2.妊娠期の管理

○妊娠(交配後)16 日目
2.妊娠期の管理
2 回目の妊娠鑑定は、初回の 2 日後、交配から 16
日目に実施する。初回検査で受胎が確認された場合
は、2 日前の前回に比較して胚胞が 7mm 程度発育し
ていることを確認する(この時期は、1 日当り 3~
1)妊娠鑑定
- ポイント☝ -
○超音波検査による妊娠鑑定の実施時期
① 妊娠(交配後)14 日目
・受胎および双胎の有無の確認
② 妊娠(交配後)16 日目
・胚胞の発育状態の確認、シストとの識別
・双胎の有無の確認
・不受胎の場合は卵胞の発育状態を確認
③ 妊娠(交配後)35 日目
4mm ずつ発育する)。発育が低調な場合は、早期胚
死滅の可能性がある。初回検査時に胚胞とシストの
識別が困難であった場合は、シストは大きさが不変
であり、移動しない点に注意して識別する。また、
双胎の有無も再確認する。
一方、初回検査時に胚胞が確認できなかった場合
は不受胎を再確認し、次回発情での交配に備え、卵
胞の発育状態を確認する。
10mm
10mm
・胎子心拍の確認
・早期胚死滅の場合は PGF2α の投与
④ 妊娠(交配後)49 日目
・胎子心拍の確認
・最終の妊娠鑑定検査
超音波(エコー)検査の普及により、交配後 14 日
目の妊娠鑑定が可能となった。この検査は、生産効
率を向上させるために不可欠である。また、胚胞の
着床時期は受精後 37~40 日であり、長期間にわたり
左:交配後 14 日目の胚胞(直径 20mm)
不安定な状態が継続する。この期間における胚胞の
右:交配後 16 日目の胚胞(直径 27mm)
消失、すなわち「早期胚死滅」の発生率は、6~9%
であるといわれている。したがって、交配後 14 日目
の検査において妊娠が確認された後も、着床時期で
ある 40 日後までは、定期的な検査が必要である。
○妊娠(交配後)35 日目
3 回目の妊娠鑑定は、交配から 35 日目に実施する。
交配から 26 日目以降には、尿膜および胎子の認識が
可能となるため、この妊娠鑑定時には胎子の心拍動
を確認する。胎子の心拍動が弱い場合や、心拍数が
○妊娠(交配後)14 日目
初回の妊娠鑑定は、交配後 14 日目に実施する。こ
少ない場合は、早期胚死滅の予兆である可能性が高
いため、数日後の再検査が不可欠である。
の時期の胚胞は直径 16~20mm 程度あり、子宮内に
早期胚死滅が確認された場合、PGF2α の投与によ
浮遊しながら移動している。この検査においては、
る黄体退行処置により、発情を誘発できる可能性が
双胎の有無を確認する。この時期の胚胞は定着して
高く、同一シーズン内の再交配が可能となる。した
いないため、人為的な破砕が比較的容易であり、双
がって、交配後 35 日目の妊娠鑑定は、経済的な観点
胎の確認時に的確な減胎処置(胎胞の片側に対する
から重要な検査といえる。
破砕処置)が実施できるからである。また、子宮内
にシストが存在する場合は、胚胞とシストの識別が
必要である。
○妊娠(交配後)49 日目
超音波検査による最終の妊娠鑑定は、交配から 49
日目に実施する。この検査も前回と同様、胎子の心
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拍動を確認する。この時期は、すでに着床が開始し
ており、着床の有無、副黄体形成不全による胎子の
死滅や異常の有無を確認する。また、この時期に胎
子の生存が確認できた場合、子宮内シストの存在下
においても、早期胚死滅が発症する可能性は極めて
低いことから、最終の妊娠鑑定とする。
左:同時期に 2 個の排卵となった双胎(大きさが同じ)
右:1 日遅れて 2 個の排卵となった双胎(大きさが異なる)
10mm
10mm
左:交配後 35 日目の胎子(全長 15mm)
右:交配後 49 日目の胎子(全長 44mm)
2)双胎時の減胎処置
- ポイント☝ -
・双胎妊娠は流産のリスクが高いため、早期診断
および早期の減胎処置の実施が望ましい。
・双胎確認のためには、交配後 14 および 16 日目
左:子宮角の先端に、片方の胚胞のみを誘導した状態である。
右:破砕直後の子宮には、貯留液が確認できる。
の超音波検査が不可欠である。
軽種馬生産において、双胎は流産を発生しやすい。
また、分娩時まで無事に成長したとしても、難産や
未熟子である可能性が高い。さらに、僅か1%の確
率で無事に生まれたとしても、競走馬としての十分
な発育は期待できない。このように、双胎は経済的
に大きな損失をもたらすことから、早期に双胎の有
無を確認し、減胎処置を実施する必要がある。
胚胞は交配後 16 日目まで子宮内を浮遊している
ため、容易に移動させることが可能である。しかし、
それ以降は、胎胞が子宮角基部に固着して減胎処置
が困難になるため、交配後 14~16 日目に、必ず妊娠
鑑定を実施する必要がある。特に、交配前に 2 個の
排卵が確認されている場合は、交配から 14 日目まで
に初回の妊娠診断を実施し、その 1~2 日後の再検査
が不可欠である。
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3)早期胚死滅(Early Embryonic Loss)
年齢の要因はやむを得ないが、エネルギー要求量
- ポイント☝ -
に見合った適切な飼養管理を実施するとともに、分
・早期胚死滅は、高齢(15 歳以上)、不適切な栄
娩後の初回発情での交配を見送ることが推奨されて
養管理、あるいは分娩後の初回発情での交配に
いる。
よって発症しやすい。
・早期胚死滅の診断においては、交配後 35 日目
の妊娠鑑定が極めて重要となる。
交配後 40 日目までに胚胞が消失する現象は、「早
期胚死滅(EEL:Early Embryonic Loss)」と呼ば
れている。
日高軽種馬防疫推進協議会の調査では、交配後 15
~35 日間に 5.8%、米国ケンタッキー州での調査で
は、交配後 15~35 日間に 9.5%の早期胚死滅が発生
することが報告されている。なお、前者における流
産率は 8.7%であり、母馬の死亡を含め、初回の妊娠
鑑定によって妊娠と診断された馬の 14.7%が、分娩
までに至っていない。
初回妊娠鑑定で妊娠と診断された馬の流産率
(日高軽種馬防疫推進協議会による調査)
馬の早期胚死滅率が高い原因は、交配後 40 日まで
胚胞は着床せず、不安定な状態が継続するためであ
ると考えられている。早期胚死滅が確認された場合
は、PGF2α の投与による黄体退行処置によって再発
情を誘発できる可能性が高く、同一シーズン内に再
交配できる。このため、交配後 35 日目の妊娠鑑定が
極めて重要となる。一般的に早期胚死滅は、以下の
条件において発生しやすいと考えられている。
① 高齢(15 歳以上)
② 体重や BCS の低下
③ 分娩後の初回発情での交配による受胎
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4)妊娠初期(授乳期)の栄養管理
~12 週以降は急激に減少する。このため、エネルギ
- ポイント☝ -
ー摂取量も減少させる必要がある。その後、離乳が
○妊娠初期(授乳期)の栄養管理
近づくにしたがって、さらに仔馬の母乳摂取量は減
・出産後 8 週までの授乳初期は、エネルギー要求
量が最大となり、授乳後期のそれは減少する。
少し、離乳後は泌乳のためのエネルギー摂取が不要
となる。
○授乳期の注意事項
仔馬の母乳摂取量は、青草やクリープフィードな
どの母乳以外から摂取されるエネルギー量に、大き
く影響されることを理解する必要がある。クリープ
フィードや青草からのエネルギー摂取量の増加に伴
い、母乳の摂取量は減少する。この場合は、母馬の
エネルギー要求量も減少するため、BCS を観察しな
がら、給餌量を減少させる必要がある。
また、1~3 月の出産と 4~5 月のそれとでは、青
草からのエネルギー摂取量が著しく異なることを考
慮し、授乳初期の給餌量を決定する。1~2 月の出産
馬は青草を摂取できないため、乾草および濃厚飼料
20
によるエネルギー供給が不十分な場合は、容易に削
痩する。一方、昼夜放牧を実施している 4~5 月の出
乳摂取量 (kg/day)
18
産馬は、青草からのエネルギー摂取が十分であるた
16
め、規定の濃厚飼料の給餌でも容易に肥大する。こ
14
の場合は、青草の摂取によってアンバランスになる
ミネラルの補給が必要となる。すなわち、早生まれ
12
の場合は授乳前期の母馬のエネルギー不足に、遅生
10
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
週 齢
まれの場合は授乳前期の母馬のエネルギー過剰、お
よび適正なミネラルバランスの維持に注意する必要
仔馬の母乳摂取量は、週齢とともに低下する。
がある。また、授乳期はエネルギー要求量以外に水
(日高育成牧場における調査)
分の要求量も増加する。特に、泌乳量が多い授乳前
○授乳初期(出産後 8 週間)の栄養管理
仔馬の栄養源となる母乳を分泌する授乳期には、
エネルギー要求量が著しく増加する。仔馬の母乳摂
期は、1 日当り 50~70ℓを飲水するため、馬房内はも
ちろん、放牧地においても十分な飲水を可能にする
設備が必要である。
取量は、出産1週後に最大に達し、1 日当りの総泌乳
量は 19kg である。
授乳初期は各ステージの中で最大のエネルギー要
求量となり、一般的なサラブレッド種(出産後体重:
570kg)では 31Mcal に達する。これは胎子が急成長
する妊娠後期に比較して、エネルギー要求量は 25%、
タンパク質の要求量は 45%増加するからである。
○授乳中・後期(出産後 2~6カ月)の栄養管理
仔馬の母乳摂取量は個体差がみられるが、出産後 8
14
5)妊娠中期の栄養管理
6)妊娠後期の栄養管理
- ポイント☝ -
- ポイント☝ -
・妊娠中期(離乳後~分娩 3 か月前)のエネルギ
・妊娠後期(分娩前 3 ヶ月)から、エネルギー摂
ー供給は、維持量で十分である。
・胎子の骨格を形成するミネラルの供給が、不可
欠である。
取量を増加させる(DE:25Mcal)。
・濃厚飼料の給餌を減少させるため、植物油やビ
ートパルプの併用など、線維質の高い配合飼料
を効果的に給餌する(粗飼料率 50~70%)。
・妊娠後期には、サプリメントの給餌などによる
十分なミネラル供給が不可欠である。
妊娠中期(離乳後~分娩前 3 カ月)は、泌乳のた
めのエネルギー供給が不要になるため、概ね維持量
の供給で十分である。一方、胎子の正常な骨格形成
のため、十分かつ適切なバランスのミネラルの供給
が不可欠である。
胎子は妊娠期間の最後の 3 カ月間で著しく発育し、
この期間は昼夜放牧が可能であるため、放牧地に
発育量は全体の 60~65%に達するため、妊娠後期
おいて十分量の青草を摂取できる場合は、サプリメ
(分娩前 3 ヶ月)はエネルギー摂取量を増加させる
ントの給与のみによって適切な BCS を維持できる。
必要がある。妊娠後期の一般的な繁殖牝馬(出産前
この時期の濃厚飼料の多給は、過肥の原因となり、
体重:640kg)のエネルギー要求量は、25Mcal に達
蹄疾患などの発症リスクが増加する。このため、ミ
する。エネルギー要求量の増加から、濃厚飼料の給
ネラルバランスを重視した飼料給与を心がける必要
餌割合を増加させる傾向がみられるが、疝痛や胃潰
がある。
瘍などの消化器疾患を予防するためには、少なくと
も総飼料の半分以上の粗飼料を給餌する必要がある。
また、エネルギー源として植物油やビートパルプの
併用、線維質が高い配合飼料の効果的な給餌が推奨
される。一方、この時期には胎子の急成長により、
胎子や羊水を含む子宮が膨化して消化管を圧迫する。
このため、消化管の容積を増加させる粗飼料の給餌
量は、全投与量の 70%程度に留める必要がある。
妊娠後期にはエネルギー摂取量を意識しがちであ
るが、胎子の正常な骨格形成のためには、繁殖牝馬
に対する十分かつ適切なバランスのミネラルの供給
妊娠馬の過肥は、裂蹄などの蹄疾患を発症しやすい。
が不可欠である。この時期には骨を形成するカルシ
ウムのみならず、銅、亜鉛、マンガンなど、軟骨あ
るいは骨代謝に関わる微量元素の供給が重要である。
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一般的な飼料であるエンバクや乾草のみでは、ミネ
ラルが不足するため、ミネラル含有量を増加させた
配合飼料やサプリメントの供給が不可欠である。
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7)流産
や双胎妊娠による流産の場合は、分娩直前と同様に
- ポイント☝ -
乳房の腫脹や時には漏乳など、流産の前兆が確認さ
・馬鼻肺炎の予防のためには、ワクチン接種が推
れることがある。特に、双胎妊娠時に片方の胎子が
奨される。
・妊娠後期には、上がり馬や育成馬と接触させな
いよう心がける。
・流産の発生時には、伝染性であることを前提と
する対応によってウイルスの拡散を防止する。
死亡した場合は、その後、数週間にわたって乳房の
腫脹、漏乳が認められることがある。このような乳
房の腫脹が認められる場合は、胎盤の感染や損傷が
疑われるため、早急に獣医師の診断を受ける必要が
ある。
○流産の対処法
流産が発生した場合は、馬鼻肺炎ウイルス、ある
いは馬パラチフスなどの伝染性疾患の可能性を前提
に、対応する必要がある。
① 流産胎子および母馬に触れる前に、獣医師に連絡
する。その後、馬房前に逆性石鹸などの消毒液を
入れた消毒槽を設置し、馬房に出入りする際は、
必ず消毒槽で長靴を消毒する。
妊娠中期に発生した羊膜に包まれた流産胎子
日高軽種馬防疫推進協議会の調査においては、妊
娠 5 週目の最終妊娠鑑定から出産までの流産の発生
厩舎前の踏込み消毒槽と手洗桶
率は、8.7%であるとしている。
○流産を誘発する主な原因
①ウイルス感染
②細菌感染
③真菌(カビ)感染
④双胎妊娠
⑤臍帯捻転による酸素供給の低下
② 流産胎子と胎盤を処理するスタッフは 1 名に限
定し、この担当者が流産胎子および胎盤をプラス
チック製の密閉容器に入れる。また、羊水が付着
したと考えられるすべての場所を直ちに消毒す
る。
⑥母体および胎子のホルモン分泌の低下
○馬の流産
通常、胎盤内に微生物やウイルスは存在しない。
しかし、母馬の感染によって微生物やウイルスが胎
盤関門を通過し、胎子に感染する場合がある。胎子
は免疫機能を有していないため、しばしば感染によ
流産後の消毒に推奨される希釈倍率
って流産が引き起こされる。また、胎盤の細菌感染
③ その後の胎子処理は、獣医師あるいは管轄家畜保
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健衛生所の指示に従う。
○馬鼻肺炎ウイルス(ERV)による流産予防
④ 流産した牝馬および羊水が付着した寝藁は、他の
妊娠馬に接触しないように処理する。基本的には、
●胎齢に合わせて、不活化ワクチンを 3 回(妊娠
流産した牝馬を馬房から出すことなく、少なくと
7、8、9.5 ヶ月目)接種する。
もその両隣の妊娠馬は他の馬房に移動させる。
⑤ 馬房内の藁、特に羊水で濡れた藁は、十分に消毒
液をかけて堆肥下に埋めるなど、適切に処理する。
⑥ 流産の原因が非伝染性であることが判明するま
で、特定の1名のスタッフのみに、流産した牝馬
●未経産馬(あがり馬)は環境の変化などによる
ストレス、育成馬は初発感染によって馬鼻肺炎を
発症しやすい。未経産馬や育成馬と妊娠後期の繁
殖牝馬の接触を回避するためには、両者の隔離飼
育が不可欠である。
の手入れや馬房清掃などを担当させる。また、作
業中は作業着を着替え、他の妊娠馬への伝染の予
防に努める。
⑦ 作業着は他の作業に使用せず、必ず消毒後に洗濯
する。
●妊娠後期の放牧群の入れ替え、長距離輸送、あ
るいは給餌量などの飼養管理の著しい変更は可能
な限り控え、ストレスを最小限に抑止する。
流産胎子および胎盤は、必ず密封容器に入れる。
馬鼻肺炎による流産胎子
○馬の流産予防
②乳房の腫脹などの流産兆候が認められた場合の処
①馬鼻肺炎ウイルスによる流産の予防
置
馬鼻肺炎は妊娠7~9ヶ月に発症しやすく、流産を
出産予定日の1ヶ月以上前に、乳房の腫脹や漏乳な
誘発させる最も警戒するべきウイルス感染症である。
どの流産兆候が認められた場合は、流産の予防を目
このウイルスによる流産は前兆がなく、突発性であ
的として抗生物質、非ステロイド性抗炎症剤、プロ
り、胎盤に損傷が認められない特徴をもつ。また、
ジェステロン製剤などを投与する。抗生物質および
このウイルスは感染後にリンパ節や神経内に潜伏し、
非ステロイド性抗炎症剤は、胎盤炎の治療として投
輸送や急激な気候の変化などのストレスにより、再
与される。一方、プロジェステロン製剤の有効性に
活性化して再発する特徴をもつ。さらに、このウイ
関しては、今後の調査が必要である。
ルスに対する免疫反応の持続期間は短期間であり、
このことが効果的なワクチンの開発を困難にしてい
る。現在の不活化ワクチンは、妊娠後期における3回
の接種が推奨されている。
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