2016年11月18日 電気電子工学特別講義 「高電圧パルスパワー工学」 金澤 誠司 パルスパワーとは 100W, 15分間でエ ネルギーを蓄積 パルス幅100nsで パルス圧縮 出力:9×1011W (ほぼ世界での 消費電力、 最近の電力は 10TW) 出典:秋山,原:電気学会誌,115巻,3号, pp. 164-169 (1995) パルスパワーによる岩石破壊 出典:秋山,原:電気学会誌,115巻,3号, pp. 164-169 (1995) 放電の発生 励起,解離,電離 アーク放電:蛍光灯,水銀灯,溶接 グロー放電:グローランプ,ネオン管 グローとアークの区別 陰極面の現象に着目 アーク放電:熱電子放出により放電が維 持( γ作用によりはるかに多量の電子が 放出) グロー放電:γ作用により放電が維持 プラズマの性質と生成 プラズマとは 一般にプラズマ(plasma)とは気体が絶縁破壊して放電している状態であ り,気体を構成する原子・分子のかなりの数が電離している状態である。 空気を放電させるとその主成分である窒素N2,酸素O 2が励起・解離・電 離して,N 2 *やO 2 *の励起分子,NやOの原子, N 2 +, N+, O 2 +, O2-, O-など の正・負イオンが生成される。このような状態になった分子や原子が元の 安定な基底状態に戻ろうとするときに,それらの分子や原子に特有の光 (電磁波)を放出する。気体放電で発生しているプラズマは多くの場合可 視光を放つため,プラズマからの発光が観測される。 色について:紫外線 紫外線(UV) UV-A (315-380 nm) 皮膚の真皮層に作用し蛋白質を変性 させる。皮膚の老化を促進。 UV-B (280-315 nm) 日焼けの原因,目に対して危険 UV-C (200-280 nm) 強い殺菌作用,生体に対する破壊性 が強い プラズマボールのしくみ Ne, Ar, Xeの混合気体 37.5 kHz ~ プラズマボールのICCDカメラによる観測 Gate 1 ms, Gain 150 Gate 1 ms, Gain 100 Gate 100 ms, Gain 200 Gate 1 ms, Gain 255 プラズマボールの発光スペクトル 4000 Xe I Xe II Xe I 3500 Ne I 3000 2500 Xe I Ne I 2000 Ne I Ar Ne I Ne I 1500 Xe I Ne II 1000 Ne I Xe I Ar I 500 0 200 Ne I 300 400 500 600 Wavelength [nm] 700 800 プラズマ温度と密度 電子について pe ne kTe 1 2 me ne v e 3 1 3 2 me v e kTe 2 2 電離度 ne n n ne 電子密度ne, 原子・分子等の中性粒子密度nn 弱電離プラズマ(weakly ionized plasma) : χ≪1,例:低気圧放電 完全電離プラズマ(fully ionized plasma) :χ= 1,例:核融合プラズマ その中間は強電離プラズマ デバイ長(Debye length) (r ) q 4 0 r exp( 0 kTe D 2 n e e r D ) 1/ 2 プラズマの特徴 プラズマが電気的に中性: プラズマの寸法Lはデバイ 長λDより十分大きい デバイ長λD内には十分な 数の電子が存在する デバイ遮へい L≫λD≫ne-1/3 プラズマ振動 (plasma oscillation, ラングミュア振動,Langmuir oscillation) プラズマ中の密度分布に揺らぎが 発生:電界のパルス的な印加や電 子ビームの入射 電子群とイオン群の局所的な変位 が発生 それにより電界が生じる 質量の軽い電子はクーロン力に よって引き戻されるが,慣性のた めに平衡となる位置をすぎる その結果再び密度の揺らぎが生 じる 電子は駆動され,電子群の集団 的な振動が発生 プラズマの状態と特徴 ミクロ的な取り扱い 運動方程式 dv m x qv y B dt m d vy dt q vx B v x v cos(c t 0 ) v y v sin( c t 0 ) 荷電粒子の位置 x rL sin( c t 0 ) x0 y rL cos(c t 0 ) y0 rL:ラーマー半径(Larmor radius) 一様な直流磁界だけが存在する 場合の荷電粒子の運動 サイクロトロン 運動 E×Bドリフト 新たに 電界が加わっ た場合 dv m x qv y B dt v x v cos( c t 0 ) m E B dv y dt v y v sin( c t 0 ) ドリフト速度 一様な直流電界と直流磁界が存 在する場合の荷電粒子の運動 qE qv x B EB vD B2 熱平衡プラズマと非熱平衡プラズマ ● 非熱平衡プラズマ(non-thermal plasma),低温プラズマ(cold plasma) Te≫Ti>Tn 低気圧のグロー放電 気体圧力が1~103Pa程度の低気圧で発生するによるプラズマ中では,電子は 電界によりエネルギーを供給され,中性粒子との衝突においてもエネルギー 損失が小さいため電子温度Teは1~10eV程度あって極めて高い。イオンは電 界よりエネルギーを供給されてもほぼ同じ質量をもつ中性粒子との衝突でエ ネルギーを失うため,TiはTeに比べて2桁程度低い。中性気体温度Tnは室温 からその数倍程度である。 ● 熱平衡プラズマ Te = Ti = Tn 宇宙における星や核融合プラズマ ● 局所熱平衡(local thermodynamic equilibrium, LTE Te≒Ti≒Tn 大気圧中のアーク放電:熱プラズマ(thermal plasma) 気体圧力が104Paを越えるような高気圧で発生する放電では各粒子間での衝 突が頻繁に起こり,局所的な場所では,ほぼこの関係が成立する。 プラズマの特性パラメータ p, Te, Tg 非平衡プラズマ 熱プラズマ 出典:「大気圧プラズマ 基礎と応用」、オーム社、2009年 タウンゼント放電 1898年~1915年 放電の開始を説明する 電荷の測定,β作用 dΓe=αΓedx Γe=Γe0 exp(αx) Ie=Ie0 exp(αx) 電子なだれ タウンゼント放電とは α作用,γ作用,η作用で放電が維持される放電 空間電荷効果や荷電粒子の管璧への拡散は無視できる J. R. Roth:「Industrial Plasma Engineering (vol.1)」,IOP,p.245 (1995) タウンゼント放電からアーク放電までの電圧-電流特性 1 低気圧の場合 UB:火花放電(破壊電圧、自続放電開始電圧、スパーク) 電圧一定 陰極が放電で覆 われるまで続く 全路破壊 (Flashover) Ne, p=1 mmHg, d= 50 cm 気圧が高くなるとグロー放電の領域はなく なり、アーク放電に一気に移行する 原雅則・酒井洋輔著:「気体放電論」,朝倉書店,p.224 (2011) タウンゼントの電流密度の式 (α作用とγ作用を考慮した電流) d e J J0 1 ed 1 自続放電の条件(火花放電条件(式),シューマンの条件式):上式の分母がゼロ 1 ed 1 αに関する実験式 p Ae B E/ p 平行平板ギャップの電界 火花電圧 1 d ln 1 VB E d pd VB B B f pd C ln pd Apd ln ln 1 1 pd 周期律表と放電の関係 電気的負性気体 SF6 負イオンを 作らない 負イオンを 希ガス η作用 作らない パッシェンの法則 1889 年 真空放電 タウンゼント放電 ストリーマ放電 dに依存 ペニング効果 パッシェンの法則が成立する場合はタウンゼント放電である 電子なだれ→暗流→タウンゼント放電→火花放電 放電プラズマの生成 低気圧気体中における放電プラズマ 特徴:電子温度のみ高くて,気体温度を上げない 熱に弱いデバイスや材料の加工に有利 薄膜の析出,エッチング,材料の表面改質 低気圧グロー放電 低気圧グロー放電 陰極シース 大木正路著:「高電圧工学」,槇書店,p113 (1982) 放電電圧:100V程度以上 放電電流:約0.5A以下 グロー放電とは ・γ作用によって陽光柱に電子を供給している冷陰極の放電 (陰極で熱電子放出がない) ・陽光柱プラズマでTe≫Ti>Tnの関係 ・放電が拡散している(拡散光が出ている) Frances, 1956 の実験より Ne, p=1 mmHg, d= 50 cm, I=10-4 A 注意 左図は負グローが陰極のほとんどを覆っているので異 常グローに近い 正常グローでは負グローは陰極の一部にだけ現れる 原雅則・酒井洋輔著:「気体放電論」,朝倉書店,p.226 (2011) マグネトロン放電 平板型マグネトロン 高周波放電 13.56MHz B E t 容量結合型プラズマ (capacitively coupled plasma) 誘導結合型プラズマ (inductively coupled plasma) マイクロ波放電 2.45GHz マイクロ波回路 (立体回路) バリア放電(無声放電) 高気圧気体中における放電プラズマ 特徴:真空容器を必要としない 高速プロセスが可能 有害ガスの処理,産業廃棄物の処理,オゾン生成 表面処理,エキシマランプ,CO2レーザ,PDP 1857, W. von Siemens(Germany), オゾナイザの発明 1860, Andrews and Tait, “Silent discharge”と命名 放電柱の直径 100 mm W. Siemens:Poggendorffs Ann. Phys. Chem., 102, pp. 66-122 (1857) B. Eliasson and U. Kogelschatz:IEEE Trans. Plasma Sci., 19, pp. 10631077 (1991) バリア放電の原理 「バリア放電」八木重典編著、朝倉書店 (2012) 沿面放電 コロナ放電 グロー ストリーマ Nozzle-to-plate (Gap:22mm) 22kV, 50μA Wire-to-plate (Gap:9mm) Exposure time: 0.9ms Switch ON 10kV, 100μA Average of 100 images Switch OFF 10kV, 70μA Average of 100 images アーク放電 溶接 産業廃棄物の処理 プラズマトーチ(プラズマジェット) 地上(1G)と微小重力状態でのアークの様子 チャンバー内の ガスと圧力 Ar, 55 kPa D. L. Dempsey et al. : IEEE Trans. Plasma Sci., Vol. 27, No.1 (1999) 42 代表的な大気圧放電プラズマリアクタ プラズマジェット→ ↓ コロナラジカルシャワーリアクタ ↑ パルス放電プラズマリアクタ バリア放電プラズマリアクタ ↓ 沿面放電プラズマリアクタ ↓ パックドベッドプラズマリアクタ 大気圧放電プラズマの特徴と他の作用 プラズマの直接利用 ・大気開放系⇒非処理物体との接触が容易 ・気体温度は常温:熱的ダメージの回避 ・電子温度は数万度 ・活性種の大量発生⇒化学反応の促進 物理的刺激 ・電界の印加の利用もある:菌糸の切断 2次的作用・静電気応用 ・間接的な利用:溶媒・溶液のプラズマ処理 オゾン水、肥料化した水(HNO2) ・帯電液滴の利用:静電噴霧 大気圧プラズマの応用 ● 酸性雨,排ガス (NOx/SO2/PMs/...); 揮発性有機化合物,臭い オゾン生成とオゾン層破壊ガス; 温暖化ガス (CO2/HC/PFC) ● 室内空気環境(ダスト,すす,花粉,タバコの煙,ガス成分,PM2.5) ● 危険物質処理 (ダイオキシン類 / PCB / 塩素化合物 / 水銀) ● 水処理 (飲料水/地下水/廃水) c ● プラズマ医療(止血,傷の回復) , 滅菌, 微生物処理 , 組織・細胞 ● プラズマアシスト燃焼; 燃料改質 ● 膜析出,コーティング, 微粒子,表面処理 ● バイオ,きのこ増産,エキスの抽出 パルスパワー:高電圧パルス電源 コンデンサの充放電を用いたパルス電源 パルス幅 10 ms, 電圧 30 kV, 100 pps ブルームライン線路を用いたパルス電源 パルス幅 100 ns, 電圧 40 kV, 20 pps R1=20 MW, R2=20 kW, R3=2 kW, C=666 pF R1=10 MW, R2=200 W, R3=300 W, Coaxial cable (RG213): 10m, C=101 pF パルスパワー電源:高電圧パルス電源:市販品 磁気パルス圧縮回路を用いた パルスパワー電源 パルス幅 100 ns, 電圧 30 kV, 500 pps 高電圧電源 ネオントランスを用いた低周波交流電源 電圧 10 kV, 周波数20 kHz Typical Atmospheric-Pressure Plasma Reactor 1857, W. von Siemens(Germany), Invention of Ozonizer 1992, S. Masuda(Japan) SPCP reactor/SPCP panel Industrial Ozonizer Plasma Jet Air cleaning ESP Ionizer Corotron etc. Corona streamer Plasma Globe Reactors used for the creation of discharges Pipe with Nozzle electrode Microwave Plasma Jet Gas flow Plate electrode Corona Radical Shower Plasma Jet Streamer on the water DBD Plasma Packed-bed Plasma 針対平板 と線対平板におけるコロナ グロー (Gap:9mm) グロー 22kV, 50μA (Gap:22mm) ストリーマ ストリーマ 気中でのストリーマの進展特性 Plate electrode Plate electrode Plate electrode 10cm UV Laser Plate electrode Pipe with Nozzle electrode 8s (a) 0-50ns 5cm Plate electrode (b) 0-100ns Plate electrode (c) 0-150ns Plate electrode Plate electrode Plate electrode Plate electrode Plate electrode Plate electrode (d) 0-200ns (e) 0-300ns (f) 0-500ns 5 Streamer head velocity : 2.5×10 m/s Experimental condition In NO(100ppm)/Air, 3L/min ICCD camera : Delay time 2710ns, Gate time 50-500ns Applied Voltage: 30kV, Corona Current: 134mA ストリーマ放電による窒素酸化物(NOx)処理 ガス(NO)からエアロゾル粒子(NH4NO3)への転換 Plate electrode Pipe with Nozzle electrode Pipe with Nozzle electrode Gas flow Plate electrode Before NOx removal Plate electrode After NOx removal 電気的刺激によるキノコ収量の改善 パルス 電源 岩手大学 高木浩一先生の研究 15 2 7 90 Control 50 kV 50 times 電圧印加前後の菌糸 のSEM写真 (上:電圧印加なし、 下:あり) バリア放電から大気圧プラズマジェット 平行平板のバリア放電から自由空間に向けてプラズマを放出する 電源: 数 kHz~数十 kHz、~10 kV, 正弦波交流、繰り返しパルス、高周波(13.56 MHz) ガス: He, Ar 数%以下の O2 プラズマジェット:大気圧での低温プラズマ He flow (2 L/min) Operating condition Glass tube Voltage:6 kV, 20 kHz (output from an inverter type Neon transformer) He flow rate: 2L/min Digital camera Electrode LF/HV power supply He plasma jet ~ 30 mm ICCD image (200 ns) 大気圧プラズマジェット •希ガスジェット放電: プラズマジェット、 プラズマペンシル、 プラズマニードル とも呼ばれる。 • プラズマは連続して見え るが、間欠的に発射されて いる plasma bullet, plasma gun プラズマジェットの中心から径方 向にラジカルの分布が変化す る:どこを使うかが重要 D. B. Graves: J. Phys. D: Appl. Phys., 45 (2012) 263001 大気圧プラズマジェット:低温プラズマ Among the several plasma sources, atmospheric-pressure plasma jets have received significant attentions due to their unique capabilities (low temperature, low cost, portable and easy operation) and novel applications (analytical chemistry, thin film processing, synthesis of nanomaterial, surface modification, sterilization, cleaning and etching). IEEE Trans. Plasma Science 278 200 Special Issue on Images in Plasma Science 483 Streamer Plasma jet 150 All A search for journal papers on plasma jet via Web of Science database Period Number of papers Papers/year Reference 1948-1990 1300 61 31 M.G. Kong, B.N. Ganguly, R.F. 46 1991-1995 2279 456 50 36 Hicks 46 1996-2000 3447 689 Plasma Sources Sci. Technol. 14 11 2001-2005 4571 914 3 3 3 1 21 (2012) 030201 0 2006-2010 6640 1328 2005:First paper for LF plasma jet 1996 1999 2002 2005 2008 2011 2011 1658 1658 by J. Engemann et al. Year 100 大気圧プラズマジェット (APPJ) 平行平板のバリア放電から自由空間に向けてプラズマを放出する 電源: 数kHz~数十kHz、~10kV, 正弦波交流、繰り返しパルス、高周波(13.56MHz) ガス: He, Ar, 数%以下のO2 プラズマ医療 低温プラズマ*の必要性 ・通常皮膚は55 ℃ ~65 ℃ でダメージを受ける 直接照射するプラズマでは60°を超えないこと (歯科治療では数℃以内; 10℃も上がると歯髄のネクローシス) ・接触する時間も重要な要素 ・止血や切除では、 60 ℃ ~100℃ のプラズマまでが使用可 プラスチックやガラス製の医療器具などの滅菌も ・滅菌用では100 ℃ ~150℃ のプラズマまで適用可能 (オートクレーブ処理が121 ℃ ) * プラズマ密度 1011 ~1016 /cm3 大気圧の密度(2.7×1019 /cm3)の最大でも0.1% プラズマ医療 医療用プラズマにおける使用例 細胞のアポトーシス:がん治療 (DNAの二重鎖切断、ミトコンドリアの破壊) ・バリア放電:数mm離して使用、拡散や強制流でラジカル等を輸送 ・プラズマジェット:プラズマを対象(患部)に直接照射、または非接触 培養液の処理 ・プラズマによる活性種がDNA 損傷をおこす 止血・血液凝固 ・熱プラズマによる凝固(アルゴンプラズマ凝固装置):手術中の止血 ・低温プラズマによる凝固:DBD処理による血漿の凝固 熱プラズマに比べて組織への損傷が少ない、癒着がない 医療用プラズマの実例 利点:患者に痛みを与えない 創傷治療、腫瘍の治療 (怪我、火傷、 慢性皮膚潰瘍:感染症、糖尿病、 静脈・動脈の病気、皮膚がん) ・活性酸素による酸化ストレスで傷を負った細胞のアポトーシス ・患部の殺菌効果 ・ NOの効果が大きい → (足の潰瘍の治療では、 200ppm NO、8時間、14日) 歯科応用 ・滅菌(虫歯の穴、治療器具) A. Fridman and G. Friedman: Plasma Medicine, Willey (2013) ・ホワイトニング
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