1 長野式臨床研究会 平成 23 年 第 13 期 マスタークラス 大阪セミナーQ&A 第 2 回 23 年 3 月 27 日 テーマ「神経症」「心身症」 講師 長野康司 神経症と心身症 原則的には 特徴 神経症 心で起きる「心の病」 (精神症状) 性格等により発病原因が異なる 他の病気と共存し病気に過度に心配 種類 不安神経症 パニック障害 強迫神経症 ヒステリー 社会適応 不適応 心身症 心で起きる「身体の病」 (身体症状) 精神的要因が強く関係する身体的病態 つまり、ストレスによる身体の不調 身体の障害は「機能的障害」~「器質的障害」 と、幅広い 過敏性腸症候群 過換気症候群 胃・十二指腸潰瘍 気管支喘息 心臓神経症 緊張型頭痛 比較的過剰適応 2 「神経症」の所見パターンと臨床的意味とまとめ 『神経症』症例 症例 タイプ 主訴 現病歴 随伴症状 脉状 所 腹診 火穴 見 局所 その他 順証逆証 処置 所見に沿っ て ポイント 経過 ①対人恐怖症(社会不安障害) 女性 29歳 無職 (「三十年の軌跡」P355) 不規則な生活と精神的不安からくる精神障害 人に会うのが怖く緊張する 東京の短大で友人できず内に閉じこもる→次第 に異常な言動多くなり→精神病院に入院(精神 分裂病と診断)→入退院繰り返し イライラ、倦怠感、無気力、頭痛 細沈遅(身体全体の弱りを現す) 特記なし 特記なし 特記なし 最大血圧 90mmHg 未満で低血圧症 昼夜逆転生活で不規則、食欲も無い 両親多忙で家族の触れ合いもなく家庭内も孤独 脉は虚、症状も虚、腹火穴なしで「順」 ①照海・兪府・天牖・手三里(SU 天三)・百会に留鍼 し胃の気3点(弱っている身体に力を) ②次髎・大腸兪・魄戸・膏肓(副交感神経・心・肺) ③C7.T1.2.9.10.11.L2 横 V 字 (脳・肝・胆・膵・腎) ④郄門・内関(弱い流れを鼓舞させる) ①「規則正しい生活」 「バランスのとれた食事」 「家族のふれあいをもっと大事に」指導が奏功 ②「両親多忙」「小さい頃から放任」「母親優し すぎ」 「子供の将来に期待しすぎ」等でも発症 しやすい ③本人の「心の持ち方や考え方」 家族に「本人にとって今何が一番大切か」 を十分理解してもらうことが重要 1回で症状軽減、期待が持てる その後だんだん改善され1ヶ月で症状消失 前向きな姿勢になってきた ②強迫神経症(強迫性障害) 女性 40歳 主婦 (長野康司先生症例) 真面目で几帳面な性格からくる症状 何をしても何度も確認、不安でふさぎ込む 結婚後生活が一変→ご主人とも些細なトラブ ル→10年以上人に会いたくない、ふさぎ込 む→確認動作増え→精神科で強迫神経症→薬 効果ない 視線恐怖(人の視線が気になる) 緊数(性格からの自律神経の脉で変わらない) 特段圧痛は無い 特段圧痛は無い 胸鎖乳突筋硬化、脛骨外縁狭小 真面目で几帳面な性格、完全主義者、学生時 代成績優秀 不安が強いのか落ち着きが無い 脉は実、腹火穴なしで「逆」治りにくい ①復溜・兪府・天牖・手三里(FU 天三)15 分留鍼 ②扁桃処置 ③胃の気 3 点 ④自律神経調整 3回目~次髎灸頭鍼 (副交感神経鼓舞させる) ①神経症の「緊数」は治療をしても大きな変 化は無い。 ②カウンセリング「森田療法」 「とらわれ」から自由になることで、不安 をそのまま受け止めて、身近な所から変え ていく。 ③セロトニンの関与なので、副腎処置は必須、 自律神経調整処置も大事 治療は長期に渡ったが、治療と並行してカウ ンセリングで、だんだん変わってきた。 3 『神経症』の臨床的パターンとキーポイント 脉状 腹診 火穴 その他 特徴 処置 森田療法 「細沈遅」や「緊数」等、虚実両方出る為定型化できない 特段反応無いが、神経過敏な人は「臍動悸」が臍の上下に出る はっきりした反応は無い 「うつ病」ほどのポーカーフェイスは無いが、生気が足りない感じを受ける 「不安神経症」→対象が明確でない恐れの気持ち 「対人恐怖症」→対象が不安神経症よりはっきりしている 「強迫神経症」→他人を責める(我が強く周りが悪い) 「うつ病」は、→自分を責める(前回セミナー) ・神経症もセロトニン等の分泌不足によるとみられているので「うつ病」の処置に準ずる ・ 「副腎処置」「自律神経調整処置」を主体に治療を組み立てる これらは、内分泌・自律神経の中枢である視床下部に働きかける ・他には森田療法で、これは「生活の建て直し」が主眼で、「今のままを受け入れる」こ とと、「身近なことから実践していく」 「強迫神経症」以外の「対人恐怖症」や「不安神経症」 「パニック障害」にも効果がある 『森田療法とは?』 森田正馬(1874~1938)東京慈恵医科大学初代精神科教授の考案 「森田療法」とは、彼自身が大学時代に「神経質症」に陥り、自力でそれを克服した体験 をもとに、様々な精神療法を学び、試行錯誤のうえ独自に編み出した治療法をいう。 「欧米の精神療法」は、不安や症状を病的な異常とみなし、取り除こうとする。 「森田療法」は、不安があるのは人間として自然なことだと認め、不安との共存を目指す。 そして、不安の裏にある「生の欲望」に目を向け、その欲望にのって今の自分を現実世界 で生かしていこうとします。不安や症状は、こうした努力を積み重ねていく過程で次第に 小さくなっていくのです。 近年になって、森田療法は日本独自の療法として、広く海外でも注目を集めるようになり ました。 *追加「内容で主な事柄」 「今、ここ、このままで」 (「あるがまま」に生きる、「自然に服従して」生きる) 「性格を生かし、新しい自分で生きる」 (もって生まれた性格はそのまま生かし、新しい人生観のもとで自分を発揮していく) 「本当の自分を知る」 (悩みをとおしての「自覚」そして「気付く」ということが大事である) 「悩みには意味がある」 (悩みの裏にひそむ前向きなエネルギーに目を向ける) 「迷いからの脱出」 (迷いの土壌となる性格傾向、ものの見方の癖を考える) 「実際に当たる」 (生活の中で、仕事の中で、目の前の物事に対処する) これらの内容は「現代に生きる森田正馬のことばⅠ・Ⅱ」(白揚社)より引用しました。 他にも「森田正馬全集」 「森田療法のすすめ」などなど数多くの出版がありますので、興味 のある方は是非ご一読ください。 4 『質問 01』 症例 1 の神経症で、「細沈遅」で始めに「副腎処置」をもっていっています が、「三陰交・陰陵泉・労宮」を始めに処置をしてもいいのでしょうか? 「返答 01」 この場合「細沈遅」で、脉が触れるのが分かる。「弱短」の脉はもっと弱く 殆ど触れないので「三・陰・労」と「百会」を使います。症例 1 はそこまで弱 くないので、始めに「副腎」と最後に「郄門・内関」を使いました。もし「弱 脉」であったら、「三・陰・労」を使っていたと思います。 『質問 02』 「百会」は留鍼をしないと聞きましたが、留鍼してもよいのですか? 「返答 02」 留鍼との使い分けは、頑固で慢性化している場合は留鍼してもいいです。そ して「頭部瘀血」がある場合は「瀉鍼」で留鍼はしません。 『質問 03』 症例 2 の処置の中に「FU天三」に 15 分留鍼していたのに、 「扁桃処置」を 追加して書いてありましたが、この処置は「FU天三」以外でどうやるので すか? 「返答 03」 まず、「FU天三」15 分留鍼の時は他の処置をやらないです。この症例はま さに戦いでしたので、頑固な状態を変えていくためにとりあえず留鍼して、 その後「扁桃処置」をやっていったのです。 症例 1 は先代の症例で、時間設定していない為、同時進行でやったと思いま す。 頑固で慢性化したものには留鍼したほうが良いです。 5 『心身症』症例 症例 タイプ 主訴 現病歴 既往歴 随伴症状 所 脉状 腹診 ③心身症 女性 22 歳 塾講師(長野康司症例) 心に原因する身体症状、神経過敏体質 左半身の強張り、違和感 学生生活→塾に就職(3ヶ月前)→その日にパニ ック障害発症→内科で治療→1週間後再発→仕 事復帰するも勤務がハード(9~23 時)→1ヶ月 前から発熱、喘息症状→胃薬、安定剤服用中で この1週間休んでいる→来院 大学時代に過敏性腸炎(心身症では出やすい) 左手足に軽い痺れ、微熱(37.4℃)、食欲不振、 不眠、胃もたれ、立ち眩み、吐き気、左こめか み痛(心身症は随伴症が多いのも特徴) やや緊(自律神経失調症の脉) 右天枢(+)(肺実) 見 火穴 局所 然谷(+) 、陰陵泉(+) (交感神経緊張) 天牖(+) (口蓋扁桃) 左脛骨外縁狭小強い(胃の気の流れが悪い) 胸鎖乳突筋緊張左>右(左半身の緊張、右も) その他 左耳下リンパ腺腫れ、圧痛(免疫力低下) 全体的に左半身の筋肉が硬い(他覚的にも反応) 順証逆証 脉は実、腹も実、症状も実で「順」 ①扁桃処置(天牖、リンパ腺より) 処置 所見に沿っ ②筋緊張緩和処置(胸鎖乳突筋緊張により) ③自律神経調整処置(脉状、火穴、症状より) て ④胃の気3点処置(脛骨外縁狭小により) ⑤肺実処置(右天枢により) ポイント ・自由な環境から一変して拘束の長い環境へ、 順応しきれずパニック障害発症 ・心に原因、身体に症状が出る典型的心身症 ・学生からの過敏性腸炎は前から神経過敏体質 ・違う環境で多忙、心身共に疲れ果てた ・始めはパニック障害→発熱→半身強張りと、 警告サインを身体は出し続けた ・自律神経失調→リンパ性器官の口蓋扁桃に反 応→耳下リンパの腫れ→胸鎖乳突筋緊張へと 繫がる(所見に全て現れている) ・自律神経、免疫、筋緊張が治療の中心となる 経過 初回術後→翌日→7 日目→13 日目と症状が好転 していった。最初の好転は、自律神経の反応で ある「然谷」(-)からどんどん好転に向かった ④心身症 男性 65 歳 公務員(長野康司症例) ストレスを貯め込んで様々な症状を発症 吐き気、食欲不振 子供の事で嫌なことがあり→3 週間前より発 症→2 週間前からやけ酒、食事は美味しくな い 35 年前虫垂炎、2 ヶ月前大腸ポリープOP 胃もたれ、胸焼け、イライラ、めまい、寝つ きが悪い、頭痛(この場合も随伴症は多い) 弦やや数(肝胆の実、自律神経の脉状、脾虚) 右天枢(+)(肺実) 右季肋部・期門(+)(GOT・GPT の反応出る肝実) 右心窩部(+)心は「火」に属しイライラを現す 圧痛なし 特に反応なし GOT・GPT(正常値 5・10~40IU/ℓ)が 60~90 IU/ ℓ 脉は実、腹も実、症状も実で「順」 ①扁桃処置(基本処置、右天枢(+)により) ②自律神経調整処置 (弦やや数の脉状により) ③肝実処置(右季肋部・期門・右心窩部(+)と GOT・GPT の高数値により) ④肺実処置(右天枢(+)により) ・ストレス貯めこみ→様々な症状発症(心身 症の典型) ・急性ゆえに→体の反応がいたる所に出た (弦数・右季肋部・期門・右心窩部) ・初回に多くの反応がとれたのは ①証(所見)に処置が合っていた ②鍼に対する感受性(個別的)がよかった ③脉・腹・症状が共に実で順であった ・肝機能の異常も所見に現れている 左天枢の反応よりも、期門や季肋部に反応 が出ていた 計3回の治療で各症状消失 『心身症』の臨床的パターンとキーポイント 脉状 腹診 火穴 その他 特徴 処置 「緊」「弦」を打っている。ストレスを抱えているので「実的な脉状」になるようだ 「神経症」と違い、「天枢」やその他の腹部の反応がはっきりと出る 「然谷」の反応が出ることがある 「陰陵泉」や「胸鎖乳突筋緊張」がでることがある(交感神経緊張の反応) ・ 「神経症」と違って、身体の反応の変化が早い (症例 4)腹部の圧痛初回術後消失、 (症例 3)火穴の反応初回術後消失など ・ 「神経症」は精神症状の比重が大きい、「心身症」は身体症状の比重の方が大きい 「扁桃処置」「自律神経調整処置」を中心に、火穴反応を診て「気水穴処置」 どんな治療も同じだが、所見に沿っての処置の組み立てが大事になってくる 6 長野康司治療ノート 症例 主訴 現症 随伴症 所 脉状 腹診 火穴 見 局所他 順証逆証 処置 経過 ポイント ⑤「坐骨神経痛」 女性 79歳 左坐骨神経痛 1月に腰を痛め→左坐骨神経痛併発→薬あわな い体質で、整形外科で電気治療や牽引効果なし 夜中に 2,3 回トイレに起きる ⑥「頻尿」 女性 59歳 頻尿 2,3 年前から頻尿があり、3 年前に「神経 性頻尿」といわれる 5,6 年前「皮膚がん OP」 、半年前「乳がん OP」 、アレルギー性鼻炎 緊(痛みの脉) 血虚(血の力が弱い、冷えの脉) 水分過多で肥満体型 右天枢(+) 特記なし 特記なし 血圧正常、ラセーグ 90°上げても陰性 トイレに起きるので眠りは悪い 脉は緊、腹は肥満で実、症状実で「順」 脉は虚、腹は右天枢位で、症状虚「順?」 扁桃(基本処置) 扁桃処置・肺実(基本処置・右天枢) 下垂(肥満体型) 骨盤虚血処置(血虚) 左坐骨処置(坐骨神経痛に対して) 蠡溝・中極(膀胱に) 5回目(27 日目)までで大分よくなるが、無理し 1回の治療で「血虚」消失、治療毎に改善 て再発するも、改善できた して、4回(11 日目)でほぼよくなる ・高齢でもラセーグ陰性→変形が高度ではない ・2 回目の術前に脉が変わっていた ラセーグ検査は坐骨神経の神経根、椎間板等 ・鍼の感受性が良く治療後に改善 の伸展時圧迫刺激を診る ・神経性頻尿のアレルギー体質は比較的神 ・薬合わない体質→薬に頼れない→自分で治そ 経質タイプ うとする→身体が治癒力を高めていた ・神経性タイプ、アレルギー体質、ガン体 質の共存でも治りは早いのかと疑問が ・ガン体質でも脉の変化が早い場合は治り 方も早いといえるのでは (ただし、進行ガンの脉は変わらない) ・脉を診ることの大切さが分かる 7 「脉のイメージトレーニング」 頭の中で患者さんを診ている様にイメージしてください。 ・症例 1 の「細沈遅」 「細沈遅」は「虚脉」の典型的な脉状です。 「細」は、糸のように細い脉で、血流障害や冷え性を表わします。 「沈」は、「中位」と「沈位」で触れて、「浮位」では感じません。 逆に「浮」は「浮位」と「中位」で触れて、「沈位」では触れません。 「遅」は、1 分間に 60 拍以下の遅い脉状です。弱っている時に現れます。 ・症例2の「緊数」 「緊数」が、性格からきている場合はなかなか変わりません。 一時的に緩んだとしても、大きな変化はない。 ・症例3の「やや緊」 痛みの時にも現れるが、この場合は性格によるものなので自律神経を現す。 たくさんの脉を診ることで、色々な脉状が見えてくる。 ・症例4の「弦やや数」 「緊」より緊張が強い脉状で、浮中沈の三層にわたって緊張している。 奥が深い難症の人に現れる。 時に、熱がある場合にも現れる。 ・症例5の「緊」 この場合は、坐骨神経痛の強い痛みの時に現れる「緊」です。 ・症例6の「血虚」 浮中沈のうち、中がポッカリ穴が開いているような空洞のある脉状。 力のない「ネギ」を押しているような感じです。 血の巡りが悪い冷え性の脉状。 脉は、とにかく診ていくしかない。 そこに参加するしかない。 たくさん診ていけば分かってきます。 最初から名人はいません。 そして、これが皆さんの診断・治療に大きな武器になってきます。
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