは,図15
ンニングを示したものである。
のような配置が一般的である。しかし,XG音源を使用し
ての音楽作りの場合は,視点を変えて考える必要がある。
本来は,楽器の配置が奥になるほど,音量は小さくリバ
ーブ量は多くなるのが普通である。
図16は,今回の定位を図式化したものである。この図
は正面から見た想定で,各々の楽器音の左右の配置と奥行
但しこの場合は,音色によって奥行き感が違うため,耳
で聞いたバランスなども考慮した。
きを表現してある。
その結果,リバーブ量は,金管楽器セクションは40,ギ
ピアノ・ドラムスの音色に関しては,サンプリングの際
ターは30,ピアノは20,ベースは8,ドラムスは20という
― 17 ―
片桐 章子
図17
図18
設定にした。
よく使われるエフェクターとしては,
リバーブのほかに,
リバーブの設定値は,前出の図14の2-1-000の2段目のコ
・ディレイ
(delay)
などがあげられる。そ
コーラス
(chorus)
91のデータである。
ントロール・チェンジ
(control change)
れぞれのコントロール・チェンジは,コーラス93,ディレ
そして,実際に演奏する電子オルガン側のリバーブは,
前述の図17・図18・図19で,音量およびパンニングの設
イ94である。0∼127の範囲で希望のエフェクト量を入力す
ることができる。
定と同時に確認ができる。
尚,図14のデータ内のコントロール・チェンジ11は,
― 18 ―
これからの電子オルガンのあり方についての考察
図19
子オルガンのデータを同じフロッピー・ディスクのbank
01に入れておくと,電子オルガン側とDP4側のデータが合
成できる。電子オルガンに入れておくデータは,実際に演
奏するときの音色データとリズム・データ等である。
リズム・データに関しては,電子オルガン本体とシーケ
ンス・データと2種類用意する形式を取ったが,DP4側で
入力した方が他のデータとのバランスが取りやすい。しか
も,細かい設定なども可能であるので,本番用などにはお
勧めである。
ただし,練習過程などで特定のフレーズを頻繁に繰り返
す場合などは,どこからでもリピートできる電子オルガン
内のリズム・データを使用した方が扱いやすい。
5.電子オルガンで演奏する
「手順その10」
の様式で制作したフロッピー・ディスクの
図20
データを,電子オルガンに読み込ませ演奏してみる。
電子オルガン側のエクスプレションの動きを表している。
実際の演奏とDP4のデータとのアンサンブルを試みて,
に記したエディ
不都合な箇所があれば,そのつど
「手順8」
手順その10:SMFに変換
ット作業を繰り返し,入念に調整していく。
SMFとはStandard MIDI Fileの略で,ソフトウェアごとに
特に,SMFに変換してフロッピー・ディスクに入れた
異なるMIDIの演奏情報を統一して,互換性を持たせた保
XG音源のデータは,電子オルガンとの音量バランスを取
存形式である。DP4のデータをSMFに変換するには,
るのが難しい。この場合はDP4側で全体の音量を小さめに
MIDI File Optionを図20のようにFormat 1-separate tracksで設
入力しておき,電子オルガンの音色側でバランスを取ると
定するとよい。
やりやすい。
できたファイルの名前を,MDR_00. midとしておく。電
― 19 ―
片桐 章子
Ⅲ 他のシーケンサーについて
#7 Singer Song Writer
以上が,DP4で制作したデータを電子オルガンに併用し
インターネット社の製品のオーディオ・MIDIシーケン
て演奏するプロセスだが,ここで他のシーケンサーの特徴
ス・ソフトである。Windows版,Macintosh版がリリースさ
にも触れてみる。
れている。ビギナー用としての機能を満載しているのが特
徴である。
1.現在主流になっているシーケンス・ソフトについて
おわりに
#1 Digital Performer
米Mark of the Unicorn社
(通称MOTU)
の製品で,代表的
なオーディオ・MIDIシーケンス・ソフト
(オーディオ・ト
ラックとMIDIトラックの両方を扱えるシーケンス・ソフ
シーケンサーは,その本体の中に,何人かの演奏家がい
るという仮想空間が作れる。
そしてそこで作られた音楽は,
「私」
という人間の集合体でのアンサンブルを可能にする。
ト)
の1つであり,その歴史は古い。現在,発売されている
ものはMacintosh版のみである。
但しあくまで,ここで処理される音源は,電子音である。
生楽器のアンサンブルを題材にしても,実際に作り上げら
れる音楽は,また異質なものとなる。
#2 Cubase
電子音は,音のデータ処理をして音楽作りをしていくこ
独Steinberg社の製品で,これもまたオーディオ・MIDI
とが多くなった現代には,非常に便利な音源である。しか
シーケンス・ソフトの1つであり,Digital Audio Worksta-
し,人間の耳に聞こえてくる音として,温かみや透明感と
( 通称DAW)の代表格的ソフトである。Windows版,
tion
いった自然の中の音色にある世界をもとめても,無理が多
Macintosh版ともにリリースされている。
くなることは避けられない。
その反面,勉強過程の段階で,オーケストラやフル・バ
#3 Logic
ンドといった編成の大きな音楽の構成や編曲を研究するに
独Emagic社の製品で,これもやはりオーディオ・MIDI
は,電子楽器の研究,そして特に今回のシーケンサーを使
シ ー ケ ン ス ・ ソ フ ト の 1つ で あ る 。 以 前 は Windows版 ,
用した音楽作りは,まことに意義のある勉強法の1つであ
Macintosh版ともにリリースされていたが,Emagic社が米
ると筆者は確信する。
に
最近ではハードウェア・シンセサイザー
(synthesizer)
Apple社に買収され,Windows市場からは撤退した。
(emulate)
する
対して,PCのソフトウェアでエミュレート
ソフトウェア・シンセサイザーが実用化され,非常に手軽
#4 SONAR
米 Twelve Tone 社(現 Cakewalk 社)の製品で,以前は
で扱いやすいものも出てきている。このソフト・シンセサ
Cakewalkの名称で呼ばれていたオーディオ・MIDIシーケ
イザーは安価なものから高価なものまで多種あり,高級な
ンス・ソフトである。プロ用シーケンス・ソフトとしては
ものになると,そのクォリティは,電子オルガンに内蔵さ
数少ないWindows対応である。日本での取り扱いはローラ
れたXG音源などと比べるべくもなく高いものもある。
ンド社であるため,ヤマハ社のXG音源よりもローランド
社のGS音源をコントロールするのに適している。
なので,シーケンサー・データはPC側から出力したほ
うが,音楽的には望ましい場合もある。
ただし,この度の研究は,あくまでも学生など勉強段階
の諸氏がシーケンサー導入音楽を学ぶ場合,簡略で仕様勝
#5 SOL
ヤマハ社が開発しているXGworksという名のオーディ
手のよい方法の1つとしてお勧めする。
オ・MIDIシーケンス・ソフトにオーディオ機能を組み込
んだソフトウェアで,Windows対応である。
これからの電子オルガン音楽のあり方は,やはりPCと
の併合がごく当たり前になりつつある。ゆえにソフト・シ
ンセサイザーの音源を付加するなどして,音質のレベル・
#6 ACID PRO4.0
アップを試み,最終的に音楽としての完成度を高くしてい
米Sonic Foundry社の製品で,ループ・シーケンス・ソフ
くことが望まれている。
トである。ループ・シーケンス・ソフトとは,フレーズな
どの音声データを画面上に貼り付けて並べるだけで,コー
ドやテンポなどが自動的に調整され簡単に曲を作ることが
できるソフトである。これもWindows対応である。
協力者
塚山エリコ
(作・編曲家)
鈴木浩之
(シンセサイザー・プログラマー)
― 20 ―
これからの電子オルガンのあり方についての考察
長尾淳子
(譜面製作者)
参考文献
青山忠英
(編著)2001『XG解体新書』YAMAHA MUSIC MEDIA
CORPORATION
秋山公良 2003『デジタル・ミュージックの基礎用語』東京:
音楽之友社.
高橋信之 2003『Digital Performer 4. X for Mac OS X徹底操作ガ
イド』東京:Rittor Music.
永野光弘 2003『Digital Performer4音楽制作術』東京:音楽之
友社.
日本シンセサイザー・プログラム協会
(編)2001『ミュージッ
ク・メディア 実務ノウハウ』東京:社団法人音楽電子事
業協会.
参考URL
「MOTU製品DigitalPerformer」
(http://www.musetex.co.jp/products/motu/dp/dp4/index.html)
「Cubase講座◆準備編◆CubaseVST」
(http://www.sound.co.jp/∼jimi/cubase/pageA06.html)
「高機能シーケンサーソフトの魅力」
(http://www.cablenet.ne.jp/∼atari/logic10.htm)
「製品情報 SONAR日本語版」
(http://www.roland.co.jp/products/dtm/Sonar.html)
「YAMAHA PRODUCTS SYNTH & DTM」
(http://www.yamaha.co.jp/product/syndtm/p/soft/xgwstw/
index.html)
「ACID 4.0」
(http://www.hookup.co.jp/software/acid4.0/acid4.0.html)
「Singer Song Writer 7.0 for Windows」
(http://www.ssw.co.jp/products/win/ssw70w/ssw70w.html)
参考楽譜
ウェーバー s.d.『舞踏への勧誘』全音ピアノピース No. 62 東
京:全音楽譜出版社
(ベルリオーズ編曲)OGT44
ウェーバー1952年『舞踏への勧誘』
東京:音楽之友社
Baldridge, F., G. Stone and J. Bonime, s.d.『ベニー・グッドマン
Let’s Dance』AZ-161 東京:ミュージックエイト
Copyright by Edward B. Marks Music Company.
The right for Japan licensed to Sony Music Publishing (Japan) Inc. 許
諾番号
(0315562-301)
(かたぎり あきこ 電子オルガン)
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