広島ジャーナリスト 第 18 号 2014 年9月 特集・ 「集団的自衛権」と広島 柳澤 協二 迷走する日本の民主主義 湯浅 一郎 自衛隊を軍隊にはさせない 浅井 基文 平和憲法との背反性 加戸 靖史 黙したヒロシマ 役割の再認識を 樋口 岳大 長崎、正面からの批判避ける 田中 利幸 自滅に向かう原発大国日本㊤ 若松丈太郎 なかったことにできるのか 大飯原発判決・裁判所判断全文 坂井 定雄 「天井のない監獄」ガザ 日本ジャーナリスト会議広島支部 ≪1≫ 雨中、原爆慰霊碑前で手を合わせる人たち(8月6日午前9時すぎ) 目次 国の安全保障から人間の安全保障へ 浅川泰生 2 軍艦と民間船衝突事件を追う 大内要三 89 見通しよい海、なぜ衝突 平 譲二 92 根強い「官」の秘密主義 特集・ 「集団的自衛権」と広島 本田博利 98 迷走する日本の民主主義 柳澤協二 3 「開かれた政府」を求める 山田健太 105 自衛隊を軍隊にはさせない 湯浅一郎 12 「現代ジャーナリズム事典」刊行 112 報道・人権に深刻な影響懸念 酒井健次 113 平和憲法との背反性 浅井基文 16 黙したヒロシマ役割の再認識を 加戸靖史 22 書評 川崎哲著「核兵器を禁止する」 長崎、正面からの批判避ける ガザから「安全な場所どこにもない」 湯浅正恵 117 24 樋口岳大 25 8・6 平和宣言で「反対」言及を 署名 5591 筆 市民団体、無差別殺傷の停止要求 「天井のない監獄」ガザ 122 坂井定雄 124 難波健治 28 広島・長崎平和宣言など 29 ~ 33 書評 宇吹暁著「ヒロシマ戦後史」 原爆文学を「記憶遺産」に メディア論余滴 NHKどこへ行く 真崎 哲 129 34 土屋時子 35 書評 佐喜眞道夫著「アートで平和をつくる」 39 アングル 「ゴジラ」の時代再考 真崎 哲 130 メディアスクランブル 見えない部分が多すぎる 自滅に向かう原発大国日本㊤ 田中利幸 40 真崎 哲 131 なかったことにできるのか 若松丈太郎 46 「集団的自衛権」の詐術を暴く 真崎 哲 137 木原省治 51 THE BOOK 「戦後日本公害史論」「よし、戦争につ 県庁まで 10 ㌔「政治力発電所」 54 いて話をしよう。戦争の本質について話をしよう 56 じゃないか !」「暴力的風景論」「徹底検証・使用済 さよなら島根原発!集会に 4100 人 イチエフで働いた私はいま… 「人格権」高らかにうたう 安部 剛 63 大飯原発判決・裁判所判断全文 自衛官を「護憲」の力に 66 新倉裕史 80 み核燃料 再処理か乾式貯蔵か」 141 ~ 142 風訊帖 土砂災害の向こうに政治の貧困が見える 驢馬応円 143 広島ジャーナリスト 18 号 ≪2≫ [4] ――いうまでもなく、軍事同盟というのは〝血の同盟〟です。 この前段では、祖父である岸氏の、日米安保改定での「決断」 を讃える。そして日米安保を「堂々たる双務性」にすることが、 な思考がうかがえる。そこに、祖父へのコンプレックスがにじむ。 安倍氏の発言はいずれも知性も論理性もなく、ファナチックで情緒的 ている」と激しい言葉を浴びせる。 我 々 の 新 た な 責 任 だ と 力 説 す る。 ま た あ る 本で[は、 集 団 的 自 衛権という権利がありながら行使できない日本の現状は「禁治産者に似 国の安全保障から人間の安全保障へ きごう (2006年、米国)を見た。 8月 日夜に民放で「硫黄島からの手紙」 映画は、激戦地だった摺鉢山の空撮で始まる。眼下に「硫黄島戦没者顕 洋戦争末期、無援の戦いを強いられて死んでいった日本兵2万人余の魂 彰碑」が見える。揮毫者として岸信介元首相の名がある。アジア・太平 を戦後、A級戦犯容疑者が「顕彰」する。この構図には異和感がある。 [5] 岸氏は、国家社会主義者・北一輝が中国で執筆した「国家改造案原理 大綱」 (後に「日本改造法案大綱」と改題)を「夜を徹して筆写した」と、 傾 倒 ぶ り を あ る イ ン タ ビ ュ ー で 語 っ て い る。[北 の そ の 著 作 は、 次 の よ うな言葉で結ばれている。 沖縄返還をめぐる日米秘密交渉に携わった政治学者・若泉敬氏が、が んを宣告され余命を知る身で硫黄島を訪れ、自生する月下美人に日米兵 士の魂を見たときの感慨を著書「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」の英語 のは、戦中と戦後を貫く「歴然とした人事と諸制度の連続性」である。 いわゆる戦前、戦中、戦後と分けたがる歴史観に異を唱える。指摘する 広島では8月 日未明、市北部への集中豪雨で大規模土砂災害が起き た。首相は一報を受けた後も約 時間ゴルフに興じたと伝わる。いった 替わったことである。理由はとやかく言われているが、重い事実だ。 安倍首相は8月6日に広島を訪れ、祈念式のあいさつは昨年の使い回 しで済ませたが、明らかに違う個所があった。「国民」が消え、「国」に 祖父の後を追う安倍氏は、どこへ行こうとしているのか。 ――戦ナキ平和ハ天国ノ道ニ非ズ。 [1] 版序文に結実させ、死者への詫び状としたの[とは対極の行為である。 終戦直後にあった軍国主義者や超国家主義者の「追放」が、長期的には に入ったのは、発生から5日後だった。「国民の命を守るべき責任を負っ 社会に小さな影響しか与えなかったことを、彼は見抜いている。 ている」と語った会見と、あまりに大きい落差。祖父譲りの国家観に根 「日本人には、イデオロギー上の理由から、他の民族とちがった年代 の数え方がある」と書く米国の歴史家ジョン・ダワー氏の「昭和」は、 安倍晋三首相は7月1日、集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。 一連の会見で「米艦に救出される邦人母子」という事例を使い「みなさ [2] んのお子さんやお孫さんがその場所にいるかもしれない。(略)私や日 「人間の安全保障」こ[そが重要な時代だと、そろそろ気づくべきではな いか。「戦後レジームの脱却」という名の暗い昭和への回帰など、誰も [6] 差す軍事の安全保障ではなく、災害や気候変動、テロ対策に重きを置く ん官邸に入った後、山梨の別荘にUターンしたとも報道された。被災地 1 望んではいないのだから。(「広島ジャーナリスト」編集長 浅川泰生) [3] 20 [ う語る。 安倍氏は、ある本でこ 16 機管理の失敗の図だ。こういうものを持ちだすことに驚く」と語った。 本 政 府 は 本 当 に『 何 も で き な い 』 で い い の か 」 と 強 調 し た。[元 内 閣 官 日、広島での講演で「これは官邸の危 房副長官補の柳澤協二氏は8月 30 [4]「美しい国へ」(文春新書、2006年) [5]原彬久「岸信介」(岩波新書、1995年) [6]「広島ジャーナリスト」 号、日弁連パネル討論での李鐘元・早大教授の発言 15 [1]手嶋龍一「葡萄酒か、さもなくば銃弾を」(講談社、2008年) [2]安保法制懇報告を受けた直後の5月 日の会見。翌 日付毎日から引用 [3]「この国を守る決意」(扶桑社、2004年) 15 2014.9.20 15 卒業後、防衛庁(当時)入庁。 防衛審議官、防衛庁長官官房長 などをへて 2002 年、防衛研究 所所長。04 年から 09 年まで小 泉、安倍、福田、麻生政権で内 機管理担当)。著書に「検証 官邸のイラク戦争―元防衛官僚 による批判と自省」「亡国の安 保政策 安倍政権と『積極的平 和主義』の罠」「改憲と国防 混迷する安全保障のゆくえ」 (共 著)など。 年に防衛省からイージ 閣官房副長官補(安全保障・危 General Security of Military 懇談会(安保法制懇)が立ちあがり、当時から 第1次安倍晋三政権(2006年9月~ 年 8月)で安全保障の法的基盤の再構築に関する し、義務化したらいい情報が来るわけではない 官、外相、防衛相)協議は機動的にやっていた た。そんなものなくても4大臣(首相、官房長 法案までつくったが、首相が代わったため流れ それから国家安全保障会議(日本版NSC)、 の違う法律になった。 するものを取り締まるというまったく基本設計 スパイ防止法というか、外から秘密情報に接近 題意識だった。それが秘密保護法では、むしろ ) を 締 結 し た が、 部 内 Information Agreement 情報を握っている人をどう管理するかという問 的保全協定= 国 と、 G S O M I A( 軍 事 情 報 に 関 す る 包 括 ス 艦 の 秘 密 情 報 が 漏 え い す る 事 件 が あ り、 米 ど き 」 か と い う と、 年東京生まれ。東京大法学部を 特集・「集団的自衛権」と広島 「ポスト戦後」体制 選択迫られる 小泉政権から麻生政権まで、官邸で内閣官房副長官補として安全保障政策を支えた柳澤協二 氏が8月 日、広島市中区の広島市まちづくり市民交流プラザで講演、安倍晋三政権が7月1 た。以下、講演の要旨。 国漁協との交渉がメーンだった。その頃から地 [1]防衛庁組織令の1987年改正により呉防衛施設 局は広島防衛施設局になった。 や な ぎ さ わ・ き ょ う じ 1946 秘 密 保 護 法 も ど き の 話 を し て い た。 な ぜ「 も 元の方とのかかわりを経験させていただいた。 防 衛 施 設 局 が 呉 に あ る こ ろ に[2 年 間 お り、 岩国飛行場沖合移設の最初の試験埋め立てで岩 [1] に置きながら解決しなければならないと話した。広島弁護士会主催。市民ら約200人が聴い ことなどを強調した。そのうえで、この問題は民主主義の迷走によるもので、国の針路を念頭 と、紛争地域で戦闘行為に参加すれば、世界中にいる日本人自身がテロの標的となりかねない かつて戦争をひき起こしたことの清算ができておらず、国際的には「普通の国」でさえないこ 主義」と題して、集団的自衛権は大国が小国に武力介入するために使われてきたこと、日本は 日に閣議決定した集団的自衛権の行使容認を批判した。「迷走する集団的自衛権と日本の民主 30 柳澤 協二 07 07 迷走する日本の民主主義 ≪3≫ 広島ジャーナリスト 18 号 ≪4≫ 物理的に届かない、と話したが、それでもやり 安倍首相は何がしたいのかとよく聞かれる。 のも肌身に感じていた。だから、安倍首相が参 私 は、 政 府 側 と し て 説 明 す る 時、 私 の 意 見 本人がやりたいから、ということしかない。合 説明がつかない首相の「目的」 は違います、ここは見直す必要はないとはっき 理的、理論的な説明がつかない。安倍さんのブ たいと言われる。私は部下だから分かりました り申し上げてきた。防衛官僚は憲法9条が邪魔 レーンといわれる元外務官僚・岡崎久彦さんと 院選後に退陣し、その後の福田康夫首相に私が だと思っているんでしょうとよく質問がある と答えた。 が、そうではない。9条があるからその解釈の 言って法案を下ろした。 第1次安倍政権の時の安保法制懇だが、ちょ の対談の本 で[、概ねこ う言っている。 「自分の 祖父の岸信介は、 年安保で、米国の日本防衛 をしたいという話があった。四つの事例が用意 でできるが米国はそれでいいのかという形で、 した。それは祖父の世代のぎりぎりの決断だっ 合うかどうかは別問題。日本はぎりぎりここま 9条は政策の 「 基 準 」 うど5月の連休前だったか、予算通過後、首相 範囲でどこまでできるかを考える。それが間に [4] から安保法制懇を作って憲法解釈見直しの研究 されていた。隣にいる米艦が襲われた時、守ら むしろ政策の一つの基準として機能していたと が、続けて「軍事同盟は〝血の同盟〟である」 「米 「堂々たる双務性」は国語的に少し変だ どこまでやるかを本気で考えなくてはならず、 とだ」。 大変なことになる。これをしたらどのくらい死 条に武 国が攻撃された時に血を流さなければイコール [2] ぬだろうかと、そういうことを考えなくてはい パートナーにはなれない」という。これが安倍 というのが私の思いだ。最初は安倍政権の暴走 こ れ は 安 倍 政 権 全 体 の 問 題 で も あ る。 日 本 年に、既に憲法はできてい たが、サンフランシスコ条約発効と同時に日米 が独立を回復した を聞いていると暴走というより迷走だ。行き先 安保条約も発効した。それで米軍が日本に駐留 という感じで見ていたが、集団的自衛権の議論 が分からない。ブレーキはきかないし右には曲 年) する。平和憲法の下での日本の独立と米軍の基 52 がるが左には曲がらない、大変な状況だ。 27 器 等 を 守 る た め の 武 器 使 用 の 規 定 が[あ り、 イ ㍍ぐらいの距離でホース けなくなる。 [3] でつながっているから、米艦に対する攻撃は自 チンプンカンプンの答えしか返ってこない。だ 理の世界ではない。そこに出発点があるから、 衛隊に対する攻撃でもあるので、今だって守れ 年)、福田政 06 年)の公式見解だ。それがおかしい ~ 自 民 党 で お 話 し し た 時 も[、 政 府 に い た 人 間 首相の価値判断だ。国際情勢が厳しいからとか、 が政府に盾つくのはけしからんといわれたが、 今までの憲法解釈が間違っているからという論 ンド洋の給油活動は 隣にいる米艦が攻撃されたら自衛隊法 ルを落とさなくていいのかとか。私は首相に、 いうのが実感だ。9条の制約を取り払ったら、 それは日米安保を堂々たる双務性にしていくこ た。自分の世代にはさらに新たな責任がある。 なくていいのかとか、米国に飛んでいくミサイ 義務を入れて、日米安保を双務性のあるものに 60 ますと答えた。世界のミサイル防衛は向かって 権( ~ 01 というのは、あなた方が勝手に右に行ったから、 から何をしたいか分からない。 08 私の話は小泉純一郎政権( 95 くるのを迎え撃つシステムで、米国に飛んでい 37 くミサイルは、日本から離れていくわけだから 36 07 [3]自民党は5月 日の「安全保障法制整備推進本部」 (本部長・石破茂幹事長)に、柳澤氏を講師に招いた。 [4]「この国を守る決意」(扶桑社、 04 2014.9.20 25 [2](武器等の防護のための武器の使用) 第 条 自衛官は、自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、 航 空 機、 車 両、 有 線 電 気 通 信 設 備、 無 線 設 備 又 は 液 体 燃 料 を 職 務 上 警 護 す る に 当 た り、 人 又 は 武 器、 弾 薬、 火 薬、 船 舶、 航 空 機、 車 両、 有 線 電 気 通 信 設 備、 無 線 設備若しくは液体燃料を防護するため必要であると認 め る 相 当 の 理 由 が あ る 場 合 に は、 そ の 事 態 に 応 じ 合 理 的に必要と判断される限度で武器を使用することがで き る。 た だ し、 刑 法 第 条 又 は 第 条 に 該 当 す る 場 合 のほか、人に危害を与えてはならない。 95 ≪5≫ 戦犯の合祀をめぐって中国とぎくしゃくしてい 衛庁(当時)で審議官として担当した。こ 点だ。 見方によれば日本人全体の問題でもあり、 ところがある。戦争を起こした張本人、という 相の論理。日本はどこの国のリーダーとも違う た。そこで歴代政権は、平和憲法(の改定)に 地使用はセットで、そこから戦後はスタートし どこの国のリーダーも、戦争で犠牲になった人 得できないという言葉に対して「見解の相 と話した際、集団的自衛権の行使容認は納 に特殊だ。長崎で8月9日に被爆者の代表 チェコ、アフガニスタンでもそうだ。次に使っ しないとは、昨年の靖国参拝の論理もそうだ。 ンガリー民主化弾圧のために使った。その後の 違です」と言っている。見解が違うから議論は ているのが米国で、ベトナム戦争もそうだ。軍 にだれが使ったかといえば、ソ連だ。 年にハ るかのような主張がある。集団的自衛権を最初 も集団的自衛権を使えない日本が異常な国であ 普通の国はそんなこと分けていないと、あたか 条 に、 国 家 は 集 団 いてあるという。でも、その後に出てくる条文 的個別的の自衛権を固有の権利として持つと書 も う 一 つ は、 国 連 憲 章 使った。そういう国は普通の国なのか。 65 広島ジャーナリスト 18 号 は異質だ。 の時は、集団的自衛権を使わない前提で日 る。どこの国でもやっているというのは安倍首 本が何をしてくれるかが分かった、と米国 天皇の戦争責任ということもあった、それをA 年の日米防衛協力ガイドラインは、防 は評価してくれた。日本が何をどこまでや はリセットできない歴史がある。リセットしよ 級戦犯という形で、一種の歴史的な妥協で独立 ことになる。東京裁判を否定すれば、論理的に を回復し、戦後の平和を享受している。そこに 小泉内閣の時、インド洋に自衛隊を派遣 は、米国からもう1回戦争するのかといわれか るかが分かれば、米国は足りない所は自分 し た。[こ の 時 も 小 泉 首 相 は、 集 団 的 自 衛 権を使うなら解釈改憲でなく憲法を改正し うとしたら、ではもう1回戦争をするかという なければならない。自分の内閣ではそれは ねない。そんなことを平気で言う。 集団的自衛権は大国の論理 チャレンジするのではなく、憲法という絵柄の に追悼の意を表すのは当たり前だという。とこ 事大国が他国への軍事介入を正当化するために 集 団 的 自 衛 権 の 話 に 戻 る。 一 つ の 論 点 は、 パズルに、同盟から生じるいろんな要請をどう ろが日本の場合は歴史認識のずれがあり、A級 [5]米同時多発テロ( 年)を受け、テロ対策特措法 が成立。海自艦3隻がインド洋(公海)に派遣され、レー ダ ー 支 援 や 給 油 支 援 活 動 を 行 っ た。 集 団 的 自 衛 権 の 観 点から議論があった。 51 絵柄を変えようとしている。パズルで、自分の 入れたいピースを入れると他が崩れる。入れ方 が悪いからだが、パズルが悪いといって変えよ うとしている。そういう所も、今までの政権と 01 はめ込むかを考えた。安倍首相は今、パズルの を持たないというのも、政権としては非常 安倍首相の、自分と異なる主張に聞く耳 ては憲法の枠内という前提だった。 という声はあったが、小泉首相の発想とし [5] やらないと明言していた。当時、憲法違反 でやる。そして作戦のプランができる。 97 ≪6≫ するかが国民的なコンセンサスとしてできてい 昨年2月に安倍首相が初めて訪米した。直前に 思う。尖閣諸島について端的に申し上げれば、 国 民 が 心 配 し て い る の は 中 国、 北 朝 鮮 だ と 題ではない。 ない国。それが普通の国のような顔をすべきで は旧敵国条項。戦争を起こした日本、ドイツ、 ではなく日本人自身の問題だ。戦争をどう総括 イタリアの旧枢軸国が悪いことをしたら国連の はないと思う。 [6] れはそれでとんでもない条項だが、国連の中の 了 解 な く や っ つ け て も い い と 書 い て あ る。[そ 人情としては分かる。けれども、日本は既に基 入れられるだろう。そしてこう告げられるであ だから、米国を助けないといけない、という話、 のが「安倍首相はホワイトハウスに温かく迎え 米軍機関紙「星条旗新聞」の記事で言っている を起こしたという過去のステータスを清算でき ろう。 『無人の岩のために俺たちを巻き込まな も う 一 つ は、 日 本 は 米 国 に 助 け て も ら う の ていない国で、近隣諸国との間でも戦争につい 地を提供している。沖縄は全島面積の ・4% 位置づけでも、日本は普通の国ではない。戦争 て清算できていない。これは韓国、中国の問題 いでくれ』」。これが米軍の本音だ。オバマ大統 が沖縄に集中する。そういう負担を既にしてい 第5条の適用範囲だと言った。これは日本有事 領も今年4月に来日して、尖閣は日米安保条約 は集団的自衛権はいらない。同時にオバマ大統 米国からカネをもらってもいない。日米のバラ たと会見で述べていた。CNNではそのくだり 動は慎むべきだということ。安倍首相にも言っ 地 政 学 的 な 話 を す れ ば、 太 平 洋 の 距 離 は 軍 し、いざとなれば何とかするから日本も余計な かったようだ。米国は中国もけん制する、しか が あ っ た が、 N H K の 同 時 通 訳 で は 出 て こ な 事行動にとって大きな障害だから、日本の位置 北朝鮮のミサイルは外交カードだと思って ことをするな、というのが本音だと思う。 いる。実際に撃てば米国の報復がある。そこの が核を独占する意味がない。心配はしていない。 サイルを撃った。スカッド(射程500㌔)と 年 7 月、 私 が 官 邸 に い る 時、 ミ ノドン(同1200㌔)、失敗したがテポドン 北朝鮮は らインド洋にかけて横須賀しかない。だから米 2(同約4千㌔)を続けざまに7発撃った。何 ちゃんとある。空母を修理できる港はアジアか 国は日本の基地を守る。米国の船を助けないと 06 欲しいものが補給されるための物流システムも はあればいいだけではない。兵隊が休養する、 抑止力はきいているし、それがなければ5大国 に使っている。米国には大きなプラスだ。基地 前線の位置に日本があり、沖縄では基地を自由 は米国にとって重要だ。ソ連でも中国でも、最 米国に基地を持たないといけない。 ンスは同種同量でないといけないなら、日本も 日本は米国に基地を置いているわけでもなく、 に解決しなければいけない、挑発的な言葉や行 という。どこまで行けばバランスがとれるのか。 領が記者会見で言ったのは、この問題は平和的 イラク戦争では人まで出した。今度は血を流せ の負担まで始めた。基地を提供しカネを出し、 ということ。だから、尖閣防衛のために日本に る。金丸信防衛庁長官が1978年、駐留経費 74 10 助けてくれない、そういう瑣末なバランスの問 2014.9.20 に基地があり、全国の米軍専用施設の ・7% [6]第 条〔自衛権〕 こ の 憲 章 の い か な る 規 定 も、 国 際 連 合 加 盟 国 に 対 し て 武 力 攻 撃 が 発 生 し た 場 合 に は、 安 全 保 障 理 事 会 が 国 際 の 平 和 及 び 安 全 の 維 持 に 必 要 な 措 置 を と る ま で の 間、 個別的または集団的自衛の固有の権利を害するもので はない。この自衛権の行使にあたって加盟国が措置は、 た だ ち に 安 全 保 障 理 事 会 に 報 告 し な け れ ば な ら な い。 ま た、 こ の 措 置 は、 安 全 保 障 理 事 会 が 国 際 の 平 和 及 び 安全の維持または回復のために必要と認める行動をい つ で も と る こ の 憲 章 に 基 く 権 能 及 び 責 任 に 対 し て は、 いかなる影響も及ぼすものではない。 第 条〔強制行動〕 1 安 全 保 障 理 事 会 は、 そ の 権 威 の 下 に お け る 強 制 行 動 の た め に、 適 当 な 場 合 に は、 前 記 の 地 域 的 取 り 決 め ま た は 地 域 的 機 関 を 利 用 す る。 た だ し、 い か な る 強 制 行 動 も、 安 全 保 障 理 事 会 の 許 可 が な け れ ば、 地 域 的 取 り決めに基いてまたは地域的機関によってとられては な ら な い。 も っ と も、 本 条 2 に 定 め る 敵 国 の い ず れ か に 対 す る 措 置 で、 第 1 0 7 条 に 従 っ て 規 定 さ れ る も の またはこの敵国における侵略政策の再現に備える地域 的 取 り 決 め に お い て 規 定 さ れ る も の は、 関 係 政 府 の 要 請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防 止する責任を負う時まで例外とする。 2 本 条 1 で 用 い る 敵 国 と い う 語 は、 第 2 次 世 界 戦 争 中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に 適用される。 53 51 ≪7≫ が目的か、自分なりに出した結論は、スカッド が核保有国になったかもしれない。しかしこれ 確かにこれは国際情勢の大きな変化だ。北朝鮮 セージだ。日本時間で7月5日は米国時間7月 鮮はそういう戦争ができるという米国向けメッ テポドン2でグアム、ハワイをたたいた、北朝 されていないことを前提にした集団的自衛権に 自衛隊の存在も許される。しかし、自国が攻撃 自衛権は使えるし、そのための武力組織である いと理解しなければいけない。つまり、個別的 ために武力行使することは憲法も禁止していな 完全に抑止されている。 などということは絶対しない。 そういう意味で、 る。だから、北朝鮮は核ミサイルを他国に撃つ 体制が生き残るために一番合理的な選択ができ への攻撃であってもそれが国の存立を脅かして 月1日の閣議決定は、単純化していえば、他国 い。すぐ日本の基地から報復がいく。だから、 きない、というのがこれまでの解釈だった。7 国の軍事費はこの ている人たちの本質的な発想はここにある。中 なったという。いま集団的自衛権をやろうとし も う 一 つ は、 中 国 が 強 く な っ て 米 国 が 弱 く べないから、日本に対する直接の脅威になって 上回っているが、戦闘機は1千㌔ぐらいしか飛 年は続くだろう。 ないというのが、教訓として残ってきている。 いいかを考えなければいけない。 広島ジャーナリスト 18 号 民の生命、自由、幸福追求権が根底から覆され ミサイルで在韓米軍を、ノドンで在日米軍を、 る恐れがある。だから、そういう時に反撃する 4日、独立記念日だった。 ついては、明らかにそうはならないから行使で 日本の基地を同時にたたかないと戦争にはなら 国民の幸福追求権を根底から覆す明白な危険が 独 裁 国 家 は、 国 民 世 論 の こ と を 気 に せ ず、 北 朝 鮮 が 米 国 と 戦 争 し よ う と す れ ば、 そ の は、使ったらおしまいだ。 辺の船を1隻やっつけて満足する話にはならな ない。仮にそんなことがあれば日本有事になる 年間で4倍に増えたとい から、個別的自衛権でやれるというのが私の意 しれない。しかし、中国経済もいま不動産バブ う。しかし、米軍事費はその2倍以上ある。こ 論 理 的 に 合 っ て な い と 思 う。 な ぜ 他 国 へ の ル崩壊の瀬戸際だ。こちらの方が脅威だ。経済 ある時は集団的自衛権を使ってもいいといって 攻撃がわが国の存立を根底から脅かすのか。回 的な影響力の方が大きくなってきている。 見だ。北朝鮮は、乏しい資源のほとんどを核と りまわって米国が弱って日本が攻められたら米 が、まともに戦える船がようやく海上自衛隊と のトレンドがあと何十年か続けば逆転するかも ない。特殊部隊が怖いぞと言っているが、飯だ 国が助けてくれないからと、いくつかの中間項 いる。 け食わせればいい、一番安上がりな軍隊だ。非 を入れればいえるかもしれないが、明白な危険 戦車などは、燃料を中国からもらわないと動け 常にいびつな戦力構成で、まともに戦争する力 同じぐらい、というところではないか。それに 首 相 は、 そ の 理 由 と し て 国 際 情 勢 が 変 わ っ 確 か に 中 国 海 軍 は 今、 艦 船 を 増 や し て い る があるとは、専門家は考えていない。 などないというのが論理的、常識的な結論だと 米軍第7艦隊がいる。戦闘機数は日米をかなり たからという。どう変わったのか。確かに以前 いるわけではない。戦後一貫して世界最大の防 年 政 府 見 解 を 言 え ば、 憲 法 9 条 は より国際テロは出てきている。しかし、米国は 衛費を使って軍事大国であり続けた、腐っても 従来の 武力の行使を一般的に禁止している。けれども タイの米軍の蓄積の力は、楽観的に見てあと [7] イラクやアフガニスタンでさんざん苦労して何 年続く。 悲観的に見てもあと も得るものがなかった。イラクなどは米国の介 入前より状況は悪化している。むしろ国際テロ 50 年というスパンの中で何をすれば だからあと 条 に[あ る 国 他国への攻撃がなぜ明白な危険? 思う。 ミサイルに投入している。パレードに出てくる 20 を拡大再生産している。軍事力ではカバーでき 20 仮 に 日 本 が 攻 撃 さ れ れ ば、 憲 法 [7]憲法第 条 すべて国民は、個人として尊重され る。 生 命、 自 由 及 び 幸 福 追 求 に 対 す る 国 民 の 権 利 に つ い て は、 公 共 の 福 祉 に 反 し な い 限 り、 立 法 そ の 他 の 国 政の上で、最大の尊重を必要とする。 20 13 72 13 ≪8≫ て聞いた。 歯止めになっているかどうか、国会審議を通じ それで国民の幸福追求の権利が根底から覆され ショックでトイレットペーパーがなくなった。 死活的に重要だから、米国が攻撃されればそう れる事態とは何か、という問いに、日米同盟は 頼っているから、レアメタルだって食糧だって 限に拡大する。日本はコメ以外の食糧は輸入に こ う い う 中 間 項 を 入 れ て い く と、 脅 威 は 無 あり得ない「 米 中 戦 争 」 そ れ は 抑 止 力 だ け で や っ て い く の か。 今 の 認定される可能性が高いとか、ホルムズ海峡に たか。トイレットペーパーのために戦争をする 国際情勢の最大の特徴は、対立しているはずの 機雷がまかれて日本に石油が来なくなったら のか。 米国と中国の経済的な結びつきが一番強いとい 他国への攻撃によって日本の存立が脅かさ うことだ。最大の投資国、最大の貿易相手国で 同じことが言えると、国会の議論で出る。これ 米輸送艦の防護=イラスト)はどうか。日本国 が、では安倍首相の得意なこれ(邦人輸送中の なければならなくなるから言えなかったと思う 使わないという。使うと言えばアフガンに行か ない。では集団的自衛権を使うのかと聞くと、 ヨークで起きた事件だから、日本への攻撃では か。日本人も二十数人死んでいる。しかもニュー 一 つ の 議 論 と し て、 9・ 話になりかねない。 テロはどうなの 中小企業が倒産して日本経済が危うくなる、と も止まっている。今は円安と原油相場の高騰で あり、最大の国債保有国。戦争すればお互い滅 輸入が止まるよりもっとひどい状況だ。オイル は歯止めではない。地球の裏側まで行くという 米中間で固有の対立要因はない。人権とか、価 ぶ。だから、 戦争はまず考えられない。しかも、 いう答弁が出てくる。石油など、これまで何回 値観的なところではクレームは付けるが、直接 対立する問題はない。むしろ戦争はしないとい う合意ができているところが冷戦時代と違う。 次 は、 時 間 が か か る が 中 国 に ル ー ル を 守 っ チンタオ て ほ し い と い う こ と だ。 W P N S (Western =西太平洋海軍シン Pacific Naval Symposium ポ が ) 4月に青島であった。その時、洋上で海 軍同士が遭遇したら、お互い武器を向けないと が違 の存立を脅かし、国民の生命、自由、幸福追求 の権利を根底から覆す事態なのか。9・ ほとんど特定秘密になる。国会で説明して承認 かる。けれども、米軍艦がなぜそこにいるかは、 し相手国の首都まで攻撃したらやりすぎだと分 たら、これはやっつけないと仕方がない、しか かった場合」というのがある。自分が攻められ 2 番 目 の 要 件 と し て「 他 に 適 当 な 手 段 が な のか。全く納得ができない。 うのになぜこれが集団的自衛権の行使に当たる 11 か、演習中なら旗や信号で知らせるとか、ルー ルを作った。こんな形で共有するルールを作ろ うという流れが主流になっている。軍事的な対 立を合意によって解決していくという可能性が 生まれているということが、今日の国際情勢の 新 閣 議 決 定 の ベ ー ス に な っ て い る「 国 際 情 11 をとらなければいけないが、米艦がなぜそこに 2014.9.20 大きな変化だと私はとらえている。 勢の変化」をそのようにとらえれば、必然的に 集団的自衛権を使わないと国を守れないという 話は出てこない。そうすると、新閣議決定は十 分慎重に歯止めがあるという話をする。本当に (官邸ホームページから) ≪9≫ 邸の危機管理がある。よくこういう絵を何度も だから、「他の適当な手段」は、 米国にはあるが、 の失敗という。こうならないようにするため官 はなかったのかも分からない、 という話になる。 つぶれる。こういうケースを、官邸の危機管理 いるかは分からない。米国が、戦争以外の手段 使っているなと思う。 で使う緑色の迷彩服を着、胸とヘルメットに日 つけます」と言っていたが。自衛隊は日本国内 た。向こうは半分笑って「そこはちゃんと気を 上のことを望んでいないから」ということだっ 事に連れ帰ることだ。なぜなら、政治がそれ以 う努力の結果、少なくとも地元の宗教指導者は、 勢をシェアする会議を開いた。その時に、自衛 当 時、 自 衛 官 と 防 衛 省、 外 務 省 と 毎 日、 情 相も会見でそこを強調してくれた。自衛隊はそ 力を自衛隊はしたんです」と申し上げ、小泉首 では済まない世界だから、それだけ勇気ある努 人が自殺した。やはりすご んなことだれも考えたことがない。第一、こん れを見たとき、のけぞるほどびっくりした。こ の最大の任務は、何もしなくていいから全員無 あいさつにくると必ず言うようにしたのは「君 そ れ 以 来、 3 カ 月 ご と の 部 隊 交 代 で 隊 長 が でにこにこしながら活動したりするから、すご がしたり、誰が襲ってくるか分からないところ いトラウマだ。寝ている枕元でいきなり爆発音 行った隊員のうち な途中経路で襲われる心配があったら、そして 28 広島ジャーナリスト 18 号 運んでいる邦人に万一のことがあれば、内閣は 米国を助けようと思ったとたんなくなるのが日 の丸を着けた。砂漠だから目立つ。戦争をしに そ こ ま で し て 武 器 を 向 け た こ と も な く、 笑 来たのではない、というアピールのためだ。 自衛隊を守ることはイスラム教徒の義務である 年生まれで戦争を知らない世代だが、 顔を振りまいて地元のニーズを聞いた。そうい 日本という国は、国会答弁も調べたが、米国の というファトワ(宗教令)まで出してくれた。 私は 社会の許容範囲を超える 本だ。 そ し て「 必 要 最 小 限 度 」 と い う 要 件。 助 け た米艦はどうするか。 「では次の作戦目的地ま で守ってくれる?」と言われれば断れない。最 武力攻撃に反対したことはない。 そういう国が、 思ったのがイラクだ。サマーワという田舎町に も し か し た ら 戦 死 者 が 出 る か も し れ な い、 と こういう要件でもって歯止めだといえるのか。 自衛隊が行った。イラク全土で見れば、戦闘ら その結果、戦死者を出さずに任務を終えた。自 そんなに数字は出ない。 「今ぐらいでいい」が 隊だって外では軍隊だから、一人二人死んでも 圧倒的に多い。 必要最小限とか限定されたとか、 ければ、確実に何人か死んだ。 こ れ( 邦 人 輸 送 中 の 米 輸 送 艦 の 防 護 = 前 ㌻ れだけの努力をした。 ところが、片や政治のニー そういう言葉が大好きだ。 イラスト)を安倍首相が出すたび、世論調査で ズはというと、1人でもけがしたら政権は持た れは気持ちの整理がつかなかった。 逃げ帰るようなことはできない、第一、他の国 いから」。そういわれると、そんなことのため 反対が増える。すごい絵だ。韓国には3万人日 情勢が緊迫すれば、まず民航機が飛んでいるう に自衛隊を危険な任務に就かせるのか、という ないからけが人が出ないように、という話。こ ち に 帰 っ て も ら う、 帰 り そ こ な っ た 人 は 自 衛 ことになる。 たら、答えが「一人でもけがしたら内閣持たな 隊機がピストン輸送で運ぶ。それがイメージし 後 で テ レ ビ の 取 材 で 分 か っ た が、 イ ラ ク に ていたプランで、それ以上はない。だから、こ 本人がいるから、 防衛庁でも官邸でも考えたが、 に与える影響も大きい、上司にそんな話をあげ る世界だから、相手を敵に回したら、絶対無事 自衛隊の世論調査も、 今まで日本の防衛費は「増 飛んでくる。コンテナを貫通する事例もあった。 衛隊撤収で小泉首相が記者会見をした時に、「一 やした方がいい」も「減らした方がいい」も、 万一にも隊員にあたらないよう措置はしたが、 発 も 撃 た な か っ た と い う と こ ろ が 大 事 な ん で 外を歩いている隊員もいる。当たりどころが悪 す、一発撃ったら200発、300発返ってく 必要最小限、 日本人はこういう言葉が大好きだ。 しい戦闘もない。だけど宿営地にロケット弾が 後は、政府が総合的に判断するという。だけど 46 ≪ 10 ≫ いトラウマだ。亀井静香さんが、イラク派遣で た。きれいに分けられなかった。だから「自衛 非戦闘地域というのは、イラクでは難しかっ る。 わらず安倍首相はそれ以上のことをやろうとす 衛隊が許容しうる限界がそこにある。にもかか 解釈の限界ということを離れて、日本社会と自 テ レ ビ で 言 っ て い た が、 私 も そ う 思 う。 憲 法 しれない。世界中にいる日本人がテロ対象にな た、日本人を見たら殺せという指示が出るかも たとしたら。これで日本はイスラムの敵になっ しれないが、相手がアルカイダ系の組織であっ 本格的な戦闘だ。自衛隊の戦死者も増えるかも ら持ってきてよということになる。そうなれば が今困っているのはヘリだから、日本が来るな すぐ助けにいける。空から攻撃できる。PKO 強くなっていた、それが安全保障のジレンマだ。 どんどん軍拡をする。気がついたら相手の方が 戦 う 能 力 と い う こ と で 軍 拡 を す る。 相 手 も ば、抑止力ではない。 ない。抑止力があるから戦争にならないと言え には戦う意思と能力を相手が知らなければいけ 目にあわせるぞという脅しが抑止力。そのため 違う。理論的には、攻めてきたらもっとひどい 隊を助けようとすれば専用の部隊と装備を持っ の記者会見でも、集団的自衛権を使えば抑止力 ていく必要がある。一番有効なのは武装ヘリだ。 によって戦争に巻き込まれる恐れはなくなる、 日本はより平和になるといっているが、それは 隊がいるところが非戦闘地域」という迷答弁も 棺が帰ってきたら日本社会は持たないだろうと あったりした。今度は、戦闘現場には行かない 戦 っ て い る。 そ こ は 行 け な く て も 別 の 路 地 は ア で は 今、 通 り を 挟 ん で 政 府 軍 と 反 政 府 軍 が とすればできる。ではその時どうするか。シリ の基準を守って、もっと宅配をやってあげよう 考えれば戦場にまで行く必要はないが、仮にそ クで戸口まで運ぶのは戦闘部隊の仕事だ。そう ターまで持っていく仕事。そこから小型トラッ ば広島のセンターで集荷したものを東京のセン ろうとしているのは拠点輸送で、宅配便でいえ で何を求めているかをはっきりさせないと訓練 読む必要がある。政治がリスクを覚悟したうえ 国憲法及び法令を順守し」とある。全体として 平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本 れる、というが、この前には「私は、わが国の 誓います」と服務の宣誓しているからやってく 遂に務め、もって国民の負託にこたえることを に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完 首相は最後まで答弁しなかった。自衛隊員は「事 日本人も、とばっちりを受ける。それに対して で、そういう点からして新閣議決定に私は不同 が安全になるかどうかを考えるのが安全保障論 い。要はトータルのバランスシートとして日本 復されるリスクをカウントしなければならな 沖縄にミサイルを撃つことだ。戦争だから、報 くから、中国にとって一番手っ取り早い方法は が、例えば米中が戦えば日本もそこに入ってい 危険も高まる。巻き込まれる恐れはないという か。戦う意思を強調すれば緊張は激化し衝突の トレンドとしてはひと時代古い考え方ではない を拡張すれば安全になるというのは安全保障の イ ラ ク 以 上 の こ と を や れ ば 戦 死 者 は 出 る。 たぶん中国の軍拡は止まらないだろうが、軍備 る危険もある。 戦 場 じ ゃ な い か ら 行 け る、 と い う こ と に な れ のしようもない。自衛隊が一番悩んでいるとこ 意だ。 という基準に改められた。そもそも自衛隊がや ば、それは危ない。小銃の有効射程は200~ ろだ。 隻の海警船を出して、ベトナム のコーストガード(沿岸警備艇)に体当たりし 置)を設置し シナ海のベトナム沖でオイルリグ(石油掘削装 中国は海洋進出している、とよく言われる。南 今 の 時 代、 抑 止 政 策 だ け が 万 能 で は な い。 300㍍だが、物理的には流れ弾は1~2㌔飛 抑止効果ない「抑止論」 も う 一 つ、 安 全 保 障 の 議 論 と し て お か し い と思うのが、抑止力平和論。8月6日、広島で 2014.9.20 ぶ。どこで線を引くか。これは確実に今までよ り危険になる。 駆 け 付 け 警 護 が 言 わ れ て い る。 今 ま で の 自 衛隊は施設整備の仕事だから、自分を守るため の警備要員しか持って行っていない。他国の軍 80 ≪ 11 ≫ て無謀なことをしている。しかし米軍は出てこ が緊張する。 日本も中国も、政治が逆のことをやるから尖閣 道を探すのかが問われる。 国 家 像 の 問 題 と し て い う と、 同 盟 の コ ス ト に耐えられなくなった時、どうするか。コスト を減らそうとして、民主党の鳩山由紀夫政権は 何が問われているか。「戦後レジームからの トナー、日本も大国だというプライドだけでは という。褒美って何だ。米国とのイコールパー 逆に、もっと払うからもっと大きな褒美をくれ 「最低でも県外」と言い失敗した。安倍首相は 脱却」をどうとらえるかが、大きな枠組みとし どれだけの覚悟があるか ない。戦争ではないからだ。中国も、米軍が出 てこれないぎりぎりの線を狙っている。あから さまな侵略ではないから、 手の出しようがない。 てある。昔は自民党の政治家も、戦争はダメだ それが東南アジアの不安定の要因だ。つまりこ で は 米 国 は ど ん な 時 に 戦 う か。 中 国 が あ か れは抑止できない。 らさまに軍隊を使って島をとりに来れば、まず ないか。日本はかつて、ミドルパワーとか通商 ると、 日本にとって対米関係は避けて通れない。 したり、亡く なったりして世代交 代する。今、 していけないのか。それを安保政策に置き換え とみんな思っていた。集団的自衛権なんて考え 戦争が実感として分からない人たちが政治を 空母を出して、それ以上やれば許さないという 集団的自衛権を使って日本が中国の潜水艦を攻 その同盟の役割をできるだけ相対的なものにし 国家とかを目指した時代もあった。それがどう 撃する。すると日中は戦闘状態に入る。沖縄に やっている。 サインを出す。 空母の最大の敵は潜水艦だから、 たこともなかった。そういう人たちがリタイヤ ミサイルが飛んでくる。だれが考えてもそれぐ で全滅する。米中の軍事的な焦点は西太平洋と う。兵隊を揚げても、艦砲射撃3発か爆弾3発 り軍隊を出して取りに来ることはしないと思 そ う は い っ て も 尖 閣 諸 島 は 心 配 だ。 い き な われるのは、人を殺し殺されるという覚悟がど の価値判断基準が変わってきている。そこで問 ダメだという日本人なら誰もが持っていたはず る社会的不平等が背景にあり、とにかく戦争は るとはどういうことだろう。若者が置かれてい まだまだ時間がかかる話だ。 えないと答えは出ない。そういう問題だから、 ぱに言うと三つに一つだ。どの道を選ぶかを考 から自立するという方向性を望むのか、大ざっ 田母神俊雄さんが言う、独自の核を持って米国 るのか、とにかく同盟を強化しようとするのか、 て、日本独自の外交戦略にもっていこうと考え 南シナ海。南シナ海は、海南島から行く。西太 れだけあるかということ。日本人は、ここがも そこに一定の若者たちの支持が集まってい 平洋は沖縄本島と宮古島の間の公海を堂々と通 ろいと思う。今の方向性は、長続きするもので らい思いつく。 ればいい。尖閣は位置的に関係がない。周りに はないと思う。 民感情をあおることが戦争にとって一番必要な 素は国民と軍隊と政府であると言っている。国 ヴィッツが「戦争論」で、戦争をするための要 か。ナショナリズムが争いの原因だ。クラウゼ ムの両輪だった。それは何とかしないといけな いうことは、平和憲法と対米従属が戦後レジー 約が同時に発効して日本が独立を回復した。と 従属。日米安保条約とサンフランシスコ平和条 いう。戦後レジームとは何か。平和憲法と対米 安 倍 首 相 は「 戦 後 レ ジ ー ム か ら の 脱 却 」 を 政治家によって認識されなくなっている。 の民主主義が迷走している、つまり立憲主義が 的自衛権と日本の民主主義」と書いたが、日本 時間はあると思う。私の表題は「迷走する集団 からが始まりだし、もっと議論し運動していく とができる。閣議決定で終わりではなく、これ 閣議決定で変えたことは閣議決定で戻すこ は一時、石油が出るといわれたが大したことは 要件だ。逆に戦争をさせないためには、国民感 い。だから平和憲法をやめると言うのか、違う な さ そ う だ。 資 源 で も 軍 事 で も な い。 で は 何 情を鎮めることが一番重要だ。にもかかわらず 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 12 ≫ 自衛隊を軍隊にはさせない 決定によって強行したといえよう。 近い存在として位置付け直すという宣言を閣議 「集団的自衛権」と「呉」を考える 2 0 1 4 年 7 月 1 日、 政 府 は、 集 団 的 自 衛 関しての懸案事項が堰を切ったように同時に開 始されたことは偶然ではないであろう。あらゆ る領域で、軍事を優先させ、戦後レジームを破 壊していく方針が動き出したのである。 日米軍事一体化の文脈 7 月 1 日 の 閣 議 決 定 の 名 称 は「 国 の 存 立 を 全うし、国民を守るための切れ目のない安全保 障法制の整備について」で、次の三つで構成さ れる。「我が国を取り巻く安全保障環境の変化 に対応」するためと称して総合的な方針転換が レーゾーン事態」における実力行使を可能とす 1、武力攻撃に至らない侵害への対処 「グ それに合わせるように米軍再編や基地機能 リング調査へ向けて動き出し、空中給油機KC 処することは、専守防衛の放棄に他ならない。 は、普天間基地の移設のための辺野古でのボー 防衛の建前に変更はないとしているが、自国が 130の普天間から岩国への移駐が強行され 意図されている。 自衛隊の意味と質が、政府の判断で一方的に変 た。海兵隊のオスプレイが、厚木をへてキャン の 活 性 化 へ の 動 き が 一 斉 に 始 ま っ た。 沖 縄 で えられようとしている。安倍晋三政権は、歴代 プ富士に飛来し、初めて東日本に姿を見せた。 「現に戦闘行為を行っている現場」でなければ における武器使用条件を緩和する。 後方支援活動を可能とする。及び、PKO活動 2、国際社会の平和と安定への一層の貢献 る。 の自民党政権が一貫して憲法9条との関係で踏 厚木の空母艦載機 機も、 年には岩国に移駐 み込まなかった領域に、数の力をもって踏み込 するべく、愛宕山米軍住宅建設をはじめ岩国基 軍備を画策し、平和憲法があるにもかかわらず く基本方針において、米軍再編もその重要な一 日米の軍事一体化と相互運用の拡大を進めてい たな3要件は以下である。 団的自衛権行使容認 と 」 直接的には無関係のも 置」 憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を のである。しかし、国家安全保障戦略に沿って、 容認する。 3、 憲 法 第 9 条 の 下 で 許 容 さ れ る 自 衛 の 措 4年かけて自衛隊が作られた。その時、自衛隊 えてしまうという思考においては、ひとつなが 7 月 1 日 の 閣 議 決 定 を 合 図 に、 米 軍 再 編 に 最小限の実力組織 と 」 いう専守防衛の論理であ る。安倍政権は自衛隊が還暦を迎えた日に、専 の存在理由として使われたのが 環であり、軍事優先で戦後の枠組みを一気に変 地の整備が進められている。これらの動きは「集 : : 自 「 衛のための 年 前 の こ の 日、 自 衛 隊 が 発 足 する暴挙に出たのである。 むという選択をし、立憲主義、民主主義を破壊 攻撃されてもいないのに、同盟国への攻撃に対 権行使容認を柱とした閣議決定を行った。専守 湯浅 一郎 ①「我が国に対する武力攻撃が発生した場合 のみならず、我が国と密接な関係にある他国に 期せずして 17 りのものである。 存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追 対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の 「自衛のための措置」としての武力行使の新 : した。朝鮮戦争の勃発と同時に米国は日本の再 59 守防衛という、憲法下で辛うじて容認されてき た自衛隊の存在意義を放棄し、限りなく軍隊に 2014.9.20 60 ≪ 13 ≫ 場合」②「これを排除し、我が国の存立を全う 条を変えることには抵抗が強く、国防軍の創設 が込められている。とはいえ、世論は、憲法9 案で明記されている国防軍の保持をめざすこと をピークに毎年減少している。それはアフガン、 見直しにも手をつけ始めている。国防費は まった。聖域であった国防総省予算や軍の組織 =BCA)が成立し、 進められる。前提には、最終的に自民党改憲草 し、国民を守るために他に適当な手段がないと もそう簡単にいく気配はない。 求の権利が根底から覆される明白な危険がある 年 8 月、 予 算 管 理 法( Budget Control Act 年から一律カットが始 き」③「必要最小限度の実力を行使する」。政 年 府は「限定容認」というが、事態の性質や地理 米、年100兆円の財政赤字 「専守防衛」逸脱の歴史 米国は戦争ができる状態ではない。 イラクなどの戦費を減らしたことによる。今、 現 時 点 に お い て、 よ り 現 実 的 な 背 景 は、 米 的範囲に「限定」はなく、時の政府の恣意的な 関 連 し、 全 体 と し て「 切 れ 目 の な い 法 制 の 整 国 の 軍 事 戦 略 へ の 対 応 で あ る。 オ バ マ 政 権 こ の 三 つ は 独 立 し た も の で あ る が、 相 互 に 備」が目指されている。閣議決定を詳細に読ん 年 8 月 3 日、 日 米 安 全 日、初め の改正、及び新法の制定へ向かうことが意図さ そして、項目ごとに自衛隊法などの既存の法律 担」と同盟国軍と米軍の「相互運用」の拡大を 要性の高い地域としながら、同盟国の「責任分 た。これはアジア太平洋と中東が最も戦略的重 優先課題」と題した新「国防戦略指針」を出し らない。 中で、新たな文脈に置かれていると考えねばな 安倍政権になり国家安全保障戦略が策定される 時点では、 必ずしも意図は鮮明ではなかったが、 年の新ガイドライン以来の見直しである。この 年 月 求めている。そして間接的に「財政負担」の増 れている。この背景には、 て策定された国家安全保障戦略に基づく軍事優 月 3 日、 「 2 + 2」 が 初 め て 東 先路線があり、その先に国家安全保障基本法の 2013年 大も求めている。 ラザーズの破たんに端を発したリーマンショッ ・日米防衛協力の中核的要素として、日本に こにはガイドライン改定の目的があげられた。 任の共有に向けて」なる共同発表が行われ、そ 京で開催され「より力強い同盟とより大きな責 クに伴い毎年1兆㌦の財政赤字が慢性化してい 対する武力攻撃に対処するための同盟の能力を 日、 リ ー マ ン・ ブ ることにある。これは、1㌦100円とすれば 確保すること。 ・日米同盟のグローバルな性質を反映させる 100兆円になる。日本の通常予算とほほ同額 ある国の中で、米国の赤字より多い国家予算を ため、テロ対策、海賊対策、平和維持、能力構 年1月~)の最大の任務は財政再建であり、 築、人道支援・災害救援、装備・技術の強化と 持っている国は に も 満 た な い。 オ バ マ 政 権 が毎年赤字というのは深刻である。200近く 年9月 制定が構想されている。その意味で、まだ途中 意した。1978年の旧ガイドライン締結、 針」(ガイドライン)の見直し作業の着手に合 保障協議委員会「2+2」は「日米防衛協力指 民主党政権時代の は、 2 0 1 0 年 に 4 年 ご と の 国 防 見 直 し 判断が許される抽象的なものである。 13 12 そ の 背 景 は、 閣 議 決 定 は、 以 下 の 二 つ の 側 面 に 関 わ っ て い。 いる。 ①北東アジアの地域的安全保障における軍 事的抑止力の強化。 10 広島ジャーナリスト 18 号 11 でも「集団的自衛権」という表現はほとんど出 =QDR)を出 てこない。どこかに集団的自衛権行使を容認す ( Quadrennial Defense Review してすぐ、 年1月5日、「合 衆国のグローバ ると明記しているわけではない。普通に読んだ だけでは、 何を言っているのかよく分からない。 ルな指導力を持続する― 世紀の国防における 10 97 12 のプロセスであることを念頭に置かねばならな 21 15 17 ②グローバル安保における軍事的関与の拡 大。 08 10 12 ともに日米の軍事一体化の文脈に沿う形で ( 09 13 ≪ 14 ≫ 湾岸戦争が起こる。日本は、湾岸戦争を理由に 冷 戦 終 結 と い う 事 態 が 進 行 す る 中、 同 時 に 備される。 いった分野を包含するよう協力の範囲を拡大す 「とわだ」型 3隻が、横須賀、呉、佐 世保に配 ること。 ・相互の能力の強化に基づく2国間の防衛協 力における適切な役割分担を示すこと。 9月にも見直しの中間報告が出るといわれて 「国際貢献」という脅しに屈して、自衛隊を海 いるが、上記に加え、7月1日の閣議決定の内 外に派遣する道を選んだ。 年4月、掃海艦隊 進めてきた一連の歴史が見えている。 想定される法整備と自衛隊 年春の統一地方選挙後の通常国 を組織し、機雷の除去を行うためペルシャ湾派 閣議決定は、あくまでも政府としての方針を 決めただけで、法的な根拠があるわけではない。 容を盛り込んだ形でガイドライン見直しが進め 議決定に対応して想定される法案を推測し、そ か、現時点ではよく分からない。ここでは、閣 関連法案は、 られていると考えられる。閣議決定以上に、よ アへ陸上自衛隊を派遣した。輸送には海上自衛 されてくる可能性が高い。 だ」(呉)がかかわった。 隊の輸送艦「みうら」「おじか」、補給艦「とわ ここで、1978年 月の旧ガイドライン締 結から始まった自衛隊の変質を若干見直してお できる戦車揚陸艦「おおすみ」が呉に配備され、 る意味を持つのかを考える。 2 0 0 1 年、 米 東 部 で の 9・ 1 閣 議 決 定 1 は、 離 島 へ の 侵 入 な ど「 武 力攻撃に至らない侵害への対処」であり、この こう。これは「思いやり予算」が始まった年で じめとして、日米軍事一体化の既成事実の積み もない 月 グレーゾーン事態への対処を可能にするため自 上げが始まった。これは、実体として自衛隊を 衛隊法を改正する。具体事例には、中国の海洋 年、リムパック環太 が随伴すれば、自衛艦は地球上どこにでも行け ることになった。そして 3隻は自らの作戦行動自体を目的に主役に躍り 米軍などへ燃料給油を行い、護衛艦も2隻体制 で関与した。 られている。 2 閣 議 決 定 2「 国 際 社 会 の 平 和 と 安 定 へ の一層の貢献」には、 以下の二つの側面がある。 (1)いわゆる後方支援と「武力の行使との ラクへ向け陸海空3自衛隊がそろって派遣され 年、 イ た。この時、輸送艦「おおすみ」が、室蘭から 年 に は イ ラ ク 特 措 法 が 成 立 し、 洋に面する多国間の合同軍事演習である。集団 の物資輸送を行った。そして 年、恒久法であ 平洋合同演習へ初参加する。リムパックは太平 的自衛権なのか、集団安全保障なのかは不明で れる支援活動それ自体は、『武力の行使』に当 年にかけて8100㌧の補給艦 09 を超え「専守防衛」を逸脱する装備と大型化を 30 では「活動の地域を『後方地域』や、いわゆる ま ず( 1) で は「 い わ ゆ る 後 方 支 援 と 言 わ (2)国際的な平和協力活動に伴う武器使用 あるが、海外で行われる多国間の共同演習に参 る海賊対処法をへて今日に至る。ここには、旧 一体化」 加すること自体が問われることなく既成事実が 04 らない活動である」とした上で、これまでの法 03 島における「武装漁民」の不法上陸などが挙げ 進出を口実に、外国潜水艦による領海侵犯、離 年、基準排水量5千㌧の洋上給油ができ 11 る補給艦 「さがみ」 が呉に配備された。 「さがみ」 出た。呉からは補給艦「とわだ」がインド洋で まず た。第1陣が佐世保を出たのは法ができてわず 日、テロ対策特別措置法が成立し 11 98 軍隊にさせ、海外派遣を本務とさせる道であっ 29 事件からま 数年内に3隻体制となった。 れが自衛隊とりわけ海上自衛隊にとっていかな 15 もある。これを機に日米共同演習の日常化をは り具体的に法整備の内容にかかわる問題が提起 遣を強行したのである 横 ( 須賀、呉、佐世保)。 会に上程されるといわれている。閣議決定とガ 年にはPKO協力法ができ、9月にカンボジ イ ド ラ イ ン 見 直 し が ど の よ う な 関 係 に あ る の 91 年には海外侵攻が 92 た。その先兵となったのが海上自衛隊である。 か1週間内の 月7日である。こうして補給艦 10 11 80 ガイドライン締結から約 年かけて自衛隊の枠 年から 90 積み重ねられた。 2014.9.20 79 87 ≪ 15 ≫ よそ一体化の問題が生じない地域に一律に区切 戦闘地域』といった自衛隊が活動する範囲をお 「従来の『後方地域』あるいは、いわゆる『非 ロ特措法やイラク特措法がそれである。さらに が生じないようにしてきた」 (ア)とする。テ 非戦闘地域 に 「 」 限定するなどの法律上の枠組 みを設定し、 『武力の行使との一体化』の問題 へ、インド洋において海上自衛隊の補給艦から 措法によりアフガン戦争に関与する米軍など が明記されている。燃料補給は、既に対テロ特 久法が考えられる。閣議決定には、補給、輸送 うな幅広い領域に渡る兵站作戦を可能とする恒 ば後方支援活動を可能とする、例えば以下のよ 「現に戦闘行為を行っている現場」でなけれ 的に対処できる海上自衛隊基地としての機能が であろうか。まず以下のような後方支援に総合 隊、特に呉基地はどのように位置付けられるの こ の よ う な 法 案 が 成 立 し た 場 合、 海 上 自 衛 ンの確保のための米艦防護なども考えられる。 にはまり込む危険性がある。あるいは、シーレー 発展し、米国を援護するうちに、ずるずる戦争 賀の在日米軍や自衛隊基地が攻撃されることに る 枠 組 み で は な く、 他 国 が『 現 に 戦 闘 行 為 を ある。 る。これには補給艦や護衛艦がかかわる。 テロ特措法に基づくインド洋での実戦経験があ 支援活動を実施できるようにするための法整備 動の、相当幅広い領域について合法化する恒久 器・弾薬の提供等がある。要するに後方支援活 定のために活動する他国軍隊に対して、必要な (1991年4月、ペルシャ湾掃海の実績)、武 年2月、イラク特措法における輸送作戦に輸送 伴して補給艦「とわだ」がかかわり、2004 アPKOで、輸 送艦「みうら」「おじ か」に随 戦争の後始末と称して掃海艦隊がペルシャ湾に 定 さ れ て い る と 思 わ れ る。 閣 議 決 定 3 に か か 自衛隊法、武力攻撃事態対処法の修正などが想 閣議決定3「集団的自衛権行使の容認」は、 備 さ れ る「 い ず も 」 (定系港は不明だが呉の確 ま た ヘ リ 護 衛 艦「 い せ 」 や、 2 0 1 5 年 配 たことはない。 これには輸送艦が直接かかわる。 ・武器・弾薬の提供作戦は、これまで行われ ア沖での日米共同離島防衛訓練において、ヘリ 広島ジャーナリスト 18 号 することが念頭にあるものと見られる。 行っている現場』 ではない場所で実施する補給、 燃料を提供する作戦を実施した実績がある。米 月からの対 によるクウエートからの輸送が実施され、この ・燃料補給作戦は、2001年 なかに米軍兵が含まれていたことで違憲判決が 軍などの輸送作戦もイラク特措法により、空自 他国の『武力の行使と一体化』するものではな 輸送などの我が国の支援活動については、当該 いという認識を基本とした以下の考え方に立っ 出 て い る。 こ の ほ か に も、 機 雷 の 設 置 や 除 去 を進めることとする」 (ウ)としている。 憲法9条との関係が厳しく問われねばならな ・ 機 雷 の 設 置 や 撤 去 で も、 1 9 9 1 年、 湾 岸 艦「おおすみ」が関与した。 いわゆる『非戦闘地域』に限定しない」として 派遣されている。「シーレーンの確保」のため、 わっては、例えば米本国のグアムやハワイをめ れる。 機雷除去ができるようにするということも含ま い。 (2)はPKO活動における武器使用条件の 『後方地域』や 非 「 戦闘地域 と 」 は違う概念の ようである。戦闘行為を行っている場所に極め 率が高い)にオスプレイを搭載しての輸送作戦 緩和を柱としたPKO法の改悪である。 て近い、隣接した地域での活動が含まれている がけた北朝鮮の弾道ミサイルが、日本列島の上 戦闘行為を行っている現場』ではない場所〉と ということであろうか。いずれにせよ、戦闘行 年6月、カリフォルニ も考えられる。実際、 するといった事態である。仮にそうなれば横須 空を飛来するにあたり、自衛隊が米海軍を支援 の支援活動ができるようにするという。 〈『現に 戦闘行為を行っている現場』ではない場所〉で いる点が極めて重要である。その上で〈『現に うに「自衛隊の活動の地域を『後方地域』や、 域や非戦闘地域に限定しないというのである。 分 か り に く い 文 章 で あ る が、 従 来 の 法 の よ 法が狙われている。しかも、活動地域を後方地 ・輸送作戦では、1992年9月、カンボジ て、わが国の安全の確保や国際社会の平和と安 10 為に限りなく近い領域での支援活動ができるよ うな法律を作るとしている。周辺事態法を改正 13 対応するものとして位置づけられている。 対する、例えば離島での侵害に対する作戦にも だけでなく、閣議決定1のグレーゾーン事態に ることでは実現できない。米ソ冷戦終結から る。これを解くためには、軍事的対応を強化す きまとうことを市民が共有することが重要であ 年の今も続く冷戦と安全保障ジレンマを解くた めに、共通の安全保障に基づく北東アジア非核 兵器地帯や朝鮮半島の平和協定などをパッケー 安部政権の軍事優先路線に対する抵抗闘争は 極めて重要である。当面は関連法案の阻止に全 とも、一方で進めねばならない。これは、日本 ジにした外交政策を打ち出させる世論を作るこ て9機配備する計画がある。さらに中期防にお しかし、それだけでは、相手の土俵の中にある。 保政策の不当性と滑稽さが浮き彫りになるはず になることを入れ込ませる努力も必要である。 ることを意味する。それによって安倍政権の安 併 行 し て、 軍 事 に よ り 問 題 を 解 決 し て い く 道 る。合計すると 隊と米海軍の相互運用という形で使われること には、安全保障ジレンマという懸案の課題がつ (ゆあさ・いちろう 「ピースデポ」代表) が一貫して〝憲法第9条の下において許容され ている自衛権の行使は、我が国を防衛するため 必要最小限度の範囲にとどまるべきもの〟であ ると解しており〝自国と密接な関係にある外国 に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されてい ないにもかかわらず、実力をもって阻止する権 利 〟 で あ る〝 集 団 的 自 衛 権 を 行 使 す る こ と は、 その範囲を超えるものであって、憲法上許され 日付政府答弁書)と とを問わず広く受け入れられている議論の出発 解釈改憲に反対する側とこれに賛成する側 た。 か、 と い う 点 を め ぐ っ て 議 論 が 闘 わ さ れ て き 団的自衛権及びその行使も認められるのかどう は第9条において認められているとしても、集 み込むことを正当化する役割を担ってきたこと しかし、その法制局が、歴代政府の要請にこ たえ、さまざまなレトリックを弄して、国際法 用してきたからである。 いう憲法解釈をとり、歴代政府はこの解釈を採 ない〟 (1981年5月 点は、憲法第9条の解釈として集団的自衛権の なぜその点が議論の中心になっているかとい えば、憲法解釈の責任を担ってきた内閣法制局 において集団的自衛権の行使とされる領域に踏 行使が認められるか否かということにある。さ 章の表現では「個別的自衛権」)及びその行使 「ポツダム」を想起する必要 平和憲法との背反性 になる。このパターンは、後方支援に対応する 50 〈「集団的自衛権」閣議決定の意味〉 である。 機にもなる。これらが、自衛 17 計画が確定し、佐賀空港が候補地に挙がってい いて、陸上自衛隊がオスプレイ が、憲法9条を生かした政策を具体的に追求す 9条を保持し外交政策追求を 24 護 衛 艦「 ひ ゅ う が 」 横 ( 須賀 、 ) 輸 送 艦「 し も きた」 呉 ( で ) オスプレイの着艦訓練が行われ ている。ちなみに現在、日本においては3種類 年には が配備さ のオスプレイ配備計画が進行中である。米海兵 機のMV 年に配備済み) 。 が嘉手納、横田を候補地とし 年、 隊普天間基地には、既に れている( 22 15 24 力で向かわねばならない。小さくとも、歯止め 空軍仕様のCV 13 機を購入する 22 12 ら に 具 体 的 に 言 え ば、 固 有 の 自 衛 権( 国 連 憲 2014.9.20 29 浅井 基文 ≪ 16 ≫ ≪ 17 ≫ 法制局の前歴を二つの事例で見ておく。 発想に走ることになったのであるから。 憲法解釈を変えさえすればできるという安易な からこそ、安倍晋三政権は集団的自衛権行使も を忘れてはならない。そういう「前歴」がある はまったく通用しない代物なのだ。 まり国会)ではまかり通ってきたが、国際的に とされるのだ。上記政府解釈は日本語の世界(つ を共にすれば、その時点で集団的自衛権の行使 衛権行使と称して行動する米軍と自衛隊が行動 なるかどうかという議論自体が存在しない。自 また国際的にはまったく通用しない代物だ。 言い抜けた(?)つもりかもしれないが、これ たるのだ。法制局は日本語の世界(国会)では えば、そのこと自体が集団的自衛権の行使にあ の軍事作戦に対して兵站活動(後方支援)を行 改憲を繰り返すという前歴を重ねてきた事実を 以上のように、法制局自体が集団的自衛権行 使の領域に踏み込む前歴、はっきり言えば解釈 〈海外派兵か海 外 派 遣 か 〉 武装した自衛隊を他国の領土、領海、領空に派 の関係の密接さ、協力する米軍がどのような活 の具体的な内容、武力行使を行っている米軍と 政 府 は、 地 理 的 な 要 因、 自 衛 隊 が 行 う 活 動 あるのに違いない。これこそが集団的自衛権行 りていに容認して何が悪いのか、という発想で 法解釈を進め、集団的自衛権行使そのものをあ 知悉しているからこそ、安倍政権はもう一歩憲 〈武力行使との一体化〉 遣する〟海外派兵は憲法上許されないが〝武力 政 府 は 早 く か ら〝 武 力 行 使 の 目 的 を も っ て 行使の目的をもたないで部隊を他国に派遣す 倍政権の暴走に「待った」をかけることは、主 「憲法第9条の解釈上の限界はどこにあるか」 という土俵を議論の前提として据える限り、安 使容認の閣議決定の意味するものである。 判断を受ける場合には、集団的自衛権の行使に 判断して、米軍の武力行使と一体化していると る〟 海外派遣は憲法上許されないわけではない、 動を行っているかなど、四つの事情を総合的に 日付政府 当たるという憲法解釈を行った( 年5月 日 権者である国民が次の総選挙で安倍政権の閣議 月 答弁書) 。 の法制局長官答弁)。 年 この解釈自体は集団的自衛権行使そのものと かかわるものではない。しかし、この政府答弁 米国が対テロ戦争を起こし、小泉純一郎政権 が対テロ特措法を強行成立させて対米軍事協力 し か し 実 は、 こ の よ う な 土 俵 の 設 定 自 体 が せない限り、政治力学としては絶望的である。 という憲法解釈を行った( 連軍の)目的・任務が武力行使を伴うもの〟で の 実 を 挙 げ よ う と し た 時、 以 上 の 憲 法 解 釈 が 21 「 力行使を目的とするか しかし、国際法上 武 否か に 」 よって軍事組織の海外出動の性格が異 まま当てはまることは簡単な道理だ。 「 力行使と一体化するか しかし、国際法上 武 否か と 」 いう基準そのものが存在しない。米軍 るという解釈だった。 それでは、憲法第9条の解釈を制約する、よ 〈平和主義と集団的自衛権〉 が理解されるはずだ。 権の閣議決定は本質的に違憲、無効であること その点に関する国民的認識が深まれば、安倍政 り 大 き な 客 観 的 要 素 に よ っ て 制 約 さ れ て い る。 根本的に間違っている。憲法第9条の解釈はよ 決定を無効とする閣議決定を行う政権を登場さ あれば、自衛隊の参加は憲法上許されない、し ネックの一つとなった。そこで法制局が編み出 90 る(この解釈に基づいて自衛隊のPKO派遣を 戦支援活動 と 」 に分け、前者は集団的自衛権行 正当化) 。 国 「 連軍 を 」 米 「軍 に 」 読みかえれば、 使にあたるので憲法上許されないが、後者は集 集団的自衛権の行使についてもこの解釈がその 団的自衛権行使にあたらないので憲法上許され 法上許されないわけではない、とも解釈してい 書では、 国連軍への自衛隊の参加について〝(国 かし〝国連軍の目的・任務が武力行使を伴わな 28 いもの〟であれば、自衛隊が参加することは憲 10 したのが 武 「 力行使と一体化する対米軍作戦支 援活動 と 」 武 「 力行使と一体化しない対米軍作 80 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 18 ≫ 景とするポツダム宣言である。戦争違法化への な戦争違法化という人類史的な大きな流れを背 り大きな客観的要素とは何か。それは、国際的 した。 解除ハ不可欠」(第8項)という認識を明確に 項)とし、また後者については「斯ル国ノ武装 の設置した憲法問題調査委員会が作成して占領 る新憲法の制定を要求した。ところが日本政府 軍は、直ちに日本政府に対して明治憲法に代わ 国際的動きは、第1次大戦が途方もない人的物 を若干修正したもの(杉原恭雄編著『資料で読 そして日本に降伏を迫ったポツダム宣言は、 軍総司令部に提出した 憲 「 法改正要綱 は 」 、明 治憲法の原理・原則には手をつけず、その字句 言論、宗教及思想ノ自由並ニ基本的人権ノ尊重 初めて「世界ノ一切ノ国民ハ…強力ノ使用ヲ抛 て米英首脳が合意した大西洋憲章(第8項)は ノ新秩序カ生シ得サルコト」を主張し「日本国 ヨリ駆逐セラルルニ至ル迄ハ平和、安全及正義 装解除に関しては「無責任ナル軍国主義カ世界 国憲法はこの改憲案に基づいて作成されたた 部自らが改憲案を起草することを命じた。日本 にかかわる)とも言われるメモを渡して総司令 これに対してマッカーサーは「マッカーサー 3原則」 ( 第 2 項 が 戦 争 放 棄、 第 3 項 が 民 主 化 ぎなかった。 ノ復活強化ニ対スル一切ノ障礙ヲ除去スヘシ。 む日本国憲法』)で、明治憲法の焼き直しにす 政府ハ日本国国民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向 的被害を生みだしたことに直面したことから、 人権・デモクラシーの確立に関しては「日本国 条 1)、 不 政 「 治の継続 と 」 して正当化されてきた戦争観 の見直しを迫られたことに始まった。詳述する 余 裕 は な い が、 国 際 連 盟 規 約( 第 棄スルニ至ルコトヲ要ス」とする信念を表明 国民ヲ欺瞞シ之ヲシテ世界征服ノ挙ニ出ツルノ め、今日まで続く 項)と要求した。武 し た。 こ の 信 念 を 継 承 し た 国 連 憲 章( 第 2 条 過誤ヲ犯サシメタル者ノ権力及勢力ハ永久ニ除 ハ確立セラルヘシ」(第 4)は「すべての加盟国は、その国際関係にお 去セラレサルヘカラス」(第6項)としたのだ。 を生み 自 「 主憲法制定 の 」 主張の根拠とされて 我々が厳粛に想起しなければならないのは、 いる。しかし当時の日本政府がポツダム宣言の 日本はこのポツダム宣言を受諾し、その条項を 条項を正確に理解し、 そこに盛り込まれた原理・ 戦条約(第1条)をへて、第2次大戦にあたっ いて、武力による威嚇又は武力の行使を、いか 誠実に履行することを約束することによって初 ていたならば、占領軍による 原則(その中心が人権・デモクラシーの確立と と 」 いう批判 も、また、国際連合の目的と両立しない他のい 押 「 しつけ憲法 かなる方法によるものも慎まなければならな めて降伏が国際的に承認されたということだ。 徹底した非軍事化)を反映する憲法案を作成し 即ち、昭和天皇の終戦詔書はポツダム宣言を受 り得なかった。 なる国の領土保全又は政治的独立に対するもの い」と規定することによって戦争一般を違法化 諾し、連合国との間で締結した降伏文書は、「『ポ は 」あ した。 ツダム』宣言ノ条項ヲ誠実ニ履行スルコト…ヲ 押 「 しつけ しかし、第2次大戦を戦った連合諸国は、戦 争を違法化するだけで戦争を根絶することがで 以上を確認したうえで、以下は本稿の目的で あ る 自 衛 権 と の か か わ り に 絞 っ て 話 を 進 め る。 非軍事化こそは、敗戦・日本が実現すべき国際 己の安全を保持するための手段としての戦争を 「国権の発動たる戦争は、廃止する。日本は、 紛争解決のための手段としての戦争、さらに自 だ。 きると単純に楽観視したわけではない。 彼らは、 天皇、日本国政府及其ノ後継者ノ為ニ約ス」と デモクラシーを国際標準として確立すること及 公約だったのだ。そして、その国際公約を遵守 マッカーサー・ノートの第2原則は次のとおり び侵略戦争を引き起こした国々・勢力の武装解 することは今日まで日本の国際的義務であり続 戦争の違法化を実効あらしめるためには人権・ した。人権・デモクラシーの確立及び徹底した 除が不可欠と認識していた。大西洋憲章は、前 ポツダム宣言の履行の確保を目的とする占領 けている。 者については「一切ノ國民カ其ノ下ニ生活セン トスル政體ヲ選擇スルノ權利ヲ尊重ス」(第3 2014.9.20 10 16 ≪ 19 ≫ も、放棄する」 ここで留意すべきことは「紛争解決のための 手段としての戦争」だけではなく「自己の安全 を保持するための手段としての戦争」をも放棄 すると明確に指摘していることだ。後者は自衛 で あ り ま す。 故 に 正 当 防 衛 権 を 認 む る こ と が 防衛権の名に於て行われたることは顕著な事実 だ。安倍政権の閣議決定は違憲、無効なのだ。 行使はおよそ論外であることが理解されるはず に戦うことを本質とする集団的自衛権及びその に着目した法制局が先に紹介した憲法解釈を行 は明記しなかった(後述するように、このこと を保持するための手段としての戦争」について をしなければならぬと云うような…註文を日本 …何処かの国に制裁を加えると云うのに、協力 云うものの適用、第9条の適用と云うことを申 びそれを体したマッカーサー第2原則)と米国 るものか。結論から言えば、ポツダム宣言(及 憲法上認められない と 」 いう立場を堅持しよう と最後まであがいてきたのはいかなる理由によ して、之を留保しなければならぬと思います。 解釈を繰り返しながら 集 「 団的自衛権の行使は おける「紛争解決のための手段としての戦争」 「日本が国際連合に加入すると云う問題が起 こって参りました時は我々はどうしても憲法と と定める。つまり、マッカーサーの第2原則に にして来る場合がありますれば、それは到底出 権の行使以外の何ものでもない領域に踏み込む してすでに述べたように、国際法上集団的自衛 それでは、法制局が自衛権及びその行使は憲 法第9条のもとで許されるとする論理を編み出 〈法制局による自衛権 正 「 当化 の 」 論理と「集団的自衛権行使 に 」 関する 禁忌〉 偶々戦争を誘発する所以である…」(同年6月 日) また、集団的自衛権に関してではなく国連の 軍事活動に対する参加についてだが、それもあ ていた。次の幣原国務大臣の貴族院での答弁で うこととなる) 。 来ぬ、留保に依ってそれは出来ないと云うよう する命題との両立を図る努力だったというほか の対日政策・要求という真っ向から対立・矛盾 したのはいかなる状況のもとであったのか。そ しかし、当時の日本政府の責任者がマッカー サー第2原則を体して第9条を理解していたこ な方針を執って行くのが一番宜しかろう」( を放棄することは明確にしたが、 「自己の安全 とは、吉田茂首相の衆議院における以下の答弁 年9月 ない。できる限り簡潔にまとめておこう。 日本が降伏した直後から米ソ冷戦は次第に本 格化していった( 年3月 日のトルーマン・ 9条は紛争解決のための手段としての戦争を放 国政府をパートナーとして対アジア政策を行う ドクトリン)。当初、米国は、蒋介 石の中華民 年6 認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、 えなければならない。もう一度確認すれば、第 日) の対アジア政策の根底が揺るがされることに 49 又交戦権も放棄したものであります」 ( 月 軍事行動への参加もあり得ないし、他国のため ことを考えていた。ところが国共内戦の結果 「直接には自衛権を否定はして居りませぬが、 憲法第9条の本旨を理解し、認識するうえで 第9条第2項に於て一切の軍備と国の交戦権を は、ポツダム宣言に由来する以上の制約を踏ま 46 棄したことはもちろん、自衛権及びその行使す 12 13 年 月に中国大陸に共産党政権が成立し、米国 47 日) で明らかだ。 解決する手段としては、 永久にこれを放棄する」 確認しておこう。 武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を らない。憲法第9条は 「国権の発動たる戦争と、 り得ないという認識を当時の政府は明確に持っ 権及びその行使を放棄するという意味にほかな 28 ら放棄したのである。そうである以上、国連の 46 「国家正当防衛権に依る戦争は正当なりと… 認むることが有害である…。近年の戦争は国家 10 26 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 20 ≫ 条に基 撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわ 国は、日本を反ソ反共政策のアジアにおける砦 〝自国と密接な関係にある外国に対する武力攻 し、ポツダム宣言はあり得べき憲法改正の中身 行使は可能と理解するものが少なくない。しか づく憲法改正手続を踏まえれば、集団的自衛権 認められないとするものの中にも、第 らず、実力をもって阻止する権利〟である〝集 をも制約しているという本質を忘れてはなら 範囲にとどまるべきもの〟であると解しており として独立させる政策を追求することになっ 団的自衛権を行使することは、その範囲を超え なった。こういう国際情勢の変化に直面した米 た。米国はポツダム宣言の作成を主導した当事 の国際公約に違反し、無効だということだ。 を設けること自体がポツダム宣言に基づく日本 ず、集団的自衛権行使を可能にするような条文 者であるにもかかわらず、同宣言は今や邪魔者 日付政府答弁書)とせざるを得ない。 るための憲法解釈を編み出すことを強いられ続 日本政府がその要求にこたえることを正当化す 日本人だけだということだ。米国が日本の領土 てだ。実は、ポツダム宣言を忘れているのは我々 してもどんな意味があるのかという反論につい も う 一 点 は、 今 さ ら ポ ツ ダ ム 宣 言 を 持 ち 出 米国の対日政策の転換を最も端的に表したの が「この憲法の規定は…相手側から仕掛けてき け た と い う わ け で あ る。 し か し、 日 本 政 府 が のマッカーサーの年頭の辞だった。それを受け ポツダム宣言を遵守することは降伏文書に基づ 権の及ぶ範囲について明確に定めており、米国 問題について 立 「 場をとらない と 」 しているの は、ポツダム宣言(第8項)で、日本の領土主 日) たる法制局がないがしろにすることは許されな としても無視できないからにほかならない。中 全を保持するための手段としての戦争」(自衛 則と第9条明文との間の懸隔、即ち「自己の安 独立を回復した時点を起点として憲法問題を考 換し、サンフランシスコ対日平和条約で日本が 我 々 は 長 い 間、 米 国 が 戦 後 の 対 日 政 策 を 転 と 」 いう範疇の枠内で言い抜けるほかはないと いうわけだ。 ム宣言・降伏文書は死文書ではなく、今日なお 家に徹することを明確に要求している。ポツダ 年1月 い。したがって、集団的自衛権行使への踏み込 権及びその行使)の有無だったに違いない。つ に基づく国際約束を遵守すること、即ち平和国 まり、法制局は第9条においては自衛権及びそ えることを当然視するようになっていた。しか 年代後半と異なり、国際的相 法第9条の下において許容されている自衛権の した非軍事化という命題のもとにおいては〝憲 し か し、 ポ ツ ダ ム 宣 言 に 基 づ く 日 本 の 徹 底 さらにもう2点指摘しておかなければなら 向きあってきたのは法制局自身でもあるのだ。 ポツダム宣言の制約を片時も忘れずに第9条と く平和で安定的な国際秩序を現実的に展望する 日の国際環境においては、ポツダム宣言に基づ ジア国際秩序が理想主義的すぎたとしても、今 米ソ冷戦時代にはポツダム宣言の予定した東ア の起点はポツダム宣言にある。皮肉なことだが、 れに有利な方向に向かっている。百歩譲って、 互依存が深まり、戦争違法化という人類史の流 まりつつあった し か も、 今 日 の 国 際 情 勢 は、 米 ソ 対 立 が 深 日本を法的に縛る国際条約なのだ。 の行使の放棄まで明確に言及していないことを し、憲法第9条の本旨を理解し、認識する上で 40 ないことがある。集団的自衛権行使は第9条上 ている、とする解釈を導き出したのだろう。 根拠に、自衛権及びその行使は憲法上認められ 衛権の存在することは明らか」 ( と第9条に関する立場を豹変させた。 みだけは絶対に避け、すべてを 自 「 衛権の行使 国、ロシア、韓国などは、日本がポツダム宣言 政府のこのような解釈の変更を行うにあたっ て法制局が依拠したのがマッカーサーの第2原 く国際公約である以上、政府のいわば法の番人 たものとは絶対に解釈できない」とした、 年 限りなく拡大し続けたから、法制局としては、 と こ ろ が、 米 国 の 対 日 軍 事 要 求 は そ の 後 も 年5月 るものであって、憲法上許されない〟(前掲 96 となったのだ。ポツダム宣言に基づく日本国憲 法、特に第9条も、米国にとっては今や邪魔な 81 た攻撃に対する自己防衛の…権利を全然否定し 存在となった。 29 て吉田首相は「国が独立を回復する以上は、自 50 28 行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の 2014.9.20 50 ≪ 21 ≫ 日)のNHKの 9条のもとで認められないとすることがごくご 質を踏まえれば、法制局が、その行使は憲法第 ていた。呉の海上自衛隊基地は、米国の中東に 最大の米軍基地になろうとしていることを伝え ニュース報道で、岩国基地が嘉手納を抜く日本 て い る よ う だ。 今 朝( 8 月 ことは、日本が憲法第9条に基づく平和国家に く当たり前であることが理解される。また、ポ 国連憲章上の集団的自衛権行使の以上の本 徹することが極めて現実的選択になっていると ツダム宣言に基づいて徹底した非軍事化を国際 条件がますます備わってきているのだ。という いうことである。 おける軍事活動を 支 「援 す 」 る日本最大の拠点 となって久しい。しかし、このような日米軍事 同盟強化の動きに対する広島の動きについては 的に約束した日本は、たとえ国連の軍事活動で 東京の片隅にいる私には何も聞こえてこない。 最後に 集 「 団的自衛権 及 」 び国連の軍事活 動についても簡単に説明しておく。集団的自衛 のこととして理解されるはずだ。法制局が集団 条) あってもこれに参加する余地がないことも当然 権という国際法上の概念は、 国連憲章(第 で初めて登場した。憲章上は「個別的又は集団 的自衛権行使及び国連の集団安全保障措置に対 とは、ポツダム宣言という日本国憲法の原点に 走に「待った」をかけることもままならない日 本の現状を前にしてますます深まるばかりだか らだ。 ており、相互不信の高まりのもとで、戦争が違 私が広島を離れて既に3年以上になる。新聞 法化されるまでは天下公認だった軍事同盟を、 報道で、今年の平和宣言において集団的自衛権 が過半数を上回る状況が出てきている。それは でいるのに、集団的自衛権行使に反対する世論 〈おわりに〉 立てばしごく当然のことである。 する禁忌を自らに課すべく必死になってきたこ 的自衛の固有の権利」とされているが、正確に は憲章で創設された権利である。 しかし、広島だけを責めるのは酷だとも思う。 広島にいる時から 広 「 島は日本の縮図だ と 」い う認識を深めたが、その認識は、安倍政権の暴 年)には米ソ対立が決定的となっ 行使の問題に触れるかどうかが問題となり、最 被爆7団体の安倍首相に対する異議申し立てと だが、こうも思い直す。日本のマスコミが安 倍政治に対してまっとうな批判もできないまま 終的にこの問題には触れないと市長が決めたと し て、 以 上 に 述 べ た 私 の 問 題 提 起 が 届 く な ら 戦争が違法化されたもとでも作ることを法的に 正当化する根拠(ありていに言えば で、どこまで正確であるかは知らない)。私の 同じ水脈なのではないのか。こういう世論に対 道 ) 」を設けておく必要性が認識された。その 法的根拠が集団的自衛権である。 憲 章 上 は、 違 法 化 さ れ た 戦 争 に 訴 え る 行 為 (武力攻撃)を第一義的・主体的に取り締まる 切って安倍首相に提起し、けんもほろろの対応 7団体が集団的自衛権行使に対する反対を正面 究所所長) 受けた第一印象は 広 「 島 は 相 変 わ ら ず 何 も 変 ば、もっと状況は変わる可能性があるのではな わっていないようだな と 」 いうことだった。し いか。 かし、変化も感じた。安倍首相と会見した被爆 (あさい・もとふみ 前広島市立大広島平和研 れを集団安全保障措置・体制という。個別的又 役割を担うのは国連(安全保障理事会)だ。こ は集団的自衛の固有の権利を行使することは 広島の周囲の状況にも大きな変化が押し寄せ たという記事を読んだ。 をした首相の態度に坪井直氏が怒りを露わにし 条)に限っ 「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持 に必要な措置をとるまでの間」 (第 て一時的に認められることになっている。 51 広島ジャーナリスト 18 号 29 いう経緯があったことを知った(新聞報道なの 章作成時( したものであることは既に述べた。しかし、憲 わっている。戦争の違法化は人類史の流れに即 章自らが戦争を違法化したことと密接にかか な ぜ こ の 権 利 が 設 け ら れ た の か。 そ れ は 憲 51 法 「 的抜け 45 黙したヒロシマ 「平和宣言」に思う ~ か ど・ や す ふ み 朝 日 新 聞 論 説 委 員。 1 9 7 3 年、 愛 知 県 生 ま れ。 年 に 朝 日 新 聞 に 入 り、 ~ 99 年に広島勤務。東京・大阪社会 96 年4月から現職(大阪在勤)。 2000年と 11 に関する懇談会」の後、平和宣言では集団的自 市平和推進課の担当者は「平和宣言に盛り込 む要素と、どの被爆体験談を採用するかを決め あれから1年。また同じ問いを繰り返さざる をえないことを残念に思う。 私は昨年9月の広島ジャーナリスト第 こう書いた。 触れる案と、そうでない案を示したところ、座 たことを挙げた。集団的自衛権問題に具体的に 松井氏は理由として、「憲法の平和主義の理 念を示せばよい」との考え方で懇談会が一致し 年 の よ う に、 ど う い っ た 論 点 を 宣 言 に 盛 り 込 だが懇談会は、長崎市の平和宣言文起草委員 会と違い、メディアにも公開されていない。今 責任を転嫁したようにも思えたからだ。 結局、松井氏が書き上げた平和宣言は「憲法 の崇高な平和主義のもとで 年間戦争をしな か。 もその部分に関する議論は公開すべきではない むかまでを委ねるというのであれば、少なくと 年である。 「このままでいいですか」 来年は、原爆投下から となった。 かった事実を重く受け止める必要があります」 松井氏は8月1日の記者会見で、「平和主義 をきちっとうたうことが、集団的自衛権だけで 「平和国家 だが、「積極的平和主義」を掲げ、 としての歩みは不変」と繰り返す安倍首相に対 確にする」と強調した。 会)。今年のメンバーは坪井直・広島県原爆被 市の要綱は、懇談会は「平和宣言に盛り込む 新聞の関係者も各1人いる。 志賀賢治・平和記念資料館長ら。NHK、中国 害者団体協議会理事長をはじめ、被爆者3人と、 なく、さまざまな事象に対しての立ち位置を明 14 団的自衛権の行使を容認した。 この夏、被爆地の焦点はなんといっても、安 倍晋三政権とどう向き合うか、だった。発足2 置 さ れ た( 当 初 の 名 称 は 被 爆 体 験 談 選 定 委 員 懇談会は、2011年に市長に就任し、被爆 体験談の公募を打ち出した松井氏の肝いりで設 私はこの説明に違和感を覚えた。極めて政治 的な判断が求められる問題について、懇談会へ 長の松井氏を除く委員8人のうち7人が後者を きた」と説明した。 るのは不可分。過去もそうやって意見を聴いて 示してきた。 問題に関する最終判断を懇談会に委ねる姿勢を 自衛権に触れるかは半々」と述べるなど、この す る、 と 定 め る。 だ が 松 井 氏 は 今 年、「 集 団 的 被爆体験談に関すること」について意見を聴取 部を経て 08 衛権の問題に言及しない意向を表明したのだ。 役割の再認識を 「広島は、その地位にふさわしい役割を果た しただろうか」 13 支持したという。 号に 加戸 靖史 そして昨年に続き、ヒロシマにかかわるすべ ての方々に問いたい。 14 年目に入った政権は7月1日の閣議決定で、集 「集団的自衛権 」 早 々 と 距 離 70 松井一実広島市長は、 この問題から早々 ただ、 に距離を置いた。7月 日に開いた「被爆体験 2014.9.20 69 ≪ 22 ≫ ≪ 23 ≫ やはり長崎と比べざるをえない。 長崎の平和宣言は「集団的自衛権の議論を機 に、 『平和国家』としての安全保障のあり方に だろうか。 のを示したといえる。 土屋発言はむしろ、被爆地の発言が、日本の 現実政治において無視しがたい影響力を持つも 威」なるものはありうるのだろうか。 当のこの国の平和が脅かされるかもしれない とき、被爆地が座視していたら、それこそ「権 てくる」と述べた。 に寄り添い」と国に注文した宣言のくだりに思 松 井 氏 は、 「被爆者をはじめ放射線の影響に 苦しみ続けている全ての人々に、これまで以上 し、どれほどインパクトを与えることができた ついてさまざまな意見が交わされています」「被 ひるがえって、沈黙する広島はなんと彼らに 都合のいいことだろうか。 さらにいえば、福島原発事故の被害を「放射 線の影響」と限定するかのような松井氏の見方 には触れるべきではないか。 しかし、この説明で納得できる人はどれほど いるだろう。少なくとも、「福島」 の固有名詞 いを込めたとし、「おのずと進むべき方向は出 爆者が(中略)伝え続けてきた、その平和の原 点がいま揺らいでいるのではないか、という不 安と懸念が、急ぐ議論の中で生まれています」 と指摘した。 はどうなのだろう。 福島原発事故に伴う周辺住民の被曝線量は、 広島、長崎の原爆と比べて格段に低い、とされ 「福島」への言及も消える 私は今年も3回の起草委を取材した。会合で 多くの委員が示していた懸念より、ずいぶん弱 安倍政権のもとで変質しようとしているのは められた表現だと思う。ただ、 「集団的自衛権」 憲法の平和主義だけではない。 る可能性は低い」と強調しているのが今の国の 団的自衛権は「平和を維持するための政治的選 長崎平和宣言に対しては、元東京都武蔵野市 長の土屋正忠衆院議員(自民)がブログで、集 くりが追いついていないなど、多くの問題点が 政権側が「世界で最も厳しい」と喧伝する規 制基準だが、自治体による事故時の避難計画づ るとみられている。 摩川内市)が早ければ年明けにも、第1号にな だ。九州電 力川内原発1、2号機( 鹿児島県薩 委員会の規制基準に適合すれば再稼働する方針 懸命に生きようとする福島の被災者を支え、 国 に よ る 切 り 捨 て を 許 さ な い こ と。 そ れ こ そ いはずだ。 被爆後、広島で起きたことと相通ずる部分が多 まして福島原発事故の被害は、現実に放射線 を浴びたかどうかだけにとどまっていない。多 と訴えてきたのが、広島、長崎である。 しかし、「黒 い雨」被害者をはじ め、低線量 被 曝 で あ っ て も 健 康 へ の 影 響 は 否 定 で き な い、 スタンスである。 て い る。 こ れ を 根 拠 に、「 将 来、 健 康 に 影 響 す の文言を入れることに消極的だった田上富久市 被爆地が最も鋭敏であるべき「核」の問題だ 長が最後は押し切られたということだけでも、 けでも、懸念材料は山積みだ。 択だ」とし、 「長崎市長は歴史的体験を踏まえ 指摘されている。だが、安倍政権は聞く耳をも 広島との差は大きい。 た核廃絶を語るから権威があるのだ。集団的自 とうとしない。 いか。 東京電力福島第1原発事故の影響で、止まっ たままの原発について、安倍政権は原子力規制 衛権云々という具体的政治課題に言及すれば権 ところが、今年の広島平和宣言では、原発再 稼働どころか、原発事故の被災者への連帯を表 あべこべの理屈だろう。 日本が始めた戦争の末に、広島、長崎には原 爆が投下され、無数の市民が殺された。かろう じて生き延び、辛酸をなめた被爆者、被爆地は 日本の核武装への懸念を生んでいる核燃料サ が、被爆地が忘れてはならない役割ではあるま くの人が故郷を追われ、生活基盤を奪われた。 それゆえに、平和を心から希求し、核兵器廃絶 明する文言すら消えた。 威が下がる」と批判した。 を実現しようと力を尽くしてきた。 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 24 ≫ イクルの継続、核不拡散条約(NPT)に加盟 していないインドとの原子力協定締結交渉、新 興国への原発輸出計画……。安倍政権が力を入 れる政策はいずれも、 「核兵器のない世界」と いう被爆地の悲願と逆行しかねないものだ。 松井氏は昨年の平和宣言では、インドとの交 渉を批判した。だが、今年はいずれの問題につ いても何も言及しなかった。 むろん、平和宣言にあらゆる事柄を盛り込む ことは不可能だ。ただ、広島が「核兵器のない 見据え、原爆・平和報道のあり方を見直してい 「核兵器を禁止する」 (川崎哲著) く節目にもすべきだと考える。 大量破壊兵器のうち生物・化学兵器は既に 1955年に広島で開かれた第1回原水爆禁 国際法で禁止された。核兵器だけが対象外に 止世界大会で本格化した日本の平和運動は、被 ある。そのため、地球には今なお1万6千発 爆者の切なる思いを取り込むことで、理論の柱 以上の核弾頭がある。国際的な枠組みとして 核不拡散条約(NPT)があるが、5大国の としてきた。 年代に原水禁運動が分裂し、衰 核兵器保有を認めているため、核廃絶への歩 退した後は、メディアが多くの被爆者の声を取 みはほとんど期待できない。 り上げ、平和報道のバックボーンとしてきた。 そこで近年、核兵器の非人道性のゆえに違 残念ながら、被爆者は減っているのに、核兵 法化すべきだとする国際世論が高まってい 器廃絶の展望は開けていない。その夢を現実に る。核兵器禁止条約である。NGOと非核国 するまで、被爆地は訴え続けていくしかあるま が協調し潮流を作っている。2013年 月 い。頼りとしてきた被爆者の声が少なくなる時 の 国 連 総 会 第 1 委 員 会 で は、 人 道 的 立 場 か 代、メディアは被爆地の主張をどう支えていっ ら 核 兵 器 禁 止 を 求 め る 声 明 が、 日 本 を 含 む たらいいのだろうか。 125カ国の署名を得た。 幸いにして、被爆地には、被爆者と接した経 こ う し た 運 動 の 潮 流 は、 核 保 有 国 に よ る 験などから平和への思いに目覚めた人が多くい 「ステッ プ・バイ・ステップ」と 矛盾するの る。ともするとメディアは、「被爆2世、3世」 か。条約が出来上がった時のイメージはどう なる。この問題で運動の先頭に立つ筆者が入 といった、被爆者とのつながりを軸に物語を組 門書として分かりやすく記述する。 (岩波ブックレット、520円=税別) み立てがちだが、まずはそういう型にはまった 報道から意識的に脱却していく必要があるので はないか。 大事なのは人々が胸に抱く平和への「ともし び」であるはずだ。それを束ねたものが、ヒロ シマの思想であろう。 すべきか。報道に携わる一人ひとりが、自問し ていかなければならないと思う。 31 10 世界」への道筋をどう描いているのか。そのた めの障壁にどう立ち向かうか。基本姿勢は常に 示しておくべきではないか。 ここ数年、宣言で北東アジア非核兵器地帯構 想に必ず触れている長崎と比しても、広島の宣 言は具体策に乏しい。あえて厳しく言えば、平 和と核兵器廃絶を祈っているだけ、との感想を 禁じえない。 平和への「と も し び 」 束 ね た い 来年の被爆 年は、広島、長崎のターニング ポイントとなろう。 そのとおりだし、被爆者に話を聞く努力はこ れまで以上に尽くすべきだ。 関係者が共有する意識は「記憶が鮮明な被爆者 たとえ被爆者がいなくなっても、思想は不変。 に体験を聞ける、 最後の節目」というところだ。 そういうヒロシマであるために、私たちは何を 私 が 所 属 す る 会 社 を 含 め、 多 く の メ デ ィ ア 60 そのうえで私は、被爆者がいなくなる時代を (広島市平和宣言は ~ ㌻に全文) 30 2014.9.20 70 「集団的自衛権」 長崎市平和宣言 起草委の多数意見盛られず 5月 日に開かれた第1回から、集団的自衛 権の行使容認に対する危機感を宣言に盛り込む ( ひ ぐ ち・ た け ひ ろ 毎 日 新 聞 長 崎 支 局 記 者。 1978年大阪府大東市生まれ。2002年毎日新 聞入社。福井、阪神、広島各支局を経て 年4月か ら 現 職。 著 書「 私 た ち、 『 何 じ ん 』 で す か? 中 国 残留孤児たちはいま…」(2008年、高文研) 。 )は「集団的自衛権の行使がまかり通ると 戦争につながっていく」と語った。谷口さんは、 郵便局員として集配業務中に長崎の爆心地から 年 た ち、 約1・8㌔で 被爆。背中に大やけ どを負い、生 死をさまよっ た。谷口さんは「戦 後 戦争体験を知らない人が半数を超えた。これま で平和な日本が保たれてきたのは平和憲法が あったから。その憲法がいま、危うくなってい の行使容認を閣議決定したことについて、長崎 安倍晋三政権が憲法解釈を変更し集団的自衛権 強い危機感を示した。安倍首相が掲げる「積極 てきた一線を現政権が越えようとしている」と きく変わろうとしている。かろうじて維持され 行っている。そしてよく中身が分からないうち し た い、 戦 争 を し て 国 力 を 示 す と い う 方 向 に してきている。今の国の動きはむしろ、戦争を 世界の恒久平和に果たすべき役割がいま、後退 る」と警鐘を鳴らした。 の平和宣言は何を訴えたのか。訴えなかったの 的平和主義」について、「武力行使をもためら わない共同行動への参加意思の表明だ」と指摘。 に、若者も含めてそこに取り込んでいくような まえ、最終的には起草委員長を務める市長が書 使われてきた。それが『力ずくの秩序形成に加 ら、貧困や構造的暴力を取り除くという意味で 被爆者で元長崎大学長の土山秀夫さん( ) は「今年ほど、現憲法が危機に遭遇している年 けてもいいのではないか」と語った。 15 〈第1回起草委〉 館で開かれた。 5~7月に計3回、いずれも長崎市の原爆資料 き上げる。今年は 人が起草委を務め、会合は 「 平 和 学 で は、 積 極 的 平 和 主 義 と い う 言 葉 は、 動きに危機感を覚えている。そういうことに対 長崎の平和宣言は、被爆者や大学の研究者、 市民団体代表らで構成する起草委での議論を踏 単に戦争がないというだけでは平和ではないか して、長崎市民として国に明確に要求を突き付 えたい。 か。起草委員会での議論を振り返りながら、考 べきだ、との意見が相次いだ。 12 69 言について「集団的自衛権を懸念」 (毎日)、「集 今年の長崎原爆の日の翌日、8月 日の朝刊 (長崎市内版)各紙1面には、長崎市の平和宣 樋口 岳大 升本由美子・福祉生活協同組合いきいきコー プ理事長は「世界でただ一つの被爆国として、 10 団的自衛権に懸念」 (朝日、西日本) 、 「集団的 芝野由和・長崎総合科学大長崎平和研究所長 自衛権に言及」 (長崎)などの見出しが並んだ。 は「今年は特に、平和国家日本のイメージが大 10 85 正面からの批判避ける ≪ 25 ≫ 事。分かりやすい言葉で、一番重要なところを わる』という言葉に変えられてしまうのは、日 きちっと被爆地から発信したい」と発言。当初 は な い。 こ れ を ど う 表 現 す る の か は 非 常 に 大 い」と話した。 すみてる また、長崎原爆被災者協議会の谷口稜曄会長 本の平和主義への侮辱であり、到底認められな 89 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 26 ≫ 終了後、田上富久市長は「いろんな要素が出 ているので、どれを抽出してどういった表現で 反する」と批判した。 て姑息な方法に切り替えた。現行憲法の理念に を選んだと指摘し、 「正面突破が難しいと考え 正への根強い反対などを考慮して解釈改憲の道 兵器を廃絶していくという政府の動きにもこう ば、やはり憲法の平和理念は揺らいでおり、核 求 す る 長 崎 市、 市 民、 被 爆 者 の 立 場 か ら 言 え なかなか難しい」としながらも、「核廃絶を希 かで、どういうふうにこの問題を指摘するかは 委員長は「議論が沸騰して世論もさまざまなな 今春まで日本赤十字長崎原爆病院長を務めた 朝長万左男・核兵器廃絶地球市民長崎集会実行 法の理念を解釈し直して、集団的自衛権の行使 言っています。その意味から、私たちは平和憲 の一員として狙われずに済んだと口をそろえて 日本人が武器を持っていなかったからこそ、敵 ことはなかった。平和維持活動の体験者たちも、 国々から信頼され、日本が戦争に巻き込まれる 性 の あ る 行 動 を と っ て き た か ら こ そ、 世 界 の 思われます。日本は平和憲法下で、これまで理 法、平和憲法の価値が再評価される時はないと 盛り込んでいくかについては、今日の意見を分 した議論はネガティブに作用する。もう少し強 を、それも閣議決定によって決めるという政府 は憲法改正を目指していた安倍政権が、9条改 析するなかで考えていきたい」と述べた。 い言葉で、政府に、平和理念をしっかり保持し て ほ し い と 述 べ た 方 が い い の で は な い か 」 と の方針には反対です。それは国民の安全を守る 〈第2回起草委〉 つもりが、逆に国民を戦争の危機へと駆り立て 6月 日に開いた第2回起草委で、長崎市は 語った。 文案を示した。 「集団的自衛権」の文言はなく、 西岡由香・ながさき女性国際平和会議代表は、 かねない道だと考えるからです」。土山さんは 私案を読み 上げた。「戦後、日本は武 力行使を こうした形で「はっきり宣言すべきだ」と語っ きる国に大きく変わろうとしているということ いくなかでの今年の平和宣言。戦争、戦闘がで 込み不足を指摘。 「日本がものすごく変わって 芝野氏は「前回、みんな懸念を表明していた 割には……」と集団的自衛権行使容認への踏み 上がった。 これに対し、委員からは「もっと明確に集団 的自衛権の行使容認を批判すべきだ」との声が けてください」との言い回しだった。 きます。政府はしっかりとこうした声に耳を傾 らいでいるのではないか、という不安の声を聞 被爆者や戦争体験者から、憲法の平和理念がゆ 自ら携えた文案を朗読した。 対し、憲法の理念を遵守し、被爆国としての原 訴えてきた長崎の願いに反します。日本政府に め、『ノーモアナガサキ』『ノーモアウォー』を て再び戦争の惨禍が起こらないようにするた ようとしています。それは、政府の行為によっ 今、日本は武力行使を認める国へと方向転換し せんでした。それは誇るべき歴史です。しかし よって殺されたり、殺したりすることはありま 禁じた憲法のもとで経済発展し、国民が戦争に もとで築いてきた平和国家としてのあり方が根 また、土山さんは「被爆地として絶対言うべ そして被爆というつらい体験をもとに立てたそ きことは言うべきだろう」と強い口調で話し、 の誓いが忘れられているのではないか、憲法の 点に立ち返るよう、あらためて強く求めます」 が広がっています。日本政府には、こうした声 まざまな議論がなされています。(中略)戦争、 和国家』としての安全保障のあり方についてさ 込まれなかった。文案は「いまわが国では、『平 7月5日の第3回起草委で長崎市が示した改 正案でも、 「集団的自衛権」という文言は盛り 〈第3回起草委〉 終了後、田上市長は「表現は別だが、何らか、 今よりも明確なメッセージにしたい」と語った。 た。 「北東アジア地域の緊張が高まるなか、多くの を一番最初に言いたいくらいだ。 『揺らいでい 「世界の各地では依然として紛争が絶えませ ん。そうした時代にあって、現在ほど日本国憲 底から変わるのではないか、という懸念と不安 る』どころではなくて、強い危機感を持ってい る」と語った。 2014.9.20 14 ≪ 27 ≫ に真摯に耳を傾けることを強く求めます」とさ ないか」と指摘した。 ではない平和外交に徹底して取り組まれるよう 上出恵子・活水女子大教授は「集団的自衛権 という言葉自体が出て来ないと、何だか逃げて な言葉がほしい」と語った。 可能性を広げたということを的確に述べるよう 梅林宏道・長崎大核兵器廃絶研究センター長 は「 (集団的自衛権の行使容認が)武力行使の 指摘した。 し具体的に踏み込んでもいいのではないか」と 文の形骸化を心配しているわけだから、もう少 分されている状況でやはり多数は憲法9条の条 朝長氏は「なかなか書きぶりが難しいところ で市も苦労しているように感じるが、国論が二 ただけであって、憲法そのものは従来通りとの とができません。政府からは憲法の解釈を変え が反映される機会もなく、私たちは納得するこ は決定後の最後に回され、これでは国民の意向 の変更がなされました。しかし、国民への説明 よって、日本の将来を左右する重大な憲法解釈 「 今 回、 特 定 の 政 党 代 表 と 限 ら れ た 閣 僚 に た。 流 し て ほ し い 」 と 言 い、 新 た な 文 案 を 提 示 し たが、あえて申し上げる。無理と思ったら聞き い込まれるんじゃないかと思い、ためらってい 土 山 さ ん は「 市 長 が 非 常 に 苦 し い 立 場 に 追 もある。そういった中でどこまでどんなふうに 方についてはさまざまな意見があるという事実 は市民のコンセンサスがある。安全保障のあり 終 了 後、 田 上 市 長 は「 核 兵 器 廃 絶 に つ い て ことが必要だ」と語った。 的なことであり、危機感の表明をきっちりする ある。戦争のできる国になるという変化は決定 は数の問題じゃなくて、平和への思い、精神が う人だって多分いると思う。けれども、長崎に 中だって、実態で言えば、核保有もいいってい と、配慮しながら言っている。例えば、長崎の 芝 野 氏 は「 み ん な 市 長 の 立 場 は 大 変 だ ろ う 求めます」 しまっているような印象を持たれかねない。十 説明がありました。そうであるならば、憲法条 言うのかは、非常に慎重な検討が必要な部分で 升 本 氏 は「 被 爆 都 市 だ か ら こ そ 言 わ な き ゃ 分議論されないままに変わろうとしていること 文に記されているように、国務大臣や国会議員 もあると思っている」と述べた。 れていた。 に対する不安や懸念が私たちには根深くあると は現行憲法を尊重し、擁護する義務を負うはず 原点でもあります。被爆者たちが自らの経験を 爆国日本の原点であるとともに、被爆地長崎の 込められた『戦争をしない』という誓いは、被 と語った。 で、はっきり胸に応えるように言ったらどうか」 そして、「せっかく安倍さんが暑い中来るの いうこと、閣議決定のままされてしまっていい です。したがって今後、その理念に沿った戦争 いけない、言える問題だ」と語った。 ものだろうかということを訴えてもいいのでは 急きょ入れた「憲法踏みにじる暴挙」 「平和への誓い」 に広がった平和への不安と懸念に真摯に耳を傾 『平和国家』としての安全保障のあり方につい 懸念が急ぐ議論の中で生まれています。日本政 平和宣言の骨子を発表。 そ し て 8 月 9 日 に 読 み 上 げ た 平 和 宣 言 で は 語ることで伝え続けてきた、その平和の原点が 田上市長は8月1日、 「安全保障を巡る議論をきっかけに、国民の中 「いまわが国では、集団的自衛権の議論を機に、 いま揺らいでいるのではないか、という不安と 府にはこの不安と懸念の声に、真摯に向き合い、 てさまざまな議論が交わされています。長崎は けるように日本政府へ要請する」とし、「集団 起草委での多くの意見にもかかわらず、結局、 耳を傾けることを強く求めます」と述べた。 ウォー』と叫び続けてきました。日本国憲法に 的自衛権」という文言は「状況を示す表現の一 『ノーモア・ナガサキ』とともに、『ノーモア・ 部として使う」と表明した。 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 28 ≫ 平和宣言には、安倍政権による集団的自衛権の 行使容認を真正面から批判する言葉は盛り込ま れなかった。 )は安倍首相の目の前で、 「集団的 者代表 一方、式典で、平和宣言の直後に被爆 じょうだい として「平和への誓い」を読み上げた城臺美弥 子さん( 自衛権の行使容認は、日本国憲法を踏みにじる 閣議決定に抗議し、撤回を求める集会が7月 4日夕、原爆ドーム前であり、市民850人が 集 ま っ た。「 子 ど も た ち を 戦 場 に は 送 ら な い 」 との決意を込めた母親の訴えには拍手が沸い た。デモ後の集会で、主催した市民団体「秘密 法廃止!広島ネットワーク」から、松井市長に 「集団的自衛権行使容認反対を平和宣言に盛り 日を第1次集約日、 日 込むように求める」署名活動が提起された。た だちに取りかかり、 カ国からも 都道 人が電 第1次集約日の 日、市長は会見で、平和宣 言で集団的自衛権に言及しないと言明。最終集 子署名で賛同を表明した。 ンス、イギリスなど海外 府県から寄せられた。アメリカ、ドイツ、フラ からで、秋田、富山、佐賀、大分を除く 署名が2275だった。全体の4分の3が県外 手渡しなどが2607、FAXが709、電子 くの署名が集まったと思う」と話した。郵送・ 署名数は総計5591筆に上った。署名を受 け取った市平和推進課の担当者も「短期間に多 呼び掛けた。 を最終日として手書きと電子署名の2本立てで 14 暴挙です。日本の平和を武力で守ろうと言うの ですか。武器輸出は戦争への道です。戦争は戦 争を呼びます」と訴えた。当初読み上げるはず だった文案には「暴挙」などの表現はなかった が、会場で安倍首相らの姿を見て、 「私がきち んと言わなければ」と決心したという。城臺さ んが平和への誓いを述べた後、会場からは大き な拍手が起こった。 31 42 86 聞 い て く れ る 子 供 た ち も い る。 私 た ち に と っ 署名の第1次集約分 2479 筆を、広島市の横山元信・平和推進課長(手前右端)に提 出する秘密ネットの代表ら(向こう側)=7月 15 日 約の1日には、宣言「骨子」 を記者発表した。「集 井一実市長に求める署名活動を展開したとこ え、平和が揺らぐ問題に対しては被爆地の市長 松井市長は、政府に対してもの申す姿勢に乏 しいとあらためて感じた。国の専権事項とはい 団的自衛権」の文字はなかった。 ろ、1カ月足らずで予想を超える5591筆が として発言する責務がある。今年の平和宣言に 落胆した市民は多いのではないか。 (難波健治) 集まった。この問題に対する市民の批判と懸念 集団的自衛権の行使容認が7月1日、安倍晋 三内閣で閣議決定されたのを受け、8月6日の 署名、1カ月足らずで 5591 筆 広島市平和宣言に反対の意思を盛り込むよう松 23 元小学校教諭の城臺さんはその後の 取材に、 「私は母親であり、教え子がおり、被爆講話を て『教え子を戦場に送らない』という最も大事 なことを、安倍政権は脅かし続けている。(式 典に臨み)子供たちはどうなるのかと、子供た ちの顔が浮かんできた。少数の人たちによって 子供たちの未来が変えられては大変だ。私たち ㌻に には、次世代に平和を残す責任がある」と語っ ~ 33 8・6平和宣言に「集団的自衛権反対」を が根強いことを強く感じた。 2014.9.20 た。 長 ( 崎市平和宣言と平和への誓いは 全文 ) 32 14 75 ≪ 29 ≫ 思います。 具体的には、各国の核軍縮状況をまとめた「ひ みたま 原爆犠牲者の御霊に、広島県民を代表して、謹 ろしまレポート」や、東アジア地域の核軍縮に関 まこと こんにち んで哀悼の誠を捧げますとともに、今日なお、後 する「ひろしまラウンドテーブル」の開催などに 遺症で苦しんでおられる披爆音や、ご遺族の方々 より、国際社会における核兵器廃絶のプロセスの に、心からお見舞いを申し上げます。 着実な進展を支援するとともに、広島の復興プロ きょう 69 年前の今 日この瞬間に、人類史上最初の核 セスとその成果を、紛争終結国等の人材育成に活 兵器である原子爆弾が投下され、灼熱の閃光と爆 用するなど、平和な国際社会の構築に貢献してい 風により、広島の街は一瞬にして壊滅し、多くの きたいと考えています。 尊い生命が失われ、数えきれない人々が傷つきま また、私は、先の軍縮・不拡散イニシアティ した。 ブ(NPDI)外相会合「広島宣言」に触れられ 原子爆弾による破壊が、人間の死や建造物の物 ておりますように、世界の政治指導者たち、と 理的な破壊を超えて、人々が暮らしていた地域の りわけ、米国を 歴史や家族の記憶などを文字通り丸ごと消し去っ はじめ核兵器国 てしまう、 「人間的生の全体的破壊」をもたらす の首脳が、広島 ことを、私たち広島県民は、身をもって知ってい 及び長崎を訪問 ます。私たちにとって、核兵器のない平和な国際 し、核兵器の壊 社会の実現は、長年にわたり切望してきた大きな 滅的で非人道的 願いです。 な結末を自身の 今年の4月にこの広島の地で開催された軍縮・ 目で確かめたう 不拡散イニシアティブ(NPDI)広島外相会合 えで、非核兵器 では、各国外相などから、被爆体験の証言に非常 国とともに、核 に深く心を動かされ、 「核兵器のない世界という 兵器廃絶に向け 目標を達成する」という決意を新たにしたとの発 た新たな一歩を 言が相次ぎました。 踏み出すことを願っています。 また、核兵器の非人道性をテーマに掲げた国際 結びにあたり、すべての被爆者の方々に対する 会議が、ノルウェー、メキシコで開催されるなど、 責務として、核兵器を廃絶し、誰もが幸せで豊か 広島が長い間訴えてきた、核兵器の悲惨さや非人 に暮らすことができる平和な世界を将来の世代に 道性に対する認識が、非核兵器国やNGOを中心 残すことができるよう、世界の皆様と共に行動し に世界中に着実に広がっています。 ていくことをここに誓い、私の平和へのメッセー 今春、私自身も、広島県知事として初めて、N ジといたします。 PT運用検討会議準備委員会に出席する中で、核 平成 26 年8月6日 兵器が非人道的な兵器であることを身をもって経 広島県知事 湯崎 英彦 験した我が国、そして広島だからこそ、核兵器の 非人道性について開かれた議論を喚起し、様々な 立場の違いを超えて、人々がより高い目標に向 かって共に行動するための触媒としての役割を果 たすことができるのではないかという思いを、あ らためて強くしました。 こうした思いを胸に、私は、 「人類史上初の原 子爆弾による廃墟から復興した地」である広島の 使命と役割を取りまとめた「国際平和拠点ひろし ま構想」に基づき、 「核兵器廃絶」と「復興 ・ 平 和構築」の取組を包括的に推進してまいりたいと 広島県知事あいさつ (8.6) 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 30 ≫ さい。また、被爆者をはじめ放射線の影響に苦し ださい。 唯一の被爆国である日本政府は、我が国を取 み続けている全ての人々に、これまで以上に寄り り巻く安全保障環境が厳しさを増している今こ 添い、温かい支援策を充実させるとともに、「黒 そ、日本国憲法の崇高な平和主義のもとで 69 年 い雨降雨地域」を拡大するよう求めます。 間戦争をしなかった事実を重く受け止める必要が 今日ここに、原爆犠牲者の御霊に心から哀悼 あります。そして、今後も名実ともに平和国家の の誠を捧げるとともに、 「絶対悪」である核兵器 道を歩み続け、各国政府と共に新たな安全保障体 の廃絶と世界恒久平和の実現に向け、世界の人々 制の構築に貢献するとともに、来年のNPT再検 と共に力を尽くすことを誓います。 討会議に向け、核保有国と非核保有国の橋渡し役 平成 26 年(2014 年)8月6日 広島市長 松井 一実 としてNPT体制を強化する役割を果たしてくだ 首相あいさつ (8.6) 核軍縮を進めています。 本年4月には、「軍縮・不拡散イニシアティブ」 広島市原爆死没者慰霊式、平和祈念式に臨み、 の外相会合を、ここ広島で開催し、被爆地から我々 原子爆弾の犠牲となった方々の御霊に対し、謹ん の思いを力強く発信いたしました。来年は、被爆 で、哀悼の誠を捧げます。今なお被爆の後遺症に から 70 年目という節目の年であり、5年に一度 苦しんでおられる皆様に、心から、お見舞いを申 の核兵器不拡散条約(NPT ) 運用検討会議が開 し上げます。 催されます。 「核兵器のない世界」を実現するた 69 年前の朝、一発の原爆が、十数万になんな めの取組をさらに前へ進めてまいります。 今なお被爆に んとする、貴い命を奪いました。7万戸の建物を さら 壊し、一面を、業火と爆風に浚わせ、廃墟と化し よる苦痛に耐え、 ました。生き長らえた人々に、病と障害の、また 原爆症の認定を 生活上の、言い知れぬ苦難を強いました。 待つ方々がおら 犠牲と言うべくして、あまりに夥しい犠牲で れ ま す。 昨 年 末 ありました。しかし、戦後の日本を築いた先人た に は、 3 年 に 及 ちは、広島に斃れた人々を忘れてはならじと、心 ぶ関係者の方々 に深く刻めばこそ、我々に、平和と、繁栄の、祖 のご議論を踏ま 国を作り、与えてくれたのです。緑豊かな広島の え、 認 定 基 準 の 見直しを行いま 街路に、私たちは、その最も美しい達成を見出さ ずにはいられません。 人類史上唯一の戦争被爆国として、核兵器の した。多くの方々に一日でも早く認定が下りるよ う、今後とも誠心誠意努力してまいります。 惨禍を体験した我が国には、確実に、 「核兵器の 広島の御霊を悼む朝、私は、これら責務に、倍 ない世界」を実現していく責務があります。その 旧の努力を傾けていくことをお誓いいたします。 非道を、後の世に、また世界に、伝え続ける務め 結びに、いま一度、犠牲になった方々のご冥福を、 があります。 心よりお祈りします。ご遺族と、ご存命の被爆者 私は、昨年、国連総会の「核軍縮ハイレベル会 の皆様には、幸多からんことを祈念します。核兵 合」において、 「核兵器のない世界」に向けての 器の惨禍が再現されることのないよう、非核三原 決意を表明しました。我が国が提出した核軍縮決 則を堅持しつつ、核兵器廃絶に、また、世界恒久 議は、初めて 100 を超える共同提案国を得て、圧 平和の実現に、力を惜しまぬことをお誓いし、私 倒的な賛成多数で採択されました。包括的核実験 のご挨拶といたします。 禁止条約の早期発効に向け、 関係国の首脳に直接、 平成二十六年八月六日 条約の批准を働きかけるなど、現実的、実践的な 2014.9.20 内閣総理大臣・安倍晋三 ≪ 31 ≫ を奪い、人生を大きく歪めた「絶対悪」をこの世 広島市平和宣言 (8.6) からなくすためには、脅し脅され、殺し殺され、 や 被爆 69 年の夏。灼 けつく日差しは「あの日」 憎しみの連鎖を生み出す武力ではなく、国籍や人 とき に記憶の時間を引き戻します。1945 年8月6日。 種、宗教などの違いを超え、人と人との繋がりを おさなご 一発の原爆により焦土と化した広島では、幼子か 大切に、未来志向の対話ができる世界を築かなけ らお年寄りまで一日で何万という罪なき市民の命 ればなりません。 が絶たれ、その年のうちに 14 万人が亡くなりま ヒロシマは、世界中の誰もがこのような被爆 した。尊い犠牲を忘れず、惨禍を繰り返さないた 者の思いを受け止めて、核兵器廃絶と世界平和実 めに被爆者の声を聞いてください。 現への道を共に歩むことを願っています。 建物疎開作業で被爆し亡くなった少年少女は 人類の未来を決めるのは皆さん一人一人です。 せいさん 約 6000 人。当時 12 歳の中学生は、 「今も戦争、 「あの日」の凄惨を極めた地獄や被爆者の人生を、 原爆の傷跡は私の心と体に残っています。同級生 もしも自分や家族の身に起きたらと、皆さん自 のほとんどが即死。生きたくても生きられなかっ 身のことと た同級生を思い、自分だけが生き残った申し訳な して考えて さで張り裂けそうになります」と語ります。辛う みてくださ じて生き延びた被爆者も、今なお深刻な心身の傷 い。 ヒ ロ シ に苦しんでいます。 マ・ ナ ガ サ 「水をください」 。瀕死の声が脳裏から消えな キの悲劇を いという当時 15 歳の中学生。建物疎開作業で被 三度繰り返 まゆげ 爆し、顔は焼けただれ、大きく腫れ上がり、眉毛 さないため まつげ や睫毛は焼け、制服は熱線でぼろぼろとなった下 に、そして、 級生の懇願に、 「重傷者に水をやると死ぬぞ」と 核兵器もな い、 戦 争 も 止められ、 「耳をふさぐ思いで水を飲ませなかっ たのです。死ぬと分かっていれば存分に飲ませて ない平和な世界を築くために被爆者と共に伝え、 あげられたのに」と悔やみ続けています。 考え、行動しましょう。 せいぜつ あまりにも凄 絶な体験ゆえに過去を多く語ら 私たちも力を尽くします。加盟都市が 6200 を なかった人々が、年老いた今、少しずつ話し始め 超えた平和首長会議では世界各地に設けるリー ています。 「本当の戦争の残酷な姿を知ってほし ダー都市を中心に国連やNGOなどと連携し、被 い」と訴える原爆孤児は、廃墟の街で、橋の下、 爆の実相とヒロシマの願いを世界に拡げます。そ ビルの焼け跡の隅、防空壕などで着の身着のまま して、現在の核兵器の非人道性に焦点を当て非合 で暮らし、食べるために盗みと喧嘩を繰り返し、 法化を求める動きを着実に進め、2020 年までの 教育も受けられずヤクザな人々のもとで辛うじて 核兵器廃絶を目指し核兵器禁止条約の交渉開始を 食いつなぐ日々を過ごした子どもたちの暮らしを 求める国際世論を拡大します。 語ります。 今年4月、NPDI(軍縮・不拡散イニシアティ また、被爆直後、生死の境をさまよい、その ブ)広島外相会合は「広島宣言」で世界の為政者 後も放射線による健康不安で苦悩した当時6歳の に広島・長崎訪問を呼び掛けました。その声に応 国民学校 1 年生は「若い人に将来二度と同じ体験 え、オバマ大統領をはじめ核保有国の為政者の皆 をしてほしくない」との思いから訴えます。海外 さんは、早期に被爆地を訪れ、自ら被爆の実相を の戦争犠牲者との交流を通じて感じた「若い人た 確かめてください。そうすれば、必ず、核兵器は ちが世界に友人を作ること」 「戦争文化ではなく、 決して存在してはならない「絶対悪」であると確 平和文化を作っていく努力を怠らないこと」の大 信できます。その「絶対悪」による非人道的な脅 切さを。 しで国を守ることを止め、信頼と対話による新た 子どもたちから温かい家族の愛情や未来の夢 な安全保障の仕組みづくりに全力で取り組んでく 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 32 ≫ 来年は被爆からちょうど 70 年になります。 被爆者はますます高齢化しており、原爆症の認 定制度の改善など実態に応じた援護の充実を望み ます。 被爆 70 年までの一年が、平和への思いを共有 する世界の人たちとともに目指してきた「核兵器 のない世界」の実現に向けて大きく前進する一年 平和への誓い(8.9) 1945 年 6 月 半 ば に な る と、 一 日 に 何 度 も 警 戒 警 報 や 空 襲 警 報 の サ イ レ ン が 鳴 り 始 め、 当 時 6 歳 だ っ た 私 は、 防 空 頭 巾 が そ ば に な い と 安心して眠ることができなくなっていました。 8月9日朝、ようやく目が覚めたころ、あのサ イレンが鳴りました。 「空襲警報よ!」 「はよ山までいかんば!」 。緊 ごう 迫した祖母の声で、 立山町の防空壕へ行きました。 爆心地から2・4㌔地点、金比羅山中腹にある現 在の長崎中学校校舎の真裏でした。しかし敵機は 来ず、「空襲警報解除!」の声で多くの市民や子 どもたちは「今のうちー」と防空壕を飛び出しま した。 そのころ、原爆搭載機B 29 が、長崎上空へ深 く侵入して来たのです。 私も、山の防空壕からちょうど家に戻った時 でした。お隣のトミちゃんが「みやちゃーん、あ そぼー」 と外から呼びました。 その瞬間空がキラッ と光りました。その後、何が起こったのか、自分 がどうなったのか、何も覚えていません。しばら た く経って、私は家の床下から助け出されました。 けが 外から私を呼んでいたトミちゃんはその時怪我も していなかったのに、お母さんになってから、突 然亡くなりました。 たった一発の爆弾で、人間が人間でなくなり、 たとえその時を生き延びたとしても、突然に現れ る原爆症で多くの被爆者が命を落としていきまし た。私自身には何もなかったのですが、被爆3世 である幼い孫娘を亡くしました。私が被爆者でな かったら、こんなことにならなかったのではない かと、悲しみ、苦しみました。原爆がもたらした 目に見えない放射線の恐ろしさは人間の力ではど うすることもできません。今強く思うことは、こ の恐ろしい非人道的な核兵器を世界中から一刻も 2014.9.20 になることを願い、原子爆弾により亡くなられた 方々に心から哀悼の意を捧げ、広島市とともに核 兵器廃絶と恒久平和の実現に努力することをここ に宣言します。 2014 年(平成 26 年)8月9日 長崎市長 田上富久 早くなくすことです。 そのためには、核兵器禁止条約の早期実現が 必要です。被爆国である日本は、世界のリーダー となって、先頭に立つ義務があります。しかし、 現在の日本政府は、その役割を果たしているので しょうか。今、進められている集団的自衛権の行 使容認は、日本国憲法を踏みにじる暴挙です。日 本の平和を武力で守ろうと言うのですか。武器輸 出は戦争への道です。戦争は戦争を呼びます。歴 史が証明しています。日本の未来を担う若者や子 どもたちを脅かさないでください。平和の保証を してください。被爆者の苦しみを忘れ、なかった ことにしないでください。 福島には、原発事故の放射能汚染でいまだ故 郷に戻れず、仮設住宅暮らしや、よそへ避難を余 儀なくされている方々がおられます。小児甲状腺 がんの宣告を受けておびえ苦しんでいる親子もい ます。このような状況の中で、原発再稼働等を行っ ていいのでしょうか。使用済み核燃料の処分法も まだ未知数です。早急に廃炉を検討してください。 被爆者はサバイバーとして、残された時間を 命がけで、語り継ごうとしています。小学1年生 も保育園生も私たちの言葉をじっと聴いてくれま す。この子どもたちを戦場に送ったり、戦禍に巻 おも き込ませてはならないという、想 いいっぱいで 語っています。 長崎市民の皆さん、いいえ、世界中の皆さん、 再び愚かな行為を繰り返さないために、被爆者の 心に寄り添い、被爆の実相を語り継いでください。 日本の真の平和を求めて共に歩みましょう。私も 被爆者の一人として、力の続くかぎり被爆体験を のこ 伝え遺していく決意を皆様にお伝えし、私の平和 への誓いといたします。 平成 26 年8月9日 じょうだい みやこ 被爆者代表 城臺美弥子 ≪ 33 ≫ り、対立を越える第一歩を踏み出してください。 日本政府は、核兵器の非人道性を一番理解してい 69 年前のこの時刻、この丘から見上げる空は る国として、その先頭に立ってください。 真っ黒な原子雲で覆われていました。米軍機から 核戦争から未来を守る地域的な方法として「非 投下された一発の原子爆弾により、家々は吹き飛 核兵器地帯」があります。現在、地球の陸地の半 び、炎に包まれ、黒焦げの死体が散乱する中を多 分以上が既に非核兵器地帯に属しています。日本 くの市民が逃げまどいました。凄まじい熱線と 政府には、韓国、北朝鮮、日本が属する北東アジ 爆風と放射線は、7万4千人もの尊い命を奪い、 ア地域を核兵器から守る方法の一つとして、非核 7万5千人の負傷者を出し、かろうじて生き残っ 三原則の法制化とともに、 「北東アジア非核兵器 た人々の心と体に、69 年たった今も癒えること 地帯構想」の検討を始めるよう提言します。この のない深い傷を刻みこみました。 構想には、わが国の 500 人以上の自治体の首長が 今も世界には1万6千発以上の核弾頭が存在し 賛同しており、これからも賛同の輪を広げていき ます。核兵器の恐ろしさを身をもって知る被爆者 ます。 は、核兵器は二度と使われてはならない、と必死 いまわが国では、集団的自衛権の議論を機に、 で警鐘を鳴らし続けてきました。広島、長崎の原 「平和国家」としての安全保障のあり方について 爆以降、戦争で核兵器が使われなかったのは、被 さまざまな意見が交わされています。 爆者の存在とその声があったからです。 長崎は「ノーモア・ナガサキ」とともに、「ノー もし今、核兵器が戦争で使われたら、世界はど モア・ウォー」と叫び続けてきました。日本国憲 うなるのでしょうか。 法に込められた「戦争をしない」という誓いは、 今年2月メキシコで開かれた「核兵器の非人道 被爆国日本の原点であるとともに、被爆地長崎の 性に関する国際会議」では、146 カ国の代表が、 原点でもあります。 人体や経済、環境、気候変動など、さまざまな視 被爆者たちが自らの体験を語ることで伝え続け 点から、核兵器がいかに非人道的な兵器であるか てきた、その平和の原点がいま揺らいでいるので を明らかにしました。その中で、もし核戦争にな はないか、という不安と懸念が、急ぐ議論の中で れば、傷ついた人々を助けることもできず、 「核 生まれています。日本政府にはこの不安と懸念の の冬」の到来で食糧がなくなり、世界の 20 億人 声に、真摯に向き合い、耳を傾けることを強く求 以上が飢餓状態に陥るという恐るべき予測が発表 めます。 されました。 長崎では、若い世代が、核兵器について自分た 核兵器の恐怖は決して過去の広島、長崎だけの ちで考え、議論し、新しい活動を始めています。 ものではありません。まさに世界がかかえる〝今 大学生たちは海外にネットワークを広げ始めまし と未来の問題〟なのです。 た。高校生たちが国連に届けた核兵器廃絶を求め こうした核兵器の非人道性に着目する国々の間 る署名の数は、すでに 100 万人を超えました。 で、核兵器禁止条約などの検討に向けた動きが始 その高校生たちの合言葉「ビリョクだけどム まっています。 リョクじゃない」は、一人ひとりの人々の集まり しかし一方で、核兵器保有国とその傘の下にい である市民社会こそがもっとも大きな力の源泉 る国々は、核兵器によって国の安全を守ろうとす だ、ということを私たちに思い起こさせてくれま る考えを依然として手放そうとせず、核兵器の禁 す。長崎はこれからも市民社会の一員として、仲 止を先送りしようとしています。 間を増やし、NGOと連携し、目標を同じくする この対立を越えることができなければ、来年開 国々や国連と力を合わせて、核兵器のない世界の かれる5年に一度の核不拡散条約(NPT)再検 実現に向けて行動し続けます。世界の皆さん、次 討会議は、なんの前進もないまま終わるかもしれ の世代に「核兵器のない世界」を引き継ぎましょ ません。 う。 核兵器保有国とその傘の下にいる国々に呼びか 東京電力福島第一原子力発電所の事故から、3 けます。 年がたちました。今も多くの方々が不安な暮らし 「核兵器のない世界」の実現のために、いつま を強いられています。長崎は今後とも福島の一日 でに、何をするのかについて、核兵器の法的禁止 も早い復興を願い、さまざまな支援を続けていき を求めている国々と協議ができる場をまずつく ます。 長崎市平和宣言 (8.9) 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 34 ≫ 虫の目でとらえたヒロシマ 年 月、広 島・山口両県原水協共催で「広島 については、さらに から岩国へ まれた核兵器抗議行進に触発さ れ、日本原水協が取り入れたのが 人近くの人々が徒歩 始まりだった。欧米では国連や基 和記念式典の歩み」 (1992年 けてきた。その成果の一部は「平 島女学院大で懸命に被爆史を跡付 著者は広島県史編さん室、広島 大原爆放射能医学研究所そして広 私は、氏のこの言葉の継承者にな を 世 界 史 に す る こ と 』 と 語 っ た。 日本のこうした特色が、平和行進 の中で目指したのは、庶民の歴史 い で 定 ま っ た。「 氏 は『 私 が 運 動 著者の立ち位置は藤居平一(日 本被団協初代事務局長)との出会 が日本に根付く重要な要因となっ 大の意図は大会の大衆的基盤の確 に 向 け て 設 定 さ れ た。( 中 略 ) 最 進は、大会の開催地および開催日 あった。いっぽう、日本の平和行 地に向けた「政治色の強いもので されようとしている現在、反核・ 色 を も つ も の で あ っ た。 筆 者 は、 岩国基地が極東屈指の規模に拡大 保にあり、政治色は弱いという特 平和運動における広島と岩国の連 島大学人会会報№ に少なくない影響力を与えた」(広 行進の成功は、その後の平和運動 だ統一行動である岩国基地平和大 和委員会が結成後初めて取り組ん 行 進 を 行 っ た 」 と 紹 介。「 広 島 平 )。 米 海 兵 隊 刊) 、 「原爆手記掲載図書・雑誌総 年に平岡敬市長が読 させられる指摘だ。 携の重要性をあらためて思い起こ 目 録 1 9 4 5 ― 1 9 9 5」 ( 著者は 年 8 月 6 日 だ っ た。 占 領 下、 み上げた平和宣言の結び「平和へ もある。その一つが平和行進への 「 中 国 新 聞 社 と 広 島 県・ 市 は、 ア の不断の努力を市民の皆様ととも の 平和運動」にまとめている。 機から花輪が投下さ 岩国基地所属の飛行 招待していた。また ト二十数名を式典に 上出撃したパイロッ 朝鮮戦争に五十回以 のヒロシマに必要ではないか」と 岡市長の姿勢は、歴史化する今後 には『広島市民』から自立した平 者は思っていたのだが、今では「時 人的意見を述べるべきでないと著 な く『 I 』 で あ っ た 」。 市 長 は 個 (岩波書店刊、2800円=税別) 考え始めている=文中敬称略。 ヒロシマと岩国 た」。 れ、霊前に供えられ 基 地 の 要 請 に よ り、 文では、この主語は『We』では に お 誓 い す る 」 に 注 目 す る。「 英 年刊) 期の広島の歴史を取り上げる際に た。著者は「おわりに」で「占領 を著してヒロシマの全体像に迫っ ( 上 下 2 巻、 1 9 5 9、 「 原 水 爆 時 代 ― 現 代 史 の 証 言 ―」 だった今堀誠二が旺盛な筆力で に徹している。かつて広島大教授 メリカ空軍(現在は海兵隊)岩国 刊) 、 新 装 版「 戦 後 日 本 占 領 と のである。 戦後改革」第4巻「戦後民主主義」 自らの主観の披露に抑制的な著 者だが、明確に論評している事項 22 評価だ。1958年欧米で取り組 ( 2 0 0 5 年 刊 ) の「 被 爆 体 験 と 平和記念式典の変遷も克明にた どる。特異なのは朝鮮戦争さなか たと考えている」。 宇吹暁著「ヒロシマ戦後史 被爆体験はどう受けとめられてきたか」 11 りたいと考えている」と決意した 58 年 40 91 本書は、それらの集大成であり 虫の目でヒロシマをとらえること 51 99 は、この本の『批判的』継承を目 指してきた」と述べている。 2014.9.20 60 ≪ 35 ≫ 峠三吉・栗原貞子・原民喜 原爆文学を「記憶遺産」に の三大遺産事業は「世界遺産」 「世界無形文化 別ランキングでは、1位のドイツ 件、2位オー ユネスコ(国連教育科学文化機関・本部パリ) 109カ国、約300件が登録されている。国 土屋 時子 表。1948 年 広 島 市 生 ま れ。 広 島 女 学 院 大 卒。71 年 同 大 学 図 書 館 職 員、 2009 年同館退職後、 広島県立図書館と 「友の会」運営委員。 広島市立図書館の 大学時代から演劇活動を続け、多くの市民 劇に出演。96 年から満蒙開拓団の母子物 語の一人芝居を上演し、現在は、朗読や歌 のライブ活動を通して平和と命の大切さを 語り続けている。 登録を目指して運動を始めた事由と意義につい を確認し、私たち一市民文化団体が原爆文学の 知られていない「世界記憶遺産」の理念や目的 バーの話題が絶えない。今回はその中であまり おり、 特に「世界遺産」については観光地フィー までは話題にもならなかった。 兵衛コレクション」が日本で初めて登録される 件は政府推薦(国宝)で、 年5月に「山本作 あまりにも低調である。しかも、3件のうち2 にも多く存在することを思えば、日本の3件は 「 広 島 文 学 資 料 保 全 の 会 」 は「 広 島 に 文 学 館 用・活用することで、その遺産を保護し、促進 録「舞鶴へ の生還」が国内候補 となり、「知覧 絵画、音楽、 でという制限のため、つばぜり合いの結果、国 「世界記憶遺産」は歴史的な文書、 映画などの世界の貴重な記録遺産を保存し、利 宝の「東寺百合文書」と、シベリア抑留等の記 選定は2年に1回、候補は1カ国につき2件ま を中心とした近代の日本や世界の文学活動・交 設立要求の署名活動も繰り広げた。以後、広島 五郎、立川昭二郎、深川宗俊、松本寛、沖原豊 件で、開催地はウズベキスタンの の発起人 人の呼びかけで活動を始め、文学館 することを目的としたプログラムで、1992 収 集、 保 全 す る た め に、 文 学 資 料 展、 講 演 会、 年の おり、また「朝鮮通信使」の共同申請に日韓が 17 年から開始された。初めて登録・選定された件 特攻遺書 知覧からの手紙」「全国水平社創立 宣言と関係資料」は選外となった。この2件は 11 朗読会、セミナーなどの活動を旺盛に続けてき 15 原爆文学資料の保全は急務 て、簡単に述べたい。 だ。 可能性もあり、国内選考は一層厳しくなりそう 合意したとのことで、今後さらに申請が増える 資料保全の会」代 を! 広島の心を二十一世紀に伝えよう!」と、 1 9 8 7 年 2 月、 磯 貝 英 夫、 今 堀 誠 二、 大 原 件、中国は9件。貴重な記憶資料が日本 つちや・ときこ 2013 年から「広島文学 そんな中、「遺産ブーム」の影響でもあるま いが、今年に入り 年の登録を目指して4件が 国は 遺産」 「世界の記憶(世界記憶遺産) 」である。 ストリア 件、3位ポーランド 件などで、韓 17 12 名乗りを上げたことで一気に機運が高まった。 三八雄、北西允、栗原貞子、好村冨士彦、四国 日本ではいまだに三つの「遺産」が混同されて 13 「世界記憶遺産 」 の 現 況 11 年の登録を目指して再度申請すると公言して 数は 38 タ シ ケ ン ト で あ っ た。 以 後 2 0 1 3 年 ま で に 97 たのだが、いまだ「広島には文学館が一つもな 流・研究を目的とし、それに必要な関連資料を 11 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 36 ≫ こ う し た 現 状 を 見 る と、 広 島 は 国 際 平 和 文 亡くなられた方も多い。私たちの活動も、資料 会発足から今年で 年目となった。運動が長 期化する中で、会を支えてきた人々も高齢化し ある。いわば背水の陣の覚悟なのである。もし 訴える方法として考えたのが今回の登録申請で 今後も期待がもてない。新たな切り口で世界に じてきた広島市に対して、大きな問題提起とな 登録がかなえば、文学館や原爆文学保全を軽ん 度か交渉してきたが、「予算がない」の回答で 化都市の看板から〈文化〉を降ろすべきではな の保存面でも時間の余裕は無い。広島市とは何 い」のである。 いかとさえ思う。他県の人からも「世界に知ら れる被爆作家の貴重な資料群がありながら、文 学館もないというのは不思議だ」と言われる。 金沢市は広島市の半分以下の人口だが、公立文 取り上げた作家は峠三吉(「原爆詩集」直筆 るに違いない。 最終草稿)▽栗原貞子(「生ましめんかな」直 筆 ノ ー ト ) ▽ 原 民 喜(「 原 爆 被 災 時 の ノ ー ト 」 =「夏の花」執筆の元となった被爆時の手帳) である。3人は広島を代表する作家・詩人であ り、命を賭して8月6日の広島の惨状を記録し、 優れた文学作品として著した、世界に通じる被 爆作家である。当面は著作権をクリアしている 3人にしたが、今後、大田洋子の「屍の街」の 原稿(日本近代文学館所蔵)も検討したい。長 崎の作家も可能性があれば加えたいと思ってい 2014.9.20 学館が5館もあるというのに、実に情けない話 ㊦栗原貞子の「生ましめんかな」が書かれたノート「あけ くれの歌」 る。 峠三吉、栗原貞子の資料は 広島文学資料保全の会提供 なのである。 峠三吉「原爆詩集」の表紙 ㊤峠三吉「原爆詩集」の「序」の草稿(周囲の空白部分を カットした) 27 ≪ 37 ≫ 栗原貞子「生ましめんかな」の直筆原稿 韓国も「慰安婦」資料を申請しているとのこと。 だろうか。確かに被爆の実相は負の遺産である れなくなった」などという声もある。確かに、 広島ジャーナリスト 18 号 の記録と「従軍慰安婦」に関する記録を、また 「山本作兵衛コレクション」の[ケースは、予 備知識やノウハウが皆無で苦労されたそうだ それに対して日本政府は「政治問題化すべきで [1] が、、海外専門家らのバックアップや市議会の 協力、全市的な取り組みの結果、登録となった。 ない」と取り下げるよう申し入れている。 「記 憶遺産 負のせめぎあい」という新聞記事も出 る始末だが、利害国が主張をぶつけ合う場にな そ れ で も、 申 請 か ら 登 録 ま で 3 年 以 上 か か っ て い る。 私 た ち の 場 合、 市 の 協 力 も な く 申 請 らないことを願うのみである。 6月5日に記者発表したところ、東京や大 が、核のない世界を実現するために果たす役割 原 爆 の 記 録 は 一 体、 ど ち ら の 遺 産 と い え る 準 備 期 間 も 少 な い が、 限 ら れ た 条 件 の 中 で 実 阪から予想以上の反響があった。広島には「世 は正であり、何よりも栗原貞子の「生ましめん 現可能な協力体制を広く求めていきたい。 界遺産」はあるが、「記憶遺産」は初の取り組 の賛歌、人間の生きる意思への尊厳を詩に書き みであり、全国的な話題となったのであろう。 かな」は、地獄のような地下室で生まれた生命 世 論 を 力 に で き れ ば、 登 録 実 現 も 夢 で は な い 残した、貴重な正の遺産である。そもそも〈正 が問題であるはずだ。 要性があり、永く保存する必要があるか否か」 か負か〉の分け方自体も疑問で、「世界的に重 年。 申 か も し れ な い。 奇 し く も 来 年 は 被 爆 請書作成に向け今年中にめどをたてたい。 負の遺産か正の遺産か 記 憶 遺 産 に は〈 正 の 遺 産 〉 と〈 負 の 遺 産 〉 広島の平和認識を考える が あ り、 ホ ロ コ ー ス ト に 関 す る イ ス ラ エ ル の 負の遺産が多い。敗戦国日本の「負」の遺産を 申 請 は「 負 」 で 登 録 さ れ た。 な ぜ か「 世 界 記 「文学館建設が実現しないのは、広島市民の 憶遺産」には奴隷貿易や戦争捕虜の記録など、 要望の声が高まらないから」「原爆文学は読ま 下という重要な出来事の記録として「世界記憶 い。 文学作品を読む人はほんのわずかかもしれな 島は被爆者運動は盛んでも、被爆作家の書いた 館や博物館では経済効果も望めないだろう。広 くはなく、熱狂的でもないかもしれない。文学 文学を愛好し求める声は、スポーツ人口ほど多 [1]やまもと・さくべえ 1892~1984。7歳 か ら 炭 鉱 に 入 る。 田 川 市 内 の 炭 鉱 事 務 所 で 働 い た 代 半 ば か ら、 炭 鉱 の 様 子 を 後 世 に 残 す た め、 絵 筆 を と る よ う に な っ た。 残 し た 作 品 は 千 点 以 上 と い う。 2 0 1 1 年、 関 連 資 料 を 含 め 6 9 7 点 が 世 界 記 憶 遺 産 に 登 録 された。 世界に知らしめるためにと、中国は南京大虐殺 重要である。これは多くの人が認めるに違いな い。選定基準も満たしており、最終的には希少 性、完全性、劣化などの脅威、適切な管理計画 等が考慮される―とあるが、これらの課題も何 とかクリアできる。 60 遺産」に登録することは世界史、人類史的にも こ れ ら の 作 品 を、 人 類 史 上 初 め て の 原 爆 投 70 ≪ 38 ≫ 験を伝えるのは被爆者の残した言葉である。中 だ が、 被 爆 者 が い な く な っ た 将 来、 被 爆 体 と誇りをもってほしい」と訴える。 な衝撃を受けた。広島の人は原爆文学に、もっ は「私は原爆被災時の原民喜の手帳を見て大き 料 を 展 示 し た「 田 川 市 石 炭・ 歴 史 博 物 館 」 を を生かしたまちづくりを目指し、石炭産業の資 炭都であった。炭坑節の発祥の地―という歴史 だった山本作兵衛さんの絵画や日記なども収蔵 1983年にオープンした。実際の炭坑労働者 でも、世界から広島を訪れた人たちが、磨き上 げられた「原爆文学」に込められた作家の思い 田川市の取り組みに学ぶ し、福岡県立大の資料と合わせ、697点を共 と言葉の格闘に触れた時、自分たちが何をなす べきかを心に刻むだろう。それが、人類を滅ぼ き、 月 日~ 16 日に会の 17 メンバーが訪問することに 10 県立大にも連絡していただ を 開 示 し て も ら っ た。 福 岡 大 な 資 料( 照 会 し た す べ て ) せ た と こ ろ、 参 考 に な る 膨 憶遺産推進室」に問い合わ あ た り、 田 川 市 の「 世 界 記 私たちは登録申請のための作業を始めるに 田川市は現在、人口が5万人にも満たないが、 同申請した。世界記憶遺産に2011年、日本 福岡県の中央部に位置し、明治、大正、昭和の で初めて登録され注目を浴びた。 時代、筑豊3都市(飯塚市、直方市)の最大の す核戦争に反対する、確かな力になると思う。 「広島に文学館を!市民の会」 (2001年~ 年)の代表だった水島裕雅・広島大名誉教授 30 タバコ 遺言状 8月6日8時半頃 突如空襲 一瞬ニシテ 全市街崩壊 便所ニ居テ頭上ニサクレ ツスル音アリテ頭ヲ打ツ 次ノ瞬間暗黒騒音 薄明リノ中ニ見レバ既ニ 家ハ壊レ、品物ハ飛散ル 異臭鼻ヲツキ眼ノホトリ ヨリ出血、恭子 (1) ノ姿ヲ認 ム、マルハダカナレバ服ヲ探 ス 上着ハアレドズボンナシ 達野 (2) 顔面 ヲ血マミレニシテ 来ル (1) 恭子=民喜の妹 (2) 達野=原商店の職員(原家 は陸海軍御用達で軍服などの縫 製工場を営んでいた) 兵作業ヲナス。横川ヨリ汽車 アル由キイテ帰ル。臥屋ニ帰 レバ陽アタリテ暑シ。昨夜ノ黒 焦顔ノ婦人既ニ死ニ、巡査 シラベルニ、呉ノ人ナルコトワ カル。 学徒モ日ナタニ死ニタリ。念 仏ノ声モキコユ。シカルニ何ゾ ヤ 練兵場ニハラッパヲ吹クアリ。 安藤ニギリメシヲ持参。何気ナ ク 食ヒ、コノ悲惨ナル景色ヲ念頭 ニオクトキ、梅ノ酸胸ニツカヘ テ ムカツキサウニナル。水ヲ飲ム。 石段下ノ涼シキトコロニ、一人 イコフ。我ハ奇蹟的ニ無傷 ナリシモ、コハ今後生キノビテ コノ有様ヲツタヘヨト天ノ命 ナランカ。サハレ、仕事ハ多カ ルベシ。 練兵場ニ行キ罹災証明ヲモラ ツテ居ルト空襲ケー報、爆音ア リ、身ヲ臥ス。オートミイルヲ (傍線は土屋) な っ た。 申 請 作 業 に 携 わ っ 原 民 喜 の 原 爆 被 災 時 の ノ ー ト( 「 広 島 文 学 館 文 学 資 料 デ ー タ ベ ー ス 」 (http://home.hiroshima-u.ac.jp/ か ら。 解 読 は 広 島 花 幻 忌 の 会 事 務 局 長 故 海 老 根 勲 氏 に よ る。 上 は た人たちから直接話が聞ける bngkkn/database/HARA/tamiki-note.html) 全 ㌻中1㌻目、下は7㌻目) と 思 う。 推 進 室 は 2 年 前 に 市 2014.9.20 10 店ノ金庫ノ中 ≪ 39 ≫ 知 る 人 は 少 な い が、 広 島 市 佐 伯 区 に「 世 界 6月に日本ユネスコ国内委員会が2件を決定 遺 産 総 合 研 究 所 」( 1 9 9 8 年 設 立 ) が あ る。 し、ユネスコ国際諮問委員会の登録決定は 年 そこの古田陽久所長にもお会いした。「これま となる。私たちの具体的な動きは田川市を訪問 来年は文学者をパネリストとしたシンポジ 広島ジャーナリスト 18 号 長・副市長直轄で設置され、今年4月からは推 進強化のため「田川市石炭・歴史博物館」の中 に移設。博物館と合体する形で組織改編を進め 被爆作家だけでなく、広島からもさまざまなも ウムを開催し、市民的な機運も高めたい。広島 学者への協力要請も考えている。 で広島・長崎から声が出なかったのが不思議だ。 した後になるが、広島ユネスコ協会や著名な文 のを登録できるのではないか。これを機に被爆 県内外の賛同人署名も早急に集める必要があ 人 に増えたという。 地の広島・長崎から何かを登録しようという動 =がある。丸木位里、俊夫妻の「沖縄戦の図」やヒトラー政権に圧 迫されたが、ひるまなかった女性版画家ケーテ・コルヴィッツらの 作品を展示している。館長を務める著者は、沖縄から熊本県に疎開 した両親のもと戦後育った。東京で学生運動にのめり込んだ後、鍼 灸院を開業。丸木夫妻らを治療した。 沖縄に所有する土地が基地用地になっており、 いわゆる軍用地主。 沖縄の本土復帰で使用料が6倍に引き上げられた後、著者は毎年全 額を積み立てた。それらが絵画収集や美術館建設資金の一部になっ た。建設用地についてあれこれ物色した末に思い至ったのが、基地 内の亀甲墓のあるわが先祖の土地だった。 米軍に土地の返還を要請。 防衛施設局のいやがらせを押しのけて 1994 年に開館、11 月で 20 年を迎える。著者は「アートの力をつかって沖縄の地に心の内面を 整える『もの想う空間』をつくることができた」と若い人の感受性 年 3 月。 り、多忙なスケジュールになりそうだ。 きが出てきてほしい」と古田氏も期待する。 (佐喜眞道夫著) 「記憶遺産」の申請書提出期限は 普天間基地の一角に、くさび形に食い込んだ佐喜眞美術館=写真 ル・ピアソン氏は国際記念物遺跡会議オースト ラリア元会長である。田川市の取り組みは当初 から産官学民連携の「田川再生事業プロジェク ト」として進められ、世界遺産を目指す千人集 会やシンポジウムも県立大で行われた。「広島 市」としても「広島市民」としても、学ぶべき 点は多いと思う。 作品の価値 世界にどう伝える 今回選外となった「知覧特攻遺書」の関係者 は「2年間の準備作業で特に苦心したのは英訳 作業だ」と語っていた。私たちの場合「ヒロシ マの心を世界化する」ための文章化が大きな 課題であろう。 「日本は唯一の被爆国」という 表現は避けたいし、 「ヒロシマ至上主義」にも 陥らないようにしたい。登録までの詳細なスケ ジュールは未定だが、当面、制度に関する事前 調査と資料収集を行う。関連団体を調べ、アド バイスも受けている。 「アートで平和をつくる 沖縄・佐喜眞美術館の軌跡」 イケル・ピアソン博士が提出)とある。マイケ 申請書の登録推薦者は田川市及び福岡県立大 であるが、 (登録推薦書は田川市長、博物館館 ている。職員の体制も、登録前の6人から 17 に期待する。 (岩波ブックレット、660 円=税別) 長及び福岡県立大・森山沾一教授の代理人、マ 14 16 ≪ 40 ≫ 自滅に向かう原発大国日本 まり、日本に拡散した核アレルギーを緩和する `` 有効な方法の一つとして、核兵器の被害者であ る被爆者に「原子力平和利用賛成」という意見 キニ環礁で、米国が行った水爆実験により焼津 の 有 力 な 被 爆 者( 地 元 政 治 家 や 大 学 教 授 な ど ) メリカのもくろみ通り、広島市長をはじめ多く にもこの提案を支持するよう要請。結果は、ア ㊤ のマグロ漁船第五福竜丸が大量の放射能を浴び を表明させることを考えついた。そのような目 的での作戦第1弾が、広島に日本の原発第1号 機をアメリカからの贈与として建設するという 年9月に 計画の提案を行い、その提案に被爆者からの強 い支援を引き出すというもくろみ。 年1月には、米連邦議会下 はアメリカ原子力委員会のトーマス・マレーが この提案を公表。 院議員シドニー・イエーツが同提案を下院本会 て被災。これがきっかけとなって、核実験反対 や地元メディアが賛成を強く表明。目的を達し 議に提出すると同時に、アイゼンハワー大統領 運動がまたたく間に日本全国に広がった。核実 年8月6日には、 アメリカは 月 初 め か ら、 東 京 を 皮 切 for Cold War 冷 ( 戦のための核利用 」 )である ことが明らか)この新しい方針に沿って、アメ (原子力平和利用) 」の推進計画に関する Peace 演説を行った。 (演説内容を注意深く検討して 新聞と新しく設置されたばかりの日本テレビの その宣伝作戦に最も緊密に協力したのが、読売 たばかりの米国の原子力推進計画を挫折させて 急 激 に 高 ま っ た 日 本 の 反 核 意 識 が、 開 始 し し た ば か り の 広 島 平 和 記 念 資 料 館( い わ ゆ る までこの「博覧会」が開かれ、前年8月に完成 選んだ。広島では、広島県、市、広島大学、中 全国に巡回させ、広島もその巡回都市の一つに 設置を推進しようという計画に手をつけ始めた アメリカはこのプロパガンダ活動に原爆の しまうのではないかと恐れたアメリカは、さま 国新聞などの支援の下、アメリカ文化センター み れ ば、 こ の 演 説 内 容 は、 実 際 に は、 「 Atoms ざまな原子力推進宣伝作戦を日本で展開する。 と緊密に協力して、 年5月 日から6月 日 リカが、 「自由主義諸国=アメリカ支配に従属 両方の社主を務める正力松太郎であった。 りに大々的な「原子力平和利用博覧会」を日本 年 年秋には葬り去った。 たアメリカ側は、広島における原発設置提案を、 いかに阻止すべきか 原発・核兵器政策による国民殺戮行為を ) 生類の破滅に向かう世にありて、生き抜くこ つい ( 見和子 鶴 54 験即時停止要求に日本全国で3200万人(広 島で100万人)が署名。 広島で、初の原水爆禁止世界大会が開催される 55 とぞ終の抵抗 月 8 日、 ア メ リ カ 合 衆 国 大 統 55 11 一 原子力平 和 利 用 に 利用された広島 1953年 田中 利幸 する諸国」に米国資本による原子力発電設備の 領 ア イ ゼ ン ハ ワ ー は 国 連 総 会 で「 Atoms for まで反核意識が高まった。 55 55 被害者である被爆者を利用することを考案。つ 27 17 尽くした。広島の博覧会には 万人近い見学者 「原爆資料館」)を原子力平和利用展示物で埋め 56 11 が訪れ、その中には多くの被爆者や県内の各学 2014.9.20 12 年3月2日、南太平洋マーシャル諸島のビ 翌 54 ≪ 41 ≫ 校が残らず連れてきた生徒が含まれていた。広 であった。 年6月 日に朝鮮戦争が勃発。同 と国防省の高官の間での秘密メモのやりとりか 年7月からは核兵器の「核コンポーネント(= このように、「原子力平和利用」推進に当たっ ら判明する。 島では、とりわけ癌や白血病、その他の病気治 核爆弾の心棒)」以外の構成部品をグアムに配 がん 療のためのアイソトープ利用を強調する展示に ては、推進するアメリカ側は常に核兵器(この 子力政策」と称していた)と原子力利用を分離 0 備し、空母コーラルシーにも搭載。 年6月下 できない一体のものととらえる考えに基づいて 日間開催された、原爆 て、仏領モロッコ、イギリス、西ドイツ、イタ て考えていたのである。 ナイーブに、原子力は核兵器とは「別物」とし 同時に核兵器を搭載した空母ミッドウエーを台 湾水域に展開。同年 月には、核コンポーネン ト以外の構成部品を在日米軍基地へ移送( 年 ロ 漁 船 第 五 福 竜 丸 が 被 災 し た そ の 翌 日、 す な 6月まで貯蔵していたが、米国政府はその存在 わち1954年3月2日、原子炉建造のため、 0 2億3500万円の科学技術振興追加予算が、 0 突然、自由党、分派自由党ならびに改進党の保 0 合参謀本 部に宛てられた「秘密 文書」で、「戦 0 争という緊急事態(ソ連の日本攻撃のような場 方によって「核=原子力」は極めて有益という 0 0 守3党の共同提案として衆議院に出された。こ 0 0 合を想定?)」が起きた場合には、「日本近辺の 感覚を市民の間に浸透させていった。 0 0 の提案は、ほとんどなんの議論も行われず可決 0 0 米軍基地(おそらくは沖縄を意味している)か 0 0 0 された。このとき、衆議院本会議で小山倉之助 0 0 0 ら、即座に、核(コンポーネント)を日本本土 0 0 日本での原子力平和利用推進キャンペーンは、 説明が含まれている。 0 0 0 「この新兵器 = [ 核兵器 の ] 使用にあたって は、りっぱな訓練を積まなくてはならぬと信ず 0 た形で行われたのであり、原子力平和利用を日 るのでありますが、政府の態度はこの点におい 0 本市民に受け入れさせることで、最終的には核 てもはなはだ明白を欠いておるのは、まことに 0 兵器持ち込みとその常備をも受け入れさせよう 遺憾とするところであります。 ……新兵器や、 実は、こうした核兵器配備活動と密接に関連し という意図があったことが、アメリカの国務省 0 隠されたもう一つの目的 和利用のプロパガンダ活動には、単なる原発建 設推進という目的の他に、もう一つの目的が隠 されていた。それは、日本人の核アレルギーを 緩和し弱めることで、最終的にはアメリカによ る核兵器の日本本土への公表持ち込みを可能に し、核兵器常備体制を作り上げようというもの 0 に持ちこんでよい」という許可が与えられた。 (改進党)が行った提案主旨には、次のような を否定)。 年3月3日、国防長官から米軍統 ビキニ環礁での水爆実験により焼津のマグ 二 核製造能力開発の歴史的経過 リアに完成核兵器を次々に配備。東アジア地域 0 船、原子力飛行機の模型などを、博覧会巡回終 「核コンポーネント」もグアムに配備し、必要 行っていたのであり、一方、「原子力平和利用」 年4月1日から 0 であればいつでも核兵器が使用できる体制をし 0 力を入れた。しかもアメリカ側は、展示物の中 旬からは、中国軍による朝鮮大攻勢を受けて、 時期、アメリカは核兵器政策のことを「軍事原 いた。一方、冷戦緊張状態が高まるヨーロッパ る特別室を作って常設展示とし、この展示は 年5月まで続いた。博覧会で上映された原子力 平和利用に関する宣伝映画(ディズニーのアニ メ映画を含む)も、博覧会終了後には広島県内 57 了後に資料館に寄贈。資料館はこれらを展示す を受け入れる側の日本市民のほうが、きわめて 51 でもアメリカは、 年5月から 年4月にかけ 0 で最も人気のあったマジックハンドや原子力商 25 54 12 アメリカから寄贈されたこれらの展示物や映画 は、 による壊滅からの広島市復興を祝う「広島復興 大博覧会」でも活用された。かくして、常時こ うした展示物や映画を市民に繰り返し見せるこ 54 広島ジャーナリスト 18 号 50 の学校に貸し出されて、引き続き利用された。 では、 年 月に、沖縄に完成核兵器を配備し、 67 こうしたアメリカによる日本での原子力平 とで、核兵器と原子力は「別物」であり、使い 65 50 12 55 58 ≪ 42 ≫ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 力を強めることが出来る」と日記に記している。 0 0 の建設が始められた。日本原子力産業会には電 0 0 現在製造の過程にある原子兵器をも理解し、ま 0 その後の日本の原子力エネルギー開発は、まさ 0 力,ガス、石油、鉄鋼,金属、化学、建設、貿 0 に岸が望んだような道程を歩み、「核兵器製造 0 0 能力」を開発、維持しながら、現在に至ってい 0 易など様々な分野の企業600社余りが参加し 0 たはこれを使用する能力を持つことが先決問 た。 し か し、 中 心 と な っ た 企 業 は、 戦 後 の 連 0 題であると思うのであります。 」 (強調ならびに 本格的な研究を始めたのは、岸信介の実弟、佐 日本が自国の核兵器生産の可能性について るのである。 (注1参照) カッコ内追加は田中) 年末にアメリカが打ち出した「 Atoms for 合軍占領期に解体されたはずの旧三井財閥系 社、旧三菱財閥系 社、旧住友系財閥 社の3 ギー開発だけのための原子力利用を政策として して原子力発電商業化へ向けての基礎が作られ り、日本原子力発電株式会社が設立され、かく 会社ならびに電源開発株式会社の共同出資によ 核兵器運搬手段(=ロケット技術)に関する技 佐藤首相の指示で、日本の核兵器生産ならびに グループであった。 年 月1日には、9電力 掲げた日本。その日本最初の原子力関連予算の たのである。その後、上記の旧財閥系企業と電 術的評価や政治的評価に関する複数の研究・検 年代後半から 提案趣旨説明で、核兵器製造能力開発と保有の 力会社が密接に協力しあい、日本の原発建設を 藤栄作が首相の座についていた 重要性が明確にうたわれ、しかもほとんど何の 月 日に成立した原子 日、 日 米 原 子 力 協 定 が 調 印 さ れ 年代初期にかけての時期であった。 この時期、 60 日、岸信介首相(外相兼任)は、 有問題を、岸政権以来の法律論・抽象的議論か 力的に行われた。かくして、佐藤政権は、核保 などによって、半ば公式に、半ば私的形式で精 討が、内閣、外務省、防衛庁、海上自衛隊幹部 70 発射のための動力源としての原子力利用、さら 外務省記者クラブにおいて、潜水艦航行や兵器 CIAの調査報告で、日本がこうした研究を進 ルへと押し進めた。ちなみに、アメリカ政府は ら、実際の製造可能プロセスの研究というレベ この核兵器製造潜在能力に関する本格的な 研究は、アメリカとの沖縄返還交渉が進められ 日に東海村原子力研究所を訪問した際の印象と に「核抜き本土並み」を基本方針とせざるをえ たっては、当時の国民の圧倒的な反核意識の故 る中で、同時並行的に行われた。沖縄返還にあ して、「平和利用にせよその技術が進歩するに ず、したがって、沖縄返還問題との関連で、佐 実験問題などについて、国際の場における発言 潜在的可能性を高めることによって、軍縮や核 の米国核抑止力依存、核軍縮政策の推進、核エ たない、持ち込まない)、日米安保条約の下で てくる」のであり、「日本は核兵器は持たないが、 藤政権は、非核三原則(核兵器は作らない、持 つれて、兵器としての可能性は自動的に高まっ しまっている。岸信介は、さらに、 年1月 て継承され、ほぼ日本政府の統一見解となって このいわゆる「核兵器合憲論」は歴代首相によっ 触しないという意見を明らかにした。その後、 めている情報をはっきりと把握していた。 には自衛目的のための核兵器保有は、憲法に抵 年5月 岸・佐藤兄弟が進めた核兵器研究 審議も行われずに成立していることは、実に驚 年 14 日には、日本学術会議総会において激烈な論議 の結果、平和目的の原子力研究においては、 「情 報の公開、民主的かつ自主的な運営」を行うと いう三原則の実行を政府に要求することを、科 学者たちは決定した。この三原則の採用を政府 年 月 も最終的には受け入れ、我が国の原子力開発の 基本方針として、 く、 「情報秘匿、非民主的で米国従属」という の後の日本の実際の原子力開発は、周知のごと 力基本法の中に取り入れられた。ところが、そ 16 全く逆の三原則の下で推進されてきた。 16 12 57 こ の 原 子 力 予 算 成 立 を 受 け て、 同 年 4 月 これまで長年にわたり推進してきた。 」 、すなわち「原子力平和利用」の方針に Peace 沿って、核兵器開発は一切行わず、電力エネル 37 くべきことである。 11 32 57 14 58 55 年3月1日には日本原子力産業会が発 26 足し、同年6月には特殊法人・日本原子力研究 た。翌 56 12 所が茨城県東海村に設置され、8月から試験炉 2014.9.20 23 53 55 ≪ 43 ≫ ネルギー平和利用、という「核政策4本柱」を し再び燃料として利用することで、無限のエネ 年 基にまで増加 大され、米英露に次ぐ原発大国となった。 年には こ の 原 発 建 設 増 加 は、 同 時 に、 電 源 三 法 交 基、 として国民には説明された。一方で、このよう 付金の配付と使途をめぐる政治腐敗と汚職を全 ルギー源が得られるという「夢のプロジェクト」 には原発の数は 「非核三原則」は単に日本国民感情に配慮し に再処理工場と高速増殖炉の技術開発を目指し 公的政策として表明した。 て導入されただけではなく、核兵器製造潜在能 ながら、同時に、通信衛星や監視衛星を打ち上 国規模で蔓延させた。とりわけ原発立地となっ 承諾させるための「外交カード」としての役割 庁傘下に設置した。 年6月には、宇宙開発事業団を同じく科学技術 月、 第 4 次 中 東 戦 争 が 勃 発 し、 そ の 年のスリーマイル島原発事故や み出す結果となった。 年の ならないという、甚だしく歪んだ社会構造を産 り、経済生活は原発に全面的に依拠しなければ 農業などの健全な地場産業が立ち行かなくな た町村では伝統的な共同社会が崩壊し、漁業や した。 力は十分持っていながらも、当分は核武装を行 げ、さらには核兵器運搬手段ともなるロケット も担わされていたのである。さらに、佐藤政権 の核武装化断念には、それとの引き換えに、日 年 電源三法で原発急増 86 69 ち込み」を要求したため、 「非核三原則」とい 沖縄返還の条件として、あくまでも「有事核持 たらし、原子力エネルギーの拡大を急激に押し これが日本のエネルギー政策に大きな転換をも イルショック」による打撃を日本経済は被った。 安全委員会や電力会社をはじめとする原発産業 は、このような事故は起こりえないと主張し、 界は、高度で安全な原子力技術を持つ我が国で う公約上、佐藤政権側はこのアメリカの要求を でも、 年 を成立させた。この新しい法令によって、発電 年9月のJCO核燃料加工 月の高速増殖炉「もんじゅ」ナト して「安全神話」を国民に信じ込ませた。国内 年6月には、田 中角栄内閣の下で、 多額の資金を使い、さまざまなメディアを利用 日本全国で急速な原発増設を図るため、いわゆ 進めた。 た。そのため「非核三原則」は最初から実体の る電源三法(電源開発促進税法、電源開発促進 「裏取引」というかたちで飲み込んだのであっ ない虚偽の公約となり、その結果、 「核軍縮政 これまた形骸化してしまったのも当然であっ 施設臨界事故、2007年7月新潟県中越沖地 震による柏崎刈羽原発事故といった重大な事故 発立地促進のため、原子力発電の交付金は火力・ 金として配付するという制度が導入された。原 しなかったりというごまかしを続けてきた。政 しばしば事故を報告しなかったり、情報を開示 の上に、多くの事故を各地で起こしてきたが、 水力発電より2倍以上の交付金が支給されると 原発建設は急速に拡大し、 年には、日本の原 年3月 11 きな要因の一つとなったことは、あらためて詳 の福島第1原発における大事故を引きおこす大 いうシステ ムとされた。その結 果、これ以降、 た自己過信と自己欺瞞が、最終的には 府関係省庁、電力会社、原子力産業界のこうし 年3月、最終的に核兵器用の高純度プルトニウ 分を、発電所を受け入れた自治体への地方交付 た。 (注2参照) 日 本 の 核 兵 器 製 造 能 力 開 発 研 究 は、 単 な る 量に応じて発電事業者に課税し、その課税徴収 策の推進」というもう一つの「核政策の柱」が、 対策特別会計法、発電用施設周辺施設整備法) リウム漏洩事故や 12 ム製造を目的とするプロジェクトとして動力 「机上の計画」ではなかった。日本政府は、 99 95 74 広島ジャーナリスト 18 号 85 わないことをアメリカ政府に対して保証してみ 40 の技術開発を国家戦略の下に統合するため、 90 せ、それと引き換えに沖縄の「核抜き返還」を 33 チェルノブイリ原発事故の後も、日本の原子力 79 本に対する米国の核の傘=拡大核抑止力を保証 させるという意図も含まれていた。ところが、 10 アメリカ側は、 日本の核武装化は絶対に許さず、 影響で石油価格が急騰するという、いわゆる「オ 73 子力発電量は一挙に 基530万㌔㍗にまで拡 75 炉・核燃料開発事業団(動燃)を科学技術庁傘 下に設置した。このプロジェクトは、原発にお ける使用済み核燃料からプルトニウムを取り出 10 67 ≪ 44 ≫ 米が核軍事技術移転容認 したとき、それまでほぼ 年にわたって核兵器 リカはこの計画が資金的にも技術的にも頓挫 商業用にまで高めることはできなかった。アメ が試みたが、どの国もその技術を実験段階から アメリカ政府は考えたのではなかろうか。しか おくことがアメリカにとっては有利である、と 日本がいつでも核武装できるような状態にして た 最 も 危 険 な 核 戦 争 の 状 況 を 避 け る た め に は、 ている。茨城県大洗の「常陽」や福井県敦賀に く 政 策 を 取 り 続 け て き た し、 現 在 も 取 り 続 け く唱えることで、その意図を隠蔽し、国民を欺 子力エネルギー利用の絶対的な必要性」を声高 も、日本政府は「日本経済の存続にとっての原 量は ㌧という大量なものとなっている。NP ていた。事実、現在、日本のプルトニウム保有 ニウムを蓄積するであろうことは十分に承知し した技術移転で、日本が大量の核兵器用プルト かったのである。もちろん、アメリカは、そう を日本に移転することで、この計画の継続をは 用プルトニウムを生産してきた自国の軍事技術 し か し、 周 知 の 通 り、「 も ん じ ゅ」 は 引き続き核製造能力維持 で継承されてきていると思われる。 も、この政策が、その後も現在のオバマ政権ま しく説明する必要はないであろう。 一 方、 核 兵 器 製 造 能 力 の 開 発 と 維 持 の 面 で 建てられた「もんじゅ」 、さらに青森県六ケ所 年 の再処理工場は、核兵器に使われる高純度プル 30 月 に ナ ト リ ウ ム 漏 れ 事 故 を 起 こ し、 「常陽」 95 本の「プルトニウム開発」は核兵器製造目的の り立てることで推進されてきた。かくして、日 エネルギー源開拓プロジェクト」という夢を駆 れらの施設は、すでに述べたように、 「無限の トニウムを抽出する特殊再処理工場であり、こ い中国を除くと、米露英仏の核兵器保有国に続 日本のプルトニウム保有量は、公表されていな T加盟の非核兵器保有国の中で、高純度プルト も か か わ ら ず、 試 運 転 の 段 階 で 次 々 と 問 題 を 2兆2千億円という膨大な費用を投入したに を保有している国は日本だけである。しかも、 ケ 所 再 処 理 工 場 も、 2 0 1 1 年 2 月 ま で に 約 ニウム製造施設とこれほどまでのプルトニウム 起こし、現在も全く見通しがたたない状態で、 に、 1 9 9 3 年 か ら 建 設 が 進 め ら れ て き た 六 て、 両 方 と も 運 転 中 止 に 追 い 込 ま れ た。 さ ら そ れ を 承 知 の 上 で、 レ ー ガ ン・ ブ ッ シ ュ 政 「 夢 の プ ロ ジ ェ ク ト 」 は 全 て 頓 挫 し て し ま っ く世界第5位である。(注3参照) すでに説明したように、アメリカは1970 る。 に向けても日本政府は広く宣伝してきたのであ 理由が推測できるが、最も説得的と思われるの であろうか。いくつかの政治的・軍事戦略的な た原子力エネルギー法に違反してまで行ったの にカーター政権が核物質拡散防止目的で設置し 権は、なにゆえにそのような技術移転を、 年 ク ル 」 事 業 全 体 で は、 日 本 は こ れ ま で に ほ ぼ 1兆810億円以上が投入され、「核燃料サイ は い な い。「 も ん じ ゅ」 に は める予定であるとして未だに計画をあきらめて 定。にもかかわらず ら、 総 額 約 年段階の試算です 年代末までは、日本の核武装化を許すような政 が、当時の米ソ関係悪化と中国の核戦力の急速 た。電気事業連合会による 策は取らなかった。ところが、日本が高純度プ な強化という要因であろう。とくに中国の核戦 ら入手する機会は、レーガン政権下の 月 ま で に、 月には本格始動を始 年 後も毎年維持費だけで200億円という予算を 兆円という膨大な予算を使ってきたし、その 11 年 兆円もの経費がかかるという推 02 10 た。発電をしながら使用済み核燃料を高純度の け、アメリカが安保条約に基づき核兵器で日本 11 14 11 消費続けている。その上、福島第1原発事故で 力増強が問題であり、日本が中国の核攻撃を受 年代末 一環」であることを、自国民のみならず、海外 ものではなく、あくまでも「エネルギー政策の は2007年に燃料交換機能に障害が発生し 12 10 ルトニウムを生産する増殖炉技術をアメリカか 78 は、ウランとプルトニウムを混合したMOX燃 当時、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス 2014.9.20 45 核攻撃の目標となってしまうであろう。こうし 年代初期の間にやってき 80 プルトニウムに転換するという増殖炉計画は、 を防衛する軍事行動に出れば、アメリカ本土が とブッシュ政権下の 90 ≪ 45 ≫ 能を放出したにもかかわらず、日本政府はそれ 料を使う3号機が爆発し、大量の高レベル放射 的に国内外に示してきたが、これによって明示 いては保有の可能性と意図を、これまでは暗示 これは、日本が核兵器製造能力の開発・維持ひ 障」とは言うまでもなく、「軍事利用」を指す。 してではなく、最初から一体化したものとして 核兵器製造能力開発は、決して分離したものと 発、 す な わ ち、 い わ ゆ る「 核 の 平 和 利 用 」 と、 有国と同様に、日本でも、原子力エネルギー開 20 開始され推進されてきたのである。ところが、 これとは対照的に、市民の側では、反核兵器運 味している。 53 59 66 広島ジャーナリスト 18 号 こ の よ う に、 ア メ リ カ や そ の 他 の 核 兵 器 保 でも「核燃料サイクル事業」を根本的に見直そ するという、大きな政策転換を行ったことを意 日本政府が今後も引き続き核兵器製造能力 うとはしていない。 を高め維持する政策を取り続けるつもりである 年でなし崩し 動と反原発運動は最初から分裂した市民運動と か く し て、 平 和 憲 法 が こ の 的に空洞化され、つい先日の「集団的自衛権行 して別個に進められ、統一した国民的運動とし 日に成立した「原子力規制 委員会設置法」 、ならびに、それに伴う原子力 使容認」の閣議決定で安倍政権が平和憲法の実 て展開されないままの状態が続いてきた。権力 年6月 基本法改定の内容から明らかである。この「原 質的な破棄への道を一挙に押し進めようとして 側からすれば、きわめて都合の良い状況が保た ことは、 子力規制委員会設置法」の法案は、民主党政府 いるのと同様に、史上初の原爆被害国の日本の たものである。とろが、同年6月 主党も参加した3党案として、衆議院に提出さ 政府案が取り下げられて、自民・公明両党に民 15 れた。新聞報道によれば、265㌻に及ぶこの (注1)ちなみに、岸内閣は、日米安保条約 兵器搭載米空母の横須賀、佐世保、神戸、岩国 法案を、他の野党が受け取ったのは、当日の午 改定をめぐるアメリカ政府との交渉段階で、核 への寄港をそのまま続行することができたので 前 時であり、質問を考える時間も与えられな 兵器を搭載する米艦船が日本領海を通過・寄港 ある。それどころか、日米安保条約改定交渉中 かったといわれている。法案は即日可決され、 し、核兵器搭載の米軍機が日本領空を飛来して の 年9月の段階で、複数の核爆弾を搭載した 直ちに参議院に送られて、この日のうちに趣旨 日本国内の米軍基地に着陸することを事前協議 米軍の上陸用船艇サンホアティン・カウンティ 説明が行われ、 日には原案通り可決された。 の対象としないという秘密了解を受け入れるこ 号が岩国の米海兵航空基地200㍍沖に停泊し これによって、原子力を平和目的に限定すると とを決定。この秘密了解は、核兵器搭載の艦船 始め、 年まで長年にわたって秘密裏に「寄港」 寄港や飛行機飛来は、核兵器が艦船や飛行機か していたのである。 してきた原子力基本法に、 「わが国の安全保障 ら運び降ろされない限り、それは単なる「 tran- (注2)「核兵器持ち込み」問題については、 に資する」という条文が加えられた。 「安全保 (通過)」であって「 introduction (持ち込 1974年秋、元米海軍提督ジーン・ラロック sit 「核兵器搭載能力のある米 み)」ではないという、言葉のゴマカシの上に がアメリカ議会で、 作り上げられた。かくして、1960年には、「事 艦船はたいていの場合、核兵器を積んでいる」 次号 の 内 容 前協議」は最初から骨抜き状態で新安保条約が し、「核兵器を積むことのできる艦船は日本そ (事前に)核兵器 締結されたのである。すなわち、アメリカ側は、 の他の外国の港に入るとき、 沖縄はもちろん、 年以来自由に行っていた核 を降ろす」などということはしないと明確に証 これまでの経緯を見てみれば明らかである。 日に突然、 以来、なし崩し的に形骸化されてきたことは、 (たなか・としゆき 広島市立大広島平和研究 所教授)=文中敬称略。次号に続く= れてきたわけである。 69 が国会に提出していた「原子力規制庁設置関連 20 法案」に対立して自民・公明両党が提出してい 「核軍縮」政策も、「原子力平和利用」政策導入 12 三 核抑止力ならびに拡大核抑止力の犯罪性 四 原子力発電の 犯 罪 性 10 ≪ 46 ≫ 言した。これに対して当時の外相、 宮沢喜一は、 「ポラリス潜水艦など常時核装備艦は無害通行 と認めず原則として許可しない」し、 「核兵器 の持ち込みはすべて事前協議の対象」と虚偽の 答弁を行い、 「核密約」があることを隠蔽した。 ( 年3月 日、神戸市議会はこのラロック証 言を重視して、全会一致で「核兵器積載艦艇の 神戸港入港拒否に関する決議」を採択し、核兵 器が搭載されていないという証明を提出しない 限り入港を許可しないとい処置をとった。これ に対し、米海軍は「非核証明書提出」を嫌い、 こ れ 以 降、 神 戸 へ の 寄 港 を 停 止 し た。 ) な お、 一連の核密約については2007年ごろから関 連のアメリカ側資料が米国立公文書館で発見さ れるようになり、ついに日本政府も隠し通せな くなったため、外務省調査班が「有識者委員会 (北岡伸一座長) 」なるものを立ち上げて調査を 行った。自民党から民主党政権への交代後の 年3月9日、 有識者委員会は「報告書」を発表。 この報告書は、明文化された日米密約文書は存 在しないとしながらも、日本の政府高官が「核 持ち込み」の定義が日米間で不一致であること を知りながらも米国に「核持ち込み」の定義の 変更を要求していないことから、「核持ち込み」 について「広義の密約」があったと結論づけた。 しかし「広義の密約」は「必ずしも密約とは言 えない」と、これまたゴマカシの論理を使って、 責任をうやむやにしてしまった。周知のように、 北岡伸一は、「集団的自衛権行使と憲法の関係 を研究する」と称する安保法制懇(安全保障の 法的基盤の再構築に関する懇談会)の座長代理 も務めた「 侫儒=御用学者」で あるが、彼は、 「当然であるが、懇談会は集団的自衛権の行使 を主張しているのでなく、いざという時のため に行使できるようにしておくべきだと主張した のだ」と、ここでもペテン師まがいの発言をし ている。安倍の様々なペテン発言は、北岡が助 言して行っているのではないかとすら推測され る。 (注3)アメリカのこの増殖炉技術の日本へ の移転問題に関しては、下記の論考で詳しく知 ることができる。 ‘ Joseph Trento United States Circumvented Laws To Help Japan Accumulate Tons of Plutonium http://www.dcbureau.org/201204097128/ national-security-news-service/unitedstates-circumvented-laws-to-help-japanaccumulate-tons-of-plutonium.html 日本語訳は「法の抜け道を使って日本のプルト ニウム蓄積を助けたアメリカ」NSNS(米国 の国家安全保障問題専門通信社)ジョセフ・ト レント論説 , http://peacephilosophy.blogspot. jp/2012/05/nsns-us-circumvented-laws-tohelp-japan.html それによると、北北西に ㌔以上離れた避難 区域外の水田 カ所と、 ㌔圏の水田5カ所で た。他の時期の ~ 倍であった。これを農水 100ベクレル)を超えるセシウムが検出され 昨 秋 収 穫 さ れ た コ メ か ら 基 準 値( 1 ㌔ あ た り 20 粉塵が広範囲に飛散し南相馬市原町区太田の水 のコメからの基準値超は検出されていないこ 常がなかったことから、8月 日の瓦礫撤去作 と、加えて、近隣で7月に収穫した小麦には異 クープした。 田で収穫されたコメを汚染していたことをス 着していたことがわかり、その前年度の同地域 出穂し9月末までに収穫された穂に局所的に付 省が調査したところ、放射性物質は8月中旬に 30 なかったことにできるのか 14 10 核災の無残な現実 20 18 7月 日付朝日新聞は、昨年2013年8月 日に東電福島第1の3号機で大型瓦礫を撤去 2014.9.20 20 19 14 したとき、瓦礫の下敷きになっていた高線量の 若松 丈太郎 75 19 ≪ 47 ≫ し、 東 電 に ことを指摘 能性が高い 汚染した可 業によって 第1では先例に学ばないのか。 さらにカバーで覆う準備をしている。なぜ福島 だ。チェルノブイリでは4号炉を「石棺」にし、 じ市内に住む私の頭上にも降り落ちていたはず ればならない問題である。水田だけでなく、同 への影響を防ぐための抜本的な対策を講じなけ 渋の末に容認し、6月8日の4回目までに計約 る「地下水バイパス」を関係漁協は3月末に苦 福島第1の山側の井戸の地下水を海に放出す いかとの指摘がある。 した工法もふくめて複合的に対処すべきではな がなく、数十年にわたって機能するので、こう ドレン」 (他水処理施設)の汚染地下水をくみ る汚染水を抑制するために、建屋周りの「サブ 3600㌧が放出された。さらに、増えつづけ 今年3月に 再発防止策 トラブル続きの福島第1 11 14 ら水漏れしたとか、誤って送電線を切断したと 連日のように排気ダクトに穴が開くとか、弁か 「ALPS」(多核種除去設備)は昨年3月か ら試運転を開始したものの、腐食でタンクに穴 た場合の安全対策に不安と批判が続出した。 側からは、基準値を超えるレベルの地下水が出 水をためるタンクのうち、 基が中古品である たとし 「迷惑をかけた」 と釈明と謝罪をおこなっ め、汚染水が増えるのを防ぐための凍土方式の 福島第1の建屋に地下水が流れ込むのを止 ことを明らかにした。 た。 南相馬市長は両者の対処を批判し 「持ち帰っ 去能力が目標に届かず、機能していない。 トラブル続きで断続的に処理が止まるうえ、除 て協議する問題ではない。再発させないことを 3月に凍結を開始し、 策に行き詰まり、やがて「タンクにためた高濃 ㌔の各地域に放射性 その間に地下水が流れ込んでいる場所を特定し 度の汚染水も浄化して放出したい」と言い出す ~ ダストの測定ポストを設置すること」などを要 て塞ごうというものである。しかし、壁を設置 のではないかと漁民は懸念している。 月6日発表した。1号機ではすべて、2号機は する場所には建屋の地下を貫く配管などが約 使い、効果は未知数である。 いる。 求した。また、同市の農業者は「土壌対策をし 時と同じだ」と両者の姿勢を批判した。 これに対して、これまでの工事で実績があり 実用化されている「セメントや粘土を用いた地 ながら営農を再開してきたわれわれの努力が無 瓦礫撤去の際に舞い上がるダストは事故直後 のもののためきわめて高い線量なので、今後な 下連続壁工法」は施工後の維持管理はほぼ必要 原発の地震・津波対策の新基準を、福島第1 6割程度の燃料が溶け落ちたものと推定されて がく続く瓦礫撤去作業の期間を考えれば、風下 170カ所もあるとされていて、難工事が予想 30 になった」 「あの日も多くの人が農作業をして 20 東電は福島第1の3号機の燃料のほとんどが 格納容器の底部に溶け落ちたという試算を、8 30 される。さらに、凍結するために大量の電力を 10 いた。飛散があるのに発表しないのは原発爆発 ここで約束せよ」 「 遮水壁の建設工事を6月2日に着工した。来年 タンクにためた高濃度汚染水は 万㌧超あっ 年度末まで運用して、 て、毎日400㌧も増えている。この汚染水対 が開いたり放射線でパッキンが劣化するなどの か、支障が起きている。7月 日、東電は汚染 あいかわらず、福島第1構内では事故が多い。 上げて浄化して海に放出することの承認を、東 6月 日、7月6日、7月 日、7月 日など、 電と政府は8月7、8日に漁協に求めた。漁協 27 を要請して いた。しかし、住民には知らせていなかった。 ㌔の 倍を超 ㌔離れた宮城県丸森町で昨年8月 さらに、京大や東大の調査で、北北西 相馬市や約 の同時期などに、他の時期の6倍から 日に南相馬市を える濃度が複数回計測されていたという。 東電と農水省の幹部が7月 訪ね、当時の放出量は試算ではふだんの1万倍 18 以上にのぼり、4時間で最大4兆ベクレルだっ 30 39 48 10 60 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 48 ≫ にも適用し、必要な対策をとるよう、原子力規 目指している。 し、解除が延期されている。周辺は農林業が主 理由である。 双葉両町について、復興計画の策定や集中的な % を 占 め る 大 熊、 8月6日、自公両党の復興加速化本部は安倍 首相に復興についての提言をした。それによれ 環境省は6月 日、帰還困難区域でおこなっ た高汚染地での除染効果を検証するモデル事業 除染によって「5年後には住める町づくりを目 総額5020億円。大熊、双葉両町についての の結果を発表した。双葉町と浪江町の6地区で 「5年後には住める町づくりを目指す」提言(別 指す」としている。しかし、中間貯蔵施設の受 伸晃環境相が「最後は金目でしょ」と発言して け入れが求められ、さらには数十年に及ぶ廃炉 月~今年1月に、表土のはぎ取りや高圧 らかである。 ~ 時2・5~8・8㍃シーベルトの放射線量が残っ 空間放射線量は た。森林の内部は、生活に影響しないという理 ~ 国側は、 年以内の県外最終処分は法律にす ると説明したが、住民からは「このまま最終処 由 で 端 だ け を 除 染 し た と こ ろ、 低 減 率 は %だった。除染効果の限界が示された。環境 省の担当者は「遮蔽などの方法を組み合わせる べきだと考えている」と言っている。 県内各自治体内の放射性廃棄物は、5万カ所 を超える仮置き場だけでなく住宅の庭や空き地 分場にされるのではないか」との懸念が出され ている。 避難指示解除準備区域だった田村市都路地区 は、 ㌔圏内でもっとも早く4月1日に指定解 除され、住民の帰還が始まったが、123世帯 世帯 などにも置かれたままになっている。政府は、 369人のうち、5月 日の時点で戻ったのは 人と全体の %にとどまっている。 増える孤独死、自殺、PTSD 相馬市内5カ所の高齢者施設での、 福島 「核 [南 1] 災」発[ 生後1年間の死亡率は、過去5年間と比 較して約2・7倍だったという。 南相馬市内の仮設住宅居住者がこれまでに6 人も孤独死した。仮設住宅の入居期間は原則2 歳の男性、4月に 歳の女性、5月に 歳 年間だが、延長して4年目になった今年、3月 に の男性が亡くなった。 福島県内の孤独死者は、 年は3人だったの が、 年 人、 年 人と増え、 年は5月末 65 放射性物質で汚染された稲わらや牧草などの農 対が強いため先送りし、 月1日を目標に変更 業系廃棄物を焼却して灰にする減容化施設を、 政府は、川内村東部の避難指示解除準備区域 田村市都路地区と川内村にまたがる東電の敷地 (139世帯、275人)の解除を、住民の反 に設置し、その焼却灰は富岡町の管理型処分場 し、村内の居住制限区域( 世帯)を避難指示 14 22 などに埋める計画でいる。福島県内の除染で出 ですでに 人に達している。 11 30 南相馬市内の特定避難勧奨地点(152世帯 が該当)を指定解除する国の方針に住民が反対 [1]筆者は原発事故を「核災」と表記している。 18 71 81 解除準備区域にする方針も決めた。 12 53 た汚染土や放射能濃度が高い焼却灰などを最長 13 71 年間保管する中間貯蔵施設を、大熊・双葉両 年1月からの搬入を 10 11 34 23 10 66 12 14 いと言わざるを得ない。 洗浄など一般的な方法で除染した。宅地などの 96 作業が控えていて、その提言には現実味が乏し 28 暗礁に乗りあげていた事態を打開する思惑が明 昨年 項参照)の実現を促すことと、7月 日に石原 決め、福島県知事と大熊・双葉両町長に伝えた。 ば、帰還困難区域が人口で 円、福島復興交付金1千億円を新設することを 産業なのに、山林・農地を除染していないため 制委員会は7月9日、東電に求める方針を示し 放射線量が十分に下がっていない、などがその 億円を上乗せして今後 年間 30 交付するほか、中間貯蔵施設交付金1500億 の年額 億円に 政府は8月8日、中間貯蔵施設に関する交付 金として、電源立地地域対策交付金をこれまで た。 除染効果に限界 17 %下がったが、平均で毎 10 町に建設を予定し、来年 15 2014.9.20 10 67 20 39 30 ≪ 49 ≫ なかったことにできるのか ま た、 福 島 県 内 の 震 災 関 連 自 殺 者 も、 年 人、 年 人、 年 人 13 23 人びとが入れない区域を設定した 関 連 死 者 数 が 昨 年 末 に 上 回 り、 7 月 福島県の東日本大震災による直接 死 者 数 1 6 0 3 人 よ り も、 原 発 事 故 対し大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じ 5月 日、福井地裁(樋口英明裁判長、石田 明彦裁判官、三宅由子裁判官)は、関西電力に 条、 条)、また人の 25 娘をかわいがっていたが、前日に「も 人 と も 命 に 別 状 は な か っ た。 父 親 は 物 で 刺 し て、 自 殺 を 図 っ た。 幸 い 2 対する具体的侵害のおそれがあるときは、(略) 守り生活を維持するという人格権の根幹部分に 出すことはできない」としたうえで、「生命を の法制下においてはこれを超える価値を他に見 で作業員2人が被曝して頭部から最 前記した昨年8月 日に高線量の 粉 塵 が 飛 散 し た さ い、 福 島 第 1 構 内 の6割がPTSDを発症している。 苦 し ん で い る 人 び と が 多 い。 避 難 者 ることが国富の喪失である」とも述べていて、 国富であり、これを取り戻すことができなくな そこに国民が根を下ろして生活していることが ものと認めざるを得ない」と認定し、その運転 検討して「大飯原発の安全技術と設備は脆弱な 燃料デブリ取り出しの願望的開始目標二〇二〇年 無惨としか言いようがない現実がある 年度は5月までの2 25 19 このあと二年後も帰還できない人五万人超 ベクレルを検出 人、 12 13 59 人 に 上 っ て い る。 全 面 福島第1の使用済み核燃料プールをめぐるト ラブルで250㌔圏内の住民の避難が検討され の差し止めを命じたのである。「豊かな国土と 大1平方㌢あたり 年度 あったことを終ったことにするつもりか て い た と い う。 人 が 人 で あ る と は 言 侵害行為の差し止めを請求できる」と述べ、原 え な い 状 況 の な か、 先 行 き が 見 え ず、 子力発電に関する諸問題をさまざまな角度から うこれでおれは終わりなんだ」と言っ 生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国 13 べ き 判 決 で あ っ た。 判 決 理 由 で は、 「人格権は 21 あったことをなかったことにするつもりか いまあることをなかったことにできるのか 日付) カ月だけで 14 広島ジャーナリスト 18 号 マスクや防護服を着用するため、熱中症のほか、 転倒やつまずきによるけがが多い。 人が手を入れない耕地には 1日現在ではその認定者は1730 この国は民主主義国家か いちめんにセイタカアワダチソウが茂る 歳の高校生の娘を鋭利な刃 た。人格権の擁護を中核に据えた画期的と言う 夏に湿気のおおいこの国の風土では 人が住まない家屋のなかは いたるところじっとりと黴が生える ありとあらゆるものを腐らせる 人びとのこころまでも患わせる 小児甲状腺がん発症者および疑いある者三百倍 「核災」関連死者千七百三十人超 ていた 人に上った。 人になった。 と 年 々 増 加 し、 こ と し は 5 月 末 で 8 13 人びとのこころに悲憤が泡だつ 丈太郎 12 憲 法 上 の 権 利 で あ り( 若松 10 6 月 6 日 午 前 1 時 過 ぎ、 避 難 生 活 中 の 歳 の 父 親 が、 母 親 と 寝 室 で 寝 いたるところの道にバリケードをしつらえ 11 47 おなじことをくりかえすために 避難者はいまも十万人超 15 32 11 10 13 したという。 福島第1の核災によって国民の人格権が侵害さ 東 電 福 島 第 1 の 作 業 員 の け が や 体 れている現実を判決に反映していることに注目 調 不 良 は、 年 度 人、 年 度 人、 した。 (中日新聞・東京新聞2014年7月 21 ≪ 50 ≫ ナ、ベラルーシ両国住民の避難区域も同様の規 たこと、チェルノブイリ事故の場合のウクライ 稼働」 「プルトニウム再利用」 「原発輸出の推進」 なベースロード電源」と位置づけて「原発の再 うなか、民意を無視して、政府は原発を「重要 れば、核災によって生じた対策費用の総額は約 館大教授と除本理史大阪市大教授の試算によ 兆1千億円にのぼると分析されている。コス 模に及んでいて今なお避難指示を解除できずに いることを踏まえ、原告189人のうち大飯原 議決定している。 を柱とする「エネルギー基本計画」を4月に閣 するのが当然だが、実際にはそのほとんどは電 トは火力発電などより割高である。東電が負担 7月 日、原子力規制委員会は川内原発1・ 気利用者や国費を投入して国民へ転嫁しようと 阜・愛知各県と長野・静岡両県の西半分からが 取・岡山・香川・徳島各県から、東は富山・岐 会食した安倍晋三首相は「川内はなんとかしま その2日後の 日夜、福岡市内で九電会長らと 2号機が新規制基準を満たしていると認めた。 している。あとの世代に負担を丸投げするのは、 この国は国民のいのちと暮らしを守ろうとす 兆円 る民主主義国家なのだろうか。 廃炉に数十兆~ 8月 日、防衛省は米軍ヘリ基地の辺野古沖 埋め立て予定地域周辺で、異様なほどに厳重な 解釈を変える閣議決定をした。 内閣は集団的自衛権の行使を認めるための憲法 国民の多数が反対するなか、7月1日、安倍 ヒトのやることではない! 250㌔圏に含まれる。これを福島第1を起点 福島原発告訴団の不服申し立てを受け、 また、 7月 日、東京第5検察審査会は、東電元会長、 日、議決要旨 元副社長2人、計3人を業務上過失致死傷罪で 「起訴すべき」と議決し、同月 [2] 警備のなか、立ち入り禁止を示すブイの設置を 月におこなわれる沖縄県知事選 開始し、 日にはボーリング調査のための掘削 をはじめた。 きわめて高度な注意義務を負う」として、通常 なのか。 という。日本では ~ ている。 挙をまえに、安倍政権は既成事実をつくって「諦 より大きな責任があると述べた。東京地検は再 この国は国民のいのちと暮らしを守ろうとす めろ」と脅すかのようだと反対派住民は憤慨し 捜査し、起訴するかどうかを3カ月以内に決め る民主主義国家なのだろうか。 40 %を 90 ト に な る だ ろ う と い う。 ま た、 大 島 堅 一 立 命 10 日付メディアの世論調査では、九州 電力川内原発再稼働に「反対」する人が 占めた。 [2]1957年 月 日に起きた英国史上最悪の原子 力 事 故 で、 最 大 レ ベ ル 7 ま で あ る 国 際 原 子 力 事 象 評 価 尺 度 で レ ベ ル 5 と 評 価 さ れ た( チ ェ ル ノ ブ イ リ や 福 島 事故はレベル7)。ウィンズケール(セラフィールドの 旧名)の核兵器生産用の軍用原子炉1号機の炉心で火 災が発生し、大量の放射能を放出、周囲を汚染した。 10 た。7月 7月 日投票の滋賀県知事選挙で、 「卒原発」 模に達する大がかりで長期にわたる、しかも予 (わかまつ・じ ょうたろう 詩人、福島 県南相 を 主 張 し た 無 所 属 の 三 日 月 大 造 候 補 が 当 選 し 測できない困難を伴う今世紀最大のプロジェク 馬市在住) なければならない。 年間でほんとうに可能 14 18 日本経済研究センターによる推計では、福島 第1だけで、除染を含む廃炉経費が数十兆円規 11 18 都を含む関東全域が該当する。 すよ」と発言したという。 し 止 め 請 求 を 認 め た の で あ る。 西 は お よ そ 鳥 発から同距離圏内に住む166人についての差 11 にすると、宮城・山形・福島・新潟各県と東京 16 を公表した。議決書では「原発事故は一度起き 英 国 セ ラ フ ィ ー ル ド の 廃 炉 計 画 は[、 2 1 2 ると被害が甚大。東電幹部は安全確保のため、 0年を目標にし、総経費を約 兆円としている 31 あるいは「パ このような判決や議決がなされ、 ブリックコメント」に寄せられた意見の %以 59 29 上が再稼働反対や廃炉を求めるものだったとい 2014.9.20 30 11 11 23 13 ≪ 51 ≫ ㌔「政治力発電所」 島根原発 1 号機をまず廃炉に 県庁まで 県庁まで ㌔という全国でも例のない立地②1号機は運転開始から 年たつが、中国電力は廃 員だった桜内義雄・竹下登両氏(ともに故人)の権力争いの中で生まれた「政治力発電所」で、 集会」 (松江市)へ向けて、島根原発の現状をあらためて紹介した。その中で①自民党大物議 「原発はごめんだヒロシマ市民の会」代表の木原省治さんは7月 日、広島市中区の広島市 中央公民館で「許すな島根原発の再稼働」と題して講演。1週間後の「さよなら島根原発!大 木原 省治 る―などの問題点を指摘した。同会会員ら約 島根原発は大きな特徴が二つある。所在地は 以前、島根県八束郡鹿島町だったが、鹿島町の %で止まっている。1号機はこの3 人が聴いた。講演の要旨は以下の通り。 は進捗率 月に運転開始以来満 年になった。廃炉問題が 発の立地に大きく影響した。島根には大物国会 だった桜内幹雄氏の弟。この兄弟関係が島根原 2号機で建設費に るみ現象」 が起き、漁などに影響が出ている。 1、 非常に悪く、使 わない熱は海に垂 れ流す。「う 倍近い開きがあるが、原発 議員として竹下登氏がいて県庁派の竹下、中国 46 二人は選挙で常にトップ争いをしていて、桜内 影 響 し た。 2 号 機 は M O X 燃 料 を 使 っ た プ ル どなかった反対運動が2号機で高まったことが 電から支持を受けた桜内という色分けだった。 自体が大きくなったことと、1号機ではほとん 支援のため造ったのが島根原発。だから原子力 広島ジャーナリスト 18 号 ならぬ政治力発電所と呼ばれた。中国電は「元 祖企業ぐるみ選挙」といわれるほどの、選挙応 援を行っている。 3 号 機 は、 中 国 電 側 か ら 建 て さ せ て く れ と 言ったもので はない。地元から要請 した。1、 2号機を建てた段階で原子力マネーに依存しな いと運営できなくなった自治体が中国電に要請 した。中国電としては新しい原発は集中立地を 避けたかったが、地元の強い要請に応じた。 ㌔圏内にある。 ㌔。広島県内では、庄原市 広島市から最も近い原発は愛媛県の伊方原発 で約100㌔。島根原発は約130㌔、上関原 発建設計画地は約 高野町が島根原発まで 島根原発の後、中国電はこれまで青谷(鳥取)、 田万川(山口)、萩市三見(同) 、豊北(同)で 原発建設を計画、現在は山口県上関町で計画を 持っているが、上関の他は最終的にすべて地元 自治体が「NO」と言ったためつぶれた。 島根原発の概要は別表の通り。1号機は沸騰 水型MARKⅠ。GE社の設計で原子炉容器と 格納容器が非常に狭い。事故を起こしたら影響 万㌔㍗だが熱出力は138万㌔㍗。熱効率が 電所」と書いた。島根選出の国会議員として元 島だけだ。 背景に桜内―竹下の争い 中国電が持つ原発は現在、島根1、2号機の 計128万㌔㍗だけだ。総電力の中で原子力の 比率は設備容量で8%。3号機は137・3万 10 10 ㌔㍗で1、2号機の合計を上回るが、建設工事 衆 議 院 議 長 の 桜 内 義 雄 氏 が い た。 中 国 電 社 長 地にある原発。島根県庁まで ㌔しかない。も ノンフィクション作家の鎌田慧さんが著書 う一つは、県名がかぶせられた原発。他には福 「日本の原発地帯」で、島根原発を「政治力発 近く出てくる。 50 13 40 40 が大きく欠陥原発と言われてきた。電気出力は 合併で松江市になった。全国で唯一、県庁所在 93 20 80 10 炉にするかどうか方針をいまだに明らかにしていない③原発の南わずか2㌔に活断層が存在す 10 ≪ 52 ≫ 年実施といって 年に延期した。現在、松浦正敬・松江 サーマル発電を計画。当初は いたが 市長はこの計画に難色を示している。 年 稼働状況はどうなっているか。1号機は点検 不備データ改ざん事件で 年3月 日から運転 停止。2号機は事件の時、定期点検中で 1号機は来年までに結論を出さないといけな い。運転開始から 年を超える原発は、原子力 えてない」と発言した。 四つの活断層は西から大田沖活断層、島根原 発 北 側 活 断 層( 名 称 は 特 に な い )、 宍 道 断 層、 調査を規制委が指示している。 規則で 年間の延長が1回だけできると決まっ 年前は、反対運 鳥取沖西部断層。宍道断層は原発の南約2㌔に 動側は宍道断層をきちんと調査し、耐震基準を ある。1、2 号機建設当時の 8日から7月8日までの間に原子力規制委に結 ている。そのためには特別点検をして来年4月 果を報告しなければならない。特別点検には約 に 中 田 高・ 2006年 価 さ れ た。 さ8㌔と評 設段階で長 の3号機建 1998年 ロ」だった。 評 価 は「 ゼ 日立 出せと言っていってきたが、当時の宍道断層の 日立 1年かかる。日程としてはギリギリだ。中国電 メーカー 日立 日も稼働し 137.3 万 kw 年3月 82 万 kw 日に定期点検のため停止し 電気出力 46 万 kw 年1月 1989 年 2 月 10 日 月6日に運転開始した。 運転開始 1974 年 3 月 29 日 ていたが 1984 年 7 月 4 日 が特別点検は実施しないと言えば、1号機の廃 1970 年 2 月 年4月時点で工事は止まってい 炉が明らかになる。 着工 た。3号機は る。 2号機は 月 日に「再稼働」申請して耐燃 ケーブル、防潮堤、フィルター付きベントなど の対応措置をとっている。 中国電は今年の株主総会でシビアアクシデン ト対策(過酷事故対策)に2千億円以上を要し 沸騰水型MARKⅠ改 改良沸騰水型 良型 12 1号機について中国電の苅田知英社長は先 日、 「廃炉も視野に入れて」と発言、松江市長 日の中国電株主総会 沸騰水型MARKⅠ型 10 も同様の発言をした。周辺自治体も廃炉しかな いという。しかし、6月 億 3号機 15 で清水希茂副社長は「廃炉は今の時点で全く考 て い る と 回 答 し た。 中 国 電 グ ル ー プ は 円 の 赤 字 を 計 上 し て お り、 こ れ は 盛 ん に 宣 日「 原 子 力 政 策 は 国 日 に 再 稼 働 申 請( 正 式 に は 広島工大教 授( 現・ 広 ㌔ 島大名誉教 授)が と 評 価、 年に中国電 18 伝するが過酷事故対策費はあまり言わない。 わずか2㌔南に活断層 月 2 号 機 は 昨 年 月 日、 中 国 電 か ら 再 稼 働 申 請 に 向 け た 事 前 了 解 願 が 出 さ れ た。 松 江市と島根県は に お い て 進 め ら れ る こ と で あ り、 内 容 に 問 月 08 93 題 が な け れ ば 認 め ざ る を 得 な い 」 と 回 答、 中国電は 3047 億円 (37.2 万円/ kw) ㌔となっ 間報告では 全性評価中 した耐震安 が国に提出 394.7 億円 建設費 (8.9 万円/ kw) 田氏はもっ て い た。 中 22 21 20 11 12 規 制 基 準 適 合 審 査 申 請 ) を 出 し た。 そ の 審 2014.9.20 40 20 査 の 過 程 で、 四 つ の 活 断 層 に つ い て の 追 加 島根原発の概要 31 11 10 10 40 25 25 2005 年 12 月 炉型 27 11 26 12 12 2号機 1号機 11 12 ≪ 53 ≫ の対策を準備する区域)=概ね ㌔=が設定さ いた。このため、安全協定の対象は松江市と島 の人口の1割、約1200万が入る。 と長いと見ている。 2号機の再稼働申請にめどがつけば3号機の 運転開始申請ということになる。燃料を装荷し 根県だけだった。福島原発事故を受けてPAZ 万。UPZだと440万、PPZだと日本 取県では境港市、 米子市が新たに加わり松江市、 約 れた。今まで日本列島全体でEPZ内の人口は ていないから簡単に廃炉にできる。これからは =原子力防災対策重点地域)と Planning Zone して8~ ㌔圏を地元として安全協定を結んで 廃炉のための研究施設にすればいい。 Z(緊急時防護措置を準備する区域)=概ね 中国電力ホームページから 47 を ㌔圏の自治体は持つが、これも広げたくな 定したい。また、何かあった時の立ち入り権限 30 ㌔圏の自治体とも協定を結ぶと中国電は ㌔圏の自治体にも事前了解を求 30 ㌔圏と同様にはできないと言い、 30 はあり得ない。 (きはら・しょうじ) がきちんと決まらなければ、島根原発の再稼働 受け入れ先の住民に知らされているか。これら 発だけだ。 しかし、計画はどこま で詰められ、 だ。県境をまたぐ広域避難計画は全国で島根原 画を立てている。先日も3県知事が協定を結ん 一 方 で 島 根 県 と 広 島、 岡 山 県 は 広 域 避 難 計 この問題は猛烈な攻防になっている。 が大きく、 松江市長や島根県知事は、地域としてのリスク 自治体は原子力発電所長あたりが行っている。 めたが、松江市や島根県は副社長クラス、他の 働申請の時、 う形で、事前了解の権限はない。2号機の再稼 言うが、 「情報連絡協定」「安全確保協定」とい い。 10 30 広島ジャーナリスト 18 号 50 福 島 後、 ㌔ 圏 内 が 地 元 と 見 ら れ る よ う に なった。島根県の出雲市、安来市、雲南市、鳥 周辺自治体間で攻防 30 70 ㌔、PPZ( Plume Protection Planning Zone 島根県並みの安全協定締結を求めているが、中 避難計画と安全協定をめぐる周辺自治体の攻 =ブルーム通過時の放射性ヨウ素による甲状腺 国電は拒んでいる。 ㌔圏内には約 万人が住 防 が あ る。 こ れ ま で 原 発 は E P Z( 被曝を避けるための屋内退避、安定ヨウ素剤等 んでいる。最大の理由は再稼働を許可する権限 Emergency の拡大だ。中国電としては松江市と島根県に限 30 ( Precautionary Action Zone =予防的防護措 置を準備する地域)=概ね原発から5㌔、UP 10 ≪ 54 ≫ 4100 人「美しいふるさと残そう」 松江でさよなら島根原発!大集会 全 国 の 県 庁 所 在 都 市 で 唯 一、 原 発 の あ る 島 根 県 松 江 田さんは「安倍首相は原発についても嘘ばかりついてい 誓った。広島県からも約200人が参加した。 もたちに美しいふるさとを残すために力を合わせようと 全国から約4100人(実行委員会発表)が集い、子ど よなら島根原発!大集会」があった。くにびきメッセに 姿が青白く光る「はだしのゲン」の場面を読みあげた。 後に、原爆投下でガラス片が全身に刺さり、女性たちの 釈師もかなわない。これではアベコベ」と皮肉った。最 駆けつけ、鎌田さんは「さよなら原発の署名が850万 請求訴訟原告団の堀内美鈴さんが登壇、連帯を深めた。 33 集会後は二手に分かれて市内をデモした。 ルポライター鎌田慧さんと講談師の神田香織さんが 上関原発建設計画に反対して今年で 年目の祝島から リーダーの清水敏保さん、愛媛からは伊方原発運転差止 市で7月 る」と語り、「見てきたような嘘をつき、と言われる講 松江市中心部の会場から 10 ㌔にあるこの日の島根原発。正面は建設中の 3号機。右手奥は1号機と2号機の煙突 日、「ひろげよう!みどりのエネルギー~さ 島根原発再稼働に反対するデモの先頭を行く広島県参加者 筆 に 達 し た。 目 標 の 1 千 万 ま で も う 一 息 」 と 報 告。 神 2014.9.20 20 ≪ 55 ≫ くにびきメッセの広い会場を 4100 人が埋めた 壇上に共同呼びかけ人が並び、北川泉島根大元学長(中央)が開会挨拶 安倍政権の原発政策を批判する鎌田慧 さん㊨と神田香織さん 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 56 ≫ イチエフで働いた私はいま… 突然のがん宣告、広島に帰郷 東京電力福島第1原発(イチエフ)の事故から3年6カ月が過ぎた。しかし、事故収束のめ どはまったく立っていない。放射能汚染水の流出が続き、3号機では溶融した燃料のほぼ全量 が原子炉から格納容器に溶け落ちていたという新たな事実も発覚した。水漏れ事故やトラブル は後を絶たず、廃炉に向けた道筋が見えない状況が続いている。そんな中、事故直後に福島に 歳代前半。昨年末に肺がんを宣告され、治療に専念している。 日、その男性を講師に原発労働の実態を学ぶ ら放射性物質を除去する装置を置く建屋をつく るための仕事だった。その後はまた道路の仕事 福 島 は 寒 い。 雪 が 降 る 1 ~ 3 月 は 仕 事 が 少 に戻り二本松、 南相馬あたりの復旧作業をした。 なく、私はいったん広島に帰った。 チエフに入った。 翌 年の4~6月、再び[イ 1] 多核種除去設備「ALPS」 つくるための作 を [ 業をした。 6月で工期が終わり、 再び広島に戻っ た。 その年の ~ 月、伊達市で道路沿いの除染 をした。ガードレールであったり、側溝であっ たり、土手であったり、そういう所の除染をし た。冬には広島に帰った。 次 に 福 島 に 行 っ た の が 年 3 月 末。 J ヴ ィ レッジのある楢葉町の瓦礫を撤去した。津波で 家屋などが流されているので、廃棄物を取り除 かないと除染ができない。6月までやった。次 ㍍の範囲を に入ったのが、川内村。ここでは森林除染をし た。道路から 月までいた。 ㍍、家屋から半径 した。汚染された土をはぎ取り、その上に新し 域だ。震災で道路がやられていたので、ひびが 13 移住し、イチエフ構内で働き、周辺地域で除染や道路の復旧事業などにも従事した男性が広島 に住んでいることが分かった。 市民団体「さよなら原発ヒロシマの会」は6月 人が聴いた。以下、その時のやりとりの要旨。 10 除染する。7月から 入ったり陥没したりしている所を一度はぎ取り 福島第1原発で働きたいと希望を出してい た。それがかなって9月から 月にかけ、福島 第1原発で作業をすることになった。汚染水か 20 最初は福島市内で小中学校の校庭の除染を 12 い砂を持ってきて踏み固める作業を7、8月に 事をどうしようかと考えていた。東日本の復興 瓦礫の撤去もまったく経験のない素人だった。 地に行った。いろんな状況を見て帰り、 考えた。 舗装した。 に携わる仕事をしようと思い、つてを頼って現 50 [1]東京電力福島第1原発の事故処理で、汚染水から 放 射 性 物 質 を 除 去 す る た め に つ く ら れ た。 第 1 原 発 で は、 建 屋 に 1 日 4 0 0 ㌧ 程 度 流 れ 込 む 地 下 水 が、 溶 け 落 ち た 核 燃 料 を 冷 や し た 水 に 混 じ り、 高 濃 度 の 汚 染 水 と な っ て い る。 A L P S で 処 理 し て も 放 射 性 物 質 ト リ チ ウ ム( 三 重 水 素 ) は 残 る た め、 タ ン ク に 保 管 し て 管 理 す る 汚 染 水 の 総 量 は 減 ら な い。 漏 れ た 場 合 な ど の 危 険 性 を 少 な く す る 目 的 が あ る。 昨 年 3 月 に 稼 働 を 始 め た が、 ト ラ ブ ル 続 き で 今 も 試 運 転 が 続 い て い る。 原 子 力規制委員会は8月 日、増設を認可した。 イチエフで作業しても、よそで除染作業して 20 市民講座を広島市中区で開いた。市民ら 原発工事や道路除染に携わる した。学校の夏休みが明けると二本松市、川俣 〈男性の証言〉 町、福島市などで道路の復旧作業をした。福島 私は広島で生まれ育ち、広島で働いてきた。 2011年の3・ があった時、これからの仕 第1原発(イチエフ)から、 ~ ㌔離れた地 80 ネットやハローワークで仕事を探し、7月に現 地に入ることが決まった。 2014.9.20 30 10 12 14 40 11 27 11 も、半年に1回は健康診断を受けなければいけ 1月 を受けた。 日、 結 果 を 聞 き に 行 く と「 転 移 し て ない。一般健康診断と、電離放射線健康診断を 脱水症状になるので夏場は1時間以上仕事を続 Q イチエフの構内に2回、合わせて約5カ月 入って仕事をしたんですね。作業場所は原子炉 ・イチエフでの仕事 〈対談〉 Jヴィレッジまでまず行き、タイベックという A イチエフで仕事をする者は当時、みないわ き市から通っていた。原発から ㌔圏内にある Q 服装は? 浴びた放射線量は? ンクリートを打って基礎を造る。 A ~ 分くらい。 Q 1時間働いて 分~ Q 休憩時間は? 分の休憩? けられない。1時間に1度は必ず休憩をとらさ からどれくらいの距離ですか。 靴下、手袋などの装備をすべて着けたうえで、 に 15 30 15 分かかる。往復だから、イチエフにい バスでイチエフに向かう。 る時間は3、4時間。 ~ だった。 渡されるレシートの数値は0・1㍉シーベ Q 1日の被曝線量はどれくらい? A 50 1カ月間の被曝線量をカウントする「ガラス バッジ」と、その日その日の被曝線量を測る線 40 防護服に着替える。顔を全面覆うマスクをつけ、 準備をし、Jヴィレッジからイチエフに行くの A そういう形で仕事をしていた。拘束8時間 で、いわき市からJヴィレッジまでほぼ1時間。 30 れる。 A 年の時の方が近くて200~300㍍く らい。3号機、4号機が結構大きく見える場所 20 Q 建屋を造るための作業とは? A 地面をならし、機械が設置できるようにコ 11 広島ジャーナリスト 18 号 量 計 を 着 け て イ チ エ フ に 入 る。 帰 り に J ヴ ィ レッジに寄った時、レシートが出る。その日ど います。もう手術はできない」と言われた。病 れだけの放射線を受けたかが記入してある。 必ず受けなければいけない。 名は「局所進行性肺がん・縦隔リンパ節転移」。 作業の途中で休憩所に出入りするたび、タイ ステージは「3のB」。転移のレベルが「Nの3」。 ベックは破って捨てる。休憩所を出る時に新し 回打った。1回打つのにだいたい1カ月かかる。 袋をはめ、手首をガムテープで巻く。その上に いタイベックを着る。タイベックは1日3、4 をする。すべて1回1回使い捨て。靴下も二重。 「抗がん剤と放射線での治療しかできない」と 予定だった。ところが年末の健康診断で「肺に 放射線を3月と4月に 回受けた。最後に放射 全面マスクとタイベックの隙間はガムテープで 着着替えた。手袋は白い綿の手袋の上にゴム手 影がある。精密検査を受けたほうがいい」と言 線治療をを受けたのがちょうど1カ月前。今週 目張りする。仕事を始める前の準備はかなり時 言われた。2月半ばから入院し、抗がん剤を4 われた。郡山の総合病院で精密検査を受けたら の月曜日(6月9日)に造影剤を入れてCTを 年)の1月から大熊町の除染に入る 「がんの疑いが強い」と診断された。 「初期だろ 撮った。来週、その結果がわかる。余命宣告も 間がかかった。 35 りがないので「広島に帰って手術、 治療します」 (※CT検査の結果は「現状維持」で、3カ月間、 Q 勤務時間は? と答えた。年初に広島に戻り、市民病院で検査 さらに様子を見ることになった) A 拘束は8時間だが、作業は2時間半から3 時間しかできない。それだけの防備をすると、 またゴム手袋、その上に軍手をする。四つ手袋 う」という話で、 「福島で治療しますか。広島 されるかもしれない、という段階だ。 今年( 「もう手術はで き ま せ ん 」 17 で治療しますか」と聞かれた。私は福島に身寄 14 被曝線量「分からない」 ≪ 57 ≫ ≪ 58 ≫ ルトとかだった。同じ仕事をしても場所によっ て線量は違う。ホットスポットには旗を立てて いる。そこには近づくなと言われる。近づくと けっこうな線量になる。 「なんで今日こんなに Q 休みは? Q 日間働いたら、 万円ですか。 50 んタイベックも着ない。普通の建築現場、工事 たくなかった。マスクすらしていない。もちろ もらう。 た。だいたい目標数値が1時間あたり0・3㍃ 針が振り切れて、計る単位を変えたこともあっ と除染して」と指示が出る。側溝は線量が高い。 い。計って「ここは線量が高いからもうちょっ A 作業現場のポイントポイントの線量を計る が、自分がどれだけ被曝しているかは分からな Q 被曝線量は? 現場で働く人たちと変わらない格好で作業し た。作業着にヘルメットだけ。 A いいえ。最後に勤めた会社からまだ手帳を 返してもらっていないので。 A そうですね。 Q 数値を記憶していますか。 Q 一応、目は通していた? A はい。 た? Q 広 島 に 帰 っ た り、 道 路 の 除 染 に 変 わったりしたときは返してもらってい ることはない。仕事を辞めるとき返して がモニタリング。モニタリングは、線量を計っ Q 放射線管理手帳を見ていない? A 現在、私の手元にない。放管手帳は、 て歩く。私はモニタリング以外の仕事をした。 工期が終わるまで預けっぱなし。手にす 校庭の除染では、装備とか安全への配慮はまっ Q 道路の復旧とか校庭、森林の除染というの ル線量はどれくらいですか。 A 覚えていない。計算をしていなかっ は、どんな仕事ですか。 た。個人に渡される放管手帳(放射線管 A 私の認識では、福島の災害復旧は四つある。 理手帳)を見れば記載されていると思う。 除染、瓦礫の撤去、イチエフ内での仕事、最後 Q イチエフで働いた5カ月間のトータ ・イチエフ以外の仕事 と言われれば出なくてはいけない。 A 日曜日が休みだが、 連勤まで認め A そうですね。 られている。それ以上になると、強制的 Q まるまる自分のものですか。 に 休 み に な る。 上 か ら「 今 日 は 仕 事 だ 」 A そう。ホテル代、食事代は会社持ちだった。 25 の高い地域だがマスクなしで作業した。 あった。二本松市や福島市あたりはかなり線量 るが、持ってきた土のほうが線量が高いことも Q 年間の基準 ㍉シーベルトに近づいたり、 シーベルトで、それを下回るようにしろ、とい う。除染は土を5㌢はぎ取って新しい土を入れ 超えたりということはなかった? そばにいた、とか。爆発した建屋のそばを通る A 私はなかった。周りにはいたが。 高いんだろう」と思ったら、ホットスポットの と、 「 ピ ー」 と 線 量 計 が 鳴 り、 あ っ と い う 間 に 線量が上がる。 2014.9.20 13 Q イチエフで働いていた時の賃金は? A 日給月給で、1日2万円。 20 イチエフでの労働や除染・復旧事業の実態を話す男性 (6月 14 日、広島市中区の広島市中央公民館) ≪ 59 ≫ ・労働条件 請けまであった。 る。ネットで求職した。2次下請けから5次下 6千円なんだなと思った。 出 た。 も ら っ た の が 1 万 4 千 円。 危 険 手 当 が Q 危険手当も人によって違う? く人は1日1万円。私たちより1万円ピンハネ コンのすぐ下だから条件がよかった。3次で働 A かなり違う。みんな同じ部屋に泊まり、同 じ作業をするが、私は日額2万円。2次はゼネ 入りましたか。 に下がったりした。そこら辺のやりとりは耳に もらえないのか」という話も出て、また1万円 Q 東京電力は当初、危険手当1万円としてい たが、あとで2 万円になった。 「なんで自分は A 給料そのものが違う。日当と危険手当の内 訳が分からないから分からない。 されている。その下の人で一番ひどかったのは Q イチエフの仕事は? A 2次下請けだった。 Q 人によって賃金は違う? 6千円だった。 しまい。日額1万2千円だったとしても、それ A 入った。自分の知り合いでもそういうケー スがあった。ただ、異を唱えたら仕事がもらえ Q 仕事はまったく同じなのですか? A 同じ。 Q あなたは、たまたま2次下請けに入れたと いうことですか。能力を評価されたわけではな より低い人もいる。いくらピンハネされている いはあんただけじゃないから」と言われたらお ない。「そんなこ とを言うならいい よ。付き合 い? か分からない。労働者の立場は弱い。労基署に 行くとか労働争議をするかとかの話は出るが、 そうはならない。 結局トラブルを避ける。お金を稼ぎたいから、 ていて「イチエフの仕事、1万2千円」という Q 除染や瓦礫撤去の危険手当は? Q 現場が違うと雇用主も違うのですか。 A 私は、建築現場や土木現場で働いた経験が A イチエフでの雇用主は同じだった。でも、 ない。ハローワークやネットで求職し、雇用先 継続して仕事にありつくことが難しい。「次の が2次下請けだったのはたまたま。仕事を探し 仕事があるよ」といっても、 「仙台で日当8千 のは多々あった。 A 楢葉町で瓦礫撤去をした時、危険手当のこ とが話になった。「危険手当はいくら出ている 段階。でも現場は同じだ。除染には危険手当が のか」と聞いたら「除染作業じゃなくて、瓦礫 A イチエフにいた時、危険手当はいくらか聞 いたことがない。 という話になる。同僚が環境省に問い合わせる 別だが。瓦礫は「管轄が違う」「除染じゃない」 1万円出る。本当に支払われているかどうかは 撤去だから」と言われた。瓦礫撤去は除染の前 Q 1日2万円に危険手当は入っている? A 入っていた。なんで分かるかというと、雨 が降って、現場に行かずに待機した時も日当は Q 危険手当はいくら? ・危険手当 円でやってきて」という話だったりする。その 時 々 に ネ ッ ト で 仕 事 を 探 し た り、 現 地 で 知 り 合った人のつてを頼ったりしてやってきた。雇 用主はそのつど違った。 Q 合計いくつの会社で働いたのですか。 A 4社か5社。 Q 全部福島の会社ですか? A イチエフの仕事は北海道の会社だった。北 海道は冬の仕事がないので東北に進出してい 広島ジャーナリスト 18 号 Q モニタリングするのはだれ? A 現場によって違う。校庭の除染では役所の 人が測っていた。 Q 働く人の健康への配慮で線量を計っている わけではないんですね。 A そうです。とにかく目標値まで下げろと。 Q 森林の除染はどうでしたか。 A 森林といっても、山の中を除染するわけで はない。それは無理。道路から ㍍、家屋から ㍍の範囲を目標値以下に下げる、という Q 目標値は? のが森林除染。 半径 20 A 川内村では目標値が1時間あたり0・ ㍃ シーベルト。年間で1㍉シーベルトになる。 23 20 ≪ 60 ≫ と「瓦礫の扱いはまだ決まってない。危険手当 に関しては考慮して返事します」という返事 だった。 私の日当は1万4千円だった。そこから、宿 泊代、食事代、車使用料(いわきまで通うため の車は会社が用意する) 、ガソリン代の名目で 4、 5千円が天引きされた。 Q 他の会社もだいたい同じ? A 福島に入って何十回と健康診断を受け、何 一つ異常なかった。すべて正常だった。 Q 福島に行く前、広島で働いていた時も健康 状態は良好だった? A はい。 Q がんだと言われて、広島で検査したらもう Q 労災を認められていないですよね。労災を 認めてもらうためには、記録を残しておく必要 〈会場と質疑〉 手遅れだと。心当たりはないのですか。 A いろんなことのせいにしたい自分がいる。 でも「分からない」としか言いようがない。「福 島で仕事をしたことも要因の一つかな」という 思いはある。 は健康診断、電離放射線健康診断も受ける。W 月に1回、必ずWBCを受ける。場合によって いと入れない。仕事が終わって辞める時と3カ 爆2世ということで差別されたことはないが、 み屋は「原発作業員、入店お断り」だった。被 たの?おまえ被曝者じゃん」と。いわき市の飲 フで作業した人は差別されていた。「原発行っ A 私は被爆2世。母が被爆者だ。だから偏見 とかそういうのが嫌だった。福島では、イチエ 普通の作業着、ヘルメットで作業している。 多い感じがする。側溝など線量が高いところで Q 話を聞いていると、イチエフで働いた時よ り、瓦礫撤去や除染作業をした時の方が線量が 森林除染は格好だけ かなとも思う。私自身は把握していない。 A 瓦 礫 撤 去 で も 除 染 作 業 で も 昨 年 は ガ ラ ス バッジを着けた。問い合わせれば教えてくれる Q 除染作業での被曝線量は? 差別された原発作業者 A 会社によって違う。川内村ではガソリン代 は自費だったが、車使用料は取られなかった。 宿泊代、食事代は払った。 ・健康チェック Q 働いているときの健康チェックは? がある。私は1歳の時、爆心地から2㌔で被爆 A イチエフと、イチエフの外では違う。イチ した。あなたは原爆の落ちた広島で育って、な エフは、一般健康診断、電離放射線健康診断、 んで福島に行ったのですか。 BCは内部被曝を見るのだろうが、数値を教え WBC(ホールボディーカウンター)を受けな てもらえないこともあった。 面白くないことはあった。だから行きたかった Q 労災の話で、主治医の見解は? A 肺がんと福島で働いたことは関係ないだろ う、 と い う こ と だ っ た。「 じ ゃ あ た ば こ?」 と は一発で退職になった。イチエフの外は無防備 ではマスクを取るわけにはいかない。取った人 スクは必ず着けなさい」という指示が出た。し A 確かにイチエフの方が安心だ。線量も含め て管理されている。昨年、イチエフの外でも 「マ 除 染 や 瓦 礫 撤 去 で は、 楢 葉 町 役 場 に W B C の車があって、 みんな受ける。「異常ないですよ」 というのもある。 聞くと、「たばこでもない」という。「遺伝です られない。見回りが来る時だけする。イチエフ かし肌は出ている。真夏にマスクなんか着けて か」「それも関係ない。運です」と言われた(笑)。 に近い。自分がどれだけ吸いこんでいるのか分 と言われて終わり。実際に自分がどれだけ内部 Q 昨年末の健康診断で「影がある」と言われ たというが、それまで注意されたことはなかっ 被曝しているか分からない。 た? 2014.9.20 ≪ 61 ≫ 年の3~4 て高圧の水で流した。しかし、放射能は消える からないがヒューマンエラーもあるはずだ。線 わ け で は な い。「 流 し た 水 は ど こ に 行 く の か 」 量を考えると、同じ人間が長時間作業できない。 が、4月になると上から指示されて脱いだ。そ 3月の時点ではタイベックを着て仕事をした る。広島県で同じように土木作業をすると日当 1万5500円からだから、応募者はかなりい A 除染の危険手当は1万円。福島県の最低賃 金が1日当たり5千いくらで募集はだいたい Q 「辞めて もらって結構」とは、 代わりがい くらでもいるということか。 用とエネルギーをかけて、効果は疑問だ。 雨どいやその下が異様に数値が高い。莫大な費 に は い い と こ ろ し か 見 せ な い。 「何日にだれだ イチエフにいる時も、大臣が来た。そういう人 EA(国際原子力機関)の人と川内村に来た。 Q 福島第1原発事故は収束できますか。 A 政治家は何人も現地を見に来た。昨年 月 末に麻生さん(太郎、副総理兼財務相)がIA をするから、普通の仕事とは全然違う。ミスが ば視界も狭く声も聞こえない。そんな中で仕事 病院に担ぎ込んだ。 「胃に穴があいている」と ぬほど痛いのを我慢して、仕事が終わってから なった。救急車を呼んだら労災になるので、死 いう人をたくさん見てきた。 せいで1万2千円とか8千円とかになる。そう ていても満額もらえる人は少ない。多重下請の にもなる。それに1万5500円で募集をかけ を大量に飲んで仕事をした。仕事中に動けなく 「5500円ですか、私の日当は」という思い いる人間が一番よく分かっている。 いる。安全だ」と言っても意味がない。現場に ピールする。訪問者が表面だけ見て「収束して る。当日は「こんなに安全にしています」とア きましょう」と指示が出る。むしろ仕事が増え Q 野田佳彦政権の「事故収束宣言」( 年 月) Q 事故を収束させるため、現場で働いている 後も、汚染水漏れとかネズミが電線をかじって 人を国家公務員にすべきだ、という意見がある。 歳にする。その後す 場の状態を外に漏らすなとか、かん口令は敷か 広島ジャーナリスト 18 号 からない。 広 島 の 友 人 も 福 島 で 働 い た。 れだけが原因じゃないが、結局、こわくなって 8 千 円 く ら い だ ろ う。 1 万 5 5 0 0 円 も ら え 言われ、緊急手術になった。労災に関する知識 かん口令は「あった」 その友人は昨年、一昨年とリンパ腺が腫れ上が り、歩くこともできない状態になった。「病院 に行け」と言っても、お金がかかる、放ってお けば治ると、そのままにしている。 国家公務員にして定年を ぐに年金を払う。当然、その人が健康に不安を 電気が流れなかったとか、考えられないトラブ ルが起きた。こんなことはまだ続くと思うか。 も 廃 炉 も 見 通 せ な い ま ま「 原 発 は 輸 出 し ま す 」 と思うが、何回トラブルがあったか。原因は分 11 持たないような労働条件で働いてもらう。収束 A 熟練者の精鋭部隊ならまだしも、私のよう な素人が仕事をしている。ミスが起きないわけ Q 森林除染は意味がある? 12 部。やりましたという格好だけだ。雨が降った る。森林除染は意味がない。住宅は屋根に上っ 12 A 除染の範囲は道路から ㍍。いったい森林 全体の何㌫なのか分からないが、ほんのごく一 11 がない。ALPSも、 年 月スタートだった 「再稼働します」という流れになっている。現 20 ら放射能が降ってくる、風が吹いたら流れてく 50 がなかったので自分で処理するしかなかった。 「ミスがないわけがない」 だ。仕事中のケガだったが「そんなに休んでい 10 ゼロになることはない。 Q その友人の健康状態は? A 年 月に福島に来た。最初は一緒に仕事 をした。その後、福島市と二本松市で道路の復 辞めて帰った。 月に腰を痛めて2、3日休ん 月、 南相馬市で常磐自動車道の復旧作業をした。 という話。後で、 モニタリングの 人に聞くと、 入れ代わり立ち代わりになる。マスクをかぶれ 12 るといっても、そのうちの1万円は危険手当。 れが来ます。ここの現場に来ます。こうしてお 旧作業をした。 11 たら、もういらないよ」と言われた。痛み止め 12 11 ≪ 62 ≫ れていますか。 A 私は最初から最後まで国民健康保険だ。失 業保険について会社から何か言われたことはな 何 も で き な い。 う ち で で き る の は 所 在 確 認 だ ら 電 話 し た ん で す け ど 」 と 言 っ て も、「 い や、 行政からは門前払い け」と言われ た。「どうしてもと 言うなら、と もできません」。「電話してくれと書いてあるか いし、もらったこともない。 Q 国家公務員の話はどうですか。 A なるほどと思った。なぜ国直轄、東電直轄 で雇ってくれないかと不満があった。例えば4 A やっぱり(外に言うなと)言われる。イチ エフにいたときは特にそうだった。 次、5次、6次下請けで入っていると、上の機 Q 厚労省や環境省のフォローは。 た人たちにお金を貸すところ。あなたの病気は 番号に電話した。「もしこんな病気になったら 払いだった。 入っていた。肺がんと分かった時、書いてある (金を)返すあてはないんでしょう?」と門前 に来た」と答えた。すると「ここは病気で困っ をしてほしいの?」と聞かれ「困ったのでここ うか」と言う。地域の福祉センターに行くと「何 りあえず地区の福祉センターに行ってみてはど 嫌一つで「じゃあおまえいらないよ」ってなる。 A イチエフで仕事をしたら、厚労省から郵便 物がくる。所在確認のためだ。 「もし病気になっ 治らないですよね。仕事できないんでしょう? と思う。 労災の可能性があります」「労災であれば何か 次の仕事も保障されない。これだけの事故の処 理をするのに、なぜ直に雇ってくれないのか、 たらここに電話してください」という印刷物が Q 地 元 に 住 む 人 と、 あ な た の よ う に 後 か ら 入ってきた人との関係は? て、 補償をもらう。記憶にある時に、 しっ Q 今は労災を認められなくても、何十年後か に国が何か補助することになるかもしれない。 かり記録を残しておくことが大事だ。 きちっと書きとめておくことが大事。そういう はね、隣の新潟県に行って買ってきたかったん しらお金が出ます」と書いてあったからだ。賠 だけど、自分は行けないから地元のしか出せな A 病 気 が 分 か っ た 時、 「自分には後ど れくらい時間が残っているんだろう」と 償金や治療費のことも書いてあり、助かったと い。嫌じゃなかったら食べてくれ」という。そ 思った。そんな中で、国や東電に賠償請 A 真夏の暑い時、民家の除染をした。そこの おばあちゃんがキュウリを出してくれて「ごめ の心遣いに泣きましたね。 そんなこともあった。 求し、裁判にでもなれば莫大な時間と金 話が出始めたらその記録を出し、認めてもらっ しかし、作業員が全国から集まる中、犯罪が増 がかかるのではないかと思った。水俣病 思って電話した。相手は開口一番「うちでは何 え治安も悪くなる。殺人事件も起きた。窃盗や だって、何十年もたってやっと判決がで んね」と言うから、 「何が?」と聞くと、「本当 空き巣も増える。酒を飲んで暴れる。よそ者に た。自分にはそんな時間は残されていな いなと思った。ありがとうございます。 聞き、それもやっぱり考えないといけな 真摯に考えることがなかった。今の話を いだろうなというのがあって、なかなか は家を貸してもらえなくなった。除染作業員は 人と住んで、うるさかったり、酒のト 厚労省から福島第1原発で緊急作業に従事した労働者に 送られてきた文書 2014.9.20 お断り。一軒家にひとりで住むわけではない。 5人、 Q 健康保険、失業保険は。 のも事実だ。 ラブルがあったりで、敬遠されるようになった 10 21 市民感覚に沿う判決 安部 剛 日、広島市中区の広島弁護士会館で解説した。青法協広島 判決文は非常に分かりやすく、経済活動より 国民の生命、身体を守るということを高らかに し、一方で電力会社の主張には安易に乗って危 ない巨大地震は具体的な危険にあたらないと を高くし、例えば数百年に一度起きるかもしれ を放棄するに等しい」と述べる。裁判所の責務 けることは裁判所に課せられた最も重要な責務 り、福島原発事故の後において、この判断を避 一でもあるのかが判断の対象とされるべきであ 企業収益より国民の安全と宣言 広島ジャーナリスト 18 号 立証責任」で、原発においては「万一の場合に も放射性物質の危険から国民を守るべく万全の 措置がとられなければならない」と述べている。 そして、原発の稼働は経済活動の自由に属する もので「憲法上は人格権の中核部分より劣位に 置かれるべきもの」と断じた。 電力会社が原発稼働で収益を上げる自由より 国民の身体、安全の自由の方が大事だと宣言し ている。そして「かような危険を抽象的にでも はらむ経済活動は、その存在自体が憲法上容認 できないというのが極論にすぎるとしても」と いうところは樋口英明裁判長の本音が見える。 そこはひとまず置くとして、判決は原発事故の 危険性の本質、被害の大きさは福島原発事故を 通じて明らかになったと指摘、「本件原発にお うたった。人格権は論者によって定義が微妙に 険性は社会通念上無視できるほど小さいと、そ いて、かような事態を招く具体的危険性が万が 違うが、判決では個人の生命、身体、精神、及 するという根幹に対する具体的危険がある場 本件原発に認 められるべき安 全性、 理な点があるかどうかだけを審理しようという 断を回避したのを批判しているのではと思う。 合、その侵害の差し止めを求めることができる ( 2) 原 子 炉 規 制 法 に 基 づ く 審 査 と の 次に「 関 係 」 を 見 て い た だ き た い。 従 前 の 原 発 訴 訟 しかし、この福井地裁判決はそのような姿勢 をとらなかった。「2 福島原発事故について」 は、原発の安全性が高度の科学的、専門技術的 で、福島原発事故の被害の大きさに言及したう な判断を必要とするから、規制庁の判断に不合 と述べる。 具体的な危険があれば運転差し止めを認める ということは、これまでも判示されてきた。し えで「3 かし、従前の判決は具体的な危険性のハードル が大飯原発の差し止め仮処分で危険の中身の判 権利と自由を守ること。これは暗に、大阪高裁 とは公平な裁判を通じて憲法の保障する国民の 条が人格権の保護を定めている。判決は、 があった。 13 人格的利益の中でも、生命を守って生活を維持 法 うしたことを述べて原告の主張を排斥する傾向 人が耳を傾けた。以下、講演の要旨。 35 30 び生活等の人格的利益のことだとしている。憲 支部が主催し、法曹関係者や市民 次長を務めた安部剛弁護士が7月 訟で初の判断。明快で画期的なこの判決の意味を、大飯原発運転差し止め訴訟弁護団の事務局 と認めざるを得ない」と、運転差し止めを命じた。福島原発事故後、運転差し止めを求めた訴 格権の中核部分より劣位に置かれるべきだとしたうえで「大飯原発の安全技術及び設備は脆弱 関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の運転差し止めを住民が求めた訴訟の判決 が5月 日、福井地裁であり、樋口英明裁判長は、経済活動の自由に属する原発の稼働は、人 大飯 原 発 差 し 止 め 「人格権」高らかにうたう ≪ 63 ≫ ≪ 64 ≫ たい過誤がある場合だけで、裁判所として具体 自体が不合理であるか規制庁の判断に看過しが ものだった。不合理と言えるかどうかは、基準 て具体的に述べている じ た。 冷 却 欠 陥 に つ い あるということをまず断 いう機能について欠陥が いう機能と閉じ込めると そうしたことを踏まえ て本件原発には冷やすと 除去するすべはないということが前提にある。 い分だった。 を冷やし閉じ込める、というのが関西電力のい して補助給水を行う。そういう形で放射性物質 止に成功すると、非常用電源を稼働させる。そ 停止に失敗すればメルトダウンにつながる。停 にする。その後、ただちに原子炉を停止させる。 り得ることを前提にしていたので、これを前提 きなれないと思う。別表のようなものだ。具体 険だ。放射性物質がひとたびばらまかれれば、 安全だと主張していた。イベントツリーとは聞 ければならないというのも、原発の本質的な危 こ の イ ベ ン ト ツ リ ー に、 裁 判 所 は 非 常 に 鋭 一でもあるのかどうかが判断対象になるとした うえで、規制基準の対象になっている事項につ いても裁判所の判断が及ぼされるべきだと言い 失敗 きった。 裁判長は審理の途中で、専門技術的な裁判と は思っていないと述べた。これまでの裁判所の 姿勢とは決別する、国民の常識的な観点から審 失敗 る。次に700ガルから 能だと判決は断じてい いう科学的な想定は不可 超える地震が起きないと ている。1260ガルを うことは関西電力も認め トダウンにつながるとい る地震がきた場合、メル 度。1260ガルを超え ガルは地震の際の加速 故も、何が起きたか分かっていないところがた いるか分かるのかという問題がある。福島の事 る。第2に、混乱の中で物事がどこまで進んで 第1に、プロセスを想定するのは結構だが、 地震は夜昼関係なく起きるので人員の問題があ 点から実効性がないと批判した。 きに実効性があるかが問題だ。判決は七つの観 がない。さらに、想定している事象が起きたと のことが起きたので失敗したというのでは意味 てを想定してつくらないと意味がない。想定外 が意味を持つためには、地震で起きる事象すべ ついて論じる。関西電力 張するイベントツリーに ここで被告関西電力の主 第5に、地震によって複数の設備が使えなくな 極めて少 ない。第4に、実地試験 が不可能だ。 ルトダウンなどが起きるまでに残された時間は に つ い て 検 討 し て い る。 くさんある。第3に、地震が発生した場合、メ 1260ガルまでの地震 を超える地震について」。 して冷却に成功するというが、イベントツリー 的に見ると、被告関西電力は主給水喪失は起こ はイベントツリーを作成し、手順通りにやれば 的な判断は控えようというスタンスだった。し の が「 5 冷 却 機 能 の 維 持 に つ い て 」 で、 ま い指摘をした。地震動で起きた事象を場合分け ↓ かし、福井地裁判決では具体的な危険性が万が ず「( 1) 1 2 6 0 ガ ル 理するという意思表明だったのかと思う。 → 原発の本質的危険を認定 判決は以下、具体的な危険性の判断に入る。 「4 原子力発電所の特性」では、原発から出 るエネルギーは膨大で、運転停止後も原子炉の 冷却が必要で、その間に電源が失われただけで 事故につながり、時の経過に従って事故は拡大 すると指摘、 「他の技術とは違う原発に内在す る本質的な危険」と述べた。工場の機械は停止 すれば安全だ。ところが原発は停止後も核燃料 の崩壊熱が生じる。そのため、原子炉を冷やし 続けなければならない。失敗すればメルトダウ ンにつながる。そういう原子力発電の本質的な 危険について明快に断じた。 放射性物質は外に出ないよう閉じ込められな 2014.9.20 ↓ イベントツリー → 補助給水 成功 非常用電源 成功 原子炉停止 → 主給水喪失 ≪ 65 ≫ 地震動に限って根拠があると 定めた700ガルという基準 生 じ た。 そ う す る と、 被 告 が たって想定を超える地震動が 考え方は、全部の壁が単独で完璧でないといけ よく、 五重の壁という。何層も(事故を防ぐ) 仕掛けを作ってあるから大丈夫だという。この がないと判決は述べている。 の 存 在 を 前 提 と す る ……」 と 実 は、 こ こ で「 ア ス ペ リ テ ィ になってもいいという考え方は誤っていると断 主給水ポンプと外部電源は重要でないからダメ いということではない。そういう考え方に立ち、 な ぜ 言 え る の か と 論 じ て い る。 ない。第3の壁があるから第2の壁は適当でい いう理論的な問題についても じた。 丈夫だと言っているが、発電所を構成する材料、 用済み核燃料の危険性に触れたのはこの判決が 判決は、被告が言う安全余裕についても批判 を加えた。関西電力は700ガルを超えても大 初めてではないか。崩壊熱を出すため冷やし続 使用済み核燃料の危険も言及 我 々 は 主 張 し た が、 今 後 学 術 的 に 解 決 す べ き 問 題 で あ っ て、 裁判所が立ち入って判断する で段差ができて電源車が入れなくなる。第6に 金属なりはモノによってばらつきがある。それ 必要がないとスパッと断じた。 放射性物質が漏れ出せばその区域には入れな るということは容易に想像できる。例えば地震 い。このイベントツリーには手動操作も含まれ けなければならないが、使用済み核燃料プール うことを考えると、被告が考えるようなイベン いる。外部からの支援を期待できない。そうい 第7に、大飯原発周辺の道路は非常に限られて れると被告も認めていた。安全上重要な設備で 主給水ポンプと外部電源が700ガル未満で壊 いはずだが、核燃料プールは特に堅牢な容器の 次に、700ガルに至らない地震についても 覆われていない。外部に使用済み核燃料が漏れ 具体的な危険があると論じた。今回の訴訟でも、 出ることが許されず、炉心の核燃料と変わらな めている。 中にはない。 「 6 閉 じ こ め る と い う 構 造 に つ い て 」 で、 使用済み核燃料の危険性についても論じた。使 ている。 それを誰がするのかという問題がある。 も考慮して余裕を持たせた設計にすることを求 トツリーは実効性を欠く。そうしたことを指摘 はないから問題はないというが、では主給水ポ る設備に頼らなければならない。先ほどのイベ 次 に「 エ 基 準 地 震 動 の 信 頼 性 に つ い て 」。 従 来、 被 告 関 西 電 力 が 想 定 し て い た 地 震 動 は ントツリーでも言った通り、作業手順の一つで か。主給水がなくなると、補助給水系と呼ばれ ンプと外部電源がなくなった場合どうなるの 飯原発でも、使用済み核燃料については、燃料 免れたのは僥倖ともいえる」と言っている。大 事故調の報告をよく読みこんでいて、「福島4 は格納容器のような一定の強度を持った設備に している。 裁 判 所 は、 福 島 原 発 事 故 で 使 用 済 み 核 燃 料 プールが危機的状況になったことについて国会 も失敗すると加速度的に深刻な事態に陥る。手 プールがきちんとしていることはもちろん、給 過去5回の想定外地震動指摘 7 0 0 ガ ル だ が、 そ の 数 字 に 根 拠 が な い と 指 作業も増えていく。そのような対応には実効性 ぎょうこう 号機の使用済み核燃料プールが破滅的な事態を 摘 す る。 過 去 に 四 つ の 原 発 に つ い て 5 回 に わ 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 66 ≫ 水ができなくてはいけない。水がなければ過熱 そういうことがなく、健全で常識的な判断がな された。 再稼働前判決の意向で迅速審理 福井地裁の審理の経過について簡単に触れた 福井地裁判決は分かりやすく、市民感覚に照 い。2012年 月 日に裁判所に訴状を提出 らして極めて常識的といえる。弁護団は科学的、 し 年2月 日に第1回口頭弁論があった。 日の第8回口頭弁論で審理を終結し 30 水を入れるポンプが壊れたら、最後は消防ポン と言うが、その内実は、使用済み燃料プールに 長引いたあげく、安易に被告の主張を採用する ピュータシミュレーションなどを出して審理が 争になって被告側がもっともらしく見えるコン 関西電力はストレステストをやり、福島原発 るまでもなく危険があるという内容になってい 事故を踏まえてこのような施策をとりました、 る。これまでの原発訴訟が、科学的、専門的論 機感の表れだったろう。 裁判所として拱手傍観していられないという危 発言があった。福島原発事故を再現する事態を、 まで審理を伸ばしてはいられないという趣旨の ド審理がなされた。樋口裁判長からは、再稼働 日、 福 井 地 裁 で 言 い 渡 さ れ た 大 飯 号機の原子炉を運転してはならない。 吉見1―1において、大飯発電所3号機及び4 す事業に関わる組織には、その被害の大きさ、 生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼ ずれも棄却する。 要請であるとともに、生存を基礎とする人格権 て然るべきである。このことは、当然の社会的 【事実及び理由】 [3]大飯原発から250㌔㍍圏外に居住する原告 ある。 訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針で て、最高の価値を持つとされている以上、本件 が公法、私法を問わず、すべての法分野におい 3、訴訟費用は、第2項の各原告について生じ [3] 程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められ 1 はじめに ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の 第3 争点及び争点に関する当事者の主張(略) 第4 当 裁判所の判断 第1 請 求(略) 第2 事 案の概要等(略) (あべ・つよし) た。原発差し止め訴訟では極めて異例のスピー プで人の手で冷やすという。だれが行くという ということが往々にしてあった。今度の訴訟は 年3月 11 する。 原発事故を踏まえて』という言葉を安易に用い 専門的な主張もしたが、それらについて判断す 14 判決はこの中で、こう書いている。 「弥縫策 にとどまらない根本施策をとらない限り『福島 るべきではない」 。 15 のか。判決はそれを言っている。 27 13 2、 別 紙 原 告 目 録 2 記 載 の 各 原 告 の[請 求 を い 大飯原発判決・裁判所判断全文 原発の人格権侵害危険認定 5月 [2] 原発運転差止訴訟の判決要旨は次の通り(裁 判所判断は全文) 。 【主文】 [1] 1、 被 告 は[、 別 紙 原 告 目 録 1 記 載 の 各 原 告 に[ たものを同原告らの負担とし、その余を被告の 対する関係で、福井県大飯郡おおい町大島1字 負担とする。 [1]関西電力 [2]大飯原発から250㌔㍍圏内に居住する原告 2014.9.20 21 ≪ 67 ≫ できる。これらの訴訟は名誉権ないしプライバ 持するための出版の差止請求を挙げることが 差止請求訴訟としては名誉やプライバシーを保 利益は、各人の人格に本質的なものであって、 度の健康被害を及ぼすかについてはさまざまな シー権と表現の自由という憲法上の地位におい 年間何㍉シーベルト以上の放射線がどの程 その総体が人格権であるということができる。 見解があり、どの見解に立つかによってあるべ て相拮抗する権利関係の調整という解決に困難 この人格権とりわけ生命を守り生活を維持する いはずである。それにもかかわらず、両共和国 おそれがあるときは、その侵害の理由、根拠、 を持つことにおいて我が国となんら変わりはな という人格権の根幹部分に対する具体的侵害の が上記の対応をとらざるを得ないという事実 図ろうと考え、住民においても帰還の強い願い る。原子力発電所は、電気の生産という社会的 発電所の運転の利益の調整が問題となってい ができる。本件ではこの根源的な権利と原子力 中でも根幹部分をなす根源的な権利ということ では生命を守り生活を維持する利益は人格権の ていることが前提となっているから、その意味 法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれる べきものである。しかるところ、大きな自然災 害や戦争以外で、この根源的な権利が極めて広 汎に奪われるという事態を招く可能性があるの 住する住民に避難を勧告する可能性を検討した 委員長が福島第一原発から250㌔㍍圏内に居 とは想像に難くない。 さらに、原子力委員会 放射性物質の危険から国民を守るべく万全の措 高度なものでなければならず、万一の場合にも 電所に求められるべき安全性、信頼性は極めて 1、2に摘示したところによれば、原子力発 の差し止めが認められるのは当然である。この 態を招く具体的危険性が万が一でもあれば、そ 極論にすぎるとしても、少なくともかような事 その存在自体が憲法上容認できないというのが よ う な 危 険 を 抽 象 的 に で も は ら む 経 済 活 動 は、 は原子力発電所の事故のほかは想定し難い。か のであって、チェルノブイリ事故の場合の住民 の避難区域も同様の規模に及んでいる。 広島ジャーナリスト 18 号 個 人 の 生 命、 身 体、 精 神 及 び 生 活 に 関 す る が、既に 年以上にわたりこの問題に直面し続 条、 条 )、 き 避 難 区 域 の 広 さ も 変 わ っ て く る こ と に な る 人 格 権 は 憲 法 上 の 権 利 で あ り( 侵害者の過失の有無や差し止めによって受ける は、放射性物質のもたらす健康被害について楽 には重要な機能を営むものではあるが、原子力 を伴うものであるところ、これらと本件は大き 不利益の大きさを問うことなく、人格権そのも 観的な見方をした上で避難区域は最小限のもの けてきたウクライナ共和国、ベラルーシ共和国 のに基づいて侵害行為の差し止めを請求できる で足りるとする見解の正当性に重大な疑問を投 に、我が国の法制下においてはこれを超える価 ことになる。人格権は各個人に由来するもので の利用は平和目的に限られているから(原子力 く異なっている。すなわち、名誉やプライバシー あるが、その侵害形態が多数人の人格権を同時 げかけるものである。上記250㌔㍍という数 基本法2条)、原子力発電所の稼動は法的には を保持するという利益も生命と生活が維持され に侵害する性質を有するとき、その差し止めの 字は緊急時に想定された数字にしかすぎない 電気を生み出すための一手段たる経済活動の自 要請が強く働くのは理の当然である。 由(憲法 条1項)に属するものであって、憲 万人もの住民 任 3 る。 が、 だ か ら と い っ て こ の 数 字 が 直 ち に 過 大 で 2 福 島原発事故について 福 島 原 発 事 故 に お い て は、 名がその命を失ってい 22 置がとられなければならない。人格権に基づく 中でこの人数を遥かに超える人が命を縮めたこ (1)原子力発電所に求められるべき安全性 本件原発に求められるべき安全性、立証責 あると判断することはできないというべきであ いる。両共和国の政府とも住民の早期の帰還を また人の生命を基礎とするものであるがゆえ 25 値を他に見出すことはできない。したがって、 は、今なお広範囲にわたって避難区域を定めて 20 13 が避難生活を余儀なくされ、この避難の過程で 15 る。家族の離散という状況や劣悪な避難生活の 少なくとも入院患者等 60 ≪ 68 ≫ 害の具体的危険性が認められれば、侵害者の過 妨害予防請求権においてすら、侵害の事実や侵 ものであって、原子炉規制法をはじめとする行 の法制における地位や条理等によって導かれる (1)の理は、上記のように人格権の我が国 の対象となっている事項に関しても新規制基準 の判断が及ぼされるべきであるし、新規制基準 ねていたとしても、その事項についても裁判所 題のうちいくつかを電力会社の自主的判断に委 新規制基準が原子力発電所の安全性に関わる問 失の有無や請求が認容されることによって受け 政法規の在り方、内容によって左右されるもの ことは、土地所有権に基づく妨害排除請求権や (2)原子炉規制法に基づく審査との関係 る侵害者の不利益の大きさという侵害者側の事 への適合性や原子力規制委員会による新規制基 い技術の有する危険性の性質やもたらす被害の ないとすれば社会の発展はなくなるから、新し 新しい技術が潜在的に有する危険性を許さ 子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき、 見を要することから、司法判断が規制基準への ようとする者の技術的能力並びに申請に係る原 に、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置し る災害が万が一にも起こらないようにするため 性 物 質 の 危 険 性 に か ん が み、 放 射 性 物 質 に よ 密に行うためには高度の専門技術的な知識、知 と こ ろ で、 規 制 基 準 へ の 適 合 性 の 判 断 を 厳 されるべきこととなる。 なく、 ( 1) の 理 に 基 づ く 裁 判 所 の 判 断 が 及 ぼ 準への適合性の審査の適否という観点からでは 大きさが明確でない場合には、その技術の実施 科学的、専門技術的見地から、十分な審査を行 条の趣旨は放射 ではない。 の差し止めの可否を裁判所において判断するこ わせることにある」との最高裁判所平成4年 原告らは、「原子炉規制法 情を問うことなく請求が認められていることと とは困難を極める。しかし、技術の危険性の性 月 日第一小法廷判決(伊方最高裁判決)の判 対比しても明らかである。 質やそのもたらす被害の大きさが判明している く、適合していると判断することに相当の根拠、 はないかといった葛藤が生じることはない。原 程度容認しないと社会の発展が妨げられるので の判断をすればよいだけであり、危険性を一定 とになるから、この安全性が保持されているか と被害の大きさに応じた安全性が求められるこ また、放射性物質の使用施設の安全性に関する も許され ないという(1)の立論 は存在する。 (3)立証責任 としても、同法の趣旨とは独立して万一の危険 仮に、同法の趣旨が原告ら主張のものであった 示に照らすと、原子炉規制法は放射性物質によ 高度の専門技術的な知識、知見を要するもので をその立法趣旨としていると主張しているが、 の判断は4以下に認定説示するように必ずしも る災害が万が一にも起こらないようにすること はない。 あ る。 こ れ に 対 し、( 1) の 理 に 基 づ く 裁 判 所 多かったのには相応の理由があるというべきで 資料があるか否かという判断にとどまることが 子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす 重要な責務を放棄するに等しいものと考えられ この判断を避けることは裁判所に課された最も 本件原発において、かような事態を招く具体的 く(1)の観点から司法審査がなされるべきで るものであったとしても、この趣旨とは関係な れるべきであり、福島原発事故の後において、 重されるべきことを原子炉規制法が予定してい 危険性が万が一でもあるのかが判断の対象とさ ある。したがって、改正原子炉規制法に基づく 門技術的な裁量を伴うものとしてその判断が尊 科学的、専門技術的見地からなされる審査は専 明らかになったといえる。 本件訴訟においては、 判断については高度の専門性を要することから 常の差止訴訟との違いがある。証拠が被告に偏 れば万が一の危険性の立証で足りるところに通 基本的な違いはなく、具体的危険でありさえす て、この点では人格権に基づく差止訴訟一般と あることの立証責任は原告らが負うのであっ るために避難を余儀なくされる具体的危険性が によって原告らが被ばくする又は被ばくを避け 原 子 力 発 電 所 の 差 止 訴 訟 に お い て、 事 故 等 被害の大きさは、福島原発事故を通じて十分に 10 適合性の有無それ自体を対象とするのではな 場合には、技術の実施に当たっては危険の性質 24 る。 2014.9.20 29 ≪ 69 ≫ 危険性の立証責任を負わせるという手法は原子 立証をさせこれが成功した後に原告らに具体的 していると判断することに相当性があることの の設備が基準に適合していることないしは適合 は次元を異にする。また、被告に原子力発電所 に負わせるのかという立証責任の所在の問題と あって、存否不明の場合の敗訴の危険をどちら 在り方の問題等として解決されるべき事柄で 被告が証拠を提出しなかった場合の事実認定の よる訴訟指揮及び裁判所の指揮にもかかわらず 在することから生じる公平性の要請は裁判所に く危険のある事象についての複数のイベントツ 能性がある。地震及び津波の際の炉心損傷を招 震による損傷や故障でも破滅的な事故を招く可 る。仮に、止めることに失敗するとわずかな地 めて原子力発電所の安全性が保たれることとな 閉じこめるという要請はこの3つがそろって初 却し続け、万が一に異常が発生したときも放射 停止後も電気を利用して水によって核燃料を冷 が起きた場合には打つべき有効な手段がほとん り、メルトダウンに結びつく。この規模の地震 ないし予備的手段による補完もほぼ不可能とな 震によってこのシステムは崩壊し、非常用設備 電流によって水を循環させるという基本的なシ 緊急停止後の冷却機能について外部からの交流 上 述 の と お り, 原 子 力 発 電 所 は 地 震 に よ る し た が っ て、 施 設 の 損 傷 に 結 び つ き 得 る 地 5 冷却機能の維持について 震が起きた場合、速やかに運転を停止し、運転 (1)1260ガルを超える地震について る原子力発電に内在する本質的な危険である。 どないことは被告において自認しているところ ようにしなければならず、この止める、冷やす、 ステムをとっている。1260ガルを超える地 性物質が発電所敷地外部に漏れ出すことのない である。すなわち、本件ストレステストに関し うえん 炉の設置許可ないし設置変更許可の取消訴訟で ・4 ㌻には「耐震裕度 はない本件訴訟においては迂遠な手法といわざ 号証の 被告の作成した甲 体的な危険性の存否を直接審理の対象とするの ト②燃料被覆管③原子炉圧力容器④原子炉格納 部に放出されることになった。また、我が国に 4 原 子力発電所の特性 原 子 力 発 電 技 術 は 次 の よ う な 特 性 を 持 つ。 おいては核燃料は、①核燃料を含む燃料ペレッ が相当であり、かつこれをもって足りる。 容器⑤原子炉建屋という五重の壁に閉じ込めら やすことができなかったために放射性物質が外 原発事故では、止めることには成功したが、冷 有効な手だてがないことが示されている。福島 な設備に損傷が生じるものがあり、その結果、 ていったときに、それを超えると、安全上重要 とると、想定する地震動の大きさを徐々に上げ ス(負荷)のレベルのことをいう。地震を例に ラントの状況が急変する地震、津波等のストレ がクリフエッジとして特定された」、被告の準 傷を回避する手段がなくなるため、その境界線 ㍍以上の領域では、炉心にある燃料の重大な損 が1・ Ss以上または許容津波高さが すなわち、原子力発電においてはそこで発出さ れているという構造によって初めてその安全性 燃料の重大な損傷に至る可能性が生じる地震 と炉心損傷に至ることが必然であり、とるべき るを得ず、当裁判所はこれを採用しない。(1) リーのすべてにおいて、止めることに失敗する れるエネルギーは極めて膨大であるため、運転 が担保されているとされ、その中でも重要な壁 動のレベルのことをいう」との各記述があり、 ㌻には「クリフエッジとは、プ 停止後においても電気と水で原子炉の冷却を継 が堅固な構造を持つ原子炉格納容器であるとさ う性質を持つ。このことは、他の技術の多くが という機能と閉じこめるという構造において次 し か る に、 本 件 原 発 に は 地 震 の 際 の 冷 や す らない。なお、当裁判所は被告の主張する1・ これは被告が上記自認をしていることにほかな Ss(1260ガル)という数値をそのまま 運転の停止という単純な操作によって、その被 17 のような欠陥がある。 備書面(9) 続しなければならず、その間に何時間か電源が れている。 及び(2)に説示したところに照らしても、具 47 失われるだけで事故につながり、いったん発生 11 14 した事故は時の経過に従って拡大して行くとい 80 害の拡大の要因の多くが除去されるのとは異な 80 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 70 ≫ 主張を前提とする。 いて説示するところであるが、本項では被告の 採用しているものでないことは、 (2)オにお 隣接する近畿地方とでは地震の発生頻度におい の避難を要することは確実である。 て有意的な違いは認められず、若狭地方の既知 (2)700ガルを超えるが1260ガルに至 東北地方と大飯原発の位置する北陸地方ないし 陸地殻内地震であること③この地震が起きた が被ばくし、又は被ばくを避けるために長期間 大量の放射性物質が施設外に拡散し、周辺住民 ないことは公知の事実である。地震は地下深く ような規模の地震の発生を一度も予知できてい おいて最大というものにすぎないことからする 来世界最大というものではなく近時の我が国に こと④この既往最大という概念自体が、有史以 の活断層に限っても陸海を問わず多数存在する が基準地震動Ssの700ガルをやや上回るも 仮 に、 大 飯 原 発 に 起 き る 危 険 性 の あ る 地 震 らない地震について で起こる現象であるから、その発生の機序の分 のであり、1260ガルに達しないと仮定して し か る に、 我 が 国 の 地 震 学 会 に お い て こ の 析は仮説や推測に依拠せざるを得ないのであっ と、1260ガルを超える地震は大飯原発に到 している現象ではあるがその発生頻度は必ずし かに地震は太古の昔から存在し、繰り返し発生 主張しているが、新潟県中越沖地震では岩盤に れた数値が観測地点の特性によるものである旨 な お、 被 告 は、 岩 手 宮 城 内 陸 地 震 で 観 測 さ る。これらの事態に対し、有効な手段を打てば、 事実になることも被告の自認するところであ も、このような地震が炉心損傷に結びつく原因 ア 被 告 の 主 張 す る イ ベ ン ト ツ リ ー に つ い て、仮説の立論や検証も実験という手法がとれ 来する危険がある。 も高いものではない上に、正確な記録は近時の 建っているはずの柏崎刈羽原発1号機の解放基 炉心損傷には至らないと被告は主張するが、か 盤表面(固い岩 盤が、一定の広がり をもって、 ようなことは期待できない。 て ない以上過去のデータに頼らざるを得ない。確 ものに限られることからすると、頼るべき過去 た場合の事象を想定し、それに応じた対応策が 被 告 は、 7 0 0 ガ ル を 超 え る 地 震 が 到 来 し のデータは極めて限られたものにならざるをえ その上部に地盤や建物がなくむき出しになって あると主張し、これらの事象と対策を記載した ) に よ れ ば、 原 子 力 規 制 委 いる状態のものとして仮想的に設定された表 イベントツリーを策定し、4・ な い。 証 拠( 甲 面)において最大加速度が1699ガルと推定 個の地震を参考にして今後 されていることからすると、被告の主張どおり 波が到来したときの対応についても類似のイベ 員会においても、 起こるであろう震源を特定せず策定する地震動 ㍍を超える津 の規模を推定しようとしていることが認められ ントツリーを策定している。被告は、これらに 4022ガルを観測した地点の地盤が震動を伝 記載された対策を順次とっていけば、1260 る。この数の少なさ自体が地震学における頼る を左右できるものではない。 べき資料の少なさを如実に示すものといえる。 えやすい構造であったと仮定しても、上記認定 したがって、大飯原発には1260ガルを超え ガルを超える地震が来ない限り、津波の場合に を経てメルトダウンが発生する危険性が極めて し か し、 こ れ ら の イ ベ ン ト ツ リ ー 記 載 の 対 する。 傷には至らず、大事故に至ることはないと主張 1260ガルを超える地震が大飯原発に到 高く、メルトダウンに至った後は圧力上昇によ 策が真に有効な対策であるためには、第1に地 る地震は来ないとの確実な科学的根拠に基づく ・4㍍を超えるものでない限りは、炉心損 国において記録された既往最大の震度は岩手宮 る原子炉格納容器の破損、水素爆発あるいは最 震や津波のもたらす事故原因につながる事象を は 城内陸地震における4022ガルであり(争い 悪の場合には原子炉格納容器を破壊するほどの 来した場合には、冷却機能が喪失し、炉心損傷 がない) 、1260ガルという数値はこれをは 水蒸気爆発の危険が高まり、これらの場合には 想定は本来的に不可能である。むしろ、①我が るかに下回るものであること②岩手宮城内陸地 11 震は大飯でも発生する可能性があるとされる内 2014.9.20 65 47 16 ≪ 71 ≫ 困難性は一層明らかである。 は至っていない。一般的には事故が起きれば事 と、第3にこれらの技術的に有効な対策を地震 おける危険性の判断要素となるところ、突発的 ついては規制基準が及ばないとしても、本件に において摘示したように、夜間の宿直人員数に おいてもその原因を将来確定できるという保証 てしまう可能性が極めて高く、福島原発事故に きないため事故原因を確定できないままになっ が起これば、その事故現場に立ち入ることがで が、原子力発電技術においてはいったん大事故 る夜間も昼間と同じ確率で起こる。上記3(2) て技術の安全性を高めていくという側面がある ないということは極めて考えにくい事柄であ での間に重大事故につながる損傷や事象が生じ 準地震動である700ガルから1225ガルま につながる事象が始まるとしているところ、基 電源の問題を除くと1225ガルから重大事故 イベントツリーを見ても、後記の主給水、外部 難であるといえる。被告の提示する地震の際の るものの、政府事故調査委員会は外部電源の問 断たれたことについては共通の認識を示してい ころ、両報告書は共に外部電源が地震によって 委員会の各調査報告書が証拠提出されていると 因について政府事故調査委員会と国会事故調査 握自体が極めて困難である。福島原発事故の原 を把握できていることが前提になるが、この把 をとるためにはいかなる事象が起きているのか 第2に上記イベントツリーにおける対応策 ど対処すべき事柄は極めて多いことが想定でき が断たれると同時に多数個所に損傷が生じるな かを把握できたとしても、地震により外部電源 第 3 に、 仮 に、 い か な る 事 象 が 起 き て い る ることは困難である。 がいかなる事象をもたらしているのかを把握す かなる個所にどのような損傷が起きておりそれ 上に、原子力発電所における事故の進行中にい いことが認められる)。それと同様又はそれ以 態が深刻であればあるほど、それがもたらす混 ておくとしても、いったんことが起きれば、事 対策が技術的に有効な措置であるかどうかはさ 生じていた疑いがある旨指摘しているものの、 るものであるが、本件原子炉におけるこれらの 源の他にも地震によって事故と直結する損傷が 員への聴取調査等を経て津波の到来前に外部電 地震の到来時刻と津波の到来時刻の分析や従業 時間が福島第一原発より特に長いとは認められ されている(上記時間は福島第一原発の例によ 少によって炉心損傷に結びつく可能性があると 断であったとしても 10 広島ジャーナリスト 18 号 余すことなくとりあげること、第2にこれらの や津波の際に実施できるという3つがそろわな な危機的状況に直ちに対応できる人員がいかほ 故 原 因 の 解 明、 確 定 を 行 い そ の 結 果 を 踏 ま え ければならない。 どか、あるいは現場において指揮命令系統の中 第1に地震はその性質上従業員が少なくな イ イベントツリー記載の事象について 深刻な事故においては発生した事象が新た はない(甲 事象に対して技術的に有効な対策を講じるこ な事象を招いたり、事象が重なって起きたりす 心となる所長が不在か否かは、実際上は、大き によれば、チェルノブイリ事故の るものであるから、第1の事故原因につながる る。被告がイベントツリーにおいて事故原因に るのに対し、全交流電源喪失から炉心損傷開始 原因も今日に至るまで完全には解明されていな つながる事象のすべてをとりあげているとは認 題を除くと事故原因に結びつくような地震によ な意味を持つことは明らかである。 め難い。 までの時間は5時間余であり、炉心損傷の開始 後間もなく到来した津波であるとする。他方、 からメルトダウンの開始に至るまでの時間も2 乱と焦燥の中で適切かつ迅速にこれらの措置を 地震がいかなる個所にどのような損傷をもたら ないし、第1次冷却水に係る水管破断による冷 国会事故調査委員会は地震の解析に力を注ぎ、 時間もないのであって、たとえ小規模の水管破 とることを原子力発電所の従業員に求めること しそれがいかなる事象をもたらしたかの確定に 時間足らずで冷却水の減 はできない。特に、次の各事実に照らすとその ま た、 事 象 に 対 す る イ ベ ン ト ツ リ ー 記 載 の ついて ウ イ ベ ン ト ツ リ ー 記 載 の 対 策 の 実 効 性 に る損傷は認められず、事故の直接の原因は地震 事象のすべてを取り上げること自体が極めて困 32 ≪ 72 ≫ い。上述のとおり、運転停止中の原子炉の冷却 であって普段からの訓練や試運転にはなじまな かはその性質上、緊急時にやむを得ずとる手段 第4にとるべきとされる手段のうちいくつ 震によって段差ができ、最終の冷却手段ともい 土部分があることから、埋戻土部分において地 られる。大飯原発も柏崎刈羽原発と同様に埋戻 来することはまず考えられないと主張する。し 困難となることも想定できる。大飯原発には、 あり、そもそも、700ガルを超える地震が到 うべき電源車を動かすことが不可能又は著しく かし、この理論上の数値計算の正当性,正確性 の理論上導かれるガル数の最大数値が700で 基づき活断層の状況等を勘案した場合の地震学 エ 基 準地震動の信頼性について 被 告 は、 大 飯 の 周 辺 の 活 断 層 の 調 査 結 果 に の で あ っ た り す る か ら、 地 震 に よ っ て 崖 崩 れ は外部電源が担い、非常事態に備えて水冷式非 非常用ディーゼル発電機を初めとする各種非常 について論じるより、現に、下記のとおり(本 に柏崎刈羽原索においてその敷地内で活断層が 常用ディーゼル発電機のほか空冷式非常用発電 用設備が複数存在することが認められるが、上 件5例) 、全国で 却水の減少速度は加圧水型である本件原子炉の 装置、電源車が備えられているとされるが、た 記に摘示したことを一例として地震によって複 ち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を が起き交通が寸断されることは容易に想定でき とえば空冷式非常用発電装置だけで実際に原子 数の設備が同時にあるいは相前後して使えなく 超える地震が平成 動いたわけではないが、敷地内の埋戻土部分に 炉を冷却できるかどうかをテストするというよ なったり故障したりすることは機械というもの 来しているという事実を重視すべきは当然であ 方が沸騰水型である福島第一原発のそれより速 うなことは危険すぎてできようはずがない。 の性質上当然考えられることであって、防御の る。 第5にとるべきとされる防御手段に係るシ ための設備が複数備えられていることは地震の る。地震の想定に関しこのような誤りが重ねら おいて1・6㍍に及ぶ段差が生じたことが認め ステム自体が地震によって破損されることも予 際の安全性を大きく高めるものではないといえ れてしまった 理由については、 そもそも(1) いとも考えられる) 。 想できる。大飯原発の何百㍍にも及ぶ非常用取 る。 取水路の下を将来活動する可能性のある断層な いえる。なお、原告らの主張のとおり、非常用 発電機が稼働できなくなることが想定できると 存しているすべての水冷式の非常用ディーゼル て破損されれば、非常用取水路にその機能を依 れればその場所での作業は不可能となる。最悪 がらのものになろうし、実際に放射性物質が漏 の危険に常に注意を払いつつ瓦礫等を除去しな 地震が起きた場合の対応については放射性物質 ばその場所には近寄ることさえできなくなる。 第6に実際に放射性物質が一部でも漏れれ 題がないものの、地震動を推定する複数の方式 アスペリティの存在を前提とすること自体は問 こと自体に無理があるのではないか、あるいは 存在位置を想定するなどして地震動を推定する アスペリティの存在を前提としてその大きさと に摘示した地震学の限界に照らすと仮説である 年以後 年足らずの間に到 カ所にも満たない原発のう 水路が一部でも700ガルを超える地震によっ いしは将来地盤にずれを生じさせるおそれのあ について原告らが主張するように選択の誤りが うが、これらの問題については今後学術的に解 の事態を想定すれば中央制御室からの避難をも 第 7 に、 大 飯 原 発 に 通 ず る 道 路 は 限 ら れ て 決すべきものであって、当裁判所が立ち入って る断層が走っているとすれば、700ガル未満 の水冷式の非常用ディーゼル発電機が稼働でき おり施設外部からの支援も期待できない。この 判断する必要のない事柄である。 あったのではないか等の種々の議論があり得よ なくなる危険があることになるが、本件におい 道路は山が迫った海岸沿いを伸びるものであっ 記 余儀なくされることになる。 ては上記原告らの主張の当否について判断する たり、いくつかのトンネルを経て通じているも の地震によっても非常用取水路が破損しすべて 必要を認めない。また、新潟県中越沖地震の際 2014.9.20 10 20 17 ≪ 73 ≫ 年8月 日 の事例はいずれも地震という自然の前における かかわらず結論を誤ったものといえる。これら 最新の知見に基づく基準に従ってなされたにも 分却下決定後に専門家の全員一致の見解として 破砕帯と呼ばれる破砕帯については、上記仮処 非常用取水路の下を南北に走っている新F―6 いとの評価が得られた。 人間の能力の限界を示すものというしかない。 活断層ではなくまた地滑りとしての危険性もな 翻 っ て み る と、 こ の よ う な 主 張 の 変 遷 が な 本件原発の地震想定が基本的には上記4つの原 されること自体、破砕帯の走行状況についての 志賀原発 日 発におけるのと同様、過去における地震の記録 被告の調査能力の欠如や調査の杜撰さを示すも 年7月 能登半島地震 と周辺の活断層の調査分析という手法に基づき ③平成 新潟県中越沖地震 柏崎刈羽原発 なされたにもかかわらず、被告の本件原発の地 年3月 電所の周辺地域における活断層の調査が厳密に のであるといえる。発電所の敷地内部において なされたと信頼することはできないというべき 震想定だけが信頼に値するという根拠は見出せ ま た、 被 告 の 本 件 原 発 の 地 震 想 定 に つ い て 日 は、前提事実(2)に記載した各事実に加え証 である。このことと、地震は、必ずしも既知の 年3月 東北地方太平洋沖地震 女川原発 被告は、上記地震のうち3回(①、④、⑤) )及び弁論の全趣旨によれば、次 ⑤平成 は大飯原発の敷地に影響を及ぼしうる地震とは 拠(甲 、 さえこのような状況であるから、被告による発 地震発生のメカニズムが異なるプレート間地震 ない。 日 ④平成 11 11 東北地方太平洋沖地震 福島第一原発 23 23 れているから、あるいは、①②③の地震想定は つの地震を踏まえて大飯原発の地震想定がなさ の地震はプレート間地震ではないもののこの2 あるか否かについては専門家の間でも意見が分 切るF―6破砕帯と呼ばれる破砕帯が活断層で ぼ東西に走る非常用取水路の下をほぼ南北に横 が認められる。すなわち、大飯原発の敷地をほ によるものであることから、残り2回(②、③) のような信頼性を積極的に失わせるような事情 想定は信頼性に乏しいといえる。 いはずであり、この点において既に被告の地震 上記性質の地震が起こり得ることは否定できな 足から発見できなかった活断層が関わる地震や ると、大飯原発の周辺において、被告の調査不 活断層で発生するとは限らないことを考え併せ て得ることができる限りの情報に基づき当時の り2回の地震想定(②、③)もその時点におい 評価を誤ったということにほかならないし、残 分析をしたにもかかわらず、プレート間地震の は我が国だけでなく世界中のプレート間地震の し か し、 上 記 3 回( ①、 ④、 ⑤ ) に つ い て らないと主張している。 本件原発の地震想定の不十分さを示す根拠とな ことを理由として、これらの地震想定の事例は いるSs基準による地震動の想定と違うという 基準による地震動であり、本件原発でとられて し、その後の掘削によりその存在が確認された の下を走っている破砕帯の連続性がないと主張 定し、上記台場浜トレンチ地点と非常用取水路 た。しかるところ、被告は従前の調査結果を否 浜トレンチ地点の破砕帯の評価を巡って争われ あるとされた非常用放水路の北に位置する台場 査結果に基づき、上記F―6破砕帯と連続性が 被告の発電所敷地内の破砕帯に関する従前の調 な争点のひとつであった。この争点については る大阪地方裁判所の仮処分事件においても主要 るかを示す数値であるとしている。 基準地震動の何倍の地震動まで機能を維持し得 そして,安全裕度の意義については対象設備が の危険性が生じることはないと主張している。 ても直ちに安全上重要な施設の損傷(機能喪失) あり、たとえ基準地震動を超える地震が到来し に、原発の施設には安全余裕ないし安全裕度が 上重要な施設に損傷が生じなかったことを前提 オ 安全余裕について 被告は本件5例の地震によって原発の安全 平成 かれていたもので、大飯原発の差し止めを求め 72 年改正前の旧指針に基づく、Sl、S2 41 広島ジャーナリスト 18 号 ①平成 16 宮城県沖地震 女川原発 日 25 年3月 17 16 ②平成 19 19 18 ≪ 74 ≫ ろの安全余裕を基準とした審査がなされること (3)700ガルに至らない地震について のいずれについてもこれを認めるに足りる証拠 柏崎刈羽原発に生じた損傷がはたして安全 上重要な施設の損傷ではなかったといえるの 0ガルを下回る地震によって外部電源が断た ア 施設損壊の危険 本件原発においては基準地震動である70 し た が っ て、 た と え、 過 去 に お い て、 原 発 れ、かつ主給水ポンプが破損し主給水が断たれ はない。 有無が確定されていないのではないかという疑 施設が基準地震動を超える地震に耐えられたと か、福島第一原発においては地震による損傷の いがあり、そもそも被告の主張する前提事実自 るおそれ があると認められる( 甲 に は「 『主 体が立証されていない。 この点をおくとしても、 いう事実が認められたとしても、同事実は、今 被告のいう安全余裕の意味自体が明らかでな 後、基準地震動を超える地震が大飯原発に到来 震B、Cクラス設備等の破損により発生するこ 給水喪失』―『外部電源喪失』については、耐 60ガル以上の地震が到来すると、原子炉は緊 しても施設が損傷しないということをなんら根 カ 中 央防災会議における指摘 大飯を含む日本のどの地域においても大規 急停止することになるが、被告においても、た い。弁論の全趣旨によると、一般的に設備の設 ら、求められるべき基準をぎりぎり満たすので 模な地震が到来する可能性はあるのであり、そ とえば200ガルの地震が大飯に到来した場 とから、Ssまでの地震動で発生すると考えら はなく同基準値の何倍かの余裕を持たせた設計 れが大規模であればあるほど、その確率が低く 合、外部電源が断たれなければ外部電源で冷却 それは単に上記の不確定要素が比較的安定して に設計した場合でも、基準を超えれば設備の安 ことが強く求められると考えられる。このよう 多いといえるから、余裕を持たせた設計をする る等の事実があるとすれば、上記不確定要素が 縮みを繰り返すことによる材料の疲労現象があ ている鋼材などに温度差・熱膨張差による伸び 高温側と低温側に大きな温度差があり、使われ ような規模の被害地震が発生する可能性がある かっても設備が損傷しないことも当然あるが、 よるものも少なくないことから、どこでもこの 全は確保できない。この基準を超える負荷がか と考えられる」との指摘がなされており、この 活断層が地表に見られていない潜在的な断層に ずしも既知の活断層で発生した地震であるとは M(マグニ チュード)7・3以下 の地震は、必 かれた中 央防災会議、「東南海、南 海地震に関 事 態 で あ る こ と は 明 ら か で あ る。 福 島 原 発 事 なるのであり、その名が示すとおりこれが非常 ば非常用ディーゼル発電機に頼らざるを得なく 地震断層は活断層に区分されるものもあるが、 れば主給水で冷却し主給水が断たれれば補助給 する専門調査会」においても、「地表に現れた 故においても外部電源が健全であれば非常用 発生する被害地震のうちM7・3以下の地震は、 るための第1の砦であり、外部電源が断たれれ 限らないことがわかる。したがって、内陸部で ディーゼル発電機の津波による被害が事故に直 機で冷却することになり、主給水が断たれなけ し外部電源が断たれれば非常用ディーゼル発電 れる」との記載がある)。大飯原発の敷地に1 がなされることが認められる。原告らが主張す なるというにすぎない。平成 年6月 日に開 いたことを意味するにすぎないのであって、安 指摘は上記知見に沿うものであるところ、証拠 冷却機能維持のための命綱であり、これが断た イ 施設損壊の影響 外部電源は緊急停止後の冷却機能を保持す 水設備が冷却手段となる旨主張している。 全が確保されていたからではない。以上のよう 結することはなかったと考えられる。主給水は 、 であっても700ガルをはるかに超える震度を な一般的な設計思想と異なる特有の設計思想や (甲 、 )によれば、M7・3以下の地震 12 溶接や保守管理の良否等の不確定要素が絡むか るように、原子炉圧力容器や蒸気発生器などが 計に当たって、 様々な構造物の材質のばらつき、 拠づけるものではない。 14 れた場合にはその名が示すとおり補助的な手段 2014.9.20 24 設計の実務が原発の設計においては存在するこ 63 もたらすことがあると認められる。 62 と、原子力規制委員会において被告のいうとこ 38 ≪ 75 ≫ あって、電気と水のいずれかが一定時間断たれ て水を循環させることによって維持されるので 前記のとおり、原子炉の冷却機能は電気によっ が伴うことは(2)において摘示したとおりで 困難性や時間的な制約のなかでその実現に困難 ていき、不確実性も増していく。事態の把握の 態に進展し、未経験の手作業による手順が増え ④高圧注入及び格納容器スプレイによる継続し う酸の添加③余熱除去系による冷却のうち、い 蒸気逃がし弁による熱放出②充てん系によるほ 却が行われており、燃料の重大な損傷に至る事 水を最終ヒートシンクとした安定、継続的な冷 b aが成功した場合の効果 この状態では未臨界性が確保された上で海 展する。 ( イ ) イ ベ ン ト ツ リ ー(( ア ) c の 場 合 の 収 束シナリオ) a 手 法 ①タービン動補助給水ポンプによる蒸気発 生器への給水が行われ、②現場での手動作業に 水を水源とした安定、継続的な2次系冷却が行 われており、燃料の重大な損傷に至る事態は回 避される。 c aが失敗した場合の効果 ①タービン動補助給水ポンプによる蒸気発 して、下記のとおり、 (ア)のイベントツリー また上記証拠によれば、上記事態の回避措置と 納容器の冷却のうち、いずれか一つに失敗する 却及び原子炉格納容器スプレイによる再循環格 による格納容器徐熱、⑥高圧注入による炉心冷 ことに伴う不安定なものといわざるを得ない。 器逃がし弁による熱放出、③格納容器スプレイ c aが失敗した場合の効果 ① 高 圧 注 入 に よ る 原 子 炉 へ の 給 水、 ② 加 圧 ではないから基準地震動に対する耐震安全性の エ 被 告の主張について 被 告 は、 主 給 水 ポ ン プ は 安 全 上 重 要 な 設 備 る。 ち,いずれか一つに失敗すると、炉心損傷に至 注入、⑥空冷式非常用発電装置による給電のう 気逃がし弁の開放、③蓄庄タンクのほう酸水の 生器への給水、②現場での手動作業による主蒸 が用意され、更に(ア)のイベントツリーにお と、非常用所内電源からの給電ができないのと 広島ジャーナリスト 18 号 にすぎない補助給水設備に頼らざるを得ない。 一つに失敗しただけでも、加速度的に深刻な事 れば大事故になるのは必至である。原子炉の緊 ある。 空冷式非常用発電装置による給電を行うととも 急停止の際、この冷却機能の主たる役割を担う より主蒸気逃がし弁を開放し、2次系による冷 却が行われる。③蓄圧タンクのほう酸水を注入 に、蓄庄タンク出口隔離弁を中央制御室からの べき外部電源と主給水の双方がともに700ガ ルを下回る地震によっても同時に失われるおそ a 手法 ① 高 圧 注 入 ポ ン プ の 起 動、 ② 加 圧 器 逃 が し し、未臨界性を確認し、④蓄電池の枯渇までに 弁の開放、③格納容器スプレイポンプの起動を 記 (ア)イベントツリー れがある。そして、その場合には(2)で摘示 したように実際にはとるのが困難であろう限ら れた手段が効を奏さない限り大事故となる。 、 た1次系冷却を行う。 みると次の点が指摘できる。証拠(甲 によれば、緊急停止後において非常用ディーゼ ずれか一つに失敗しただけで、補助給水設備に 態は回避される。 蒸気発生器への給水が行われたとしても、①主 よる蒸気発生器への給水ができないのと同様の ける措置に失敗した場合の(イ)のイベントツ 同様の非常事態(緊急安全対策シナリオ)に進 補助給水設備の実効性は補助的手段にすぎない リーも用意されてはいるが、各手順のいずれか 事態に進展することが認められるのであって、 b aが成功した場合の効果 この状態では未臨界性が確保された上で海 ウ 補助給水設備の限界 中央制御室からの手動操作により行い、燃料取 手動操作により閉止する。また、復水ピット枯 こ の こ と を、 上 記 の 補 助 給 水 設 備 に つ い て 替用水ピットのほう酸水を注入し、1次系の冷 渇までに海水の復水ピットへの補給を行うこと ) 却を行う。注入 の後、再循環切り 替えを行い、 により、2次系冷却を継続する。 16 ル発電機が正常に機能し、補助給水設備による 14 ≪ 76 ≫ ンプは別紙3の下図に表示されているものであ 確認は行われていないと主張するが、主給水ポ 描すると、日本列島の形さえ覆い隠されてしま 上、深さ100㌔㍍以下の地震を世界地図に点 2010年までにおいてマグニチュード4以 子力発電所敷地外部に放出されることを防御す 料プールから放射性物質が漏れたときこれが原 の本数は1000本を超えるが、使用済み核燃 使 用 済 み 核 燃 料 は、 原 子 炉 か ら 取 り 出 さ れ り、位置関係を見ただけでも、その重要性を否 た後の核燃料であるが、なお崩壊熱を発し続け る原子炉格納容器のような堅固な設備は存在し こ の 地 震 大 国 日 本 に お い て、 基 準 地 震 動 を ているので、水と電気で冷却を継続しなければ ない。 超える地震が大飯原発に到来しないというのは な ら な ら な い と こ ろ、 そ の 危 険 性 は 極 め て 高 うほどであり、日本国内に地震の空白地帯は存 あって、そのことは被告も認めているところで 根拠のない楽観的見通しにしかすぎない上、基 い。福島原発事故においては、4号機の使用済 在しないことが認められる。日本が地震大国と ある。安全確保の上で不可欠な役割を第1次的 準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪 み核燃料プールに納められた使用済み核燃料が 定することに疑問が生じる。また、主給水ポン に担う設備はこれを安全上重要な設備であると 失による重大な事故が生じ得るというのであれ プの役割は主給水の供給にあり、主給水によっ して、それにふさわしい耐震性を求めるのが健 ば、そこでの危険は、万が一の危険という領域 危機的状況に陥り、この危険性ゆえに前記の避 (2)使用済み核燃料の危険性 全な社会通念であると考えられる。このような をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価 難計画が検討された。原子力委員会委員長が想 いわれる由縁である。 設備を安全上重要な設備ではないとするのは理 できる。このような施設のあり方は原子力発電 定した被害想定のうち、最も重大な被害を及ぼ て冷却機能を維持するのが原子炉の本来の姿で 解に苦しむ主張であるといわざるを得ない。 所が有する前記の本質的な危険性についてあま オ 基準地震動の意味について 日 本 語 と し て の 通 常 の 用 法 に 従 え ば、 基 準 めるべき地域が170㌔㍍以遠にも生じる可能 料プールからの汚染も考えると、強制移転を求 の放射能汚染であり、他の号機の使用済み核燃 すと想定されたのは使用済み核燃料プールから 6 閉 じこめるという構造について(使用済み 核燃料の危険性) りにも楽観的といわざるを得ない。 地震動というのはそれ以下の地震であれば、機 能や安全が安定的に維持されるという意味に解 される。基準地震動Ss未満の地震であっても 重大な事故に直線する事態が生じ得るというの 原子力発電所は、いったん内部で事故があっ を含む250㌔㍍以遠にも発生する可能性があ るべき地域が東京都のほぼ全域や横浜市の一部 性や、住民が移転を希望する場合にこれを認め に基準地震動である700ガル以上の地震が到 たとしても放射性物質が原子力発電所敷地外部 り、これらの範囲は自然に任せておくならば、 であれば、基準としての意味がなく、大飯原発 (1)使用済み核燃料の現在の保管状況 来するのかしないのかという議論さえ意味の薄 に出ることのないようにする必要があることか ら、その構造は堅固なものでなければならない。 数十年は続くとされた。 いものになる。 (4)小括 2014.9.20 日当時4号機は計画停止期 間中であったことから使用済み核燃料プールに 年3月 は堅固な構造をもつ原子炉格納容器の中に存す 隣接する原子炉ウエルと呼ばれる場所に普段は 平成 レート、ユーラシアプレート及びフィリピンプ る。他方、使用済み核燃料は本件原発において 張 ら れ て い な い 水 が 入 れ ら れ て お り、 同 月 そ の た め、 本 件 原 発 に お い て も 核 燃 料 部 分 レートの4つのプレートの境目に位置してお は原子炉格納容器の外の建屋内の使用済み核燃 日以前に全電源喪失による使用済み核燃料の温 日 本 列 島 は 太 平 洋 プ レ ー ト、 オ ホ ー ツ ク プ り、 全 世 界 の 地 震 の 1 割 が 狭 い 我 が 国 の 国 土 料プールと呼ばれる水槽内に置かれており、そ 11 で 発 生 す る と い わ れ て い る。 1 9 9 1 年 か ら 23 15 ≪ 77 ≫ 記の避難計画が現実のものにならなかったのは 使用済み核燃料プールが破滅的事態を免れ、上 ということが重なった。そうすると、4号機の き飛んだためそこから水の注入が容易となった えって水素爆発によって原子炉建屋の屋根が吹 核燃料プールの保水機能が維持されたこと、か に水素爆発が起きたにもかかわらず使用済み て、期せずして水が流れ込んだ。また、4号機 で両方のプールを遮る防壁がずれることによっ 済み核燃料プールに原子炉ウエルから水圧の差 度上昇に伴って水が蒸発し水位が低下した使用 よりもはるかに高いことからすると(被告準備 レットの溶解温度が原子炉格納容器の溶解温度 る。そして、五重の壁の第1の壁である燃料ペ 測の事態に対しても核燃料を守ることができ 守るという側面もあり、たとえば建屋内での不 子炉格納容器の外部からの事故から核燃料を 部に漏らさないということを目的とするが、原 るという技術は、核燃料に係る放射性物質を外 格納容器という堅固な施設で核燃料を閉じこめ み核燃料の方が危険であるともいえる。原子炉 たように被害の大きさだけを比較すれば使用済 灰)をはる かに多く含むから、( 2)に摘示し ではなく全電源が喪失し空だき状態が生じた場 イ 電 源喪失事故について 上記のような破断等による冷却水喪失事故 る。 て万全の措置をとられているということができ 堅固な施設によって防御を固められてこそ初め 心部分と同様に外部からの不測の事態に対して い。使用済み核燃料も原子炉格納容器の中の炉 ることがなかったことは誠に幸運と言うしかな などによって使用済み核燃料が大きな損傷を被 至らなかったこと、あるいは瓦礫がなだれ込む の水素爆発に耐えて破断等による冷却水喪失に わらず4号機の使用済み核燃料プールが建屋内 ぎょうこう 僥倖ともいえる。 )によると①核燃料ペレット②燃料 ア 冷却水喪失事故について 使用済み核燃料においても破損により冷却 な施設で囲い込む必要はないとするが、以下の ので冠水状態を保てばよいだけであるから堅固 に保たれた水により冠水状態で貯蔵されている 度以下 した場合には放射性物質が放出されるおそれが に配管等の破損により一次冷却水の喪失が発生 高温、高圧の一次冷却水で満たされており、仮 被 告 は、 原 子 炉 格 納 容 器 の 中 の 炉 心 部 分 は るが、他方では原子炉格納容器が竜巻防御施設 原子炉格納容器には求められていないと主張す きないといえる。なお、被告はかような機能は て核燃料を守るという役割を軽視することはで 子炉格納容器の外部における不測の事態に対し ことになるから原子炉格納容器の機能として原 崩壊に対しては確たる防御機能を果たし得ない ている)、原子炉格納容器は炉心内部からの熱 度であり、外に向かうほど溶解温度が低くなっ 1800度③及び④が1500度⑤が1300 屋の溶解温度は、それぞれ①が2800度②が 被覆管③原子炉圧力容器④原子炉格納容器⑤建 るなどと主張しているが、被告の主張する安全 地震動に対しても十分な耐震安全性を有してい が、安全余裕があることからすると実際は基準 却設備は耐震クラスとしてはBクラスである きると主張し、また使用済み核燃料プールの冷 プールに危険性が発生する前に確実に給水がで 被 告 は、 電 源 を 喪 失 し て も 使 用 済 み 核 燃 料 と比較しても意味がない。 時間という時間は異常に短いのであって、それ 危険性が発生するものでない。しかし、上記5 喪失によって危険性が高まるものの時間単位で 用済み核燃料も崩壊熱を発し続けるから全電源 時間余で炉心損傷が開始する。これに対し、使 合においては、核燃料は全交流電源喪失から5 書 面( 水が失われれば被告のいう冠水状態が保てなく の外殻となる施設であると位置づけており、被 (3)被告の主張について なるのであり、その場合の危険性は原子炉格納 告の主張は採用できない。 い は な い。 む し ろ、 使 用 済 み 核 燃 料 は 原 子 炉 うな堅固な施設に囲まれていなかったにもかか 福島原発事故において原子炉格納容器のよ おいて摘示したとおりであり、地震が基準地震 余裕の考えが採用できないことは5(2)オに とおり失当である。 あるのに対し、使用済み核燃料は通常 容器の一次冷却水の配管破断の場合と大きな違 14 内の核燃料よりも核分裂生成物(いわゆる死の 40 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 78 ≫ み核燃料プールが地震によって危機的状況に陥 が損壊する具体的可能性がある。また、使用済 でなくても、使用済み核燃料プールの冷却設備 動を超えるものであればもちろん、超えるもの いるのである。 いないままいわばむき出しに近い状態になって なものが、堅固な設備によって閉じこめられて ら3日を経ずして危機的状態に陥る。そのよう で重大な事故に至るようなことはなくなり、破 を失っていくのであって、時間単位の電源喪失 においては時の経過に従って確実にエネルギー ルギーを発出することになる一方、運転停止後 らないのであって、このような状況下において ことが多いということを念頭に置かなければな して隣接する原子炉も危機的状態に陥っている を設けるためには膨大な費用を要するというこ 済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備 日々生み出されていくものであるところ、使用 使用済み核燃料は本件原発の稼動によって 段であると認められる。 は上記具体的危険性を軽減する適切で有効な手 きる。そうすると、本件原子炉の運転差し止め また運転停止によってその増加を防ぐことがで 燃料も時の経過に従って崩壊熱を失っていき、 滅的な被害をもたらす可能性がある使用済み核 被告の主張どおりに確実に給水ができるとは認 とに加え、国民の安全が何よりも優先されるべ る場合にはこれと並行してあるいはこれに先行 (4)小括 め難い。被告は福島原発事故を踏まえて使用済 とにかような対応が成り立っているといわざる をとり、注水等の訓練も重ねたと主張するが、 故はめったに起きないだろうという見通しのも 地震動に耐えられるまで強度を上げる、基準地 基準には外部電源と主給水の双方について基準 様々な施策が採られようとしているが、新規制 現 在、 新 規 制 基 準 が 策 定 さ れ 各 地 の 原 発 で み核燃料の冷却機能の維持について様々な施策 きであるとの見識に立つのではなく、深刻な事 深刻な事故においては発生した事象が新たな事 を得ない。 震動を大幅に引き上げこれに合わせて設備の強 象を連鎖的に招いたりするものであり、深刻事 故がどのように進展するのかの予想はほとんど 隣接する原子炉格納容器から噴出すればそのと けでもない。たとえば、高濃度の放射性物質が いし、福島原発事故の全容が解明されているわ 発事故のとおり推移することはまず考えられな ルの双方の冷却に失敗した場合の事故が福島原 残るというにとどまらず、むしろ、確たる根拠 備は、万全ではないのではないかという疑いが 点からみると、本件原発に係る安全技術及び設 る人格権を放射性物質の危険から守るという観 以 上 に み た よ う に、 国 民 の 生 存 を 基 礎 と す 7 本件原発の現在の安全性と差し止めの必要 性にづいて こととなる。 件原発の安全技術及び設備の脆弱性は継続する が稼働に至る可能性がある。こうした場合、本 がないまま新規制基準の審査を通過し本件原発 き、5、6に摘示した問題点が解消されること いない。したがって、被告の再稼働申請に基づ 堅固な施設で囲い込む等の措置は盛り込まれて 度を高める工事を施工する、使用済み核燃料を たんに使用済み核燃料プールへの水の注入作業 のない楽観的な見通しのもとに初めて成り立ち 不可能である。原子炉及び使用済み核燃料プー は不可能となる。弥縫策にとどまらない根本的 本件使用済み核燃料プールにおいては全交 み核燃料の危険性は運転差し止めによって直ち 子炉及び本件使用済み核燃料プール内の使用済 て冷却水の再循環ポンプが機能しないという安 ると主張し、また冷却材喪失事故発生時におい るという機能においても本件原発には欠陥があ 8 原 告らのその余の主張について 原 告 ら は、 地 震 が 起 き た 場 合 に お い て 止 め 施策をとらない限り 「福島原発事故を踏まえて」 得る脆弱なものであると認めざるを得ない。 流電源喪失から3日を経ずして冠水状態が維持 に消失するものではない。しかし、本件原子炉 という言葉を安易に用いるべきではない。 できなくなる。我が国の存続に関わるほどの被 内の核燃料はその運転開始によって膨大なエネ 前 記 4 に 摘 示 し た 事 実 か ら す る と、 本 件 原 害を及ぼすにもかかわらず、全交流電源喪失か 2014.9.20 ≪ 79 ≫ この処分の問題が将来の世代に重いつけを負 廃棄物の処分先が決まっておらず、同廃棄物の 原 告 ら は、 上 記 各 諸 点 に 加 え、 高 レ ベ ル 核 求の可否についても判断する必要はない。 に基づく請求も選択的なものであるから、同請 性の有無について判断の必要はないし、環境権 められる以上、原告らの主張するその余の危険 いう機能及び閉じ込めるという構造に欠陥が認 的な主張と解され、上記の地震の際の冷やすと ている。しかし、これらの危険性の主張は選択 の危険等さまざまな要因による危険性を主張し 険性、津波による危険、テロによる危険、竜巻 応力によるクラック及び冷却水漏洩の発生の危 富であり、これを取り戻すことができなくなる こに国民が根を下ろして生活していることが国 でに数万年もの年月を要することからすると、 出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそ 危険性が極めて高い上、その危険性が消えるま ことが国富の喪失であると当裁判所は考えてい 額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流 あるが、たとえ本件原発の運転停止によって多 トの問題に関連して国富の流出や喪失の議論が 性、コストの問題にとどまっている。このコス 原発の稼働停止による不都合は電力供給の安定 であるといえる。被告の主張においても、本件 う因果の流れはこれを考慮する必要のない状況 伴って人の生命、身体が危険にさらされるとい の稼働停止によって電力供給が停止し、これに 原子力発電への依存率等に照らすと、本件原発 ないことであると考えている。我が国における 論の当否を判断すること自体、法的には許され べ て 論 じ る よ う な 議 論 に 加 わ っ た り、 そ の 議 件原発という特定の原子力発電所の法的な差止 ものではあるが、ここで想定される危険性は本 ると主張している。これらの主張は理解可能な まで存在するから原告ら全員が本件請求をでき チェルノブイリから1000㌔㍍を超える地点 事故においては放射性物質に汚染された地域が 展すると主張している。また、チェルノブイリ 国民全員がその生活基盤を失うような被害に発 起こし、同様のことが繰り返される結果、日本 されること等によりその原子力発電所が事故を 周囲の原子力発電所の従業員も避難を余儀なく 請求を認容すべきである。 険があると認められるから、これらの原告らの て直接的にその人格権が侵害される具体的な危 目録1記載の各原告)は、本件原発の運転によっ 発から250㌔㍍圏内に居住する者(別紙原告 関わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並 わせることを差し止めの理由としている。幾世 る。 全技術上の欠陥、3号機における溶接部の残留 結論 以 上 の 次 第 で あ り、 原 告 ら の う ち、 大 飯 原 代にもわたる後の人々に対する我々世代の責任 与えられているかについては疑問があるが、7 担当する裁判所に、この間題を判断する資格が て、現在の国民の法的権利に基づく差止訴訟を ひとたび深刻事故が起こった場合の環境汚染は 面で優れている旨主張するが、原子力発電所で 2(二酸化炭素)排出削減に資するもので環境 ま た、 被 告 は、 原 子 力 発 電 所 の 稼 働 が C O して、これを棄却することとする。 録2記載の各原告)の請求は理由がないものと 250㌔㍍圏外に居住する原告ら(別紙原告目 は 認 め ら れ な い。 し た が っ て、 大 飯 原 発 か ら 請求を基礎付けるに足りる具体性のある危険と 原 告 ら は、 本 件 原 発 で 大 事 故 が 起 き れ ば、 という道義的にはこれ以上ない重い問題につい に説示したところによるとこの判断の必要もな すさまじいものであって、福島原発事故は我が 裁判官 裁判官 石田明彦 三宅由子 裁判長裁判官 樋口英明 福井地方裁判所民事第2部 いこととなる。 継続の根拠とすることは甚だしい筋違いであ 国始まって以来最大の公害、環境汚染であるこ 9 被 告のその余の主張にづいて 他 方、 被 告 は 本 件 原 発 の 稼 働 が 電 力 供 給 の る。 とに照らすと、環境問題を原子力発電所の運転 安定性、コストの低減につながると主張するが 当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに 広島ジャーナリスト 18 号 10 入隊動機、少ない国土防衛 災害救助組織こそ本来の姿 横須賀の市民反戦グループ「非核市民宣言運動・ヨコスカ」と「ヨコスカ平和船団」で反基 地運動を続ける新倉裕史さんが6月 日、呉市の「ビューポートくれ」で講演、日米合意に反 新倉 裕史 人が聴いた。以下、 け。 のはよろずピースバンドで、デモの演奏を受け 隊の総監部前で訴えているところ。映っている 空 母 ジ ョ ー ジ・ ワ シ ン ト ン が[2 0 0 8 年 に 横 須賀を事実上の母港として配備された。これが 横 須 賀 は 呉 と 違 っ て 米 海 軍 が い る。 原 子 力 スカ平和船団。平和船団を名乗っているのは今 [1]ジョージ・ワシントン 1992年就役。米 [1] 持っている。もう一つの写真=下段㊧=はヨコ 国外の港を事実上の母港とする唯一の空母。 になっている。この写真=下段㊨=は海上自衛 基地の街横須賀で 年前から反基地運動を続 けている。月例デモはこの6月で460回。一 50 度も中止したことがない。そこそこ楽しいデモ 講演の要旨。 トすべきだ」と述べた。ピースリンク広島・呉・岩国が主催し、市民ら約 とを紹介した。そのうえで、内閣府の世論調査結果もふまえ「自衛隊を災害救助組織へとシフ ▽自衛官として大切なのは「9条を守る」「専守防衛」と考えている―などの声が多かったこ 実施、回答率は低かったが、入隊時には外国を占領する軍隊に参加すると予想していなかった 母の定期修理も、合意に反して毎年行われているという。また、自衛官に対するアンケートも して米原子力艦船が日常的に放射性廃棄物を艦外搬出している実態を明らかにした。原子力空 29 日常的な放射線事故 43 ピースリンク広島・呉・岩国と横須賀の二つだ 最大の問題 だ。 特 に 福 島原発事故 後、 原 子 力 艦船の原子 炉が事故を 起こすので はと懸念し て い る。 も ともと原子 力艦船用に 開 発 さ れ、 それが原発 に応用され た。 日 本 に 原子力潜水 艦が入港す る直前に米 政府が出し た文書に は、 こ う 書 いてあっ た。「 陸 上 に設置され た原子力発 電所の原子 炉 と 同 等 の 安 全 性 を 確 保 し て い る 」。 こ れ は、 安全性の確保とはいえない。原発事故が繰り返 され、福島で致命的な大事故に遭遇して未解決 2014.9.20 自衛官を「護憲」の力に ≪ 80 ≫ ≪ 81 ≫ 須賀にある。これを返上したいと日夜運動を続 のまま引きずっている。同じような原子炉が横 放射線管理エリアで使ったウェスや交換した部 る。定期修理で発生した放射性廃棄物、例えば ろにはコンテナがクレーンで吊り下げられてい している。修理の際に放射性廃棄物が出たり、 米海軍の原子力艦船は日常的に事故を起こ 横須賀の基地で働く人たちでつくる全駐労 返上したい。それが私たちの願いだ。これは横 広島ジャーナリスト 18 号 が日米安保の実態だ。 けている。 作業員や乗組員が被曝したりという事故が起き ていて、基地周辺の住民にとっては非常に問題 品をコンテナから輸送船に積み替え米本土まで 日 米 間 で 合 意 し た 文 書 に は、 こ う も 書 い て あ る。 「 日 本 の 港 で 原 子 力 艦 船 は 修 理 し な い、 持ち帰る。 横 須 賀 支 部 の 委 員 長 は こ う 言 っ て い る。 「原子 だ。 船外に出さないという日米合意があるのに出し この二つが約束されているはずだが、 ジョージ・ たことがある。写真を見せて、放射性廃棄物は 力艦船がもし事故を起こせば、最も被害を受け 外務省の地位協定室長とこの問題で交渉し ワシントンは毎年春から数カ月かけて定期修理 ているではないかと言ったら、室長は、確かに 日本の港で放射線廃棄物を船外には出さない」。 を行っている。左の写真の丸い線で囲ったとこ 須賀の運動の一つの特徴であり、基地の街で運 緒にできることはやりながら原子力空母配備を 基 地 内 で 働 く 人 た ち と 連 絡 を 取 り 合 い、 一 外に出てはいるが基地に陸揚げはしていない、 るのは基地内の従業員だ」。 空母から輸送船に出しているので、これは艦外 こ の 説 明 で「 分 か り ま し た 」 と い う 人 は い 動を進める非常に重要なポイントでもある。 に出したことには当たらないという。 ない。日本政府自身、米政府との合意内容が現 福島原発事故を受けて原子力空母に対する に破られていると知っていながら、定期修理で の放射性廃棄物の艦外搬出を認めている。これ 感情に変化が生まれたかを知るため 昨 年 8 月、 横 須 賀 市 民 を 対 象 に ア ン ケ ー ト 調 査 を 実 施 し た。 福 島 原 発 事 故 後、 原 子 力 空 母 に 対 し て 不 安 が 大 きくなったかとの問いに市民の7割 が「 変 化 は な い 」 と 答 え た。 正 直、 こ れ は 衝 撃 的 だ っ た。 も ち ろ ん「 不 % が「 不 安 が 増 し た 」 安 は 増 し た 」 と い う 人 も 3 割 い る。 特に女性は 技術的に同じものだということが市 原子力空母と福島原発の原子炉が た。 と答えたが、 %は「変化はない」だっ 62 36 ≪ 82 ≫ 600 万㌦の浄化作業を要した。 日常的に起きている原子力艦船の放射能事故 1994 原子力空母エンタープライズ、ドライドックで修理 中に原子炉室で火災。放射能物質が漏れた。 1971 米原潜ウッドロウ・ウィルソン、グアムで1次冷却 1995 原子力巡洋艦カリフォルニア、放射能を帯びた水が 漏れ、水兵3人が汚染。水兵1人が原子炉室の機器 水の圧力低下、メルトダウンの危険。 1971 米原潜スヌーク、故障で船体を傾けながら横須賀入 港、放射能汚染の疑い。 1975 米潜水艦母艦プロチュウス、グアム湾内に高放射能 の1次冷却水を大量放出、付近の海を汚染(1次冷 のテスト中の事故で火傷。 1995 原潜ソルトレイクシティー、酩酊した乗組員が原子 炉を当直監視し、司令官解任。 1996 ピュージェット造船所で、原子力艦アーカンサスか ら放射性蒸気が漏れたが、米海軍は 15 時間事故を 却水の移し替え作業中か)。 1976 米原潜から補給船に移していた冷却水 500 ㌧が・川 に漏出。 州政府と市民に通報せず。 1996 原潜サンフアン、グロートン基地で、水兵1人が原 子炉への破壊行為の疑いで免職。原子炉の制御棒へ 1977 米ピュージェット造船所で、2週間に4件の放射能 汚染事故、大気中に漏れ出た放射能のため労働者3 人被曝。 1978 米 原潜パファー、高放射能の1次冷却水を大量に ピュージェット造船所内に流出。 1979 米原子力空母ニミッツ、原子炉部分で1次冷却水漏 れ。 1980 米原子力巡洋艦ロングビーチ、沖縄で高放射能検出。 1980 米原潜ホークビル、ピュージェット造船所で冷却水 漏れ。5人が汚染、2人が内部被曝。 1982 米原潜サム・ヒューストン、ピュージェット造船所 で冷却水漏れ1人が汚染。 82 以前米 原潜フォン・スチューベン原子炉が緊急停止、 数時間漂流。 1983 米原潜サーゴ、ハワイで冷却水排出時に放射能漏れ。 1983 米原子力空母エンタープライズ座礁。 1984 米空母キティホーク、日本海でソ連原潜と衝突。 1985 米原子力空母力-ル・ビンソンなど3隻の乗務員に 原子炉の安全運転テストを行ったが不合格。 1986 米原潜ナサニエル・グリーン座礁、米原潜アトラン タ座礁。 1988 英原潜レゾリューション、1次冷却水が止まりあわ やメルトダウン。 1988 米原子力空母アイゼンハワー、商船と衝突。 米原子力空母アブラハム・リンカーン、330 ㌎の低 1989 放射能冷却水を川に放出。 1989 米原潜フィンバック、訓練記録を改ざんして資格の ない水兵に原子炉操作権限を与え、乗組員が低レベ ルの放射性物質を含む機械を川に投棄。 1990 原子力空母ニミッツの4人の水兵、不適切な訓練に よって放射能安全を調べる定期点検に広くごまかし が行われていると内部告発。 電力を供給するワイヤーが切断されていた。 1997 原潜ポーツマス、基地での作業中に労働者2人が被 曝。 1998 アイダホの海軍原子炉実験施設から高レベルの放射 能検知、周辺住民 200 人避難。 1999 原子力空母ステニス、母港のサンディエゴ港内で座 礁し、原子炉が2基とも緊急停止。 2000 原潜オリンピア、ハワイの造船所で修理中に放射性 冷却水が漏れ労働者3人被曝。 2000 露原潜クルスク、爆発事故を起こし原子炉ごとバレ ンツ海に沈む。 2000 英原潜タイアレス、地中海でメルトダウン寸前の事 故。 2000 原潜アッシュビル、日本海で事故。佐世保に入港し 潜水母艦に横づけして修理。 2001 原潜グリーンビル、ハワイ沖でえひめ丸と衝突、沈 没させる。9人死亡。 2002 原潜ヘレナ、黄海で小型船と接触事故。 2004 原潜ラホヤ、佐世保寄港中に電気ケーブルで火災事 故。 2005 原潜サンフランシスコ、グアム沖で海底火山に衝突、 艦首を大破。1人死亡、99 人負傷。 2006 原潜ヒューストン、2年間放射能漏れ。この間横須 賀、佐世保、沖縄に寄港。 2006 横須賀寄港中の原潜ホノルル出港時の海水からコバ ルト 58、60 検出。 2007 原潜ハンプトン、原子炉の安全点検を1カ月以上行 わず、隠蔽のため点検記録も改ざん。 2008 原子力空母G・ワシントン、乗組員のたばこの不始 末で火災。80 カ所の電気ケーブル被災。 2009 横須賀配備の原子力空母G・ワシントン、定期修理 によって生じた放射性廃棄物を搬出。以後4年連続 1991 原子力巡洋艦ロングビーチ、バルブ弁故障のためサ ンディエゴ湾内に1次冷却水が漏れる。他にも4つ の港で放射能漏れ事故、乗組員の2人が脳腫瘍、2 人が白血病。 1992 原子力空母エンタープライズ、造船所で放射能を帯 びた冷却水が漏れて、作業員9人と4室が汚染され 2014.9.20 (2012 現在)。 2010 原潜マイアミ、ポーツマス海軍工廠で火災。7人負 傷。 (「原子力空母の是非を問う住民投票を成功させる会」調 べ) ≪ 83 ≫ 知った。 民の中で理解が進んでいないことをあらためて 半分に割れ、「分からない、どちらとも言えない」 のグラフ。 配備の既成事実の前 で、「反対」が 年 に、 住 民 市 民 の 気 持 ち を 知 る た め の ア ン ケ ー ト は、 に流れた。この結果をどう考えるか。 原子力空母が配備される前の 年に 「配備についてどう思うか」 投票条例を作るための直接請求運動をした。市 意識的に繰り返し行っている。原子力空母が配 取材ヘリ飛ばさなかったマスコミ 集団的自衛権の行使容認を閣議決定すると 子力空母の是非を住民投票で問う条例ができた と問うと、 %の市民が「配備反対」と答えた。 民の署名を集めて議会に提出、可決されれば原 で減少していた防衛費が増えている=左のグラ いる。中期防衛整備計画をみて驚いた。これま ぐる考え方が、戦争する方向に変えられてきて 伝わるが、それ以前の問題として、自衛隊をめ のだが、2回とも圧倒的な差で否決された。否 フ。非常に象徴的だ。米艦船の警護が可能かど 年、空母が来る直前には、 ・7%が配備反 対と答えた。相当高率だ。配備から5年たった 決直後に、住民投票の必要性を聞いたアンケー 備される前の 07 年8月にも同じことを聞くと、 反対が ・5% 07 だった。賛成の伸びはそれほどでもないが「分 は ・5%が住民投票をやるべきだと答えてい トでは、原子力空母配備に反対の意見を持つ人 70 65 からない、どちらとも言えない」が増えた=左 ・2%、つまり過半数が住民投票をやるべき る。注目すべきは原子力空母配備に賛成の人も 82 年と 年はなぜこんなに高率で反対が多 だと答えたことだ。 52 08 30 %余りだ。「やむをえない」と思う人たち 20 直接請求をするか、いま議論をしている。 に交代する。その時に3回目の住民投票条例の 来年、原子力空母が「ロナルド・レーガン」 ば、変化をつくりだせると思う。 に、具体的な道筋(たとえば住民投票)を示せ が 割を少し超えるぐらい。反対が ~ %。賛成 ていて、一番多いのは「やむをえない」で、5 横 須 賀 市 が 3 年 に 1 回、 市 民 意 識 調 査 を し になっていると考えられないか。 案に市民は期待した。そのことが高率の「反対」 り、市民の総意で解決する方法があるという提 こうになくなりそうにない。でも住民投票をや かったのか。基地はない方がいいが、しかしいっ 07 10 (2014 年度防衛白書から) 39 08 13 広島ジャーナリスト 18 号 艦が護衛した。集団的自衛権の行使につながる 電話し、その結果、基地を出る米軍空母を護衛 る。海自のトップが米軍横須賀基地の司令官に から、空母は横須賀から避難したと言われてい た。 , とヨット「おむすび丸」はたっ don t kill„ た1隻巨大空母に揺れつつ抗議す 田悦子さんという人が朝日歌壇に短歌を投稿し のに、足並みをそろえてしまった。この時に梅 ればならないような緊迫した状況ではなかった うか議論されているが、こういう事例がある。 こ の 時、 も う 一 つ 問 題 が あ っ た。 毎 日 新 聞 これがなんとこの年の朝日歌壇の大賞を 年9月 地上空で大きく曲がる。米軍基地からすると、 と朝日新聞それぞれの写真を見ると、撮影のタ とった。選 者は「『おむすび丸』と いう名前が 01 日、横須賀にいた空母キティホーク 11 羽田発の民間機をハイジャックされて横須賀基 実 は、 羽 田 か ら 飛 び 立 つ 民 間 機 は 横 須 賀 基 が出航した。 年の9月 日)の後、米国がアフガンを攻撃したが、この ニ ュ ー ヨ ー ク の 同 時 多 発 テ ロ( イミングは少し違うが、空母と護衛艦の位置関 すばらしい」とコメントした。もし「断固闘う 自衛隊の海上行動だ。 係はまったく同じだ=上の写真。つまり、同じ 21 地を攻撃されたらたまらない。そういう恐怖感 アングルから撮っている。両社が 独 自 に ヘ リ を 飛 ば し た と す れ ば、 ぞ」号などだったら短歌にはならなかった。 旧日本軍は敗戦後解体されたが掃海部隊だ と要請した。すると、全社がヘリ 社に取材ヘリを飛ばさないでくれ けだから、日本政府はマスコミ各 ジャックによるテロが怖かったわ リ か ら 写 す 」。 空 母 は 民 間 機 ハ イ こ う 書 い て あ る。「 海 上 自 衛 隊 ヘ を掃海すべきだが、日本にやらせた。危ないか 戦勝国である米軍が軍事行動の一環として機雷 本 へ の 援 助 物 資 を 運 ぶ 船 が 港 に 入 れ な か っ た。 て日本列島の港という港は機雷で封鎖され、日 いる。なぜ掃海部隊だけ残したか。 戦争が終わっ んが戦死した。戦後戦死者第1号で叙勲されて 作戦で1隻が機雷に触れて沈没、中谷坂太郎さ こ う は な ら な い。 写 真 説 明 に は、 けは残された。朝鮮戦争に参戦して、元山上陸 を飛ばさなかった。 題だ。私たちはその時、平和船団 を飛ばさなかったことも大きな問 要請に応じてマスコミ全社がヘリ の海自の行動も問題だが、政府の の行使につながる憲法上ぎりぎり 後、ペルシャ湾の機雷を取り除くため日本から 目 な く つ な が っ て い る。 だ か ら、 湾 岸 戦 争 の だ。 海 自 隊 に と っ て は、 機 雷 掃 海 作 業 は 切 れ からと機雷除去を日本人にやらせたのも問題 く な っ た。 朝 鮮 戦 争 参 戦 も 問 題 だ が、 危 険 だ 実 際、 列 島 周 辺 の 掃 海 作 業 で 多 く の 方 が 亡 らだ。そのため、掃海部隊だけを残した。 を出した。政府は「出さないでほ 掃海艇が出た。その時はMSC( 米艦警護という集団的自衛権 しい」とは要請してこなかったけ Mine Sweeper れど(笑い)。 ) と 呼 ば れ る 沿 岸 掃 海 艇 だ っ た。 今 は Coastal MSO( Mine Sweeper Ocean )、海洋掃海艦に マスコミは取材を自粛しなけ 2014.9.20 „ ≪ 84 ≫ ≪ 85 ≫ じゃない」 という自衛官のコメントが出ていた。 これ以降、私は平和運動は自衛隊に助けられて いた。 多 く の お 母 さ ん は、 9 条 が あ る か ら 自 衛 隊 いると思うようになった。例えば、海外派遣が 話がかかってきて、ご主人にも確かめたうえで い」という相談だ。ある自衛官の奥さんから電 が死亡した場合、墓地、埋葬等に関する法律を で荼毘にふすことはできない。そこで、自衛官 だから、戦死した自衛官を自衛隊が勝手に戦地 法的な整備がされた。 をした。イラク戦争を支持するかしないか、英 週間ぐらいかけて米軍兵士と家族にアンケート 11 広島ジャーナリスト 18 号 変わっている。古い型の掃海母艦はヘリが発着 できない。だから、陸上基地からヘリが往復で が戦争をするとは思わなかったと言っている。 だった。「自分は命令されればどこへでも行く。 と配置転換願を出す。横須賀では出航が決まっ きる範囲しか出られない。専守防衛ということ ていた乗組員が告発的な内容の手紙を書き、自 決まった船の乗組員が、陸上勤務に変えてくれ 衛隊はその自衛官の乗る船を変えた。私たちの あ る 陸 上 自 衛 官 の 言 葉 は、 考 え さ せ る 内 容 リを掃海母艦に積み、外洋タイプの掃海艦を引 長い間、自衛官は税金泥棒と言われてきた。今 平和運動がもたもたしている間に、自衛官は一 でそうなっていた。しかし今、海自隊は掃海ヘ き連れて、日本から遠く離れたところで機雷除 回の海外派遣は名誉ある行為で、国民の皆様に 日本の防衛以外に米軍と軍事行動を共にす お返しするチャンスだ」。確かに自衛隊を「税 るため、2000年前後から周辺事態法や有事 去ができる。ペルシャ湾での掃海作業が是か非 日陰者扱いされてきた自衛官にとっては、それ 法制が整備された。その後、自衛隊法改正で多 か国会で議論されているが、既に海自隊の能力 呉 で も 横 須 賀 で も 佐 世 保 で も、 海 自 隊 が 配 が戦争そのものでなければ「チャンスだ」と考 金泥棒」という人は少なくなかった。ある種、 生懸命、戦地に行かない努力を続けていた。 備した船を見て変化をつかむことは可能だ。そ えても無理はない。ある海上自衛官は「PKO としては、それが可能になっている。 こでつかんだ事実を日本中に届けることも、基 は戦争ではないので自分は行く」と言っていた。 くの適用除外項目が埋め込まれた。その一つに 人がなくなると火葬して埋葬するために役所の 弁護士にも立ち会ってもらって海上自衛隊の総 適用しないという条項を自衛隊法に入れた。こ 許可がいる。それをしないと死体遺棄になる。 監部まで行き、その場で退職手続きをしたとい うして 年には既に自衛官の戦死が想定され、 うのもあった。たまたまその方は連絡がついた 多 い の は「 や め た い の に や め さ せ て く れ な ある。 埋葬等に関する法律の適用除外」がある。 そういう自衛官との対し方も考えていく必要が 「墓地、 地の街に住む人間の仕事ではないか。 際限なく拡大して外に出ていこうとする自 衛隊に対して、どうすればいいか。自衛隊の一 人ひとりの兵士にどう語りかけるかが重要では ないだろうか。 「9条があるか ら 入 隊 さ せ た 」 年のカンボジアPKOは自衛隊初の海外 小 泉 純 一 郎 政 権 の 時、 ア フ ガ ン 戦 争 で イ ン 語で質問を書き投票してもらった=次㌻グラフ 活動だったが、この時に私たちはホットライン ド洋米艦給油作戦のため佐世保から第1陣が出 イ ラ ク 戦 争 が 始 ま る 直 前、 横 須 賀 基 地 で 1 衛 官 の お 母 さ ん は、 「 9 条 が あ る か ら 大 丈 夫。 た。テロ特措法ができあがっていなくて、防衛 が、どこに相談したらいいか分からないまま悩 そう思って高校を出た息子を入隊させたんで 01 には「戦争に参加するために自衛隊に入ったん 行かされる兵士の中には戦争に反対する声がた 月9日付) たのは、国連決議のない戦争への支持。戦地に す。息子は災害時に人助けをしたいからと言っ 11 年 ㊤。一番多かったのは戦争反対で一番少なかっ 月)と言って 庁設置法第5条を強引に使い、調査研究の名目 年 て 自 衛 隊 に 入 る と 言 っ た ん で す。 戦 争 が 長 引 んでいる人は少なくないのではないか。 03 で出た。この時の毎日新聞( と、心配でなりません」 ( 01 けば息子も行くようになるかもしれないと思う を開設し、多くの人から連絡をいただいた。自 92 ≪ 86 ≫ くさんある。その気持ちを可視化しなくてはい いと統計学者は言うだろう。同じアンケートを で自衛隊に入ったことが分かる。 自衛官は海外で軍事行動することを想定しない 日 付 朝 日 新 聞 で、 元 陸 将 で 元 カ ン ボ 北海道でもやった。5千通を官舎に届けて、記 6月 ジアPKO施設大隊長だった渡辺隆さんがイン ―― 1 9 9 2 年 に 自 衛 隊 初 の カ ン ボ ジ ア P とも集計したらほぼ同じ結果だった。有事法制 KO部隊を率いてカンボジアに行きました。当 タビューに答えてこう言っている。 %、北海道で %が「考慮されてい ない」と答えた=左のグラフ㊥。もう一つ「あ 時、国外で活動すると思って陸上自衛隊に入っ う話でした。 すれば、当時の流行語「聞いてないよォ」とい アンケートのお願いと回答と返信用封筒を一通 横須賀では約半数、北海道では約 %が「想定 た 者 は お り ま せ ん で し た。 「我が国の平和と独 通返ってきた。記入されていたのが なたが自衛隊に入った時、外国を占領する軍隊 須賀で約 の事情が考慮されていると思うかと聞くと、横 やイラク新法の議論で、自衛官の気持ちや現場 入回答 通。とても少ないが、北海道、横須賀 けない。 想定しなかっ た 海 外 派 遣 そこで私たちは自衛官家族アンケートをし 25 ずつ入れた。集合ポストといえども、よその家 悩んだ。 65 に加わることを想定していましたか」と聞くと、 立を守る」と服務の宣誓をして入隊した隊員に 82 庭に土足で入るようなもので、やる方としては た。横須賀の官舎2500戸の集合ポストにに 11 75 していない」と答えた=左のグラフ㊦。多くの われわれの アンケートで も、そのことは 確認できてい る。アンケート で は「 自 衛 官 と して大切だと 思っていること は」という設問 も し た。 「9条 を守る」 「専守 防衛」という答 えが多かった= 次 ㌻ グ ラ フ ㊤。 「米国との同盟 強化」などは多 く な い。 今、 第 2014.9.20 25 通。回答率からするとアンケートとは呼べな 12 ≪ 87 ≫ うしたアンケートは本来、自衛隊こそやるべき 自衛隊員は、災害派遣とほぼ同じと思って取り の半田さんの本では9条を「自衛官の生命維持 事( 年5月8日付連載「共犯と標的と 集団 と 考 え た こ と が あ り ま す か 」 と い う 意 見 広 告 的自衛権の行方」)によると、PKOに携わる (記事下5段)を神奈川新聞に出した。先ほど 3次自衛官家族アンケートを計画している。こ だ。 装置」と書いている。自衛隊は憲法9条違反と 日本大震災以降、自衛隊に人びとが求めるもの が力を発揮している現場が自衛隊だということ かった。9条が生命維持装置だとすれば、9条 意見広告を載せた時、理解してくれる人はいな 言われてきた。だけど自衛官は実は9条が頼り。 組んでいる。「 国土防衛」や「米軍 と一体で軍 「災害出動」も、自衛隊を考えるうえで大き も、自衛隊員自身の入隊動機も、ともに災害救 い。 東日本大震災で自衛隊の認知度は上がった。 事行動」ではないところに入隊理由がある。東 内閣府の世論調査結果をみても「災害派遣」が 助なのだから、今こそ自衛隊を災害救助組織へ て、それが数字でカウントできるようになった 自衛隊を認める理由の第1位。自衛隊はこれか 時、日本の護憲運動は新しい力を持つのではな らどこに力を入れていくべきかという問いでも 今 年 の 5 月、 朝 日 川 柳 に 載 っ た 川 柳 は「 9 いか。 になる。自衛官が「9条が大事だ」と言い始め 条が実は頼りの自衛官」。しみじみ、そういう とシフトすることを始めるべきではないか。 んの新刊「日本は戦争をするのか」 (岩波新書) 時代になったんだなと思った。我々は1999 災害派遣がトップだ=左のグラフ㊦。半田滋さ 人に入隊理由を聞 でも、陸自高等工科学校の いたら8人が「災害派遣」で残り2人が「PK 年に「憲法9条が自衛官のいのちを守っている 広島ジャーナリスト 18 号 14 O」だった。PKOについても、琉球新報の記 軍港を観光資源にする矛盾 横須賀市は全国で最も人口が減り続けてい る街だ。6月9日付朝日夕刊1面トップに、ネ イビーバーガーとか海軍カレーとか軍港めぐり とか、横須賀の観光の取り組みを紹介した記事 が 載 っ た。 吉 田 雄 人 市 長 は 自 分 の ブ ロ グ に こ う 書 い た。 「いま までは、マイナスの ものとし て位置づけ、隠そうとしてきた基地の存在。こ れを新たな観光資源としてとらえて、さまざま な取り組みをしてきました」。人を増やすため、 まず観光客に来てもらう。そのために基地を観 年前に示した基本計 光 資 源 に す る。 こ の 記 事 に は 僕 の コ メ ン ト が 載っている。横須賀市は 合」をあげているが、そのことと矛盾する。も 画で「米軍基地の返還、自衛隊施設の集約・統 11 10 ≪ 88 ≫ 抱えるだけでいい方向にはいかない。少なくと 軍事基地を観光の目玉にしてもジレンマを それは住むことにはつながらない。 念を定めた旧軍港市転換法(軍転法)の精 [ 神に 反する。これに対して市長は、米軍施設の一部 [2] う一つは、軍港を平和産業港湾都市に変える理 年ぶりに返還されたことを実績として強調 も定住を促進して安心して住んでもらう街にす が しながら、平和産業港湾都市への返還は今後も るには軍港はないほうがいいと考えるのが自然 事化したマニアックなものにする。海軍レシピ 地がなければ横須賀の経済は成り立たないとい 5%と計算している。かつて言われたように基 地 マ ネ ー へ の 横 須 賀 経 済 へ の 依 存 度 は 約 2・ だ。 日 付 朝 日 新 聞 の 湘 南 版 で は、 基 によるものから、海自護衛艦で今つくっている う状況ではないといえる。ただ、4千人以上の 月 レシピに変えられる。そうしないと観光客の関 年 掲げると言う。 例 え ば 海 軍 カ レ ー、 あ き ら れ な い よ う 次 か 心を集め続けられない。これはジレンマだ。行 人たちが基地で働き、私たちの税金でその給料 ら次へと新製品を出す。前のものよりさらに軍 政の中でも、横須賀に人が来てほしいという観 政 治 的 な 状 況 か ら 米 政 府 が 突 然、 横 須 賀 基 が払われているから、その人たちの生活は無視 年の、横須賀のブランドイメージをどう ブランディング研究会研究・検討報告書」)の 年代、横須賀基地をなくし佐世保に持ってい つ く る か、 と い う 研 究 の 報 告 書( 「 横 須 賀 リ・ 地はいらないと言いだすかも分からない。現に る。 できないし、してはいけない。 25 光のためのセクションと、人が住んでもらいた 11 いというセクションで意識のずれが出始めてい 08 く話が一時あって大騒ぎになった。米政府の一 ―― 横 須 賀 市 の イ メ ー ジ は「 基 地、 軍 港 に 保をどうするか。それを考えることは無駄なこ 賀基地がなくなった時、基地で働く人の生活確 存で基地がなくなることはしばしばある。横須 関連した、良くも悪しくも偏ったものになって も早く実現することを望む私たちと、その日が とではない。米軍が横須賀を出ていく日が一日 1㌻目にはこう書いてある。 70 いるため、 「住みたい街」としては想起されず …… 95 に ( いくら・ひろし、1948年横須賀生まれ きかの議論は成立すると思っている。 ている。だから「その日」のために今何をすべ の思いは「その日」を考えるという点で交差し ―― 海 軍 カ レ ー を 食 べ に 来 て も ら っ て も、 一日でも遅くなることを願う基地で働く人びと [2]旧軍港市転換法(軍転法) 旧軍港4市を平和産業 港 湾 都 市 に 転 換 す る た め、 1 9 5 0 年 に 制 定 さ れ た 法 律。対象4市は横須賀、呉、佐世保、舞鶴。憲法 条の「特 別 法 」 規 定 に よ り 4 市 で 住 民 投 票 が 実 施 さ れ、 過 半 数 を得て法律が成立した。 ) 2014.9.20 24 12 ≪ 89 ≫ 真相究明阻む秘密 ・隠蔽体質 軍艦と民間船衝突事件を追う ま ず、 1 9 8 1 年 4 月 9 日 の 米 潜 水 艦 4例ある。 日の潜水艦 退社。JCJ には 71 年入会。 る「平和に生きる権利の確立をめざす懇談会」 の運営委員として活動、軍艦と民間船衝突事件 などを追っている。著書に「一日五厘の学校再 建物語」 「日米安保は必要か?」 (いずれも窓社) など。2014 年2月「あたご事件 イージス艦・ 漁船衝突事件の全過程」を本の泉社から発行。 日、おおすみ事件が起こっ 85 年から軍事被害の実態調査などを目的とす ことは報道で承知していたが、情報の少ないこ と題する事件検証本の編集実務を担当した。続 丸」船長の支援運動に加わり、また「釣船轟沈」 だ。 人が亡くなった事件。このとき私は「第1富士 過去の一連の事件に関して共通するのは、事 件の真相究明・責任追及が不十分なまま、犠牲 とを残念に思っていたところで、すぐに広島で いて2001年2月 日の米潜水艦「グリーン ビル」・宇和島水産高校練習船「えひめ丸」の せず現場を去り、漂流していた乗組員を救助し な だ し お 事 件 は 海 難 審 判・ 刑 事 裁 判 に 4 年 た。 艦長は資格剥奪の懲戒処分を受けただけだっ 報告書は「艦長の責任は明白」と書いているが、 たのは海上自衛隊の護衛艦だった。米軍の事故 参加中だったが、衝突後に貨物船の安否を確認 日昇丸事件では潜水艦は東シナ海で訓練に 者側に納得のいかない形で決着が図られたこと の集会に参加させていただくことにして、航空 [1] んこんブログ」に書 [ いた。 私は前掲書を書いた。 [1]「平和に生きる権利の確立をめざす懇談会」 略 (称 平 権 懇・ へ い け ん こ ん が 運 営 す る ブ ロ グ。 平 権 懇 は 真相究明集会に参加した。さらに 年2月 日 ) 1985年、軍事被害の実態調査、関連資料の収集分析、 の イ ー ジ ス 艦「 あ た ご 」 ・漁船「清 徳丸」の衝 法律問題の研究、記録の刊行などを目的として、学者、 突で2人が亡くなった事件。この事件に関して 弁護士、ジャーナリストらによって設立された。 http://heikenkon.cocolog-nifty.com/ 経て 2005 年に選択定年で 衝突で9人が亡くなった事件。私は宇和島での 10 出版本部編集委員などを 軍への遠慮と軍側の「おごり」 た。 戦後、軍艦(自衛艦は軍艦と呼ぶべきではな いというご意見も当然あろうが、実態として軍 社 入 社、 書 籍 編 集 部 員、 艦なので軍艦と書く)と民間船の衝突で日本の 稲田大卒、71 年朝日新聞 〝おおす 7月 日、広島市内で開催された「 み〟衝突事件の真相究明を求める集会」に出席 1947 年千葉県生まれ、早 し、田川俊一弁護士のメーン報告「輸送艦『お 聞 社 出 版 本 部 編 集 委 員。 そして本年1月 議(JCJ)会員、元朝日新 おすみ』 釣り船『とびうお』衝突事件の検討」 民間人に死者が出た事件の前例は、少なくとも に続き、 「あたご事件について」の報告をさせ ていただいた。 亡くなった事件。続いて 年7月 「ジョージ・ワシントン」(空母とは同名だが別 この集会を準備された方々のひとり、皆川恵 物)の貨物船「日昇丸」への当て逃げで2人が 史さんが拙著「あたご事件 イージス艦・漁船 衝突事件の全過程」を読まれ、7月 日に連絡 23 をくださったのが最初だった。おおすみ事件の 「なだしお」・遊漁船「第1富士丸」の衝突で 88 券と宿の手配をした。集会参加報告は「へいけ 30 17 15 大内 要三 おおうち・ようぞう 日本ジャーナリスト会 26 vs 08 19 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 90 ≫ 海難審判・刑事裁判に5年4カ月かけ、海難審 られず、後に名誉除隊している。あたご事件も ひめ丸事件では潜水艦艦長は軍法会議にもかけ 8カ月かけ、痛み分けのような形になった。え 事件では海上保安庁の捜査が入る以前に防衛省 ここでは招待客は誰も証言していない。あたご 解明は軍法会議ではなく審問委員会で行われ、 客を乗せアクロバット航行をしていたが、事件 ちだったのではないか。 判裁決は自衛隊組織に安全運航確保を勧告した が関係者をヘリで呼び寄せ、口裏合わせをした。 「おおすみ」という自衛艦について少 以下、 また刑事裁判で「あたご」の艦首(衝突個所) し考えてみる。 海上自衛隊は1945年8月 日の敗戦当日 から始まった海軍再建の動きが、復員局、航路 海難審判がないおおすみ事件 が、刑事裁判ではあたご側は無罪とされた。 防衛機密を理由にストップがかかった。 の形状について証言がなされようとしたとき、 このような結末になったのは、米軍・自衛隊 側 の 秘 密 体 質・ 隠 蔽 体 質 が 真 相 究 明 の 妨 げ と い、衝突責任を全面的に遊漁船側に転嫁しよう なだしお事件では、潜水艦は行方不明者の捜 索が行われている中で航泊日誌の改ざんを行 さらに詳細な説明を米国に求めてはいない。 れたのか、などが報告書では不明。日本政府は ぜ浮上していたのか、なぜ事故現場を急いで離 日昇丸事件では、なぜ潜水艦が衝突を回避で きなかったのか、隠密性を重視する潜水艦がな あるとしか思えない。 慮があり、軍側にそれを見越した「おごり」が で十分な追及がなされないのは、軍に対する遠 あったことは明らかだ。にもかかわらず裁判等 艦 側 に 見 張 り・ 交 通 ル ー ル 遵 守 の 点 で 不 備 が を守っていれば衝突しなかった事例であり、軍 ちゃんと見張りをしていれば、海の交通ルール に戦う」能力を高めてきた。 を超えた近代化・大型化を進めて、米海軍と「共 た前後から、海上自衛隊の装備は専守防衛の枠 保協議委員会で「日米同盟」が公式用語になっ として成長してきた。そして2005年日米安 り、米軍の庇護下で、米太平洋艦隊の補助部隊 海軍とは人脈の上でも切れ目なくつながってお なったためでもある。 とした。えひめ丸事件では潜水艦は民間人招待 格し、その報告書を防衛省に届ける途中での衝 あたご事件の場合は、当時最新鋭のイージス 艦が、ハワイでのイージスシステムの試験に合 の 第 一 歩 で も あ っ た。 続 く ひ ゅ う が 型 護 衛 艦 最 初 の 自 衛 艦 で あ り、 空 母 保 有 の 夢 の 実 現 へ い が、 航 空 母 艦 と 見 ま が う 全 通 型 甲 板 を も つ 「世界平和を守る艦」という自覚にふさわしい かに海外で戦争をするための攻撃型大型艦であ 空母に分類されている。ただし航空母艦は明ら リ空母と俗称され、外国の海軍年鑑などでは軽 年就役予定)はヘ おごりが、自艦は民間船に優先する、直進する 行動する。世界最強の海軍に伍して戦える艦、 護衛艦(1万9500㌧、 艦を民間船が避けて当然、という態度に表れが 15 日米協同訓練では米空母機動部隊の一員として (1万3950㌧、2009年就役) 、いずも型 すみ型輸送艦は1998年就役といささか古 突事件だった。自衛隊の潜水艦・イージス艦は いて明白なので、ここで分析することはしない。 う 型 補 給 艦 は 年 に 就 役。 8 9 0 0 ㌧ の お お 基準排水量7700㌧のあたご型イージス護 衛 艦 は 年 に 就 役、 1 万 3 5 0 0 ㌧ の ま し ゅ 4件とも、見通しの悪い交差点で出会い頭に 啓開部隊に温存され、朝鮮戦争下に米軍の支援 ぶつかった不幸な交通事故とは性質が異なる。 を受ける形で成立した。だから海上自衛隊は旧 15 米軍の日本民間人に対する優越意識は、日米 地位協定とその運用に関する密約で保障されて イージス艦あたごと漁船衝突事件を追った「あたご事件」 2014.9.20 04 07 ≪ 91 ≫ り、また米国からの自立を疑われないため、 「お に出席させ、免許取り消しはできないが勧告は る自衛官に対しても「海難関係人」として審判 「しまゆき」3050㌧・貨物船(パナマ船籍 輸送部隊や海外での災害救援など、遠距離海上 3隻建造されたおおすみ型輸送艦は現在、い ずれも呉を定係港(母港)とし、PKO派遣の がなかった。 正法 条によれば海難審判所理事官は海難関係 行わないと海難審判所は言っている。しかし改 判所から運輸安全委員会に移ったので、審判を は改正法により自衛官への勧告の権限は海難審 組織に安全航行の勧告をした。おおすみ事件で (横揺れ防止装置) やTACAN (戦術航法装置) できた。だからあたご事件で海難審判は自衛隊 に航行指導をしたが、海上幕僚長は会見で「衝 告を受けた海上保安庁は調査のうえ、しまゆき けた。2隻の最短距離は約250㍍だった。報 航行していたため、貨物船は左に舵を取って避 けられているのにしまゆきは航路の中央寄りを の対処が問題だ。狭い海峡で右側通行を義務づ の自動車運搬船)2万6651㌧の接近事件へ おすみ」の装備に当初はフィンスタビライザー 輸送に使われている。各2艇のエアクッション 艇(ホバークラフト)を搭載し、 甲板はヘリポー 人を出頭させ、質問し、帳簿書類その他の物件 突の危険は感じていなかったと聞いている」と 避ける船などあるはずがない。このような態度 述べた。衝突の危険がなければ左に舵を取って がおおすみ事件を起こす遠因となったのではな の提出を命ずることができるはずだ。 年8月 日現在)であることが危惧され さ ら に、 刑 事 裁 判 が 行 わ れ る か ど う か も 不 に進化する予定の西部普通科連隊やイージス艦 共同訓練ドーン・ブリッツには、日本型海兵隊 としても、衝突原因は「おごり」だけとは考え もちろん、「おおすみ」側に衝突責任があった ないとしたら、すべては闇に葬られてしまう。 る。事故原因究明・責任追及が公の場で行われ い。これが鉄則だ。私はおおすみ事件の公判実 な い。 軍 艦 優 先 の 規 定 な ど 世 界 の ど こ に も な 船を蹴散らして進むようなことがあってはなら 戦域や専用海域ならともかく平和な海で、国 際法・海上衝突予防法を無視して、軍艦が民間 いか。 明( 「あたご」 とともに、 おおすみ型輸送艦2番艦「し られない。一般的には見張りの手抜き、不十分 現を望み、実現の際にはその進行に注目したい 年6月にカリフォルニアで行われた日米 もきた」 が参加した。「しもきた」 のエアクッショ な引き継ぎ、未熟な技術、定員を充たしていな る。 ン艇は上陸部隊を運び、甲板には米軍のオスプ いための過労、などの重なりが事故を生む。だ おすみ」がフィリピンの台風災害救援に派遣さ 大規模に行われるはずだったが、 参加予定の「お が効果を現さなかったのは何故か、公の場で具 からこそあたご事件以降の隊内での再発防止策 と思っている。 あたご事件に市民平和運動者としてかかわりな いておきたい。なだしお事件、え ひめ丸事件、 なお、かつて新聞社に籍を置いた者として自 責の念をもちつつ、取材者の姿勢についても書 おおすみ型輸送艦が必須ということだ。やや旧 型でありながら第一線で活躍するおおすみ型輸 がら共通に感じたことだが、マスコミは深刻な とに竜頭蛇尾だった。大多数の担当記者は求め メディアスクラムを起こしながら、報道はまこ そして海上自衛隊が前例の教訓を生かしてい ない、安全運航の努力のあとが見受けられない られた範囲での取材で他社と競争するのが仕事 送艦。その「誇り」が思いやられる。 おおすみ事件の真相究明のうえで、まずあた ご事件とは違って海難審判がないことが妨げと という点では、 年6月 日におおすみ事件の なる。 08 格を持たずに独自の資格で自衛艦を運航してい 13 11 現場から遠くない関門海峡で起こった、練習艦 だから、その後事件がどのように展開したか、 年の海難審判法改正以前には海技士資 世界のどこにも軍艦優先規定なし 体的に十分に究明されるべきだろう。 は 年末には沖縄周辺で3万4千人が参加して 30 の機能をもち、最近では島嶼防衛訓練に使われ トになっているので、上陸戦用の揚陸艦として 27 14 レイを着艦させた。またこのような上陸戦訓練 13 れたため、中止された。自衛隊の上陸作戦には 13 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 92 ≫ 持つことはないようだ。事件そのものとともに 関係者がどのような境遇をたどったかに興味を こ と は で き な い が、 関 係 者 が マ ス コ ミ 不 信 に 刻な影響を与えてきたか、具体的にここに書く 傷つけ、引き裂き、その後の人生にどれだけ深 自覚すべきだと思う。 なって当然の状況が多々あることを、取材者は 日午前8時ころ、大竹 助活動を 開始した。海上保安庁( 以下「海保」 の教訓を踏まえ、今回は事故発生後ただちに救 「 誠 に 遺 憾 」 と 述 べ る。 な だ し お 事 故( 注 2) の右舷がぶつかったという。首相と官房長官が てきて、おおすみの警笛が鳴った直後、釣り船 右後方からおおすみがかなりのスピードで迫っ 【おことわり】脚注は分量が多いため、すべて 記事末尾に掲載しました。 (編集部) 事件報道合戦が被害者・遺族たちをどのように 見通しよい海、なぜ衝突 日付夕刊】 関係者証言 食い違う おおすみ事故 【1月 日付夕刊】釣り客大竹宏治さん )=広島市中区=が死亡し犠牲者は2人に。 【1月 注3)が事情聴取。 船「 と び う お 」( 全 長 7・ ㍍、 近くのコンビニで買った缶ビールを飲みながら ㍍、 幅 2・ りかかる呉軍港前の公園で夕暮れ時に、 勤務後、 市阿多田島沖で輸送艦おおすみ(注1)が釣り 筆 者 は 呉 に 在 住 し て お り、 ジ ョ ギ ン グ で 通 平 譲二 27 定員 人)と衝突。とびうおが転覆して乗って ( 60 語らっている若い自衛官たちを見るたび、この 16 15 軍 港 呉 を 代 表 す る 自 衛 艦「 お お す み 」 が 一 岩国医療センターに搬送された。阿多田島漁協 出され、4人とも救助されたが、2人は重体で 船が出航した広島市中区のボートパーク広島へ 域で釣り船を実況見分した後、引き揚げて釣り いた4人(船長1人、釣り客3人)が海に投げ 「たいへん残念だ」と首相。海保が現場付近海 方の当事者となり、民間人2人が犠牲となった 移送。 日付朝刊】事故直前におおすみは警 笛を5回鳴らしていた。おおすみの航跡を示す 【1月 事務所にいた職員は、事故当時「現場周辺は見 日付朝刊】おおすみの艦長は田中久 今回の事故についても関心を持ち、若干の経過 【1月 通しもよく、天気もよかったのになぜ」と話す。 船舶自動識別装置(AIS)のデータによると、 ではと思うと話している。寺岡さんによると、 じを取って船体後部が左に振れてぶつかったの 行2等海佐。釣り船船長高森昶さん( )=広 したような傷が確認された。2隻は同方向に進 後方にいたおおすみが加速し、距離が縮まった 自衛隊の在り方について考えておられる方の参 行していて、釣り船の船首近くに座っていた客 という。寺岡さんの話による衝突状況イメージ おおすみは事故の直前に右に舵を切ったとみら の寺岡章二さんによると、釣り船が左前方のお れる。救助された釣り客の寺岡さんは、右にか おすみを追い抜いて進路を交差、しばらくして 島市中区=が死亡。おおすみの左舷中央後部に きよし 17 釣り船とみられる塗料が付着、釣り船にも衝突 67 である。この事故に関心を寄せ、呉の町や海上 記録、問題点や課題などを書きとめたのが本稿 若者たちを戦場に行かせたくないと思う。 66 15 16 考になれば幸いである。 報道でたどる 事 故 の 経 過 ま ず、 中 国 新 聞( 呉 に 配 達 さ れ る 版 ) 記 事 で事故の経過をたどる。 2014.9.20 11 ≪ 93 ≫ 後部から船尾方向に数十㍍にわたり断続的に擦 に吸い寄せられた可能性など錯綜するさまざま ない。行政処分の対象となる釣り船側の船長は 岩国による呉駅前アピールを紹介。9条を守れ という横断幕を出し、呉基地強化に反対の訴え、 周 年( 7 月 1 日 が おおすみ事故の原因究明と再発防止も求める。 【2月4日付朝刊】海自 記念日)に向けての特集連載記事の第1部開 始。①はおおすみ事故の情報が呉地方総監部に 来ず、地元と情報のギャップがあることを伝え 事後に艦長の指示や見張り態勢の 像 や 音 声 を 常 時 記 録 す る 装 置 で、 く内海に位置する呉基地に潜む危険性を指摘す 外洋に近い他の海自基地に比べ民間船がひしめ 【2月5日付朝刊】特集連載②は横須賀など る。 検証ができる。イージス艦「あた 宮下純さん(大竹市)の証言、お くの阿多田島から目撃した養殖業 いったように見えたとする現場近 が南進するおおすみにぶつかって 関 係 者 証 言 」。 南 西 に 進 む 釣 り 船 事故に限らず人前で仕事の話をするなとよびか 総監部を訪問。その後若い隊員には、おおすみ ないと結ぶ。今回の事故直後に防衛副大臣が呉 生かされているかと問い、安全対策に終わりは たごの記憶」。かつての事故(注 6)の教訓が 呉基地特集連載③の2本。連載③の見出しは「あ 【2月6日付朝刊】おおすみ事故関連と海自 すみ型輸送艦3番艦くにさきとイージス艦。 ご 」 と 漁 船 の 事 故 を 契 機 に 設 置 ) る。記事の写真はEバースに泊まっているおお に音声と映像が残っている。 日 付 朝 刊 】「 食 い 違 う おすみが右にかじを切ったことで けられた。もう一本は海保の発表。おおすみと 【1月 船体後部が左に振れて釣り船に接 釣り船の衝突痕の分析の結果、双方の塗料と一 広島ジャーナリスト 18 号 図を掲載。筆者の見解では、おおすみの追い抜 日付朝刊】助かった釣り客の伏田則 死亡しており、自衛官は対象外。亡くなった大 日 付 朝 刊 】 地 域 面( 呉・ 東 広 島 ) で 人さんは、「警笛の音で振り返ると右後方から 【1月 竹さんの妻のコメント「事実が知りたい」 。 人が、 おおすみが迫っていた」と証言。 【1月 き中の事故であれば、海上衝突予防法(注4) 過痕が確認された。釣り船のGPS装置を回収。 な見解が示される。海難審判(注5)は開かれ により回避義務はおおすみ側にあることにな 人ほど参列した。 非核の呉港を作る会等7市民団体の 日の反核平和市民団体ピースリンク広島・呉・ 24 る。高森さんの通夜に防衛相及び海自関係者が 日付夕刊】複数回衝突か。海保が釣 や再発防止などを求める申し入れ 首相、防衛相、呉地方総監に速やかな原因究明 日付朝刊】海保が救助 を呉基地に行った。 【1月 状況についての調査結果まとめ る。おおすみによる救助は事故後 日付朝刊】おおすみの 約 分で完了。 【1月 23 10 触した可能性、大型船の作る潮流 22 【1月 り船を実況見分、おおすみの船体には左舷中央 18 艦橋音響等記録装置(艦橋内の映 60 20 21 30 17 30 ≪ 94 ≫ 航跡や被疑者らの容疑についての認否につき、 ない」と繰り返した。双方の過失認定は妥当と 関係者合同新年会に現役組が参加を自粛したこ 艦「 ぶ ん ご 」( 注 7) と 漁 船 と の 衝 突 事 故( 注 は、昨年9月に山口県上関町沖で起きた掃海母 側にも過失があるという認定がされた点につい 安全対策の徹底を求める意見も並べた。釣り船 という識者の見方や現場海域の危険性を指摘し 故の刑事裁判の影響で海保は慎重になっている いう専門家2人の見解を紹介。また、あたご事 とや、隊員家族の声、ピースリンクの呉駅前ア 8)について、双方の見張り不十分として、ぶ 日、 柳 井 海 上 保 安 署 証などの終了で足止めを解かれ、5年に1度の 日付朝刊】 致した。釣り船は右舷中央部に、おおすみには 【3月 出航した。 定期点検のために三井造船玉野造船所へ向けて 「今後の刑事手続きに影響が出るため公表でき 【2月7日付朝刊】特集連載④は「戸惑う地 左舷の中央部と後部に擦過痕があった。 元/基地動向に世間の視線」 。呉恒例の自衛隊 ピールなどを紹介。 んご艦長男性( )及び当直責任者の敷設長男 【 2 月 9 日 付 朝 刊 】 特 集 連 載 ⑤ は「 大 型 艦 に備え施設拡張」 。 F バ ー ス( 浮 き 桟 橋 ) が 2014年度に240㍍から420㍍に延長さ れることをとりあげ、呉基地は、イラク戦争、 )、漁船船 長男性( 来危険容疑で書類送検、3人とも容疑を認める。 得できない」という思いや「仕方ない、納得し 【3月 日付朝刊】あたご事故( 年、注6) ている」という声もあった。 で自衛官2人の無罪確定を受け、当時の乗組員 【7月8日付夕刊】訪米中の小野寺五典防衛 )を視察後、こ 相が米サンディエゴの海軍基地を視察。強襲揚 語った。 ういう艦が欲しい、是非近いうちにと記者団に 島海上保安部は5日、おおすみの田中久行艦長 日、 弁 護 士 な ど 約 日付朝刊】おおすみ事故で「真相究 明 を 求 め る 会 」 が 発 足。 【7月 海保の関係者などによると、南に向かい時速約 長( )と死亡した釣り船の高森船長を書類送 検 続 報。 お お す み の 田 中 艦 長、 西 岡 秀 徳 航 海 【6月6日付朝刊】おおすみ事故関係者送 並走中、双方に見張り不十分の過失があったと 接近してきた。ただし、釣り客の寺岡さんは、 長は総責任者,西岡航海長は当直士官として操 検。船長は死亡しており不起訴となる。田中艦 が、 大 型 艦 が 増 え、 遠 征 が 頻 繁 に な り、 狭 く、 は、すぐ南の音戸の瀬戸を通ることが多かった 呉 の 海 自 艦 艇 は 従 来、 遠 方 に 出 航 す る 際 に 日付夕刊】おおすみが海保の現場検 6管区海上保安本部(広島)の近藤悦広次長は, 避け、西に迂回して広島湾を経由して宮島沖、 60 おおすみが釣り船の右後方から近づいてきたと 【2月 26 ㍍未満)を 艦を指揮し、見張り不十分で衝突事故を起こし 背景と今後の問題 に。 被害者支援を目的とした会を発足させること 傷と過失往来危険容疑で書類送検(注9)した。 100人が集まって集会が催され,真相究明と 船の高森船長=当時( )=を業務上過失致死 ( )と当直士官の航海長( )、死亡した釣り 【6月5日付夕刊】おおすみ事故について広 陸艦マキン・アイランド(注 人の処分を見直した結果を 日、防衛相が発 08 表。無罪となった2人は大幅な軽減。 28 アフガン戦争、ソマリア海賊対策といつも海外 54 ㌔で直進していたおおすみに対して釣り船が て航行させ、両船が接近した状況を再現した。 10 遠征のトップを切って艦艇を送り出したと説明 する。呉基地の完全な軍事基地化と増強に警鐘 を鳴らす論者(ピースデポ湯浅一郎代表)の一 日付朝刊】写真入り 38 33 方で世論調査などでは肯定的認知度が9割にも 日付夕刊及び 29 交通量も多い音戸の瀬戸(最狭部 33 た( 死 者 2 人, 負 傷 者 1 人 )。 記 者 会 見 で、 第 左後方からおおすみより速い速度で進行して急 26 上る。 【2月 47 域で行った検証を詳報。実際におおすみと、釣 日におおすみ事故について現場海 性( て、釣り船側の死亡者の遺族や生存者らの「納 25 )を業務上過失往 24 67 27 32 52 した。 で、海保が 14 り船に見立てた小型船を関係者の話にしたがっ 13 13 話している。 2014.9.20 17 ≪ 95 ≫ 岩国沖を経て瀬戸内海や豊後海峡へ向かうルー 故」にかかわる刑事事件が無罪で決着した影響 疑不十分で不起訴とするか決める。「あたご事 能性もある。死亡した方の遺族が訴訟を提起す で解決する可能性もあるが、民事訴訟になる可 被告(国)側の代理人は法務省の役人等(おそ トを使うことが多くなった。このルートは広い 起 訴 さ れ た 場 合, 広 島 地 裁 刑 事 部 で 審 理 さ らく出向中の裁判官、海自の法務将校、船舶事 るなら、広島地裁で行われる可能性が高そうだ。 れしていない、しかも、熟練度の高くない操縦 れる。今回は、業務上過失致死と過失往来危険 故のエキスパートの弁護士などによるドリーム も懸念される。 者による船舶も多く航行する海域であり、自衛 罪という裁判員裁判非対象事件での裁判となる チーム)で遺族側にとっては難しい裁判になる のはよいが、その分、交通量は多いし、軍艦慣 艦と民間船の衝突事故の危険は増大していると 見込み。 事事件の行方を横目に行われるであろう。 な お、 海 自 の 内 部 調 査 と 処 分 も 主 と し て 刑 であろう。 の指摘もある。 お、検察審査会(注 )での審査手続きが行わ れる可能性がある。 嫌 疑 不 十 分 で 不 起 訴 と な っ た 場 合 で も、 な 海保の書類送検により、捜査の主体は広島地 方検察庁に移る。 関 係 者、 目 撃 者 ら の 供 述 は 一 致 し て い な い 田中艦長と西岡航海長につき、起訴するか、嫌 として,地元の市民団体などが配備反対の継続 容などを棚上げにして保険金による補償支払い 猶予4年、第1富士丸船長を禁固1年6月執行 (たいら・じょうじ 呉市民) 注 1【 輸 送 艦 お お す み 】 呉 基 地 配 属 の 輸 送 艦。強襲揚陸艦だという人もいるが、国際的な 的キャンペーンを張った。 民 事 の 損 害 賠 償 問 題 に つ き、 過 失 の 有 無 内 分類ではLPD(ドック型輸送揚陸艦)という 猶予4年とした(控訴なく確定)。 備の際に「専守防衛の建前を踏みにじるものだ」 訴され、横浜地裁の 年 月 日判決は両被告 を有罪とし、なだしお艦長を禁固2年6月執行 のが無難らしい。基準排水量8900㌧、全長 10 上は航空機用ではなく車両駐車用であり、船体 浦賀水道において、潜水艦なだしお(2250 をせずただ眺めている映像が繰り返して放映さ ㌧)と遊漁船第1富士丸(154㌧)が衝突。 れ、非難が集中したが、潜水艦というのは人助 けには全く役に立たない代物だ。 第 1 富 士 丸 は 転 覆 沈 没 し、 乗 客 乗 員 中 注3【海上保安庁】大まかに言えば海の警察。 海上交通にかかわる部分では,海上交通の安全 人 が 負 傷 し た 海 難 事 故。 海 難 審 判 お側にあるとし、二審の高等海難審判所 年8 90 月 23 1艇あたり、戦車なら1台、大型軍用トラック 務上過失往来妨害罪、業務上過失致死傷罪で起 事件については海難審判所に通告し、刑事事件 については陸上の事件の警察の役割と同じで した。 な だ し お 艦 長 と 第 1 富 士 丸 船 長 の 両 名 が 業 (逮捕や捜索もする)、事件を捜査し、検察庁の 検察官に事件を送致する。また、密輸、密入国、 日裁決は双方に同等の原因があったと認定 する。捜査の結果、海難審判の対象になる海難 ら上陸させることができ、航空機運用より車両 ( 注 5 参 照 ) は、 一 審 横 浜 地 方 海 難 審 判 所 の 名が 後方ドッグ部分から繰り出すLCAC(大型ホ な だ し お の 乗 組 員 が 衝 突 事 故 後、 救 助 活 動 12 確保、海上交通法規違反者の捜査、摘発を担当 30 と空母風の外見ではあるが、甲板の前方半分以 92 バークラフト)で戦車などの大型車両を砂浜か 178㍍。艦橋を右に寄せ甲板が広くてちょっ 注2【なだしお・第1富士丸事故】1988 年7月 日午後3時 分ごろ、東京湾入り口の ようで、今後検察庁も関係者に事情聴取して、 11 38 死 亡 し、 23 運搬が主任務の設計。 LCACは2艇搭載され、 1989年7月 日裁決は事故の主因がなだし 17 なら5、 6台を運べる。 呉配備の同型艦2艦(「し もきた」 「くにさき」 )とともに、近くオスプレ イとアメリカ海兵隊モデルの水陸両用車を運用 できるように改造する。1998年、呉基地配 10 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 96 ≫ く海保が派遣された。呉市に海上保安大学校が 行う。マラッカ海峡の海賊対策には海自ではな 海賊行為などの海上が舞台となる犯罪の摘発も 原因である過失のことを「主因」という。 の手続きは裁判所の裁判に近い。事故の主たる 許停止、取り消しの行政処分に相当するが、そ 裁 決 は、 要 す る に 車 の 運 転 免 許 に 関 す る 免 可解な刑事裁判の詳細については、大内要三著 定したことなどの合理性に疑問も呈された。不 である海難審判の認定と大幅に異なる航跡を認 なったわけで、海難事件の専門家による手続き 年2月)を参照。 ある。 日 午 前 4 時 す ぎ、 千 葉 県 館 山 市 南 方 海 域 なお、現場海域付近には米海軍の演習区域が設 ( 本 の 泉 社、 注 6【 あ た ご・ 清 徳 丸 事 故 】 2 0 0 8 年 2 「あたご事故」 月 攻撃を複数方向から同一攻撃目標に集中)に対 集中攻撃技術(毎秒1発以上の砲弾、ミサイル に お い て イ ー ジ ス 艦 あ た ご( 全 長 1 6 5 ㍍、 定されている。イージス艦とは、旧ソ連の同時 7750㌧)とはえ縄漁船清徳丸(全長 ㍍、7・ 年に全面改正された「海の道 注4【海上衝突予防法】海上衝突予防のため の国際規則に関する条約(1972年)の国際 路交通法」 。 基本ルールとしては、 ①右側通行(9 条、 条) 、 ④横切り(互 を通過、衝突するおそれがあるときは右にかじ 後に、衝突時の当直士官とその直前までの当直 当事者となっていない。注5参照)。海難審判 となる過失があるとされた(ただし、自衛官は 海 難 審 判 で は、 あ た ご 側 に 事 故 発 生 の 主 因 円以上する。それで漁船がよけられない 常に高価で、海自のイージス艦は1隻500億 あるイージスシステムを搭載しており、当然非 せて多数のさまざまな攻撃を自動的に迎撃)で (高性能レーダーと迎撃ミサイル等を組み合わ いの進路が交差)の場合、相手方の船を右側に 清徳丸乗組員2人が死亡した。 見る船が相手方の船を避けなければならない だった士官の2人の幹部自衛官が業務上過失往 !? をとらなければならない( 条)と (右方優先=陸上の道路交通法と逆) ( いたってシンプルだ。 15 14 された。横浜地裁第6刑事部(秋山敬裁判長) 入 り さ せ る 小 ぶ り な ド ッ ク が つ い て い る。 掃 注5【海難審判】海難審判所は、国土交通省 に置かれた特別機関であり(海難審判法7条)、 は 年5月 日の一審判決で、あたごと清徳丸 海艇の掃海活動を支援することを主目的とし、 来危険罪と業務上過失致死罪で横浜地裁に起訴 注7【掃海母艦ぶんご】ぶんごは基準排水量 5700㌧、全長141㍍、後方に小型艇を出 ③行き会い(すれ違い)の場合、互いに左舷側 相手方船舶の進路妨害禁止義務を負う( 14 条)、 ぶつかり、清徳丸の船体は真っ二つに断裂し, 抗するためにアメリカが開発した防御システム 3㌧)が衝突。あたごの船首が清徳丸の左舷に 規則に準拠して 19 条) 、②追い越しの場合、追い越し船が 16 77 に相当する決定は「裁決」と呼ばれる。不利な 行責任者は対象外。海難「審判」の裁判の判決 うことを任務とする(8条) 。海自の艦船の運 する懲戒を行うための海難の調査及び審判を行 海技士もしくは小型船舶操縦士又は水先人に対 二審の東京高裁も一審判決を支持し無罪が確定 認められないとして自衛官2人を無罪とした。 になった。ごく最近、辺野古海域に海上自衛隊 ることとなったもので、あたご側に回避義務は のの、清徳丸の急な右旋回により航路が交差す し、あたごが清徳丸を右方に見る関係にあるも の航路につき海難審判の認定と異なる認定を に抵抗活動をしている人たちの弾圧か 係なく沖縄海域に単独で現れ、辺野古基地建設 らが」がある。ぶんごは数年前、掃海部隊と関 1998年呉に配備。同型艦として横須賀の 「う と話題 決定を受けた当事者は、行政訴訟で裁判所に取 ㍉単装砲の 「主 ヘリコプター運用可、通信機能充実で、掃海作 砲」はじめ武装もあり(うらがは主砲が未配備) 、 たが、候補はぶんごであろう。 の艦艇の出動を政府は検討中という情報が流れ ?! 戦のほか、災害救援、特殊部隊輸送など非常に 海難審判ではあたご側の主な過失と認定さ 75 方的な過失で自衛官に罪はないということと ができる。 した。 11 り消し、変更を求める不服申し立てを行うこと 11 海上保安官等から海難事件の通報等を受け、 れていたのが、刑事事件では清徳丸側のほぼ一 海難審判を開始するかどうかを決める。 2014.9.20 13 14 ≪ 97 ≫ 島で行われた離島守備訓練で西部普通科連隊の 広い用途に使える。最近も奄美大島付近の無人 上陸作戦(朝鮮戦争)以来やってない(以来 けど敵前強襲揚陸作戦なんて、米軍だって仁川 な る と、 ま ず は 呉 か。 強 襲 揚 陸 艦 な ん て い う 力が生じるときは、裁判所が検察官の役割をす は半年)。なお、起訴すべきという議決に拘束 る容疑者の身柄付きで事件を引き継ぐ「身柄付 類送検というのは容疑者を逮捕して拘束してい いた事件を検察庁の検察官に引き継ぐこと。書 注9【送検と書類送検】送検は、検察官送致 の略、 「検送」ともいう。警察などが捜査して 説が有力。 として衝突したらしく、ぶんご側に主たる過失 回避すべきところ、左に舵を取って回避しよう 側に回避義務があり,減速して右に舵を取って 避を試みるも衝突。相手船を右方に見るぶんご 突(ぶんご側は前方を横切る漁船を発見して回 注8【ぶんご・漁船衝突事故】2013年9 月1日朝、ぶんごが山口県上関町沖で漁船と衝 却。1隻目の引き渡しがウクライナ情勢ヒート 載排水量2万1947㌧だが,ロシアに2隻売 強襲揚陸艦といえば仏海軍のミストラル級、満 いる日本は???だ。ちなみに欧州を代表する 襲揚陸艦が是非欲しい」なんて当局者が言って ら困るという反対論には「海兵隊も廃止論」さ 襲揚陸艦がないと海兵隊が「殴り込めない」か アメリカでも強襲揚陸艦廃止論が有力化し、強 パターンは考えられず、無用の長物だ。そこで 米軍の戦術からすると、強襲揚陸艦が活躍する 人の野を行く」ように上陸部隊を進める最近の で敵方の軍事施設を破壊し尽して、文字通り「無 年!)。高性能 レーダーと長距離ミ サイルなど がかなり拡大された。 申し立てることができる。比較的最近その権限 事件の被害者及び被害者の遺族は、審査などを 起訴及び公判を担当して刑事裁判が行われる。 べき者を弁護士から選任し、検察官役弁護士が 小型ボートを運用した。 き送検」に対して、身柄なしで書類の受け渡し アップのさなかに予定通り行われたニュースは 注 【 マ キ ン・ ア イ ラ ン ド と 強 襲 揚 陸 艦 】 記憶に新しい(ウラジオストクと命名され極東 マ キ ン・ ア イ ラ ン ド は 米 海 軍 の 満 載 排 水 量 約 艦隊配備となる)。要するに無用の長物かつコ る(沖縄の海兵隊の乗り物、最近はオスプレイ のボノム・リシャールが佐世保に配備されてい 4万2千㌧のワスプ級強襲揚陸艦。ほぼ同型艦 事事件の不起訴処分の適否を審査して、「起訴 注 【検察審査会】検察審査会法(1948 年制定)により設置されている検察官による刑 ストパフォーマンスが低い軍用艦なのだ。 かない。海自が新大型強襲揚陸艦を配備すると おすみ型や「いせ」など)に乗って出動するし 自部隊を運べるような海自艦はなく、 呉の艦(お 最寄りの海自軍港は佐世保だが、佐世保には陸 名簿からくじ引き抽選により招集される(任期 判所内に置かれ、審査する委員は地域の有権者 りすることを主な任務とする官庁。事務局は裁 庁に通知したり、起訴すべきという議決をした 特集「平和宣言に何を読み取るか」 戦後 70 年 広島の役割は 加戸靖史 首相にぶつけられた長崎の思い 樋口岳大 核兵器禁止条約をめざせ 川崎哲 平和祈念式・8月報道 座談会で振り返る 「国際平和拠点ひろしま構想」を問う 非人道的なベトナムへの原発輸出 伊藤正子 被爆者とABCC㊦ 相良カヨ ストーン&カズニック、広島で語る 何が起きてもおかしくない 若松丈太郎 豪州ウラン採掘 深刻な影響 P・ワッツ 被爆者とABCC㊥ 相良カヨ 国の「だまし討ち」と闘う 本田博利 申し込みはファクス 082-231-3005 かメー ル [email protected] ▽紀伊国屋書 店広島店、フタバ図書などでも好評発売中 申し込みはファクス 082-231-3005 かメー ル [email protected] ▽紀伊国屋書 店広島店、フタバ図書などでも好評発売中 特集「この国は『戦争』をめざすのか」 安倍政権の恫喝と犠牲強要 松元剛 日本は主権国家か 前泊博盛 沖縄抑止力論は本当か 屋良朝博 なぜ、今「国防軍」なのか 日弁連討議から 変更迫られる「人権」 「自由」 青井未帆 知る権利と秘密保護法 山田健太 「正気を保つ」ということ 大島寛 戦争する国づくりに「NO」を 小森陽一 え有力だ。いまどき「海兵隊的部隊の創設」、「強 だけで事件を引き継ぐこと。 60 機くらい甲板にずらりと並べることが多 を 11 広島ジャーナリスト第 14 号 広島ジャーナリスト第 15 号 10 い) 。離島防衛部隊の西部普通科連隊(佐世保) 相当」や「不起訴不当」の勧告的な議決を検察 15 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 98 ≫ 根強い「官」の秘密主義 岩国に見る情報公開の現状 情報公開制度(情報公開法及び自治体条例) の基本理念は、 「知る権利」の保障と「開かれ た政府」の実現である。アメリカ合衆国憲法の 起草者の一人で「アメリカ憲法の父」と呼ばれ るジェームズ・マディソンは、次のように述べ ている(松井茂記「情報公開法」 ) 。 「人民が情報を持たず、情報を入手する手段を 持たないような人民の政府というのは、喜劇へ の 序 章 か 悲 劇 へ の 序 章 か、 あ る い は お そ ら く 双方への序章にすぎない。知識を持つ者が無知 な者を永久に支配する。そしてみずからの支配 者であらんとする人民は、知識が与える権力で もって自らを武装しなければならない」 誉教授(行政法)によれば、情報公開は行政に 多大なインパクトを与える「劇薬」であるが、 民主主義国家において当然備わってしかるべ き「標準装備」であって、それまでの「行政ス タイルの根本的な転換」を迫るものである。そ の基本原則は、①開示請求権=「知る権利」の 保障(だれでも権利として行使できる。手続き も簡単)、②原則公開・例外非公 開(プライバ シー情報を除き行政に原則開示義務) 、③特有 の救済システム(非開示に対しては不服申し立 て。第三者の審査会が審理)である。情報公開 の制度化により官官接待は絶滅し、首長の交際 費はホームページで公表され、工事の入札情報 は 透 明 化 さ れ た。 し か し、 官 房 機 密 費 や 外 交・ 防 衛・ 警 察 情 報 な ど「 闇 」 の 部 分 は 依 然 残 さ れ、議会の活動状況は納税者の理解からほど遠 情報公開が制度化された以上、行政職員に い。 とって法・条例は国民の命令であるから当然従 年(1982年の神奈 わなければならないが、決して歓迎されるもの ではない。自治体では 年(2001年に法 10 これに拍車をかけることになろう。 うにやむことはない。特定秘密保護法の施行は ボタージュ」は次の筆者の「経験則」に見るよ 思い込んでいる役人の秘密主義=「抵抗」や「サ 「由らしむべし、知らしむべからず」(論語)と よ 施行)以上たった今でも、「情報こそ権力の源 情報公開法の生みの親である塩野宏東大名 民主主義国家の標準装備 として制度を活用させていただいている。 の不服申し立てなど)。昨年大学を退職し、岩 筆 者 は、 広 島 市 役 所 に 年 勤 め、 転 じ て 愛 媛大学で 年行政法の教育・研究に携わった。 国の米軍再編に抵抗する通称「海と山と空の裁 年以上情報公開に 報 公 開 審 査 会 会 長、 国〈 防 衛 省 〉 ・ 山 口 県〈 以 費公開訴訟の市側証人、論文の執筆、愛媛県情 さまざまにかかわってきた(公文書館長、交際 例の立案を担当して以来、 係長時代に政令市では川崎市に次ぐ情報公開条 泉。情報が国民の共有財産とはとんでもない」 川県条例が最初)、国は 30 本田 博利 愛宕山米軍施設について中国四国防衛局を質す 筆者 判」の支援のため、引き続き情報公開のユーザー 30 30 下「 県 」 と 略 〉 ・ 岩 国 市〈 以 下「 市 」 と 略 〉 へ 2014.9.20 12 ≪ 99 ≫ あきらめて不服申し立てや裁判をしないであろ 詳細な文書目録は整備されていない。仕方なく に第三者情報が含まれている場合は発送まで2 覧・コピー発送)しない。県は条例の定めなし 【経験則4】開示決定してもすぐには実施(閲 ワクニの行政法問題」を参照) 愛宕山米軍施設計画の開示 本 年 5 月、 愛 宕 山 の 米 軍 施 設( 家 族 住 宅・ さらに1週間意図的に遅らせて議会質問を妨害 つたたかいは第2ラウンドに入った。4月の国 艦載機移駐(住民の抵抗で3年延期)を迎え撃 岩国・愛宕山米軍施設の宅地造成工事の協議書 れている。非開示に不服があれば、外部の第三 立って、特有の救済システムの制度設計がなさ したところである。当初3月末の実施設計の完 ては、前号で報告(「動き出した米軍住宅建設」) れを回避する期限延長は、後日ようやく開示さ らず、住民は不服申し立てや裁判で争える。こ る。非開示だと拒否する理由を示さなければな 宕山米軍施設マスタープランは1年延長)す 能である。現に審査会での非開示から開示への の言い分が正しいかどうかの具体的な判断が可 ることができる(インカメラ審理)から、行政 査会の判断を仰げる。審査会は文書の現物を見 れたが、ど ちらが〝たかり屋〟か ) 、次々と設 縄はゆすり・たかりの名人」と放言して更迭さ が続き(ケビン・メア元国務省日本部長は「沖 やり予算〟にたかる米軍の際限ない〝おねだり〟 年 月の引き渡し完了には変わりはなく、これ しかし、開示された工事工程表に明記された 計変更を余儀なくされているものと思われる。 以上にたちが悪い。 審査会で認められなくとも、次に裁判所があ る。行政を相手取る取り消し訴訟では「原告適 から7カ月の遅れを取り戻すため夜に昼を継い ない」市民大集会を開催し、不退転の決意を全 格」の高い壁があり、「門前払い」を食うこと 岩国市民に届けた。以下、運動に大きな弾みを 開示ではねつける。その理由として、個人情報 以下本稿では、岩国でたたかわれている岩国 4訴訟のうち三つの行政訴訟(「海の裁判」「山 だ突貫工事が押し進められ、地元住民の日常生 の裁判」「テーブルの裁判」。「空の裁判」は民 活に与える被害は甚大なものになろう。協議会 程を理由に事案が完了するまで非開示とし、批 つけた愛宕山米軍施設マスタープランの開示の が多いが情報公開訴訟ではそれがなく、比較的 判 を 許 さ な い( 文 末 で 触 れ る 上 関 原 発 が そ の 事訴訟)の事例を通じて、「情報公開の効用と 経緯を述べる。 年 月 日に「愛宕山に新たな米軍基地はいら 例) 。非開示の具体的な理由は示さず、不服申 限界」を 検証してみたい。(以下、 特記以外は 12 【 事 例 1】 防 衛 相 の 取 り 消 し 裁 決 ( 11 は7月 し立てが出て審査会から求められるまでは明か 筆者の請求による。裁判の詳細は拙著「基地イ 13 社会的関心の高い申請に対しては、意思形成過 さない。こうした仕打ちは、請求者が最初から や意思形成過程・行政協力情報に該当(法に基 【経験則3】都合の悪い請求はとりあえず非 17 れても情報が〝腐って〟しまっており、非開示 「逆転率」は、国でも4割と高い。 10 づかない気分的な裁量的非開示)を多用する。 早期に判決が下され勝訴率も高い。 10 広島ジャーナリスト 18 号 【経験則1】文書の所在の突き止め・請求の 包括請求(○○関係一切)すると、 該当文書「不 絞り込みのための「特定」には非協力を貫く。 うという前提でなされる。 存在」=〝情報隠し〟か、求めてもいない文書 年の した。 を多数開示して多額の手数料をとる 「兵糧攻め」 週間置く。事例1③の開発協議文書=後述=は、 運動施設)の敷地造成工事が開始され、 日、 市 も は6カ月も延長)②対象文書が大量であること 月末に再延長された。〝思い 了が6月末から 延 長( 国 は の情報が含まれていることを理由に開示期限を しかし法や条例は、こうした役人の「抵抗」 の説明会以降の推移、それに対する愛宕山を守 日 だ が、 県 は 無 期 限。 を見越して、つまり〝行政(役人)性悪説〟に る市民連絡協議会の抗議行動とその成果につい 【経験則2】文書が特定されても、①第三者 にあう。 17 者(法律の専門家が主)で構成する情報公開審 30 を理由に開示期限を延長(後述する事例1の愛 30 ≪ 100 ≫ 日) [中国四国防衛局長の当初の表紙1枚の ③敷地造成工事の前提となる開発協議につ 住宅に関する情報は当然特定秘密に指定され、 れる。 設計会社や工事業者の従業員、日本人基地労働 いて、県が国の実施不要とする一方的な見解に 枚、次いで222枚と〝バナ 押し切れられた経緯が明らかとなった。実施す 開示決定を次に ナのたたき売り〟よろしく部分開示に変更した 者らはすべて監視の対象とされ、罰則の適用(逮 れば住民への説明や同意の取り付けなどに手間 捕、起訴)対象となろう。 それにしても、一個人が情報公開制度を使っ 処分が防衛相(上級庁)の裁決により取り消さ れた事例] けは周到にすべて黒塗り(部分開示)されてい ン)全2495枚は、さすが家族住宅エリアだ た愛宕山の米軍施設の基本計画(マスタープラ で民主的な行政」(情報公開法1条の目的)を とり「国民の的確な理解と批判の下にある公正 ければならないのは、「国民主権の理念」にのっ わざわざ市民にかかわりの深い基本情報を得な 議会や住民対応の〝口裏合わせ〟まで協議して そ の 過 程 で 県 は 国 に〝 ア セ ス 逃 れ 〟 を 指 南 し、 見解どおり対象面積以下に納めて不要とした。 ても同様に、実施すれば時間がかかるので国の ④県条例に基づく環境アセスメントについ て ま で( つ ま り 時 間 と 金 と 労 力 を 費 や し て )、 がかかるためである。 るが、それ以外は運動施設エリアの詳細な設計 目指す国のあるべき姿にはほど遠い。「情報な いたことが明らかとなった。 筆者が裁決を受けて1年がかりで手に入れ 図面や日米間の調整、国と県・市の協議内容ま くして参加なし!」である。筆者としては、開 あえて推測すれば、家族住宅さえガードしてお あ っ た が、 初 め て 野 球 場 や 陸 上 競 技 場 の 詳 細 設」は、従来ポンチ絵1枚が公表されただけで ① 市 民 が 待 ち 望 ん で い る と さ れ る「 運 動 施 知らぬ存ぜぬで通し、このたび米軍が作成した はオスプレイの沖縄配備を国内搬入の直前まで る。市民の利用は例外的であり、しかも昼間に り、あくまで米兵のレクリエーション施設であ キューハウスや広いドッグパークが配されてお れた朝鮮人強制連行など歴史の抹殺である。 ㍍に及ぶ巨大な戦争史跡であり、工事に動員さ る。この地下壕は総延長2㌔㍍、延べ8千平方 の戦闘機「紫電改」製造工場を〝埋め殺し〟す ⑦戦中愛宕山の地下に縦横に掘られた海軍 を用いた発破作業を行う。 ⑥工事の説明会では触れられなかった火薬 用する。 スポーザー(生ゴミを砕いて下水に排出)を採 ⑤住宅の台所は、市の条例では認めないディ で包み隠さず開示され、経験上情報公開の「相 場」を知る筆者のわが目を疑うものであった。 示されたマスタープランの分析を通じて〝攻め〟 この防衛省の「積極的公開主義」への180度 の究明を試みないテはない。結果、概略次のよ けば、完成のギリギリになって公表するよりは 転 換(?) の 真 意 は 正 直 な と こ ろ 測 り か ね る。 うな重要な事実が次々と明らかとなった。 市民の理解が得やすいと、米軍が嫌がる日本側 な 図 面 が 明 ら か と な っ た。 周 辺 に 棟以上を新設する計 限られる。戦時となれば、いかようにも軍事目 上記事実は、早速6月定例市議会で集中的に 取り上げられ、これまで市民に一切知らされて のバーベ の背中を押したのであろう。ちなみに日本政府 画図面の存在が明らかになっても「承知してい 的に転用される。 辺野古内陸部に兵舎など ない」 と強弁している。このような日本側の〝逃 12 信頼関係が損なわれるおそれ)に該当するため 情報公開法5条3項(公にすることで他国との 倒的に不足し、周辺団地への違法駐車が懸念さ 遠い。駐車場は437台(うちバス4台)と圧 設計がされたためで、市民本位の利用とはほど 家族住宅エリアだけが開示されない理由は、 リー機能はない。これはテロ対策を主眼とした ②運動施設にはサービス施設やバリアフ 受け入れの前提となる市の安全・安心対策の これからはソフト面での利用形態、艦載機移駐 上はハード面での施設内容がメーンであるが、 まった。情報公開の大きな「効用」である。以 こなかった運動施設の問題点の多様な議論が始 げ〟の姿勢に米国はいらだっているという。 30 である。特定秘密保護法が施行されれば、家族 43 2014.9.20 84 26 ≪ 101 ≫ 国が開示した愛宕山米軍施設マスタープランにあっ た中国四国防衛局調達計画課と山口県環境政策課の 電話録。県の方から「 ㌶を超えないので環境アセ スメントは必要ない」と回答している は早速県議会での究明が始まっている。 あっていないルーズ極まるものであった。本件 もたって「棄却」、すなわち当初の決定どおり れているにもかかわらず、答申から1カ月以上 非開示とする決定を行った。この「答申無視」 は全国でも数例(教育、警察情報が主)しかな く、広く関心を呼んだ。これに対し、異議申立 人は同年8月9日に非開示決定(原処分)の取 テーブルの裁判は住民勝訴(被告市) こ の 裁 判 は、 岩 国 市 長 が 自 ら 設 置 し た 情 報 り消しを求める行政訴訟(通称「テーブルの裁 月 6 日。 原 判」)を提起した。 年 公開審査会が部分開示すべきとした答申を「無 【事例4】山口地裁判決( 手した市民が、「愛宕山地域開発等にかかわる りに米軍住宅 」「市の内部資料 国、水面下で 打診」と報道した。この協議記録のコピーを入 中国新聞は1面で「岩国・愛宕山 民空見返 た事例] の密約どおり「民間空港再開」が実現し、岩国 裁 判 に は 勝 利 し た も の の、 再 編 の 過 程 で こ 例として紹介されている。 視をいさめたものであり、学界では重要な裁判 〝イージー〟な判決ではあるが、市長の答申無 議及び県条例に基づく環境アセメントの要否に 件名、日時、出席者、協議目的、協議結果及び 議申し立てを 行った。審査会は、市 長協議中、 こ の 裁 判 は、 知 事 が 国 に 対 し て な し た でもある。 関する協議記録(県)の開示 過程情報とは言えないなどとして、「部分的に 1996年の滑走路沖合移設事業のための埋め 海の裁判(被告県) 前記③、④の国の開示内容に対応する県サイ ドの協議記録の開示を求めたところ、後日加筆 開示すべきである」との答申を行った。これに 立て承認処分の取り消しと、2008年の米軍 協議録中の報告にわたる内容の部分は意思形成 訂正したり国の記録には書かれている水面下で 対して市長は、条例で答申の尊重義務が定めら に該当するとして非開示決定を行ったので、異 ( 意 思 形 成 過 程 情 報 )、「 協 力・ 信 頼 関 係 情 報 」 拠点化が取り沙汰されている佐賀空港のモデル 開示請求を行った。市長は「審議、検討等情報」 合間を全日空機が就航している。オスプレイの 基地は軍民共用空港となって米軍機の離発着の 本 判 決 は、 審 査 会 の 答 申 を な ぞ っ た 極 め て た事例] 申で開示すべきとされた情報を開示すべきとし 成過程情報であると認めたうえで、審査会の答 告勝訴・確定)[山口地裁が文書全体を意思形 10 市長協議」及び市・県・県公社の協議報告書の 内部協議書の非開示決定に対し異議申し立てし 10 視」して、全部非開示にした全国的にもまれな 事例である。山口地裁判決で原告の請求は認容 され、勝訴が確定した。 年3 日)[市民が新聞で報道された、国との間 【事例3】市情報公開審査会の答申( 月 09 で米軍住宅建設と民間空港再開を取引した市の 19 の 交 渉 内 容 を 省 略 し て い る な ど、 つ じ つ ま が 【事例2】敷地造成工事の前提となる開発協 ある。 要望項目の達成状況の開示を求めてゆく必要が 50 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 102 ≫ 復義務は認めたうえで別の理由で却下した。い し」として却下し、二審広島高裁判決は原状回 る。一審山口地裁判決は国に「原状回復義務な 立て変更承認処分の取り消しを求めるものであ 再編に対応した誘導路の新設などのための埋め 決まりの「環境保全上の支障なし」であった。 まま(つまり理由は後から考える)事業は廃止 力がなく、国の予測結果を〝鵜呑み〟にしたお 後日開示された②の決裁書は、肝心の航空機 騒音予測(コンター)の当否は専門的な審査能 た。 つまり批判を許さないという徹底ぶりであっ ①にも②にも具体的な法条は何ら記載されない 業 の 認 可 を 取 り 消 し た 法 的 根 拠 の 有 無 で あ る。 者である国土交通省と県公社ではなく、防衛省 しかも国とのやり取りは電話連絡で済ませ、修 で売却された。県は新住事業の廃止には何ら法 され、防衛省に米軍住宅用地として169億円 と県である。裁判の最大の争点は、国が新住事 山 の 裁 判 の「 真 の 被 告 」 は、 訴 訟 上 の 当 事 ずれも「訴えの利益なし」として門前払いされ たのである。原告は最高裁に上告した。本誌 正で差し替えたページは廃棄するなど審査の経 なんら答えず (黙殺!)、裁判に移行して初めて、 的根拠がないとの筆者の4年来の主張に対して 日に国に 過の形跡は何も残していない。県は、福田良彦 新市長が誕生した翌々日の 年2月 変更承認を行った。厚木からの艦載機移駐に、 被告国の口を借りて「明文の根拠はないが講学 12 号の拙稿「岩国海の裁判 山の裁判」参照。 【事例5】①埋め立て変更承認申請書、添付 のアセス書(国)②変更承認書、承認の決裁書 (県)の開示 08 にされないままのスピード承認であった。 に照らした承認理由や判断過程がなんら明らか ばならないが、これら文書には何一つ記載され わりうる高度な「公共性」「公益性」がなけれ ていない。 高 裁 で は、 先 祖 代 々 の 土 地 を 泣 く 泣 く 売 っ た新住法上「優先購入」を受ける法的地位を有 山の裁判(被告国) は、国に変更承認申請をさせて、あらためて審 中心に主張し、法的根拠なしに事業廃止を強行 が記載されており、明らかに当初の申請との食 「原告適格なし」として却下、すなわち門前払 【事例7】都市計画変更(①事業の廃止、② 16 年の愛宕山新住事業の廃止のための 都市計画変更では5300人余が意見書を提出 ①の 事業認可取り消し書、同起案説明資料(国)② し、都市計画審議会では学識経験者委員5人中 4人が反対する中で跡地利用計画が提示されな 事業認可取り消し申請書、廃止に至る県・市と 【事例6】①愛宕山新住宅市街地開発事業の の拙稿(前出)参照。 用途変更)にかかわる都市計画審議会会議録・ い違いが生じていたことからである。国が①の 申請を提出したのは、地元に提示して半年後で ある。県に対する①の開示請求に対しては、折 からの岩国市長選挙を控え第三者(国)のしか も意思形成過程情報であることを理由に、最終 08 提出資料(県)の開示 いした。原告は広島高裁に控訴した。本誌 号 こととしている。 する旧地権者には明白に原告適格があることを 査し直すべきではないかと対応を求めたが、「黙 この裁判は、国が 年に山口県住宅供給公社 殺」が続いた。事態が動いたのは、 国が地元県・ に対してなした愛宕山新住宅市街地開発事業の した〝行政ファシズム〟の違法をただしてゆく 09 め立て計画にはなかった長大な2本の 「誘導路」 求めるものである。一審広島地裁判決は住民に 市に示した施設整備マスタープランに当初の埋 認可を取り消す(中止する)処分の取り消しを 再編による埋め立ての法違反の解消のために のとなった。筆者は県に対して、こうした米軍 う滑走路沖合移設事業の前提要件を全く欠くも であり、墜落事故の回避と騒音公害の軽減とい 「受け皿」整備の面から〝お墨付き〟を与えた (行政法理論)上の撤回である」と「白状」した。 厚木からの空母艦載機 機の移駐は、埋め立 ての承認後図らずも生じた 「重大な事情の変化」 のである。わずか1カ月余りでの「審査基準」 しかも撤回によるのであれば、事業の廃止に代 16 的に承認を行うまでは一切開示には応じない、 の協議書、公社会議録(県公社)の開示 2014.9.20 59 ≪ 103 ≫ 愛宕山米軍施設の内容や安全対策などについて公開 質問状を出し中国四国防衛局の担当者(手前後ろ向 き)とやりとりする愛宕山を守る市民連絡協議会の メンバー(向こう側。左端が筆者)=5月 日広島 市中区の合同庁舎 29 年の都市計画変更は、運動施設を建設するため わずか1年半の在任中、オスプレイの岩国搬入 山本知事は本年1月に病気のため辞任したが、 花道に退任した。実質「容認」である。後任の なる施設整備が着々と進む中、愛宕山の売却を 第1種中高層住居専用地域から第2種住居地域 にも異を唱えることなく前任者の路線を忠実に いまま賛成多数で可決された。引き続く②の に用途変更するものである。基地が、市街化を 知事の東京出張日程は、中国新聞の中国5 踏襲した。 促進する「市街化区域」であるはずがなく(全 国の基地は市街化調整区域)、2千人余の意見 書が提出されたが、審議会の学識経験者委員が 大幅に入れ替えられ「米軍住宅による街づくり」 県の「知事往来」欄に出発と帰着しか公表され めない。これらの過程での説明会、公聴会、審 でしかなく、遅れて届く古証文であることは否 るが、情報公開はあとから真偽を確かめる手段 も唐突な動きがあるたびにアクションを迫られ さに「超法規」措置の連発である。住民はいつ こ の 他 に も 愛 宕 山 へ の 米 軍 住 宅 建 設 は、 ま て審理中であるが、後任の村岡嗣政知事は他県 された。本件異議申し立ては現在審査会におい 協議・信頼情報であることを理由に部分開示と ところ、企業の法人情報であることや省庁との いるのとは際立った違いがある。開示請求した 事が官民を問わず詳細に面談者を明らかにして をしているのかさっぱりわからない。他県の知 ず、肝心の東京でだれと会ってどのようなこと 議会の記録や資料は常に一件落着してから出さ と同様の公表内容としており、7月 日にはN が承認された。 れる。結局裁判の重要な証拠としての役割しか 情報を持たないままの同時進行形の事態に が異なるのであろうか。審査会の存在意義が問 でありながらなぜ公務上の面談者の公表の扱い HKの籾井勝人会長と面談している。同じ知事 対しては、行政との間での質問状方式による問 われる事案である。 効用と限界―制度の課題 情報公開の「効用」は、制度化以前の行政の 公正・透明度との比較で明瞭である。制度を念 防禦反応を招き、非文書化・簡略化や非開示へ できない。しかし、これは一方で役人の過剰な 【事例8】山本繁太郎前知事の「知事上京日 月) 頭に置けば、いい加減で説明不能な行政決定は 地平を切り開いた。 ラウンド」は、そのようなプロセスから新たな る。本年4月からの愛宕山のたたかいの「第2 たな情報の共有、そして争点の設定が基本とな 題点の発見、担当者との「対話」を通じての新 果たさない。 23 広島ジャーナリスト 18 号 13 年、 艦 載 機 移 駐 の 前 提 と 12 程」の部分開示に対する県への異議申し立て ( 年 10 二井関成知事は 13 ≪ 104 ≫ の逃避を招きやすい。 以下、市民が利用しやすく効果的な情報公開 情報公開の「効用」として、 政府(国・自治体) 制度の課題を述べる。 の詳細が明らかになった。福島原発事故でも隠 された真実は多い(政府事故調査・検証委員会 での証言など) 。 は文書の作成に当たり「経緯も含めた意思決定 民主党政権時代からの情報公開法の改正(裁 判所のインカメラ審理の導入など)が国会でた (4)情報公開法の改正・公益通報制度の確 活動の「監視」機能は特に効果的である。意思 立 (1)公文書管理法の一体運用 決定が文書に残された事がらについては追跡・ 年に公文書の管理等に関する法律が制定さ れ、文書管理は法律マターとなった。行政職員 検証が可能であり、オリジナルの文書に当たる のは究極の監視方法である。公金の支出はまず 隠せない。しかし、 制度の目的にうたう「参加」 に至る過程」「事務事業の実績を合理的に跡付 進行形の事案については、開示はその「完結」 こ れ で 結 論 だ け の 文 書 は 絶 滅 す る は ず で あ る 保護法とセットでの成立も見送られた。併せて に画するものであるにもかかわらず、特定秘密 =実質秘の範囲を原則公開の精神に立って法的 け・ 検 証 」( 4 条 ) の 記 録 を 義 務 付 け ら れ る。 なざらしになっている。情報公開法は「秘密」 が、その実現には情報公開を統括する部署(県 機能は情報公開だけでは果たせない。特に同時 を待たなければならないことが多い。争ってい である。 制 度( 日 本 版 ス ノ ー デ ン 氏 の[保 護 ) の 確 立 が [1] との一体運用(担当課の指導・研修)が不可欠 「情報漏えい」には当たらない公益情報の通報 るうちに情報が〝腐って〟しまうことが多い。 は学事文書課、市は総務課)での公文書管理法 〝後の祭り〟である。 「参加」については、多様 なシステムの組み合わせがいる。 が良くない(長期間待たされる、 放置・サボター ない、文書にしない)に加え、制度の使い勝手 治家の資産公開がその例。次は議会の政務活動 もその一つ)、特定情報の公表の義務付け(政 電子政府の実現により、インターネットを活 用した情報提供が基本となる。会議公開(閣議 国新聞社の開示請求に対しては「中電回答全て て許可・不許可の判断を1年間先送りした。中 申請に対し、県は通算6度目の補足説明を求め 終わりに、本年5月、中国電力による上関原 発予定地の公有水面埋め立て免許の3年間延長 不可欠である。 ジュもある、不存在に逃げ込むなど) 、最後に 費の出番)、パブリックコメント情報などであ 黒塗り」であったので、同社は異議申し立てを (2)情報提供の充実 はまともな理由なしに非開示とする(不服申し る。 半面 「限界」 としては、 行政のガードの堅さ(言 われなければ情報を出さない、言われても出さ 立ては出ない前提で、出たら理由はその時考え (ほんだ・ひろかず 元愛媛大教授) これまで見た岩国の事例の延長であり、注目し 行い、これから審査会で審理されることとなる。 (3)メディア報道の変革 る)ことがあげられる。事例で見た法的救済に ている。 請求により140㌻に及ぶ文書が開示され、そ [1]エドワード・スノーデン。1983年生まれの米 ら脱して、情報公開制度も活用して独自の報道 国 の 情 報 技 術 者。 米 国 家 安 全 保 障 局( N S A ) に よ る に努めるべきである。福山市鞆町の埋め立て・ 米国民や各国首脳の電話盗聴や全世界の電話、電子メー ル、 イ ン タ ー ネ ッ ト の 傍 受 な ど の 情 報 収 集 活 動 を 内 部 架橋をめぐる県・市の攻防は、中国新聞の公開 告発した。米司法当局が逮捕状を取り指名手配、現在、 渡航先のロシアに滞在中。 ディアは役所に都合の良い官製情報の伝達役か の記者クラブ制度は変革が求められている。メ まで到達するのは通常の市民には至難であり、 インターネットの普及により、誰でもが政府 たいていはあきらめる。 審査会の答申を見ると、 情報に容易にアクセスできるようになり、従来 異議申立人の主張は「出すべきものを出さない のはけしからん」という感情?が先立って法的 に構成されていないものが多い。専門家(弁護 士、学者、全国市民オンブズマン連絡会議、情 報公開クリアリングハウスなどのNPO)のサ ポートが要る。 2014.9.20 09 マスメディア再構築必要 山田健太・専修大教授(言論法、ジャーナリズム論)は6月 日、広島市中区の広島市ま ちづくり市民交流プラザで「岐路に立つ言論の自由」と題して講演。言論と憲法をめぐる「嫌 山田 健太 おい 年ぐらい一貫して続いており、安倍晋三政権が仕上げの役割を担っている 民やマスコミOBら約 置くとしても、今の社会的状況は「嫌だな」と いうことが続いている。2014年の通常国会 一つとってもそうだ。しかし、これは今始まっ たものではない。この嫌な感じは 年間ぐらい 続いており、それがピークに達している。 例えば特定秘密保護法、急に出てきた話では ない。1960年代から 年ごとに出てきてい 秘密保護法制を作ろうという話があった。これ る。まず 年代に刑法改正草案の下書きが出て、 今年の3・ を福島県の浪江町で過ごした。 のゼミ生とすごした。学生の関係者の安否が分 現在、帰還困難区域に指定されており、通常の からないなかで、東京でも米や水がなく、それ 点観測をしている。東日本大震災にコミットし ている大きな理由として、私自身が東京の専修 年ぐらい続く「嫌な」感じ がにまずい、で終わった。 年代、国家秘密に 係るスパイ行為等の防止に関する法律案(スパ イ防止法案)が出てきて、多くの市民団体、メ 年ごとに出てき ディアの反対のほか自民党内にも反対があって 廃案になった。秘密保護法は そんな経験も踏まえながら、今とても嫌だな、 困ったなと思う状況が続いている。安倍晋三政 ている。 こ れ ら 国 家 秘 密 法 は、 戦 前 の 軍 機 保 護 法 と 専修大自体が東日本の学生を多く受け入れてお 権は特異な政権で、この「特異さ」はひとまず 70 60 り、私も震災当日以降、1カ月ぐらい東北出身 大にいるということもある。石巻専修大という を持ち今日にいたっている。 は正式な話にはならなかった。 年代に刑法改 11 たが、その後はずっと石巻や南相馬を中心に定 11 兄弟校があり、被災地と関係が深い。なおかつ 80 10 15 は南相馬で過ごした。 3・ 当日こそ東京だっ 正草案が法案提出の手前まで行った。でもさす 人が聴きいった。以下、講演の要旨。 が共有するためのジャーナリズム再建が必要だと強調した。広島マスコミ九条の会主催。市 マスメディア関係者の権力への擦り寄りも目立っており、政府が隠したがる情報を市民社会 する防衛省の対応など、政府の「異論を認めない」姿勢があからさまになっている一方で、 とした。そのうえで、漫画「美味しんぼ」や石垣市での陸自基地建設を報じた琉球新報に対 な」感じはこの 21 出入りは許されていない。一昨年と昨年の3・ を学生たちと分かち合いながら不安な日々を過 50 15 15 ごしたものだから、その後も被災地とかかわり 11 やまだ・けんた 専修大人文・ジャー ナリズム学科教授、専門は言論法、ジャー ナリズム論。1959 年京都市生まれ。早 稲田大大学院ジャーナリズムコース、法 政大法学部等でも講師を務める。日本ペ ンクラブ理事・言論表現委員会委員長、 自由人権協会(JCLU)理事、世田谷区情 報公開・個人情報保護審議会委員ほか。 近著に、『3.11 とメディア―新聞・テレ ビ・WEBは何をどう伝えたか』(トラ ンスビュー)『言論の自由―拡大するメ ディアと縮むジャーナリズム』(ミネル ヴァ書房)『ジャーナリズムの行方』(三 省堂) 『法とジャーナリズム 第 2 版』 (学 陽書房)『政治のしくみと議員のしごと』 (トランスビュー、共編著)など。毎日 新聞、琉球新報で連載中。 10 「開かれた政府」を求める ≪ 105 ≫ 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 106 ≫ ぎまわる人。この二つをせき止め秘密を守るの を捕まえる。 「下り」は漏らす人、 「上り」は嗅 り方は二つの方法しかない。情報の上りと下り 特徴が似通っている。世界を見ても、秘密の守 て行われる、家督の相続権も認めるとわざわざ 等権だけでなく、婚姻は自由な意思のみによっ から戦後の憲法は女性の権利保障に手厚い。平 権利も結婚する相手を選ぶ権利もなかった。だ モノ扱いだった。選挙権だけでなく家督を継ぐ された。 目に遭い、二度としたくないという思いが生か 戦争放棄をうたっている。戦争によって大変な 条第2項で検閲、盗聴の禁止を言 書いている。戦前になかったことを保障してい い だ。 戦 前 戦 中 に 検 閲・ 盗 聴 を し て き た か ら う。 憲 法 で 明 示 的 に 書 い て い る の は 日 本 ぐ ら 別手厚い。 同 様 に 日 本 の 憲 法 で は「 表 現 の 自 由 」 が 特 が世界共通で、戦前の軍機保護法も同じだ。日 る。世界の憲法をみると、憲法ができる直前の 英国からの独立を前提に新大陸で侵害された権 している。例えば「暴露 スノーデンが私に託 したファイル」(新潮社刊、2014年)を読 年ぐらいを背負っている。例えば米国憲法は、 だ。他国なら、もともとこんなことはいっぱい と決めた。国に反対する人を恣意的に捕まえる 条まであり、 は書いてない。でも日本は、表現の自由は絶対 の特徴で言うと人身の自由、逮捕されない権利。 なかった。戦時の検閲は当たり前だから憲法に 時にセンサード( censored )という国防総省検 閲済みのマークが入った画像しかテレビで流せ なれば、どの国も検閲する。米国では湾岸戦争 規定(権利 章典)の最初は表現 の自由。当時、 むと、米国は世界規模で盗聴している。戦争に 利を保障しようとする。だから米国の人権保障 したことは、戦前戦中に実際あった。だから ために使えてしまう、ということからだ。こう 15 年代も 年代も 年代も、秘密を嗅ぎまわる人 英国では印紙税などによってがんじがらめに言 を捕まえることはしない、 憲法の理念に反する、 論が縛られていた。その経緯があるからまず表 現の自由、言論の自由をうたった。日本の憲法 80 憲 法 の 理 念 は 大 事 だ。 例 え ば 戦 前 は 女 性 は 条から 年 代、 年代に かすか、今その瀬戸際に立っているといえる。 年 代、 秘密法の原型は日米安保 秘密保護法では 年代後半 は憲法の理念を守るという声が上回っていた。 つ国はと言うとコスタリカと クイズで戦争放棄の規定を持 特別だと思われがちだが違う。 9 条 の 戦 争 放 棄 の 規 定 も、 が手厚い。 本 の 憲 法 で は「 人 身 の 自 由 」 省に立っている。そうした理念をどのように生 わざわざ別規定で入れている。すべて過去の反 23 答 え る が、 違 っ て い る。 ド イ 70 それが 年代末から変わってきた。 60 と言ってきた。 憲法の ラスアルファで検閲の禁止、盗聴の禁止(通信 的に守ろうと、憲法 条の表現の自由規定にプ 他の基本的人権に比してもと の秘密)を入 れた。学問の自由( 条)も、 条) 、信教 前戦中に特高警察が市民を勝 の自由( 条) 、思想・良心の自由( 21 手に捕まえ裁判もせず殺した 20 ツ、 イ タ リ ア、 日 本 は 憲 法 で 90 義務違反。しかし、嗅ぎまわる方は捕まえない 本は戦後の新憲法の下、漏らす人を捕まえると 60 いうのはそのまま残した。国家公務員法の守秘 21 て も 詳 し く 書 か れ て い る。 戦 40 と い う こ と が あ っ た か ら、 日 19 80 90 2014.9.20 31 70 ≪ 107 ≫ 的に違うのは、他の国ではそうした行為を憲法 の保障の外に置き、最初から社会に存在しては 会制度もこの 年間で大きく変わった。その仕 上げが今国会だったといえる。大きな分かれ道 [1] の 日 米 新 ガ イ ド ラ イ ン あ[た り か ら、 日 本 は 普 通の国になろうと言い始めた。日本は世界に誇 ならないと考える。日本のようにいったんは表 維持法につながった。だから例外を作らないで り次々と例外ができる。それが戦前戦中の治安 日 本 の 場 合、 例 外 を 作 れ ば ア リ の 一 穴 に な 根本的に異なる。 現の自由としたうえで、事後的に罰するのとは になっていることを知っていただきたい。 「表現の自由」に例外 るべき特別な平和国家だったが、小泉純一郎内 閣、 第1次安倍晋三内閣を通じて変わってきた。 [2] 戦争ができる国という形で有事立法ができたの が こ こ か ら 少 し 大 き な テ ー マ、 表 現 の 自 由 の 守り方やメディアのありようを話したい。 るが、これに関連する日米地位協定刑事特別法 として、日本では表現の自由は、はじめにいっ 別手厚い法律体系と話したが、もう一方の特徴 モデルは特別だということだ。表現の自由が特 いったんは認めた上で厳しく対応するのか、そ だ。大原則として社会的に全く認めないのか、 いということではない。むしろ日本は厳しい国 ま ず 言 い た い の は、 日 本 の「 表 現 の 自 由 」 きた。ヘイトスピーチや児童ポルノを規制しな 年に改正された自衛隊法とこの米 密保護法は の日米新ガイドライン以降の考え方を明文化す 年 こうした例は今国会期間中だけを見てもた 止法改正、あるいはヘイトスピーチの問題。海 すい例でいえば今国会で成立した児童ポルノ禁 もとで保障されている。他国は違う。分かりや の例外を認めない。すべての表現行為は憲法の とがある。日本憲法の表現の自由は、いっさい 社会に存在してはいけないという例外を一つ る。日本は初めて「表現の自由」で、絶対的に 法が改正され、1年後には単純所持も禁止にな 方向にカジを切った。今国会で児童ポルノ禁止 いが、日本はいけないものはいけない、という を変えようとしている。議論があるかもしれな そ こ が 日 本 型 の 社 会 の 作 り 方 だ が、 今 そ れ こが違っている。 るものだし、武器輸出3原則も実際に緩和した 外、特にヨーロッパでは、これらは表現の自由 作った。ヘイトスピーチに反対する人たちは、 さいの土俵を設けない、絶対的な自由というこ のは民主党政権で、それをさらに分かりやすく の保障の外にある。最初から世の中に存在して ではヘイトスピーチも当然「表現の自由」の例 くさんある。集団的自衛権の容認問題も、 したのが安倍政権の閣議決定だった。教育委員 はいけないものだ。ヘイトスピーチは人種差別 外的行為だ、と言う。政府はヘイトスピーチ禁 を捕まえる。日本ではヘイトスピーチは自由だ 誰かを傷つける場合、裁判所が判断してその人 で も 日 本 は 違 う。 も ち ろ ん そ れ が 明 ら か に ると決めてしまえば、それはさまざまな使い方 げるかもしれないが、一定の表現行為を禁止す ヘイトスピーチの集会やデモの禁止に効果をあ 例 え ば 広 島 大 学 で あ っ た「 慰 安 婦 」 を 扱 っ がされる危険がある。 ルノも販売目的で持てば捕まる。けれども圧倒 という人がいるが、そんなことはない。児童ポ 止 法 案 を 近 い う ち に 出 し て く る か も し れ な い。 的な思いを抱くだけで捕まる対象になる。ある 97 99 [1]日米新ガイドライン 冷戦終結後、米国は東アジ ア の 軍 事 的 プ レ ゼ ン ス を 高 め る 戦 略 を 打 ち 出 し た。 こ れ に 沿 っ て 1 9 9 6 年 の 日 米 安 保 共 同 宣 言、 年 の 日 米 防 衛 協 力 の た め の 指 針( 日 米 新 ガ イ ド ラ イ ン ) が 出 さ れ た。 主 眼 は、 在 日 米 軍 を 地 球 規 模 で 行 動 さ せ よ う と い う も の で、 こ れ に 合 わ せ て 日 本 側 の 軍 事 分 担 を 明 確 化 さ せ る た め、 橋 本 龍 太 郎 政 権 が 周 辺 事 態 法 な ど、 い わ ゆ る 日 米 新 ガ イ ド ラ イ ン 法 を 国 会 提 出、 年 5 月 に成立した。 [2]2001年自衛隊法改正 防衛秘密を漏らす側と 受 け 取 る 側 の 双 方 に 刑 事 罰( 5 年 以 下 の 懲 役 ) が 科 さ れる。 なれない。 いはそういう思想を持つだけで公務員や教員に 軍秘密保護法がベースになってできている。 01 99 広島ジャーナリスト 18 号 15 に現在の特定秘密保護法の原型がある。今の秘 援助協定(MSA協定)に伴う秘密保護法があ せた。米軍機密を守る法律として日米相互防衛 その中に、現在の秘密保護法の原型を潜り込ま 年。2001年には自衛隊法を改正した。[ 99 ≪ 108 ≫ [3] こ の 年 間 ぐ ら い 週 刊 誌、 テ レ ビ、 新 聞 に た 講 義 の 問 題。[講 義 自 体 を 論 評 す る 材 料 を 持 垣市にできそうだと報道したら防衛省がそんな たないが、問題は、ああいう授業はよくない、 事実はないと琉球新報と新聞協会に抗議した。 対 し て 政 治 家 が す ぐ 訴 訟 を 起 こ す よ う に な っ た。少しでもメディアが間違えば抗議をする。 訴えられた側はとても労力がいる。放送局への 今後は警察や政府が、ある種の表現行為につい ている=次㌻参照。 論は認めないという態度を政府が強く打ち出し 何かあれば、放送局が持つ番組審議会に言って の問題で直接「おかしい」とは言わなかった。 なかった。そんなことを平気でする。3月 日 人の閣僚が相次いで抗議をしたことだ。今まで は「美味しんぼ」のたかだか数コマの表現に7 のコメントがとやかく言われるが、大きな問題 いえる。鼻血シーンや井戸川克隆・前双葉町長 同 じ こ と は 5 月 の「 美 味 し ん ぼ 」 問 題 で も にも認めないという態度を示し始めている。こ があった。今では自分たちと違う意見は社会的 と意向を伝える程度だった。公権力なりの抑制 これまで公権力は、文句は言っても、やんわり 対応になっているのがこの1、2カ月の事例だ。 それがエスカレートして我慢も遠慮もない 務省が社長を呼び出して「おかしい」という。 議論を促した。最近は、個別の番組に対して総 おい 放送のテレビ朝日系「報道ステーション」もそ [4] 異論は認めな い 政 府 次 に、 そ れ ら を 後 押 し す る よ う な 政 府 の 状 うだ。福島県内の子どもの甲状腺がんが増えて う法体系に変わりつつある。 てそもそも保障されないと判断できる、そうい 80 際に基地ができるかどうかは分からないが、琉 主観的な規制だから、立場によって規制が違っ 総務省の行政指導も同じだ。 年代までは個別 てくる。 これまでは個別の裁判での問題だった。 球新報が批判の対象になっている。まさに、異 と否定する方に使われかねないということだ。 新聞協会への抗議は戦後初めてだ。石垣市に実 15 況がある。4月9日付琉球新報に「検証 防衛 省が本紙・新聞協会申し入れ」という記事が掲 28 23 23 たらどうか、現時点では「分からない」という い」というのはおかしくないか、きちんと調べ した。報道は、「ある」という声があるのに「な げたら、政府は「そういう事実はない」と否定 いる可能性があるという市民団体の声を取り上 いう雰囲気が強まっている。 る、自由や権利が多少規制されても仕方ないと 社会で解決するのではなく公権力に対応を委ね 視 カ メ ラ、 「 有 害 」 図 書 の 規 制 も そ う だ。 市 民 に規制を委ねるという傾向が強まっている。監 めない、あるいは平穏と安全のためなら公権力 の 傾 向 は 社 会 全 体 に 広 が っ て い る。 異 論 を 認 そ れ で 何 が 起 き て い る か。 政 治 的 な 色 彩 が のが正解ではないか、というものだった。それ 回しろ、福島で低線量被曝の影響はないんだか ある集会は、地方自治体は後援をやめよう、そ 琉球新報、「美味しんぼ」、「報道ステーショ 題を議論し、どう市民社会を作っていくか議論 なっている。本来、みんなが社会的政治的な問 れがさらに進んで公民館の貸し出しも難しく ン」と、政府はこれまでとは違う対応をしてき のは囲碁教室だったりダンスの練習会ばかりと するための公共的空間だが、実際にやっている めない。そういうことが続いている。 ら、という。政府の方針に対して異論は一切認 に対して政府は、「分からない」というのは撤 11 ている。日本の表現の自由のルールを変えよう としている。 2014.9.20 載 さ れ た。[琉 球 新 報 が 2 月、 自 衛 隊 基 地 が 石 [3]広島大の講義 4月 日、韓国籍の准教授がドキュ メ ン タ リ ー 映 画 を 教 材 に「 慰 安 婦 」 問 題 を 取 り 上 げ た と こ ろ、 聴 講 し た 学 生 が 産 経 新 聞 に 投 書。 こ れ を 受 け て 5 月 日 付 産 経 新 聞 が 1 面 連 載「 歴 史 戦 」 で 取 り 上 げ、 「一方的に『性奴隷あった』/広島大講義で『蛮行』 訴える韓国映画」と報じた。日本科学者会議広島支部、 日 本 軍「 慰 安 婦 」 問 題 解 決 ひ ろ し ま ネ ッ ト ワ ー ク が 広 島 大、 産 経 新 聞 に 言 論、 学 問 の 自 由 を 守 る よ う 求 め る 声明を出した。 [4]琉球新報・新聞協会への申し入れ 2月 日付琉 球 新 報 は 1 面 ト ッ プ で「 陸 自、 石 垣 に 2 候 補 地 」 の 見 出 し で、 防 衛 省 が 陸 自 警 備 部 隊 の 配 備 地 と し て 2 カ 所 を 候 補 に 最 終 調 整 に 入 っ た 」 と 報 じ た。 こ れ に 対 し て 防 衛 省 は 事 実 に 相 違 す る と 琉 球 新 報 に 訂 正 を 要 求、 日 本 新 聞 協 会 に「 慎 重 か つ 適 切 な 報 道 を 要 望 す る 」 と 申 し入れ書を送った。2月 日は石垣市長選の告示日だっ た。 こ れ ら の 経 過 を 踏 ま え、 4 月 9 日 付 琉 球 新 報 は 検 証記事を掲載した。 21 ≪ 109 ≫ いうことにもなりかねない。 そういう状況が広がってい る。 社 会 の 空 気 が そ う さ せ て い る。 法 律 の 問 題、 政 府 の 態 度 の 問 題、 そ れ を 後 押 ししている社会の空気の問 題、 こ の 三 つ が 表 現 の 自 由 を危うくさせている。 他国にはない マ ス メ デ ィ ア で は メ デ ィ ア、 ジ ャ ー ナ リ ズ ム は ど う か。 新聞は最近読まれなくなったというが、世界で マスメディアが実質的に存在している国は日本 だけだ。どこに住んでいてもテレビが4チャン ネルも5チャンネルもタダで見られる国は他に ない。テレビがマスメディアでありうる国とい うことだ。新聞も1日約5千万部出ている。こ れだけの発行部数は、統計では世界でインド、 中国だけだ。でも、これらの国は日本とは人口 の規模が違う。一方で、日本はほぼ1世帯に1 部新聞が届く。これだけの普及率を持つ国はル ㊤石垣市での陸自基地建設を伝える2月 23 日付琉球新報 1 面㊦防衛省が琉球新報と新聞協会に抗議し た経過を検証した4月9日付琉球新報紙面 ( いずれも琉球新報社提供 ) 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 110 ≫ 安倍首相が会ったマスメディアの関係者( 「首相動静」から)② 日付 人 9.12 内閣記者会加盟報道各社キャップ 10.16 清原武彦 日枝久 10.17 元担当記者 10.23 11.7 11.13 11.28 12.2 12.16 12.19 12.20 場所 赤坂、中国料理店 明治記念会館 官邸 永田町、赤坂エクセルホテル東急内レス トラン 共同通信社 金美齢事務所 公邸 大手町、読売東京本社ビル 丸の内、パレスホテル東京内日本料理店 永田町、山王パークタワー内中国料理店 赤坂、ふぐ料理店 四谷、フランス料理店 赤坂、ANAインターコンチネンタルホ テル東京内日本料理店 公邸 大手町、読売東京本社ビル 官邸 福山正喜(※共同通信加盟社編集局長会議懇親会であいさつ) 金美齢 見城徹、石井直(電通社長)、末延吉正(政治ジャーナリスト) ※読売東京本社ビル完成パーティーであいさつ 渡邉恒雄 田崎史郎、小田尚、粕谷賢之、島田敏男(NHK 解説委員) 渡邉恒雄 清原武彦、熊坂隆光 12.26 報道各社政治部長ら 12.27 内閣記者会 1.17 渡邉恒雄、白石興二郎(読売新聞本社社長) 1.20 松本正之(NHK 会長) 新聞通信各社論説委員 1.21 在京民放各社解説委員 内閣記者会加盟報道各社キャップ 1.29 日枝久 2.3 朝比奈豊 2.18 清原武彦、海老沢勝二(NHK 元会長)、広瀬道真(テレビ朝日元会長) 官邸 雷門、鳥料理店 平河町、日本料理店 丸の内、パレスホテル東京内宴会場 永田町、赤坂エクセルホテル東急内レス トラン 官邸 2.21 元担当記者 2.25 田原総一朗 ※ 2013 年1月~ 14 年 2 月の紙面掲載「首相動静」欄を基に作成。敬称略 [編集部注] 「エディターシップ」3号の山田健太氏による「私たちはいかにして『開かれた政府』を実現するか」 文中の表を転用した。その際、①複数回出てくる人物の所属団体は、2回目から省略②会合場所は、編集部の 責任で店名など一部を省略―など表記の簡略化をした。 ク セ ン ブ ル グ、 シ ン ガ ポ ー ル、 香 港、 マ カ オ。 それに特別な制度を持つ北欧3カ国。部数と普 及率の両方で日本に並ぶ国は世界にないといえ る。週刊誌や本も同じ。これだけ全国どこでも 本屋さんがあるのは日本だけだ。雑誌や週刊誌 や本をマスメディアとして存続させている。日 本は新聞、テレビ、雑誌、本すべてがマスメディ アとしてそろった世界でオンリーワンの国だ。 そ う い う マ ス メ デ ィ ア を ど う 生 か す か、 そ でいっぱい出て来た。権威に頼り の特性をどう考えていくか。もちろん悪い面も あり、3・ がちになる。みんなに見てもらおうと中庸、真 ん中に寄りがちになる。政府の発表に寄りがち になる。少数者の意見を言えば偏っていると言 われかねないから権威に頼る。そういう面をど うするかが一方にあるが、同時に、世界に例が ない日本のマスメディアをどう使うかも考えな くてはいけない。このマスメディアをなくして いいのかという問題もある。 でも一番大きいのは、マスメ 今マスメディアをなくそうという大きな流 れがある。3・ ディアの否定だった。既存メディアの役割は終 わった、早くつぶそうという。あるいは記者会 見でマスメディアがフリーメディアを入れると いう話になったが、そもそもマスメディアの存 在がよくない、記者クラブ自体がよくないとい う声になる。批判が不信になり、不要論の時代 日 本 の 場 合、 新 聞、 テ レ ビ、 雑 誌 に よ っ て に入りつつある。 2014.9.20 11 11 ≪ 111 ≫ 安倍首相が会ったマスメディアの関係者( 「首相動静」から)① 日付 人 1.7 渡邉恒雄(読売新聞グループ本社会長) 場所 丸の内、パレスホテル東京内日本料理店 赤坂、ANAインターコンチネンタルホ 1.8 清原武彦(産経新聞社会長)、熊坂隆光(同社長) テル東京内日本料理店 1.10 小田尚(読売新聞東京本社論説委員)、田崎史郎(時事通信解説委員)ら 赤坂、日本料理店 1.15 石川聡(共同通信社社長)、吉田文和(同編集局長) 官邸 1.24 井上弘(日本民間放送連盟会長)ら 官邸 新聞・通信各社などの論説委員ら 1.25 在京民放各社解説委員ら 官邸 6.25 6.27 内閣記者会加盟報道機関キャップら 木村伊量(朝日新聞社社長)、吉田慎一(同上席役員待遇コンテンツ統括 編集国際担当)、曽我豪(同政治部長) 田原総一朗(ジャーナリスト) 石川聡 新聞通信各社論説委員ら 在京民放各社解説委員ら 内閣記者会加盟報道各社キャップら 喜多恒雄社長(日本経済新聞社) 浅海保(読売新聞本社副主筆)、粕谷賢之(日本テレビ放送網報道局長) 日枝久(フジテレビ会長) 清原武彦 早河洋(テレビ朝日社長)、見城徹(幻冬舎社長) 金美齢(評論家) 岸井成格(毎日新聞社主筆) 朝比奈豊(毎日新聞社社長) 田原総一朗 田崎史郎、小田尚、曽我豪 大久保好男(日本テレビ社長) 金美齢 西沢豊(時事通信社社長)、田崎史郎 渡邉恒雄、大久保好男 長谷川幸洋(東京新聞論説副主幹)、小出宣昭(中日新聞社社長) 渡邉恒雄 石川聡 新聞・通信各社などの論説委員 大石剛(静岡新聞社社長)、小坂壮太郎(信濃毎日新聞社社長)、吉田真士(福 井新聞社社長)、一力雅彦(河北新報社社長)、白石方一(京都新聞社会 長兼社長) 櫻井よしこ(ジャーナリスト)ら 福山正喜(共同通信社社長)、鈴木博之(同政治部長) 7.1 飯塚恵子(読売新聞論説委員)ら 2.7 2.14 2.15 2.27 3.8 3.13 3.15 3.21 3.22 3.24 3.27 3.28 4.4 4.5 4.11 5.7 5.8 5.14 5.15 5.20 6.12 6.20 7.22 後藤謙次(ジャーナリスト)ら 7.24 報道関係者 8.1 8.2 8.5 8.7 8.16 8.18 8.20 8.22 9.10 浜田健一郎(NHK経営委員長) 花田紀凱(月刊誌 WILL 編集長)、日下公人(評論家) 朝比奈豊 清原武彦 日枝久 杉田亮毅(前日本経済新聞社会長) 日枝久 日枝久 福山正喜 渡邉恒雄 内幸町、帝国ホテル内中国料理店 官邸 白金台、日本料理店 官邸 内幸町、帝国ホテル内フランス料理店 森ビル会員制クラブ 芝公園、フランス料理店 官邸 官邸 新宿、フランス料理店 官邸 ホテル椿山荘内日本料理店 官邸 永田町、山王パークタワー内中国料理店 帝国ホテル内宴会場 新宿「壱丁目参番館」 丸の内、パレスホテル東京 公邸 西麻布、フランス料理店 丸の内、パレスホテル東京 官邸 赤坂、中国料理店 虎ノ門、ホテルオークラ内中国料理店 公邸 官邸 飯田橋、ホテルグランドパレス内日本料 理店 永田町、日本料理店 永田町、赤坂エクセルホテル東急内レス トラン 官邸 公邸 官邸 官邸 山梨県富士河口湖町、ゴルフ場 山梨県鳴沢村、ゴルフ場 山梨県山中湖村、ホテル宴会場 山梨県富士河口湖村、ゴルフ場 赤坂、アーク森ビル 丸の内、パレスホテル東京内日本料理店 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 112 ≫ マスメディア関係者と会った一覧を付けた= 府』を実現するか」に、安倍首相がこの1年間 る。 「エディターシップ」 3[号( 年6月) に 書 い た「 私 た ち は い か に し て『 開 か れ た 政 「取り込まれるメディア」ということがあ なくてはいけない。 なしに先に壊していいのか、ということを考え がある。それに代わるものをどう作るか、それ 言論の自由な公共空間を保ってきたという経緯 ない。しかし、秘密を作る際にきちんと説明す 政治だから、秘密があっても仕方ないかもしれ について新しい社会を作っていくということを ちんと情報を開示する、市民と一緒のテーブル いうだけではなにも変わらない。まず政府がき てほしいことはいっぱいあるが、やめてくれと くてはいけない。特定秘密保護法のほか、やめ いいか。一つは、政府の考え方を変えていかな の問題とマスメディアの問題。ではどうすれば に市民社会として、ジャーナリズムがきちんと 府は、基本的に説明をするということを嫌う。 会もきちんとチェックしないといけない。同時 まずは思ってもらわないといけない。現在の政 チェックすることが大事だ。 く、秘密を作ろうという行政に対して司法も国 を作ってもいいと思いこんでいる。そうではな が全く逆だ。政府が勝手に秘密を秘匿する法律 するか。その制度が秘密保護法だ。日本はそこ 市民社会としてコントロールするか、チェック 法だ。増え続ける秘密に対して、どう国として ど の 国 で も、 秘 密 保 護 法 の 本 体 は 秘 密 監 視 ない。 110・111㌻の別表参照。一番仲がいいの [5] は渡邉恒雄・読売新聞グループ本社会長。だい 前 述 の「 暴 露 」 と い う 本 で 感 じ た の は、 今 ることが大事だ。そうしないと秘密を監視でき の体験なども踏まえて執筆、ジャーナリズム やメディア論を専門とする大学教授3氏(武 ジャーナリズム事典」が刊行された。ジャー 記事の長さに大中小と差を付けた上で、特に 項目は 音順で並べられ、用語は語義と実 例、 事件は背景と影響または特色という構成。 田徹、藤田真文、山田健太)が監修した。 ナリストや大学教授、弁護士ら 人が、実際 ジャーナリズムの現状を語る上で欠かせな い用語や事象約700項目を網羅した「現代 「現代ジャーナリズム事典」刊行 たい重要な政治日程の前後に会っている。次に 会っているのが日枝久フジテレビ会長。絶対会 うな、とはいわないが、年に5回も6回も会う 必要があるのか。少なくともメディアが政権を 批判している真っ最中に会うなよ、ということ もある。そこが見えなくなっている。それで現 場が変わるようなメディアはないと思うが、一 般市民から見ればあやしい。信頼感を失う。マ スメディアが曲がり角にあるにもかかわらず、 信 頼 を 失 う 行 動 を な ぜ す る の か。 そ の 中 で メ ディアを市民社会の中でどう位置付け立て直す か、考えなくてはいけない。 重要と思われる「メディアと権力」「戦争報道」 などは約2㌻を割く「特別解説」にした。巻 末にはメディアをめぐる判決一覧を付けた。 年生 監修者の一人である山田氏は「ジャーナリ ズムが揺らいでいる時代。我々の世代 (武田、 藤田、山田3氏はいずれも1958~ まれ)として、ジャーナリズムの基準になる 59 日刊。A5判378㌻。税 ものを示したかった」と話す。 2014.9.20 50 三省堂、6月 別4500円。 20 政府と市民が 情 報 共 有 を 今 日 話 し た か っ た の は 二 つ で、 表 現 の 自 由 [5]「エディターシップ」 日本編集者学会発行、トラ ンスビュー発売。B5判、2000円(税別)。 89 14 どで、政府が市民団体ときちんと情報を共有し している。5年ぐらい前から始まった。米英な そ の た め に は、 政 府 と と も に テ ー ブ ル に つ 同じテーマで考えていく、そういう土俵を作っ 変えていくということをしないといけない。 や悪行を暴露する人ががいるどうかではない。 くということも必要だ。7月7日のキックオフ ていくという考え方だ。現在、 い ( ずれも通 日本審査が行われました。国際人権規約は二つ の部分、社会権規約と自由権規約 称 か ) ら成り立っています。この二つの規約に ついて、別々に規約委員会があり、定期的に締 約国の状況についての審査が行われます。自由 権規約の正式名称は「市民的及び政治的権利に 関する国際規約」といい、日本は1979年に 「 約 国 は、 中 (略 委 ) 自由権規約第 条に 締 員会が要請するときに、この規約において認め です) Human Rights Committee 批准しました。(なお自由権規約委員会の英語 条の規定を満たすよう勧告した。政府は同日、 日本の人権状況を審査していた国連の自由権規約委員会は7月 日総括所見を公表。日本政 府に対して、特定秘密保護法について秘密の定義が広くてあいまいと指摘、ジャーナリストや 表現の自由、知る権利を保障した自由権規約 日本が批准している国際人権規約からみても同法が問題であることを明らかにした。勧告に先 立って行われた自由権委員会の日本審査を傍聴した「秘密保全法に反対する愛知の会」国際情 報部会の酒井健次さんが本誌に傍聴記を寄せた。 する報告を提出することを約束する と 」 あり、 これに従って、日本政府は2012年4月に報 らの権利の享受についてもたらされた進歩に関 られる権利の実現のためにとった措置及びこれ 40 広島ジャーナリスト 18 号 問われているのはスノーデンのような国家機密 あ え て 言 え ば、 リ ー ク を き ち ん と 受 け 止 め る 集 会 で「 開 か れ た 政 府 プ ロ ジ ェ ク ト 」 を[立 ち カ国が加盟し ジャーナリストがいるかどうかだ。今の日本に [6] は、いない可能性が高い。いなければ世の中は 上げる。世界中の政府と市民団体が Open Gov- ているが、日本政府は入っていない。とりあえ ( 開 か れ た 政 府 ) の た め の 共 同 行 動 を ずは日本政府を後押しして情報を開示する、説 ernment 変わらない。きちんと受け止めるNGOなり、 ジャーナリズムなりを作っていく。政府を変え るのは簡単ではないかもしれない。でも市民社 [ 6]「 開 か れ た 政 府 を つ く る プ ロ ジ ェ ク ト 日 本 ペ ン 明するという義務を果たさせる、市民社会にも ク ラ ブ、 自 由 人 権 協 会、 情 報 公 開 ク リ ア リ ン グ ハ ウ ス 受け皿を作る。そういうことを一つ一つしてい が 市 民 と 政 府 の 距 離 を 近 づ け る た め 立 ち あ げ た。 Open く こ と で、 自 分 た ち の よ り よ い 市 民 社 会 を つ ( OGP) への日本政府の加入を Government Partnership くっていこうと思っている。 目指す。 64 7月 、 日の両日、スイスのジュネーブに ある国連欧州本部パレ・デ・ナシオンにおいて、 16 国際人権規約の通称自由権規約に関する第6回 15 名称は 24 秘密保護法の運用基準案と施行例案についてのパブリックコメントの募集を始めたが、勧告は 19 人権擁護者の活動に深刻な影響を及ぼし得る重罪を科していることに懸念を表明し、意見及び 酒井 健次 会 を 変 え て い く の は 僕 ら の 仕 事 だ。 受 け 皿 を 作って、結果的に政府を監視し、政府の態度を 秘密法で自由権委が勧告 報道・人権に深刻な影響懸念 ≪ 113 ≫ ≪ 114 ≫ 告 書 を 提 出。 こ の 報 告 書 の 内 容 を 審 査 し た 委 権規約委員会事務局が設けた〝公式ブリーフィ と呼ばれる集会が開かれました。今回は、自由 員会から、 「検討課題( 公式〟なものと、2回のブリーフィングが開催 ング〟と参加したNGOが独自に企画した〝非 =LO List of Issues I) 」が[日本政府に示され、このLOIに対に して日本政府から文書による返答が委員会に送 されました。 [1] られました。この日本政府の返答は今回の審査 「秘密の定義が広くあいまい」 今回の委員会に対して、日弁連をはじめいく つかの国内外のNGOが秘密法についてのカウ の責任者を務める。 委員会において口頭で読み上げられましたが、 それに対して、委員会の委員からの再質問が行 われ、日本政府代表団からさらに釈明が行われ ました。このような度重なる審議の結果、7月 日、委員会は今回の日本審査に関する「総括 助 手、 助 教 授 を 経て鈴鹿医療科 鹿医療科学大)教授。2004 年定年退職。 学技術大 ( 現鈴 日本科学者会議会員、理学博士。秘密保 全法に反対する愛知の会で国際情報部会 [2] 条に で )[強 調 さ れ て い る よ う に、 条 2 項は情報にアクセスする権利を擁護するもので 下GC ついての自由権規約委員会の)一般的意見 (以 の保護とどのような兼ね合いなのか。( 19 ンターレポートを提出し、ブリーフィングにお はまず、秘密法に対する国際的な認識がいかな 34 いました。その結果、秘密法についても今回の るものかを知っていただくために、7月 日の 月に日本政府に送られており、 日本審査委員会で取り上げられました。ここで 私達が強く反対し、今に至るもその廃案を目指 19 自由権規約委員会におけるセイベル・フォー委 GC で明言されているように、情報へのア クセスを拒否する場合は然るべき理由が述べら ある。 のLOIに対する返答の審査に先立って、日本 と傍聴のために参加しました。日本政府代表団 れている。意見と表現の自由の制限が規約で制 利の制約は非常に狭いものであるべきだ、とさ 「自由権規約によって意見、表現の自由の権 どういうステップをとっておられるのか。法律 非常に限られている点、これは去年LOIを採 れるべきであり、情報の公開が拒否された場合 [2]自由権規約 条(意見及び表現の自由)の意義や 機 能、 そ の 実 施 の た め に 必 要 と さ れ る 措 置 等 に つ い て 自 由 権 規 約 委 員 会 と し て の 正 式 な 解 釈 を 示 し、 締 約 国 の和訳は日弁 34 連のウェブサイトに掲載 http://www.nichibenren. or.jp/library/ja/kokusai/humanrights_library/ treaty/data/HRC_GC_34j.pdf 年 の 委 員 会 で 採 択 さ れ た。 一 般 的 意 見 時間でアピールするための「ブリーフィング」 約した範囲を超えないことを確保するために、 報 告 書 に 記 載 さ れ る べ き 情 報 を 挙 げ た 文 書。 2 0 1 1 の各NGOからの意見・情報を委員に対して短 し加筆されたものを基に紹介します。 員 ド ( イツ に ) よる秘密保護法に関する質問の 要点を、エセックス大の藤田早苗氏が書き起こ 19 LOIは昨年 以下「秘 」( して運動している 特 「 定秘密保護法 密法」 の ) 問題は、委員会が日本政府に示した LOIには含まれていませんでした。 この委員会の審査にはさまざまな課題を抱え る日本のNGOから 人余の人々がロビー活動 16 34 大きな課題でした。今回の自由権規約委員会の 択した後に出た問題で、かなりの懸念を生んで 学部物理学教室 いても口頭でその問題点を訴えました。もちろ 了、 名 古 屋 大 理 所見 を 」 公表しました。今回の委員会で取り上 げられた問題は、多岐にわたっており、ここで 科物理学専攻修 いる。特定秘密保護法について、それが自由権 生 ま れ。67 年 名 規約 条(意見及び表現の自由)に基づく権利 員。1939 年 東 京 ん、秘密法について国際的な人権基準に照らし る愛知の会」会 全 部 を 紹 介 す る こ と は 出 来 ま せ ん が、 特 に ヘ さかい・けんじ 「秘密保全法に反対す イトスピーチの問題、 「慰安婦」の問題などが、 て多くの問題点があることは既に広く知られて 古屋大理学研究 19 70 34 11 [1] List of Issues の和訳は国際人権活動日本委員会 では権利の制約が広範であり、また司法審査が ( J W C H R ) の ウ ェ ブ サ イ ト に 掲 載 http://jwchr. s59.xrea.com 2014.9.20 24 ≪ 115 ≫ が強調しているのは、締約国は非常に慎重に も不服申し立てが可能であるべきである。GC によると、秘密情報を流布したことで、 であるということである。この新しい法律の翻 て国家の安全保障や公的な秘密を保護するべき とを、どのように確保するのか。安全保障と公 は、この法律が 訴することは 条 と 整 合 性 が な い。 日 本 政 府 訳を読む限り、適用範囲がどのくらいのものか ジャーナリストや環境活動家や人権擁護者を起 GC うたっているが、具体的な意味が明白でない。 委員会は最近採択された特定秘 密保護法が、秘密に特定できる事 項に関する定義が広くてあいまい であること、秘密指定に関して一 般的な条件を含んでいること、そ してジャーナリストや人権擁護者 の活動に深刻な影響を及ぼしうる 重罪を課していることに懸念を表 する。 締約国(である日本)は特定秘 密保護法とその適用が特に次の点 を保障する自由権規約 19 条の厳 しい要求を確実に満たすように、 必要なすべての措置を取るべきで ある。 (a) (秘密に)指定される情報の カテゴリーは狭く定義され、 「情 報を求め、受け、伝える権利」へ のいかなる制約も、適法性、均衡 性の原則を満たし、国家の安全保 障に対する特定され識別されうる 脅威を防ぐために必要ものに限ら れるべきである。 (b)国家の安全保障を害しない 正当な公益に資する情報を流布し たことで、個人が刑罰を受けない こと。 ( 原文は英語。藤田早苗氏訳 ) 34 〈資料1〉勧告(23) 条3項に基づいて厳しい要件を満たして初め 19 34 条に即した形で適用されるこ 19 に、特定秘密として分類する基準が明確ではな 活動〟、そんなことまで述べられている。さら そして、何を意味するかわからない〝特定有害 罰が課されないよう、どうやって保証するか」 究者、環境活動家、人権の擁護者に刑事上の刑 されるよう、何かセーフガードはあるのか。研 「即座に答えていただく必要はありません 22 日、ジュネーブの国連欧州本部パレ・デ・ナ 日本政府代表団 質問を紹介しましたが、本審査委員会の総括所 以上2人の委員からの秘密法に対する意見・ 要になったのか」 どういう問題が起きたから特定秘密保護法が必 ている。どういう風に既存の法律を変えるのか、 る。こういう規定はメディアを非常に恐れさす 7月 が、特定秘密保護法についていろんな懸念が出 において下記の質問をしました。 さ ら に ナ イ ジ ェ ル・ ロ ド リ ー 議 長 は ま と め 開した場合、最高 年までの刑が決められてい い。これはゆゆしきことである。秘密情報を公 非常に分かりにくい。防衛、外交、テロの防止、 の秩序の保護のために必要な時にのみ人が起訴 19 ものである。秘密保護法の 条は報道の自由を 10 会議室で開かれた自由権規約委員会。正 20 面スクリーン左へ4人目がロドリー議長、その左に シオン第 15 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 116 ≫ 見における勧告では 項で、資料1のように述 判の基となっているのは、自由権規約の第 条 が、率直なところ、恥ずかしく感じられました。 例えば、何人もの委員から、 「なぜヘイトスピー によって認められているのと比べるとその重要 についての明文の規定はなく、憲法条項の解釈 とは各自治体を通じて啓発している」というも ならない限り取り締まれない。好ましくないこ れており、民事上の名誉毀損とか、刑事事件に で す( 資 料 2)。 こ れ は、 表 現 の 自 由 に つ い て 自由権規約委員会の検討課題LOIには、秘 性に対する認識の違いがわかります。 べられています。 密法の問題は含まれていません。しかし、委員 けており、国際的な人権基準からは到底認めら の 条 項 で す が、 こ こ で の 表 「 現 の 自 由 」 に は、 チを許しているのか」という質問とも非難とも 知 「 る権利 が 」 含まれることが明文をもって記 取れる発言がありましたが、これに対する日本 されています。日本国憲法の場合は「知る権利」 政府代表の返答は「憲法で表現の自由が認めら 会は秘密法について審議し、自由権規約に照ら れないものです。多くの方々が、このような委 る。 2、すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この 権利には、口頭、手書きもしくは印刷、芸術の形態、または自 ら選択する他の方法により、国境とかかわりなく、あらゆる種 類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。 3、2の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したが って、この権利の行使については、一定の制限を課すことが出 来る。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次 の目的のために必要とされるものに限る。 (a)他の者の権利又は信用の尊重 (b)国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護 種差別を含む差別言動であるとの認識が全く欠 のでした。この返答には、ヘイトスピーチが人 して重大な違反を含んでいることを指摘しまし 「る この第 条の第2項で表現の自由には 知 権利 が 」 含まれることが宣言されています。ま た、第3項では、知る権利に対する制限あるい 34 見や、総括所見に述べられた秘密法に対する批 やヨーロッパ人権裁判所で積み上げられた先例 を基に、その意味する所を詳細に示した文書が 一般的意見 G と (C ) して公表され、表現 の自由と知る権利についての国際基準となって います。このGC は我が国ではあまり知られ 申し込みはファクス 082-231-3005 かメー ル [email protected] ▽紀伊国屋書 店広島店、フタバ図書などでも好評発売中 ずさん 特集「福島原発事故から3年」 奪われ、失われたものを返せ 若松丈太郎 原発 10 ㌔圏からの報告 澤野重男 「脱原発」山口で大同団結 田嶋義介 ポピュラー文化における被爆者像 山本昭宏 ておらず、今回の委員会においても、秘密法の 質問が出たくらいです。この 条とGC が我 19 が国においても広く知られるように努力しなけ ればなりません。 特集「きな臭さ増す安倍軍国化路線」 「立憲主義国」から脱落の瀬戸際 青井未帆 沖縄の気概見せた名護市長選 松元剛 積極的平和主義とは何か 湯浅一郎 NHK「安倍チャンネル化」許さぬ 醍醐聰 検閲は自己抑制招く モニカ・ブラウ 34 34 た。前節で紹介したセイベル・フォー委員の意 は情報の公開を制限するための要件が述べられ 知る権利明記 し た 自 由 権 規 約 19 員会の傍聴に行かれることを願っています。 1、すべての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有す 19 恥ずかしい日本の人権水準 広島ジャーナリスト第 16 号 34 あまりの杜撰さもあって、委員から 日 「 本では GC が日本語に翻訳されているのか」という 34 今回の自由権規約委員会を傍聴して、国際的 に日本は民主的な先進国と認められていること 2014.9.20 23 ています。この第3項については自由権委員会 〈資料2〉自由権規約第 19 条(意見及び表現の自由) 、イスラエル軍による 7月 日(日本時間) ガザ攻撃が始まってから2日目、フェイスブッ いた。こうして戦火のただ中にいるマゼンさん 本で伝えたいことを送って」とメッセージに書 る言葉もない中、思わず「写真でも文章でも日 戦争中にはパレスチナ人のあいだで混じり あった複雑な気持ちを観察できます。子どもた 圧力となっています。 どもイスラエルの政治家に虐殺を止めるように も誰も逃げることはできない。破壊の予告、脅 も攻撃から免れないし、大人も子どもも赤ん坊 マゼンさんは1970年代生まれ、鳥取大大 の軍備を備えるイスラエル軍の無差別攻撃にさ 学院工学研究科に留学、修士と博士号を取得。 らされている。国連の施設も、モスクも、病院 す。無実な人を殺すひどいやり方です。また現 も、女性、老人が中にいる家を爆撃することで 応します。この戦争で最も恐ろしいのは、子ど ほっとすると同時に、子どもたちの顔が目に浮 振動を伴う爆破音、こうしたなかでマゼンさん した。 す。イスラエルはそのモスクを攻撃対象としま 武装した入植者をいったい誰が殺したのか、わ なにも関係ないのです。そして現在まで3人の 30 広島ジャーナリスト 18 号 い、5人の子どもの父親であり、夫であり、研 究者であり、多くの友人を持つ愛すべきひとり の人間の声を私はここに届けたいと思う。 子どもたちは死ぬほど怖がっている 【7月 日午前 時9分(現地時間、以下同) 】 クに攻撃の映像を投稿している時、ガザ在住の と私のやり取りがはじまった。 2009年に留学を終え、5人の子どもとパー ちは死ぬほど怖がって、親にくっついてほとん トナーのダラルさんと故郷ガザで暮らしてい 在はラマダンでほとんどの人がモスクで祈りま かぶ。マゼンさんが日本に留学中、子どもたち 一家は生きている。マゼンさんは、ブログのサ せん。 ミサイルや爆弾は家を地震のように揺らし イトや、写 真、友人のインタビュ ー記事など、 年のガザ空爆 セージとして送信してくれた。私はそれを日本 年から 語に訳しフェイスブックに投稿した。以下はマ イスラエル政府やハマスの公式見解ではな ます。 分おきの地震で寝られるわけはありま スト・レッド作戦 を ) 経験していた。またあの 怖い思いをしているのかと思うと胸が締め付け イスラエルは2年おきに問題を作りパレスチ ナ人を殺します。問題の根本に戻ると、ガザは 彼が伝えたいこと、私が理解すべき情報をメッ られる。泣いていないか。怯えていないか。爆 ゼンさん自身の私へのメッセージをまとめたも さんは怯える子どもをどうなだめるのか。かけ 音や光をどうやり過ごしているのか。食事はで 09 のである。 08 きるのか。家で寝ることができるのか。マゼン はダラルさんと キ (ャ 20 まるで戦争などないかのように子どもたちに対 た。返ってきた返事は 「大丈夫、 家族も皆無事」。 し、攻撃機の絶え間ない轟音、 分おきの強い た。 マゼンさんのウェブランプの緑がふと目に入っ ではないので、状況はとても厳しいです。けれ あなたの支援に感謝しています。私たちのミ サイルはイスラエルのミサイルに比べて効果的 11 ど離れようとしません。 大人は慣れているので、 ガザからメッセージ 11 琵琶湖の半分ほどの面積のガザ地区に無防備 の市民180万人が閉じ込められ、世界最新鋭 湯浅 正恵 た。私は思わず 「大丈夫?」 とメッセージを送っ 10 「安全な所はどこにもない」 ≪ 117 ≫ ≪ 118 ≫ 3度のガザ攻撃も同じ目的ではないかと思いま 人はハマスの抵抗を支持しています。これから います。今夕方の6時 分。日没まであと1時 に寝ています。仕事に行かないので昼間に寝て 毎晩ひどい爆撃。今夜は少しましになること を願っています。私はほとんど毎日、朝の4時 からないままです。私の想像ではネタニヤフで あなたも私たちと一緒にいてくれたなら、朝食 す。 をご一緒にと誘うのですが。 す。イスラエル側は同じようなことを何百回も 「朝食」です。ラマダンを知っているでしょう? 行っており、そうだとしても不思議ではありま 【7月 日午前 時】 せん。 私たちは我慢強く、自由を達成するのももう すぐです。 私たちの心の中で希望はとても強く、 「私たちは恐れてはいないし、私たちの生活は レーボールをすることで、イスラエルに対して うとしています。一方、私の隣人たちは外でバ 似て、サラや彼女の兄弟姉妹の恐怖を和らげよ させています。また娘のサラを面白おかしく真 うに、私は鳥取での滞在を子どもたちに思い出 鳥取が本当になつかしいです。子どもたちの 注意を戦争から遠ざけ、生きることに向けるよ 瞬間です。今、5時間の休戦中です。この時間 の3軒の家が爆破されました。本当に恐ろしい 校や親戚の家に避難しています。今、私の通り たほうがましです。けれども国境近くの人は学 か。ガザ全体が攻撃されているのです。家にい ガザのどこに逃げることができるというのです てください。私の地区は 万人です。 万人が 私たちは逃げるつもりはありません。考えてみ もあるだけ落とせばいいのです。それでも私た を追い出すことはできません。何千もの爆弾で 家に残り続けています。イスラエル兵は私たち たが、今はもう怖がっていません。多くの人が ありません。はじめはダラルも怖がっていまし とつぶやくと)子供は怖がるけど、大人は怖く 毎日何回もかけてきます。(私=筆者が「怖い」 今、イスラエル軍が電話をかけて「家から避 難しろ」とダラルに告げました。馬鹿げている。 分ですか。私たちは長い間苦しんできた 続いている」というメッセージを送ろうとして 15 最近イスラエルは、問題はガザの抵抗勢力だ と言っています。でもそれは不思議です。それ コとカタールの仲介を待っています。エジプト どもみんな無事でした。ここではみんながトル 私 た ち は み ん な 無 事 で す。 我 が 家 と 同 じ ブ ロックにある二つの家が攻撃されました。けれ 思います。地中海のパレスチナの天然ガス田を らイスラエルは平和を望んでいないのだと私は チナ人と暮らそうとしないのでしょうか。だか うか。なぜ西岸で入植地を解体し平和にパレス レスチナ人に惨めな生活を強いているのでしょ リ ー を 買 う こ と が で き ま し た。 私 た ち は 全 員 ま し た。 今 や っ と イ ン タ ー ネ ッ ト 用 の バ ッ テ 長い間、連絡ができなくてすみません。イス ラエルが電気を止めて連絡を取れなくなってい 【7月 日午後3時 19 分】 1・5㌔先で戦車が砲撃 の仲介は誰も信じていません。なぜならイスラ 手に入れたいのだと思います。だから5年間の そして支援をいつもありがとう。 もう解放してあげます。どうぞ休んでください。 ので慣れ てしまっています。オ ーケー、先生。 50 15 ならなぜハマスのいない西岸でイスラエルはパ 0時 ンタリティーはわかっています。今日本は午前 30 【7月 日午後5時 分】 毎晩ひどい爆撃 に食料を買ってきます。あと5分で出かけます。 ちは避難したりはしません。イスラエル軍のメ しむけています。 います。ですからイスラエル軍は時々バイクや 45 車を攻撃し、人々を恐れさせ、家にいるように いつも占領者は敗北するのです。 10 私は大丈夫です。家族も無事です。イスラエ 間です。 ル軍は私たちに家から出ろと言っていますが、 17 18 エルが前回の停戦協定を破った時も、エジプト 同じブロックの家に攻撃 【7月 日午後6時 分】 46 は何の行動も起こさなかったからです。ここの 2014.9.20 16 11 ≪ 119 ≫ マゼンさんの友人の娘 Yara S. Ghabayen さんが描いたガザ爆撃の写真を用いたガザの人々に捧げる作品。7月 16 日 にマゼンさんから送られてきた が無くて苦しんでいるのです。日本のシステム しているのか」という私の質問に対 (「 戦 車 は ど こ に い て、 な に を 攻 撃 買っています。でも今は普通の車も攻撃される 水 は 飲 み 水 で は な く、 飲 み 水 は お 金 を だ し て 水を屋根のタンクにあげます。ガザの水道局の なく、自分のウォール(フェイスブック上の掲 日】 私はまだ生きています。ガザの西部に避難し ています。でも安全な場所はどこにもありませ 【7月 ん。インターネットもつながらないし、電気も 神様、感謝します。もう1週間以上私はイン ターネットから離れていて、ほとんどの時間、 広島ジャーナリスト 18 号 無 事。 で も 地 上 軍 が 投 入 さ れ、 ま っ し て ) 戦 車 は 私 の 家 か ら 約 1・5 ㌔ ので、シェルターにだれも水を配給したりでき た く 眠 れ な く な っ て し ま い ま し た。 とはちがって、ここでは電気を使ってポンプで の と こ ろ に い ま す。 戦 車 の 攻 撃 対 象 ません。 〈 こ の メ ー ル を 最 後 に、 し ば ら く 連 絡 が 途 絶 は 今 ま で の と こ ろ 一 般 住 宅 で す。 戦 車は目が見えないってこと知ってい 日に私へのメッセージでは 示板)への書き込みがあり、マゼンさんが家を えた。そして7月 じ ゃ な い。 私 は 子 ど も と 一 緒 に、 攻 る で し ょ う? 目 標 も 何 も あ っ た も の 撃をされている側から遠ざかるよう 出たことを知った〉 屋 へ 移 動 し て い ま す。 昨 夜 は 2 回、 寝 て い る 子 ど も か ら 離 れ、 イ ス ラ エ く て は な ら な い と き は、 親 に と っ て ほとんどありません。 ル軍が家の近くにいないかどうか調 最 も 怖 い 瞬 間 で す。 ど こ か ら 爆 弾 が 日】 電気もありません。私のことを気にかけてくれ 【7月 毎日買いに出かけなければなりませ るみなさん、どうもありがとう。 みなさんに、 と が で き な い の で、 新 鮮 な 食 料 品 を ん。 道 に 出 れ ば そ れ だ け 攻 撃 さ れ る そ れ で 電 気 を お こ し て、 屋 根 の タ ン ク に 水 を あ げ て い ま す。 で も 大 部 分 の人は発電機を持っていないので水 あれだけ避難しないと言っていたマゼンさん が家を追われた。彼が無事であることはわかっ デ ィ ー ゼ ル の 発 電 機 を も っ て お り、 すぐに返事を書きます。 リ ス ク が 高 く な り ま す。 私 は 仕 事 で イスラエルによって電気も切られ ま し た。 冷 蔵 庫 に 食 べ 物 を 入 れ る こ べ に い き ま し た。 子 ど も か ら 離 れ な 私はまだ生きています に、 家 の 中 を 一 つ の 部 屋 か ら 別 の 部 22 来るかわからないので。 22 28 ≪ 120 ≫ とになったのか、私は知ることができない。し のか、そのあいだに何を見て、何を経験するこ 連れてあの激しい攻撃の中をどこにどう逃げた 宅から離れることになったのか、5人の幼子を メッセージが届いた。彼がどのような状況で自 にやっと「家族全員無事だけれど悲しい」との 大学の写真が送られてきた。そしてその2日後 おそる「大丈夫?」と送った。破壊された彼の 求するのもためらわれたが、8月6日におそる 電気の供給も限られている中、メッセージを要 ネタニヤフ首相は自ら始めたこの戦闘の終結の 任はハマス側だけにあるのだろうか。イスラエ がロケット弾を撃ったとして、交渉の決裂の責 明するのは無理があろう。しかしたとえハマス たイスラエル社会のステレオタイプな見方で説 たテロリストだからどうしようもない」といっ こと自体が不思議である。「ハマスは血に飢え 機となっているこの交渉を、ハマス側から壊す ザ封鎖解除の要求をイスラエルにつきつける好 る。これまでになく国際世論を味方につけ、ガ たり潜伏していたそのデイフが自宅に帰るとの は、むしろ交渉の障害はイスラエル側であり、 トップにデイフの名前があるという。数年にわ ルの著名な雑誌編集者であったウリ・アブネリ 情報を得たイスラエルの諜報機関が、停戦期間 失敗しており、イスラエルの暗殺希望リストの エルの諜報機関は、最低4回はデイフの暗殺に 妻と子どもが殺害されている。これまでイスラ 宅であり、デイフ自身の安否は不明だが、彼の 弾の報復として最初に狙われたのはデイフの自 ないかとほのめかしている。実際そのロケット ド・デイフの暗殺実行のために使われたのでは アブネリは、この停戦直前のロケット弾につ いて、ハマス軍事部門のトップであるムハンマ れていたからである。 間前にガザとの境界近くのイスラエル人コミュ ついてイスラエル政府は、停戦中にもかかわら かし少なくとも「大丈夫?」という私の問いか 仕方を見出せず、だからともかく攻撃を続ける たが、彼の家族がどうしているのか、彼の家が けに即答できない数えきれない出来事があった 中であろうと、その政治的結果がいかなるもの ニティーは、シェルターに逃げることを指示さ のだと思う。しかし、それでも戦闘は終わらな ことが自らのジレンマ状況から逃れる方法だっ だろうと、その目的達成のために、ガザの彼の どうなったのか私にはわからないままだった。 ずハマスがロケット弾を発射したからとしてい かった。 たという。 国連総長が「 犯 罪 行 為 」 と 非 難 これまで何度も試みられたカイロでの停戦協 議は 日にまたしても決裂した。世界各地での [1] 歳を越える現在も活動を続け、 Gush Shalom の サイトにコラムを掲載している。その8月 日 発射を自らの行為と認めず、また警戒サイレン 米国務省報道官も異例の非難声明を発表した。 他のパレスチナ組織も誰もが今回のロケット弾 そ し て 8 月 5 日、 イ ス ラ エ ル 軍 は 地 上 軍 を 引 いうのがアブネリの推論である。けれどもアブ ネリの論点は、ロケット弾を撃ったのが誰かと いうことより、この停戦中の攻撃の応酬が、ネ タニヤフ首相にとって、自らの窮地を逃れる助 け舟になったということにある。つまり攻撃を 止める権限をもつネタニヤフ首相が、自分が始 [1] Avneri‟Son of Death„ めた戦争を終わらす算段が全くないということ http://zope.gush-shalom.org/home/en/channels/ が、アブネリの指摘である。 avnery/1408715198/, 2014/8/14. が鳴らず、しかしながらロケット弾発射の1時 棄をしてもらう必要があったのではないか、と アブネリはイスラエル平和団体の Gush Sha- 家を空爆する必要があったという。しかしイス ラエル側から一時停戦を破ることは望ましくな の創設者であり、国会議員でもあった。 lom く、その口実としてまずはハマス側から停戦破 80 抗議行動のみならず、8月3日には潘基文国連 付 の コ ラ ム で[、 ロ ケ ッ ト 弾 発 射 を 不 可 解 と し 事務総長が「犯罪行為」とイスラエルを非難し、 ている。なぜなら、これまでになく、ハマスも 14 き上げトンネル破壊という軍事目標を達成した と、その成果をアピールした。にもかかわらず 一時停戦の延長を重ねた停戦交渉は決裂し、本 格的停戦は今回も実現しなかった。この決裂に 2014.9.20 19 ≪ 121 ≫ 世論に「安全」を勝ち取ると約束しネタニヤ フ首相は攻撃をはじめたが、ハマスはこれだけ とってこのジレンマ状況を抜け出す救済となっ 今回の停戦期間中のロケット弾はネタニヤフに イスラエルが、攻撃を止める保証はない。また が、これまでも数々の国連決議を無視してきた 8月 日深夜までのガザの死者は、ガザ保健 省によると2065人、負傷者は1万300人 つめたいイスラエルにとっては、ありがたい状 おかつ封鎖を継続しながらハマスをさらに追い れたようにもみえる。それは、これ以上の自国 うテロリストであり、イスラエルを消し去ろう ガザ近郊のイスラエル住民にとっては、犠牲者 撃をいかに止めるのか、攻撃を指令する本人す どの時間がかかるであろう。しかしそもそも攻 ガザに平穏な日が来るまでには気の遠くなるほ と脅している。ハマスの現状の装備でテルアビ 理 的 サ ポ ー ト を 必 要 と し て い る と い う。[攻 撃 ブの住民に危害を加えることは困難であるが、 がたとえ今終わったとしても、この破壊の後に 本 稿 校 了 日 の 8 月 日 午 前 1 時( 日 本 時 間 ) にイスラエルとハマスの無期限停戦が発効し んにメッセージを送ることができないでいる。 超えた傷を残すことになるのか。私はマゼンさ り知れない。どれだけの人生を破壊し、世代を ガザ市民の一人ひとりの人生に及ぼす影響は測 民の犠牲を増やすことなく停戦に持ち込み、な は少ないにしても、その不安と恐怖は測り知れ ら見当がつかないという厄介な状況にあるとい た。しかし停戦条件は2012年の前回の停戦 広島ジャーナリスト 18 号 う大変厄介な状況にあったという。したがって、 保障理事会決議の草案を準備中とのことである の 破 壊 に も か か わ ら ず 生 き 残 り、 さ ら に ガ ザ ウクライナ情勢、イラクやシリアにおけるイス に 達 し た。[イ ス ラ エ ル 側 の 死 者 は 民 間 人 が 3 人で兵士が 人となっている。世界保健機関に ルが停戦協定をうやむやにできる可能性がうま よるとガザでは467人の子どもがこれまで殺 国際世論のガザへの関心を低下させ、イスラエ から発展した国内騒動といった数々の混乱が、 ラム国の活動、さらにアメリカの黒人青年射殺 たというのがアブネリの見方である。 増大する犠牲、遠い平穏 封鎖を解くように要求している。今回の交渉の テーブルに載せられたエジプト作成の停戦協定 草稿は、ガザ封鎖の大幅の緩和と、港と空港の 一カ月以内の建設開始といった内容で、ネタニ としている」と考えるイスラエル世論にも、連 況かもしれない。 ヤフは自らの内閣の閣僚にもこの内容を知らせ 立政権を組む極右政党にも受け入れることが出 害され、3千人が負傷し、そのうち1千人が生 ていなかったという。ハマスを「ジハードを行 来ない内容であろう。しかし交渉をイスラエル 涯にわたり障害をもつことになり、国連の推計 ず、ネタニヤフ首相への批判が高まることが予 うのがアブネリの分析である。現在、フランス 合意内容とほぼ変わらないものとなった。 27 ようのない要因がもたらす残虐行為の継続が、 想される。それでは完全にハマスの息の根をと とイギリスとドイツが、停戦に向けて国連安全 1千人のイスラエル兵の死者を覚悟する必要が あり、それもイスラエル社会の許容レベルを超 え、ネタニヤフ首相にとって政治的自殺行為と 敵を抹殺して戦闘を終えることもできないとい 2014/Aug/21 なる。つまり国際世論が停戦への圧力を日々強 [3] Democracy Now めている中、 交渉によって戦闘を終えることも、 http://www.democracynow.org/2014/8/21/a_war_on_ gazas_future_israeli 2014/Aug/21. [2] The Guardian, http://www.theguardian.com/world/2014/aug/21/ israel-kills-three-hamas-commanders-air-strike, め、二度とロケット弾も発射されないようにす [3] 万3千人の子どもが直接的専門的な心 64 るか?しかしガザを完全に征服してしまうには るであろうし、ハマスは「地獄の門を開ける」 で は [2] 側から拒否すれば、国際的批判はさらにたかま しかしネタニヤフ首相の政治的窮地や国際世 論の関心の低下といったガザ市民にはかかわり 20 37 ≪ 122 ≫ 市民無差別殺傷の即刻停止要求 誘拐・殺人の1カ月前に、2人のパレスチナ少 年がイスラエル軍に殺害されたことも今回の殺 行方不明となったイスラエル少年3人の探 人応酬と深く関係していることは明らかです。 400人あまりを拉致、多数の家屋を取り壊し、 のパレスチナ人を殺害、数十人に重傷を負わせ、 索活動中、イスラエル軍は、子どもを含む数人 深夜に「捜索」と称して数百に及ぶ市民家屋の 市民団体 般市民であって、このような無差別殺傷は、明 イスラエルに広島 らかに国際法に違反する「人道に対する罪」で ドアをぶち破って乱入し私物を破壊するという 即時停止、パレスチナの不法占領を即刻やめる 人を超えるパレスチナ市民が避難民となり、い あり重大な戦争犯罪行為です。いまや 万 双方の武力行為をエスカレートさせ、今回の激 イスラエル側にロケット弾攻撃を行ったことが 蛮行を犯しています。これに対してハマス側が イスラエル軍のガザ攻撃をめぐり、広島の市 民団体 団体は7月 日、連名で無差別空爆の 千 日大使館に送った。 賛同団体が増える度に送付、 つ殺傷されるか分からないという恐怖の中での ことなどを求めるイスラエル政府あて文書を在 生活を強いられているにもかかわらず、イスラ しい無差別空爆へと状況は急速に悪化してしま 団体に広がった。田中 いました。中でも私たち広島市民がひじょうに 賛同は8月1日までに エル政府はガザ地区への空爆・地上砲撃を続け 利幸広島市立大広島平和研究所教授が起草した し て い る と 言 わ れ て い る デ ィ モ ナ 原 子 炉 へ の、 心配するのは、イスラエルの核兵器製造に関連 文書全文は次の通り。 歴史上最も残虐な無差別空爆を受けた都市 ど ち ら が 最 初 に 少 年 殺 傷 行 為 を 始 め た に せ よ、 なかったことは、文字通り不幸中の幸いでした。 ハマスによるロケット弾攻撃です。大事に至ら 下にあるヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ヘ 今 回 の こ の 攻 撃 の 発 端 は、 イ ス ラ エ ル 占 領 イスラエル軍が7月8日からほとんど毎日連続 ブロン近郊で6月 日、行方不明になっていた すでに1430名を超え、負傷者は8千名以上 での空爆と地上砲撃による犠牲者は、死亡者は よう強くイスラエル政府に要求します。これま した地上砲撃による無差別殺傷を即刻停止する しました。7月2日には、今度は、東エルサレ ラム組織ハマスの犯行だと主張し、報復を宣言 ヤフ首相は、これをパレスチナ人自治区のイス 否定したにもかかわらず、イスラエルのネタニ れたことだと言われています。ハマスは犯行を イスラエルの少年3人とみられる遺体が発見さ て許すことができません。 害の重大性を知っている私たち日本市民は決し 攻撃を、原爆と原発事故の両方を経験しその被 ならびにその製造と深く関連する原発施設への してや、無差別大量破壊兵器である核兵器製造 市民殺傷も私たちは許すことはできません。ま また、どのような理由があるにせよ、いかなる 火をつけられ、大やけどをして死亡したと報道 れましたが、この少年は生きているうちに体に する無差別空爆・地上砲撃=国際法違反の犯罪 によるパレスチナ人市民と住宅地を攻撃目標と あ ら た め て 述 べ る ま で も な く、 イ ス ラ エ ル 日から開始 となっていますが、その大半が子どもと女性で ムで 歳のパレスチナ人少年が誘拐され殺害さ スラム原理主義者グループであるハマスのメン されています。しかし、イスラエル少年3名の る無差別空爆殺傷、ならびに7月 あって、イスラエルがテロリストと主張するイ 30 バーの犠牲者はごく少数にしか過ぎません。犠 16 18 して行っているガザ地区パレスチナ住民に対す の一つである広島、その市民である私たちは、 ません。 ています。このような無法な残虐行為は、どの 2 14 ような理由によっても正当化することは許され 16 牲者のほとんどがハマスとは全く関係のない一 2014.9.20 16 18 10 ≪ 123 ≫ 前までに、無差別空爆を含むイスラエル武力行 れてきました。2000年以来、今回の攻撃直 行為は、これまで数えきれないほど無数に行わ 治区」などと称すること自体が犯罪的であり、 強いられているという状況を、「パレスチナ自 180万人が激しい貧困と暴力に苦しむ生活を ます。今年5月だけでも、214名の未成年者 がイスラエル軍によって殺害されたことになり のようなむごたらしい「人道に対する罪」を半 をもつ民族で構成されたイスラエル国家が、こ 遇に長年耐えなければならなかった悲惨な経験 市民が殺害され、生き延びた人たちも残酷な処 イスラエル政府が以上の犯罪行為をただち ること。 5、 パ レ ス チ ナ 住 民 地 域 の 不 法 占 領 を 即 刻 やめること。 日 く打ち立てかつ実行することを強く要望しま す。 2014年7月 広島ジャーナリスト 18 号 1、 パ レ ス チ ナ 市 民 へ の 無 差 別 空 爆 を 即 刻 停止すること。 2、 パ レ ス チ ナ 市 民 へ の 地 上 砲 撃 を 即 時 停 止すること。 (地上侵攻後追加) 3、 パ レ ス ス チ ナ 住 民、 と く に 子 ど も の 殺 がなんの罪状もなく勾留され、なんの公訴や裁 世紀にわたって他民族に犯し続けていること に停止し、パレスチナ人はもちろん、どのよう 2次大戦中、ナチスによる強制収容所で無数の 判もなく拷問を受けています。イスラエルによ に、原爆無差別市民殺傷という「人道に対する 年間平均では毎週2人の子ども 為の犠牲者となった子どもの数は1407名、 その実態は「収容所」と呼ぶべきでしょう。第 る交通封鎖で十分に食糧供給をえられないた 罪」の犠牲となった広島市の市民である私たち な民族の市民の基本的人権も尊重し、「正義と すなわちこの め、ガザ地区の多くの子どもたちが、長年、貧 は、本当に残念に思うと同時に、厳しい非難の 傷を即刻やめること。 血症などの栄養失調症を患っている上に、激し 4、 パ レ ス チ ナ 市 民 の 人 権 侵 害 を 即 刻 や め い空爆や武力行為による恐怖心のため、重い不 平和」の思想に基づいた公正な政策を一日も早 し た が っ て、 私 た ち は、 い か な る 暴 力、 い 声をあげずにはいられません。 強く要求します。 いう立場から、以下のことをイスラエル政府に 失った親の悲しみがいかに深いものであるか、 かなる武力、いかなる殺傷にも強く反対すると 少しでも想像していただくよう、イスラエルの 政治家、軍人、市民の皆さんに訴えます。この ような残虐行為はパレスチナ住民の間にイスラ エルに対する強い憎悪を産み出すだけで、なん の解決にもならないことは、これまでイスラエ ルが長年にわたって繰返してきた軍暴力で自明 のはずです。 し た が っ て、 真 の「 事 の 発 端 」 は 少 年 殺 害 事件ではなく、ほぼ半世紀にもわたってイスラ エルが不法に行っているガザ地区占領と植民地 的 支 配、 そ れ に 伴 う パ レ ス チ ナ 市 民 の 基 本 的 人権の由々しい侵害にあることは誰の目にも 明 ら か で す。 3 6 0 平 方 ㌔ と い う 狭 い 土 地 に ▹「 8・ 6 ヒ ロ シ マ 平 和 へ の つ ど い 2014」実行委員会(代表田中利幸) ▹「呉 YWCA WE LOVE 9条」(代表木村 浩子) ▹「東北アジア情報センター」(代表横 原由紀夫) ▹「ピースリンク広島・呉・岩国」(世 話人新田秀樹・西岡由紀夫・田村順玄) 「第九条の会ヒロシマ」 (代表藤井純子) ▹ ▹「原発はごめんだヒロシマ市民の会」 (代表木原省治) ▹「poco a poco ~あったか未来をつく る会 from Hiroshima ~」(共同代表徳 岡真紀・弓場則子・長橋綾子) 「憲法と平和を守る広島共同センター」 ▹ (代表川后和幸) ▹「ヒロシマ革新懇(平和・民主・革新 の日本をめざす広島の会)」(事務局長利 元克巳) ▹「広島県 AALA 連帯委員会」(代表林紀 子) ▹「日本基督教団西中国教区宣教委員会 社会部」(委員長新保能宏) ▹「広島 YWCA」( 代表半井康恵 ) ▹「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」 ( 共同代表青木克明・田中利幸・森瀧春 子) 「広島宗教者九条の会」 (代表宗藤尚三) ▹ 「大久野島から平和と環境を考える会」 ▹ ( 代表山内正之 ) ▹「ピースサイクル広島ネットワーク」 (代表吉井信夫) 14 こ う し た 子 ど も た ち の 苦 し み が、 子 ど も を 眠症や深い精神不安に悩まされ続けています。 14 ≪ 124 ≫ 「天井のない監獄」ガザ ンスで囲まれ、5カ所しかない(2カ所はごく 数の住民が死傷した。また、高い壁と金属フェ の学校まで6カ所も砲撃、子どもたちを含め多 逃れようとする避難民たちが逃げ込む国連運営 そのために必要な行動をはるかに超える大規模 壊のためだと主張した。しかし、作戦の実態は、 界の地下に掘られた多数の侵攻用トンネルの破 的をガザからのロケット弾攻撃力の壊滅と、境 イ ス ラ エ ル の ネ タ ニ ヤ フ 首 相 は、 侵 攻 の 目 学校や病院の攻撃など、国際社会への挑戦とも め国連機関、国際人権組織のパレスチナ支援の 根強さに対する、敵意と危機感の深まりが、ネ タニヤフ政権を突き動かしたに違いない。 表1 ガザの人道被害 (国連人道問題調整事務所〈OCHA〉の8月 28 日の報告) 10 万8千人 軍人 64 人、一般市民6人(うち子ども1人 がロケット弾で死亡) 年に 06 年 人が死亡し ラエル兵 以 上、 イ ス 1400人 レスチナ人 日 間 に パ 上 侵 攻、 にかけて地 年~ 人 が 死 亡。 パレスチナ 300人の は空爆で約 た。 3 回 行 っ 模な攻撃を ザへの大規 28 ガ ザ の 人 道 被 害 を 毎 日 調 査・ 発 表 し て い る 国連人道問題調整事務所(OCHA)の8月 日の報告は表1のように伝えている。 パレスチナ側はガザ封鎖の完全解除を要求、イ イスラエルは2005年、パレスチナ自治政 スラエル側はガザの完全武装解除を要求した。 府との合意に基づきガザから軍と入植地を撤退 イスラエル軍が最大の殺戮 イスラエル軍は7月8日から、パレスチナの ガザに最大規模の侵攻作戦を開始し、空爆と戦 交渉はいったん決裂、両者は攻撃を再開したが、 国連施設の学校・避難所を砲撃 車部隊による砲撃と踏み潰しによって、住民の 結局、 日からの「長期間停戦」に合意した。 小さい)出入り口の検問所をほとんど閉鎖。食 な破壊と殺戮であり、ハマスを支持するガザ住 いえるイ軍の作戦は説明しきれない。ガザ封鎖、 し た 後、 ガ 殺戮と建物の破壊を尽くした。破壊と殺戮から 料と医薬品の搬入すら最低限の国連支援物資に み上げを困難に追い込み、真夏のガザで人々は 東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区での入 だ が そ れ だ け で は、 避 難 民 で 埋 ま っ た 国 連 汚染された排水まで飲まずにはいられない状態 植地拡大、パレスチナ居住地域を囲む分離壁の 09 民への懲罰行動だったことも明らかだ。 になった。病院では停電で手術室や救急治療室 建設など、1993年のオスロ合意(暫定自治 08 限定、唯一の火力発電所を爆撃・破壊して給電 の機器が作動停止や不良となり、赤ちゃんと重 動への、国際的非難・批判の高まり、国連パレ 時間を0~4時間にまで低下させ、地下水のく 傷者の死亡が続出した。 スチナ難民救済事業機関(UNRWA)をはじ 32 万4千人。停戦後減少しつつある 避難民 うち国連の 85 学校な どにいる避難民 うち自宅が破壊あるい は大破された避難民 (報道によるイスラエ ル側死者) 22 13 協定)を踏みにじるイスラエルの非人道的な行 8月に入って、イスラエルとパレスチナ代表 団(自治政府とハマス代表)はのべ9日間一時 2014.9.20 坂井 定雄 停戦し、カイロで停戦交渉を行った。交渉では 子どもの負傷者 2104 人。うち少なくとも 1462 人が一般市 民(子ども 495 人、女性 253 人を含む) 3106 人。うち約1千人が生涯背負う重い障 害を受けた(重障害者は 20 日現在) 47 万5千人(ガザ人口の約4人に1人) パレスチナ人死者 26 ≪ 125 ≫ た。 年 月には8日間にわたり地上侵攻、パ レスチナ人約170人が死亡した。 12 11 Aからイスラエル当局に避難所であることを何 たことである。すべて国連旗を掲げ、UNRW でにジャバリアでスタッフ9人が死亡したと発 犠牲になった。UNRWAは8月3日、それま 支援活動を続けていたUNRWAのスタッフも 表した。ほとんどが教員出身だった。UNRW 回も連絡している の国連学校には、ピーク時 には、全部で 万人以上が避難していた。 15 30 今回はいたるところで街区や集落全体が壊 Aのクラヘンブール事務局長は「彼らは数年、 たちに明るい未来への希望を説き、最も困難な ジャバリア難民キャンプ内の国連学校は7 24 滅的に破壊され、死傷者の数が前3回に比べて 飛躍的に増大した。それ以上に、凶暴としか言 日にも同キャンプ内の女子学校を攻撃 数十年間にわたりガザのパレスチナ難民支援に NRWAがイスラエル当局に強く抗議したが、 尽くしてきた。彼らの多くは教育者で、子ども 日に砲爆撃されて、避難民 人が死亡。U イ軍は 年月を通して子どもたちを支えてきた。自らも 月 壊された人々と、砲爆撃や戦車の突入を恐れて した。同校にも3300人の避難民が教室の床 30 いようのない特徴があった。それは、住居が破 事前に避難した人々が、唯一安全と信じて逃げ が、彼らはUNRWAのわれわれ全員とともに、 込んだ国連指定の避難所であるUNRWA運営 人 が 即 死、 多 数 難民支援のために貢献してきた」と追悼の言葉 家族と自宅を残酷な破壊で失い、難民になった を含む 15 を埋めていたが、砲弾3発が命中、子ども4人 が 負 傷 し た。 避 難 民 へ の 〈ガザ〉ガザは地中海に沿った縦 46 ㌔幅6~ 10 ㌔の細長い 地形で、面積は東京都 23 区の6割ほど。現在 180 万人余の住 民が住み、うち 120 万人以上が国連認定の難民。そのほとんど が 1948 年の第1次中東戦争でイスラエルが領土にした土地か ら逃れ出たパレスチナ人住民とその子孫。エジプト領だった が、67 年の第3次戦争でイスラエルが占領。海と高い金属フェ ンスやコンクリート壁の境界で囲まれ、外部との人間と物流の 出入りは、イスラエル側4カ所 ( エレツ検問所以外は小さい )、 エジプト側1カ所のラファ検問所しかできない。故アラファト は「天井のない監獄」と呼んだ。 93 年のオスロ合意(パレスチナ暫定自治宣言)によって、 2005 年9月までにイスラエル軍は入植地とともにガザから撤 退したが、検問所を厳しく管理し、ことあるごとに閉鎖あるい は出入りを制限して、ガザ住民を苦しめてきた。海もイスラエ ル海軍によって封鎖され、オスロ合意ではガザの漁民が 20㌋ 沖まで操業できることになっているが、イスラエルは6㌋沖ま でに制限、今回の侵攻作戦と同時に3㌋に制限、漁獲が激減し た。 エジプト側の検問所ラファの人間、物流も制限されていた が、11 年のムバラク政権崩壊後の軍政とモルシ政権下では、 かなり自由化し、境界の地下にトンネルも多数掘られて大量の 物流が行われた。しかし 13 年7月のクーデター後、エジプト 軍はトンネルをすべて埋めてしまい、ガザでは特に燃料と建設 資材が不足するようになった。 の学校まで砲撃し、子どもたちまで多数死傷し ガザ 北と東はイスラエル(ISRAEL)、南西はエジプト(EGYPT)、 北西は地中海。左上拡大図はガザ市街。北東端はエレツ(Erez)検問 所、南西端はラファ(Rafah)検問所= OCHA 作成 85 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 126 ≫ を捧げた。 「病院も安全で は な い 」 医 師 が 毎 日、 病 院 の 活 動 を ツ イ ッ タ ー で 世 そ の な か で、 バ ッ セ ル・ ア ブ・ ワ ル ド ぱい食べる。だが、だが今年のイードは、イス 着飾り、できる限りの御馳走を並べて、腹いっ ちにとって1年で最も楽しい日々。 1週間近く、 ごちそう 日、 ワ ル ド 医 師 ラエルの封鎖と攻撃で、やっと命をつなぐだけ 界 に 発 信 し 続 け た。 7 月 は、「 ア ル シ ー フ ァ 病 院 で 昨 夜、 カ ド ゥ ー ラ の国連支援物資が配られただけだ(その仕事中 子 を 産 ん だ 」 と 喜 び を 写 真 と と も に 伝 え た。 に死傷した国連スタッフや若者たちも少なくな 医師の下でパレスチナ人の母親が元気な四つ 掲げ、それぞれ数千人の避難民が逃げ込んでい 棟が砲撃された。同病院は1920年代の英国 クの中心であるアルシーファ病院は、外来患者 看護されていたが、断続的な停電による酸素供 が死亡した悲しいニュースを発信したばかり 無事生きたまま取り出した「奇跡の赤ちゃん」 を焼いた。中東で最も視聴者が多い国際衛星T ル軍の戦車砲撃で死亡した妊婦を切開手術し、 必ず食べるデーツ(ナツメヤシ)入りのお菓子 学校では、母親たちが子どもたちへ、イードに かったが) 。 そ れ で も、 国 連 の 避 難 所 と な っ た その前日、ワルド医師は、ガザ市中心部のデ イル・アルバラ病院の医師が、前週にイスラエ カ所を砲爆撃した。ガザの病院ネットワー 統治下に設立されたパレスチナ随一の近代的病 給装置などの作動不良などのために亡くなった 母親たちは 【ガザ市 日 】 エ ル ハ ム・ エ ル ザ ニ ン が ベ イ ド祭のケーキを焼いている。 イスラエル軍の爆撃の下で、子どもたちにイー を焼いた―避難しているパレスチナ人たちは、 「ガザの家族たちはイードの〝抵抗のケーキ〟 だった。この赤ちゃんは集中治療室で6日間、 紹介しよう― なる状況下においても、医療施設と医療スタッ 日の報道を 院 で、 「国境なき医師団」 本部パリ も ( ) 緊急 手術チームを1チーム派遣していた。 「国境な のだった。 V「アルジャジーラ」電子版7月 き医師団」は直ちに「病院とその周辺を攻撃目 フは保護され、尊敬されなければならない。し ト・ハヌーンの自宅から必死に逃れたとき、ひ どく脅えた子どもたちの手をつかんだだけだっ 『 わ た し は 自 分 に 言 い 聞 か せ た の で す ー〝 飛 行機が爆撃しているけれど、子どもたちにイー い今年のラマダンの日々を、ガザの人々は耐え 食事ができる夜もごく限られた食料と水しかな ド校に家族とともに避難している母親たちと子 い〟と』 。彼女のアイデアはたちまち、 アルフッ ) どもたちに広がった。そして、 母親たちのグルー プ が ケ ー キ を 焼 き 始 め た と、 エ ル ザ ニ ン( 抜いた。そして、7月 日のラマダン明けがき 激 し い 砲 爆 撃 の な か、 昼 間 は 断 食、 断 水。 ド の 雰 囲 気 を 感 じ さ せ て あ げ な け れ ば な ら な の見せしめに選んだ可能性が十分ある。 のイスラム教徒の聖なる月、ラマダン 断 イー ( 食月 ) た。いっしょに学校に避難した9歳の娘は、 と重なっている。ネタニヤフはわざわざその月 ド祭りのケーキを失くしたと泣いていた。 時間も続き、酸素供給装置はじめ医療機器 す べ て の 病 院、 医 療 施 設 で は、 停 電 が 1 日 せずに「国連施設への砲撃」を非難した。 て非難した。米国だけは、イスラエルを名指し を取らなければならない」と非難したのをはじ 今 回 の イ ス ラ エ ル 軍 の ガ ザ 攻 撃 は、 す べ て 〝抵抗のケーキ〟を焼いた かし現在のガザでは、病院が安全な場所ではな い」と非難した。潘基文国連事務総長が7月 30 を、イスラム信仰がとりわけ深いガザの住民へ 日、 「重大な国際法違反であり、加害者は責任 30 め、国連機関、主要諸国、国際人権組織がこぞっ 30 ない。国際人道法の重大な違反である」「いか 標とすることは、絶対に受け入れることができ 設 た少なくとも病院3カ所と他の小規模な医療施 イ 軍 は 国 連 学 校 だ け で な く、 赤 十 字 の 旗 を 31 た。その祭り「イード」は、世界のムスリムた 30 に がしばしばストップしたが、医師、看護師はじ めスタッフが、必死の医療を続けてきた。 39 2014.9.20 23 20 ≪ 127 ≫ ナ初の自治政府議長 大 ( 統領 と ) 評議会 国 ( 会 ) イスラエルはこの合意に強く反発、イスラエル 選挙では、アラファトとファタハが圧勝、ハマ 国内ではガザ侵攻が近いと予想されていた。 イスラム政治組織ハマスは、1カ月を超えて抵 圧し、アラファト議長を自治政府の所在地ラマ 抗)が始まった。イスラエル軍が西岸地区を制 イ 軍 の 大 規 模 な 侵 攻 作 戦 の 破 壊 と 殺 戮 に、 その直後から第2次インティファーダ(武装抵 に封じ込まれたハマスや他の過激派組織によ のない監獄」(故アラファト議長の言葉)ガザ ス ラ エ ル へ の ロ ケ ッ ト 弾 攻 撃 を 始 め た。 「天井 チナとくにガザの武装組織は、主にガザからイ たロケット弾の数はイスラエル軍撤退後、急増 参加して圧勝。ハマス単独内閣、続いてハマス 発射されたロケット弾はほとんどが鉄パイ し て い る( 表 2)。 ま た、 2 0 0 7 年 の 発 射 組 の略称。パレスチナ全土をイスラエルから解放 とファタハの連立政権もできたが、ガザの治安 ~ ㌔、 最 大 射 程 は 4・5 年 か ら 少 数 発 射 さ れ た。 原 型 は 直 径 1 2 2 ㍉、 重 量 ㌔、 最 大 射 程 は ド・ ロ ケ ッ ト 砲 が カ ッ サ ム よ り 大 型 で 射 程 も 長 い、 グ ラ ッ 着弾した。 ガザとの境界付近の山林や農地にほとんどが お よ そ の 目 標 に も 命 中 す る 率 は 極 め て 低 い。 の。 機 体 が 回 転 せ ず、 誘 導 装 置 も な い の で、 使われる窒化ナトリウムに砂糖を混ぜたも ㌔程度。弾頭重量は ㌔以下、燃料は農薬に 1 1 5 ㍉。 重 量 最 新 型 の カ ッ サ ム 4 型 は 全 長 2 4 4 ㌢、 直 径 織別は表3。 し、イスラム国家の樹立を目指す、イスラム主 プを加工して作る手製のカッサム・ロケット。 実 力 行 使 で ガ ザ の 支 配 権 を 握 っ た。 以 後、 両 者 の 対 立 状 態 が 続 い た が、 和 年戦争占領地(東エルサレムを含むヨ ルダン川西岸地区とガザ)で続いた反イスラエ 解を望む住民の要望が高まり、 エルの 義政治組織。1987年から ル闘争インティファーダの中で生まれた。故ア 今年4月にファタハとハマス が 連 立 政 権 樹 立 で 合 意 し た。 年ごろ結成された民族主 ラファトらによって 義組織ファタハとともにインティファーダを戦 い抜いた。どちらもパレスチナ自治政府、議会 に参加している主要な政治組織、政党であり、 年にアラ 表2 ガザから発射の ロケット弾数 40 06 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 非公然の軍事部門がある。 パレスチナ紛争解決を目指し ファト議長とラビン・イスラエル首相が調印し 年のパレスチ 66 93 10 50 06 93 広島ジャーナリスト 18 号 はアルジャジーラ記者に語った。 『私たちから イード・ケーキを焼く喜びを奪うことはできな 年首相)が武装した手勢 ロケット弾攻撃 スはボイコットした。 党首シャロン( ~ 2 0 0 0 年 9 月、 イ ス ラ エ ル の 右 派 政 党 の いと、イスラエルは知らなければならないので す』 。そして彼女は『このケーキは、抵抗と反 抗し続け、180万ガザ市民は耐え抜いた。そ ラの議長府に軟禁したが、インティファーダは 第 2 次 イ ン テ ィ フ ァ ー ダ 開 始 以 来、 パ レ ス れを支えた力の一つは、このような母親たちの る、イスラエル国内への限られた攻撃だった。 意。イスラエルは同年中にガザから入植地と軍 05 年 1 月 の 自 治 評 議 会 選 挙 で は、 ハ マ ス が を撤退させた。 ウィキペディアが引用しているイスラエルの 情報機関のデータによると、ガザから発射され 続いた。同議長は 年 月に死去し、後任のアッ バス議長とシャロン首相が 年2月に停戦に合 11 権限をめぐり両者が対立。 年には、ハマスが ハマスはアラビア語の「イスラム抵抗運動」 ファタハとハ マ ス の 連 立 合 意 存在だった。 撃の象徴なの』と付け加えた」 06 と共に、エルサレムのイスラム聖地に強行侵入。 01 04 年まで、イスラ 06 発射 数 4 35 155 281 179 946 896 2048 年 58 たオスロ合意にハマスは反対。 96 34% 22% 8% 6% 30% 表3 2007 年の ロケット弾発射組織別 パレスチナ・イスラム聖戦 ハマス ファタハ 人民抵抗戦線 不明 67 ≪ 128 ≫ れるようになった移動式 発多連装ロケット砲 年に 年 に 9 発、 08 年 10 夜、ラマラではアッバス議長の政党ファタハが 呼 び か け た ガ ザ 連 帯 集 会 の 後、「( エ ル サ レ ム の)聖なるアルアクサ・モスクで祈ろう」とい う叫びのなか、数万人のデモ隊がエルサレムに 向かって行進を始めた。エルサレムに近い検問 レムに入るのは阻止されたが、旧市街の各所で た。デモ隊も激しく投石した。デモ隊がエルサ デ モ 隊 の 2 人 が 死 亡、 2 0 0 人 以 上 が 負 傷 し て お り、 イ ス ラ エ ル 南 うになった。 年 抗 議 デ モ が 起 こ っ た。 イ ス ラ エ ル の メ デ ィ ア イスラエル軍は は「2000~ 年の第2次インティファーダ から、迎撃ミサイル「ア 年4月にファタハとハマスが、連立政権樹立に ムを含むヨルダン川西岸地区での入植地拡大に トの撃墜に効果を挙げ し射程内に入る住民に ティファーダを予感させる。 対する激しい抗議と連帯のデモは、第3次イン はじめ主要都市とエルサレムで抗議行動が高 決を導く5年を超えない期間」どころか、 67 1991年以降の和平交渉で重要な役を果た いる。 にイスラエルは東エルサレムの併合を宣言して エル軍の軍事的支配下に置かれたままだ。さら その周囲を含めヨルダン川西岸全域が、イスラ の一部など6都市の暫定自治を実現しただけ。 ダン川西岸地区のラマラ、ジェリコ、ヘブロン 後の現在までに、パレスチナ側にガザと、ヨル 21 支持する世論を形成し たという。 第3次インティファーダの兆し ガザでイ軍による破壊と殺戮が拡大するな かで、イスラエル軍の支配が入り組んでいるヨ エジプトとの境界に掘られた地下トンネルを通 まった。ラマダン最後の金曜日の7月 日の前 25 年 脅 威 で あ り、 そ れ が、 イ ス ラ エ ル は、 オ ス ロ 合 意 に 明 記 さ れ た 今 回 の ガ ザ 侵 攻 作 戦 を 「( 年戦争占領地からのイ軍撤退を定めた 国 ) 連安保理決議242と338に基づく恒久的解 ロケット弾は現実的な と っ て は、 ガ ザ か ら の 合意しており、今回のガザ侵攻と、東エルサレ 以来最大のデモ」と報道した。前記の通り、今 05 る よ う に な っ た。 し か 備し、グラッド・ロケッ イ ア ン・ ド ー ム 」 を 配 11 数人の死傷者が出るよ 所 付 近 で イ ス ラ エ ル 軍 と 衝 突、 イ 軍 の 発 砲 で ㌔程度に改良され 発 以 上。 最 大 射 程 11 局 に よ る と、 発、 に 10 部 の 都 市 に 届 き、 毎 年 が 40 12 射されたのは、 一発ずつにばらしたロケット弾。 ルダン川西岸地区でも。自治政府があるラマラ で、各国で改良型を製造している。ガザから発 40 年から配備し、世界中で最も広く生産・配備さ サムよりはるかに大きい。旧ソ連軍が1963 ㌔、 弾頭重量は ・4㌔。 射程も破棄力も、カッ 18 じて密輸されたと見られている。イスラエル当 2014.9.20 7月 30 日、3千人以上が避難するジャバリア難民キャンプ内の国連学校を イスラエル軍が無警告で砲撃し、少なくとも 15 人が死亡したと伝えるイギ リスの公共放送BBC電子版。写真は破壊された学校内の動画画面 21 ≪ 129 ≫ NHKどこへ行く 日号が報じた 3条、 条に抵触するため百 田発言は「感想」扱いにされ オッチ9(NW9)が、与党 日~7月1日のニュースウ 的自衛権の問題を扱った5月 講演でこんな話をした。集団 んが9月2日、広島市内での 114分対 秒。元NHK ディレクターの池田恵理子さ ころに煙は立たず」だろう。 はやぶの中だが「火のないと 表向き否定しているので真相 後追いせず、官邸もNHKも けたという。他のメディアが 官邸がNHK上層部を呼びつ 若田光一さんへの無内容なイ 話題。続いて、宇宙飛行士と プは当たり障りないウナギの のNW9。土用にちなみトッ 「ジャブ」は確実にきいて いるようだ。例えば7月 日 に影響するのは明らかだ。 して日本人初の船長を務めた 分。気のせいかキャスターの やる気ない表情が目立った。 NHKの事業収入は201 4年3月期決算で6570億 円。うち受信料が %を占め 経営委員会での百田氏の発言 い ぜ い 2 千 億 ~ 3 千 億 円 で、 した、パレスチナ解放機構(PLO)の著名な 周年の昨年9月 日、 朝 日 新 聞 の イ ン タ 幹 部 ハ ナ ン・ ア シ ュ ラ ウ ィ さ ん は、 オ ス ロ 合 意 年、パレス ビ ュ ー で「 オ ( ス ロ 合 意 で 『) 暫 定 』 と さ れ た ことはすべてイスラエルにとって『永久』的な ものになった。イスラエルはこの チナ人の土地や資源を盗み、入植地を建設、封 鎖し、検問所を建てた。」「オスロ合意にサイン する必要はなかった。イスラエルに占領を許す ものだったからだ。」 「和平や交渉の原則に反対 する人はいない」「交渉は政治的意思と真の約 束があれば、1カ月あれば決着する。だがそれ は、米国が政策を変え、イスラエルの政権も変 わらない限り、起こりえない」と語った。 1年後のいま、今回のガザ侵攻作戦、東エル サレムでの新たな大規模入植地建設計画で状況 はもっと悪化した。第3次インティファーダで、 さらに多くの人命が失われなければならないの だろうか。それを避けるには、まず、ガザにつ いて、国連安全保障理事会の強力な介入による 完全停戦、国連監視の下での検問所の自由通行 によるガザ封鎖の解除、国連監視によるガザか らのロケット弾攻撃の停止が必要だし、実現は 龍 谷 大 名 誉 教 授、 元 共 同 通 可能だ。国際社会の責任は大きい。 信記者) (さかい・さだお 広島ジャーナリスト 18 号 7月 と こ ろ で は、 番 組 後 側と反対意見の側の主張をそ 確かに、百田尚樹氏ら安倍 晋三首相の「お友達」が経営 ンタビュー。2本でなんと に 秘 書 官 が ク レ ー ム を 付 け、 たらしいが、発言が後の番組 れぞれ流した時間である。調 委員に入り、籾井勝人氏が会 メディア論 べたのは放送研究者、放送労 働者、 視聴者市民でつくる 「放 送を語る会」 。最近のNW9 余滴 ● の偏向ぶりがよく分かる。 長に就いてNHKはおかしく ●● 7月3日「クローズアップ 現代」の菅義偉・官房長官へ 朝協議」に話題を振って政権 NHKこそ、その気になれ ば反商業性、反視聴率、不偏 しかも視聴率で収入が上下す 不党という公共性(=ジャー を報じている。NW9の大越 「…という声があるがどうか」 た」との趣旨でコメントした ナリズム)を貫くことができ に サ ー ビ ス し た 後、 「集団的 ところ「強制連行」に異議を るメディアなのだ。政権のプ る民放キー局とは違う。 唱えたという。植民地下の朝 自 衛 権 」 の テ ー マ に 入 っ た。 健介キャスターが「在日コリ と、ワンクッション置いたか 鮮から「徴用」された人たち アン1世は強制連行で苦労し たちで、むしろ慎重すぎる印 国谷裕子キャスターの質問は 象を持ったが、特に問題があ るまい。 (真崎哲) の 労 働 実 態 に は 議 論 が あ る。 ロパガンダの道具にしてはな と こ ろ が、 「 フ ラ イ デ ー」 一方的意見を言えば放送法第 る話しぶりではなかった。 13 32 日 付 朝 日 は、 る。売り上げが企業単体でせ な っ た。 7 月 29 25 20 25 25 20 77 の イ ン タ ビ ュ ー。 冒 頭、 「日 98 15 ≪ 130 ≫ この夏、ハリウッド版「ゴジラ」を見た。3 り、直後の日本で原子炉築造費を含む予算修 D映像で迫力はあったが何かが足りない。芹沢 正が成立。ビキニから焼津に帰った第五福竜 の発音にこだわったと話していた。確かにス 4 4 クリーンでは英語式「ガッジーラ」でなく「ゴ ジラ」だった。日本人は「ゴジラ」に思い入 れがある。それはいったい何だろう。 米国版「ゴジラ」は重大な点=巨大怪獣の出 自=で設定をずらしている。日本版は、米国に アングル 博士を演じた渡辺謙はテレビ番組で、 「ゴジラ」 丸の被曝も明らかになった(この事件が「ゴ ジラ」製作の直接の動機とされる) 。7月には 自衛隊が発足。 「ゴジラ」公開は 11 月である。 サンフランシスコ講和条約で日本が独立、日 米安保体制がスタートしたのが 52 年。56 年の 経済白書は「もはや『戦後』ではない」と書いた。 こうした時代に、太平洋から現れた巨大怪 よる南太平洋の水爆実験で太古から休眠状態 獣が東京を襲う映画がつくられた。評論家川 にあった生物が目を覚まし、放射線をエネル 本三郎はゴジラを「戦没兵士たちの象徴」と ギーにして巨大化し東京を襲う。米国版では、 し、この映画はかつての「戦災」の恐怖と同 太平洋の深海に生息する巨大生物を米軍が発 時に核時代の恐怖を描いた、と書いた[。川本 見、絶滅させるため核実験を 1950 年代に繰り は、海に消えるゴジラに戦艦大和の最期を見 返したが生き延びた―となる。そのうえで未確 る。評論家加藤典洋もほぼこの視線に沿いな して体内に取り込む=をゴジラと対峙させる。 「ゴジラ」は今回を含め3回、米国で映画化 された。いずれも「米国の水爆実験によって生 み出された」という物語の根幹が改変された。 歴史上唯一、人類の頭上で核爆弾を爆発させ た米国が、その行為の正当性を揺るがす設定 くみ に与 しえない、という社会的な呪縛が今も解 米国版最新作では、フィリピンの地中でさな ぎから目覚めたMUTOが日本の原発を襲う。 破壊された原発は立ち入り禁止区域とされ(な ぜか米軍管理下にある) 、15 年後に再び目覚め たMUTOは北米の西海岸に現れる。ここで ゴジラが太平洋を横断、サンフランシスコで MUTOと対決する。一連のシーンで、なぜ か自衛隊は全く出てこない(日本版では逆に、 「ゴジラ」の時代再考 けないことのあかしだろう。 銀幕の向こう側 認生物「MUTO」=放射線をエネルギーと [1] がら、 「ゴジラ」が戦後 28 回も日本で映画化 されたことに触れ「非常に多義的に私たち観 客に働きかけてくる内実を持っている」と指 [2] 摘する[。つまり、製作者らの意図を超えて「ゴ ジラ」は戦後の大衆に、魂を揺さぶる「戦死 者の亡霊」として受け入れられ、その中で無 害化され、戦後社会に馴致されなければなら なかったのだとみる。 ゴジラが東京の街を踏みつぶすさまは、わず か9年前に体験した空襲の再現だが、同時に踏 みつぶされたのは「第二の戦後」ともいうべ き安保、自衛隊、核時代でもあった。評論家 笠井潔はストレートにその意味を書いている。 ―戦死者たちの存在を隠蔽し忘却した上で の「平和と繁栄」の幕開けでもあった。映画「ゴ ジラ」の観客の多くが、東京湾に上陸し首都 を蹂躙する大怪獣に戦慄したのも当然だった [3] 在日米軍が全く出てこないのだが) 。 ろう[。 原子力空母と並んで太平洋を進むゴジラの さて今日の核状況、安保、欺瞞に満ちた「平 姿は原潜を思わせる。一方、カマキリのような 和」を見る時、今ひとたび戦死者たちの視線を MUTOが高層ビルに突っ込むシーンは「9・ 持つ「ゴジラ」 (米国版のハリボテでなく)は 11」を連想させる。テロリストMUTOを倒 太平洋の深海から甦る必要はないか。 (真崎哲) し米国を救うゴジラ、という構図が確定する。 [1]「今ひとたびの戦後日本映画」(岩波現代文庫、 2007 年) [2]「さようなら、ゴジラたち 戦後から遠く離れて」 (岩波書店、2010 年) [3]「8・15 と 3・11 戦後史の死角」(NHK出版新書、 2012 年) 日本版第 1 作がつくられた 1954 年は、戦後 史を考えるうえで重要なポイントがいくつか ある。米国によるビキニ水爆実験が3月にあ 2014.9.20 ≪ 131 ≫ 見えない部分が多すぎる 集団的自衛権の行使容認が7月1日、安倍晋 三内閣によって閣議決定され、日本の安全保障 表現が続く。ここには文章上のトリックが潜ん 団的自衛権が根拠となる場合がある」と難解な ・ 「集団的自衛権」閣議決定 政策が大きく転換した。くしくもこの日は、自 でいると見るのが常識的だろう。集団的自衛権 さらに、「国際法上の根拠と憲法解釈は区別 して理解 する必要」があり、「国 際法上は、集 年だった。閣議後の会 の行使は(首相の考える)憲法9条の枠内で運 衛隊発足からちょうど 見で首相は「外国を守るために日本が戦争に巻 用するが、場合によっては国際法上の集団的自 なくなった」 (2日付読売)と明言した。この る自衛の措置」。閣議決定は海外の戦争に加わ こうした読み方を裏付ける二つの記事があ る。一つは、3日付朝日「やさしい言葉で考え つため、こうした表現になったという。もう一 が見てとれる。第一は「集団的自衛権」をでき には他国防衛説と自国防衛説の二つの学説があ つは 日付「集団的自衛権 竹内行夫元外務次 官と議論」。竹内氏は国際法上、集団的自衛権 たからといって、戦争を終わらせることはでき で、例えば国の存立が脅かされない状況になっ 答弁はいずれも「3要件を満たす場合」とす るが、いったん戦争が始まればこちら側の都合 日付朝日)と手放し 際的には本格戦争への参加と受け取られるだろ い。 朝 鮮 半 島 有 事 で 多 国 籍 軍 に 加 わ れ ば、 国 16 で絶賛したと伝わるが、この発言も、そうした 胆かつ画期的な決定」( 11 広島ジャーナリスト 18 号 《閣議決定の武力行使3原則に関する部分》 我が国と密接な関係にある他国に対する武力 攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅 かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権 利が根底から覆される明白な危険がある場合 において、これを排除し、我が国の存立を全 うし、国民を守るために他に適当な手段がな いときに、必要最小限度の実力を行使するこ とは(略)憲法上許容される(略) 《閣議決定の「集団安全保障」に関する部分》 我が国による「武力の行使」が国際法を遵守 して行われることは当然であるが国際法上の 根拠と憲法解釈は区別して理解する必要があ る。 憲法上許容される上記の「武力の行使」は、 国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合 がある。 るだけ前面に出さないよう配慮がなされている ると説明する。この観点からすれば、普段は自 日付読売) 。 半 島 有 事 の 際 の 集 団 安 保 も「 活 動 は 可 能 」 と、 こと。もう一つは、集団安全保障に言及しては 国防衛のための集団的自衛権を行使するが、そ ないことは自明だ。楽観的な発想というほかな 岸田文雄外相が答弁した( いないが、解釈しだいでは「参加も可能」と読 の地域で多国籍軍などの集団安保が発動されれ 日の参院予算委では朝鮮 満たせば、集団安保への参加は可能と答弁( 日付中国、毎日)、 13 14 めることだ。 にも適用するとした。そのうえで歯止め3原則 を設けたとした。 15 15 う。 日の日米防衛相会談でヘーゲル長官が 「大 20 閣議決定は集団的自衛権について、あくまで ばそちらに乗り換えるとも読める。 憲法9条で許容される自衛的武力行使を「我が 実際、 日の衆院予算委で首相は、ホルムズ 国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」 海峡などの機雷除去に関して武力行使3原則を 閣議決定全文を読むと、かなりの悪文だとあ らためて思い知らされるが、大きく二つの特徴 は、 後段で触れる世論調査結果を見れば分かる。 るための「霞が関文学」で、公明のメンツを保 発言が額面通り国民に受け止められていないの 日本が戦争に巻き込まれるおそれは、いっそう うなことはあり得ない」 「 今 回 の 閣 議 決 定 で、 衛権を適用する、との含みがありそうだ。 き込まれるという誤解がある。しかし、そのよ 60 ≪ 132 ≫ 「集団的自衛権」をめぐる各紙社説見出し 日経 毎日 5.29 6.6 6.10 6.11 6.14 5.16 5.21 5.28 6.10 6.14 6.25 6.28 7.2 7.15 5.16 5.22 5.29 6.7 6.11 6.14 6.18 7.2 7.15 5.16 6.20 7.2 産経 5.21 集団的自衛権/戦争に必要最小限はない 集団的自衛権/疑問が募る首相の答弁 憲法と国民/決定権は私たちにある 自衛権の支援/戦闘と紙一重の危うさ 集団的自衛権/乱暴極まる首相の指示 自衛隊の協議/後世に責任を持てるか 公明党と憲法/自民にただ屈するのか 集団的自衛権の協議/歴史の審判に耐えられぬ 集団的自衛権/命かかわる議論の軽さ 集団的自衛権/ごまかしが過ぎる 集団的自衛権の容認/この暴挙を超えて 集団的自衛権/解釈改憲の矛盾あらわ 集団的自衛権/根拠なき憲法の破壊だ 憲法と多国籍軍/政権で解釈変わるのか 集団的 グレーゾーン/すき間の議論は丁寧に 自衛権 国会の責任/傍観してはいられない 集団的自衛権/説得力欠く首相の答弁 憲法と後方支援/歯止めにならぬ新基準 集団的自衛権/理解できぬ首相の焦り 集団的自衛権/理屈通らぬ閣議決定案 自衛権の新要件/木に竹を接いだようだ 読売 朝日 5.16 5.29 5.31 6.5 6.8 6.11 6.14 6.20 6.25 6.28 7.2 7.16 5.16 5.20 集団的自衛権/日本存立へ行使「限定容認」せよ 与党安保協議/個別的自衛権では限界がある グレーゾーン/切れ目ない事態対処を可能に 集団的自衛権/「容認」閣議決定へ調整を急げ 集団的自衛権/中途半端な解釈変更は避けよ 与党安保協議/自衛隊活動を制約し過ぎるな 集団的自衛権/解釈「適正化」が導く自公合意 集団的自衛権/抑止力向上へ意義深い「容認」 集団的自衛権/国会の論議をさらに深めたい 集団自衛権報告書/「異質の国」脱却の一歩だ 与党の自衛権協議/解釈変更が議論の核心だ 安保法制 15 事例/先延ばしする余裕はない 与党安保協議/法改正なく尖閣守れるか 公明と集団自衛権/行使容認は与党の責任だ 集団的自衛権/実効ある合意こそ必要だ 集団的自衛権/機雷除去は日本の国益だ 集団的自衛権容認/「助けあえぬ国」に決別を 集団的自衛権/首相は堂々と意義を語れ 憲法解釈の変更へ丁寧な説明を 抑止力につながる集団的自衛権にせよ 助け合いで安全保障を固める道へ 5.16 安保法制懇報告書/解釈改憲は許されない 6.21 集団安全保障/首相の発言と矛盾する 6.25 集団的自衛権/無責任極まる与党協議 集団的 閣議決定案/9条改憲にほかならぬ 6.28 自衛権 公明党の転換/「平和の党」どこへ行った 7.1 集団的自衛権/閣議決定に反対する 7.2 歯止めは国民がかける 7.16 集団的自衛権/横畠長官の答弁は重い 5.21 5.30 6.12 6.28 7.2 7.3 7.15 中国 6.18 集団的自衛権/吟味もせず行使容認か 真崎 哲 自衛権の自公協議/民意置き去りにするな 集団的自衛権の国会審議/危うさいっそう鮮明に 自衛権と党首討論/首相は前のめり過ぎる 憲法解釈の最終案/曲解やめて白紙に戻せ 集団的自衛権を容認/平和主義を踏みにじる 集団的自衛権と野党/今こそ対立軸の構築を 集団的自衛権と民意/「ごり押し」は逆効果だ 【注】2行見出しは1行目だけ掲載。広島市内版を元に作成 メディアスクランブル 対応を期待してのことだろう。 は「憲法は国民のために使いこなすべきもの」 安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会 (安保法制懇)の座長代理を務めた北岡伸一氏 (2日付読売)と発言したが、国民不在の決定 過程を見るにつけ、なんと傲岸不遜に響くこと か。目的もはっきりしないまま「とにかく『集 団的自衛権』が欲しいだけ」の首相を、早稲田 大の長谷川恭男教授は「名月をとってくれろと 泣く子かな」と、一茶の句を持ちだして皮肉る (6日付朝日)。2日付産経は「岸信介元首相も 届かなかった自民党の党是、憲法改正を射程に 入れる」と持ち上げたが、祖父コンプレックス のあげく国民が戦場へ行かされるとしたら迷惑 な話だ。 集団的自衛権をめぐっては、各紙報道でなお 見えない部分があるように思えてならない。 15 ・米艦は日本人を救出する? 安保法制懇の報告書提出を受けて「基本的な 方向性」を示した5月 日の会見で、首相は「邦 人輸送中の米輸送艦の防護」というパネルを 使った。これを、青井未帆・学習院大教授は「い たずらに感情に訴える議論は不適切だ。安保問 日付中国) 、作家の赤坂真理 2014.9.20 題で、政府は決して単純な情緒論をあおっては いけない」 (5月 日付 さんも「『概念』をきちんと説明できないから、 朝日)と厳しく批判した。 情緒でということなのでしょう」 (5月 29 28 ≪ 133 ≫ 日付産経は「朝日 他紙はいずれも「賛成か反対か」という二択方 日の戦 人類史に残る悲惨なメモリアルである8月6 日、9日の祈念式に臨んだ安倍首相は、昨年の この問題では、朝日・産経論争があった。6 日付産経、5月 日付毎日が掲載。内容はほぼ である。 月 日付朝日が「米艦で邦人救出 米断る 共通する。 年交渉時」と1面で報道。2面で「邦人救助 読売、産経が選択肢に「必要最小限で使える ・「原爆」「戦争」をめぐって 想定に穴/『国の責任が原則』米軍は頼れず」 ようにすべきだ」を加え三択だったのに対し、 と展開した。これに対して あいさつの使い回しで済ませた。続く 没者追悼式では、不戦を語らず、アジアへの加 て、「 最 小 限 な ら い い か 」 と 判 断 し た よ う だ。 害責任を語らずのないないづくしだった。 日付で三択で聞いていて、「限定 邦人輸送拒否』報道→防衛省否定→論点すり替 毎日も4月 的に認める」が %あり「全面的に認める」と しかし、集団的自衛権については「必要最小 限」とはどの範囲か、あるいは限定的な行使が 救出の事例提示は「非現実的なケースを持ちだ う」との発言を掲載した。やはり、米艦で母子 権が示した事例は説明のためで現実は少し違 自国民のように扱うことはできない」 「安倍政 たことを考え合わせると、各紙でそれほど傾向 価しない」が5割を超す結果になった。こうし 読売、産経が閣議決定後に問いを「評価する か、しないか」の二択方式に変えたところ、 「評 が生み出した数字は一種の虚構といえる。 朝日は6日付で、核不拡散条約(NPT)が 効果をあげていないことを指摘、核兵器の違法 20 批判する一幕があった。 各紙の社説を見てみる。 日付では、 長崎の平和宣言には自民党国会議員がブログで して情に訴える」という点で、フェアな議論と 化 と い う 原 点 へ の 回 帰 を 訴 え た。 ※設問は「集団的自衛権の 行 使 容 認 を 評 価 す る か 」。 「評価する」の数字を「賛 成」、 「評価しない」を「反対」 の枠に入れた。 はいえないのではないか。 集団的自衛権をめぐる 各紙世論調査結果 紙名 日付 賛成 反対 5.26 29% 55% 28 56 朝日 6.23 7.6 ※ 30 50 5.19 39 54 毎日 6.29 32 58 6.2 71 24 読売 7.4 ※ 36 51 8.4 ※ 41 51 5.20 69.9 28.1 7.1 63.7 33.3 産経 7.22 ※ 35.3 56.0 8.12 ※ 32.6 58.6 5.26 37 47 日経 6.30 34 50 7.28 ※ 36 48 5.19 39.0 48.1 6.23 34.5 55.4 共同 7.3 34.6 54.4 8.4 31.3 60.2 毎日は 日付で 「俘虜記」「レイテ戦 性を強調した。 加害の歴史を記憶し続けることの困難さと重要 13 さを記憶し継承する でなくす戦争の愚か を 引 用、 人 間 を 人 間 家・ 大 岡 昇 平 の 言 葉 記」などを残した作 15 ・世論調査の怪 集団的自衛権の行使容認をめぐって、各紙は 5月下旬から世論調査を重ねた。際立った特徴 は読売、産経が賛成6~7割、反対2~3割な のに対し、他紙(共同通信を含む)の賛否の比 日付朝日、5月 日付朝日「池上彰の新聞な 率が逆転していることであった=別表参照。こ の点の分析は5月 なめ読み」をはじめ、5月 14 30 団的自衛権の行使容認に明確に反対しているの に差があるわけではない。世論の約半数は、集 正面から批判したわけではなかった。それでも 団的自衛権」 に間接的な表現では迫ったものの、 にも触れることはなかった。しかし、 長崎も「集 違いを見せた。広島は集団的自衛権にも、福島 広島、長崎の平和宣言は、集団的自衛権の行 使容認への批判を込めるかどうかで、際立った え 朝日の偏向際立つ」と経緯をまとめた。し かし、攻撃的な見出しの割には「米国に他国民 日付でデニス・ブレア元太平洋軍司令官 日報道の全面否定になっていなかった。朝日は 、 44 21 56 の「日本人避難について最善のことはするが、 可能なのかが議論の焦点で、こうした三択方式 30 広島ジャーナリスト 18 号 22 『米艦で救出、米断る』報道/防衛省 真っ向 式。これが原因のようだ。賛否の境界線上にい 日付で「『米、 る読者の多くが問いの中の「必要最小限」を見 98 合わせると %だった。 14 を救出する義務は存在していない」と書き、朝 否定」と反論記事を掲載。7月 15 19 16 26 ≪ 134 ≫ 核・戦争に関する各紙の主な連載・特集など(2014 年) 7月 8月 中国 ▽「8・6式典 都道府県遺族代表」特(5) ▽「伝えるヒロシマ」連(2・3-) 」特2(5) ▽「伝えるヒロシマ 爆心地 500 ㍍」連⑩(6.2- ▽「国際シンポ『信頼醸成から核廃絶へ』 ▽「4年目の被曝医療」連②(4-5)=共同 8.4) ▽「母とともに 動き始めた胎内被爆者」連② ▽「被曝を伝えて」連④(5-8) ▽「追悼を考える」連④(12-15) (29-30) 『原爆・平和』出版この1年」 (15) ▽「2014 平和のかたち~ヒロシマから」 (26-8.15)▽「 ▽「記憶を受け継ぐ」 (17、25) ▽「砂上の平和主義」連④(11-16) ▽「海を越えて届け 在ブラジル被爆者の訴え」連③ ▽「被爆建物は語る」連⑥夕(28-2) (19-21) ▽「核といのちを考える 被爆 69 年の夏」 (24-30)▽「核といのちを考える 遺す」連⑤(1-5)=特集も ▽「8・6 広島 原爆の日」別刷り特集4(6) ▽「核といのちを考える」(31) ▽「被爆 69 年 核廃絶、広島から」特1(6) ▽「聞きたかったこと」(9、16、30)地 ▽「記憶の食 戦争編(6、14) ▽「核といのちを考える」 (8) ▽「核廃絶への道」特2(9) ▽「抑留された従軍看護婦」連②(13-14) ▽「戦後 70 年へ プロローグ」連⑤(12-16)=特集も ▽「聞きたかったこと」 (13)地 ▽「世間の戦争 第 1 次大戦から 100 年」連⑥(12-9.2) ▽「eye 反核伝える 3304 枚」特(1) ▽「平和をたずねて」連(1、8、15、29) (2) ▽「論ステーション 記憶をどう語り継ぐ」特 ▽「広島の発言 2014」 ▽「肉声が伝えた爆心地 500 ㍍」特2(3) (15) ▽「平和のとなりで」連⑦(4-12) ▽「伝える~被爆の記憶」地(18、26) ▽「平和をたずねて」連(5、19、26) ▽「広島の発言 2014」(27) ▽「核回廊を歩く パキスタン編」連(5-) ▽「つなぐ平和 2014 夏」随時 ▽「'14 ヒバクシャ」特2(6) ▽「この国で確かにあったこと 2014 夏」金子兜太さん(7) ▽「広島原爆の日」特2(7) ▽「eye 原爆 カラーの実相」特(8) ▽「遠き閃光 奄美の被爆者はいま」連③地(8-10) ▽「 『論争』の戦後 70 年」第 5 回[原爆を語り継ぐ絵] (12) ▽「つなぐ平和 2014 夏」随時 ▽「千の証言」 (15、16) ▽「伝える~被爆の記憶」地(20) ▽「戦後を詠む」連②(19、22) ▽「形に残す 2014 原爆忌」連⑤(1-6) ▽「絵に残すあの日の記憶 2014 原爆忌」連④地(3-6) ▽「伝える 戦後 70 年を前に」連⑥(13-20) ▽「忘れられた島民」連⑤(9-14) ▽「眠れぬ墓標」連③(12-14) ▽「明日へ繋ぐ 広島・69 回目の夏」連③(5-7) ▽「 『原爆と平和』を聞く」地(6) ▽「正論 『8・15』に思う」 (1-19) ▽「戦後 70 年を前に」随時(26) ▽「戦後 70 年を前に」随時(5、8、15) ▽「私が生きた戦争」 (9) 朝日 毎日 読売 産経 日経 [ 注 ] 連は連載、特は特集、夕は夕刊、地は地方版の略。連の後の丸数字は回数。カッコ内 は掲載期間(休載日を含む)。広島市内版を元に作成。各紙とも共同通信の配信記事を含む。 2014.9.20 ≪ 135 ≫ ことの大切さを訴えた。 日 15 読売は7日付で、世界に今も1万7千発の核 弾頭があることから、米国の核の傘に依存しな がら核軍縮の努力を続けるべきだとした。 付では、集団的自衛権の行使容認の事実は極め て重いと書いた。 中国は6日付で「我が国や核保有国の政府の 動きには、期待感より危機感を覚えざるを得な い」とし、 「集団的自衛権の行使容認は、(略) 核抑止力との結びつきを強める方向に働く」と 懸念を示した。そのうえで朝鮮半島非核地帯条 約と核兵器禁止条約の推進を訴えた。7日付は 広島市平和宣言について、集団的自衛権への言 日 16 及がなかったことに加え、3年連続で盛り込ん だ「原発」が消えたことに疑問を呈した。 付では、首相が戦没者の帰らぬ遺骨に触れたこ とを取り上げ、 「他国の犠牲者にも、もっと思 いをはせるべきではないか」と批判した=次㌻ 表参照。 ・新聞連載、テレビ、雑誌 についた。朝日は来年夏へ向けて8月 戦後 年を来年に控え、各紙とも「踊り場」 的な連載が多かった。キーワードは「伝える」。 中国は2月に始めた 「伝えるヒロシマ」(月1回) 聞き書きスタイルで解説面、後者は「被爆の記 ら「戦後 年へ プロローグ」をスタートさせ た=前㌻表参照。 2014 年原爆・戦争と平和番組(放送日はいずれも8月) 放送日時 放送局 16:00 ~ NHK総合 番組名 かたりべさん(ドラマ) BS1スペシャル「ドキュメント オリバー 24:00 ~ NHKBS1 ストーン~被爆地、そして沖縄で何を語った 3日 (日) か」 NNNドキュメント '14 無言の語り部~ヒバ 24:50 ~ 広島テレビ ク遺品は訴える 語り出す被爆遺品~ 69 年目に明らかになる真 5日 (火)21:05 ~ NHKラジオ第1 実 8:36 ~ RCCテレビ 野球が好きなんじゃ~広島復興とカープ誕生 9:55 ~ 広島ホーム テレメンタリ―2014「幻の広島復興映画」 12:00 ~ RCCラジオ 日々感謝。ヒビカン 「被爆 69 年のヒロシマから」 14:00 ~ TSS ヒロシマを遺した男~原爆資料館誕生秘話 6日 (水) 20:00 ~ 広島FM あの日の二中 NHKスペシャル「水爆実験 60 年目の真 22:00 ~ NHK総合 実~ヒロシマが迫る埋もれた被ばく~」( 広島局制作) 8日 (金)19:30 ~ NHK総合 ヒバクシャからの手紙 ( 広島局) 10 日(日)24:50 ~ 広島テレビ 続・放射線を浴びたX年後 12 日(火)21:00 ~ NHKBS1 女たちのシベリア抑留 NHKスペシャル「狂気の戦場・ペリリュー 13 日(水)22:00 ~ NHK総合 70 ~〝忘れられた島〟の記録」 いのちのうた 2014 ~ヒロシマ・ナガサキから 15:30 ~ BSプレミアム 未来へ ( 広島・長崎局共同制作) 14 日(木) NHKスペシャル「少女たちの戦争~ 197 枚 22:00 ~ NHK総合 の学級絵日誌」 」 20:05 ~ NHKラジオ第1 奈良岡朋子の戦争体験と朗読『黒い雨』 15 日(金) 22:00 ~ NHKBS1 遠い祖国 前編 ブラジル日系人抗争の真実 24:05 ~ NHK総合 ヒバクシャからの手紙(全国) 16 日(土) 22:00 ~ NHKBS 遠い祖国 後編 ブラジル日系人抗争の真実 NHKスペシャル「いつでも夢を~作曲家・ 17 日(日)21:00 ~ NHK総合 吉田正の〝戦争〟 」 12 NHKスペシャル「知られざる衝撃波~長崎 18 日(月)22:00 ~ NHK総合 原爆・マッハステムの脅威」 29 日(金)21:00 ~ NHKBS1 憎しみとゆるし~マニラ市街戦 その後 日付か ぼ同じ発想。「長崎県被爆者手帳友の会」に同 テレビでは「水爆実験 年目の真実~ヒロ 行取材、奄美の被爆者の今を追った「遠き閃光」 シマが迫る埋 もれた被ばく~」( 8月6日、N HK)が、ビキニ水爆実験の被曝実相に迫って を継続しながら「伝えるヒロシマ 爆心地から 憶」のサブタイトルで地方版に随時。「つなぐ 500㍍」 (週1回)を6月から8月まで 回。 平和」(毎日)や「形にのこす」(読売)も、ほ 8月上旬には、作家からの聞き書き「被爆を伝 えて」を文化面で4回走らせた。 「伝える」を ずばりタイトルにしたのが読売と毎日。前者は (毎日地方版、樋口岳大・長崎支局記者)も目 60 10 70 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 136 ≫ いた。当時、操業していた太平洋のマグロ漁船 「女性たちが本人の意に反して慰安婦にされる 強制性」はあったとした。 「慰安婦」証言 の乗組員のその後を追う中、冷戦下の日米両国 載せ、2㌻特集を組んだ。 明氏、慶応大教授の小熊英二氏ら5人の見解を 6日付でも「日韓関係なぜこじれたか」のほ か、現代史家の秦郁彦氏、中央大教授の吉見義 朝日が取り消す の思惑も透けて見え、力作だった。 「知られざ 日、NHK)はCGなどを多用、すさまじ る衝撃波~長崎原爆・マッハステムの脅威」(8 月 い破壊力を分析しながら原爆の非人道性を浮き 連載)が期待される。原爆供養塔納骨名簿に記 性を連行したとする吉田 地だった朝鮮で、慰安婦にするため暴力的に女 ます」の見出しで2㌻特集を組み、日本の植民 「遺骨―ヒロシマ7万柱の戦後」(文学界9月号、 「慰安婦問題どう伝えたか/読者の疑問に答え 因は被害者の声にきちんと向き合おうとしない 婦」問題を追い続けている吉見氏は「一番の原 的 だ と 評 価 す る 人 も 多 か ろ う 」 と し た。 「慰安 罪の言がないことに不満の人もいようが、画期 彫りにした=前㌻表参照。 1 9 9 2 年 の 済 州 島 調 査 で 吉 田 証 言 の「 詐 雑誌では、 「永山則夫 封印された鑑定記録」 8月5日付朝日は、1面に杉浦信之編集担当 話」を確信、「 慰安婦と戦場の性 」( 新潮選書、 (岩波書店、2013年)を著した堀川惠子の の署名記事「慰安婦問題の本質直視を」を掲載、 1999年)にその詳細を記述した秦氏は「謝 された遺骨の帰るべき場所を追っている。 清治氏の証言を虚偽と判 年前の新聞記事に誤報があったかどうかは、 日本政府の姿勢にある」と指摘した。小熊氏は 20 た か 」 と の 疑 問 に は「 軍 め た。「 強 制 連 行 は あ っ 「混同であり誤用」と認 たとの記述があった点は れ慰安所で売春させられ の問題に対する政治の側の介入に警鐘を鳴らし 日は「朝日記事 国会で検証も」と、石破茂幹 事長のコメントを6日付1面トップで報じ、こ 産経は8日付でそれぞれ1㌻特集を組んだ。毎 見出しで6日付1面で報じ、読売は6、 7日付、 これに対して読売は「朝日 慰安婦報道で『誤 り』」、産経は「朝日、慰安婦誤報認める」との 慰安婦報道/強制連行の根幹崩れた」と全面批 見 つ か っ て い な い 」 と、 田証言』ようやく取り消し」、同産経が「朝日 などが組織的に人さらい するなどの共同行動が必要だと提案した。 の生存者の前で悲劇を繰り返さないことを宣言 ば日本、韓国、中国、米国の首脳が元「慰安婦」 枝葉末節でガラパゴス的」としたうえで、例え 断、 取 り 消 し た。 証 言 は 「 年代 回記事化された 1880年代から 初めに という。 90 年 代 初 め に「 女 子 挺 身隊」の名で戦場に出さ 16 た。社説は6日付読売が 「朝日慰安婦報道/ 『吉 【注】2行見出しは1行目だけ掲載。掲載日付はいずれも8月。広 島市内版を元に作成。 のように連行した資料は 90 狭義の強制は否定したが 2014.9.20 18 「8・6」「 8・9」 「終戦の日」前後の各紙社説見出し < 8・6 と 8・9 > 6日 10 日 6日 7日 6日 7日 5日 6日 7日 10 日 朝日 13 日 15 日 15 日 16 日 15 日 15 日 15 日 16 日 15 日 16 日 被爆 69 年の夏に/核兵器の違法化・禁止を 被爆地と首相/逆行ありえぬ非核への道 毎日 原爆の日/記憶を継承し伝えよう 読売 原爆忌/核軍縮を着実に前進させたい 日経 核廃絶への関心を高めたい 産経 原爆の日/「宣言」を政治利用するな 被爆建物/いま一度 価値の議論を ヒロシマ 69 年/「記憶」を継ぐのは私たち 中国 被爆地の訴え/発信力は十分だったか 長崎原爆の日/ノーモア戦争こそ原点 <終戦の日> 戦後 69 年/歴史を忘れぬ後代の責務 朝日 戦後 69 年の言葉/祈りと誓いのその先へ 8・15 と戦争/記憶の継承の担い手に 毎日 8・15 と日中韓/「歴史の衝突」回避せよ 読売 終戦の日/平和国家の歩みを堅持したい 日経 歴史に学んで昭和の惨禍を繰り返すな 終戦の日と「靖国」/いつまで論争続けるのか 産経 終戦 69 年の靖国/国守る思い語り継ぎたい 終戦の日/「知る、伝える」原点に 中国 戦没者追悼式/「平和への誓い」生かせ 日号)をはじめ、週刊新潮同、週刊ポスト ) 朝日新聞がこれまでの「慰安婦」報道を検証した8月5、6日の紙面 8月 日号、週刊現代8月 て朝日批判を展開した。 日号などがそろっ 週刊文春WEBによると「なぜ日本を貶める の か? 朝 日 新 聞『 売 国 の D N A 』」 の キ ャ ッ チコピーを付けた同誌9月4日号(8月 日発 メント、今後の掲載中止に含みを残した。 ては(略)掲載を認めることにしました」とコ 緯が明かされた。これに池上氏は「今回に関し 掲載が適切と判断したと、朝日社内の論議の経 れ、いったんは掲載を見合わせたが検討の結果、 末尾には「池上さんと読者の皆様へ」が掲載さ するなら、謝罪もするべきではないか」と批判。 は「遅きに失したのではないか」「過ちを訂正 朝日の検証特集について「池上彰の新聞なな め読み」が9月4日付同紙に掲載され、池上氏 30 日付で抗議文を出した。 売)の広告が拒否されたとし、文藝春秋社とし て朝日新聞に8月 余震はなお続きそうな気配だ。 元防衛官僚と多彩である。アプローチの道筋は 大きく三つあり、一つは安倍政治の戦後史にお ける位置、 二つ目は立憲主義の破壊という観点、 三つ目は国際環境の変化から見た安倍政治。 首相は5月 日夕、安全保障の法的基盤の再 構築に関する懇談会(安保法制懇)の報告を受 《「 集 団 的 自 衛 権 の 何 が 問 題 か 解 釈 改 憲 批 判」(奥平康弘・山口二郎編)①》安倍晋三政 は ことへの、各界の批判を集めた。登場する論客 決定による憲法解釈変更という形で踏み切った うパネルを使用した。この設定は、安倍氏の集 た。その際、米艦に乗せられた日本人母子とい 人。憲法学者、政治学者、ジャーナリスト、 団 的 自 衛 権 容 認 論 の 本 質 を 浮 き 彫 り に し て い 権が7月1日、集団的自衛権の行使容認を閣議 20 広島ジャーナリスト 18 号 判。毎日は7日付社説 「国際社会に通じる論で」 で「広義の強制性か狭義の強制性か、といった 国内論議」ではなく「戦時下の女性の尊厳とい うグローバルな問題と捉え、日本の取り組みを 再構築していくべきだろう」 と正論を展開した。 朝日は8月 日付3面に「慰安婦問題 核心 は変わらず」とする記事を掲載。吉田清治氏の 証言を取り消したことで河野洋平官房長談話の 根拠は揺らがないと強調し、自民党内で出てい る新官房長談話を求める動きを批判した。対抗 日か して翌日付読売は「批判回避へ論点すり替え」 と1㌻特集を組んだ。読売はこのほか、 ら 連 載「 検 証 朝 日『 慰 安 婦 』 報 道 」 4 (回 を走らせた。産経は 日から「歴史戦 第5部 『朝日検証』の波紋」 (3回)を連載した。 月 28 28 週刊誌も「朝日新聞よ恥を知れ!『慰安婦誤 報』木村社長が謝罪を拒んだ夜」 (週刊文春8 23 「安倍批判」刊行相次ぐ 27 28 29 け、官邸で会見し基本的な方向性を明らかにし 15 28 「集団的自衛権」の詐術を暴く ≪ 137 ≫ ≪ 138 ≫ に乗せて脱出をサポートしてくれるのか。 である。そもそも、米軍は邦人を軍用機や軍艦 る帰国は、あり得るとすればその後に来るはず 帰国、自衛隊による邦人救出計画…。米艦によ る論旨の「いかがわしさ」が凝縮されていた。 た。言い方を変えれば「集団的自衛権」をめぐ という合意文書があると指摘する。 に、有事の際の救出作戦は米国民を優先させる 大教授(憲法学)は、米国務省と国防省との間 相の言は牽強付会だとする。水島朝穂・早稲田 り、米艦での救出が不可欠であるかのような首 委員は、自衛隊には既に邦人救出極秘計画があ 執筆者の一人半田滋・東京新聞編集委員兼論説 万一、集団的自衛権の行使に伴う任務で戦死 者が出て、その後その判断がひっくり返れば、 えるということである。 憲といわれる可能性のある任務を自衛隊員に与 出る行為である。「米艦に乗って脱出する母子」 れば選挙で負けるし、最高裁で違憲と言われれ であり、売られてもいないけんかを自ら買って 当の自衛隊員は犬死だったことになる。 座長代理と議論した際に北岡氏が「判断が悪け 次に浮かぶ疑問は「これは個別的自衛権の問 題で、集団的自衛権の本質ではないのではない レアなケー はレア中の ら ず、 首 相 にもかかわ こうした 背景がある せ、この問題を考える一つのヒントになる。 観点は、武器輸出三原則の緩和問題などと合わ 国防でなくグローバル経済秩序の維持」という 上智大教授(比較政治学)が提示する「自衛や は一つの要因だろう。そのうえで、中野晃一・ ミテージ元国務副長官を筆頭とする米側の要請 まず、こうした状況に至るには多くの前段階 という設定は「他衛」とは最も遠い距離にある。 ば方針が修正される」と発言したのを踏まえて があるはずだが、その議論が無視されている。 このような疑問点にも多角的な分析がなされ こう指摘する。 外務省による在外邦人への警告、民間機による ている。想定されるのは朝鮮半島有事だろうが、 ――つまり、政権が代われば撤退させられる 可能性があり、最高裁に持っていったときに違 か」である。集団的自衛権とは究極には他衛権 集団的自衛権の問題で、首相はなぜこれほど までに急ぐのか、という疑問が常に残る。アー スを持ち出 し、 現 在 の 日の安倍首相 《「集団的自衛権と安全保障」 (豊下楢彦・古 声高に訴え は問題だと て、危険にさらされる母子というパネルで国民 であったという。ありもしないシナリオ。そし 会見から始まる。会見は、二重の意味で犯罪的 関彰一著)②》この書も、5月 る。 元 防 衛 の心情に訴えようとした点。 権の解釈 個別的自衛 官僚の柳澤 ついて、米軍の非戦闘員避難救出作戦の対象は 協 二 氏 は、 共著者のひとり豊下楢彦・元関西学院大教授 北 岡 伸 一・ (外交史)は、朝鮮半島有事の際の邦人避難に 安保法制懇 2014.9.20 15 ≪ 139 ≫ 米国人及び「友好国」のアングロサクソン系国 民に限られるとする。従って日本人は韓国人と ともに避難すべきであり、必要なのは日韓の友 誉教授(憲政史)の、憲法が絶対的な平和主義 を掲げたことで天皇の地位が守られ、沖縄の忍 年に内閣法 年政府答弁書における解釈の範 てくる。ただ、国会の議論の中で 制局長官は、 従があったと認識すべきだ、とする指摘は重い。 囲内に集団的自衛権が入ることはないと明確に 答弁しており、安倍氏はこの事実を知らないか 立って書かれているが、一方で憲法改正、国防 前掲書は、集団的自衛権をめぐる最新の情勢に より生まれた概念=の成り立ちなども詳しい。 追いながら集団的自衛権の概念=大国の都合に 《 「集団的自衛権とは何か」 (豊下楢彦著)③》 無視していると豊下氏は指摘する。 首相会見で、北朝鮮ミサイルが日本の国土の 大部分を射程に入れていることを強調した点に 軍、安全保障全般にまでフィールドを広げてい 条の成立の経緯を も触れ、ではなぜ原発再稼働を急ぐのか、と疑 年 ま で 小 泉、 《「亡国の安保政策」 (柳澤協二著)④》著者 こ の ほ か、 国 連 憲 章 第 問を呈する。当然だろう。 識を得るには物足りない。その点で最適なのが、 の柳澤協二氏は2004年から う観点から集団的自衛権容認論に踏み出そうと 緻である。 安倍政権の安保政策に対する批判は現実的で精 て官邸の安全保障戦略を支えた。それだけに、 安倍、福田、麻生政権で内閣官房副長官補とし 機雷除去を行うことは不可能なのである。 するのか。「集団的自衛権を認めない」とする る点は、留意すべきだろう。米国にとってこの る。このうち 年はこう書かれていた。 場合、断ったことがない」と書く。どんな場合 安保政策」で「日本は米軍が協力を求めてきた 本はどう対応するのか。柳澤氏は著書「亡国の のない戦争で米国が協力を求めてきた場合、日 要最小限の(つまり、範囲を超えない)集団的 この論理だての隙間を目ざとくみつけたの が、 安 倍 氏 で あ る。「 で は、 場 合 に よ っ て は 必 …」 衛権を行使することは、その範囲を超えるもの た実例をあげる。ソ連によるハンガリー介入、 る、という。そして、集団的自衛権が行使され 集団的自衛権の行使を宣言すれば、どう説明 しようとも世界は日本を「軍事大国」としてみ 権の行使は、わが国を防衛するための必要最小 ――集団的自衛権を行使する国というのは、 限にとどまるべきものと解しており、集団的自 「普通の国」ではない。それは、自国が攻撃さ 「憲法九条の下において許容されている自衛 にイエス、あるいはノーというのか。そのため 自衛権の行使は認められるのか」ということで 条の「個別的自衛権」を正 にもイラク戦争の総括と検証は必要だが、安保 ある。この問いかけがまさしく現在の集団的自 が現在のような論理だてにこだわるのかが見え こ う し た 議 論 の 経 過 を 追 え ば、 な ぜ 安 倍 氏 ム侵攻、ニカラグア侵攻。湾岸戦争、アフガン アによるタジキスタン介入。米国によるベトナ らだ。 派遣できるのは、事実上「大国」以外にないか れていないにもかかわらず他国のために軍隊を 法制懇はイラク戦争への協力を推進した人たち 柳澤氏は、自らの経験に立脚して次のように 書く。 政府見解は1972年、 年の2回出されてい 安倍首相はなぜ、「必要最小限の自衛」とい るため、集団的自衛権に関するベーシックな知 集団的自衛権に基づくホルムズ海峡での機雷 掃海についても、疑問があるという。海峡の最 この書である。 51 豊下氏が、集団的自衛権の問題を考えるにあ たってイラク戦争の総括の重要性を指摘してい が存在しない。首相が言う他国の領海に入らず 09 広島ジャーナリスト 18 号 86 狭部はイラン領とオマーン領で占められ、公海 好関係だという。 81 ばかりで構成されている。そんな人たちによる 戦争は国連憲章第 81 チェコ・スロバキア介入、アフガン侵攻、ロシ もう一人の共著者である古関彰一・独協大名 というものだろう、と豊下氏は指摘する。 「報告」でイラク戦争の総括を求めるのが無理 当な根拠とするものだったのか。こうした正義 81 衛権をめぐる主張につながっている。 51 ≪ 140 ≫ る。技術的な詳細は省くとして、氏はこのよう 衛官は戦場には行かず戦死もない。これまでの 命維持装置」で、9条が有効に機能する限り自 こうした視点に立ち、集団的自衛権と自衛隊 侵攻でも米国は集団的自衛権を主張した。 第2次安倍政権があげた、 の問題では「戦死」という具体的な問題を提示 そのうえで第1次、 集団的自衛権に関する七つの類型を逐一批判す する。著者によれば、憲法9条は「自衛官の生 に指摘する。 ①岩波書店、2014年、1900円 ②岩波新書、2014年、820円 ③岩波新書、2007年、800円 ④岩波書店、2014年、1400円 ⑤岩波新書、2014年、740円 があるのだ。 いという「具体例」を考え出すこと自体に無理 あるから、これを行使しなければ日本を守れな 戦死者の名誉はどう扱われるか。米兵の場合は い だ っ た。 た だ、 国 か ら 支 払 わ れ る カ ネ は 計 は想定外で、任務中の死亡は「訓練時の死」扱 したがって、9条が空文化したとたん、自衛 官の戦死が現実になる。イラク派遣までは戦死 ⑥》なぜ首相は「集団的自衛権」に執着したのか。 《 「集団的自衛権と日本国憲法」 (浅井基文著) イラク派遣などを見ても明らかである。 前述したように、柳澤氏によれば、日本はこ れまで米国の武力行使に反対したことは一度も 「脅威」 アーリントン墓地に埋葬されるが、自衛官は。 調する。米ソ冷戦の終結とともに、米国は ⑥集英社新書 2002年、760円 【注】①出版社②初版発行年③税別価格 ない。見えてくるのは、米軍が違法な武力行使 靖国に祀るとなれば、政治問題化は必至だろう。 の相手を求めて「アジア」に戦略をシフトする。 ――そもそも、集団的自衛権とは、自国が攻 撃されていない場合に他国を守るための根拠で をすれば日本も違法な武力行使を余儀なくされ 年の米シンクタンク「ランド 兵士は他国のために戦うのだから、当然の結果 する。そこには既に、集団的自衛権の行使容認 研究所」の「アメリカとアジア」を詳細に紹介 とだ。米国のベトナム戦争も例外ではなかった。 ミテージ報告、 こうした情勢変化を背景に、2000年のアー 「敵」は「ならず者国家」から「中国」へと移る。 著作で、米国の永年の要請の結果であったと強 7千万円から1億円にアップしたという。では、 浅井基文・元広島市立大広島平和研所長はこの るということだ。 「要請を断った場合、日米同 興味深い指摘は、世界で集団的自衛権の行使 を名目に始めた戦争で勝った国がないというこ 盟は崩壊する」と柳澤氏は言う。 こ う し た 事 態 は、 ま ぎ れ も な く 自 衛 隊 員 が 「血を流す」局面につながる。柳澤氏は「自ら なのかもしれない。 主に日米関係の観点から「集団的自衛権」の 問題を考えるには好著である。 真 ( 崎哲 ) が、日本人である自衛隊員の命にかかわること 「集団的自衛権」が大国の論理であることが、 へ向けた日本の憲法改定要求への言及がある。 を軽々に口にすることに怒りを禁じえない」と、 こうした側面からも分かる。 生命の危険に身をさらすことのない立場の人間 01 属企業の枠を越えた共通の表現の場として 「 広 島 ジ ャ ー ナ リ ス ト 」 を 発 刊 し た が、 活 動 の停滞によって1980年代に刊行が途絶え ていた。 年近い休止期間を経て、自由な言 論の場の再生をという声が高まり、2010 年7月に季刊誌として復刊した。真実に迫り、 信頼されるメディアを目指す。 2014.9.20 「日米関係を完全なイコールパートナーに」と JCJと「広島ジャーナリスト」 日本ジャーナリスト会議(JCJ)は敗戦 から 年後に、新聞、放送、出版などジャー ナリズムの現場から「ふたたび戦争のために ペン、カメラ、マイクをとらない」を合言葉 に発足した。広島支部は広島を拠点に活動す る報道各社の記者らが1967年に結成。所 30 いう安倍氏に怒りをぶつける。 「日本は戦争をするのか ――集団的自衛権 《 と自衛隊」(半田滋著)⑤》東京新聞編集委員 兼論説委員である著者は日本の防衛問題をウ オッチするジャーナリストの第一人者だ。防衛 を政治・外交面より自衛隊の現場から見ている。 10 ≪ 141 ≫ THE BOOK 「戦後日本公害史論」(宮本憲一著) 本文だけでも 700 ㌻を超す大著である。その源 (敬称略、価格は税別) 「よし、戦争について話をしよう。戦争の本質に ついて話をしようじゃないか!」(オリバー ・ ス は、ちょうど 50 年前に宮本が庄司光と共著で出 トーン、ピーター・カズニック、乗松聡子著) した岩波新書「恐るべき公害」の準備にあった。 映画監督のO・ストーン、アメリカン大教授の 新聞に載った公害事件の日誌化に取り組んだが、 P・カズニック、カナダ在住の乗松聡子が昨年夏、 4大新聞は「ほとんど日本の具体的事件の記事が 広島、長崎、沖縄、東京を訪れた。その際の発言 ない」。46 地方紙を選んで記事を要約。記号化し が一冊にまとめられた。広島では8月5日、広島 て作成した公害列島地図は真っ黒になるほどで 市内で広島市立大広島平和研教授の田中利幸を司 あった。公害の実態の掘り起し、継続報道は今後 会役にシンポジウムが開かれ、小誌(2013 年9 も地方紙の大きな使命であることを示している。 月発行の 14 号)も速報したが、さらに正確、詳 宮本の研究姿勢は世論喚起から現地調査、大企 細な訳で掲載された。 業公害裁判への関わ O・ストーンが広島 り、被害者救済、補償 で語った重要な点は、 問 題 へ と 現 場、 住 民 原爆投下の神話につ 運動との連携に広が いてであった。米国内 り深まっていく。本書 では今も「戦争終結を ではイタイイタイ病、 早め、日本本土決戦に 新潟水俣病、四日市、 よる多数の戦死者を出 熊本水俣の 4 大公害 さずにすんだ」という 裁 判、 さ ら に 大 阪 空 正当化論が幅をきかす 港、国道 43 号線・阪 が、これを明確に否定 神 高 速 道 路、 東 海 道 し、対ソ戦略としての 新幹線の公共事業公害判決などを憲法にのっとり 投下であったと語っている。P・カズニックも、 住民の健康、 生活を第一とする視点から振り返る。 原爆投下正当化論こそが、核抑止力というウソを 宮本は「戦後の日本社会の特質である政官財学 形成してきたという。乗松も、これに呼応して「安 複合体による政治・経済・科学が人間の安全や基 保を温存しておいて、唯一の被爆国とか反核とか 本的人権よりも経済的利益や政治支配的欲望を優 言っても説得力がない」と話す。 先したシステム」が際限なく公害を引き起こした O・ストーンは来日後、日本人と話をしながら、 と断ずる。歴史的教訓を生かすことのないそのシ ある事実に首をかしげる。あまりにも日本人が自 ステムの最たる失敗が福島第1原発事故だった。 国の歴史=中国をはじめアジア諸国を侵略した事 宮本の痛恨事はアスベスト災害である。中皮腫 実=を知らないことである。敗戦後の焼け野原で 患者がクボタを告発することで全国的な被害が明 飢餓や喪失感を抱えたまま、感情がマヒしている らかになった。宮本はその恐ろしさを米国で教え のではないだろうか。彼は長崎でそう話す。 られていたのに十分な働きをせず「大きな反省を こうした発言に、鹿児島大教授(平和学)の木 した」 。問題はこれからである。アスベストも原 村朗が的確なコメントを寄せる。発しているのは、 発もようやく全容を解明する門口に立ったといえ 母国・米国が犯した罪や今も続く蛮行への身体を る。 「被害の実態、責任の明確化、救済、環境と かけた告発であると同時に、日本の過去と現在の コミュニティーの再生に向かって調査研究と政策 あり方に対する根源的な問いだ―。私たちが日本 提言をしなければならぬ」=浜風子。 の自画像を描くための手掛かりになる一冊である (岩波書店刊、8200 円) =北透。 (金曜日刊、1000 円) 広島ジャーナリスト 18 号 ≪ 142 ≫ THE BOOK 「暴力的風景論」(武田徹著) 佐世保の高校生による同級生殺害事件を例に出 (敬称略、価格は税別) 「徹底検証・使用済み核燃料 再処理か乾式貯蔵 か」(フランク・フォンヒッペル+国際核分裂性 すまでもなく、事実を積み重ねるだけでは「解」 物質パネル[編]、田窪雅文訳) に至らない事件が多発している。著者の武田はこ 本書をまとめた国際核分裂性物質パネル(IPF うした状況を見据えながら、ジャーナリズムにお М)は核兵器国や日本など 18 カ国の軍備管理・ ける一つの手法を実験的に提示する。手掛かりは 核不拡散問題の専門家で構成し、プルトニウムと 「風景」である。そこには気分、世界観、物語が 高濃縮ウランのストックを減らすためのキャン 塗りこめられる。著者は、 「風景」とは「現実世 ペーンに取り組んでいる。訳者の田窪は IPF Мメ 界と私たちの間にある虚実折り重なった皮膜」で ンバーで、執筆者でもある。 あるという。我々はいつからかこの皮膜ヴェール 台湾を含めて世界 31 カ国にある原発の使用済 を通してしか、現実が見えなくなっている。 み核燃料は超長期に安全管理する必要がある。本 この観点から、著者 書は「最終処分への道」 は戦後史の「風景」を を世界の経験から探 読み解いていく。沖縄、 る。第 1 部「各国の状 連合赤軍、宮崎勤事件、 況と複数国処分場の可 オウム真理教、酒鬼薔 能性」から、第 2 部「使 薇 事 件 ―。 こ の 中 に、 用済み燃料の中間貯蔵 異質ともいえる1章を 及び最終処分に関連し 加える。村上春樹の「ノ た技術的問題」に及び ルウェイの森」の解読 第 3 部で「日本への提 である。読み進むうち、 言 : プルトニウムの分 実はこの村上論が戦後 離を終わらせる」とし の物語の根幹をなしていることが見えてくる。 て問題提起している。 ジョージ・オーウェルの 「1984」 で描かれた 「ビッ 日本政府は使用済み核燃料について再処理方針 グブラザー」が退場して久しい。イデオロギーと を貫いている。青森県六ケ所村での再処理事業が 権力者が支配する世界の終わりである。 つれて 「大 破綻しているにもかかわらず、その体制維持を続 きな物語の凋落」が始まった。大量消費時代の到 ける。英、仏への再処理依頼で生じた核兵器の材 来で、我々は均質なまがいものに取り巻かれてい 料でもあるプルトニウムを大量所有し、潜在核戦 る。その中で「生きる」感触を得るため、なにか 力国とみなされる始末だ。プルトニウムを一緒に しらの「記憶のフック」を求め、小さな物語への 燃やせば燃料の節約になると宣伝されてきたが、 回路を見いだす。それがアニメであったり、フィ 最終的に強烈な放射性物質は残る。 ギュアであったりする…。 再処理は膨大な費用と危険性に目をつむり、わ 大量のリトルピープルの出現である。国家には ざわざ回り道をして最終処分に行き着くようなも もはや、リアリティを持ちえない。敗戦から米国 のだ。使用済み燃料をしばらくプールで冷やした の傀儡という経緯をたどった国家には、パソコン 後、原発敷地内で空冷の乾式貯蔵をする。その間 でいう「OS」が組み込まれていないから、彼ら に地層深奥の最終処分法などに英知を集めようと は相対的な個人主義でなく幼児的なスーパー個人 問いかけている。一斉に原発を止め、廃炉にした 主義へと向かう。こうした心的風景を読者と共有 としても大量の使用済み燃料は厳然と残る。全人 しながら、著者は不可解とも映る暴力的事件を読 類的課題として迫ってくる=宮島守。 み解いていく=真崎哲。 (新潮選書、1200 円) 2014.9.20 (合同出版刊、2400 円) 人、行方不 8月 日未明、広島市内を襲った記録的 な豪雨。過去最大規模の甚大な被害をもた らした。9月4日現在、死者 明2人。避難所での生活を余儀なくされて いる人は414世帯、 857人いるという。 8月 日、安佐南区八木8丁目に支援に 入った。大きな石が上流から流れてきてお り、いかに水の勢いがすごかったかが分か る。家の中に入り込んだ土砂は1㍍以上の 高さで、簡単に天井に手が届く。このうず たかく積もった土と岩をかき出して、バケ ツリレーで離れたところに移す。これが私 たちの仕事だった。 家の外は電線に頭がぶつかりそうなくら い土砂が堆積。この土砂を取り除くのは重 機でなければ無理だろう。みんなで力をあ わせて奮闘したが、泥の排出は遅々として 年には 億円まで落 年で計 た。しかし、今回の災害を知っても首相は 2時間近くゴルフ場にいた。国民の命など 眼中にないという本性がくっきり。いった ん官邸に戻ったものの防災相と 分打ち合 わせして記者会見をし、その日のうちに山 梨の別荘に戻った。翌日、天皇が静養をと りやめると宮内庁が発表すると、慌てて公 編集後記 広島ジャーナリスト 18 号 2000年は200億円で、そこから右肩 下 が り で 減 少 し、 年から ずか 分の間に「国民を守る」と7回も言っ 安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使容 認を閣議決定した7月1日の記者会見でわ ることを怠ってきたことも挙げられる。 温暖化の原因となる温室効果ガスを抑制す 軽視し、荒れるにまかせてきたこと、地球 さらに、国土の7割近くが森林で人工林 が4割を占めているにもかかわらず林業を たのだ。 らに国政、市政のあり方が被害を甚大にし のための予算はけちる。こういう県政、さ らせるためにお金をつぎ込む。県民の安全 山を削り、海を埋め、高速道路をはりめぐ 1650億円、1年あたり約410億円だ。 速道路をつくる予算は ち 込 ん だ。 予 算 が な い わ け で は な い。 高 80 邸へ。誰かが「政治家は何を言っているか 65 11 ではなく、何をするかで判断すべし」と言っ 広島ジャーナリスト第 17 号 申し込みはファクス 082-231-3005 かメー ル [email protected] ▽紀伊国屋書 店広島店、フタバ図書などでも好評発売中 成田龍一「『戦争経験』の戦後史」によると、 戦争経験の語られ方は時期的に大きく三つの カテゴリーに分けられるという。1945年 から約 年間は「体験」の時代、 年ごろか ら「証言」の時代、 年代からは「記憶」の 時代▼「戦 後」という言葉が長 く使われた。 ア ジ ア・ 太 平 洋 戦 争 以 来、「 戦 争 」 を 予 感 さ せる動きが目立たなかったためだろう。しか し、安倍晋三政権が集団的自衛権の行使を政 治的オプションとして認めたことで「戦争= 戦死」は「記憶すべき出来事」ではなくなっ た▼石原慎太郎が戦争体験論を「懐古談」と 言い放ち、橋川文三が「歴史意識としての戦 争」というかたちで反論していたのを思い出 す。だが、最近の「慰安婦」問題一つとって みても、「戦 争」は横断的な国民 の歴史意識 を形成するに至ったか。あの「戦争」を未整 理のまま 新たな「戦前」が始ま るとしたら、 なんと懲りない国民であることか。 (真崎) 戦争する政治は日本を滅ぼす 平岡敬 「集団的自衛権」奇妙な議論 半田滋 民主主義を突き崩す秘密法 植田博 公安警察の暴走招く恐れ 青木理 米軍基地、沖縄に不要 前泊博盛 90 12 ていたが、まさにその通りだ。(驢馬応円) 特集「 『被爆 70 年』へ 核時代の今」 核兵器禁止条約は近づいている 川崎哲 世界になお核1万発 田中利幸 ヒバクシャの連帯追求 森瀧春子 核廃絶へ最後の闘い 朝長万左男 被爆者の人生に見る原爆の非人間性鎌田七男 20 14 20 進まなかった。 今回の大災害はたんなる自然災害ではな い。宅地開発が民間業者まかせで本来、建 年代 ててはいけないようなところに家が建っ て い る こ と、 広 島 県 が 砂 防 予 算 を 年に大雨による 年まで170億円の砂 防 予 算 が つ い て い た。 1994年から の半分に削減したことがまず挙げられる。 90 土 砂 崩 れ が あ り、 こ の 年 は 3 3 0 億 円。 99 98 10 72 20 27 風訊帖 ≪ 143 ≫ 土砂災害の向こうに政治の貧困が見える 広島ジャーナリスト第 18 号 ▽ 2014 年9月 20 日発行 ▽発行所 日本ジャーナリスト会議広島支部 〒 730―0805 広島市中区十日市町 1-5-5 坪池ビル2階 電話・ファクス 082-231-3005 e-mail [email protected] 定価 500 円(本体 463 円) 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