作業療法の評価学と治療学

112 Ⅱ 作業療法の評価学と治療学
II 1-2 身体障害領域 頭頸部、中枢神経系
1
脳血管障害
サンプル
(1)疾患・障害の特徴
①虚血性
1)脳梗塞 cerebral infarction
病名
特徴
・ 血栓により血管が閉塞する。
脳血栓
cerebral thrombosis
・ 安静時の発症(夜間−早朝)が多い。
・ 前触れ:一過性脳虚血発作(TIA)
・ 中大脳動脈領域が多い(70%):片麻痺、失語、意識障害など。
・ CT では低吸収域を呈するが、発症直後は変化がみられない。
脳塞栓
cerebral embolism
・ 頭蓋の外で生じた塞栓源(主に心臓:弁膜症、心房細動、細菌性心内
膜炎などによる組織)が脳血管に移行した血管閉塞。
・ 虚血部位に出血を起こし出血性梗塞を起こすことがある。
・ 心原性脳梗塞では心エコー検査で左房内血栓や心不全徴候がないこ
とを確認する。
病期
治療法
血栓溶解療法
・組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)
➡発症 4.5 時間以内に使用
・ウロキナーゼ
抗凝固療法
・ヘパリン
・アルガトロバン
急性期
抗血小板療法
・オザグレルナトリウム
・アスピリン
脳保護薬
・エダラボン
脳浮腫、脳圧亢進症状
・脳圧降下剤(グリセロール、マンニトール)
(脳ヘルニア)の治療
脳循環・代謝改善剤
慢性期
血栓の予防
・血小板機能抑制剤(アスピリン、チクロピジン)
・抗凝固剤(ワーファリン、リバーロキサバン)
その他
外科的治療
・頸動脈血管内膜切除、バイパス手術、ステント術
2)一過性脳虚血発作 transient ischemic attack: TIA
・ 脳の循環障害により一過性に脳局所症状を呈する発作。
・ 頸動脈や脳動脈の動脈硬化性病変から剥離した微少な血栓による小塞栓が推定されている。
・ 運動麻痺、感覚障害、失語症、視力・視野障害など虚血部位に対応した症状が出現。
・ 24 時間以上持続し 3 週間以内に回復するもの: 可逆性虚血性神経脱落( RIND )
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身体障害領域:頭頸部、中枢神経系
113
②出血性
1)脳出血 cerebral hemorrhage
原因
動脈硬化と高血圧
・ 被殻出血(外側型)が多い:内包や基底核の障害。
・ 視床出血(内側型):脳室内に破れて重症になりやすい➡脳室穿破。
・ 脳幹や小脳の出血:脳幹が障害され予後不良。
サンプル
・ CT では高吸収域を呈する(白く描出される)。
・ 日中の活動時、興奮時に起こりやすい。
止血剤
治療
脳圧亢進、脳ヘルニア対策
血圧コントロール
外科的治療:血腫除去術、開頭減圧術
2)くも膜下出血 subarachnoid hemorrhage: SAH
原因
① 脳動脈瘤
② 高血圧性、動脈硬化性
③ 脳動静脈奇形
作業療法の評価学と治療学 身体障害領域
特徴
・ 動脈瘤:ウィリス動脈輪を形成する前交通動脈、内頸動脈、中大脳動脈に多い。
40 〜 50 歳代に多い。
特徴
・ 突然の激烈な頭痛、嘔吐、意識障害、髄膜刺激症状(ケルニッヒ徴候、Kernig’
s sign)。
・ 発症後1週間以内に再発が多い。
・ 脳血管攣縮による脳梗塞が起こることがある。
・ 検査:CT で至急撮影し出血を確認。髄液は血性。
治療
手術:クリッピング術、コーティング術、トラッピング術、血管内治療
3)硬膜下血腫 subdural hematoma
原因
特徴
治療
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・外傷が多い。
・硬膜とクモ膜の間に出血。
・急性型、慢性型がある。
手術:血腫除去術
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114 Ⅱ 作業療法の評価学と治療学
③その他
病名
特徴
高血圧性脳症
・ 顕著な血圧上昇(特に拡張期血圧の上昇)に伴い急激に頭痛、悪心・
嘔吐、意識障害、痙攣などの脳症状を示す。
脳動脈硬化症
・ 脳動脈硬化による脳循環障害の症状がみられる。
サンプル
椎骨脳底動脈循環不全
・脳の局所徴候や CT 所見に病巣が見られない。
・ 動脈硬化性病変を背景とした脳底動脈の循環障害により、めまいな
ど脳幹症状を示す。
・ 脳動脈硬化性変化による循環障害により脳深部白質のびまん性の脱
髄・壊死、基底核・視床の小梗塞、脳室拡大などを起こす。
Binswanger 病
・ 全汎性の知能障害、精神症状、錐体路障害、錐体外路障害など種々
の神経症状を示す。
・ 徐々に発症し、階段状に増悪する。
CADASIL
・ 脳 MRI:側頭葉、前頭葉、外包、側頭極に強い白質病変。特に外包、
側頭極は特異的。
cerebral autosomal
・ T2 強調画像で多数の微小出血病変が認められることがある。
dominant arteriopathy with
・ 25 歳前後に片頭痛、30 〜 50 歳で脳卒中発作が一般的。
subcortical infarcts and
・ 常染色体優性の遺伝性疾患。第 19 番遺伝子長腕に遺伝子座(NOTCH3
leukoencehalopathy
遺伝子変異)。
モヤモヤ病
(Willis 動脈輪閉塞症)
静脈洞血栓
・ 内頸動脈終末部からウィリス動脈輪部位での動脈閉塞とモヤモヤし
た異常血管網を示す。
・ 若年者では虚血性障害、成人では出血を起こすことが多い。
・ 脳静脈の閉塞により末梢部にうっ血を生じ、脳浮腫や出血・壊死を
起こす。
・ 画像所見:CT 上に島葉、前障部に低吸収域が出現し、側頭葉内側部、
前頭葉へと拡大。
ウイルス性脳炎
・ 精神・認知機能障害:意識障害、異常行動、失見当識、記銘力障害、
失語。
・ 運動機能障害:不随意運動、運動麻痺、小脳失調。
・ その他:脳神経麻痺、痙攣。
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身体障害領域:頭頸部、中枢神経系
115
④標準的な 脳画像のみかた
アドバイス
脳画像と解剖学的位置の出題は毎年あります。
解剖学的位置を覚えておきましょう。
Ⅳ
臨床実習
2
治療各論
脳血管疾患の
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作業療法の評価学と治療学 身体障害領域
サンプル
CT・MRI を参照。
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116 Ⅱ 作業療法の評価学と治療学
最新の代表的問題と解説
第 41 回
問題 6
脳出血時の頭部 CT を示す。誤っているのはどれか。
1. くも膜下出血
サンプル
2. 尾状核出血
3. 小脳出血
4. 脳幹出血
5. 被殻出血
正解
2
解説:
2 の画像は「視床出血」
。尾状核は側脳室前角の外側にある。
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身体障害領域:頭頸部、中枢神経系
117
(2)評価
脳血管障害の作業療法で必要とされる項目と標準化された検査・測定法
項目
評価項目
意識レベル
・JCS(P. 54)、GCS(P.53)
サンプル
運動機能障害の ・ 筋力(患側は分離運動が十分可能になってから):MMT、握力、ピンチ力
・ 関節可動域
評価
・ 上肢機能:STEF、MFT
・ 筋緊張:Modified Ashworth Scale
反射・反応
体性感覚
脳神経
・ 深部腱反射、病的反射、平衡反応(座位、立位バランス)
・ 表在覚:痛覚検査、温度検査、触覚(Semmes-Weinstein モノフィラメントテスト)
・ 視野:対座法
・ スクリーニング:HDS-R、MMSE
・ 知能検査:WAIS- Ⅲ、Kohs 立方体組合わせテスト
・ 注意:CAT、TMT-A/B
作業療法の評価学と治療学 身体障害領域
・ 片麻痺の機能回復:Brunnstrom stage、12 段階片麻痺回復グレード法 SIAS(Stroke
Impairment Assessment Set)、FMA(Fugel-Meyer Assessment)
・ 半側空間無視:BIT
認知機能
・ 視覚認知:標準高次視知覚検査(VPTA)
・ 記憶:WMS-R、リバミード行動記憶検査、Benton 視知覚記銘検査、
Rey-Osterrieth 複雑図形検査
・ 行為(失行):標準高次動作検査(SPTA)
・ 言語:標準失語症検査(SLTA)、WAB
・前頭葉機能:FAB、WCST、BADS
・ ADL:FIM、BI
ADL・IADL
・ IADL:FAI
・ 作業遂行能力:AMPS、COPM
Brunnstrom 法の各ステージで可能な運動を覚えよう
運動障害回復を目標とした作業療法では、特徴的な運動パターンの状態を評価します。
次の段階の運動を出現させる(共同運動パターンからの逸脱)練習を行うことが必要です。
ステージ II
ステージⅢ
連合反応
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上肢屈曲
共同運動
上肢伸展
共同運動
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118 Ⅱ 作業療法の評価学と治療学
ステージ IV
サンプル
麻痺側上肢を背部へ
麻痺側上肢を
90°前方挙上
麻痺側上肢を肘 90°
屈曲位で前腕回内外
ステージ V
麻痺側上肢を
90°側方挙上
麻痺側上肢を
上方挙上
麻痺側上肢を肘伸展
90°前方挙上位で前腕回内外
ステージ VI(上田片麻痺機能検査項目)
反復運動
肘関節屈曲ー伸展
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反復運動
肩関節外転ー内転
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身体障害領域:頭頸部、中枢神経系
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Brunnstrom 法ステージ(上肢)
各ステージで可能な主な運動
筋緊張
Stage Ⅰ
随意運動なし
Stage Ⅱ
基本的共同運動が連合運動と 非麻痺側の運動に伴って共同運動の一部が、出 痙縮発現
して出現する
現する
Stage Ⅲ
共同運動
なし
痙縮最強
伸展パターン
Stage Ⅳ
Stage Ⅴ
共同運動から逸脱した運動が ① 麻痺側上肢を腰の後ろへ動かせる
痙縮の減少
可能.単関節レベルでの分離 ② 麻痺側上肢を肘伸展位で前方に挙上できる
運動(①②③のうち 1 つで可) ③ 麻痺側上肢を肘 90°屈曲位で前腕回内外できる
複合的な運動での分離運動
(①②③すべて可能なとき
Stage V)
① 麻痺側上肢を肘伸展位で側方に挙上できる
② 麻痺側上肢を肘伸展位で頭上に挙上できる
痙縮のさら
なる減少
③ 麻痺側上肢を肩関節 90°屈曲、肘伸展位で
前腕の回内外(肩関節内外旋を伴う)できる
Stage Ⅵ
自由な各関節運動が可能
となる
肘関節屈曲−伸展、肩関節外転−内転等の反復 痙縮ほとん
運動の所要時間が非麻痺側の運動所要時間と差 ど消失
作業療法の評価学と治療学 身体障害領域
サンプル
屈曲パターン
弛緩
がほとんどない
Brunnstrom 法ステージ(手指)
各ステージで可能な主な運動
Stage Ⅰ
随意運動なし。弛緩性。
Stage Ⅱ
指屈曲が随意的にわずかに可能か、またはほとんど不可能な状態。
Stage Ⅲ
指の集団屈曲が可能。鉤形握りをするが、離すことはできない。指伸展は随意的にはでき
ないが、反射による伸展は可能なこともある。
Stage Ⅳ
横つまみが可能で、母指の動きにより離すことも可能。指伸展はなかば随意的に、わずか
に可能。
Stage Ⅴ
対向つまみ palmar prehension ができる。円筒にぎり、球にぎりなどが可能(ぎこちないが、
ある程度実用性がある)、指の集団伸展が可能(しかしその範囲はまちまちである)。
Stage Ⅵ
すべてのつまみ方が可能となり、上手にできる。随意的な指伸展が全可動域にわたって可能。
指の分離運動も可能である。しかし健側より多少拙劣。
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120 Ⅱ 作業療法の評価学と治療学
Brunnstrom 法ステージ(下肢)
主な各ステージで可能な運動
Stage Ⅰ 随意運動なし
なし
筋緊張
弛緩
Stage Ⅱ 基本的共同運動が連合運動 非麻痺側の運動に伴って共同運動の一部が、出 痙縮発現
として出現する
現する
Stage Ⅲ 共同運動
サンプル
屈曲パターン
痙縮最強
伸展パターン
Stage Ⅳ 共同運動から逸脱した運動 座位:麻痺側の足を床に滑らせながら膝を 90°以 痙縮の減少
が可能.単関節レベルでの
上屈曲可能
分離運動
座位:麻痺側の股関節、膝関節 90°屈曲で踵を床
に着けたまま足関節の伸展(背屈)可能
Stage Ⅴ 複合的な運動での分離運動 立位:麻痺側の股関節伸展位で膝関節屈曲可能
痙縮のさらな
立位:麻痺側足部を少し前方に出し、膝関節伸 る減少
展位で足関節伸展(背屈)可能
Stage Ⅵ 自由な各関節運動が可能と 立位:麻痺側の股関節外転が、骨盤挙上による 痙縮ほとんど
なる
外転角度以上に可能
消失
座位:麻痺側の下腿の内外旋の反復運動(内外
側のハムストリングスの交互収縮)の所要
時間が、非麻痺側の所要時間と差がほと
んどない
共同運動パターン
屈曲パターン
上肢
下肢
肩甲帯
内転・挙上
外転・下制
肩関節
外転・外旋
内転・内旋
肘関節
屈曲
伸展
前腕
回外
回内
手関節
屈曲
屈曲(伸展)
手指
屈曲
屈曲(伸展)
股関節
屈曲・外転・外旋
伸展・内転・内旋
膝関節
屈曲
伸展
足関節
伸展・内反
屈曲・内反
足指
伸展
屈曲
(
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伸展パターン
)の関節運動の場合もあり
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身体障害領域:頭頸部、中枢神経系
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連合反応
サンプル
対側性連合反応
同側性連合反応
・ 脳卒中片麻痺者が非麻痺側の筋を自発的に強く収縮させると、麻痺側
(対側)に不随意な筋収縮が対称性に生じる現象。
・ 脳卒中片麻痺者が麻痺側上肢を自動的に強く収縮させると、麻痺側(同
側)の下肢に不随意な筋収縮が非対称性に生じる現象。
・ 出現する運動は共同運動またはその一部。
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作業療法の評価学と治療学 身体障害領域
・ 非麻痺側上肢の屈曲は麻痺側上肢の屈曲を誘発する(上肢の連合反応は対称性に生じる)。
・ 連合反応は共同運動の一部として発現するため、単関節には起こらない。
・ 一旦、麻痺側の筋緊張が高まると、中枢性の抑制が麻痺側には十分に機能しないため、連合
反応を誘発する興奮は非麻痺肢の運動を中止しても非麻痺側と同じようには消退しない。
・ 麻痺肢に共同運動がみられるようになっても連合反応は生じる。
・ 立ち上がり動作に伴う非麻痺側肢の筋活動によって、麻痺側の連合反応が誘発される場合
がある。
・「対側性」と「同側性」があり、いずれも脊髄の神経興奮が関与。
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122 Ⅱ 作業療法の評価学と治療学
最新の代表的問題と解説
第 51 回午前
問題 7
脳血 56 歳の女性。右利き。脳出血で右片麻痺となり、保存的療法にて発症後
7 日が経過した。意識は清明。右上肢および手指は Brunnstrom 法ステージⅠ。
右肩関節に軽度の亜脱臼を認めるが、疼痛や浮腫はない。
現時点でこの患者の右上肢に行う治療として最も適切なのはどれか。
サンプル
1. 筋再教育訓練
2. 利き手交換訓練
3. 間欠的機械圧迫
4. 渦流浴
5. パンケーキ型装具装着
正解
1
解説:
この患者は脳出血に対して保存的療法を受けて 7 日経過しており、右上肢・手指
はステージⅠで弛緩している状態である。急性期の対応として右上肢の運動機能
を回復させる訓練が優先。
1. 神経生理学的アプローチとして Brunnstrom、Bobath、Kabat らの治療手技が
ある。上肢に対する筋再教育訓練は最も優先的に行うべき。
2. 右手の実用的機能が回復不能な状況下にあるかは問題文からは不明である。急
性期であることをふまえれば機能回復は期待できる。利き手交換訓練は急性期
を経て回復期に開始してもよい。
3. 間欠的機械圧迫は血流障害の予防のため手指に行うことができる。この患者の
右肩関節には軽度の亜脱臼があるが、疼痛や浮腫は認められない。手指の機能
訓練として筋再教育訓練を行えば、手指の反復運動によって末梢血液循環は刺
激できる。ステージⅠから回復して自動運動が認められれば間欠的機械圧迫の
必要性はさらに低くなる。
4. 渦流浴は疼痛や浮腫の軽減に役立つ。この患者には現時点で渦流浴による処置
を必要とする所見はない。
5. パンケーキ型装具装着は全指を伸展位にする手関節固定装具の一つ。痙縮や拘
縮が生じていない現段階で用いる必要はない。
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身体障害領域:頭頸部、中枢神経系
123
(3)治療・支援
①急性期・ ベッドサイド
出題傾向
・ 良肢位保持
・ 急性期作業療法導入に対する意識障害、バイタルなどの知識
・ リハビリテーションの中止基準
作業療法の評価学と治療学 身体障害領域
サンプル
・ 全身状態が落ち着いていない時期の作業療法の初期評価と訓練
押さえておきたいポイント
・ 脳血管障害の患者に対する急性期作業療法の目的・方法を理解する。
・ 医学的管理(意識障害、血圧、脈拍、呼吸管理など)を把握する。
・ 作業療法の実施と中止の基準を理解する。
・ CT、MRI 等の脳機能画像の同定の基本を整理しておく。
急性期作業療法
内
容
・ リスク管理のもとに行うリハビリテーション。
急性期のリハビリテーション
・ 廃用症候群を予防。
・ 早期の日常生活活動(ADL)向上と社会復帰を図る。
・ 早期座位・立位訓練。
急性期リハビリテーション内容 ・ 装具を用いた早期歩行訓練。
・ 摂食・嚥下訓練、セルフケア訓練など。
急性期の OT
・ 早期座位・立位訓練。
・ セルフケア訓練。
留意点
モニタリングと医師連携
・ 意識レベル、血圧、脈拍、心電図、呼吸状態、神経症候増
悪の有無などをモニター。
・ 医師の監視下で慎重に行う。
注意すべき合併症
・ 高血糖、低栄養、痙攣発作、中枢性高体温、深部静脈閉塞症、
血圧の変動、不整脈、心不全、誤嚥、麻痺側の無菌性関節炎、
褥瘡、消化管出血、尿路感染症などの合併症に注意する。
全身状態が不良のとき
・ 全身状態不良で座位が開始できない患者は、関節可動域訓
練、良肢位保持、体位変換を行う。
良肢位を保つために
留意点
・ 発症初期の中枢性運動麻痺で筋緊張が低下していると
きは、関節内の運動範囲が過剰となり関節内の構成物
(弛緩性麻痺:Brunnstrom 法ステージⅠ)
を損傷する危険がある。
筋緊張が低下しているとき
筋緊張が亢進しているとき
(痙性麻痺)
自律神経障害、循環障害
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・ 筋緊張が亢進しているとき(痙性麻痺)は、関節可動
域の制限を増悪させる危険がある。
・ 自律神経の調節も障害され、末梢での循環障害が生じ、
浮腫や褥瘡を引き起こすことに気をつける。
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124 Ⅱ 作業療法の評価学と治療学
良肢位の取り方
関節の位置 ・筋緊張・重力の影響を考慮して関節の位置を正常位に保てるようにする。
接地面
浮腫対策
・ 接地面は、できる限り広くなるようにクッションやタオルを用いて補整する。
・褥瘡に注意。
・ 四肢の浮腫に対しては、心臓の高さまたは心臓より高い位置に手足を保持する。
サンプル
背臥位
・肩甲帯:重力方向に落ち込まないようにバスタオルで補高。
・上肢:下にクッションを置きできるだけ心臓より高い位置にする。
・手指:屈曲拘縮予防にロールしたタオルを握らせる or パンケーキ型スプリントを装着。
・大腿:外旋予防に外側に砂嚢やクッションを置く。
・足関節:尖足予防に足関節 0°位。
側臥位:麻痺側を上にする。
・肩甲帯:中間位からプロトラクション(前方突出)にする。
・上肢:下にクッションを置きできるだけ心臓より高い位置にする。
・手指:屈曲拘縮予防にロールしたタオルを握らせる or パンケーキ型スプリントを装着。
・大腿:大腿から膝の下にクッションを入れて接地面積を増やす。
・足関節:伸展 0°位以上。
複合性局所疼痛症候群( CRPS: Complex Regional Pain Syndrome)
Type
Type 1
Type 2
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症状
以前の名称
・明らかな神経損傷を伴わない。 反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)、
・疼痛と自律神経症状を呈する。 肩手症候群、Sudeck 骨萎縮。
・明らかな神経損傷を認める。
causalgia
・疼痛と自律神経症状を呈する。
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身体障害領域:頭頸部、中枢神経系
125
厚生労働省 CRPS 研究班によって提唱された 日本版 CRPS 判定指標
A
病気のいずれかの時期に、以下の自覚症状のうち 2 項目以上該当すること.
ただし、それぞれの項目内のいずれかの症状を満たせばよい.
1. 皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
2. 関節可動域制限
サンプル
4. 発汗の亢進ないしは低下
5. 浮腫
B
診察時において、以下の他覚所見の項目に 2 項目以上該当すること.
1. 皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
2. 関節可動域制限
3. アロディニア(触刺激ないしは熱刺激による)ないしは痛覚過敏(ピンプリック)
4. 発汗の亢進ないしは低下
5. 浮腫
(住谷昌彦・他:本邦における CRSP の判定指標.日臨麻会誌 , 30(3): 420-429, 2010)
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作業療法の評価学と治療学 身体障害領域
3. 持続性ないしは不釣合いな痛み、しびれたような針で刺すような痛み(患者が自
発的に述べる)、知覚過敏
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126 Ⅱ 作業療法の評価学と治療学
リハビリテーションの中止基準
リハビリテーションの中止基準
土肥−アンダーソンの基準
1. 積極的なリハを実施しない場合
I.運動療法を行わないほうがよい場合
[1] 安静時脈拍 40 /分以下または 120 /分以上
1) 安静時脈拍数 120 /分以上
[2] 安静時収縮期血圧 70 mmHg 以下または
200 mmHg 以上
3) 収縮期血圧 200 mmHg 以上
2) 拡張期血圧 120 mmHg 以上
サンプル
[3] 安静時拡張期血圧 120 mmHg 以上
[4] 労作性狭心症の方
[5] 心房細動のある方で著しい徐脈または頻脈があ
る場合
[6] 心筋梗塞発症直後で循環動態が不良な場合
[7] 著しい不整脈がある場合
[8] 安静時胸痛がある場合
[9] リハ実施前にすでに動悸・息切れ・胸痛のある
場合
4) 労作性狭心症を現在有するもの
5) 新鮮心筋梗塞 1 か月以内のもの
6) うっ血性心不全の所見の明らかなもの
7) 心房細動以外の著しい不整脈
8) 運動前すでに動悸、息切れがあるもの
II.途中で運動療法を中止する場合
1) 運動中、中等度の呼吸困難、めまい、嘔気、
狭心痛などが出現した場合
[10] 座位でめまい、冷や汗、嘔気などがある場合
2) 運動中、脈拍が 140 /分を超えた場合
[11] 安静時体温が 38 度以上
3) 運動中、1 分間 10 回以上の期外収縮が出
現するか、または頻脈性不整脈(心房細動、
上室性または心室性頻脈など)あるいは
徐脈が出現した場合
[12] 安静時酸素飽和度(SpO2)90%以下
2. 途中でリハを中止する場合
[1] 中等度以上の呼吸困難、めまい、嘔気、狭心痛、
頭痛、強い疲労感などが出現した場合
[2] 脈拍が 140 /分を超えた場合
[3] 運動時収縮期血圧が 40 mmHg 以上、または拡
張期血圧が 20 mmHg 以上上昇した場合
[4] 頻呼吸(30 /分以上)、息切れが出現した場合
[5] 運動により不整脈が増加した場合
[6] 徐脈が出現した場合
[7] 意識状態の悪化
3. いったんリハを中止し、回復を待って再開
[1] 脈拍数が運動前の 30%を超えた場合。ただし、
2 分間の安静で 10%以下に戻らないときは以後
のリハを中止するか、または極めて軽労作のも
のに切り替える
4) 運動中、収縮期血圧 40 mmHg 以上または
拡張期血圧 20 mmHg 以上上昇した場合
III.次の場合は運動を一時中止し、回復を待っ
て再開する
1) 脈拍数が運動前の 30%を超えた場合、た
だし 2 分間の安静で 10%以下にもどらぬ
場合は、以後の運動は中止するかまたは
極めて軽労作のものにきりかえる
2) 脈拍数が 120 /分を超えた場合
3) 1 分間 10 回以下の期外収縮が出現した場合
4) 軽い動悸、息切れを訴えた場合
[2] 脈拍が 120 /分を越えた場合
[3] 1 分間 10 回以上の期外収縮が出現した場合
[4] 軽い動悸、息切れが出現した場合
4. その他の注意が必要な場合
[1] 血尿の出現
[2] 喀痰量が増加している場合
[3] 体重増加している場合
[4] 倦怠感がある場合
[5] 食欲不振時・空腹時
[6] 下肢の浮腫が増加している場合
リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン.医歯薬出版 , 2006
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身体障害領域:頭頸部、中枢神経系
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最新の代表的問題と解説
第 46 回午前
問題 10
62 歳の女性。脳梗塞発症後 3 日目。早期の離床と ADL 獲得を目標に作業療法
が開始された。初回の訪室時、目を閉じていたが呼びかけると開眼した。発語は
聞き取れるが内容に一貫性がみられない。運動の指示に応じた動きは見られず、
四肢は屈曲する傾向がある。
バ イ タ ル サ イ ン は、 体 温 37.1 ℃、 脈 拍 は 98/ 分、 不 整 脈 は 認 め ず、 血 圧
140/98 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)は 98%であった。問いかけ
への返答があいまいで自覚症状を十分に聴取できなかったため、主治医に確認
した上で、リハビリテーションの中止基準(日本リハビリテーション医学会に
よる)を遵守することを前提に離床させることとなった。
作業療法開始後、中止する必要があるのはどれか。2 つ選べ。
作業療法の評価学と治療学 身体障害領域
サンプル
1. 脈拍が 140/ 分を超えたとき
2. 不整脈が出現したとき
3. 拡張期血圧が 110 mmHg となったとき
4. 収縮期血圧が 170 mmHg となったとき
5. SpO2 が 95%になったとき
正解:1 と 2
正解の導き方:
「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン」の(1)積
極的なリハビリテーションを実施しない場合、(2)途中でリハビリテーションを中止
する場合、(3)いったんリハビリテーションを中止し、回復を待って再開、(4)その
他の注意が必要な場合を確認しよう。
この問題は、作業療法を開始後の変化によって中止するかの判断であって、作業療法
を開始の成否判断でないことに注意しよう。
「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン」途中でリハ
ビリテーションを中止する場合、以下に該当するかを判断。
・ 中等度以上の呼吸困難、めまい、嘔気、狭心痛、頭痛、強い疲労感等が出現した場合
・ 脈拍が 140/ 分を超えた場合
・ 運動時収縮期血圧が 40 mmHg 以上、または拡張期血圧が 20 mmHg 以上上昇した場合
・ 頻呼吸(30 回 / 分以上)、息切れが出現した場合
・ 運動により不整脈が増加した場合
解説:
1. 脈拍が 140/ 分を超えた場合は途中でリハビリを中止する場合に当てはまる。
2. 運動により不整脈が増加した場合は途中でリハビリを中止する場合に当てはまる。
3. 運動時の血圧上昇によるリハビリ中止基準は、拡張期血圧が 20 mmHg 以上上昇
した場合であり基準には該当しない。
4. 運動時の血圧上昇によるリハビリ中止基準は、収縮期血圧が 40 mmHg 以上上昇
した場合であるため基準には該当しない。
5. ガイドラインでは、安静時の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)90%以下では積極
的なリハビリを実施しない。作業療法開始後の中止基準において SpO2 の基準値は
定められていない。SpO2 が 90%以上あるため中止する必要はない。
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128 Ⅱ 作業療法の評価学と治療学
第 51 回午後
問題 6
65 歳の男性。脳梗塞で左片麻痺となり 1 か月が経過した。Brunnstrom 法ステー
ジで上肢Ⅳ、手指Ⅳ、下肢Ⅳ。認知機能と感覚とに障害はない。非麻痺側上肢
に機能的な問題はない。短下肢装具を用いて屋内歩行が可能。
作業療法で適切でないのはどれか。
サンプル
1. 両手で用いたループ付きタオルによる洗体
2. 立位で左手を用いたズボンの引き上げ
3. 両手で頭上の高さの棚に衣類を収納
4. 左手を用いたテーブルの雑巾がけ
5. 両手を用いたタオルたたみ
正解:3
解説:
この患者は回復期にある軽度の左片麻痺である。非麻痺側に障害はないことから、
ADL で左手の積極的な使用を促して機能回復をはかる必要がある。
1. ループ付きタオルを両手で把持して洗体すると左手が右手に連動できる。手指
ステージⅣではタオル把持力が弱くなっているので、ループ付きタオルを用い
ると洗体の失敗が少なくなる。
2. この患者は左脚に短下肢装具を用いて歩行可能。立位でも左手を積極的に使う
練習としてズボンを引き上げる動作は機能回復に役立つ。
3. 両手で頭上の高さの棚に衣類を収納するのは上肢Ⅴ以上の機能が必要。この患
者への練習としては難易度が高い。
4. 左手でテーブルの雑巾がけをすると上肢の分離運動と手指の伸展運動を促すこ
とができる。
5. 手指ステージⅣではつまみ動作が限定的にできるため、両手でタオルたたみは
可能。この練習は左手を日常的によく使う練習として適している。
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身体障害領域:頭頸部、中枢神経系
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②回復期
機能障害の改善(ステップ 1)
中枢性の麻痺の回復段階に合わせた神経生理学的アプローチ、生体力学的アプローチを行う。
そのため、患者の運動機能を適切に評価し、次段階の回復段階を目標とした運動学習理論を基
に正しい運動(筋活動・協調性・姿勢)を再学習させる。
サンプル
次のステージⅣの運動範囲内(①上肢を腰の後ろへ動かせる、②肘伸展位で上肢前方挙上 90°、
③肘関節 90°屈曲位での前腕回内外)が自動運動設定となるプログラム内容を設定する。
<注意事項>機能回復訓練を実施する時、運動範囲が次段階の運動範囲を超えないように設定
されているかを確認する。
機能訓練の代表的な目的および具体的なプログラム例
Brunnstrom
ステージ
Ⅰ
目的
プログラム
上肢
手指
連合反応や体性刺激による ・ クッションやタオルを使用 ・ タオルや補装具を用いての機
麻痺側への刺激
した良肢位保持
能的肢位、良肢位保持
作業療法の評価学と治療学 身体障害領域
治療例:上肢 Brunnstrom ステージⅢの時
・ アームスリングによる肩関
節保護
持続的伸張による痙性筋の ・ 肘関節伸展位での麻痺側上 ・コックアップスプリント、パ
抑制
肢への荷重
ンケーキ型スプリントによる
良肢位保持
・ 支持機能の獲得:麻痺側上
Ⅱ
肢荷重姿勢での非麻痺側上
肢活動(座面に麻痺手付き
荷重しながらのリーチ動作
など)
・ 共同運動パターンから脱 ・ 徒手による運動療法(主動 ・ 随意手指伸展の促進(伸展パ
した運動の促進
作筋へのタッピングなど)
ターンを応用した姿勢:肩関
節伸展位)
・ 最小重力方向で運動学習 ・ 手組による布巾がけ
Ⅲ
(両手動作:手組での布 ・ 押さえるなどの作業活動へ ・ 積み木・お手玉の握り−離し
巾がけ)
の利用(籐細工での籐を押 (母指の対立を意識せず)
・ 筋 緊 張 が 亢 進 し な い 環 さえる)
境・姿勢で動作学習
・ 共同運動パターンから脱 ・ 徒手による運動療法(主動 ・ 随意手指伸展の促進(伸展パ
した運動の促進
作筋へのタッピングなど)
ターンを応用した姿勢:肩関
節伸展位)
・ 最小重力方向で運動学習 ・ 手組による布巾がけ
Ⅳ
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(両手動作:手組での布 ・ 押さえるなどの作業活動へ ・ 積み木・お手玉の握り−離し
巾がけ)
の利用(籐細工での籐を押 (母指の対立を意識せず)
・ 筋 緊 張 が 亢 進 し な い 環 さえる)
境・姿勢で動作学習
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130 Ⅱ 作業療法の評価学と治療学
Ⅴ
筋緊張が亢進しない環境・ ・ 日常生活での使用・多関節 ・ 巧緻動作(細いペグ、ひも結
姿勢下での生活関連動作・
を複合的に行う応用動作(お
び、ボルトナット操作など)
社会参加方法の獲得
手玉投げ、輪投げ、ボール ・ 書字(柄の太い筆記用具で単
投げなど)
純な図形、マス目ぬりなど)
・ 作業姿勢を考慮した作業活
動
Ⅵ
より円滑な運動機能の獲得 ・スピード、筋力、持久力の ・ ピンチ力の向上
向上
・ 社会参加に向けた能力の獲得
上肢機能回復
サンプル
実施するときは、患者の現在の運動機能(現在のステージ)を評価して、次段階の運動機能(次
のステージで可能となる運動)を促通できる方法を選ぶ。
現在のステージ
目標のステージ
ステージⅠ
ステージⅡ
回復訓練での運動・治療方法の例
連合反応による麻痺側への刺激。
アームスリングによる関節保護。
コックアップスプリントによる良肢位保持。
ステージⅡ
ステージⅢ
共同運動レベル。痙縮の抑制。連合反応の抑制。
ステージⅢ
ステージⅣ
痙縮が減少しはじめ分離した運動。
①上肢を腰の後ろへ動かす。
②上肢肩関節屈曲 90°まで。
③肘関節 90°屈曲位での前腕の回内外。
ステージⅣ
ステージⅤ
分離運動の促通。
①肘伸展位で肩関節側方挙上。
②肘伸展位で手を頭上へ挙上。
③肩関節 90°屈曲位、肘関節伸展位で前腕の回内外。
ステージⅤ
ステージⅥ
①麻痺側上肢集中訓練(CI 療法)。
②治療的電気刺激。
③ミラートレーニング。
ADL 動作の指導
次のいずれかで動作獲得を目指す。また、福祉用具は使用方法によって必要となる用具が異
なるので注意。
・非麻痺側手のみで可能な方法。
・現在の Stage で可能となる動作でできる方法。
日常生活活動(ADL)、生活関連活動(APDL・IADL)能力の獲得(ステップ 2)
患者自身または作業療法士が共同運動パターン等を抑制できる運動療法、両手動作での日常生
活動作を利用した運動を設定する。
例:両手動作での活動(机上での布巾がけ、両手でホースを持つ掃除機がけなど)など。
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身体障害領域:頭頸部、中枢神経系
131
運動学習の方法
1.課題提示方法
① 言語的説明
筋収縮や体性感覚による身体の動きを言語化すること
によって身体運動そのものに注意をむけさせる方法
外的焦点方法
目的動作や姿勢などの身体動作の環境への影響に注意
をむけさせる方法
サンプル
② モデル提示
モデルを提示して運動イメージ学習(Mental practice)
③ 徒手的誘導
行うべき運動を徒手にて誘導して運動を提示する方法
2.フィードバック
① 内在的フィードバック 運動の状況を自分の視覚や体性感覚の情報を使用して修正する方法
② 外在的フィードバック 運動練習の状況を他者からの情報をもとに修正する方法
3.練習方法
① 分散練習と集中練習
② 部分練習と全体練習
③恒常練習と多様練習
分散練習
運動課題の練習に休憩時間を組み込んで実施する方法
集中練習
運動課題の練習に連続して実施する方法
部分練習
運動課題をいくつかの部分に分けて段階的に練習を進
めていく方法
全体練習
運動課題を最初から最後まで通して反復練習する方法
恒常練習
運動課題や動作時の使用筋の収縮力・タイミング、使
用道具の両者とも同一なものを反復練習する方法
多様練習
同一の運動課題に対して動作時の使用筋の収縮力・タ
イミング、使用道具をランダムに変えて練習する方法
作業療法の評価学と治療学 身体障害領域
内的焦点方法
ボツリヌス治療
A 型ボツリヌス毒素( BoNT-A )の薬効により痙縮筋の緊張を緩和する「ボツリヌス治療」は
「脳卒中治療ガイドライン 2015 」でグレード A にランクされている治療法。 ボツリヌス毒素は、
グラム陽性偏性嫌気性桿菌であるボツリヌス菌によって産生される毒素。毒素が神経終末でア
セチルコリンの放出を阻害して痙縮を抑制する。
1.痙縮に対する A 型ボツリヌス毒素の作用機序
① 筋肉や皮内に注射された A 型ボツリヌス毒素がコリン作動性神経終末のレセプターに結合。
② エンドサイトーシスによって神経細胞内に A 型ボツリヌス毒素が神経細胞内に取り込まれ、エンド
ソームが形成される。
③ エンドソームから A 型ボツリヌス毒素の軽鎖が細胞質に放出される。
アセチルコリンのエキソサイトーシスに関与する SNAP-25 を軽鎖が切断し、アセチルコリンの放出
を阻害する(神経毒作用)。
2.作用の発現と持続期間
① 毒素の薬理作用は、注射後 24 時間以内に発現し、臨床効果が確認されるのは 2 〜 3 日後。
② 臨床的には、投与後およそ 1 〜 2 週間以内に効果が安定し、数か月間持続する。
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132 Ⅱ 作業療法の評価学と治療学
最新の代表的問題と解説
第 51 回午後
問題 2
82 歳の女性。右利き。脳梗塞を発症して 1 か月が経過した。頭部 CT を示す。
この患者にみられる症状で正しいのはどれか。
サンプル
1. Broca 失語
2. 他人の手徴候
3. 半側空間無視
4. Gerstmann 症候群
5. 超皮質性感覚性失語
正解:3
解説:
CT には右後頭頭頂葉に陰影があり、この部分が梗塞巣で責任病巣であると考えら
れる。右中心溝の後方には一次体性感覚野があり、その後方頭頂部には空間認識
に関与する領域がある。
1. Broca 失語は優位半球(主に左)の前頭葉、
補足運動野が責任病巣とされている。
2. 他人の手徴候は「背中に手を回し、左手を右手でつかんだ時に左手が自分のも
のでは無いと感ずる現象」「一方の手が自分の意思とは無関係に、あたかも他
人のように、あるまとまった運動をおこす現象」である。責任病巣は前頭型と
して、前頭葉内側面・脳梁・補足運動野・視床後外側腹側核・頭頂葉などが推
定されている。後方型は、大脳後方部皮質の血管障害や変性性疾患(皮質基底
核変性症)・Alzheimer 病でみられる。
3. 半側空間無視は劣位半球(主に右)の後頭
頭頂葉に機能領域がある。
4. Gerstmann 症候群では失算・失書・手指失
認・左右失認がみられる。優位半球(主に
左)頭頂葉の側頭葉境界に近い角回および
縁上回の病変にみられやすい。
5. 超皮質性感覚性失語は、音声の認識、復唱
はできるが、言葉の意味が理解できない。
責任病巣は側頭 - 後頭葉移行部、側頭葉、
前頭葉が報告されている。
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