19 原 聖マリアンナ医科大学雑誌 Vol. 30, pp.19–29, 2002 著 肝硬変に生じた小結節病変の推移 ──画像診断で肝細胞癌の診断に至らぬ結節についての検討── にしかわ こう じ すず き みちひろ まえやま し ろう いい の し ろう 西川 公詞 1 鈴木 通博 1 前山 史朗 2 飯野 四郎 1 (受付:平成 14 年 2 月 19 日) 抄 録 肝細胞癌(HCC)の早期診断は,画像診断で確定診断に至らぬ小結節病変については,細径針 による経皮的生検診断が積極的に行われている。今回,針生検による HCC 診断例,および HCC 非診断例の長期観察を行い,HCC 非診断結節の組織所見から HCC への進展を中心にその推移を 検討した。 対象は肝硬変に発生した画像診断で HCC の診断に至らぬ径 15 mm 以下の結節病変 31 例であ る。生検病理診断は,肝細胞癌(HCC),境界病変(Border),腫瘍成分なし(NO)の 3 つに分類 し,さらに Border を異型の程度により low grade dysplastic nodule(low grade DN)と high grade DN に分類した。生検による HCC の診断は,31 例中 6 例(19%)であり,いずれもウイルス性肝硬 変に生じた径 13 mm 以上の結節であった。Border の診断は 15 例であり,HCC への進展を認めた ものは C 型肝硬変に発生した径 11 mm 以上の 4 例(29%)であり,生検から 1 年以内であった。 4 例中 3 例は,異型の強い high grade DN であり,1 例は low grade DN であった。NO の診断は 10 例であり,HCC への進展は 2 例(20%)に認められた。Border および NO 例の長期観察では,生 検結節以外の他の部位から HCC の発生をみたものは,それぞれ 4 例(27%),2 例(20%)であっ た。アルコール性肝硬変の 6 例は,Border からの HCC への進展はなく,NO の 1 例が 4 年以上の 経過で HCC へと進展した。 ウイルス性肝硬変に生じた異型の高度な結節は短期間で HCC への進展が認められることから, 生検診断を得た時点での治療も考慮すべきである。さらに長期観察例では,他の部位に発生する HCC に対しても注意する必要がある。アルコール性肝硬変では生検診断と HCC への進展との関 係は明らかでなく,生検の適応につき検討が必要である。 索引用語 小結節病変,肝細胞癌,肝生検 はじめに 肝硬変を中心とした慢性肝疾患患者に対する定期的 1 聖マリアンナ医科大学 内科学教室(消化器・肝臓内科) (教授 飯野四郎) 2 聖マリアンナ医科大学 病理学教室 (教授 打越敏之) 超音波検査により,小さな結節病変が多数発見される ようになってきた 1)2)。これらの病変の確定診断は, 血流動態の評価を中心とした詳細な画像診断 3~6),さ 19 20 西川公詞 鈴木通博 ら Fig. 1 Histological appearance of well-differentiated hepatocellular carcinoma. (top: HE stain. bottom: silver impregnation) Fig. 2a Histological appearance of dysplastic nodule, low grade. (top: HE stain. bottom: silver impregnation) らには細径針による生検診断により肝細胞癌(HCC) 硬変の成因は,HBs 抗原陽性(B); 5 例,HCV 抗体陽 7) の早期診断が確立されている 。しかし,HCC の診 性(C); 18 例, (B+C); 2 例,常習飲酒者(日本酒に 断に至らぬ結節も多数認められ,その対応が問題と 換算し 1 日 3 合以上)で HBs 抗原陰性,HCV 抗体陰 なっている。今回,画像診断上確定診断に至らない肝 性の Alcohol(AL); 6 例である。平均年齢は 55.2 ± 8.0 硬変に生じた小結節病変に対し,生検診断による (34∼71)歳で,男性は 28 例,女性は 3 例である。生 HCC の診断例,および HCC 非診断例に対する長期間 検は超音波誘導下にて Majima needle(21G)を用いて の経過観察により,これら小結節病変の推移について, 吸引生検を行い,結節部 2 ヵ所,非結節部 1 ヵ所を採 検討を行った。 取した。なお,多発例では最大径を有す結節を生検し た。 対象および方法 生 検 病 理 診 断 は , 肝 細 胞 癌 ( HCC), 境 界 病 変 (Border),腫瘍成分なし(NO)の 3 つに分類した。 対象は 1993 年 4 月〜 1997 年 3 月の 4 年間で肝硬変 に発生した径 15 mm 以下の結節病変 31 例である。結 HCC は Edmondson 分類 I 型の高分化型肝癌(一部 II 型 節径の平均は 11.2 ± 2.5(7∼15)mm であり,単発は 27 を含む)(Fig. 1),Border は International Working Party 例,多発は 4 例である。これらの結節はいずれも超音 の分類 8) における Dysplastic nodule(DN)に相当す 波(US)で明らかに描出されるが,Incremental CT, るものであり,異型の程度により low grade DN,high Dynamic MRI, Subtraction Angiography で 検 出 が 困 難 grade DN に分類した。low grade DN は軽度の異型をみ な病変である。US 所見は高エコー(hyper)15 例,低 る肝細胞により構成され,核・細胞質比は正常ないし エコー(hypo)14 例,等エコー(iso)2 例である。肝 は軽度な増加,核異型は軽度,細胞質の淡明化あるい 20 21 肝硬変に生じた小結節病変 Fig. 2b Histological appearance of dysplastic nodule, high grade. (top: HE stain. bottom: silver impregnation) Fig. 3 Histological appearance of NO with regenerative nodule. (top: HE stain. bottom: silver impregnation) は脂肪化を認め,liver cell plate の部分的拡大を認める 成 病変である(Fig. 2a)。High grade DN は中等度の異型 績 1.生検による HCC の診断 をみる肝細胞により構成され,細胞密度は正常の 1.3 倍から 2 倍を示し,核の輪郭は不規則あるいは染色性 生検による HCC の診断は 31 例中 6 例(19%)であ は増大し,microacinar の構造が各所にみられ,細胞質 り,その内訳は 6 例は組織学的に Edmondson I 型が 5 の好塩基性の増加あるいは淡明細胞がみられるもので 例,同 I 〜 II 型は 1 例であり,男女比は 4:2 であっ ある(Fig. 2b)。以上の生検診断から HCC 診断例の検 た。US 所見は高エコーが 4 例,低エコーは 2 例で 討を行い,HCC の診断に至らない Border と NO 診断 あった。なお肝硬変の成因は C が 4 例,B が 2 例で 例については,生検を行った結節からの HCC への進 あった。 展,および他部位に発生した HCC の結節を検討した HCC の非診断例 25 例のうち,Border は 15 例,NO (Fig. 3)。2000 年 9 月末を最終経過観察日とし,US 上 は 10 例であった。Border 15 例では high grade DN 7 例 の結節径の変化は,結節径が 120% 以上になる場合 であり,low grade DN は 8 例であった。US 所見では を増大(increase),75% 以下となった場合を縮小(de- Border 例は高エコーが 5 例,低エコーは 8 例,等エ crease) ,結節の同定が困難となった場合を不明瞭化(un- コーは 2 例であり,NO 例では高エコーが 6 例,低エ clear)とし,変化を認めない場合を不変(no change) コーは 4 例であった(Fig. 4)。 HCC を結節径別にみると 13 mm は 2 例,14 mm は とした。 3 例 , 15 mm は 1 例 と い ず れ も 13∼15 mm の 結 節 で あった。なお Border 例と NO 例は結節径との間に明 21 22 西川公詞 鈴木通博 ら Fig. 5 Comparison of nodular size in pathological findings of nodular lesion. HCC was diagnosed in nodules with a diameter 13 to 15 mm. Fig. 4 Thirty one nodules of less than 15 mm in diameter that had been only detected by sonography (US) in patients with liver cirrhosis. Six nodules were HCC, fifteen nodules were Border-line and 10 nodules were NO. HCC diagnosis rate was 19%. らかな関係は認めなかった(Fig. 5)。 2.Border 結節の経過 Border 結節 15 例における HCC の発生状況を Fig. 6 に 示 す 。 同 結 節 が HCC へ と 進 展 し た 症 例 は 4 例 (27%)であった。残る 11 例のうち 4 例に他部位に HCC の発生を認め,全体では 8 例(53%)に HCC の Fig. 6 The number of cases according to developed HCC in Border-line nodules: 15 nodules with Border-line lesions, 7 were high-G and 8 were low-G, 4 nodules developed HCC. HCC at other sites was observed in 4 patients. rate of HCC development in Border-line lesions was 27%. 発生を認めた。HCC へと進展した 4 例のうち 3 例は high grade DN,1 例は low grade DN であった。他部位 に HCC が 発 生 し た 例 は , high grade DN, low grade DN 共に 2 例ずつ認めた。 High grade DN 7 例の経過を Fig. 7 に示す。結節径は case 5 の 9 mm を除きいずれも 13 mm 以上であり,US Low grade DN 8 例の経過を Fig. 8 に示す。結節径は 所見は case 2 の多発例のみ高エコーを,他はいずれも 7∼15 mm であり,US 所見は多発例 1 例を含む 4 例が 低エコーを示した。成因は C が 5 例,AL は 2 例で 高エコーであり,2 例が低エコー,2 例が等エコーを あった。成因別では C の 5 例(case 1∼5)では,3 例 呈した。成因は C が 4 例,B が 2 例,B+C は 1 例,AL (case 2, 3, 5)に HCC への進展を認め,いずれも生検 が 1 例であった。成因別では C の 4 例(case 1∼4)中 後 1 年以内に画像診断,再生検,再々生検により診断 HCC への進展は 1 例(case 1)であり,生検 8 ヵ月後 した。1 例(case 4)に生検 6 年半後に画像で他部位 に結節径の増大を認め再生検により診断したが,約 5 に結節が出現し HCC と診断した。死亡例は 2 例に認 年の経過で癌死した。他部位に HCC の発生を認めた め,HCC 進展例のうち 1 例(case 2)は診断後 2 年 2 例(case 2, 3)は生検後 2 年 1 ヵ月, 4 年の時点で画 9 ヵ月で癌死した。case 3 は HCC 診断 2 ヵ月後に交通 像により診断され,1 例は,HCC 診断後約 4 年にて癌 事故で死亡した。一方,AL の 2 例のうち,case 6 は 5 死し,1 例は生存中である。残る 1 例(case 4)は生 年 7 ヵ月で不変,case 7 は 1 年 6 ヵ月の時点で縮小し, 検時,結節径 7 mm の最小結節であり,6 年 8 ヵ月後 以後 5 年以上不変で経過している。 でも不変である。B の 2 例(case 5, 6)は不変であり, 22 肝硬変に生じた小結節病変 23 Fig. 7 Follow-up observation of 7 cases with dysplastic nodule, high grade. Fig. 8 Follow-up observation of 8 cases with dysplastic nodule, low grade. 1 例は 7 年 6 ヵ月の観察期間では生存中であり,残る 瞭になり,1 年 8 ヵ月に出血性胆嚢炎により死亡した 1 例は 3 年 5 ヵ月で肝不全で死亡したが,剖検では が,剖検では明らかな結節病変は認めなかった。 3.NO 結節の経過 HCC は認めなかった。B+C の 1 例(case 7)は生検後 5 年の時点で画像により他部位に HCC の発生を認め NO 結節 10 例における HCC の発生状況を Fig. 9 に た。AL の 1 例(case 8)は生検後 7 ヵ月で結節は不明 示す。同結節の HCC の進展は 2 例(20%)であった。 23 24 西川公詞 鈴木通博 ら め,画像診断により診断された。Case 1 は HCC 診断 後 1 年 6 ヵ月の経過では生存中である。Case 4 は診断 後 2 年 2 ヵ月に癌死している。残る 2 例(case 2, 5) のうち,case 2 は 6 年 6 ヵ月の経過で不変,case 5 は 5 年 7 ヵ月で縮小し,経過観察中である。B の case 6 は 5 年 3 ヵ月で不変であり,B+C の case 7 は 4 年 11 ヵ月 で不変である。AL の 3 例(case 8, 9, 10)のうち,case 8 は 4 年 2 ヵ月の時点で増大し,再々生検で HCC と診 断した。Case 9 は,3 年後の時点で増大し再生検で Fig. 9 The number of developed HCC in NO nodules. Ten nodules with NO, 2 nodules of 20% developed HCC. Border(high grade DN)の診断を得た。Case 10 は生 検後 11 ヵ月に肝不全により死亡し,剖検で肝内結節 は regenerative nodule hyperplasia( RNH) と 診 断 さ れ た。 4.Border,NO 例の成因別にみた HCC 発生率 残る 8 例中 2 例に他の部位に HCC の発生を認め,全 肝硬変の成因別にみた結節の経過を Fig. 11 に示す。 体では 4 例(40%)に HCC の発生を認めた。 C の 14 例 か ら は 生 検 結 節 の HCC へ の 進 展 は 5 例 NO 結節の経過を Fig. 10 に示す。10 例の結節径は 8∼15 mm であり,US 所見は多発例 2 例を含む 6 例が (36%)に認められた。High grade DN 5 例中 3 例が, 高エコーで,4 例が低エコーを呈した。成因は C が 5 low grade DN 4 例中 1 例が,NO は 5 例中 1 例が HCC 例,B が 1 例,B+C が 1 例,AL が 3 例であった。 成 へと進展した。他部位に HCC が発生した 5 例を含め 因別では C の 5 例(case 1∼5)中,HCC へ進展した例 ると,全体では 10 例(71%)と高頻度に HCC の発生 は 1 例(case 3)であり,生検後 2 年 4 ヵ月の時点で が認められた。B の 3 例からは HCC への進展や,他 の再生検により診断された。HCC 診断後 5 年 4 ヵ月 部位での発生は認めなかった。B+C では low grade DN の現在では,生存中である。他部位での HCC の発生 の 1 例に他部位に HCC の発生を認めた。AL の 6 例は は,3 年 6 ヵ月, 8 ヵ月の時点で 2 例(case 1, 4)に認 HCC への進展した症例は NO の 1 例のみであった。 Fig. 10 Follow-up observation of 10 cases with NO. 24 肝硬変に生じた小結節病変 25 Fig. 11 The number of couses developing HCC in nodular lesions. The etiology of the cirrhosis was related to HCV in 14 patients, HBV in 3, B+C in 2, and alcohol in 6. Each rate of development HCC was 36%, 0, 0, and 17, respectively. Fig. 12 Follow-up observation of 6 cases with alcoholic liver disease. 25 26 西川公詞 鈴木通博 ら 5.AL に発生した結節の経過 今回の検討では,画像診断で確定診断に至らぬ結節 病変における生検の HCC 診断は,31 例中 6 例(19%) 成因が AL の 6 例に限った経過を Fig. 12 に示す。同 結節が HCC へと進展した症例は NO の 1 例のみであ を占め,そのいずれもが,ウイルス性肝硬変に発生し り,生検後 4 年以上経過した時点で診断された。ま た 13 mm 以上の比較的大きな結節病変であった。な た,他部位には HCC の発生を認めなかった。剖検が お,結節径 10 mm 以下では HCC の診断例はなく,ウ 行われた 2 例は,肝内に HCC の存在は認めなかった。 イルス性慢性肝疾患では,結節径の増大と悪性度の進 生存中の 3 例は,high grade DN の 2 例は不変と縮小を 展との間には密接な関係を認めるとする多段階発癌の 認め,NO の 1 例は増大を認めるも HCC の診断に至っ 仮説があり 19~21),今回の結果はこれを支持する成績 ていない。 と考えられた。画像診断で確定診断に至らぬ結節の生 考 検診断は,結節径 10 mm 以上で行われるべきである 察 と考えられた。 近年,画像診断の発達により動脈血流の増加,門脈 Border と診断された 15 例では生検結節が HCC へと 血流の低下または欠如を示す古典的な HCC の診断は 進展した症例は C 型肝硬変に発生した径 11 mm 以上 容易となっている。しかし,肝硬変を中心とした慢性 を示した 4 例(27%)に認められ,3 例は,異型の強 肝疾患に発見される小結節病変が増加しているが, い high grade DN であった。さらに HCC への進展期間 HCC に特徴的な血流動態は示さないものも多く認め はいずれも 1 年以内と短期間であり,生検診断におけ られる 6)9) 。これら小結節病変の診断は CTA(CT るサンプリングエラーを考慮する必要はあるものの, C 型肝硬変に生じた異型の高度な結節病変は,短期間 arteriography),CT-AP(CT-during arterial portography), 3)6)10)11) ,SPIO- に HCC に進展する可能性が考えられた。腫瘍径 2 cm MRI12)を中心とした Kupffer 細胞機能を考慮した画像 以下の小さな肝細胞癌においては,エタノール注入療 診断により行われ,確定診断に至らぬ結節については 法などの局所療法で根治が得られることが明らかとな 細径針による経皮的生検診断が行われている 13)。 り 22),結節径 11 mm 以上の high grade DN に対して CO2-angiography による詳細な血流評価 肝内結節病変の組織診断は,我が国においては, は,生検診断が得られた時点での治療も考慮すべきで 1980 年代後半までは早期の肝細胞癌の組織形態は十 あると思われた。 Border か ら HCC へ と 進 展 し た 症 例 に 関 し て , 分に理解されず,異なった名称,診断基準のもとに報 。しかし,1992 年に原発性肝癌取 Takayama ら 20)は腺腫性過形成と診断された結節のう で,初期の高分化型肝細胞癌とその境 ち 1 〜 5 年の経過で 50%(9 ⁄ 18)と高率に HCC に進 界病変の診断基準が提唱され,以後,細小肝癌(腫瘍 展することを示している。しかし,これら病変には 径 2 cm 以下)の切除例の増加により早期の肝細胞癌 HCC 術後の残存肝に発生した結節が含まれること, の病理学的特徴が明らかにされた。2000 年に出版さ さらに古典的な HCC の特徴である画像上腫瘍濃染を れた同取り扱い規約 18)では,早期肝細胞癌とその類 示す結節も含まれていることを考慮する必要がある。 似病変が提示されている。一方,欧米においては, 一方,Terasaki ら 23),Seki ら 24)は生検診断で境界病 1994 年に International Working Party による肝結節病変 変と診断した結節の HCC への進展率は,それぞれ 告されてきた り扱い規約 14~16) 17) 8) が作られ,本邦も含め,広く用いられて 14.7%, 12.1% であり,すべて C 型肝硬変であった。ま いる。しかし,International Working Party の high grade た,結節径は,それぞれ 5∼20 mm, 11∼20 mm で,進 DN に分類される異型の高度な結節病変は,我が国の 展期間は 1 年 6 ヵ月以内, 1 年 6 ヵ月〜 2 年であったと の用語集 取り扱い規約では早期肝細胞癌が含まれている可能性 報告している。これらの成績より,Border を示す病変 があり,今後の重要な検討課題となろう。さらに肝内 が HCC への進展する率や,その期間については,今 結節病変の病理診断は切除検体,移植肝,剖検肝を対 後さらなる症例の収集が必要と思われた。 象とした組織診断であり,細径針による生検診断では 超音波所見に関しては,良性肝細胞結節の悪性への 小検体しか得られないため,病変の連続性,hetero- 移行を予測する所見として,核密度の増加と,細胞の genisity を考慮した診断が必要となる。 小型化と,脂肪化を反映する高エコーを呈する結節の 26 27 肝硬変に生じた小結節病変 重要性が示されている 25)26)。今回の検討では,低エ 節病変の生検診断は,① 結節径 15 mm 前後で施行す コー結節からの HCC への進展が 33% と,高エコー結 べきであり,10 mm 以下の病変は定期的な経過観察 節の 18% に比し高率に認められ,高エコー結節と で良い。② ウイルス性肝硬変に生じた異型の高度な HCC への進展との関係は見い出せなかった。しかし 結節は,HCC へと短期間に進展することが認められ, 初回生検で HCC 診断例の 66% が高エコーを示したこ 同時期の治療も考慮すべきである。③ ウイルス性肝 とより,高エコーを呈す小結節病変については早期の 硬変では,長期の観察で他部位に HCC の発生が認め HCC としての重要な所見と考えられた。 られるため注意が必要である。④ アルコール性肝硬 過 形 成 結 節 を 含 む NO 結 節 の 経 過 に つ い て は , 変に生じた結節では異型の程度と HCC への進展との Kondo ら 27)は肝硬変に生じた平均 11.5 mm の組織学 関係は明らかでなく,生検診断の適応については,見 的に異型のない 17 結節が 1 年を超える最長 4 年の経 直しが必要である。 過観察でも HCC への進展は認めなかったと報告して 本 論 文 の 要 旨 の 一 部 は , 第 37 回 日 本 肝 臓 学 会 総 会 (2001 年 5 月,横浜)において発表した。 いる。我々の最長 7 年の観察期間では,10 結節中, 径 14 mm 以上の 2 結節(20%)が 2 年 5 ヵ月, 4 年の経 過で HCC へと進展した。生検で良性結節と診断され 謝 辞 稿を終えるにあたり,御協力頂きました消化器・肝臓内 科諸先生方,ならびに西部病院消化器内科諸先生方に心よ り感謝致します。 たものでも結節径 15 mm 前後では,長期の経過観察 により HCC に進展する可能性があり,注意する必要 があると思われた。 Border や NO 例の他部位における HCC の発生は 6 例(24%)に認められたが,いずれも生検後 2 年以上 文 献 1) Collier J and Sherman M. Screening for hepatocellular 経過した C 型肝硬変であった(1 例は B 型を合併)。 肝硬変,特に C 型肝硬変では,同結節の変化を観察 carcinoma. Hepatology 1998; 27: 273-278. するばかりでなく,他部位における新たな HCC の出 2) Borzio M, Borzio F, Croce A, Sala M, Salmi A, Leandra G, Bruno S and Roncalli M. 現にも十分注意する必要があると思われた。 Ultrasono- graphy-detected macroregenerative nodules in cirrhosis: アルコール性肝硬変に生じた結節については, A prospective study. Gastroenterology 1997; 112: HCC への進展は 17% に認めたが,Border からの HCC 1617-1623. への進展はなく,NO の 1 例が 4 年以上の経過で HCC 3) Hayashi M, Matui O, Ueda K, Matui K, Yoshikawa J, へと進展した。Border を示した 3 例は,不変,縮小, Gabata T, Takashima T, Nonomura A and Nakamura 消失例であり,生検所見と HCC への進展に明らかな Y. Correlation between the blood supply and grade of 関係は認めなかった。アルコール多飲者にみられる結 malignancy of hepatocellular nodules associated with 節病変の組織所見は,過形成による変化,限局性の脂 liver cirrhosis: Evaluation by CT during intraarterial 肪沈着,門脈圧亢進に伴う,門脈,動静脈に生じた血 injection of contrast medium. AJR 1999; 172: 969- 流障害による肝実質の形態変化 28) 976. などが複雑に入り 4) Takayasu K, Muramatu Y, Furukawa H, Wakao F, 混じり,生検診断を困難なものにしていることが考え Moriyama N, Takayama S, Sakamoto M and Hirohashi られた。 S. Early hepatocellular carcinoma appearance at CT アルコール性肝硬変に生じた小結節病変では画像上 during arterial portography and CT arteriography with 明らかな HCC を示唆する所見のない場合,組織所見 pathologic correration. Radiology 1995; 194: 101-105. と HCC への進展は明らかな関係はなく,生検診断で 5) Saitoh S, Ikeda K, Koida I, Tsubota A, Arase Y, HCC の診断を得る可能性は低いので,まずは禁酒に Chayama K and Kumada H. Serial hemodynamic より画像診断で経過観察した方が良いと思われた。 measurement in well-differentiated hepatocellular 結 carcinoma. Hepatology 1995; 21: 1530-1534. 語 6) Matui O, Kadoya M, Kameyama T, Takashima T, Nakamura Y, Unoura M, Izumi R, Ida M and Kitagawa 肝硬変における画像診断で HCC の診断に至らぬ結 27 28 西川公詞 鈴木通博 ら K. Benign and malignant nodules in cirrhotic liver: cirrhosis: transition from benign adenomatous hyper- distinction based on blood supply. Radiology 1991; plasia to hepatocellular carcinoma ? Gastroenterol 178: 493-497. Hepatol 1986; 1: 3-14. 7) Nakamura Y, Hirata K, Terasaki S, Ueda K and Matui 17) 日本肝癌研究会. 臨床・病理: 原発性肝癌取り扱 い規約, 第 3 版, 金原出版, 1992. O. Analytical histopayhological diagnosis of small hepatocellular nodules in chronic liver diaease. Histol 18) 日本肝癌研究会. 臨床・病理: 原発性肝癌取り扱 い規約, 第 4 版. 金原出版, 2000. Histopathol 1998; 13: 1077-1087. 8) International Working Party. Terminology of nodular 19) Sakamoto M, Hirohashi S and Shimasato Y. Early hepatocellular lesions. Hepatology 1995; 22: 983-993. stage of multistep hepatocarcinogenesis: Adenomatous 9) Suzuki M, Nishikawa K, Okuse N, Hashizume K, hyperplasia and early hepatocellular carcinoma. Hum Okuse C, Osada T, Tomoe M, Hayashi T, Yotuyanagi Pathol 1991; 22: 172-178. H, Sato A, Suzuki H, Iino S, Maeyama S and 20) Takayama T, Makuuchi M, Hirohashi S, Sakamoto Uchikoshi T. 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We examined 31 nodules of less than 15 mm in diameter that had been only detected by sonography (US) in patients with liver cirrhosis. The etiology of the cirrhosis was related to HCV (C) in 18 patients, HBV (B) in 5, B+C in 2, and alcohol (AL) in 6. Pathologic diagnoses were classified into three categories: no atypism (NO), border-line lesion (Border), and HCC. The Border-line lesions were examined after they were divided into high grade (high-G) and low grade (low-G). Pathological findings showed that 6 nodules (C; 4, B; 2) were HCC,15 (C; 9, B; 2, B+C; 1, AL; 3) were Border-line and 10 (C; 6, B; 1, AL; 3) were NO. HCC was diagnosed in 19% (6 ⁄ 31) and the diameters of the HCC nodules ranged from 13 to 15 mm. Of the15 Border-line nodules, 7 were high-G and 8 were low-G. Four of the nodules (C; 4) progressed to HCC within 1 year after biopsy. Three of these 4 nodules were in high-G. HCC at other sites was observed in 4 patients (C; 3, B+C; 1). Of the 10 nodules with NO, 2 nodules (C; 1, AL; 1) of 20% developed HCC 28 and 50 months later. Two patients (C; 2) had HCC at other sites 13 and 48 months later. Nodular lesions in liver cirrhosis that cannot be definitely diagnosed by diagnostic imaging should be biopsied when the diameter of the nodule is 10 mm or more. In liver cirrhosis related to HCV, HCC frequently developed in the patients who were diagnosed as Border-line, particularly among those with a high grade of variability. In patients with alcoholic liver cirrhosis, pathological findings of Border-line were not consistently associated with the development of HCC. (St. Marianna Med. J., 30: 19–29, 2002) 1 Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Internal Medicine (Director: Prof. Shiro Iino) 2 Department of Pathology (Director: Prof. Toshiyuki Uchikoshi) St. Marianna University School of Medicine, 2-16-1 Sugao, Miyamae-ku, Kawasaki 216-8511, Japan 29
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