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北 陸の
視 座
vol.1
特 集
次代への投資
特 集
国境なき時代の戦略
特集
次代への投資
視 座
1
内国債は次代への負債ではない。
タイムリミットが近づきつつある今こそ社会資
本の整備で次代への責任を果たすべきだ。
日本地図を逆さにすると新しい北陸が見えてくる
日本列島を含む地図は、普通は北が上なので、日本海側が上で太平洋側は下
に書いてある。われわれはいつもそういう地図を見ているわけだが、一度その
地図を逆に見てみるとよい。そうすると、新しいものが、特に、北陸地方とい
うことに対する考え方に大変大きな影響を与えるものが見えてくる。
人間というのは重力のある世界に住んでいるから、どうしても、ものごとは
下に引っ張られるという感覚がある。だから、太平洋側が下にある地図を見て
いると、日本は太平洋の方に広がっていくという考えを、どうしても持ってし
野口悠紀雄
(東京大学教授)
東京大学工学部を卒業後、大蔵省に入省。そ
の後、埼玉大学助教授、一橋大学教授を経て
1996年より現職。財政から土地問題をはじめ
まう。あまり良い表現ではないが、かつての表日本とか裏日本とかいう言葉は、
そういう発想の影響を受けている。日本というのは太平洋に向かって膨張して
いく国であるということだ。
ところが、北を下にして見ると、日本というのは実はアジア大陸に引っ張ら
日本経済のマクロおよびミクロの問題につい
れているということが分かる。下側にアジア大陸があって、朝鮮半島がそれを
ての研究・評論、また情報社会、情報システ
日本につなげている。そして、日本海というのは実は内海であると。そして、
ム分野の研究・分析等、幅広い分野で活躍中。
アジア大陸に引かれている1番前面にあるのは北陸であることが非常にはっき
りと、しかも実感をもって分かってくる。
これまで、特に戦後日本は太平洋側から外に向かった地域、アメリカも太平
洋側から行くわけだし、ほかのオーストラリアなどもそうだが、そういうとこ
*1 北陸地域の国際的位置
東京
日 本
北陸地域
富山
新潟
金沢
福井
札幌
福岡
日 本 海
釜山
韓 国
ソウル
ロシア
ウラジオストク
北朝鮮
ハバロフスク
ピョンヤン
中 国
イルクーツク
0
400
800
km
1
ろが表玄関だという観念があった。アジア大陸というのは、どちらかというと
あまり意識の中になかった。これは単に地図の話だけではなくて、もちろん政
治的な条件が関係していることは言うまでもない。大陸中国、ソ連、などの国
々と日本との間の国交、あるいは経済的な関係というのが、戦後のある期間ほ
とんどなかった時代が続いたために、われわれの意識の中からそういう地域が
消えてしまった。ところが、最近10年くらい、特に90年代になってから非常に
大きく変わっている。中でも、中国の存在というのはそれ自体が大きな変化要
因であり、21世紀に向けて、世界の変化の中心となるような動きが中国大陸で
*1
起こるとされている。
日本と中国の経済的な関係というのは従来とは質・量ともに非常に違うもの
になっていくわけで、当然北陸地方の役割というものは従来とは大きく変わっ
ていくことになる。それをにらんだ発想の転換が必要な時期を迎えている。
日本社会の新たな条件変化…高齢化の進行に伴う貯蓄率の低下
日本の社会は今急速に高齢化が進行している。1960年頃には65歳以上の人口
比率は5%程度だったのが、現在では15%、2025年頃には25∼30%になると予
測されている。この時点において日本は世界で最も高齢化が進んだ国になる。
人口の高齢化は、様々な面で日本の社会や経済活動に影響を与える。よく議
論されているのは年金や医療費等の社会保障の問題。また、労働力不足の問題
も危機感をもって議論されている。もう1つ、通常あまり議論されることはな
*2
いが、大変重要な変化がある。それは貯蓄率が下がるということだ。
*2 超高齢社会ニッポンの将来
%
70
万人
13000
12000
60
11000
10000
15∼64歳人口比率
総人口数(左目盛)
9000
50
8000
40
7000
65歳以上人口比率
6000
30
5000
4000
20
0∼14歳人口比率
3000
2000
10
1000
0
0
1995
年
2000
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
<高齢者(65歳以上)人口比率の推移予測>
2045
2050
(%)
年
1995
2000
2005
2010
2015
2020
2030
2040
2050
比率
14.6
17.2
19.6
22.0
25.2
26.9
28.0
31.0
32.3
出典:「日本の将来推計人口」(97年1月)、国立社会保障・人口問題研究所
2
個人の場合には、若い時に収入の一部を使って残りを貯蓄する。この貯蓄を
蓄積して資産を形成し、退職して収入がなくなった後は、この貯蓄資産によっ
て生活する。これは経済学でライフサイクルモデルとして知られていることだ。
では、社会全体の貯蓄がどうなるかというと、人口の高齢化が進むということ
は、貯蓄を取り崩している人が多くなるということであり、逆に貯蓄をする人
たち、つまり若い人の数が少なくなるということだ。従って、1人1人の貯蓄
行動が変わらないとしても、人口構造が変化すると社会全体の貯蓄率は低下す
ることになる。
*3 貯蓄率の推移
%
0.35
32.4
32.6
32.5
32.1
33.1
33.5
30.7
33.6
34.2
33.6
0.30
27.9
28.1
31.1
30.8
28.1
総貯蓄率
家計貯蓄率
27.6
0.25
0.20
32.3
29.5
19.6
17.4
17.9
17.9
16.1
15.8
15.8
15.8
15.0
13.8
0.15
12.8
12.1
13.0
13.0
13.0
13.9
11.6
12.7
0.10
0.05
0.00
1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995
年度
出典:経済企画庁経済研究所「国民経済計算年報」、「国民経済計算」
(1995)
(注)総貯蓄率=総貯蓄(貯蓄+固定資本減耗)/国内総生産 家計貯蓄率=家計貯蓄/家計可処分所得
貯蓄率が社会資本への投資を左右する
さて、貯蓄率が変化することの意味は投資とかかわってくる。投資というの
は、大きく分けて公共投資と設備投資と住宅投資の3つになるが、投資が国全
体としてどれだけできるかというのは、その国の貯蓄に関連している。
もし、ある国が国際的な取引のない孤立した国であれば、国全体として貯蓄
した量だけ投資ができるということになる。従って、若い国であって貯蓄が多
ければ、それだけ投資がたくさんできる。逆に社会全体の貯蓄が減ってくると、
投資に充てられる資源が減るから、全体として投資に回すことができる資源は
減っていくということになる。つまり、貯蓄=投資という関係が成り立ち、国
全体として投資できる総額は、貯蓄によって規定されるということだ。
ただし、このことが成立するのは、ほかの国との取引がない経済、いわば孤
立した経済であり、実際にはほかの国との経済的な取引がある。従って、現実
には、貯蓄と投資は必ずしも一致しない。外国から借入をすれば投資を上回る
貯蓄をすることも可能になる。あるいは、国内で投資している額が貯蓄より少
なく、その余分な分は外国に対して投資するということもある。
貯蓄と投資の関係からみた成長のパターン
貯蓄と投資の関係については、1国の成長に伴ってある種の歴史的な変化パ
ターンがある。まずある国が工業化を始めた段階では、国内の投資が必要とな
3
*4 貯蓄と投資の関係図
第1段階(成長段階)
・国内での投資活動が活発で
貯蓄額を上回る
▲
貯蓄<投資
・海外からの借入や投資に頼る
→現在の中国やアジア ▲
第2段階(拡大段階)
活発化
・成長に伴い国内の貯蓄が拡大し、国内での投資を上回る ▲
・海外に向けての投資が
▲
貯蓄>投資
・高齢化等に伴い国内の貯蓄が減少し、国内の投資をまか
→現在の日本、19世紀のイギリス
▲
第3段階(成熟段階)
貯蓄<投資
・海外に投資した資産を引
き上げて国内の投資をま
ないきれなくなる
→将来予測される日本
かなう
るが国内の貯蓄はまだ十分ではない。従って、投資が貯蓄を上回ることから、
その分を海外からの借入、つまり外国からの直接投資に頼ることになる。これ
が発展の初期の段階で、現在の中国や東南アジアの国々がこれにあたる。次に
ある国が成長を始めると、貯蓄が増えてきて国内での投資を上回るようになり、
海外に向かって投資をするようになる。植民地への活発な投資を行った19世紀
のイギリスや現在の日本がこれにあたるわけである。
そして、次の段階として、高齢化等によって国内の貯蓄が減り始め投資がで
きなくなり、最終的には海外の投資を食いつぶしていくことになる。
現在の日本は貯蓄が非常に多いために、国内での投資に加えて外国にも投資
している。先に述べた2番めの段階にある。今、日本は海外に向かって、資産
を貯蓄しているわけで、現在、日本は海外に対する純資産、資産から借入を引
いたネットの資産で世界で最大の国になっている。ところが、これから人口の
高齢化が進むにつれて、貯蓄率が下がっていく。ある予測では貯蓄率はゼロに
なるとか、あるいはマイナスになるという予測もある。従って、21世紀におい
ては第3段階に移行し、日本は、今貯蓄している海外資産を食いつぶしていく
ことによって、必要な投資をまかなっていくであろうと考えられる。
ただし、食いつぶしていくスピードには限度があり、国内で可能な投資に対
してさらに制約が加わり、これまでのようなスピードで投資を行っていくこと
ができなくなる。貯蓄が低下したために、国内での投資余力がなくなるという
ことになる。
貯蓄率の低下で公共投資がマイナスになる可能性も
公共投資についても、全体としての貯蓄が減ることによって、全体としての
4
公共投資を圧縮していかなければならなくなる。場合によっては全体としての
公共投資がゼロ、あるいはマイナスになることも予想される。
マイナスになるというのは減価償却、資本減耗の方が新しい投資よりも多く
なるということで、 維持 ・ 補修に要する仕事がほとんどであって、 新しいも
のの建設は行えなくなる。従って、資本ストックも減少していくということに
なる。
欧米諸国はフローの面では日本よりはるかに下にある。1人当りGNPとい
*5 フロー
一定期間に経済主体の間を流れる財貨および
うような指標で見る限り、アジアの方がイギリスよりも豊かになっている。し
サービスの量。流量。
かし、これは毎年生産するもののことで、ストックとは別だ。ストックという
面で言えば、ヨーロッパは社会資本が非常によく整備されている。道路1つと
ってみても明らかだが、ヨーロッパ大陸、特にドイツの高速道路や一般道路の
整備状況、地方の非常に田舎に行っても道路が非常によく整備されている。
そういう状況と比べてみて、日本の社会資本がその水準に達しているかとい
うと、これははなはだ疑問であると言わざるを得ない。特に問題だと思うのは、
大都市における生活基盤関連の社会資本が非常に貧弱な状況にある。例えば、
公園とか下水道とか街路などを見た場合、非常に貧弱である。
社会資本の整備にはタイムリミットがある
日本における社会資本の整備の水準、ストックの水準は、ヨーロッパ諸国に
比べてはるかに劣悪な状況にもかかわらず、もう投資ができないような状況に
なりつつある。
社会資本の整備というのは、いつまでもできるような気がするが、実は非常
に厳しいタイムリミットがあ
るのだ。社会資本の整備をす
るとすれば、多分今世紀中だ
ということを、私は十数年前
*6 国債新規発行額の推移
国債依存度
(%)
新規発行額
(兆円)
35.0
32.6
から盛んにいろいろな所で言っ
ていたつもりだが、あまりその
35
34.7
30.0
29.7
28.8
ことが実際の政策には反映さ
28.0
26.6
27.5
れなかった。それは、大蔵省
が財政の均衡ということだけ
25.0
国債依存度
(歳入に占める比率)
25
24.8
22.8
23.2
に気をとられて、社会全体の
資本の整備ということを怠っ
30
22.4
21.4
21.5
21.0
20.0
20
たことが大きい。
16.7 16.7
これまでの日本の状況は、
貯蓄が非常に多くても、様々
15.0
14.9
14.9
13.9
16.3
14.6
15
13.4 13.3
13.1
12.0
な制約等から国内への投資が
できにくいためにその分を外
13.5
11.6
10.6
10.4
10.0
10.0
10.1
国に投資していた。もし、社
7.8
6.9
10
9.5
7.6
7.5
会資本の劣悪な状況を改善す
るために、公共投資を増やし
5.0
5
たとすれば、海外への投資は
減り、経常収支の黒字は減っ
たはずである。
0.0
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
0
96(年)
出典:「国債統計年報」大蔵省
5
つまり、日本がこれまで経常収支の黒字が大きいと、外国から批判されてき
たが、その理由の1つは、公共投資を圧縮したことにあるわけだ。公共投資を
抑制したことによって、国内での投資の総額が少なくなっていた。従って、そ
れが外国に溢れ出していたということだ。もし、国内での社会資本投資を増や
したとしたら、外国への投資は減ったかもしれない。しかし、外国への投資を
圧縮することによって国内での社会資本整備は進められたはずである。
これは、これまでも経済学者、あるいはアメリカが日米経済摩擦を通じて何
度も指摘されていたことなのだ。公共投資を増やす手段というのは、基本的に
*6
は国債の発行を増やして、公共投資に充てることになる。国債は貯蓄によって
吸収されるから、これまでの日本の経済では、国債を増発して、それで社会資
本の投資を行うというのが、正しいマクロ的なバランスを形成していた。しか
し、これに対して大蔵省は、国債というのは次世代に対する負債であるから、
それを増やすのは良くないと言い続けた。
国債に関する大蔵省の間違い
大蔵省が国債は次世代に対する負債であるということを言った、それは普通
の人の日常的な常識に訴えたわけである。その常識というのはつまり借金のこ
とだ。ある家計が収入以上に何か買いたいものがある場合には借金をすること
になる。その借金は後に残る。子どもの世代は親が残した借金を払うために、
生活を切り詰めなければいけない。つまり家計が行う借金というのは、次世代
に対する負債になる。大蔵省はそれが国の場合にも同じになると、つまり、国
債というのは将来の世代に対して負債を残すことである、のように説明してい
る。しかし、これは明らかに間違いである。
*7
国債というのは国の中での国債、内国債であり、国の中で吸収されるもので
ある。将来時点において、国債を償還する時に、確かに増税が必要になる。し
*7 内国債と外国債
かし、ここで重要な点は、国債の償還を受けた人はその分だけ資源が増えてい
日本国内の金融市場で発行し、資金を調達す
ることにある。国債の償還に充てられた資源は、国の中に環流しているわけで
る国債が内国債、海外市場で資金を調達する
国債が外国債。日本は1989(平成元)年度以
ある。増税によって確かに資源は民間から国に吸い上げられるが、一方国債の
降、外国債の新規発行は行っていない。
償還によって、それらは国から民間に還元される。従って国全体としては何も
変わらない。
これは内国債だからそうなるのであって、外国債だったらこうはいかない。
外国から借金をしている場合には、先ほどの家計の借金と同じように、将来時
点において借金をする場合には、それは将来世代の負担になる。外国債ならば、
将来世代は少々切り詰めなければならないが、内国債である限り、自分自身に
対する借入となる。ここが大きく異なっている。
つまり、大蔵省は、国債を1つの家計が行う借金だと例えたが、この例えは
間違いであり、もし、内国債を家計の借金に例えるとしたら、それは家計の中、
家族間での借金に例えなければいけないのだ。
内国債というのは、国が国債を発行して、民間が使うべきだったのを国が使
うことであり、国債を発行したことによって国全体として使うことができる資
源の量は何も変わらない。そして、今度は借金を返す時には、それを調達する
ために国は増税をするが、国債の償還という形でその資源は民間に戻ることに
なる。結局グルッと回ってしまって、国全体としては何も変わらない。つまり、
国全体として内国債の発行は、将来に対して負債を残すことにはなってい
6
ないということになる。つまり、内国債の発行が将来の世代に負債を残すとい
う考え方は間違いだということだ。
大蔵省はこの間違った論理に基づいて、70年代、80年代を通じて国債の発行
を非常に制約的に考えてきた。それによって公共投資の総事業量を圧縮してき
た。その結果何が起こったかと言えば、日本の経常収支の黒字が膨張し、それ
が国際摩擦を引き起こした。明らかに70年代、80年代の経済政策は、マクロ的
な観点から言えば間違っていたわけである。
社会資本整備のタイムリミットが近づいている
私が非常に残念に思うのは、社会資本を整備する責任がある官庁である建設
省がこの論理に反対しなかったということである。建設省は80年代においては、
内国債の発行は、国全体として負債を将来残すことにはならないということを、
堂々と主張すべきだった。現在の社会資本の整備水準が非常に低いということ
を考えれば、そして、人口の高齢化によってそのことを行うタイムリミットは
非常に限定されているということを考えれば、今こそ国債を発行して社会資本
を整備しなければいけないということを言うべきだった。
80年代において、社会資本を整備しなかったという意味において、我々は将
来の世代にむしろ負担を残している。社会資本というのは次世代が使うものだ
から、次世代が使うべき質の高い資産を、将来に向かって残さなかったという
点で、我々の世代は、明らかに次世代に対する責任をまっとうしなかったこと
になる。
今からでも修正は可能だが、しかし、タイムリミットがある。時間は限られ
ている。貯蓄率は今どんどん低下しており、それがゼロになるのかマイナスに
なるのか分からないが、21世紀のかなり早い時点でそうなってしまう。タイム
リミットは、どんどん厳しくなっている。
ヨーロッパ諸国と比べて、社会資本の整備が非常に貧弱である日本、その状
況を考えると、われわれの世代が次世代に向かってなすべきだったことは、質
の高い社会資本を残す、これが大変重要な責務だった。しかし、われわれはそ
の責務を果たしたかというと、これは大変疑問がある。国債の発行が、将来に
対する負債であるという間違った論理に支配されて、われわれの世代としての
責務を果たさなかった危険がある。これが私の結論だ。
これからの社会資本整備のあり方
今後どのような社会資本の整備を行うかということに関しては、技術の進歩、
あるいは経済構造の変化ということを十分に考慮に入れる必要がある。
一般的に言うと、将来に向かって重要なのは、1つは通信インフラであろう。
実は、通信網は日本よりアジア諸国の方が積極的であり、この面で日本が立ち
遅れる危険性を、私は非常に強く感じている。
特にこれは、地方都市にとっては大変重要な課題であり、通信網が発展し、
電子メールやインターネットなどが使えるようになると、地域的な差はほとん
どなくなってしまう。例えば、私が原稿を書いて新聞社に送る。その場合に、
書いたものを電子メールで送れば、私がどこに住んでいようが全く関係ない。
こういう状況は、インターネットの発展によってますます加速される。情報を
得ることも、こちらから送るということもそうだ。
7
あるいは最近よくバーチャルカンパニーという言葉を耳にする。バーチャル
カンパニーというのは、通信回線で結ばれた会社のことで、具体的なある場所
に会社があるのではなくて、1人1人はいろいろバラバラな所に住んでいるけ
れど、通信回線を介してあたかも1つの会社のように機能する、そういったも
のだ。従って、それは大都市、あるいは東京の優位性を原理的には明らかに崩
すものになる。残念ながら日本の地方都市では、今のところそういうことに対
する取組みが十分でないように思われる。
社会資本というと、どうしてもハードに注意が向きがちだが、道路というこ
と1つをとっても、ソフトウェアというのが大変重要だ。私はドイツの道路標
識は世界で最も優れていると思っている。それは標識をたどれば、行きたい所
に必ず到着できるからだ。これはソフトウェアということの1つの例で、ソフ
トウェアが完備していれば、それによってハードウェアを補うことができる。
このことは、いろいろな面について言えることで、例えば、河川の管理とかそ
ういったことにおいて、ソフトウェアということの重要性をぜひ認識すべきだ
と思う。
*8 インターネット接続ホストコンピュータ数と成長率(1997年1月現在)
(台)
4.0
インド(3,138)
22.7
2.3
タイ(9,245)
33.5
4.1
インドネシア(9,591)
9.2
中国(19,739)
シンガポール(28,892)
1.3
10.4
2.8
香港(49,162)
2.3
韓国(66,262)
イタリア(149,595)
フランス(245,501)
英国(591,663)
ドイツ(721,847)
0
7.4
2.0
8.8
1.8
1997年1月までの1年間の成長率
1997年1月までの3年間の成長率
7.4
1.3
5.2
1.6
7.3
2.7
日本(734,406)
米国(10,112,888)
8.6
17.2
1.7
6.9
5
10
15
20
25
30
35
(倍)
出典:「通信白書」郵政省
北陸からアジア大陸に橋を架ける
一番最初に地図を逆さまにしろということを述べたが、私は子どもの頃から、
アジア大陸に橋が架けられないかということをよく思っていた。私の見るとこ
ろ、新潟から中国まで、あるいはロシアまで橋を架けるのは大変かも知れない
が、もう少し北の方に行けば海峡がもっと短い所もある。もし、新潟から車を
運転してロシアあるいは中国まで行けるようになったら、何と素晴らしいこと
であろう。日本から橋を渡ってアジア大陸に行けるということはあまり考えて
いる人はいない。技術的にはいろいろ問題があるだろうが、これは将来に向か
っての1つの夢ではないかと思う。
北陸地方から橋を渡ってアジア大陸に行ける、そういう夢を21世紀に向か
って描くことができたら、大変面白いのではないかと思う。私の子どもの頃か
らの素人考えで、専門的にはいろいろ問題があるかも知れない。しかし1つの
夢ではあるが、このように従来の固定的な観念に捕らわれない自由な発想をし
ていただけないか、これが私の皆さんに対するメッセージである。
8
次代への投資
特集
新たな時代をにらんだ北陸の社会資本整備を考える
世紀の世界経済を、生産・消費の両
アからはヨーロッパへ、またシベリ
北陸地域から最も近い海外とは、
面でリードするエリアとして、世界
アからは北米(カナダ・アメリカ)
韓国、北朝鮮、中国、ロシアといっ
中の国々の注目と期待を集めている
へとつながるルートも期待できる。
た国々である。
地域である。
逆に言えば、北陸地域は、21世紀
世界のゲートウェイとしての北陸
すでに、新潟、富山、小松の各空
また、韓国は、現在金融不安から
に最も成長が期待される地域に隣接
港からは、韓国やロシアに向けての
経済の再建に取り組んでいるとはい
するという地理的優位性を持ってい
定期航空路線が稼動しており、また
え、日本をキャッチアップするに可
るわけであり、これらの地域と日本、
各県の港からは、定期、不定期の航
能な技術力と資金を有する国であ
さらには太平洋側の諸国(オセアニ
路が拡がっている。
り、将来への高いポテンシャリティ
ア・アメリカ等)とのゲートウェイ
を秘めている。
として、国際的な役割を発揮してい
北朝鮮、中国、ロシアは政治体制
の違いや冷戦構造の中で、その豊富
環日本海のこれらの国々は、各国
な埋蔵資源や労働力が十分開発され
の内陸部の都市や地域に拡がるゲー
ないまま残っていることから、21
トウェイであり、さらに中国やロシ
くことが、北陸地域の新たなそして、
大きな地域戦略となる。
●環日本海国際交流の展望
黒竜江省
中 国
ハルビン
長春
吉林
ハバロフスク
瀋陽
ガバニ
吉林省
大連
ロシア
豆満江(図們江)開発
国際プロジェクト
環日本海広域国際交流圏
北朝鮮
清津
ザル
ビノ
ウラジオストク
ナホトカ
ボストチヌイ
平壌
ユジノサハリンスク
元山
ソウル
環日本海
韓 国
欧州・北米
東海
光州
東アジア
札幌
福岡
国
内
連
携
釜山
国内
凡 例
富山・高岡
連携
新潟・長岡
金沢・小松
福井・敦賀
京阪神圏
名古屋圏
静岡・清水
0
250
仙台
中
東京圏
日 本
心
都
市
圏
北陸側の都市圏
の 背 後 圏 域
日本海を通じた
国
際
交
流
500
Km
環日本海沿岸回廊
出典:「越のくにづくり」北陸地方建設局
対岸諸国内陸部
と
の
連
携
9
●北陸地域の国際定期航空路線と国際貨物船航路
空港・港湾
路 線
ソウル
新潟空港
ハバロフスク
イルクーツク
ウラジオストク
空 港
ソウル
富山空港
ウラジオストク
小松空港
ソウル
新潟港
釜山
基隆、高雄、香港、シンガポール
ボストチヌイ
大連、上海
清津(北朝鮮)
羅津(北朝鮮)
元山(北朝鮮)
港 湾
直江津港
釜山
伏木富山港
釜山
基隆、高雄、香港、シンガポール
ボストチヌイ
ワニノ
ナホトカ
金沢港
釜山
敦賀港
釜山
北陸の社会資本整備と投資活動
北陸地域の社会資本の整備状況を
トウェイとしての役割を果たす上
つまり、厳しい自然や地勢の中で、
で、大きな課題となっている。
まず活動の前提となる「維持・保全」
全国の比較で見ると、住宅や都市公
一方、行政投資の動向を見ると、
園分野の整備は良好だが、下水道等
1人当り行政投資額では、北陸地域
現在そして将来に向けての投資が圧
の都市基盤関連インフラや道路等の
は全国的にも高い水準で推移してい
縮されているという現状が指摘でき
交流・連携にかかわる社会資本の整
る。しかし、行政投資を事業目的別
る。1人当り投資額についても、こ
備が立ち遅れている。また、都市機
に見ると、他地域に比べて、治山治
うした点を割引いて考えるべきであ
能の面でも、施設の集積は全国平均
水や海岸保全等、国土保全関連の投
ろう。
に比べて極めて低い水準にとどまっ
資額の比率が高く、逆に生活関連基
ており、今後北陸地域が世界のゲー
盤への投資比率が低い状況にある。
への投資が必要となり、そのために、
●可住地面積100 当り都市施設集積状況の全国平均に対する水準値
(水準値)
100.0
75.0
102.5
78.3
75.2
65.2
62.5
309室
6.48店
0.99館
ホテル客室数
(1994年)
レンタルビデオ店
(1995年)
映画館数
(1994年)
70.0
70.1
1.79館
940床
23.4店
90.3店
公立図書館数
(1994年)
病床数
(1993年)
コンビニエンスストア数
(1991年)
風俗営業所数
(1994年)
50.0
25.0
0.0
( 注 )数字は可住地面積100km2当りの実数
(資料)各種統計
10
●全般的な社会資本の整備状況比較
下 水 道 (公共下水道普及率)
全国平均
100.0
都市公園
(1人当り面積)
住 宅
(1住宅当り延べ面積)
0.0
新潟県
富山県
石川県
福井県
道 路 (直轄国道整備率)
河 川 (直轄河川定規堤防整備率)
(資料)建設省
●1人当り行政投資額の推移
50.0
万円
48.8
48.4
45.5
44.9
43.4
41.4
40.0
40.0
41.1
34.1
30.8
30.0
27.7
28.7
28.6
26.8
25.1
24.8
21.9
20.0
19.4
23.0
20.4
23.1
21.8
31.5
32.1
30.4
28.6
26.2
25.7
27.9
27.4
32.6
29.8
29.7
35.0
32.7
38.7
37.5
37.4
36.0
38.9
36.9
36.0
35.6
32.6
30.7
26.8
25.2
22.8
20.4
19.2
北 陸
東 北
関 東
10.0
近 畿
全 国
0
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994(年)
出典:「行政投資実績」自治省
11
●事業目的別行政投資額の割合(地域別、1994年)
0%
10%
20%
北 陸
41.6
東 北
38.6
30%
40%
50%
60%
21.7
17.8
全 国
49.1
生 活
産 業
19.4
農林水産
国土保全
3.6
3.8
8.1
10.8
15.4
5.7
6.5
100%
11.4
8.7
15.8
18.5
90%
11.9
24.1
50.7
近 畿
80%
13.4
59.5
関 東
70%
20.5
8.3
15.1
そ の 他
出典:「行政投資実績」自治省
次代の北陸に向けての投資へ
北陸地域の高齢者人口比率は、
1995
年(平成7年)時点で18.2%と、全
国的にみて非常に高い水準で推移し
ている。さらに2000年には20%を
超え、5人に1人が65歳以上となる
●北陸地域の将来人口推移
ことが予想されているなど、他地域
よりも一足早く高齢化が進行してい
14歳以下
(%)
15∼64歳
65歳以上
る。
高齢化の進行に伴って、15∼64
1995年
16.2
65.7
18.2
歳のいわゆる生産年齢人口比率(減
少)など、地域の活力の低下が予想
されるが、そうした意味では高齢化
2000年
15.1
2005年
15.4
2010年
16.1
64.4
20.5
社会の到来をにらんで、北陸地域へ
の投資には、2つの戦略的な投資が
期待される。
62.4
22.2
1つは、超高齢化社会(時代)の
到来をにらみつつ、北陸地域がその
ポテンシャリティを十分に発揮でき
60.1
23.9
るような、次代に向けての社会資本
整備を重点的・戦略的に進めるこ
と(投資分野の戦略性)であり、も
う1つは、北陸地域の特性を踏まえ
た、他地域に先駆けての優先的・戦
略的な投資活動の展開(行政投資の
地域配分の戦略性)である。
12
出典:厚生省人口問題研究所「都道府県別将来推計人口」(1992年推計)
1995年は「国勢調査報告」総務庁統計局
特集
国境なき
時代の戦略
視 座
1
工業化社会から情報化社会へと移行する今、
21世紀に北陸がカリフォルニアになっていく
ための大きなチャンスが拡がっている
工業化社会の終焉とともに日本の存立基盤そのものが変わっていく
日本は明治以降、富国強兵ということでやってきて、50年以上かけて頓挫し
ました。そこで戦後は、素晴らしい戦略をとった。富国という代わりに加工貿
易立国という戦略だ。わが国は資源がない、1億人をどうやって食わせていく
か。そこで、海外の天然資源を輸入し、輸入したものに付加価値を付けて輸出
する、その差額のお金で、つまりその付加価値でわれわれに必要な食糧を買っ
たり、また鉱物を買ったりする。つまり働かざる者食うべからずと、これが戦
後の日本の存立基盤、加工貿易立国というものだった。これが変わっていく。
大前 研一
(経営コンサルタント、UCLA大学院教授)
21世紀の情報化社会というのは、加工貿易立国と同じことが、国ではなくて
個人、または企業、または地域で行われる。しかもそこで輸入するものは資源
早稲田大学理工学部を卒業後、マサチューセ
ではなくて情報である。情報を手に入れて、そこに付加価値を付けて、そして
ッツ工科大学大学院で博士号を取得。世界の
それを再び発信する、その差にお金を払ってくれる人がいれば、それで飯を食
大企業や、アジア太平洋地域の国家レベルの
経営コンサルタント、アドバイザーとして活
っていくと、これが情報化社会というものだ。従って、加工貿易立国というも
躍の傍ら、94年には主義主張を越えた議論の
のに代わって、情報の付加価値で生きていけるように、個人がなる、企業がな
場を作ることを目標に「一新塾」そして、
「ア
タッカーズ・ビジネススクール」を設立し、
塾長に就任。これらはグローバルな視野と多
彩な価値観を通じて、理想の社会を探究する
政策学校として知られている。また、UCL
A大学院教授、スタンフォード大学ビジネス
スクール客員教授。
る、地域がなるということが、唯一、個人が、企業が、地域が繁栄する礎にな
っていく。
今までの工業化社会では鉄道を敷き、そして港湾を整備しというようなこと
で、インフラを造ってきたが、これから最も大切になるインフラというのは生
活環境、そして、情報を取り入れて発信していく環境だ。全ての個人が情報の
受信者になり発信者になる、情報の加工ができない人、いい情報を見つけてき
て、人々に役立つような形で発信できない人は食うべからずということになる。
このくらい激しい、大きな変化が起こっている。
ところが日本は、今情報化社会の入口にあって遅れ気味である。それは、わ
れわれはあまりにも工業化社会でうまくいったために、そのやり方で何とか微
修正すればいけるかも知れないと思っていたり、今、景気が悪いから景気対策
をすれば、昔のようになるかも知れないということで、夢よもう一度、ミニバ
ブルを起こせ、こういうことを考えるためだ。しかし、そういうことは起こら
ない。そういうことを起こしたところで、日本はさらにひどい状況になるだけ
だ。工業化社会の古いテーマに対して新たな投資をしても、もはや新しい商売、
新しい産業というのは、興ってこないのである。
会社発想からSOHO
(スモール・オフィス、ホーム・オフィス)
発想へ
会社というのは、朝9時から5時まで出退勤管理というものをやっているが、
これも工業化社会の名残りだ。9時から5時まで体を売って、その体を売るこ
とによって対価として給料をもらう。
13
ネットワーク社会では、必ずしも同じ場所にいる必要はないし、同じ国にい
る必要はない。そこで、SOHOという環境になる。SOHOというのはスモ
ール・オフィス、ホーム・オフィスのことで、家庭に事務所がある、仲間数人
と小さい事務所で仕事をするといった新しいビジネスのスタイルで、今、アメ
リカで景気がいいのは、このSOHOだ。
アメリカでも大企業は依然としてリストラをし、政府は金がなくてどんどん
と予算のカットをしている。そういう中でなぜアメリカの景気がいいかといえ
ば、SOHOと言われる環境で仕事をしている人が、実にレーガン以降 4,200万
人も増えたことにある。IBMやGMをクビになった人たちが、家庭で、自分
の書斎で、または仲間数人と仕事を始める。ネットワークでつながっているか
ら、これができる。アメリカがいち早く情報化社会に行ったのは、失業率が高
*1
く、レイオフが激しく、そして規制緩和をした結果、新しいものに動いていく
*1 レイオフ
という環境があったからだ。
一時解雇(不況時の操業短縮などの際に企業
なぜSOHOが景気に重要な刺激があるかというと、家庭で仕事をする、小
が労働者を一時的にやめさせること)。一時
さな事務所で仕事をするということになると、書斎が必要になる。その書斎を
帰休。自宅待機。
造った時に経費で落ちる。また、そこにパソコンを買った、プリンタを買った、
ソフトを買った、それも税金で償却できる。そういうふうにして、みんなが要
するに2億総ネットワーク化してしまった。個人がそれぞれ情報武装し、ネッ
トワーク化する過程で、新たな消費が生まれ、さらにその結果として新しい価
値を生み出すネットワーク環境が出現した。これがアメリカの好景気を支えて
*2
いる。
*2 インターネット接続ホストコンピュータの日米比較(1997年1月現在)
ホストコンピュータ数(台)
人口1000人当り台数
日 本
734,406台
5.9台
米 国
10,112,888台
38.8台
出典:「通信白書」郵政省
21世紀に日本はどう生きていくのか…世界の成長地帯から
これからの日本は何で飯を食っていくのかというと、実は選択肢はそうたく
さんはない。製造業ではよほどの生産性を持った人以外は生きていくことはで
きない。日本は、製造業の直工の給料が福利厚生を入れて月35万円。韓国は10
万円。マレーシアは5万円、フィリピンは1万5,000円。そして、ベトナムが
5,000円、ミャンマーは2,500円、中国は深センで大体5、6万円、大連で1万
円から1万5,000円くらい。
少なくともミャンマーと日本の間には100倍以上の直工の賃金の差がある。
100倍の賃金の差を乗り越えるだけの、そういうものが日本に幾つ残るか。こ
こに我々の将来を賭けていくということはかなり無理がある。もしうまくいっ
ても、恐らく就業人口の10%以下、よくて10%だろう。
一次産業についても、新潟は米どころと言われているが、質が評価されてい
るからまだいい。ところが、普通に食べる米は、オーストラリア・ビクトリア
州などとの価格の違いは10倍以上になっている。ウルグァイ・ラウンドで6年
たつと関税に匹敵するものがゼロになる。その時には、大体キロ25円くらい
14
で入ってくる。キロ25円の米に対抗できるだけの国産米が可能か。そういうこ
とを考えると、一次産業でどこまで日本人を養っていけるのかは疑問だ。
*3 産業3部門別就業者比率の推移
第1次産業
(%)
17.4
1970年
35.2
35.3
12.7
1975年
1980年
10.5
1985年
8.8
1990年
7.3
第3次産業
第2次産業
34.8
34.4
33.6
47.3
51.9
54.6
56.6
58.8
1993年
6.0
33.8
59.9
1994年
5.8
33.5
60.4
1995年
5.7
33.0
61.1
1996年
5.5
32.8
61.4
出典:「労働調査年報」総務庁
従って、サービス業しかない。今、サービス業というのは、規制緩和の進ん
だアメリカ、イギリスが圧倒的に強い。例えば、サービス業の典型ともいえる
航空業では、ジャンボジェット機747を、1人のお客さんを乗せて1マイル
飛ぶのに、イギリスの英国航空(BA)は55セント。アメリカのアメリカン航
空、ユナイテッド航空も大体50セントから55セントですむ。シンガポール航空
は75セント、日本航空と全日空は同じジャンボを飛ばして1ドル35セントかか
る。もやは競いようがないくらいで、同じジャンボジェットを飛ばして倍以上
差がついている。銀行においてしかり、証券においてしかり、資産運用につい
てしかりで、レーガン革命、サッチャー革命後の日本と英米との違いというの
は、高級サービス業では大きなものがある。
これまで日本はそれほど遅れていなかったが、この15年の間に内向き、下向
き、後ろ向きの姿勢と、バブルの処理が遅れて、今後は何とか改善するのを待
つ、景気がよくなるのを待つということで、待つ時間が長すぎた。この間にそ
ういった世界の先端の金融業、通信業、運輸業というのはどんどんと進んでし
まった。
この分野は特にアングロサクソンが強くなって、これが世界標準になりつつ
ある。運悪く規制緩和の進んでいる国もアングロサクソン、世界標準としての
言語も英語ということで、この2つは偶然だが、一緒になってしまった。その
世界標準としての英語を使っている国、ニュージーランド、そしてシンガポー
ル、そしてインドというような所が、今、インターネット時代に活躍を始めて
いる。
インドのバンガロールは、ソフトウエアの開発において世界的な生産基地に
なってきている。また、アイルランドのダブリンが世界のいわゆるサービスセ
ンターになってきている。また、スコットランドのエジンバラが資産運用のセ
15
ンターになってきている。1年前には、本当にさびれた、寂しい工業化社会の
末路のような町が、今はガラッと違っている。景気が良くて、欧州で最も成長
率の高いのはアイルランドで、年成長率は7%にも達している。
なぜ成長しているのかといえば、アメリカのサービス業とネットワークして、
通信回線や衛星でダブリンで下請業務を行っているからだ。例えば、クレジッ
トカードの照合業務とか、保険請求業務というのをシカゴからどんとワークス
テーションで落としてもらう、そして、その作業を英語で読みながらこの保険
の請求が正しいかどうかを見て、正しければチェックを切って返す。そうする
と時差があるのでシカゴの人が翌朝来た時には、仕事が全部終わっている。ア
メリカの方は人が減らせ、アイルランドには25万人分の職が、わずかこの5年
間でできたわけだ。人口300万人のアイルランドに25万人分の職ということは、
いわゆる失業率でいえば10ポイント以上の改善ということになる。
同じくスコットランドのエジンバラは、資産運用の人たちがゴルフなどをや
りながら、資産運用をネットワークで見て、お金持ちからお金を預かって、そ
して非常に高いリターンというものを返している。日本の郵便貯金が0.35%し
か返せない時に、この人たちは50%から60%を年間返している。
日本はこれから何で飯を食っていくのか、明確な答えはないが、世界の動き
を見ていると、私は、高級サービス業以外にないと思っている。
21世紀の国境なき時代と日本
われわれが行こうとしている21世紀というのは、情報通信、ネットワークの
時代である。この時代には、ダブリンの例のように、職、ジョブというものが
国境をまたいで移ってしまう。
19世紀、ケネディの祖先たちはアイルランドから、新天地アメリカに移って
来た。日本からも、ブラジル、ペルー、そしてカリフォルニア、ハワイと移っ
ていった。人々が移った。新天地を求めて国境をまたいで移民した。20世紀に
は企業が動いた。企業が国境をまたぐようになったのが20世紀。21世紀は全然
違う。企業も人も動かない。通信を介して職だけが動く。日本のサービス業が
アメリカから提供できる。そして、アメリカのサービス業をアイルランドで提
供するというふうになる。世界に開かれた所から、より競争力を持ったサービ
*4 外国為替法の改正(平成10年度4月1日)
金融ビッグバン(金融大改革)の一環として、
4月1日から外国為替業務が原則自由化とな
り、内外でのお金の取引が自由に行えるよう
になった。
ス産業、第3次産業が生まれるのが、21世紀だ。
*4
今年4月1日にビックバンの一環として外為法が変わった。4月1日からは
海外で口座を持てるようになったわけだが、利息を0.28%しか払えないような
環境から日本人は世界中で資金の運用ができるようになったのだ。国内で外貨
・ 外国為替業務への新規参入可能に(旅行会
社、コンビニなどが検討中)
・ ドルショップ登場
預金も自由にできるようになった。国内の決済も円でなくてドルでもマルクで
もいい。お金の決算というものがグローバルになってしまったわけで、その時
・ 海外の銀行に口座の設定が自由に
・ 国内の企業、個人間の外貨建て決済自由に
・ 事前の届け出、許可なしで海外の証券会社
で有価証券の売買が可能に
に、じっと0.35%の郵貯においておいた人と、5.5%の世界標準で運用した人と、
20年後に3倍の違いが出てくる。そんなことが分かっていて、自分の退職金と
か年金を0.35%においておく人はいない。いくら日本人でもそういう人はいな
くなると思う。
こうした大きな変化が起っている時は、実は大きな事業チャンスなのだが、
残念ながら今動いているのは外国人ばかりで、日本人はじっとしている。事業
機会が今ほど溢れている時はないのだから、もっと動くべきだ。その意味では、
従来の考え方やしくみに捕らわれない、ボーダーレスで自由な発想を持
16
つ人や地域が、21世紀に勝ち残っていくことになるだろう。
建設業にもコンサルティング能力が問われる
ネットワーク時代に移行し、特に金融、運輸、通信で規制緩和が行われる、
そして、都市、企業、国のリストラが行われるということで、事業機会は溢れ
ている、今、日本はそういう時代を迎えている。
高級サービス業が日本の行くべき道だと考えられるが、21世紀の日本は就業
人口の85%がサービス業に就いていないといけない計算になる。アメリカは、
今全国で75%がサービス業だが、アメリカよりも、もっとサービス業の比率が
多くなるわけだ。
サービス業というのは、顧客にとっての価値の創造、これしかない。お客さ
んが、これだったらお金を払うというものを作っていく、この一点を徹底的に
考えた人が、21世紀にいい生活のできる人になる。この人たちは何らかの形で、
コンサルティング的資質を持っていると言い換えてもいい。資金運用をお客の
立場で考える、ネットワークの運用をお客の立場で考える、コンピュータの使
い方をお客の立場で考える。コンピュータメーカーは、常に1台でも多く売ろ
うとするが、それは、提供者の論理。それに対して、お客の立場で考える、こ
れがコンサルティング的なメンタリティだ。生命保険もただ買ってくれと言う
のではなくて、一生涯の資金計画を立ててあげて、こういう保険にした方がい
いよとアドバイスができるコンサルタントが生き残る。物流も同じだ。建設業
においても同じことで、とにかく造ればいいというのじゃなくて、造ったあと
どう使うのかということまで考えて、コンサルティングできる。つまり、使う
側に立って考える。造る側に立って考えるのではなくて、使う側に立って考え
る。このことが21世紀に生き残るサービス業の基本になっていく。
21世紀の国づくり…その考え方と手法
マレーシアでは今、MSC(マルチメディア・スーパー・コリドー)という、
21世紀型の国づくりの実験を行っている。これはマレーシアの中心部の東西15
kmにわたる地域全体に光ファイバー網を敷き、さらにサイバー法という、電
子社会に対応した法律を制定し、通貨や公文書を含めたEDI(エレクトリッ
ク・データ・インターチェンジ、デジタルネットワーク上で各種の情報や電子
データを交換すること)の実験や各種のネットワークビジネスを開発・育成し
ようとするものだ。すでに世界中から900社が参加を表明している。
私自身がアドバイザーとして、コンセプトを作りアドバイスを行っているが、
このMSCの注目すべき点は、21世紀の国づくりをするために、法律まで変え
て本気で取り組めば世界中から人や企業が集まって来るということだ。マレー
シアのように、技術も資金もない国でも、適切な環境(ハードとソフト両面に
わたるネットワーク環境)を整備すれば、世界中から、人も情報もお金(投資)
も会社もやって来る時代なのである。そして、人と会社が来れば、情報がさら
に集まり、お金もさらに集まって来る。つまり、21世紀というのは、情報受発
信能力を備えていればお金はついて来る。今までのように、最初から金持ちで
あったり、技術を持っている必要はないのである。
これからの日本が考えなければいけないのは、MSCの例のようにまずコン
セプトを作り、そのコンセプトを裏付ける法律を整備し、それを世界中に発信
17
*5 マルチメディア・スーパー・コリドー(回廊)構想(MSC)
1996年にマハティール首相が公表した、マレーシアの21世
紀戦略の中核となる構想。首都クアラルンプールと新行政首
<サイバー法の骨子>
都プトラジャヤ、新クアラルンプール国際空港を結ぶ軸を中
1) コンピュータ犯罪法:個人の通信に侵入するハッカーを
心に、東西15km、南北50kmにわたる地域に、最新の通信イ
ンフラ(高速・大容量の光通信ケーブル)を総額20億ドルで
整備し、情報通信関連、ソフトウェア開発、情報通信ネット
ワークを活用するサービス産業や研究開発活動を行う外資系
企業等を誘致し、東南アジア最大であり、世界を代表する情
報通信産業の拠点化を目指すもの。
処罰する
2) デジタル署名法:コンピュータ上で電子サインによる決
裁を認める(可決裁)
3) 電子行政法:コンピュータ通信を利用した行政サービス
や遠隔医療を促進する
4) 通信医療法
マルチメディア関連の事業、研究・開発の拠点となる「サイ
バーシティ」では、マルチメディア大学やソフトウェア産業
のほかに、これを活用する製造業、金融業など様々な産業を
取り組み、様々な意欲的な試みを行う。
MSC構想関連プロジェクトの立地イメージ図
(展開される基幹応用分野)
1) 電子政府 2)遠隔医療サービス 3)遠隔教育 4)他
目的スマート・カード
5)研究開発施設群
6)ワールド
ワード製造ウェブ(外資系企業向けであり、最新鋭の通信回
線によって本国との連絡効率を高め、マレーシアや他のアジ
ア諸国での低コスト生産を可能にする)
7)ボーダーレス
・マーケティング・センター(MSCをアジアの総人口25億人
クアラルンプールシティセンター
タワー
クアラルンプールシティセンター
KLCC
クアラルンプール市街
を対象とした、電子出版やコンテンツ現地化、テレマーケテ
ィングなどの業務ハブ)
世界最先端のマルチメディアの実験都市を成功させるために
マレーシア政府は、進出企業に対して一定の基準をクリアし
ていれば、「MSC資格」を与え、様々な優遇措置を用意して
マルチメディア
実験都市
(サイバーシティ)
いる。
(優遇措置の例)
プトラジャヤ
新行政首都
1) 法人税、所得税の減免
2) 外国人技術者の雇用が制限されない
3) 100%外国資本の現地法人の認可
4) インターネット環境の自由の保障。無検閲であること。
このため、今までの国内での規制を大幅に緩和、撤廃する
「サイバー法」と呼ばれる法律が整備されつつある。
マルチメディア・
スーパー・コリドー
(MSC)
新クアラルンプール国際空港
(セバン空港)
することなのだ。工業化社会から情報化社会へという大きな転換期だからこそ、
リーダーシップやビジョンが必要となる。日本が今、しょぼくれているのは、
21世紀に対するビジョンが見えないからで、橋本6大改革というけれども、具
体的に生活がどうなるのか、どういう国をつくろうとしているのか分からない。
漢字ばかり並んだ改革が書いてあるだけで、実感的に分からない。だから1,200
兆円もの個人金融資産を持っているのに使う気にならない、ここに問題がある。
21世紀をリードする単位は人そして地域
これからは地域国家、北陸なら北陸というこの単位が重要になる。1億2,000
万人が同じことを言うわけがないし、やるわけがない。また、そういうものは
誰も信用しない。アメリカがなぜ栄えているかと言うと、ワシントンが駄目で
も、コロラドが栄え、シリコンバレーが栄え、ビル・ゲイツの住むシアトルが
栄える。またテキサスのオースチンあたりが調子がいい、それで全体が栄えて
いる。駄目な所もニューヨークの中心部や、ロサンゼルスの下町、シカゴ
18
辺にある。
これからは地域が単位になってくる。そこが世界経済と協調して情報が集ま
り、金が集まり、企業が来て人が来る、さらに情報と金が集まって来る、そう
いう所を作らなければいけない。21世紀は人、地域、国、この順序だ。大切な
のは人であり地域だと、国はそれを支援すればいい、国はそれを邪魔しないと
いうことが重要である。しかも一回で成功するということはないから実験し、
修正し、改善していかなければいけない。お前はなぜ失敗したということを恐
れてはいけないし、また、言ってはいけない。失敗はこういうものにはつきも
のだと考えるべきで、実験と考えればいい。うまくいかなかったら直すのだと、
うまくいけば広げるのだということを繰り返し言い続けることで、現実のもの
にしていくことだ。
どこから始めたらいいか。一斉にやらないで、ばらばらでいい。1人でも多
くの人材をつくるべきで、例えば会社であれば、全社一斉というのをやめた方
がいい。北陸だったら、みんなで一斉にというのをやめて、思いついた人、で
きると思う人、やりたい人からどんどんやる。そして、4、5年後に通信環境
もよくなったところで整理統合して、1つのシステムに持っていくというやり
方の方がいい。できるのを待っていたら、いつまでたってもできない。気のつ
いた人、気のついた会社、気のついたグループの中でやっていく。それらを全
部まとめて、4、5年後に本当にいいシステム、ビジョンをつくっていけばいい。
日本は、1,200兆円の個人金融資産というものが、0.35%のところに凍結して
いる。そして、財政投融資その他で公共工事をやっている。公共工事も北海道
とか沖縄で一所懸命やっている。
日本はまだまだインフラをやらなければいけない。通信環境は非常に乏しい、
下水道も乏しい、そして造らなければいけないことはまだまだある。日本の都
市インフラというのを見ると、150年前のパリにも追いついていない。100年前
のニューヨーク以下。だから、やらなければいけない公共投資は山のようにあ
るのに関係ないところに造っている。今、日本ではいらないダムとか、いらな
い湾の埋立てとか、そんなことに多大なお金を使っている。もったいない。も
っと生活環境を良くするために使うべきだと思う。
日本がなぜ世界一のロボット王国になったのか。それは70年代に、通産省が
ロボットを導入したら、2年で償却するという制度を作ったからだ。これは、
すごい効果があった。例えば100万円のロボットを導入したら、50万円が今年
の経費に落とせるとなって、先を競ってロボットの導入をした。当時、日本は
人手不足と人件費の高騰で、生産性改善以外には生きていく道がないという背
景があった。
私は今はSOHO機器に同様の措置をするべきだと考えている。日本全体に
SOHO環境を作る、この1点に集中して、経費減価償却、加速償却をすべき
だと。そうすると、どういうことになるかといえば、パソコンを50万円で買っ
た場合、25万円ずつ2年間で償却して、所得税から年末還付される。書斎、い
いものを造りなさい、子供部屋の建て増しじゃなくて、自分の書斎を造りなさ
い、5年で償却できる。家具、2年で償却、家の建て替え、買い替え、全部こ
れを償却していく。もちろん会社も同様で、会社がOA投資、またSOHO環
境、OA機器の投資、情報化投資、そして個人の教育、そういうものをやった
時には、全部損金として計上可能にする。自己啓発投資、それからさっき
19
言ったように英語環境、英語ができなかったら駄目なんだから、そういう意味
で英語環境、これらのものを全部個人であれ、企業であれ、加速償却する。こ
うすれば景気は一挙に良くなるし、さらに全部21世紀につながる方向になる。
北陸は日本のカリフォルニアになれないか
北陸は日本のカリフォルニアになれないか、という問いかけをしたい。北陸
は海岸線が700kmある。新潟と金沢は仲が悪い。これはロサンゼルスとサンフ
ランシスコも仲が悪いのに似ている。
カリフォルニアがどういう所かというと、常にアメリカ社会においては裏と
言われていた所だ。表は大西洋、ヨーロッパへの表玄関ということで、太平洋
側は、アメリカの裏側とされてきた。同じように北陸は裏日本と言われている、
それがアメリカにおけるカリフォルニアの立場と同じに見える。ところが今や
アジア・太平洋の時代を迎え、カリフォルニアの位置が優位になってきた。ち
ょうど今、ロシアの経済が底を打ち、これから調子良くなってくる。ロシア、
そして中国東北部の発展をにらむと、ちょうどアメリカにとって太平洋時代が
来て、カリフォルニアが隆盛したように、日本にとっても北陸時代というもの
*6
がやって来るのではないかと思うのだ。
*6 北陸とカリフォルニアの比較
北陸地域
カリフォルニア州
人 口
561万人(1995年)
3,227万人(1997年)
面 積
2.1万km2
40.6万km2
経済規模
約20兆5,372億円(1994年)
約1兆ドル(約116兆円、1997年)
就業構造
第1次産業
第2次産業
第3次産業
第1次産業
第2次産業
第3次産業
7.7%
36.2%
56.0%
2.6%
18.4%
79.0%
(1998年3月)
出典:総務庁統計局「国勢調査報告」
経済企画庁 「県民経済計算年報」
カリフォルニア州統計データ
アメリカのカリフォルニアは移民、港湾、大学、この3つが三種の神器で、
人が世界中から来た。北陸にはどのくらい世界中から来ているか、今は来てい
ない。もっと人が集まる環境を作るべきだろう。そして、表と競わない産業が
必要だ。アメリカの場合には、西と東は競わない。ハリウッドも、シリコンバ
レーも東と競合はしない。だから、ミニ東京になるのではなくて、もちろんカ
リフォルニアそのものになることはできないが、カリフォルニアがなぜ今、栄
えているのかということを考えると、それは東と違う自分を見つけたからで、
今まで裏と言われてきたのに、気がつくとカリフォルニアの方が表通りになっ
てきている。
私は昔、プレジデントという雑誌で、日本海が銀座通りになる日が来ると書
いたことがある。それはかなり時間がかかってはいるが、これからはそういう
時代になると思う。北陸のビジョンやコンセプトを明確にし、21世紀に向けて
グローバルな視点から環境を整備し、それを世界に向けて発信していく。土木、
重工業的なものではなくて、21世紀の情報産業的なもので結んでいく。あるい
は、観光とか大学のようなもの、そういったようなもので結んでいくというこ
とからチャンスが拡がると考える。
20
国境なき時代の戦略
特集
「情報化」社会における北陸の戦略を探る
北陸の産業構造の変化 次代を支える産業は
北陸地域の産業は、ここ数年、第
構成比は全国平均に近づいている。
2.5%と、全国平均は上回っている
東北地域と比べてみると、第3次産
ものの、全体に占める比率は低い水
3次産業(商業・サービス等)への
業は東北で55.9%と、ほぼ北陸と
準にある。製造業等の第2次産業も
シフトが急速に進行し、逆に第1次
同率だが、東北地域は第1次産業が
就業人口に比べて生産額の比率は下
産業(農林水産業)のウェイトが低
12.9%と依然高い比率を占めてい
回っており、地域全体が商業やサー
下し続けている。
る。ここからも北陸地域の農林水産
ビス等の第3次産業へと、経済活動
業離れが読みとれる。
の中心が移行していることが分かる。
就業人口では、1990年には28.3
%を占めていた第1次産業従事者が、
95年には約8%へと激減、全体の
各産業が県内総生産に占める比率
(全国ベース)でも、第1次産業は
●北陸地域の産業動向
〈就業人口構成比の推移〉
(%)
第1次産業
1990年
28.3
第2次産業
1992年
34.4
14.9
1993年
8.6
1995年
7.7
46.4
35.0
11.6
1994年
40.7
31.0
19.2
1991年
第3次産業
50.1
36.3
52.1
37.5
53.9
36.2
56.0
参 考
全 国
(1995年)
6.1
31.4
61.9
出典:総務庁統計局「国勢調査報告」
〈県内総生産における構成比−1994年度〉
(%)
北 陸 2.5
全 国 1.7
第1次産業
第2次産業
第3次産業
35.0
32.6
62.5
65.6
出典:経済企画庁「県民経済計算年報」
21
●国際的情報発信機能をもつ「小さな世界都市」
新たなコンセプトとしての「世界都市」
世界には人口規模は小さいが、独
18
自のコンセプトや戦略で、国際的な
25 22
7
24
15
情報発信や交流活動を実現している
26
4
「小さな世界都市」(人口規模の大小
や行政形態にかかわらず、特定の分
14
17
23 19
2
27
1
16
10
11
21
13
9 20
8
28
5 6
12
野において、世界的な交流の核とな
29
っている都市)と呼ばれる個性的な
3
都市群がある。
北陸地域においても、工芸美術の
金沢市、演劇の利賀村、雪国文化の
安塚町等、個性的なまちづくりや世
界的拠点づくりを進めている市町村
は多い。こうした各地の動きを北陸
拠点化を進めていくためには、他地
地域全体でバックアップしつつ、ネ
域に先駆けての戦略づくりと新時代
ットワーク化するとともに、環日本
への基盤づくりを進めることが急務
海の立地を活かした広域的な戦略、
となっている。
コンセプトを確立していくことが急
務だといえる。
SOHO時代の国際分業によって活
性化している都市や、世界各地に見
情報通信分野の急速な発展ととも
られる「小さな世界都市」の存在は、
に加速するボーダレス(国境なき)
北陸地域が「21世紀の世界の中枢
世界の中で、世界の国や都市、企業
圏域(小さな世界エリア)
」となるコ
や個人と北陸地域がダイレクトに結
ンセプトをさらに確立していく上で
び付き、世界に貢献しつつ活性化と
の参考となるだろう。
タイプ
4.スポーツ・レジャーを核
とする都市
タイプ
1.国際機関の集積を核と
する都市
2.経済・産業機能を核とす
る都市
3.芸術・文化イベントを核
とする都市
都市名
番号
人口
規模
(万人)
国名
中心となる施設またはイベント名
ILO本部、WHO本部、GATT本部など
都市名
番号
人口
規模
(万人)
13
1
モナコ
ルイスビル
14
29
アメリカ
ケンタッキーダービー
ウィンブルドン
15
17※
イギリス
ウィンブルドン大会
16
1
フランス
アルプス登山基地、スキー場、スキー登山学校、山岳隊訓練学校
ラスベガス
17
18
アメリカ
カジノを中心とした一大レジャー都市
イギリス
ゴルフの発祥の地といわれ、全英オープンを毎年開催
1
16
スイス
セントアンドリューズ
18
1
2
68
オランダ
国際司法裁判所など
5.歴史・文化施設を核とす
ローテンブルク
19
1
ハリウッド
3
12
アメリカ
映画産業(スタジオ、劇場)
る都市
ネルトリンゲン
20
2
サンノゼなど
4
63
アメリカ
半導体産業("シリコンバレー")
チューリッヒ
5
35
スイス
ドイツ
中世都市景観(ロマンチック街道)
グラナダ
21
26
スペイン
アルハンブラ宮殿
ベルサイユ
22
10
フランス
ベルサイユ宮殿
ファドーツ
6
0.5
リヒテンシュタイン
オフショアセンター
ルクセンブルク
7
8
ルクセンブルク
オフショアセンター
6.研究・教育機関を核とす
ザルツブルグ
8
14
オーストリア
ザルツブルグ音楽祭(オペラ)
る都市
バイロイト
9
7
ドイツ
アヴィニョン
10
9
フランス
カンヌ
11
30
フランス
カンヌ国際映画祭
7.医療機関を核とする都市
バーデンバーデン
28
5
ドイツ
サンレモ
12
6
イタリア
カンツォーネの世界的大会サンレモ音楽祭を毎年開催(地中海に面した保養地)
8.リゾートを核とする都市
オーランド
29
12
アメリカ
アヴィニョン国際演劇祭
カジノ、モンテカルロラリー
シャモニー
ハーグ
バイロイト音楽祭(ワーグナーの音楽劇)
中心となる施設またはイベント名
モンテカルロ
ジュネーブ
金融市場
国名
ケルン
23
61
ドイツ
オックスフォード
24
10
イギリス
オックスフォード大学
ケルン大寺院
ケンブリッジ
25
9
イギリス
ケンブリッジ大学
ケンブリッジ
26
10
アメリカ
マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学
フォンテンブロー
27
2
フランス
INSEAD(経営者学校)
クアハウス、医療機関、リゾート施設
ウォルト・ディズニー・ワールド(WDW)
※ウィンブルドンを含むマートン地区の人口
22
23
ている。
北陸地域のポテンシャリティ
北陸地域の県内総生産額は、
1993
経済力の点から言えば、国際的な
年度で約20兆2218億円(1994
拠点圏域を形成するに十分なポテン
年度は20兆5372億円)。これは、
シャリティを持っているわけで、そ
2
スウェーデン(面積45万km 、人口
のパワーを発揮するコンセプトや戦
850万人)やオーストラリア(面積
略を明確化し(=ソフトの開発)
、そ
8万4000km2、人口762万人)な
れに沿った基盤(=ハード)整備や
どの国々とGDP(国内総生産)比較
人材づくりを一体となって取り組み
では同等、あるいは上回る水準にあ
・推進していくことが、北陸地域の
り、4県でヨーロッパの一国に匹敵
課題であろう。
する経済力を有していることを示し
●OECD加盟諸国のGDP(名目)ランキング(1993年)と日本国内各地域の位置
順位
国 名
GDP(億ドル)
カ
62,599
本
42,933
ツ
19,086
ン
ス
12,507
タ
リ
ア
9,851
ギ
リ
ス
9,421
ダ
5,473
イ
ン
4,786
ン
ダ
3,118
10
オ ー ス ト ラ リ ア
2,899
11
ス
ス
2,320
12
ベ
ー
2,101
13
ス ウ ェ ー デ ン
1,853
14
オ ー ス ト リ ア
1,826
15
ト
コ
1,804
16
デ
ン
マ
ー
ク
1,347
17
ノ
ル
ウ
ェ
ー
1,158
18
ギ
ャ
899
19
ポ
ル
847
20
フ ィ ン ラ ン ド
844
1
ア
2
日
3
ド
4
フ
ラ
5
イ
6
イ
7
カ
8
ス
ペ
9
オ
ラ
メ
リ
イ
ナ
イ
ル
ギ
ル
リ
ル
シ
ト
ガ
(注)首 都 圏=東京圏+茨城県、栃木県、群馬県、山梨県
東 京 圏=東京都+埼玉県、千葉県、神奈川県
関 西 圏=京都府、大阪府、兵庫県、奈良県
名古屋圏=愛知県、岐阜県、三重県
北陸地域=新潟県、富山県、石川県、福井県
南東北県=宮城県、山形県、福島県
OECD加盟国は24カ国。国内各地域のデータは平成5(1993)年度県内総生産額。
なお、ドル換算レートは、1993年度の対米ドルレート(1ドル=107.84円)を使用。
(資料)”Main Economic Indicators”
(OECD)
『県民経済計算年報』
(経済企画庁)
24
首 都 圏
16,317
東 京 圏
13,804
東 京 都
7,867
関 西 圏
6,635
名古屋圏
3,974
北陸地域
1,875
南東北圏
1,742
新潟県と北東アジア開発
地域指標
―多部門モデルによる選択的
シナリオ分析
(財)環日本海経済研究所 1998年1月
ってきたが、まだ両地域間のアンバランスには
であるが、最近日本海沿岸道県を東西に連結す
改善の兆しは見られない。1人当り所得の格差
る日本海国土軸形成の動きも活発化している。
現在やや調整局面にあるとはいえ、これまで
でもかなりの開きが存在し、この格差は高度成
この構想が実現すると日本海沿岸の大陸交流の
高成長を続けてきた東南アジア経済圏に対して、
長期において拡大し、オイルショック以後やや
拠点都市は横に結合され、いくつかの大陸に走
北東アジア経済圏は明暗2極に分かれたままの
改善が生じたものの、バブル不況以後現在まで
る数本の南北ルートは横に束ねられて相互間の
アンバランスな経済成長が続いている。一方の
もまだ足踏みの程度で明確な改善の兆しは認め
経済距離は著しく短縮される。この場合航空・
極に中国東北部や韓国があり、他方の極には極
られない。
海上・陸上輸送の3つからなる数本の縦のルー
1
まえがき
東ロシア、北朝鮮、モンゴルのように成長の軌
ところで新潟県の人口のシェアは明治期の
トは大陸との交流の活性化により網状にネット
道にまだ乗り切れない移行過程の国々があり、
4.2%から現在2.0%へと慢性的な人口流出に
ワーク化され、日本列島と大陸の諸都市との人
1人当りの所得格差はやや拡大の傾向にあった。
より半減してきたが、近年は下げ止っており、
・物・金の交流はドラマチックに拡大する。こ
この明暗2極に分解したアンバランスな発展パ
日本海沿岸地域ではやや例外に属する。特に
の場合新潟の経済圏はこの大陸との交流網の中
ターンは域内の貿易や投資の交流を阻害してき
1980年代から太平洋沿岸地域との経済的距離
の主要拠点地域の1つとしてさらに経済集積の
た一方、日本経済自体にとっても日本海沿岸地
を著しく短縮させ、長期的低迷からの脱皮を試
高まることが予想される。本報告はこの横の動
域の太平洋ベルト地域への過度の依存という不
みた点は注目される。後述するように上越新幹
脈をめぐるネットワーク化の議論は行っていな
均衡な経済成長を余儀なくさせてきた。今や脱
線や関越自動車道の開通によって人口の純流出
いが、南北動脈の活性化との関連においてこの
冷戦の時代となり、世界経済は大競争の時代に
は阻止され、その産業集積には復活の可能性が
問題にも触れることとする。
入りながら、環日本海の地域内経済交流はよう
見え始めてきた。かつての明治初頭の開国時に
やく近年動き始めたばかりであり、日本経済に
5大港湾の1つとして出発した国際港湾都市を
対する北方からのインパクトはまだ依然として
持つ新潟県であるが、この首都圏との時間的距
3
弱い。しかし長期的展望のもとでは、本報告書
離の短縮によって経済的集積の相対的地位に回
まず分析の対象であるが、新潟県の過去の発
に見るように、多くの選択肢が開けている。
分析の手法:新潟モデルの説明
復の兆しが見えてきた。しかし他方では1980
展の実績を踏まえて、1)新潟県がまず自らの
本報告書はこの北東アジア経済圏全域の発展
年代後半に始まる急激な円高によって、農業や
力で国際化、特に北東アジアとの交流に関連す
の可能性に対して日本経済が果たす役割、さら
地域産業にかげりが現れ今日に至っている。最
る公共プロジェクトを実施するケース、2)日
には日本海沿岸の道府県―特に主要拠点である
近円高の修正が生じているとはいえ、今後の円
本全体のレベルで国際化のための公共投資や国
新潟県経済圏の意義と今後の開発に関する選択
相場の行方は新潟県経済にとって依然として最
際競争に勝ち抜くための規制緩和措置を実行す
肢について計量モデル分析を行い、最後に政策
大の課題で、数量分析の結果はこのことを如実
るケース、3)わが国や関係諸国からの開発協
的提言を行う。
に示している。
力等を通じて北東アジアの国々が経済発展を加
2
問題の提起─日本経済の地域構造変化
に表われたアンバランス
新潟県は首都圏の「北の玄関」ともいわれ、
速化させ、この利益が日本ならびに新潟県経済
現在南北間の交流は人と物の両面で活発である
に対して「溢出効果」として還元してくるケー
が、さらに一衣帯水の日本海を越えた対岸諸国
ス、の3つのグループに分けて分析を行った。
まず日本列島を眺めると、自然環境上の差違
との国際交流は日本海
もあるが、日本海沿岸地域と太平洋沿岸地域ベ
沿岸の他の地域と同様
ルトとの間に著しい経済集積上のギャップが認
に長い歴史的な伝統が
められる。このようなギャップは戦前からすで
ある。特に冷戦終結以
に存在していたが、特に戦後半世紀に及ぶ米ソ
後の経済交流の再開は、
冷戦の影響でこのギャップは拡大してきた。図
中国、朝鮮半島、極東
14
①に見るように人口分布を明治以来眺めてみる
ロシア、モンゴルとま
12
と、明治・大正期から戦前の1940年代までの
だ相互間に成長のアン
10
日本海沿岸地域(10道県)の人口集積は17∼
バランスはあるが、新
8
18パーセントと比較的安定していたのに対し、
潟経済圏の北との連携
6
戦後特に高度成長期において太平洋ベルト工業
は強まりつつあるとい
4
地帯への急テンポの人口移動により急速な過疎
ってよい。
2
化が進展した。1970年代半ばオイルショック
以上は新潟県を縦に
によってこの減少のテンポにはブレーキがかか
貫く南北間交流の動脈
①日本海側と新潟県の全国に占める人口割合推移
20
18
(単位:%)
日本海側計
新潟県
16
0
1884 1893 1903 1913 1925 1935 1947 1955 1965 1975 1985 1990 1995
25
県産業連関モデルの部門別交易係数(=移輸出
が行われている。この時間距離は建設とサービ
環日本海経済研究所が以前から開発してきた多
÷全国生産)を全国ベースの産業連関モデルの
ス部門で有意に表われており、時間短縮化がも
部門型世界経済モデル(EITF)と今回新し
輸出誘発生産額に乗じて求められたもので、こ
たらす域内経済への需要面からの活性化効果が
く完成させた新潟県産業連関・マクロ連動モデ
の推定値を他の沿岸道県について求め比較した
期待されている。
ル(NIIOM)の2つである。いずれも35部
結果は図②に見る通りである。新潟県は10道県
次にこの投資関数から得られる5部門の資本
門の共通した生産と貿易の部門分類に立脚し、
の中で規模では最大で、生産と人口のスケール
ストックと公的資本ストックとを、別途推定さ
斉合的に両者を予測や政策分析に結合して利用
では最大の北海道は第6位に止まっている。一
れた生産関数に導入し、労働時間の能力ベース
することが可能である。前者の世界モデルは36
方対GNP比率では新潟県は8.3%で、福井、
への調整のあと5部門ベースの生産能力の推定
ヶ国/地域を対象とし、うち東南アジア10ヶ国
富山、山形が13%台とずば抜けて高いのに比
値が得られる。この場合の生産関数についても
と主要先進国(G7)は完全な産業連関モデル、
較するとやや低調である。これは前述したよう
時間的距離の変数が追加されており(農林水、
その他の国と地域は生産はマクロ、貿易は35
に国際的流通機能が低いことに起因しており、
製造業、建設業、サービス業の4変数)
、モデル
部門の混合型モデルである。世界貿易全体はこ
この部門の充実は重要な課題の1つである。次
には時間距離の短縮→生産性の上昇→生産能力
の35部門ベースで部門別の貿易マトリックス
に生産額に対して輸出依存度の高い部門を見る
の増大というメカニズムが組み込まれる。この
を通じて予測することが可能である。世界の輸
と、精密機械(37%)
、一般機械(26%)
、鉄鋼
ことは後述するシミュレーション分析で見る通
出価格もこの35部門ベースで国別に推定され
(24%)
、ゴム製品(24%)
、非鉄(23%)
、電
分析の手法として採用した計量経済モデルは、
ており、為替レートは主要先進国(G7)につ
いては内生変数として予測することが可能とな
気機械(19%)
、輸送用機械(18%)
、化学
(16%)
、その他製造(13%)の各部門である。
輸出推定額の相手先別シェアでは、米国が30
っている。
(産業連関ブロック)
%に対して東アジアは32%で、日本全国のシェ
次に新潟モデルであるが、世界モデルと同様
りである。
公的資本ストックは電力中央研究所の推定に
よるもので、農林水産基盤、産業基盤、運輸・
通信基盤、生活基盤の4種類からなり、生産関
数の推定には重要な役割を果たしている。
アが米国は32%、東アジアが30%という傾向
労働需要関数も5つの生産部門について推定
の分類で生産と貿易の部門分類が行われてお
に対してまさに逆の傾向が表れている。これは
され、対応する生産と実質賃金とラグの調和パ
り、新潟県経済の特色、特に比較優位部門、米、
新潟県の輸出構造は全国平均よりも東アジア寄
ラメーターの3変数で説明している。名目賃金
食料加工品、エネルギー、金属、ハイテク、観
りという一般的特徴を表したものであろう。
は消費者物価、労働生産性、有効求人倍率とい
光等の生産と貿易の内訳について産業情報の提
(マクロブロック)
うフィリップス型で説明し、有効求人倍率は、
供が可能となっている。特に貿易は世界モデル
以上は1990年の産業連関モデルから見た傾
GDP、総人口ならびに時間的距離の3変数を
の36ヶ国/地域別でしかも部門別の分析が可
向であるが、次に民間消費、住宅投資、民間設
用いて説明している。最後の時間的距離の要因
能であり、その基礎には新潟県庁作成の90部
備投資、資本ストック、生産能力、物価、賃金、
は短縮とともに労働の流動性を高める効果を持
門の産業連関表が用いられている。北東アジア
等のマクロブロックのうちの主要パラメーター
ち、有意性の高い係数として導入されている。
開発との関連で重要な中国、韓国、ロシア、な
に見られる新潟県経済の特性を述べてみよう。
従って運輸・通信基盤用の公共投資は、賃金・
らびに米国向けの輸出額は間接効果をも含めた
まず1人当りの消費関数であるが、新潟県の
物価にも沈静化の効果を持つことがこの関数の
生産額で見ると1990年現在でそれぞれ224、
限界消費性向は0.56と全国平均よりも低いが、
655、91、2,923、億円(合計で3,893億円)
1人当り可処分所得への反応は早くなっている
次に部門別生産と移輸入についてであるが、
と推定され、
新潟県の製造業合計(総額52,953
ことが特徴である。この限界消費性向の低さは
生産は35部門別に産業連関モデル上の誘発係
係数は示唆している。
億円)の中では、重要なシェア
(合計で7.4%)
農家所得のシェアが高いことにも起因するが、
数行列と最終需要のマクロ変数から部門別生産
を占めていることが分かる。ちなみに通関統計
むしろ貯蓄率の高さの反映であり、県民性によ
理論値の時系列が導かれる。この場合の最終需
での新潟県からの輸出額は総額で533億円で、
るものが大きいと解せられる。住民投資関数は
要のマクロ変数は県内のマクロ変数のみでなく、
この輸出額は製造業合計の生産額の1.0%にす
長いタイムラグをもって反応するが、金利には
県外の全国ベースでのマクロ変数(民間消費、
ぎない。このことは新潟県の国際物流機能が低
極めて敏感で、この点は全国モデルと共通の特
民間設備投資、政府消費、公共投資、など)と
く、生産物の輸出向けはほとんど京浜・中京・
色が見られる。
相手国先の輸出(今回は米国、カナダ、等先進
民間設備投資は5つの部門から構成され、通
阪神地帯の大港湾経由で行われていることを示
唆している。
なお今回のモデルによる輸出推計値は、新潟
6ヶ国とロシア、東アジア10ヶ国、その他の
常の能力調整原理の関数型に対して時間距離の
計17地域)の3つのグループから構成される。
変数を導入し、地域モデルに相応しい形で推定
従って誘発係数行列は33×32の大きさとなっ
②日本海側道県の輸出推定額と移輸出に対する比率
700 (10億円)
(%) 20
比率(右目盛)
16
500
14
輸出推定額(左目盛)
400
12
10
300
8
6
200
4
100
2
0
0
北海道
26
移輸出額
18
600
青森
秋田
山形
新潟
富山
石川
福井
鳥取
島根
単
位
北海道
青
森
秋
田
山
形
新
潟
富
山
石
川
福
井
鳥
取
島
根
10億円
4,796
1,714
1,712
2,458
4,215
3,429
2,675
2,662
974
1,108
輸出推定額
比率
(左目盛) (右目盛)
10億円
375
175
332
488
666
566
425
446
143
176
%
7.8
10.2
19.4
19.9
15.8
16.5
15.9
16.8
14.7
15.9
ている。
(航空機と自動車はその他輸送用機械に
展にも関連が深く、魚沼は首都圏に近い南北交
に関連する4ヶ国(中国、韓国、ロシア、アメ
統合されるので、部門数の合計は33個となる)
流の動脈上に位置しているためと思われるが、
リカ)が日本その他関係国の支援と自助努力に
さらに検討を深める予定である。
よる結果として経済成長を1%加速させた場合
部門別生産決定関数は上記の過程で得られる
のシナリオである。ただし、アメリカは0.5%
33本の生産理論値の時系列を主要な説明変数
とし、これに追加的説明変数(為替レート、関
連の価格指数、関連の需要変数、稼働率など)
4
政策シミュレーションと政策提言
の加速としている。対日輸入はこれによって増
加し、日本経済全体の内・外需はともに増大す
を加えて推定が行われている。移輸入は1本に
新潟モデルを2010年まで予測するに先だっ
るが、この場合、さらに新潟経済に与えるイン
統合され、産業連関の誘発係数を最終需要の変
て、モデルの推定期間1981―1991年の10年
パクトの計算が行われている。ただし、ロシア
数ごとに乗じた理論値と価格変数とから推定が
間について、いわゆる内挿テストを用い、予測
については成長率の増分についての手がかりが
行われた。
精度の確認(GDPの平均誤差率は2.1%)を行
得られないので、対日輸入のGDP比率を10
人口は地域計量モデルの主要変数で、地域政
ったのち、いわゆる標準予測を1997―2010
年後に中国の比率にまで高めるという想定を行
策にとっても後述のように開発政策のてことし
年の14年間について行った。モデルの予測に用
った。以上4つのケースではいずれも対日輸入
て注目すべき効果をもたらす。今回は人口を自
いた前提条件(外生変数)はとりあえず過去の
の拡大が日本全体に波及し、これがさらに新潟
然増と社会増とに分け、さらに後者を転出人口
トレンドの単純延長推計で、この外生変数の値
県経済にインパクトを与える結果となる。
関数と転入人口関数に分けて推定を行っている。
から生まれた内生変数の予測数値は以下に示す
第4の政策シナリオは再び県単独のシミュレ
転出については県内景気動向、1人当り住宅ス
政策シミュレーションの「たたき台」としての
ーションで、人口誘致を毎年1千人ずつ累増さ
トック、時間距離の短縮の3要因をもって抑制
意味以上のものではない。
せ10年後には1万人ほど増加させるケースで、
内需と人口の間接的増加効果をねらうシミュレ
要因として推定し、転入については県内の稼働
ともあれこの結果得られた新潟経済の2010
率、賃金格差、宅地価格差が促進要因として有
年の予測値はGDPで10.6兆円(1985年価
意に働いている。自然増は県内の高齢化、高学
格)
、伸び率で1.9%である。生産能力ベースの
歴化、少子化などの要因が働き、新潟県も他府
GDPは11.6兆円、伸び率で約2.0%である。
③である。まず最初の県単独の500億円の公共
県なみに低下傾向が続いており、要は社会増が
しかしこれは外生変数の中の公共投資の伸びを
投資では農林水向けと生活基盤向けはいずれも
自然増の減少傾向を相殺するか否かの問題で、
低く押さえた結果で、公共投資をさらに高めれ
10年目でGDPは430億円前後に止まるが、
県当局による人口誘致政策と深く関わっている
ばより高いGDPと生産能力の予測値を得るこ
産業基盤投資のケースでは約860億円と増加し、
ことが後で示される。
とができる。
運輸・通信基盤のケースでは1,820億円前後に
ーションである。
以上11個の政策シナリオを要約したのが図
最後に2つの物価決定関数と地価決定関数が
ところでこの標準予測に用いた外生変数を標
まで増大する。いずれのケースも民間設備投資
導入され、物価については県のGDPと生産能
準予測値の近傍で修正し、新しい内生変数の予
が大幅に誘発されるが、最後のケースの場合に
力の比としての稼働率と単位賃金コストによっ
測値を標準予測の内生変数と比較する方法が以
は時間的距離の短縮効果が強く働き、この結果
て決定され、地価は一般物価と土地需要(住宅
下に示す政策シミュレーションないし政策シナ
500億円の公共投資は10年後でも約3倍以上
ストックと民間資本ストックの2要因)によっ
リオの分析である。今回は前述のように3種類
のGDPを生み出している。ただし県民経済計
て説明している。なお物価関数のうち消費者価
の政策シナリオの計算が行われた。
算ベースで災害復旧用の公共投資の増加調整後
格についても時間的距離を流通システムのコス
ト低下要因として追加的に導入している。
第1のグループは新潟県が単独に行う公共投
では2.5倍である。いずれにせよ、公共投資の
資の効果を見るもので、前述の4つの公共投資
乗数効果では運輸・通信基盤、産業基盤、農林
を毎年500億円ずつ14年間増加させて、その
基盤、生活基盤の順で効果は小さくなっている。
176本で、需給の自動的調整メカニズムを伴う
結果(標準予測からの乖離額およびその百分比)
なお運輸・通信基盤の公共投資は県の生産能力
動学的な中期多部門モデルで、特に地域モデル
を計算している。第2のグループは世界モデル
に強い増大効果をもたらし、その額は約3,800
特有の時間的距離と人口移動が主要な役割を演
の中の日本経済モデルの公共投資を毎年4兆円
億円に達していることは注目に値しよう。この
じている。
ほど10年間増加させ、新潟県もこれに応じてそ
種の供給能力の超過分は他の需要拡大策(減税、
最後にこの新潟モデルを補強する意味で、県
の増分の比率を毎年同率に増加させて経済を拡
生活基盤投資、住宅投資など)によって吸収さ
内6地域についてサブモデルの開発が行われた。
大させたケースである。この場合、日本モデル
れる必要が生じており、この需要面の追加分を
この地域区分は新潟、長岡等の中越、下越、魚
の影響をうけて新潟県に対する移入需要も増加
考えるとさらに投資の所得効果は増加する。
沼、上越、佐渡の6地域である。各地域のシェ
し、新潟県経済を拡大させる。従ってこの外部
次の全国ベースの公共投資や規制緩和の政策
アの変動を生産と人口の両面から解明するのが
からの需要効果と県自身の行う公共投資効果と
シナリオは当然ながら県単独の公共投資を上廻
目的で、まず生産のシェアを求め、次にこの生
が合成されて大きな内需拡大の経済効果がもた
っている。規制緩和は緩和幅を6年後の目標に
産のシェアと追加要因によって人口のシェアを
らされる。次に同様の合成型シナリオとして日
向かって徐々に高めて行くので、当然「尻上り」
決定することがねらいである。最初の生産シェ
本経済全体で規制緩和が行われるケースが取り
型のタイムパターンをとっている。6年後のG
アは、県ベースGDP、公共投資、為替レート、
上げられる。この場合、新潟県についても同様
DPの増分は約5,500億円で率にして6.1
時間的距離、などが用いられ、次の人口シェア
の幅で規制緩和が行われるので、前の全国ベー
%に達している。特に住宅投資、民間消費、民
は上記の生産シェアのほかに公共投資、時間的
スの公共投資と同様合成された経済効果が表わ
間設備投資の誘発効果は大きい。
距離がさらに追加して推定が行われている。ま
れる。
この場合、規制緩和の幅は6年後の目標に
対日輸入の効果は、中国、韓国、ロシアで比
だ実験的色彩が強く、特に生産データは時間も
向かって徐々に拡大していくので、経済効果は
較すると、中国は韓国を上廻る傾向を示してい
短いので、さらにデータ面の強化によってモデ
最初は小さいが6年後には大幅な生産の拡大が
る。一方、ロシアはアメリカの加速型シナリオ
ルの精度を高める計画である。ただ試算として
もたらされる。なおこの計算に用いた緩和の幅
と同じ強力な経済効果を新潟県経済にもたらし
標準型の2010年までの人口モデルの予測が行
は経済企画庁の中期多部門モデルのシミュレー
ていることが分かる。中国への新潟県からの輸
われ、魚沼と上越にややシェアの上昇の兆しが
ションに使用された幅を採用している。
出増による生産効果は繊維製品、鉄鋼、非鉄、
以上が新潟モデルの概要である。方程式数は
表われている。上越は今後の日本海国土軸の発
第3のグループの政策シナリオは北東アジア
一般機械、電気機械、精密機械などが特に目立
27
しておく必要があるだろう。
った伸びを示している。これに対して韓国の場
空洞化を呼ぶマイナスの相乗効果にも発展する
合には生産の反応はやや異なり、中国型の反応
危険もはらんでいる。いずれにせよ魅力的な都
第3は定住人口の誘致策の一環として前述の
のほかに、紙・パルプ、化学、石油製品、ゴム
市づくりや学園誘致による学生人口(留学生を
ような魅力的な教育・文化・環境のモデル都市
製品など素材関連部門の反応も高いことがその
含む)の増大、北東アジアからの大幅な人材の
づくりを推進することである。海外からも学生
特徴である。ロシアの場合は、生産の反応は、
誘致など、人口増加の相乗効果はグローバル時
・研修生を始め多くの専門家を擁する国際的都
繊維製品、鉄鋼、非鉄、一般機械、電気機械、
代の地方自治体にとって重要な戦略と考えられ、
市として成長すれば、新潟県の人的資源の増加
精密機械などで目立っており、中国と比較的類
その経済効果は大きい。
と需要の拡大に貢献する。4万人の人口増加は
10年後のGDPを約2,100億円、乖離率で2.2
以上の11箇の政策シナリオはより内容豊か
似したパターンが見られる。
%引き上げることとなろう。
以上の対日輸入増加のケースでは新潟県経済
な政策的メニューづくりのための素材的シナリ
の生産の増大はまだ必ずしも大きくはないが、
オで、これらを組合わせて以下のような北東ア
第4は日本海沿岸の10道県を連結する日本
対岸諸国の経済開発が日本を含む関係諸国の支
ジアとの交流促進のメニューをつくることもで
海国土軸の構想の実現で、そのシナリオ分析は
援のもとで成功を収め、対日輸入自体が加速し
きる。
将来の課題になるが、日本列島を南北に走る縦
たことを前提としており、一種の溢出効果で利
第1は日本海の国際的物流と人的交流のため
の動脈を日本海沿岸で数本束ねると前述のよう
の拠点として国際的ハブ空港や新鋭の港湾施設
に大陸経済圏とのネットワーク型の交流が促進
新潟県側でこの北東アジアとの交流の拡大に
の建設で、最低2兆円(7年間)の公共投資が
される。この場合現在縦の動脈の拠点地域の1
刺激され、港湾や空港関係の国際的プロジェク
必要となり、その乗数効果を考慮するとGDP
つである新潟県経済圏に対しては、直接・間接
トをさらに拡大するとすれば、北東アジア開発
は7年間で累積5兆円に達する。このため長期
の経済効果が著しく増大することが予想される
は第2次効果としてさらに日本海沿岸地域の公
の成長率は0.8%加速する結果となる。
のである。
益が還元すると見ることもできよう。
最後にモデル分析の今後の主要課題であるが、
第2は日本の輸出市場としての北東アジア諸
共ならびに民間投資を誘発することとなり、溢
国の見通しで、新潟県から見れば今後10年間、
新潟モデルのマクロブロックの財政と人口セク
中・韓・露3ヶ国向けの輸出拡大の可能性は大
ターの強化、6地域サブモデルの改善、日本海
10年後の人口増加1万人の目標は毎年の1千
きい。上記のシナリオからも、仮にこの3ヶ国
沿岸道県モデルの横の連携の強化、北東アジア
人の人口誘致の累積効果が住宅投資や消費の拡
向けの輸出が増大し続けて2006年には標準予
の貿易を含む多地域・局地型モデルと新潟モデ
大をもたらし、さらに新しい人口の流入を促進
測よりも250億ドル前後に増加すると仮定すれ
ルとの連携などが挙げられる。この研究の成果
する結果、4年目ですでに目標を達成し、最終
ば、その年の新潟県のGDPは927億円、乖離
によって将来日本海経済圏のよりきめ細かく説
年次には実に4.8万人の人口増が実現する結果
率にして1.0%ほど上昇する。ただし、この輸
得性の高いシナリオづくりがさらに前進するも
となる。この「人口が人口を生む」増加のメカ
出収入を確実なものとするためには日本海側か
のと期待される。
ニズムは逆に作用すると人口の流出が過疎化、
らの北東アジアへの経済支援は相当程度積極化
出効果はさらに拡大する結果となる。
最後に人口増加の誘致政策シナリオであるが、
③政策シミュレーションの比較 GDPの誘発額(1985年価格)
IGA+500億円
600
IGI+500億円
600
(10億円)
(10億円)
500
500
500
400
400
400
300
300
300
200
200
200
100
100
100
0
1997
2000
2003
2006
IGL+500億円
600
IGT+500億円
600
(10億円)
0
600
1997
2000
2003
2006
全国公共投資4兆円
(10億円)
0
記号の説明
IGAは、公共投資(農林水産業向け)
IG I は、公共投資(産業基盤整備向け)
IGTは、公共投資(運輸・通信基盤整備向け)
IGLは、公共投資(生活基盤向け)
1997
2000
2003
2006
規制緩和
600
(10億円)
600
(10億円)
500
500
500
500
400
400
400
400
300
300
300
300
200
200
200
200
100
100
100
100
0
1997
2000
2003
2006
中国GDP+1%
60
0
1997
2000
2003
2006
韓国GDP+1%
60
(10億円)
0
60
1997
2000
0
2002
米国GDP+0.5%
(10億円)
60
(10億円)
50
50
50
40
40
40
40
30
30
30
30
20
20
20
20
10
10
10
10
28
1997
2000
2003
2006
0
1997
2000
2003
2006
0
1997
2000
2003
2006
1997
2000
2003
2006
ロシア対日輸入比率中国並
(10億円)
50
0
人口増加+1000人
(10億円)
0
1997
2000
2003
2006